以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
なお、以下に記述する本発明の実施形態は、本発明の具体的な一例に過ぎず、本発明はこれらによって限定されるものではない。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1による電子放出素子を説明する模式図であり、図1(a)は、この電子放出素子の断面構造を示し、図1(b)は、この電子放出素子の電子放出面の形状を示し、図1(c)は、図1(a)のA部分を拡大して示している。
この実施形態1による電子放出素子(以下、単に素子ともいう。)100は、この素子の内部で電子を加速して素子の表面から電子eを放出する面放出型の電子放出素子である。
この電子放出素子100は、素子の基板を兼ねる第1電極(以下、電極基板ともいう。)101と、第1電極101上に形成された電子加速層103と、電子加速層103上に形成された第2電極(以下、薄膜電極ともいう。)102とを有している。ここで、第2電極102は、電子加速層103上に形成された非晶質炭素膜110と、非晶質炭素膜110上に形成され、非晶質炭素膜110の仕事関数より小さい仕事関数を有する導電膜111とを含んでいる。
ここで、第1電極101および第2電極102には電源部11により電圧が印加されるようになっている。この電源部11と電子放出素子100とは電子放出装置10を構成している。この実施形態1の電子放出素子100では、第2電極102を構成する非晶質炭素膜110は、ダイヤモンドの結晶構造(sp3結合)とグラファイトの結晶構造(sp2結合)とが混在したダイヤモンドライクカーボン膜(以下、DLC膜という。)である。
なお、電子放出素子100に印加する電圧は、直流電圧でも交流電圧でもどちらでもよいが、電子放出量が比較的安定している交流電圧の方が好ましい。本明細書において、単に電圧と記述する際には交流電圧と直流電圧の両方を指すものとする。印加する電圧は10〜25Vの範囲が望ましい。
以下、この実施形態1の電子放出素子100の構成要素について詳しく説明する。
〔第1電極101〕
第1電極101は導体で形成された板状体である。この第1電極101は、電子放出素子100の支持体として機能すると共に、電極として機能するものである。このため、第1電極101は、ある程度の強度を有し、かつ適度な導電性を有するものであればよく、微細加工が容易なSi系の半導体基板を用いることができる。また、第1電極101は、ガラス基板またはプラスティック基板等の絶縁体基板上に、導電性膜を電極として形成してなる構造体であってもよい。また、絶縁体基板を導電性膜で被覆してなる構造の第1電極101では、導電性膜に強い機械的強度が要求されるため、この導電性膜は、複数の導電性膜の積層構造としてもよい。
例えば、第1電極101を構成する絶縁体基板を被覆する導電性膜には、絶縁体基板であるガラス基板表面にTi膜を膜厚20.0nmに形成し、その上にCu膜を膜厚10.00nmに形成してなる金属積層膜や、ガラス基板表面にMo膜を膜厚30nmに形成し、その上にAl膜を膜厚130nmに形成し、その上にMo膜を膜厚50nmに形成してなる金属積層膜を用いてもよい。金属積層膜を構成する金属材料や数値(膜厚)は上記のものに限定されることはない。なお、絶縁体基板の表面の導電性膜は、周知のフォトリソグラフィ技術やエッチングマスクを用いて方形等にパターニングしたものでもよい。
〔電子加速層103〕
電子加速層(絶縁性微粒子層)103は第1電極101上に形成されており、複数の絶縁性微粒子103aを含んでいる。この電子加速層103は、第1電極101から第2電極102へ向かう電子を加速させる機能を有する。電子加速層103は、主として、半導電性を有する絶縁性微粒子103aを含んで構成されているため、電子加速層103は電圧が印加されると、電子加速層103内に極弱い電流が流れる。電子加速層103の電圧電流特性は所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。この電子加速層103での電流の一部は、印加電圧が形成する電子加速層内の強電界により弾道電子となり、第2電極102を透過して電子放出素子100の外部へ放出される。また、弾道電子は、絶縁性微粒子103aによる電子加速層103の表面の凹凸の影響から生じる、電子加速層103と第2電極102との隙間(微細孔)をすり抜けて外部へ放出される場合もある。弾道電子の形成過程は、電子が電界方向に加速されつつエネルギー障壁をトンネルすることによるものと推測される。なお、電子加速層103は、薄いほど好ましい。なぜなら、電子加速層103は薄いほど、強電界がかかるため、低電圧印加で電子を加速させることができるからである。ただし、電子加速層103があまり薄すぎると、抵抗体としての機能が得られないこと、また、電子加速層103が厚すぎると電子の加速に高電圧の印加が必要となることから、電子加速層103の膜厚は0.1〜10.0μmの範囲であることが望ましい。
また、絶縁性微粒子の材料は、絶縁性を有する材料であれば特に制限なく用いることができる。例えば、絶縁性微粒子103aには、SiO2、ZnO等の半導体酸化物、Al2O3、TiO2、CuO等の金属酸化物からなる絶縁性微粒子を用いることができる。また、これらの絶縁性微粒子は、単独で、あるいは複数種類組み合わせて用いることもできる。
また、電子加速層103は他の微粒子や材料を含んで構成されてもよい。例えば、電子加速層103には、絶縁性微粒子103aの粒径よりも小さい粒径を有する導電性微粒子103bが含まれていてもよい。なお、本願明細書において、粒径とは平均一次粒径を意味するものとする。電子加速層103に導電性微粒子103bを添加することによって、電子加速層103を流れる電流値(つまり電子放出量)を制御することができる。換言すると、電子加速層103中の導電性微粒子103bの含有量を調整して、電子加速層103の電気抵抗の値を任意の範囲に調整できる。導電性微粒子103bとしては、特に限定されないが、例えば、金、銀、白金、パラジウムおよびニッケルからなる導電性微粒子のうち少なくとも1種を含んでいてもよい。
なお、導電性微粒子103bの粒径が絶縁性微粒子103aの粒径と同等以上であると、電子加速層103が必要とする絶縁性が得られなくなるため、導電性微粒子103bの粒径は絶縁性微粒子103aの粒径よりも小さい必要がある。また、電子加速層103は絶縁性微粒子103aのみで構成されてもよい。さらに、電子加速層103には、バインダー成分として少量のシリコーン樹脂が含まれていてもよい。電子加速層103がシリコーン樹脂を含むことで、電子放出素子100の機械的強度を向上することができると共に、大気中の酸素および水分などによる素子劣化を防ぐことができ、長寿命化をより効果的に図ることができる。
この実施形態1の電子放出素子における電子加速層を図面を用いて具体的に説明する。図1(c)は、本実施形態1による電子放出素子における電子加速層の要部(図1(a)のA部分)を拡大して示している。
同図に示されるように、電子加速層103には、絶縁性微粒子(第2の誘電体物質)と、導電性微粒子(周囲に第1の誘電体物質が存在する導電体からなる微粒子である金属微粒子)とが含まれている。このように、電子加速層103に含まれる微粒子は、2種類存在し、1つは絶縁性微粒子であり、もう1つは導電性微粒子(つまり、絶縁被覆された金属微粒子)である。ここで、絶縁被覆された金属微粒子の金属種としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような金属種でも用いることができる。
