以下、本発明の実施の形態1について、図面(図1〜図11)を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の打撃工具を示す斜視図を、図2は図1の打撃工具の部分断面図を、図3は電動モータ,減速機および打撃機構を示す断面図を、図4は本発明の打撃機構(3本爪仕様)を示す分解斜視図を、図5は比較例の打撃機構(2本爪仕様)を示す分解斜視図を、図6は回転体の回転数上昇時間を説明するグラフを、図7は比較例の打撃数(2本爪仕様)を説明するグラフを、図8は本発明の打撃数(3本爪仕様)を説明するグラフを、図9は合計イナーシャと締め付け速度との関係を示すグラフを、図10は本発明および4つの比較例A〜Dを比較するグラフを、図11は図1の打撃工具の電気回路ブロック図を、それぞれ示している。
図1乃至図3に示すように、打撃工具としてのインパクトドライバ10は、充電および放電が可能な電池セルを収容した電池パック11と、電池パック11から電力が供給されて駆動される電動モータ12とを有している。電動モータ12は、電気エネルギを運動エネルギに変換する駆動源である。インパクトドライバ10は、プラスチック等よりなるケーシング13を備え、電動モータ12はケーシング13の内部に設けられている。
電動モータ12はブラシレスモータであり、環状に形成されたステータ(固定子)12aと円筒状に形成されたロータ(回転子)12bとを備えている。ロータ12bは、本発明における第1回転体を構成し、ステータ12aの径方向内側で軸線Aを中心に回転するようになっている。このように、電動モータ12は、インナーロータ型のブラシレスモータを採用している。
ステータ12aはケーシング13に固定され、ステータ12aにはコイル12cが所定の巻き方で巻かれている。ロータ12bは周方向に沿って複数着磁された永久磁石により形成され、ステータ12aの径方向内側に微少隙間(エアギャップ)を介して回転自在に設けられている。これにより、コイル12cに駆動電流を供給することで、ロータ12bは所定の回転方向に所定の回転速度で回転するようになっている。
ロータ12bの回転中心には、軸線Aを中心に回転する回転軸14が一体に設けられている。回転軸14は、トリガスイッチ15を操作することで正方向または逆方向に回転される。つまり、トリガスイッチ15を操作することで、電池パック11から電動モータ12に電力が供給される。ここで、回転軸14の回転方向は、トリガスイッチ15の近傍に設けられた正逆切替レバー16を操作することで切り替えられる。
インパクトドライバ10は、ドライバビット等の先端工具17が設けられるアンビル(出力部材、回転体)18を備えている。アンビル18は、ケーシング13の内側に装着されたスリーブ19によって回転自在に支持されている。なお、スリーブ19の内側には、アンビル18の回転をスムーズにするグリス(図示せず)が塗布されている。そして、アンビル18は軸線Aを中心に回転し、アンビル18の先端部分には、着脱機構20を介して先端工具17が装着される。
ケーシング13の内部で、かつ軸線Aに沿う方向の電動モータ12とアンビル18との間には、減速機21が設けられている。減速機21は、電動モータ12の回転力を高トルク化(増幅)してアンビル18に伝達する動力伝達装置であり、所謂シングルピニオン型の遊星歯車機構となっている。減速機21は、回転軸14と同軸に配置されたサンギヤ22と、サンギヤ22の周囲を取り囲むように配置されたリングギヤ23と、サンギヤ22およびリングギヤ23の双方に噛み合わされた複数のプラネタリギヤ24と、各プラネタリギヤ24を自転可能かつ公転可能に支持するキャリヤ25とを有している。そして、リングギヤ23は後述するホルダ部材27を介してケーシング13に固定されて回転不能となっている。
キャリヤ25には、当該キャリヤ25とともに軸線Aを中心に回転するスピンドル(第2回転体)26が一体に設けられている。つまり、電動モータ12の回転軸14,減速機21,スピンドル26,アンビル18は、軸線Aを中心にそれぞれ同軸に配置されている。スピンドル26は、軸線Aに沿う方向のアンビル18と減速機21との間に設けられており、スピンドル26におけるアンビル18側の先端部分には、軸線Aに沿う方向に突出された軸部26aが形成されている。
ケーシング13の内部で、かつ軸線Aに沿う方向の電動モータ12と減速機21との間には、略椀状に形成されたホルダ部材27が設けられている。ホルダ部材27の中心部分には軸受28が装着され、軸受28は、スピンドル26における電動モータ12側の基端部分を回転自在に支持している。また、スピンドル26におけるアンビル18側の周囲には、一対の溝状のスピンドルカム26bが設けられている。これらのスピンドルカム26bの内部には、スチールボール(鋼球)29の一部がそれぞれ入り込んでいる。
アンビル18におけるスピンドル26側の基端部分には、軸線Aと同軸の保持孔18aが設けられている。保持孔18aには、スピンドル26の軸部26aが回転自在に挿入されている。つまり、アンビル18とスピンドル26とは、軸線Aを中心に相対回転可能となっている。なお、軸部26aと保持孔18aとの間にも、両者の相対回転をスムーズにするグリス(図示せず)が塗布されている。また、アンビル18には軸線Aと同軸に取付孔18bが設けられている。取付孔18bは、ケーシング13の外部に向けて開口され、先端工具17の基端部分を着脱するために設けられている。
スピンドル26の周囲には、略環状に形成されたハンマ(打撃部材)30が設けられている。ハンマ30は、軸線Aに沿う方向の減速機21とアンビル18との間に配置されている。ハンマ30は、スピンドル26に対して相対回転可能であり、かつ軸線Aに沿う方向に相対移動可能となっている。ハンマ30の径方向内側には、軸線Aに沿う方向に延ばされた一対の溝状のハンマカム30aが形成されている。これらのハンマカム30aの内部には、スチールボール29の一部がそれぞれ入り込んでいる。
