JP6254806B2 - 電解処理用アルミニウム合金圧延板、並びに電解処理アルミニウム合金圧延板及びその製造方法 - Google Patents

電解処理用アルミニウム合金圧延板、並びに電解処理アルミニウム合金圧延板及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、電解処理用アルミニウム合金圧延板、並びに電解処理アルミニウム合金圧延板及びその製造方法に関する。詳細には、アルカリ性溶液中での交流電解処理により表面に接着性及び密着性に優れたアルミニウム酸化皮膜を形成することができる電解処理用アルミニウム合金材、並びに、接着性及び密着性に優れたアルミニウム酸化皮膜が形成された電解処理アルミニウム合金圧延板及びその製造方法に関する。
純アルミニウム材又はアルミニウム合金材は、軽量で適度な機械的特性を有し、かつ、美感、成形加工性、耐食性等に優れた特徴を有しているため、各種容器類、構造材、機械部品等に広く使用されている。これらのアルミニウム材は、そのまま使用されることがある一方、各種表面処理を施すことで、耐食性、耐摩耗性、樹脂密着性、親水性、撥水性、抗菌性、意匠性、赤外放射性、高反射性等の機能を付加及び向上させて使用されることも多い。
例えば、耐食性及び耐摩耗性を向上させたり意匠性を付与する表面処理法として、陽極酸化処理、いわゆるアルマイト処理が広く用いられている。具体的には、アルミニウム材を酸性の電解溶液に浸漬して直流電流により電解処理を行うことによって、アルミニウム材表面に厚さ数μm〜数十μmの陽極酸化皮膜を形成させるもので、用途に応じて種々の処理方法が提案されている(非特許文献1,2)。
また、他の表面処理法として、塗膜や樹脂との密着性や接着剤との接着性の向上を目的とし、アルミニウム板表面に多数の微少な細孔を有する陽極酸化皮膜を形成する方法が開示されている(特許文献1)。しかし上記の陽極酸化処理が施されたアルミニウム材では、樹脂とアルミニウム板との密着性や接着剤とアルミニウム板との接着性が未だ充分ではなかった。また、陽極酸化皮膜が形成されたアルミニウム材を製造する工程は長時間を要し、コストが高くなる欠点もあった。また、陽極酸化処理が施されたアルミニウム材を放熱板やプリント配線基板などとして使用する場合には、樹脂との密着性のみならず優れた熱伝導性が求められるが、上記の陽極酸化処理により形成された陽極酸化皮膜は厚さが厚いため、熱伝導性が劣るという欠点もあった。
そこで、樹脂とアルミニウム材との密着性を向上させる表面処理法として、アルカリ交流電解処理が開示されている(特許文献2)。すなわち、アルミニウム合金板を、浴温40〜90℃のアルカリ性溶液中、電流密度4〜50A/dmにて電気量が80C/dmを超える時間、交流電解処理を行うものである。これにより、アルミニウム合金板の表面に、膜厚500〜5000オングストロームの薄い酸化皮膜を形成することができ、塗膜密着性と耐食性に優れたアルミニウム合金材を得ることが可能となっている。また、アルカリ交流電解処理ではアルミニウム合金板の表面の脱脂を電解と同時に行うことができ、生産性を上げることができるという利点がある。
特許1497174号 特許2120823号
「アルミニウムハンドブック」、一般社団法人日本アルミニウム協会、2007年、第7版、p.179−190 「アルミニウム及びアルミニウム合金の陽極酸化皮膜」、日本工業規格JIS H8601、1999年
しかしながら、上記特許文献2の表面処理方法では、同一の電解条件で処理を行った場合でも、アルミニウム合金板の種類によっては全体に均一な酸化皮膜が形成されず、樹脂等の材料との密着性が劣る場合があった。
本発明は、アルカリ性溶液中での交流電解処理により接着性及び密着性に優れた酸化皮膜を安定的に形成することができる電解処理用アルミニウム合金圧延板、並びに接着性及び密着性に優れた酸化皮膜が形成された電解処理アルミニウム合金圧延板及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、この課題を解決するために検討を重ねた結果、アルミニウム合金圧延板の成分と、アルミニウム合金圧延板の表面の第2相粒子が、アルミニウム合金圧延板上に形成された酸化皮膜の接着性および密着性に影響することを見出した。ここで第2相粒子とはマトリックスの母相以外の粒子、代表的には金属間化合物の析出物、晶出物、単体Si等をさす。第2相粒子の中でも、Siを含む金属間化合物もしくは単体Si粒子であり円相当径が0.5μm以上の第2相粒子の個数を制御することにより、接着性及び密着性に優れた酸化皮膜を安定的に形成することができるアルミニウム合金材が得られることを見出した。
本発明に係る電解処理用アルミニウム合金圧延板は、アルカリ電解液を使用した交流電解にて、表面に酸化皮膜を形成するためのアルミニウム合金材であって、Si:0.2〜1.7mass%、Mg:0.3〜1.5mass%、Fe:0.5mass%以下、を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなり、表面に存在する第2相粒子のうち、Siを含む金属間化合物もしくは単体Si粒子であり円相当径0.5μm以上の第2相粒子が5000個/mm以下であることを特徴とする。
本発明に係る電解処理アルミニウム合金圧延板は、上記電解処理用アルミニウム合金圧延板を電解処理することにより、前記電解処理用アルミニウム合金圧延板の表面にバリア型アルミニウム酸化皮膜層と多孔性アルミニウム酸化皮膜層とをこの順に具備してなる電解処理アルミニウム合金圧延板であって、前記バリア型アルミニウム酸化皮膜層は、厚さが3nm〜30nmであり、前記多孔性アルミニウム酸化皮膜層は、厚さが20nm〜500nmであり、表面には直径5nm〜30nmの小孔を備え、前記バリア型アルミニウム酸化皮膜層と前記多孔性アルミニウム酸化皮膜層との合計厚さの変動幅が、前記合計厚さの算術平均値の±50%以内であることを特徴とする。