ただし、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、酸化しにくい金属が好ましく、例えば、金、銀、白金、ニッケル、パラジウムといった材料が挙げられる。また、絶縁被覆された金属微粒子の絶縁被膜としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような絶縁被膜でも用いることができる。ただし、絶縁被膜を金属微粒子の酸化被膜によって賄った場合、大気中での酸化劣化により酸化被膜の厚さが所望の膜厚以上に厚くなってしまうおそれがあるため、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、有機材料による絶縁被膜が好ましい。この電子加速層103での弾道電子の生成の原理については後段で詳しく記載するが、その原理に従って考えると、その絶縁被膜の厚さは薄いほうが有利であることが言える。
〔第2電極102の導電膜111〕
第2電極102は、第1電極101と対をなす電極を構成し、第1電極101と共に電子加速層103内に電界を発生させるための電極である。このため、第2電極102を構成する導電膜111は、電極として機能する程度の導電性を有する材料にて形成されればよい。ただし、第2電極102には、電子加速層103内で加速されて高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーのロスを抑制しつつ透過させて素子の外部に放出することが求められ、第2電極102を構成する導電膜111は、仕事関数が低く、かつ薄膜で形成することが可能な導電性材料で形成されることが好ましい。
このような材料としては、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、タングステン、ニッケル、チタン、タンタル、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物の形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。第2電極102を構成する導電膜111の膜厚は、電子放出素子100から外部へ電子eを効率良く放出させる条件として重要であり、この観点から10〜55nmが好ましい。第2電極102を平面電極として機能させるための導電膜111の最低膜厚は10nmであり、これより薄い膜厚では電気的導通を確保できない。一方、電子放出素子100から外部へ電子eを放出させるための導電膜111の最大膜厚は55nmであり、これより厚い膜厚では弾道電子の透過が起こらず、第2電極で弾道電子の吸収、あるいは反射による電子加速層への再捕獲が生じてしまう。このため、第2電極の導電膜111の膜厚は10〜55nmであることが好ましい。
〔第2電極102のDLC膜110〕
DLC膜110を構成する材料は、炭素元素を主成分として構成される非晶質組織であり、炭素元素のみからなるアモルファスカーボン、水素を含有する水素アモルファスカーボン、チタン等の金属元素を一部に含むメタルカーボンが挙げられるが、本発明に用いるDLC膜としては、特にこれらに限定されるものではない。
以下、この実施形態1で用いるDLC膜110の特性(a)〜(d)について具体的に説明する。
(a)DLC膜の比抵抗について
まず、DLC膜の比抵抗(電気抵抗率)は高く、つまり、DLC膜110は、第2電極102の導電膜111と電子加速層103との間の抵抗体として機能する。例えば、グラファイトの比抵抗が1E3Ω・cmであるのに対し、DLC膜の比抵抗は1E7Ω・cm〜1E9Ω・mである。なお、DLC膜110と導電膜111とからなる第2電極全体としては、その電気抵抗率が1E8Ω・cm以上と高いことが望ましい。
従来技術で説明したように、電子放出素子の電子放出面からの電子の放出は面内で均一なものではなく、局所的な偏ったものであるため、この電子放出素子を長時間にわたる連続動作試験にかけると、一部の電子放出部分に電界が集中した状態が続くことになり、この電子放出素子は、局所的な電圧および電流の印加によるストレスや局所的な発熱による機械的なストレスに連続的に曝される。大きい電圧および電流によるストレスや発熱による機械的なストレスの印加が長時間続くと、電子加速層における第2電極の表面の電子放出領域に対応する部分に欠陥が生じる場合があり、欠陥数が増加すると電流のパスが生じてしまい、絶縁破壊につながる。
抵抗体としてのDLC膜110は、例えば、金、銀等からなる第2電極102の導電膜111と比較して電気的に高抵抗であるため、電子放出領域での電子放出強度を抑えることができ、これにより電子放出素子100での局所的かつ連続的な電圧および電流の印加によるストレス、さらに局所的な発熱による機械的なストレスが緩和されることになる。この結果、欠陥が生じ難く、絶縁破壊が生じ難くなる。
また、DLC膜の膜厚は、印加電圧、電子加速層の膜厚、第2電極の導電膜の材質等の条件にもよるが、前記条件の場合は5〜20nmが好ましい。DLC膜の膜厚が5nmより薄いとDLC膜が抵抗体として機能するには十分でなく、一方、膜厚が20nmより厚いと電子放出に必要な電圧が大きくなり好ましくない。
つまり、第2電極102の電子加速層103側の面にDLC膜110を形成することにより、適度な電圧で十分な電子を放出することができると共に、絶縁破壊が生じ難くし、かつ温度上昇を抑制することができるため、長時間の連続動作が可能となる。
また、DLC膜は内部応力が高いため、第2電極を、DLC膜の単層構造、もしくは、DLC膜と、金、銀、タングステン、タンタル、チタン、アルミ、ニッケル、パラジウムのうちの少なくとも1つの金属膜からなる導電膜との積層構造とした場合において、素子電極の剥離が起こることを抑制するために、DLC膜の表面粗さを1.0〜15nmとすることが好ましい。なお、この表面粗さの値は小さすぎると、実質的な密着性が得られず、大きすぎると、DLC膜の表面の凸凹により、このDLC膜上に導電膜を形成したときに局所的な応力が発生することとなる。
(b)DLC膜の熱伝導率などについて
DLCは、30〜500W/mK程度の熱伝導率をもち、この熱伝導率は、グラファイトの六角形環が広がる方向における値(1000〜2000W/mK)と比べると低いものの、同じ程度の抵抗値を有する材料に比べると高い熱伝導率である。また、DLCは非晶質であるために、その熱伝導に異方性はなく、その熱伝導は等方的であり、結晶方位によらずに熱を等方的に放熱することができる。DLCは、線熱膨張率が3×10−6〜5×10−6/Kと小さい。従って、DLCは、第2電極の構成材料として好適である。
(c)DLC膜の電子の放出しやすさ(仕事関数)について
一般に炭素素材物質の仕事関数は構造によって大きく異なるが、本発明の電子放出素子で用いるDLC膜は、グラファイト膜に比べて仕事関数が小さく、低い電界で電子を放出することができる。炭素系薄膜は一般的に電子を放出し易いが、窒素をドーピングしたDLC膜はさらに電子を放出し易いものとなる。
特に、DLC膜では、グラファイト膜とは異なり、水素や窒素のドーピング量やドーパントの種類を変えることにより電子放出特性を制御できる。例えば、DLC膜では、ドーピング量やドーパントの種類によりバンドギャップを変化させることができる。
しかも、DLC膜は、電気伝導率が高くなるにつれて、言い換えると、抵抗が小さくなるにつれて、電子放出電圧が低下する傾向にあり、電気伝導率によっても電子放出特性を制御できる。
(d)DLC膜の平坦性について
DLC膜は、グラファイト膜に比べて膜の表面が平坦であるため、DLC膜を含む積層構造では、DLC膜の表面での凹凸により局所的な応力が発生するのを抑制できる。
なお、DLC膜は、上述したように、ダイヤモンド構造に対応するsp3結合を有する炭素と、グラファイト構造に対応するsp2結合を有する炭素が不規則に混在したアモルファス構造の膜であり、DLC膜の物性値に幅がある。