このようにして、2つあるうちの一方のスピンドルカム26bと一方のハンマカム30aとを1組として、2つあるうちの一方のスチールボール29が保持されている。また、2つあるうちの他方のスピンドルカム26bと他方のハンマカム30aとを1組として、2つあるうちの他方のスチールボール29が保持されている。ここで、スチールボール29は金属製の転動体で構成されている。そのため、ハンマ30は、スピンドル26に対して、スチールボール29が転動可能な範囲で軸線Aに沿う方向に移動可能となっている。また、ハンマ30は、スピンドル26に対して、スチールボール29が転動可能な範囲で軸線Aを中心として円周方向に移動可能となっている。
スピンドル26の周囲であって、かつ軸線Aに沿う方向の減速機21とハンマ30との間には、鋼板よりなる環状プレート31が設けられている。また、軸線Aに沿う方向の環状プレート31とハンマ30との間には、スプリング32が圧縮された状態で設けられている。キャリヤ25は、軸受28およびホルダ部材27に接触することで、軸線Aに沿う方向への移動が規制されており、スプリング32の押圧力はハンマ30に加えられている。これによりハンマ30は、スプリング32の押圧力により、軸線Aに沿う方向でアンビル18に向けて押されている。
スピンドル26の周囲であって、かつ環状プレート31の径方向内側には、環状のストッパ33が設けられている。ストッパ33は、ゴム等の弾性体により形成され、スピンドル26に取り付けられている。そして、ストッパ33は、ハンマ30の軸線Aに沿う減速機21側への移動量を規制するようになっている。
ここで、先端工具17に打撃力を与える打撃機構SM1は、スピンドル26,ハンマ30,アンビル18,スチールボール29およびスプリング32により形成されている。そして、アンビル18の回転方向への負荷が大きくなると、ハンマ30の第1爪30eとアンビル18の第2爪18dとが、開放および係合を高速で繰り返して、これにより先端工具17に回転打撃力が発生する。ここで、ハンマ30の重量はアンビル18の重量よりも大きく設定されており、ハンマ30は、スピンドル26の回転力を、アンビル18の回転力およびアンビル18の回転方向の打撃力に変換する。ただし、ハンマ30の重量をアンビル18の重量よりも小さく設定しても良い。
次に、ハンマ30とアンビル18との係合構造について、図4を用いて詳細に説明する。
ハンマ30は、略円筒形状に形成された本体部30bを備えており、本体部30bの径方向内側には、軸線Aに沿う方向に延び、スピンドル26が回動自在に装着される装着孔30cが設けられている。本体部30bのアンビル18側は先細り形状となっている。つまり、本体部30bのスピンドル26側は大径とされ、本体部30bのアンビル18側は小径とされている。ここで、本体部30bのスピンドル26側(大径側)の直径寸法は、約40mmに設定されている。
本体部30bのアンビル18側にはアンビル18と対向する対向平面30dが設けられている。対向平面30dには、軸線Aに沿う方向でアンビル18側に突出された3つの第1爪(ハンマ爪)30eが一体に設けられている。これらの第1爪30eは、対向平面30dの周方向に沿って120度間隔(等間隔)で並んで配置され、軸線Aと交差する方向に沿う断面形状が略扇形となっている。そして、第1爪30eの先細りとなった先端側、つまり扇形の径方向内側は、ハンマ30の径方向内側、つまり装着孔30cに向けられている。
第1爪30eのハンマ30の周方向に沿う一方側には、第1接触平面SF1が設けられている。また、第1爪30eのハンマ30の周方向に沿う他方側には、第2接触平面SF2が設けられている。そして、各第1接触平面SF1には、アンビル18の第2爪18dの各第4接触平面SF4が略全面で接触し、各第2接触平面SF2には、アンビル18の第2爪18dの各第3接触平面SF3が略全面で接触するようになっている。
また、ハンマ30の径方向外側でかつ周方向に沿う方向の第1爪30eの幅寸法は、約10mmに設定されている。これにより、第1爪30eの強度が十分に確保され、かつハンマ30の周方向に沿って隣り合う第1爪30eの間には、アンビル18の第2爪18dが余裕を持って入り込めるようになっている。
アンビル18は、略円筒形状に形成された本体部18cを備えている。本体部18cの軸方向に沿うハンマ30側には、径方向外側に突出された3つの第2爪(アンビル爪)18dが一体に設けられている。これらの第2爪18dは、本体部18cの周方向に沿って120度間隔(等間隔)で並んで配置され、軸線Aと交差する方向に沿う断面形状が略長方形となっている。
第2爪18dのアンビル18の周方向に沿う一方側には、第3接触平面SF3が設けられている。また、第2爪18dのアンビル18の周方向に沿う他方側には、第4接触平面SF4が設けられている。そして、各第3接触平面SF3には、ハンマ30の第1爪30eの各第2接触平面SF2が略全面で接触し、各第4接触平面SF4には、ハンマ30の第1爪30eの各第1接触平面SF1が略全面で接触するようになっている。
また、アンビル18の径方向外側でかつ周方向に沿う方向の第2爪18dの幅寸法は、約9mmに設定されている。つまり、第1爪30eよりも若干短い幅寸法に設定されている。これにより、第2爪18dの強度が十分に確保され、かつアンビル18の周方向に沿って隣り合う第2爪18dの間の距離が比較的長い距離とされて、ハンマ30の第1爪30eが余裕を持って入り込めるようになっている。
ここで、ハンマ30の第1爪30eとアンビル18の第2爪18dとが、正回転方向(ネジ締め方向)に係合した状態においては、第1爪30eの第1接触面SF1と、第2爪18dの第4接触平面SF4とが、互いに略全面で接触した状態となる。そして、ハンマ30が打撃動作する際(打撃時)には、3つずつ設けた第1接触面SF1と第4接触平面SF4とが、それぞれ略同時に衝突し、かつ開放されるようになっている。このように、ハンマ30およびアンビル18には、それぞれ3つずつの第1爪30eおよび第2爪18dを設けたので、ハンマ30およびアンビル18が相対的に1回転すると打撃数(同時打撃)は3回となる。
なお、正逆切替レバー16(図2参照)を操作すると、ハンマ30の第1爪30eとアンビル18の第2爪18dとが、逆回転方向(ネジ緩め方向)に係合した状態となる。よって、第1爪30eの第2接触面SF2と、第2爪18dの第3接触平面SF3とが、互いに略全面で接触するようになる。これにより、逆回転方向に打撃力が加えられて、締め付けられたネジ(図示せず)を緩めることができる。
