JP6278555B2 - 脂肪族ジオールの製造方法 - Google Patents

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本発明は脂肪族ジオールの製造方法に関する。
脂肪族ジオールは、ポリエステル樹脂やポリウレタン樹脂を製造するのに重要な原料モノマーである。原料モノマーとして用いる脂肪族ジオールは、主に化学合成により製造されている。例えば、炭素数10のデカンジオールは、ひまし油のアルカリ溶融によるセバシン酸の製造を経て合成されている(例えば、非特許文献1参照)。
しかし、化学合成法による脂肪族ジオールの製造は、厳密な反応条件が要求され、取扱いが難しい等の問題がある。特に、炭素数の多いジオールは多段階の工程を経て合成されるものが多く、製造工程が複雑になる。
1999年版ファインケミカル年鑑、シーエムシー出版、361頁
本発明は、微生物等を用いて、中鎖や長鎖の脂肪族ジオールを効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、微生物を用いた脂肪族ジオールの生産について鋭意検討した。その結果、宿主中の特定のアルコールオキシダーゼ及び糖転移酵素の機能を低下させた形質転換体において、脂肪族ジオールの産生が有意に向上することを見出した。本発明はこの知見に基づいて完成するに至ったものである。
すなわち、本発明は、下記(1)及び(2)の工程を含む、脂肪族ジオールの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう)に関する。
(1)下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、及び下記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を有する宿主において、これらの遺伝子が欠失、変異又は発現抑制され、該宿主と比べてアルコールオキシダーゼ活性及びアルコールへの糖転移活性が低下した形質転換体を、アルコール又は脂肪族炭化水素を含有する培地で培養する工程
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質
(d)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(e)配列番号3で表されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質
(f)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質
(2)得られた培養物から脂肪族ジオールを採取する工程
また、本発明は、前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、及び前記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を有する宿主において、これらの遺伝子が欠失、変異又は発現抑制され、該宿主と比べてアルコールオキシダーゼ活性及びアルコールへの糖転移活性が低下した形質転換体(以下、「本発明の形質転換体」ともいう)に関する。
本発明によれば、脂肪族ジオール、特に中鎖の脂肪族ジオールを高収率で製造する方法を提供することができる。また、本発明によれば、当該方法に用いる形質転換体を提供することができる。当該方法及び形質転換体は、脂肪族ジオールの工業的生産に有用である。
実施例で作製したKSMΔura-ura株及びKSMΔAOX株の、菌体内アルコールオキシダーゼ活性を示した図である。 実施例で作製したa)KSMΔura-ura株、b)KSMΔAOX株、c)KSMΔUGTA株、及びd)KSMΔAOXΔUGTA株を、2-テトラデカノールを基質として培養した培養液のGC分析結果を示す図である。 実施例で作製したKSMΔura-ura株、KSMΔUGTA株、KSMΔAOX株、及びKSMΔAOXΔUGTA株を、2−テトラデカノールを基質として培養した培養液のアルキルポリグリコシド及び脂肪族ジオール生産量を示す図である。
1.形質転換体
本発明の形質転換体は、2種類の酵素をコードする遺伝子を有する宿主において、それら両方の酵素遺伝子を欠失、変異又は発現抑制させ、該宿主と比べてこれらの酵素の活性が低下した形質転換体である。形質転換体において欠失等させる2種の酵素は、下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質、及び下記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質である。下記(a)〜(c)のタンパク質はアルコールオキシダーゼ活性を、下記(d)〜(f)のタンパク質はアルコールへの糖転移活性をそれぞれ有する。
これらの酵素について順に説明する。
(1)アルコールオキシダーゼ
1つめの酵素はアルコールオキシダーゼ(以下、「AOX」とも略記する)で、具体的には、下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質である。本発明の形質転換体は、下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を有する宿主において、当該遺伝子が欠失、変異又は発現抑制され、該宿主と比べてアルコールオキシダーゼ活性が低下したものである。
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質
配列番号1に示すアミノ酸配列からなるタンパク質は、カンジダ・ボンビコーラ(Candida bombicola(別称:Starmerella bombicola又はTorulopsis bombicola))NBRC10243株由来のアルコールオキシダーゼである。アルコールオキシダーゼは、アルコール酸化酵素の1種で、アルコールをアルデヒドに酸化する反応を触媒する。後述の実施例で示すように、当該タンパク質を欠失した形質転換体は、アルコールオキシダーゼ活性が大幅に低下する。
本発明では、前記(a)のタンパク質と機能的に均等な前記(b)及び(c)のタンパク質をコードする遺伝子も用いることができる。
前記(b)において、アミノ酸配列の同一性は、脂肪族ジオールの生産性向上の観点から、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
本発明においてアミノ酸配列の同一性とは、比較する2つのアミノ酸配列を必要に応じて間隙を導入して整列(アラインメント)させ、得られる最大のアミノ酸配列の同一性(%)をいう。アミノ酸配列の同一性は通常の方法により解析することができるが、本発明の同一性はリップマン−パーソン法(Lipman−Pearson法;Science,227,1435,(1985))によって計算され、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行なうことにより測定する。
また、前記(c)において、「1又は数個のアミノ酸」は、脂肪族ジオールの生産性向上の観点から、1〜10個のアミノ酸であることが好ましく、1〜5個のアミノ酸であることがより好ましく、1〜3個のアミノ酸であることがさらに好ましい。
なお、これらのタンパク質がアルコールオキシダーゼ活性を有することは、該タンパク質をコードする遺伝子を破壊して菌体内のアルコールオキシダーゼ活性を測定する方法、又は大腸菌等で該タンパク質を生産し、そのアルコールオキシダーゼ活性を測定する方法等により確認することができる。アルコールオキシダーゼ活性の測定には、後述の実施例で用いた方法等を用いることができる。
前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の具体例として、下記(a1)〜(c1)のいずれかのDNAからなる遺伝子が挙げられる。
(a1)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b1)配列番号2で表される塩基配列と55%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c1)配列番号2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号2は、カンジダ・ボンビコーラNBRC10243株由来のアルコールオキシダーゼ遺伝子の塩基配列である。
