JP6290023B2 - 高Cr系CSEF鋼のシングルサブマージアーク溶接方法 - Google Patents
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Description
特許文献1の改良9Cr−1Mo鋼用溶接ワイヤにおいては、ワイヤ径が2.4mmφと細径ワイヤであるがために、アークの広がりに乏しく融合不良が発生しやすくなって健全な溶接部が得られない。また、ワイヤ径を4.0mmφに太径化してサブマージアーク溶接を行うと、母材希釈によるCピックアップが原因で初層に高温割れが発生する。
本発明の溶接方法は、高Cr系CSEF鋼のシングルサブマージアーク溶接方法である。シングルサブマージアーク溶接方法とは、例えば図1〜3に示すように、高Cr系CSEF鋼で構成された母材10を、ワイヤ12が内挿された1つの溶接チップ11と、図示しない溶接フラックスを用いてアーク溶接で溶接する方法である。特に、図4に示すような、狭開先における初層溶接、特に初層1層1パス目の溶接に好適に用いられる。
ワイヤ送給速度が50g/minを下回ると、溶接電流が低すぎてアークが不安定となり、溶込不良が発生する。一方、ワイヤの送給速度が120g/minを上回ると、溶着量が多すぎて高温割れが発生すると共に、スラグ剥離性も劣化する。よって、ワイヤ送給速度は、50〜120g/minとする。また、ワイヤ送給速度は、溶込み不良の発生をさらに抑制する観点から55g/min以上が好ましく、高温割れの発生、スラグ剥離性の劣化をさらに抑制する観点から115g/min以下が好ましい。なお、ワイヤ送給速度は、例えば溶接電流およびアーク電圧を調整することによって、適正範囲にコントロールされる。
溶接速度が20cm/minを下回ると、溶着量が多すぎて高温割れが発生する。一方、溶接速度が60cm/minを上回ると溶融金属の供給が間に合わず、ビード形状が不安定となって融合不良やスラグ巻込みが発生する。よって、溶接速度は、20〜60cm/minとする。また、溶接速度は、高温割れの発生をさらに抑制する観点から25cm/min以上、ビード形状を安定させて融合不良やスラグ巻込みをさらに抑制する観点から、55cm/min以下が好ましい。なお、溶接速度とは、図1〜3に示すように、溶接機の溶接チップ11の溶接方向への移動速度である。
単位長さ当りの溶着量は、ワイヤの送給速度/溶接速度により計算される。本発明のポイントは、この単位長さ当りの溶着量を適切に制御することにある。単位長さ当りの溶着量が1.8g/cmを下回ると、溶着量が少なすぎてビード形状が不安定となって融合不良やスラグ巻込みが発生する。一方、単位長さ当りの溶着量が4.5g/cmを上回ると溶着量が過剰となるため、溶接金属の凝固収縮量が過大かつ溶込み形状もなし形になるため、凝固収縮のかかる方向が最終凝固部に対し垂直となって高温割れが発生する。よって、単位長さ当たりの溶着量は、1.8〜4.5g/cmとする。また、単位長さ当たりの溶着量は、ビード形状安定化と融合不良・スラグ巻込み防止の観点から2.0g/cm以上、高温割れの発生をさらに抑制する観点から4.3g/cm以上が好ましい。
本発明で使用する溶接ワイヤは、C:0.03〜0.13質量%、Si:0.05〜0.50質量%、Mn:0.50〜2.20質量%、P:0.015質量%以下、S:0.010質量%以下、Ni:0.20質量%を超え1.00質量%以下、Cr:8.00〜10.50質量%、Mo:0.20〜1.20質量%、V:0.05〜0.45質量%、Nb:0.020〜0.080質量%、N:0.02〜0.08質量%を含有し、さらに適宜Cu、B、W、Coを所定量含有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、ワイヤ径が3〜5mmφが好ましい。以下、各構成の数値限定理由について説明する。
Cは、NとともにCr、Mo、W、V、Nb、およびBと結合して各種炭窒化物を析出し、クリープ破断強度を向上させる効果がある。ただし、C含有量が0.03質量%未満では十分な効果が得られない。一方、Cを過剰に含有すると、具体的には、C含有量が0.13質量%を超えると、高温割れが発生する。よって、溶接ワイヤのC含有量は0.03〜0.13質量%とする。C含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.04質量%以上である。また、高温割れの発生をさらに抑制する観点から、好ましくは0.12質量%以下である。
