<実施形態1>
以下、本発明の実施の形態にかかる振動発電体1について説明する。図1(a)に示すように、振動発電体1は、主にエレクトレット誘電体3、電極5a、5b、スペーサ7等から構成される。
エレクトレット誘電体3の両面には、エレクトレット誘電体3と対向するように、それぞれ電極5a、5bが配置される。エレクトレット誘電体3と電極5aは、スペーサ7を介して接合される。また、電極5bとエレクトレット誘電体3とは、例えば熱融着や接着等でほぼ全面にわたって接合される。
電極5a、5bは、導体層15と樹脂層17とが積層された二層構造を有する。電極5a、5bは、それぞれの導体層15がエレクトレット誘電体3と対向するように配置される。なお、本実施形態では、電極5a、5bの両方を、導体層15と樹脂層17の積層構造とする場合を示すが、いずれか一方の電極のみを積層構造としてもよい。
導体層15は、例えば、金属箔で形成してもよく、樹脂層17の表面に金属蒸着や金属メッキを施すことによって形成してもよい。導体層15に用いる金属材質としては、例えば、アルミニウム、錫、銅あるいはこれらの合金など適宜選択することができる。
電極5a、5bのエレクトレット誘電体3との対向面とは逆側の面には、樹脂層17が設けられる。樹脂層17としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどといったポリオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニルなどのビニル系樹脂、ポリイミド系樹脂(例えばカプトン(登録商標))、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン6やナイロン66(登録商標))、やフッ素系樹脂(例えばフルオロエチレンプロピレンやポリテトラフルオロエチレン)などのプラスチック系の樹脂材料を用いることができる。また、例えば、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素系ゴムなどのゴム系の樹脂材料を用いることができる。
電極5aの外面には、所定の間隔で凸部13が形成される。凸部13は、樹脂層17の厚み変化によって形成される。凸部13は、非接合部9(空隙6)に対応する部位の電極5aの外面側に凸部13の最も高い部分か位置するように形成される。この例では、スペーサ7が配置された部位に対応する電極5aの外面には、凸部13は形成されない。
凸部13の外面形状は、厚み方向の断面において、非接合部9(空隙6)を挟んで隣り合うスペーサ7(接合部)に対応する電極5aの外面(外線)同士をつなぐように曲線で形成される。すなわち、凸部13の外面形状は、凸レンズ状に略中央部を頂部になだらかな円弧状に形成される。なお、樹脂層17の内面側(導体層15との対向面)および導体層15の両面は、平坦に形成される。
電極5aの表面に繰り返し規則的に配置される凸部13を設ける方法は、特に限定されるものではない。例えば、樹脂層17として樹脂フィルムまたは樹脂シートを用い、樹脂フィルムまたは樹脂シートの一方の面に表面加工(表面処理)を施して、凸部13の繰返しパターンを設ければよい。樹脂層17の表面加工の方法は特に限定されるものではなく、凹凸パターンを有する型によるプレス加工やエンボス加工によって表面に凹凸形状を形成してもよく、表面を切削する方法によって形成してもよく、表面のエッチング処理により形成しても良い。表面に凹凸加工した樹脂フィルムまたは樹脂シート(樹脂層17)と金属箔(導体層15)とを接着剤や粘着剤の使用や、熱融着等によって互いに接合して電極5aを構成すればよい。また、樹脂フィルムまたは樹脂シート(樹脂層17)と金属箔(導体層15)とを接合した後に、樹脂フィルムまたは樹脂シートの表面加工を施して凸部13の繰返しパターンを形成してもよい。
スペーサ7は、振動発電体1へ外力を付与しない状態(定常状態)において、エレクトレット誘電体3と電極5aとの空隙6(ギャップ)を保持するためのものである。すなわち、エレクトレット誘電体3と電極5aとは、スペーサ7を介して接合され、スペーサ7で接合されない部位(非接合部9)のエレクトレット誘電体3と電極5aとの互いの間には、スペーサ7の厚さに応じた空隙6(ギャップ)が形成される。非接合部9(空隙6)においては、エレクトレット誘電体3と電極5aの少なくとも一方が変形することで、互いの距離(ギャップ長)が容易に変化する。例えば、電極5aの変形によって、電極5aを、エレクトレット誘電体3の表面と接触させることができる。