簡単に説明すると、DLC膜を理解する概念図として、FerraiとRobertsonが3元相図を提案している。この3元相図に示される三角形の上の頂点がダイヤモンド、左下の頂点がグラファイト、右下の頂点が水素に相当する。DLC膜のヤング率、硬さおよび電気的性質はダイヤモンドと類似しており、熱伝導率はグラファイトに近い。DLC膜の物性値に幅があるのは、sp3結合とsp2結合の割合および水素含有量の違いで様々な組成や構造のDLC膜が存在し、物性が大きく変化するためである。
次に、電子放出の原理について簡単に説明する。
例えば、一般にシリカ(SiO2)のような絶縁材料の表面において、結晶の欠陥や表面処理が施されることにより、シリカ表面に電気抵抗が低い部分が生じ、電子が流れると考えられる。
従って、本実施形態1の電子加速層103では、絶縁性微粒子の表面(つまり、シリカ表面)を電子がホッピング伝導のような形で流れて、エネルギーが高い弾性電子が形成され、第2電極102へ到達するが、このとき、第2電極を構成する材料の仕事関数を超えたエネルギーを得ている電子が、電子放出素子の外部へ放出されると考えられる。
〈製造方法〉
次に、図1を参照しながら実施形態1による電子放出素子100の製造方法について説明する。
上記のように構成された電子放出素子100は、第1電極上101に絶縁性微粒子103aを含んでなる電子加速層103を形成する工程と、電子加速層103上にDLC膜110を形成する工程と、DLC膜110に第2電極102を形成する工程とを含んでいる。
具体的に説明すると、電子加速層103の形成工程において、まず、溶剤に絶縁性微粒子103aが分散された絶縁性微粒子分散液を調製する。このとき、絶縁性微粒子分散液に導電性微粒子を混合し、必要であればバインダー成分を混合してもよい。絶縁性微粒子分散液に用いる溶剤としては、バインダー成分を溶解でき、かつ絶縁性微粒子103aや導電性微粒子103bを分散でき、かつ塗布後に乾燥することができれば、特に制限はなく、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。
次に、絶縁性微粒子分散液を第1電極101上にスピンコート法にて塗布する。続いて、第1電極101上の塗布膜を乾燥させることにより、電子加速層103を形成する。なお、電子加速層3が所望の膜厚となるまで、塗布および乾燥を繰り返してもよい。
次に、第2電極102のDLC膜110の形成工程において、電子加速層103上にDLC膜110を成膜する。DLC膜の成膜方法としては特に限定はなく、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法や熱CVD法、PVD(Physical Vapor Deposition)法、イオン化蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、プラズマイオン注入成膜法、ホローカソードアーク法、真空アーク蒸着法など各種公知の方法で成膜すればよく、またその膜厚は、電極内の放電に影響がない程度であればよいが、効果の点から、DLC膜は、例えば5〜20nm程度の厚さに成膜することが好ましい。
続いて、第2電極102の導電膜111の形成工程において、例えば、マグネトロンスパッタ法、インクジェット法、スピンコート法、蒸着法等を用いて、DLC膜110上に第2電極102の導電膜111を形成して、電子放出素子100が完成する。
そして、この電子放出素子100の第1電極101と第2電極102に、リード線を介して電源部11の負極と正極を電気的に接続することにより、電子放出装置10が完成する。
次に作用効果について説明する。
本実施形態1の電子放出素子100は、第1電極101と第2電極102との間に電圧が印加されると、第1電極101から、第1電極と第2電極との間における電子加速層103中の絶縁性微粒子103aの表面に電子が移る。絶縁性微粒子103aの内部は高抵抗であるため、電子は絶縁性微粒子103aの表面を伝導していく。このとき、絶縁性微粒子の表面の不純物、絶縁性微粒子が酸化物である場合の酸素欠陥、あるいは絶縁性微粒子間の接点で、電子がトラップされる。このトラップされた電子は固定化された電荷として働く。その結果、電子加速層103の表面では、印加電圧と、トラップされた電子が作る電界とが合わさって強電界が発生し、その強電界によって電子が加速され、第2電極102から電子が放出される。このとき、電子は主に、抵抗の低い導電性微粒子103bを経由して第1電極101から第2電極102に移動する。
このような実施形態1の電子放出素子100では、第2電極102は、単層の導電膜111と、この導電膜111の電子加速層側の面(内面)上に形成したDLC膜110aとの積層構造としている。このような構成では、DLC膜の抵抗が1E7Ωcm〜1E9Ωcm以上と高いことから、第2電極102の表面での局所的な電子の放出が生じても、放出強度を低く抑えることができる。また、DLC膜110は、導電膜111に対して抵抗層として働くため、エネルギーが一定値以下の電子の放出が阻止される。これによっても、放出される電子のエネルギーの範囲を狭い範囲に制限することができ、電子の放出の均一化を図ることができる。言い換えると、第2電極内での導電膜に沿った方向での電子の広がりや電子放出量のゆらぎを抑制することで、電子放出量を含む電子放出特性の向上も期待できる。
また、DLC膜110は、熱伝導率が30〜500W/mKと高いため、電子の放出領域が偏った場合でも、電子の放出に伴って発生した熱を効果的に放熱することができる。このため、局所的な電子放出による局所的な加熱に伴う第2電極の素子の破壊を抑え、これにより素子の長寿命化も期待できる。
また、第2電極102を構成する導電膜111としての金属膜の仕事関数の低さから、電子加速層(微粒子層)で加速された電子を効率よくトンネルさせることができる。また、DLC膜110は、仕事関数は導電膜111より高いが、負の電子親和力(NEA:Negative Electron Affinity)を持つため、電子を効率よくトンネルさせることができる。このため、第2電極では、電子放出素子外に高エネルギーの電子をより多く放出させることができる。
このように、第2電極102を、電子放出特性に優れる膜(導電膜)111と、信頼性に優れる膜(DLC膜)110とを適切に形成した積層構造とすることにより、素子温度の適正化による電子放出特性の向上や素子寿命の向上が期待できる。
また、本実施形態1の電子放出素子100は、電子放出素子の第1電極と第2電極との間に電圧を印加する電源部11と組み合わせることにより、適度な電圧(例えば10〜25V)の印加により十分な電子放出量が得られると共に、長時間でも安定して連続動作可能な電子放出装置10を実現することができる。
また、第1電極101と第2電極102との間に、これら間での電界の電界強度が、1V/m〜1E7V/mとなるように電圧を印加すれば、酸素の解離エネルギーである6エレクトロンボルトよりも低いエネルギーで、空気中の酸素分子に電子を与えることができる。このため、オゾンや窒素酸化物等の有害物質の発生を防ぐことができる。つまり、大気中での電子の平均自由行程が0.1μmであるため、例えば電界強度が1E7V/mである場合、電子のエネルギーは空気分子に衝突するまでに1エレクトロンボルトになる。したがって1E7V/mよりも低い電界強度にすることで電子放出時のオゾン及び窒素酸化物の発生を防ぐことができる。
また、DLC膜は、イオンビーム蒸着、スパッタ、プラズマCVD等、ICの製造プロセスで用いられる多くの方法により堆積できるため、DLC膜を含む電子放出素子を低コストで形成することができる。また、DLC膜はグラファイト膜に比べて一般に低温で形成することができ、DLC膜の形成処理の際に発生する熱により、先に形成した電子加速層などの特性が劣化するのを抑制できる。
