JP6311356B2 - TiAl製タービンホイール - Google Patents
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Description
一方、燃費や燃焼効率を改善するために、排ガス温度は高温化する傾向にあり、900℃を超える高温域での強度特性の改善が重要課題になっている。しかしながら、タービンホイールは、一般に、鋳造法により製造されており、鋳造ままでは微小な欠陥(ミクロシュリンケージ)を内在することが多い。
しかしながら、TiAl合金に対してHIP処理を施すと、むしろ特性を損ない、HIP処理による高温特性の改善が得られない場合があった。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、HIP処理による高温特性改善が可能なTiAl系合金からなるTiAl製タービンホイールを提供することにある。
(1)前記TiAl製タービンホイールは、
30.0mass%≦Al≦33.0mass%、
0.06mass%≦C≦0.12mass%、
O≦0.1mass%、及び、
N≦0.05mass%
を含み、残部がTi及び不可避的不純物からなるTiAl系合金からなる。
(2)前記TiAl製タービンホイールは、ホイール中央部の組織が等軸晶からなり、かつ、平均結晶粒径が0.3mm以上3.0mm以下である。
(3)前記TiAl製タービンホイールは、HIP後のホイール中央部のミクロシュリンケージの面積率が0.005area%未満である。
柱状晶組織を持つTiAl系合金に対してHIP処理を施すと、高温特性の改善は得られない。同様に、等軸晶組織を持つTiAl系合金に対してHIP処理を施す場合において、平均粒径が小さすぎる場合及び大きすぎる場合のいずれも、高温特性の改善は得られない。
[1. TiAl製タービンホイール]
本発明に係るTiAl製タービンホイールは、以下の構成を備えている。
(1)前記TiAl製タービンホイールは、
30.0mass%≦Al≦33.0mass%、
0.06mass%≦C≦0.12mass%、
O≦0.1mass%、及び、
N≦0.05mass%
を含み、残部がTi及び不可避的不純物からなるTiAl系合金からなる。
(2)前記TiAl製タービンホイールは、ホイール中央部の組織が等軸晶からなり、かつ、平均結晶粒径が0.3mm以上3.0mm以下である。
(3)前記TiAl製タービンホイールは、HIP後のホイール中央部のミクロシュリンケージの面積率が0.005area%未満である。
本発明に係るTiAl製タービンホイールは、TiAl系合金からなる。TiAl系合金は、以下のような元素を含み、残部がTi及び不可避的不純物からなる。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
(1)30.0mass%≦Al≦33.0mass%:
Alは、Tiと結合して金属間化合物であるγ相(TiAl)及びα相(Ti3Al)を生成する。α相は、室温ではα2相となる。γ相及びα相は、いずれも単相では脆く、強度が低い化合物である。しかしながら、Al量を最適化すると、γ相中にα相が体積率で4〜28%程度含まれる二相状態(ラメラー組織)となり、延性及び強度が高くなる。また、耐久強度特性も最も良好となる。
従って、Al量は、30.0mass%以上である必要がある。Al量は、さらに好ましくは、30.5mass%以上、さらに好ましくは、31.0mass%以上である。
従って、Al量は、33.0mass%以下である必要がある。Al量は、さらに好ましくは、32.5mass%以下、さらに好ましくは、32.0mass%以下である。
Cは、α(α2)相及びγ相の双方に固溶し、TiAl系合金の高温強度を上げ、耐久強度を向上させる効果がある。C量が0.06mass%以上になると、マクロ組織が適度に等軸晶化し(図1(b)参照)、耐久強度を向上させる効果が現れる。従って、C量は、0.06mass%以上である必要がある。
一方、C量が過剰になると(C量が0.12mass%を超えると)、炭化物の析出と、結晶粒の過度の微細化が顕在化し、耐久強度が低下する。従って、C量は、0.12mass%以下である必要がある。
(4)N≦0.05mass%:
O及びNは、原料から混入する不純物である。O及び/又はNが多量に混入すると、マクロ組織が極微細等軸晶となる(図1(c)参照)。従って、O量は、0.1mass%以下である必要がある。また、N量は、0.05mass%以下である必要がある。
