粒子線照射システムの据え付け後の試運転の期間において特許第4299269号公報に記載されたように、HEBT系とGABT系の取り合い部に対するビーム軌道の調整及びGABT系におけるビーム軌道の調整を実施したとしても、粒子線照射システムを用いたイオンビームによる患者の患部の治療が開始されて時間が経過すると、照射装置の中心軸に垂直な平面においてイオンビームがこの中心軸からずれる。このため、治療開始後においても、粒子線照射システムにおいてビーム軌道の調整が必要になる。
粒子線照射システムは、概略、図11に示すように、加速器(例えば、シンクロトロン加速器及びサイクルトロン加速器のいずれか)に接続される、HEBT系15のビーム経路16、GABT系20のビーム経路21及びビーム経路21に接続される照射装置29を有する。GABT系20及び照射装置29は、回転ガントリー(図示せず)に設置されている。ステアリング電磁石HH1及びHH2及びビーム位置モニタHP1及びHP2がビーム経路16に沿って配置される。35は、HEBT系15とGABT系20の取り合い部である。
発明者らは、粒子線照射システムによる患部の治療を開始した後においてイオンビームが照射装置の中心軸からずれた場合でも、ビーム軌道の調整を精度良く行うことができる粒子線照射システムを実現するために種々の検討を行った。
発明者らは、その検討において、患者の治療開始後照射装置29の中心軸に垂直な平面においてイオンビームがこの中心軸からずれる原因が、粒子線照射システムを据え付けている建屋の、竣工後の時間経過によるゆがみ等によってHEBT系15のビーム経路16が変形することにあることを突き止めた。このHEBT系のビーム経路16の変形は、目に見えるほどではなく実際には極めて僅かである。
また、発明者らは、回転ガントリー自体は剛性が高くその支持構造が強固であるため、上記した建屋のゆがみ等の影響を受け難く、回転ガントリーに取り付けられたGABT系20及び照射装置29では上記したゆがみ等に基づいた変形が生じないということも新たに見出した。GABT系20及び照射装置29は建屋のゆがみ等による変形が生じないため、発明者らは、建屋のゆがみ等によりHEBT系15のビーム経路16に変形が生じたときには、取り合い部35においてHEBT系15の出口の中心の位置とGABT系20の入口の中心の位置のずれが生じるだけであることを見出した。HEBT系15のビーム経路16に変形により、ビーム経路16内を通過するイオンビームがGABT系20の入口の中心の位置を通過しなくなる。このため、このイオンビームは、照射装置29内で、照射装置29の中心軸に垂直な平面においてこの中心軸からずれてしまう。
上記の新たに見出した知見を考慮して検討した結果、発明者らは、以下に記載するように、イオンビームの照射による患者への治療を開始後に、建屋のゆがみ等によりHEBT系15のビーム経路16に変形が生じた場合においてもビーム軌道の調整を精度良く行うことができる粒子線照射システムを実現できることを見出した。また、治療開始後におけるビーム軌道の調整であるため、ビーム軌道の調整に要する時間を短縮することが望まれる。このような粒子線照射システムを実現するためには、治療を開始した後におけるビーム軌道の調整では、照射装置のビーム位置モニタで測定されたビーム位置を用いて、特開2011−5096号公報に記載されたようにGABT系のステアリング電磁石に供給する励磁電流(励磁量)を調節するのではなく、HEBT系のステアリング電磁石に供給する励磁電流を調節すればよいのである。
HEBT系とGABT系の取り合い部に対するビーム軌道の調整を説明する前に、HEBT系の構成についてもう少し具体的に説明する。ステアリング電磁石HH1及びHH2は、特許第4299269号公報に記載されるように、それぞれ一対のステアリング電磁石を有する。ステアリング電磁石HH1は、一対のステアリング電磁石として、ビーム経路16に垂直な平面内で水平方向(X方向)におけるイオンビームの位置を調節するX方向ステアリング電磁石、及びその垂直な平面内で水平方向と直交する方向(Y方向)におけるイオンビームの位置を調節するY方向ステアリング電磁石を有する。ステアリング電磁石HH2も、同様に、一対のステアリング電磁石であるX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石を有する。ビーム位置モニタHP1及びHP2のそれぞれも、特許第4299269号公報に記載されるように、一対のビーム位置モニタである、X方向におけるイオンビームの位置を測定するX方向ビーム位置モニタ及びY方向におけるイオンビームの位置を測定するY方向ビーム位置モニタを有する。
粒子線照射システムの据え付け後において粒子線照射システムの試運転の期間において実施される、HEBT系とGABT系の取り合い部35に対するビーム軌道の調整が実施され、さらに、GABT系におけるビーム軌道の調整が実施される。
図11を用いて、その試運転の期間において実施される取り合い部35に対するビーム軌道の調整を説明する。試運転の期間において、イオンビームが加速器からビーム経路16に出射される。ビーム経路16に出射されたイオンビームのX方向及びY方向のそれぞれにおけるビーム位置が、回転ガントリーが任意の或る回転角度まで回転されている状態で、ビーム位置モニタHP1及びHP2のそれぞれによって測定される。ビーム位置モニタHP1及びHP2がそれぞれ配置された位置で測定されたそれらのビーム位置に基づいて、X方向におけるビーム軌道の勾配及びY方向におけるビーム軌道の勾配を求め、さらに、これらの勾配、及びビーム位置モニタHP1が配置された位置でのX方向及びY方向におけるそれぞれのビーム位置に基づいて、取り合い部35におけるビーム経路21の入口でのイオンビームの通過位置を求める。
ビーム経路21の入口でのイオンビームの通過位置がビーム経路21の入口での設定位置からずれているとき、このずれを補償してビーム経路21の入口でのイオンビームの通過位置を設定位置(例えば、ビーム経路21の入口の中心位置)に一致させる、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれに含まれるX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれの励磁電流を算出する。これらのステアリング電磁石に対してそれぞれ算出された上記の励磁電流は、回転ガントリーの前述の任意の或る回転角度での値である。
なお、取り合い部35に対するビーム軌道の調整はイオンビームの設定されたエネルギーごとに実施され、前述の任意の或る回転角度における、設定された各エネルギーに対してステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石に供給される各励磁電流が算出される。このようにして、HEBT系とGABT系の取り合い部35に対するビーム軌道の調整が終了する。
上記した取り合い部35に対するビーム軌道の調整後に、上記の試運転の期間において、GABT系におけるビーム軌道の調整が実施される。このGABT系におけるビーム軌道の調整を、図12を用いて説明する。
図11には図示していないが、粒子線照射システムは、図12に示すように、ステアリング電磁石GH1及びGH2をGABT系20のビーム経路21に沿って配置しており、ビーム位置モニタPRM及びSPMを照射装置29に設置している。ステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれも、一対のステアリング電磁石を有する。ステアリング電磁石GH1は、一対のステアリング電磁石である、ビーム経路21に垂直な平面内で水平方向(X方向)におけるイオンビームの位置を調節するX方向ステアリング電磁石、及びその垂直な平面内で水平方向と直交する方向(Y方向)におけるイオンビームの位置を調節するY方向ステアリング電磁石を有する。ステアリング電磁石GH2も、同様に、一対のステアリング電磁石であるX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石を有する。前述したビーム経路21に垂直な平面内でのX方向及びこのX方向と直交するY方向のそれぞれは、回転ガントリーの回転角度が0°のときにおける方向である。
また、ビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれも、特許第4299269号公報に記載されるように、一対のビーム位置モニタである、X方向におけるイオンビームの位置を測定するX方向ビーム位置モニタ及びY方向におけるイオンビームの位置を測定するY方向ビーム位置モニタを有する。なお、照射装置29におけるX方向及びY方向は照射装置29の中心軸に垂直な平面内での方向である。照射装置29内でのそのX方向は前述したビーム経路16及び21のそれぞれに垂直な各平面内における水平方向(X方向)に対応し、照射装置29内でのそのY方向は前述したビーム経路16及び21のそれぞれに垂直な各平面内における水平方向と直交する方向(Y方向)に対応している。
加速器から出射されたイオンビームは、ビーム経路16及び21を通って照射装置29に達する。照射装置29に取り付けられたビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれは、ビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれが配置された各位置においてイオンビームのX方向及びY方向のそれぞれにおけるビーム位置を測定する。これらの測定されたビーム位置に基づいて、照射装置29内でのX方向及びY方向におけるビーム軌道のそれぞれの勾配を上記した取り合い部35に対するビーム軌道の調整と同様に求める。X方向及びY方向におけるビーム軌道のそれぞれの勾配が0でなく、ビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれが配置された各位置でX方向及びY方向における、照射装置29の中心軸からの変位が0でないとき、各勾配及び各変位がそれぞれ0になる、ステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれに含まれるX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれの励磁電流を算出する。
なお、GABT系におけるビーム軌道の調整は、イオンビームの設定されたエネルギーごとで回転ガントリーの設定された回転角度ごとに実施され、設定された各エネルギーに対して設定された回転角度ごとにステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石に供給される各励磁電流が算出される。このようにして、GABT系におけるビーム軌道の調整が終了する。
試運転時における取り合い部35に対するビーム軌道の調整及びGABT系におけるビーム軌道の調整が実施された後、基準回転角度におけるステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の各励磁電流、基準回転角度におけるビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれの位置でのX方向及びY方向の各ビーム位置、及び設定された回転ガントリーの回転角度ごとの、ステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の各励磁電流のそれぞれの情報が、回転角度テーブルとして、イオンビームの設定されたエネルギーごとに、前述の記憶装置に格納される。
以上に述べた試運転の期間におけるビーム軌道の調整が終了した後、粒子線照射システムを用いた、患者の患部へのイオンビームの照射が行われ、患部の治療が実施される。患者への治療が開始されてから所定の時間が経過したとき、イオンビームの、照射装置29の中心軸からのずれを補償するために、粒子線照射システムにおいてビーム軌道の調整が行われる。
