〔実施形態1〕
第1の実施形態に係るイオン化装置について、図面を参照し説明すれば以下のとおりである。
図1に、本発明のイオン化装置の構成の断面図を示す。
本発明の第1の実施形態のイオン化装置10はイオン化部15に導入されたガスをイオン化する装置であり、イオン化部15、電子放出素子1、対向電極14、試料導入のための導入口を少なくとも有している。
試料導入のための導入口はイオン化装置10の外壁を貫いて形成されたガス流路である。電子放出素子1はイオン化部15に面して設けられており、電源7により電圧が印加されて用いられる。さらに対向電極14が電子放出素子1に対向して設けられている。
本第1の実施形態では、上記構成からなるイオン化装置10が、細孔19を介して質量分析部20と一体化しており、質量分析装置を形成している。また、イオン化部15に導入されたガスのうち、不要分を排出するためのガス排出口13も備えている。
次に、電子放出素子1の詳細について説明する。
電子放出素子1は、基板でもある第1電極2と、第2電極3と、その間に挟まれて存在する電子加速層4とからなる。また、第1電極2と第2電極3とは電源7に繋がっており、互いに対向して配置された第1電極2と第2電極3との間に電圧を印加できるようになっている。電子放出素子1は、第1電極2と第2電極3との間に電圧を印加することで、第1電極2と第2電極3との間、つまり、電子加速層4に電流を流し、その一部を印加電圧の形成する強電界により弾道電子として、第2電極3を透過あるいは第2電極3の隙間(微細孔)から放出させる。
第1電極2は、基板の機能を兼ねる電極基板であり、導体で形成された板状体で構成されている。
第1電極2は、電子放出素子1の支持体として機能すると共に、電極として機能するため、ある程度の強度を有し、かつ適度な導電性を有するものであればよい。例えば、ステンレス(SUS)、Al、Ti、Cu等の金属で形成された基板、Si、Ge、GaAs等の半導体基板を用いることができる。
また、第1電極2は、導電性膜からなる電極が、ガラス基板またはプラスティック基板等の絶縁体基板上に形成された構造体であってもよい。
例えば、ガラス基板を用いる場合、電子加速層4との界面となるガラス基板の表面を、マグネトロンスパッタ等を用いて導電性膜で被覆し、第1電極2として用いてもよい。
導電性膜の材料としては、大気中での安定動作を所望するのであれば、抗酸化力の高い導電性材料を用いることが好ましく、貴金属を用いることがより好ましい。また、導電性膜には、酸化物導電材料であり透明電極に広く利用されているITOも有用である。
また、第1電極2が絶縁体基板を被覆する導電性膜で構成される場合、導電性膜に強靭さが要求されるため、複数の導電性膜を積層してもよい。
例えば、ガラス基板表面にTi膜を膜厚200nmで形成し、その上にCu膜を膜厚1000nmで形成した金属積層膜や、ガラス基板表面にMo膜を膜厚30nmで形成し、その上にAl膜を膜厚130nmで形成し、その上にMo膜を膜厚50nmで形成した金属積層膜を第1電極2として用いてもよいが、これら材料や数値に限定されることはない。Ti薄膜とCu薄膜でガラス基板を被覆すると、強靭な導電性薄膜を形成できる。
なお、絶縁体基板の表面の導電性膜を、周知のフォトリソやマスクを用いて方形等にパターニングして電極を形成してもよい。
第2電極3は、第1電極2と対になることで電子加速層4内に電圧を印加させるものである。そのため、電圧の印加が可能となるような材料であれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層4内で加速され高エネルギーとなった電子をなるべくエネルギーロス無く透過させて放出させるという観点から、仕事関数が低くかつ薄膜を形成することが可能な材料であれば、より高い効果が期待できる。このような材料として、例えば、仕事関数が4〜5eVに該当する金、銀、炭素、タングステン、チタン、アルミ、パラジウムなどが挙げられる。中でも大気圧中での動作を想定した場合、酸化物および硫化物形成反応のない金が、最良な材料となる。また、酸化物形成反応の比較的小さい銀、パラジウム、タングステンなども問題なく実使用に耐える材料である。また第2電極3の膜厚は、電子放出素子1から外部へ電子を効率良く放出させる条件として重要であり、第2電極3を平面電極として機能させるための最低膜厚は10nmであり、これ未満の膜厚では電気的導通を確保できない。さらには、10〜300nmの範囲とすることが好ましい。
電子加速層4は、導電体微粒子または絶縁体物質を含んでいればよい。本実施形態1では、電子加速層4として導電体微粒子と絶縁体物質の両方を有する形態を例に説明する。具体的には電子加速層4は絶縁性微粒子5と導電性微粒子6とを含んでいる。
ここで、導電性微粒子6の金属種としては、弾道電子を生成するという動作原理の上ではどのような金属種でも用いることができる。ただし、大気圧動作させた時の酸化劣化を避ける目的から、抗酸化力が高い金属である必要があり、貴金属が好ましく、例えば、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルといった材料が挙げられる。このような導電性微粒子6は、公知の微粒子製造技術であるスパッタ法や噴霧加熱法を用いて作製可能であり、応用ナノ研究所が製造販売する銀ナノ粒子等の市販の導電性微粒子粉体も利用可能である。