TiAl系合金は、上述した主構成元素に加えて、以下の1又は2以上の副構成元素をさらに含んでいても良い。添加元素の種類、その成分範囲、及び、その限定理由は、以下の通りである。
「Nb+Ta」は、NbとTaの総量を表す。また、総量が上記範囲内である限りにおいて、Nb又はTaのいずれか一方が含まれていなくても良く(Nb≧0mass%、Ta≧0mass%)、あるいは、双方が含まれていても良いことを表す。
Nb及びTaは、いずれもTiAl系合金の耐酸化性を改善する。このような効果を得るためには、総量は、7.0mass%以上が好ましい。総量は、さらに好ましくは、7.2mass%以上である。
一方、総量が過剰になると、延性が低下する。また、これらの元素は高比重であるため、TiAl系合金の密度を高くし、低密度というTiAl系合金の利点が薄れる。従って、総量は、8.0mass%以下が好ましい。総量は、さらに好ましくは、7.8mass%以下である。
Siは、高温環境下においてシリサイド(Ti5Si3)を析出させ、クリープ特性を改善する。また、Siは、耐酸化性を改善する。高いクリープ特性を得るためには、Si量は、0.2mass%以上が好ましい。Si量は、さらに好ましくは、0.3mass%以上である。
一方、Si量が過剰になると、粗大な晶出シリサイド(Ti5Si3)を形成し、クリープ特性を劣化させる。また、粗大な晶出シリサイドは、室温での延性も低下させる。従って、Si量は、1.0mass%以下が好ましい。Si量は、さらに好ましくは、0.8mass%以下である。
Crは、TiAl系合金の延性を改善する。このような効果を得るためには、Cr量は、0.5mass%以上が好ましい。Cr量は、さらに好ましくは、0.7mass%以上である。
一方、Cr量が過剰になると、湯周り性が悪化する。また、耐酸化性が低下するとともに、β相が生成し、高温強度が低下する。従って、Cr量は、1.5mass%以下が好ましい。Cr量は、さらに好ましくは、1.3mass%以下である。
「Mn+V」は、MnとVの総量を表す。また、総量が上記範囲内である限りにおいて、Mn又はVのいずれか一方が含まれていなくても良く(Mn≧0mass%、V≧0mass%)、あるいは、双方が含まれていても良いことを表す。
Mn及びVは、いずれもTiAl系合金の延性を改善する。このような効果を得るためには、総量は、0.2mass%以上が好ましい。
一方、総量が過剰になると、耐酸化性が低下するとともに、β相が生成し、高温強度が低下する。従って、総量は、4.0mass%以下が好ましい。
「W+Re」は、WとReの総量を表す。また、総量が上記範囲内である限りにおいて、W又はReのいずれか一方が含まれていなくても良く(W≧0mass%、Re≧0mass%)、あるいは、双方が含まれていても良いことを表す。
W及びReは、いずれもTiAl系合金の耐酸化性を改善する。このような効果を得るためには、総量は、0.2mass%以上が好ましい。
一方、総量が過剰になると、延性が低下する。また、W及びReは高比重のため、TiAl系合金の密度を高くし、低密度というTiAl系合金の利点が薄れる。従って、総量は、10.0mass%以下が好ましい。
(11)Fe<1.0mass%:
Zr及びFeは、いずれもTiAl系合金製タービンホイールの精密鋳造の工程及び原料から混入する不純物である。Zr及び/又はFeが1.0mass%以上混入すると、TiAl系合金の延性が著しく低下する。従って、Zr量は、1.0mass%未満が好ましい。同様に、Fe量は、1.0mass%未満が好ましい。特に、Zr量及びFe量がともに1.0mass%未満であるのが好ましい。
タービンホイールを構成するTiAl系合金は、ホイール中央部の組織が等軸晶からなり、かつ、平均結晶粒径が0.3mm以上3.0mm以下であるものからなる。なお、「ホイール中央部」とは、図2(b)のサンプル採取位置で示す部分である。
「等軸晶」とは、短径D1に対する長径D2の比(=D2/D1比)が3.0以下である粒子をいう。
「長径D2」とは、TiAl系合金の断面を顕微鏡で観察した場合において、断面に現れる粒子の長径方向(長さが最大となる方向)の長さをいう。
「短径D1」とは、短径方向(長径方向に対して垂直な方向)の長さをいう。
本発明において、過冷却が大きくなるように成分が最適化されているため、凝固時には、鋳型の近傍だけでなく、中心部においても相対的に多量の核が生成する。その結果、実質的に等軸晶からなるTiAl系合金が得られる。
