JP6265604B2 - 新規生理活性を有するマンネンタケの栽培方法 - Google Patents

新規生理活性を有するマンネンタケの栽培方法 Download PDF

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Description

本発明は、新規生理活性を有するマンネンタケの栽培方法に関する。
マンネンタケ(学名:Ganoderma lucidum(Leyss.:Fr.)Karst.,)は、マンネンタケ科マンネンタケ属に属する一年生のキノコで、霊芝(レイシ)として古来より漢方薬として用いられてきた。その効果効能としては、これまでに、血小板抗凝固作用やケモカイン遺伝子発現抑制作用に代表される抗炎症作用、アンジオテンシン転換酵素阻害作用に代表される抗高血圧作用の他、免疫賦活作用、肝機能改善作用、抗腫瘍作用、抗高脂血症作用、抗HIV作用等が報告されている。天然には各種広葉樹の枯れ木や切り株に発生する白色の腐朽菌で、北米およびアジアの太平洋岸、ヨーロッパ、中央アフリカの山地など、北半球の温帯に広く分布することが知られている。
マンネンタケの人工栽培方法としては、広葉樹(クヌギ、ナラガシ)を原木または菌床に用いた方法が一般的であり(例として、特許文献1)、これまで収穫量の増大を目的としてさまざまな改良がなされてきた(例として特許文献2)。これに対して本発明者は、収穫量の増大よりも生理活性を向上させるための栽培方法の研究を行い、梅木または梅木粉を添加した培地を菌床に用いることで、血小板凝集抑制活性、ケモカイン遺伝子発現抑制活性、およびアンジオテンシン転換酵素阻害活性が亢進したマンネンタケが得られることを報告している(特許文献3)。しかしながら、梅木(粉)を用いた方法はコスト的に安価とは言い難く、実用上の問題があった。
一方、機能性食品の製造分野では、植物や藻類から有効成分を抽出した後の残渣の処理が大きな問題となっていた。例えば、クロレラ(Chlorella pyrenoidosa)には多くの効用が知られており、そのエキス(多くの場合、熱水または有機溶媒抽出物)を配合した機能性食品が数多く生産されているが、当該抽出工程後に生じる残渣(クロレラ抽出残渣)は栄養価が高く腐敗が早いために、高額の費用をかけて産業廃棄物として処理されてきた。
そこで、クロレラ抽出残渣を有効利用する試みが行われている。例えば、非特許文献1では、スギ木粉とクロレラ抽出残渣を混合した培地を用いてヒラタケ、ブナシメジ、エリンギ、オオヒラタケの栽培を行い、栽培期間の短縮、収量量の増大、あるいはビタミン類やアミノ酸含有量の増加傾向がみられたことを報告している。
しかしながら、これらはすべて食用キノコであり、マンネンタケのような優れた生理活性を有するキノコの当該活性に対する効果は未知数であった。
特開2008−154463号公報 特開2012−24023号公報 特開2009−201438号公報 特開2001−151586号公報 特許3541124号公報
Mushroom Science and Biotechnology、第17巻、31−36頁(2009年)
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、生理活性に優れるマンネンタケを得るための安価で簡便な栽培方法を提供することである。
前記目的を達成するために本発明者らが鋭意検討を行った結果、クロレラ熱水抽出残渣および/またはコッコミクサ乾燥粉末を添加した培地を菌床に用いることで、従来のものよりもアミノ酸含量が高く、血小板凝集抑制効果およびケモカイン遺伝子発現抑制効果に優れ、老化に伴う血中アルブミン/グロブリン比(A/G比)の低下、尿素窒素値の上昇、白血球数の低下に対する改善効果に優れるマンネンタケが得られることが明らかとなった。さらに、当該培地で栽培したマンネンタケは、脳内セロトニンおよびドーパミン含有量を高める効果、および、老化に伴う自発行動量の低下に対する改善効果を有することが明らかとなり、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明により、クロレラ熱水抽出残渣および/またはコッコミクサ乾燥粉末を含む培地を用いることを特徴とするマンネンタケの栽培方法が提供される。
そして、前記栽培方法によって栽培されたマンネンタケの子実体から得られる熱水抽出物を含むことを特徴とする、脳内セロトニンおよびドーパミン含有量増加剤の生産方法が提供される。
また、前記栽培方法によって栽培されたマンネンタケの子実体から得られる熱水抽出物を含むことを特徴とする、老化に伴う自発運動量低下の改善剤の生産方法が提供される。
さらに、本発明により、クロレラ熱水抽出残渣および/またはコッコミクサ乾燥粉末を含む培地を用いて栽培されたマンネンタケの子実体から得られる熱水抽出物を含むことを特徴とする、血小板凝集抑制剤の生産方法が提供される。