ここで、導電性微粒子6の平均径は、導電性を制御する必要から、以下で説明する絶縁性微粒子5の大きさよりも小さくなければならず、3〜10nmであるのがより好ましい。導電性微粒子6の平均径を、絶縁性微粒子5の粒子径よりも小さく、好ましくは3〜10nmとすることにより、電子加速層4内で、導電性微粒子6による導電パスが形成されず、電子加速層4内での絶縁破壊が起こり難くなる。粒子径が上記範囲内の導電性微粒子6を用いることで、弾道電子が効率よく生成される。
絶縁性微粒子5に関しては、その材料は絶縁性を持つものであれば特に制限なく用いることができる。ただし、電子加速層4を構成する微粒子全体における絶縁性微粒子5の重量割合は80〜95%、またその大きさは、導電性微粒子6に対して優位な放熱効果を得るため、導電性微粒子6の直径よりも大きいことが好ましく、絶縁性微粒子5の直径(平均径)は10〜1000nmであることが好ましく、12〜110nmがより好ましい。絶縁性微粒子5の材料はSiO2、Al2O3、TiO2といったものが実用的となる。
電子加速層4は薄いほど強電界がかかるため低電圧印加で電子を加速させることができるが、層厚方向における抵抗調整が可能となることなどから、その層厚は、12〜6000nm、より好ましくは300〜6000nmであるとよい。
次に、電子放出の原理について説明する。電子加速層4は、その大部分が絶縁性微粒子5で構成され、その隙間に導電性微粒子6が点在している。絶縁性微粒子5および導電性微粒子6の比率は、絶縁性微粒子5および導電性微粒子6の総重量に対する絶縁性微粒子5の重量比率が80%に相当する状態であり、絶縁性微粒子5一粒子当たりに付着・接触する導電性微粒子6は六粒子程度となる。
電子加速層4は絶縁性微粒子5と少数の導電性微粒子6とで構成されるため、半導電性を有する。よって電子加速層4へ電圧を印加すると、極弱い電流が流れる。電子加速層4の電圧電流特性は所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。この電流の一部は、印加電圧が形成する電子加速層4内の強電界により弾道電子となり、第2電極3を透過あるいはその隙間を通過して電子放出素子1の外部へ放出される。
ここで、電子放出素子1の電子放出のメカニズムについて説明する。
電子放出素子1は、第1電極2と第2電極3との間に電圧が印加されると、第1電極2から、第1電極2と第2電極3との間における電子加速層4中の絶縁性微粒子5の表面に電子が移る。絶縁性微粒子5の内部は高抵抗であるため、電子は絶縁性微粒子5の表面を伝導していく。
このとき、絶縁性微粒子5の表面の不純物、絶縁性微粒子5が酸化物である場合の酸素欠陥、あるいは絶縁性微粒子5間の接点で、電子がトラップされる。このトラップされた電子は固定化された電荷として働く。
その結果、電子加速層4の表面では、印加電圧と、トラップされた電子が作る電界とが合わさって強電界が発生し、その強電界によって電子が加速され、第2電極3から電子が放出されると考えられる。
なお、実施形態1では、電子加速層4中に導電性微粒子6を添加することによって絶縁性微粒子5の表面に付着・接触させ、絶縁性微粒子5の表面の電子伝導を制御し、電子加速層4を流れる電流値電子放出量を制御することができる。
電子放出素子1の、作製方法の一例について説明する。まず、第1電極2上に、絶縁性微粒子5と、導電性微粒子6とを分散させた分散溶液をスピンコート法を用いて塗布することで、電子加速層4を形成する。ここで、分散溶液に用いる溶媒としては、絶縁性微粒子5と、導電性微粒子6とを分散でき、かつ塗布後に乾燥できれば、特に制限なく用いることができ、例えば、トルエン、ベンゼン、キシレン、ヘキサン、テトラデカン等を用いることができる。また、導電性微粒子6の分散性を向上させる目的で、事前処理としてアルコラート処理を施すとよい。また、スピンコート法による成膜、乾燥、を複数回繰り返すことで所定の膜厚にすることができる。電子加速層4は、スピンコート法以外に、例えば、滴下法、スプレーコート法等の方法でも成膜することができる。そして、電子加速層4上に第2電極3を成膜する。第2電極3の成膜には、例えば、マグネトロンスパッタ法を用いればよい。
次に、イオン化動作について説明する。
イオン化部15にてイオン化するためのガスとして、ガス導入口11にキャリアガス21を導入し、ガス導入口12に試料ガス22を導入する。
試料ガス22はイオン化を行う対象物質であり、質量分析装置において質量分析を行う対象物質である。試料ガス22は、便宜上ガスと表記しているが、気体ガスに限定されるものではなく、以下の「ガスとして扱える状態」を含むものである。分析目的物質が揮発性有機溶剤の場合気体ガスであるが、常温常圧でガス以外の物質の場合は、「ガスとして扱える状態」にするために以下の手法を用いることができる。例えば常温常圧で液体の場合には、エアゾール(エアロゾル)状態、すなわち別のガス圧力を利用して試料(例えばタンパク質)を霧状に吹き出し、前記ガス中に固体または液体の微粒子を分散し浮遊させた状態にすればよい。他の手法としては、液体や固体をヒータやレーザ照射などによる加熱を利用してガスとして扱える状態にすることができる。