粒子線照射システムを用いた患者の治療が開始された後におけるビーム軌道の調整を、図13を用いて説明する。このビーム軌道の調整において、加速器から出射されたイオンビームがビーム経路16及び21を通って照射装置29に達し、照射装置29内でのイオンビームの位置がビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれによって測定される。このとき、回転ガントリーは前述の任意の或る回転角度まで回転されている。これらのビーム位置モニタで測定されたそれぞれのビーム位置に基づいて求めた、照射装置29内でのX方向及びY方向におけるビーム軌道のそれぞれの勾配が0でなく、ビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれが配置された各位置でX方向及びY方向における、イオンビームの、照射装置29の中心軸からの変位が0でないとき、各勾配及び各変位がそれぞれ0になる、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれの励磁電流を算出する。
なお、治療開始後におけるビーム軌道の調整はイオンビームの設定されたエネルギーごとに実施され、基準回転角度で設定されたエネルギーごとにステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石に供給される各励磁電流が算出される。このようにして、治療開始後におけるビーム軌道の調整が終了する。
ビーム位置モニタPRM及びSPMで測定されそれぞれのビーム位置を用いてHEBT系15に配置されたステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれの励磁電流を算出するので、治療開始後におけるビーム軌道の調整に要する時間を短縮することができる。
以上に述べた検討結果を反映した本発明の各実施例を以下に説明する。
本発明の好適な一実施例である実施例1の粒子線照射システムを、図1〜図4を用いて以下に説明する。
本実施例の粒子線照射システム1は、建屋(図示せず)内に配置されて建屋の床面に設置される。この粒子線照射システム1は、図1に示すように、イオンビーム発生装置2、高エネルギービーム輸送系(HEBT系)15、ガントリービーム輸送系(GABT系)20、回転ガントリー26、照射装置29及び制御システム59を備えている。粒子線照射システム1では、がんの患部(ビーム照射対象)に照射するイオンビームとして、陽子イオンビームが用いられる。陽子イオンビームの替りに炭素イオンビームを用いてもよい。
イオンビーム発生装置2は、イオン源(図示せず)、前段加速器である直線加速器14及びシンクロトロン加速器3を有する。シンクロトロン加速器13は、イオンビームの周回軌道を構成する環状のビームダクト4、入射器5、イオンビームに高周波電圧を印加する高周波加速空胴(高周波加速装置)8、複数の偏向電磁石6、複数の四極電磁石7、出射用の高周波印加装置9、出射用のセプタム電磁石13を有する。ビームダクト4に連絡される入射器5は、真空ダクトにより直線加速器14に接続される。イオン源も直線加速器14に接続される。高周波印加装置9は、出射用高周波電極10、高周波電源11及び開閉スイッチ12を含んでいる。出射用高周波電極10は、環状のビームダクト4に取り付けられ、そして、開閉スイッチ12を介して高周波電源11に接続される。各偏向電磁石6、各四極電磁石7、高周波加速空胴8及びセプタム電磁石13は、図1に示すように、ビームダクト4に沿って配置されている。
図4Aに示すように、各偏向電磁石6、各四極電磁石7及びセプタム電磁石13が別々の電源55に接続される。高周波加速空胴8が高周波電源装置57に接続される。
HEBT系(第1ビーム輸送系)15は、シンクロトロン加速器13のセプタム電磁石13に接続されるビーム経路(ビームダクト)16を有しており、このビーム経路16に沿って、シンクロトロン加速器3から照射装置29に向かって複数の4極電磁石18、偏向電磁石17、複数の4極電磁石19、ステアリング電磁石HH1(第1ステアリング電磁石)、ステアリング電磁石HH2(第2ステアリング電磁石)、ビーム位置モニタHP1(第1ビーム位置測定装置)及びビーム位置モニタHP2(第2ビーム位置測定装置)を配置して構成される。4極電磁石19は、ステアリング電磁石HH1とステアリング電磁石HH2の間にも配置される。ステアリング電磁石HH1及びHH2は、前述したように、X方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石をそれぞれ有する。偏向電磁石17及び四極電磁石18,19が、図4Aに示されるように、別々の電源56に接続される。さらに、ステアリング電磁石HH1が電源58Aに、ステアリング電磁石HH2が電源58Bにそれぞれ接続される。ビーム位置モニタHP1及びHP2のそれぞれは、ステアリング電磁石HH2よりもHEBT系15とGABT20系の取り合い部35側に配置される。
GABT系(第2ビーム輸送系)20は、ビーム経路(ビームダクト)21を有しており、このビーム経路21に沿って、シンクロトロン加速器3から照射装置29に向かって偏向電磁石22、複数の4極電磁石25、ステアリング電磁石GH1(第3ステアリング電磁石)、ステアリング電磁石GH2(第4ステアリング電磁石)、及び偏向電磁石23及び24を配置して構成される。4極電磁石25は、ステアリング電磁石HH1とステアリング電磁石HH2の間にも配置される。ステアリング電磁石GH1及びGH2も、前述したように、X方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石をそれぞれ有する。ビーム経路21は回転ガントリー26に設置されており、偏向電磁石22〜25、複数の4極電磁石25、及びステアリング電磁石GH1及びGH2も回転ガントリー26に設置されている。ビーム経路21は、取り合い部35においてビーム経路16に連絡される。ビーム経路21は回転ガントリー26によって回転されるため、ビーム経路21はビーム経路16に直接接続されてはいない。偏向電磁石22〜24及び四極電磁石25が、図4Aに示されるように、別々の電源56に接続される。さらに、ステアリング電磁石GH1が電源58Cに、ステアリング電磁石GH2が電源58Dにそれぞれ接続される。
照射装置29は、2つの走査電磁石(イオンビーム走査装置)30及び31、ビーム位置モニPRM及びSPM、及び線量モニタ32を備える。照射装置29は、回転ガントリー26に取り付けられ、偏向電磁石24の下流に配置される。走査電磁石30及び31、ビーム位置モニタPRM(第3ビーム位置測定装置)、ビーム位置モニタSPM(第4ビーム位置測定装置)及び線量モニタ32は、この順に、照射装置29のケーシング(図示せず)内において偏向電磁石24から照射装置29の出口に向かって照射装置29の中心軸に沿って配置される。走査電磁石30はイオンビームを照射装置29の中心軸に垂直な平面内において偏向させてX方向に走査し、走査電磁石31はイオンビームをその平面内において偏向させてX方向と直交するY方向に走査する。患者34が横たわる治療台33が、照射装置29に対向するように配置される。
制御システム59は、中央制御装置60、加速器・輸送系制御装置64、ガントリー制御装置73、走査制御装置76及びデータベース81を有する(図1参照)。中央制御装置60は、中央演算装置(CPU)61及びCPU61に接続されたメモリ62を有する。CPU61は照射制御装置93、ビーム軌道調整装置94(第2ビーム軌道調整装置)及びビーム軌道調整装置98(第1ビーム軌道調整装置)を含んでいる(図1参照)。加速器・輸送系制御装置64、ガントリー制御装置73及び走査制御装置76は、CPU61の照射制御装置93、ビーム軌道調整装置94及びビーム軌道調整装置98にそれぞれ接続される。データベース81は照射制御装置93に接続される。粒子線照射システム1は治療計画装置82を有し、治療計画装置82はデータベース81に接続される。
ビーム軌道調整装置94は、図4Bに示すように、軌道調整制御装置95(第2軌道調整制御装置)、励磁電流演算装置63(第2励磁電流演算装置)及びテーブル作成装置96を有する。ビーム軌道調整装置97は、図4Bに示すように、軌道調整制御装置98(第1軌道調整制御装置)、励磁電流演算装置70(第1励磁電流演算装置)及び励磁電流更新装置99を有する。照射制御装置93、軌道調整制御装置95及び98、励磁電流演算装置63及び70、テーブル作成装置96及び励磁電流更新装置99は、メモリ62に接続される。入力装置100が、照射制御装置93、軌道調整制御装置95及び98に接続される(図4B参照)。
ビーム軌道調整装置94によって、粒子線照射システム1の据え付け後の試運転の期間におけるビーム軌道の調整が実施される。ビーム軌道調整装置97によって、粒子線照射システム1による患部の治療が開始された後におけるビーム軌道の調整が実施される。照射制御装置93によって、治療時においてビーム照射対象である患部にイオンビームを照射する制御が実施される。
加速器・輸送系制御装置64は、図4Aに示すように、電磁石制御装置65、高周波電圧制御装置66、出射制御装置67、ビーム位置入力装置68、ステアリング電磁石制御装置69、エネルギー判定装置71及びメモリ72を有する。ガントリー制御装置73は、図4Aに示すように、回転制御装置74、回転角度判定装置75及び回転角度設定装置52を有する。また、走査制御装置76は、図4Aに示すように、照射位置制御装置77、線量判定装置78、層判定装置79及びメモリ80を有する。
照射制御装置93、ビーム軌道調整装置94及びビーム軌道調整装置98と加速器・輸送系制御装置64、ガントリー制御装置73及び走査制御装置76との具体的な接続状態を、図4A及び図4Bを用いて以下に説明する。照射制御装置93は、電磁石制御装置65、高周波電圧制御装置66、出射制御装置67、ステアリング電磁石制御装置69、メモリ72、回転制御装置74、照射位置制御装置77、線量判定装置78、層判定装置79及びメモリ80に、それぞれ、接続される。軌道調整制御装置95は、電磁石制御装置65、高周波電圧制御装置66、出射制御装置67、ビーム位置入力装置68、ステアリング電磁石制御装置69、エネルギー判定装置71、メモリ72、回転制御装置74、回転角度判定装置75及び回転角度設定装置52に、それぞれ、接続される。軌道調整制御装置98は、電磁石制御装置65、高周波電圧制御装置66、出射制御装置67、ビーム位置入力装置68、ステアリング電磁石制御装置69、エネルギー判定装置71、メモリ72及び回転制御装置74に、それぞれ、接続される。ビーム位置入力装置68は、ビーム位置モニタHP1,HP2,PRM及びSPMに接続される。角度検出器28(図2参照)が回転角度判定装置75に接続される。照射位置制御装置77が、電磁石制御装置65、高周波電圧制御装置66、出射制御装置67及びステアリング電磁石制御装置69に接続される。線量判定装置78が出射制御装置67に接続される。線量モニタ32が線量判定装置78に接続される。
回転ガントリー26を、図2及び図3を用いて説明する。回転ガントリー26は、360°の範囲で回転が可能であり、リング状のフロントリング37及びリアリング38を有する円筒状の回転胴36を備える。フロントリング37が建屋の床面43に設置された支持装置39Aによって支持され、リアリング38がその床面43に設置された支持装置39Bによって支持される。支持装置39Aは、ロール支持部材40及び複数のサポートローラ41Aを含む。複数のサポートローラ41Aは、ロール支持部材40に回転可能に取り付けられる。フロントリング37はこれらのサポートローラ41Aで支持される。支持装置39Bも、支持装置39Aと同様に、ロール支持部材40(図示せず)及び複数のサポートローラ41Bを含む。複数のサポートローラ41Bは、ロール支持部材40に回転可能に取り付けられる。リアリング38はこれらのサポートローラ41Bで支持される。回転ガントリー26を回転させる回転装置(例えば、モータ)42が、リアリング38を支持する複数のサポートローラ41Bのうちの一つのサポートローラ41Bの回転軸に連結される。回転ガントリー26の回転角度を測定する角度検出器28が、フロントリング37を支持する複数のサポートローラ41Aのうちの一つのサポートローラ41Aの回転軸に連結される。なお、図1では、角度検出器28がビーム経路21に接触するように図示されているが、これは角度検出器28の配置を模式的に表したものである。
