本発明の実施形態である分析装置100について、図面を参照しながら説明する。なお、図中、同一又は相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
[第1実施形態]
図1、及び図2を参照して、分析装置100の第1実施形態について説明する。図1は、分析装置100の第1実施形態を示す模式図である。図2は、分析装置100の一部拡大図である。
図1及び図2に示すように、分析装置100は、試料をイオン化し、イオン化した試料を検出するIMS(Ion Mobility Spectrometry)装置である。
第1実施形態の分析装置100は、フィールド非対称式イオン移動度検出(FAIMS:Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometry)装置である。以下では、フィールド非対称式イオン移動度検出装置のことを、FAIMSと記載することがある。
試料は、気相中でイオン化できる分子であればよい。試料は、例えば、電子親和力が正の化合物、化学剤、麻薬、覚せい剤、有機化合物(例えば、有機則の対象となる有機溶剤)、農薬、又は環境物質を示す。化学剤は、例えば、神経ガス、びらん剤、窒息剤、血液剤、くしゃみ剤、及び催涙剤のような化学兵器用剤、又は化学兵器用剤に類似した化合物を示す。
分析装置100は、案内部10と、試料入口部11と、第1キャリアガス入口部12と、第2キャリアガス入口部13と、試料導入部54と、キャリアガス導入部55とを含む。
案内部10は、管状に形成される。案内部10の内部には、移動方向Xに沿って延びるイオンの移動経路が形成される。イオンは、試料をイオン化することにより生成される試料由来のイオンを示す。移動方向Xは、反応室21からイオン検出部40に向かって移動するイオンの移動方向を示す。なお、反応室21及びイオン検出部40については後述する。案内部10の形状は、管状に限定されない。案内部10は、中空の形状を有していればよい。案内部10は、本発明のケーシングの一例である。
試料入口部11、第1キャリアガス入口部12、及び第2キャリアガス入口部13の各々は、案内部10の内部に通じる開口部である。試料入口部11は、案内部10のうち移動方向Xの最も上流に形成される。第1キャリアガス入口部12、及び第2キャリアガス入口部13の各々は、案内部10のうち移動方向Xの中途部に形成される。第1キャリアガス入口部12は、第2キャリアガス入口部13よりも移動方向Xの上流に位置する。
試料導入部54は、試料入口部11に接続され、試料入口部11を介して案内部10の内部に試料を導入する。試料導入部54には、気体の試料、又は、加熱によって気化された試料が導入される。
キャリアガス導入部55は、第1キャリアガス入口部12、及び第2キャリアガス入口部13の各々に接続され、第1キャリアガス入口部12、及び第2キャリアガス入口部13の各々を介して案内部10の内部にキャリアガスを導入する。キャリアガスは、移動方向Xの下流に向かって案内部10の内部を移動する。
キャリアガスは、試料を含まないガスを示す。キャリアガスは、例えば、雰囲気よりも乾燥した乾燥空気である。この場合、例えば、乾燥機能を有するフィルターが第1キャリアガス入口部12、及び第2キャリアガス入口部13の各々に設けられる。そして、案内部10の外気がフィルターを通過することで、乾燥空気が生成される。その結果、乾燥空気であるキャリアガスが、第1キャリアガス入口部12、及び第2キャリアガス入口部13の各々を介して案内部10の内部に導入される。乾燥機能を有するフィルターは、例えば、モレキュラーシーブのような乾燥剤を含むフィルターを示す。なお、フィルターは、乾燥機能のみならず、清浄機能をさらに有していてもよい。この場合、案内部10の内部には、不純物が低減されると共に、雰囲気よりも乾燥した清浄乾燥空気が導入される。
なお、第1キャリアガス入口部12、及び第2キャリアガス入口部13のうちの少なくとも1つしか存在しなくてもよい。
また、第1キャリアガス入口部12、及び第2キャリアガス入口部13の両方が存在しなくてもよい。この場合、試料とキャリアガスとの各々は、試料入口部11を介して案内部10の内部に導入される。また、この場合、試料入口部11に対し、試料導入部54及びキャリアガス導入部55の各々が接続される。
分析装置100は、イオン化部20をさらに含む。イオン化部20は、試料をイオン化することで、試料成分由来のイオンを生成する。試料成分由来のイオンは、イオン化された試料を示す。
イオン化部20は、反応室21と、電子放出素子22と、対向電極23とを含む。イオン化部20は、試料入口部11に対し移動方向Xの下流に位置する。イオン化部20は、第1キャリアガス入口部12と第2キャリアガス入口部13との間に位置する。
電子放出素子22は、電圧が印加されることで電子を放出する素子を示す。電子放出素子22と対向電極23とは、幅方向Yに沿って互いに間隔を空けて配置される。幅方向Yは、移動方向Xに対し垂直な方向を示す。電子放出素子22と対向電極23との各々は、電子放出素子22と対向電極23との各々の周りからの放電を防ぐように絶縁されている。電子放出素子22と対向電極23との間には、反応室21が位置する。
反応室21は、案内部10の内部に位置する空所である。反応室21は、試料入口部11に対し移動方向Xの下流に配置される。従って、試料導入部54は、試料入口部11を介して反応室21に試料を導入することができる。
また、反応室21は、第1キャリアガス入口部12に対し移動方向Xの下流に配置される。従って、キャリアガス導入部55は、第1キャリアガス入口部12を介して反応室21にキャリアガスを導入することができる。
電子放出素子22は、大気圧の空所に電子を放出可能である。電子放出素子22は、反応室21に電子を放出する。電子放出素子22と対向電極23との間に電圧が印加されると、電子放出素子22が対向電極23に向けて電子を放出する。そして、反応室21において、電子が、幅方向Yに沿いつつ、対向電極23に向かって移動する。
分析装置100は、電源部53をさらに含む。
電源部53は、電子放出素子22と対向電極23とに接続される。電源部53は、電子放出素子22と対向電極23との間に電圧を印加することで、電子放出素子22から反応室21を介して対向電極23に向けて電子を放出させる。電源部53は、対向電極23の電位が電子放出素子22の電位よりも高くなるように、電子放出素子22と対向電極23との間に電圧を印加する。
以上、図1、及び図2を参照して説明したように、試料入口部11を介して案内部10の内部に流入した試料は、反応室21に導入される。そして、反応室21では、電子放出素子22から放出された電子が分子である試料に付着する。この場合、電子付着現象により電子が試料に付着する。そして、電子が試料に付着すると、試料がイオン化される。その結果、試料由来のイオンが生成される。第1実施形態では、反応室21で負イオンが生成される。なお、反応室21で正イオンが生成されてもよい。
また、分析装置100は、電子放出素子22を用いて試料由来のイオンを生成する。従って、分析装置100は、放射線源を用いることなく、イオンを生成できる。その結果、放射性物質特有の注意、及び管理を要することなく、試料を容易にイオン化することができる。