また、前記栽培方法によって栽培されたマンネンタケの子実体から得られる熱水抽出物を含むことを特徴とする、ケモカイン遺伝子発現抑制剤の生産方法が提供される。
本発明により、クロレラ熱水抽出残渣および/またはコッコミクサ乾燥粉末を含む培地を用いて栽培されたマンネンタケの子実体から得られる熱水抽出物を含むことを特徴とする、脳内セロトニンおよびドーパミン含有量増加剤が提供される。
そして、クロレラ熱水抽出残渣および/またはコッコミクサ乾燥粉末を含む培地を用いて栽培されたマンネンタケの子実体から得られる熱水抽出物を含むことを特徴とする、老化に伴う自発運動量低下の改善剤が提供される。
本発明にかかる栽培方法により、従来のものよりもアミノ酸含有量が高く、既知の生理活性(血小板凝集抑制活性、ケモカイン遺伝子発現抑制活性等)が亢進し、さらに、脳内セロトニン・ドーパミン含有量を増加させる活性、および老化に伴う自発運動量低下を改善する活性を有するマンネンタケを得ることができる。
本発明の栽培方法によって得られたマンネンタケ子実体から調整した熱水抽出物(実施例3)のヒト血小板に対する凝集抑制効果を示すグラフである。凝集惹起物質としてアデノシン2リン酸(ADP)、血小板活性化因子(PAF)、アラキドン酸ナトリウムのいずれを用いた場合にも、従来の栽培方法で得られたマンネンタケ子実体から調整した熱水抽出物(コントロール)よりも抑制効果に優れることがわかる。 本発明の栽培方法によって得られたマンネンタケ子実体から調整した熱水抽出物(実施例3)のケモカイン遺伝子発現抑制効果を示すグラフである。 本発明の栽培方法によって得られたマンネンタケ子実体から調整した熱水抽出物(実施例3)の、ラットの自発運動量に及ぼす効果を調べた結果である。当該熱水抽出物の投与により、老齢ラットにおける自発運動量の低下が大幅に改善されることがわかる。 本発明の栽培方法によって得られたマンネンタケ子実体から調整した熱水抽出物(実施例3)の、ラットの脳幹におけるセロトニン・ドーパミン含有量を増加させることを示すグラフである。 本発明の栽培方法によって得られたマンネンタケ子実体から調整した熱水抽出物(実施例3)の、ラット末梢血中のA/G比および尿素窒素値に及ぼす効果を示すグラフである。 本発明の栽培方法によって得られたマンネンタケ子実体から調整した熱水抽出物(実施例3)の、ラット末梢血中のクレアチニン含有量および白血球数に及ぼす効果を示すグラフである。
以下に、本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
・マンネンタケ
本発明に用いるマンネンタケは、野生のもの、株化されたもののいずれを用いてもよい。
・クロレラ熱水抽出残渣
本発明のクロレラ熱水抽出残渣は、クロレラ藻体を熱水処理して抽出物を分離した後に残る細胞残渣であり、クロレラを用いた機能性食品の製造工程では廃棄物として発生するものである。このクロレラ熱水抽出残渣は、これまでは産業廃棄物として焼却または海中投棄されてきた。このようなクロレラ熱水抽出残渣の例としては、出願人による特許文献4に記載の方法で得られる残渣等が挙げられる。
・コッコミクサ乾燥粉末
本発明で用いるコッコミクサ藻体は、緑色植物門、緑藻綱、クロロコッカム目、クロロコッカム科に属するコッコミクサ・グロエオボトリディフォルミス(Coccomyxa gloeobotrydiformis)であり、大きさ約10μmの円形の単細胞性植物である。この藻類は、特許文献5に記載されているように、無機液体培地中で安価且つ簡便に大量培養することが可能である。このコッコミクサ藻体を、乾燥後裁断して粉末化したものをコッコミクサ原粉末として用いることができる。
・培地調整
前記クロレラ熱水抽出残渣またはコッコミクサ原粉末を、広葉樹木粉の重量に対して7.5〜12.5%となるように広葉樹木粉に添加する。この混合物に対し、含水率が60〜75%となるように調整した後に滅菌処理を行い、クロレラ熱水抽出残渣添加培地またはコッコミクサ原粉末添加培地とする。
・栽培方法
前記クロレラ熱水抽出残渣添加培地またはコッコミクサ原粉末添加培地にマンネンタケを接種し、25〜27℃、湿度75〜85%で24〜26日間培養を行う。
・マンネンタケ熱水抽出物の調整方法
前記栽培方法で得られたマンネンタケから1番発生の子実体を収穫し、65℃以下の通風乾燥機で乾燥させた後に粉砕処理を行って乾燥粉末を得る。当該子実体乾燥粉末5gを80〜90℃の熱水100〜200mlに懸濁し、1.5〜2.5時間抽出操作を行った後、上清を回収してマンネンタケ熱水抽出物とする。
本発明のマンネンタケ熱水抽出物は、必要に応じて濃縮を行い濃縮物、あるいは水分を蒸発させて固形物とすることができる。さらに、公知の賦形剤や添加剤を適宜加えることにより、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等の製剤とすることができる。
