次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
図1は、本開示のダンパ装置10を含む発進装置1を示す概略構成図であり、図2は、発進装置1を示す断面図である。これらの図面に示す発進装置1は、原動機としてのエンジン(本実施形態では、内燃機関)EGを備えた車両に搭載されるものであり、ダンパ装置10に加えて、エンジンEGのクランクシャフトに連結されるフロントカバー3や、フロントカバー3に固定されるポンプインペラ(入力側流体伝動要素)4、ポンプインペラ4と同軸に回転可能なタービンランナ(出力側流体伝動要素)5、ダンパ装置10に連結されると共に自動変速機(AT)、無段変速機(CVT)、デュアルクラッチトランスミッション(DCT)、ハイブリッドトランスミッション、あるいは減速機である変速機(動力伝達装置)TMの入力軸ISに固定される動力出力部材としてのダンパハブ7、ロックアップクラッチ8等を含む。
なお、以下の説明において、「軸方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10の中心軸(軸心)の延在方向を示す。また、「径方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10、当該ダンパ装置10等の回転要素の径方向、すなわち発進装置1やダンパ装置10の中心軸から当該中心軸と直交する方向(半径方向)に延びる直線の延在方向を示す。更に、「周方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、発進装置1やダンパ装置10、当該ダンパ装置10等の回転要素の周方向、すなわち当該回転要素の回転方向に沿った方向を示す。
ポンプインペラ4は、図2に示すように、フロントカバー3に密に固定されるポンプシェル40と、ポンプシェル40の内面に配設された複数のポンプブレード41とを有する。タービンランナ5は、図2に示すように、タービンシェル50と、タービンシェル50の内面に配設された複数のタービンブレード51とを有する。タービンシェル50の内周部は、複数のリベットを介してタービンハブ52に固定される。タービンハブ52は、ダンパハブ7により回転自在に支持され、当該タービンハブ52(タービンランナ5)の発進装置1の軸方向における移動は、ダンパハブ7と、当該ダンパハブ7に装着されるスナップリングにより規制される。
ポンプインペラ4とタービンランナ5とは、互いに対向し合い、両者の間には、タービンランナ5からポンプインペラ4への作動油(作動流体)の流れを整流するステータ6が同軸に配置される。ステータ6は、複数のステータブレード60を有し、ステータ6の回転方向は、ワンウェイクラッチ61により一方向のみに設定される。これらのポンプインペラ4、タービンランナ5およびステータ6は、作動油を循環させるトーラス(環状流路)を形成し、トルク増幅機能をもったトルクコンバータ(流体伝動装置)として機能する。ただし、発進装置1において、ステータ6やワンウェイクラッチ61を省略し、ポンプインペラ4およびタービンランナ5を流体継手として機能させてもよい。
ロックアップクラッチ8は、ダンパ装置10を介してフロントカバー3とダンパハブ7とを連結するロックアップを実行すると共に当該ロックアップを解除するものである。本実施形態において、ロックアップクラッチ8は、単板油圧式クラッチとして構成されており、フロントカバー3の内部かつ当該フロントカバー3のエンジンEG側の内壁面近傍に配置されると共にダンパハブ7に対して軸方向に移動自在に嵌合されるロックアップピストン(動力入力部材)80を有する。また、ロックアップピストン80の外周側かつフロントカバー3側の面には、図2に示すように、摩擦材81が貼着される。更に、ロックアップピストン80とフロントカバー3との間には、作動油供給路や入力軸ISに形成された油路を介して図示しない油圧制御装置に接続されるロックアップ室(係合油室)85が画成される。
ロックアップ室85内には、入力軸ISに形成された油路等を介してポンプインペラ4およびタービンランナ5の軸心側(ワンウェイクラッチ61の周辺)から径方向外側に向けてポンプインペラ4およびタービンランナ5(トーラス)へと供給される油圧制御装置からの作動油が流入可能である。従って、フロントカバー3とポンプインペラ4のポンプシェルとにより画成される流体伝動室9内とロックアップ室85内とが等圧に保たれれば、ロックアップピストン80は、フロントカバー3側に移動せず、ロックアップピストン80がフロントカバー3と摩擦係合することはない。これに対して、図示しない油圧制御装置によりロックアップ室85内を減圧すれば、ロックアップピストン80は、圧力差によりフロントカバー3に向けて移動してフロントカバー3と摩擦係合する。これにより、フロントカバー3(エンジンEG)は、ロックアップピストン80やダンパ装置10を介してダンパハブ7に連結される。なお、ロックアップクラッチ8として、少なくとも1枚の摩擦係合プレート(複数の摩擦材)を含む多板油圧式クラッチが採用されてもよい。この場合、当該多板油圧式クラッチのクラッチドラムまたはクラッチハブが動力入力部材として機能することになる。
ダンパ装置10は、エンジンEGと変速機TMとの間で振動を減衰するものであり、図1に示すように、同軸に相対回転する回転要素(回転部材すなわち回転質量体)として、ドライブ部材(入力要素)11、第1中間部材(第1中間要素)12、第2中間部材(第2中間要素)14およびドリブン部材(出力要素)16を含む。更に、ダンパ装置10は、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11と第1中間部材12との間に配置されて回転トルク(回転方向のトルク)を伝達する複数(本実施形態では、例えば2個)の第1外側スプリング(第1弾性体)SP11、第1中間部材12とドリブン部材16との間に配置されて回転トルク(回転方向のトルク)を伝達する複数(本実施形態では、例えば2個)の第2外側スプリング(第2弾性体)SP12、ドライブ部材11と第2中間部材14との間に配置されて回転トルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の第1内側スプリング(第3弾性体)SP21、第2中間部材14とドリブン部材16との間に配置されて回転トルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の第2内側スプリング(第4弾性体)SP22、および第1中間部材12と第2中間部材14との間に配置されて回転トルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば2個)の中間スプリング(第5弾性体)SPmを含む。
本実施形態では、第1および第2外側スプリングSP11,SP12、第1および第2内側スプリングSP21,SP22並びに中間スプリングSPmとして、荷重が加えられてないときに真っ直ぐに延びる軸心を有するように螺旋状に巻かれた金属材からなる直線型コイルスプリングが採用される。これにより、アークコイルスプリングを用いた場合に比べて、スプリングSP11〜SPmを軸心に沿ってより適正に伸縮させて、トルクを伝達するスプリングと回転要素との間で発生する摩擦力に起因したヒステリシス、すなわちドライブ部材11への入力トルクが増加していく際の出力トルクと、ドライブ部材11への入力トルクが減少していく際の出力トルクとの間の差を低減化することができる。ヒステリシスは、ドライブ部材11への入力トルクが増加する状態でダンパ装置10の捩れ角が所定角度になったときにドリブン部材16から出力されるトルクと、ドライブ部材11への入力トルクが減少する状態でダンパ装置10の捩れ角が上記所定角度になったときにドリブン部材16から出力されるトルクとの差分により定量化され得るものである。なお、スプリングSP11〜SPmの少なくとも何れか1つは、アークコイルスプリングであってもよい。
また、本実施形態において、第1外側スプリングSP11、第2外側スプリングSP12および中間スプリングSPmは、図3に示すように、例えば、SP11,SP12,SPm,SP11,SP12,SPmという順番でダンパ装置10(第1中間部材12)の周方向に沿って並ぶと共に発進装置1の外周に近接するように流体伝動室9内の外周側領域に配設される。このように、中間スプリングSPmを外周側の第1および第2外側スプリングSP11,SP12と周方向に沿って並ぶように配置することで、第1および第2外側スプリングSP11,SP12と、中間スプリングSPmとのストロークを良好に確保することが可能となる。更に、第1および第2内側スプリングSP21,SP22は、図3に示すように、1個ずつ対をなす(直列に作用する)と共にダンパ装置10(第2中間部材14)の周方向に沿って交互に並ぶように第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに中間スプリングSPmの径方向内側に配設され、スプリングSP11,SP12,SPmにより包囲される。
そして、本実施形態では、第1外側スプリングSP11の剛性すなわちばね定数を“k11”とし、第2外側スプリングSP12の剛性すなわちばね定数を“k12”とし、第1内側スプリングSP21の剛性すなわちばね定数を“k21”とし、第2内側スプリングSP22の剛性すなわちばね定数を“k22”としたときに、ばね定数k11,k12,k21およびk22が、k11≠k21、かつk11/k21≠k12/k22を満たすように選択される。より詳細には、ばね定数k11,k12,k21,およびk22は、k11/k21<k12/k22、およびk11<k12<k22<k21という関係を満たす。更に、中間スプリングSPmの剛性すなわちばね定数を“km”としたときに、ばね定数k11,k12,k21,k22およびkmは、k11<km<k12<k22<k21という関係を満たす。
図2に示すように、ダンパ装置10のドライブ部材11は、ロックアップクラッチ8のロックアップピストン80に固定される環状の第1プレート部材(第1入力部材)111と、ダンパハブ7により回転自在に支持(調心)されると共に第1プレート部材111に一体に回転するように連結される環状の第2プレート部材(第2入力部材)112と、第2プレート部材112よりもタービンランナ5に近接するように配置されると共に複数のリベット123を介して第2プレート部材112に連結(固定)される環状の第3プレート部材(第3入力部材)113とを含む。これにより、ドライブ部材11、すなわち第1、第2および第3プレート部材111,112,113は、ロックアップピストン80と一体に回転し、ロックアップクラッチ8の係合によりフロントカバー3(エンジンEG)とダンパ装置10のドライブ部材11とが連結されることになる。
第1プレート部材111は、図2および図4に示すように、複数のリベットを介してロックアップピストン80の外周側の内面(摩擦材81が貼着されない面)に固定される環状の固定部111aと、固定部111aの外周部から軸方向に延出された短尺の筒状部111bと、筒状部111bの遊端部から周方向に間隔をおいて(等間隔に)径方向外側に延出されると共に固定部111aから離間するように軸方向に延びる複数(本実施形態では、例えば4個)のスプリング当接部(第1当接部)111cと、筒状部111bの遊端部から周方向に間隔をおいて軸方向に延出された複数(本実施形態では、例えば12個)の係合凸部111eとを有する。図2に示すように、第1プレート部材111が固定されるロックアップピストン80は、ダンパハブ7に形成された円筒状の第1支持部71により回転自在に支持される。
第2プレート部材112は、板状の環状部材として構成されており、第3プレート部材113よりもロックアップピストン80に近接するように配置されると共に、ダンパハブ7に形成された円筒状の第2支持部72により回転自在に支持される。図2に示すように、ダンパハブ7の第2支持部72は、第1支持部71よりもタービンランナ5に近接するように当該第1支持部71からダンパ装置10の軸方向にずらして形成されている。また、第2支持部72は、第1支持部71よりも大きい外径を有し、当該第1支持部71の径方向外側に設けられる。
また、第2プレート部材112は、それぞれ円弧状に延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング収容窓112w(図3および図4参照)と、それぞれ対応するスプリング収容窓112wの内周縁に沿って延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)並ぶ複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング支持部112aと、それぞれ対応するスプリング収容窓112wの外周縁に沿って延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)並んで対応するスプリング支持部112aと第2プレート部材112の径方向において対向する複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング支持部112bと、複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング当接部(第2当接部)112cとを有する。第2プレート部材112の複数のスプリング当接部112cは、周方向に沿って互いに隣り合うスプリング収容窓112w(スプリング支持部112a,112b)の間に1個ずつ設けられる。更に、第2プレート部材112の外周部には、複数(本実施形態では、例えば12個)の係合凹部112eが周方向に間隔をおいて形成されており、各係合凹部112eには、第1プレート部材111の対応する係合凸部111eが径方向のガタをもって嵌合される。係合凸部111eを係合凹部112eに嵌合することで、第1および第2プレート部材111,112は、径方向に相対移動可能となる。
