以下に、本発明に係る電動制動装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、本発明に係る電動制動装置(第1の実施態様)を備える車両には、制動操作部材BP、制動操作量取得手段BPA、電子制御ユニットECU、電力源BAT,ALT、及び、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKが設けられる。この電動制動装置は、車両の車輪WHLに制動トルクを発生させるための装置である。
制動操作部材BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。運転者によるこの制動操作部材BPの操作に応じて、制動手段BRKによって車輪WHLの制動トルクが調整される。その結果として、車輪WHLに制動力が発生され、走行中の車両が減速される。典型的には運転者のブレーキペダル踏力によって作動するブレーキペダルがこの制動操作部材BPに相当する。
制動操作量取得手段BPAは、制動操作部材BPに設けられる。この制動操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。この制動操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダの圧力を検出するセンサ(圧力センサ)、制動操作部材BPの操作力を検出するセンサ(ブレーキペダル踏力センサ)、及び、制動操作部材BPの変位量を検出するセンサ(ブレーキペダルストロークセンサ)のうちの少なくとも1つが採用される。従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダ圧、ブレーキペダル踏力、及び、ブレーキペダルストロークのうちの少なくとも1つに基づいて演算される。演算された制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECU(具体的には、電子制御ユニットECUに設けられるプロセッサCPUb)に入力される。
電子制御ユニットECUは、プロセッサCPUbを含む電気回路(プリント基板)を備え、車体BDYに固定される。ここで、「プロセッサ」は、演算処理を実行する電子回路であって、「CPU(Central Processing Unit)」である。また、「プリント基板」は、集積回路、抵抗器、コンデンサ等の電子部品がその表面に固定され、電子部品間が配線で接続されることによって電子回路を構成する板状部品である。電子制御ユニットECUは、「第1電気回路」に相当する。電子制御ユニットECUのプロセッサCPUb内には、目標信号演算手段FBTがプログラムされる。目標信号演算手段FBTによって、目標押圧力(目標値)Fbtが演算される。電子制御ユニットECUから、制動手段BRKの電気モータMTRを駆動するための目標値(駆動信号)Fbtが、駆動回路DRVに出力される。目標押圧力Fbtは、信号線SGLを経由して、駆動回路DRVに送信される。電子制御ユニットECUを経由して、蓄電池(バッテリ)BAT等から電気モータMTRを駆動するための電力が駆動回路DRVに供給される。
蓄電池(バッテリ)BAT及びオルタネータ(発電機)ALTは、電子制御ユニットECU、駆動回路DRV、及び、電気モータMTRに電力を供給する電力源を構成する。電力源BAT,ALTは、車体BDYに固定される。蓄電池BATの蓄電量が減少した場合には、オルタネータALTによって、蓄電池BATが充電される。電力源BAT,ALTからの電力(電流)が、電力線PWLを経由して、駆動回路DRV(最終的には、MTR)に供給される。
目標押圧力演算ブロック(目標信号演算手段)FBTでは、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが回転部材(ブレーキディスク)KTBを押す力(押圧力)に関する目標押圧力(目標信号)Fbtが演算される。目標押圧力演算ブロックFBTは、制御アルゴリズムであり、電子制御ユニットECU内のプロセッサCPUbにプログラムされる。目標信号Fbtは、制動操作量Bpa、及び、予め設定された演算マップCHfbに基づいて演算される。目標信号Fbtは、信号線SGLを介して、車輪WHLに固定される駆動回路DRVに送信される。
制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKは、車輪WHLに設けられ、車輪WHLに制動トルクを与え、制動力を発生させる。例えば、車両は、走行中に、制動手段BRKによって減速される。制動手段BRKは、ブレーキキャリパCPR、押圧部材PSN、電気モータMTR、位置取得手段MKA、減速機GSK、シャフト部材SFT、ねじ部材NJB、押圧力取得手段FBA、駆動回路DRV、及び、コネクタCNCを含む。
ブレーキキャリパ(単に、「キャリパ」ともいう)CPRは、車輪WHLに割り当てられる。キャリパCPRが本発明の「ブレーキキャリパ」に相当する。キャリパCPRとして、浮動型キャリパが採用され得る。キャリパCPRは、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。キャリパCPRは、箱型構造にて構成される。具体的には、キャリパCPRは、内部に空間(スペース)をもち、この空間に各種部材(駆動回路DRV等)が収納される。キャリパCPRの箱型構造を有する部分が、ケース部材CASと称呼される。ケース部材CASは、キャリパCPRの一部であって、その内部が空洞になっている。キャリパCPRとケース部材CASとの関係においては、両者が一体として形成された構造、又は、別々に形成されたものが組み合わされた構造が採用され得る。