前記(b1)において、塩基配列の同一性は、脂肪族ジオールの生産性向上の観点から、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
本発明において塩基配列の同一性とは、比較する2つの塩基配列を必要に応じて間隙を導入して整列(アラインメント)させ、得られる最大の塩基配列の同一性(%)をいう。塩基配列の同一性は通常の方法により解析することができるが、本発明の同一性はリップマン−パーソン法(Lipman−Pearson法;Science,227,1435,(1985))によって計算され、遺伝情報処理ソフトウェアGenetyx−Win(Ver.5.1.1;ソフトウェア開発)のホモロジー解析(Search homology)プログラムを用いて、Unit size to compare(ktup)を2として解析を行なうことにより測定する。
また、前記(c1)において、「ストリンジェントな条件」としては、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W.Russell.,Cold Spring Harbor Laboratory Press]記載のサザンハイブリダイゼーション法等が挙げられ、例えば、6×SSC(1×SSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5×デンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに42℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件が挙げられる。
(2)糖転移酵素
2つめの酵素はアルコールへの糖転移活性を有する糖転移酵素で、具体的には、下記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質である。本発明の形質転換体は、下記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を有する宿主において、当該遺伝子が欠失、変異又は発現抑制され、該宿主と比べてアルコールへの糖転移活性が低下したものである。
(d)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(e)配列番号3で表されるアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質
(f)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質
配列番号3に示すアミノ酸配列からなるタンパク質は、カンジダ・ボンビコーラ(Candida bombicola)由来の糖転移酵素で、ω−ヒドロキシ脂肪酸に対して糖転移活性を持つUDP−グルコシルトランスフェラーゼ(以下、「UGTA」とも略記する)であると報告されている(K. Saerens., et. al., (2011) FEMS Yeast Res., 11, 123-132参照)。しかしながら、当該タンパク質がアルコールに対する糖転移活性を有するかは、不明であった。当該タンパク質がアルコールに対する糖転移活性を有することは、今回本発明者らにより初めて得られた知見である。後述の実施例で示すように、当該タンパク質を欠失した形質転換体は、アルコールへの糖転移活性が大幅に低下する。
本発明では、前記(d)のタンパク質と機能的に均等な前記(e)及び(f)のタンパク質をコードする遺伝子も用いることができる。
前記(e)において、アミノ酸配列の同一性は、脂肪族ジオールの生産性向上の観点から、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
また、前記(f)において、「1又は数個のアミノ酸」は、脂肪族ジオールの生産性向上の観点から、1〜10個のアミノ酸であることが好ましく、1〜5個のアミノ酸であることがより好ましく、1〜3個のアミノ酸であることがさらに好ましい。
なお、これらのタンパク質がアルコールへの糖転移活性を有することは、アルコールを基質とした糖脂質の生産量を測定する方法等により確認することができる。アルコールへの糖転移活性の測定には、後述の実施例で用いた方法等を用いることができる。
前記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の具体例として、下記(d1)〜(f1)のいずれかのDNAからなる遺伝子が挙げられる。
(d1)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA
(e1)配列番号4で表される塩基配列と55%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f1)配列番号4で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質をコードするDNA
配列番号4は、カンジダ・ボンビコーラ由来のUDP−グルコシルトランスフェラーゼ遺伝子の塩基配列である。
前記(e1)において、塩基配列の同一性は、脂肪族ジオールの生産性向上の観点から、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。
また、前記(f1)において、「ストリンジェントな条件」としては、前記(c1)と同様の条件が挙げられる。
前記タンパク質の取得方法については特に制限はなく、通常行われる化学的或いは遺伝子工学的手法等により得ることができる。例えば、カンジダ・ボンビコーラ等の微生物から単離、精製等することで天然物由来のタンパク質を取得することができる。また、配列番号1や配列番号3に示すアミノ酸配列情報をもとに人工的に合成等することもでき、化学合成によりタンパク質合成を行ってもよく、遺伝子組み換え技術により組換えタンパク質を作製してもよい。組換えタンパク質を作製する場合には、前記アルコールオキシダーゼ遺伝子や糖転移酵素遺伝子を用いることができる。
前記(a)〜(c)及び(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子の取得方法としては、特に制限されず、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、配列番号1や配列番号3に示すアミノ酸配列又は配列番号2や配列番号4に示す塩基配列に基づいて、人工合成により取得することができる。遺伝子の人工合成は、例えば、インビトロジェン社等のサービスを利用することができる。また、カンジダ・ボンビコーラ等の微生物からクローニングによって取得することもでき、例えば、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION[Joseph Sambrook,David W. Russell,Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)]記載の方法等により行うことができる。
配列番号1や配列番号3に示すアミノ酸配列又は配列番号2や配列番号4に示す塩基配列に変異を導入する場合、例えば、部位特異的な変異導入法が挙げられる。具体的な部位特異的変異の導入方法としては、Splicing overlap extension(SOE)PCR反応(Horton et al.,Gene 77,61−68,1989)を利用した方法、ODA法(Hashimoto-Gotoh et al.,Gene,152,271-276,1995))、Kunkel法(Kunkel,T. A.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1985,82,488)等が挙げられる。また、Site-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ社)、Transformer TM Site-Directed Mutagenesisキット(Clonetech社)、KOD-Plus-Mutagenesis Kit(東洋紡社)等の市販のキットを利用することもできる。また、ランダムな遺伝子変異を与えた後、適当な方法により酵素活性の評価及び遺伝子解析を行うことにより目的遺伝子を取得することもできる。具体的には、ランダムにクローニングしたDNA断片を用いて相同組換えを起こさせる方法や、γ線等を照射することによりランダムな遺伝子の変異が可能である。