第3プレート部材113も、板状の環状部材として構成されている。第3プレート部材113は、それぞれ円弧状に延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング収容窓と、それぞれ対応するスプリング収容窓の内周縁に沿って延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)並ぶ複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング支持部113aと、それぞれ対応するスプリング収容窓の外周縁に沿って延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)並んで対応するスプリング支持部113aと第3プレート部材113の径方向において対向する複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング支持部113bと、複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング当接部(第3当接部)113cとを有する。第3プレート部材113の複数のスプリング当接部113cは、周方向に沿って互いに隣り合うスプリング支持部113a,113b(スプリング収容窓)の間に1個ずつ設けられる。
第1中間部材12は、図2に示すように、弾性体支持部材121と、連結部材122とを含む。弾性体支持部材121は、第1および第2外側スプリングSP11,SP12の外周部やロックアップピストン80側(エンジンEG側)の側部(図2における右側の側部)、タービンランナ5側(変速機TM側)の側部の外周側を支持(ガイド)するように環状に形成されている。弾性体支持部材121は、ドライブ部材11の第1プレート部材111の筒状部111bにより回転自在に支持(調心)され、流体伝動室9内の外周側領域に配置される。このように第1中間部材12を流体伝動室9内の外周側領域に配置することで、当該第1中間部材12の慣性モーメント(イナーシャ)をより大きくすることが可能となる。また、弾性体支持部材121は、周方向に間隔をおいて配設された複数(本実施形態では、例えば180°間隔で2個)のスプリング当接部121cを有する。各スプリング当接部121cは、弾性体支持部材121のロックアップピストン80側の側部からタービンランナ5側に軸方向に延出される。
第1中間部材12を構成する連結部材122は、タービンランナ5のタービンシェル50に例えば溶接により固定される環状の固定部122aと、当該固定部122aの外周部から周方向に間隔をおいて軸方向に延出された複数(本実施形態では、例えば180°間隔で2個)の第1スプリング当接部122cと、固定部122aの外周部の第1スプリング当接部122cの間から軸方向に延出された複数(本実施形態では、例えば4個)の第2スプリング当接部122dと、固定部122aの内周部から第1および第2スプリング当接部122c,122dと同じ側に軸方向に延出された短尺円筒状の支持部122sとを有する。連結部材122の複数の第2スプリング当接部122dは、2個(一対)ずつ近接するように当該連結部材122の軸心に関して対称に形成され(図3参照)、互いに対をなす2個の第2スプリング当接部122dは、例えば中間スプリングSPmの自然長に応じた間隔をおいて対向する。
第2中間部材14は、環状の被支持部14aと、当該被支持部14aの内周部から周方向に間隔をおいて軸方向に延出された複数(本実施形態では、例えば120°間隔で3個)の第1スプリング当接部14cと、被支持部14aの外周部から第1スプリング当接部14cと同じ側に軸方向に延出された複数(本実施形態では、例えば4個)の第2スプリング当接部14dとを有する。第2中間部材14の複数の第2スプリング当接部14dは、2個(一対)ずつ近接するように当該第2中間部材14の軸心に関して対称に形成され(図3参照)、互いに対をなす2個の第2スプリング当接部14dは、例えば中間スプリングSPmの自然長に応じた間隔をおいて対向する。
第2中間部材14は、図2に示すように、被支持部14aがドライブ部材11の第3プレート部材113とタービンランナ5との軸方向に間に位置するように配置され、タービンランナ5に固定された第1中間部材12の連結部材122により回転自在に支持される。本実施形態において、第2中間部材14の被支持部14aには、連結部材122の支持部122sが嵌合される凹部が形成されており、第2中間部材14は、当該支持部122sにより回転自在に支持される。また、第2中間部材14の被支持部14aが支持部122sの先端に当接することで、第2中間部材14のタービンランナ5側への移動が規制される。更に、第3プレート部材113の外周部には、タービンランナ5側の表面から第2中間部材14側に突出する複数の移動規制突部113sが周方向に間隔をおいて形成されている。従って、第2中間部材14の被支持部14aが第3プレート部材113の移動規制突部113sに当接することで、第2中間部材14のタービンランナ5から離間する方向(ロックアップピストン80側)への移動が規制される。
ドリブン部材16は、板状の環状部材として構成されており、図2に示すように、ドライブ部材11の第2プレート部材112と第3プレート部材113との軸方向における間に配置されると共にダンパハブ7(本実施形態では、第2支持部72)にリベットを介して固定される。これにより、ドリブン部材16は、ダンパハブ7と一体に回転することになる。ドリブン部材16は、それぞれ円弧状に延びると共に周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング収容窓と、当該ドリブン部材16の内周縁に近接するように周方向に間隔をおいて形成された複数(本実施形態では、例えば3個)の内側スプリング当接部(内側当接部)16ciと、複数の内側スプリング当接部16ciよりも径方向外側で周方向に間隔をおいて(等間隔に)並ぶと共にタービンランナ5側からロックアップピストン80側に軸方向に延びる複数(本実施形態では、例えば4個)の外側スプリング当接部(外側当接部)16coとを有する。ドリブン部材16の複数の内側スプリング当接部16ciは、周方向に沿って互いに隣り合うスプリング収容窓の間に1個ずつ設けられる。
図2に示すように、第1および第2外側スプリングSP11,SP12は、第1中間部材12の弾性体支持部材121により、1個ずつ対をなす(直列に作用する)と共に当該第1中間部材12の周方向に沿って交互に並ぶように支持される。また、ドライブ部材11の第1プレート部材111のスプリング当接部111cは、ダンパ装置10の取付状態において、対応する第1または第2外側スプリングSP11,SP12の端部と当接する。更に、弾性体支持部材121の各スプリング当接部121cは、図3に示すように、互いに隣り合って対をなす(直列に作用する)第1および第2外側スプリングSP11,SP12の間で両者の端部に当接する。また、連結部材122の各第1スプリング当接部122cも、図3に示すように、互いに隣り合って対をなす第1および第2外側スプリングSP11,SP12の間で両者の端部に当接する。
すなわち、ダンパ装置10の取付状態において、各第1外側スプリングSP11の一端部(図3における中間スプリングSPm側の端部)は、ドライブ部材11の対応するスプリング当接部111cと当接し、各第1外側スプリングSP11の他端部(図3における第2外側スプリングSP12側の端部)は、第1中間部材12の対応するスプリング当接部121cおよび第1スプリング当接部122cと当接する。また、ダンパ装置10の取付状態において、各第2外側スプリングSP12の一端部(図3における第1外側スプリングSP11側の端部)は、第1中間部材12の対応するスプリング当接部121cおよび第1スプリング当接部122cと当接し、各第2外側スプリングSP12の他端部(図3における中間スプリングSPm側の端部)は、ドライブ部材11の対応するスプリング当接部111cと当接する。
更に、ドリブン部材16の各外側スプリング当接部16coは、ドライブ部材11の各スプリング当接部111cと同様に、対応する第1または第2外側スプリングSP11,SP12の端部と当接する。すなわち、ダンパ装置10の取付状態において、第1外側スプリングSP11の一端部(中間スプリングSPm側の端部)と、当該第1外側スプリングSP11と対をなす第2外側スプリングSP12の他端部(中間スプリングSPm側の端部)とは、それぞれドリブン部材16の対応する外側スプリング当接部16coと当接する。この結果、ドリブン部材16は、複数の第1外側スプリングSP11と、第1中間部材12(弾性体支持部材121および連結部材122)と、複数の第2外側スプリングSP12とを介してドライブ部材11に連結される。
また、第1中間部材12の連結部材122は、タービンランナ5に固定されることから、第1中間部材12とタービンランナ5とは、一体に回転するように連結されることになる。このように、タービンランナ5(およびタービンハブ52)を第1中間部材12に連結することで、当該第1中間部材12の実質的な慣性モーメント(弾性体支持部材121、連結部材122およびタービンランナ5等の慣性モーメントの合計値)をより一層大きくすることが可能となる。また、タービンランナ5と、第1および第2内側スプリングSP21,SP22の径方向外側すなわち流体伝動室9内の外周側領域に配置される第1中間部材12とを連結することで、連結部材122がドライブ部材11の第3プレート部材113や第1および第2内側スプリングSP21,SP22とタービンランナ5との軸方向における間を通過しないようにすることができる。これにより、ダンパ装置10ひいては発進装置1の軸長の増加をより良好に抑制することが可能となる。
一方、第2プレート部材112の複数のスプリング支持部112aは、図2および図3に示すように、それぞれ対応する第1および第2内側スプリングSP21,SP22(各1個)のロックアップピストン80側の側部を内周側から支持(ガイド)する。また、複数のスプリング支持部112bは、それぞれ対応する第1および第2内側スプリングSP21,SP22のロックアップピストン80側の側部を外周側から支持(ガイド)する。更に、第3プレート部材113の複数のスプリング支持部113aは、図2に示すように、それぞれ対応する第1および第2内側スプリングSP21,SP22(各1個)のタービンランナ5側の側部を内周側から支持(ガイド)する。また、複数のスプリング支持部113bは、それぞれ対応する第1および第2内側スプリングSP21,SP22のタービンランナ5側の側部を外周側から支持(ガイド)する。すなわち、第1および第2内側スプリングSP21,SP22は、1個ずつ対をなす(直列に作用する)と共に周方向(第2中間部材14の周方向)に交互に並ぶように、ドライブ部材11を構成する第2プレート部材112のスプリング支持部112a,112bと第3プレート部材113のスプリング支持部113a,113bとにより支持される。
更に、第2プレート部材112の各スプリング当接部112cは、図3に示すように、ダンパ装置10の取付状態において、互いに異なるスプリング収容窓112w(スプリング支持部112a,112b,113a,113b)により支持されて対をなさない(直列に作用しない)第1および第2内側スプリングSP21,SP22の間で両者の端部と当接する。同様に、第3プレート部材113の各スプリング当接部113cも、ダンパ装置10の取付状態において、互いに異なるスプリング支持部112a,112b,113a,113b(スプリング収容窓)により支持された(対をなさない)第1および第2内側スプリングSP21,SP22の間で両者の端部と当接する。また、第2中間部材14の各第1スプリング当接部14cは、図3に示すように、互いに対をなす(直列に作用する)第1および第2内側スプリングSP21,SP22の間で両者の端部と当接する。
すなわち、ダンパ装置10の取付状態において、各第1内側スプリングSP21の一端部は、ドライブ部材11の対応するスプリング当接部112c,113cと当接し、各第1内側スプリングSP21の他端部は、第2中間部材14の対応する第1スプリング当接部14cと当接する。更に、ダンパ装置10の取付状態において、各第2内側スプリングSP22の一端部は、第2中間部材14の対応する第1スプリング当接部14cと当接し、各第2内側スプリングSP22の他端部は、ドライブ部材11の対応するスプリング当接部112c,113cと当接する。なお、第1スプリング当接部14cと第1内側スプリングSP21の他端部との間、および第1スプリング当接部14cと第2内側スプリングSP22の一端部との間には、図3に示すように、スプリングシートSsが配置されてもよい。
また、ドリブン部材16の各内側スプリング当接部16ciは、ダンパ装置10の取付状態において、ドライブ部材11のスプリング当接部112c,113cと同様に、対をなさない(直列に作用しない)第1および第2内側スプリングSP21,SP22の間で両者の端部と当接する。これにより、ダンパ装置10の取付状態において、各第1内側スプリングSP21の上記一端部は、ドリブン部材16の対応する内側スプリング当接部16ciとも当接し、各第2内側スプリングSP22の上記他端部は、ドリブン部材16の対応する内側スプリング当接部16ciとも当接する。この結果、ドリブン部材16は、複数の第1内側スプリングSP21と、第2中間部材14と、複数の第2内側スプリングSP22とを介してドライブ部材11に連結される。
そして、ダンパ装置10の取付状態において、各中間スプリングSPmは、第1中間部材12(連結部材122)の一対の第2スプリング当接部122dにより両側から支持されると共に、第2中間部材14の一対の第2スプリング当接部14dにより両側から支持される。これにより、第1中間部材12と第2中間部材14とは、複数の中間スプリングSPmを介して互いに連結されることになる。本実施形態において、中間スプリングSPmの端部と第2スプリング当接部14d,122dとの間には、図1および図5に示すように、スプリングシートSsが配置される。