キャリアガス21は、試料ガス22のイオン化を効率よく行うために試料ガス22と同時に供されるガスであり、Ar、Heなどの希ガスやN2などの不活性ガスが用いられる。ただし、試料ガス22が単独でイオン化可能の場合は、キャリアガス21を導入しなくてもよい。
イオン化部15では試料ガス22とキャリアガス21が混合した状態となっており、この混合状態のガスを本実施形態1では「分析ガス」と呼ぶこととする。すなわち「分析ガス」には分析の対象である試料ガス22と、試料ガス22のイオン化を効率よく行うためのキャリアガス21の両方が含まれている。
試料ガス22とキャリアガス21の各流量、すなわちその導入比率や、排出ガス23の流量を調整することにより、試料ガス22の使用量・消費量、分析ガスのイオン化効率、質量分析部20に導入される分析イオンの数、分析イオンに含まれる試料ガス22由来イオンの比率、イオン化部15における分析ガスの圧力、等を制御することができる。このようにして、本実施形態1においては、イオン化部15での分析ガスを大気圧状態に維持する。
この状態で電源7に5〜20Vの電圧を印加すると、電子放出素子1からイオン化部15に向けて電子が放出される。この時の電子のエネルギーは15eV程度以下と非常に低い値となる。この状態では、電子放出素子1から放出された電子は素子表面付近で滞留するため、対向電極14に数百V程度の引き出し電圧を印加することで、放出電子が対向電極14の方向に引き出される。引き出された電子はエネルギーが低いために、分析ガスの分子と衝突する際に分子に捕獲され、「電子付着」現象を起こして負イオンを生成する。
上記のようにイオン化部15で生成されたイオンは、細孔19を介して質量分析部20に輸送される。質量分析部20は、具体的には質量分離部や検出部などからなり、質量を分析することができる。なお、この輸送の駆動力には、分析ガスの圧力、すなわちイオン化部15と質量分析部20の圧力差を用いても構わないし、電極を適切な場所に設けてその間の電位差を利用しても構わない。
ここまで、実施形態1のイオン化装置によるイオン化について説明してきたが、本発明により得られる効果を説明する。
実施形態1においては、イオン化部15における分析ガスを大気圧としたため、分析ガス分子が真空状態や低ガス圧状態に比べて数多く存在する。このため、比較的イオン化効率が高く、効率よく分析ガス由来のイオンを生成するという効果を奏する。また、大気圧で電子放出が可能であるため、試料のガス化も大気圧で行うことができ、操作性が容易となる。
実施形態1の電子付着現象を用いたイオン化を行うことにより、従来の手法に比べて次の効果がある。
1つめには、低エネルギーの電子による、従来にない非常にソフトなイオン化が可能となる点である。特許文献1に記載の放電やプラズマによりガスをイオン化する大気圧化学イオン化法(APCI)では、針電極の先端でコロナ放電を発生させるための電圧として数kVオーダーの高電圧が必要であり、放電場のエネルギーが高い。このため、雰囲気ガス種によっては活性なイオンやラジカルが発生し、分析したい試料物質を変質させ、劣化させる可能性がある。さらに雰囲気ガスの選択の自由度が狭く、ガス種が限定されることで、イオン化効率を高くするガスが利用できないなどの課題もあった。これに対し、本実施形態1では、分析ガスの放電開始電圧より低い数十eV以下の低エネルギー電子による電子付着現象を利用するため、不要なラジカルが発生することがなく、分析したい試料物質が壊れにくいという効果を奏する。
2つめには、単純な構成にて実現できる点である。特許文献1に記載の大気圧化学イオン化法(APCI)では、キャリアガスを用いて一次イオンをまず発生させ、その後試料ガスと混合することで試料ガスをイオン化していた。そのためにイオン化を二段階に分ける必要があり、イオン化のための空間を2室用意する必要があった。これに対し、本実施形態1では、電子付着現象を利用するため、試料ガスとキャリアガスの両方を導入、混合してからイオン化部でイオン化すればよい。すなわち構造上も工程上も簡便という効果を奏する。
3つめには、例えばタンパク質を分析する場合に下記のような副次的効果がある。タンパク質にはアミノ酸の一次元の鎖構造部分(以下、主鎖と呼ぶ)と、タンパク質を特徴付ける修飾分子からなるが、タンパク質に電子付着を適用すると、アミノ酸の主鎖を優先的に断片化し、修飾分子は主鎖に結合したまま残るという性質がある。その結果、修飾分子が主鎖に残るので、修飾タンパク質の修飾部位の決定に有利であり、タンパク質の分析に極めて有効であるという効果を奏する。
さらに、実施形態1の電子放出素子1を用いた電子放出を行うことにより、従来の手法に比べて次の効果がある。