図2に示すように、インパクトドライバ10は、ケーシング13の電池パック11が装着される部分(図中下部の電池パック装着部)に収容されたコントローラ40によって制御される。以下、インパクトドライバ10の電気回路について、図面を用いて詳細に説明する。
図11に示すように、コントローラ40は、6つのスイッチング素子(FET)Q1〜Q6を有するインバータ部41と、演算部42aやその他の複数の電気回路を有する制御部42とを備えており、それらは基板40aに搭載されている。そして、インバータ部41には、電動モータ12の各コイル12c(U相,V相,W相)が電気的に接続され、制御部42には、トリガスイッチ15,正逆切替レバー16,打撃衝撃検出センサ43および3つのホール素子48a,48b,48cからの信号が入力される。
電動モータ12は、インナーロータ型のブラシレスモータであって、複数組のN極およびS極を含むロータ12bと、スター結線したU相,V相,W相(3相)からなるコイル12cが巻装されたステータ12aと、ロータ12bの回転状態を検出するために、ステータ12aの周方向に所定間隔(例えば60度間隔)で配置された3つのホール素子48a〜48cとを備えている。なお、センサ基板を電動モータ12の回転軸14と略直交するようにステータ12aの端部に固定し、センサ基板にホール素子48a〜48cを設けても良いし、センサ基板にインバータ部41のスイッチング素子Q1〜Q6を設けても良い。
各ホール素子48a〜48cからの検出信号は、制御部42の回転位置検出回路42bおよび回転数検出回路42cに入力される。そして、回転位置検出回路42bからは、演算部42aに対してロータ12bの回転位置データが出力される。また、回転数検出回路42cからは、演算部42aに対してロータ12bの回転数データが出力される。これにより演算部42aでは、現在の電動モータ12の回転状態を認識して、これに基づいてその後の電動モータ12の回転状態を制御する。
制御部42には、インバータ部41に流れる電流値を検出する電流検出回路42dが設けられ、電流検出回路42dは電流検出用抵抗44の両端部に電気的に接続されている。これにより、電動モータ12に供給されている現在の電流値が演算部42aにフィードバックされる。そして、演算部42aは、電動モータ12に対する負荷が大きくなる等して、電動モータ12に過電流が流れていることを検知すると、電動モータ12を保護するために、非常停止(フェイルセーフ動作)をする等、制御信号回路42eを制御する。
制御部42には、電池パック11の電圧を検出する電圧検出回路42fが設けられ、電圧検出回路42fは例えばキャパシタ45の両端部に電気的に接続されている。これにより、電池パック11の現在の容量が演算部42aにフィードバックされる。そして、演算部42aは、電池パック11の残容量が小さい場合には、例えば、充電不足ランプ(図示せず)を点灯させる。一方、電池パック11の残容量が大きい場合には、例えば、充電十分ランプ(図示せず)を点灯させる。なお、電池パック11の電圧は電池パック11自身の両端電圧を検出しても良く、この場合、電圧検出回路42fは電池パック11の両端部に電気的に接続される。キャパシタ45は、インバータ部41のスイッチング動作中に電池パック11からの大電流がインバータ部41に流れることを抑制する機能を有する。
トリガスイッチ15は、操作量に比例して変化する電圧信号を発生する。トリガスイッチ15の電圧信号は、制御部42のスイッチ操作検出回路42gおよび印加電圧設定回路42hに入力される。スイッチ操作検出回路42gは、トリガスイッチ15からの電圧信号を受けて、トリガスイッチ15が操作されたことを示す開始データを、演算部42aに出力する。これにより演算部42aは、インパクトドライバ10が操作されたことを認識する。
一方、印加電圧設定回路42hは、トリガスイッチ15からの電圧信号を調整して操作量データとし、当該操作量データを演算部42aに出力する。つまり、作業者によりトリガスイッチ15が少し操作された場合には、演算部42aに出力される操作量データは小さく、作業者によりトリガスイッチ15が多く操作された場合には、演算部42aに出力される操作量データは大きくなる。
正逆切替レバー16からの切替信号は、制御部42の回転方向設定回路42iに入力され、回転方向設定回路42iからは、正回転データまたは逆回転データが演算部42aに出力される。これらの正回転データまたは逆回転データに基づいて、演算部42aはロータ12bを正方向または逆方向に回転駆動する。
インバータ部41は、3相のブリッジ形式に電気的に接続された6つのスイッチング素子Q1〜Q6を備え、各スイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートは、制御部42の制御信号回路42eにそれぞれ電気的に接続されている。また、各スイッチング素子Q1〜Q6の各ドレインまたは各ソースは、U相,V相,W相の各コイル12cにそれぞれ電気的に接続されている。これにより、各スイッチング素子Q1〜Q6は、制御信号回路42eからの駆動信号H1〜H6によってそれぞれスイッチング動作を行う。そして、インバータ部41に印加される電池パック11の直流電圧を3相の電圧Vu,Vv,Vwとして各コイル12cにそれぞれ電力を供給するようになっている。
演算部42aは、各スイッチング素子Q1〜Q6の各ゲートを駆動する各駆動信号H1〜H6を、それぞれパルス幅変調信号(PWM信号)とする処理を行う。そして、PWM信号とされた各駆動信号H1〜H6を、制御信号回路42eを介して各スイッチング素子Q1〜Q6に供給する。つまり、演算部42aは、トリガスイッチ15の操作量に比例した操作量データに基づいて、PWM信号のDuty比(パルス幅)を変化させる。これにより、電動モータ12への電力供給量(印加電圧)が調整されて、電動モータ12の駆動および停止や、回転速度が制御される。
