用語「ヒト様」または「ヒト化」は、本明細書において、分泌成分(SC)または免疫複合体調製物に関して、ヒトSC、例えば組換えヒトSC、あるいは他の種から得られており、ヒト分泌物、例えばヒトの乳に由来しないものを指すものとする。ヒト化SCは、非コア・フコースまたはルイスエピトープを含むN−グリコシル化パターンを伴うSC調製物を得るために、特に操作されるかまたは選択される。特に、乳腺の非ヒト分泌物から得られ、そしてルイスエピトープを含むグリコシル化が高い度合いであるように選択されたか、あるいは望ましいルイスエピトープを含むフコシル化パターンを伴う、ヒト起源の配列またはヒト化配列に基づく組換えSCとして得られるか、いずれかの、ヒト様またはヒト化SCを含む、「ヒト様」または「ヒト化」SCまたは免疫複合体が好ましい。ヒト化SCは、特に、抗病原体効果および特異的受容体結合特性(例えば樹状細胞上のDC−SIGNへの結合)を与えることが立証されている、末梢、アンテナまたは外側アームフコシル化(用語「非コア・フコシル化」下に要約する)を含む。
本明細書に記載するような「ヒト化」SCまたは免疫複合体は、本質的に、SC上に選択された高レベルのルイスエピトープを有し、そしてなお過剰なフコシル化、特に過剰な末梢フコシル化を回避するように、免疫グロブリンなどの他の糖タンパク質上の天然N−グリコシル化パターンを有する点で、トランスジェニック動物から得られる「ヒト化」乳とは異なる。したがって、免疫複合体中の免疫グロブリンは、天然グリコシル化パターン、例えばコア・フコシル化N−グリカンのみを持つ、天然N−グリコシル化パターンを有する。
用語「天然」は、本明細書において、免疫グロブリン、特にIgAおよび/またはIgMのグリコシル化パターンに関して、哺乳動物のB細胞によって産生されるグリコシル化を意味するものとし、これは特に、非コア・フコシル化を伴わず、そして特にルイスエピトープを伴わないグリコシル化によって特徴付けられる。ルイスエピトープは、典型的には、哺乳動物の天然または非修飾B細胞によって産生されない。
用語「非コア・フコシル化」または「ルイスエピトープ」は、本明細書において、特に非コア位置での、末梢、アンテナまたは外側アームフコシル化を含む、フコシル化のグリカンアンテナを指すものとする。具体的には、該用語は、特異的免疫グロブリンまたは抗体によって認識可能なルイス抗原またはH型抗原のエピトープを指す。ルイスエピトープは、ルイス式血液型抗原によって示されることも可能であり、ルイスx(LeX)、ルイスy(LeY)、ルイスb(LeB)およびルイスa(LeA)抗原が含まれる。用語「ルイスエピトープ」はまた、H I型およびH II型抗原、ならびに血液抗原AおよびBも指すものとする。ルイス抗原は、さらに、例えばシアル酸によって修飾されて、例えばシアル化ルイスエピトープを形成することも可能である。ルイス抗原をシアル化し、そして/または硫酸化してもよい。好ましいルイスエピトープは、LeXおよびシアル化LeX抗原に由来する。
本明細書で作製されるようなSCに関する特異的「非コア・フコシル化」に関する言及は、SC糖タンパク質調製物、例えば単離された組換えSC、あるいはプールされた供給源、例えば乳または乳分画から単離されたものを指すものとする。したがって、これは、各々、特異的グリコシル化パターンを有する、例えば付着した1またはそれより多い外側アンテナ(または非コア)フコース残基を有する、個々のSC分子を含む調製物に当てはまる。したがって、SCグリコシル化は、本明細書に記載されるような調製物中で決定される。
例示の目的のため、そして限定ではなく、組換えSCは、本明細書に記載するような遺伝子操作(修飾)CHO細胞において発現されてもよく、そして個々のSC分子の大部分は、SCの特異的N−グリコシル化部位上に非コア・フコース残基を有してもよい。こうした「非コア・フコシル化」は、多様な方法で特徴付け可能である。言及は、各場合で、本発明記載の修飾を欠く細胞株において作製されるSC糖タンパク質分子の集団と比較した際の、SC上に非コア・フコース残基を有する集団の比較的多数の(または増加した数の)SC糖タンパク質分子に対して行われる。