更に、ダンパ装置10は、図1に示すように、第1中間部材12とドリブン部材16との相対回転および第2外側スプリングSP12の撓みを規制する第1ストッパ21と、第2中間部材14とドリブン部材16との相対回転および第2内側スプリングSP22の撓みを規制する第2ストッパ22と、ドライブ部材11とドリブン部材16との相対回転を規制する第3ストッパ23とを含む。第1および第2ストッパ21,22は、エンジンEGからドライブ部材11に伝達される入力トルクがダンパ装置10の最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2(第2の閾値)よりも小さい予め定められたトルク(第1の閾値)T1に達した段階で概ね同時に対応する回転要素の相対回転およびスプリングの撓みを規制するように構成される。また、第3ストッパ23は、ドライブ部材11への入力トルクが最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2に達した段階でドライブ部材11とドリブン部材16との相対回転を規制するように構成される。これにより、ダンパ装置10は、2段階(2ステージ)の減衰特性を有することになる。
本実施形態において、第1ストッパ21は、図2に示すように、第1中間部材12を構成する連結部材122から周方向に間隔をおいてロックアップピストン80に向けて軸方向に延出された複数のストッパ部122xと、ドリブン部材16の外周部に周方向に間隔をおいて形成されて円弧状に延びる複数の切欠部161xとにより構成される。ダンパ装置10の取付状態において、第1中間部材12(連結部材122)の各ストッパ部122xは、第2中間部材14の被支持部14aの外周部に周方向に間隔をおいて形成された複数の円弧状のスリット14vの何れかに挿通されると共に、ドリブン部材16の対応する切欠部161x内に当該切欠部161xの両側の端部を画成するドリブン部材16の壁面と当接しないように配置される。これにより、第1中間部材12とドリブン部材16とが相対回転するのに伴って連結部材122の各ストッパ部122xと切欠部161xの両側の端部を画成する壁面の一方とが当接すると、第1中間部材12とドリブン部材16との相対回転および第2外側スプリングSP12の撓みが規制されることになる。なお、本実施形態において、第3ストッパ23によりドライブ部材11とドリブン部材16との相対回転が規制されるまでの間に、第1中間部材12の各ストッパ部122xと、スリット14vの両側の端部を画成する第2中間部材14の壁面とが当接することはない。
また、本実施形態において、第2ストッパ22は、図2に示すように、第2中間部材14の被支持部14aの内周部に周方向に間隔をおいて形成されて円弧状に延びる複数のスリット14xと、ドリブン部材16から周方向に間隔をおいてタービンランナ5に向けて軸方向に延出された複数のストッパ部162xとにより構成される。ダンパ装置10の取付状態において、ドリブン部材16の各ストッパ部162xは、ドライブ部材11の第3プレート部材113の外周部に周方向に間隔をおいて形成された複数の円弧状のスリット113vの何れかに挿通されると共に、第2中間部材14の対応するスリット14x内に当該スリット14xの両側の端部を画成する第2中間部材14の壁面と当接しないように配置される。これにより、第2中間部材14とドリブン部材16とが相対回転するのに伴ってドリブン部材16のストッパ部162xと第2中間部材14のスリット14xの両側の端部を画成する壁面の一方とが当接すると、第2中間部材14とドリブン部材16との相対回転および第2内側スプリングSP22の撓みが規制されることになる。なお、本実施形態において、第3ストッパ23によりドライブ部材11とドリブン部材16との相対回転が規制されるまでの間に、ドリブン部材16の各ストッパ部162xと、スリット113vの両側の端部を画成する第3プレート部材113の壁面とが当接することはない。
更に、本実施形態において、第3ストッパ23は、図2に示すように、ドライブ部材11を構成する第2および第3プレート部材112,113を連結する複数のリベット123に装着されたカラーと、ドリブン部材16に周方向に間隔をおいて形成された円弧状に延びる複数の切欠部163xとにより構成される。ダンパ装置10の取付状態において、複数のリベット123およびカラーは、ドリブン部材16の対応する切欠部163x内に当該切欠部163xの両側の端部を画成するドリブン部材16の壁面と当接しないように配置される。これにより、ドライブ部材11とドリブン部材16とが相対回転するのに伴って上述の各カラーと切欠部163xの両側の端部を画成する壁面の一方とが当接すると、ドライブ部材11とドリブン部材16との相対回転が規制されることになる。
次に、ダンパ装置10の動作について説明する。発進装置1において、ロックアップクラッチ8によるロックアップが解除されている際には、例えば、エンジンEGからフロントカバー3に伝達された回転トルク(動力)が、ポンプインペラ4、タービンランナ5、第1中間部材12、第2外側スプリングSP12、ドリブン部材16、ダンパハブ7という経路や、ポンプインペラ4、タービンランナ5、第1中間部材12、中間スプリングSPm、第2中間部材14、第2内側スプリングSP22、ドリブン部材16、ダンパハブ7という経路を介して変速機TMの入力軸ISへと伝達される。これに対して、発進装置1のロックアップクラッチ8によりロックアップが実行されると、エンジンEGからフロントカバー3およびロックアップクラッチ8(ロックアップピストン80)を介してドライブ部材11に伝達された回転トルク(入力トルク)は、ドライブ部材11への入力トルクが上記トルクT1に達するまで、つまり、第1および第2外側スプリングSP11,SP12、第1および第2内側スプリングSP21,SP22並びに中間スプリングSPmのすべての撓みが許容されている間、スプリングSP11〜SPmのすべてを介してドリブン部材16およびダンパハブ7に伝達される。
すなわち、ロックアップの実行中に入力トルクがトルクT1に達するまでの間、第1外側スプリング(第1弾性体)SP11は、ドライブ部材11から第1中間部材12に回転トルクを伝達し、第2外側スプリング(第2弾性体)SP12は、第1中間部材12からドリブン部材16に回転トルクを伝達する。また、第1内側スプリング(第3弾性体)SP21は、ドライブ部材11から第2中間部材14に回転トルクを伝達し、第2内側スプリング(第4弾性体)SP22は、第2中間部材14からドリブン部材16に回転トルクを伝達する。従って、ダンパ装置10は、ドライブ部材11とドリブン部材16との間のトルク伝達経路として、図6に示すように、第1外側スプリングSP11、第1中間部材12および第2外側スプリングSP12を含む第1トルク伝達経路P1と、第1内側スプリングSP21、第2中間部材14および第2内側スプリングSP22を含む第2トルク伝達経路P2とを有することになる。
また、ダンパ装置10では、上述のように、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22のばね定数k11,k12,k21およびk22が、k11<k12<k22<k21という関係を満たす。このため、ロックアップの実行中に入力トルクがトルクT1に達するまでの間にドライブ部材11にトルクが伝達されると、図6に示すように、第2中間部材14が第1中間部材12に対して回転方向(車両が前進する際の回転方向)における進行方向側(下流側)に(若干)捩れる。これにより、中間スプリングSPmは、第2中間部材14の互いに対をなす第2スプリング当接部14dの上記回転方向における進行方向側とは反対側の一方により、第1中間部材12の互いに対をなす第2スプリング当接部122dの回転方向における進行方向側の一方に向けて押圧される。すなわち、ロックアップの実行中に入力トルクがトルクT1に達するまでの間、中間スプリングSPmは、ドライブ部材11から第1内側スプリングSP21を介して第2中間部材14に伝達されたトルクの一部(平均トルクの一部)を第1中間部材12に伝達する。従って、ダンパ装置10は、第1内側スプリングSP21、第2中間部材14、中間スプリングSPm、第1中間部材12および第2外側スプリングSP12を含む第3トルク伝達経路P3を有することになる。
この結果、ロックアップの実行中にドライブ部材11への入力トルクが上記トルクT1に達するまでの間には、第1、第2および第3トルク伝達経路P1,P2,P3を介してドライブ部材11からドリブン部材16にトルクが伝達される。より詳細には、第1および第2外側スプリングSP11,SP12、第1および第2内側スプリングSP21,SP22並びに中間スプリングSPmのすべての撓みが許容されている間、第2外側スプリングSP12には、第1外側スプリングSP11からの回転トルクと、第1内側スプリングSP21、第2中間部材14および中間スプリングSPmからの回転トルクとが伝達される。また、第2内側スプリングSP22には、第1内側スプリングSP21からの回転トルクが伝達される。そして、第1および第2外側スプリングSP11,SP12、第1および第2内側スプリングSP21,SP22並びに中間スプリングSPmのすべての撓みが許容されている間には、スプリングSP11〜SPmによってドライブ部材11に伝達されるトルクの変動が減衰(吸収)される。これにより、ドライブ部材11に伝達される入力トルクが比較的小さく、当該ドライブ部材11の回転数が低いときのダンパ装置10の振動減衰性能を良好に向上させることが可能となる。
また、ドライブ部材11への入力トルクが上記トルクT1に達して第1および第2ストッパ21,22が作動すると、第1ストッパ21により第1中間部材12とドリブン部材16との相対回転および第2外側スプリングSP12の撓みが規制され、第2ストッパ22により第2中間部材14とドリブン部材16との相対回転および第2内側スプリングSP22の撓みが規制される。これにより、ドリブン部材16に対する第1および第2中間部材12,14の相対回転が規制されることで、中間スプリングSPmの撓みも規制される。従って、ドライブ部材11への入力トルクが上記トルクT1に達してから、当該入力トルクが上記トルクT2に達して第3ストッパ23が作動するまで、第1外側スプリングSP11と第1内側スプリングSP21とが並列に作用してドライブ部材11に伝達されるトルクの変動を減衰(吸収)する。
引き続き、ダンパ装置10の設計手順について説明する。
上述のように、ダンパ装置10では、第1および第2外側スプリングSP11,SP12、第1および第2内側スプリングSP21,SP22並びに中間スプリングSPmのすべての撓みが許容されている際に、ドライブ部材11とドリブン部材16との間でスプリングSP11〜SPmのすべてを介してトルク(平均トルク)が伝達される。本発明者らは、このように直列でも並列でもない複雑なトルクの伝達経路を有するダンパ装置10について鋭意研究・解析を行い、その結果、かかるダンパ装置10は、スプリングSP11〜SPmのすべての撓みが許容されている際に、装置全体で2つの固有振動数を有することを見出した。また、本発明者らの研究・解析によれば、ダンパ装置10においても、ドライブ部材11に伝達される振動の周波数に応じて2つの固有振動数の小さい方(低回転側(低周波側)の固有振動数)での共振(本実施形態では、第1および第2中間部材12,14が同位相で振動するときの第1中間部材12の共振)が発生すると、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動の位相と、第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の位相とがずれていく。このため、2つの固有振動数の小さい方での共振が発生した後にドライブ部材11の回転数が高まるのに伴って、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動および第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の一方が他方の少なくとも一部を打ち消すようになる。
かかる知見のもと、本発明者らは、ロックアップの実行によりエンジン(内燃機関)EGからドライブ部材11にトルクが伝達された状態にあるダンパ装置10を含む振動系について、次式(1)のような運動方程式を構築した。ただし、式(1)において、“J1”は、ドライブ部材11の慣性モーメントであり、“J21”は、第1中間部材12の慣性モーメントであり、J22”は、第2中間部材14の慣性モーメントであり、“J3”は、ドリブン部材16の慣性モーメントである。また、“θ1”は、ドライブ部材11の捩れ角であり、“θ21”は、第1中間部材12の捩れ角であり、“θ22”は、第2中間部材14の捩れ角であり、“θ3”は、ドリブン部材16の捩れ角である。更に、“k1”は、ドライブ部材11と第1中間部材12との間で並列に作用する複数の第1外側スプリングSP11の合成ばね定数であり、“k2”は、第1中間部材12とドリブン部材16との間で並列に作用する複数の第2外側スプリングSP12の合成ばね定数であり、k3”は、ドライブ部材11と第2中間部材14との間で並列に作用する複数の第1内側スプリングSP21の合成ばね定数であり、k4”は、第2中間部材14とドリブン部材16との間で並列に作用する複数の第2内側スプリングSP22の合成ばね定数であり、“k5”は、第1中間部材12と第2中間部材14との間で並列に作用する複数の中間スプリングSPmの合成ばね定数(剛性)であり、kR”は、ドリブン部材16から車両の車輪までの間に配置される変速機TMやドライブシャフト等における剛性すなわちばね定数であり、“T”は、エンジンEGからドライブ部材11に伝達される入力トルクである。