制御部42には、打撃衝撃検出センサ43からの振動信号が入力される打撃衝撃検出回路42jが設けられている。なお、打撃衝撃検出センサ43は、コントローラ40の基板40a(図2参照)に実装された加速度センサで構成される。打撃衝撃検出センサ43は、インパクトドライバ10(ケーシング13)が振動すると振動信号を出力する。そして、打撃衝撃検出回路42jは、ハンマ30(図3参照)の打撃に起因した高い周波数の振動信号を読み取り、ハンマ30が打撃していることを示す打撃状態信号を演算部42aに出力する。そして、演算部42aは、打撃状態信号の入力に基づいて、PWM信号のDuty比、つまりPWM信号のパルス幅を変化させる制御を行う。
ここで、インバータ部41の各スイッチング素子Q1〜Q6は高速でスイッチング動作を行うため、コントローラ40を形成する電気回路には電気ノイズが発生し易くなっている。したがって、コントローラ40には、ノイズ低減用ダイオード46を設けている。ここで、ノイズ低減用ダイオード46は、フライホイールダイオードとして機能し、エネルギ効率を上げて電動モータ12の動きをスムーズにする働きも備えている。
また、一対のコントローラ停止用スイッチング素子47は、インパクトドライバ10の停止時において、コントローラ40に電力が供給されるのを防止するものである。つまり、コントローラ停止用スイッチング素子47は、無駄な電力消費を抑えて電池パック11の持ちを長くする機能を備えている。
次に、インパクトドライバ10の基本動作について説明する。
電動モータ12が停止している場合には、スプリング32に押圧されているハンマ30は、アンビル18に接触して停止する。電動モータ12に電力が供給されて回転軸14が回転すると、回転軸14の回転力は減速機21のサンギヤ22に伝達される。すると、サンギヤ22に伝達された回転力は、高トルク化されてキャリヤ25から出力される。
キャリヤ25に回転力が伝達されると、スピンドル26が回転する。スピンドル26の回転力は、スチールボール29を介してハンマ30に伝達される。ハンマ30の回転力は、3つの第1爪30eと3つの第2爪18dとの係合によりアンビル18に伝達され、これによりアンビル18が回転する。アンビル18に伝達された回転力は、先端工具17を介してねじ(図示せず)に伝達され、これにより、ねじが木材等にねじ込まれる。
先端工具17を回転させるのに必要となる回転力が低い状態、すなわち、低負荷状態においては、第1爪30eの第1接触平面SF1と第2爪18dの第4接触平面SF4とが接触された状態となっている。その後、ねじが木材等にねじ込まれて、先端工具17を回転させるのに必要となる回転力(トルク)が高くなると、アンビル18の回転が停止する。これにより、各スチールボール29が、各ハンマカム30aおよび各スピンドルカム26bの内部を転動して、ハンマ30がアンビル18から離れるよう軸線Aに沿って移動する。
これにより、第1爪30eと第2爪18dとの係合が外れて互いに解放され、ハンマ30の回転力がアンビル18に伝達されなくなる。その後、ハンマ30の電動モータ12側の端部がストッパ33に衝突して、ストッパ33によりハンマ30の運動エネルギが吸収される。
その後さらに、ハンマ30の回転が継続され、第1爪30eが第2爪18dを乗り越えると、スプリング32のハンマ30を押圧する力が大きくなる。これにより、各スチールボール29が、各ハンマカム30aおよび各スピンドルカム26bの内部を転動して、ハンマ30はアンビル18に対して相対回転しつつ、近接するように移動する。
その後、回転しているハンマ30の各第1爪30eが、停止しているアンビル18の各第2爪18dに同時に衝突して、アンビル18および先端工具17の回転方向に打撃力が加えられる。ここで、正逆切替レバー16(図2参照)を操作して電動モータ12の回転方向を逆転させると、上述した動作とは逆方向に打撃力が加えられる。これにより、締め付けられたねじを緩めることができる。
次に、インパクトドライバ10を形成する回転体のイナーシャの大きさについて説明する。
第1回転体としてのロータ12bのイナーシャRIは「3.932kg・mm2」に設定され、第2回転体としてのスピンドル26のイナーシャSIは「7.026kg・mm2」に設定され、減速機21のギヤ比GRは「8.286」に設定されている。そして、ロータ12bのイナーシャRIとスピンドル26のイナーシャSIとの合計イナーシャTIを、スピンドル26の回転軸に換算すると「276.988kg・mm2」となり、「300kg・mm2」以下に設定されている(図9参照)。
ここで、ロータ12bのイナーシャRIとスピンドル26のイナーシャSIとの合計イナーシャTI(スピンドル26の回転軸換算)は、上述の各種パラメータを下記(式1)に代入することで得られる。
TI=SI+GR2×RI・・・(式1)
次に、本実施の形態のインパクトドライバ10における打撃機構SM1(3本爪仕様)と、比較例のインパクトドライバ(図示せず)における打撃機構SM2(2本爪仕様)とを比較し、打撃機構SM1の方が打撃機構SM2(後述する構造)よりも作業効率が向上することについて説明する。なお、比較例の打撃機構SM2は、図5に示すように、本発明の打撃機構SM1に比して、第1爪30eおよび第2爪18dをそれぞれ2つずつ設けた点のみが異なっている。そのため、説明を判り易くするために、図5に示す打撃機構SM2には、図4に示す打撃機構SM1と同じ符号を付している。ここで、打撃機構SM1と打撃機構SM2を比較する前に、打撃機構SM2について説明する。
図5に示すように、本体部30bのアンビル18側にはアンビル18と対向する対向面30dが設けられている。対向面30dには、軸線Aに沿う方向でアンビル18側に突出された2つの第2爪(ハンマ爪)30eが一体に設けられている。これらの第2爪30eは、対向面30dの周方向に沿って180度間隔となるよう軸線Aを中心に対向配置されており、軸線Aと交差する方向に沿う断面形状が略扇形となっている。そして、第1爪30eの先細りとなった先端側、つまり扇形の径方向内側は、ハンマ30の径方向内側、つまり装着孔30cに向けられている。
第1爪30eのハンマ30の周方向に沿う一方側には、第1接触面SF1が設けられている。また、第1爪30eのハンマ30の周方向に沿う他方側には、第2接触面SF2が設けられている。そして、第1接触面SF1には、アンビル18の第1爪18dの第4接触平面SF4が略全面で接触し、第2接触面SF2には、アンビル18の第1爪18dの第3接触平面SF3が略全面で接触するようになっている。