スペーサ7の厚みは30μm〜100μmであることが望ましい。振動発電体1に外力が付与されない状態(定常状態)での空隙6(非接合部9)におけるエレクトレット誘電体3と電極5aとの距離(ギャップ長)は、略スペーサ7の厚み程度に保持される。このため、エレクトレット誘電体3と電極5aとの距離(ギャップ長)を、スペーサ7の厚みである略30μm〜100μmの範囲にすることができる。
発明者らは、振動発電体へ外力、振動を付与した際、エレクトレット誘電体3と電極5aとの距離(ギャップ長)の変化量に応じて発電量が大きくなり、空隙6(非接合部9)において電極5aとエレクトレット誘電体3とが接触と剥離を繰り返すとき、すなわち電極5aとエレクトレット誘電体3との距離の変化量が最大となるような振動発電体1の変形が生じたときに最大発電量が得られることを見出している。
ここで、例えば、スペーサ7の厚みを30μm未満とすると、振動発電体1への外力付与時にエレクトレット誘電体3と電極5aとが接触するまでの距離の変化量も略30μm未満となるが、この場合の発電量は顕著に低下する。また、スペーサの厚みが100μmを超えると、すなわちエレクトレット誘電体3と電極5aとが接触するまでの距離の変化量が100μmを超えると、その距離の変化量の増加に伴う発電量の増加量が小さくなる。さらに、振動発電体1の総厚が厚くなる。このようなことから、スペーサ7の厚みは100μm以下とすることが望ましい。したがって、スペーサ7の厚みを前述の範囲とすることで、空隙6(非接合部9)における電極5aとエレクトレット誘電体3との距離(ギャップ長)を発電に適した範囲に保持できる。
図2(a)は、図1(a)のX−X線断面図であって、スペーサ7の平面配置形状を示す図である。図示したように、スペーサ7は、平面視において、略円形の孔(非接合部9、空隙6に相当)が併設される網目状である。すなわち、網目状に電極5aとエレクトレット誘電体3とがスペーサ7を介して接合され、電極5aとエレクトレット誘電体3との間に略円形に非接合部9(空隙6)が形成される。このように、非接合部9(空隙6)となる複数の略円形の空孔がスペーサ7に繰返し規則的に配列され、この略円形の空孔(スペーサ7の厚みを考慮すると円柱状の穴)の部分では電極5aとエレクトレット誘電体3とが接合されず、電極5a、エレクトレット誘電体3及びスペーサ7とで密封された閉空間となっている。
この場合、図2(b)に示すように、スペーサ7と接合される以外の電極5aの部位(すなわち非接合部9の位置)の外面に、スペーサ7での略円形の孔に対応した凸部13が形成される。なお、図示した例では、スペーサ7の形状を、平面視で円形の孔が併設される網目形状としたが、孔の形状は円形に限られず、楕円形、長円形、多角形等であってもよい。この場合には、孔(非接合部9)の形状に合わせて、電極5aの外面に凸部13を形成すればよい。
また、図3(a)は、スペーサ7の他の平面配置形状を示す図1(a)のX−X線断面図である。図示したように、スペーサ7は、平面視において、網目状ではなく、ストライプ状に形成することもできる。すなわち、ストライプ状に電極5aとエレクトレット誘電体3とがスペーサ7を介して接合され、電極5aとエレクトレット誘電体3との間にストライプ状に非接合部9(空隙6)が形成される。この場合には、図3(b)に示すように、スペーサ7と接合される以外の電極5aの部位(すなわち非接合部9の位置)の外面に、スペーサ7の形状に応じて形成される非接合部9(空隙6)の形状に応じたストライプ状の凸部13が形成される。
スペーサ7としては、例えば導電性、半導電性の材料を使用することも可能であるが、絶縁性の材料で構成されることが望ましい。また、全てのスペーサ7の内、少なくとも一部が、接着性あるいは粘着性部材で構成されることが望ましい。例えば、エレクトレット誘電体3と電極5aとを接合して固定することができる程度に、部分的にスペーサ7を接着性部材等で構成し、他の部位には非接着性または非粘着性のスペーサ7を用いてもよい。
スペーサ7として、接着剤または粘着剤で構成する場合には、例えば、エレクトレット誘電体3と電極5a(導体層15)とが対向する表面のうちいずれか一方の表面に、接着剤や粘着剤を所定のパターンで塗布し、エレクトレット誘電体3と電極5aとを貼り合せることによって形成することができる。また、エレクトレット誘電体3と電極5a(導体層15)とが対向する表面のうちいずれか一方の表面に、スクリーン印刷技術を用いて接着剤や粘着剤を所定のパターンに印刷して形成してもよい。