分泌成分の特異的非コア・フコシル化はまた、付加前に低い非フコシル化を示すかまたはまったくフコシル化を示さない部位への、フコースの酵素的および/または化学的付加によって産生されることも可能である。
本発明記載のSC糖タンパク質調製物を特徴付ける別の方式は、産生される単離された分泌成分における全体のグリコシル化に対する非コア・フコシル化の比による。本発明記載の組換え分泌成分は、約1:1〜1:5、1:5〜1:10、1:10〜1:30、1:30〜1:100の非コア・フコシル化N−グリコシル化:全体のN−グリコシル化の比を有する。
単離された組換え分泌成分を特徴付ける別の方法は、SC糖タンパク質のグリカン構成要素に対する、非コア・フコース残基によって形成されるエピトープ(フコシル化血液型構造)の相対量である。
用語「天然グリコシル化パターン」は、本明細書において、IgAおよびIgMに関して、ルイスエピトープを本質的に含有しないが、あるとしてもコア・フコシル化のみを含有する、IgAまたはIgMの重鎖に見られるN−グリコシル化パターンを指すものとする。糖タンパク質の天然グリコシル化パターンは種間で異なるが、種内の集団内には、理論的数値および炭水化物部位の位置などのグリコシル化特性の典型的な範囲がある。ウシ、ヤギおよびヒツジなどの動物の分泌型免疫グロブリンは、通常、理論的グリコシル化部位に関して、種内で類似のグリコシル化パターンを有する。
なお、グリコシル化パターン内の実際のグリコシル化部位の割合は、主に、亜種(race)、年齢、家族、摂食、泌乳期、健康状態、生理学的状態および乳プロセシングのようなパラメーターに応じて、0〜100%の範囲であることが見出された。
用語「非コア・フコシル化パターン」または「ルイス型N−グリコシル化パターン」は、本明細書において、本発明にしたがって用いられるようなSCに関して、非コア位、例えば末梢、アンテナまたは外側位で、N−連結フコースおよびルイスエピトープを含むグリコシル化パターンを指すものとする。グリコシル化中、N−連結またはO−連結糖タンパク質のいずれかが形成される。N連結糖タンパク質は、細胞表面タンパク質および分泌タンパク質の大部分を構成する。ルイス血液型構造は、アンテナグリカンの特定のフコシル化によって形成される。例えば、ルイスxおよびルイスa構造は、それぞれ、(Gal−ベータ1−4)(Fuc−アルファ1−3)GlcNacおよび(Gal−ベータ1−3)(Fuc−アルファ1−4)GlcNacである。これらの構造をさらにシアル化(NeuAca2,3−)して、対応するシアル化構造を形成してもよい。関心対象の他のルイス血液型構造は、それぞれ、(Fuc−アルファ1−2)Gal−ベータ1−4(Fuc−アルファ1−3)GlcNAcおよび(Fuc−アルファ1−2)Gal−ベータ−1−3(Fuc−アルファ1−4)GlcNAcである、ルイスyおよびルイスb構造である。さらなるルイスエピトープは、H I型およびH II型抗原由来である(それぞれ、(Fuc−アルファ1−2)Gal−ベータ1−3GlcNacおよび(Fuc−アルファ1−2)Gal−ベータ1−4GlcNac)ならびに血液抗原AおよびB((GalNAc−アルファ1−3)Fuc−アルファ1−2Galβ1−3GlcNAcおよび(Gal−アルファ1−3)Fuc−アルファ1−2Galβ1−3GlcNAc)。ABOの構造およびルイス血液型構造ならびにその合成に関与する酵素の説明に関しては、Maら, 2006, Glycobiology vol.16, no.12 pp 158R−184Rを参照されたい。
SCの例示的非コア・フコシル化またはルイス型N−グリコシル化パターンは、以下のように記載される:
N−グリカン(N−連結オリゴ糖、N−(Asn)−連結オリゴ糖)は、一般的に、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)残基およびコンセンサスペプチド配列:Asn−X−Ser/Thrを伴う、ポリペプチド鎖のアスパラギン残基に共有結合する糖鎖である。N−グリカンは、一般的な五糖コア領域を共有し、そして一般的に、3つの主な種類:オリゴマンノース(または高マンノース)型、複合型、およびハイブリッド型に分けられうる。
脊椎動物N−グリカンにおいて、主なコア修飾は、コア中のアスパラギンに隣接したN−アセチルグルコサミンへのアルファ1−6連結におけるフコースの付加である(=コア・フコシル化)。