また、分析装置100は、電子放出素子22を用いることで、コロナ放電を用いることなくイオンを生成できる。従って、オゾンの発生を抑制でき、オゾンにより試料のイオン化が阻害されることを抑制することができる。その結果、試料を容易にイオン化することができる。
また、試料をイオン化するためのイオン化源として電子放出素子22を用いることで、イオン化部20の装置構成を簡素化できる。その結果、分析装置100の電源を小型化することができる。
また、イオン化源として電子放出素子22を用いることで、イオン化源として放射線源、又はコロナ放電を用いる場合に比べ、分析装置100の電源を小型化することができる。その結果、分析装置100を小型化することができる。また、分析装置100としてFAIMSを用いることで、分析装置100をより小型化することができる。
なお、反応室21の湿度が高すぎると、反応室21において、反応室21中の雰囲気の水分を電子が捕獲し、さらに、試料が水分を吸収しやすくなる。その結果、試料のイオン化が阻害されるおそれがある。そこで、キャリアガス導入部55が反応室21に所定の湿度のキャリアガスを導入してもよい。その結果、反応室21の湿度を調整できるので、試料のイオン化が阻害されることを抑制できる。なお、例えば、負イオンのような、湿度に対し鈍感なイオンを反応室21で生成する場合、所定の湿度は、10%以下の湿度を示す。これに対し、例えば、正イオンのような、湿度に対して敏感なイオンを反応室21で生成する場合、所定の湿度は、1%以下の湿度を示す。なお、所定の湿度は、好ましくは、露点0度以下になるような湿度を示す。
なお、反応室21に所定の湿度のキャリアガスを導入する構成は、後述する第2実施形態から第6実施形態でも採用することができる。
なお、キャリアガス導入部55が反応室21に導入するキャリアガスの温度は、所定の温度であることが好ましい。所定の温度は、反応室21の雰囲気の温度よりも高温であり、例えば、50℃以上である。その結果、反応室21の湿度を効果的に低下させることができ、試料のイオン化が阻害されることを効果的に抑制できる。なお、反応室21に導入されるキャリアガスの温度が所定の温度である構成は、後述する第2実施形態から第6実施形態でも採用することができる。
また、第1実施形態では、分析装置100は、試料から負イオンを生成し、負イオンを用いて試料を分析する。従って、負イオンを用いることで、低エネルギーの電子で試料をイオン化することが可能になる。また、低エネルギーの電子を用いるので、試料をイオン化する際、試料の分解を抑えることが可能になる。また、負イオンは、正イオンよりも湿度の影響を受けにくくいので、負イオンを安定して生成することが可能になる。
次に、図1~図4を参照して、分析装置100についてさらに説明する。
図1及び図2に示すように、分析装置100は、フィールド非対象方式のイオン分離部30をさらに含む。
イオン分離部30は、イオンの移動度に応じてイオンを分離する。イオン分離部30は、イオン化部20に対し移動方向Xの下流に配置される。また、イオン分離部30は、第2キャリアガス入口部13に対し移動方向Xの下流に配置される。
イオン分離部30は、フィールド非対称イオン移動部31と、第1電極32と、第2電極33と、分散電圧発生部51と、補償電圧発生部52とを含む。
第1電極32と第2電極33とは、幅方向Yに沿って互いに間隔を空けて配置される。第1電極32と第2電極33との間隔は、例えば、0.001mm以上、2mm以下である。第1電極32と第2電極33との移動方向Xの寸法は、例えば、0.1mm以上、30mm以下である。第1電極32と第2電極33との間には、フィールド非対称イオン移動部31が位置する。
フィールド非対称イオン移動部31は、案内部10の内部に位置する空所である。フィールド非対称イオン移動部31は、反応室21に対し移動方向Xの下流に配置される。フィールド非対称イオン移動部31は、第1電極32と第2電極33との間に位置する。フィールド非対称イオン移動部31は、本発明のイオン移動部の一例である。
反応室21で生成されたイオンは、キャリアガスと共に、フィールド非対称イオン移動部31に向けて移動する。なお、反応室21で生成されたイオンは、反応室21とフィールド非対称イオン移動部31との電位差による電位勾配により、フィールド非対称イオン移動部31に向けて移動してもよい。また、反応室21で生成されたイオンは、キャリアガス、及び電位勾配により、フィールド非対称イオン移動部31に向けて移動してもよい。
分散電圧発生部51は、交流電圧電源を含む。分散電圧発生部51は、高周波電圧を重ね合わせた分散電圧(DV)を生成する。そして、分散電圧発生部51は、第2電極33に分散電圧を印加することにより、第1電極32と第2電極33との間に高周波電場を印加する。
反応室21で生成されたイオンは、フィールド非対称イオン移動部31に到達する。そして、イオンは、フィールド非対称イオン移動部31を移動する際、分散電圧による移動度の変化によって揺れ動く。その結果、イオンの移動方向が変化する。
図3は、分散電圧発生部51から発生する分散電圧のプロファイルの一例を示す図である。
図3に示すように、分散電圧は、高電圧(プラス電圧)と低電圧(マイナス電圧)とを一定期間ずつ繰り返ように印加される。また、分散電圧の波形の一周期において、分散電圧の平均値が0Vになるように、分散電圧が印加される。また、分散電圧の絶対値は、例えば、100V以上、2000V以下である。また、分散電圧により生成される電解強度の絶対値は、例えば、5000V/cm以上、40000V/cm以下である。また、分散電圧の周波数は、例えば、100kHz以上、3MHz以下である。
図1に示すように、補償電圧発生部52は、直流電圧電源を含む。補償電圧発生部52は、補償電圧(CV)を生成する。そして、補償電圧発生部52は、第2電極33に補償電圧を印加する。そして、補償電圧によりイオンの移動度が変化し、イオンの移動度に応じてイオンの移動方向が変わる。その結果、フィールド非対称イオン移動部31を移動中のイオンが、イオンの移動度に応じて分離される。
第1電極32又は第2電極33に到達したイオンは、中性の物質になる。中性の物質は、キャリアガスと共に案内部10の外部に排出される。しかし、中性の物質が、排出されずに第1電極32、第2電極33、又は後述するイオン検出部40に貯まった場合、試料入口部11、第1キャリアガス入口部12、及び/又は、第2キャリアガス入口部13を介して案内部10の内部にキャリアガスを導入することで、中性の物質を案内部10の外部に排出することが可能になる。この場合、キャリアガスの温度が、50℃以上であることが好ましい。
図4は、補償電圧発生部52から発生する補償電圧のプロファイルの一例を示す図である。補償電圧は、主に分離をする際には図4(a)のように略一定の値を有し、分析を行う際には図4(b)のように補償電圧を時間によって走査することにより移動するイオンの強度が変化するためスペクトルが得られ、分析が可能となる。補償電圧は、例えば、-100V以上、100V以下である。また、補償電圧により生成される電解強度は、例えば、-2000V/cm以上、2000V/cm以下である。