本発明に係る電解処理アルミニウム合金圧延板の製造方法は、Si:0.2〜1.7mass%、Mg:0.3〜1.5mass%、Fe:0.5mass%以下、を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなり、表面に存在する第2相粒子のうち、Siを含む金属間化合物もしくは単体Si粒子であり円相当径0.5μm以上の第2相粒子が5000個/mm以下である電解処理用アルミニウム合金圧延板に対して、pH9〜13で液温35〜80℃、かつ溶存アルミニウム濃度が5ppm以上1000ppm以下のアルカリ性水溶液中、周波数20〜100Hz、電流密度4〜50A/dm及び電解時間5〜60秒の条件で交流電解処理を行うことを特徴とする。
本発明によれば、接着性及び密着性に優れた酸化皮膜が形成された電解処理アルミニウム合金圧延板を安定的に製造することができる。
アルミニウム合金圧延板中に存在する第2相粒子には、アルミニウム合金マトリックスと比較してアルカリ性電解溶液に溶解しやすいもの、例えばMgSiなどと、アルミニウム合金マトリックスと比較してアルカリ性電解溶液に溶解しにくいものがある。例えばAl−Fe−Si系金属間化合物やα−AlFeCuSi、AlCuMgSi、単体Siなどはアルミニウム合金マトリックスと比較してアルカリ性電解溶液に溶解しにくい。アルミニウム合金マトリックスよりもアルカリ性電解溶液に溶解しやすい第2相粒子が0.5μm未満であれば、電解処理工程の初期段階でアルカリエッチングにより完全に除去されて酸化皮膜の形成には影響しない。しかし、アルミニウム合金マトリックスよりもアルカリ性電解溶液に溶解しやすい第2相粒子が0.5μm以上であると、第2相粒子の溶解した部分が空隙となって酸化皮膜の薄い部分または形成されない部分ができる場合がある。また、アルミニウム合金圧延板中にMgSiが存在する場合には、電解処理による酸化皮膜の生成時にMgが酸化されて水酸化マグネシウムが生成する。水酸化マグネシウムが酸化皮膜の近傍に残存し、その後の酸化皮膜の生成を妨げる場合がある。MgSiが粗大な粒子である場合には、この影響が顕著であった。一方、アルミニウム合金マトリックスと比較してアルカリ性電解溶液に溶解しにくい第2相粒子も電解処理時に徐々に溶解する。アルミニウム合金マトリックスと比較してアルカリ性電解溶液に溶解しにくい第2相粒子が0.5μm未満であれば溶解して完全に除去されるかあるいは酸化皮膜の形成に影響のないサイズにまで縮小される。しかし、アルミニウム合金マトリックスと比較してアルカリ性電解溶液に溶解しにくい第2相粒子が0.5μm以上であると十分に溶解せず、酸化皮膜が形成されない部分ができる場合がある。さらに、アルカリエッチング時、アルミニウム合金マトリックスは、アルミニウム合金マトリックスと比較してアルカリ性電解溶液に溶解しにくい第2相粒子の周辺で優先的に溶解することが知られている(参考文献:「アルミニウム合金の表面処理性に及ぼす金属間化合物の影響(その1)調査報告」軽金属学会、1990年、p9〜11)。このため、特にアルミニウム合金マトリックスと比較してアルカリ性電解溶液に溶解しにくい第2相粒子の周辺で均一な酸化皮膜の形成が阻害される。これらの理由により、アルミニウム合金圧延板の表面に円相当径0.5μm以上の第2相粒子が5000個/mmを超えて存在すると、アルミニウム合金圧延板上に均一な酸化皮膜が形成されず、接着性及び密着性に劣る。一方、本発明のアルミニウム合金材は、表面に存在する円相当径0.5μm以上の第2相粒子が5000個/mm以下であるため、均一な酸化皮膜を形成することができ、接着性及び密着性に優れる。
本発明のアルミニウム合金圧延板上に形成される酸化皮膜は多孔性アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層との2層構造を有する。多孔性アルミニウム酸化皮膜層は最表面に形成され、20nm〜500nmの厚さを有し、かつ、直径5nm〜30nmの小孔を有することによって、多孔性アルミニウム酸化皮膜自体の凝集破壊を抑制することができる。また、多孔性アルミニウム酸化皮膜層は表面積が大きいため、本発明の電解処理アルミニウム合金圧延板は密着性に優れている。また、バリア型アルミニウム酸化皮膜層はアルミニウム合金圧延板上に形成され、3nm〜30nmの厚さを有することによって、バリア型アルミニウム酸化皮膜自体の凝集破壊を抑制することができる。また、バリア型アルミニウム酸化皮膜層はアルミニウム合金材と多孔性アルミニウム酸化皮膜層とに強固に結合しているので、本発明の電解処理アルミニウム合金圧延板は接着性及び密着性に優れている。さらに、バリア型アルミニウム酸化皮膜層と多孔性アルミニウム酸化皮膜層との合計厚さの変動幅が、当該合計厚さの算術平均値の±50%以内であることによって、本発明の電解処理アルミニウム合金圧延板は表面全体にわたって優れた接着性及び密着性を有する。
本発明の電解処理アルミニウム合金圧延板は優れた接着性を有し、各種接着剤に対する接着力が極めて大きい。また、優れた密着性を有し、水性塗料、溶剤性塗料、粉体塗料、電着塗料等の各種塗料に対する密着力が極めて大きい。
また、本発明の電解処理アルミニウム合金圧延板に形成されている酸化皮膜は通常の陽極酸化皮膜と比較して非常に薄い。そのため、高い熱伝導性を有し、さらには電解処理後に切断等の加工をしても割れや剥離が起こりにくいという利点を有する。また、本発明の電解処理アルミニウム合金圧延板の製造方法では、従来のアルマイト処理と比較して電解時間が短く、電解処理前に化成処理、エッチング、洗浄等の操作をすることなく安定して酸化皮膜を形成することができるため、生産性が高く、低コストでの生産が可能である。
A.電解処理用アルミニウム合金圧延板
本発明に係る電解処理用アルミニウム合金圧延板(以下、単に「アルミニウム合金材」と記す)は、Si:0.2〜1.7mass%、Mg:0.3〜1.5mass%、Fe:0.5mass%以下、を含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなり、表面に存在する第2相粒子のうち、Siを含む金属間化合物もしくは単体Si粒子であり円相当径0.5μm以上の第2相粒子が5000個/mm以下であるなお、以下では、「mass%(質量%)」を単に「%」と記す。