また、ハンマ30の径方向外側でかつ周方向に沿う方向の第1爪30eの幅寸法は、約15.0mmに設定されている。これにより、第1爪30eの強度が十分に確保され、かつハンマ30の周方向に沿って隣り合う第1爪30eの間に、アンビル18の第1爪18dが余裕を持って入り込めるようになっている。
アンビル18は、略円筒形状に形成された本体部18cを備えており、本体部18cの軸方向に沿うハンマ30側には、径方向外側に突出された2つの第2爪(アンビル爪)18dが一体に設けられている。これらの第1爪18dは、本体部18cの周方向に沿って180度間隔となるよう軸線Aを中心に対向配置されており、軸線Aと交差する方向に沿う断面形状が略長方形となっている。
第2爪18dのアンビル18の周方向に沿う一方側には、第3接触平面SF3が設けられている。また、第2爪18dのアンビル18の周方向に沿う他方側には、第4接触平面SF4が設けられている。そして、第3接触平面SF3には、ハンマ30の第1爪30eの第2接触面SF2が略全面で接触し、第4接触平面SF4には、ハンマ30の第1爪30eの第1接触面SF1が略全面で接触するようになっている。
また、アンビル18の径方向外側でかつ周方向に沿う方向の第2爪18dの幅寸法は約10.0mmに設定されている。つまり、第1爪30eよりも若干短い幅寸法に設定されている。これにより、第2爪18dの強度が十分に確保され、かつアンビル18の周方向に沿って隣り合う第2爪18dの間に、ハンマ30の第1爪30eが余裕を持って入り込めるようになっている。
ここで、ハンマ30の第1爪30eとアンビル18の第2爪18dとが、正回転方向(ネジ締め方向)に係合した状態においては、第1爪30eの第1接触面SF1と、第2爪18dの第4接触平面SF4とが、互いに略全面で接触した状態となる。そして、ハンマ30が打撃動作する際(打撃時)には、2つずつ設けた第1接触面SF1と第4接触平面SF4とが、それぞれ略同時に衝突し、かつ開放されるようになっている。このように、ハンマ30およびアンビル18には、それぞれ2つずつの第1爪30eおよび第2爪18dを設けたので、ハンマ30およびアンビル18が相対的に1回転すると打撃数(同時打撃)は2回となる。すなわち、アンビル18に対してハンマ30が180度回転すると一対の第1爪30eが同時に一対の第2爪18dを打撃する。この打撃を1回とすると1回転で2回の同時打撃が行われる。
なお、正逆切替レバー16(図2参照)を操作すると、ハンマ30の第1爪30eとアンビル18の第2爪18dとが、逆回転方向(ネジ緩め方向)に係合した状態となる。よって、第1爪30eの第2接触面SF2と、第2爪18dの第3接触平面SF3とが、互いに略全面で接触するようになる。これにより、逆回転方向に打撃力が加えられて、締め付けられたネジ(図示せず)を緩めることができる。
図6に示すように、出力が同じ駆動源の場合において、低イナーシャLの回転体と高イナーシャHの回転体との回転数の立ち上がり具合を比較すると、低イナーシャLの回転体の方が高イナーシャHの回転体に比して速やかに立ち上がる。よって、低イナーシャLの回転体と高イナーシャHの回転体との回転数差は、回転開始直後の時間t1が経過した時の回転数差(rL1−rH1)の方が、時間t1よりも長い時間t2が経過した時の回転数差(rL2−rH2)よりも大きくなる((rL1−rH1)>(rL2−rH2))。その後、時間t2よりもさらに長い時間t3が経過したところで、何れも駆動源の最高回転数(Max)に到達する。
本発明の打撃機構SM1は3本爪仕様であるため、比較例の2本爪仕様の打撃機構SM2に比して打撃間隔が狭く(120度間隔)なっている。したがって、打撃機構SM1においては、ロータ12bとスピンドル26との回転数が十分に立ち上がらない時間t1で打撃を開始することになる。一方、打撃機構SM2においては、打撃機構SM1に比して打撃間隔が広い(180度間隔)ため、ロータ12bとスピンドル26との回転数が十分に立ち上がった時間t2で打撃を開始することになる。
図7に示すように、2本爪仕様の打撃機構SM2(比較例)は、時間t2で打撃を開始し、その後、打撃数が図中(1)→(2)→(3)→(4)→(5)に示すように「5回」となったところで、ねじ締め作業が完了する。つまり、打撃機構SM2が打撃を開始する時間t2から、打撃数が「5回」となった時間t4までに掛かる時間(t4−t2)が、打撃機構SM2の打撃作業時間となる。
ここで、図6に示すように打撃機構SM2は時間t2で打撃を開始するため、低イナーシャLおよび高イナーシャHに関わらず、ロータ12bおよびスピンドル26(回転体)の回転数は、速い領域(High)で近い値(rL2≒rH2)となっている。つまり、打撃機構SM2においては、回転体のイナーシャの違いによる影響が小さく、図7に示すように、実線の低イナーシャLの場合と破線の高イナーシャHの場合とで、打撃間隔は略同等となる(t2L≒t2H)。したがって、打撃機構SM2においては、合計イナーシャTIの大きさに関わらず、図9の破線の「2本爪仕様」の特性(グラフの傾き小)に示すように、締め付け速度にも殆ど差が生じない。
このように、打撃機構SM2においては、合計イナーシャTIの大きさが変わっても締め付け速度に殆ど差が生じないというメリットがある。その一方で、打撃作業時間(t4−t2)が比較的長い時間となるため、作業効率が悪いというデメリットがある。
これに対し、図8に示すように、3本爪仕様の打撃機構SM1(本発明)は、時間t1で打撃を開始し、その後、打撃数が図中(1)→(2)→(3)→(4)→(5)に示すように「5回」となったところで、ねじ締め作業が完了する。つまり、打撃機構SM1が打撃を開始する時間t1から、打撃数が「5回」となった時間t5までに掛かる時間(t5−t1)が、打撃機構SM1の打撃作業時間となる。
ここで、図6に示すように打撃機構SM1は時間t1で打撃を開始するため、低イナーシャLの場合と高イナーシャHの場合とでは、ロータ12bおよびスピンドル26の回転数が、遅い領域(Low)において異なる値(rL1>rH1)となる。つまり、打撃機構SM1においては、打撃機構SM2に比して回転体のイナーシャの違いによる影響が大きく、図8に示すように、実線の低イナーシャLの場合と破線の高イナーシャHの場合とで、打撃間隔も異なっている(t3L<t3H)。したがって、打撃機構SM1においては、合計イナーシャTIの大きさに応じて、図9の実線の「3本爪仕様」の特性(グラフの傾き大)に示すように、締め付け速度にも差が生じる。