本発明の方法に用いる形質転換体は、宿主中の前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、及び前記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を、欠失、変異又は発現抑制することで得られる。
形質転換体の宿主としては、前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、及び前記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を有するものであればよい。脂肪族ジオールの生産性向上の観点から、宿主として好ましくは、前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子及び前記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を有する微生物である。
当該微生物としては、取り扱い性の向上、脂肪族ジオールの生産性向上の観点から、酵母が好ましい。当該酵母としては、カンジダ(Candida)属に属する菌類、ロドトルラ(Rhodotorula)属に属する菌類、ピチア(Pichia)属に属する菌類、ウィケルハミエラ(Wickerhamiella)属に属する菌類、又はスターメレラ(Starmerella)属に属する菌類等が挙げられる。
前記カンジダ(Candida)属に属する菌類としては、Candida bombicola(別名:Starmerella bombicola)、Candida apicolaCandida batistaeCandida floricolaCandida riodocensis、又はCandida stellata等が挙げられる。
ロドトルラ(Rhodotorula)属に属する菌類、ピチア(Pichia)属に属する菌類、ウィケルハミエラ(Wickerhamiella)属に属する菌類、又はスターメレラ(Starmerella)属に属する菌類としては、Rhodotorula bogoriensisPichia anomala PY1、又はWickerhamiella domericqiae等が挙げられる。
これらのなかでも、脂肪族ジオールの生産性向上の観点から、カンジダ(Candida)属に属する菌類が好ましく、Candida bombicolaCandida apicolaCandida batistaeCandida floricolaCandida riodocensis、又はCandida stellataがより好ましく、Candida bombicolaがさらに好ましい。
なお、上記宿主微生物は、ATCC(American Type Culture Collection)、NBRC (Biological Resource Center, NITE)等の生物遺伝資源ストックセンター等から入手することができる。
宿主ゲノムから前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子及び前記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を欠失、変異又は発現抑制する方法としては、標的遺伝子の一部若しくは全部をゲノム中から除去する又は他の遺伝子と置き換える、当該遺伝子中に他のDNA断片を挿入する、当該遺伝子の転写・翻訳開始領域に変異を与える等の方法によって行うことができる。なかでも、本発明においては、前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子及び前記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を宿主ゲノムから物理的に欠失させた形質転換体であることが好ましい。
上記の欠失・変異・発現抑制方法は、相同組換えを用いて行うことができる。例えば、標的遺伝子の上流、下流領域を含むが標的遺伝子を含まない直鎖状のDNA断片をPCR等の方法によって構築し、これを宿主細胞内に取り込ませて宿主ゲノムの標的遺伝子上流側、下流側で2回交差の相同組換えを起こさせることにより、ゲノム上の標的遺伝子を欠失あるいは他の遺伝子断片と置換させることができる。また、塩基置換や塩基挿入等の変異を導入した標的遺伝子をPCR等の方法によって構築し、これを宿主細胞内に取り込ませて宿主ゲノムの標的遺伝子内の変異箇所の外側の2ヶ所で2回交差の相同組換えを起こさせることにより、ゲノム上の標的遺伝子の機能を低下又は消失させることができる。また、標的遺伝子の一部を含むDNA断片を適当なプラスミドベクターにクローニングして得られる環状の組換えプラスミドを宿主細胞内に取り込ませ、標的遺伝子の一部領域に於ける相同組換えによって宿主ゲノム上の標的遺伝子を分断して、その機能を低下又は消失させることができる。
このような相同組換えによる標的遺伝子の欠失・変異・発現抑制方法は、例えば、Besher et al., Methods in molecular biology 47,p.291-302, 1995等の文献を参考に行うことができる。
宿主に相同組換え用のDNA断片やプラスミドを導入する方法については、電気パルス法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、及びそれらの改変法等、酵母の形質転換に通常用いられている方法が挙げられる。
例えば電気パルス法により行う場合、対数増殖期まで増殖させた宿主細胞と、相同組換え用のDNA断片やプラスミドとをソルビトール溶液等に懸濁して、電気パルスを加えればよい。相同組換え用のDNA断片やプラスミドと宿主細胞とを接触させる際に、サーモンスパームDNA等のキャリアDNAや、ポリエチレングリコール等を添加することにより、形質転換頻度を高めることも好ましい。電気パルスの条件は、タイムコンスタント値(電圧が最大値の約37%にまで減衰するまでの時間)が約10から20ミリ秒で、パルス後の生菌率が約10〜40%となる条件とすることが好ましい。電気パルスを加えた後、菌液をソルビトール溶液を含む培地にまいて形質転換体を選択する。
目的遺伝子が欠失した形質転換体の選択は、形質転換体からゲノムDNAを抽出して、目的遺伝子部位を含む領域を対象としてPCRを行う方法、又は目的遺伝子領域に結合するDNAプローブを用いたサザンブロッティング法、等により行うことができる。
得られた形質転換体では、宿主(すなわち形質転換前の状態)に比べて、アルコールオキシダーゼ活性及びアルコールへの糖転移活性が低下している。なお、形質転換体でアルコールオキシダーゼ活性が低下することは、後述の実施例で用いた方法により確認できる。また、形質転換体でアルコールへの糖転移活性が低下することは、後述の実施例で用いた方法により確認できる他、国際公開第2011/154523号に記載の方法等によっても確認できる。
脂肪族ジオールの生産性向上の観点から、形質転換体のアルコールオキシダーゼ活性を宿主のアルコールオキシダーゼ活性に対し70%以下に低下させることが好ましく、50%以下に低下させることがより好ましく、30%以下に低下させることがさらに好ましく、20%以下に低下させることがよりさらに好ましく、10%以下に低下させることが特に好ましい。また、同様の観点から、形質転換体の糖転移活性を宿主の糖転移活性に対して、70%以下に低下させることが好ましく、50%以下に低下させることがより好ましく、30%以下に低下させることがさらに好ましく、20%以下に低下させることがよりさらに好ましく、10%以下に低下させることが特に好ましい。
微生物の代謝において、脂肪族ジオールはアルコールや脂肪族炭化水素の水酸化によって生成されるものの、生成したジオールは通常、更に酸化されて脂肪酸へ変換されたり、糖付加されて糖脂質へと変換される。前記(a)〜(c)のタンパク質をコードする遺伝子の欠失等によりアルコールオキシダーゼ活性が低下すると、形質転換体内でのアルコールの酸化による脂肪酸合成経路が阻害される。また、前記(d)〜(f)のタンパク質をコードする遺伝子の欠失等によりアルコールへの糖転移活性が低下すると、形質転換体内でのアルコールへの糖付加反応が阻害される。その結果、本発明の形質転換体では、ジオールが酸化や糖付加反応により消費されることがなくなるため、ジオールの生産性が向上すると推測される。
2.製造方法
本発明の製造方法は、前記形質転換体を用いて下記(1)及び(2)の工程により行われる。
(1)前記形質転換体を、アルコール又は脂肪族炭化水素を含有する培地で培養する工程、及び
(2)得られた培養物から脂肪族ジオールを採取する工程
