以下、本発明に係る車両の電動制動装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
<本発明の実施形態に係る電動制動装置を備えた車両の全体構成>
図1は、本発明の実施形態に係る電動制動装置の車両への搭載状態を示す。電動制動装置は、運転者の制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)の操作量に応じて、車輪に制動トルクを与えることによって車輪制動力を発生し、走行中の車両を減速する。図1において、蓄電池(バッテリ)BATは、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRK、及び、電子制御ユニットECUに電力を供給する。BATは、車体BDYに設けられる(固定される)。BATは、ECU、及び、電力線PWLを介して、電気モータMTRを駆動する駆動手段(駆動回路)DRVに電力を供給する。
電子制御ユニットECUは、制動操作量Bpaに基づいて、駆動回路DRVに駆動信号Imtを、信号線SGLを介して送信する。ECUは、車体BDYに設けられる(固定される)。駆動回路DRVは、キャリパCPR内に設けられ、スイッチング素子(S1等)、及び、ノイズ低減回路で構成される。ECUから信号線SGLを介して送信されるMTRの駆動信号(目標通電量Imt)に基づいて、スイッチング素子が駆動され、MTRの回転方向、及び、回転動力が制御される。MTRを駆動するための電力は、BATから、ECU及び電力線PWLを介して、DRVに供給される。信号線SGL、及び、電力線PWLを総称して「配線(ワイヤハーネス)」と称呼する。
ここで、電力線PWLが、信号線(通信線)SGLとしても利用される電力線通信が採用され得る。この場合には、SGLはPWLに統合され(即ち、SGLが省略され)、ImtはPWLに重畳されて、DRVに送信される。ここで、電力線通信は、電力線搬送通信(PLC:Power Line Communication)とも称呼され、電源配線PWLを利用して高速なデータ通信を行う通信システムである。
サスペンションアーム(例えば、アッパアームUAM、ロアアームLAM)は、一方側が、車両の車体BDYに取り付けられ、他方側がナックル(支持部材に相当)NKLに取り付けられている。コイルスプリングSPR、及び、ショックアブソーバSHAは、サスペンションアーム、又は、ナックルNKLに取り付けられている。コイルスプリングSPR、及び、ショックアブソーバSHAによって、車輪WHLは、車体BDYに懸架されている。サスペンションアーム、SPR、NKL、及び、SHAは、公知の懸架装置を構成する部材である。
ハブベアリングユニットHBUは、支持部材(ナックル)NKLに固定される。ハブベアリングユニットHBU内のハブベアリングにて、車輪WHLが支持される。車輪WHLには、回転部材(ブレーキディスク)KTBが固定され、KTBはWHLと一体となって回転される(即ち、KTBの回転軸とWHLの回転軸は同軸である)。
マウンティングブラケット(マウント部材に相当)MTBは、ナックル(支持部材に相当)NKLに、締結部材(例えば、ボルト)TK1、TK2(図示せず)によって、固定されている。キャリパCPRが、ガイド部材GD1、GD2(ピン用ボルトPB1、PB2(図示せず)によってMTBに締め付けられているスライドピン)を介して、マウント部材MTBに取り付けられている。
ブレーキキャリパCPRは、浮動型キャリパであり、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。具体的には、スライドピンGD1、GD2がマウント部材MTBに固定され、GD1、GD2に沿って、キャリパCRP内の押圧部材PSNが回転部材KTBに向けて、電気モータMTRによってスライドされる。
図2に示すように、この電動制動装置を備える車両には、制動操作部材BP、電子制御ユニットECU、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRK、及び、蓄電池(バッテリ)BATが備えられる。
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。BPの操作量に基づいて、制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKが、車輪WHLの制動トルクを調整し、車輪WHLに制動力が発生され、走行中の車両が減速される。
制動操作部材BPには、制動操作量取得手段BPAが設けられる。制動操作量取得手段BPAによって、運転者による制動操作部材BPの操作量(制動操作量)Bpaが取得(検出)される。制動操作量取得手段BPAとして、マスタシリンダ(図示せず)の圧力を検出するセンサ(圧力センサ)、制動操作部材BPの操作力、及び/又は、変位量を検出するセンサ(ブレーキペダル踏力センサ、ブレーキペダルストロークセンサ)が採用される。従って、制動操作量Bpaは、マスタシリンダ圧、ブレーキペダル踏力、及び、ブレーキペダルストロークのうちの少なくとも何れか1つに基づいて演算される。制動操作量Bpaは、電子制御ユニットECUに入力される。なお、Bpaは、他の電子制御ユニットにて演算、又は、取得され、その演算値(信号)が通信バスを介して、ECUに送信され得る。
電子制御ユニットECUは、その内部に制動手段BRKを制御するための制御手段(制御アルゴリズム)CTLがプログラムされており、これに基づいてBRKを制御する。蓄電池BATは、BRK、ECU等に電力を供給する電源である。
〔制御手段CTL〕
制御手段CTLは、目標押圧力演算ブロックFBT、指示通電量演算ブロックIST、押圧力フィードバック制御ブロックIPT、及び、通電量調整演算ブロックIMTにて構成される。制御手段(制御プログラム)CTLは、電子制御ユニットECU内にプログラムされている。
目標押圧力演算ブロックFBTでは、制動操作量Bpa、及び、予め設定された目標押圧力演算特性(演算マップ)CHfbに基づいて、各車輪WHLの目標押圧力Fbtが演算される。Fbtは、電動制動手段BRKにおいて、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが回転部材(ブレーキディスク)KTBを押す力である押圧力の目標値である。
指示通電量演算ブロックISTでは、予め設定された指示通電量の演算特性(演算マップ)CHs1、CHs2、及び、目標押圧力Fbtに基づいて、指示通電量Istが演算される。Istは、電動制動手段BRKの電気モータMTRを駆動し、目標押圧力Fbtを達成するための、電気モータMTRへの通電量の目標値である。Istの演算マップは、電動制動手段BRKのヒステリシスを考慮して、2つの特性CHs1、CHs2で構成される。特性CHs1は押圧力を増加する場合に対応し、特性CHs2は押圧力を減少する場合に対応する。そのため、特性CHs2に比較して、特性CHs1は相対的に大きい指示通電量Istを出力するように設定されている。
ここで、通電量とは、電気モータMTRの出力トルクを制御するための状態量(変数)である。電気モータMTRは電流に概ね比例するトルクを出力するため、通電量の目標値として電気モータMTRの電流目標値が用いられ得る。また、電気モータMTRへの供給電圧を増加すれば、結果として電流が増加されるため、目標通電量として供給電圧値が用いられ得る。さらに、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)におけるデューティ比によって供給電圧値が調整され得るため、このデューティ比が通電量として用いられ得る。
押圧力フィードバック制御ブロックIPTでは、目標押圧力(目標値)Fbt、及び、実押圧力(実際値)Fbaに基づいて、押圧力フィードバック通電量Iptが演算される。指示通電量Istは目標押圧力Fbtに相当する値として演算されるが、電動制動手段BRKの効率変動により目標押圧力Fbtと実押圧力Fbaとの間に誤差(定常的な誤差)が生じる場合がある。押圧力フィードバック通電量Iptは、目標押圧力Fbtと実押圧力Fbaとの偏差(押圧力偏差)ΔFb、及び、予め設定される演算特性(演算マップ)CHpに基づいて演算され、上記の誤差を減少するように決定される。なお、実押圧力Fbaは、後述する押圧力取得手段FBAによって取得(検出)される。