A−1:Si
SiはMgと反応してMgSiを形成する。Siの含有率が0.2%未満では、MgSiを形成しない過剰なMgが多い。過剰なMgが多いと、MgSiのアルミニウム合金マトリックスへの溶解度が低下し、MgSiが粗大粒子になりやすくなる。一方、Siの含有率が1.7%を超えると、Al−Fe−Si系金属間化合物やMgSiなどSiを含む金属間化合物や単体Siが粗大な粒子を形成しやすくなる。これらの第2相粒子が粗大粒子になると、均一な酸化皮膜の形成が阻害される。
A−2:Mg
MgはSiと反応してMgSiを形成する。Mgの含有率が0.3%未満では、MgSiを形成せずに単独で存在するSiが多い。単独で存在するSiが多いと、MgSiのアルミニウム合金マトリックスへの溶解度が著しく低下し、MgSiが粗大な粒子を形成しやすくなるほか、Al−Fe−Si系金属間化合物や単体Siが粗大な粒子を形成しやすくなる。一方、Mgの含有率が1.5%を超えるとAlFeSiMgやMgSiなどの金属間化合物が粗大な粒子を形成しやすくなる。これらの金属間化合物が粗大な粒子を形成すると、均一な酸化皮膜の形成が阻害される。
A−3:Fe
Feの含有率は0.5%以下、好ましくは0.01〜0.5%である。Feの含有率が0.5%を超えるとAl−Fe−Si系金属化合物やAlFeSiMgが粗大な粒子を形成するため、均一な酸化皮膜の形成が阻害される。一方、Feは通常のアルミニウム地金の不可避的不純物であり、Feを0.01%未満とするには高純度のアルミニウム地金を使用しなければならないためコストが高くなる。
A−4:第2相粒子
本発明に係るアルミニウム合金材の表面に存在する第2相粒子のうち、Siを含む金属間化合物もしくは単体Si粒子であり円相当径0.5μm以上の第2相粒子は5000個/mm以下である。好ましくは、4500個/mm以下である。ここで、Siを含む金属間化合物とは、例えば、α−AlFeSi、β−AlFeSi等のAl−Fe−Si系金属間化合物や、α−AlFeCuSi、AlFeSiMg、Al−Cu−Mg−Si系金属間化合物、MgSiなどが挙げられ、Siとその他の金属元素からなる化合物が該当する。また、単体Siには晶出Siおよび析出Siが含まれる。これらの第2相粒子の大きさの影響を調査したところ、いずれの第2相粒子も円相当径が0.5μm未満の場合にはアルカリエッチングにより完全に除去されて酸化皮膜の形成に影響しないか、微小な欠陥が生じたとしても、酸化皮膜の密着性、接着性に影響しない。しかし、第2相粒子の円相当径が0.5μm以上であると酸化皮膜の薄い部分もしくは形成されない部分ができたり、第2相粒子周辺のアルミニウムが優先的に溶解することにより酸化皮膜が形成されないことがある。最終的な酸化皮膜に形成される欠陥が大きくなり、局所的に接着力を発揮できない部分ができる。このような欠陥を生じうる第2相粒子が5000個/mmを超えると接着力や密着力の低下は顕著となり、必要な性能を維持できなくなる。
第2相粒子の検出は、通常の金属組織観察の方法で行うことができる。具体的には、鏡面研磨したアルミニウム合金材を測定試料とし、試料表面を電子顕微鏡で観察し、Siが含まれる第2相粒子について画像解析装置により円相当径0.5μm以上の個数を測定した。
A−5:アルミニウム合金材の製造方法
本発明に係るアルミニウム合金材は、Si:0.2〜1.7%、Mg:0.3〜1.5%、Fe:0.5%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯を鋳造して鋳塊を得た後、鋳塊に均質化処理を施し、圧延または押出加工を行うことにより製造することができる。
鋳造は半連続鋳造法(DC鋳造法、ホットトップ鋳造法)や連続圧延鋳造法等の通常の方法により行われる。アルミニウム合金溶湯を凝固させる鋳造工程では、第2相粒子が晶出してアルミニウム合金マトリックス中に分布するが、アルミニウム合金材の表面に粗大な晶出物が分布しないようにするため、鋳造工程における冷却速度は0.1℃/sec以上であることが好ましい。冷却速度が0.1℃/sec未満であると、鋳造工程においてが粗大な晶出物が生成し、最終的なアルミニウム合金材の表面に存在する第2相粒子の分布密度が高くなる場合がある。
均質化処理の条件は特に限定されないが、例えば処理温度は400〜550℃で処理時間は1〜24時間である。
アルミニウム合金材を板材とする場合には、均質化処理後に熱間圧延及び冷間圧延を行う。熱間圧延の圧下率が大きいと、晶出物が分散して微細化する。そのため、熱間圧延の圧下率は90%以上が好ましい。冷間圧延の圧下率は、アルミニウム合金材が所定の板厚となるよう適宜調整される。冷間圧延の前や途中に中間焼鈍を行ってもよい。また、冷間圧延後に、溶体化処理や時効処理を行ってもよい。
B.電解処理アルミニウム合金材
本発明に係る電解処理アルミニウム合金材は、上記電解処理用アルミニウム合金材の表面にアルカリ電解処理が施されたもので、バリア型アルミニウム酸化皮膜層と多孔性アルミニウム酸化皮膜層とをこの順に具備してなる。多孔性アルミニウム酸化皮膜層は強力な接着性及び密着性を発揮する。また、バリア型アルミニウム酸化皮膜層は、多孔性アルミニウム酸化皮膜層とアルミニウム合金材とを強固に結合する機能を発揮する。
B−1.多孔性アルミニウム酸化皮膜層
多孔性アルミニウム酸化皮膜層の厚さは、20nm〜500nmである。厚さが20nm未満であると、後述する小孔の形成が不十分になり易く接着力及び密着力が低下する。一方、厚さが500nmを超えると、多孔性アルミニウム酸化皮膜層自体が凝集破壊し易くなり接着力及び密着力が低下する。