Siは、脱酸剤として作用し、溶着金属中の酸素量を低減して溶接金属の靱性を改善する効果がある。ただし、Si含有量が0.05質量%未満では十分な効果が得られない。一方、Siはフェライト生成元素であり、過剰に含有すると、具体的には、Si含有量が0.50質量%を超えると、溶接金属におけるδ−フェライトの残留を引き起こし、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのSi含有量は0.05〜0.50質量%とする。Si含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.05質量%を超えるものである。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは0.48質量%以下、より好ましくは0.45質量%以下である。
Mnは脱酸剤として作用し、溶着金属中の酸素量を低減して靱性を改善する効果がある。また、MnおよびNiはオーステナイト生成元素であり、いずれも溶接金属におけるδ−フェライトの残留による靱性劣化を抑制する効果がある。ただし、Mn含有量が0.50質量%未満の場合、または、Niが0.20質量%以下の場合は、これらの効果は得られず溶接金属の靱性が劣化する。一方、Mn含有量が2.20質量%を超える場合、または、Ni含有量が1.00質量%を超える場合は、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのMn含有量は0.50〜2.20質量%、溶接ワイヤのNi含有量は0.20質量%を超え1.00質量%以下とする。なお、MnおよびNiの総含有量が1.50質量%を超える場合は、溶接金属の靱性が劣化すると共に溶着金属のAc1変態点が低下して高温焼戻しが不可能となり組織の安定化処理ができなくなる。したがって、MnおよびNiの総含有量は1.50質量%以下が好ましい。
Ni含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.30質量%以上である。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは0.95質量%未満ある。
Crは、本発明で用いる溶接ワイヤが対象としている高Cr系CSEF鋼の主要元素であり、耐酸化性、高温強度を確保するために不可欠な元素である。ただし、Cr含有量が8.00質量%未満では、耐酸化性および高温強度が不十分になる。一方、Crはフェライト生成元素であり、過剰に含有すると、具体的には、Cr含有量が10.50質量%を超えると、δ−フェライトの残留を引き起こし、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのCr含有量は8.00〜10.50質量%とする。これにより、優れた耐酸化性および高温強度が得られる。Cr含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは8.05質量%以上である。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは10.45質量%以下である。
Moは、固溶強化元素であり、クリープ破断強度を向上させる効果がある。ただし、Mo含有量が0.20質量%未満では、十分なクリープ破断強度が得られない。一方、Moはフェライト生成元素であるため、過剰に含有すると、具体的には、Moを含有量が1.20質量%を超えると、溶接金属におけるδ−フェライトの残留を引き起こし、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのMo含有量は0.20〜1.20質量%とする。Mo含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.22質量%以上である。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは1.18質量%以下である。
Vは、析出強化元素であり、炭窒化物として析出してクリープ破断強度を向上させる効果がある。ただし、V含有量が0.05質量%未満では、十分なクリープ破断強度が得られない。一方、Vはフェライト生成元素でもあり、過剰に含有すると、具体的には、V含有量が0.45質量%を超えると、溶接金属におけるδ−フェライトの残留を引き起こし、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのV含有量は0.05〜0.45質量%とする。V含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.10質量%以上である。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは0.40質量%以下である。