更に、本発明者らは、入力トルクTが次式(2)に示すように周期的に振動していると仮定すると共に、ドライブ部材11の捩れ角θ1、第1中間部材12の捩れ角θ21、第2中間部材14の捩れ角θ22、およびドリブン部材16の捩れ角θ3が次式(3)に示すように周期的に応答(振動)すると仮定した。ただし、式(2)および(3)における“ω”は、入力トルクTの周期的な変動(振動)における角振動数であり、式(3)において、“Θ1”は、エンジンEGからのトルクの伝達に伴って生じるドライブ部材11の振動の振幅(振動振幅、すなわち最大捩れ角)であり、“Θ21”は、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って生じる第1中間部材12の振動の振幅(振動振幅)であり、“Θ22”は、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って生じる第2中間部材14の振動の振幅(振動振幅)であり、“Θ3”は、ドライブ部材11にエンジンEGからのトルクが伝達されるのに伴って生じるドリブン部材16の振動の振幅(振動振幅)である。かかる仮定のもと、式(2)および(3)を式(1)に代入して両辺から“sinωt”を払うことで、次式(4)の恒等式を得ることができる。
そして、本発明者らは、式(4)におけるドリブン部材16の振動振幅Θ3がゼロになれば、ダンパ装置10によりエンジンEGからの振動が減衰されることでドリブン部材16よりも後段側の変速機TMやドライブシャフト等には理論上振動が伝達されなくなることに着目した。そこで、本発明者らは、かかる観点から、式(4)の恒等式を振動振幅Θ3について解くと共に、Θ3=0とすることで、次式(5)に示す条件式を得た。式(5)の関係が成立する場合、ドライブ部材11から第1、第2および第3トルク伝達経路P1,P2,P3を介してドリブン部材16に伝達されるエンジンEGからの振動が互いに打ち消し合い、ドリブン部材16の振動振幅Θ3が理論上ゼロになる。
かかる解析結果より、上述のような構成を有するダンパ装置10では、2つの固有振動数の小さい方での共振の発生により、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動の位相と第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の位相とが180度ずれて(反転して)両振動が互いに打ち消し合うようになることで、図7に示すように、ドリブン部材16の振動振幅Θ3(トルク変動)が理論上ゼロになる反共振点Aを設定し得ることが理解されよう。また、反共振点Aの振動数を“fa”として、上記式(5)に“ω=2πfa”を代入すれば、反共振点Aの振動数faは、次式(6)のように表される。なお、図7は、エンジンEGの回転数と、本開示のダンパ装置および中間スプリングSPmが省略されたダンパ装置(特許文献1に記載されたダンパ装置、以下、「比較例のダンパ装置」という)のドリブン部材における理論上(ヒステリシスが存在しないと仮定した場合)の振動振幅(トルク変動)との関係を例示するものである。
一方、ドライブ部材11の捩れ角θ1とドリブン部材16の捩れ角θ2とがゼロであってドライブ部材11およびドリブン部材16の変位が共にゼロであると仮定すれば、式(1)を次式(7)のように変形することができる。更に、第1および第2中間部材12,14が次式(8)に示すように調和振動すると仮定し、式(8)を式(7)に代入して両辺から“sinωt”を払うことで、次式(9)の恒等式を得ることができる。
第1および第2中間部材12,14が調和振動する場合に、振幅Θ21およびΘ22は共にゼロにならないことから、式(9)の左辺の正方行列の行列式はゼロとなり、次式(10)の条件式が成立しなければならない。かかる式(10)は、ダンパ装置10の2つの固有角振動数の二乗値ω2についての2次方程式である。従って、ダンパ装置10の2つの固有角振動数ω1,ω2は、次式(11)および(12)に示すように表され、ω1<ω2が成立する。この結果、反共振点Aを生じさせる共振(共振点R1)の周波数、すなわち第1中間部材12の固有振動数を“f21”とし、反共振点Aよりも高回転側で発生する共振(共振点R2)の周波数、すなわち第2中間部材14の固有振動数を“f22”とすれば、低回転側(低周波側)の固有振動数f21は、次式(13)のように表され、高回転側(高周波側)の固有振動数f22(f22>f21)は、次式(14)のように表される。
また、第1および第2外側スプリングSP11,SP12、第1および第2内側スプリングSP21,SP22並びに中間スプリングSPmのすべての撓みが許容されている際のダンパ装置10の等価剛性keqは、次のようにして求めることができる。すなわち、ドライブ部材11にT=T0という一定の入力トルク(静的な外力)が伝達されていると仮定すると共に、次式(15)に示すような釣り合いの関係が成立していると仮定すれば、T=T0および式(15)を式(1)に代入することで、次式(16)の恒等式を得ることができる。
更に、トルクT0と、ダンパ装置10の等価剛性keqと、ドライブ部材11の振動振幅(捩れ角)Θ1と、ドリブン部材16の振動振幅(捩れ角)Θ3との間では、T0=keq・(Θ1−Θ3)という関係が成立する。更に、式(16)の恒等式を振動振幅(捩れ角)Θ1およびΘ3について解けば、“Θ1−Θ3”は、次式(17)のように表される。従って、T0=keq・(Θ1−Θ3)および式(17)より、ダンパ装置10の等価剛性keqは、次式(18)のように表されることになる。
上述のようにして得られるダンパ装置10の低回転側の固有振動数f21、反共振点Aの振動数faおよび等価剛性keqに対する本発明者らの解析結果を図8から図13に示す。図8から図13は、合成ばね定数k1,k2,k3,k4,k5や第1中間部材12の慣性モーメントJ 21 および第2中間部材14の慣性モーメントJ 22 のうちの何れか1つ以外をそれぞれ一定値(固定値)としたまま、当該何れか1つのパラメータのみを変化させたときの固有振動数f21、反共振点Aの振動数faおよび等価剛性keqの変化態様をそれぞれ示すものである。
ダンパ装置10における合成ばね定数k2,k3,k4,k5および慣性モーメントJ21,J22をそれぞれ一定値としたまま、第1外側スプリング(第1弾性体)SP11の合成ばね定数(剛性)k1のみを変化させた場合、固有振動数f21および反共振点Aの振動数faは、図8に示すように、合成ばね定数k1が大きいほど大きくなり、合成ばね定数k1が小さくなるにつれて徐々に小さくなる。これに対して、等価剛性keqは、図8に示すように、合成ばね定数k1を予め適合された値から僅かに増加させると急増し、当該適合値から僅かに減少させると急減する。すなわち、第1外側スプリングSP11の合成ばね定数k1の変化に対する等価剛性keqの変化(変化勾配)は非常に大きい。
また、ダンパ装置10における合成ばね定数k1,k3,k4,k5および慣性モーメントJ21,J22をそれぞれ一定値としたまま、第2外側スプリング(第2弾性体)SP12の合成ばね定数(剛性)k2のみを変化させた場合も、固有振動数f21および反共振点Aの振動数faは、図9に示すように、合成ばね定数k2が大きいほど大きくなり、合成ばね定数k2が小さくなるにつれて徐々に小さくなる。更に、等価剛性keqは、図9に示すように、合成ばね定数k2を予め適合された値から僅かに増加させると急増し、当該適合値から僅かに減少させると急減する。すなわち、第2外側スプリングSP12の合成ばね定数k2の変化に対する等価剛性keqの変化(変化勾配)も非常に大きい。
一方、ダンパ装置10における合成ばね定数k1,k2,k4,k5および慣性モーメントJ21,J22をそれぞれ一定値としたまま、第1内側スプリング(第3弾性体)SP21の合成ばね定数(剛性)k3のみを変化させた場合、図10に示すように、固有振動数f21は、合成ばね定数k3が大きくなるにつれて僅かに大きくなり(概ね一定に保たれ)、反共振点Aの振動数faは、合成ばね定数k3が小さいほど大きくなり、合成ばね定数k3が大きくなるにつれて徐々に小さくなる。また、等価剛性keqは、図10に示すように、合成ばね定数k3を予め適合された値から僅かに減少させると急減し、当該適合値から僅かに増加させると急増する。すなわち、第1内側スプリングSP21の合成ばね定数k3の変化に対する等価剛性keqの変化(変化勾配)も非常に大きい。
更に、ダンパ装置10における合成ばね定数k1,k2,k3,k5および慣性モーメントJ21,J22をそれぞれ一定値としたまま、第2内側スプリング(第4弾性体)SP22の合成ばね定数(剛性)k4のみを変化させた場合も、図11に示すように、固有振動数f21は、合成ばね定数k4が大きくなるにつれて僅かに大きくなり(概ね一定に保たれ)、反共振点Aの振動数faは、合成ばね定数k4が小さいほど大きくなり、合成ばね定数k4が大きくなるにつれて徐々に小さくなる。また、等価剛性keqは、図11に示すように、合成ばね定数k4を予め適合された値から僅かに減少させると急減し、当該適合値から僅かに増加させると急増する。すなわち、第2内側スプリングSP22の合成ばね定数k4の変化に対する等価剛性keqの変化(変化勾配)も非常に大きい。
そして、ダンパ装置10における合成ばね定数k1,k2,k3,k4および慣性モーメントJ21,J22をそれぞれ一定値としたまま、中間スプリング(第5弾性体)SPmの合成ばね定数(剛性)k5のみを変化させた場合、固有振動数f21および反共振点Aの振動数faは、図12に示すように、合成ばね定数k5が大きいほど大きくなり、合成ばね定数k5が小さくなるにつれて徐々に小さくなる。また、ある合成ばね定数k5に対応した固有振動数f21と反共振点Aの振動数faとの差(fa−f21)は、図12に示すように、合成ばね定数k5が大きくなるにつれて徐々に大きくなる。更に、中間スプリングSPmの合成ばね定数k5のみを変化させた場合、等価剛性keqは、図12に示すように、合成ばね定数k5が大きいほど大きくなり、合成ばね定数k5が小さくなるにつれて徐々に小さくなる。すなわち、中間スプリングSPmの合成ばね定数(剛性)k5の変化に対する等価剛性keqの変化(変化勾配)は、合成ばね定数(剛性)k1,k2,k3,k4の変化に対する等価剛性keqの変化(変化勾配)に比べて大幅に小さくなる。
また、ダンパ装置10における合成ばね定数k1,k2,k3,k4,k5および第2中間部材14の慣性モーメントJ22をそれぞれ一定値としたまま、第1中間部材12の慣性モーメントJ21のみを変化させた場合、固有振動数f21および反共振点Aの振動数faは、図13に示すように、慣性モーメントJ21が小さいほど大きくなり、慣性モーメントJ21が大きくなるにつれて徐々に小さくなる。更に、第1中間部材12の慣性モーメントJ21のみを変化させても、図13に示すように、等価剛性keqは概ね一定に保たれる。なお、図示を省略するが、ダンパ装置10における合成ばね定数k1,k2,k3,k4,k5および第1中間部材12の慣性モーメントJ21をそれぞれ一定値としたまま、第2中間部材14の慣性モーメントJ22のみを変化させた場合も、第1中間部材12の慣性モーメントJ21のみを変化させた場合と同様の結果が得られた。
上述のような解析結果からわかるように、中間スプリングSPmの剛性を低下させる(ばね定数kmおよび合成ばね定数K5を小さくする)ことで、低回転側の固有振動数f21(式(13)参照)や反共振点Aの振動数fa(式(6)参照)をより小さくすることが可能となる。逆に、中間スプリングSPmの剛性を高める(ばね定数kmおよび合成ばね定数K5を大きくする)ことで、低回転側の固有振動数f21と反共振点Aの振動数faとの差(fa−f21)をより大きくすることもできる。更に、中間スプリングSPmの剛性を低下させても(ばね定数kmおよび合成ばね定数K5を小さくしても)、等価剛性keqが大幅に低下することはない。従って、ダンパ装置10では、中間スプリングSPmの剛性(ばね定数kmおよび合成ばね定数K5)を調整することで、ドライブ部材11への最大入力トルクに応じて等価剛性keqを適正に保つと共に第1および第2中間部材12,14の重量すなわち慣性モーメントJ21,J22の増加を抑制しつつ、低回転側の固有振動数f21および反共振点Aの振動数faを適正に設定することが可能となる。また、第1および第2外側スプリングSP11,SP12の剛性を低下させる(ばね定数k11,k12および合成ばね定数K1,K2を小さくする)ことで、低回転側の固有振動数f21や反共振点Aの振動数faをより小さくすることが可能となる。更に、第1および第2内側スプリングSP21,SP22の剛性を高める(ばね定数k21,k22および合成ばね定数K3,K4を大きくする)ことで、反共振点Aの振動数faをより小さくすることができる。
さて、走行用動力の発生源としてのエンジン(内燃機関)EGを搭載する車両では、ロックアップ回転数Nlupをより低下させて早期にエンジンEGからのトルクを変速機TMに機械的に伝達することで、エンジンEGと変速機TMとの間の動力伝達効率を向上させ、それによりエンジンEGの燃費をより向上させることができる。ただし、ロックアップ回転数Nlupの設定範囲となり得る500rpm〜1500rpm程度の低回転数域では、エンジンEGからロックアップクラッチを介してドライブ部材11に伝達される振動が大きくなり、特に3気筒あるいは4気筒エンジンといった省気筒エンジンを搭載した車両において振動レベルの増加が顕著となる。従って、ロックアップの実行時や実行直後に大きな振動が変速機TM等に伝達されないようにするためには、ロックアップが実行された状態でエンジンEGからのトルク(振動)を変速機TMへと伝達するダンパ装置10全体(ドリブン部材16)のロックアップ回転数Nlup付近の回転数域における振動レベルをより低下させる必要がある。