複合体およびハイブリッドN−グリカンの大部分は、開始N−アセチルグルコサミンへのβ−連結ガラクトース残基の付加によって作製される、伸長された分枝を有し、2型N−アセチルラクトサミンまたは「LacNAc」配列と称される普遍的な構築ブロックGalベータ1−4GlcNAcを産生する。アンテナは、N−アセチルグルコサミンおよびガラクトース残基の連続付加によってさらに延長されうる。
最も重要な「キャップ化」または「装飾」モチーフは、分枝上に、シアル酸、フコース、ガラクトース、N−アセチルガラクトサミン、および硫酸を伴う。すべてのこれらのフコース残基は、本明細書において、非コア・フコース残基と称される:
ルイス血液型および関連抗原は、アルファ1−2、アルファ1−3、アルファ1−4フコース残基またはその組み合わせを所持するグリカンのセットである。1型および2型血液型抗原上のA、B、およびH決定因子血液型決定因子は、アルファ1−2連結中にフコースを示す。
以下の特異的構造は、SC上の「非コア・フコシル化」と見なされる:アルファ1−2、アルファ1−3、アルファ1−4フコース残基またはその組み合わせ、ルイスa、ルイスb、ルイスx、ルイスy、1型および2型血液型抗原上のA、BおよびH決定因子血液型決定因子、ならびにそのシアル化および/または硫酸化型。
糖タンパク質のルイスエピトープの最大値または理論値は、例えば分枝、伸長および構造の反復によって、N−グリコシル化部位あたり多数のルイスエピトープがある可能性もあるため、グリコシル化部位の数に等しいかまたはこれを超過することも可能である。例えば、ヒトSCは、7つのグリコシル化部位を有し、したがって、7より多いルイスエピトープが可能である。ルイスエピトープは、1またはそれより多い非コア・フコースを含むことも可能であるため、非コア・フコースの数は、糖タンパク質中のルイスエピトープの数を超過していてもよい。
特に好ましい場合、非コア・フコースまたはルイスエピトープの量は、N−グリコシル化部位の理論量の少なくとも1.1倍、好ましくは少なくとも1.2倍、または少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、または少なくとも2倍であり、特定の場合、量はさらにより高く、例えば少なくとも3倍、または少なくとも4倍、または少なくとも5倍、または少なくとも6倍、または少なくとも7倍、または少なくとも8倍、または少なくとも9倍、例えば最大10倍である。
ルイス型N−グリコシル化は、それぞれのフコシルトランスフェラーゼによって与えられることも可能であり、これらは、フコース単位をグアノシン−5’−ジホスホフコースから糖アクセプターの特定のヒドロキシルにトランスファーするため、合成経路において用いられてきている。異種フコシルトランスフェラーゼを、組換え生物によって発現させて、フコシル化糖タンパク質を発現させることも可能である。
用語「免疫複合体」は、本明細書において、非共有結合または共有結合を通じて、分泌成分に結合した少なくとも1つの免疫グロブリン分子を含む、タンパク質複合体を指すものとする。非共有結合は、例えば、静電または疎水性相互作用を含む。本発明にしたがった免疫複合体内で、少なくとも1つのIgAおよび/または少なくとも1つのIgM分子が提供され、これは、ポリマー性免疫グロブリンが形成されるように、さらなる免疫グロブリンに共有結合していてもよい。天然には、こうした多量体化は、ポリマー性抗体のJ鎖を通じて、または他の非共有相互作用によってのいずれかで、起こる。
用語「産業規模」は、天然供給源または細胞培養を含む組換え発現系からの免疫複合体の大規模産生を指すものとする。本明細書に記載するような産業規模発現系は、例えばプールした供給源を通じて、好ましくは、リットルあたり少なくとも10mg、好ましくはリットルあたり100mgの免疫複合体、および少なくとも100リットルの好ましい体積、より好ましくは少なくとも1000リットルの、立証された生産性を有する。
用語「生得的(innate)」は、免疫複合体に関して、哺乳動物を含む動物において、とりわけヒト被験体または患者の中で、自然免疫反応または機能を支配するかまたは刺激する免疫複合体を指すものとする。本発明記載の自然免疫複合体は、比較的非特異的な方式で、病原体に対する免疫防御を補助することも可能であるが、粒子状のエピトープまたは溶解した抗原性物質もまた、特異的に認識可能である。