このように、打撃機構SM1においては、合計イナーシャTIの大きさに応じて締め付け速度に差が生じるというデメリットがある。そのため、打撃機構SM1の打撃作業時間(t5-t1)を、打撃機構SM2の打撃作業時間(t4−t2)よりも短くして作業効率を向上させるために、図9に示すように、ロータ12bのイナーシャRIとスピンドル26のイナーシャSIとの合計イナーシャTI(スピンドル26の回転軸換算)を「300kg・mm2」以下の「276.988kg・mm2」としている。
ここで、図9に示す合計イナーシャTIの境界値「300kg・mm2」は、打撃機構SM1(本発明)および打撃機構SM2(比較例)の作業効率(締付速度)が逆転する境界となっている。つまり、合計イナーシャTIが境界値「300kg・mm2」以下であれば、打撃機構SM1の締付速度の方が打撃機構SM2の締付速度よりも速くなり、作業効率の向上を図ることができる。
そして、図9に示すように、合計イナーシャTIをより小さくすることで、締付速度をより速くすることができ、ひいては作業効率をより向上させることができる。本実施の形態においては、合計イナーシャTIを境界値「300kg・mm2」以下に設定するために、特に、電動モータ12(駆動源)にインナーロータ型のブラシレスモータを採用している。つまり、インナーロータ型のブラシレスモータとすれば、例えば、ブラシ付きの電動モータよりもイナーシャを小さくできる。具体的には、ブラシ付きの電動モータにおいては、コイルが巻かれた回転子や整流子等が回転体に含まれるため、イナーシャの低下には構造上限界がある。
以上詳述したように、本実施の形態に係るインパクトドライバ10によれば、ハンマ30の第1爪30eとアンビル18の第2爪18dとを3つずつとして、打撃間隔を従前に比して短い「120度間隔」にできる。ロータ12bのイナーシャRIとスピンドル26のイナーシャSIとを合計してなる合計イナーシャTIが、スピンドル26の回転軸に換算して「300kg・mm2」以下の低い値となるようにして、ロータ12bおよびスピンドル26を十分に加速させて作業効率を向上させることができる。すなわち、本実施の形態に係るインパクトドライバ10によれば、合計イナーシャT1を低イナーシャにするとともに3本爪とすることにより、打撃数を大きくすることができる。図10に示すように、本実施の形態では、打撃数を「4,000回/分以上(例えば4,500回/分)」とすることが可能となる。これにより、ネジの締め付け速度を速くすることが可能となる。また、打撃数を大きくすることにより、一打撃当たりの手のブレを小さくできるため、長いネジを締め付ける場合でも先端工具の先端がネジから外れるカムアウト現象を抑制することもできる。よって、ネジの締め付け速度を速くでき、作業効率を向上させることができる。なお、図10に示す比較例A〜Dは、打撃数が「4,000回/分未満」(3,200回/分〜3,500回/分)の例であり、いずれも本実施の形態に係るインパクトドライバ10に比して、ネジの締め付け速度が遅く、かつ安定動作が難しくなっている。
また、本実施の形態に係るインパクトドライバ10によれば、電動モータ12をブラシレスモータとしたので、ブラシ付きの電動モータに比して回転体のイナーシャを低く抑えることができる。したがって、作業効率をより向上させることができる。さらに、ブラシレスモータとしたので、ブラシ交換等のメンテナンスをしなくて済む。
また、本実施の形態に係るインパクトドライバ10によれば、電動モータ12をインナーロータ型のブラシレスモータとしたので、ロータ12bの直径寸法を小さくして、イナーシャをより低く抑えることができる。したがって、作業効率をさらに向上させることができる。
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、本発明の打撃工具は、上述したインパクトドライバ10の他に、インパクトレンチ等を包含する。また、本発明の打撃工具は、交流電源の電力を、電池パック11を介さずに電動モータ12に供給し得る構造を包含する。さらに、本発明の打撃工具は、電池パック11の電力、交流電源の電力を切り替えて電動モータ12に供給可能な構造を包含する。
また、本発明の駆動源は、上述した電動モータ12の他に、空気圧モータ,油圧モータ等を包含する。さらに、電動モータ12としては、アウターロータ型のブラシレスモータや、イナーシャを低くできるのであればブラシ付きの電動モータであっても良い。また、本発明の打撃工具は、アンビル18に先端工具17が直接取り付けられる構造に加えて、アンビルにソケットやアダプタ等を介して先端工具が取り付けられる構造も包含する。
次に本発明の実施の形態2及び3について、図面(図1〜図5、図10〜図15)を用いて詳細に説明する。
実施の形態1では打撃機構SM2(2本爪仕様)よりも打撃機構SM1(3本爪仕様)のネジの締め付け速度を速くでき、作業効率を向上させることができる。一方、実施の形態2及び3では打撃機構SM1及びSM2の両方においてネジ締め初期のカムアウトを抑制し速いねじ締めを可能にすることができる。以下、実施の形態2におけるインパクトドライバ10の動作について、図面を用いて詳細に説明する。
図10は本発明および4つの比較例A〜Dを比較する打撃数に着目したグラフを、図11は図1の打撃工具の電気回路ブロック図を、図12は図1の打撃工具の動作を説明するフローチャートを、図13は図1の打撃工具の動作を説明するタイミングチャートを、図14は本発明および4つの比較例A〜Dを比較する表を、図15は本発明および4つの比較例A〜Dを比較するグラフを、それぞれ示している。