多孔性アルミニウム酸化皮膜層は、その表面から深さ方向に向かう小孔を備える。小孔の直径は5nm〜30nmであり、好ましくは10nm〜20nmである。この小孔は、樹脂や接着剤などの材料と多孔性アルミニウム酸化皮膜層との接触面積を増大させ、接着力及び密着力を増大させる効果を発揮する。小孔の直径が5nm未満であると、接触面積が小さいため十分な接着力及び密着力が得られない。一方、小孔の直径が30nmを超えると、多孔性アルミニウム酸化皮膜層全体が脆くなって凝集破壊を生じ接着力及び密着力が低下する。
多孔性アルミニウム酸化皮膜層の表面積に対する小孔の全孔面積の割合は、特に制限されないが、多孔性アルミニウム酸化皮膜層の見かけ上の表面積(表面の微小な凹凸等を考慮せず、長さと幅の乗算で表される面積)に対する小孔の全孔面積の割合は、25〜75%であることが好ましい。割合が25%未満であると、接触面積が小さいため接着力及び密着力が十分に得られない場合がある。一方、割合が75%を超えると、多孔性アルミニウム酸化皮膜層全体が脆くなって凝集破壊を生じ接着力及び密着力が低下する場合がある。
B−2.バリア型アルミニウム酸化皮膜層
バリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さは、3nm〜30nmである。厚さが3nm未満であると、バリア型アルミニウム酸化皮膜層が多孔性アルミニウム酸化皮膜層とアルミニウム合金材とを結合させる力が弱く、特に、高温・多湿等の過酷環境における結合力が不十分となる。一方、厚さが30nmを超えると、凝集破壊し易くなり、接着力及び密着力が低下する。
B−3.酸化皮膜全体の厚さの変動幅
酸化皮膜全体の厚さ、すなわち、多孔性アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層との合計厚さの変動幅は、当該合計厚さの算術平均値の±50%以内である。すなわち、アルミニウム合金材表面における任意の複数箇所で測定した酸化皮膜全体の厚さの平均値をT(nm)とした場合、これら複数箇所の全てにおいて酸化皮膜全体の厚さが0.5T〜1.5T(nm)の範囲にある。なお、測定は10箇所以上で行うことが望ましく、各箇所において測定は10回以上行うことが望ましい。酸化皮膜全体の厚さが0.5T(nm)未満の箇所があると、当該箇所は酸化皮膜がその周囲と比較して薄くなる。接着剤や樹脂等の材料と接着又は密着させようとした場合に、この薄い箇所では材料との間に隙間が生じ易くなり、十分な接触面積を確保できずに接着力及び密着力が低下する。
一方、酸化皮膜全体の厚さが1.5T(nm)を超える箇所があると、当該箇所は酸化皮膜がその周囲と比較して厚くなる。樹脂や接着剤等の材料と接着又は密着させようとした場合に、この厚い箇所では、材料からの応力が集中し、酸化皮膜の凝集破壊を誘発して接着力及び密着力が低下する。なお、前記のような酸化皮膜全体の厚さが薄い箇所や厚い箇所では、その周囲と比較して光学的特性が異なる。そのため、このような箇所では、茶褐色や白濁色といった色調の変化を目視で確認することができる場合がある。
本発明における多孔性アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層の構造観察と厚さの測定には、透過型電子顕微鏡(TEM)による断面観察が好適に用いられる。具体的には、多孔性アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さ、並びに多孔性アルミニウム酸化皮膜層の小孔の直径は、ウルトラミクロトームにより薄片試料を作製し、TEM観察することによって測定することができる。
ところで、従来アルミニウム合金材に酸化皮膜を形成させる方法として、陽極酸化処理(いわゆるアルマイト処理)がある。これは、主に酸性電解溶液を用い、アルミニウム合金材を陽極として直流電気分解する方法である。この方法により形成される酸化皮膜層の厚さは一般的には数μm前後であり、第2相粒子は酸化皮膜層中に取り込まれることから、第2相粒子が明らかな欠陥となって接着性や密着性に影響を及ぼすことは少ない。また、陽極酸化処理では本発明の課題である優れた接着性や密着性の達成は極めて困難である。すなわち、陽極酸化処理においては、本発明における多孔性アルミニウム酸化皮膜層(20nm〜500nm)およびバリア型アルミニウム酸化皮膜層(3〜30nm)のような薄い酸化皮膜層を形成することは困難である。さらに、陽極酸化処理では、アルミニウム合金材上にバリア型アルミニウム酸化皮膜層を形成し、バリア型アルミニウム酸化皮膜層上に多孔性アルミニウム酸化皮膜層を形成することは不可能に近い。したがって、本発明を実施するにあたっては、後述のアルカリ交流電解処理が最善である。
B−4:電解処理アルミニウム合金材の製造方法
本発明に係る電解処理アルミニウム合金材は、上記アルミニウム合金材に対して交流電解処理を行うことにより製造することができる。具体的に、電極として上記アルミニウム合金材と対電極とを用い、電解溶液としてアルカリ性水溶液を用いて交流電解処理を行うことにより、アルミニウム合金材表面に接着性及び密着性に優れた酸化皮膜を形成することができる。
交流電解処理工程において、電解溶液として用いるアルカリ性水溶液は特に限定されないが、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸水素カリウム、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム及びメタリン酸ナトリウム等のリン酸塩や、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸塩や、水酸化アンモニウム、又はこれらの混合物の水溶液が挙げられる。電解溶液のpHを特定の範囲に保つため、バッファー効果の期待できるリン酸塩を含有するアルカリ性水溶液を用いるのが好ましい。このようなアルカリ性水溶液の濃度は、電解溶液のpHが所望の値になるように調整されるが、通常、1×10−4〜1モル/リットルである。なお、これらのアルカリ性水溶液には、汚れ成分を除去する効果を高めるために界面活性剤を添加してもよい。