次に、図1及び図2を参照して、分析装置100についてさらに説明する。
図1及び図2に示すように、分析装置100は、排気口部14と、イオン検出部40と、排気部56とをさらに備える。
イオン検出部40は、イオン分離部30を通過したイオンを検出する。詳細には、イオン検出部40は、フィールド非対称イオン移動部31を通過したイオンを検出する。イオン検出部40は、フィールド非対称イオン移動部31に対し移動方向Xの下流に配置される。
イオン検出部40は、第1イオン検出器41と、第2イオン検出器42と、第3イオン検出器43とを含む。
第1イオン検出器41と、第2イオン検出器42と、第3イオン検出器43との各々は、例えば、電位イオン検出器、マルチチャンネルプレート、又はファラデーカップを含む。
なお、第1実施形態では、イオン検出器は、3つ設けられる。しかし、イオン検出器の個数は、特に限定されない。イオン検出器は、1つ設けられてもよく、また、3つ以外の複数設けられてもよい。なお、イオン検出器が複数設けられる場合、イオンの検出時間を短縮でき、さらに、複数のイオン検出器の各々の検出結果を互いに比較しながら検証することが可能になる。
排気口部14は、案内部10の内部に通じる開口部である。排気口部14は、案内部10のうち移動方向Xの最も下流に形成される。排気口部14は、イオン検出部40に対し、移動方向Xの下流に位置する。
排気部56は、例えば、排気ポンプを含む。排気部56は、キャリアガス、及び中性の物質を、排気口部14を介して案内部10の外部に排出する。
なお、排気部56から排出されたキャリアガスをフィルターで清浄化し、さらに、必要に応じて乾燥させた後、循環ポンプにより第1キャリアガス入口部12、及び/又は第2キャリアガス入口部13を介して案内部10の内部に導入させてもよい。その結果、キャリアガスを循環させることが可能になり、分析装置100を合理的に構成することが可能になる。
また、キャリアガスの気圧により排気口部14からキャリアガス、及び中性の物質を案内部10の外部に排出してもよい。この場合、排気部56が不要になり、分析装置100を簡素に構成することが可能になる。
分析装置100は、制御部61と、入力部62と、記憶部(不図示)とをさらに備える。
制御部61は、CPU(Central Processing Unit)及びMPU(Micro Processing Unit)のようなプロセッサーを含む。制御部61は、分析装置100の各要素を制御する。具体的には、制御部61のプロセッサーは、HDDのような記憶部に記憶されたコンピュータープログラムを実行することにより、分散電圧発生部51と、補償電圧発生部52と、電源部53と、試料導入部54と、キャリアガス導入部55と、排気部56とを制御する。
入力部62は、分析装置100に対する指示を受け付ける。入力部62は、制御部61に接続される。入力部62が受け付けた指示内容を示す情報は、制御部61に送信される。その結果、入力部62が受け付けた指示内容に沿って、制御部61が分析装置100の各要素を制御する。
案内部10の内部N1には、反応室21と、電子放出素子22と、対向電極23と、第1電極32と、第2電極33と、第1イオン検出器41と、第2イオン検出器42と、第3イオン検出器43とが配置される。案内部10の内部N1では、イオン化部20によりイオンが生成され、かつ、イオン分離部30によりイオンが分離される。案内部10の内部N1には、試料入口部11から試料が導入される。案内部10の内部N1には、第1キャリアガス入口部12、及び第2キャリアガス入口部13の各々からキャリアガスが導入される。案内部10の内部N1のキャリアガスは、排気口部14から排出される。
次に、図5を参照して、電子放出素子22について説明する。図5は、電子放出素子22を示す概略図である。
図5に示すように、電子放出素子22は、表面電極221と、下部電極222と、中間層223と、絶縁層224と、配線電極229とを含む。また、電源部53は、第1電源部531と、第2電源部532とを含む。
表面電極221は、反応室21に対向する。また、表面電極221は、反応室21を介して対向電極23に対向する。表面電極221と対向電極23との間には、反応室21が位置する。
対向電極23と表面電極221との間隔は、例えば、0.1mm以上、5mm以下である。対向電極23と表面電極221との間隔は、好ましくは、0.1mm以上、3mm以下である。対向電極23と表面電極221との間隔は、さらに好ましくは、1mm以上、2mm以下である。
表面電極221と下部電極222とは、互いに間隔を空けて配置される。表面電極221と下部電極222との間には、中間層223が配置される。中間層223は、中間層223が高抵抗になるような所定の体積抵抗率を有する。所定の体積抵抗率は、例えば、1×105(Ω・m)以上、1×109(Ω・m)以下である。
中間層223と反応室21との間には、表面電極221が位置する。
下部電極222は、基板Aが金属等の導電性基板であれば基板Aであってもよく、また基板Aが絶縁体から成る板の場合は金属層又は導電体層を基板A上に設けたものでもよい。基板Aには、絶縁層224が形成される。
絶縁層224は、絶縁性を有する材料で形成される。絶縁層224は、下部電極222から表面電極221へ流れる電流を遮断する。
電子放出領域RDは絶縁層224を含まない領域である。
第1電源部531は、表面電極221と下部電極222との間に電圧を印加する。第1電源部531は、配線電極229を介して表面電極221に接続される。表面電極221と下部電極222との間に電圧が印加されると、中間層223に電界が生じ、この電界により中間層223に電子が生じ、この電子が表面電極221部分を通って反応室21に放出される。図1に示す案内部10の内部N1の湿度が略一定の場合、第1電源部531により電子放出素子22に印加される電圧が大きくなる程、電子放出素子22から放出される電子の量が多くなる。電子放出素子22に電圧が印加されることは、表面電極221と下部電極222との間に電圧が印加されることを示す。また、電子放出素子22から放出される電子の量は、表面電極221から反応室21に放出される電子の量を示す。
表面電極221と下部電極222との間に印加される電圧は、例えば、1V以上、100V以下である。表面電極221と下部電極222との間に印加される電圧は、好ましくは、5V以上、30V以下である。表面電極221と下部電極222との間に印加される電圧は、さらに好ましくは、10V以上、20V以下である。
表面電極221と下部電極222との間の電界強度は、例えば、1kV/cm以上、1000kV/cm以下である。表面電極221と下部電極222との間の電界強度は、好ましくは、50kV/cm以上、500kV/cm以下である。
第2電源部532は、対向電極23に電圧を印加する。第2電源部532が対向電極23に電圧を印加すると、表面電極221部分を通って反応室21へ放出された電子は、対向電極23の電界により対向電極23に引き寄せられる。なお、第1電源部531と第2電源部532とは、対向電極23の電位が表面電極221の電位よりも高くなるように、対向電極23と表面電極221との間に電圧を印加する。対向電極23と表面電極221との間に印加される電圧は、例えば、100V以上、数千V以下である。