回転胴36の内面に取り付けられた複数の支持部材48によって支持された治療室45が回転胴36内に設けられる。治療室45のフロントリング37側は開放されており、治療室45のリアリング38側は隔壁47によって封鎖されている。照射装置29は、回転胴36に取り付けられて回転胴36の中心に向かって伸びており、治療室45内の治療ケージ49に達している。照射装置29に接続された、GABT系20のビーム経路21は、図2に示すように、リアリング38側に向かって伸びており、回転ガントリー26の外側に位置する取り合い部35においてHEBT系15のビーム経路16に連絡される。なお、回転ガントリー26の中心線27(図1及び図2参照)は、回転ガントリー26の回転中心であり、取り合い部35においてビーム経路21の入口の中心を通る。
治療台33は、図2に示すように、ベッド50、床面43よりも高くなっている治療台取付領域44に設置された三方向駆動機構53、三方向駆動機構53の上に設置された回転駆動機構54、及び回転駆動機構54に取り付けられたベッド50を有する。
本実施例の粒子線照射システム1におけるビーム軌道調整方法を、図5〜図7を用いて説明する。まず、粒子線照射システム1の据え付けが終了した後の試運転の期間におけるビーム軌道調整方法を、図5及び図6を用いて説明する。図5及び図6に示されたステップS1及びS3〜S24の各工程を含む手順を示す第1ビーム軌道調整プログラムは、メモリ62に記憶されている。さらに、メモリ62には、図7に示されたステップS23,S4,S5,S27,S7,S8,S16,S10,S28,S29及びS30の各工程を含む手順を示す第2ビーム軌道調整プログラムも記憶されている。オペレータが入力装置100からビーム軌道調整装置94の軌道調整制御装置95に第1軌道調整開始信号を入力したとき、軌道調整制御装置95は、メモリ62に格納されている、試運転の期間におけるビーム軌道の調整を実施する第1ビーム軌道調整プログラムを選択し、この第1ビーム軌道調整プログラムの手順に基づいて加速器・輸送系制御装置64及びガントリー制御装置73のそれぞれに含まれる各制御装置等に制御指令情報を出力し、試運転の期間におけるビーム軌道の調整が以下のように実施される。
イオン源及び直線加速器を起動する(ステップS1)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した加速器・輸送系制御装置64は、イオン源及び直線加速器14を起動する。イオン源で発生したイオン(例えば、陽子)が直線加速器14に入射され、加速される。直線加速器14から出射された陽子イオンビーム(以下、単に、イオンビームという)は、入射器5を通してシンクロトロン加速器3の環状のビームダクト4に入射される。イオンビームはビームダクト4内を周回する。
イオンビームのエネルギーを設定する(ステップS2)。オペレータが、入力装置100から、シンクロトロン加速器3から出射するイオンビームのエネルギーとして、例えば、最大の250MeVを入力する。このエネルギー「250MeV」は、軌道調整制御装置95に入力され、軌道調整制御装置95においてイオンビームのエネルギーとして設定される。
回転ガントリーを任意の或る回転角度まで回転させる(ステップS3)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した回転制御装置74は、回転装置42を駆動して、取り合い部35に対するビーム軌道の調整を実施する任意の或る回転角度(例えば、270°)まで回転ガントリー26を回転させ、回転ガントリー26はこの角度で保持される。任意の或る回転角度は、回転ガントリー26の回転範囲0°〜360°内の一つの回転角度であり、例えば、0°または10°であってもよい。回転角度判定装置75は、角度検出器28で測定された角度に基づいて回転ガントリー26が270°まで回転したことを確認する。
イオンビームの設定エネルギーに基づいて加速器の電磁石に供給する励磁電流を制御する(ステップS4)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した電磁石制御装置65は、電源55を制御してビームダクト4に沿って配置された偏向電磁石6、四極電磁石6及びセプタム電磁石13のそれぞれに供給される励磁電流を、ステップS2で設定したイオンビームのエネルギー(250MeV)に対応する励磁電流に調節する。
イオンビームの設定エネルギーに基づいてビーム輸送系の電磁石に供給する励磁電流を制御する(ステップS5)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した電磁石制御装置65は、電源56を制御して、ビーム経路16に沿って配置された偏向電磁石17及び四極電磁石18,19等のそれぞれに供給される励磁電流、及びビーム経路21に沿って配置された偏向電磁石22〜24及び四極電磁石25等のそれぞれに供給される励磁電流を、ステップS2で設定したイオンビームのエネルギー(250MeV)に対応する励磁電流に調節する。
ステアリング電磁石に供給する励磁電流を制御する(ステップS6)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力したステアリング電磁石制御装置69は電源58A〜58Dのそれぞれを制御し、励磁電流をステアリング電磁石HH1,HH2,GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石に供給する。
イオンビームの設定エネルギーに基づいて高周波加速空胴に供給する高周波電圧を制御する(ステップS7)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した高周波電圧制御装置66は、高周波電源装置57を制御して高周波加速空胴8に印加する高周波電圧を調節し、ビームダクト4内を周回するイオンビームを設定されたエネルギーである250MeVまで加速する。
加速器からイオンビームを出射する(ステップS8)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した出射制御装置67は開閉スイッチ12を閉じる。このため、高周波電源11からの高周波電圧が出射用高周波電極10からビームダクト4内を周回しているイオンビームに印加される。周回しているイオンビームは、高周波電圧の印加によって、シンクロトロン加速器3からセプタム電磁石13を通ってビーム経路16に出射される。出射されたイオンビームはビーム経路15及び21を通って照射装置29に達する。
HEBT系のビーム位置モニタでビーム位置を測定する(ステップS9)。ビーム経路16に配置されたビーム位置モニタHP1及びHP2のそれぞれが、ビーム経路16内を通過するイオンビームのX方向及びY方向のそれぞれにおけるビーム位置を測定する。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力したビーム位置入力装置68は、ビーム位置モニタHP1及びHP2のそれぞれで測定されたX方向及びY方向のそれぞれのビーム位置を入力し、これらの入力したビーム位置をメモリ72に格納する。
加速器からのイオンビームの出射を停止する(ステップS10)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した出射制御装置67は、開閉スイッチ12を開く。このため、高周波電源11からの高周波電圧の出射用高周波電極10への印加が停止され、シンクロトロン加速器3からビーム経路16へのイオンビームの出射が停止される。
HEBT系のステアリング電磁石の励磁電流を算出する(ステップS11)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した励磁電流演算装置63は、ビーム位置モニタHP1及びHP2のそれぞれによって測定されたX方向及びY方向のそれぞれのビーム位置(メモリ72に格納)を用い、特許第4299269号公報に記載されたステップS20〜S70の各工程(段落0086〜0089及び図4参照)を実施して、変位が0及び勾配が0になるステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれのキック量を求める。ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれのキック量が得られるそれぞれの励磁電流が、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれの励磁電流となる。算出されたこれらの励磁電流は、イオンビームのエネルギー(250MeV)及びステアリング電磁石と対応付けてメモリ72に格納される。
HEBT系のステアリング電磁石の各励磁電流をメモリに格納する(ステップS12)。励磁電流演算装置63は、ステップS11で算出された、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれの250MeVに対する励磁電流の情報を、エネルギー及びそれらのステアリング電磁石のそれぞれと対応付けてメモリ72から中央制御装置60のメモリ62に格納する。
以上に述べたステップS2〜S12の各工程を実施することによって、ステップS2で設定されたエネルギーに関して、取り合い部35に対するビーム軌道の調整が終了する。
試運転の期間におけるビーム軌道調整方法での、GABT系におけるビーム軌道の調整を、以下に説明する。GABT系におけるビーム軌道の調整では、回転ガントリー26が0°〜360°の範囲で所定の角度(例えば、1°)ごとに回転される。
回転ガントリーを新たな設定回転角度まで回転する(ステップS13)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した回転制御装置74は、回転装置42を駆動して回転ガントリー26を新たな設定回転角度、例えば、0°まで回転させる。回転ガントリー26が0°まで回転したことは、角度検出器28で測定された角度を入力する回転角度判定装置75によって確認される。
ステアリング電磁石に供給する励磁電流を制御する(ステップS14)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力したステアリング電磁石制御装置69は、ステップS10で算出されてメモリ72に格納された、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれの250MeVに対する励磁電流がこれらのステアリング電磁石に供給されるように、電源58A及び58Bのそれぞれを制御する。この結果、ステップS10で算出された電流値の各励磁電流が、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれに供給される。なお、ステアリング電磁石制御装置69による電源58C及び58Dの制御によって、励磁電流がステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれに供給される。
ステップS15がステップS8と同様に実施され、シンクロトロン加速器3からビーム経路16に出射されたイオンビームがビーム経路21を通って照射装置29に達する。ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石に供給される各励磁電流がステップ14のように制御されるため、ビーム経路16を通るイオンビームが、ビーム経路21の入口の設定位置である中心位置を通過する。
照射装置のビーム位置モニタでビーム位置を測定する(ステップS16)。照射装置29に取り付けられたビーム位置モニタPRM及びSRMのそれぞれが、照射装置29の中心軸に沿って通過するイオンビームのX方向及びY方向のそれぞれのビーム位置を測定する。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力したビーム位置入力装置68は、ビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれによって測定された、X方向及びY方向のそれぞれのビーム位置を入力し、これらの入力したビーム位置をメモリ72に格納する。その後、ステップS17がステップS10と同様に実施され、シンクロトロン加速器3からビーム経路16へのイオンビームの出射が停止される。