なお、本発明において形質転換体を培地で培養するとは、微生物や動植物あるいはその細胞・組織の培養が含まれる。また、培養物には、培養した培地及び形質転換体が含まれる。
形質転換体を培養する培地は、脂肪族ジオール合成の原料として、アルコール又は脂肪族炭化水素を含有する。
前記アルコールは、脂肪族ジオールの利用性の点から、炭素原子数10以上が好ましく、12以上がより好ましい。また、炭素原子数18以下が好ましく、16以下がより好ましい。さらに、炭素原子数10以上18以下が好ましく、10以上16以下がより好ましく、12以上16以下がさらに好ましい。また、飽和アルコールでも不飽和アルコールでもよい。
好ましいアルコールの具体例としては、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、1−ヘプタデカノール、1−オクタデカノール、1−オレイルアルコール、1−イコサノール、1−ドコサノール等の1級直鎖飽和又は不飽和アルコール、2−デカノール、2−ウンデカノール、2−ドデカノール、2−トリデカノール、2−テトラデカノール、2−ペンタデカノール、2−ヘキサデカノール、2−ヘプタデカノール、2−オクタデカノール、3−デカノール、3−ウンデカノール、3−ドデカノール、3−トリデカノール、3−テトラデカノール、3−ペンタデカノール、3−ヘキサデカノール、3−ヘプタデカノール、3−オクタデカノール、4−デカノール、4−ウンデカノール、4−ドデカノール、4−トリデカノール、4−テトラデカノール、4−ペンタデカノール、4−ヘキサデカノール、4−ヘプタデカノール、4−オクタデカノール等の2級飽和又は不飽和アルコール等が挙げられる。
なかでも、炭素原子数10以上18以下の1級又は2級直鎖飽和アルコールが好ましい。
培地に加えるアルコールは1種であっても2種以上であってもよい。
前記脂肪族炭化水素としては、水酸基の付加により前記アルコールを形成するものが挙げられる。脂肪族ジオールの利用性の点から、炭素原子数10以上が好ましく、12以上がより好ましい。また、炭素原子数18以下が好ましく、16以下がより好ましい。さらに、炭素原子数10以上18以下が好ましく、10以上16以下がより好ましく、12以上16以下がさらに好ましい。また、飽和炭化水素でも不飽和炭化水素でもよく、アルカンが好ましい。また、直鎖であっても分岐であってもよく、直鎖が好ましい。
好ましい脂肪族炭化水素の具体例としては、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカンなどの飽和または不飽和炭化水素が挙げられる。
なかでも、炭素原子数10以上18以下の直鎖アルカンが好ましい。
培地に加える脂肪族炭化水素は1種であっても2種以上であってもよい。
上記アルコール及び炭化水素の中でも、1−デカノール、1−ウンデカノール、1−ドデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、2−デカノール、2−ウンデカノール、2−ドデカノール、2−トリデカノール、2−テトラデカノール、2−ペンタデカノール、2−ヘキサデカノール、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカンが好ましく、1−ドデカノール、1−トリデカノール、1−テトラデカノール、1−ペンタデカノール、1−ヘキサデカノール、2−ドデカノール、2−トリデカノール、2−テトラデカノール、2−ペンタデカノール、2−ヘキサデカノール、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカンがより好ましく、1−テトラデカノール、2−テトラデカノール、ヘキサデカンがさらに好ましい。
培地はアルコールと脂肪族炭化水素の両方を含有してもよい。
アルコールと脂肪族炭化水素以外の培地成分は、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
例えば、宿主が微生物の場合、炭素源としてグルコース、スクロース、フルクトース、マルトース、デンプン加水分解物(水あめ)、セルロース加水分解物、又は廃糖蜜(モラセス)などの糖類、ソルビトールやグリセリン等の糖アルコール類、クエン酸などの有機酸類等、窒素源として酵母エキス、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アンモニア水、尿素、大豆タンパク質、麦芽エキス、アミノ酸、ペプトン、コーンスティーブリカー等、無機塩類としてマンガン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、鉄イオン、銅イオン、硫酸塩、リン酸塩等、ビタミン類としてビオチン、イノシトール等を用いることができる。
特に、宿主が酵母の場合には、糖源としてグルコース、窒素源として酵母エキス、塩化アンモニウム、尿素等、無機塩類として硫酸マグネシウム・7水和物、塩化ナトリウム、塩化カルシウム・2水和物、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等を用いることが好ましい。場合によっては消泡剤などを添加してもよい。
形質転換体の培養条件も、宿主の種類に応じて適宜好ましい培養条件を選択することができる。
例えば、宿主が微生物の場合には、培地のpHは2.5〜9.0程度に調節することが好ましい。pHの調整は、無機又は有機の酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム、アンモニア等を用いて行えばよい。培養温度は15〜35℃程度が好ましく、25〜32℃程度がより好ましい。培養時間は6〜200時間程度が好ましく、24〜148時間程度がより好ましい。必要により通気や攪拌を加えてもよい。
特に、宿主が酵母の場合には、培地のpHは用いる酵母が生育し得る範囲、例えば、pH3.0〜8.0程度に調節することが好ましい。培養温度は15〜35℃程度が好ましく、28〜32℃程度がより好ましい。培養時間は48〜148時間程度が好ましく、振盪又は通気撹拌培養することが好ましい。
形質転換体を培養し脂肪族ジオールを産生させた後、培養物(培養体や培養液等)から脂肪族ジオールを単離、精製等して回収する。
脂肪族ジオールを単離、回収する方法としては特に限定されず、通常微生物の培養上清から脂肪族ジオール成分を単離する際に用いられる方法により行うことができる。例えば、溶剤抽出、疎水やイオン交換樹脂による吸脱着、晶析による固液分離、膜処理等の方法を用いることができる。
本発明の製造方法は、形質転換体の宿主、培地に含有させるアルコール又は脂肪族炭化水素の種類を適宜選択することにより、種々の脂肪族ジオールを製造することができる。 ポリエステル樹脂およびポリウレタン樹脂の原料モノマーや添加剤としての利用性から、炭素原子数10以上の脂肪族ジオールが好ましく、12以上がより好ましい。また、炭素原子数18以下が好ましく、16以下がより好ましい。さらに、炭素原子数10以上18以下が好ましく、10以上16以下がより好ましく、12以上16以下がさらに好ましい。また、同様の観点から、直鎖の飽和脂肪族基を有するジオールが好ましい。
また、脂肪族ジオールの水酸基の位置も特に限定されない。脂肪族ジオールとして好ましくは、α位又はβ位のいずれか1方、及びω位又はω−1位のいずれか1方に水酸基を有するジオールであり、α,ω−脂肪族ジオール、β,ω−脂肪族ジオール、又はβ,ω−1−脂肪族ジオールが好ましい。
本発明の製造方法により得られた脂肪族ジオールは、ポリエステル樹脂の原料モノマー、ポリウレタン樹脂の添加剤、医農薬原料の中間体等として利用できる。
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の方法、形質転換体を開示する。
<1> 下記(1)及び(2)の工程を含む、脂肪族ジオールの製造方法。
(1)下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、及び下記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を有する宿主において、これらの遺伝子が欠失、変異又は発現抑制され、該宿主と比べてアルコールオキシダーゼ活性及びアルコールへの糖転移活性が低下した形質転換体を、アルコール又は脂肪族炭化水素を含有する培地で培養する工程
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1又は数個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質