図12に示すように、ステップS1では、作業者によるトリガスイッチ15の操作により、トリガスイッチ15からの電圧信号が、スイッチ操作検出回路42gおよび印加電圧設定回路42hに入力される。これにより、スイッチ操作検出回路42gからの開始データが演算部42aに入力される。ステップS2では、印加電圧設定回路42hからの操作量データが演算部42aに入力され、作業者によるトリガスイッチ15の操作量が多くなって、演算部42aはトリガスイッチ15がオンされた、つまりネジ締め作業が開始されたと認識する。これにより、ステップS3において、コントローラ40の制御ソフトがスタートしてインパクトドライバ10の制御が開始される。なお、制御ソフトは、演算部42aの内部に設けられたROM等(図示せず)に予め格納されている。
ステップS4では、起動時間t1が経過するまで、インパクトドライバ10の起動処理を実行する。具体的には、図13に示すように、時間0〜t1の間は、演算部42aによってPWM信号のDuty比(PWM Duty)を徐々に増加させる処理が実行される。これにより、電動モータ12への印加電圧が徐々に大きくなり、ひいては先端工具17の急激な回転が抑制される。よって、ネジ(図示せず)から先端工具17が浮き上がって外れること、つまりカムアウトすることが防止される。また、電動モータ12の起動時の突入電流も抑制することができる。
ステップS5では、起動時間t1が経過したことに伴い、演算部42aがPWM信号のDuty比を「70%」とする。これにより、先端工具17(図2参照)に対する負荷が小さい状態でのネジ込み(ネジ立て)が開始される。ここで、本実施の形態においては、木材(図示せず)にネジをネジ込む場合を例に挙げて説明する。なお、ネジ立てとは、ハンマ30(図3参照)の打撃に依らず、電動モータ12(図2参照)の回転力のみでネジの先端部分を木材にネジ込むことができる作業のことである。そして、ステップS5において、PWM信号のDuty比が「70%」で、かつハンマ30が非打撃時の場合(図6の時間t1〜t2)におけるアンビル18の回転数は、図7に示すように「3,000回転/分」となっている。
ステップS6では、演算部42aにより、打撃衝撃検出回路42jからの打撃状態信号の入力を監視する。次いで、ステップS7では、演算部42aにより、ハンマ30の打撃を検知したか否かを判定する。そして、ネジの木材へのネジ込み量が多くなって先端工具17への負荷が大きくなり、打撃衝撃検出回路42jから打撃状態信号が出力されたと判定、つまりハンマ30の打撃が開始されたと判定(yes判定)した場合には、ステップS8に進む。一方、ステップS7において、未だハンマ30の打撃が開始されていないと判定(no判定)した場合には、ステップS5に戻り、PWM信号のDuty比を「70%」にしたままで電動モータ12を継続して駆動する。
図12に示すように、ステップS8では、ハンマ30の打撃を検知したことに伴い、演算部42aはPWM信号のDuty比を「100%」とする。これにより、時間t2以降において、電動モータ12への印加電圧を増加させ、アンビル18の回転数および回転力を増加させる。ここで、ネジ立ての作業時においては、先端工具17に対する負荷が小さいため、PWM信号のDuty比が「70%」であっても、アンビル18の回転数は「3,000回転/分」に維持される。これに対して、ハンマ30の打撃時においては、先端工具17に対する負荷が大きいため、PWM信号のDuty比を「100%」にしても、アンビル18の回転数は「2,250回転/分」に減速される。したがって、ハンマ30の打撃時でかつアンビル18の回転数が「2,250回転/分」のときには、打撃数は2倍の値なので「4,500回/分」となる(図14参照)。
このように、本実施の形態においては、先端工具17への負荷が小さいハンマ30の非打撃時に、PWM信号のDuty比を「70%」に設定してアンビル18の回転数を「3,000回転/分」とする。これにより、ネジ締め作業時、特にネジ締め初期(ネジ立て時)において、先端工具17の先端がネジから外れるカムアウトを抑制することができ、速いネジ締めが可能となり、ネジ締め作業を容易に行うことができる。特に、長い木ネジ等に最適である。一方、先端工具17への負荷が大きいハンマ30の打撃時に、PWM信号のDuty比を「100%」に設定してハンマ30の打撃数を「4,500回/分」とする。したがって、図14に示すように、ハンマ30の非打撃時におけるアンビル18の回転数(R)と、ハンマ30の打撃時おける打撃数(H)との比率(H)/(R)は「1:1.5」となる。つまり、本実施の形態では、回転数(R)と打撃数(H)との比率が「1:1.3以上」となっている。ハンマ30の打撃数を「4,000回/分以上」とすることでカムアウトが発生し難いとの実感を得ることができる。従って、打撃周波数(打撃数)を大きくすることで、一打撃当たりの手のブレを小さく抑えることができるため、長いネジを締め付ける際にもカムアウトが生じ難くなる。
その後、ネジの木材へのネジ込み作業が終了して、作業者によるトリガスイッチ15の操作が開放(オフ)されると、トリガスイッチ15からスイッチ操作検出回路42gへの電圧信号の入力が無くなる。これにより、演算部42aは、制御信号回路42eを介して電動モータ12の駆動を停止させる(ステップS9)。これに続いて、演算部42aは、制御信号回路42eを介して、一対のコントローラ停止用スイッチング素子47をスイッチング動作させる。よって、コントローラ40のへの電力供給が停止される(ステップS10)。
以上詳述したように、実施の形態2に係るインパクトドライバ10によれば、電動モータ12を制御するコントローラ40を有し、コントローラ40は、ハンマ30の打撃を検知すると、電動モータ12への印加電圧を増加させる。ハンマ30の非打撃時におけるアンビル18の回転数(回転周波数)と、ハンマ30の打撃時における打撃数(打撃周波数)との比率が「1:1.3以上」の「1:1.5」となっている。これにより、図15に示すように、実施の形態2における回転数と打撃数との比率を、回転数と打撃数とが略同じ値となる基準線BL(比率が略「1:1」)から大きく異ならせることができる。
したがって、ハンマ30の非打撃状態から打撃状態に移行する際に、回転周波数と打撃周波数とが共振するのを抑制して、インパクトドライバ10が大きく振動するのを抑制できる。よって、実施の形態1に係るインパクトドライバ10においては、図14に示すように、より一層の安定動作が可能でかつ操作感が「◎」の評価となり、作業性の向上と操作感の向上を両立することができる。