通電量調整演算ブロックIMTでは、電気モータMTRへの最終的な目標値である目標通電量Imtが演算される。IMTでは、指示通電量Istが押圧力フィードバック通電量Iptによって調整され、目標通電量Imtが演算される。具体的には、指示通電量Istに対してフィードバック通電量Iptを加えて、これが最終的な目標通電量Imtとして演算される。そして、目標通電量Imtの符号(値の正負)に基づいて電気モータMTRの回転方向(押圧力が増加する正転方向、又は、押圧力が減少する逆転方向)が決定され、目標通電量Imtの大きさに基づいて電気モータMTRの出力(回転動力)が制御される。
〔制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRK〕
制動手段BRKは、ブレーキキャリパ(浮動型キャリパ)CPR、電気モータ(ブラシモータ、又は、ブラシレスモータ)MTR、駆動手段(MTRの駆動回路)DRV、減速機GSK、シャフト部材SFT、ねじ部材NJB、押圧部材(ブレーキピストン)PSN、位置検出手段MKA、通電量取得手段IMA、及び、押圧力取得手段FBAにて構成されている。
制動手段(ブレーキアクチュエータ)BRKは、電気モータMTRの軸(回転軸であって、モータ軸)Jmt、及び、シャフト部材SFTの軸(回転軸であって、シャフト軸)Jsfの2つの軸を有する構成(即ち、2軸構成)である。モータ軸Jmtには、MTRの他に、位置取得手段(回転角センサ)MKA、減速機GSKの小径歯車SKHが設けられる。また、シャフト軸Jsfには、SFTの他に、ねじ部材NJB、押圧部材PSN、押圧力取得手段FBA、及び、減速機GSKの大径歯車DKHが設けられる。制動手段BRKの各構成部材(MTR、DRV等)は、キャリパCPR内に備えられている。キャリパCPRは、マウンティングブラケット(マウント部材に相当)MTBに摺動可能な状態で固定されている。マウント部材MTBは、ナックル(支持部材に相当)NKLに取り付けられている。
電子制御ユニットECUから、MTRの駆動指示値(目標通電量)Imtが信号線SGLを介して送られ、MTRの駆動電力が電力線PWLを介して送電される。キャリパCPRの表面には、コネクタCNCが固定されていて、このコネクタCNCを通して、Imt及び電力が駆動回路DRVに取り込まれる。電気モータMTRは、DRVによって駆動され、回転動力が発生される。
電気モータMTRの出力(モータ軸Jmtまわりの回転動力)は、減速機GSKを介して、シャフト部材SFTに伝達される。シャフト部材SFTの回転動力(シャフト軸Jsfまわりのトルク)は、運動変換部材であるねじ部材NJBによって、直線動力(押圧軸Jps方向の推力)に変換され、押圧部材PSNに伝達される。そして、押圧部材(ブレーキピストン)PSNが、回転部材(ブレーキディスク)KTBに向かって前進・後退される。これにより、摩擦部材(ブレーキパッド)MSBが、回転部材KTBを押す力(押圧力)Fbaが調整される。回転部材KTBは車輪WHLに固定されているため、摩擦部材MSBと回転部材KTBとの間に摩擦力が発生し、車輪WHLに制動力が調整され、例えば、走行中の車両が減速される。なお、回転運動を直線運動に変換するための変換部材として、ねじ部材NJBに代えて、ボールランプ部材、回転クサビ部材、ラック&ピニオン部材等の変換機構が採用され得る。
上述のように、ブレーキキャリパCPRは、浮動型キャリパであり、2つの摩擦部材(ブレーキパッド)MSBを介して、回転部材(ブレーキディスク)KTBを挟み込むように構成される。キャリパCPR内で、押圧部材PSNがスライドされ、回転部材KTBに向けて前進又は後退される。キャリパCPRには、キー溝KYMが、シャフト部材SFTの回転軸(シャフト軸Jsf)方向に延びるように形成される。
押圧部材(ブレーキピストン)PSNは、回転部材KTBに摩擦部材MSBを押し付けて摩擦力を発生させる。キー部材KYAが、押圧部材PSNに固定される。キー部材KYAが、キー溝KYMに嵌合されることによって、押圧部材PSNは、シャフト軸まわりの回転運動は制限されるが、シャフト軸の方向(キー溝KYMの長手方向)の直線運動は許容される。
電気モータMTRとして、ブラシ付モータ、或いは、ブラシレスモータが採用される。電気モータMTRの回転方向において、正転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBに近づいていく方向(押圧力が増加し、制動トルクが増加する方向)に相当し、逆転方向が、摩擦部材MSBが回転部材KTBから離れていく方向(押圧力が減少し、制動トルクが減少する方向)に相当する。電気モータMTRの出力は、制御手段CTLにて演算される目標通電量Imtに基づいて決定される。具体的には、目標通電量Imtの符号が正符号である場合(Imt>0)には、電気モータMTRが正転方向に駆動され、Imtの符号が負符号である場合(Imt<0)には、電気モータMTRが逆転方向に駆動される。また、目標通電量Imtの大きさ(絶対値)に基づいて電気モータMTRの回転動力が決定される。即ち、目標通電量Imtの絶対値が大きいほど電気モータMTRの出力トルクが大きく、目標通電量Imtの絶対値が小さいほど出力トルクは小さい。
位置取得手段(例えば、回転角度センサ)MKAは、電気モータMTRのロータ(回転子)の位置(例えば、回転角)Mkaを検出する。位置取得手段MKAは、電気モータMTRの内部であって、MTRと同軸に設けられる(モータ軸Jmt上に配置される)。
駆動手段(電気モータMTRを駆動するための電気回路)DRVにて、目標通電量(目標値)Imtに基づき電気モータMTRへの通電量(最終的には電流値)が制御される。具体的には、駆動手段DRVには、複数のスイッチング素子(パワートランジスタであって、例えば、MOS-FET、IGBT)が用いられたブリッジ回路が構成される。電気モータの目標通電量Imtに基づいて、それらの素子が駆動され、電気モータMTRの出力が制御される。具体的には、スイッチング素子の通電/非通電の状態が切り替えられることによって、電気モータMTRの回転方向と出力トルクとが調整される。
駆動回路DRVには、電圧変動等を低減するためのノイズ低減回路(安定化回路)LPFp、LPFtが設けられる。ノイズ低減回路LPFp、LPFtは、所謂、LC回路であり、インダクタ(コイル)IND、及び、コンデンサ(キャパシタ)CNDの組み合わせによって構成される。
通電量取得手段(例えば、電流センサ)IMAは、電気モータMTRへの実際の通電量(例えば、実際に電気モータMTRに流れる電流)Imaを取得(検出)する。通電量取得手段IMAは、電気モータの駆動回路DRVの内部に設けられる。
キャリパCPRの表面にはコネクタCNCが設けられる。コネクタCNCによって中継される配線(信号線SGL、及び、電力線PWL)を介して、電子制御ユニットECU(車体BDYに配置)と、駆動回路DRV(キャリパCPR内に配置)との間で接続される。信号線SGLは、コネクタCNCを介して、目標通電量ImtをECUからDRVに送信する。また、電力線PWLは、コネクタCNCを介して、電気モータMTRを駆動する電力を、ECUからDRVに供給する。
減速機GSKは、電気モータMTRの動力において、回転速度を減じて、シャフト部材SFTに出力する。即ち、MTRの回転出力(トルク)が、減速機GSKの減速比に応じて増加され、シャフト部材SFTの回転力(トルク)が得られる。例えば、GSKは、小径歯車SKH、及び、大径歯車DKHにて構成される。GSKとして、歯車伝達機構に代えて、ベルト、チェーン等の巻き掛け伝達機構、或いは、摩擦伝達機構が採用され得る。
シャフト部材SFTは、回転軸部材であって、減速機GSKから伝達された回転動力をねじ部材NJBに伝達する。
ねじ部材NJBは、シャフト部材SFTの回転動力を、直線動力に変換する変換部材である。即ち、ねじ部材NJBは、回転・直動変換機構である。ねじ部材NJBは、ナット部材NUT、及び、ボルト部材BLTにて構成される。ねじ部材NJBには、可逆性があり(逆効率をもち)、双方向に動力伝達が可能である。即ち、制動トルクが増加される場合(押圧力Fbaが増加される場合)、ねじ部材NJBを通して、シャフト部材SFTから押圧部材PSNへ動力が伝達される。逆に、制動トルクが減少される場合(押圧力Fbaが減少される場合)、ねじ部材NJBを介して、押圧部材PSNからシャフト部材SFTへ動力が伝達される(逆効率が「0」よりも大きい)。