(d)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(e)配列番号3で表されるアミノ酸配列と50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質
(f)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1又は数個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質
(2)得られた培養物から脂肪族ジオールを採取する工程
<2> 前記宿主が微生物である、<1>項記載の方法。
<3> 前記微生物が酵母である、<2>項記載の方法。
<4> 前記酵母がカンジダ(Candida)属に属する菌類である、<3>項記載の方法。
<5> 前記カンジダ(Candida)属に属する菌類が、Candida bombicolaCandida apicolaCandida batistaeCandida floricolaCandida riodocensis、及びCandida stellataからなる群より選ばれる、<4>項記載の方法。
<6> 前記カンジダ(Candida)属に属する菌類が、Candida bombicolaである、<5>項記載の方法。
<7> 前記アルコール又は脂肪族炭化水素の炭素原子数が10以上18以下、好ましくは10以上16以下、より好ましくは12以上16以下である、<1>〜<6>のいずれか1項記載の方法。
<8> 前記脂肪族ジオールの炭素原子数が10以上18以下、好ましくは10以上16以下、より好ましくは12以上16以下である、<1>〜<7>のいずれか1項記載の方法。
<9> 前記脂肪族ジオールが、α,ω−脂肪族ジオール、β,ω−脂肪族ジオール、又はβ,ω−1−脂肪族ジオールである、<1>〜<8>のいずれか1項記載の方法。
<10> 前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子が、下記(a1)〜(c1)のいずれかのDNAからなる遺伝子である、<1>〜<9>のいずれか1項記載の方法。
(a1)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA
(b1)配列番号2で表される塩基配列と55%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
(c1)配列番号2で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA
<11> 前記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子が、下記(d1)〜(f1)のいずれかのDNAからなる遺伝子である、<1>〜<10>のいずれか1項記載の方法。
(d1)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA
(e1)配列番号4で表される塩基配列と55%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質をコードするDNA
(f1)配列番号4で表される塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質をコードするDNA
<12> 前記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、及び前記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を有する宿主において、これらの遺伝子が欠失、変異又は発現抑制され、該宿主と比べてアルコールオキシダーゼ活性及びアルコールへの糖転移活性が低下した形質転換体。
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[培地、培養条件]
カンジダ(Candida)属酵母の培養には、以下の培地を使用した。各培地は、121℃、20分のオートクレーブ後に混ぜ合わせて使用した。
また、前培養はφ24mm×200mm大型試験管(YPD培地5mL仕込み)にて30℃、250rpmで48時間振盪培養した種培養液を、φ24mm×200mm大型試験管(ジオール生産培地5mL仕込み)に2%(v/v)植菌し、30℃、250rpmで振盪培養した。

YPD培地: 1% (D)-グルコース、1% BactoTM Yeast Extract(日本BD社製)、1% BactoTM Tryptone(日本BD社製)
ジオール生産培地: 15% (D)-グルコース、0.41% クエン酸3ナトリウム(無水)、0.4% BactoTM Yeast Extract、0.154% 塩化アンモニウム、0.07% 硫酸マグネシウム・7水和物、0.05% 塩化ナトリウム、0.027% 塩化カルシウム・2水和物、0.1% リン酸2水素カリウム、0.012% リン酸水素2カリウム (1M HClにてpH 5.8に調整)
最小培地: 0.68% Yeast nitrogen base without amino acids(日本BD社製)、2%(D)-グルコース
アルコール資化培地: 0.68% Yeast nitrogen base without amino acids(日本BD社製)、0.05% BactoTM Yeast Extract、2%炭素源
[ゲノムDNA抽出]
カンジダ・ボンビコーラのゲノムDNAは、φ24mm×200mm大型試験管(YPD培地、5mL仕込み)にて30℃、250rpmにて48時間振盪培養した培養液を、4℃、15000rpmにて1分遠心分離し集めた菌体から、Genとるくん(酵母用)High Recovery(タカラバイオ社製)によって抽出した。
[PCR]
PCR反応にはPrimeStar Max DNA Polymelase(タカラバイオ社製)を用い、添付のプロトコールに従い操作した。
実施例1
1.AOX1遺伝子欠損株の構築
(1)AOX1遺伝子欠失用プラスミドの構築
配列番号2に示すカンジダ・ボンビコーラのアルコールオキシダーゼ遺伝子(以下、AOX1遺伝子)欠失用プラスミドpUC-ΔAOXを、下記の手法で構築した。
pUC-ΔAOXは、AOX1遺伝子(配列番号2)の上流約1000bp、及び下流約1000bpの領域と相補する配列を有し、当該領域間にura3遺伝子が挿入されるよう設計した。
カンジダ・ボンビコーラ KSM36株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、下記表1に示すPCRプライマーAOX1 US in F1(配列番号5)及びAOX1 US-ura R(配列番号6)、Pura3 F(配列番号7)及びura3 R(配列番号8)、ura-AOX1 LS F(配列番号9)、AOX1 LS in R1(配列番号10)を用い、AOX1遺伝子の上流約1000bpの領域、ura3遺伝子、AOX1遺伝子の下流約1000bpの領域のDNA断片を増幅した。
次に、プラスミドpUC118を鋳型とし、下記表1に示すPCRプライマーpUC in F2(配列番号11)及びpUC in R2(配列番号12)を用いてプラスミド領域を増幅し、これをInfusion HD Cloning Kit(Clontech社製)を用いて、上記のDNA断片と結合した。得られたプラスミドを、大腸菌DH5αに導入し、100ppmのアンピシリンナトリウム塩を含むLB寒天培地上にて培養し、生育したコロニーを形質転換体として分離した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出して、目的のAOX1遺伝子欠失用プラスミドpUC-ΔAOXを得た。
(2)カンジダ・ボンビコーラ AOX1遺伝子欠失株の構築
M. D. DE. Backerら, Yeast(1999), 15,p.1609-1618.の手法に従い、pUC-ΔAOXを用いてKSMΔura3株を形質転換した。
I. V. Bogaertら, Yeast(2008),25,p.273−278.に記載の手法により、カンジダ・ボンビコーラ KSM36株より、ウラシル要求性株を選抜した。さらに、ウラシル要求性株の中から、ura3遺伝子領域に変異が挿入された株を選抜し、KSMΔura3株とした。