なお、図14および図15に示すように、「比較例A」および「比較例B」は、アンビルの回転数(非打撃時)とハンマの打撃数(打撃時)との比率が略「1:1」の基準線BLにより近い特性のインパクトドライバ(従来例)である。これらは、いずれも安定動作し難くかつ操作感が「×」の評価となった。また、「比較例C」および「比較例D」は、回転数と打撃数との比率をそれぞれ「1:1.143」および「1:1.250」として、回転数と打撃数との比率が略「1:1」の基準線BLに対して若干異なる特性のインパクトドライバである。「比較例C」および「比較例D」においても、「1:1.3」を越えない「領域I」内の特性であるため、安定動作の状態や操作感の評価は、それぞれ本発明よりも低い「△」および「○」となった。なお、図15に示す「領域I」および「領域II」の範囲内は、打撃数が回転数の1.3倍未満の範囲内を示している。
さらに、実施の形態2に係るインパクトドライバ10によれば、図15に示すように、回転周波数に比して打撃周波数を、基準線BLを中心として「領域I」側のより高い値にするので、ハンマ30の打撃時におけるインパクトドライバ10の本体の変動(振れ幅)を小さくできる。さらに、図10に示すように、打撃数だけに着目すると本発明は打撃数が「4,000回/分以上(4,500回/分)」となっており、比較例A〜Dの打撃数(3,200回/分〜3,500回/分)よりも大きくなっている。このように打撃数を大きくすることで、一打撃当たりの手のブレを小さく抑えることができるため、長いネジを締め付ける際にもカムアウトが生じ難くなる。よって、評価「◎」となり、カムアウトが生じ難くなるとの実感を得ることができる。従って、長いネジでも容易に締め付けを行うことが可能となる。
ここで、図15に示すように、回転周波数(回転数)に比して打撃周波数(打撃数)を、基準線BLを中心として「領域II」側のより低い値としても、上述の共振を抑えることができる。しかしながら、この場合には、ハンマ30の大きな加振力によりインパクトドライバ10の本体の変動が大きくなるため、あまり望ましい対策とは言えない。特に、打撃数が「2,500回/分」以下の「領域III」の内部に入るような設定にすると、打撃効率が著しく低下して作業性が大幅に低下することになる。
また、実施の形態2に係るインパクトドライバ10によれば、電動モータ12をブラシレスモータで構成したので、電動モータ12をきめ細かく制御することができる。したがって、例えば、インパクトドライバ10を形成するケーシング13の共振周波数に対して、打撃周波数をずらすように制御することもでき、これによりインパクトドライバ10の本体の変動をより小さくすることが可能となる。
次に、本発明の実施の形態3について、図面を用いて詳細に説明する。
図4に示すように、実施の形態3においては、実施の形態2に比して、打撃機構SM1の構造が異なっており、実施の形態1と同じ打撃機構を用いている。また、図13の二点鎖線に示すように、起動時間t1が経過した以降のPWM信号のDuty比を「100%」に固定して、PWM信号のDuty比を変化させないようにした点が異なっている。さらに、PWM信号のDuty比をハンマ30の打撃検知をトリガとして
変化させないため、打撃衝撃検出回路42jおよび打撃衝撃検出センサ43(図11参照)を省略した点が異なっている。
つまり、上述の実施の形態2においては、PWM信号のDuty比を制御することで回転数(回転周波数)と打撃数(打撃周波数)との比率を「1:1.3以上」の「1:1.5」としていたが、実施の形態3においては、実施の形態2の打撃機構SM2と異なり実施の形態1と同じ構造の打撃機構SM1を採用することで、回転数と打撃数との比率を「1:1.3以上」としている。打撃機構SM1の構成は実施の形態1で説明した通りのため説明を省略する。
実施の形態3においても、実施の形態2と同様に、ハンマ30の非打撃時におけるアンビル18の回転数(回転周波数)と、ハンマ30の打撃時における打撃数(打撃周波数)との比率を「1:1.3以上」にできる。つまり、実施の形態3においては、PWM信号のDuty比を「100%」で固定したままでも、ハンマ50の非打撃状態から打撃状態への移行時におけるアンビル18の回転数の低下に対して、その3倍の打撃数を得ることができる。よって、回転数と打撃数との比率を「1:1.3以上」にできる。したがって、実施の形態3においては、実施の形態2に比して、打撃衝撃検出センサ43等の部品を省略でき、かつ制御ロジックを簡素化することができる。
さらには、実施の形態3においては、PWM信号のDuty比を変化させる等、電動モータ12のきめ細かな制御が不要となるため、ブラシレスモータに換えて、安価なブラシ付きモータを採用することができる。
本発明は上記各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記各実施の形態においては、ハンマの非打撃時におけるアンビルの回転数と、ハンマの打撃時における打撃数との比率を「1:1.3以上」としたものを示したが、本発明はこれに限らない。例えば、回転数と打撃数との比率を「1:1.3」としても良く、この場合には、「1」と「1.3」は公倍数として高く設定できるので、2次的な共振をより発生し難くさせることができる。
また、本発明の打撃工具は、上述したインパクトドライバ10の他に、インパクトレンチ等を包含する。さらに、本発明の打撃工具は、交流電源の電力を、電池パック11を介さずに電動モータ12に供給し得る構造を包含する。また、本発明の打撃工具は、電池パック11の電力、交流電源の電力を切り替えて電動モータ12に供給可能な構造を包含する。
さらに、本発明の駆動源は、上述した電動モータ12の他に、エンジン,空気圧モータ,油圧モータ等を包含する。エンジンは、燃料を燃焼させて発生した熱エネルギを運動エネルギに変換する動力源であって、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン,さらには液化石油ガスエンジンを包含する。また、本発明の打撃工具は、アンビル18,51に先端工具17が直接取り付けられる構造に加えて、アンビルにソケットやアダプタ等を介して先端工具が取り付けられる構造も包含する。