1つめには、電子放出効率の点である。従来、大気圧中に電子を放出する手段としては、大気圧光電子放出がほぼ唯一の手法であった。これに対し、電子放出素子1を用いることで、大気圧光電子放出の10万倍程度の高効率で電子を得ることができる。この結果、極めて高効率で電子を得ることができるという効果を奏する。
2つめには、イオン発生条件が広い点である。試料ガスやキャリアガスの供給状況やガス比率の要請によって、例えばロータリーポンプで実現できる程度の中真空状態でイオン化が求められる場合があるとする。特許文献1に記載の大気圧化学イオン化法(APCI)では、放電やプラズマによりガスや試料をイオン化するため、その放電条件やプラズマ発生条件はガスの真空度に大きく依存して変化する。大気圧でイオン化できるように装置が設計されている場合には、上記中真空状態のガスをイオン化するためには各条件を大きく変える必要があり、調整や制御が困難であったり、イオン化できなくなったりする場合がある。これに対し本実施形態1の電子放出素子1を用いれば、大気圧、上記中真空のいずれにおいても、ほぼ同条件で電子を放出することが可能であるため、大きな仕様変更や調整を伴うことなく同装置でイオン化が可能であり、装置の汎用性・応用性・自由度が高いという効果を奏する。なお、上述した中真空状態とは、大気圧から、ロータリーポンプで到達できる真空度までの範囲をいうものとする。一般的なロータリーポンプの到達真空度は0.1Pa程度である。実施形態1ではイオン化部15での分析ガスを大気圧状態に維持する例を示したが、試料ガス22やキャリアガス21、排出ガス23の流量を調整すれば、イオン化部15における分析ガスの圧力を中真空に制御できるので、上述のイオン化が容易に可能である。
なお、第1の実施形態では電子加速層4が絶縁性微粒子および導電性微粒子樹脂からなる例を示したが、実際には、絶縁性微粒子のみからなる構成、樹脂および導電性微粒子からなる構成など、種々の組み合わせが可能である。各要素の最適比率や微粒子の平均径などは各組み合わせにおいて条件が異なる場合があるが、電子加速層は、樹脂、絶縁性微粒子および導電性微粒子のうち少なくとも1つを含むことでその機能を果たす。
なお、第1の実施形態では上述のように質量分析装置の形態を示したが、これはあくまで用途の一例であって、本願の技術思想はイオン化装置10がイオンを発生する構成であれば、どのような形態であってもよい。例えばイオン化装置10は単独のイオン発生器であってもよい。
〔実施形態2〕
第2の実施形態に係るイオン化装置について、図面を参照し説明すれば以下のとおりである。
図2に、本発明の第2の実施形態のイオン化装置を構成する電子放出素子39の断面図を示す。本発明の第2の実施形態のイオン化装置は、実施形態1とは、電子放出素子1の代わりに電子放出素子39を有する点が異なる。その他の点は実施形態1と共通である。電子放出素子39を構成する各要素の番号について、実施形態1の電子放出素子1中の要素と同様の要素には同一の符号を付している。
まず、電子放出素子39の概要について説明する。
電子放出素子39は、第1電極2と、第1電極2上に形成され、膜厚方向に貫通した複数の小孔32aを有する電子放出制御絶縁膜32と、電子放出制御絶縁膜32の膜厚以上の膜厚を有すると共に、電子放出制御絶縁膜32上および電子放出制御絶縁膜32の各小孔32a内に埋め込まれる絶縁性微粒子5を含んでなる電子加速層33と、電子加速層33上に形成された炭素薄膜34と、炭素薄膜34上に形成された第2電極3とを備える。
また、この電子放出素子39は、電子放出素子39の第1電極2と第2電極3との間に電圧を印加する電源37を備えることにより、電子放出が可能となる。このとき、電源37のマイナス極に第1電極2が電気的に接続され、電源37のプラス極に第2電極3が電気的に接続される。
第1電極2と第2電極3との間に電圧を印加することにより、第1電極2から放出される電子を前記電子放出制御絶縁膜32の前記小孔32aの位置における前記電子加速層33で加速させて第2電極3から外部へ放出させるように構成されている。
つまり、本実施形態2の電子放出素子39は、均一に配置された複数の小孔32aを有する電子放出制御絶縁膜32を第1・第2電極間の第1電極2側に設けることにより、第2電極3の外表面から均一に電子を放出することができるものである。
ここで、本実施形態2の電子放出素子39の電子放出のメカニズムについて説明する。実施形態1と同様に、第1電極2と第2電極3との間に電圧が印加されると、第1電極2から、第1電極2と第2電極3との間における電子加速層33中の絶縁性微粒子5の表面に電子が移る。絶縁性微粒子5の内部は高抵抗であるため、電子は絶縁性微粒子5の表面を伝導していく。
このとき、絶縁性微粒子5の表面の不純物、絶縁性微粒子5が酸化物である場合の酸素欠陥、あるいは絶縁性微粒子5間の接点で、電子がトラップされる。このトラップされた電子は固定化された電荷として働く。
その結果、電子加速層33の表面では、印加電圧と、トラップされた電子が作る電界とが合わさって強電界が発生し、その強電界によって電子が加速され、第2電極3から電子が放出される。