これを踏まえて、本発明者らは、ロックアップクラッチ8に対して定められたロックアップ回転数Nlupに基づいて、エンジンEGの回転数が500rpmから1500rpmの範囲(ロックアップ回転数Nlupの想定設定範囲)内にある際に上述の反共振点Aが形成されるようにダンパ装置10を構成することとした。反共振点Aの振動数faに対応したエンジンEGの回転数Neaは、“n”をエンジン(内燃機関)EGの気筒数とすれば、Nea=(120/n)・faと表される。従って、ダンパ装置10では、次式(19)を満たすように、複数の第1外側スプリングSP11の合成ばね定数k1、複数の第2外側スプリングSP12の合成ばね定数k2、複数の第1内側スプリングSP21の合成ばね定数k3、複数の第2内側スプリングSP22の合成ばね定数k4、複数の中間スプリングSPmの合成ばね定数k5、第1中間部材12の慣性モーメントJ21(一体回転するように連結されるタービンランナ5等の慣性モーメントを考慮(合算)したもの、以下同様)、および第2中間部材14の慣性モーメントJ22が選択・設定される。すなわち、ダンパ装置10では、反共振点Aの振動数fa(およびロックアップ回転数Nlup)に基づいて、スプリングSP11〜SPmのばね定数k11,k12,k21,k22,kmと、第1および第2中間部材12,14の慣性モーメントJ21,J22とが選択・設定される。
このように、ドリブン部材16の振動振幅Θ3を理論上ゼロにし得る(振動をより低下させ得る)反共振点Aを500rpmから1500rpmまでの低回転数域(ロックアップ回転数Nlupの想定設定範囲)内に設定することで、図7に示すように、反共振点Aを生じさせる共振(反共振点Aを形成するために生じさせざるを得ない共振、本実施形態では、第1中間部材12の共振、図7における共振点R1参照)をロックアップクラッチ8の非ロックアップ領域(図7における二点鎖線参照)に含まれるように、より低回転側(低周波側)にシフトさせることができる。すなわち、本実施形態において、第1中間部材12の共振(2つの固有振動数の小さい方での共振)は、ダンパ装置10が使用される回転数域において発生しない仮想的なものとなる。また、図7に示すように、ダンパ装置10の2つの固有振動数の小さい方(第1中間部材12の固有振動数)に対応した回転数は、ロックアップクラッチ8のロックアップ回転数Nlupよりも低くなり、ダンパ装置10の2つの固有振動数の大きい方(第2中間部材14の固有振動数)に対応した回転数は、ロックアップ回転数Nlupよりも高くなる。これにより、ロックアップクラッチ8によりロックアップが実行された時点から、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動および第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の一方により他方の少なくとも一部を打ち消すことが可能となる。
上記式(19)を満たすようにダンパ装置10を構成するに際しては、反共振点Aを生じさせる共振(図7における共振点R1参照)の振動数が当該反共振点Aの振動数faよりも小さく、かつできるだけ小さい値になるように、ばね定数k11,k12,k21,k22,km、慣性モーメントJ21およびJ22を選択・設定すると好ましい。このため、本実施形態のダンパ装置10では、上述のk11<km<k12<k22<k21という関係を満たすように、ばね定数k11,k12,k21,k22およびkmの値が定められる。
すなわち、ダンパ装置10では、低回転側の固有振動数f21と反共振点Aの振動数faとがより小さくなるように、中間スプリングSPmのばね定数kmや第1および第2外側スプリングSP11,SP12のばね定数k11,k12が小さく定められる。更に、低回転側の固有振動数f21がより小さくなるように、第1および第2内側スプリングSP21,22のばね定数k21,k22が大きく定められる。これにより、低回転側の固有振動数f21と反共振点Aの振動数faとをより小さくし、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動および第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の一方が他方の少なくとも一部を打ち消す回転数帯(周波数帯)の始点をより低回転側(低周波側)に設定することが可能となる。更に、当該回転数帯の始点を低回転側に設定することで、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動の位相と第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の位相とが180度ずれる回転数(周波数)をも低回転側に設定することができる。この結果、より一層低い回転数でのロックアップを許容すると共に、低回転数域における振動減衰性能をより一層向上させることが可能となる。
また、ダンパ装置10では、図7に示すように、反共振点A付近でドリブン部材16の振動の減衰ピークが発生してからエンジンEGの回転数がより高まると、2つの固有振動数の大きい方での共振(本実施形態では、第2中間部材14の共振、図7における共振点R2参照)が発生し、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動と第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動とが同位相になる。すなわち、本実施形態のダンパ装置10では、上記2つの固有振動数の小さい方での共振(第1中間部材12の共振)が発生してから当該2つの固有振動数の大きい方での共振(第2中間部材14の共振)が発生するまでの間、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動および第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の一方により他方の少なくとも一部が打ち消される。従って、反共振点Aよりも高回転側(高周波側)で発生する共振の周波数がより大きくなるように、ばね定数(合成ばね定数)k1,k2,k3,k4,k5、慣性モーメントJ21およびJ22を選択・設定すると好ましい。これにより、当該共振(共振点R2)を振動が顕在化され難くなる高回転数域側で発生させることが可能となり、低回転数域におけるダンパ装置10の振動減衰性能をより一層向上させることができる。
更に、ダンパ装置10においてロックアップ回転数Nlup付近での振動減衰性能をより向上させるためには、当該ロックアップ回転数Nlupと共振点R2に対応したエンジンEGの回転数とをできるだけ離間させる必要がある。従って、式(19)を満たすようにダンパ装置10を構成するに際しては、Nlup≦(120/n)・fa(=Nea)を満たすように、ばね定数k1,k2,k3,k4,k5、慣性モーメントJ21およびJ22を選択・設定すると好ましい。これにより、変速機TMの入力軸ISへの振動の伝達を良好に抑制しながらロックアップクラッチ8によるロックアップを実行すると共に、ロックアップの実行直後に、エンジンEGからの振動をダンパ装置10により極めて良好に減衰することが可能となる。
上述のように、反共振点Aの振動数faに基づいてダンパ装置10を設計することにより、ダンパ装置10の振動減衰性能を極めて良好に向上させることが可能となる。そして、本発明者らの研究・解析によれば、ロックアップ回転数Nlupが例えば1000rpm前後の値に定められる場合、例えば900rpm≦(120/n)・fa≦1200rpmを満たすようにダンパ装置10を構成することで、実用上極めて良好な結果が得られることが確認されている。
また、式(13)および(14)からわかるように、ダンパ装置10の2つ固有振動数f21,f22は、第1および第2中間部材12,14の双方の慣性モーメントJ21,J22の影響を受ける。すなわち、ダンパ装置10では、第1中間部材12と第2中間部材14とが中間スプリングSPmを介して互いに連結されるので、第1および第2中間部材12,14の双方に中間スプリングSPmからの力(図6における白抜矢印参照)が作用することで、第1中間部材12の振動と第2中間部材14の振動とが連成する(両者の振動が相互に影響し合う)。このように第1中間部材12の振動と第2中間部材14の振動とが連成することで、固有振動数f21,f22は、第1および第2中間部材12,14の双方の慣性モーメントJ21,J22の影響を受けることになる。従って、ダンパ装置10では、第1および第2中間部材12,14の重量すなわち慣性モーメントJ21,J22の増加を抑制しつつ、2つの固有振動数f21,f22の小さい方での共振を容易に低回転側すなわち非ロックアップ領域にシフトさせ、ドライブ部材11の回転数がより低い状態でドリブン部材16での振動の打ち消し合いがより良好に生じるように固有振動数f21,f22と反共振点Aの振動数faとを設定することが可能となる。
更に、ダンパ装置10では、2つの固有振動数f21,f22が第1および第2中間部材12,14の双方の慣性モーメントJ21,J22の影響を受けることから、第1および第2中間部材12,14の慣性モーメントJ21,J22を調整することで、図7に示すように、反共振点Aの振動数faを比較例のダンパ装置の反共振点の振動数fa′と同程度の値としつつ、低回転側の固有振動数f21(共振点R1)を上記比較例のダンパ装置に比べて非ロックアップ領域のより低回転側に容易にシフトさせることができる。これにより、ダンパ装置10では、比較例のダンパ装置(図7における破線参照)に比べて、反共振点A付近での振動レベルをより低下させることが可能となる。このように、低回転側の固有振動数f21をより小さくして反共振点A付近での振動レベルをより低下させることで、気筒休止機能を有するエンジンEGの減筒運転の実行に伴って当該エンジンEGからの振動の次数が低下する場合であっても、ロックアップ回転数Nlupをより低く保つことが可能となる。
また、本発明者らの解析によれば、第1および第2中間部材12,14を中間スプリングSPmにより互いに連結して両者の振動を連成させることで、上記第1、第2および第3トルク伝達経路P1,P2,P3からドリブン部材16に伝達される振動が互いに打ち消し合いやすくなり、反共振点A付近でのドリブン部材16の実際の振動振幅をより小さくし得ることや、第2外側スプリングSP12と第2内側スプリングSP22との間のトルク振幅(トルク変動)の差を減らし得る(両者のトルク振幅をより近づけられる)ことが判明している。従って、ダンパ装置10では、より低い回転数でのロックアップ(エンジンEGとドライブ部材11との連結)を許容すると共に、エンジンEGからの振動が大きくなりがちな低回転数域における振動減衰性能をより向上させることが可能となる。
ここで、上記式(13)においてk5=0とすれば、中間スプリングSPmが省略された比較例のダンパ装置における第1中間部材の固有振動数f21′が次式(20)のように表され、上記式(14)においてk5=0とすれば、比較例のダンパ装置における第2中間部材の固有振動数f22′が次式(21)のように表される。式(20)および((21)からわかるように、比較例のダンパ装置では、第1中間部材の固有振動数f21′は第2中間部材の慣性モーメントJ22の影響を受けることはなく、第2中間部材の固有振動数f22′は第1中間部材の慣性モーメントJ21の影響を受けることはない。この点から、ダンパ装置10では、比較例のダンパ装置に比べて、第1および第2中間部材12,14の固有振動数f21,f22の設定の自由度を向上させ得ることが理解されよう。
また、上記式(6)においてk5=0とすれば、比較例のダンパ装置における反共振点の振動数fa′が次式(22)のように表される。式(6)と式(22)とを比較すれば、ばね定数k1,k2,k3,k4、慣性モーメントJ21およびJ22が同一である場合、比較例のダンパ装置における反共振点の振動数fa′は、ダンパ装置10における反共振点Aの振動数faよりも小さくなる。ただし、ダンパ装置10では、主に第1および第2中間部材12,14の慣性モーメントJ21,J22を適宜選択することで、比較例のダンパ装置(図7における破線参照)の反共振点の振動数fa′と同程度の値に容易に設定することができる。
更に、本実施形態のダンパ装置10において、第1中間部材12は、慣性モーメントJ21が第2中間部材14の慣性モーメントJ22よりも大きくなるように構成され、更にタービンランナ5に一体回転するように連結される。これにより、低周波側の固有振動数f21をより一層小さくして、反共振点A付近における振動レベルをより低下させることが可能となる。また、第1中間部材12をタービンランナ5に一体回転するように連結すれば、当該第1中間部材12の実質的な慣性モーメントJ21(第1中間部材12やタービンランナ5等の慣性モーメントの合計値)をより大きくすることができる。これにより、低周波側の固有振動数f21をより一層小さくして、当該第1中間部材12の共振点をより低回転側(低周波側)に設定することが可能となる。
ここまで、ヒステリシスが存在しないと仮定したダンパ装置10の基本的な設計手順について説明したが、複数のスプリングSP11,SP12,SP21,SP22,SPmを含むダンパ装置10においてヒステリシスを無くすことは実際のところ極めて困難である。また、第1および第2トルク伝達経路P1,P2を含むダンパ装置10においても、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動の位相が第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の位相に対して180度ずれる周波数は、ヒステリシスに起因して理論値から高周波側(高回転側)にずれてしまうであろう。そして、このような位相反転の高周波側へのずれが生じると、第2外側スプリングSP12からの振動と第2内側スプリングSP22からの振動との打ち消し合いによりドリブン部材16の振動振幅が最小になる周波数も高周波側(高回転側)にずれてしまう。これを踏まえて、本発明者らは、ダンパ装置10や比較例のダンパ装置における低周波側の固有振動数での共振による振動の位相反転に対するヒステリシスの影響について精査した。