なお、第2電極102を構成する導電膜111は、導電膜の単層構造に限定されるものではなく、上記のような金属材料のうちの異なる材料からなる複数の金属膜を積層した積層構造としてもよい。
さらに、第2電極102は、DLC膜110のみの単層構造としてもよい。この場合も、DLC膜110の抵抗が高く、かつ熱伝導性がよいという特性から、上述したように、電子放出量を含む電子放出特性の向上を図ることができる。
また、上記実施形態1では、導電性微粒子として、導電性微粒子の周囲に第1の誘電体物質が存在する構造のものについて説明したが、導電性微粒子は、この構成に限定されるものではない。電子放出素子においては、導電性微粒子は、その周囲を被覆する第1の誘電体物質を有しない構成、または第1の誘電体物質が導電性微粒子の周囲に、その全体を被覆せずに点在して付着した構成であってもよい。このような構成であっても、第1電極(電極基板)と第2電極(薄膜電極)との間、すなわち電子加速層で電子を加速し、第2電極(薄膜電極)から電子を放出させることができる。
また、上記電子加速層103は、少なくとも一部が絶縁体物質で構成されていればよく、導電性微粒子を含まない構成であってもよい。
(実施形態2)
図2は、本発明の実施形態2による電子放出素子を説明する模式図であり、図2(a)は、この電子放出素子の断面構造を示し、図2(b)は、この電子放出素子の電子放出面の形状を示している。
この実施形態2による電子放出素子100aは、実施形態1の電子放出素子100において、その表面での電子の放出位置が表面全面に渡って分散するように第1電極101と電子加速層103との間に電子放出制御絶縁膜120を介在させたものである。
つまり、この実施形態2の電子放出素子100aは、素子の基板を兼ねる第1電極101と、第1電極101上に形成された電子放出制御絶縁膜120と、電子放出制御絶縁膜120上に形成された電子加速層103と、電子加速層103上に形成された第2電極102とを有している。ここで、第1電極101、第2電極102、および電子加速層103は、実施形態1の電子放出素子100におけるものと同一のものである。
また、電子放出制御絶縁膜120は、膜厚方向に延びる複数の貫通孔(以下、小孔ともいう。)121を有し、この小孔121には、電子放出制御絶縁膜120上に形成された電子加速層103を構成する絶縁性微粒子103aおよび金属微粒子103bが埋め込まれている。この電子放出制御絶縁膜120に形成された複数の小孔121の配置に規則性はないが、複数の小孔121は、局所的に集中することがないように分散させて配置されている。この電子放出制御絶縁膜120は、複数の小孔121を有することにより、電子放出素子100aでの電子放出をその電子放出面内で均一化する機能を有する。
このような実施形態2の電子放出素子100aでは、第1電極101と第2電極102との間に電圧を印加することにより、電子加速層103における電子放出制御絶縁膜120の小孔121に対応する部分でのみ電子が加速し、第2電極102の表面の、電子放出制御絶縁膜120の小孔121に対応する領域から電子が外部へ放出する。
以下、この実施形態2の電子放出素子100aの構成要素について詳しく説明する。
ただし、第1電極101、第2電極102、および電子加速層103は、実施形態1の電子放出素子100におけるものと同一のものであるので、主に電子放出制御絶縁膜120について説明する。
〔電子放出制御絶縁膜120〕
この実施形態2の電子放出素子100aでは、電子放出制御絶縁膜120には、例えばシリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン窒化酸化膜などの無機膜、シリコーン樹脂膜、アクリル系樹脂膜、ポリイミド系樹脂膜、エポキシ系樹脂膜、ポリエステル系樹脂膜、ポリウレタン系樹脂膜、ポリスチレン系樹脂膜などの有機膜等の絶縁膜が用いられる。
これらの絶縁膜の中でも、電子放出制御絶縁膜120としては、抵抗値、耐熱性、吸水率、機械的強度などの観点から、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコーン樹脂膜、アクリル樹脂膜およびポリイミド樹脂膜がより好ましい。
また、電子放出制御絶縁膜は、これら各種絶縁膜の単層構造としても、あるいは各種絶縁膜を組み合わせた積層構造としてもよい。また、電子放出制御絶縁膜に形成される複数の小孔のサイズ、形状、密度等は、隣接する小孔相互における電界が互いに干渉しない程度、つまり、隣接する小孔の一方における電界により加速された電子が、隣接する小孔の他方における電界により引き込まれることがない程度に、隣接する小孔における電界を分離できるものであればよい。
具体的に説明すると、この実施形態2において、電子放出制御絶縁膜120の小孔121のサイズは、例えば、一辺が1〜50.0μmの正方形内に収まるサイズであり、さらに具体的には、その内径が1〜50.0μmである。小孔121は、電子加速層103の層厚に対してその内径が小さすぎると、小孔内の電界が弱まり電子放出効率が低下しやすい傾向があり、また、逆にその内径が大きすぎると、複数の小孔を分散させて配置したことによる電子放出の均一化が達成されない傾向がある。
一方、小孔の形状は、特に限定されない。また小孔の大きさ、密度については、素子における局所的かつ連続的な電圧および電流によるストレス、あるいは加熱による機械的なストレスの緩和に関係し、サイズの小さい小孔を高密度に配置することが素子寿命の観点から好ましい。
この実施形態2の電子放出素子100aにおいて、小孔の平面視形状は、例えば、多角形(正三角形、正方形、長方形、菱形、五角形、六角形、正多角形等)、円形、楕円形等である。これらの形状の中で、電子が集中しやすい鋭利な頂点を持たない点で、短径に対する長径の長さの比が1〜2の形状が好ましく、この比を実現する楕円形がより好ましい。
また、このような小孔の平面視形状の中でも、同一面積で比較した場合に曲率が最も緩くなる円形がさらに好ましい。このとき、電子放出素子の第2電極の外表面から垂直方向に電子が安定して放出できるように、小孔の膜厚方向の断面形状は長方形または正方形であることが望ましい。また、この実施形態において、小孔は、例えば5〜5000個/mm2の密度で電子放出制御絶縁膜120に配置される。
なお、本発明において電子放出制御絶縁膜120の小孔121の内径とは、小孔121の平面視形状が円形の場合、円の直径、楕円形の場合、長径、多角形の場合、最長となる対角線の長さである。また、本発明において小孔121の短径とは、小孔の平面視形状が楕円形(長円)の場合の短径のみならず、小孔の平面視形状が多角形の場合における最短の対角線の長さを含む。長径についても同様であり、本発明において小孔121の長径とは、小孔の平面視形状が楕円形(長円)の場合の長径のみならず、小孔の平面視形状が多角形の場合における最長の対角線の長さを含む。ここで、小孔の平面視形状が多角形の場合には、平面視多角形形状は、フォトリソ工程で形成され、多角形の頂点が円弧状となった形状も含まれる。
〈製造方法〉
次に、図2を参照しながら実施形態2による電子放出素子100aの製造方法について説明する。
上記のように構成された実施形態2の電子放出素子100aの製造方法は、第1電極上101に、膜厚方向に貫通した複数の小孔121を有する電子放出制御絶縁膜120を形成する工程と、電子放出制御絶縁膜120を覆うように第1電極上101に絶縁性微粒子103aおよび導電性微粒子103bを含んでなる電子加速層103を形成する工程と、電子加速層103上に第2電極102のDLC膜110を形成する工程と、DLC膜110上に第2電極102の導電膜111を形成する工程とを含んでいる。