本発明のマンネンタケ熱水抽出物を含む脳内セロトニンおよびドーパミン含有量増加剤、および、老化に伴う自発運動量低下の改善剤は、経口による摂取が好ましい。好適な摂取量としては、成人(体重60kg)1日当たり、子実体乾燥粉末に換算して100〜2000mg、さらに好適には500〜1000mgである。
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1:マンネンタケの栽培方法
クロレラ熱水抽出残渣(株式会社日健総本社製、シイタケ抽出残渣とおからを含む)、またはコッコミクサ乾燥粉末(株式会社日健総本社製)を、広葉樹木粉の重量に対して10%となるように広葉樹木粉に添加した。当該混合物の含水率が65%となるように調整し、滅菌処理を行い、クロレラ熱水抽出残渣添加培地またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地とした。これらの培地にマンネンタケを接種し、26℃、湿度85%下で25日間培養を行った。
なお、コントロール培地には、広葉樹木粉の重量に対して20%となるようにフスマを添加した後、含水率を65%に調整し滅菌処理したものを用いた。
実施例2:マンネンタケ子実体の成分分析
実施例1の方法で栽培したマンネンタケの子実体のアミノ酸分析を行った。
表1、2より、クロレラ残渣添加培地またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケの子実体は、コントロール培地で栽培したマンネンタケの子実体に比べて、標準アミノ酸(表1)の総量がそれぞれ2.04倍(クロレラ添加培地)、2.37倍(コッコミクサ添加培地)、非標準アミノ酸(表2)の総量がそれぞれ2.79倍(クロレラ添加培地)、3.68倍(コッコミクサ添加培地)に増加していることがわかる。とりわけ、有益な生理活性を有することで注目されているγ−アミノ酪酸(GABA)、オルニチン、アルギニンについては、クロレラ添加培地を用いた場合にはそれぞれ3.51倍、3.33倍、2.56倍、コッコミクサ添加培地を用いた場合にはそれぞれ4.28倍、4.75倍、3.84倍と、大幅に相加していた。
よって、本発明の栽培方法を用いることにより、アミノ酸総量および有益なアミノ酸に富んだマンネンタケが得られることが示された。
実施例3:マンネンタケ熱水抽出物の調整
実施例1の方法で栽培したマンネンタケから1番発生の子実体を収穫し、65℃以下の通風乾燥機で乾燥させた後に、ワーリングミキサーを用いて粉砕処理を行った。当該子実体乾燥粉末5gを85℃の熱水200ml中で2時間攪拌した後、上清を回収してマンネンタケ熱水抽出物を得た。
実施例4:マンネンタケ子実体熱水抽出物の生理活性
実施例3の方法で調整したマンネンタケ子実体熱水抽出物について、下記(1)〜(6)の生理活性(効果)を評価した。
(1)血小板凝集抑制活性
(2)ケモカイン遺伝子発現抑制活性
(3)自発運動量に及ぼす効果
(4)脳内セロトニン・ドーパミン含有量に及ぼす効果
(5)血中A/G比および尿素窒素値に及ぼす効果
(6)血中クレアチニン値および白血球数に及ぼす効果
(1)、(2)については、3回の独立した解析を行い、平均値と標準誤差を算出した。 (3)〜(6)はラット(Crj:CD(SD))を用いた解析で、若齢ラット(8週齢、5匹/解析群)、および老齢ラット(60週齢、5匹/解析群)に対し、下記4種類の試験物質を4週間にわたり強制経口投与した(抽出物1ml/ラット体重1kgあたり、1回/日)。
<試験物質>
・蒸留水(=コントロール)
・コントロール培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物(実施例3)
・クロレラ残渣添加培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物(実施例3)
・コッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物(実施例3)
投与期間終了後に、(3)自発運動量の測定を行った。その後、採血を行い血中成分(5)、(6)を分析するとともに、脳を摘出して(4)脳幹部のセロトニン・ドーパミン含有量を定量した。
(1)〜(6)のいずれの解析においてもStudent’s t−testを行い、コントロールに対して危険率5%未満を有意性あり(図1〜6においてアスタリスクで表示)と評価した。
(1)血小板凝集抑制活性
血小板凝集反応の過剰な亢進は心筋梗塞や脳梗塞といった血栓症および炎症性・アレルギー性皮膚疾患の発症要因であるため、マンネンタケが有する血小板凝集抑制作用にはこれらの疾患に対する予防・症状改善効果が期待されている。そこで、本発明の栽培方法がマンネンタケの当該活性に及ぼす影響を解析した。