Nbは、固溶強化および窒化物として析出してクリープ破断強度の安定化に寄与する元素である。ただし、Nb含有量が0.020質量%未満では、十分なクリープ破断強度が得られない。一方、Nbはフェライト生成元素でもあり、過剰に含有すると、具体的には、Nb含有量が0.080質量%を超えると、溶接金属におけるδ−フェライトの残留を引き起こし、溶接金属の靱性が劣化する。よって、溶接ワイヤのNb含有量は0.020〜0.080質量%とする。Nb含有量は、前記効果をより向上させる観点から、好ましくは0.022質量%以上である。また、溶接金属の靱性の劣化をより抑制する観点から、好ましくは0.078質量%以下である。
Pは、高温割れ感受性を高める元素である。P含有量が0.015質量%を超えると、高温割れが発生する。よって、溶接ワイヤのP含有量は0.015質量%以下に規制する。P含有量は、高温割れの発生をさらに抑制する観点から、好ましくは0.010質量%以下である。
Sは、高温割れ感受性を高める元素である。S含有量が0.010質量%を超えると、高温割れが発生する。よって、溶接ワイヤのS含有量は0.010質量%以下に規制する。S含有量は、高温割れの発生をさらに抑制する観点から、好ましくは0.009質量%以下である。
Nは、CとともにCr、Mo、W、V、Nb、およびBと結合して各種炭窒化物を析出し、クリープ破断強度を向上させる効果がある。ただし、N含有量が0.02質量%未満では十分な効果が得られない。一方、Nを過剰に含有すると、具体的には、N含有量が0.08質量%を超えると、スラグ剥離性が劣化する。よって、溶接ワイヤのN含有量は0.02〜0.08質量%とする。N含有量は、クリープ破断強度をさらに向上させる観点から、好ましくは0.03質量%以上である。また、スラグ剥離性の向上の観点から、好ましくは0.07質量%以下である。
(Cu:1.70質量%以下)
Cuは、オーステナイト生成元素であり、溶接金属におけるδ−フェライトの残留による靱性劣化を抑制する効果があることから含有してもよい。一方、過剰な含有は高温割れを引き起こす。そのため、Cuは1.70質量%以下とする。Cuの望ましい上限は1.0質量%、更に望ましい上限は0.5質量%である。Cuの含有方法は、ワイヤ表面へのメッキでも構わない。
Bは微量含有により炭化物を分散・安定化させ、クリープ破断強度を高める効果があるため、含有してもよい。一方、過剰な含有は高温割れを引き起こす。そのため、Bは0.005質量%以下とする。Bの望ましい上限は0.003質量%、更に望ましい上限は0.0015質量%である。
Wは、マトリックスの固溶強化と微細炭化物析出によってクリープ破断強度の安定化に寄与する元素であるため、含有してもよい。一方、Wはフェライト生成元素でもあることから過剰な含有は、δ−フェライトの残留による靱性劣化を引き起こす。このため、Wは2.0質量%以下とする。Wの望ましい上限は1.8質量%、更に望ましい上限は1.7質量%である。
Coは、δフェライトの残留を抑制する元素であるため、含有してもよい。一方、過剰含有するとAc1点を下げるため、高温焼戻しが不可能となり組織の安定化処理ができなくなる。このためCoは3.0質量%以下とする。Coの望ましい上限は2.0質量%、更に望ましい上限は1.8質量%である。
溶接ワイヤの成分の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えば、Ti、Al等が挙げられる。
本発明で用いるワイヤ径は3〜5mmφが好ましい。ワイヤ径が3mmφ未満では、十分な溶着量を得ることができず、溶接能率が犠牲になる。一方、5mmφを超えると、前記した溶接条件の工夫を図っても溶着量が多いため、高温割れの発生を抑制できない。
本発明で使用する溶接フラックスは、次式で示す塩基度が1.0〜3.3であることが好ましい。
塩基度=(CaF2+CaO+MgO+SrO+Na2O+Li2O+1/2(MnO+FeO))/(SiO2+1/2(Al2O3+TiO2+ZrO2))
ここで、各化合物はフラックス全質量あたりの各化合物の含有量(質量%)を示す。
なお、本発明で用いる溶接フラックスとしては、塩基度が前記範囲を満たすものであれば、溶接フラックスを構成する化合物などの他の条件は特に規定されるものではない。
前記したように、高Cr系CSEF鋼と共材のサブマージアーク溶接用ソリッドワイヤは、1.25Cr−0.5Mo、2.25Cr−1Mo、2.25Cr−1Mo−V鋼と共材のソリッドワイヤと比較して電気抵抗が高く、このためジュール発熱量が大となり溶着量が多くなる。すなわち、高Cr系CSEF鋼と共材のワイヤは、同じ溶接電流であっても溶着量が多くなり、高温割れが発生し易くなる。そして、ジュール発熱量は、図1〜3、図8〜10、図11〜13に示す溶接チップ11と母材10との間の距離が長くなるほど大となる。したがって、高温割れの発生をさらに抑制するためには、チップ/母材間距離Lを20〜40mmに管理することが好ましい。チップ/母材間距離Lが20mm未満では、チップ先端部11aがアークによって溶損する危険性がある。チップ/母材間距離Lが40mmを超えると、溶着量が過剰となる。また、チップ/母材間距離Lは、チップ先端部11aの溶損をさらに抑制する観点から25mm以上、溶着量が過剰になるのをさらに抑制する観点から35mm以下が好ましい。