GABT系のステアリング電磁石の励磁電流を算出する(ステップS18)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した励磁電流演算装置63は、ビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれによって測定されたX方向及びY方向のそれぞれのビーム位置(メモリ72に格納)を用い、特許第4299269号公報に記載されたステップS110〜S160の各工程(段落0093〜0096及び図4参照)を実施して、照射装置29の中心軸からのビーム位置の変位が0、及び勾配が0になるステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれのキック量を求める。ステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれのキック量が得られるそれぞれの励磁電流が、ステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれの励磁電流GH1X、GH1Y、GH2X及びGH2Yとなる。算出されたこれらの励磁電流は、イオンビームのエネルギー(例えば、250MeV)、回転ガントリー26の回転角度(例えば、0°)及びステアリング電磁石と対応付けてメモリ72に格納される。
GABT系のステアリング電磁石の各励磁電流をメモリに格納する(ステップS19)。励磁電流演算装置63は、ステップS18で算出された、ステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれの250MeVに対する励磁電流の情報を、回転ガントリー26の回転角度及びそれらのステアリング電磁石のそれぞれと対応付けてメモリ72から中央制御装置60のメモリ62に格納する。
GABT系におけるビーム軌道の調整が回転ガントリーの回転角度の全範囲で終了したかを判定する(ステップS20)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した回転角度判定装置75は、GABT系20におけるビーム軌道の調整が回転ガントリー26の回転角度の全範囲において終了したかを判定する。回転角度0°におけるそのビーム軌道の調整が終了したので、ステップS20の判定は「No」である。なお、本実施例では、回転ガントリー26の回転角度の全範囲として0°〜360°が設定されており、この回転角度の全範囲はメモリ62に格納されている。また、180°の範囲で回転が可能な回転ガントリーでは、回転角度の全範囲は0°〜180°となる。
新たな回転角度を設定する(ステップS21)。回転角度設定装置52は、例えば、回転角度0.5°を新たな回転角度として設定する。ステップS13において、回転制御装置74は、ステップS3と同様に、回転装置42を駆動し、回転ガントリー26を新たな設定回転角度(例えば、0.5°)まで回転させる。その後、ステップS14〜S20の各工程が実施される。しかし、ステップS20の判定が「No」になるため、ステップS21及びS13〜S20の各工程が、回転ガントリー26の回転角度が360°になるまで設定回転角度を0.5°ずつ増加させながら繰り返し実施される。360°の設定回転角度でステップS13〜S19の各工程が実施されたとき、ステップS20の判定が「Yes」となる。ステップS20の判定が「Yes」になったとき、一つの設定エネルギー(例えば、250MeV)における、回転ガントリー26の回転角度の全範囲(0°〜360°)での設定回転角度(例えば、0.5°)ごとのGABT系20におけるビーム軌道の調整が終了する。
回転角度テーブルを作成する(ステップS22)。ステップS20の判定が「Yes」になったとき、テーブル作成装置96は、メモリ62に格納されているステップS18で求められた、回転ガントリー26の回転角度ごとの励磁電流GH1X、GH1Y、GH2X及びGH2Yを用いて、250MeVに対する回転角度テーブルを作成する。なお、220MeVに対する回転角度テーブルの例を図8に示す。250MeVに対して作成された回転角度テーブルは、回転ガントリー26の回転角度0°〜360°の範囲内で0.5°ごとの、ステアリング電磁石GH1のX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の励磁電流GH1X及びGH1Y及びステアリング電磁石GH2のX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の励磁電流GH2X及びGH2Yを含んでいる。
回転ガントリーを基準回転角度まで回転させる(ステップS23)。基準回転角度は、360°の範囲で回転可能な回転ガントリーに対しては、例えば、270°であり、180°の範囲で回転可能な回転ガントリーに対しては90°である。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した回転制御装置74は、回転装置42を駆動して、取り合い部35に対するビーム軌道の調整を実施する基準回転角度、例えば、270°まで回転ガントリー26を回転させ、回転ガントリー26はこの角度で保持される。
図示されていないが、ステップS23の工程が終了した後、ステップS15が実施される。このステップS15では、ステップS8と同様に、シンクロトロン加速器3からイオンビームが出射される。このイオンビームは照射装置29に達する。
照射装置のビーム位置モニタでビーム位置を測定する(ステップS24)。回転ガントリー26が270°まで回転された状態で、ステップS16と同様に、ビーム位置モニタPRM及びSRMのそれぞれが、照射装置29の中心軸に沿って通過するイオンビームのX方向及びY方向のそれぞれのビーム位置を測定する。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力したビーム位置入力装置68は、ビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれによって測定された、X方向及びY方向のそれぞれのビーム位置PRMX、PRMY、SPMX及びSPMYを入力し、これらのビーム位置をメモリ72に格納する。その後、ビーム位置PRMX、PRMY、SPMX及びSPMYがメモリ72からメモリ62に格納される。ステップS24で測定されたビーム位置PRMX、PRMY、SPMX及びSPMYは、ビーム軌道調整用の目標ビーム位置として、250MeVの回転角度テーブルに含まれる、回転角度270°(基準回転角度)に対応してメモリ62に格納される(図8参照)。さらに、ステップS11で求められた、250MeVでのステアリング電磁石HH1のX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の励磁電流HH1X、HH1Y、HH2X及びHH2Yも、250MeVの回転角度テーブルと共にメモリ62に格納される(図8参照)。
ステップS24の工程が終了した後、ステップS17が実施される。このステップS17では、ステップS10と同様に、シンクロトロン加速器3からビーム経路16へのイオンビームの出射が停止される。
以上により、粒子線照射システム1の試運転の期間における、250MeVでのビーム軌道の調整が終了する。
次に、ステップS2で、オペレータが、入力装置100から、シンクロトロン加速器3から出射するイオンビームのエネルギーとして、250MeVよりも1MeV小さい、例えば、最大の249MeVを入力する。このステップS2では、入力装置100から入力された249MeVが軌道調整制御装置95においてイオンビームの新たなエネルギーとして設定される。
この新たな設定エネルギー(249MeV)に対しても、ステップS3〜S12の各工程(HEBT系15とGABT系20の取り合い部35に対するビーム軌道の調整)が前述したように実施され、そして、ステップS13〜S21の各工程(GABT系20におけるビーム軌道の調整)が、ステップS20の判定が「Yes」になるまで前述したように実施される。ステップS20の判定が「Yes」になるまでステップS13〜S21の各工程が繰り返されることにより、249MeVを対象にして、回転ガントリー26の回転角度0°〜360°の範囲内で0.5°ごとに、ステアリング電磁石GH1のX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の励磁電流GH1X及びGH1Y及びステアリング電磁石GH2のX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の励磁電流GH2X及びGH2Yが算出される。
さらに、ステップS20の判定が「Yes」になった後に、前述したステップS22(回転角度テーブルの作成)、ステップS23(回転ガントリーの基準回転角度への回転)、ステップS15(イオンビームの出射)、スッテプS24(照射装置内でのビーム位置の測定)及びステップS17(イオンビームの出射停止)が順次実施される。ステップS22では、249MeVに対する回転角度テーブルが作成される。スッテプS24で測定された、照射装置29内でのビーム位置PRMX、PRMY、SPMX及びSPMYは、ビーム軌道調整用の目標ビーム位置として、249MeVの回転角度テーブルに含まれる、回転角度270°(基準回転角度)に対応してメモリ62に格納される。ステップS11で求められた、249MeVでの励磁電流HH1X、HH1Y、HH2X及びHH2Yも、249MeVの回転角度テーブルと共にメモリ62に格納される。
以上により、粒子線照射システム1の試運転の期間における、249MeVでのビーム軌道の調整が終了する。
その後、ステップS2において、248MeVから150MeVまで1MeVごとに低下させた各イオンビームのエネルギーを入力装置100から入力して各イオンビームのエネルギーを設定しながら、248MeV〜150MeVの範囲で1MeVずつ減少させながら、ステップS3〜S12の各工程、ステップS13〜S21の各工程、ステップS22、ステップS23、ステップS15、スッテプS24及びステップS17の各工程が繰り返し実施される。
この結果、150MeV〜250MeVの範囲内で1MeVごとに作成された各回転角度テーブルの情報は、メモリ62に格納される。このようなエネルギーごとに作成された回転テーブル情報は、該当するエネルギーでの励磁電流HH1X、HH1Y、HH2X及びHH2Y、及びビーム軌道調整用の目標ビーム位置であるPRMX、PRMY、SPMX及びSPMYと対応付けてメモリ62に格納されている。図8に示された、回転ガントリー26の回転角度0°〜360°の範囲内で0.5°ごとの、ステアリング電磁石GH1のX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の励磁電流GH1X及びGH1Y及びステアリング電磁石GH2のX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の励磁電流GH2X及びGH2Yをそれぞれ含む回転角度テーブルは、エネルギーが220MeVのときの回転角度テーブルである。図8には、エネルギーが220MeVのときの励磁電流HH1X、HH1Y、HH2X及びHH2Y、及びビーム軌道調整用の目標ビーム位置であるPRMX、PRMY、SPMX及びSPMYも併せて示されている。図9は、回転ガントリー26の回転角度が270°のときの、ステップ16で測定された、設定エネルギーごとのビーム位置PRMX、PRMY、SPMX及びSPMYを示している。
以上で、粒子線照射システム1の試運転の期間におけるビーム軌道の調整が終了する。
ビーム軌道の調節が全て終了した後、ビーム軌道が調整された粒子線照射システム1を用いて治療台33のベッド50上に横たわっている患者34の患部にイオンビームを照射し、患部の治療が行われる。この治療の詳細については後述する。
