JP6302199B2 - マルチメディア焼入れシステム及び方法 - Google Patents

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Description

本発明は、熱処理金属部品の焼入れ方法に関し、より詳しくは、そのような
金属部品を生分解性媒体で焼入れ及び洗浄するシステム及び方法に関するもの
である。
多くの鋼合金は、加熱してから迅速に冷却することにより、硬化及び強化さ
れている。典型的な熱処理方法においては、合金の組成に依存する、上限臨界
温度(AC3)を超える温度に加熱され、それ故、金属は完全にオーステナイト
相である。次に、合金がより硬いマルテンサイト相に変態することができるよ
うに、焼入れ液又はガス(焼入れ剤)によって合金を迅速に冷却する。マルテ
ンサイトよりも軟らかくて、鋼に必要とされる物理的特性に悪影響を及ぼすベ
イナイト及びパーライトのようなその他の相の生成を最小限にするためには、
十分早い冷却速度が必要とされる。然しながら、冷却速度は、焼入れされた金
属中に組み合わさった様々な相が存在することができるように制御することが
できる。
この方法を首尾よく実施するための手掛りは、金属部品の表面から熱を均一
に除去することにある。図1には、鉄合金のための冷却速度を示した冷却連続
冷却曲線が示されている。第一の曲線(1)は、焼入れされた金属中にマルテ
ンサイトとオーステナイトとの組合せを提供するために設計されている。第二
の曲線(2)は、焼入れされた金属中に完全なマルテンサイト構造を提供する
ために設計されている。第三の曲線(3)は、焼入れされた金属中にマルテン
サイトとベイナイトとの組合せを提供するために設計され、第四の曲線(4)
は、焼入れされた金属中にマルテンサイトとパーライトとの組合せを提供する
ために設計されている。
産業的プラクテッスにおいては、多くの異なった焼入れ剤が用いられ、それ
らの内の主な焼入れ剤は、水,焼入れオイル,水性高分子溶液,溶融塩及び高
圧不活性ガスである。
I.液体での焼入れ
液体での焼入れは、通常、図2に示された三つの工程を含んでいる。液体焼
入れのこれらの工程は、同時に、部品の全てのポイントにおいて行われない可
能性がある。
第一の工程においては、蒸気ブランケット(vapor blanket)
又は膜沸騰が行われて、蒸発した液体の薄い膜が、金属の表面の近くに生じて、
液体が金属の表面と接触することを防止することにより、金属表面を冷却する。
この工程は、低対流熱伝達によって特徴付けられる。
第二の工程においては、核沸騰が行われて、非常に高い熱交換で、液体が金
属部品の表面において蒸発する。焼入れ剤の沸点は、この工程の終わりを決定
する。
第三の工程においては、対流が起きて、液体は金属表面の近くにあって、対
流を介して熱移動が起こる。
A.水焼入れ
焼入れのために用いられる四つの液体の内の純水は、それの安定した気相が
不均一な抽熱を生じさせるので、めったに用いられない。水に少なくとも一つ
の塩を添加すると、気相の分解を加速させることにより、水の焼入れ強度を増
強させる。この効果は、金属部品の表面における冷却速度を非常に加速させる
という結果になるが、焼入れ中の部品のクラッキングの危険で、非常に大きな
応力勾配が生ずる。
B.常圧オイル(Atmosphere oil)
オイルの組成及び物理的特性に依存する急冷度(quenching se
verity)を持った様々な品質の焼入れオイルが存在し、その最も重要な
特性は粘度である。水と全く同じように、オイルは、オイル焼入れ中に通常6
00℃〜300℃の温度範囲内で非常に迅速な熱伝達を持った核沸騰相に続い
て顕著な気相を呈する。
オイル焼入れの核沸騰ステージ中に、極端に高い瞬間的な熱伝達率を達成す
ることができる。これは、パーライト変態が起きて且つガス焼入れによって確
保できない温度範囲において注目すべき利点を有する。然しながら、沸騰の始
めにおける気相の分解で、所謂、ライデンフロスト現象が起こる。その結果は、
様々なばらつき及び要因に依存する、金属部品の様々な面に関する不均一な熱
伝達率となる。この不均一な一時的段階は、大きな温度差動を起こして、オイ
ル媒体での焼入れ時の部品の歪みの主な要因である。
C.溶融塩
別の公知の焼入れ媒体としては、溶融塩がある。溶融塩浴焼入れは、蒸気ス
テージ又は沸騰ステージを含んでいない。従って、ガス焼入れの場合と同様に、