KSM36株とKSMΔura3株のura3遺伝子領域の配列を解析したところ、KSMΔura3株では、一塩基変異により、54位のシステイン(Cys)がチロシン(Tyr)に変化していた。KSMΔura3株は最小培地では生育できず、5-フルオロオロチン酸添加YPD培地、及びウラシル添加最小培地にて生育可能であった。また、KSMΔura3株に、カンジダ・ボンビコーラ NBRC10243株由来の野生型ura3遺伝子を、上記IAN Van Bogaertらの手法にて導入したところ、最小培地にて生育可能となった。また、本菌株は、培地にウラシルを添加した場合、ソホロリピッド生産能は親株であるKSM36株と同等であった。
KSMΔura3株を300ppmのウラシルを添加したYPD培地5mLに植菌し、30℃、250rpm、48時間前培養した。培養液0.5mLを300ppmのウラシルを添加したYPD培地50mLに接種し、30℃、120rpmで約6時間培養した。生育した菌体を集菌した後、氷冷した滅菌水20mLで菌体を2回洗浄した。菌体を、氷冷した1mLの1M ソルビトール溶液に懸濁し、5000rpmで5分間遠心し、上清を捨てた後、400μLの1M ソルビトールを加えて懸濁した。菌体懸濁液を50μLずつ分注し、pUC-ΔAOXを2.5μg加えた。菌体懸濁液を、BIO-RAD GENE PULSER II(バイオラッド社製)を用いてエレクトロポレーションした後、1M ソルビトールを含む最小培地にまいて、30℃で1週間培養した。
得られた形質転換体から、PCR法により、AOX1遺伝子の上流及び下流領域での二重交叉による相同組換えが生じた株を選抜した。得られた形質転換体よりゲノムDNAを抽出し、表1に示すPCRプライマーAOX1 US in F1(配列番号5)及びAOX1 LS in R1(配列番号10)を用いてPCRを行った。非相同組換え、及び一重交差による相同組換えでは破壊用ベクター由来の約3000bp、及び野生型ゲノム由来の約3500bpの二つのバンドが確認され、AOX1遺伝子部位での二重交差による相同組換えでは破壊用ベクター由来の約3000bpのバンドのみが観察される。この結果、得られた形質転換体あたり70%の確率で二重交叉による相同組換え株が得られ、これをKSMΔAOX株とした。
(3)カンジダ・ボンビコーラ ウラシル遺伝子導入株
AOX1遺伝子欠失株の対照菌株として、KSMΔura株に、AOX1遺伝子が欠失しないように、野生型ura3遺伝子をKSMΔura株の変異ura3領域に導入した株KSMΔura-ura株を作製した。
カンジダ・ボンビコーラ KSM36株から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、下記表1に示すPCRプライマーPura3 F(配列番号7)、及びura3 R2(配列番号13)を用いて、PCR法にてura3領域のDNA断片を増幅した。得られたDNA断片を、Mighty Cloning Reagent Set Blunt End(タカラバイオ社製)を用いて、pUC118DNA HincII/BAP(タカラバイオ社製)へ挿入し、プラスミドpUC-ura3を得た。
プラスミドpUC-ura3を用い、上記(2)と同様の手法にてKSMΔura株に導入した。得られた形質転換体よりゲノムDNAを抽出し、プラスミド領域に設計したプライマーpUC seq 1(配列番号14)及びpUC seq 2(配列番号15)を用いて、PCRによる組換えの確認を行った。この結果、得られた形質転換体あたり11%の確率で二重交叉による相同組換え株が得られ、これをKSMΔura-ura株とした。
2.アルコールオキシダーゼ活性の測定
カンジダ・ボンビコーラ KSMΔura-ura株、及びKSMΔAOX株を、YPD培地にて30℃、250rpm、48時間、前培養した。前培養液を、炭素源として(D)-グルコース、及び1-ヘキサデカノールを10g/Lずつ添加したアルコール資化培地に1%植菌し、30℃、250rpmにて48時間培養した。培養後の菌体からミクロソーム膜タンパク質画分を調製し、アルコールオキシダーゼ活性(AOX活性)を測定した。なお、微生物のアルコールオキシダーゼは膜タンパク質画分に局在することが知られている。
ミクロソーム膜タンパク質画分の調製、及びアルコールオキシダーゼ活性の測定は、G. D. Kempら,Appl. Microbiol. Biotechnol. (1988), 29,p.370-374記載の方法に従い行った。
[ミクロソーム膜タンパク質画分の調製]
培養後の菌体20mLを、8000rpm、4℃にて10min遠心して集菌した後、菌体を10mLの生理食塩水で2回洗浄した。菌体を1/15M リン酸バッファー(pH7.4) 500μLを加え懸濁し、マルチビーズショッカー(安井器械製)、及び媒体に0.5mmグラスビーズを用いて破砕した。500μLの1/15M リン酸バッファー(pH7.4)を添加、混合し、破砕液を4℃、3000gで5分遠心し、破砕されなかった菌体を除去した。上清を4℃、20000gで60分遠心し、ミトコンドリアとペルオキシソーム画分を除去した。残った上清を回収し、4℃、100000gで90分遠心し、沈殿を回収し200μLの1/15M リン酸バッファー(pH7.4)を添加し懸濁した。この懸濁液を、ミクロソーム膜タンパク質画分として、以下のアルコールオキシダーゼ活性の測定に用いた。
[アルコールオキシダーゼ活性の測定]
0.1M リン酸バッファー(pH7.4) 100μL、2.8g/L 2,2’-azino-di [3-ethylbenzothiazoline-(6)-sulfonic acid](ABTS)溶液 50μL、horseradish peroxidase 47units/mL溶液 30μL、及びミクロソーム膜タンパク質画分 10μLを混合し、30℃で5分インキュベートした。その後、5mM 1-ドデカノール DMSO溶液 10μLを添加し、0分、及び5分後の405nmにおける吸光度を測定した。アルコールオキシダーゼは、1μmolのアルコールを酸化し、2μmolのラジカルカチオンを産生する。1mMのラジカルカチオン型ABTSは405nmで18.4の吸光度を示すが、これは0.5mMの酸化された基質と同義である。そこで、1分間に0.0368の吸光度変化を、アルコールオキシダーゼ活性の1Uと定義した。
ミクロソーム膜タンパク質1gあたりのアルコールオキシダーゼ活性を図1に示す。
図1から明らかなように、AOX1遺伝子が欠失したKSMΔAOX株は、KSMΔura-ura株と比べて、アルコールオキシダーゼ活性が大幅に低下した。
3.UGTA遺伝子欠損株の構築
(1)UGTA1遺伝子欠失用プラスミドの構築
配列番号4に示すカンジダ・ボンビコーラの糖転移酵素遺伝子(以下、UGTA1遺伝子)欠失用プラスミドpUC-ΔUGTAを、下記の手法で構築した。
なお、用いたUGTA1遺伝子(配列番号4)は、カンジダ・ボンビコーラの糖転移酵素の1つとして報告されているものである(K. Saerens., et. al., (2011) FEMS Yeast Res., 11, 123-132参照)。前記文献では、当該UGTA1遺伝子をコードするタンパク質が、ω−ヒドロキシ脂肪酸に対して糖転移活性を持つことが報告されている。しかしながら、当該タンパク質がアルコールに対する糖転移活性を有するかは、不明であった。また、本発明者らの調査によれば、これまでにカンジダ・ボンビコーラにおいて、アルコールへの糖転移酵素に関する報告例は認められなかった。
そのため、UGTA1遺伝子欠損株を構築して、当該遺伝子によりコードされる酵素がアルコールに対する糖転移活性を有するものであるかを検証した。
カンジダ・ボンビコーラKSM36から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、表1に示すPCRプライマーpUC-UGTA US in F1(配列番号16)及びUGTA US-ura R(配列番号17)、Pura3 F及びura3 R、UGTA LS F(配列番号18)、UGTA LS-pUC R1(配列番号19)のプライマーを用いてUGTA1遺伝子の上流領域、ura3遺伝子、UGTA1遺伝子の下流領域の断片を増幅した。次に、プラスミドpUC118を鋳型とし、表1に示すpUC in F2及びpUC in R2のプライマーを用いてプラスミド領域を増幅し、上記の断片をInfusion HD Cloning Kitを用いて結合させ、大腸菌DH5αに導入し、100ppmのアンピシリンナトリウム塩を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出して、目的のUGTA1遺伝子欠失用プラスミドpUC-ΔUGTAを得た。