用語「単離された」または「精製された」は、本発明記載のSCまたは免疫複合体などのタンパク質に関して、本明細書において、動物の体液または分泌物の、したがって天然起源の、あるいは細胞培養上清または組織もしくは細胞抽出物のような細胞培養物の、複雑な混合物から得られるタンパク質を指す。これらのタンパク質は、典型的には、SDS−PAGEによって決定した際、少なくとも50%純粋、好ましくは少なくとも60%純粋、より好ましくは少なくとも70%純粋、さらにより好ましくは80%純粋、最も好ましくは少なくとも90%純粋、そしてさらに最も好ましくは少なくとも95%純粋である。
用語「分泌成分」または「SC」は、本明細書において、ヒトを含む動物の乳腺によって分泌可能な分泌成分、または機能変異体を含むその変異体を指すものとし、このSCは、例えば免疫グロブリンから分離された、または例えば分泌型免疫複合体を形成するため、例えばJ鎖(またはその変異体)またはポリ免疫グロブリン受容体(pIgR)に特異的に結合する免疫グロブリンの他の構造によって仲介された、免疫グロブリンと複合体化した糖タンパク質である。SCは、初乳または乳などの天然供給源から得られてもよいし、あるいはそうでなければ合成的に、または組換え発現技術によって産生されてもよい。
本明細書において、SCは、具体的には、本明細書にさらに記載するように、非コア・フコシル化されている。さらに、グリコシル化パターンは、シアリルエピトープを含んでもよいしまたは含まなくてもよい。
具体的には、SCは、シアル化または無シアル化タンパク質調製物のいずれかとして提供される。好ましくは、本発明にしたがって提供されるようなシアル化および無シアル化グリカンの間の比は、好ましくは少なくとも3:1、好ましくは少なくとも4:1、または少なくとも5:1、または少なくとも6:1、または少なくとも7;1である。非シアル化(無シアル化)タンパク質を含む、低シアル化の調製物における比は、本明細書において、また、無シアル化調製物としても理解され、1:3未満、好ましくは1:4未満、または1:5未満、または1:6未満、または1:7未満と理解される。好ましくは、こうした調製物中で提供されるようなSCは、無シアル化グリカンまたはシアル化グリカンいずれかのみを含有する。
好ましくは、組換えSC上のシアリル−ルイスxエピトープの相対含量は、少なくとも0.02モル/モルSC、より好ましくは少なくとも0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、または0.1モル/モルSC、より好ましくは少なくとも0.2、0.3、0.4、または0.5モル/モルSC、さらにより好ましくは少なくとも1モル/モルSCまたはさらにより高く、例えば少なくとも2モル/モルSC、3モル/モルSC、4モル/モルSC、5モル/モルSC、6モル/モルSC、7モル/モルSC、8モル/モルSC、9モル/モルSC、または少なくとも10モル/モルSCである。特に好ましいSC調製物は、モルSCあたり少なくとも2モルのシアリル−ルイスxエピトープ、いくつかの場合、少なくとも6モル/モルを含む。
本発明のSCおよび免疫複合体は、粘膜効果を改善可能なより均質なグリコシル化の利点を有し、例えば均質なグリコシル化は、高い度合いの非コア・フコシル化を有するにもかかわらず、より少ない異なるグリコフォーム、例えば20未満の異なるSCグリコフォーム、または10未満の異なるSCグリコフォーム、またはさらに5未満の異なるSCグリコフォームによるものである。
分泌型免疫グロブリンの主な機能は、抗原および病原体の排除を促進することであるようである一方、分泌された抗体の分画が、実際に粘膜に戻って「逆行」輸送される証拠がある。
SIgAが樹状細胞(DC)の細胞表面上のDC−SIGNと会合した後、エンドサイトーシスされる証拠がある。これらの結果に基づいて、DC−SIGNがSIgA、そしておそらくSIgA−抗原複合体の認識および内在化に関与する粘膜DC上の受容体として働きうることが提唱された。