この実施形態2の電子放出素子の製造方法は、電子放出制御絶縁膜120の形成工程を含む点でのみ実施形態1のものと異なるので、以下電子放出制御絶縁膜2の形成工程についてのみ説明する。
まず、絶縁体材料としての例えばアクリル系樹脂を溶剤に溶かした塗液を第1電極101上にスピンコート法で塗布して塗布膜を形成し、塗布膜を加熱乾燥し、その後、フォトリソグラフィーによって、乾燥した塗布膜(絶縁膜)に複数の小孔121を形成することにより、電子放出制御絶縁膜120を形成する。
絶縁体材料は、アクリル系樹脂以外にも、例えば、シリコーン樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂などの有機ポリマーが挙げられる。また、これらの有機ポリマーは、1種または2種以上を混合して用いてもよい。
また、絶縁体材料は、有機ポリマー以外にも、シリコン酸化物やシリコン窒化物などの無機材料を用いて、例えば、スパッタ法、蒸着法、CVD法等によって電子放出制御絶縁膜120を形成してもよい。
また、小孔121の形成方法として、電子ビームリソグラフィ、プラズマエッチング、インクジェット等を用いてもよく、これらの方法に限定されるものではない。
その後は、実施形態1の電子放出素子の製造方法と同様にして、電子加速層103を形成する。ただし、この実施形態2では、電子放出制御絶縁膜120の小孔121内に絶縁性微粒子103aを満充するように絶縁性微粒子分散液における絶縁性微粒子103aの濃度は10〜50重量%に調整する。
さらに、実施形態1と同様に、第2電極102のDLC膜110、および第2電極102の導電膜111を順次形成して、電子放出素子100aを完成する。
そして、この電子放出素子100aの第1電極101と第2電極102に、リード線を介して電源部11の負極と正極を電気的に接続することにより、電子放出装置10aを完成する。
次に作用効果について説明する。
本実施形態2の電子放出素子の電子放出のメカニズムについて説明する。
本実施形態2の電子放出素子100aは、実施形態1の電子放出素子100と同様に、第1電極101と第2電極102との間に電圧が印加されると、電子放出制御絶縁膜120の小孔121内で、第1電極101から、第1電極と第2電極との間における電子加速層103中の絶縁性微粒子130aの表面に電子が移る。絶縁性微粒子103aの内部は高抵抗であるため、電子は絶縁性微粒子の表面を伝導していく。このとき、絶縁性微粒子の表面の不純物、絶縁性微粒子が酸化物である場合の酸素欠陥、あるいは絶縁性微粒子間の接点で、電子がトラップされる。このトラップされた電子は固定化された電荷として働く。その結果、電子加速層103の表面では、印加電圧と、トラップされた電子が作る電界とが合わさって強電界が発生し、その強電界によって電子が加速され、第2電極から電子が放出される。
このとき、電子は主に、抵抗の低い導電性微粒子103bを経由して第1電極101から第2電極102に移動する。また、第1電極から放出される電子は、電子放出制御絶縁膜の小孔の位置における電子加速層で加速されて第2電極から外部へ放出させる。したがって、均一かつ制御性のよい電子の放出が行われ、素子内の局所的かつ連続的な電圧および電流の印加によるストレス、および局所的な加熱による機械的ストレスの緩和を実現することができる。
この電子放出のメカニズムをマクロな視点でとらえると、電子放出制御絶縁膜120には厚み方向に貫通する複数の小孔121が設けられているので、第1電極101から各小孔121内に入り込んだ電子加速層103に電子が移動し、前記メカニズムで電子が放出される。電子放出制御絶縁膜120では、電気抵抗が高く、第1電極101からの電子が電子放出制御絶縁膜120から上層に移動しないため、電子放出が起こらない。この結果、小孔部分でのみ電子が放出されることになり、素子全体に配置した小孔から電子が均一に放出される。また、電子放制御絶縁膜120の小孔の開口パターンにしたがって電子放出が生じる素子構造になっているので、電子の放出領域を分散させることができる。
このように本実施形態2の電子放出素子100aでは、第1電極101と電子加速層103との間に設けられた電子放出制御絶縁膜120を備え、電子放出制御絶縁膜120を、分散させて配置された複数の小孔121を有する構造とすることで、電子放出させる部分である小孔121と電子放出させない部分とが交互に配列した構造としているので、第2電極102の外表面から電子の放出が、小孔に対応した領域から行われることとなる。つまり、電子の放出が第2電極102の外表面上で分散して行われることとなり、電子の放出が均一化される。これにより素子内部での局所的かつ連続的な電圧および電流の印加によるストレス、および局所的かつ連続的な発熱による機械的ストレスを緩和することができ、その結果、素子寿命の延長を図ることができる。
また、本実施形態2では、第1電極101と電子加速層103との間に電子放出制御絶縁膜120を設け、電子放出制御絶縁膜120を、分散させて配置された複数の小孔121を有する構造とすることで、DLC膜で生ずる内部応力を電子放出制御絶縁膜120により緩和することができ、第2電極102が電子加速層103から剥離するのを抑制することができる。
(実施形態3)
図3は、本発明の実施形態3による電子放出素子を説明する模式図であり、図3(a)は、この電子放出素子の断面構造を示し、図3(b)は、この電子放出素子の電子放出面の形状を示している。
この実施形態3の電子放出素子100bは、実施形態2の電子放出素子100aにおいて、複数の小孔121をランダムに配置した電子放出制御絶縁膜120に代えて、複数の小孔121を縦横整然とマトリックス状に配置した電子放出制御絶縁膜120aを備えたものである。
なお、この実施形態3の電子放出素子100bにおけるその他の構成は実施形態2のものと同一であり、この実施形態3の電子放出装置10bは、電子放出素子100bと、この電子放出素子100bの第1電極101と第2電極102との間に電圧を印加する電源部11とにより構成されている。この電源部11は実施形態2におけるものと同一である。
また、この実施形態3の電子放出素子100bの製造方法は、実施形態2の電子放出素子100aの製造方法とは、電子放出制御絶縁膜120aを構成する絶縁体材料の塗布膜をフォトリソグラフィー技術を用いてパターニングして複数の小孔121を形成する際、塗布膜のパターニングを複数の小孔121が縦横整然とマトリックス状に配置されるように行う点のみ異なる。
このような構成の実施形態3の電子放出素子100bでは、実施形態2の効果に加えて、電子放出制御絶縁膜120aを、その複数の小孔121を縦横整然とマトリックス状に配置した構造としたので、第2電極の外表面からの電子の放出をより均一なものとできる。
(実施形態4)
図4は、本発明の実施形態4による電子放出素子を説明する模式図であり、図4(a)は、この電子放出素子の断面構造を示し、図4(b)は、この電子放出素子の電子放出面の形状を示している。
この実施形態4による電子放出素子100cは、実施形態3の電子放出素子100bにおける第2電極102に代えて、第2電極102とは構造の異なる第2電極102aを備えたものであり、その他の構成は実施形態3の電子放出素子100bと同一である。
つまり、実施形態3の電子放出素子100bでは、第2電極102aの積層構造は、導電膜111の電子加速層側の面(内面)上にDLC膜110を配置した構造であるのに対し、この実施形態4の電子放出素子100cでは、第2電極102aの積層構造は、導電膜111の外面上、つまり導電膜111の電子加速層103とは反対側の面上にDLC膜110aを形成した構造である。