溶融塩焼入れは、溶融塩内への部品の浸漬の始めに、非常に高い熱伝達率を持
った純粋な対流熱伝達を発揮する。
塩は使用するために溶融させなければならないので、塩の適用温度は、本来、
水及びオイルの適用温度よりも高い。塩は、通常、約140℃〜約350℃の
範囲内で用いられる。この高い適用温度は、マルテンサイト変態が起こる低い
温度範囲内における急冷度を低減させるという明確な効果を有する。また、こ
のことは、硬化された金属部品の非常に低い歪みをもたらす均一な応力分布の
ためにも有益である。
D.公知の液体焼入れ技術の不都合
水,ポリマー又はオイルを用いたような液体焼入れの核沸騰ステージ中に、
極端に高い瞬間的な熱伝導率を達成することができる。これは、パーライト変
態が起きて且つガス焼入れによって確保できない温度範囲において注目すべき
利点を有する。然しながら、沸騰の始めにおける気相の分解で、上述したよう
に、所謂、ライデンフロスト現象が起こる。更に、石油系油及び塩浴は、毒性
を有しているので、簡単に処分することができない。従って、そのような焼入
れ媒体の使用は、その使用のコストを高騰させる環境的懸案事項を提示するこ
ととなる。
II.ガス焼入れ
強制ガス焼入れは、純粋な対流式単一ステージ焼入れである。ガスの種類,
ガス圧及びガスの粘度は、主な制御パラメータである。通常、ガス焼入れチャ
ンバーは、強力なファンを備え、20バールまでの正圧の冷却ガスを注入する
ように適合さてている。ガス焼入れチャンバーは、焼入れガスから熱を迅速に
除去するための冷水を用いる少なくとも一つの熱交換器を有している場合があ
る。最もありきたりな焼入れガス媒体は、窒素ガスである。然しながら、アル
ゴンガス,ヘリウムガス,水素ガス及びそれらの混合物のようなその他のガス
も用いられている。
高圧ガスによる焼入れは、高焼入れ性合金にとって好ましい。強制ガス焼入
れのために適切な通常グレードの鋼としては、AISI−SAE グレード8
620,5120及び4118、17CrNiMo6、SAE グレード93
10,3310,8822H,4822及び8630がある。然しながら、浸
炭し、オイル焼入れをすることのできる低焼入れ性・普通炭素鋼は、ガス焼入
れのゆっくりとした冷却速度下で適切の変態しないので、当該普通炭素鋼は、
ガス焼入れを用いて簡単に硬化させることができない。高い焼入れ性グレード
であっても、ガス焼入れは、オイル焼入れされた部品と比較して低い内部硬さ
を生じさせるので、内部硬さについて若干考慮しなければならない。
高圧不活性ガス下での焼入れの主な利点は、同一のゆっくりとした冷却速度
が、焼入れから低い歪みに変化することにある。首尾よくオイル焼入れをする
ことができず、必要な寸法公差を維持することのできない多くの部品は、高圧
ガス焼入れ(HPGQ)処理されて、焼入れ状態において容認可能な寸法を呈
する。
蒸発,沸騰及び対流冷却の全てが同時に行われる液体焼入れに関連する部品
の不均一な冷却を取り除いて、それをゆっくりとした冷却速度をもたらし且つ
より均一で純粋な対流をもたらすガス焼入れに代えることによって、部品の表
面がゆっくりとした速度で均一に冷却されるので、部品の歪みを非常に低減さ
せることができる。HPGQは、しばしば、ポスト−熱処理歪み取り(pos
t−heat treatment straitening)又はクランプ
テンパリング(clamp tempering)作業を取り除くことができ
て、取り代許容差(grind stock allowance)及びハー
ドマシーニング(hard machining)を低減させ、又は、プレス
焼入れのようなより費用のかかる方法に取って代わることができる。
適切に適用した場合に、ガス焼入れは確認された多くの利点を有し、その利
点としては、安全性,全体的経済性,二次的製造作業の削減,寸法偏差の最小
化,制御可能な冷却速度,部品の清浄度及び全体的な環境影響がある。
HPGQ技術を用いた場合に考慮しなければならない不都合が存在する。そ
の不都合としては、冷却速度の制限(即ち、急冷度),熱伝達速度の逆の適用(即
ち、パーライト変態範囲におけるゆっくりとした冷却速度とマルテンサイト変
態領域における早い冷却速度),圧力容器ための規則及び規約,高いノイズレベ
ルがある。
III.焼入れ速度の比較
オイル焼入れについては、沸騰相におけるオイル冷却速度のピークは、80℃
/sで、フェライト又はパーライトの生成を回避するための鋼焼入れの重要な