電解溶液のpHは9〜13である。好ましくは、9.5〜12である。pHが9未満であると、電解溶液のアルカリエッチング作用が不足するため多孔性アルミニウム酸化皮膜層の多孔質構造が不完全となり、接着力及び密着力が不十分となる場合がある。また、アルミニウム合金材表面の第2相粒子を除去する能力も不十分となるため、均一な酸化皮膜が形成されにくくなる。一方、pHが13を超えると、アルカリエッチング作用が過剰になるため多孔性アルミニウム酸化皮膜層が成長し難くなる。また、バリア型アルミニウム酸化皮膜層の形成も阻害されるため多孔性アルミニウム酸化皮膜層とアルミニウム合金材とを結合する力が不十分であり、特に、高温・多湿等の過酷環境における結合力が不十分となりうる。
電解溶液の温度は35〜80℃である。好ましくは、40〜70℃である。電解溶液の温度が35℃未満であると、電解溶液のアルカリエッチング作用が不足するため多孔性アルミニウム酸化皮膜層の多孔質構造が形成されにくくなる。また、アルミニウム合金材表面の第2相粒子を十分に除去することができないため、均一な酸化皮膜が形成されにくくなる。一方、電解溶液の温度が80℃を超えるとアルカリエッチング作用が過剰になるため、多孔性アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層の成長が阻害される。
電解溶液に含有される溶存アルミニウム濃度を5ppm以上1000ppm以下とすることで良好な酸化皮膜を形成することができる。溶存アルミニウム濃度が5ppm未満であると、電解処理初期において酸化皮膜が急速に形成されるため、処理工程のバラツキ(アルミニウム合金材表面の汚れ状態やアルミニウム合金材の取り付け状態など)の影響を受け易い。その結果、局部的に厚い酸化皮膜が形成され、接着性及び密着性が低下する場合がある。一方、溶存アルミニウム濃度が1000ppmを超えると、交流電解処理工程において電解溶液の粘度が増大してアルミニウム合金材表面付近の均一な対流が妨げられることにより、溶存アルミニウムが酸化皮膜の形成を抑制する。その結果、局部的に薄い酸化皮膜が形成され、接着性及び密着性が低下する場合がある。
交流電解処理において、多孔性アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層を含めた酸化皮膜全体の厚さは、電気量、すなわち電流密度と電解時間の積によって制御される。基本的に電気量が多いほど酸化皮膜全体の厚さが増加する。このような観点から、多孔性アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層の交流電解条件は以下の通りとする。
周波数は20〜100Hzである。周波数が20Hz未満であると、陽極と陰極の反転が遅く、電気状態が直流電解に近づくため、多孔性アルミニウム酸化皮膜層の多孔質構造の形成が進行せず、緻密構造となりやすい。一方、周波数が100Hzを超えると、陽極と陰極の反転が速すぎる。そのため、酸化皮膜全体の形成が極端に遅くなり、多孔性アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層ともに、所定の厚さを得るには極めて長い時間を要することになる。
電流密度は4〜50A/dmである。電流密度が4A/dm未満であると、バリア型アルミニウム酸化皮膜層のみが優先的に形成されるために多孔性アルミニウム酸化皮膜層の形成が不十分となる場合がある。一方、電流密度が50A/dmを超えると、電流が過大になるため多孔性アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さを制御するのが困難となり厚さのばらつきが起こり易い。
電解時間は5〜60秒である。電解時間が5秒未満であると、多孔性アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層のいずれも形成されにくくなる。一方、電解時間が60秒を超えると、多孔性アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層が厚くなり過ぎたり再溶解するおそれがあるだけでなく、生産性も低下する。
交流電解処理に使用する一対の電極のうち一方の電極は、交流電解処理を施されるアルミニウム合金材である。他方の対電極としては、電解溶液のアルカリ成分や温度に対して劣化せず、導電性に優れ、更に、それ自身が電気化学的反応を起こさない材質のものを使用する必要がある。このような点から、対電極としては黒鉛電極が好適に用いられる。これは、黒鉛電極が化学的に安定であり、かつ、安価で入手が容易であるためである。さらに、黒鉛電極に存在する多くの気孔は交流電解処理工程において電気力線を適度に拡散させる作用を有し、多孔性アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層をより均一に形成する効果があるためである。なお、黒鉛電極の他に、チタン電極を用いてもよい。
本発明において、交流電解処理を施されるアルミニウム合金材及び対電極は共に平板状であり、対向するアルミニウム合金材と対電極の面同士の縦と横の寸法はほぼ同一であることが好ましい。また、交流電解処理は、両電極を静止状態で行なうのが好ましい。酸化皮膜は、対電極に対向するアルミニウム合金材表面に形成される。ここで、対電極に対向していない他方の表面にも酸化皮膜を形成するには、一方の表面に酸化皮膜を形成して交流電解処理を一旦終了し、次いで、他の表面を対電極に対向するように配置して同様に交流電解処理を行えばよい。また、アルミニウム合金材の形状が平板状以外の棒状や角材の場合においても、対電極に対向していない表面を対電極に対向するように配置して電解処理を繰り返すことにより、所望の表面に酸化皮膜を形成することができる。