DC−SIGNへの分泌型免疫グロブリンの結合が、分泌成分のグリカンによって仲介されることが周知である。DC−SIGNは、複雑な高マンノース含有複合糖質であるマンナン、および無シアル化ルイス血液型抗原を含むある範囲のオリゴ糖リガンドを認識する。
DC−SIGNを通じた樹状細胞への免疫複合体の結合を増進させるため、分泌型免疫グロブリン調製物に関して、低シアル化グレードであるが、高非コア・フコシル化を伴うSCを用いることが好適である。こうした最小限にシアル化されたSCまたはさらに無シアル化SCを利用して、生物が寛容化する必要がある抗原(例えば食餌性抗原、アレルゲン)に結合するモノクローナルまたはポリクローナルポリマー性免疫グロブリン調製物を産生することも可能である。
他方で、DC−SIGNを通じて樹状細胞に結合しないか、またはDC−SIGNへの結合においてより低い有効性を有する、分泌型免疫グロブリン調製物を提供することが好適でありうる。これは、本発明の自然免疫複合体の調製のため、高シアル化非コア・フコシル化SCを利用することによって達成可能である。こうした調製物を利用して、特定のウイルス、毒素および他の病原体構造に関する分泌型免疫グロブリンのデコイ効果を増進させることも可能である。
シアリルルイスxは、顆粒球および単球上に恒常的に発現される決定因子であり、そしてこれらの細胞の炎症性血管外漏出を仲介する。
本発明の免疫複合体上のシアリルルイスxの存在または非存在は、炎症性状況に干渉するかまたは干渉を回避することによって、本発明の免疫複合体を用いた治療の有効性を増加させるかまたは副作用を減少させることも可能である。
それぞれ高または低モルシアル化(SCモルあたり)を伴うSCに関して選択することによって、調製物におけるシアル化の度合いを増加させるかまたは減少させることも可能である。これは、産生宿主の選択レベルで実行可能であり(例えば細胞株、微生物クローンまたは生物)、これは、これらの試料のその後のプールのため、それぞれ、高または低モル濃度シアル化を伴うSCを含有する分泌物を提供するよう選択される個々のドナーのレベルでも実行可能である。本発明のSCまたは自然免疫複合体の調製物の、それぞれ、酵素的または化学的シアル化、および脱シアル化によって、シアル化を増加させるかまたは減少させることも可能である。
糖タンパク質試料のシアル酸の絶対定量化のため(モルシアル酸/モル糖タンパク質)、質量分析に基づく糖分析法を適用してもよい。あるいは、エリスロポエチンに関する欧州薬局方のモノグラフ1316に記載されるような比色法を用いてもよい。この方法は、Svennerholm, 1957, Biochim Biophys Acta. Vol 24, pp 604−11に基づく。
したがって、SCの定義された量の純粋な調製物を、レゾルシノールおよび塩酸で、100℃で処理し、形成された青い複合体をブチルアルコール/酢酸ブチルで分離し、その後、580nmで測光測定する。シアル酸で産生された検量線によって、測光読み取り値を質量に変換する。
用語「分泌型免疫グロブリン」は、本明細書において、例えばpIgRまたは機能性変異体を含むその変異体によって仲介されて、ヒトを含む動物の乳腺によって分泌されうる、免疫グロブリンを指すものとする。分泌型免疫グロブリンは、天然供給源、例えば初乳または乳から、特にSIgAおよび/またはSIgMとして得られてもよいし、あるいはそうでなければ、合成的に、または組換え発現技術によって、または血漿および組換えSCなどの天然供給源由来のポリマー性免疫グロブリンの組み合わせによって、または組換え発現技術によって産生されたポリマー性免疫グロブリンおよび乳または他の体液などの天然供給源由来のSCの組み合わせによって、産生されてもよい。
用語「組換え」は、本明細書において、例えば、酵母、真菌、細菌または古細菌のような産生宿主細胞株または系統、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞またはそれぞれの組織由来の細胞株を使用して、微生物発酵または細胞培養などの、閉鎖された(contained)反応装置系において、宿主生物、例えば原核生物または真核生物のような、組換え発現系を使用する、遺伝子操作または遺伝子組換え技術によって、産生されるタンパク質(ポリペプチドを含む)を指す。