キャリパCPRの内部にて、押圧部材PSN(ブレーキピストン)が、車輪WHLに固定されて車輪WHLとともに回転する回転部材KTBに対して摩擦部材MSBを押圧するように駆動される(前進、又は、後退する)。押圧部材PSNの駆動によって摩擦部材MSBが回転部材KTBに押し付けられて摩擦力が発生する。押圧部材PSNが本発明の「押圧部材」に相当する。例えば、押圧部材PSNは円筒形状をもち、中心軸Jpsをもつ。従って、押圧部材PSNは、中心軸Jpsの方向に駆動され、中心軸Jpsは駆動軸とも称呼される。押圧部材PSNの駆動は、動力源である電気モータMTRの動力によって行われる。具体的には、電気モータMTRの出力(モータ軸まわりの回転動力)が、減速機GSKを介して、シャフト部材SFTに伝達される。そして、シャフト部材SFTの回転動力(シャフト軸まわりのトルク)が、動力変換部材NJBによって、直線動力(押圧部材の軸方向の推力)に変換され、押圧部材PSNに伝達される。その結果、押圧部材PSNが、回転部材KTBに対して移動(前進、又は、後退)する。ここで、押圧部材PSNの中心軸(駆動軸)Jpsと、シャフト部材SFTの回転軸とは一致する。押圧部材PSNの移動によって、摩擦部材MSBが回転部材KTBを押す力(押圧力)が調整される。回転部材KTBは車輪WHLに固定されているので、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの間に摩擦力が発生し、車輪WHLの制動力が調整される。
電気モータMTRは、押圧部材PSNを駆動するための動力源である。電気モータMTRが本発明の「電気モータ」に相当する。例えば、電気モータMTRとして、ブラシ付モータ、又は、ブレシレスモータが採用され得る。電気モータMTRの回転方向において、正転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBに近づいていく方向(押圧力が増加し、制動トルクが増加する方向)に相当し、逆転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBから離れていく方向(押圧力が減少し、制動トルクが減少する方向)に相当する。電力源BAT,ALTから電気モータMTRへの電力は、電力線PWL、及び、コネクタCNCを介して供給される。
位置取得手段MKAは、電気モータMTRのロータ(回転子)の位置(回転角)Mkaを取得(検出)する。例えば、回転角センサによって位置取得手段MKAが構成される。位置取得手段MKA内には、電気回路DMK(「第2電気回路」に相当する)が含まれ、検出した位置Mkaを電気信号に変換して、送信する。例えば、位置取得手段MKAは、電気モータMTRの内部であって、回転子、及び、整流子と同軸に設けられる。即ち、位置取得手段MKAは、電気モータMTRの回転軸上に設けられる。検出された実際の位置(例えば、回転角)Mkaは、駆動回路DRV(具体的には、駆動回路DRV内のプロセッサCPUw)に入力される。
減速機GSK、シャフト部材SFT、及び、ねじ部材NJBは、電気モータMTRの動力を押圧部材PSNに伝達するための動力伝達機構を構成する。減速機GSKは、電気モータMTRの動力において、回転速度を減じて、シャフト部材SFTに出力する。電気モータMTRの回転出力(トルク)が、減速機GSKの減速比に応じて増加され、シャフト部材SFTの回転力(トルク)が得られる。例えば、減速機GSKは、歯車伝達機構であって、小径歯車SKH、及び、大径歯車DKHにて構成される。また、減速機GSKとして、ベルト、チェーン等の巻き掛け伝達機構、或いは、摩擦伝達機構が採用され得る。シャフト部材SFTは、回転軸部材であって、減速機GSKから伝達された回転動力をねじ部材NJBに伝達する。ねじ部材NJBは、シャフト部材SFTの回転動力を、直線動力に変換する動力変換部材(回転・直動変換機構)である。例えば、ねじ部材NJBとして、滑りねじ(台形ねじ等)、又は、転がりねじ(ボールねじ等)が採用され得る。
押圧力取得手段(軸力センサ)FBAは、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押す力(押圧力)Fbaを取得(検出)する。押圧力取得手段FBA内には、電気回路DFB(「第2電気回路」に相当する)が含まれ、押圧力取得手段FBAは、検出した押圧力Fbaを電気信号に変換して、送信する。検出された実際の押圧力Fbaは、駆動回路DRV(具体的には、DRV内のCPUw)に入力される。例えば、押圧力取得手段FBAは、シャフト部材SFTとキャリパCPRとの間に設けられる。即ち、押圧力取得手段FBAは、シャフト部材SFTの回転軸上に設けられ、キャリパCPRに固定される。
駆動回路DRVは、電気モータMTRの駆動用の電気回路(プリント基板)であり、「第2電気回路」に相当する。駆動回路DRVには、プロセッサ(演算処理装置)CPUw、及び、ブリッジ回路HBRが設けられる。プロセッサCPUwには、制御手段CTL(制御アルゴリズム)がプログラムされている。駆動回路DRVによって、目標押圧力(目標信号)Fbtに基づいて、電気モータMTRが駆動され、その出力が制御される。目標信号Fbtは、信号線SGL、及び、コネクタCNCを介して、電子制御ユニットECU(プロセッサCPUb)から駆動回路DRV(プロセッサCPUw)に送信される。目標信号Fbtの伝達経路は、「電子制御ユニットECU(目標押圧力演算ブロックFBT)→信号線SGL→コネクタCNC→信号線SGL→駆動回路DRV(CPUw)」である。駆動回路DRVは、ケース部材CAS(キャリパCPRの一部)の内部に配置(固定)される。電気経路(送電系経路)において、駆動回路DRVは、コネクタCNCからMTRまでの途中に設けられる。従って、給電経路は、「電力源BAT,ALT→電子制御ユニットECU→電力線PWL(第1電力線PWLa)→コネクタCNC→電力線PWL(第2電力線PWLb)→駆動回路DRV(ブリッジ回路HBR)→電力線PWL(第3電力線PWLc)→電気モータMTR」である。