<試験方法>
・ヒト多血小板血漿(PRP)および乏血小板血漿(PPP)の調整
ヒト血液を遠心(1100rpm、20分間、室温)し、上清を多血小板血漿(Platelet Rich Plasma、PRPと略記)として採取した。PRPの一部に対してさらに遠心(3000rpm、5分間、室温)を行い、当該上清を乏血小板血漿(Platelet Poor Plasma、PPPと略記)として採取した。
・血小板凝集率の測定方法
前記方法で調整したPRP(各223μl)を37℃で予備加温した後、コントロール培地、クロレラ残渣添加培地、またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケから調整した熱水抽出物を2μl添加し、さらに37℃で3分間保温した。その後、ADP、PAF、またはアラキドン酸ナトリウムをそれぞれ終濃度が1μM、50nM、50μMとなるように添加し、血小板凝集を惹起した。血小板が凝集するとPRPの濁度が低下して透過率が上昇するため、アグリゴメーター(MCMヘマトレーサー MCMメディカル株式会社製)を用いて透過率を測定した。凝集物質添加前のPRPの透過率を0%、PPPの透過率を100%に設定して、凝集物質添加後のPRPの透過率の最大値を最大凝集率(%)、すなわち、血小板凝集率(%)とした。
・血小板凝集抑制効果の評価
血小板凝集抑制効果は、前記熱水抽出物を添加したPRPにおいて得られた血小板凝集率を、熱水抽出物非添加PRPにおいて得られた血小板凝集率(=100%とする)と比較することで評価した(図1)。
<結果>
表3および図1より、凝集惹起物質としてADP、PAF、アラキドン酸ナトリウムのいずれを用いた場合にも、クロレラ残渣添加培地またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物を添加した場合には、コントロール培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物を添加した場合と比べて、血小板凝集抑制効果が約20%増加していることがわかる。
よって、クロレラ残渣添加培地および/またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培することにより、マンネンタケの血小板凝集抑制活性が顕著に(約20%)亢進されることが示された。
(2)ケモカイン遺伝子発現抑制活性
ケモカインは炎症の形成に重要な役割を果たすサイトカインで、例えば炎症性皮膚疾患や炎症性腸疾患では、炎症部位でインターロイキン−8(Interleukin−8:IL−8と略記)等のケモカインの発現が誘導されるために、好中球等が浸潤・集積して組織破壊が引き起こされる。よって、ケモカインの発現抑制は、炎症性疾患の症状改善や予防に有効と考えられている。
前述したように、マンネンタケの子実体には、TNF−α等によるケモカイン(IL−8、および、Regulated on Activation Normal T Cell Expressed Aand Secreted:RANTESと略記)遺伝子発現誘導を抑制する活性があることが知られている。そこで、本発明の栽培方法がマンネンタケの当該活性に及ぼす影響を解析した。
<試験方法>
ヒト皮膚線維芽細胞(倉敷紡績株式会社より購入)を10%ウシ胎児血清を含むDMEM培地(ダルベッコ変法イーグル培地)を用いてコンフルエントになるまで培養した(培地量10ml/6cm培養皿)。コントロール培地、クロレラ残渣添加培地、またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケから調整した熱水抽出物を50μl、あるいは、ハイドロコルチゾン(=陽性コントロール、終濃度:10−7M)を添加した後、腫瘍壊死因子TNF‐α(終濃度1ng/ml)を添加して37℃で6時間培養した。
その後、常法に従って細胞からRNA抽出・cDNA合成を行った。得られたcDNAを用いて定量的PCR法(TaqMan PCR法)を行い、IL−8およびRANTES遺伝子の発現量を解析した。当該遺伝子の発現量は、GAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素)を内部標準遺伝子として補正した。
<結果>
表4および図2より、クロレラ残渣添加培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物を用いた場合には、コントロール培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物を用いた場合よりも、TNF−αによるRANTES遺伝子の発現誘導が顕著に抑制されることが明らかとなった。さらに、コッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物を用いた場合には、IL−8およびRANTES遺伝子の発現誘導が一層顕著に抑制されることが示された。