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。表1に示す組成のアルミニウム合金を通常のDC法で冷却速度5℃/secで鋳造して、400mm厚の鋳塊を得た。得られた鋳塊に530℃で10時間均質化処理を施したのち、熱間圧延処理を施し2mm厚まで圧延し、冷間圧延処理を施すことにより板厚1.0mmのアルミニウム合金板を得た。その後550℃で30秒間、溶体化処理を施した。
Figure 0006254806
以上のように作製したアルミニウム合金板を鏡面研磨したものを測定試料とした。この試料の表面を電子顕微鏡で観察し、画像解析装置により円相当径0.5μm以上のSiが含まれる第2相粒子の個数を測定した。具体的には、50μm×50μmの視野5箇所について各視野内に存在する円相当径0.5μm以上のSiが含まれる第2相粒子の個数を計測し、その平均から1mmあたりに存在する第2相粒子の個数を求めた。その結果を表1に示す。
次に、これらのアルミニウム合金板を縦200mm×横400mmの電極とし、対電極には縦300mm×横500mm×板厚2.0mmの平板状を有する黒鉛板またはチタン板を用いて、両電極を対面させて電解槽に設置した。種々の電解条件で交流電解処理を実施して、アルミニウム合金板上に多孔性アルミニウム酸化皮膜層及びバリア型アルミニウム酸化皮膜層を形成した電解処理アルミニウム合金板を得た。使用した合金と各電解条件を表2に示す。電解溶液のアルカリ成分濃度は、0.5モル/リットルとした。塩酸及び水酸化ナトリウム水溶液(いずれも濃度0.1モル/リットル)によってpHの調整を行なった。
Figure 0006254806
以上のようにして作製した電解処理アルミニウム合金板に対し、TEMにより断面観察を実施した。具体的には、多孔性アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さ、並びに、多孔性アルミニウム酸化皮膜層の小孔の直径を測定するために、ウルトラミクロトームを用いて供試材から断面観察用薄片試料を作製した。次いで、この薄片試料において観察視野(1μm×1μm)中の任意の10点を選択してTEM断面観察により、多孔性アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さ、並びに、多孔性アルミニウム酸化皮膜層の小孔の直径を各点で測定した(第1測定)。これらの厚さと直径については、10点の測定値の算術平均値を表3の第1測定に示す。
Figure 0006254806
次に、供試材全体の表面における多孔性アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層の合計厚さの変動幅を調べるために第2測定を行った。この第2測定では、第1測定に供した供試材から、第1測定で作製した薄片試料と同様方法で、ウルトラミクロトームにより薄片試料を更に9個作製した。そして、これら9個の薄片試料についても第1測定と同様に、多孔性アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さを10点測定した。そして、全部で10個の上記薄片試料における全100点の多孔性アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さの測定結果から、各点における多孔性アルミニウム酸化皮膜層とバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さを足し算して合計厚さを求めて各点における酸化皮膜の厚さとした。このようにして求めた100点の酸化皮膜の厚さにおける最大値、最小値、並びに算術平均値を表3の第2測定に示した。さらに、これら100点の酸化皮膜厚さの変動幅が算術平均値の±50%以内にあるか否かについても調べた。具体的には、算術平均値をT(nm)とした場合に、最大値及び最小値を含めた全ての合計厚さが0.5×T〜1.5×T(nm)の範囲にある場合を合格(○)とし、範囲にない場合を不合格(×)として、表3の第2測定に示した。
以下、上記供試材について、接着剤を用いた接着性と塗膜に対する密着性を評価した。
〔接着性評価〕
上記供試材から長さ50mm、25mm幅に切断したものを2枚用意した。これら2枚の供試材同士を幅方向に沿って幅10mmをもって重ね合わせ、市販の2液型エポキシ接着剤(主剤=変性エポキシ樹脂、硬化剤=変性ポリイミド、重量混合比=主剤100/硬化剤100)によって重ね合わせ部分を接着し、せん断試験片を作製した。2枚の供試材の長さ方向の端部を引張試験機により100mm/分の速度にて長さ方向に沿って反対向きに引張り、その荷重(せん断応力に換算)と剥離状態によって接着性を下記の基準で評価した。なお、せん断試験片は同じ供試材から10組の試験片を作製して、それぞれについて評価した。
○:せん断応力が20N/mm以上で、かつ、接着剤層自身が凝集破壊した状態
△:せん断応力が20N/mm以上であるものの、接着剤層と供試材が界面剥離した状態
×:せん断応力が20N/mm未満で、かつ、接着剤層と供試材が界面剥離した状態
結果を表4に示す。同表には、10組の試験片のうちの上記○、△、×の組数をそれぞれ示すが、全てが○の場合を合格、それ以外を不合格と判定した。
Figure 0006254806
〔密着性評価〕
上記供試材の表面に大日本塗料(株)製「Vフロン#2000」を塗布しこれを乾燥して(160℃,20分)、30μmの厚さの樹脂塗膜を形成した密着性試験片を作製した。JIS−K5600−5−6に準拠した方法で、この密着性試験片の樹脂塗膜にカッターナイフを用いて1mm角の碁盤目カットを入れた。次いで、試験片に125℃で30分のレトルト浸漬処理を施した後に、直ちに処理液から取り出して水分をふき取った。この試験片に対して、透明感圧付着テープによる剥離試験を実施した。塗膜残存率によって密着性を下記の基準で評価した。なお、密着性試験片は同じ供試材から10個の試験片を作製して、それぞれについて評価した。
○:塗膜残存率が100%のもの
△:塗膜残存率が75%以上100%未満のもの
×:塗膜残存率が75%未満のもの