なお、表面電極221と対向電極23との間の電界の向きと、図1に示す第1電極32と第2電極33との間の電界の向きとは、互いに同じでもよく、又は、互いに異なっていてもよい。
電子放出素子22から放出される電子のエネルギーについて説明する。
電子放出素子22から放出される電子は、電子付着現象が起きる程度の低エネルギーの電子であることが好ましい。例えば、電子放出素子22から放出される電子のエネルギーは、0eVよりも大きく、10eV以下である。従って、電子放出素子22が低エネルギーの電子を放出すると、低エネルギーの電子が電子付着現象により試料に付着する。その結果、試料の変質を抑制することができ、イオンの検出感度を向上させることができる。なお、試料の変質は、電子のエネルギーにより試料が分解され、多くの分解物が生成されることを示す。
なお、電子のエネルギーが0eV~10eVの範囲内のうちで比較的少ない場合、電子は、例えば、非解離型電子捕獲反応により試料に付着する。また、電子のエネルギーが0eV~10eVの範囲内のうちで比較的多い場合、電子は、例えば、解離型電子捕獲反応により試料に付着する。なお、非解離型電子捕獲反応により電子が試料に付着する方が、解離型電子捕獲反応により電子が試料に付着するよりも、イオンの検出感度をより向上させることができる点で有利である。
なお、事前に、第1電圧と、第2電圧と、電子のエネルギーとの関係を測定することにより、電源部53が印加する電圧に基づいて、電子のエネルギーを算出することができる。第1電圧は、表面電極221と下部電極222との間に印加される電圧を示す。第2電圧は、表面電極221と対向電極間23との間に印加される電圧を示す。
反応室21の湿度について説明する。
反応室21の湿度が高すぎると、反応室21に導入された試料が電子放出素子22の表面電極221又は対向電極23に付着して中性化し、試料のイオン化が阻害されるおそれがある。そこで、キャリアガス導入部55が反応室21に所定の湿度のキャリアガスを導入した後、試料導入部54が反応室21に試料を導入してもよい。これにより、キャリアガスにより反応室21の湿度を低下させてから、反応室21に試料を導入することができる。その結果、表面電極221又は対向電極23に試料が付着することを抑制でき、試料のイオン化が阻害されることを抑制できる。さらに、電子放出素子22の耐久性を向上させることができる。さらに、表面電極221又は対向電極23に試料が付着及び蓄積することを抑制できるので、表面電極221及び対向電極23のメンテナンスに要する時間を短縮できる。メンテナンスに要する時間を短縮できると、電子放出素子22を用いた次の測定までに必要な時間間隔(リカバー時間間隔)を短縮することができる。
なお、反応室21に所定の湿度のキャリアガスが導入された後、反応室21に試料が導入される構成は、後述する第2実施形態から第6実施形態でも採用することができる。
続けて、図5を参照して、中間層223について説明する。
図5に示すように、第1実施形態では、中間層223は、樹脂と、樹脂中に分散された導電性微粒子とを含む。樹脂は、例えば、シラノール(R3-Si-OH)を縮合重合したシリコーン樹脂である。導電性微粒子は、例えば、金、銀、白金、又はパラジウムのような導電性を有する金属粒子を用いてもよい。また、金属粒子以外の導電性材料としては、カーボン、導電性高分子、及び/又は半導電性材料を用いてもよい。中間層223において、導電性微粒子の含有量は、適宜設定すればよい。導電性微粒子の含有量を変更することで、中間層223の抵抗値を調整することができる。中間層223は、例えば、スピンコート法、ドクターブレード法、スプレー法、又はディッピング法のような塗布方法によって形成される。
中間層223の作成方法の一例を説明する。
まず、樹脂であるシリコーン樹脂3g(室温硬化性樹脂、信越化学工業株式会社製)と、導電性微粒子であるAgナノ粒子0.03g(平均径10nm、絶縁被覆アルコラート1nm膜、株式会社応用ナノ粒子研究所製)とが試薬瓶に入れられて混合される。その結果、シリコーン樹脂とAgナノ粒子との混合液が作製される。次に、超音波振動器を用いて、試薬瓶に入れた混合液がさらに攪拌されることで、塗布液が作製される。塗布液の粘度は、例えば、0.8~15mPa・sである。塗布液中の樹脂成分比率は、例えば、10~70wt%程度である。塗布液は、基板Aに塗布された後、大気中の湿気によって縮合重合してシリコーン樹脂となり、中間層223を形成する。
また、表面電極221は、5nm以上100nm以下、好ましくは40nm以上100nm以下の厚さを有することができる。また、表面電極221の材質は、全体としては過剰な破壊が防止されるように、例えば、金、白金などの金属材料、半導体、ITO(indium tin oxide)、及びカーボンのように電気伝導性の高い導電性材料を少なくとも1種類含む。また、表面電極8は、複数の金属層から構成されてもよい。
表面電極221の厚さが、40nm以上の場合であっても、表面電極221は、複数の開口、すき間、及び/又は、10nm以下の厚さに薄くなった部分を有してもよい。中間層223で生じた電子がこの開口、すき間、及び/又は、薄くなった部分を通過又は透過することができ、表面電極221から電子を放出することができる。このような開口、すき間、及び/又は、薄くなった部分は、一般的なパターニング処理を伴った薄膜形成処理(スパッタ法、蒸着法)を、表面電極221を構成する金属に施すことによっても形成される。
また、下部電極222の材質は、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルなどである。下部電極222の厚さは、例えば、200μm以上、1mm以下でもあり得る。
[第2実施形態]
次に、図6を参照して、分析装置100の第2実施形態について説明する。図6は、分析装置100の第2実施形態を示す模式図である。
第2実施形態は、反応室21の通路面積S1と、フィールド非対称イオン移動部31の通路面積S2とが互いに異なる点で第1実施形態と異なる。以下では、主に第1実施形態と異なる点を説明する。
図6に示すように、第2実施形態の分析装置100は、FAIMSである。
反応室21の通路面積S1は、フィールド非対称イオン移動部31の通路面積S2よりも大きい。その結果、反応室21からフィールド非対称イオン移動部31へ試料とキャリアガスとをより円滑に流すことが可能になる。
なお、反応室21の通路面積S1は、移動方向Xに対し垂直な反応室21の断面の面積を示す。フィールド非対称イオン移動部31の通路面積S2は、移動方向Xに対し垂直なフィールド非対称イオン移動部31の断面の面積を示す。
[第3実施形態]
次に、図7を参照して、分析装置100の第3実施形態について説明する。図7は、分析装置100の第3実施形態を示す模式図である。
第3実施形態は、試料の質量分析が行われる点で第1実施形態と異なる。以下では、主に第1実施形態と異なる点を説明する。
図7に示すように、第3実施形態の分析装置100は、FAIMSである。
分析装置100は、スキマー(インターフェース)71をさらに含む。スキマー71は、フィールド非対称イオン移動部31に対し、移動方向Xの下流に配置される。スキマー71に対し移動方向Xの下流には、イオン質量分析装置(不図示)が配置される。