よって、クロレラ残渣添加培地および/またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培することにより、マンネンタケのケモカイン遺伝子発現抑制効果を亢進し得ることが示された。
(3)自発運動量に及ぼす効果
<測定方法>
ケージ内のラットに対し、自発運動データ解析システム(株式会社ブレインサイエンス・イデア社製)を用いて、焦電型赤外線検出により動物が発する体温を検出して、動物が移動するときに生じる温度の変化を自発運動量として計測した。24時間におけるラットの自発行動の回数を自発運動量として計測した。
<結果>
表5および図3より、若齢ラットの自発運動量に対しては、いずれの培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物を投与しても統計的に有意な効果は見られないことがわかる。これに対し、自発運動量が低下した老齢ラットに対しては、コントロール培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物を投与しても有意な効果は見られないが、クロレラ残渣添加培地またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物を投与した場合には、自発運動量の大幅な回復が認められた。
よって、クロレラ残渣添加培地および/またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培することにより、老化に伴う自発運動量の低下に対して改善効果を奏するマンネンタケ、さらには、当該マンネンタケ子実体の熱水抽出物を有効成分とする老化に伴う自発運動量低下の改善剤が得られることが明らかとなった。
なお、このような老化に伴う自発運動量低下に対する改善効果はマンネンタケについてはまだ報告がなく、且つ、コントロール培地で栽培したマンネンタケにはみられないことから、本栽培方法を用いることによってマンネンタケに新たに付与される新規生理活性と考えられる。
(4)脳内セロトニン・ドーパミン含有量に及ぼす効果
神経伝達物質であるセロトニンおよびドーパミンは、加齢やストレス等によって脳内含有量が減少すること、および、これらの産生・伝達異常は種々の神経・精神疾患の発症要因であることが知られている。よって、脳内セロトニンおよびドーパミンの含有量を適正に保つことは、神経・精神疾患の予防のみならず、老化やストレスに対しても耐性を付与し得ることが期待されている。
<測定方法>
前記ラットから脳幹を摘出し、定法に従ってセロトニン(5−Hhydroxytryptamine、5−HT)およびドーパミン量を定量した。
<結果>
表6および図4より、若齢および老齢ラットのいずれに対しても、クロレラ残渣添加培地またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物を投与することにより、セロトニンおよびドーパミンの脳内含有量が有意に増加することが明らかとなった。これに対し、コントロール培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物を用いた場合には、若齢および老齢ラットのいずれにおいても、セロトニンおよびドーパミン脳内含有量の増加は見られなかった。このことから、セロトニンおよびドーパミンの脳内含有量を増加させる効果は、本栽培方法によってマンネンタケに付与された新規生理活性と考えらえる。
よって、クロレラ残渣添加培地および/またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培することにより、脳内セロトニンおよびドーパミン含有量を高めることができるマンネンタケ、さらには、当該マンネンタケ子実体の熱水抽出物を有効成分とする脳内セロトニンおよびドーパミン含有量の増加剤が得られることが示された。
(5)血中A/G比および尿素窒素値に及ぼす効果
表7および図5より、前記いずれの方法で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物にも、老齢ラットに対して、A/G比を高めて尿素窒素値を下げる効果があることが明らかとなった(当該効果は若齢ラットに対しては認められず)。そして、老齢ラットに対する当該効果は、コントロール培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物よりも、クロレラ残渣添加培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物の方が優れる傾向があり、さらには、コッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物では、A/G比を高める効果および尿素窒素値を下げる効果に一層優れていた。