なお、実施形態1では、電子加速層4中に導電性微粒子6を添加したが、本実施形態2で示すように電子加速層33に絶縁性微粒子5を用いる場合には、導電性微粒子6を含まない構成でも電子を放出することが可能である。
一方、このメカニズムをマクロな視点でとらえると、電子放出制御絶縁膜32には厚み方向に貫通する複数の小孔32aが設けられ、各小孔32a内に入り込んでいる電子加速層33の絶縁性微粒子5に第1電極2から電子が移動し、前記メカニズムで電子が放出される。
電子放出制御絶縁膜32では、電気抵抗が高く、第1電極2からの電子が電子放出制御絶縁膜32から上層に移動しないため、電子放出が起こらない。
この結果、小孔32a部分でのみ電子が放出されることになり、電子放出素子39全体に配置した小孔32aから電子が均一に放出される。また、電子放出制御絶縁膜32のパターンにしたがって電子放出が生じる素子構造になっているので、制御性よく電子が放出される。
このように、本実施形態2の電子放出素子39は、電子放出制御絶縁膜32に電子放出させる部分(小孔32a)と電子放出させない部分とが交互に配列したパターン構造であるため、前記メカニズムに基づいて均一に制御性よく電子放出することができる。
なお、電子放出素子39に印加する電圧は、直流電圧でも交流電圧でもどちらでもよいが、電子放出量が比較的安定している交流電圧の方が好ましい。以下、本明細書において、単に「電圧」というときは「交流電圧」と「直流電圧」の両方を指すものとする。
また、本実施の形態2の電子放出素子39の製造方法は、第1電極2上に、膜厚方向に貫通した複数の小孔32aを有する電子放出制御絶縁膜32を形成する工程(A)と、前記電子放出制御絶縁膜32を覆うように第1電極2上に絶縁性微粒子5を含んでなる電子加速層33を形成する工程(B)と、前記電子加速層33上に第2電極3を形成する工程(C)とを含む。この製造方法により、上記の電子放出素子39を製造することができる。
電子放出素子39は、電子放出制御絶縁膜32に、例えば、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコン窒化酸化膜などの無機膜、シリコーン樹脂膜、アクリル系樹脂膜、ポリイミド系樹脂膜、エポキシ系樹脂膜、ポリエステル系樹脂膜、ポリウレタン系樹脂膜、ポリスチレン系樹脂膜などの有機膜等の絶縁膜を用いてもよい。これらの実施形態の中でも、抵抗値、耐熱性、吸水率、機械的強度などの観点から、シリコン酸化膜、シリコン窒化膜、シリコーン樹脂膜、アクリル樹脂膜およびポリイミド樹脂膜がより好ましい。
これらの絶縁膜の膜厚は、電子放出素子に印加する電圧の大きさによって異なるが、例えば、膜厚0.1〜3μmとすることができる。
また、電子放出制御絶縁膜32は、これら各種絶縁膜の単層膜であっても積層膜であってもよい。
また、電子放出制御絶縁膜32に形成される複数の小孔32aのサイズ、形状、密度等は、隣接する小孔相互における電界が互いに干渉しない程度であればよい。小孔32aはランダムに配置されていて構わないが、電子放出素子39からより均一に電子を放出できる観点から、電子放出素子39の全面にわたって縦横整然とマトリックス状に配置されていることが好ましい。
より具体的に説明すると、小孔32aのサイズは、例えば、一辺が1〜500μmの正方形内に収まるサイズであり、さらに具体的には、その内径が5〜300μmである。小孔32aは、電子加速層33の層厚に対してその内径が小さすぎると、小孔32a内の電界が弱まり電子放出効率が低下しやすい傾向があり、また、逆にその内径が大きすぎると、電子放出の均一性が損なわれる傾向がある。このため、小孔32aの内径は、電子加速層33の層厚の8.5〜300倍が好ましい。70倍程度がさらに好ましく、具体的な数値範囲として、21.2〜141.4μm(3桁目を四捨五入すると21〜140μm)が好ましい。ここで、電子加速層33の層厚は、後述するように、好ましくは0.3〜2.0μmである。なお、電子放出素子39全体のサイズは、例えば数mm〜数cm程度の平面である。
一方、小孔32aの形状は、特に限定されない。その平面視形状は、例えば、多角形(正三角形、正方形、長方形、菱形、五角形、六角形、正多角形等)、円形、楕円形等である。これらの形状の中で、電子が集中しやすい鋭利な頂点を持たない点で、短径に対する長径の長さの比が1〜2の形状が好ましく、この比を実現する楕円形がより好ましい。また、このような形状の中でも、同一面積で比較した場合に曲率が最も緩くなる円形がさらに好ましい。
このとき、電子放出素子39の第2電極3の外表面から垂直方向に電子が安定して放出できるように、小孔32aの膜厚方向の断面形状は長方形または正方形であることが望ましい。
また、小孔32aは5〜2000個/mm2の密度で電子放出制御絶縁膜32に配置される。