イオンは、スキマー71を通過した後、イオン質量分析装置へ導かれる。イオン質量分析装置は、イオンを検出し、イオンの質量分析を行う。その結果、試料中の所定成分を定量することができる。イオン質量分析装置は、本発明のイオン検出部の一例である。
[第4実施形態]
次に、図8、及び図9を参照して、分析装置100の第4実施形態について説明する。図8は、分析装置100の第4実施形態を示す模式図である。図9は、分析装置100の第4実施形態の一部拡大図である。
第4実施形態の分析装置100は、イオン分離部130の構成が第1実施形態~第3実施形態と異なる。以下では、主に第1実施形態と異なる点を説明する。
第4実施形態の分析装置100は、ドリフトチューブ式イオン移動度検出装置(ドリフトチューブ式IMS装置)である。
分析装置100は、案内部110と、試料入口部111と、ドリフトガス入口部112と、排気口113と、試料導入部154と、キャリアガス導入部155と、ドリフトガス導入部156とを含む。
案内部110は、イオンを案内する。案内部110は、管状に形成される。案内部110の内部には、移動方向Xに沿って延びるイオンの移動経路が形成される。移動方向Xは、反応室21からイオン検出部140に向って移動するイオンの移動方向を示す。案内部110の形状は、管状に限定されない。案内部110は、中空の形状を有していればよい。案内部110は、本発明のケーシングの二例である。
試料入口部111は、案内部110のうち移動方向Xの最も上流に形成される。試料導入部154は、試料入口部111を介して案内部110の内部に試料を導入する。キャリアガス導入部155は、試料入口部111を介して案内部110の内部にキャリアガスを導入する。キャリアガスは、移動方向Xの下流に向かって案内部110の内部を移動する。
ドリフトガス入口部112は、案内部110のうち移動方向Xの最も下流に形成される。ドリフトガス導入部156は、ドリフトガス入口部112を介して案内部110の内部にドリフトガスを導入する。ドリフトガスは、乾燥窒素、又は乾燥空気であることが好ましい。また、ドリフトガスは、不純物を除去可能なフィルターを通した乾燥窒素、又は乾燥空気であることが好ましい。排気口113は、案内部110のうち移動方向Xの中途部に位置する。
分析装置100は、イオン化部120をさらに含む。イオン化部120は、反応室21と、電子放出素子22と、対向電極23とを含む。反応室21は、試料入口部11に対し移動方向Xの下流に配置される。反応室21は、対向電極23と電子放出素子22との間に位置する。詳細には、反応室21は、対向電極23と電子放出素子22の表面電極221(図5参照)との間に形成される。反応室21は、例えば、略四角柱に形成される。
分析装置100は、電源部53をさらに含む。電源部53は、電子放出素子22と対向電極23との間に電圧を印加することで、電子放出素子22から反応室21を介して対向電極23に向けて電子を放出させる。
試料入口部111を介して案内部110の内部に流入した試料は、反応室21に導入される。そして、反応室21では、電子放出素子22から放出された電子が電子付着現象により試料に付着する。そして、電子が試料に付着すると、試料がイオン化される。その結果、試料由来のイオンが生成される。
分析装置100は、ドリフトチューブ方式のイオン分離部130をさらに含む。
イオン分離部130は、イオンの移動度に応じてイオンを分離する。イオン分離部130は、イオン化部120に対し移動方向Xの下流に配置される。
イオン分離部130は、ドリフト部131と、ゲート132と、複数の分離電極133と、ドリフト電圧発生部151と、ゲート電圧発生部152とを含む。
ドリフト部131は、案内部110の内部に位置する空所である。ドリフト部131は、反応室21に対し移動方向Xの下流に配置される。ドリフト部131には、ドリフトガス入口部112からドリフトガスが導入される。ドリフトガスは、移動方向Xの上流に向かってドリフト部131を移動する。ドリフト部131の気圧は、ドリフトガスにより略大気圧又は数百Pa程度の低真空状態に保持される。
ドリフト部131と反応室21との間には、排気口113が位置する。キャリアガスとドリフトガスとは、案内部110の内部で合流し、排気口113から案内部110の外部に放出される。
ゲート132は、反応室21で生成されたイオンを堰き止める。ゲート132は、反応室21とドリフト部131との間に位置する。ゲート132は、格子電極を含む。ゲート電圧発生部152は、ゲート132に電圧を印加して、ゲート132の電位を設定する。ゲート132の電位は、イオンを堰き止めるために高電位に設定される。高電位は、複数の分離電極133の各々の電位よりも高く、かつ、対向電極23の電位よりも高い電位を示す。
複数の分離電極133の各々は、環状に形成される。複数の分離電極133は、ドリフト部131に配置され、移動方向Xに沿って並んでいる。ドリフト電圧発生部151は、複数の分離電極133の各々に電圧を印加する。その結果、ドリフト部131には、直流電場(静電場)が形成される。直流電場は、移動方向Xに沿って傾きが一定の電位勾配を有する。
次に、イオン分離部130の動作について説明する。
ゲート電圧発生部152は、所定のタイミングでゲート132に所定の電圧を印加し、ゲート132の電位を高電位から中間電位に切り替える。中間電位は、対向電極23の電位よりも高く、かつ、複数の分離電極133の各々の電位よりも低い電位を示す。その結果、ゲート132で堰き止められていたイオンが、ゲート132を通過してドリフト部131に導入される。
ドリフト部131に導入されたイオンは、直流電場により加速されて、移動方向Xに移動する。この場合、イオンは、ドリフトガスに衝突しながら移動方向Xに移動する。イオンがドリフトガスに衝突することで、イオンの移動速度がイオンの移動度に応じた一定の速度に収束する。その結果、ドリフト部131を移動中のイオンが、イオンの移動度に応じて分離される。
イオン検出部140は、イオン分離部130を通過したイオンを検出する。詳細には、イオン検出部140は、ドリフト部131を通過したイオンを検出する。イオン検出部140は、ドリフト部131に対し移動方向Xの下流に配置される。イオン検出部140は、イオン検出器141を含む。イオン検出器141は、例えば、第1実施形態の第1イオン検出器41と同じ構造を有する。
イオンがドリフト部131を移動する際、イオンの移動度の違いによりイオンの移動速度が変化する。従って、イオンの移動度に応じて、イオンがイオン検出器141に到達する時間が変化する。その結果、イオンの移動時間と、イオン検出器141により検出されたイオンの信号強度とを所定のグラフにプロットすることで、イオンの移動度のスペクトルを取得することが可能になる。イオンの移動時間は、ゲート132の電位が中間電位に切り替えられてから、イオンがイオン検出器141に到達するまでに要した時間を示す。イオンの信号強度は、イオンの移動度に応じた物理量を示す。所定のグラフは、例えば、横軸が時間を示し、縦軸がイオンの信号強度を示すグラフである。