また、スペーサ7は、両面粘着テープで形成してもよい。例えば、あらかじめ所定の形状(例えば、線状、円形状、楕円状、多角形状など)に切断加工した両面粘着テープを、エレクトレット誘電体3または電極5aの表面にパターン配置し、その後エレクトレット誘電体3と電極5aとを貼り合せればよい。また、あらかじめ両面粘着テープを所定のパターンで打ち抜いて空隙6(例えば、円形状、楕円状、多角形状など)となる部分をパターン形成した後、その両面粘着テープを用いてエレクトレット誘電体3と電極5aとを貼り合せればよい。
図4(a)に示すように、エレクトレット誘電体3の両面は、互いに逆の極性の電荷で帯電している。なお、エレクトレット誘電体3は、表裏面での表面電位差がある状態のものであればよい。従って、エレクトレット誘電体3の片面にのみ、いずれか一方の極性の電荷が帯電していても良く、あるいは、エレクトレット誘電体3の両面に、いずれか一方の極性の電荷が帯電していても良い。このようなエレクトレット誘電体3は、例えば絶縁性を有する樹脂シートや樹脂フィルム等の表面に、コロナ放電等によって帯電処理を施すことで形成することができる。
すなわち、本発明におけるエレクトレット誘電体3は、絶縁性の部材に対して予め帯電処理が施されて形成されたものであり、振動発電体の完成直後からその両面において所定の表面電位差を有しているものを指す。したがって、振動発電体製造時のいずれの過程でも帯電処理が施されない絶縁性の部材に関しては、本発明に係るエレクトレット誘電体には含まれないものとする。
エレクトレット誘電体3の材質としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリ塩化ビニルなどのビニル樹脂、ポリイミド系樹脂(例えばカプトン(登録商標))、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン6やナイロン66(登録商標))、やフッ素系樹脂(例えばフルオロエチレンプロピレンやポリテトラフルオロエチレン)などのプラスチック系の樹脂材料を用いることができる。また、ゴム材料として、例えばニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素系ゴムなどを用いることができる。
また、エレクトレット誘電体3の表面と裏面との表面電位差の適正値は、電極5aとエレクトレット誘電体3との非接合部9(空隙6)におけるギャップ長(またはスペーサ7の厚み)に依存する。すなわち、この表面電位差は、当該ギャップでの空気放電による電位差低下が少なくなるように設定されることが望ましい。
一般的に、電極5aとエレクトレット誘電体3とのギャップ(隙間)における空気放電の発生は、ギャップ長とギャップ間の電位差で決まり、パッシェンの法則におよそ従う。したがって、外力が付与されない時(定常状態)、および外力が付与された時の電極5aとエレクトレット誘電体3とのギャップ長の変化範囲に対して、ギャップ間の電位差を空気放電が発生しない値にするようにエレクトレット誘電体3の表面と裏面との電位差V0を設定することが望ましい。例えば、外力を付与しない時のギャップ長(またはスペーサ7の厚み)が100μmであるとすると、電極5aとエレクトレット誘電体3とが接触するまでの外力を付与した時のギャップ長の変化範囲は0〜100μmとなる。そのギャップ長の変化範囲に対しては、エレクトレット誘電体3の表面と裏面との電位差V0を600V程度以上に設定すると空気放電が発生する。一方、空気放電が発生した場合、放電発生後のエレクトレット誘電体3の表面と裏面との電位差V0は略200〜600V程度となる。したがって、本発明において、定常状態でのギャップ長(スペーサ7の厚み)が100μmの場合には、V0が200〜600V程度となるようにエレクトレット誘電体3の帯電処理を行うことが望ましい。
なお、図4(b)に示すように、多孔質材からなるエレクトレット誘電体3aを用いることもできる。内部に微細な空孔4が存在する多孔質材の両面に電圧を付与すると、空孔4内において容易にコロナ放電が生じる。このコロナ放電によって空孔壁面および空孔壁面近傍にも帯電したエレクトレット誘電体3aを容易に製造できる。なお、エレクトレット誘電体3aの空孔壁面および空孔壁面近傍の帯電状態は、図4(b)に示すように、電圧印加方向(この場合にはエレクトレット誘電体3aの厚さ方向)に正電荷と負電荷に帯電した領域が形成される状態になっていると考えられる。また、エレクトレット誘電体3aの内部に空孔4が存在すると、エレクトレット誘電体3a全体として変形が容易となる。このため、非接合部9(空隙6)における電極5aとエレクトレット誘電体3aとのギャップ長だけでなく、エレクトレット誘電体3aの厚さもより小さな外力で容易に変化させることができる。したがって、電極5a、5b間の距離が変化しやすくなるとともに、その変化量も大きくなるため、双方の電極に静電誘導される電荷量も多くなり、発電効率が向上する。