次に、粒子線照射システム1によるがんの治療が開始されてから或る期間が経過したとき、建屋のゆがみ等によりHEBT系15のビーム経路16に変形により、粒子線照射システム1のビーム軌道が変化し、イオンビームの患部への照射が精度良く実施できない恐れがある。このため、粒子線照射システム1を停止した状態で定期的に粒子線照射システム1のビーム軌道の調整が実施される。このビーム軌道の調整を、図7を用いて説明する。オペレータが入力装置100からビーム軌道調整装置97の軌道調整制御装置98に第2軌道調整開始信号を入力したとき、軌道調整制御装置98は、メモリ62に格納されている、治療開始後におけるビーム軌道の調整を実施する第2ビーム軌道調整プログラムを選択し、この第2ビーム軌道調整プログラム(図7参照)の手順に基づいて制御指令情報を加速器・輸送系制御装置64及びガントリー制御装置73のそれぞれに含まれる各制御装置等に出力する。このため、治療開始後におけるビーム軌道の調整が以下のように実施される。
図7に図示されていないが、取り合い部35に対するビーム軌道の調整と同様に、ステップS1(イオン源及び直線加速器14の起動)が実施される。図7に示されたステップS23,S2,S4及びS5の各工程が実施される。ステップS23では、回転ガントリー26が、図6に示されたステップ23と同様に、制御指令情報を入力した回転制御装置74により基準回転角度である270°まで回転される。以後、回転ガントリー26は基準回転角度270°に保持される。ステップS2では、前述の試運転の期間におけるビーム軌道の調整と同様に、オペレータが入力装置100から入力されたイオンビームのエネルギー(250MeV)が設定される。ステップS4及びS5の各工程は、軌道調整制御装置98から制御指令情報を入力した電磁石制御装置65のそれぞれの制御によって、取り合い部35に対するビーム軌道の調整におけるステップS4及びS5の各工程(図5参照)と同様に実施される。
ステアリング電磁石に供給する励磁電流を制御する(ステップS27)。軌道調整制御装置98から制御指令情報を入力したステアリング電磁石制御装置69は、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の各励磁電流を、メモリ62に格納された250MeVに対する励磁電流HH1X、HH1Y、HH2X及びHH2Yに調節する。さらに、ステアリング電磁石制御装置69は、ステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の各励磁電流を、メモリ62に格納された250MeVの回転角度テーブルの、回転角度270°における励磁電流GH1X、GH1Y、GH2X及びGH2Yに調節する。
その後、ステップS7及びS8の各工程が、軌道調整制御装置98から制御指令情報を入力した高周波電圧制御装置66及び出射制御装置67のそれぞれの制御によって、順次実施される。250MeVのイオンビームがシンクロトロン加速器3からビーム経路16に出射され、このイオンビームがビーム経路21を通って照射装置29に到達する。
照射装置のビーム位置モニタでビーム位置を測定する(ステップS16)。試運転の期間におけるビーム軌道の調整で実施されるステップS16と同様に、ビーム位置入力装置68が、ビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれによって測定された、X方向及びY方向のそれぞれのビーム位置PRMX,PRMY,SPMX及びSPMYを入力し、これらの入力したビーム位置をメモリ72に格納する。その後、ステップS10が実施され、シンクロトロン加速器3からビーム経路16へのイオンビームの出射が停止される。
HEBT系のステアリング電磁石の励磁電流を算出する(ステップS28)。軌道調整制御装置98から制御指令情報を入力した励磁電流演算装置70は、ビーム位置モニタPRM及びSPMのそれぞれによって測定されたX方向及びY方向のそれぞれのビーム位置がメモリ62に格納された250MeVに対するビーム軌道調整用の目標ビーム位置になるように、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれのキック量を求める。ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれのキック量が得られるそれぞれの励磁電流が、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれの励磁電流となる。求められた励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yは、エネルギー及びステアリング電磁石と対応付けてメモリ62に格納される。なお、ステップS28におけるHEBT系の各ステアリング電磁石の励磁電流の算出は、ビーム位置モニタPRM及びSPMで測定された各ビーム位置を用いてステップS18と同様に行われる。
ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれの励磁電流を更新する(ステップS29)。励磁電流更新装置99が、ステップS28で算出された、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の250MeVに対する励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yの各情報を用いて、メモリ62に格納されている250MeVに対するステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれの各励磁電流を更新する。このとき、メモリ62に格納されている、エネルギーごとの回転角度テーブル情報及びビーム軌道調整用の目標ビーム位置は、更新されない。すなわち、メモリ62に格納されている、各エネルギーに対する励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Y、回転ガントリー26の回転角度ごとの励磁電流GH1X,GH1Y,GH2X及びGH2Y、及び目標ビーム位置PRMX、PRMY、SPMX及びSPMYのうち励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yのみが更新される。
以上で一つのエネルギー(250MeV)に対する、粒子線照射システム1によるがん治療の開始後におけるビーム軌道の調整が終了する。その後、ステップS2において、249MeVから150MeVまで1MeVごとに低下させた各イオンビームのエネルギーを入力装置100から入力して各イオンビームのエネルギーを設定しながら、249MeV〜150MeVの範囲で1MeVずつ減少させながら、ステップS4、S5,S27,S7,S8,S16,S10,S28及びS29の各工程が繰り返し実施される。150MeVに対するステップS29の工程が終了したとき、がんの治療が開始された後で実施される粒子線照射システム1のビーム軌道の調整が終了する。なお、以上に述べたがんの治療が開始された後で実施される粒子線照射システム1のビーム軌道の調整は、前述したように定期的に実施され、ステップS16でビーム位置モニタPRM及びSRMにより測定されたそれぞれのビーム位置が、ビーム軌道調整用の目標ビーム位置からずれていない場合でも実施される。
がん治療の開始後における粒子線照射システム1のビーム軌道の調整が終了した後における、粒子線治療システム1を用いた患部へのイオンビームの照射方法を、図10を用いて以下に説明する。このイオンビームの照射方法に関する図10に示されたステップS1、S31〜S38、S7,S39,S9,S40及びS41の各工程を含む手順を示すプログラムは、メモリ62に記憶されている。オペレータが入力装置100から照射制御装置93に治療開始信号を入力したとき、照射制御装置93はこの手順に基づいて制御指令情報を加速器・輸送系制御装置64及びガントリー制御装置73のそれぞれに含まれる各制御装置等に出力する。このため、イオンビームを用いた患部の治療が以下のように実施される。
イオンビームを照射してがんの患部を治療する患者34ごとの治療計画データが、治療前に治療計画装置82を用いて作成される。この治療計画データは、患者の識別番号、患者の体表面から深さ方向に分割された、患部の層の数、層ごとに照射されるイオンビームのエネルギー、イオンビームの照射方向、各層におけるイオンビームの照射位置及び各層内の各照射位置に対するイオンビームの照射量等のデータを含んでおり、データベース81に記憶される。照射制御装置93は、入力された患者識別情報を用いて、これから治療を行う患者34に関する治療計画データをデータベース81から読み込み、メモリ62に格納する。
まず、患者34が横たわっている治療台33のベッド50を移動させ、患者34の、ビーム照射対象である患部を照射装置29の中心軸の延長線上に位置決めする。
イオン源及び直線加速器が起動され(ステップS1)、イオン源で発生したイオン(例えば、陽子(または炭素イオン))が直線加速器14に入射され、加速されて直線加速器14から出射されたイオンビームはシンクロトロン加速器3の環状のビームダクト4に入射される。
照射装置の中心軸をイオンビームの照射方向に設定する(ステップS31)。照射制御装置93から制御指令情報を入力した回転制御装置71は、回転装置42を駆動して回転ガントリー26を回転させ、照射装置29の中心軸をメモリ62から読み込んだ、患者34に対する治療計画データであるイオンビームの照射方向に一致させる。
イオンビームを照射する一つの層を設定する(ステップS32)。照射制御装置93から制御指令情報を入力した照射位置制御装置77は、患部内のイオンビームを照射する一つの層を設定する。照射位置制御装置77によるこの層の設定では、メモリ62に格納された、患部を分割した複数の層の情報に基づいて、最も深い位置に存在する層が設定される。さらに、照射位置制御装置77は、設定された層に照射されるイオンビームのエネルギー情報(例えば、220MeV)をメモリ62に格納された治療計画データから検索し、このエネルギー情報を電磁石制御装置65、ステアリング電磁石制御装置69及び高周波電圧制御装置66に出力する。
加速器の電磁石に供給する励磁電流を制御する(ステップS33)。照射制御装置93から制御指令情報を入力した電磁石制御装置65は、電源55を制御して偏向電磁石6、四極電磁石6及びセプタム電磁石13のそれぞれに供給される励磁電流を、220MeVに対応する励磁電流に調節する。
ビーム輸送系の電磁石に供給する励磁電流を制御する(ステップS34)。照射制御装置93から制御指令情報を入力した電磁石制御装置65は、電源56を制御して、HEBT系15及びGABT系20のそれぞれの偏向電磁石及び四極電磁石に供給される励磁電流を、220MeVに対応する励磁電流に調節する。
ステアリング電磁石HH1,HH2に供給する励磁電流を制御する(ステップS35)。照射制御装置93から制御指令情報を入力したステアリング電磁石制御装置69は、電源58A及び58Bのそれぞれを制御し、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石に供給される各励磁電流を、メモリ62に格納された、220MeVに対応する更新された励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yに調節する。
ステアリング電磁石GH1,GH2に供給する励磁電流を制御する(ステップS36)。ステアリング電磁石制御装置69は、さらに、電源58C及び58Dのそれぞれを制御し、ステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石に供給される各励磁電流を、220MeVの回転角度テーブルに含まれる励磁電流GH1X,GH1Y,GH2X及びGH2Yに調節する。
高周波加速空胴に供給する高周波電圧を制御する(ステップS37)。照射制御装置93から制御指令情報を入力した高周波電圧制御装置66は、220MeVに基づいて高周波電源装置57を制御して高周波加速空胴8に印加する高周波電圧を調節し、ビームダクト4内を周回するイオンビームを220MeVまで加速する。