「結晶粒径」とは、粒子断面の円相当径をいう。
「平均結晶粒径」とは、無作為に選んだ10個以上の粒子の結晶粒径の平均値をいう。
一般に、TiAl系合金を鋳造すると、粒子間にミクロシュリンケージが存在する。これをHIP処理すると、ミクロシュリンケージが圧着され、鋳造欠陥(破壊起点)が減少する。その結果、特性ばらつきが抑制される。HIP処理条件を最適化すると、HIP後のホイール中央部のミクロシュリンケージの面積率は、0.005area%未満となる。
ここで、「ミクロシュリンケージの面積率」とは、図2(b)のサンプル採取位置の縦断面において、観察視野(15mm×15mm)内に含まれるミクロシュリンケージの面積の割合をいう。
本発明に係るタービンホイールは、
(1)所定の成分となるように配合された原料を溶解し、鋳型に鋳造し、
(2)鋳造品をHIP処理し、
(3)必要に応じて機械加工を施す
ことにより製造することができる。
まず、所定の成分となるように配合された原料を溶解し、鋳型に鋳造する(溶解・鋳造工程)。溶解方法及び溶解条件は、特に限定されるものではなく、所定の成分を有する溶湯が得られる方法及び条件であればよい。
溶解方法としては、例えば、レビテーション溶解法、真空誘導溶解法、プラズマ・スカル溶解法などがある。
鋳造方法としては、例えば、減圧吸引鋳造法、加圧鋳造法、遠心鋳造法、金型鋳造法などがある。これらの中でも減圧吸引鋳造法は、薄肉で複雑な形状を有する部材の鋳造が可能であるので、タービンホイールの鋳造方法として特に好適である。
これに対し、本発明においては、溶湯の成分が最適化されているので、目的とする等軸晶組織を安定して得ることができる。
鋳造後、破砕、ショットブラスト等を利用して、鋳型を除去する。
次に、鋳造品をHIP処理する(HIP処理工程)。HIP処理は、内部の鋳造欠陥を消滅させ、信頼性を向上させるとともに、強度及び靱性を改善させる。HIP処理条件は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な条件を選択することができる。
一般に、HIP処理温度が高くなるほど、より短時間の処理で、ミクロシュリンケージを圧着させることができる。従って、HIP処理温度は、1000℃以上が好ましい。
一方、HIP処理温度が高くなりすぎると、結晶粒が粗大化する。従って、HIP処理温度は、1350℃以下が好ましい。
次に、必要に応じてHIP処理品に対して、機械加工を施す(加工工程)。加工方法は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な方法を選択することができる。なお、実質的に後加工が不要な場合には、後加工を省略することができる。
所定の組成を有するTiAl系合金を鋳造すると、通常、個々の結晶粒がα2相(Ti3Al)とγ相(TiAl)のラメラー構造を持つ組織が得られる。一方、個々の結晶粒の形状は、TiAl系合金の組成に応じて、柱状晶となる場合と、等軸晶となる場合とがある。
一般に、鋳造品に対してHIP処理を施すと、鋳造まま材に形成されているミクロシュリンケージが圧着され、鋳造欠陥減少(破壊起点減少)による品質改善効果(特性ばらつきの抑制効果)が得られることが知られている。しかしながら、本願発明者らは、詳細な調査の結果、TiAl系合金については、鋳造組織が異なると、HIP処理による強度・延性に与える効果が異なることを見出した。
一方、HIPとは関係なく、不純物(例えば、C、N、O、Bなど)の多量添加により、微細な等軸粒が得られることが知られている。そのため、このような不純物の添加による結晶粒の微細等軸化とHIP処理とを組み合わせることが考えられる。
しかしながら、等軸晶組織において、結晶粒を微細化しすぎた場合(図1(c))には、900℃を超える高温域での強度低下とクリープ伸びの増大が生じる。そのため、900℃を超える高温域での使用に耐えられない。
また、結晶粒を粗大化しすぎた場合(図1(a))には、HIP処理後に結晶粒界に多量の等軸γ粒が形成される。そのため、高温強度及び耐久寿命が低下する。
[1. 試料の作製]
レビテーション溶解及び減圧吸引鋳造を組み合わせた精密鋳造法にて、100g程度のタービンホイールを作製した。鋳造後、破砕、ショットブラスト等を用いて、鋳型を除去した。その後、鋳造品のHIP処理を行った。HIP処理条件は、温度:1200℃、加圧ガス:Arガス、圧力:1000kgf/cm2(98MPa)以上、処理時間:2時間とした。HIP処理後、サンドブラストにて表面の煤を除去した。表1及び表2に、各試料の成分を示す。