相において起こる。
ガス焼入れについては、高い温度(パーライト変態)での制限された焼入れ
速度と、低温度(マルテンサイト変態)における高い速度。
ガス焼入れ中に、通常、熱伝達現象(対流)に遭遇する。これは、油のよう
な蒸発可能な液体の場合であるが、同時に同一の速度で全ての部分がほぼ冷却
されるようなより均一な冷却の場合よりも、低い熱伝達率をもたらすこととな
る。
本発明の一側面によれば、高温に加熱された金属ワークロード(workl
oad)を冷却するための方法が提供される。この方法は、金属部品を実質的
に完全にオーステナイト相に変態させるために選択される高い温度に加熱され
た金属ワークロードを提供する工程と、金属部品が前記高温の状態ある間に金
属ワークロードを焼入れチャンバー内に置く工程を含んでいる。また、本方法
は、金属ワークロードを焼入れチャンバー内に入れた後に、焼入れチャンバー
を閉塞する工程を含んでいる。金属ワークロードを焼入れチャンバー内に閉じ
込めた時に、予め選択された時間内で、金属を実質的に完全に、マルテンサイ
ト,ベイナイト,パーライト、又はそれらの組合せを含んだ所望の二次相へ変
態させるのに十分な冷却速度を確保するために金属ワークロード上に植物油を
流す工程を続けて行う。
本発明の第二の側面によれば、熱処理された金属部品を冷却するための焼入
れ装置が提供される。この焼入れ装置は、熱処理された金属部品を支持するた
めの手段を備えたベースを含んでいる。このベースは、下端において閉塞され、
上端において開口されている。また、焼入れ装置は、下端が開口された部分を
有する上側ハウジングと、上側ハウジングの上端に形成されたドーム状部を有
している。更に、焼入れ装置は、ベースと上側ハウジングとの間に開口が区画
されるように、ベースの上方に離間した垂直同軸関係(spaced ver
tical coaxial relation)を持たせて上側ハウジング
を支持するための手段を含んでいる。上側ハウジングとベースとに同軸的にな
るように寸法付け及び配置されたドアが焼入れ装置を閉塞するために設けられ
ている。ドアには、ドアを上側ハウジングの開成位置と閉成位置との間を移動
させるためのアクチュエータが接続されている。閉成位置においては、開口を
閉成して焼入れチャンバーを提供するためにドアが上側ハウジングとベースの
間に伸びる。焼入れ装置は容器を更に有し、その容器は、焼入れチャンバーか
ら離れていて、多量の植物油焼入れ剤を保持するように構成されている。本発
明による焼入れ装置は、植物油焼入れ剤を油容器から焼入れチャンバーへ誘導
するための手段と、焼入れチャンバー内に配置され、植物油焼入れ剤を焼入れ
チャンバー内に流動させて、焼入れチャンバー内に入れられた金属ワークロー
ド上に植物油焼入れ剤を適用するための手段を更に有している。
上述の背景技術並びに本発明についての後述の詳細な説明については、添付
図面を参照することにより、更に明確に理解することができるであろう。
図1は、公知の鉄合金のための公知の連続冷却曲線のグラフである。 図2は、公知のオイル焼入れ方法中で行われる三つの冷却ステージでの、冷却曲線と冷却速度曲線との典型的なグラフを示した図である。 図3は、オイル焼入れ方法とガス焼入れ方法に関する典型的な冷却速度曲線を比較した図である。 図4は、本発明による焼入れ方法を示した概略的な線図である。 図5は、本発明による焼入れ方法を実施するための装置の機能ブロック図である。
ここで図4を参照すると、本発明によるマルチメディア焼入れ方法の一実施
形態が示されている。本発明の一実施形態は、鋼材料が所望の相、典型的には、
オーステナイトへ変態する高い温度に加熱された鋼ワークピース又はそのよう
なワークピースのバッチ(以下、「ワークロード」という。)について用いられ
るように設計されている。この目的のために、ワークロードは、好ましくは、
約1400°F〜約2400°Fの温度に加熱される。また、ワークロードは、
好ましくは、オーステナイト相への実質的に完全な変態をもたらすために選択
された時間の間加熱される。その時間は、ワークロードの合金組成と横断面寸
法とに依存する。加熱ステップは、焼入れチャンバーに接続された加熱チャン
バー内の鋼ワークロードについて実施される。鋼ワークロードが必要な時間の
間加熱された時に、ワークロードは加熱チャンバーから焼入れチャンバーへ移
送される。
本発明による焼入れ方法においては、植物油を含む焼入れ剤が用いられる。