ねじ部材NJBは、「滑り」によって動力伝達が行われる滑りねじ(台形ねじ等)によって構成される。この場合には、ナット部材NUTには、めねじ(内側ねじ)MNJが設けられる。ボルト部材BLTには、おねじ(外側ねじ)ONJが設けられ、NUTのMNJと螺合される。シャフト部材SFTから伝達された回転動力(トルク)は、ねじ部材NJB(ONJとMNJ)を介して、押圧部材PSNの直線動力(推力)として伝達される。また、上記の滑りねじに代えて、ねじ部材NJBには、「転がり」によって動力伝達が行われる転がりねじ(ボールねじ等)が採用され得る。この場合、ナット部材NUTb、及び、ボルト部材BLTbには、ボール溝が設けられる。このボール溝にはめ合わされるボール(鋼球)BALを介して、動力伝達が行われる。
押圧力取得手段FBAにて、押圧部材PSNが摩擦部材MSBを押す力(押圧力)Fbaの反力(反作用)が取得(検出)される。FBAには、起歪体が形成され、その歪が、歪検出素子によって検出され、Fbaが取得される。例えば、歪検出素子として、電気抵抗変化によるもの(歪ゲージ)、超音波によるもの等が用いられ得る。FBAは、シャフト部材SFTとキャリパCPRとの間に設けられる。FBAはキャリパCRPに固定されている。検出された押圧力Fbaは、アナログ信号であり、電子制御ユニットECUに設けられているアナログ・デジタル変換手段を介してデジタル信号に変換されてECUに入力される。
<ブラシ付モータが採用される場合の駆動手段(駆動回路)DRV>
図3は、電気モータMTRとして、ブラシ付モータ(単に、ブラシモータともいう)が採用される場合の駆動手段(駆動回路)DRVの一例である。ブラシ付モータは、整流子電動機(Commutator Motor)とも称呼され、該電気モータでは、電機子(巻線による電磁石)に流れる電流が、機械的整流子(コミュテータ)CMT、及び、ブラシBLCによって、回転位相に応じて切り替えられる。即ち、整流子CMT、及び、ブラシBLCによって、機械的な回転スイッチが構成され、巻線回路への電流が交互に反転される。ブラシ付モータでは、固定子(ステータ)側が永久磁石で、回転子(ロータ)側が巻線回路(電磁石)で構成される。そして、巻線回路(回転子)に電力が供給されるように、ブラシBLCが整流子CMTに当接されている。ブラシBLCは、ばね(弾性体)によって、整流子CMTに押し付けられ、CMTが回転することにより電流が転流される。
電気モータMTRの回転子の位置Mkaを検出する位置取得手段MKAが、電気モータMTRの内部に設けられる。MKAは、回転子、及び、整流子と同軸に配置される(即ち、モータ軸Jmt上に設けられる)。
駆動手段DRVは、電気モータMTRを駆動する電気回路であって、スイッチング素子S1乃至S4、Imtに基づいてパルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)を行うパルス幅変調ブロックPWM、及び、PWMが決定するデューティ比に基づいて、S1乃至S4の通電状態/非通電状態を制御するスイッチング制御ブロックSWTにて構成される。ブラシ付モータMTRには、ブラシBLC、及び、整流子CMTが設けられる。DRV及びMTRは、車輪側に設けられ、CPRに固定されている。駆動回路DRVへは、車体側に設けられたECUから、コネクタCNCを介して、信号線SGL、及び、電力線PWLによって、駆動信号、及び、電力が供給される。
スイッチング素子S1乃至S4は、電気回路の一部をON/OFFできる素子であって、例えば、MOS-FETが用いられ得る。S1乃至S4によって、MTRの正転方向、及び、逆転方向のブリッジ回路が構成される。ここで、MTRの正転方向は、MSBをKTBに近づかせ、制動トルクが増加され、走行中の車両の減速度が増加される回転方向であり、MTRの逆転方向は、MSBをKTBから引き離し、制動トルクが減少され、走行中の車両の減速度が減少される回転方向である。スイッチング制御ブロックSWTによって、正転方向では、S1及びS4が通電状態(ON状態)、且つ、S2及びS3が非通電状態(OFF状態)に制御される。また、逆転方向では、S1及びS4が非通電状態(OFF状態)、且つ、S2及びS3が通電状態(ON状態)に制御される。
MTRに対して大出力が要求される場合には、スイッチング素子S1乃至S4に大電流が流される。このとき、スイッチング素子S1〜S4には発熱が生じるため、放熱板(ヒートシンク)が、S1〜S4に設けられ得る。具体的には、熱伝導のよい金属板(例えば、アルミニウム板)が、S1〜S4に固定され得る。
パルス幅変調ブロックPWMでは、Imtの大きさに基づいて、パルス幅のデューティ比(ON/OFFの時間の割合)が決定され、Imtの符号(正符号、或いは、負符号)に基づいてMTRの回転方向が決定される。例えば、MTRの回転方向は、正転方向が正(プラス)の値、逆転方向が負(マイナス)の値として設定され得る。入力電圧(BATの電圧)、及び、デューティ比によって最終的な出力電圧が決まるため、DRVによって、MTRの回転方向と出力トルクが制御される。
DRVには、供給電力を安定化するために、少なくとも1つのコンデンサ(キャパシタ)、及び、少なくとも1つのインダクタ(コイル)の組み合わせにて、ノイズ低減(電力変動低減)のフィルタ回路(LC回路であり、LCフィルタともいう)が形成される。例えば、第1、第2コンデンサCND1、CND2、及び、インダクタINDが組み合わされてローパスフィルタ(π型フィルタ)LPFpが形成され、ノイズ低減が行われ得る。具体的には、π型ローパスフィルタLPFpは、ラインに並列な2つのコンデンサCND1、CND2と、1つの直列インダクタとで構成されるフィルタで、所謂、チェビシェフ・ローパスLCフィルタである。一般的に、インダクタは、コンデンサ(キャパシタ)よりも高価であるため、LPFpが採用されることで、部品コストが抑制され、良好な性能が得られる。また、ノイズ低減フィルタには、LPFpに代えて、後述するT型ローパスフィルタLPFtが採用され得る(後述する図4を参照)。
<ブラシレスモータが採用される場合の駆動手段(駆動回路)DRV>
図4は、電気モータMTRがブラシレスモータ(3相ブラシレスモータ)である場合の駆動手段(駆動回路)DRVの一例である。ブラシレスモータは、無整流子電動機(ブラシレスDCモータ:Brushless Direct Current Motor)とも称呼され、該電気モータでは、ブラシ付モータの機械式整流子CMTに代えて、電子回路によって電流の転流が行われる。ブラシレスモータでは、回転子(ロータ)が永久磁石に、固定子(ステータ)が巻線回路(電磁石)とされる構造で、ロータの回転位置Mkaが検出され、Mkaに合わせてスイッチング素子が切り替えられることによって、供給電流が転流される。回転子の位置Mkaは、電気モータMTRの内部に設けられる位置取得手段MKAによって検出される。
駆動手段DRVは、MTRを駆動する電気回路であって、スイッチング素子Z1乃至Z6、Imtに基づいてパルス幅変調を行うパルス幅変調ブロックPWM、及び、PWMが決定するデューティ比に基づいて、Z1乃至Z6の通電状態/非通電状態を制御するスイッチング制御ブロックSWTにて構成される。ブラシ付モータの場合と同様に、DRV及びMTRは、車輪側に設けられ、CPRに固定されている。駆動回路DRVへは、車体側に設けられた電子制御ユニットECUから、コネクタCNCを介して、信号線SGL、及び、電力線PWLによって、駆動信号、及び、電力が供給される。
ブラシレスモータでは、位置取得手段MKAによって、MTRのロータ位置(回転角)Mkaが取得される。そして、スイッチング制御ブロックSWTでは、実際の位置Mkaに基づいて、3相ブリッジ回路を構成するスイッチング素子Z1乃至Z6が制御される。スイッチング素子Z1乃至Z6によって、ブリッジ回路のU相、V相、及びW相のコイル通電量の方向(即ち、励磁方向)が順次切り替えられて、MTRが駆動される。ブラシレスモータの回転方向(正転、或いは、逆転方向)は、ロータと励磁する位置との関係によって決定される。ブラシ付モータの場合と同様に、正転方向は、MSBとKTBとを近づかせ、制動トルクが増加され、走行中の車両の減速度が増加される回転方向であり、逆転方向は、MSBをKTBから引き離し、制動トルクが減少され、走行中の車両の減速度が減少される回転方向である。ブラシレスモータにおいても、大出力要求時の放熱のため、スイッチング素子Z1乃至Z6に放熱板(例えば、アルミニウム板)が固定される。また、PWMにて、Imtの大きさに基づいて、パルス幅のデューティ比が決定され、Imtの符号(値の正負)に基づいてMTRの回転方向が決定される。そして、目標通電量Imtに基づいて、スイッチング素子Z1乃至Z6がSWTからの信号によって制御されることによって、MTRの回転方向と出力トルクが制御される。