走査電磁石を制御し、設定された層内でイオンビームの照射位置を設定する(ステップS38)。照射制御装置93から制御指令情報を入力した照射位置制御装置77は、設定された層内での照射位置の情報に基づいて走査電磁石30及び31のそれぞれに供給される励磁電流を制御し、イオンビームを目標であるその照射位置に照射するように、走査電磁石30及び31のそれぞれに偏向磁場を発生させる。走査電磁石30で発生した偏向磁場が、X方向において、イオンビームの照射位置を目標照射位置に合わせ、走査電磁石31で発生した偏向磁場が、Y方向において、イオンビームの照射位置を目標照射位置に合わせる。
ステップS7において、照射位置制御装置77は、イオンビームの照射位置を設定した後、イオンビーム照射開始信号を出射制御装置67に出力する。このとき、出射制御装置67は開閉スイッチ12を閉じるため、シンクロトロン加速器3からビーム経路16にイオンビームが出射される。
照射位置での照射線量が目標線量に一致したかを判定する(ステップS39)。目標の照射位置への照射線量が線量モニタ32で測定される。測定された照射線量を線量モニタ32から入力した線量判定装置78は、測定された照射線量が目標の照射線量に達したかを判定する。測定された照射線量が目標の照射線量に一致していないとき、ステップS37の判定は「No」となり、測定された照射線量が目標の照射線量に一致してステップS37の判定が「Yes」になるまでステップS7及びステップS37の各工程が繰り返して実施される。ステップS37の判定が「Yes」になったとき、線量判定装置78は、出射制御装置67にビーム出射停止信号を出力する。
ステップS9において、ビーム出射停止信号を入力した出射制御装置67が開閉スイッチ12を開くため、シンクロトロン加速器3からのイオンビームの出射が停止される。
設定された層内へのイオンビームの照射が終了かを判定する(ステップS40)。或る照射位置へのイオンビームの照射が終了したとき、照射制御装置93から制御指令情報を入力した層判定装置79は、設定された層内へのイオンビームの照射が終了かを判定する。設定された層内に未照射の照射位置が存在してステップS38の判定が「No」になったとき、ステップS38,S7,S39,S9及びS40の各工程が、ステップS40の判定が「Yes」になるまで、その層内の未照射の照射位置ごとに繰り返し実施される。
ステップS40の判定が「Yes」になったとき、全ての層へのイオンビームの照射が終了したかを判定する(ステップS41)。層判定装置79が、全ての層へのイオンビームの照射が終了したかを判定する。イオンビームの照射が行われていない層が残っているため、ステップS41の判定は、「No」になり、ステップS32〜S38,S7,S39,S9,S40及びS41の各工程が、再度順次実行される。このとき、ステップS32では、2番目に深い位置にある層が設定される。この層に照射されるイオンビームに必要なエネルギーは、219MeVである。さらに、ステップS35では、ステアリング電磁石制御装置69による制御により、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれに供給される励磁電流が、219MeVに対する、ステップS29で更新された励磁電流HH1X、HH1Y、HH2X及びHH2Yに調節される。ステップS36では、ステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれに供給される各励磁電流が、219MeVの回転角度テーブルに含まれる励磁電流GH1X,GH1Y,GH2X及びGH2Yに調節される。
再度実施されたステップS41の判定は「No」であるため、患部の最も浅い層に対するステップS41の判定が「Yes」になるまで、その最も浅い層に向かって層ごとに、イオンビームのエネルギーを1MeVずつ減少させながらステップS32〜S38,S7,S39,S9,S40及びS41の各工程が繰り返し実施される。ステップS40の判定が「Yes」になったとき、イオンビームを用いた患部の治療が終了する。
本実施例では、経年変化による建屋のゆがみ等の影響を受けない照射装置29内に配置されたビーム位置モニタPRM及びSPMによって、照射装置29内における各ビーム位置を測定し、測定されたこれらのビーム位置を用いて、HEBT系15とGABT系20の取り合い部35よりも上流に位置するステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石の励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yをそれぞれ算出する。このため、治療開始後におけるビーム軌道の調整に要する時間を短縮することができる。特に、本実施例では、治療開始後におけるビーム軌道の調整において、回転ガントリー26の回転角度を一つの回転角度である基準回転角度に保持した状態で、ビーム位置モニタPRM及びSPMにより照射装置29内における各ビーム位置を測定し、励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yを算出するため、ビーム軌道の調整に要する時間をさらに短縮することができる。
特に、走査電磁石30及び31を有して患部の形状に合わせてイオンビームを走査することができる粒子線治療システム1では、イオンビームの照射方向において複数に分割された患部の各層に対してイオンビームを照射するため、イオンビームのエネルギーを変える必要がある。この結果、治療後におけるビーム軌道の調整もエネルギーごとに行わなければならない。しかしながら、本実施例では、ビーム位置モニタPRM及びSPMによって測定された各ビーム位置を用いて励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yを算出するため、回転ガントリー26の回転角度を変えずに、イオンビームのエネルギーごとに励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yを算出すればよいので、治療開始後におけるビーム軌道の調整に要する時間を著しく短縮することができる。
もし、治療開始後におけるビーム軌道の調整において、前述したように、特許第4299269号公報の段落0093〜0096に記載された手法で、回転ガントリー26に取り付けられたステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれの励磁電流を算出する場合には、回転ガントリー26を所定角度で回転させ、その所定角度ごとにビーム位置モニタPRM及びSPMによって測定された各ビーム位置を用いてそれらの励磁電流を算出しなければならない。しかし、本実施例は、ビーム位置モニタPRM及びSPMによって測定された各ビーム位置を用いて、取り合い部35よりも上流に位置するステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれの励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yを算出するので、回転ガントリー26を所定角度で回転させ、その所定角度ごとにこれらの励磁電流を算出する必要がない。
本実施例の治療開始後におけるビーム軌道の調整を行った後に、イオンビームの照射による患部の治療を行う場合には、治療開始後におけるビーム軌道の調整において算出された励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yになるように、加速器・輸送系制御装置64のステアリング電磁石制御装置69により、ステアリング電磁石HH1のX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石、及びステアリング電磁石HH2のX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれに供給される励磁電流が制御される。この結果、建屋のゆがみ等によりHEBT系15のビーム経路16に変形が生じ、取り合い部35においてHEBT系15の出口の中心の位置とGABT系20の入口の中心(ビーム経路21の入口の中心)の位置のずれたとしても、シンクロトロン加速器3からビーム経路16に出射されたイオンビームは、ビーム経路21の入口の中心を通過し、照射装置29内においてその出射されたイオンビームのエネルギーに対応する目標ビーム位置PRMX、PRMY、SPMX及びSPMYを通過する。このように、本実施例の治療開始後におけるビーム軌道の調整を実施することにより、建屋にゆがみ等が生じてHEBT系15のビーム経路16に変形が生じた場合においても、患部へのイオンビームの照射を精度良く行うことができる。
治療開始後におけるビーム軌道の調整時に、ステップS28において算出された励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yは、イオンビームのエネルギーに対応させて更新され、メモリ62に格納される。このため、治療開始後におけるビーム軌道の調整を行った後の或る期間における、イオンビームの照射による患部の治療に際して、その算出された励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yを用いてステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれに供給される励磁電流を制御することができる。
粒子線照射システム1による治療開始後において、経年変化により建屋等のゆがみが生じた場合には、HEBT系15のビーム経路16とGABT系20のビーム経路21の取り合い部35においてビーム経路16の出口の中心とビーム経路21の入口の中心の間に若干のずれが生じるが、回転ガントリー26自体は剛性が高くしかもその支持構造が強固であるため、建屋等のゆがみにより、回転ガントリー26に変形が生じない。このため、GABT系20のビーム経路21及び照射装置29にも変形が生じない。
それ故に、粒子線照射システム1の試運転の期間において実施されたビーム軌道の調整時に作成してメモリ62に格納されている、エネルギーごとの回転角度テーブル情報に含まれる励磁電流GH1X、GH1Y、GH2X及びGH2Yを用いて、治療開始後におけるビーム軌道の調整時において回転ガントリー26に取り付けられたステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれのX方向ステアリング電磁石及びY方向ステアリング電磁石のそれぞれの励磁電流を調節することができる。このため、治療開始後におけるビーム軌道の調整時において、回転ガントリー26の設定角度ごとにステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれの励磁電流を算出すること、及びこれらを算出するために、回転ガントリー26の設定角度ごとに照射装置29内の各ビーム位置をビーム位置モニタPRM及びSPMにより測定することが不要になり、治療開始後におけるビーム軌道の調整が非常に簡略化され、このビーム軌道の調整に要する時間を著しく短縮することができる。
メモリ62に格納されている、エネルギーごとの回転角度テーブル情報に含まれる励磁電流GH1X、GH1Y、GH2X及びGH2Yは、粒子線照射システム1を用いて患部の治療を行うときの、ステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれの励磁電流の調節にも用いることができる。
本実施例によれば、治療開始後におけるビーム軌道の調整において、メモリ62に格納されている、エネルギーごとの回転角度テーブル情報に含まれる前述の励磁電流GH1X、GH1Y、GH2X及びGH2Y、及び各エネルギーの回転角度テーブル情報に対応付けられてメモリ62に格納されている目標ビーム位置PRMX、PRMY、SPMX及びSPMYを用いて、各エネルギーに対応する、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれの励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yを算出するので、治療開始後におけるビーム軌道の調整を精度良く行うことができる。