なお、本発明において小孔32aの内径とは、小孔の平面視形状が円形の場合、円の直径、楕円形の場合、長径、多角形の場合、最長となる対角線の長さである。また、本発明において小孔32aの短径とは、小孔の平面視形状が楕円形(長円)の場合の短径のみならず、小孔32aの平面視形状が多角形の場合における最短の対角線の長さを含む。長径についても同様であり、本発明において小孔32aの長径とは、小孔32aの平面視形状が多角形の場合における最長の対角線の長さを含む。ここで、小孔32aの平面視形状が多角形の場合には、フォトリソ工程で形成され、その頂点が円弧状となった形状も含まれる。
なお、小孔32aのサイズ、形状、密度等が、隣接する小孔32a相互における電界が互いに干渉する程度に設定された場合、電子放出の均一性や制御性が損なわれてしまう。
このように、電子放出制御絶縁膜32は、第1電極2上に形成された絶縁膜であり、複数の小孔32aを有することにより、電子放出素子の電子放出を面内で均一に制御する機能を有する。
また、前記発明の構成に加え、電子加速層33の第2電極3側の面に、炭素薄膜34が形成されている。
このように構成すれば、適度な電圧で十分な電子を放出することができると共に、絶縁破壊が生じ難く、長時間の連続動作が可能となる。なお、炭素薄膜34について詳しくは後述する。
また、電子放出素子39の第1電極2と第2電極3の間に電圧を印加する電源37を備えることにより、適度な電圧(例えば10〜25V)の印加により十分な電子放出量が得られると共に、長時間でも安定して連続動作可能な電子放出が可能となる。電子放出素子はイオン化装置の一部として、電子放出機能を有する。電子放出素子により、放電を伴わず、オゾンやNOxを始めとする有害な物質を発生させることなく、長期間安定してガスをイオン化させることができる。
なお、本発明のイオン化装置は、複数の電子放出素子を含んでもよい。例えば、複数の電子放出素子が平面体上に配置されて、イオン化装置に適用されてもよい。また、複数の電子放出素子において、第1電極2を共通化してもよい。
以下に、電子放出素子39の各要素の詳細について具体的に説明する。なお、実施形態1の電子放出素子1と同一の符号を付した要素は電子放出素子39についても同様であるため、説明は省略する。
〈電子放出制御絶縁膜32〉
電子放出制御絶縁膜32は、第1電極2上に形成された絶縁膜であり、複数の小孔32aを有することにより、電子放出素子39の電子放出を面内で均一に制御する機能を有する。
なお、電子放出制御絶縁膜32の材料や膜厚、小孔32aのサイズ、形状および密度等は、前記の通りである。
〈電子加速層33〉
電子加速層33は、絶縁性微粒子5を含んでなり、小孔32aを含む電子放出制御絶縁膜32上に形成される。この層は、第1電極2から第2電極3へ向かう電子を加速させる機能を有する。
電子加速層33は、絶縁性微粒子5を主に有して構成されているため、電圧が印加されると、前述のように絶縁性微粒子5の表面を介して極弱い電流が流れる。
電子加速層33の電圧電流特性は所謂バリスタ特性を示し、印加電圧の上昇に伴い急激に電流値を増加させる。この電流の一部は、印加電圧が形成する電子加速層33内の強電界により弾道電子となり、第2電極3を透過して電子放出素子39の外部へ放出される。また、弾道電子は、絶縁性微粒子5による電子加速層33の表面の凹凸の影響から生じる第2電極3の隙間(微細孔)をすり抜けて外部へ放出される場合もある。
弾道電子の形成過程は、電子が電界方向に加速されつつトンネルすることによるものと推測される。
また、熱処理を行って絶縁性微粒子5を完全に溶解させ結晶化させると、電子加速層33は絶縁物となって電子を加速させる機能が失われるため、導電性微粒子を用いない本実施形態2の構成においては、単に絶縁性微粒子5を材料として用いればよいのではなく、粒子形状を保った絶縁性微粒子5で電子加速層33が形成されている必要がある。
電子加速層33の膜厚は、例えば、電子放出素子39への印加電圧および電子放出制御絶縁膜32が前記条件の場合、0.008〜6.0μmが好ましく、0.3〜2.0μmがより好ましい。
電子加速層33が上記範囲の膜厚であれば、膜厚が均一な(表面が平滑な)電子加速層33を形成し易くなり、その結果、各小孔32aに対応する部分の電子加速層33の電気抵抗の値が均一となり、電子放出素子39の全体に亘ってより一様に電子を放出することができる。
また、電子放出素子39は、できるだけ低い電圧で強い電界を加えて電子を加速させることが好ましいので、電子放出素子39への印加電圧や電子放出制御絶縁膜32の膜厚等にもよるが、電子加速層33の膜厚は、上記膜厚の範囲(0.008〜6.0μm又は0.3〜2.0μmの範囲)のうちでもできるだけ薄いことが好ましい。
なお、電子加速層33の膜厚とは、小孔32aが形成される場所における、電子加速層33の厚み(すなわち、第1電極2と第2電極3との間の距離)をいう。
絶縁性微粒子5には、SiO2、ZnO等の半導体酸化物、Al2O3、TiO2、CuO等の金属酸化物からなる絶縁性微粒子5を用いることができる。また、これらの絶縁性微粒子5を単独で、あるいは複数種類組み合わせて用いることができる。
材料が異なる複数種類の絶縁性微粒子5を用いる場合、これら複数種類の絶縁性微粒子5が後述する数値範囲の粒径をもつ粒子であればよい。