(2)UGTA1遺伝子欠損株の構築
得られたプラスミドpUC-ΔUGTAを用いて、前記1.(2)と同様の手法でKSMΔura3株を形質転換した。
得られた形質転換体から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、表1に示すプライマーpUC-UGTA US in F1及びUGTA LS-pUC R1を用いてPCRを行った。PCRは、PrimeStar MaxDNA Polymerase(タカラバイオ)添付のプロトコールに従った。非相同組換え、及び一重交差による相同組換えでは破壊用ベクター由来の約3000bp、及び野生型ゲノム由来の約3500bpの二つのバンドが確認され、UGTA1遺伝子部位での二重交差による相同組換えでは破壊用ベクター由来の約3000bpのバンドのみが観察される。得られた形質転換体あたり36%の確率で相同組換え株が得られ、これをKSMΔUGTA株とした。
4.UGTA遺伝子及びAOX1遺伝子の二重欠損株の構築
前記1.(1)のプラスミドpUC-ΔAOXにおいて、ura3遺伝子をハイグロマイシン耐性遺伝子に置換したAOX1遺伝子欠失用プラスミドを作製した。プロモーター及びターミネーター領域はカンジダ・ボンビコーラ由来ura3遺伝子の配列を用いた。pUC-ΔAOXを鋳型とし、表1に示すura3T F1(配列番号20)及びPura3-Hygre R1(配列番号21)のプライマーを、及びハイグロマイシン耐性遺伝子を含有するpREP4(Invitrogen社製)を鋳型とし、表1に示すPura-Hygre in F1(配列番号22)及びHygre-ura3T in R1(配列番号23)のプライマーを用いて、ura3ターミネーター領域とura3プロモーター領域を含むAOX1遺伝子欠失用ベクター領域、ハイグロマイシン耐性遺伝子の断片を増幅した。上記の断片を、Infusion HD Cloning Kitを用いて結合させ、大腸菌DH5αに導入し、100ppmのアンピシリンナトリウム塩を含むLB寒天培地上に生育したコロニーを形質転換体として分離した。得られた形質転換体からプラスミドを抽出して、目的のAOX1遺伝子欠失用プラスミドpUC-ΔAOX1::Hygを得た。
得られたプラスミドpUC-ΔAOX1::Hygを用いて、前記1.(2)と同様の手法でKSMΔUGTA株を形質転換した。
得られた形質転換体から抽出したゲノムDNAを鋳型とし、表1に示すプライマーAOX1 US in F1及びAOX1 LS in R1を用いてPCRを行った。非相同組換え、及び一重交差による相同組換えでは破壊用ベクター由来の約4000bp、及び野生型ゲノム由来の約3500bpの二つのバンドが確認され、AOX1遺伝子部位での二重交差による相同組換えでは破壊用ベクター由来の約4000bpのバンドのみが観察される。得られた形質転換体あたり50%の確率で相同組換え株が得られ、これをKSMΔAOXΔUGTA株とした。
5.各遺伝子欠損株の脂肪族ジオール生産性
上記で得られたKSMΔura-ura株、KSMΔUGTA株、KSMΔAOX株、KSMΔAOXΔUGTA株をそれぞれ、YPD培地にて、30℃、250rpmで48時間前培養した。前培養液を、ジオール生産培地30mL仕込み500mL坂口フラスコに2%植菌し、さらに基質として2-テトラデカノールを20g/Lとなるよう添加し、30℃、120rpmにて培養した。基質添加から48時間後の培養液を、GC分析に供し、各株における脂肪族ジオール生産性、及びアルキルポリグリコシド(APG)生産性をそれぞれ測定した。
[GC-MS分析]
培養液5mLより内部標準として1-オクタデカノールを0.05%添加した1-ブタノール2.5mLにて2回抽出を行った。次に、遠心エヴァポレーターにて乾固し、1M NaOH水溶液を添加し、100℃で4時間処理した。続いて、1-ブタノール2.5mLにて2回抽出を行った後、遠心エヴァポレーターにて乾固し、トリメチルシリル(TMS)化試薬を用いて誘導体化した。TMS化したサンプルを以下のGC-FID、及びGC-MS法にて解析し、脂肪族ジオール、アルキルポリグリコシド生産量、及び残存基質量を得た。
GCは、装置として7890A(アジレント・テクノロジー社製)、カラムとしてDB-1 ms 25m×0.20mm×330μm(J&W scientific社製)、移動相に高純度ヘリウムを用い、流量1mL/min、昇温プログラム100℃(1分)→10℃/分→300℃(20分)にて行った。標準物質としてn−ドデシルマルトシド(CALBIOCHEM社製)を用い、18分から22分に検出されるアルキルポリグルコシド由来のピークを積算し、アルキルポリグルコシド総生産量として算出した。脂肪族ジオールについては、標準物質として1,14-テトラデカンジオール(ALDRICH社製)を用い、下記のGC-MS解析により確認した9分から14分に検出されるジオール体由来のピークを積算し、脂肪族ジオール総生産量として算出した。
GC-MSは、装置として7890A-5975C(アジレント・テクノロジー社製)、カラムとしてDB-1 ms 25m×0.20mm×330μm(J&W scientific社製)、移動相に高純度ヘリウムを用い、流量1mL/min、昇温プログラム100℃(1min)→10℃/min→300℃(20min)にて行った。
KSMΔura-ura株、KSMΔAOX株、KSMΔUGTA株、KSMΔAOXΔUGTA株におけるGC分析の結果を図2a)〜d)にそれぞれ示す。図2において、ISは内部標準として用いた1-オクタデカノール、2-C14ol由来APGは2−テトラデカノールにソホロシドが付加した化合物由来のピークをそれぞれ示す。
図2a)に示すように、KSMΔura-ura株では、2-C14ol由来APGのメインピーク以外に、高沸点側にピーク3が確認された。b)に示すように、KSMΔAOX株では、KSMΔura-ura株と同様に3のピークが確認された他、KSMΔura-ura株にはないピーク4及び5が高沸点側に確認された。さらに、2-テトラデカノールと内部標準である1-オクタデカノールの間に、ピーク1及び2が確認された。c)に示すように、KSMΔUGTA株では、KSMΔAOX株と同様のピーク1が確認された。一方、KSMΔura-ura株やKSMΔAOX株で認められた2-C14ol由来APGのメインピークやピーク3は確認されなかった。d)に示すように、KSMΔAOXΔUGTA株では、KSMΔAOX株と同様のピーク1及び2が確認された。一方、KSMΔura-ura株やKSMΔAOX株で認められた2-C14ol由来APGのメインピークやピーク3は確認されなかった。
続いて、GC-MS解析により、上記ピーク1〜5の各化合物(以下、ピーク1化合物等という)の構造を決定した。
水酸基を有する脂肪酸類をTMS化した後にGC-MS解析を行った場合、水酸基の位置に寄らず常に水酸基を含むアルキル末端側のフラグメントイオンが得られる。フラグメントイオンの例を表2に示した。
GC-MS解析の結果、ピーク1化合物ではフラグメントイオンとして73及び117が、ピーク2化合物は73、103及び117が認められた。また、ピーク1及び2化合物は、2-テトラデカノールのTMS化物と内標である1-オクタデカノールのTMS化物の間に検出されるため、沸点もこの両者の中間と推定される。これらのことから、ピーク1化合物は2-テトラデカノールのω-1位が水酸化された2,13-テトラデカンジオールであり、ピーク2化合物は2-テトラデカノールのω末端が水酸化された1,13-テトラデカンジオールであると考えられた。
また、ピーク3化合物では73、117及び271.1、ピーク4化合物では73及び103、ピーク5化合物では73、117及び271.1がフラグメントイオンとして確認された。
ピーク4化合物では103のフラグメントイオンが認められることから、ピーク2化合物である1,13-テトラデカンジオールに糖転移したジオール型アルキルポリグリコシドと考えられた。さらに、117のピークが検出されないため、1,13-テトラデカンジオールの13位の水酸基に糖が転移されていると考えられた。これらの結果から、ピーク4化合物は、ジオール型アルキルポリグリコシド(13-hydroxy-1-methyl-1-O-tridecyl-(2’-O-β-D-glucopyranosyl-β-D-glucopyranoside))であると考えられた。