本発明者らは、まず、理論上の反共振点の振動数fa′(上記式(18)参照)をダンパ装置全体と車両のドライブシャフトとの振動による共振(ドライブ部材とドライブシャフトとの間で発生する振動による共振)の周波数ftagに概ね一致させた比較例のダンパ装置のモデルについてシミュレーションを行い、低周波側の固有振動数f21′での共振による振動の位相変化を検証した。図14に、比較例のダンパ装置についてのシミュレーション結果を破線で示す。図14に示すように、比較例のダンパ装置において、2つのトルク伝達経路における振動の位相が180度ずれる周波数fr′は、図中破線で示すように、減衰されるべき振動の周波数ftag(それに対応したエンジン回転数)よりも高周波側(高回転側)にずれてしまうことが判明した。従って、比較例のダンパ装置は、当該ダンパ装置全体と車両のドライブシャフトの振動による共振を良好に減衰し得ないと考えられる。
更に、本発明者らは、理論上の反共振点Aの振動数fa(上記式(6)参照)をダンパ装置10全体と車両のドライブシャフトとの振動による共振の周波数ftag(比較例の場合と同一の値)に概ね一致させたダンパ装置10のモデルについてシミュレーションを行い、ダンパ装置10における低周波側の固有振動数f21での共振による振動の位相変化を検証した。図14に、ダンパ装置10についてのシミュレーション結果を実線で示す。図14のシミュレーション結果からわかるように、上述のように構成されるダンパ装置10では、低周波側の固有振動数f21での共振による振動の位相反転に対するヒステリシスの影響を比較例のダンパ装置に比べて良好に低減化することが可能となる。
すなわち、中間スプリングSPmを含むダンパ装置10では、上述のように、第1および第2中間部材12,14の慣性モーメントJ21、J22を調整することで、低周波側の固有振動数f21での共振、すなわち第1中間部材12の共振を容易に低周波側にシフトさせることができる。また、ダンパ装置10において、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22のばね定数k11,k12,k21,およびk22は、k11<k21、かつk11/k21≠k12/k22という関係を満たす。これにより、中間スプリングSPmを含む第3トルク伝達経路P3を介して第2中間部材14から第1中間部材12へとトルク(平均トルクの一部)を伝達することが可能となり、第1外側スプリングSP11のトルク分担を減らしてばね定数k11を小さく(低剛性化)し、低剛性に伴う第1外側スプリングSP11の軽量化により当該第1外側スプリングSP11と回転要素との間で発生する摩擦力を低下させることができる。従って、第1外側スプリングSP11のヒステリシスを低下させ、図14において細い実線で示すように、固有振動数f21での共振、すなわち第1中間部材12の共振による第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動(第1トルク伝達経路P1の振動)の位相反転を速やかに完了させること(位相変化の勾配を急峻にすること)が可能となる。この結果、ダンパ装置10では、位相反転に対するヒステリシスの影響を低減化し、図14において実線で示すように、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動の位相が第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の位相に対して180度ずれる周波数frを減衰されるべき振動の周波数ftagよりも低周波側(低回転側)にシフトさせることができる。
更に、ダンパ装置10において、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22のばね定数k11,k12,k21,およびk22は、k11/k21<k12/k22、およびk11<k12<k22<k21という関係を満たす。このような関係が成立する場合、中間スプリングSPmを含む第3トルク伝達経路P3を介して第2中間部材14から第1中間部材12へとトルク(平均トルクの一部)が伝達され、第1中間部材12とドリブン部材16との間の第2外側スプリングSP12により伝達されるトルクが増加する。また、理論上、ドライブ部材11への入力トルクT(第1外側スプリングSP11の伝達トルクと第1内側スプリングSP21の伝達トルクとの和)と、第2外側スプリングSP12の伝達トルクと第2内側スプリングSP22の伝達トルクとの和とは等しくなる。従って、k11/k21<k12/k22、およびk11<k12<k22<k21という関係が満たされる場合には、第1外側スプリングSP11のトルク分担をより小さくして第1外側スプリングSP11のばね定数k11をより小さく(低剛性化)すると共に、更に第2外側スプリングSP12のばね定数k12をも小さく(低剛性化)することができる。従って、ダンパ装置10では、低剛性に伴う第1および第2外側スプリングSP11、SP12の軽量化により両者と回転要素との間で発生する摩擦力すなわちヒステリシスをより小さくすると共に、固有振動数f21での共振、すなわち第1中間部材12の共振をより低周波側にシフトさせることが可能となる。この結果、図14において太い実線で示すように、上記周波数frのヒステリシスに起因した高周波側へのずれをより良好に低減化することができる。
また、上記ダンパ装置10では、第1および第2外側スプリングSP11,SP12が当該ダンパ装置10の周方向に沿って並ぶように配置され、第1および第2内側スプリングSP21,SP22が当該周方向に沿って並ぶように第1および第2外側スプリングSP11,SP12の径方向内側に配置される。従って、ダンパ装置10の軸長をより短縮化しつつ、外周側の第1外側スプリングSP11や第2外側スプリングSP12を低剛性化して両者のヒステリシスを低減化すると共に、内周側の第1および第2内側スプリングSP21,SP22に作用する遠心力を低下させて両者のヒステリシスを低減化することができる。従って、ダンパ装置10では、装置全体のヒステリシスを良好に低減化することが可能となる。
図15は、それぞれドライブ部材11からトルクが伝達される第1外側スプリングSP11および第1内側スプリングSP21のトルク分担比γ1と、それぞれドリブン部材16にトルクを伝達する第2外側スプリングSP12および第2内側スプリングSP22のトルク分担比γ2と、ダンパ装置10の振動減衰性能との関係を示す説明図である。本発明者らは、トルク分担比γ1,γ2と、ドライブ部材11への入力トルクTが上記トルクT1未満の所定値であるとき(スプリングSP11,SP12,SP21,SP22,SPmのすべての撓みが許容されているとき)のダンパ装置10の振動減衰性能との関係についても解析を行った。トルク分担比γ1は、第1外側スプリングSP11がドライブ部材11から第1中間部材12へと伝達するトルクを“T11”とし、第1内側スプリングSP21がドライブ部材11から第2中間部材14へと伝達するトルクを“T21”としたときに、γ1=T11/(T11+T21)として表されるものである。トルク分担比γ2は、第2外側スプリングSP12が第1中間部材12からドリブン部材16へと伝達するトルクを“T12”とし、第2内側スプリングSP22が第2中間部材14からドリブン部材16へと伝達するトルクを“T22”としたときに、γ2=T12/(T12+T22)として表されるものである。また、上述のように、入力トルクTと、トルクT11,T21,T12,T21との間では、理論上、T=T11+T21=T12+T22という関係が成立する。なお、この解析においても、ダンパ装置10の振動減衰性能は、図7等と同様に、ドリブン部材16の振動振幅(トルク変動)に基づいて評価した。
ダンパ装置10のように、中間スプリングSPmを含む第3トルク伝達経路P3を介して第2中間部材14から第1中間部材12へとトルク(平均トルクの一部)が伝達される場合、トルク分担比γ1,γ2は、図15においてγ1=γ2を示す線分の図中上側に位置する領域X内(γ1=γ2を示す線分上を除く)に含まれる。かかる領域Xは、γ1<γ2、すなわち、T11/(T11+T21)<T12/(T12+T22)という関係が成立する領域である。本発明者らは、スプリングSP11,SP12,SP21,SP22,SPmのコイル径や軸長の増加、すなわちダンパ装置10の大型化を抑制しつつ、振動減衰性能を良好に確保し得る領域X内の範囲を解析により求めた。
そして、解析の結果、トルク分担比γ1,γ2が図15に示す領域Y内に含まれる場合に、ダンパ装置10の大型化を抑制しつつ、振動減衰性能を良好に確保し得ることが判明した。領域Yは、γ1<γ2、0.07≦γ1=T11/(T11+T21)≦0.28、および0.12≦γ2=T12/(T12+T22)≦0.42を満たす領域である。更に、本発明者らの解析によれば、トルク分担比γ1,γ2が図15に示す領域Y内の領域Z内に含まれる場合、ダンパ装置10の振動減衰性能をより一層向上させ得ることが判明している。領域Zは、γ1<γ2、0.1≦γ1=T11/(T11+T21)≦0.25、および0.13≦γ2=T12/(T12+T22)≦0.39を概ね満たす領域である。従って、ダンパ装置10は、γ1<γ2、0.07≦γ1=T11/(T11+T21)≦0.28、および0.12≦γ2=T12/(T12+T22)≦0.42、より好ましくは、γ1<γ2、0.1≦γ1=T11/(T11+T21)≦0.25、および0.13≦γ2=T12/(T12+T22)≦0.39を満たすように構成されるとよい。
また、第1および第2中間部材12,14の間で中間スプリングSPmが伝達するトルクを“Tm”とすれば、γ2−γ1=Tm/(T11+T21)=Tm/(T12+T22)となる。かかる値(γ2−γ1)は、入力トルクT(ドリブン部材16から出力されるトルク)に対する中間スプリングSPmの伝達トルクの割合を示し、本発明者らの解析によれば、0<γ2−γ1≦0.35を満たすことで、ダンパ装置10の大型化を抑制しつつ、振動減衰性能を良好に確保し得ることが判明している。なお、損失等によりT11+T21=T12+T22という関係が厳密には成立しないともいえることから、ダンパ装置10は、0<γ2−γ1≦0.35、および0<Tm/(T12+T22)≦0.35の何れか一方を満たすように構成されてもよい。
図16は、エンジンEGの回転数と、ヒステリシスを考慮した場合のダンパ装置10および中間スプリングSPmが省略された比較例のダンパ装置のドリブン部材における振動振幅(トルク変動)との関係を例示する説明図である。図16において、実線は、ダンパ装置10のドリブン部材における振動振幅(トルク変動)のヒステリシスを考慮したシミュレーション結果を示し、破線は、比較例のダンパ装置のドリブン部材における振動振幅(トルク変動)のヒステリシスを考慮したシミュレーション結果を示す。かかるシミュレーションに用いられたダンパ装置10のモデルは、k11<km<k12<k22<k21という関係と、γ1<γ2、0.07≦γ1=T11/(T11+T21)≦0.28、および0.12≦γ2=T12/(T12+T22)≦0.42という関係とを満たすと共に、理論上の反共振点Aの振動数faが上述のダンパ装置10全体と車両のドライブシャフトとの振動による共振の周波数ftagに概ね一致するように各種諸元を定めることにより構築されたものである。また、シミュレーションに用いられた比較例のダンパ装置のモデルは、理論上の反共振点の振動数fa′が当該ダンパ装置全体と車両のドライブシャフトとの振動による共振の周波数ftag(ダンパ装置10の場合と同一の値)に概ね一致するように各種諸元を定めることにより構築されたものである。
図16に示すように、ダンパ装置10では、比較例のダンパ装置に比べて、反共振点Aを生じさせる低周波側の固有振動数f21での共振、すなわち第1中間部材12の共振をより低周波側にシフトさせて当該反共振点Aから離間させることができる。従って、ダンパ装置10では、反共振点Aの振動数faを減衰されるべき振動(共振)の周波数ftagにより近づけることで、比較例のダンパ装置に比べて振動減衰性能を極めて良好に向上させ得ることが理解されよう。この結果、ダンパ装置10を含む発進装置1では、比較例のダンパ装置に比べて、ロックアップクラッチ8のロックアップ回転数Nlupをより低回転側(例えば、周波数ftagに対応したエンジンEGの回転数よりも低い回転数)に設定することが可能となる。すなわち、ばね定数k11,k12,k21,k22およびkmを、k11<km<k12<k22<k21を満たすように選択することで、中間スプリングSPmを介して第2中間部材14から第1中間部材12にトルクを適正に伝達して、ダンパ装置10の振動減衰性能を極めて良好に向上させることが可能となる。
なお、上記ダンパ装置10において、第1内側スプリングSP21のばね定数k 21は、第2内側スプリングSP22のばね定数k 22も大きいが(k22<k21)、これに限られるものではない。すなわち、ダンパ装置10の設計を容易にするために、第1内側スプリングSP21のばね定数k 21やコイル径、軸長といった諸元と、第2内側スプリングSP22のばね定数k 22やコイル径、軸長といった諸元とを同一(k22=k21)にしてもよい。また、ダンパ装置10において、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22のばね定数k11,k12,k21およびk22は、k21<k11、かつk11/k21≠k12/k22、より詳細には、k21<k22<k12≦k11という関係を満たすように選択されてもよい。すなわち、中間スプリングSPmは、ドライブ部材11から第1外側スプリングSP11を介して第1中間部材12に伝達されたトルクの一部(平均トルクの一部)を第2中間部材14に伝達してもよい。この場合、ダンパ装置10は、第2中間部材14の慣性モーメントJ22が第1中間部材12の慣性モーメントJ21よりも大きくなるように構成されてもよく、第2中間部材14は、タービンランナ5に一体回転するように連結されてもよい。