コネクタ(Connector)CNCは、金属製の端子(ターミナル)が樹脂等の絶縁体で固定されたもので、部品間、又は、配線(ケーブル、ハーネス)と部品との間を接続し、電力、及び/又は、信号を相互にやり取りする。具体的には、コネクタCNCは、電力線PWL、及び、信号線SGLのうちで少なくとも一方を中継するように、車輪WHL側のケース部材CAS(キャリパCPRの一部)に設けられる。コネクタCNCが本発明の「コネクタ」に相当する。コネクタCNCは、駆動回路DRV上に固定され得る。部品点数を削減するため、コネクタCNCが、給電(電力線PWLを中継)、及び、送信(信号線SGLを中継)の共用とされ得る。
ここで図2を参照しつつ、前記の電力線PWL、信号線SGL、コネクタCNC、駆動回路DRV、及び、電気モータMTRについて、詳細に説明する。
電力線PWLは、電力源BAT,ALTから電気モータMTRに、電力を供給するための一連の電気経路である。電力線PWLは、ケース部材CASに設けられるコネクタCNCによって中継される。電力線PWLは、電力源BAT,ALTから電子制御ユニットECUを経由してコネクタCNCまでの電気経路である電力線(第1電力線)PWLa、コネクタCNCから駆動回路DRVまでの電気経路である電力線(第2電力線)PWLb、駆動回路DRV内の電気経路、及び、駆動回路DRVから電気モータMTRまでの電気経路である電力線(第3電力線)PWLcにて構成される。第1電力線PWLaとして、2本の電線がねじり合わされて形成されるツイストペアケーブル(Twisted Pair Cable)が採用され得る。ツイストペアケーブルでは、単なる平行ケーブルに比べ、ケーブルからの電磁波の放出が減少されるため、電子制御システムへの電磁波の影響が抑制され得る。第2電力線PWLb、及び、第3電力線PWLcのうちの少なくとも1つに、バスバー(Bus Bar、導電体として機能する金属製の棒)が採用され得る。バスバーの配線抵抗は小さいため、電圧降下が僅かであり、効率良く電気モータMTRが駆動され得る。さらに、バスバーには、絶縁被覆が不要であるため、放熱性が高く、大電流化への対応が容易になり得る。
信号線SGLは、電子制御ユニットECU(第1電気回路)から駆動回路DRV(第2電気回路)への電気モータMTRを制御するための目標信号(目標押圧力)Fbtを伝達(送信)する、一連の信号伝達経路である。即ち、信号線SGLは、電子制御ユニットECU(第1電気回路)と駆動回路DRV(第2電気回路)との間の通信を行う。信号線SGLが本発明の「信号線」に相当する。信号線SGLは、ケース部材CASに設けられるコネクタCNCによって中継される。信号線SGLとして、シリアル通信バスが採用され得る。シリアル通信バスは、1つの通信経路内で、直列的に1ビットずつデータ送信される通信方法である。例えば、シリアル通信バスとして、CAN(Controller Area Network)バスが採用され得る。信号線SGLは、電子制御ユニットECUのプロセッサCPUb(具体的には、プロセッサCPUbにプログラムされる目標押圧力演算ブロックFBT)からコネクタCNCまでの通信経路である通信線(第1信号線)SGLa、及び、コネクタCNCから駆動回路DRVのプロセッサCPUw(具体的には、プロセッサCPUwにプログラムされる指示通電量演算ブロックIST等)までの通信経路である通信線(第2信号線)SGLbにて構成される。電力線PWLと同様に、通信線SGLbとして、バスバーが採用され得る。電力線PWL、及び、信号線SGLを総称して、配線(ケーブル、ハーネス)と称呼する。
コネクタCNCは、第1コネクタCN1、及び、第2コネクタCN2の組み合わせで構成される。コネクタCNCは、給電用の電力線PWL、及び、送信用の信号線SGLを共用で中継する。また、電力線PWLを中継するコネクタと、信号線SGLを中継するコネクタとが、別々に設けられ得る。従って、コネクタCNCは、電力線PWL、及び、信号線SGLのうちの少なくとも一方を中継する。コネクタCNCは、キャリパCPRの一部であるケース部材CASの表面に設けられる。
駆動回路DRVは、電気モータMTRを駆動するための電気回路(プリント基板)であって、目標押圧力Fbtに基づいて、電気モータMTRへの通電状態を制御し、電気モータMTRの出力と回転方向とを調整する。駆動回路DRVは、ブリッジ回路HBR、通電量取得手段IMA、及び、制御手段CTLにて構成される。
図2には、電気モータMTRとしてブラシ付モータ(単に、「ブラシモータ」ともいう)が採用される場合の駆動回路DRVの一例が示されている。この駆動回路DRVは、制御手段CTL、ブリッジ回路HBR、及び、通電量取得手段IMAにて構成される。駆動回路DRVは、キャリパCPRの一部であるケース部材CASの内部に収納され、そこに固定されている。駆動回路DRVには、コネクタCNCが固定され、バスバー(電力線PWLbに相当する)を介して電気的に接続される。また、駆動回路DRVと電気モータMTRとは、バスバー(電力線PWLcに相当する)を介して電気的に接続される。
ブリッジ回路HBRは、スイッチング素子S1乃至S4によって構成される。スイッチング素子S1乃至S4は、電気回路の一部をON(通電)/OFF(非通電)できる素子である。例えば、スイッチング素子として、MOS−FET、IGBTが用いられる。ブリッジ回路HBRは、双方向の電力源を必要とすることなく、単一の電力源で電気モータへの通電方向が変更され、電気モータの回転方向(正転方向、又は、逆転方向)が制御され得る回路である。具体的には、スイッチング素子S1〜S4は、制御手段CTL(スイッチング制御ブロックSWTからの信号)によって駆動され、夫々のスイッチング素子の通電/非通電の状態が切り替えられることによって、電気モータMTRの回転方向と出力トルクとが調整される。ブラシレスモータが採用される場合、ブリッジ回路HBRは、6つのスイッチング素子によって構成される。ブラシ付モータの場合と同様に、デューティ比Dutに基づいて、スイッチング素子の通電状態/非通電状態が制御される。ブラシレスモータでは、位置取得手段MKAによって、電気モータMTRのロータ位置(回転角)Mkaが取得される。そして、実際のロータ位置(回転角)Mkaに基づいて、3相ブリッジ回路を構成する6つのスイッチング素子が制御される。スイッチング素子によって、ブリッジ回路のU相、V相、及びW相のコイル通電量の方向(即ち、励磁方向)が順次切り替えられて、電気モータMTRが駆動される。ブラシレスモータの回転方向(正転、或いは、逆転方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。