この実施形態4の電子放出素子100cにおけるその他の構成は実施形態3のものと同一であり、この実施形態4の電子放出装置10cは、電子放出素子100cと、この電子放出素子100cの第1電極101と第2電極102aとの間に電圧を印加する電源部11とにより構成されている。この電源部11は実施形態3におけるものと同一である。
また、この実施形態4の電子放出素子の製造方法は、実施形態3の電子放出素子の製造方法とは、電子加速層103上にはDLC膜を形成せずに第2電極102の導電膜111を直接形成し、その後、この導電膜111上に第2電極102のDLC膜110aを形成する点でのみ異なる。
このような構成の実施形態4の電子放出素子100cでは、実施形態3と同様に、DLC膜110aにより局所的な電子放出による局所的な加熱の影響を緩和でき、さらに硬いDLC膜110aにおける内部応力を、複数の小孔121を有する電子放出制御絶縁膜120aにより緩和することができ、第2電極102の剥離を抑制することができる。
(実施形態5)
図5は、本発明の実施形態5による電子放出素子を説明する模式図であり、図5(a)は、この電子放出素子の断面構造を示し、図5(b)は、この電子放出素子の電子放出面の形状を示している。
この実施形態5による電子放出素子100dは、実施形態3の電子放出素子100bにおける第2電極102に代えて、第2電極102とは構造の異なる第2電極102bを備えたものであり、その他の構成は実施形態3の電子放出素子100bと同一である。
つまり、実施形態3の電子放出素子100bでは、第2電極102の積層構造は、導電膜111の電子加速層側の面(内面)上にDLC膜110を積層した構造であるのに対し、この実施形態5の電子放出素子100dでは、第2電極102bの積層構造は、導電膜111の内面、つまり導電膜111の電子加速層側の面上にDLC膜110に形成するとともに、導電膜111の外面上、つまり導電膜111の電子加速層とは反対側の面上にもDLC膜110aを形成した構造である。
つまり、図5に示すように、実施形態5では第2電極側の両面にDLC膜を形成している。DLC膜は、30〜500W/mK程度の熱伝導率をもち、グラファイトの六角形環が広がる方向における値(1000〜2000W/mK)と比べると低いものの、高い熱伝導率をもつ。また、DLC膜は非晶質であるためにその熱伝導に異方性はなく、等方的である。このため、放熱を効果的に行うことができる。また、DLC膜の比抵抗は1E7Ω・cm〜1E9Ω・mが望ましいが、DLC膜110と導電膜111とからなる第2電極全体としては、その電気抵抗率が1E8Ω・cm以上と高いことが望ましく、この場合は、電子を放出する第2電極に抵抗体としての機能を、場合によっては絶縁体としての機能を持たせることができる。
この実施形態5の電子放出素子100dにおけるその他の構成は、実施形態3のものと同一である。また、この実施形態5の電子放出素子100dと、この電子放出素子100dの第1電極101と第2電極102bとの間に電圧を印加する電源部11とにより電子放出装置10dが構成されている。
また、この実施形態5の電子放出素子100dの製造方法は、実施形態3の電子放出素子の製造方法とは、電子加速層103上にDLC膜110を形成し、さらに、DLC膜110上に第2電極102の導電膜111を形成した後に、この導電膜111上にDLC膜110aを形成する点でのみ異なる。
このような構成の実施形態5の電子放出素子100dでは、実施形態3と同様に、DLC膜110および110aにより局所的な電子放出による局所的な加熱の影響を緩和でき、さらに硬いDLC膜により生ずる素子内部の応力を、複数の小孔を有する電子放出制御絶縁膜120aにより緩和することができ、第2電極102bの剥離を抑制することができる。
〔電子放出装置の応用例〕
さらに、上記各実施形態の電子放出装置は、光源としての自発光デバイス、この自発光デバイスを光源として備えた画像表示装置、被冷却体の冷却を促進するためのイオン風発生装置、感光体を帯電させる帯電装置、その帯電装置を備えた画像形成装置、空気清浄装置、空気調和装置、空気加湿装置、空気除湿装置、送風装置、換気装置等の主要部に用いることができる。
以下、本発明の電子放出装置を用いた応用装置を実施形態6から実施形態16として説明する。
(実施形態6)
図6は、本発明の実施形態6による自発光デバイスを説明する模式図であり、この自発光デバイスの断面構造を示している。
この実施形態6の自発光デバイス200は、実施形態3の電子放出装置10bと、この電子放出装置10bにおける電子放出素子100bを構成する第2電極102上に形成した蛍光体層201とを備えている。
蛍光体層201としては、赤、緑、青色発光に対応した電子励起タイプの蛍光体材料を用いており、例えば、赤色ではY2O3:Eu、(Y,Gd)BO3:Eu、緑色ではZn2SiO4:Mn、BaAl12O19:Mn、青色ではBaMgAl10O17:Eu2+等が用いられる。また、蛍光体層201を成膜するに当たっては、バインダーとなるエポキシ系樹脂と蛍光体微粒子との混練物を用い、バーコーター法、滴下法、スピンコート法等の公知技術によって形成することができる。
このような構成の自発光デバイス200では、電子放出素子100bの第1電極101と第2電極102との間に電源部11により電圧を印加することにより、電子放出素子100bの第2電極102の表面から放出された電子が蛍光体層201に入射して蛍光体粒子に衝突することにより、蛍光体層201が発光する。
このように自発光デバイス200において、蛍光体層201に電子を入射させる電子放出素子として実施形態3の電子放出素子100bを用いることにより、安定な面発光を実現でき、しかも素子の長寿命化を図ることができる。
(実施形態7)
図7は、本発明の実施形態7による画像表示装置を説明する模式図であり、この画像表示装置の断面構造を示している。
この実施形態7による画像表示装置1000は、図6で示した自発光デバイス200と、液晶パネル210とを備えている。この画像表示装置1000において、自発光デバイス200は液晶パネル210の後方にバックライトとして配置されている。
したがって、この場合、自発光デバイス200で白い発光色が得られるように、発光体層201には赤、緑および青の蛍光体微粒子を重量混合比1:1:1で混合したものを用いる。
なお、液晶パネル210には、従来公知のもの、例えば、バックライト側から、偏光板、ガラス基板、透明電極、配向膜、液晶、配向膜、透明電極、保護膜、カラーフィルター、ガラス基板および偏光板が積層されたパネル構造を有するものを用いることができる。
このように液晶パネル210を含む画像形成装置1000において、実施形態3の電子放出装置10bを含む自発光デバイス200をバックライトとして用いることにより、安定な面発光を実現でき、しかも素子の長寿命化を図ることができる。
(実施形態8)
図8は、本発明の実施形態8による空気清浄化装置を説明する断面図である。
この実施形態8の空気清浄化装置2001は、浮遊微粒子を含む汚染空気A1aを吸入し、汚染空気A1aから浮遊微粒子を除去して清浄化空気A2aを排出する装置である。空気清浄化装置2001は、その内部の空気流通路Ap内に電界を発生させて空気流通路Apを通過する汚染空気A1aに含まれる浮遊微粒子を帯電させる電界内通過処理装置と、帯電した汚染微粒子を静電吸着により回収する採取処理装置300と、空気流通路Ap内に空気流を発生させる回転羽式空気流発生器21とを有している。この電界内通過処理装置には実施形態3の電子放出装置10bが用いられている。
ここで、空気流通路Apは、対向するように配置された電子放出装置(電界内通過処理装置)10bと採取処理装置300との間に形成されており、電界内通過処理装置としての電子放出装置10bを構成する電子放出素子100bは、電子eを放出する第2電極102の表面が採取処理装置300の表面に対向するように配置されている。