血中のA/G比は、肝炎、肝硬変、肝癌などの肝障害、ネフローゼ症候群に代表される腎障害、または栄養不良等によって低下することが知られている。また、尿素窒素値は、急性・慢性の腎不全、甲状腺機能亢進症、大量の消化管出血、または脱水症状等によって高くなることが知られている。
よって、クロレラ残渣添加培地および/またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培することにより、老化に伴う肝臓・腎臓機能低下を改善する効果に一段と優れるマンネンタケが得られることが示唆された。
(6)血中クレアチニン値および白血球数に及ぼす効果
表8および図6より、コッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物には、老齢ラットに対して、血中クレアチニン値を高める効果と白血球数を増やす効果があることが明らかとなった(若齢ラットに対しては、当該効果は認められず)。このうち、白血球数を増やす効果については、クロレラ残渣添加培地で栽培したマンネンタケ子実体の熱水抽出物においても認められた。
クレアチニン値は急性・慢性の腎臓機能障害によって高まる傾向があるので、コッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケには、老化に伴う腎臓機能低下を改善する効果があることが示唆された。また、クロレラ残渣添加培地および/またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培することにより、老化に伴う白血球数の減少を改善する効果のあるマンネンタケが得られることが示唆された。
以上の結果より、クロレラ残渣添加培地および/またはコッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培することにより、従来のものよりもアミノ酸含量が高く、血小板凝集抑制効果およびケモカイン遺伝子発現抑制効果に優れ、さらに脳内セロトニンおよびドーパミン含有量を高める効果を有するマンネンタケが得られることが示された。また、当該培地で栽培したマンネンタケは、老化に伴う自発行動量の低下、血中A/G比の低下、尿素窒素値の上昇、白血球数の低下に対する改善効果を有することも明らかとなった。これらの効果はすべて、コッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケの方がクロレラ残渣添加培地で栽培したマンネンタケよりも高く、さらに、コッコミクサ乾燥粉末添加培地で栽培したマンネンタケには老化に伴う血中クレアチニン値の上昇を改善する効果も認められた。
従って、本発明の栽培方法により、抗炎症作用に一段と優れ、老化に伴う運動量の減少や肝臓・腎臓・免疫機能の低下に対する改善効果に優れるマンネンタケが得られることが明らかとなった。

Claims (7)

  1. クロレラ熱水抽出残渣および/またはコッコミクサ乾燥粉末を7.5〜12.5重量%含む培地を菌床に用いることを特徴とするマンネンタケ子実体の栽培方法。
  2. 請求項1に記載の方法を用いてマンネンタケの子実体を栽培する工程と、該子実体から熱水抽出物を得る工程を含むことを特徴とする、前記熱水抽出物を有効成分とする脳内セロトニンおよびドーパミン含有量増加剤の生産方法。
  3. 請求項1に記載の方法を用いてマンネンタケの子実体を栽培する工程と、該子実体から熱水抽出物を得る工程を含むことを特徴とする、前記熱水抽出物を有効成分とする老化に伴う自発運動量低下の改善剤の生産方法。
  4. 請求項1に記載の方法を用いてマンネンタケの子実体を栽培する工程と、該子実体から熱水抽出物を得る工程を含むことを特徴とする、前記熱水抽出物を有効成分とする血小板凝集抑制剤の生産方法。
  5. 請求項1に記載の方法を用いてマンネンタケの子実体を栽培する工程と、該子実体から熱水抽出物を得る工程を含むことを特徴とする、前記熱水抽出物を有効成分とするケモカイン遺伝子発現抑制剤の生産方法。
  6. 請求項1に記載の栽培方法によって栽培されたマンネンタケの子実体から得られる熱水抽出物を含むことを特徴とする、老化に伴う自発運動量低下の改善剤。
  7. 請求項1に記載の栽培方法によって栽培されたマンネンタケの子実体から得られる熱水抽出物を含むことを特徴とする、脳内セロトニンおよびドーパミン含有量増加剤。
JP2013030557A 2013-02-20 2013-02-20 新規生理活性を有するマンネンタケの栽培方法 Active JP6265604B2 (ja)

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