また、複数種類の絶縁性微粒子5が分散液に分散され、分散液が電子放出制御絶縁膜32上に塗布されて電子加速層33を形成する場合、絶縁性微粒子5の選定は分散液中の粒子の分散性を考慮することが望ましい。
絶縁性微粒子5の粒径は、電子放出制御絶縁膜32の膜厚および小孔32aのサイズが前記条件の場合、5〜1000nmが好ましい。
絶縁性微粒子5の粒径が5nmより小さいと、粒径のばらつきを小さくすることが難しいため、均一な膜厚の電子加速層33を形成することが難しい。一方、粒径が1000nmより大きいと、絶縁性微粒子5の分散液を塗布して電子加速層33を形成する場合に、分散液中に絶縁性微粒子5が沈降して分散性が悪くなり、その結果、分散液の塗布膜において絶縁性微粒子5の多い箇所と少ない箇所が生じ易くなり、均一な膜厚の電子加速層33を形成することが難しい。
なお、本発明において、「粒径」とは平均一次粒径を意味する。
さらに、電子加速層33には、バインダー成分としてシリコーン樹脂が含まれていてもよい。
電子加速層33がシリコーン樹脂を含むことで、電子放出素子39の機械的強度を向上することができると共に、大気中の酸素および水分などによる素子劣化を防ぐことができ、長寿命化をより効果的に図ることができる。
また、必要に応じて電子加速層33に分散剤等の添加剤が含まれていてもよい。
また、電子加速層33は、材料が異なる2層以上の積層構造になっていてもよい。例えば、1層目が実質的な電子加速層33、2層目が機械的強度アップ、防湿度効果、膜表面の平坦化を目的とする保護層といった積層構造を採用することができる。
〈炭素薄膜34〉
炭素薄膜34は、第2電極3と電子加速層33の間の抵抗体として機能する。
前記のように電子放出制御絶縁膜32には複数の小孔32aが設けられているため、この電子放出素子39をエージング試験(例えば、長時間にわたる連続動作試験)にかけると、各小孔32a部分に電界が集中した状態が続くことになり、この電子放出素子39は局所的な電圧・電流ストレスに連続的にさらされる。
大きい電圧・電流ストレスが長時間続くと、電子放出制御絶縁膜32の小孔32a周辺部分に欠陥が生じる場合があり、欠陥数が増加すると電流のパスが生じて絶縁破壊につながる。
抵抗体としての炭素薄膜34は、例えば、金、銀等からなる第2電極3と比較して電気的に高抵抗であるため、電子放出素子39がかかる局所的かつ連続的な電圧・電流ストレスが緩和されることになり、この結果、欠陥が生じ難く、絶縁破壊が生じ難くなる。
この炭素薄膜34の材料としては、例えば、グラファイトが好適である。
また、炭素薄膜34の膜厚は、印加電圧、電子放出制御絶縁膜32の膜厚、小孔32aのサイズおよび密度、第2電極3の材質等の条件にもよるが、前記条件の場合は5〜20nmが好ましい。炭素薄膜34の膜厚が5nmより薄いと炭素薄膜34が抵抗体として機能するには十分でなく、一方、膜厚が20nmより厚いと電子放出に必要な電圧が大きくなり過ぎて好ましくない。
本実施形態2では炭素薄膜34が形成されている例を示したが、炭素薄膜34は電子放出素子39において省略されてもよい。すなわち、電子放出素子39は、第1電極2と、電子放出制御絶縁膜32と、絶縁性微粒子5を含んでなる電子加速層33と、電子加速層33上に形成された第2電極3とを備える形態であってもよい。なお、このことは、次に説明する実施形態3においても同様である。
〔実施形態3〕
第3の実施形態に係るイオン化装置について、図面を参照し説明すれば以下のとおりである。
図3に、本発明の第3の実施形態のイオン化装置を構成する電子放出素子49の断面図を示す。本発明の第3の実施形態のイオン化装置は、実施形態2とは、電子放出素子39の代わりに電子放出素子49を有する点が異なる。その他の点は実施形態2と共通である。電子放出素子49を構成する各要素の番号について、実施形態2の電子放出素子39中の要素と同様の要素には同一の符号を付している。
実施形態2では電子加速層33が絶縁性微粒子5のみから構成されている例を示したが、実施形態2における電子加速層33の代わりに、本実施形態3では電子放出素子49が電子加速層43を有している。
電子加速層43は絶縁性微粒子5に加えて絶縁性微粒子5の粒径よりも小さい粒径を有する導電性の導電性微粒子6が含まれている。
電子加速層43に導電性微粒子6を添加することによって、電子加速層43を流れる電流値電子放出量を制御することができる。換言すると、電子加速層43中の絶縁性微粒子5の含有量を調整して、電子加速層43の電気抵抗の値を任意の範囲に調整できる。
導電性微粒子6としては、特に限定されないが、例えば、金、銀、白金、パラジウムおよびニッケルからなる導電性粒子のうち少なくとも1種を含んでいてもよい。
なお、導電性微粒子6の粒径が絶縁性微粒子5の粒径と同等以上であると、電子加速層43が必要とする絶縁性が得られなくなるため、導電性微粒子6の粒径は絶縁性微粒子5の粒径よりも小さい必要がある。
以上のように、実施形態3においては、実施形態1で用いた導電性微粒子6を、電子加速層43に適用することで、実施形態2で得られた、電子放出の均一性と空間方向の制御性が得られると共に、実施形態1構成で得られた、電流値電子放出量の制御性が両立できる。これにより均一で制御性の高い電子放出が可能になり、効率のよいイオン化装置が実現できる。