この採取処理装置300は、電子放出素子100bの第2電極102に対応するよう配置された採取電極302と、採取電極302を保持する電極支持部材301と、採取電極302に、帯電した汚染微粒子あるいは空気分子が吸着するように採取電極302に電圧を印加する採取用電源12とを有している。また、採取処理装置300と電子放出素子100bとは、個別に電源に繋がっているが、これらの電源により採取処理装置300と電子放出素子100bとの間に電圧が印加されるようになっている。
このような空気清浄化装置2001では、回転羽式空気流発生器21を回転させて汚染空気A1を空気清浄化装置2001内に導入する。電源部11により電子放出素子100bの第1電極101と第2電極102との間に電圧を印加すると、電子放出素子100bの第2電極102の表面から電子eが放出される。この電子eが、採取処理装置300と電子放出素子100bとの離間部(空気流通路Ap)に存在する浮遊微粒子を含む汚染空気分子に衝突あるいは付着する。この衝突あるいは付着により、浮遊微粒子を含む空気分子がイオン化される。イオン化された浮遊微粒子を含む空気分子が、図8中の矢印の方向に従って、つまり、電源12により採取処理装置300と電子放出素子100bとの間に生ずる電界に沿って移動することにより、イオン風が発生する。そして、そのイオンが採取処理装置300に到達することにより、浮遊微粒子を含む空気分子が捕集される。これにより吸入された汚染空気A1に含まれる汚染微粒子が空気清浄化装置2001により回収されて清浄化される。
なお、この空気清浄化装置2001では、イオンが採取処理装置300に到達するため、採取処理装置はチャージアップする。従って、この空気清浄化装置2001では、このチャージアップを抑制するために、電極支持部材301にアースを接続してもよい。
また、電子放出素子100bと採取処理装置300の表面との離間部へは、図示しないエアフィルタを介して汚染空気A1を流入させるようにしてもよい。
(実施形態9)
図9(a)は、本発明の実施形態9による換気装置を説明する模式図であり、この換気装置の内部の構造を示している。
この実施形態9の換気装置2002は、例えば、エレベータなどの狭い室内の換気を行う装置であり、その筐体2002aには、外気A1を吸入するための吸入口30aおよび吸入した外気A2を室内に噴出すための噴出口30bが形成されている。筐体2002aには、吸入口30aから噴出口30bにいたる空気流路Apが形成されている。この空気流路Ap内には、空気流を発生する回転式空気流発生器22が取り付けられており、また空気流路Apの途中には、この空気流路Apに向けて電子を放出する電子放出装置として、実施形態3の電子放出素子10bが設けられている。
この換気装置2002では、回転式空気流発生器22の駆動により空気流路Ap内に吸入口30aから噴出口30bに向かう空気流が発生する。これにより、外気A1が換気装置2002に吸入され、吸入された外気が空気流路Apを移動して噴出口30bから噴出される。このとき、空気流路Apの噴出口30bの近傍では、電子放出装置10bにより電子eが空気流路Ap内に放出されており、電子の衝突によりイオン化した空気の分子が噴出口30bから吹き出される。
これにより噴出された空気はイオンを含んだものとなり、室内の殺菌や消臭を行うことができる。
(実施形態10)
図9(b)は、本発明の実施形態10による空気調和装置を説明する図であり、この空気調和装置の内部の構造を示している。
この実施形態10の空気調和装置2003は、室内の冷暖房に用いるエアーコンディショナーであり、この空気調和装置2003は、図9(a)に示す換気装置2002において、空気通路の吸入口30aの近傍位置に配置された熱交換器400を備えたものであり、その他の構成は、実施形態3の換気装置2002と同一である。
この空気調和装置2003では、回転式空気流発生器22の駆動により空気流路Ap内に吸入口30aから噴出口30bに向かう空気流が発生する。これにより吸入口30aから吸入された外気は、運転モードに応じて熱交換器400により冷却あるいは加熱され、さらに、電子放出装置10bから放出された電子とともに噴出口30bから噴出される。
これにより、室内の冷暖房中に、イオンを含んだ冷気あるいは暖気により室内の殺菌や消臭などを行うことができる。
なお、実施形態10では、空気調和装置として温度調整処理を行うものを示したが、空気調和装置は、室内の温度に加えて、室内の湿度および室内の空気の清浄度の調整を行うものであってもよく、このような空気調和装置においても、空気流路Apの途中に、この空気流路Apに向けて電子を放出する電子放出装置として実施形態3の電子放出素子10bを設けることにより、少なくとも温度、湿度、および清浄度の調整処理を施した空気をイオンとともに室内に排出することができる。
(実施形態11)
図10(a)は、本発明の実施形態11による空気加湿装置を説明する模式図であり、この空気加湿装置の内部の構造を示している。
この実施形態11による空気加湿装置3001は、その筐体3003aの一部に水を溜めるタンク502が取り付けられており、そのタンク502の底部には水を排出する排出口502aが形成されている。また、筐体3001aの底部には、水を霧状態にして噴出させる超音波振動子501が取り付けられている。また、筐体3001aの側壁には実施形態3の電子放出装置10bが取り付けられており、霧状態の水Wが電子放出装置10bから放出された電子eとともに空気加湿装置3001から放出されるようになっている。
これにより、室内の加湿中に、イオンを含んだ霧状態の水により室内の殺菌や消臭などを行うことができる。
(実施形態12)
図10(b)は、本発明の実施形態12による空気除湿装置を説明する模式図であり、この空気除湿装置の内部の構造を示している。
この実施形態12の空気除湿装置3002は、その筐体3002aには、空気A1を吸入するための吸入口40aおよび吸入した空気A2を室内に噴出すための噴出口40bが形成されている。筐体3002aには、吸入口40aから噴出口40bにいたる空気流路Apが形成されている。この空気流路Ap内には、空気流を発生する空気流発生器23が取り付けられており、また空気流路Apの途中には、この空気流路Apに向けて電子を放出する電子放出装置として、実施形態3の電子放出装置10bが取り付けられている。
この空気除湿装置3002では、空気流発生器23の駆動により空気流路Ap内に吸入口40aから噴出口40bに向かう空気流が発生する。これにより吸入口40aから吸入された空気A1は、熱交換器401により除湿され、除湿された空気A2が、電子放出装置10bから放出された電子eとともに噴出口40bから噴出される。
これにより、室内の除湿中にイオンを含んだ除湿された空気A2により室内の殺菌や消臭などを行うことができる。
(実施形態13)
図10(c)は、本発明の実施形態13による送風装置を説明する模式図であり、この送風装置の内部の構造を示している。
この実施形態13の送風装置3003は、例えば、ヘアードライヤであり、本体部601と本体部601に取り付けられた把持部602とを有し、本体部601には空気通路が形成されている。この本体部601は、空気通路の一端に設けられ、空気A1を吸入するためのファン24と、空気通路の他端側に設けられ、イオンを発生するイオン発生装置とを有し、吸入された空気A2を空気通路の他端側の噴出口601aからイオンとともに噴出すようになっている。また、この送風装置3003では、イオン発生装置には実施形態3の電子放出装置10bが用いられている。
このようなヘアードライヤでは、頭髪を乾かす際にイオンにより殺菌したり消臭したりすることができる。
(実施形態14)
図11は、本発明の実施形態14による帯電装置を説明する断面図であり、この帯電装置の断面構造を示している。