本発明の他の好適な実施例である実施例2の粒子線照射システムを、図14、図15及び図16を用いて以下に説明する。本実施例の粒子線照射システム1Aは、実施例1の粒子線照射システム1の制御システム59を制御システム59Aに替えた構成を有する。粒子線照射システム1Aの他の構成は実施例1の粒子線照射システム1と同じである。制御システム59AはCPU61A及びメモリ62を有する中央制御装置60A及び加速器・輸送系制御装置64Aを有しており、中央制御装置60A及び加速器・輸送系制御装置64A以外の構成は制御システム59と同じである。
さらに、CPU61Aは、CPU61において、ビーム軌道調整装置94をビーム軌道調整装置94Aに及びビーム軌道調整装置97をビーム軌道調整装置97Aにそれぞれ替えた構成を有する。ビーム軌道調整装置94Aはビーム軌道調整装置94において軌道調整制御装置95を軌道調整制御装置95Aに替えた構成を有し、ビーム軌道調整装置97Aはビーム軌道調整装置97において軌道調整制御装置98を軌道調整制御装置98Aに替えた構成を有する(図16参照)。CPU61Aの他の構成はCPU61と同じであり、ビーム軌道調整装置94Aの他の構成はビーム軌道調整装置94と同じであり、ビーム軌道調整装置97Aの他の構成はビーム軌道調整装置97と同じである。
加速器・輸送系制御装置64Aは、実施例1で用いられる加速器・輸送系制御装置64にエネルギー設定装置51を追加した構成を有する。加速器・輸送系制御装置64Aの他の構成は加速器・輸送系制御装置64と同じである。エネルギー設定装置51は、軌道調整制御装置95A及び97Aにそれぞれ接続される。
本実施例の粒子線照射システム1Aにおけるビーム軌道調整方法を、図5、図17及び図18を用いて説明する。まず、粒子線照射システム1Aの据え付けが終了した後の試運転の期間におけるビーム軌道調整方法を、図5及び図17を用いて説明する。図5及び図17に示されたステップS1〜S26の各工程を含む手順を示す第3ビーム軌道調整プログラムは、メモリ62に記憶されている。軌道調整制御装置95Aで実施されるその手順は、実施例1において軌道調整制御装置95で実施される図5及び図6に示されたステップS1〜S24にステップS25及びS26を追加した手順になっている。さらに、メモリ62には、図18に示されたステップS23,S2,S4,S5,S27,S7,S8,S16,S25,S26,S10,S28及びS29の各工程を含む手順を示す第4ビーム軌道調整プログラムも記憶されている。
オペレータが入力装置100からビーム軌道調整装置94Aの軌道調整制御装置95Aに第1軌道調整開始信号を入力したとき、軌道調整制御装置95Aは、メモリ62に格納されている、試運転の期間におけるビーム軌道の調整を実施する第3ビーム軌道調整プログラムを選択し、この第3ビーム軌道調整プログラムの手順に基づいて制御指令情報を加速器・輸送系制御装置64A及びガントリー制御装置73のそれぞれに含まれる各制御装置等に出力する。このため、試運転の期間におけるビーム軌道の調整が以下のように実施される。
取り合い部35に対するビーム軌道の調整を行うステップS1,S3〜S12の各工程(図5参照)は、軌道調整制御装置95Aからの制御指令情報を入力した、実施例1と同様な各制御装置によって実施される。なお、ステップS1とステップS3の間で実施されるステップS2(イオンビームのエネルギー設定)では、実施例1とは異なり、軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力したエネルギー設定装置51によりシンクロトロン加速器3から出射するイオンビームのエネルギーが、例えば、最大の250MeVに自動的に設定される。ステップS3では、回転ガントリー26が任意の或る回転角度(例えば、270°)まで回転される。
ステップS12が終了した後、試運転の期間におけるGABT系におけるビーム軌道の調整が実施される。このビーム軌道の調整は、ステップS13〜S17、S20、S21,S18,S19及びS22〜S25の各工程(図17参照)によって実施される。
すなわち、ステップS13(回転ガントリー26の回転)、ステップS14(ステアリング電磁石の励磁)、ステップS15(イオンビームの出射)、ステップS16(ビーム位置モニタPRM,SPMで測定されたビーム位置の入力)及びステップS17(イオンビームの出射停止)が、この順番に、実施例1と同様に実施される。上記のステップS13では、回転角度が、例えば、0°になるように、回転ガントリー26が回転される。そして、ステップS18及びS19の各工程が実施例1と同様に実施され、次に、ステップS20(回転角度の判定)の工程が実施される。ステップS18では、エネルギーが250MeVで回転角度が0°における励磁電流GH1X、GH1Y、GH2X及びGH2Yが求められる。
ステップS19の次に実施されるステップS20の判定が「No」であるとき、回転角度設定装置52によるステップS21(新たな回転角度の設定)が実施され、この新たな回転角度が0.5°に設定される。この設定された新たな回転角度においてステップS13〜S20の各工程が実施される。このとき、ステップS20の判定が「No」になるため、ステップS21、S13〜S20の各工程を、ステップS21で新たな回転角度を0.5°ずつ増加させながら新たな回転角度360°におけるステップS20の判定が「Yes」になるまで繰り返し実施する。
ステップS20の判定が「Yes」になったとき、テーブル作成装置96によるステップS22(回転角度テーブルの作成)が実施例1と同様に実施され、作成された250MeVに対する回転角度テーブルの情報がメモリ62に格納される。
ステップS22が終了した後、実施例1と同様に、ステップS23,S15,S24及びS17の各工程がこの順番に実施される。ステップS17が終了した後、ビーム軌道の調整がイオンビームのエネルギーの全範囲で終了したかが判定される(ステップS25)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力したエネルギー判定装置71は、ビーム軌道の調整がイオンビームのエネルギーの全範囲において終了したかを判定する。250MeVに対してステップS3〜S24の各工程が終了したので、ステップS25の判定は「No」になる。なお、本実施例では、イオンビームのエネルギー全範囲として150MeV〜250MeVが設定されており、このエネルギーの範囲はメモリ62に格納されている。
新たなエネルギーを設定する(ステップS26)。エネルギー設定装置51は、例えば、249MeVを新たなエネルギーとして設定する。ステップS25の判定が「Yes」になるまで、249MeV〜150MeVの範囲内で1MeVずつ減少させながら、ステップS3〜S12の各工程、ステップS20の判定が「Yes」になるまで繰り返されるステップS13〜S21の各工程、及びステップS20の判定が「Yes」になった後におけるステップS22,S23,S15,S24,S17,S25及びS26の各工程が繰り返し実施される。
150MeVに対するステップS25の判定が「Yes」になったとき、本実施例の粒子線照射システム1Aにおける据え付けの期間内のビーム軌道の調整が終了する。このとき、メモリ62には、150MeV〜250MeVの範囲内で1MeVごとに作成された各回転角度テーブルの情報が、該当するエネルギーでの励磁電流HH1X、HH1Y、HH2X及びHH2Y、及びビーム軌道調整用の目標ビーム位置であるPRMX、PRMY、SPMX及びSPMYと対応付けて格納されている。
試運転の期間でのビーム軌道調整が終了した後、粒子線照射システム1Aによるがんの治療が開始される。このがんの治療が開始されてから或る期間が経過したときに実施されるビーム軌道の調整を、図18を用いて説明する。
このビーム軌道の調整は、実施例1と同様に、定期的に実施される。軌道調整制御装置98Aで実施される、図18に示された第4ビーム軌道調整プログラムの手順は、実施例1において軌道調整制御装置98で実施される図7に示された手順にステップS25及びS26を追加し、ステップS10,S28及びS29の各工程をステップS25の判定が「Yes」になったときに実施する。
オペレータが入力装置100からビーム軌道調整装置97Aの軌道調整制御装置98Aに第2軌道調整開始信号を入力したとき、軌道調整制御装置98Aは、メモリ62に格納されている、治療開始後におけるビーム軌道の調整を実施する第4ビーム軌道調整プログラムを選択し、この第4ビーム軌道調整プログラム(図18参照)の手順に基づいて制御指令情報を加速器・輸送系制御装置64A及びガントリー制御装置73のそれぞれに含まれる各制御装置等に出力する。このため、治療開始後におけるビーム軌道の調整が、ステップS25の判定が「Yes」になるまでステップS4,S5,S27,S7,S8,S16,S25及びS26が繰り返され、ステップS25の判定が「Yes」になった後のステップS10,S28及びS29の各工程の実施により行われる。
図18に図示されていないが、取り合い部35に対するビーム軌道の調整(図5参照)と同様に、ステップS1,S23及びS2の各工程が順次実施される。ステップS23では、回転ガントリー26が、前述したように、制御指令情報を入力した回転制御装置74により基準回転角度である270°まで回転される。ステップS2ではエネルギー設定装置51によりイオンビームのエネルギーが250MeVに自動的に設定される。回転ガントリー26が270°に回転された状態を保持して、前述のステップS4,S5,S27,S7,S8,S16,S25及びS26の各工程がステップS25の判定が「Yes」になるまで繰り返され、さらに、ステップS25の判定が「Yes」になった後のステップS10,S28及びS29の各工程が実施される。
すなわち、ステップS4,S5,S27,S7,S8,S16の各工程が、この順番に実施され、そして、次に、ステップ25(エネルギーの判定)が実施される。ステップ25の判定が「No」であるとき、ステップ26(新たなエネルギーの設定)がエネルギー設定装置51により実施され、新たなエネルギーとして249MeVが設定される。このエネルギー249MeVから150MeVの範囲内で1MeVずつ減少させながら、ステップS4,S5,S27,S7,S8,S16,S25及びS26の各工程が、ステップS25の判定が「Yes」になるまで繰り返えされる。
ステップS25の判定が「Yes」になったとき、イオンビームの出射が停止され(ステップS10)、ステップS28において、励磁電流演算装置70によってステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれに供給される励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yが、実施例1と同様に、150MeV〜250MeVの範囲内で1MeVごとに算出される。ステップS29(励磁電流の更新)では、励磁電流更新装置99によって、ステップS28で1MeVごとに算出された、ステアリング電磁石HH1及びHH2のそれぞれに供給される励磁電流を用いて、実施例1と同様に、メモリ62に格納されている、エネルギーごとの励磁電流HH1X,HH1Y,HH2X及びHH2Yを更新する。
以上により、本実施例の粒子線照射システム1Bにおける治療開始後のビーム軌道の調整が終了する。
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。本実施例では、エネルギーの全範囲で新たに設定されたエネルギーごとにビーム位置モニタPRM,SPMによるビーム位置を測定した後に、エネルギーごとに、ステアリング電磁石GH1及びGH2のそれぞれに供給される各励磁電流が算出されるため、本実施例の、治療開始後におけるビーム軌道の調整に要する時間が、実施例1の、治療開始後におけるビーム軌道の調整に要する時間よりもさらに短縮される。
本発明の他の好適な実施例である実施例3の粒子線照射システムを、図19及び図20を用いて以下に説明する。
実施例1及び2の各粒子線照射システム1及び1Aはイオンビーム発生装置としてシンクロトロン加速器3を含むイオンビーム発生装置2を用いているが、本実施例の粒子線照射システム1Bはイオンビーム発生装置としてサイクロトロン加速器84を含むイオンビーム発生装置2Aを用いている。
粒子線照射システム1Bは、図19に示すように、イオンビーム発生装置2A、HEBT系15、GABT系20、回転ガントリー26、照射装置29及び制御システム59Bを備えている。HEBT系15、GABT系20、回転ガントリー26及び照射装置29のそれぞれの構成は、実施例1の粒子線照射システム1におけるそれらの構成と同じである。