更に、供給電力を安定化するために、DRVには、少なくとも1つのコンデンサ(キャパシタ)、及び、少なくとも1つのインダクタ(コイル)の組み合わせにて、ノイズ低減(電力変動低減)のフィルタ回路(LC回路であり、LCフィルタともいう)が形成される。例えば、コンデンサCND、及び、第1、第2インダクタIND1、IND2が組み合わされてローパスフィルタ(T型フィルタ)LPFtが形成され、ノイズ低減が行われ得る。具体的には、T型フィルタLPFtは、2つの直列インダクタIND1、IND2、及び、1つの並列コンデンサCNDにて構成される。該フィルタ構成によって、入出力間の結合が減少され、高調波の減衰性能(減衰帯域での減衰量)が向上され得る。また、ノイズ低減フィルタには、T型ローパスフィルタLPFtに代えて、前述のπ型ローパスフィルタLPFpが採用され得る。
<キャリパ内における電子部品(スイッチング素子S1等)の配置>
次に、図5を参照しながら、ブレーキアクチュエータBRKのキャリパCPRにおける駆動回路DRVの電子部品(スイッチング素子S1等)の配置について説明する。ここで、DRVは、図3に示すブラシ付モータ、及び、π型ローパスフィルタLPFpが採用される場合に対応している。
キャリパCRPは、第1、第2ガイド部材(スライドピン)GD1、GD2によって、マウント部材(マウンティングブラケット)MTBに取り付けられる。そして、ガイド部材GD1、GD2に沿って、キャリパCPRがスライド(GD1、GD2の軸方向に摺動)される。この構成の浮動キャリパは、所謂、リバース型(リバースピン型ともいう)と称呼される。電動制動装置では、電気モータMTR等の質量が大きい部材が車輪側に備えられる。リバース型浮動キャリパでは、質量の大きい部材が、ガイド部材の間に配置され得ることで、振動増幅が抑制され得る。さらに、リバース型浮動キャリパは、ガイド部材によるスライド部が回転部材(ブレーキディスク)KTBの外周に位置しないため、回転部材KTBの半径が大きくされ、制動効果が向上され得る。このため、ブレーキアクチュエータが、全体として小型化され得る。
第1、第2のピン用ボルトPB1、PB2によって、支持部材NKLに固定されたマウント部材MTBに、第1、第2のガイド部材(スライドピンであって、スリーブともいう)GD1、GD2が夫々取り付けられる。キャリパCPRは、第1、第2ガイド部材GD1及びGD2と隙間をもって勘合し、GD1及びGD2の軸方向Jgd1、Jgd2に摺動され得る。具体的には、CPRには、GD1、GD2と勘合する長穴(内径がGD1、GD2の外径よりも大きい)が設けられ、それらの中を第1、第2ガイド部材GD1、GD2が貫通している。第1、第2ガイド部材GD1、GD2は円筒形のスリーブであり、GD1、GD2の両端部が、マウント部材MTB、及び、第1、第2ピン用ボルトPB1、PB2の頭部に圧接している。即ち、GD1、GD2が、PB1、PB2に締め付けられることによって、片持ちの状態でマウント部材MTBに固定される。したがって、CPRは、GD1の軸Jgd1、及び、GD2の軸Jgd2(Jgd1と平行)の方向にスライドすることが可能である。換言すれば、キャリパCPRは、GD1及びGD2によって、スライド可能な状態でマウント部材MTBに取り付けられている。
駆動回路DRVの電子基板KBNがキャリパCPR内に固定され、この基板KBNに、スイッチング素子S1〜S4、第1、第2コンデンサCND1、CND2、インダクタIND、及び、他の電子部品(マイクロプロセッサ、抵抗器等)が実装される(固定される)。第1ガイド部材GD1の両端を点A、点Bとし、第2ガイド部材GD2の両端を点C、点Dとする場合に、四角形(平面)A-B-D-Cが「ガイド面(ガイド四角形)Mgd」と称呼され、このガイド面Mgdに垂直な空間(四角柱)が、ガイド空間Kgdと称呼される。詳細には、点Aは、第1ガイド部材GD1の軸Jgd1と、GD1の一方の端面がマウント部材MTBに当接する面との交点である。点Bは、Jgd1と、GD1の他方の端面が第1ピン用ボルトPB1の頭部と当接する面との交点である。同様に、点Cは、第2ガイド部材GD2の軸Jgd2と、GD2の一方の端面がマウント部材MTBに当接する面との交点であり、点Dは、Jgd2と、GD2の他方の端面が第2ピン用ボルトPB2の頭部と当接する面との交点である。
スイッチング素子S1〜S4は、電気モータMTRを駆動するためのHブリッジ回路を構成する。コンデンサCND1、CND2、及び、インダクタ(チョークコイル)INDは、MTRに電力供給するための安定化回路(電力変動の低減回路)を構成する。S1〜S4、CND1、CND2、及び、INDは、他の電子部品に比較して、質量が相対的に大きい電子部品である。このため、これらの電子部品のうちで少なくとも1つが、キャリパCPRの内部であって、且つ、第1ガイド部材GD1、及び、第2ガイド部材GD2の間に形成されるガイド空間Kgd内に配置される(固定される)。換言すれば、ガイド面Mgd(GD1及びGD2の端点A、B、C、Dによって形成されるガイド四角形A-B-D-C)に垂直な方向から投影した場合(視点が無限遠に存在する平行投影における垂直投影の場合)、CPRに内蔵されるS1〜S4、CND1、CND2、及び、INDのうちの少なくとも1つの電子部品が、ガイド面Mgdに投影される(即ち、ガイド面Mgdが、投影面と投影線とが垂直である場合の平行投影において、各電子部品の投影面とされる)。ここで、「投影」とは、物体に平行光線(投影線)を当てて、その影を平面上に映すことであり、その平面が「投影面」である。なお、スイッチング素子S1〜S4は、放熱板が固定された場合に、特に、質量が増大され得る。
ガイド面Mgdは、互いに平行なガイド部材(スライドピン)GD1及びGD2によって形成される面であり、キャリパCPRはMgdに沿ってスライドされる。路面振動の観点からは、GD1とGD2との間(即ち、ガイド空間Kgd)が、振動(特に、回転部材KTBの回転軸(車輪軸)Jktに垂直方向の振動に対する振動)が増幅され難い場所である。逆に、GD1又はGD2から、外側に離れていくと振動増幅が顕著となり得る。このため、比較的質量の大きい電子部品(スイッチング素子等)が、平行投影においてガイド面Mgdに投影されるように(即ち、ガイド空間Kgd内に)配置される。この結果、該電子部品が路面振動の観点から有利な場所に置かれるため、その信頼性が確保され得る。
キャリパCPRは、第1及び第2ガイド部材GD1、GD2と勘合して、KTBの軸Jkt方向にスライドするため、GD1の軸Jgd1とGD2の軸Jgd2とは平行であることが必要とされる。しかし、CPRの加工精度、及び、取り付け精度の関係上、Jgd1とJgd2との平行度合には誤差が含まれる。平面は、基本的に3つの点で定まるため、GD1とGD2との関係において、主従関係が設けられ得る。例えば、GD1が「主(メイン)」とされ、GD2が「従(サブ)」とされた場合を想定すると、メインガイド部材GD1が、サブガイド部材GD2よりも軸方向に長く設定される。また、GD1とCPRとの隙間(外径と孔径との隙間)が、GD2とCPRとの隙間よりも狭く設定され得る。さらに、GD1がMTBに対して両持ち構造とされ、GD2がMTBに対して片持ち構造とされ得る。CRPは、基本的にはメインガイド部材GD1に沿ってスライドされる。そして、ガイド面Mgdが形成されるように、サブガイド部材GD2によって、そのスライドの動きが補助される。この場合、Mgdにおいて、メインガイド部材GD1に近接するほど、振動的に有利な条件となる。
第1、第2ガイド部材GD1及びGD2に対して、上述した主従関係が設けられる場合(GD1が主で、GD2が従である)には、S1〜S4、CND1、CND2、及び、INDのうちの少なくとも1つの電子部品が、メインガイド部材GD1に近接して配置される。具体的には、該当部材(電子部品)が、シャフト部材の軸Jsf(押圧部材PSNの軸Jpsと同じ)に対して、メインガイド部材GD1の軸Jgd1に近い側に配置される。このとき、回転部材KTBの軸(車輪軸)Jkt、及び、シャフト部材SFTの軸(シャフト軸)Jsf(即ち、押圧部材PSNの軸(押圧軸)Jps)にて形成される平面によって区切られた(2つに分割された)ガイド面Mgdの一部分であってGD1に近い側(GD1を含む側)の面(四角形A-B-F-E)が、メインガイド面(メインガイド四角形)Mgdmとされる。そして、メインガイド面Mgdmに垂直な空間(四角柱)が、メインガイド空間Kgdmとされる。