なお、イオン検出器141に到達することなく、分離電極133のような障害物に付着したイオンは中性化し、中性の物質になる。中性の物質は、キャリアガスと共に、排気口113から排出される。しかし、中性の物質が、イオン化部120、ゲート132、イオン分離部130、及び/又は、イオン検出部140に貯まることがある。この場合、清浄乾燥空気のような試料を含まない清浄ガスを、試料入口部111、及び/又は、ドリフトガス入口部112から案内部110の内部に導入し、排気口113から排出すればよい。従って、清浄ガスと共に中性の物質を案内部110の外部に排出することが可能になる。なお、清浄ガスの温度は、例えば、50℃以上のような高温であることが好ましい。
分析装置100は、制御部161と、入力部162と、記憶部(不図示)とをさらに備える。
制御部161は、記憶部に記憶されたコンピュータープログラムを実行することにより、ドリフト電圧発生部151と、ゲート電圧発生部152と、電源部53と、試料導入部154と、キャリアガス導入部155と、ドリフトガス導入部156とを制御する。入力部162は、分析装置100に対する指示を受け付ける。
案内部110の内部N2には、反応室21と、電子放出素子22と、対向電極23と、ドリフト部131と、ゲート132と、イオン検出器141とが配置される。案内部110の内部N2では、イオン化部120によりイオンが生成され、かつ、イオン分離部130によりイオンが分離される。案内部110の内部N2には、試料入口部111から試料とキャリアガスとが導入される。案内部110の内部N2には、ドリフトガス入口部112からドリフトガスが導入される。案内部110の内部N2のキャリアガスとドリフトガスとは、排気口113から排出される。案内部110の内部N2の湿度が略一定の場合、第1電源部531(図5参照)により電子放出素子22に印加される電圧が大きくなる程、電子放出素子22から放出される電子の量が多くなる。
以上、図8及び図9を参照して説明したように、電子放出素子22を用いて試料由来のイオンが生成される。従って、放射線源、及びコロナ放電を用いることなくイオンを生成できる。従って、試料を容易にイオン化することができる。
[第5実施形態]
次に、図10を参照して、分析装置100の第5実施形態について説明する。図10は、分析装置100の第5実施形態を示す模式図である。
第5実施形態の分析装置100は、対向電極23を含まない点で第4実施形態の分析装置100と異なる。以下では、主に第4実施形態と異なる点を説明する。
第5実施形態の分析装置100は、ドリフトチューブ式イオン移動度検出装置である。
図10に示すように、分析装置100は、対向電極23を含まない。電子放出素子22は、ゲート132と対向する。詳細には、電子放出素子22の表面電極221(図5参照)は、ゲート132と対向する。表面電極221は、ゲート132に対し移動方向Xの上流に配置される。
電子放出素子22とゲート132との間には、反応室21が位置する。詳細には、表面電極221とゲート132との間には、反応室21が位置する。
反応室21は、試料入口部111を介して試料導入部154(不図示)に接続される。試料導入部154は、試料入口部111を介して反応室21に試料を導入する。その結果、反応室21に試料が導入される。
電子放出素子22は、ゲート132に向けて電子を放出する。詳細には、表面電極221は、ゲート132に向けて電子を放出する。その結果、反応室21で試料生成由来のイオンが生成される。つまり、ゲート132が対向電極23として機能する。なお、反応室21で生成されたイオンは、第4実施形態と同様の原理によりイオン検出器141へ移動する。
排気口113は、案内部110のうち移動方向Xの最も上流に形成される。試料入口部111から案内部110の内部に導入されたキャリアガスと、ドリフトガス入口部112から案内部110の内部に導入されたドリフトガスとは、移動方向Xの上流に移動し、排気口113から排出される。また、案内部110の内部で生成された中性の物質も、移動方向Xの上流に移動し、排気口113から排出される。
以上、図10を参照して説明したように、ゲート132が対向電極23として機能する。従って、対向電極23が不要になり、分析装置100を簡素化することが可能になる。
[第6実施形態]
次に、図12~図14を参照して、分析装置100の第6実施形態について説明する。図12は、分析装置100の第6実施形態を示す模式図である。
第6実施形態の分析装置100は、案内部110の内部N2の湿度に基づいて電子放出素子22が制御される点が第4実施形態と異なる。以下では、主に第4実施形態と異なる点を説明する。
分析装置100は、湿度センサ80をさらに備える。湿度センサ80は、案内部110の内部N2の湿度を検出する。
湿度センサ80は、案内部110の内部N2において、反応室21の周辺に配置される。
湿度センサ80は、案内部110の内部N2において、反応室21の周辺に配置される。その結果、湿度センサ80は、反応室21の周辺の湿度を効果的に検出することができる。
なお、案内部110の内部N2において、湿度センサ80が配置される場所は、特に限定されない。湿度センサ80は、例えば、ドリフトガス入口部112の周辺に配置されてもよい。また、湿度センサ80は、反応室21のようなイオンが生成される場所、及びドリフト部131のようなイオンの移動経路に配置されないことが好ましい。その結果、湿度センサ80が、イオンの生成、及びイオンの移動を邪魔することを抑制することができる。
分析装置100は、乾燥剤Kと、通路部90とをさらに備える。
乾燥剤Kは、ガスの水分を捕捉する。ガスは、キャリアガス、ドリフトガス、及び、試料のうちの少なくとも1つを示す。乾燥剤Kは、例えば、モレキュラーシーブを含む。乾燥剤Kは、通路部90に設置される。
通路部90は、管状の部材である。通路部90は、案内部110から排出されたガスを案内部110の内部Nに戻すことにより、ガスを循環させる。
通路部90は、試料入口部111と、ドリフトガス入口部112と、排気口113とに通じる。
試料入口部111と、ドリフトガス入口部112とは、本発明の導入部の一例である。排気口113は、本発明の排出部の一例である。
通路部90は、第1通路部91と、第2通路部92と、第3通路部93とを含む。第1通路部91は、排気口113と乾燥剤Kとに通じる。第2通路部92は、乾燥剤Kとドリフトガス入口部112とに通じる。第3通路部93は、第2通路部92から分岐して試料入口部111に通じる。
排気口113から排出されたガスは、第1通路部91を通じて流通した後、乾燥剤Kを通過する。乾燥剤Kを通過したガスは、第2通路部92を通じて流通する。第2通路部92を通じて流通するガスの一部は、ドリフトガス入口部112から案内部110の内部N2戻される。第2通路部92を通じて流通するガスの他の一部は、第3通路部93に流入した後、試料入口部111から案内部110の内部N2に戻される。
排気口113から排出されたガスは、乾燥剤Kを通過する際、乾燥剤Kにより水分を補足される。そして、ガスは、乾燥剤Kにより水分を補足された後、第2通路部92、又は、第3通路部93を通じて案内部110の内部N2に戻される。従って、案内部110の内部N2の湿度を所定範囲内の湿度に保持することが可能である。所定範囲内の湿度は、例えば、0.5%以上、10%以下である。なお、所定範囲内の湿度は、1%以下であることが好ましい。また、所定範囲内の湿度は、露点0度以下になるような湿度であることがさらに好ましい。