ここでは、粒子線照射システム1と異なっているイオンビーム発生装置2A及び制御システム59Bについて主に説明する。
イオンビーム発生装置2Aは、イオン源83及びサイクロトロン加速器84を含む。サイクロトロン加速器84は、円形の真空容器92、偏向電磁石85A及び85B、高周波加速装置86及び出射用のセプタム電磁石87を有する。イオン源83に接続された真空ダクト46が、真空容器92の中心位置まで伸びてこの真空容器92に接続される。水平面において湾曲している入射用電極91が、真空ダクト46の開放端付近で真空容器92内に配置される。偏向電磁石85A及び85Bは、それぞれ、半円形状をしており、直線部を互いに対向させるように配置され、真空容器92の上面及び下面を覆っている。
真空容器92のイオンビーム出射口に設けられるセプタム電磁石87は、HEBT系15のビーム経路16に接続される。金属製の複数の板を有するデグレーダ88が、セプタム電磁石87と四極電磁石18の間で、ビーム経路16に取り付けられている。デグレーダ88は、サイクロトロン加速器84から出射されたイオンビームのエネルギーを調節する機能を有し、厚みの異なる複数の金属製の板(図示せず)を有している。これらの金属製の板は、ビーム経路16に垂直な方向に移動可能である。厚みの異なるこれらの金属製の板を、1枚または複数枚、ビーム経路16を横切るようにビーム経路16内に挿入することによって、ビーム経路16を通るイオンビームのエネルギーの減衰量が制御される。この結果、患者34の患部に照射されるイオンビームのエネルギーを変えることができ、患部の深さ方向に存在する各層にイオンビームを照射することができる。
制御システム59Bは、中央制御装置60、加速器・輸送系制御装置64B、ガントリー制御装置73、走査制御装置76及びデータベース81を有する(図19参照)。中央制御装置60は、照射制御装置93、ビーム軌道調整装置94及びビーム軌道調整装置98を含むCPU61、及びCPU61に接続されたメモリ62を有する。このCPU61は、ここでは詳細に説明しないが、具体的には、実施例1で述べた、図4Bに示された構成を有する。
粒子線照射システム1Bに用いられる制御システム59Bに含まれるガントリー制御装置73及び走査制御装置76は、実施例1の粒子線照射システム1に用いられる制御システム59に含まれるガントリー制御装置73及び走査制御装置76と同じ構成を有する。制御システム59Bに含まれる加速器・輸送系制御装置64Bは、実施例1に用いられる制御システム59に含まれる加速器・輸送系制御装置64において高周波電圧制御装置66をデグレーダ制御装置89に替えた構成を有する。加速器・輸送系制御装置64Bの他の構成は加速器・輸送系制御装置64と同じである。
照射制御装置93は、電磁石制御装置65、出射制御装置67、ステアリング電磁石制御装置69、メモリ72、デグレーダ制御装置89、回転制御装置74、照射位置制御装置77、線量判定装置78、層判定装置79及びメモリ80に、それぞれ、接続される。軌道調整制御装置95は、電磁石制御装置65、出射制御装置67、ビーム位置入力装置68、ステアリング電磁石制御装置69、エネルギー判定装置71、メモリ72、デグレーダ制御装置89、回転制御装置74、回転角度判定装置75及び回転角度設定装置52に、それぞれ、接続される。軌道調整制御装置98は、電磁石制御装置65、出射制御装置67、ビーム位置入力装置68、ステアリング電磁石制御装置69、エネルギー判定装置71、メモリ72、デグレーダ制御装置89及び回転制御装置74に、それぞれ、接続される。照射位置制御装置77が、電磁石制御装置65、出射制御装置67、ステアリング電磁石制御装置69及びデグレーダ制御装置89に接続される。入力装置100は、実施例1と同様に、照射制御装置93、軌道調整制御装置95及び軌道調整制御装置98に接続される。
本実施例の粒子線照射システム1Bにおけるビーム軌道調整方法を、図21、図6及び図22を用いて説明する。まず、粒子線照射システム1Bの据え付けが終了した後の試運転の期間におけるビーム軌道調整方法を、図21及び図6を用いて説明する。図21及び図6に示されたステップS1,S3、S4A,S5,S6,S43及びS8〜S24の各工程を含む手順を示す第5ビーム軌道調整プログラムは、メモリ62に記憶されている。さらに、メモリ62には、図22に示されたステップS23,S4A,S5,S27,S43,S8,S16,S10,S28及びS29の各工程を含む手順を示す第6ビーム軌道調整プログラムも記憶されている。
オペレータが入力装置100から軌道調整制御装置95に第1軌道調整開始信号を入力したとき、軌道調整制御装置95は、メモリ62に格納されている、試運転の期間におけるビーム軌道の調整を実施する第5ビーム軌道調整プログラムを選択し、この第5ビーム軌道調整プログラムの手順に基づいて制御指令情報を加速器・輸送系制御装置64A及びガントリー制御装置73のそれぞれに含まれる各制御装置等に出力する。このため、試運転の期間におけるビーム軌道の調整が以下のように実施される。
ステップS1において、加速器・輸送系制御装置64Bによりイオン源及び直線加速器が起動される。ステップS2では、オペレータにより入力装置100から入力されたイオンビームのエネルギー(例えば、最大の250MeV)が設定される。ステップS3で、回転ガントリー26を任意の或る回転角度(例えば、270°)まで回転させる。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力した電磁石制御装置65は、電源55A(図20参照)を制御し、サイクロトロン加速器84の偏向電磁石85A及び85B及びセプタム電磁石87に供給される励磁電流を調節する(ステップS4A)。さらに、ステップS5(HEBT系15及びGABT系20の偏向電磁石及び四極電磁石の励磁)及びステップS6(ステアリング電磁石HH1,HH2,GH1及びGH2の励磁)が実施される。
設定されたエネルギーに基づいてデグレーダを制御する(ステップS43)。軌道調整制御装置95から制御指令情報を入力したデグレーダ制御装置89は、駆動装置90を制御し、イオンビームのエネルギーを設定されたエネルギー(例えば、250MeV)まで減衰させるために、デグレーダ88の金属製の板を、ビーム経路16を横切るように移動させる。
その後、実施例1と同様に、ステップS8〜S12がそれぞれ実施される。なお、ステップS8の出射制御装置67によるイオンビームの出射は、出射制御装置67による制御によって、入射用電極91に電圧を印加することによって行われる。入射用電極91に電圧を印加すると、イオン源83からビームダクト46を通して真空容器92内に入射されたイオンは、電圧を印加された入射用電極91によって真空容器92内の水平面内に曲げられ、高周波加速装置86によって加速される。また、ステップS10の出射制御装置67によるイオンビームの出射停止は、出射制御装置67による制御によって、入射用電極91への電圧の印加を停止することによって行われる。以上により、粒子線照射システム1Bにおける試運転の期間内での、250MeVに対する取り合い部35に対するビーム軌道の調整が終了する。
粒子線照射システム1Bにおける試運転の期間内での、GABT系20におけるビーム軌道の調整が、実施例1と同様に、ステップS13〜S21の各工程をステップS20の判定が「Yes」になるまで繰り返し、さらに、ステップS20の判定が「Yes」になったとき、ステップS22,S23,S15,S24及びS17のそれぞれをこの順番で実施することによって行われる。この結果、250MeVに対するGABT系20におけるビーム軌道の調整が終了し、250MeVにおける回転角度テーブル情報が作成される。そして、250MeVの回転角度テーブル情報、250MeVにおける、励磁電流HH1X、HH1Y、HH2X及びHH2Y及びビーム軌道調整用の目標ビーム位置PRMX、PRMY、SPMX及びSPMYが、対応付けられてメモリ62に格納される。
その後、249MeV〜150MeVの範囲内で1MeVずつ減少させながらイオンビームのエネルギーをステップS2で入力装置100から入力し、1MeVごとのエネルギーに対してステップS3、S4A,S5,S6,S43及びS8〜S24の各工程、ステップS20が「Yes」になるまで繰り返されるステップS13〜S21の各工程、及びステップS20が「Yes」になった後のステップS22,S23,S15,S24及びS17の各工程が繰り返し実施される。そして、エネルギーごとに回転角度テーブル情報が作成され、エネルギーごとに、回転角度テーブル情報、励磁電流HH1X、HH1Y、HH2X及びHH2Y及びビーム軌道調整用の目標ビーム位置PRMX、PRMY、SPMX及びSPMYが対応付けられてメモリ62に格納される。
以上により、粒子線照射システム1Bにおける試運転の期間内でのビーム軌道の調整が終了する。
粒子線照射システム1Bを用いた患部へのイオンビームの照射による患部の治療が開始された後に実施されるビーム軌道の調整を、図22を用いて説明する。オペレータが入力装置100から軌道調整制御装置97に第2軌道調整開始信号を入力したとき、軌道調整制御装置97は、メモリ62に格納されている、治療開始後におけるビーム軌道の調整を実施する第6ビーム軌道調整プログラムを選択し、この第6ビーム軌道調整プログラム(図22参照)の手順に基づいて制御指令情報を加速器・輸送系制御装置64B及びガントリー制御装置73のそれぞれに含まれる各制御装置等に出力する。このため、粒子線照射システム1Bによる、治療が開始された後に実施されるビーム軌道の調整が以下のように実施される。
図22に示された手順は、実施例1の粒子線照射システム1によって治療開始後に実施されるビーム軌道の調整を実施する、図7に示された手順において、ステップS4及びS7の各工程をステップS4A及びS43の各工程に替えた手順である。
図22に図示されていないが、ステップS1(イオン源及び直線加速器14の起動)が実施される。その後、図22に示された手順においても、実施例1で治療が開始された後に実施されるビーム軌道の調整で実施されたステップS23及びS2が順次実施される。その後、回転ガントリー26の回転角度が基準回転角度(例えば、270°)に維持され、イオンビームのエネルギーを250MeVに保った状態で、前述のステップ4Aが実施され、ステップS5及びS27が実施例1と同様に実施される。前述のステップS43(デグレーダの制御)が実施され、さらに、ステップS8,S16,S10,S28及びS29の各工程が実施される。ステップS8(イオンビームの出射)は入射用電極91への電圧の印加によって行われ、ステップS10(イオンビームの出射停止)は入射用電極91への電圧の印加停止によって行われる。ステップS16,S28及びS29の各工程は、実施例1と同様に行われる。
250MeVに対するS4A,S5,S27,S43,S8,S16,S10,S28及びS29の各工程が終了したとき、249MeV〜150MeVの範囲内で1MeVずつ減少させながらイオンビームのエネルギーをステップS2で入力装置100から入力し、1MeVごとのエネルギーに対してステップS4A,S5,S27,S43,S8,S16,S10,S28及びS29の各工程が繰り返し実施される。このため、250MeV〜150MeVの範囲内で1MeVごとのエネルギーに対して、励磁電流HH1X、HH1Y、HH2X及びHH2Yが算出され、算出されたこれらの励磁電流を用いてメモリ62に格納されている励磁電流HH1X、HH1Y、HH2X及びHH2Yが更新される。
サイクロトロン加速器84を含む粒子線照射システム1Bを対象にした本実施例でも、実施例1で生じる各効果を得ることができる。
粒子線照射システム1Bにおける治療開始後に実施されるビーム軌道の調整は、図22に示された手順の替りに、粒子線照射システム1Aにおける治療開始後のビーム軌道の調整で実施される図18に示された手順を用いてもよい。この場合には、図18に示されたステップS4及びS7は上記したステップS4A及びS43になり、図18に示されたステップ8及びS10は出射制御装置67により入射用電極91への電圧の印加をON,OFFすることにより実施される。