質量が相対的に大きい電子部品である、ブリッジ回路を形成するスイッチング素子S1〜S4、供給電力の変動低減回路を形成する第1、第2コンデンサCND1、CND2、及び、インダクタ(チョークコイル)INDのうちで少なくとも1つが、キャリパCPRの内部であって、且つ、メインガイド空間Kgdm内に配置され得る。換言すれば、ガイド面Mgd(ガイド四角形A-B-D-C)に垂直な方向から投影した場合に、CPRの内部に固定されるS1〜S4、CND1、CND2、及び、INDのうちの少なくとも1つの電子部品が、メインガイド面Mgdm(メインガイド四角形A-B-F-E)に投影される。即ち、シャフト軸Jktとシャフト軸Jsf(押圧軸Jps)とで形成される面によって、ガイド面Mgd(四角形A-B-D-C)は、2つの部分(四角形A-B-F-Eと、四角形E-F-D-C)に区画(分割)されるが、2つの部分のうちでメインガイド部材GD1を含む方の面であるメインガイド面Mgdm(メインガイド四角形A-B-F-E)が、該当する電子部品(S1等)の投影面とされる。
一方、質量が相対的に小さい抵抗器(レジスタ)R、小型コンデンサC、或いは、マイクロプロセッサMPCは、上述した振動的に有利な空間(Kgd、Kgdm)から外れて、キャリパCPR内に配置され得る。CPRに内蔵されるDRVにおいて、電子部品の質量に基づいて、レイアウト上の優先順位付けが行われ、質量が大きい電子部品が振動に有利な場所に優先的に配置され、質量が小さい電子部品は空いた場所に配置される。このため、車両走行中の路面凹凸に起因する振動に対して、振動が増幅されることが抑制され、制動手段BRKの信頼性が向上され得る。
同様に、図4に示されるブラシレスモータ、及び、T型ローパスフィルタLPFtが採用される場合においても、スイッチング素子Z1〜Z6は、MTRを駆動するための3相ブリッジ回路を構成し、コンデンサCND、及び、第1、第2インダクタ(チョークコイル)IND1、IND2は、MTRに電力供給するための安定化回路(電力変動低減回路)を構成するが、これらは質量が相対的に大きい電子部品である。このため、これらの電子部品のうちで少なくとも1つが、キャリパCPRの内部であって、且つ、ガイド空間Kgd内に配置され得る。換言すれば、ガイド面Mgd(GD1、GD2の端点で形成されるガイド四角形A-B-D-C)に垂直な方向から投影した場合、CPRの内部に固定されるZ1〜Z6、CND、IND1、及び、IND2のうちの少なくとも1つの電子部品が、ガイド面Mgdに投影される。
また、第1ガイド部材GD1がメイン(主)であり、第2ガイド部材GD2がサブ(従)である場合には、スイッチング素子Z1〜Z6、コンデンサCND、及び、第1、第2インダクタ(チョークコイル)IND1、IND2のうちで少なくとも1つが、キャリパCPRの内部であって、ガイド空間Kgdmと重複する場所に配置され得る。ここで、メインガイド空間Kgdmは、JktとJsf(Jps)との形成面によって区切られた2つのガイド空間のうちで、メインガイド部材GD1を含む側のガイド空間Kgdである。GD1がメインガイド部材とされる条件は、「GD1がGD2よりも長いこと」、「GD1とCPRとの隙間がGD2とCPRとの隙間よりも狭いこと」、及び、「MTBに対して、GD1が両持ち構造で、GD2が片持ち構造であること」の3つの条件のうちの少なくとも1つが満足されることである。
なお、浮動キャリパには、ガイド部材(スライドピン)がキャリパに固定され、マウント部材(マウンティングブラケット)の中をスライドする構造を有するコレット型の浮動キャリパも存在する。このコレット型キャリパでは、ガイド部材が回転部材(ブレーキディスク)の外周部に設けられるため、上記のガイド空間Kgdが回転部材MTBと重なり合う。このため、ガイド部材GD1、GD2が回転部材KTBの側面に位置する(即ち、ガイド空間KgdがKTBの側面に形成される)リバース型浮動キャリパが採用され得る。
<コネクタCNCの配置>
次に、図6を参照しながら、コネクタCNCの配置について説明する。相対的に質量の大きい電子部品と同様に、コネクタCNCについても、上述した振動的に有利な空間(ガイド空間Kgd、Kgdm)、且つ、キャリパCPRの表面に配置(固定)され得る。ここで、コネクタ(Connector)とは、電子回路、通信等において、配線を接続するために用いられる電気的に連絡可能とする、接続器(中継部材)のことである。配線が、はんだ接着、又は、圧着等で接続される場合、配線の分断には、その切断が必要となり、再接続は困難となる。しかし、配線にコネクタが使用される場合、配線の分断が必要な際に、コネクタを介し、容易に繰り返し脱着することが可能となる。コネクタは、電気信号、及び、電力を伝える金属製端子(コンタクトピン)が、それらを取り囲む樹脂製絶縁体(インシュレータ)に固定されて構成される。コネクタでは、凸形状の雄側コネクタと、凹形状の雌側コネクタがペアとして用いられる。
電気モータの駆動信号及び電力が、寄り合わされた複数の電源線PWL、信号線SGL、及び、コネクタCNCによって、電気モータの駆動手段DRVに伝達される。具体的には、車体に固定される電子制御ユニットECUの回路基板と、CPRに固定されるDRVの回路基板KBNとが、コネクタCNCを介して電気的・電子的に接続される。電気モータの駆動信号Imtは、ECU内部で生成されて、信号線(例えば、通信バスライン)SGLを介して、DRVに送信される。また、電気モータを駆動するための電力は、蓄電池BATから電子制御ユニットECUに供給され、ECUから電力線PWLを通して駆動回路DRVに供給される。
コネクタCNCでは、特に、勘合部位(雌側コネクタと雄側コネクタとがはめ合わされる部分)、及び、配線(電力線PWL、信号線SGL)とコンタクトピンとの接合部位が、振動の影響を被り易い。このため、コネクタCNCは、キャリパCPRの表面であって、且つ、ガイド空間Kgd内に配置され得る。換言すれば、ガイド面Mgd(第1、第2ガイド部材GD1、GD2の端点で形成されるガイド四角形A-B-D-C)に垂直な方向から投影した場合、キャリパCPRの表面に固定されるコネクタCNCが、ガイド面Mgdに投影される。
また、第1ガイド部材GD1がメイン(主)であり、第2ガイド部材GD2がサブ(従)である場合には、コネクタCNCが、キャリパCPRの表面であって、メインガイド空間Kgdmと重複する場所に配置され得る。ここで、メインガイド空間Kgdmは、JktとJsf(Jps)との形成面によって区切られた2つのガイド空間のうちで、メインガイド部材GD1を含む側のガイド空間Kgdである。GD1がメインガイド部材とされる条件は、「GD1がGD2よりも長いこと」、「GD1とCPRとの隙間がGD2とCPRとの隙間よりも狭いこと」、及び、「MTBに対して、GD1が両持ち構造で、GD2が片持ち構造であること」の3つの条件のうちの少なくとも1つが満足されることである。
コネクタCNCでは、配線における通電がコンタクトピンの接触(雄側ピンと雌側ピンのはめ合い)によって行われるため、この接触が振動によって緩む場合があり得る。さらに、電力を供給する電力線PWLでは、電流を流すために必要な断面積が必要となるため、或る程度太い配線が必要となる。このため、振動に起因する屈曲によって生じる曲げ疲労が配慮されなければならない。上述するように、コネクタCNCが、キャリパCPR表面において、振動的に有利な箇所(例えば、Kgd内)に固定されるため、コンタクトピンの接触、或いは、配線(特に、太さが必要とされる電力線PWL)の屈曲における振動影響が抑制され得る。
ここで、電力線PWLが、信号線SGLとして用いられる電力線通信が採用され得る。電力線通信では、電気モータの駆動信号Imtが、電力線PWLに重畳して送信される。この場合、信号線SGLは省略され、配線は電力線PWLのみである。配線(PWL)が、CPR表面のCNCを中継して、CPR内のDRVに引き込まれる。
<ガイド部材、シャフト軸Jsf(押圧軸Jps)、及び、モータ軸Jmtの位置関係>