多孔質性のエレクトレット誘電体3aの材質としては、絶縁体であって、エレクトレット誘電体3と同様の材料を多孔質化した多孔質プラスチックまたは多孔質ゴムや、シート状繊維体を用いることができる。なお、多孔質プラスチックには、発泡プラスチックも含まれる。また、多孔質ゴムには、発泡ゴムも含まれる。シート状繊維体としては、不織布やフェルトを用いることができる。中でも不織布は空気清浄機やマスク等においてエレクトレットフィルターとして利用されており、良好なエレクトレットの特性を有する。
なお、本発明では、エレクトレット誘電体3、スペーサ7、電極5a、5bは、いずれも可撓性を有する。したがって、振動発電体1は、全体として可撓性を有し、様々な形態の設置場所に適した変形が可能である。また、ハサミやナイフなどの切断工具を用いて容易に任意の形状に切断して利用することができる。
次に、振動発電体1の発電機構について説明する。図5は図1(a)のA部拡大図である。図5(a)に示すように、例えば定常状態(外力が付与されていない状態。以下同様。)では、電極5aとエレクトレット誘電体3との間の非接合部9(空隙6)には、スペーサ7の厚みに応じたギャップ長Bが形成される。
この状態から、図5(b)に示すように、略平坦な外面をもつ接触部材19によって、外力Dが振動発電体1の厚さ方向に付与されると、電極5a(およびエレクトレット誘電体3)が変形する。すなわち、接触部材19によって、凸部13が選択的に押圧を受けて電極5aが変形する。この際、電極5aは、ギャップ長Bが短くなる方向へ変形し、電極5aとエレクトレット誘電体3とが接触部11で接触する。
すなわち、接触部11に対応する位置においては、電極5aとエレクトレット誘電体3の厚さ方向の距離(ギャップ長B)が0になるまで変化できる。この距離変化に応じて、電極5a、5bにそれぞれ電荷が静電誘導されて振動発電体1が発電する。なお、接触部材19による外力Dが除去されて、図5(b)の状態から図5(a)の状態に戻る際にも、同様に電極5aとエレクトレット誘電体3との距離変化(ギャップ長Bが長くなる方向への変化)に応じた静電誘導による発電が行われる。なお、電極5aとエレクトレット誘電体3との距離変化に伴う発電出力電圧は、電極5aとエレクトレット誘電体3とが変形によって接触する直前および剥離した直後に最も高くなる。
このような、接触部材19からの押圧による電極5aの変形は、スペーサ7の部位ではほとんど生じない。したがって、電極5aは、非接合部9(空隙6)に対応する凸部13が設けられた部位で変形する。ここで、凸部13の高さ(図5(a)のC)は、スペーサ7の厚み(すなわち、定常状態におけるギャップ長B)とほぼ等しいことが望ましい。
凸部13の高さがスペーサ7の厚みよりも低いと、接触部材19によって押圧された際、電極5aの一部を、エレクトレット誘電体3と接触するまで変形させることが困難となる。一方、凸部13の高さが高すぎると、振動発電体1の全厚が厚くなるため望ましくない。したがって、凸部13の高さを、スペーサ7の厚みとほぼ等しくすることで、最低限の凸部13の高さによって、電極5aの変形量を最大とすることができる。
なお、本実施形態において、振動発電体1を固定した状態で接触部材19を振動させてもよく、接触部材19を固定した状態で振動発電体1側を振動させてもよい。また、電極5aを変形させることができれば、必ずしも接触部材19を用いる必要はない。
このように、図1(a)の振動発電体1では、電極5aとエレクトレット誘電体3とを相対的に厚さ方向に変形させて、非接合部9(空隙6)におけるギャップ長Bを変化させることで効率よく発電を行うことができる。
なお、振動発電体1が外力により変形し、電極5aとエレクトレット誘電体3とが接触および剥離を繰り返す際に、電極5aとエレクトレット誘電体3との間で、前述した空気放電が生じる恐れがある。このような空気放電が生じると、エレクトレット誘電体3の表面と裏面との表面電位差V0が低下することが考えられる。また、空気放電が生じない場合でも、エレクトレット誘電体3と電極5aとが接触と剥離を繰り返す際に、双方の表面同士が接触する部分において電荷の出入り(移動)が生じる恐れがある。このような電荷の移動によっても、エレクトレット誘電体3の表面と裏面との表面電位差V0が低下することが考えられる。これらの現象を考慮すると、振動発電体1は、使用するにつれて発電が行われなくなる懸念がある。しかし、発明者らは、実験を行った結果、このような接触と剥離とが繰り返されても、“エレクトレット誘電体3の表面と裏面との表面電位差V0が低下することによって、直ちに発電が行われなくなる現象”は生じないことを見出した。したがって、本発明においては、外力によって、電極5aとエレクトレット誘電体3とが接触および剥離を繰り返すように変形させることが望ましい。