この帯電装置4000は、電子写真方式の画像形成装置を構成する、露光パターンにより潜像を描画するための感光体701を被帯電体として帯電させるものであり、実施形態3の電子放出装置10bを、その電子放出素子100bの第2電極102の表面が感光体701に対向するように感光体701に対して配置したものである。ここで、帯電装置として用いる電子放出装置10bの電子放出素子100bは、感光体701から、例えば3〜5mm隔てて配置されることが好ましい。また、電子放出素子100bへの印加電圧は25V程度が好ましく、電子放出素子100bにおける電子加速層103は、例えば、25Vの電圧印加で、単位時間当たり1μA/cm2の電子が放出されるように構成されていればよい。
なお、画像形成装置における帯電装置以外の構成は、公知の一般的な画像形成装置におけるものを用いることができる。
この帯電装置4000では、電子放出装置10bの電源部11により電子放出素子100bの第1電極101と第2電極102との間に電圧を印加することにより、第2電極102の表面から感光体701に向けて電子eが放出される。これにより感光体701は電子eを受け取って帯電する。
この実施形態14の帯電装置として用いられる電子放出装置10bは、大気中で動作しても放電を伴わず、従って帯電装置からのオゾンの発生はない。
つまり、オゾンは人体に有害であり、環境に対する各種規格で規制されている他、機外に放出されなくとも機内の有機材料、例えば、感光体やベルトなどを酸化し劣化させてしまうが、本実施形態14のように、画像形成装置の帯電装置4000として実施形態3の電子放出装置10bを用いることで、上記のような帯電装置からのオゾンの発生に起因する問題を解消できる。
また、この電子放出素子100bは電子放出量が向上しているため、帯電装置によって感光体を効率よく帯電することができる。さらに、この電子放出素子100bが同一基板に複数形成された電子放出装置を帯電装置として用いることにより、帯電装置は、線状電子源としてではなく、面電子源として構成されるので、感光体の回転方向へも幅を持って感光体を帯電することができる。つまり、感光体の表面を帯電させるための領域を感光体の回転方向に沿った広い範囲に渡って確保することでき、言い換えると、感光体のある箇所への帯電機会を多く稼ぐことができる。よって、この実施形態14の帯電装置は、感光体を線状に帯電させるワイヤ電子放出素子などと比べ、感光体の表面での均一な帯電を可能とする。また、この実施形態14の帯電装置は、数kVの電圧印加が必要なコロナ放電器と比べて、10V程度と印加電圧が格段に低くてすむという利点を有する。
また、この実施形態14の帯電装置によれば、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質を発生させることなく、長期間安定して被帯電体である感光体を帯電させることができる。
(実施形態15)
図12は、本発明の実施形態15によるイオン風発生装置を示す模式図であり、このイオン風発生装置の断面構造を示している。
この実施形態15によるイオン風発生装置5001は、被冷却体800を冷却する冷却装置5000を構成しており、実施形態3の電子放出装置10bからなる。ここで、電子放出装置10bは、その電子放出素子100bの第2電極102の表面が被冷却体800の表面に対して鋭角をなすように被冷却体800上に配置されている。また、被冷却体800は電気的に接地されている。なお、冷却装置5000は、被冷却体800を空冷するための空気流A1を被冷却体800上に送るファン25を有している。
このような冷却装置5000では、ファン25により空冷用の空気流A1が被冷却体800上に送り込まれると同時に、電子放出装置(イオン風発生装置)10bを構成する電子放出素子100bの第2電極102の表面から被冷却体に向かって電子eが放出されることにより、被冷却体800上にイオン風を発生させて被冷却体を効果的に冷却することができる。
つまり、従来、ファンのみで被冷却体の表面に風を送っても、その表面に最も近い空気分子は留まって動かないという所謂ノースリップ効果が発生するため、被冷却体の表面の冷却効果が低かった。
これに対し、ファン25に加えてイオン風発生装置である電子放出装置10bを用いることにより、電子放出素子100bからの電子eが空気分子と衝突してイオンを生じ、さらにこのイオンが周りの空気分子に衝突することによって、空気分子やイオンが移動することとなって、イオン風が発生する。
このとき、イオンは電位差もしくは電界によって被冷却体800の表面まで運ばれ、被冷却体800との間に働く電界である鏡像力により、熱い分子と冷たいイオンが交換されるため、被冷却体800の表面が冷却される。この場合、例えばイオン風発生装置が単位時間当たり1μA/cm2の電子を放出するように、電子放出素子100bに印加する電圧を18V程度に設定することが好ましい。なお、被冷却体としては、半導体素子とそれらを搭載した装置等、具体的にはコンピューターや携情報端末のCPUやLED等が挙げられる。
また、このイオン風発生装置によれば、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質の発生がなく、被冷却体表面でのスリップ効果を利用することにより、被冷却体表面を高効率で冷却することができる。
また、この実施形態15では、電子放出装置10bは、その電子放出素子100bの第2電極102の表面と被冷却体800の表面との距離が空気の流入側で近くなるように、被冷却体800の表面に対して傾斜させて配置されているので、被冷却体800の空気の流入側部分を効率よく冷却することができる。
(実施形態16)
図13は、本発明の実施形態16による冷蔵装置を示す模式図であり、この冷蔵装置の断面構造を示している。
この実施形態16による冷蔵装置6000は、物品を室温より低い温度で保存する装置である。この冷蔵装置6000は、物品911〜913を保存する保存庫6000aと、保存庫6000a内の雰囲気を冷却する冷却器900と、電子を放出する電子放出装置10bとを有している。ここで、電子放出装置10bは実施形態3の電子放出装置と同一のものである。また、この冷蔵装置6000は、保存庫6000a内に設けられ、物品911〜913を載置する導電性の物品載置台910と、保存庫6000a内の雰囲気を、矢印B1およびB2で示すように、熱交換器900と通って物品載置台910上を通過する経路を含む循環経路内で循環させる雰囲気循環用のファン25とを有している。
このような冷蔵装置6000では、ファン25により保存庫6000a内の雰囲気が矢印B1およびB2で示すように循環させると同時に、電子放出装置10bを駆動して電子放出素子100bの第2電極102の表面から、物品載置台910上の物品911〜913に向けて電子eが放出されると、保存庫6000a内で冷却された雰囲気とともにイオンが循環することとなる。
これにより、冷蔵保存されている物品911〜913の殺菌や滅菌などの処理を行うことができる。
なお、上記実施形態6ないし16の電子放出装置を応用した応用装置では、電子放出装置として実施形態3による電子放出装置10bを用いたものを示しているが、このような応用装置で用いる電子放出装置は、実施形態3のものに限定されず、実施形態1、2、4、5のいずれかの電子放出装置を用いてもよい。
また、これらの応用装置で用いる電子放出装置は、単体の電子放出素子のみから構成されたものに限定されず、複数の電子放出素子から構成されたものでもよい。例えば、複数の電子放出素子を平面体上に配置してなる電子放出装置を、上記応用装置に用いてもよい。この場合は、電子放出装置を構成する複数の電子放出素子において、第1電極を共通化してもよい。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。