[2.1. 引張試験及びクリープラプチャー試験]
図2(a)に示すように、HIP処理後のタービンホイールの軸部中央より、試験片を切り出した。試験部直径は6mm、試験部平滑部の長さは13mmとした。この試験片を用いて引張試験(JIS Z 2241に準拠)、及びクリープラプチャー試験(JIS Z 2271に準拠)を行った。
図2(b)に示すように、タービンホイールの軸部中央より試験片を切り出した。
試験片の縦断面ミクロ組織を研磨ままの状態で光学顕微鏡にて観察し、15mm×15mmの視野を撮影した。その中におけるシュリンケージの面積率を導出した。
また、試験片の縦断面ミクロ組織をエッチングした状態で光学顕微鏡にて観察し、15mm×15mmの視野を撮影した。その範囲の結晶粒径(=ラメラーコロニーサイズ)の平均値、及び等軸γ粒子の面積率を導出した。
HIP処理後のタービンホイールを実機のターボチャージャーにセットした。燃料を燃焼させたガスバーナー送風によりタービンの回転試験を実施した。温度環境として、ターボチャージャー入口におけるガス温度を1000℃に設定した。
送風量により回転数を制御した。10万回転/分から試験を開始し、各5万回転アップ毎に30分間定常運転し、段階的に回転速度を上げた。ホイールが破損する限界の回転速度を耐久限界回転数とした。すなわち、20万回転/分で破損した場合は、耐久限界回転数は15万回/分である。
なお、30万回転/分以上については、機構上、回転速度を上げることができなかったため、実施していない。従って、30万回転/分のデータは、30万回転で30分間定常運転しても未破損であったことを意味する。
表3及び表4に結果を示す。表5及び表6には、主としてAl量が異なる材料の組成及び結果を抜き出して示した。同様に、表7及び表8には、主としてC量が異なる材料の組成及び結果を抜き出して示した。
図3(a)に、Al量とクリープラプチャー寿命との関係を示す。図3(b)に、Al量と耐久破損限界回転数との関係を示す。図4(a)に、C量とクリープラプチャー寿命との関係を示す。図4(b)に、C量と耐久破損限界回転数との関係を示す。
表3〜表8及び図3〜図4より、以下のことがわかる。
これに対し、Al量を最適化すると、平均結晶粒径が0.3〜3.0mm程度の適度な粗さを有する等軸晶組織が得られる。また、これによって高温特性が向上する。
これに対し、C量を最適化すると、平均結晶粒径が0.3〜3.0mm程度の適度な等軸晶組織が得られる。また、これによって高温特性が向上する。
Claims (7)
- 以下の構成を備えたTiAl製タービンホイール。
(1)前記TiAl製タービンホイールは、
30.0mass%≦Al≦33.0mass%、
0.06mass%≦C≦0.12mass%、
O≦0.1mass%、及び、
N≦0.05mass%
を含み、残部がTi及び不可避的不純物からなるTiAl系合金からなる。
(2)前記TiAl製タービンホイールは、ホイール中央部の組織が等軸晶からなり、かつ、平均結晶粒径が0.3mm以上3.0mm以下である。
(3)前記TiAl製タービンホイールは、HIP後のホイール中央部のミクロシュリンケージの面積率が0.005area%未満である。 - 前記TiAl系合金は、
7.0mass%≦Nb+Ta≦8.0mass%
をさらに含む請求項1に記載のTiAl製タービンホイール。 - 前記TiAl系合金は、
0.2mass%≦Si≦1.0mass%、
をさらに含む請求項1又は2に記載のTiAl製タービンホイール。 - 前記TiAl系合金は、
0.5mass%≦Cr≦1.4mass%
さらに含む請求項1から3までのいずれか1項に記載のTiAl製タービンホイール。 - 前記TiAl系合金は、
0.2mass%≦Mn+V≦4.0mass%
をさらに含む請求項1から4までのいずれか1項に記載のTiAl製タービンホイール。 - 前記TiAl系合金は、
0.2mass%≦W+Re≦10.0mass%
をさらに含む請求項1から5までのいずれか1項に記載のTiAl製タービンホイール。 - 前記TiAl系合金は、
Zr≦0.05mass%、及び/又は、
Fe≦0.06mass%
をさらに含む請求項1から6までのいずれか1項に記載のTiAl製タービンホイール。
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