なお、本発明では、図1(b)に示す振動発電体1aのように、エレクトレット誘電体3の両面にスペーサ7を設けてもよい。振動発電体1aは、エレクトレット誘電体3と、電極5a、5bのそれぞれの間に、スペーサ7に応じた非接合部9(空隙6)が形成される。また、スペーサ7の形状に応じて形成される非接合部9(空隙6)に位置する電極5a、5bのそれぞれの外面に凸部13が形成される。したがって、電極5a、5bの両方が、外力によって変形し、エレクトレット誘電体3との相対距離を変化させることができる。
なお、振動発電体1aの全体で効率良く発電を行うためには、電極5a、5bのそれぞれとエレクトレット誘電体3との距離変化の方向(減少する方向あるいは増加する方向)とタイミング(位相)を振動発電体1aの各部で一致させることが望ましい。例えば、電極5a、5bとエレクトレット誘電体3とが接触および剥離を繰り返す場合には、この接触および剥離のタイミングを振動発電体1aの各部で一致させることが望ましい。
ここで、スペーサ7の材質にもよるが、外力による非接合部9(空隙6)のギャップ長の変化と比較して、スペーサ7を設けた部位では、電極5a、5bとエレクトレット誘電体3との距離の変化が小さいため、発電には寄与しにくい。したがって、平面視における振動発電体1aに占めるスペーサ7の総面積をできるだけ小さくすることが望ましい。また、振動発電体の厚み方向の断面において、非接合部9(空隙6)でのギャップ長Bを保持することができる程度に、スペーサ7の間隔をできるだけあけてスペーサ7を配置することが望ましい。また、前述のように、エレクトレット誘電体3の表裏で電極5a、5bとエレクトレット誘電体3との距離変化の方向とタイミングを一致させるために、エレクトレット誘電体3の表裏におけるスペーサ7の平面配置を一致させることが望ましい。
振動発電体1aは、電極5a、5bのそれぞれとエレクトレット誘電体3との双方の距離変化で発電を行うため、電極5a、5bのそれぞれとエレクトレット誘電体3との双方の距離変化の方向とタイミング(位相)が一致しないと、電極5a、5b間に生じる発電出力電圧が互いに打ち消しあう恐れがある。このため、図1(b)の振動発電体1aにおいては、電極5a、5bのそれぞれとエレクトレット誘電体3との双方の距離変化の方向とタイミング(位相)を一致させる必要がある。
これに対し、図1(a)の振動発電体1では、一方の電極5bがエレクトレット誘電体3と全面にわたって接合されているため、他方の電極5aとエレクトレット誘電体3との距離変化のみによって発電が行われる。したがって、図1(b)の振動発電体1aのように、電極5a、5bのそれぞれとエレクトレット誘電体3との双方の距離変化の方向とタイミング(位相)を一致させる必要がない。
また、図1(a)の振動発電体1では、スペーサ7の厚み分だけ、全厚を薄くすることができる。このように、構造を簡易にできることによるコスト減や、薄肉化が可能である点などを考慮すれば、発電量は若干下がるものの、振動発電体1を用いる利点もある。
なお、振動発電体1aでは、電極5a、5bの凸部13の高さの和が、電極5a、5bのそれぞれと、エレクトレット誘電体3との空隙6のギャップ長の総和(エレクトレット誘電体3の表裏に設けられるスペーサ7の総厚)とほぼ等しいことが望ましい。このようにすることで、最低限の凸部高さによって、電極5a、5bをエレクトレット誘電体3と接触するまで変形させることができる。
また、本発明では、非接合部9におけるエレクトレット誘電体3と電極5a、5b(導体層15)の対向面の少なくとも一方に、粗面化処理を施すこともできる。粗面化処理を行う方法は特に限定されない。例えば、サンドペーパー(例えば600番程度)で表面粗さを増しても良く、エッチングによる表面処理や、表面粗さを有する型による表面プレス加工を施しても良い。なお、粗面化処理により得られる表面粗さは、特に限定されない。