通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAが、駆動回路DRVに設けられる。通電量取得手段IMAは、電気モータMTRへの実際の通電量(例えば、実際に電気モータMTRに流れる電流)Imaを取得(検出)する。
制御手段CTLは、目標押圧力(目標値)Fbtに基づいて、電気モータMTRへの通電状態(最終的には電流の大きさと方向)を制御する。制御手段CTLは、制御アルゴリズムであり、駆動回路DRV内のプロセッサCPUwにプログラムされる。制御手段CTLは、指示通電量演算ブロックIST、押圧力フィードバック制御ブロックIPT、通電量調整演算ブロックIMT、パルス幅変調ブロックPWM、及び、スイッチング制御ブロックSWTにて構成される。
指示通電量演算ブロックISTは、目標押圧力Fbt、及び、予め設定された演算特性(演算マップ)CHs1,CHs2に基づいて、指示通電量Istを演算する。指示通電量Istは、目標押圧力Fbtが達成されるための、電気モータMTRへの通電量の目標値である。指示通電量Istの演算マップは、制動手段BRKのヒステリシスを考慮して、2つの特性CHs1,CHs2で構成されている。通電量とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比が通電量として用いられ得る。
押圧力フィードバック制御ブロックIPTは、目標押圧力(目標値)Fbt、及び、実押圧力(実際値)Fbaに基づいて、押圧力フィードバック通電量Iptを演算する。押圧力フィードバック通電量Iptは、目標押圧力Fbtと実押圧力Fbaとの偏差(押圧力偏差)ΔFb、及び、予め設定される演算特性(演算マップ)CHpに基づいて演算される。指示通電量Istは目標押圧力Fbtに相当する値として演算されるが、制動手段BRKの効率変動により目標押圧力Fbtと実押圧力Fbaとの間に誤差が生じる場合がある。そこで、指示通電量Istが、上記の誤差を減少するように決定される。押圧力フィードバック制御ブロックIPTでは、押圧力取得手段FBAにて取得される実押圧力Fbaに加えて、ロータ位置Mkaが利用されて、最終的な実押圧力Fbaが決定され得る。具体的には、ロータ位置Mkaに基づいて演算される変位に剛性値Gcp(キャリパCPR、摩擦部材MSBの剛性に相当する値)が乗算されて、推定押圧力Fbeが演算される。そして、押圧力取得手段FBAの検出値、及び、推定押圧力Fbeに基づいて、最終的な実押圧力Fbaが演算される。例えば、K1を係数(所定値)とすると、Fba=K1×(押圧力取得手段FBAの検出値)+(1−K1)×Fbeなる式に基づいて最終的な実押圧力Fbaが演算され得る。さらに、押圧力フィードバック制御ブロックIPTでは、ロータ位置Mkaのみに基づいて、押圧力フィードバック制御が実行され得る。具体的には、ロータ位置Mka、及び、剛性値Gcp(キャリパCPR等のばね定数)に基づいて推定押圧力Fbeが演算される。そして、目標押圧力Fbtと推定押圧力Fbeとの偏差に基づいて、押圧力フィードバック通電量Iptが演算される。この場合、押圧力取得手段FBAは省略され得る。
通電量調整演算ブロックIMTは、電気モータMTRへの最終的な目標値である目標通電量Imtを演算する。通電量調整演算ブロックIMTでは、指示通電量Istが押圧力フィードバック通電量Iptによって調整され、目標通電量Imtが演算される。具体的には、指示通電量Istに対して、フィードバック通電量Iptが加えられて、最終的な目標通電量Imtとして演算される。目標通電量Imtの符号(値の正負)に基づいて電気モータMTRの回転方向が決定され、目標通電量Imtの大きさに基づいて電気モータMTRの出力(回転動力)が制御される。具体的には、目標通電量Imtの符号が正符号である場合(目標通電量Imt>0)には、電気モータMTRが正転方向(押圧力の増加方向)に駆動され、目標通電量Imtの符号が負符号である場合(目標通電量Imt<0)には、電気モータMTRが逆転方向(押圧力の減少方向)に駆動される。また、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルクが大きくなるように制御され、目標通電量Imtの絶対値が小さいほど出力トルクが小さくなるように制御される。
パルス幅変調ブロックPWMは、目標通電量Imtに基づいて、パルス幅変調(PWM、Pulse
Width Modulation)を行うための指示値(目標値)を演算する。具体的には、パルス幅変調ブロックPWMは、目標通電量Imt、及び、予め設定される特性(演算マップ)に基づいて、パルス幅のデューティ比Dut(ON/OFFの時間割合)を決定する。併せて、パルス幅変調ブロックPWMは、目標通電量Imtの符号(正符号、或いは、負符号)に基づいて、電気モータMTRの回転方向を決定する。例えば、電気モータMTRの回転方向は、正転方向が正(プラス)の値、逆転方向が負(マイナス)の値として設定される。入力電圧(電源電圧)、及び、デューティ比Dutによって最終的な出力電圧が決まるため、パルス幅変調ブロックPWMでは、電気モータMTRの回転方向と、電気モータMTRへの通電量(即ち、電気モータMTRの出力)が決定される。さらに、パルス幅変調ブロックPWMでは、所謂、「電流フィードバック制御」が実行され得る。この場合、通電量取得手段IMAの検出値(例えば、実際の電流値)Imaが、パルス幅変調ブロックPWMに入力される。そして、目標通電量Imtと、実際の通電量Imaとの偏差ΔImに基づいて、デューティ比Dutが修正(微調整)される。この電流フィードバック制御によって、高精度なモータ制御が達成され得る。