以上、相対的に質量が大きい電子部品(S1等)、及び、コネクタCNCの配置について説明した。次に、図7を参照しながら、電気モータMTR、及び、押圧部材PSNの配置(即ち、ガイド軸Jgd1、Jgd2、シャフト軸Jsf(押圧軸Jps)、及び、モータ軸Jmtの幾何的関係)について説明する。図7は、第1、第2ガイド部材(スライドピン)GD1、GD2、及び、第1、第2締結部材(例えば、ボルト)TK1、TK2によって取り付けられる、キャリパCPR、マウント部材MTB、支持部材NKL、及び、ハブベアリングユニットHBUを、回転部材KTBの回転軸Jktの方向に見た状態を示している。点Gが第1ガイド部材GD1の軸(第1ガイド軸)Jgd1、点Hが第2ガイド部材GD2の軸(第2ガイド軸)Jgd2に相当する。同様に、点Kが第1締結部材(第1締結ボルト)TK1の軸(第1締結軸)Jtk1、点Lが第2締結部材(第2締結ボルト)TK2の軸(第2締結軸)Jtk2に相当する。Jgd1(点H)とJgd2(点G)とを結ぶ直線H-Gが、ガイド面Mgdに相当する。
キャリパCPRは、マウント部材MTBにスライド可能な状態で固定されるが、MTBから車輪軸Jkt方向に離れるほど、車輪から加振される場合の振動影響が大きい。このため、電気モータ、減速機、回転・直動変換部材、ブレーキピストンを一列に配置する1軸構成は、軸方向に長くなるため採用されない。軸方向のサイズを短縮するため、電気モータMTRと押圧部材PSNとが異なる2つの軸(モータ軸Jmt、押圧軸Jps)で構成される2軸構成が採用される。ここで、減速機GSKの部分にて、2つの軸Jmt、Jsf(Jps)に分断され得る。制動手段BRKが、異なる2つの軸(Jmt、Jsf)で構成され、減速機GSKの部分が軸間(JmtとJsfとの間)に設けられるため、軸間距離djk(JmtとJsfとの距離)が長く設定され得る。この結果、減速機GSKの減速比が大きく設定され、小型の電気モータ(高速・低トルク型)が採用され得る。
マウント部材MTBは、支持部材(ナックル)NKLに第1締結部材(第1締結ボルト)TK1、及び、第2締結部材(第2締結ボルト)TK2にて固定される。このため、ガイド部材GD1、GD2、及び、締結部材TK1、TK2によって囲まれる領域(空間)が、車両が凸凹路を走行する際に、最も振動(特に、回転部材KTBの回転軸Jktの方向における振動)が増幅され難い。即ち、Jktの方向に平行投影した場合において、第1ガイド部材GD1の軸Jgd1、第2ガイド部材GD2の軸Jgd2、第1締結部材TK1の軸Jtk1、及び、第2締結部材TK2の軸Jtk2で、各軸に対して垂直に形成される面(締結面Mtkと称呼する)が、路面振動に対して有利な場所となる。回転部材KTBの回転軸Jktの方向に見た場合、締結面Mtk(締結四角形G-H-L-K)の内側が、振動増幅され難い領域(空間)である。なお、Jkt、Jgd1、Jgd2、Jtk1、及び、Jtk2は、夫々が平行である。
押圧部材PSNの軸Jps(即ち、シャフト部材SFTの軸Jsf)が、GD1の軸Jgd1、及び、GD2の軸Jgd2を結ぶ平面(即ち、Mgd)の中央に配置される。PSNの軸Jps(即ち、SFTの軸Jsf)が、Jgd1とJgd2との中央に配置されるため、MSBがKTBに対して均一に押し付けられ得る。そして、電気モータMTRの回転軸(モータ軸)Jmtが、締結面Mtkと直交するように、MTRがCPRに固定される。したがって、MTRがブラシ付モータの場合、電気モータMTRを構成するブラシBLC、及び、整流子CMTが、Jkt方向から見た場合に、締結面Mtkに投影される。また、位置取得手段(回転角検出手段)MKAが、モータ軸Jmtまわりに配置される。したがって、位置取得手段MKAが、Jkt方向から見た場合に、締結面Mtkに投影される。
電気モータMTRのブラシBLCが、ばね(スプリング)によって、整流子(定期的に電流の方向を交替させる回転スイッチ)CMTに押し付けられながら摺動回転する(図3を参照)。振動によってブラシBLCが整流子CMTと離れないように、ばね力が増加される(ばね定数が大きいばねが採用される)と、摺動抵抗が増加され、トルク損失が増大され得る。このため、BLC及びCMTの位置が、振動増幅され難い場所とされる。車両走行中の路面振動によって、信頼性低下、及び、ノイズ影響が懸念され得るため、MKAについても振動増幅され難い場所に設置され得る。
以下、各軸の位置的な関係をまとめる。先ず、シャフト軸(SFTの軸)Jsf、押圧軸(PSNの軸)Jps、モータ軸(MTRの軸)Jmt、車輪軸(WHLの軸であって、回転部材KTBの軸)Jkt、第1ガイド軸(第1ガイド部材GD1の軸)Jgd1、第2ガイド軸(第2ガイド部材GD2の軸)Jgd2、第1締結軸(第1締結部材TK1の軸)Jtk1、及び、第2締結軸(第2締結部材TK2の軸)Jtk2は、互いに平行である。また、シャフト軸Jsfと、押圧軸Jpsとは同軸である。Jgd1、Jgd2、及び、Jsf(Jps)は、同一平面上(ガイド面Mgd上)にあり、Jgd1とJsf(Jps)との距離、及び、Jgd2とJsf(Jps)との距離が等しくされる。即ち、Jsf(Jps)は、Jgd1とJgd2との中央にある。
電気モータの回転軸(モータ軸)Jmtは、締結面Mtkに直行し(四角形G-H-L-Kに垂直な空間に含まれ)、Jsf(Jps)よりもJktに近づいて(即ち、ガイド面Mgdに対してJkt側に)配置される。また、Jmtは、少なくともMTRの半径に相当する距離だけ、Jgd1(又は、Jgd2)から離れて配置される。そして、Jsf(Jps)とJmtとの間の距離(軸間距離djk)が、押圧部材PSN、及び、第1ガイド部材GD1と干渉しないように、可能な限り長く設定され得る。この結果、MTRからSFTへの動力伝達において、減速機GSKの減速比が大きく設定され、MTRが小型化され得る。
第1ガイド軸Jgd1方向(Jkt方向等)に見た場合に、駆動手段DRVの回路基板KBN1が、締結面Mtk内に投影される。同様に、Jgd1方向に見た場合に、駆動回路DRVの基板KBN1に実装(固定)されている比較的質量の大きい電子部品(スイッチング素子S1乃至S4、Z1乃至Z6、電圧変動低減回路におけるコンデンサCND、CND1、CND2、及び、インダクタIND、IND1、IND2、)のうちの少なくとも1つが、締結面Mtkの内側に投影される。さらに、Jgd1方向に見た場合に、コネクタCNCが、Mtk内に投影される。
第1ガイド軸Jgd1方向(即ち、Jkt方向等)から見た場合に、締結面Mtkに投影される空間(四角柱、締結空間Ktkと称呼する)内に、MTRの回転軸Jmtが収められるように配置される。2軸の構成によって、ブレーキアクチュエータ全体が軸方向に短縮されるとともに、MTRの概ね全体(特に、モータブラシBLC、モータ整流子CMT)、回転角取得手段MKAが締結空間Ktkの内部に位置される。このため、これらの構成要素に対する、路面からの振動影響が抑制され得る。また、質量の大きい電子部品(IND等)、及び、コネクタCNCも併せて、締結空間Ktk内に収められるため、振動影響が低減されて、信頼性が向上され得る。
さらに、第1ガイド部材GD1、及び、第2ガイド部材GD2の間で、上記の主従関係(メインガイド部材GD1と、サブガイド部材GD2とによる構成)がある場合に、Jgd1方向(Jkt方向)から見る場合に、上記の構成要素(BLC、CMT、MKA、CNC、S1等、IND等、CND等)が、メインガイド部材GD1の側の締結面Mtkmに投影され得る。具体的には、締結面Mtkは、Jsf(即ち、Jps)とJktとで形成される平面(Mtk上でJsf(Jps)及びJktと交わる直線Sghを含む平面)によって区切られる(2つに分割される)が、メイン締結面Mtkmは、この区切られたMtkの一方側の部分であって、メインガイド軸Jgd1(メインガイド部材GD1の軸)を含む側の平面(直線Sghで区画される四角形G-M-N-K)である。この平面(メイン締結面)Mtkmに垂直な直線の集合体(四角柱)が、メイン締結空間Ktkmと称呼される。モータ軸Jmtが、メイン締結面Ktkm内に配置されるため、モータブラシBLC、モータ整流子CMT、位置取得手段MKAが、併せてKtkmの内部に配置され得る。また、MTRを駆動するためのスイッチング素子(例えば、S1〜S4)、電圧変動を抑制するためのインダクタ(コイル)IND等、キャパシタ(コンデンサ)CND等のうちの少なくとも1つが、メイン締結面Ktkmの内部に配置される。電子制御ユニットECUから駆動回路DRVに駆動信号、及び、電力を供給する配線のコネクタが、メイン締結面Ktkm内に配置され得る。