このように、非接合部9におけるエレクトレット誘電体3と電極5a、5bの対向面の少なくとも一方に粗面化処理を施すことによって、エレクトレット誘電体3と電極5a、5bとが接触した際のミクロ的な接触面積を小さくすることができる。このように双方のミクロ的な接触面積を小さくすることによって、双方の表面間での電荷の出入り(移動)を抑制することができる。したがって、電極5a、5bとエレクトレット誘電体3とが接触および剥離を繰り返す際にも、エレクトレット誘電体3の帯電電荷量の変化、すなわちエレクトレット誘電体3の表面電位の変化を抑制することができ、振動発電体1の発電出力の安定化を図ることができる。
なお、エレクトレット誘電体3と電極5a、5bとの間の表面間での電荷の出入り(移動)を抑制するためには、電極5a、5bまたはエレクトレット誘電体3の互いに対向する面の一方に薄い絶縁層を形成しても良い。
以上、本実施の形態の振動発電体1、1aは、電極5a、5b、スペーサ7、エレクトレット誘電体3などがいずれも可撓性を有する材質で構成されるため、設置部の形態に応じて、自由に折り曲げて設置することができる。また、電極5a、5bおよびエレクトレット誘電体3が主にシート状の部材で構成されているため、大きな面積の設置場所にも適用が容易である。したがって、設置場所に対する自由度が大きい。また、ハサミやナイフなどの切断工具を用いて振動発電体1、1aを容易に任意の形状に切断して利用することもできる。
また、振動発電体1、1aの非接合部9(空隙6)に位置する電極5a(5b)の外面に凸部13が形成されるため、電極5a(5b)の剛性を高めることができる。このため、定常状態における非接合部9(空隙6)での電極5a(5b)の自重や静電気力などによる撓みを抑制し、スペーサ7の厚みに相当する空隙6のギャップ長を維持することができる。更には、電極5a(5b)の外面に凸部13を設けることによって、外力(押圧)の付与の際、非接合部9(空隙6)に位置する電極5a(5b)の凸部13を選択的に変形させることができるとともに、外力(押圧)の除去の際、変形を受けた電極5a(5b)が元の定常状態の形状に戻ろうとする復元力を高めることができるため、元の定常状態の形状に戻りやすくすることができる。したがって、外力による電極5a(5b)とエレクトレット誘電体3との相対距離の変化量を大きくすることができるため、高い発電効率を得ることができる。
<実施形態2>
次に、他の実施の形態について説明する。なお、以下の説明において、第1の実施の形態と同様の機能を奏する構成については図1等と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
本発明では、図5等に示した凸部13に代えて、図6(a)に示した凸部13aを適用することもできる。凸部13aは、凸部13と略同様の構成であるが、導体層15の外面側(樹脂層17との接合面側)が平坦ではない点で異なる。凸部13aは、導体層15の肉厚を外面側に厚くすることにより形成されている。樹脂層17は、この例ではほぼ同一の厚みであるが、樹脂層17の厚みも変化させて凸部13aを形成するようにしてもよい。
なお、この場合、導体層15の厚み変化により凸部13aを形成したので、樹脂層17を設けずに、導体層15のみで電極5a(5b)を形成し、導体層15を表面に露出させてもよい。しかし、樹脂層17を設けることで、電極5a(5b)と周囲環境との電気絶縁を確保し、電極5a(5b)の耐水性や耐湿性を向上させることができる。また、電極5a(5b)への外傷などを防止することができる。したがって、樹脂層17を設ける方が、電極5a(5b)の腐食や外傷等による性能劣化を防止できる点で望ましい。
また、樹脂層17を設けることで、外力の変化等に対する電極5a(5b)の機械的変形の追従性を制御できる点で望ましい。例えば、導体層15に用いる薄い金属箔のみでは、外力によって電極が変形した後、外力が除荷された際に電極が元の形状に戻ろうとする復元力が小さい。このため、電極5a(5b)の必要な復元力を得るためには、樹脂層17の材質や厚さを適正として必要な剛性(復元力)を得る必要がある。したがって、電極5a(5b)に樹脂層17を設け、樹脂層17の材質や厚さによって、電極5a(5b)に必要な剛性(復元力)を確保し、外力の変化に対する電極5a(5b)の追従性を高めることが望ましい。
第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、本発明では、凸部13、13aのように、導体層15と樹脂層17のいずれの厚みを変化させて、凸形状を形成してもよい。
<実施形態3>
本発明では、図5等に示した凸部13に代えて、図6(b)に示した凸部13bを適用することもできる。凸部13bは、凸部13と略同様の構成であるが、樹脂層17の外面に、別途の部材が設けられる点で異なる。凸部13bは、非接合部9(空隙6)に対応する部位における樹脂層17の外面に接合される。したがって、導体層15および樹脂層17は、それぞれほぼ均一な厚みの平坦な形状であってもよい。