なお、案内部110の内部N2の湿度を所定範囲内に、より効果的に保持するためには、案内部110が密閉されることが好ましい。案内部110が密閉されることは、詳細には、案内部110のうち、試料入口部111、ドリフトガス入口部112、排気口113、及び案内部110の内部N2に引き込まれる配線用の孔のような案内部110の構造上、外部との連通が不可欠な箇所を除いた部分が密閉されることを示す。
次に、図13(a)及び図13(b)を参照して、案内部110の内部N2の湿度と、電子放出素子22から放出される電子の量との関係について説明する。図13(a)は、案内部110の内部N2の湿度Zと、電子放出素子22から放出される電子の量Iとの関係を示すグラフである。図13(b)は、案内部110の内部N2の湿度Zと、電子放出素子22から放出される電子の量Iとの関係を示す表である。なお、電子の量Iは、詳細には、単位時間当たりの電子の量を示す。
本願発明者は、案内部110の内部N2の湿度Zを変更する毎に、電子放出素子22から放出される電子の量Iを計測する実験を行った。
本願発明者が行った実験の手順について説明する。まず、本願発明者は、案内部110の内部N2の湿度Zを略1%に保持しつつ、電子放出素子22を略1200時間駆動させた。そして、本願発明者は、案内部110の内部N2の湿度Zを略1.2%に保持しつつ、電子放出素子22を略1時間駆動させた。そして、本願発明者は、このときに電子放出素子22から放出された電子の総量の平均値を、案内部110の内部N2の湿度Zが1.2%のときの電子の量Iaとして算出した。本願発明者は、案内部110の内部N2の湿度Zが5.3%のときの電子の量Ib、案内部110の内部N2の湿度Zが9.6%のときの電子の量Ic、及び案内部110の内部N2の湿度Zが19.9%のときの電子の量Idについても、電子の量Iaを算出したときと同様の手順で算出した。なお、本願発明者は、実験を行う際、電子放出素子22に印加される電圧Vdを、一定の電圧18Vに保持した。
図13(a)のグラフ、及び図13(b)の表は、本願発明者が行った実験の結果を表す。図13(a)及び図13(b)に示すように、案内部110の内部N2の湿度Zが1.2%のときの電子の量Iaは、電流7.23E-08Aであった。案内部110の内部N2の湿度Zが5.3%のときの電子の量Ibは、電流7.19E-07Aであった。案内部110の内部N2の湿度Zが9.6%のときの電子の量Icは、電流1.80E-06Aであった。案内部110の内部N2の湿度Zが19.9%のときの電子の量Idは、電流4.12E-06Aであった。
本願発明者は、実験を行うことで、案内部110の内部N2の湿度Zと、電子放出素子22から放出される単位時間当たりの電子の量Iとの間に相関があることを発見した。具体的には、電子放出素子22に印加される電圧が一定の場合、案内部110の内部N2の湿度Zが高くなる程、電子放出素子22から放出される電子の量Iが多くなる。
しかし、案内部110の内部N2の湿度Zの変化に応じて、電子放出素子22から放出される電子の量Iが変化すると、イオン化部120で生成されるイオンの量も変化する。そして、イオン化部120で生成されるイオンの量が変化すると、イオン検出部140によるイオンの検出結果も変化する。つまり、イオン検出部140によるイオンの検出結果が、案内部110の内部N2の湿度Zの影響を受けて変化するという問題が発生する。
次に、図12及び図14を参照して、上記問題を改善するための制御部161(図8参照)の動作について説明する。図14は、制御部161の動作を示すフロー図である。
図12及び図14に示すように、ステップS1において、制御部161は、湿度センサ80から、湿度センサ80の検出値を示す情報を取得する。なお、ステップS1において、電子放出素子22には、電源部53(図8参照)により一定の電圧αが印加されている。
ステップS2において、制御部161は、湿度センサ80の検出値が所定の下限値(所定の下限閾値)よりも小さいか否かを判定する。所定の下限値は、例えば、2%である。
湿度センサ80の検出値が所定の下限値よりも小さいと制御部161が判定すると(ステップS2で、Yes)、処理がステップS3に移行する。湿度センサ80の検出値が所定の下限値よりも小さくないと制御部161が判定すると(ステップS2で、No)、処理がステップS4に移行する。
ステップS3において、電子放出素子22に印加される電圧が電圧αよりも増加するように、制御部161が電源部53を制御する。従って、電子放出素子22から放出される電子の量について、案内部110の内部N2の湿度の減少に起因して減少する分を、電子放出素子22に印加される電圧を増加させることで補うことができる。その結果、案内部110の内部N2の湿度が減少しても、電子放出素子22から放出される電子の量が変化することを抑制することができる。
ステップS3に示す処理が終了すると、処理が終了する。
ステップS4において、制御部161は、湿度センサ80の検出値が所定の上限値(所定の上限閾値)よりも大きいか否かを判定する。所定の上限値は、所定の下限値以上の値である。所定の上限値は、例えば、3%である。
湿度センサ80の検出値が所定の上限値よりも大きいと制御部161が判定すると(ステップS4で、Yes)、処理がステップS5に移行する。湿度センサ80の検出値が所定の上限値よりも大きくないと制御部161が判定すると(ステップS4で、No)、処理が終了する。
ステップS5において、電子放出素子22に印加される電圧が電圧αよりも減少するように、制御部161が電源部53を制御する。従って、電子放出素子22から放出される電子の量について、案内部110の内部N2の湿度の増加に起因して増加する分を、電子放出素子22に印加される電圧を減少させることで相殺することができる。その結果、案内部110の内部N2の湿度が増加しても、電子放出素子22から放出される電子の量が変化することを抑制することができる。
以上、図12及び図14を参照して説明したように、案内部110の内部N2の湿度が所定の下限値よりも小さくなると、電子放出素子22に印加される電圧が増加するように制御部161が電圧を制御する。また、案内部110の内部N2の湿度が所定の上限値よりも大きくなると、電子放出素子22に印加される電圧が減少するように制御部161が電圧を制御する。従って、案内部110の内部N2の湿度が変化しても、電子放出素子22から放出される電子の量が変化することを抑制することができる。その結果、イオン検出部140によるイオンの検出結果が、案内部110の内部N2の湿度Zの変化の影響を受けて変化することを抑制できる。なお、電圧を制御することは、電源部53を制御することを示す。
以上、図面(図1~図14)を参照しながら本発明の実施形態について説明した。但し、本発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である(例えば、(1)~(5))。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明の形成が可能である。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の個数等は、図面作成の都合から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