2つのガイド部材(スライドピン)に長短等があって、メイン・サブの関係が設けられる場合には、メインガイド部材GD1に近接する位置ほど、振動影響が小さい。したがって、メインガイド部材GD1の側のメイン締結空間Ktkmの内部に上記の構成要素が配置される(即ち、Jgd1方向に見た場合に、該構成要素がMtkmに投影される)ため、車両走行中の路面振動の影響が低減され得る。
なお、全ての構成要素が締結空間Ktk内に配置されるには、場所的な制限がある。押圧軸(ピストンPSNの軸)Jpsとモータ軸Jmtとの軸間距離djkが最大限に確保されて、ブレーキアクチュエータBRKが小型にされるため、Jmtの締結空間Ktk(又は、メイン締結空間Ktkm)内への配置が優先され得る。この場合、駆動回路DRVの基板KBN2が、締結空間Ktkからは外れて、ガイド面Mgdに対して、車輪軸Jktとは反対側に配置され得る。しかしながら、電子基板KBN2は、JktとJps(Jsf)との形成面(線分Sghで示す)に対して、メインガイド部材GD1に近い側に配置され得る。KBN2は、Jps(Jsf)とJgd1とに挟まれる場所に配置され得る。この場合、KBN2に実装される電子部品(比較的質量の大きいノイズ低減回路のコンデンサCND、CND1、CND2、インダクタIND、IND1、IND2、及び、スイッチング素子S1乃至S4、Z1乃至Z6のうちの少なくとも1つ)が、GD1に近い側(メインガイド空間Kgdmの内部)に配置される。また、コネクタCNCが、メイン締結空間Ktkmとは反対側の締結空間Ktkの内部に配置される。
また、モータ軸Jmtがメイン締結空間Ktkmとは反対側の締結空間Ktk(JktとJpsとの形成面で区切られたGD2を含む側のKtk)の内部に配置され、ノイズ低減回路のコンデンサCND、CND1、CND2、インダクタIND、IND1、IND2、スイッチング素子S1乃至S4、Z1乃至Z6、及び、コネクタCNCのうちの少なくとも1つが、メイン締結空間Ktkmの内部に配置され得る。各構成要素の配置は、それらの振動影響に対する優先順位に因る。
<押圧力取得手段、位置取得手段、及び、モータブラシの配置>
次に、図8を参照しながら、押圧力取得手段FBA、位置取得手段MKA、及び、モータブラシBLCの配置について説明する。これらの構成要素についても、上述した電子部品と同様に、振動的に有利な空間(Kgd、Kgdm)の内部、且つ、キャリパCPRの内部に配置(固定)される。
センサ(検出手段)は、振動に対して脆弱である要素を含むものがあり、また、振動によるノイズ影響も懸念され得る。このため、ガイド面Mgdの垂直方向に見る場合に、FBA、及び/又は、MKAが、ガイド面Mgd(特に、ガイド部材に主従が存在する場合の主ガイド部材GD1側のガイド面Mgdm)に投影される。即ち、FBA、MKAの位置が、ガイド空間Kgd(又は、主ガイド空間Kgdm)の内部に設定され得る。これらが、振動的に有利な場所(空間)に配置されるため、車両走行中の路面振動に対する懸念が解消され得る。
また、電気モータMTRとしてブラシ付モータが採用される場合において、モータブラシBLC、及び、モータ整流子CMTが、ガイド空間Kgd(又は、主ガイド空間Kgdm)の内部に配置されて、それらの位置は、ガイド面Mgd(又は、主ガイド面Mgdm)に投影される。ブラシ付モータでは、ばね(弾性体)によって、モータブラシBLCが整流子CMTに押し付けられながら摺動する。BLCとCMTとの接触状態が、振動に対して維持されるには、ばね定数を大きく設定することが必要となる。BLC及びCMTが適切な位置に配置されることによって、ばね定数の増加が抑制され、摺動抵抗の増大が防止され得る。
<作用・効果>
以下、本発明の実施形態の作用・効果について、図9、及び、図10を参照しながら説明する。
制動手段BRKは、動力源である電気モータMTRの回転軸Jmtと、MSBを押圧するPSNの軸(押圧軸Jps)とが、別々の軸で構成される、所謂、2軸構成である。MTRの回転動力が減速されて、SFTに伝達され、さらに、NJBにて回転・直動変換され、PSNがMSBをKTBに押し付ける。したがって、PSNの軸Jpsと、SFTの回転軸Jsfとは同一軸である。
電気モータMTRは、浮動型キャリパCPRに固定される。CPRには、MTRを駆動するための駆動回路DRVが内蔵される(内部に固定される)。駆動回路DRVには、MTRを駆動するため、スイッチング素子によってブリッジ回路が形成される。また、駆動回路DRVには、MTRへの供給電力を安定化(変動低減)するため、インダクタ、及び、コンデンサによってローパスフィルタ回路が形成される。駆動回路DRVへの電力、及び、電気モータMTRの駆動信号は、車体に固定される電子制御ユニットECUから、コネクタCNCを通して供給される。
電気モータMTRの回転軸(Jmt)のまわりには、位置取得手段(例えば、回転角センサ)MKAが設けられる。MKAによって、電気モータMTRの実際の位置(回転角)Mkaが検出される。MTRがブラシレスモータの場合には、Mkaによってスイッチング素子が同期されて、MTRが駆動される。一方、MTRがブラシ付モータの場合には、機械的な整流子CMT、及び、ブラシBLCが設けられる。シャフト軸Jsf(押圧軸Jpsと同心)のまわりには、摩擦部材MSBが回転部材KTBを押す力である押圧力Fbaを検出するための押圧力取得手段(例えば、推力センサ)FBAが設けられる。
図9は、第1、第2ガイド部材GD1、GD2で形成されるガイド面Mgd(ガイド四角形A-B-D-C)、及び、該平面に垂直なガイド空間Kgdを示している。ここで、四角形A-B-D-C(ガイド面Mgd)の4隅の各点は、夫々、第1ガイド部材GD1の両端(点A、点B)、第2ガイド部材GD2の両端(点C、点D)である。具体的には、点Aは、GD1の一方の端面がマウント部材MTBに当接する面と、第1ガイド部材GD1の軸(第1ガイド軸)Jgd1との交点であり、点Bは、GD1の他方の端面が第1ピン用ボルトPB1の頭部と当接する面と、第1ガイド軸Jgd1との交点である。同様に、点Cは、GD2の一方の端面がマウント部材MTBに当接する面と、第2ガイド部材GD2の軸(第2ガイド軸)Jgd2との交点であり、点Dは、GD2の他方の端面が第2ピン用ボルトPB2の頭部と当接する面と、第2ガイド軸Jgd2との交点である。CPRは、GD1及びGD2によってMTBに取り付けられるため、Mgdに近接する位置ほど、車両走行時の路面凹凸振動の影響を受け難い。ここで、路面振動はランダムな方向(任意方向)に入力されるが、この場合、「ZAの矢印」で示す方向(車輪軸Jktに垂直な方向)の振動影響が、特に、問題とされる。
車両走行中の路面からの振動影響(特に、Jktに垂直なZA方向)が抑制され得る場所が、ガイド空間Kgdである。Kgdの内部に、耐振動性が要求されるBRKの構成要素が設けられる。Kgdは、Mgdに垂直な直線の集合体であるため、これらの構成要素は、Mgdに垂直な方向から見た場合に、Mgdに投影される。ここで、投影とは、物体に平行光線(投影線)を照射し、その物体の影を平面上に映すことである。したがって、Kgd内に設けられる構成要素に対して、平行投影(視点が無限遠に存在する投影)が行われる場合に、ガイド面Mgdが投影面(投影線の垂直面)とされる。
以下、ガイド空間Kgdの内部に配置され得るBRKの構成要素が列挙される。ここで、「ガイド空間Kgd(又は、Kgdm)の内部に配置されること」は、ガイド面Mgd(又は、Mgdm)に対して垂直方向(ZV1又はZV2)から見たときに、「ガイド面Mgd(又は、Mgdm)の内部に位置すること」、及び、「ガイド面Mgd(又は、Mgdm)が投影面となること」と等しい。
耐振動の要求がある構成要素は、CPR内に固定されるDRVの回路基板KBNに実装(固定)される電子部品において、相対的に重量の大きいものである。具体的には、MTRの駆動ブリッジ回路のスイッチング素子(放熱板付の場合、特に、重量が大きい)、電源ノイズ低減回路のインダクタ、及び、コンデンサである。同一加速度であっても、質量が大きい場合には、慣性力が大きい。さらに、電子部品は、回路基板に導体(導線)の部分で固定されるため、前記の慣性力がこの部分に集中する。したがって、CPR内に固定される、これら電子部品のうちの少なくとも1つが、Kgdの内部に配置されることによって、耐振動性が向上され得る。