用語「発現系」または「産生系」は、本明細書において、細胞培養、またはより高次の真核生物、例えば望ましい品質および量のタンパク質および免疫複合体を産生可能な選択された泌乳動物であるが、ヒトを含まない生物を指すものとする。好ましい系は、真核宿主で使用するための発現ベクターを使用する。
「発現ベクター」または「ベクター」は、本明細書において、適切な宿主生物において、クローニングされた組換えヌクレオチド配列、すなわち組換え遺伝子の転写、およびmRNAの翻訳に必要なDNA配列と定義される。こうした発現ベクターは、宿主細胞における自律性複製のための起点、選択可能マーカー(例えば必須アミノ酸合成遺伝子またはゼオシン、カナマイシン、G418またはハイグロマイシンなどの抗生物質に対する耐性を与える遺伝子)、いくつかの制限酵素切断部位、適切なプロモーター配列および転写終結因子を含んでもよく、こうした構成要素は機能可能であるようにともに連結される。
用語「真核宿主」は、タンパク質を発現するために培養可能である、任意の真核細胞、組織または生物を意味するものとする。特に、真核宿主は、真核宿主細胞株である。該用語にはヒトが含まれないことが十分に理解される。本発明記載のSCを発現する好ましい宿主は、真核宿主である。
用語「宿主細胞」または「宿主細胞株」は、本発明にしたがって用いられるような、組換えタンパク質を産生する組換え遺伝子の発現に用いられる、微生物または細胞株を指す。好ましい宿主細胞は、哺乳動物、鳥類、昆虫または植物細胞、酵母、糸状菌または細菌からなる群より選択される。本発明の分泌成分を産生するため、好ましくは、非コア・フコシル化またはルイス型N−グリコシル化を伴う糖タンパク質を産生可能な宿主細胞が用いられる。増殖している培養宿主細胞の宿主細胞クローンは、一般的に、宿主細胞株と理解される。産生宿主細胞株は、一般的に、産業規模で産物を得るため、バイオリアクター中の培養のために準備が出来ている細胞株と理解される。
用語「ポリマー性免疫グロブリン」は、本明細書において、少なくとも2、3、4、5またはさらにより多数の、最大10の免疫グロブリン分子の会合を指すものとする。ポリマー性免疫グロブリンは、したがって、少なくとも二量体性の免疫グロブリン、例えば二量体IgA、三量体、四量体、五量体、例えばSIgM、六量体免疫グロブリン、またはさらにより高次のポリマーまたは凝集物と見なされる。ポリマー性免疫グロブリンは、共有結合、あるいは静電、疎水性、イオン性相互作用、またはJ鎖を伴うもしくは伴わないアフィニティ結合のような他の相互作用によって互いに会合した免疫グロブリン分子を含んでもよい。
用語「多重反応性免疫グロブリン」は、本明細書において、少なくとも2つの特異性を持つ免疫グロブリンを指すものとし、これは少なくとも2つの異なるエピトープを認識することを意味し、交差反応性としても知られる。典型的には、自然免疫系の多重反応性免疫グロブリンは、最も一般的には低いかまたは中程度のアフィニティで、エピトープおよび抗原に結合する、少なくとも3、4、5またはそれより多い適切な(例えば生理学的に適切なまたは薬理学的に活性である)特異性を有するであろう。
用語「食物」または「食品」は、動物によって摂取されるのに適したまたは摂取されるよう意図された、任意の化合物、調製物、混合物、または組成物を指すものとする。これには、栄養、栄養補助または食品補助剤、ダイエット食品またはサプリメントである任意の化合物、あるいはおそらくダイエットとして用いられる、食品への栄養または機能補助剤と理解される病人用特別食が含まれる。典型的には、機能性食品は、毒素を含む病原体に関連する疾患状態の防止または予防および/または治療、あるいは身体の生理学的不均衡の治療を補助する。該用語はまた、非ヒト動物に給餌するための食餌としておそらく用いられる、餌または餌製品を指すものとする。食物は、有機または合成供給源のものであってもよく、乳製品、または混合する前に適切に精製されている物質の人工的混合物に基づく合成組成物を含む、天然または天然様組成物中に配合される。本発明記載の食品は、典型的には、食品等級品質で提供される。等級品質は、動物に対して許容されうる食物の品質特性である。これには、外見(大きさ、形状、色、光沢、およびコンシステンシー)、テクスチャーおよびフレーバーのような外因が含まれる。品質標準はまた、混入物質の許容されうる最大量も提供する。成分品質に加えて、また、病原体を不活性化するかまたは枯渇させる、衛生設備の必要性もある。消費者にとって最も安全でありうる食品を産生するため、食品プロセシング環境は、可能な限り清浄であることを確実にすることが重要である。