好ましい植物油焼入れ剤は、大豆油である。然しながら、綿実油,カノーラ油,

パーム油,ひまわり種子油,コーン油、又は、大豆油を含んだ又は含んでいな
い、上記油の混合油のような、他の種類の油をも用いることができる。ワーク
ロードの加熱過程で、植物油焼入れ剤は、焼入れチャンバーに接続された個別
の容器内で加熱される。植物油焼入れ剤は、好ましくは、焼入れされる合金の
性質に応じて約70°F〜1000°F の温度に加熱される。本発明による方
法の別の実施形態においては、油容器内の圧力は、窒素ガス又はアルゴンガス
のような不活性ガスを注入することにより、所望の圧力レベル、好ましくは、
約1〜15バールまで昇圧される。
ワークロードが焼入れチャンバーへ移送された時に、焼入れチャンバーは閉
塞され且つ封止される。そして、植物油焼入れ剤が、油容器から焼入れチャン
バーへ流される。これは、好ましくは、植物油容器と焼入れチャンバーとの間
で圧力差を生じさせることにより行うことができる。焼入れチャンバーは、ワ
ークロードの上方で且つワークロードに近接して配置される配管及びノズルを
備えるように適合されているので、植物油焼入れ剤がワークロードに注がれ又
は噴霧されて、焼入れチャンバーの底部に溜まるようになる。植物油焼入れ剤
が焼入れチャンバーの底部に溜まるので、植物油焼入れ剤は、植物油焼入れ剤
を焼入れチャンバーの底部から引っ張って、配管及びノズルを介して流動させ
るポンプによって再循環させられる。
焼入れステップは、好ましくは、亜大気圧(subatmospheric

pressure)又は真空状態の焼入れチャンバーで実施される。好ましい
実施形態においては、焼入れステップは、約500トル〜約100トルの亜大
気圧で実施される。焼入れステップにおいて亜大気圧を用いると、少なくとも
以下のような利点が得られる。即ち、焼入れステップにおいて亜大気圧を用い
ると、植物油の酸化を防止することができる。植物油の酸化は、その冷却性能
に悪影響を及ぼし、ワークロードの金属表面を黒ずませる(darken)結
果となる。また、亜大気圧を用いると、油の沸点を変化させて、油の冷却特性
を変化させる。焼入れチャンバー内の圧力を低下させると、蒸気ブランケット
段階と冷却曲線の沸騰段階を長引かせることとなる。焼入れステップにおいて
焼入れチャンバーを真空状態にさせると、焼入れ処理の調整(最適化)が可能
となる。例えば、真空状態下で植物油焼入れを実施すると、臨界硬化範囲にお
いて初期の焼入れ速度を早くさせて、フェライト及びパーライト変態領域の生
成を回避すると共に、マルテンサイト領域における最終的な焼入れ速度を遅く
させる。高い初期の冷却速度は、ベイナイト,パーライト及びフェライトのよ
うなその他の金属相の生成を回避するのに十分に迅速なマルテンサイト変態開
始温度(MS)に達することにより、完全な硬度の進行を可能にさせる。他方、
マルテンサイト変態温度に達した時に、ゆっくりとした速度で冷却すると、よ
り良好な応力均一化が図られて、鋼ワークピースの歪み及び/又はクラッキン
グを低減させる。
本発明による方法の別の実施形態においては、窒素ガスのような不活性ガス
が焼入れチャンバーに適用される。不活性ガスブランケットも、植物油焼入れ
剤の酸化を防止するのに役立つ。この実施形態においては、焼入れチャンバー
内で15バールまでの圧力の不活性ガスが用いられる。不活性ガス圧」は、焼
入れステップを通じて一定であってもよい。本発明による焼入れ方法の好まし
い実施形態においては、不活性ガス圧を、焼入れサイクル中に変化させて、焼
入れサイクルの様々な段階において様々な冷却速度をもたらす。不活性ガスを
変化させることにより、焼入れステップ中に冷却速度をコントロールすること
ができる。圧力を低下させると、沸点を低下させ、従って、冷却速度を低下さ
せる。圧力を昇圧させると、冷却速度が速められる。例えば、不活性ガス圧を、
ワークロードの初期冷却中に昇圧させ、次いで、所望の変態温度に達したとき
に低下させるという二段階処理を採用することができる。そのような二段階処
理は、焼入れステップの開始段階で迅速に冷却し、後の段階でゆっくりと冷却
することにより、理想的な焼入れ媒体の挙動を取るようにさせる。従って、植
物油焼入れ剤は、不活性ガスの圧力が昇圧された時に、臨界硬化範囲において
高い初期焼入れ速度で焼入れを行い、不活性ガスの圧力を低下させることによ
り、低い温度範囲を通じてゆっくりとした最終的な焼入れ速度が実現される。