更に、ダンパ装置10において、中間スプリングSPmのばね定数kmは、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22のばね定数k11,k12,k21およびk22よりも小さく定められてもよい。すなわち、低回転側(低周波側)の固有振動数f21や反共振点Aの振動数faは、上述のように、中間スプリングSPmの合成ばね定数k5が小さくなるにつれて小さくなる(図12参照)。従って、中間スプリングSPmのばね定数(剛性)kmをばね定数k11,k12,k21およびk22よりも小さくすれば、固有振動数f21と振動数faとをより一層小さくすることができる。そして、かかる構成を採用しても、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動および第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の一方が他方の少なくとも一部を打ち消す回転数帯の始点をより低回転側に設定することが可能となる。加えて、当該回転数帯の始点を低回転側に設定することで、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動の位相と第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の位相とが180度ずれる回転数(周波数)をも低回転側(低周波側)に設定することができる。この場合、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22のばね定数k11,k12,k21およびk22は、少なくとも、k11≠k21、かつk11/k21≠k12/k22という関係を満たすとよい。また、この場合、ばね定数k11,k12,k21およびk22は、k11/k21<k12/k22あるいはk12/k22<k11/k21という関係を満たしてもよく、k11<k12<k22≦k21あるいはk21<k22<k12≦k11という関係を満たしてもよい。
また、ダンパ装置10において、中間スプリングSPmのばね定数kmは、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22のばね定数k11,k12,k21およびk22よりも大きく定められてもよい。すなわち、低回転側(低周波側)の固有振動数f21と反共振点Aの振動数faとの差(fa−f21)は、上述のように、中間スプリングSPmの合成ばね定数k5が大きくなるにつれて大きくなる(図12参照)。従って、中間スプリングSPmのばね定数(剛性)kmをばね定数k11,k12,k21およびk22よりも大きくすれば、固有振動数f21と振動数faとの差(fa−f21)との差を大きくして、第2外側スプリングSP12からドリブン部材16に伝達される振動および第2内側スプリングSP22からドリブン部材16に伝達される振動の一方が他方の少なくとも一部を打ち消す回転数帯、すなわちドリブン部材16の振動レベルを良好に低下させ得る範囲をより広くすることが可能となる。
この場合には、固有振動数f21と反共振点Aの振動数faとがより小さくなり、かつ両者の差(fa−f21)がより大きくなるように、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22のばね定数k11,k12,k21およびk22を調整するとよい。かかる構成は、固有振動数f21と反共振点Aの振動数faとをより小さくするためのばね定数k11,k12,k21およびk22の数値設定の容易性からみて、ドライブ部材11への最大入力トルクが比較的小さく、要求される等価剛性keqが比較的低いダンパ装置に適用されると有利である。この場合も、第1および第2外側スプリングSP11,SP12並びに第1および第2内側スプリングSP21,SP22のばね定数k11,k12,k21およびk22は、少なくとも、k11≠k21、かつk11/k21≠k12/k22という関係を満たすとよい。また、この場合も、ばね定数k11,k12,k21およびk22は、k11/k21<k12/k22あるいはk12/k22<k11/k21という関係を満たしてもよく、k11<k12<k22≦k21あるいはk21<k22<k12≦k11という関係を満たしてもよい。
更に、ダンパ装置10において、中間スプリングSPmは、第1および第2内側スプリングSP21,SP22と周方向に沿って並ぶように配設されてもよい。また、ダンパ装置10は、第1、第2および第3トルク伝達経路P1,P2,P3に加えて、例えば第1および第2トルク伝達経路P1,P2と並列に設けられる少なくとも1つのトルク伝達経路を更に含んでもよい。更に、ダンパ装置10の例えば第1および第2トルク伝達経路P1,P2の少なくとも何れか一方には、それぞれ少なくとも1組の中間部材およびスプリング(弾性体)が追設されてもよい。
また、発進装置1において、エンジンEGと変速機TMの入力軸(ドライブ部材11)との実スリップ速度(実回転速度差)を目標スリップ速度に一致させるスリップ制御が実行される場合には、上記反共振点Aの振動数faをスリップ制御が実行される際に発生するシャダーの周波数fsに一致させたり、当該シャダーの周波数fsの近傍の値に設定したりしてもよい。これにより、スリップ制御が実行される際に発生するシャダーをより低減化することが可能となる。なお、シャダーの周波数fsは、一体に回転するロックアップピストン80およびドライブ部材11の慣性モーメントを“Jpd”とすれば、当該慣性モーメントJpdおよびダンパ装置10の等価剛性keqを用いて、fs=1/2π・√(keq/Jpd)と表すことができる。
以上説明したように、本開示のダンパ装置は、エンジン(EG)からのトルクが伝達される入力要素(11)と、出力要素(16)とを有するダンパ装置(10)において、第1中間要素(12)と、第2中間要素(14)と、前記入力要素(11)と前記第1中間要素(12)との間でトルクを伝達する第1弾性体(SP11)と、前記第1中間要素(12)と前記出力要素(16)との間でトルクを伝達する第2弾性体(SP12)と、前記入力要素(11)と前記第2中間要素(14)との間でトルクを伝達する第3弾性体(SP21)と、前記第2中間要素(14)と前記出力要素(16)との間でトルクを伝達する第4弾性体(SP22)と、前記第1中間要素(12)と前記第2中間要素(14)との間でトルクを伝達する第5弾性体(SPm)とを備えるものである。
本開示のダンパ装置では、第1から第5弾性体のすべての撓みが許容されている状態に対して、装置全体で2つの固有振動数を設定することができる。そして、本発明者らの研究・解析によれば、これらの第1から第5弾性体を含むダンパ装置の固有振動数は、第5弾性体の剛性が低下するにつれて小さくなることや、第5弾性体の剛性の変化に対するダンパ装置の等価剛性の変化は、第1から第4弾性体の剛性の変化に対する当該等価剛性の変化に比べて大幅に小さくなることが判明している。従って、本開示のダンパ装置では、第5弾性体の剛性を調整することで、ダンパ装置の等価剛性を適正に保つと共に第1および第2中間要素の重量(慣性モーメント)の増加を抑制しつつ、装置全体の2つの固有振動数を適正に設定することができる。この結果、本開示のダンパ装置では、振動減衰性能を良好に向上させることが可能となる。
より詳細には、本開示のダンパ装置では、入力要素と出力要素との間に、第1中間要素、第1および第2弾性体によって第1のトルク伝達経路が形成されると共に、第2中間要素、第3および第4弾性体によって第2のトルク伝達経路が形成される。また、本開示のダンパ装置は、第1から第4弾性体に加えて第5弾性体を含み、当該第5弾性体により第1中間要素と第2中間要素との間でトルクが伝達される。かかるダンパ装置では、第1から第5弾性体のすべての撓みが許容されている状態に対して、装置全体で2つの固有振動数を設定することができる。このように装置全体で2つの固有振動数が設定される場合、入力要素に伝達される振動の周波数に応じて当該2つの固有振動数の小さい方での共振が一旦発生すると、第2弾性体から出力要素に伝達される振動の位相と、第4弾性体から出力要素に伝達される振動の位相とがずれていく。このため、2つの固有振動数の小さい方での共振が発生した後に入力要素の回転数が高まるのに伴って、第2弾性体から出力要素に伝達される振動および第4弾性体から出力要素に伝達される振動の一方は、前記第2弾性体から前記出力要素に伝達される振動および前記第4弾性体から前記出力要素に伝達される振動の他方の少なくとも一部を打ち消すようになる。そして、第2弾性体から出力要素に伝達される振動の位相と第4弾性体から出力要素に伝達される振動の位相とが180度ずれて両振動が互いに打ち消し合うようになることで、出力要素の振動振幅が理論上ゼロになる反共振点を設定することが可能となる。
更に、本発明者らの研究・解析によれば、低回転側(低周波側)の固有振動数や反共振点の振動数は、第5弾性体の剛性が低下するにつれて小さくなることや、低回転側の固有振動数と反共振点の振動数との差は、第5弾性体の剛性が高まるにつれて大きくなることも判明している。従って、本開示のダンパ装置では、第5弾性体の剛性を調整することで、入力要素への最大入力トルクに応じて等価剛性を適正に保つと共に第1および第2中間要素の重量(慣性モーメント)の増加を抑制しつつ、低回転側の固有振動数および反共振点の振動数を適正に設定することができる。すなわち、第5弾性体の剛性の調整により低回転側の固有振動数と反共振点の振動数とをより小さくすることで、第2弾性体から出力要素に伝達される振動および第4弾性体から出力要素に伝達される振動の一方が他方の少なくとも一部を打ち消す回転数帯(周波数帯)の始点をより低回転側に設定し、第2弾性体から出力要素に伝達される振動の位相と第4弾性体から出力要素に伝達される振動の位相とが180度ずれる回転数(周波数)をより低回転側に設定することが可能となる。また、第5弾性体の剛性の調整により低回転側の固有振動数と反共振点の振動数との差を大きくすることで、第2弾性体から出力要素に伝達される振動および第4弾性体から出力要素に伝達される振動の一方が他方の少なくとも一部を打ち消す回転数帯をより広くすることもできる。この結果、本開示のダンパ装置では、上記反共振点の振動数を当該ダンパ装置により減衰すべき振動(共振)の周波数により近づけることで、振動減衰性能を良好に向上させることが可能となる。
また、前記第1から第5弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22,SPm)のすべてを介して前記入力要素(11)から前記出力要素(16)にトルクが伝達される際の前記第1中間要素(12)の固有振動数(f21)と、前記第1から第5弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22,SPm)のすべてを介して前記入力要素(11)から前記出力要素(16)にトルクが伝達される際の前記第2中間要素(14)の固有振動数(f22)とが互いに異なっていてもよい。すなわち、本開示のダンパ装置は、第1および第2中間要素の固有振動数の小さい方での共振が発生した後に、第2弾性体から出力要素に伝達される振動および第4弾性体から出力要素に伝達される振動の一方が他方の少なくとも一部を打ち消すように構成されてもよい。加えて、本開示のダンパ装置では、第1中間要素と第2中間要素とが第5弾性体を介して互いに連結されることから、第1中間要素の振動と第2中間要素の振動とが連成する(両者の振動が相互に影響し合う)。これにより、第1および第2中間要素の固有振動数は、それぞれ第1および第2中間要素の双方の慣性モーメントの影響を受けることから、第1および第2中間要素の重量(慣性モーメント)の増加を抑制しつつ、第1および第2中間要素の固有振動数の小さい方での共振を容易に低回転側にシフトさせることができる。なお、第1および第2中間要素の固有振動数の小さい方での共振は、ダンパ装置が使用される回転数域において発生しない仮想的なものであってもよい。
上述のように、前記第1から第5弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22,SPm)のすべてを介して前記入力要素(11)から前記出力要素(16)にトルクが伝達される際に、前記第2弾性体(SP12)から前記出力要素(16)に伝達される振動および前記第4弾性体(SP22)から前記出力要素(16)に伝達される振動の一方は、他方の少なくとも一部を打ち消してもよい。
更に、前記第5弾性体(SPm)は、前記入力要素(11)から前記第3弾性体(SP21)を介して前記第2中間要素(14)に伝達されたトルクの一部、または前記入力要素(11)から前記第1弾性体(SP11)を介して前記第1中間要素(12)に伝達されたトルクの一部を前記第1中間要素(12)または前記第2中間要素(11)に伝達してもよい。これにより、第1または第3弾性体のトルク分担を減らして当該第1または第3弾性体の剛性を低下させることが可能となる。従って、第1または第3弾性体と回転要素との間で発生する摩擦力すなわちヒステリシスを小さくして、上記2つの固有振動数の小さい方での共振による第2または第4弾性体から出力要素に伝達される振動の位相反転を速やかに完了させることができる。この結果、第2弾性体から出力要素に伝達される振動の位相と第4弾性体から出力要素に伝達される振動の位相とが180度ずれる周波数のヒステリシスに起因した高周波側へのずれを低減化し、ダンパ装置の振動減衰性能を良好に向上させることが可能となる。
また、前記第1弾性体(SP11)の剛性を“k11”とし、前記第2弾性体(SP12)の剛性を“k12”とし、前記第3弾性体(SP21)の剛性を“k21”とし、前記第4弾性体(SP22)の剛性を“k22”としたときに、前記第1から第4弾性体の剛性k11,k12,k21およびk22がk11≠k21、かつk11/k21≠k12/k22を満たすように選択されてもよい。これにより、第1から第5弾性体のすべての撓みが許容されている際に、上記第1および第2のトルク伝達経路に加えて、第1弾性体、第1中間要素、第5弾性体、第2中間要素および第4弾性体、あるいは第3弾性体、第2中間要素、第5弾性体、第1中間要素および第2弾性体を含む第3のトルク伝達経路を介して、入力要素と出力要素との間でトルクを伝達することが可能となる。