一方、ピーク3化合物とピーク5化合物は同じフラグメントイオンパターンを示した。ピーク5化合物はKSMΔAOX株培養時にのみ認められた。また、KSMΔAOX株ではAOX1遺伝子欠損により、1級アルコールを含むジオールが蓄積すると考えられる。これらのことから、KSMΔAOX株のみで認められたピーク5化合物は、ピーク2化合物である1,13-テトラデカンジオールの1位の水酸基に糖付加したジオール型アルキルポリグリコシド(13-hydroxy-1-O-tetradecyl-(2’-O-β-D-glucopyranosyl-β-D-glucopyranoside))であり、他方、ピーク3化合物は、ピーク1化合物である2,13-テトラデカンジオールのどちらかの水酸基に糖転移したジオール型アルキルポリグリコシド(12-hydroxy-1-methyl-1-O-tridecyl-(2’-O-β-D-glucopyranosyl-β-D-glucopyranoside))であると考えられた。
以上まとめると、KSMΔura-ura株は、アルキルポリグリコシドとしてジオール型アルキルポリグリコシド(12-hydroxy-1-methyl-1-O-tridecyl-(2’-O-β-D-glucopyranosyl-β-D-glucopyranoside)、及び第2級アルコール型アルキルポリグリコシド(1-methyl-1-O-tridecyl-(2’-O-β-D-glucopyranosyl-β-D-glucopyranoside)を生産し、アルキルポリグリコシド総生産量は3.30g/Lであった。一方、KSMΔura-ura株では脂肪族ジオールの生産は確認されなかった。
KSMΔAOX株では、KSMΔura-ura株で確認されたアルキルポリグリコシドに加えて、2種のジオール型アルキルポリグリコシド(13-hydroxy-1-methyl-1-O-tridecyl-(2’-O-β-D-glucopyranosyl-β-D-glucopyranoside)、及び13-hydroxy-1-O-tetradecyl-(2’-O-β-D-glucopyranosyl-β-D-glucopyranoside))を生産し、アルキルポリグリコシド総生産量は8.97g/Lであった。また、脂肪族ジオールとして、基質である2-テトラデカノールのω-1位が水酸化された2,13-テトラデカンジオール、及び2-テトラデカノールのω末端が水酸化された1,13-テトラデカンジオールを生産し、脂肪族ジオール総生産量は0.44g/Lであった。
KSMΔUGTA株ではアルキルポリグリコシドの生産は確認されなかった。一方、脂肪族ジオールとして、KSMΔAOX株でも確認された2,13-テトラデカンジオールを生産し、脂肪族ジオール総生産量は0.78g/Lの生産性であった。
KSMΔAOXΔUGTA株では、アルキルポリグリコシドの生産は確認されなかった。一方、脂肪族ジオールとして、KSMΔAOX株と同様、2,13-テトラデカンジオール及び1,13-テトラデカンジオールを生産し、脂肪族ジオール総生産量は2.50g/Lであった。
各株におけるアルキルポリグリコシド総生産量及び脂肪族ジオール総生産量を図3に示す。
図3から明らかなように、KSMΔUGTA株ではアルキルポリグリコシドの生産能が消失した。これにより、UGTA1遺伝子によりコードされる酵素は、ω-ヒドロキシ脂肪酸だけでなく、アルコールの水酸基に対しても糖転移活性を有していることが確認された。
また、AOX1遺伝子とUGTA1遺伝子の二重欠損株であるKSMΔAOXΔUGTA株では、アルキルポリグリコシドの生産性が消失し、脂肪族ジオールの生産性がKSMΔAOX株に比べて約6倍に向上していた。
これらの結果から、KSMΔAOXΔUGTA株は、2級アルコールを原料とし、脂肪族ジオールを高い収率で生産できることがわかった。
実施例2
実施例1の5.において、基質の2-テトラデカノールを表3に示す基質に変更し、基質添加量を10g/L、基質添加後の培養時間を44時間に変更した以外は同様にして、KSMΔAOXΔUGTA株の脂肪族ジオール生産性を検証した。結果を表3に示す。
表3から明らかなように、各基質に対応するジオールが生成することが確認された。このことから、KSMΔAOXΔUGTA株は、1級アルコール、2級アルコール又はアルカンから、脂肪族ジオールを生産できることがわかった。

Claims (7)

  1. 下記(1)及び(2)の工程を含み、カンジダ(Candida)属に属する菌類を下記の宿主とする、脂肪族ジオールの製造方法。
    (1)下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、及び下記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を有する宿主において、これらの遺伝子が欠失、変異又は発現抑制され、該宿主と比べてアルコールオキシダーゼ活性及びアルコールへの糖転移活性が低下した形質転換体を、アルコール又は脂肪族炭化水素を含有する培地で培養する工程
    (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質
    (c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質
    (d)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (e)配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質
    (f)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質
    (2)得られた培養物から脂肪族ジオールを採取する工程
  2. 前記カンジダ(Candida)属に属する菌類が、Candida bombicolaCandida apicolaCandida batistaeCandida floricolaCandida riodocensis、及びCandida stellataからなる群より選ばれる、請求項記載の方法。
  3. 前記アルコール又は脂肪族炭化水素の炭素原子数が10以上18以下である、請求項1又は2記載の方法。
  4. 前記脂肪族ジオールの炭素原子数が10以上18以下である、請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
  5. 前記脂肪族ジオールが、α,ω−脂肪族ジオール、β,ω−脂肪族ジオール、又はβ,ω−1−脂肪族ジオールである、請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
  6. 下記(a)〜(c)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子、及び下記(d)〜(f)のいずれかのタンパク質をコードする遺伝子を有する宿主において、これらの遺伝子が欠失、変異又は発現抑制され、該宿主と比べてアルコールオキシダーゼ活性及びアルコールへの糖転移活性が低下した形質転換体であって、カンジダ(Candida)属に属する菌類を前記宿主とする、形質転換体
    (a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (b)配列番号1で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質
    (c)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアルコールオキシダーゼ活性を有するタンパク質
    (d)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質
    (e)配列番号3で表されるアミノ酸配列と90%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質
    (f)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列からなり、かつアルコールへの糖転移活性を有するタンパク質
  7. 前記カンジダ(Candida)属に属する菌類が、Candida bombicola、Candida apicola、Candida batistae、Candida floricola、Candida riodocensis、及びCandida stellataからなる群より選ばれる、請求項6記載の形質転換体。
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