焼入れステップ中に真空レベルと不活性ガス圧とを変化させることにより、
様々な変態状況を達成することが可能になることが理解できる。それゆえ、本
発明による焼入れ方法は、焼入れされる合金と所望の特性と微細構造とに従っ
て、マルテンパーリング(martempering),ホットオイル焼入れ及
びオーステンパー(austempering)のような焼入れ技術をシミュ
レートするように適合させることができる。例えば、マルテンパーリング,ホ
ットオイル焼入れ又はオーステンパーを達成するために、不活性ガス圧は、焼
入れサイクルの始めに高い温度範囲内で昇圧される。不活性ガス圧は、焼入れ
サイクルの低い温度中に低下させられる。
上述した技術に加えて、本発明による方法は、焼入れステップ中に真空と圧
力とを組み合わせて冷却速度を変化させることを含んでいる。それ故、焼入れ
ステップは、早い冷却速度をもたらすために、当初、例えば、約10バールま
での不活性ガスの正圧下にある焼入れチャンバーで行うことができる。焼入れ
ステップの後の段階においては、ゆっくりとした冷却速度をもたらすために、
焼入れチャンバーは、亜大気圧、例えば、約5トルになるように不活性ガスを
抜くことができる。
焼入れステップが終了した後に、植物油焼入れ剤が焼入れチャンバーから除
去される。好ましくは、植物油焼入れ剤は、油容器へ送り返される。然しなが
ら、焼入れされたワークロード上には残留油が残り、この残留油は、ワークロ
ードが更なる処理をするために移送される前に取り除かなければならない。従
って、本発明による方法は、焼入れ後に洗浄する工程を含んでいる。
洗浄ステップ中に、焼入れチャンバー内に洗浄剤が導入される。洗浄ステッ
プの開始時に、焼入れチャンバーは、好ましくは、約5トルよりも低い真空に
ポンプダウンされる。所望の真空が達成された時に、溶媒型洗浄剤が、液体と
蒸気との混合物として焼入れチャンバー内に注入される。従来の炭化水素系溶
媒を用いることができるが、洗浄剤は、好ましくは、ソイメチルエステル(s
oy methyl ester)のような生分解性溶媒である。ソイメチル
エステルと乳酸エチルとの混合物は、金属部品の表面に膜を残してしまうよう
なことがないので、良好な洗浄効果をもたらす。溶媒液と蒸気とが洗浄される
部品の表面に付着する。この洗浄ステップにおいて、金属部品上の蒸気の凝結
が洗浄された部品を加熱してしまう。洗浄後に部品を冷却し、堆積物を洗い流
すために、部品は、溶媒供給タンクからのクリーンな液状溶媒を噴霧され又は
当該溶媒に浸漬される。その目的のために、液状溶媒をワークロードの多くの
側に付加することができるように、焼入れチャンバー内には、個別の一組のノ
ズルが配置されている。
洗浄、噴霧又は浸漬段階が終了した時に、好ましくは、蒸気回収処理を実施す
る。このステップにおいては、液状溶媒の蒸発を促進させるために焼入れチャ
ンバーは再びポンプダウンされる。溶媒蒸気は真空ポンプによって焼入れチャ
ンバーから抜かれて、熱交換器に送られて、液状に凝縮される。凝縮器から液
状溶媒は溶媒供給タンクへ戻される。何らかの残留溶媒を除去するために、焼
入れチャンバーは、焼入れチャンバーを不活性ガスでバックフィルすることに
よって、大気圧に戻される。蒸発する残りの溶媒は、真空ポンプによって抜か
れる。真空ポンプのインテイクラインは、溶媒蒸気を吸収してそれを不活性ガ
スから分離させる活性炭フィルターを備えるように適合されている。
植物油焼入れ剤と液状洗浄剤とをリサイクルするために、それらが各々の容
器へ戻される前に、それら植物油焼入れ剤と液状洗浄剤とは好ましくは分離さ
れる。油を分離のための何らかの公知の装置又はシステムを、本発明による方
法及び装置に関連して採用することができる。
ここで図5を参照すると、本発明による方法を実施するための装置の機能ブ
ロック図が示されている。焼入れ装置10は、焼入れチャンバー12を有して
いる。この焼入れチャンバー12は、好ましくは、少なくとも一つの開口部を
備えた圧力容器を有し、当該開口部を介してワークロードを焼入れチャンバー
に対して出し入れすることができるようになっている。焼入れチャンバーの好
ましい実施形態は、2012年12月21に出願された米国特許願第13/7
23,368号において開示され、この特許出願の記載内容の全てをここに援
用する。
大量の植物油焼入れ剤を保持するための容器又はタンク14が焼入れチャン