更に、前記第1から第4弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22)の剛性k11,k12,k21およびk22は、k11/k21<k12/k22を満たすように選択されてもよい。これにより、第1および第2のトルク伝達経路に加えて、第3弾性体、第2中間要素、第5弾性体、第1中間要素および第3弾性体を含む第3のトルク伝達経路を介して、入力要素と出力要素との間でトルクを伝達することが可能となる。
また、前記第1から第4弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22)の剛性k11,k12,k21およびk22は、k11<k12<k22≦k21を満たすように選択されてもよい。このように構成されるダンパ装置では、第1から第5弾性体のすべての撓みが許容されている際に、上記第1および第2のトルク伝達経路に加えて、第3弾性体、第2中間要素、第5弾性体、第1中間要素および第2弾性体を含む第3のトルク伝達経路を介して入力要素と出力要素との間でトルクが伝達されることになる。そして、k11<k12<k22≦k21を満たすように剛性k11,k12,k21およびk22を選択することで、第1弾性体の剛性k11をより小さくすると共に、更に第2弾性体の剛性k12をも小さくすることができる。これにより、第1および第2弾性体と回転要素との間で発生する摩擦力すなわちヒステリシスをより小さくすると共に、上記2つの固有振動数の小さい方での共振(第1中間要素の共振)をより低周波側にシフトさせることが可能となる。この結果、第2弾性体から出力要素に伝達される振動の位相が第4弾性体から出力要素に伝達される振動の位相に対して180度ずれる周波数のヒステリシスに起因した高周波側へのずれをより良好に低減化することができる。なお、第1から第4弾性体の剛性k11,k12,k21およびk22は、k21<k11、かつk11/k21≠k12/k22、より詳細には、k21<k22<k12≦k11を満たすように選択されてもよい。すなわち、k11≠k21、かつk11/k21≠k12/k22という関係は、k11<k12<k22≦k21という関係と、k21<k22<k12≦k11という関係との双方に基づくものである。
更に、前記第5弾性体(SPm)の剛性を“km”としたときに、前記第1から第5弾性体の剛性k11,k12,k21,k22およびkmは、k11<km<k12<k22≦k21を満たすように選択されてもよい。これにより、第5弾性体を介して第2中間要素から第1中間要素にトルクを適正に伝達して、ダンパ装置の振動減衰性能を極めて良好に向上させることが可能となる。
また、前記5弾性体(SPm)の剛性(km)は、前記第1から第4弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22)の剛性k11,k12,k21およびk22よりも大きくてもよい。すなわち、低回転側の固有振動数と反共振点の振動数との差は、上述のように、第5弾性体の剛性が高まるにつれて大きくなる。従って、第5弾性体の剛性を第1から第4弾性体の剛性よりも大きくすれば、低回転側の固有振動数と反共振点の振動数との差を大きくして、第2弾性体から出力要素に伝達される振動および第4弾性体から出力要素に伝達される振動の一方が他方の少なくとも一部を打ち消す回転数帯、すなわち出力要素の振動レベルを良好に低下させ得る範囲をより広くすることが可能となる。
更に、前記第5弾性体(SPm)の剛性(km)は、前記第1から第4弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22)の剛性k11,k12,k21およびk22よりも小さくてもよい。すなわち、低回転側(低周波側)の固有振動数や反共振点の振動数は、上述のように、第5弾性体の剛性が低下するにつれて小さくなる。従って、第5弾性体の剛性を第1から第4弾性体の剛性よりも小さくすれば、低回転側の固有振動数と反共振点の振動数とをより小さくして、第2弾性体から出力要素に伝達される振動および第4弾性体から出力要素に伝達される振動の一方が他方の少なくとも一部を打ち消す回転数帯(周波数帯)の始点をより低回転側に設定し、両振動の位相が180度ずれる回転数(周波数)をより低回転側に設定することが可能となる。
また、前記第1中間要素(12)の慣性モーメントは、前記第2中間要素(14)の慣性モーメントよりも大きくてもよい。これにより、ダンパ装置の2つの固有振動数の小さい方をより小さくして、反共振点付近における振動レベルをより低下させることが可能となる。
更に、前記第1中間要素(12)は、ポンプインペラ(4)と共に流体伝動装置を構成するタービンランナ(5)に一体回転するように連結されてもよい。これにより、第1中間要素の実質的な慣性モーメント(慣性モーメントの合計値)をより大きくすることができるので、ダンパ装置の2つの固有振動数の小さい方をより一層小さくすることが可能となる。
また、前記ダンパ装置(10)は、前記第1弾性体(SP11)が伝達するトルクを“T11”とし、前記第2弾性体(SP12)が伝達するトルクを“T12”とし、前記第3弾性体(SP21)が伝達するトルクを“T21”とし、前記第4弾性体(SP22)が伝達するトルクを“T22”としたときに、T11/(T11+T21)<T12/(T12+T22)、0.07≦T11/(T11+T21)≦0.28、および0.12≦T12/(T12+T22)≦0.42を満たすように構成されてもよい。これにより、ダンパ装置の大型化を抑制しつつ、振動減衰性能を良好に確保することが可能となる。
更に、前記ダンパ装置(10)は、前記第5弾性体(SPm)が伝達するトルクを“Tm”としたときに、0<Tm/(T11+T21)≦0.35、および0<Tm/(T12+T22)≦0.35の少なくとも何れか一方を満たすように構成されてもよい。
また、前記第1、第2、第3、第4および第5弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22,SPm)のばね定数(合成ばね定数)k1,k2,k3,k4およびk5と、前記第1および第2中間要素(12,14)の慣性モーメント(J21,J22)とは、前記出力要素(16)の振動振幅がゼロになる反共振点の振動数に基づいて定められてもよい。これにより、入力要素に伝達される振動を極めて良好に減衰することが可能となる。
更に、前記第1、第2、第3、第4および第5弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22,SPm)のばね定数(合成ばね定数)k1,k2,k3,k4およびk5と、前記第1および第2中間要素(12,14)の慣性モーメント(J21,J22)とは、前記反共振点の振動数と前記エンジン(EG)の気筒数(n)とに基づいて、前記第1、第2、第3、第4および第5弾性体のばね定数と、前記第1および第2中間定められてもよい。これにより、エンジンからの振動が大きくなりがちな低回転数域におけるダンパ装置の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。
また、前記ダンパ装置(10)は、前記出力要素(16)の振動振幅がゼロになる反共振点の振動数を“fa”とし、前記エンジン(EG)の気筒数を“n”としたときに、500rpm≦(120/n)・fa≦1500rpmを満たすように構成されてもよい。このように、出力要素の振動振幅をより低下させ得る反共振点を500rpmから1500rpmまでの低回転数域内に設定することで、より低い回転数でのエンジンと入力要素との連結を許容すると共に、エンジンからの振動が大きくなりがちな低回転数域におけるダンパ装置の振動減衰効果をより向上させることが可能となる。また、反共振点を生じさせる共振(反共振点を形成するために生じさせざるを得ない共振)の振動数が当該反共振点の振動数よりも小さく、かつできるだけ小さい値になるようにダンパ装置を構成することで、反共振点の振動数をより小さくし、より一層低い回転数でのエンジンと入力要素との連結を許容することができる。そして、反共振点よりも高回転側(高周波側)で発生する共振の周波数がより大きくなるようにダンパ装置を構成することで、当該共振を振動が顕在化され難くなる高回転数域側で発生させることが可能となり、低回転数域におけるダンパ装置の振動減衰効果をより一層向上させることができる。
更に、前記ダンパ装置(10)は、前記エンジン(EG)と前記入力要素(11)とを連結するロックアップクラッチ(8)のロックアップ回転数を“Nlup”としたときに、Nlup≦(120/n)・faを満たすように構成されてもよい。これにより、ロックアップクラッチによりエンジンと入力要素とを連結する際や両者の連結直後に、エンジンからの振動をダンパ装置により極めて良好に減衰することが可能となる。
また、前記ダンパ装置(10)は、900rpm≦(120/n)・fa≦1200rpmを満たすように構成されてもよい。
更に、前記反共振点の振動数faは、上記式(6)により表されてもよい。
また、前記ダンパ装置(10)は、前記入力要素に伝達される入力トルク(T)が予め定められた閾値(T1)以上になるまで、前記第1から第5弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22,SPm)の撓みが規制されないように構成されてもよい。これにより、入力要素に伝達される入力トルクが比較的小さく、当該入力要素の回転数が低いときのダンパ装置の振動減衰性能を良好に向上させることが可能となる。
更に、前記ダンパ装置(10)は、前記第1中間要素(12)と前記出力要素(16)との相対回転を規制する第1ストッパ(21)と、前記第2中間要素(14)と前記出力要素(16)との相対回転を規制する第2ストッパ(22)と、前記入力要素(11)と前記出力要素(16)との相対回転を規制する第3ストッパ(23)とを更に備えてもよく、前記第1および第2ストッパ(21,22)は、前記入力トルク(T)が前記閾値(T1)に達すると前記第1または第2中間要素(12,14)と前記出力要素(16)との相対回転を規制してもよく、前記第3ストッパ(23)は、前記入力トルク(T)が前記閾値(T1)よりも大きい第2の閾値(T2)に達すると前記入力要素(11)と前記出力要素(16)との相対回転を規制してもよい。これにより、ダンパ装置に対して、2段階の減衰特性をもたせることが可能となる。
また、前記第1、第2、第3および第4弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22)は、コイルスプリングであってもよく、当該コイルスプリングは、直線型コイルスプリングであってもよく、アークコイルスプリングであってもよい。
更に、前記第5弾性体(SPm)は、コイルスプリングであってもよく、当該コイルスプリングは、直線型コイルスプリングであってもよく、アークコイルスプリングであってもよい。
また、前記入力要素(11)は、前記第1弾性体(SP11)の端部と当接する当接部(111c)と、前記第3弾性体(SP21)の端部と当接する当接部(112c,113c)とを有してもよく、前記出力要素(16)は、前記第2弾性体(SP12)の端部と当接する当接部(16co)と、前記第4弾性体(SP22)の端部と当接する当接部(16ci)とを有してもよく、前記第1中間要素(12)は、前記第1弾性体の端部と当接する当接部(121c,122c)と、前記第2弾性体(SP12)の端部と当接する当接部(121c,122c)と、前記第5弾性体(SPm)の端部と当接する当接部(122d)とを有してもよく、前記第2中間要素(14)は、前記第3弾性体(SP21)の端部と当接する当接部(14c)と、前記第4弾性体の端部と当接する当接部(14c)と、前記第5弾性体(SPm)の端部と当接する当接部(14d)とを有してもよい。
更に、前記出力要素(16)は、変速機(TM)の入力軸(IS)に作用的(直接的または間接的に)連結されてもよく、前記入力要素(11)は、内燃機関の出力軸に作用的(直接的または間接的に)連結されてもよい。
また、前記入力要素(11)には、ロックアップクラッチ(8)を介して前記エンジン(EG)からのトルクが伝達されてもよく、前記ロックアップクラッチ(8)のロックアップ回転数(Nlup)は、前記第1から第5弾性体(SP11,SP12,SP21,SP22,SPm)のすべてを介して前記入力要素(11)から前記出力要素(16)にトルクが伝達される際の前記第1および第2中間要素(12,14)の固有振動数(f21,f22)の小さい方に対応した回転数よりも高くてもよく、大きい方に対応した回転数よりも低くてもよい。このように、第1および第2中間要素の固有振動数の小さい方に対応した回転数がロックアップクラッチの非ロックアップ領域に含まれるようにすることで、ロックアップクラッチによりロックアップが実行された時点から、第2弾性体から出力要素に伝達される振動および第4弾性体から出力要素に伝達される振動の一方により他方の少なくとも一部を打ち消すことが可能となる。
更に、前記第1および第2弾性体(SP11,SP12)は、前記ダンパ装置(10)の周方向に沿って並ぶように配置されてもよく、前記第3および第4弾性体(SP21,SP22)は、前記周方向に沿って並ぶように前記第1および第2弾性体(SP11,SP12)の径方向内側に配置されてもよい。これにより、ダンパ装置の軸長をより短縮化しつつ、外周側の第1弾性体や第2弾性体を低剛性化して当該第1および第2弾性体のヒステリシスを低減化すると共に、内周側の第3および第4弾性体に作用する遠心力を低下させて当該第3および第4弾性体のヒステリシスを低減化することができる。従って、かかるダンパ装置では、装置全体のヒステリシスを良好に低減化することが可能となる。また、前記第5弾性体(SPm)は、前記第1および第2弾性体(SP11,SP12)と前記周方向に沿って並ぶように配置されてもよい。これにより、第1、第2および第5弾性体のストロークを良好に確保することが可能となる。
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記実施形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。