結果を表4に示す。同表には、10個の試験片のうちの上記○、△、×の個数をそれぞれ示すが、全てが○の場合を合格、それ以外を不合格と判定した。
実施例1〜20ではいずれも、酸化皮膜の合計厚さの変動幅、接着性評価及び密着性評価が合格判定であった。これに対して比較例1〜18では、下記の理由により不合格判定であった。
比較例1では、合金中のSi含有率が0.2%より少なく、円相当径0.5μm以上の第2相粒子の個数が1mmあたり5000個を超えた。その結果、第2相粒子が存在する周辺では酸化皮膜の厚さが薄く、算術平均値の50%を下回った。すなわち、酸化皮膜の厚さが均一ではなかった。そのため剥離しやすく、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例2では、合金中のSi含有率が1.7%より多く、円相当径0.5μm以上の第2相粒子の個数が1mmあたり5000個を大幅に超えた。その結果、第2相粒子が存在する周辺ではバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さが3nm未満であり、酸化皮膜がほとんど形成されていない部分があった。そのため剥離しやすく、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例3では、合金中のMg含有率が0.3%より少なく、円相当径0.5μm以上の第2相粒子の個数が1mmあたり5000個を超えた。その結果、第2相粒子が存在する周辺では酸化皮膜の厚さが薄く、算術平均値の50%を下回った。すなわち、酸化皮膜の厚さが均一ではなかった。そのため剥離しやすく、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例4では、合金中のMg含有率が1.5%より多く、円相当径0.5μm以上の第2相粒子の個数が1mmあたり5000個を超えた。その結果、第2相粒子が存在する周辺では酸化皮膜の生成が不十分となり、第1測定ではバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さが3nm未満であった。また、酸化皮膜の合計厚さの最小値が算術平均値の50%を下回った。すなわち、酸化皮膜の厚さが均一ではなかった。そのため剥離しやすく、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例5では、合金中のFe含有率が0.5%より多く、円相当径0.5μm以上の第2相粒子の個数が1mmあたり5000個を大幅に超えた。その結果、第1測定では多孔性アルミニウム酸化皮膜層の厚さが20nm未満、バリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さが3nm未満であり、全体的に酸化皮膜の厚さが薄かった。また、第2相粒子が存在する周辺では酸化皮膜が形成されていない部分があった。そのため剥離しやすく、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例6では、合金中のSi含有率が1.7%よりわずかに多く、Fe含有率が0.5%よりわずかに多く、円相当径0.5μmを超える第2相粒子の個数が1mmあたり5000個を超えた。その結果、酸化皮膜の厚さにムラができ、接着性及び密着性が部分的に劣る結果となった。
比較例7では、交流電解処理における電解溶液のpHが9より低いために、第2相粒子が十分に除去されず、均一な酸化皮膜が形成されなかった。また、アルカリエッチング作用も不足したため、第1測定では多孔性アルミニウム酸化皮膜層の小孔の直径が5nm未満であった。酸化皮膜が均一でないため、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例8では、交流電解処理における電解溶液のpHが13より高いため、アルカリエッチング作用が過剰になった。そのため、第1測定では多孔性アルミニウム酸化皮膜層の厚さが20nm未満、バリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さが3nm未満であり、全体的に酸化皮膜の厚さが薄かった。また酸化皮膜の厚さが著しく薄い部分が多かった。さらに多孔性アルミニウム酸化皮膜層の小孔の直径も30nmを上回った。酸化皮膜が均一でないため、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例9では、交流電解処理における電解溶液の温度が35℃より低いため、第2相粒子が十分に除去されず、均一な酸化皮膜が形成されなかった。また、アルカリエッチング作用が不足したため、多孔性アルミニウム酸化皮膜層の小孔の直径が5nm未満であった。このため、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例10では、交流電解処理における電解溶液の温度が80℃より高いため、アルカリエッチング作用が過剰になった。そのため、第1測定ではバリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さが3nm未満であり、全体的に酸化皮膜の厚さが薄かった。また第2相粒子が存在する周辺では酸化皮膜の厚さが著しく薄く、算術平均値の50%を下回る部分が多かった。酸化皮膜が均一でないため、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例11では、交流電解処理における電解溶液が完全に新浴であり、溶存アルミニウムが存在していなかったので、電解反応初期における酸化皮膜の形成反応が急激に生起した。そのため、部分的に酸化皮膜が厚く形成された場所が生じ、算術平均値の150%を上回った。酸化皮膜が均一でないため、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例12では、交流電解処理における電解溶液の溶存アルミニウム濃度が1000ppmよりも高いため、皮膜の形成が阻害されて局部的に薄い酸化皮膜が形成された。