バー12に作動的に接続されている。焼入れチャンバー12内のワークロード
に植物油焼入れ剤を噴霧し又は注ぐために、上述したように、焼入れチャンバ
ーは内部に配置された配管及びノズルを有している。焼入れサイクル中に植物
油焼入れ剤を再循環させることができるように、好ましくは、焼入れチャンバ
ーの底部に溜まった油焼入れ剤をノズルを介して吸い上げるためのポンプ(図
示せず)が設けられている。不活性ガス源16、好ましくは、窒素ガス源が、
容器14と焼入れチャンバー12に接続されて、必要に応じて、加圧ガスを供
給する。
焼入れチャンバー12と植物油容器14には、真空ポンプ18が接続されて
いる。真空ポンプ18と焼入れチャンバー12と植物油容器14との間に配置
された配管又はその他の接続手段は、焼入れチャンバー12、植物油容器14、
又は、その双方が真空引きされることが可能となるように適切な弁を備えるよ
うに適合されている。
洗浄剤容器20は、焼入れステップが完了した時にワークロードに洗浄液を
適用するために焼入れチャンバー12に作動的に接続されたアウトレットを有
している。好ましくは、焼入れチャンバーは、洗浄液をワークロードに適用す
るための配管及びスプレイノズルを備えるよう適合されている。
焼入れ装置は、好ましくは、オイル/洗浄剤分離器22を有している。オイ
ル/洗浄剤分離器22は、焼入れサイクルの後に焼入れチャンバーに溜まった
油と洗浄剤との混合物をオイル/洗浄剤分離器22へ送ることができるように、
焼入れチャンバー12の対応のアウトレットに接続されたインレットを有して
いる。オイル/洗浄剤分離器22は、油と洗浄剤とを再利用することができる
ようにするために、油と洗浄剤との混合物から油を掬い取るように構成配置さ
れたスキマー(skimmer)を有している。オイル/洗浄剤分離器22は、
ニューヨーク,ベッドフォード ヒルに所在のAqueous Recove
ry Resources, Inc.によって市販されているSUPARA
TOR(登録商標)オイル分離システムによって実現することができる。オイ
ル/洗浄剤分離器22は、油容器14のインレットに接続された第一のアウト
レットと、洗浄剤容器20のインレットに接続された第二のアウトレットを有
している。
焼入れ装置10は、植物油焼入れに代えて、ワークロードの強制ガス冷却を
実施するべく、焼入れチャンバー12内に冷却ガスを吹き込むことができるよ
うに焼入れチャンバー12に接続された排気アウトレットを備えたブロワー
(blower)24を付随的に有している。冷却ガスのためのクローズドル
ープ(closed loop)を構成するべく、焼入れチャンバー12のア
ウトレットは、ブロワー24のインレットに接続されている。冷却ガスから熱
を抽熱するために、好ましくは、焼入れチャンバーのアウトレットとブロワー
のインレットとの間に熱交換器26が接続されている。
加熱されたワークロードを焼入れするための方法及びシステムに関する上記
記載を勘案すると、ここに開示された方法の利点が明らかになる。本発明によ
る焼入れ方法では、主な焼入れ媒体として植物油が用いられている。そのよう
な油は(100%の)生分解性と高められた引火点と沸点とを有しているので、
そのような油を用いることは有益である。また、植物油焼入れ剤は、蒸気相を
呈さず、従って、焼入れステップの初期の高い温度での冷却を増進させる。植
物油焼入れ剤は、主な熱伝達モードが対流である場合に、焼入れステップの後
の低温度においてゆっくりとした冷却をもたらす。ゆっくりとした冷却速度に
よって、部品の均一な冷却をもたらして、その結果、部品の歪みを生じること
を抑制する。本発明による方法において用いられる植物油焼入れ剤は、その油
が空気と接触した場合に酸化不安定状態にさらされる。この酸化は、油焼入れ
剤の性能を変更させて、焼入れされた金属部品の表面を黒ずませる結果となる。
然しながら、亜大気圧、好ましくは不活性ガスのブランケット下における焼入
れ処理の性能は、その不都合を実質的に完全に克服される。更に、焼入れステ
ップの様々な段階において不活性ガス圧を適用することによって、実際の冷却
特性が焼入れされた状態の金属の種類及び所望の微細構造のために調整するこ
とができるように、冷却速度をスピードアップさせ、又は、スピードダウンさ
せることができる。