(1)第1実施形態から第3実施形態において、イオン分離部30に対しイオン化部20が着脱自在であってもよい(図2、図6、及び図7参照)。イオン分離部30に対しイオン化部20が着脱自在であると、ユーザーは、イオン分離部30とイオン化部20とを別々に交換することができる。その結果、ユーザーは、分析装置100のメンテナンスを効率的に行うことができる。
以下では、イオン分離部130に対しイオン化部120を着脱自在にするための分析装置100の装置構成の一例を説明する。
分析装置100の装置構成の一例において、案内部10のうち、反応室21とフィールド非対称イオン移動部31との間に位置する部分で、案内部10が第1案内部材と第2案内部材とに分断されている。
第1案内部材は、爪のような係合部材を有している。第2案内部材は、凹部のような被係合部を有している。第1案内部材の係合部材には、第2案内部材の被係合部材が係合可能である。そして、被係合部に係合部が係合することで、第1案内部材に第2案内部材が連結される。その結果、イオン分離部130に対しイオン化部120が装着される。これに対し、被係合部から係合部が外れ、第1案内部材と第2案内部材との係合が解除されると、イオン分離部130からイオン化部120が外れる。
従って、係合部材を用いることで、イオン分離部130に対しイオン化部120を着脱自在に構成することが可能である。
なお、係合部材及び被係合部材に代えて、第1案内部材に第2案内部材を着脱自在に連結させるために、ねじのような締結部材を用いてもよい。
また、第1案内部材と第2案内部材とが互いに連結された状態で、第1案内部材と第2案内部材との連結箇所にパッキンのようなシール部材を装着してもよい。その結果、第1案内部材と第2案内部材との連結部の密閉性を確保することができる。
(2)第4実施形態から第6実施形態において、イオン分離部130に対しイオン化部120が着脱自在であってもよい(図9、図10、及び図12参照)。イオン分離部130に対しイオン化部120を着脱自在にする構成は、例えば、イオン分離部30に対しイオン化部20を着脱自在にする構成と同様である。
(3)第1実施形態から第5実施形態において、図5に示すように、中間層223は、シリコーン樹脂と、シリコーン樹脂中に分散された導電性微粒子とを含む。しかし、本発明はこれに限定されない。
図11を参照して、中間層223の変形例である中間層230について説明する。図11は、中間層230を示す図である。
図11に示すように、中間層230は、ポーラスアルミナ層226を含む。ポーラスアルミナ層226は、複数の細孔227を有する。細孔227内には、導電性微粒子228が担持されている。
下部電極222は、例えば、厚さ0.5mmのアルミ基板で構成される。ポーラスアルミナ層226は、基板Aの表面に形成された陽極酸化層である。なお、ポーラスアルミナ層226は、基板Aに支持されたアルミニウム層の表面に形成された陽極酸化層であってもよい。基板Aがガラス基板のような絶縁基板である場合、アルミニウム層と基板Aとの間に、導電層を形成し、アルミニウム層と導電層とを下部電極222として用いればよい。下部電極222として機能するアルミニウム層の厚さは、例えば、10μm以上であることが好ましい。
細孔227は、ポーラスアルミナ層226の上面で開口している。細孔227は、ポーラスアルミナ層226と下部電極222との境界に向かって、掘り下げられている。細孔227は、複数設けられており、電子放出領域内に分散して配置されている。細孔227は、下部電極222に到達しない程度の深さを有する。
細孔227の径は、例えば、50nm以上、3μm以下である。なお、細孔227は、深さ方向において径が異なっていてもよく、底部側で径が小さくなっていてもよい。ポーラスアルミナ層226の厚さは、10nm以上、5μm以下であることが好ましい。
導電性微粒子228は、アルミナに担持可能であれば、どのような導電体でも用いることができる。導電性微粒子228の粒径は、例えば、細孔227の径よりも小さい。導電性微粒子228の粒径は、例えば、1nm以上、80nm以下である。導電性微粒子228の粒径は、好ましくは、3nm以上、10nm以下である。
例えば、導電性微粒子228として銀ナノ粒子を用いた場合、導電性微粒子228の粒径は、好ましくは、1nm以上、50nm以下である。また、この場合、導電性微粒子228の粒径は、より好ましくは、3nm以上、10nm以下である。銀ナノ粒子は、有機化合物で被覆されていてもよい。有機化合物は、例えば、アルコール誘導体、及び/又は、界面活性剤である。
(4)図12に示す第6実施形態の分析装置100の構成を、図10に示す第5実施形態の分析装置100に採用してもよい。この場合、第5実施形態の分析装置100は、湿度センサ80と、乾燥剤Kと、通路部90とをさらに備える。そして、第5実施形態の分析装置100の制御部161は、湿度センサ80の検出値に基づいて、電子放出素子22に印加される電圧を制御することで、図14のステップS1~ステップS5に示す処理を行う。その結果、第6実施形態の分析装置100と同様の効果を奏する。
(5)図12に示す第6実施形態の分析装置100の構成を、図1に示す第1実施形態の分析装置100、図6に示す第2実施形態の分析装置100、及び、図7に示す第3実施形態の分析装置100の各々に採用してもよい。
以下では、第6実施形態の分析装置100の構成を、第1実施形態の分析装置100~第3実施形態の分析装置100に採用した場合の、第1実施形態の分析装置100~第3実施形態の分析装置100の構成について説明する。
第1実施形態の分析装置100~第3実施形態の分析装置100は、湿度センサ80と、乾燥剤Kと、通路部90とをさらに備える。湿度センサ80は、案内部10の内部N1に配置される。通路部90は、試料入口部11と、第1キャリアガス入口部12と、第2キャリアガス入口部13と、排気口部14とに通じる、通路部90は、排気口部14から排出されたガスを、試料入口部11と、第1キャリアガス入口部12と、第2キャリアガス入口部13とを介して案内部10の内部N1に戻す。試料入口部11、第1キャリアガス入口部12、及び第2キャリアガス入口部13は、本発明の導入部の二例である。排気口部14は、本発明の排出部の二例である。
通路部90には、乾燥剤Kが配置される。その結果、案内部10の内部N1の湿度を所定範囲内の湿度に保持することが可能である。
案内部110(図8及び図10参照)と同様に、案内部10も密閉されることが好ましい。
第1実施形態の分析装置100の制御部61~第3実施形態の分析装置100の制御部61の各々は、湿度センサ80の検出値に基づいて、電源部53を制御することで、電子放出素子22に印加される電圧を制御して、図14のステップS1~ステップS5に示す処理を行う。その結果、第1実施形態の分析装置100~第3実施形態の分析装置100の各々のついても、第6実施形態の分析装置100と同様の効果を奏する。