本発明に係るイオン化装置は、試料ガスおよび任意のキャリアガスを内部に導入する導入口、生成されたイオンを外部に放出する細孔および不要な排出ガスを外部に排出する排出口を有する室からなるイオン化部と、該イオン化部に面して設けられた電子放出素子と、前記電子放出素子と対向するように前記イオン化部に面して設けられた対向電極とを有し、
前記試料ガス、前記任意のキャリアガスおよび前記排出ガスの流量を調整して前記イオン化部内を大気圧から中真空状態に制御可能に構成され、
前記電子放出素子と前記対向電極との間に前記試料ガスの放電開始電圧より低い電圧を印加して、前記試料ガスが導入された前記イオン化部の内部に前記電子放出素子から電子を放出することにより、前記試料ガスを前記大気圧から前記中真空状態でイオン化するように構成されたことを特徴としている。
上記構成によれば、試料ガスを電子放出素子によってイオン化するため、従来技術の大気圧化学イオン化法(APCI)のように活性なイオンやラジカルによる試料物質の変質や劣化の可能性が低く、低エネルギー電子による電子付着現象を利用でき、従来にない非常にソフトなイオン化が可能となる。具体的には、不要なラジカルが発生することがなく、分析したい試料物質が壊れにくいという効果を奏する。
加えて、低エネルギー電子による電子付着をタンパク質に適用すれば、アミノ酸の主鎖を優先的に断片化し、修飾分子は主鎖に結合したまま残るので、修飾タンパク質の修飾部位の決定に有効という効果を奏する。
加えて、従来技術の大気圧化学イオン化法(APCI)のようにイオン化工程を二段階・2室に分ける必要がなく、本願では、試料ガスとキャリアガスの両方を導入、混合してからイオン化部でイオン化すればよい。すなわち構造上も工程上も簡便と言う効果を奏する。
加えて、試料ガスの状態が大気圧から中真空のいずれにおいても、ほぼ同条件で電子を放出することが可能であるため、大きな仕様変更や調整を伴うことなく大気圧から中真空のいずれにおいても同装置でイオン化が可能であり、装置の汎用性・応用性・自由度が高いという効果を奏する。
加えて、大気圧状態の試料ガスをイオン化するため、試料ガスの分子がイオン化部に数多く存在するため、イオン化効率が高く、効率よく試料ガス由来のイオンを生成するという効果を奏する。加えて、大気圧で電子放出が可能であるため、試料のガス化も大気圧で行うことができ、操作性が容易となるという効果を奏する。試料ガスが中真空状態の場合でも、高真空状態に比べるとイオン化効率が高く、効率よく試料ガス由来のイオンを生成するという効果を奏する。
加えて、従来技術の大気圧化学イオン化法(APCI)のようにイオン化工程を二段階・2室に分ける必要がなく、本願では、試料ガスとキャリアガスの両方を導入、混合してからイオン化部でイオン化すればよい。すなわち構造上も工程上も簡便と言う効果を奏する。
前記電子放出素子と対向電極との間に印加される電圧は、前記試料ガスの放電開始電圧より低いことが好ましい。
上記構成によれば、従来技術の大気圧化学イオン化法(APCI)のように活性なイオンやラジカルによる試料物質の変質や劣化の可能性が低く、本願では、分析ガスの放電開始電圧より低い数十eV以下の低エネルギー電子による電子付着現象を利用するため、従来にない非常にソフトなイオン化が可能となる。具体的には、不要なラジカルが発生することがなく、分析したい試料物質が壊れにくいという効果を奏する。
加えて、低エネルギー電子による電子付着をタンパク質に適用すれば、アミノ酸の主鎖を優先的に断片化し、修飾分子は主鎖に結合したまま残るので、修飾タンパク質の修飾部位の決定に有効という効果を奏する。
前記電子放出素子は、第1の電極と、電子加速層と、第2の電極とがこの順に形成されており、前記第1の電極と前記第2の電極の間に電圧が印加されることにより前記第2の電極から素子外部へ電子を放出することが好ましい。
前記電子加速層は、樹脂、絶縁性微粒子および導電性微粒子のうち少なくとも1つを含むことが好ましい。
上記構成によれば、従来、大気圧中に電子を放出する手段としてほぼ唯一の手法であった大気圧光電子放出と比べて、極めて高効率で電子を得ることができるという効果を奏する。
加えて、試料ガスの状態が大気圧から中真空のいずれにおいても、ほぼ同条件で電子を放出することが可能であるため、大きな仕様変更や調整を伴うことなく同装置でイオン化が可能であり、装置の汎用性・応用性・自由度が高いという効果を奏する。
加えて、電子加速層に導電性微粒子を含む場合、電気抵抗の値を任意の範囲に調整でき、電流値電子放出量の制御性が向上し、その結果イオン化の制御性が向上するという効果を奏する。
本発明に係る質量分析装置は、本発明に係るイオン化装置によりイオン化した前記試料ガスを、質量分離部および検出部に導入し、質量分析を行うことを特徴としている。
上記構成によれば、上述のイオン化装置で得られた高効率高精度のイオンを質量分析できるため、高精度な質量分析が可能となるという効果を奏する。