スイッチング制御ブロックSWTは、デューティ比(目標値)Dutに基づいて、ブリッジ回路HBRを構成するスイッチング素子(S1〜S4)に駆動信号を出力する。この駆動信号は、各スイッチング素子が、通電状態とされるか、非通電状態とされるか、を指示する。具体的には、デューティ比Dutに基づいて、電気モータMTRが正転方向に駆動される場合には、スイッチング素子S1及びS4が通電状態(ON状態)、且つ、スイッチング素子S2及びS3が非通電状態(OFF状態)にされるとともに、デューティ比Dutに対応する通電時間(通電周期)で、スイッチング素子S1及びS4の通電/非通電の状態が切替られる。同様に、電気モータMTRが逆転方向に駆動される場合には、スイッチング素子S1及びS4が非通電状態(OFF状態)、且つ、スイッチング素子S2及びS3が通電状態(ON状態)に制御され、スイッチング素子S2及びS3の通電状態(ON/OFFの切替周期)が、デューティ比Dutに基づいて調整される。そして、デューティ比Dutが大きいほど、単位時間当りの通電時間が長くされ、より大きな電流が電気モータMTRに流される。
電気モータMTRとして、ブラシ付モータ(ブラシモータ)が採用される。ブラシモータでは、電機子(巻線による電磁石)に流れる電流が、機械式の整流子(コミュテータ)CMT、及び、ブラシBLCによって、回転位相に応じて切り替えられる。ブラシモータでは、固定子(ステータ)側が永久磁石で、回転子(ロータ)側が巻線回路(電磁石)で構成される。そして、巻線回路(回転子)に電力が供給されるように、ブラシBLCが整流子CMTに当接されている。ブラシBLCは、ばね(弾性体)によって、整流子CMTに押し付けられ、整流子CMTが回転することにより電流が転流される。電気モータMTRとして、ブラシ付モータに代えて、ブラシレスモータが採用され得る。ブラシレスモータでは、ブラシ付モータの機械式の整流子CMTに代えて、電子回路によって電流の転流が行われる。ブラシレスモータでは、回転子(ロータ)が永久磁石に、固定子(ステータ)が巻線回路(電磁石)とされる構造で、ロータ位置Mkaが検出され、このロータ位置Mkaに合わせてスイッチング素子が切り替えられることによって、供給電流が転流される。
図3を参照しつつ、コネクタCNCが第1の配置状態(第1の実施形態)にある場合の、電力線PWL、及び、給電用ターミナル(端子)TP1,TP2について説明する。併せて、角括弧(ブラケット、Bracket)内に記載の信号線SGL、及び、通信用ターミナル(端子)TS1,TS2について説明する。コネクタCNCは、第1ターミナルTP1[TS1]をもつ第1コネクタCN1と、第2ターミナルTP2[TS2]をもつ第2コネクタCN2との組み合わせで構成される。第1コネクタCN1は、第1ターミナルTP1[TS1]、及び、第1ハウジングHS1にて構成される。同様に、第2コネクタCN2は、第2ターミナルTP2[TS2]、及び、第2ハウジングHS2にて構成される。図3では、第1ターミナルTP1[TS1]としてオスターミナル(接合部が凸形状であって、ピンインサート・ターミナルともいう)が採用され、第2ターミナルTP2[TS2]としてメスターミナル(接合部が凹形状であって、ソケットインサート・ターミナルともいう)が採用されている。逆の構成である、第1ターミナルTP1(給電用金属端子),TS1(通信用金属端子)をメスターミナルとし、且つ、第2ターミナルTP2(給電用金属端子),TS2(通信用金属端子)をオスターミナルとする構成が採用され得る。コネクタCNCの組み合わせ(第1コネクタCN1及び第2コネクタCN2の組)において、オスターミナルを含むコネクタが「オス側コネクタ」と称呼され、メスターミナルを含むコネクタが「メス側コネクタ」と称呼される。
第1(給電)ターミナルTP1は、電力線PWL(具体的には、第2電力線PWLb)の端部に形成される。第2(給電)ターミナルTP2は、電力線PWL(具体的には、第1電力線PWLa)の端部に形成される。そして、いずれも金属製の第1ターミナルTP1と第2ターミナルTP2とがケース部材CASの内部で嵌め合わされる(接合される)。第1ターミナルTP1と第2ターミナルTP2とが接触している接触部分(接合部分)がターミナル接合部Sgpである。即ち、ターミナル接合部Sgpがケース部材CASの内部に配置される。
第1(通信)ターミナルTS1は、信号線SGL(具体的には、第2通信線SGLb)の端部に形成される。第2(通信)ターミナルTS2は、信号線SGL(具体的には、第1通信線SGLa)の端部に形成される。そして、いずれも金属製の第1ターミナルTS1と第2ターミナルTS2とがケース部材CASの内部で嵌め合わされる(接合される)。第1ターミナルTS1と第2ターミナルTS2とが接触している接触部分(接合部分)がターミナル接合部Sgsである。即ち、ターミナル接合部Sgsがケース部材CASの内部に配置される。
第1コネクタCN1(具体的には、第1ハウジングHS1)が、駆動回路DRVに固定され得る。第1コネクタCN1の第1ターミナルTP1[TS1]と駆動回路DRVとを接続する配線PWLb[SGLb]として、バスバーが採用され得る。第2コネクタCN2(具体的には、第2ハウジングHS2)が、ケース部材CASに貫通状に設けられた開口部Kkbを通じてケース部材CASの内部の空間に挿入(導入)されて第1コネクタCN1に嵌め合わされる。具体的には、第1コネクタCN1の第1ターミナルTP1[TS1]が、第2コネクタCN2の第2ターミナルTP2[TS2]に差し込まれる。これにより、コネクタCNCは、キャリパCPRのケース部材CASの内部にて嵌め合わされる。即ち、コネクタCNCのターミナル接合部(ターミナルの嵌め合い部分)Sgp(電力供給用ターミナル),Sgs(信号伝達用ターミナル)が、ケース部材CASの内部に配置される。ここで、ケース部材CASは、キャリパCPRの一部分であって、内部に収納空間をもつ箱型構造をもつ筐体である。