そのため、酸化皮膜の合計厚さの最小値が算術平均値の50%を下回った。酸化皮膜が均一でないため、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例13では、交流電解処理における周波数が20Hzより低いため、電気的状態が直流電解に近づき、多孔性アルミニウム酸化皮膜層の形成が進行せず、第1測定ではその厚さが20nm未満であった。また、バリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さが30nmを上回った。そのため、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例14では、交流電解処理における周波数が100Hzより高いため、陽極と陰極の反転が速過ぎた。そのため、多孔性アルミニウム酸化皮膜層の形成が極端に遅くなり、第1測定ではその厚さが20nm未満であった。さらに、第2相粒子が存在する周辺では酸化皮膜がほとんど形成されない部分があった。酸化皮膜が均一でないため、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例15では、交流電解処理における電流密度が4A/dmより低いため、バリア型アルミニウム酸化皮膜層が優先的に形成された。そのため、多孔性アルミニウム酸化皮膜層の形成が遅く、その厚さが20nm未満であった。また、第2相粒子が存在する周辺では酸化皮膜がほとんど形成されていない部分があった。酸化皮膜が均一でないため、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例16では、交流電解処理における電流密度が50A/dmより高いため、電解処理において電解溶液中にスパークが発生する等、制御が一部不安定になった。そのため、多孔性アルミニウム酸化皮膜層の厚さが500nmを上回る一方で、第2相粒子が存在する周辺で酸化皮膜合計厚さが極端に少ない部分も発生した。酸化皮膜が均一でないため、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例17では、交流電解処理における電解時間が5秒より短いため、多孔性アルミニウム酸化皮膜層の厚さが20nm未満、バリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さが3nm未満となり非常に薄かった。また第2相粒子の除去が不十分であり、酸化皮膜が形成されていない部分があった。酸化皮膜が均一でないため、接着性及び密着性に劣る結果となった。
比較例18では、交流電解処理における電解時間が60秒より長いため、多孔性アルミニウム酸化皮膜層の厚さが500nm超、バリア型アルミニウム酸化皮膜層の厚さが30nm超と酸化皮膜の厚さが全体的に厚くなった。このため皮膜の凝集破壊が起こりやすくなり、接着性及び密着性に劣る結果となった。
本発明によれば、アルカリ交流電解処理によって、接着性及び密着性に優れた酸化皮膜を安定して形成できるアルミニウム合金材が得られる。

Claims (4)

  1. アルカリ電解液を使用した交流電解にて、表面に酸化皮膜を形成するためのアルミニウム合金圧延板であって、Si:1.0〜1.6mass%、Mg:0.3〜1.5mass%およびFe:0.5mass%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなり、表面に存在する第2相粒子のうち、Siを含む金属間化合物もしくは単体Si粒子であり円相当径0.5μm以上の第2相粒子が5000個/mm以下であることを特徴とする電解処理用アルミニウム合金圧延板。
  2. 請求項1に記載の電解処理用アルミニウム合金圧延板の製造方法であって、
    Si:1.0〜1.6mass%、Mg:0.3〜1.5mass%およびFe:0.5mass%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯を冷却速度0.1℃/sec以上で鋳造して鋳塊を製造し、前記鋳塊に均質化処理を施し、その後、圧延を施す工程を少なくとも有することを特徴とする、電解処理用アルミニウム合金圧延板の製造方法。
  3. 請求項1に記載の電解処理用アルミニウム合金圧延板を電解処理することにより、前記電解処理用アルミニウム合金圧延板の表面にバリア型アルミニウム酸化皮膜層と多孔性アルミニウム酸化皮膜層とをこの順に具備してなる電解処理アルミニウム合金圧延板であって、
    前記バリア型アルミニウム酸化皮膜層は、厚さが3nm〜30nmであり、
    前記多孔性アルミニウム酸化皮膜層は、厚さが20nm〜500nmであり、表面には直径5nm〜30nmの小孔を備え、
    前記バリア型アルミニウム酸化皮膜層と前記多孔性アルミニウム酸化皮膜層との合計厚さの変動幅が、前記合計厚さの算術平均値の±50%以内であることを特徴とする、電解処理アルミニウム合金圧延板。
  4. 請求項3に記載の電解処理アルミニウム合金圧延板の製造方法であって、
    Si:1.0〜1.6mass%、Mg:0.3〜1.5mass%およびFe:0.5mass%以下を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金溶湯を冷却速度0.1℃/sec以上で鋳造して鋳塊を製造し、前記鋳塊に均質化処理を施し、その後、圧延を施す工程を少なくとも行うことにより、電解処理用アルミニウム合金圧延板を得た後、
    前記電解処理用アルミニウム合金圧延板に対して、pH9〜13、液温35〜80℃、かつ溶存アルミニウム濃度が5ppm以上1000ppm以下のアルカリ性水溶液中、周波数20〜100Hz、電流密度4〜50A/dm及び電解時間5〜60秒の条件で交流電解処理を行うことを特徴とする、電解処理アルミニウム合金圧延板の製造方法。
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