加えて、耐振動の要求が高い構成要素は、CPRの表面に固定されるコネクタCNCである。電気モータMTRの駆動回路DRVには、電子制御ユニットECUから、電力線PWLを通して電力が、信号線SGL(例えば、通信バス)を通して駆動信号が伝達される。PWL及びSGLは、コネクタCNCによって中継されている。具体的には、PWL及びSGLは、分断され、CNCの内部でコンタクトピン(凹凸ピンのはめ合わせ)によって接合される。過大な振動が加えられると、コンタクトピンに緩みが発生し得る。さらに、電力線PWLには、大電流が通電されるため、所定の断面積が必要となるが、振動に対する屈曲性、及び、疲労強度が要求される。キャリパCPR上に固定されるコネクタCNCが、ガイド空間Kgdの内部に配置されることによって、これら課題が解消され、耐振動性が向上され得る。
ノイズ影響等を受けるため、センサ等の検出手段においても、耐振動性が要求される。このため、位置取得手段MKA、及び、押圧力取得手段FBAのうちの少なくとも一方が、ガイド空間Kgd内に配置され得る。電気モータMTRとしてブラシ付モータが用いられる場合には、電気モータMTRのブラシBLC部分、及び、整流子CMT部分が、ガイド空間Kgd内に配置され得る。これは、BLCが、ばね(スプリング)によってCMTに押し付けられ、MTRへの通電が確保されることに因る。
さらに、ガイド部材GD1及びGD2に主従関係が設けられる場合(主(メイン)ガイド部材GD1、従(サブ)ガイド部材GD2である場合)には、メイン部材GD1に近い側のガイド空間(メインガイド空間)Kgdm内に、上記に列挙された構成部品のうちの少なくとも1つが配置される。ガイド部材の「主従関係」とは、「一方が他方よりも長いこと」、「CPRとのはめ合い孔において、一方の隙間が他方のそれよりも狭いこと」、及び、「一方が両持ち支持で他方が片持ち支持であること」のうちで、少なくとも1つの条件が満足されていることをいう。Kgdは、JktとJsfとで構成される面によって、2つに分割されるが、これらの空間のうちで、GD1(上記の一方側のガイド部材)を含む方がメインガイド空間Kgdmとされる。即ち、Mgdにおいて、Jsfで区切られ、且つ、GD1を含むメインガイド面Mgdm(メインガイド四角形A-B-F-E)に対して、垂直な直線の集合で構成される空間が、Kgdmである。CRPは、メインガイド部材GD1に沿ってスライドされ、サブガイド部材GD2によって、そのスライドの動きが補助される。この場合、メインガイド部材GD1に近接するほど、振動的に有利となるため、耐振動が要求される構成要素が、Kgdmに配置され、これらの投影面がMgdmとなる。
図10は、締結部材TK1、TK2、及び、ガイド部材GD1、GD2で形成される締結面Mtk(締結四角形G-H-L-K)、及び、該平面に垂直な締結空間Ktkを示している。締結面Mtkは、第1ガイド部材GD1の軸Jgd1、第2ガイド部材GD2の軸Jgd2、第1締結部材TK1の軸Jtk1、及び、第2締結部材TK2の軸Jtk2によって、各軸に対して垂直に形成される面(四角形G-H-L-K)である。四角形G-H-L-Kの4隅の各点は、回転部材KTBの回転軸(車輪軸)Jktに垂直な平面(例えば、マウント部材MTBの表面)を想定した場合に、第1ガイド部材GD1の軸(第1ガイド軸)Jgd1との交点が点G、第2ガイド部材GD2の軸(第2ガイド軸)Jgd2との交点が点H、第1締結部材(第1締結ボルト)TK1の軸(第1締結軸)Jtk1との交点が点K、及び、第2締結部材(第2締結ボルト)TK2の軸(第2締結軸)Jtk2との交点が点Lに、夫々対応する。ここで、KTBの回転軸Jkt、ガイド部材の軸Jgd1、Jgd2、締結部材の軸Jtk1、Jtk2、電気モータの回転軸Jmt、及び、シャフト部材の回転軸Jsfは、夫々が平行である。また、押圧部材の軸(押圧方向)Jpsは、Jsfと同一である。したがって、これらの軸(Jkt等)と、締結面Mtkとは垂直である。なお、Jgd1(点H)とJgd2(点G)とを結ぶ直線H-Gが、ガイド面Mgdに相当する。
マウント部材MTBは、締結部材TK1及びTK2によって支持部材(ナックル)NKLに取り付けられ、キャリパCPRは、ガイド部材GD1及びGD2によってマウント部材MTBに取り付けられる。このため、締結面Mtkに近接する位置ほど、路面振動の影響を受け難い。ここで、車両走行中の路面振動はランダムな方向(任意方向)に入力されるが、この場合、「ZBの矢印」で示す方向(車輪軸Jktの方向)の振動影響が、特に、問題とされる。
車両走行中の路面からの振動影響(特に、Jktと平行なZB方向)が抑制され得る場所が、締結空間Ktkである。PSNによって、MSBが中央で押圧され得るように、Jpsが、Jgd1とJgd2との中央に配置される。JpsとJsfとは同一軸であるため、Jsfが、Jgd1及びJgd2の中央に設けられる。そして、MTRがガイド部材GD1、又は、GD2と干渉しないように、Mtk内に配置される。即ち、Jmtは、Ktk内に設けられる。
ガイド空間Kgdの場合と同様に、締結空間Ktkの内部に、耐振動性が要求される制動手段BRKの構成要素が設けられる。締結空間Ktkは、締結面Mtkに垂直な直線の集合体であるため、これらの構成要素は、締結面Mtkに垂直な方向(例えば、Jgd1の方向)から見た場合に、締結面Mtkに投影される。上述したように、投影とは、物体に平行光線(投影線)を照射し、その物体の影を平面上に映すことである。したがって、締結空間Ktk内に設けられる構成要素に対して、平行投影(視点が無限遠に存在する投影)が行われる場合に、締結面Mtkが投影面(投影線の垂直面)とされる。即ち、「締結空間Ktk(又は、Ktkm)の内部に配置されること」は、第1ガイド部材GD1の軸Jgd1の方向(ZH1又はZH2)から見た場合に、「締結面Mtk(又は、Mtkm)の内部に位置すること」、及び、「締結面Mtk(又は、Mtkm)が投影面となること」と等しい。
上述したガイド空間Kgdの場合と同様の理由で、制動手段BRKの構成要素(耐振動の要求が高い構成要素)が、締結空間Ktkの内部に配置され得る。キャリパCPR内に固定される電子部品において、相対的に重量の大きいもの(MTRの駆動ブリッジ回路のスイッチング素子、電源ノイズ低減回路のインダクタ、及び、コンデンサ)のうちの少なくとも1つが、締結空間Ktkの内部に配置される。キャリパCPR上に固定されるコネクタCNCが、締結空間Ktkの内部に配置され得る。センサ等の検出手段において、位置取得手段MKA、及び、押圧力取得手段FBAのうちの少なくとも一方が、締結空間Ktk内に配置され得る。MTRとしてブラシ付モータが用いられる場合には、MTRのBLC部分、及び、CMT部分が、Ktk内に配置され得る。
さらに、上述したように、ガイド部材GD1及びGD2に主従関係が設けられる場合(メインガイド部材GD1、サブガイド部材GD2の場合)には、メイン部材GD1に近い側の締結空間(メイン締結空間)Ktkm内に、上記の構成部品のうちの少なくとも1つが配置される。Ktkも、Kgdと同様に、JktとJsf(Jps)とで構成される面によって、2つに分割されるが、これらの空間のうちで、メインガイド部材GD1を含む方がメイン締結空間Ktkmとされる。即ち、締結面Mtkにおいて、Jsf(Jps)及びJktの形成面で区切られ、且つ、メインガイド部材GD1を含むメイン締結面Mtkm(メイン締結四角形G-M-N-K)に対して、垂直な直線の集合で構成される空間が、メイン締結空間Ktkmである。上記の耐振動が要求される構成要素が、主締結空間Ktkmに配置され、これらの投影面が、主締結面Mtkmとされ得る。
車両が走行している場合に、車輪側から入力される路面振動は、任意の方向に作用する。以上で説明したように、キャリパCPRにおいて、車両が凸凹路を走行するときに、最も振動影響が少ない場所(空間)は、ガイド空間Kgdの内部であって、且つ、締結空間Ktkの内部である。さらに、ガイド部材に主従がある場合には、その場所は、メインガイド空間Kgdmの内部、且つ、メイン締結空間Ktkmの内部である。この条件を満足する領域(場所)は限られるため、優先度の高い構成要素から順次配置される。しかし、少なくとも上記の一方の配置条件が満足され得れば、振動影響の懸念は大幅に低減され得る。