車輪WHLの回転によって、小石等が跳ね上げられるが、個別に保護カバー(プロテクタ)等を設けることなく、キャリパCPR自体(ケース部材CAS自体)がコネクタCNCの保護部材になる。さらに、ターミナル接合部Sgp,SgsがキャリパCPRの外部に配置されるのではなく、ケース部材CASの内部に配置されるため、コネクタCNCのうちキャリパCPRの外部に露出する部位の大きさを必要最低限に抑えることができ、コネクタCNC、特に、ターミナル接合部Sgp,Sgsが損傷される可能性が著しく低減され得る。また、ターミナル接合部Sgp,Sgsがケース部材CASの内部に配置されるため、水の浸入経路であるキャリパCPRの表面から遠ざけられる。即ち、キャリパCPRの表面からケース部材CASの開口部Kkbを通じてターミナル接合部Sgp,Sgsまで水が浸入する浸入経路の長さを延ばすことが可能になる。その結果、ターミナル接合部Sgp,Sgsの防水性が向上され得る。
ケース部材CASの開口部Kkbの内周部分と、コネクタCNCの外周部分との間に防水部材BSBが設けられ得る。防水部材BSBとして、エラストマ(例えば、ゴム)が採用され得る。エラストマに飛び石等が衝突した際に、そこに部分的な切断が生じ得る。ケース部材CASの外部で防水されるのではなく、少なくともケース部材CASの開口部Kkbの内周部分とコネクタCNCの外周部分との間に設けられた防水部材BSBによってシールが行われるため、飛び石等の衝突による防水部材BSBの損傷が抑制され得る。
加えて、コネクタCNC(具体的には、第2コネクタCN2の端面)が、ケース部材CASの表面に対して段差なく設けられる。即ち、コネクタCNC(具体的には、第2ハウジングHS2)の端面と、ケース部材CASの表面とが段差が無くフラットな状態にて構成される。ケース部材CASの表面の窪み等に水分が留まり易いが、コネクタCNCの端面とキャリパ表面は面一(ツライチ)となるため、ケース部材CASが濡れた場合であっても窪みに水分が留まることなく乾燥し易い。コネクタCNC(特に、第2ハウジングHS2)と配線PWL,SGLとは、防水部材BSCによってシール(密閉)される。駆動回路DRV上には、プロセッサCPUw、及び、ブリッジ回路HBRが実装されている。電気モータMTRが電力線PWLc(例えば、バスバー)を介して、駆動回路DRVと接続される。駆動回路DRV、及び、電気モータMTRは、ケース部材CASの内部に固定され収納される。
図3の場合と同様に、図4を参照しつつ、コネクタCNCが第2の配置状態(第2の実施形態)にある場合の、電力線PWLに係る部材について説明する。併せて、角括弧内に記載の、信号線SGLに係る部材について説明する。例えば、「ターミナル接合部Sgp[Sgs]」は、電力線用の第1ターミナルTP1と第2ターミナルTP2とのターミナル接合部Sgp、及び、通信線用の第1ターミナルTS1と第2ターミナルTS2とのターミナル接合部Sgsを示している。
第2の実施態様では、コネクタCNCとケース部材CASとの関係が第1の実施態様とは相違している。具体的には、第1コネクタCN1が駆動回路DRVに固定され、第1コネクタCN1がケース部材CASの開口部Kkbに挿入される。そして、第1コネクタCN1の外周部分と開口部Kkbの内周部分との間に防水部材BSBが設けられる。第1コネクタCN1に第2コネクタCN2が嵌め合わされる。第1コネクタCN1の内周部分と第2コネクタCN2の外周部分との間に防水部材BSDが設けられる。ここで、第1コネクタCN1及び第2コネクタCN2の端面はいずれもケース部材CASの表面と段差無く、フラットにされ得る。第2の実施態様においても、第1の実施態様と同様の効果を奏する。即ち、ケース部材CASによってターミナル接合部Sgp,Sgsが保護され、防水されるとともに、コネクタCNC、及び、防水部材BSBが保護され得る。
図5を参照しつつ、回転部材KTBの回転方向に対するコネクタCNCの配置について説明する。回転部材KTBは、キャリパCPRによって挟まれている。図5には、回転部材KTBの回転軸Jkt(車輪WHLの回転軸と同一)に対して離れた側から、Jkt方向について視た場合の部分断面が示されている。電気モータMTRを動力源として回転部材KTBに対して直線移動(スライド)される押圧部材PSNの中心軸(駆動軸)Jpsは、回転部材KTBの回転軸Jktと平行である。中心軸(駆動軸)Jps及び回転軸Jktによって形成される平面Mrfが基準平面として定義される。車両が前進する場合に、回転部材KTBの回転方向(矢印Dktで示す)において、回転部材KTBがキャリパCPRに進入する部分(部位)が「入口部Pin」、回転部材KTBがキャリパCPRから退出する部位が「出口部Pex」と称呼される。さらに、キャリパCPRを基準平面Mrfによって、2つに分割した場合に、入口部Pinが存在する側が「入口側」、出口部Pexが存在する側が「出口側」と称呼される。コネクタCNCは、キャリパCPRの一部であるケース部材CASにおいて、基準平面Mrfに対して出口側に位置するとともに、入口側から基準平面Mrfに対して垂直な方向(矢印Drfで示す)に視た場合に、基準平面Mrfに隠れる領域に存在する所定面(「出口面Mex」とも称呼する)Mexに設けられる。即ち、入口側から基準平面Mrfを視たときに、基準平面Mrfの後方に位置する出口面Mexに、コネクタCNCは配置される。例えば、コネクタCNCは、ケース部材CASにおいて、基準平面Mrfとは交差しない出口側の所定面Mexに設置され得る。ここで、キャリパCPRとケース部材CASとの一体構造が採用され得る。或いは、キャリパCPRとケース部材CASとが別体とされ、夫々が組み合わされる構造が採用され得る。ケース部材CASは内部に空間を有し(内部が空洞であり)、その空間に部材が配置される。即ち、ケース部材CASは箱型構造を備える。
道路上の小石、水、泥等は、車輪の回転によって跳ね上げられ、キャリパCPRにまで飛来する。しかし、コネクタCNCがケース部材CASの所定面(出口面)Mexに固定されているため、ケース部材CAS自体が、跳ね上げられた物からコネクタCNCを保護するための保護壁となる。具体的には、道路上の小石、水、泥等は車輪の回転方向に巻き上げられて飛散するが、これらはケース部材CAS(特に、入口面Min)によって遮られるため、出口面Mex(入口面Minの背面)には小石等が飛来し難く水飛沫もかかり難い。このため、コネクタCNCが飛び石等によって損傷される蓋然性が低減されるとともに、コネクタCNCの防水性が向上され得る。また、キャリパCPR(ケース部材CAS)の軸長(例えば、基準平面Mrfに沿った方向についての長さ)が拡張されるのを抑えることができる。