本明細書で使用した用語及び表現は、単に説明のために便宜上用いたに過ぎないものであって、本発明の内容を何ら制限するものではない。そのような用語及び表現を用いたからといって、そのことにより、上述した本発明の特徴と均等なもの又はその一部を排除することを意図するものではない。従って、本発明は、ここに記載された本発明の範囲内に入る様々な変形例を包含するものである。
なお本発明は、以下の態様を含む。
・態様1
金属部品を実質的に完全にオーステナイト相に変態させるために選択された高い温度に加熱された金属ワークロードを提供する工程と、前記金属部品が前記高い温度にある間に前記金属部品を焼入れチャンバー内に入れる工程と、前記焼入れチャンバーを閉成する工程と、植物油焼入れ剤を前記金属ワークロード上に流動させて、予め定められた時間内で、前記金属を、マルテンサイト,ベイナイト,パーライト、又は、それらの組合せを含んだ所望の二次相に実質的に完全に変態させるのに十分な冷却速度で前記金属ワークロードを冷却する工程を含んでいること特徴とする、高い温度に加熱された金属ワークロードを冷却するための方法。
・態様2
前記植物油を流動させる工程中に前記焼入れチャンバーに亜大気圧を付加する工程を含んでいる、態様1に記載の方法。
・態様3
前記亜大気圧を付加しつつ、前記焼入れチャンバーに不活性ガスを供給する工程を含んでいる、態様2に記載の方法。
・態様4
前記焼入れチャンバーを正圧に加圧するために前記焼入れチャンバー内に不活性ガスを供給する工程を含んでいる、態様1に記載の方法。
・態様5
不活性ガスを供給する工程が、前記植物油を流動させる工程の初期段階中に前記不活性ガスの圧力を昇圧させて、第一の冷却速度をもたらす工程と、前記植物油を流動させる工程の第二の段階中に前記不活性ガスの圧力を低下させて、第一の冷却速度よりも低い第二の冷却速度をもたらす工程を含んでいる、態様4に記載の方法。
・態様6
前記植物油を流動させる工程を実施する前に、前記植物油焼入れ剤を約20℃〜約200℃の温度に加熱する工程を含んでいる、態様1に記載の方法。
・態様7
前記加熱工程を第二の封止可能なチャンバー内で実施し、前記方法が不活性ガスで前記第二の封止可能なチャンバーを加圧する工程を含んでいる、態様6に記載の方法。
・態様8
前記ホールディング工程後に前記金属部品から前記植物油焼入れ剤を除去する工程を更に含んでいる、態様1に記載の方法。
・態様9
前記金属部品から前記植物油焼入れ剤を除去する工程が、前記焼入れチャンバーから前記植物油焼入れ剤を排出させる工程と、前記チャンバーを空にさせて前記チャンバー内を亜大気圧にさせる工程と、前記金属部品の表面に洗浄流体が付着するように前記チャンバー内に前記洗浄流体を注入する工程と、前記金属部品の表面をすすぐために前記金属部品の表面に洗浄液を適用する工程を含んでいる、態様8に記載の方法。
・態様10
洗浄液を適用する前記工程の後に、前記チャンバーを再度空にさせることにより、前記洗浄液が蒸発して蒸気になるようにさせる工程と、前記蒸気を前記チャンバーから引っ張る工程を含んでいる、態様9に記載の方法。
・態様11
熱処理された金属部品を冷却するための装置であって、下端が閉塞され且つ上端が開口されて、熱処理された金属部品を支持するための手段を備えたベースと、下端が開口された部分と上端に形成されたドーム状部とを有する上側ハウジングと、前記ベースと前記上側ハウジングとの間に開口が区画されるように、前記ベースの上方に離間した垂直同軸関係を持たせて上記上側ハウジングを支持するための手段と、前記上側ハウジングと前記ベースに対して同軸的に寸法付け且つ配置されたドアーと、前記ドアを、前記上側ハウジングの開成位置と開口を閉成することにより焼入れチャンバーを提供するためにドアが前記上側ハウジングと前記ベースの間に伸びる閉成位置との間を移動させるためのアクチュエータと、前記焼入れチャンバーから離れて配置されて、多量の植物油焼入れ剤を保持するための容器と、前記植物油焼入れ剤を前記容器から前記焼入れチャンバーへ誘導するための手段と、前記焼入れチャンバー内に配置されて、前記植物油焼入れ剤を前記焼入れチャンバー内に流動させるための手段を有する装置。
・態様12
前記容器が、前記植物油焼入れ剤を加熱するためのヒータを含んでいる、態様11に記載の装置。
・態様13
不活性ガスで前記容器と前記焼入れチャンバーとを加圧するための手段を含んでいる、態様11に記載の装置。
・態様14
前記容器と前記焼入れチャンバーに亜大気圧を付加するために前記容器と前記焼入れチャンバーに作動的に接続された真空ポンプを有している、態様11に記載の装置。
・態様15