この場合、凸部13bは、接着、粘着または融着によって樹脂層17の外面に接合される。また、接着剤によって凸部13bを形成してもよく、接着剤や粘着剤、ペースト剤、インクなどを樹脂層17の外面に印刷することによって凸部13bを形成してもよい。また、接合される凸部13bの形状は、図示した例には限られない。
例えば、図7に示す凸部13cのように、厚み方向の断面が略矩形であってもよい。なお、このような形状は、導体層15または樹脂層17の外面形状を変化させても形成することができる。すなわち、樹脂層17に形成される凸部の外面形状は、前述したように、厚み方向の断面において、スペーサ7と接合される電極5a(5b)の位置を基部として、非接合部9(空隙6)に位置する電極5a(5b)の外面(外線)形状が円弧状に曲線で形成される場合には限られない。
しかし、図7に示す凸部13cでは、前述した他の凸形状と異なり、略均一な厚さを有しているため、適切な大きさを選択しないと他の接触部材との接触に対して変形しにくくなる。例えば、非接合部9(空隙6)と略同じ大きさで、非接合部9に位置する電極5a(5b)の外表面の略全面にわたって凸部13cを接合して設けた場合には、比較的平坦な外面をもつ物体との接触によって外力を受けても、非接合部9に位置する電極5a(5b)が略均一に厚みが厚くなり、その結果略均一に剛性が高くなるため、電極5a(5b)は変形を受けにくくなる。また、スペーサ7で支持される電極5a(5b)の端部に強いせん断応力や張力等が生じて電極5a(5b)が破断する危険がある。したがって、凸部13cの大きさは、非接合部9の平面方向の大きさよりも小さくし、電極5a(5b)の変形がしやすく、破断の生じない適切な大きさに設定する必要がある。
また、非接合部9の平面方向の大きさに対して、凸部13cの大きさが小さいため、非接合部9に位置する電極5a(5b)は、凸部13cの重量を支える必要がある。したがって、凸部13cによって、電極5a(5b)の撓み剛性を高める効果は小さく、むしろ重量増による電極5a(5b)の撓み量が増加する恐れがある。したがって、重量増を抑えて電極5a(5b)の変形が効果的に得られるように、凸部の外面形状は、前述したようななだらかに湾曲した形状であることが望ましい。
第3の実施の形態によっても、電極5a(5b)の外面に設けられる凸部形状を適切に設計することで、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、本発明では、凸形状は、適宜設計して適用することができる。
<実施形態4>
本発明では、図5等に示した凸部13に代えて、図8(a)に示した凸部13dを適用することもできる。凸部13dは、凸部13と略同様の構成であるが、導体層15および樹脂層17の厚みを変化させるのではなく、非接合部9(空隙6)に位置する導体層15および樹脂層17で構成される電極5a(5b)の全体を外面に向けて湾曲させる点で異なる。したがって、導体層15および樹脂層17は、それぞれほぼ均一の厚みであってもよい。
電極5a(5b)は、スペーサ7と接合された部位を基部として、非接合部9(空隙6)に位置する外面形状及び内面形状が外方に向けて湾曲するようにアーチ状に形成される。すなわち、電極5a(5b)の内面側が平坦ではなく、電極5a(5b)とエレクトレット誘電体3との非接合部9(空隙6)におけるギャップ長が、非接合部9の部位によって異なり、平面視での非接合部9の略中央部でギャップ長が最大となる。
図8(b)に示すように、接触部材19を凸部13dへ接触させると、選択的かつ効率的に凸部13dへ外力(押圧)が伝達される。この際、接触部材19と電極5a(5b)との接触による外力Eの付与によって、接触部材19がスペーサ7に位置する電極5a(5b)の部分で支持される状態に至るまで電極5a(5b)の凸部13dを変形させることができる。この際、凸部13dの変形によって、非接合部9に位置する電極5a(5b)とエレクトレット誘電体3とが接触部11で接触するまで変形させることもできる。
ここで、図5(b)に示すように、外力(押圧)の付与に対して、凸部13では、スペーサ7を支点として電極5a(5b)のエレクトレット誘電体3に対向する面が下に凸となる形状で撓み変形し、撓み変形した電極5a(5b)の中央近傍がエレクトレット誘電体3と接触するまで変形することができる。一方、図8(b)に示すように、アーチ状の凸部13dを用いると、外力(押圧)により変形した電極5a(5b)の形状は複雑であり、変曲部が複数生じる。したがって、外力を付与して電極5a(5b)を変形させた際には、必ずしも凸部13dの中央付近がエレクトレット誘電体3と接触するわけではない。