駆動回路DRVの形状が線対称とされ、その対称軸Jdr上にて、コネクタCNCが固定される。ここで、駆動回路DRVは、プリント基板であり、集積回路、抵抗器、コンデンサ等の電子部品がその表面に固定され、電子部品間が配線で接続されることによって電子回路を構成する板状部品である。なお、駆動回路DRVにおいて、その基板形状が線対称であることのみが必要とされ、プリント基板上に実装されるプロセッサCPUw、及び、ブリッジ回路HBR(スイッチング素子S1〜S4)の配置が線対称であることは要求されない。制動手段BRKが、左右車輪に同様な形態にて搭載されるためには、左輪用と右輪用とが車両の中心軸に対して対象となることが必要となる。即ち、左輪用駆動回路と、右輪用駆動回路とが別々に構成されることが要求される。駆動回路DRVの形状が線対称(例えば、長方形)であるとともに、コネクタCNCが、駆動回路DRVの対称軸Jdrの上に固定されている。このため、駆動回路DRVを左右車輪で共通化することができ、部品点数を増やすことなく左右車輪のキャリパCPRに対応可能となる。ここで、「線対称」は、或る直線を軸として図形を反転させると自らと重なり合う対称性であって、「或る直線」が対称軸である。
図6を参照しつつ、電動制動装置が車両の左後輪に搭載される場合の、回転部材KTB、ケース部材CAS、基準平面Mrf、及び、コネクタCNCの相対的な位置関係について説明する。キャリパCPRは、回転部材KTBを挟み込むように構成される。キャリパCPRの一部であるケース部材CASが、簡略化されて、直方体A−B−C−D−E−F−G−Hで示される。回転部材KTBの回転軸Jkt、及び、押圧部材PSNの中心軸Jps(回転軸Jktに平行な軸)によって形成される基準平面Mrfによって、ケース部材CASは2つに分割される。2つに分割されたケース部材CASのうちで、車両が前進する場合に、回転部材KTBの回転方向(矢印Dktで示す)において、回転部材KTBがキャリパCPRに進入する側が「入口側」、回転部材KTBがキャリパCPRから退出する側が「出口側」と称呼される。前記の退出側(直方体A−B−C−D−K−L−M−N)に存在し、且つ、基準平面Mrf(面K−L−M−N)とは交差しない(交線をもたない)、ケース部材CASの所定面(平面A−B−C−Dであって、出口面Mex)に、コネクタCNCが設けられる。即ち、コネクタCNCが、回転部材KTBの回転軸Jktと押圧部材PSNの中心軸Jpsとによって形成される基準平面Mrfとは交わらず、且つ、基準平面Mrfに対して、車両が前進する場合の回転部材KTBの回転方向において回転部材KTBがキャリパCPRから退出する側(出口側)に位置するケース部材CASの所定面(出口面)Mexに配置される。この所定面(出口面)Mexは、キャリパCPRの表面、具体的にはケース部材CASの表面のうちの、前記の入口側から基準平面Mrfに対して垂直な方向(矢印Drfで示す)に視る場合に、基準平面Mrfの後ろ側に隠れる領域である。
幾何的関係を詳細に説明する。ケース部材CASの表面には、直方体A−B−C−D−K−L−M−Nの6つの表面(面A−B−C−D、面B−C−G−F、面A−B−F−E、面A−D−H−E、面D−C−G−H、及び、面E−F−G−H)が該当する。そして、基準平面Mrfと交差する面は、面B−C−G−F、面A−B−F−E、面A−D−H−E、及び、面D−C−G−Hである。しかし、これらの平面にはコネクタCNCは配置されない。基準平面Mrfとは交わらないケース部材CASの表面は、面A−B−C−D、及び、面E−F−G−Hであるが、コネクタCNCは面A−B−C−Dに設置され、面E−F−G−Hには設置されない。即ち、コネクタCNCは、基準平面Mrf(回転部材KTBの回転Jktと押圧部材PSNの中心軸Jpsとで構成される平面)とは交わらず、且つ、基準平面Mrfに対して、車両が前進する場合の回転部材KTBの回転方向Dktにおいて回転部材KTBがキャリパCPRから退出する側に位置し、且つ、車両が前進する場合の回転部材KTBの回転方向Dktにおいて回転部材KTBがキャリパCPRに進入する側から基準平面Mrfの法線方向に視て隠れる領域である、ケース部材CASの所定面Mex(面A−B−C−D)に配置される。所定面Mexが本発明の「所定面」に相当する。
車輪WHLの回転によって、道路上の小石、水等は、その回転方向(図中に矢印Dktで示す)に巻き上げられる。そして、巻き上げられた物体の大半は、先ず、入口面Min(面E−F−G−H)に衝突する。従って、回転によって巻き上げられる物体は、所定面(出口面)Mex(KTBの回転方向に対して、面E−F−G−Hの背面である面A−B−C−D)には衝突し難い。コネクタCNCが出口面Mexに配置されるため、飛び石等によるCNCの損傷、及び、CNCへの水の浸入が抑制され得る。
制動手段BRKの車両搭載の観点において、車輪WHLの回転方向には比較的余裕があるが、回転軸Jktの周辺、及び、回転軸Jkt方向の寸法が短縮されることが望ましい。これは、回転軸Jkt周辺には車輪WHLを回転支持するハブベアリングユニットが存在し、回転軸Jkt方向には車輪WHLを懸架するサスペンション部材が存在することに因る。例えば、配線PWL,SGLが平面A−D−H−Eから引き出された場合、配線PWL,SGLとハブベアリングユニットとの干渉を考慮する必要がある。また、配線PWL,SGLが平面A−B−F−Eから引き出された場合、配線PWL,SGLとサスペンション部材との干渉を考慮する必要がある。さらに、配線PWL,SGLが平面B−C−G−Fから引き出された場合、配線PWL,SGLは車輪WHLの内側と干渉する。コネクタCNCが所定面(出口面)Mex(平面A−B−C−D)に配置され、配線PWL,SGLは所定面Mexから引き出されるため、制動手段BRKの回転軸Jkt方向のサイズが低減され得る。