前記焼入れチャンバー内に洗浄流体を注入するための手段を有している、態様11に記載の装置。
・態様16
前記洗浄流体注入手段が、二酸化炭素源と、二酸化炭素液とガスとの混合物を噴霧するための装置を有している、態様15に記載の装置。
・態様17
前記洗浄流体注入手段が、液状ソイメチルエステル源と、液状ソイメチルエステルを噴霧するための装置を有している、態様15に記載の装置。

Claims (9)

  1. 金属ワークロード内の金属をオーステナイトに変態させるために選択された高い温度に加熱された金属ワークロードを提供する工程と、
    前記金属ワークロードが前記高い温度にある間に前記金属ワークロードを焼入れチャンバー内に入れる工程と、
    前記焼入れチャンバーを閉成する工程と、
    次の工程;
    植物油焼入れ剤を前記金属ワークロード上に選択された流量で注ぐ工程および
    前記植物油が前記金属ワークロード上に流動している間、前記焼入れチャンバー内に不活性ガスの正圧を供給する工程
    を行うことにより前記金属ワークロードを焼入れする工程
    前記金属を、マルテンサイト、ベイナイト、パーライト、および、それらの組合せから成る群から選択される二次金属相に変態させるのに十分な冷却速度を提供するように、前記植物油の流量と不活性ガスの正圧とを制御して、前記変態が予め定められた時間内に得られる工程
    とを含み、
    前記正圧が大気圧より高く、15バール以下である、高い温度に加熱された金属ワークロードを冷却するための方法。
  2. 前記金属を前記二次金属相に変態させるのに十分な時間の間、前記不活性ガスの正圧が保持される、請求項1に記載の方法。
  3. 前記焼入れチャンバー内に不活性ガスを供給する工程が、
    前記植物油を注ぐ工程の初期段階中に前記不活性ガスの圧力を15バール以下の第一の正圧まで昇圧させて、第一の冷却速度をもたらす工程と、
    予め選択した転換温度に達したときに、前記植物油を注ぐ工程の第二の段階中に前記不活性ガスの圧力を大気圧より高い第二の正圧まで低下させて、第一の冷却速度よりも低い第二の冷却速度をもたらす工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
  4. 前記植物油を注ぐ工程を実施する前に、前記植物油焼入れ剤を20℃〜200℃の温度に加熱する工程を含んでいる、請求項1に記載の方法。
  5. 前記加熱工程を第二の封止可能なチャンバー内で実施し、前記方法が不活性ガスで前記第二の封止可能なチャンバーを加圧する工程を含んでいる、請求項に記載の方法。
  6. 前記焼入れチャンバーから前記植物油焼入れ剤を排出させる工程と、
    前記焼入れチャンバーを空にさせて前記焼入れチャンバー内を亜大気圧にさせる工程と、そして、前記金属ワークロードを再加熱することなく、
    前記金属ワークロードの表面に洗浄剤が付着して、前記金属ワークロードの表面に残っている植物油と結合するように、前記焼入れチャンバー内に、液体と蒸気との混合物として前記洗浄剤を注入する工程と、
    前記金属ワークロードの複数の表面をすすぐために、前記金属ワークロードの複数の表面に追加の洗浄剤を液体の形態で噴霧し、それにより前記植物油と前記洗浄剤の結合物が、前記植物油と前記液体洗浄剤の溶液として前記金属ワークロードから除去される工程と
    を行うことにより、前記金属ワークロードから前記植物油焼入れ剤を除去する工程を含む、請求項1に記載の方法。
  7. 前記噴霧する工程の後に、前記チャンバーを再度空にさせることにより、前記焼入れチャンバー内の植物油と液体洗浄剤の溶液を蒸発させて蒸気を形成する工程と、
    前記焼入れチャンバーから前記蒸気を除去する工程と
    を含んでいる、請求項に記載の方法。
  8. 前記除去する工程の後に、
    前記焼入れチャンバーから除去した前記蒸気を凝結して、液体溶液を再び形成する工程と、
    前記液体溶液内の前記洗浄剤から前記植物性油を分離する工程と、
    を含む、請求項に記載の方法。
  9. 前記除去する工程の後に、
    前記焼入れチャンバー内の全ての残液が溶媒蒸気を形成するように、前記焼入れチャンバーを不活性ガスでバックフィルして、前記焼入れチャンバー内に大気圧を供給する工程
    を含む、請求項に記載の方法。
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