また、定常状態での凸部13dの高さとスペーサ7の間隔を適切に設定しないと、接触部材19との接触によって、電極5a(5b)が極度に変形してしまい、外力Eを開放しても、電極5a(5b)が元の定常状態の形状には戻らない場合が生じる。例えば、外力の付与によって、電極5a(5b)の中央部分が窪んで下に凸となる形状に変形してしまうと、外力を開放した際に、電極5a(5b)の中央部分が窪んだままとなり、元の形状に戻らなくなる問題が生じる。したがって、外力による変形を受けた際に、外力の開放によって元の形状に戻ることができるように、電極5a(5b)の材質や形状を適切に選択、設計する必要がある。
したがって、凸部13dと比較すると、前述した凸部13等の方が、外力(押圧)の付与によって電極5a(5b)をエレクトレット誘電体3に接近する方向に撓みやすくすることができる。したがって、凸部を選択的に変形させて、電極5a(5b)とエレクトレット誘電体3との距離変化(ギャップ長の変化)を大きくするためには、凸部13dのような、厚み方向の断面がアーチ型の形状よりも、電極5a(5b)(導体層15)の内面側を平坦にして、電極5a(5b)の外面側を肉厚変化によって湾曲した凸形状に形成する方が望ましい。
第4の実施の形態によっても、電極5a(5b)の凸部形状を適切に設計することで、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
<実施形態5>
本発明では、図9(a)に示した振動発電体1bを適用することもできる。振動発電体1bは、図1(a)に示した振動発電体1とほぼ同様の構成であるが、電極5b側にも凸部13を形成した点で異なる。すなわち、エレクトレット誘電体3との間にスペーサ7、非接合部9(空隙6)が形成されていない側の電極5bにも凸部13を形成してもよい。この場合には、電極5a、5bそれぞれの凸部13の平面方向の位置や大きさを揃えることが望ましい。また、この場合には、電極5a、5bのそれぞれの凸部13の高さの和が、スペーサ7によって形成される空隙6のギャップ長と略同一とすることが望ましい。
また、さらに、図9(b)に示した振動発電体1cを適用することもできる。振動発電体1cは、振動発電体1aとほぼ同様の構成であるが、電極5b側には凸部13を形成しない点で異なる。すなわち、エレクトレット誘電体3の両面にスペーサ7が設けられ、電極5a、5bのそれぞれとエレクトレット誘電体3との間に非接合部9(空隙6)が形成されるが、一方の電極5aにのみ凸部13を形成してもよい。この場合には、電極5a、5bとエレクトレット誘電体3とのそれぞれのスペーサ7によって形成される空隙6のギャップ長の総和(またはそれぞれのスペーサ7の総厚)と、凸部13の高さを略同一とすることが望ましい。
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、前述した実施の形態の振動発電体1等は、柔軟性を有するエレクトレット誘電体3からなるものであったが、本願発明の振動発電体は、柔軟でないエレクトレット誘電体からなるものであっても良い。すなわち、本願発明の技術的範囲には、柔軟でないエレクトレット誘電体を備えた振動発電体も属しており、このような振動発電体であっても、電極の外面に凸部を形成することにより、外力が付与されていない状態での電極の撓みを抑制、外力が付与されたときの発電効率の向上等の本願発明の効果を奏することができる。
また、本願発明の振動発電体は、スペーサ7を用いずに接合部と非接合部9とを形成したものであってもよい。例えば、電極5a(5b)とエレクトレット誘電体3との接合する部位のみを直接的に融着し、他の部位を非接合部9としてもよい。非接合部9では、電極5a(5b)とエレクトレット誘電体3との間に、微小な空隙6が形成される。なお、非接合部9において、電極5a(5b)とエレクトレット誘電体3とが部分的に接触していても良い。
電極5a(5b)に、厚み方向の外力が付与されると、非接合部9(空隙6)での電極5a(5b)とエレクトレット誘電体3との境界部における互いの形状が変化しうる。したがって、部分的に電極5a(5b)とエレクトレット誘電体3との距離が変化する。したがって、この変化に応じて電極5a、5bの双方に電荷が静電誘導され、発電を行うことができる。このように、スペーサ7を用いなくても、発電を行うことができる。