さらに、後輪用の制動手段BRKにおいて、押圧部材PSNの中心軸Jpsが回転軸Jktと同一の水平面上、又は、回転軸Jktよりも僅かに上方に配置されるとともに、キャリパCPR(ケース部材CAS)が回転軸Jkt(即ち、後輪軸)よりも後方に配置され得る。具体的には、後輪軸を含む水平面に垂直な平面を基準に、車両の前進方向に対してキャリパCPRが後方に位置する。この配置の場合、入口面Minよりも出口面Mexの方が、上方に存在する(即ち、高い場所に位置する)ことになる。このため、車両が深い水溜りに進入した場合であっても、コネクタCNCの部位が水没する蓋然性が抑制され、コネクタCNCの防水性が確保され得る。
図1〜図6に示す電動制動装置の第1の実施態様に対して、図7に示す電動制動装置(第2の実施態様)を採用することできる。図7において、図1〜図6で同一符号が記されたもの(各種部材、演算ブロック等)については、同様の機能を有するため、説明を省略し、相違する点について説明する。
第1の実施態様に対する、第2の実施態様の主たる相違点は、駆動回路DRVの機能配置である。具体的には、第1の実施態様では、駆動回路DRVがキャリパCPR内に設けられるのに対し、第2の実施態様では、駆動回路DRVの機能が、車体側に設けられた電子制御ユニットECVの内部に配置される。このため、コネクタCNCを介して伝達される信号等が相違する。第2の実施態様では、車輪側から実押圧力Fba、及び、実位置(回転角)Mkaのうちの少なくとも1つが、信号線SGL、及び、コネクタCNCを介して、電子制御ユニットECV(具体的には、電子制御ユニットECV内のプロセッサCPUc)に送信される。ここで、電子制御ユニットECVは、「第1電気回路」に相当する。
押圧力取得手段FBAには、押圧力取得手段FBAの出力を信号(例えば、電気信号、光信号等)に変換する電気回路DFBが設けられる。電気回路DFBは、「第2電気回路」に相当する。同様に、位置取得手段MKAにも、位置取得手段MKAの出力を信号に変換する電気回路DMK(「第2電気回路」に相当する)が設けられる。第2電気回路DFB,DMKは、キャリパCPRの内部に固定される。第2電気回路DFB,DMKによって変換された信号Fba,Mkaは、信号線SGLを通して電子制御ユニットECVに伝達される。第2の実施態様においても、コネクタCNCのターミナル接合部Sgp,Sgsは、ケース部材CASの内部に配置される。この結果、第1の実施態様と同様の効果を奏する。
本発明は、上記の典型的な実施形態のみに限定されるものではなく、種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
上記の実施形態では、電力線PWL及び信号線SGLの双方を共通の1つのコネクタCNCによって中継する場合について記載したが、本発明では、電力線PWLを中継するコネクタと信号線SGLを中継するコネクタが別個に構成されてもよい。
上記の実施形態において、キャリパCPR(ケース部材CAS)の表面のうちコネクタCNCが配置される所定面Mexが平面である場合について記載したが、本発明では所定面Mexが曲面や段差面であってもよい。
上記の実施形態や種々の変更例の記載に基づいた場合、本発明では、以下の各態様を採り得る。
(態様1)
本発明では、「請求項1に記載の、車両の電動制動装置であって、
前記ブレーキキャリパ(CPR)は、前記電気モータ(MTR)の出力を調整する駆動回路(DRV)を備え、前記駆動回路(DRV)は、対称軸(Jdr)をもつ線対称の平板形状であるプリント基板を含み、前記コネクタ(CNC)は、前記駆動回路(DRV)の前記プリント基板に前記対称軸(Jdr)上で固定される、車両の電動制動装置。」という態様(態様1)を採り得る。
態様1では、駆動回路(DRV)のプリント基板の形状が線対称(例えば、長方形)であり、且つ、コネクタ(CNC)が駆動回路(DRV)のプリント基板に対称軸(Jdr)上で固定され得る。左右の車輪に対して電動制動装置が、同様な位置にて搭載されるためには、左車輪用と右車輪用とが、別個に構成される必要がある。即ち、形状が異なる左車輪用装置と右車輪用装置とが必要になる。態様1によれば、左右車輪を区別することなく、駆動回路(DRV)のプリント基板が共通化されて搭載され得る。その結果、部品点数の削減を図ることが可能になる。ここで、「線対称」とは、或る直線を軸として図形を反転させると自らと重なり合う対称性であって、「或る直線」が対称軸である。また、駆動回路(DRV)のプリント基板は、その表面に集積回路、抵抗器、コンデンサ等の電子部品が固定され、電子部品間が配線で接続されることによって電子回路を構成する板状部品である。
(態様2)
本発明では、「請求項1に記載の、車両の電動制動装置であって、前記コネクタ(CNC)と前記駆動回路(DRV)とがバスバー(PWLb)によって接続される、車両の電動制動装置。」という態様(態様2)を採り得る。
態様2では、コネクタ(CNC)と電気モータ(MTR)の駆動回路(DRV)とを接続する手段として、バスバー(Bus Bar、電動体として機能する金属製の棒)が採用され得る。バスバーは、コンパクトで、且つ、通電容量が大であるため、効率的に電気モータ(MTR)の制御が実行され得る。
(態様3)
本発明では、「請求項2に記載の、車両の電動制動装置であって、前記第2電気回路(DRV)は、前記電気モータ(MTR)を駆動し、対称軸(Jdr)をもつ線対称の平板形状であるプリント基板を含み、前記コネクタ(CNC)は、前記第2電気回路(DRV)の前記プリント基板に前記対称軸(Jdr)上で固定される、車両の電動制動装置。」という態様(態様3)を採り得る。
態様3によれば、左右車輪を区別することなく、第2電気回路(DRV)のプリント基板が共通化されて搭載され得る。その結果、前述の態様1の場合と同様に、部品点数の削減を図ることが可能になるという作用効果を奏する。