チップ形状は、図1〜3に示すような直管状、図5〜7に示すようなベンド角材状、あるいは特公昭62−58827公報のFig.3bに示されるような形状でも構わず、ワイヤ送給性と給電位置安定化を確保する観点から適宜選択される。特に、図5〜7に示すような、ワイヤ送給を阻害しない範囲でチップ先端部11aが曲げられたベンド角材状チップでは、給電位置が安定化して、結果としてワイヤ送給速度が安定化する。
チップ角度は、図1〜3、図8〜10、図11〜13に示すように、母材10の表面に対して垂直な線と、ワイヤ12が最終的に溶接チップ11から突出する部分であるチップ先端部11aでの軸線とがなす角度である。そして、チップ角度は、溶接アークによるワイヤの加熱度合を左右し、結果としてワイヤ送給速度を増減させる。具体的には、同じ溶接電流、同じチップ母材間距離Lであれば、チップ角度が前進角β(図2、図9、図12参照)のほうが後退角α(図1、図8、図11参照)よりもワイヤ送給速度が増加する。このため、チップ角度は、後退角αで60°までの範囲、前進角βで60°までの範囲に管理することが、ワイヤ送給速度を安定化させるために好ましい。
電源特性は、垂下特性、定電圧特性いずれでも構わない。ここで、垂下特性とは、アーク長が変動しても、電流の変化が少なく安定した溶接ができる電源の特性のことである。具体的には、アーク長が長くなった場合は、一時的にワイヤの送給速度を速くし、アーク長が短くなった場合はワイヤの送給速度が遅くすることによって、電流を一定に安定化する。電源極性はDCEP、ACいずれでも構わない。
表1に示す化学成分の母材を3種類用意した。この母材について、図4に示すように、板厚tが250mm、溝底の曲率半径Rが10mm、開先角度θが4°の狭開先を機械加工で形成して試験体20とした。
また、表2に示す化学成分の溶接ワイヤを3種類使用した。ワイヤ径は4.0mmφである。また、表3に示す粒度、化学成分、塩基度の溶接フラックスを3種類使用した。
溶接条件は以下のとおりである。また、その他の条件は表4に示す。なお、表中、本発明の範囲を満たさないものは数値に下線を引いて示す。
(溶接条件)
ワイヤ径:4mmφ
溶接チップ:図8〜10に示す先端曲りチップ(ベント角材状チップ)
電極特性:垂下特性
電極極性:ACシングル
溶接姿勢:下向き
積層方法:初層1層1パス
(溶接部の健全性)
溶接終了後、目視、および、溶接ビードのスタート、エンド部を除外した300mmの範囲で50mmごとの断面でマクロ組織を観察して、溶接欠陥(スラグ巻込み、スラグ剥離性、融合不良、溶込み不良など)の有無を確認した。溶接欠陥のない場合を○(良好)、溶接欠陥のある場合×(不良)とした。なお、スラグ剥離性は、溶接終了後のビード表面に付着したフラックスをハンマーで3回たたき、スラグが容易に剥離した場合を○(良好)、剥離しなかった場合を×(不良)と判定した。
溶接ビードのスタート、エンド部を除外した300mmの範囲で、50mmごとの断面でマクロ組織を観察した。計5つの断面全てで、高温割れが発生していない場合を○(良好)、高温割れが発生した場合を×(不良)と判定した。
11 溶接チップ
12 溶接ワイヤ
20 試験体
21 初層
Claims (4)
- ワイヤ送給速度(V)を50〜120g/min、溶接速度(v)を20〜60cm/minとし、前記ワイヤ送給速度と前記溶接速度との比で求める単位長さ当りの溶着量(V/v)を1.8〜4.5g/cmとする条件で溶接することを特徴とする高Cr系CSEF鋼のシングルサブマージアーク溶接方法。
- チップと母材との間の距離は、20〜40mmであることを特徴とする請求項1に記載の高Cr系CSEF鋼のシングルサブマージアーク溶接方法。
- チップ角度は、後退角で0〜60°、前進角で0〜60°であることを特徴とする請求項1または2に記載の高Cr系CSEF鋼のシングルサブマージアーク溶接方法。
- チップの形状は、ベンド角材状チップであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の高Cr系CSEF鋼のシングルサブマージアーク溶接方法。
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