分泌成分または免疫グロブリンのようなタンパク質の、用語「変異体」または「機能的に活性である変異体」は、本明細書において、配列内の、あるいは配列の遠位端のいずれかまたは両方での、1またはそれより多いアミノ酸またはヌクレオチドの挿入、欠失または置換による親配列の修飾から生じる配列を意味し、そして修飾はこの配列の活性に影響を及ぼさない(特に損なわない)。好ましい態様において、変異体は、機能的に活性である変異体であり、これは、a)アミノ酸またはヌクレオチド配列の生物学的活性断片であり、機能的に活性である断片は、アミノ酸配列またはヌクレオチド配列の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは約95%、そして最も好ましくは少なくとも97%、98%、または99%を含み;b)少なくとも1つのアミノ酸置換、付加および/または欠失によって、アミノ酸またはヌクレオチド配列から得られ、ここで機能的に活性である変異体は、アミノ酸またはヌクレオチド配列に、あるいはa)において定義されるような機能性活性断片に、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも約95%、そして最も好ましくは少なくとも97%、98%、または99%の配列同一性を有し;そして/またはc)該アミノ酸またはヌクレオチド配列、およびさらに該アミノ酸またはヌクレオチド配列に異種性である少なくとも1つのアミノ酸またはヌクレオチドからなり、好ましくは、ここで、機能的に活性である変異体は、多様な遺伝子およびタンパク質データベース中に見られる任意の配列の天然存在変異体のいずれかに由来するかまたはこれらと同一である。本明細書に記載するような、好ましいグリコシル化パターン、特にルイス型N−グリコシル化パターンおよびSCの非コア・フコシル化を含む、こうした機能的に活性である変異体が特に好ましい。さらに好ましい機能的に活性である変異体は、ポリマー性免疫グロブリン、例えばIgA二量体またはIgM五量体に結合可能な能力によって特徴付けられ、分泌性免疫複合体を形成する。
大部分のSC配列は、完全ポリ免疫グロブリン受容体(pIgR)と記載され、本発明の目的のため、これらの配列の細胞外部分のみが適切であり、例えば配列番号1に提供するようなヒトSCの配列、または以下に含まれるかもしくは本質的に同一である配列がある:
UniProtKB:遺伝子座 PIGR_BOVIN、寄託番号P81265(ウシpIgR)
UniProtKB:遺伝子座 PIGR_HUMAN、寄託番号P01833(ヒトpIgR)
UniProtKB:遺伝子座 PIGR_RAT、寄託番号P15083(ラットpIgR)
UniProtKB:遺伝子座 PIGR_MOUSE、寄託番号O70570(マウスpIgR)
UniProtKB:遺伝子座 PIGR_RABIT、寄託番号P01832(ウサギpIgR)
NCBI REFSEQ: 寄託番号NM_174143.1(ウシpIgR)
embl 寄託番号X81371.1(ウシpIgR)
GenBank GenBank: DAA21480.1(ウシpIgR)
GenBank: AAI49033.1(ウシpIgR)
NCBI REFSEQ: 寄託番号XM_537133.2(ウシpIgR)
NCBI参照配列: NP_002635.2(ヒトpIgR)
NCBI参照配列: NP_035212.2(マウスpIgR)
NCBI参照配列: NP_036855.1(ラットpIgR)
GenBank: AAK69593.1(ワラビーpIgR)
NCBI参照配列: NP_001125098.1(オランウータンpIgR)
GenBank: EAW93516.1(ヒトpIgR)
GenBank: EAW93515.1(ヒトpIgR)
NCBI参照配列: NP_999324.1(ブタpIgR)
GenBank: BAJ20784.1(ヒトpIgR)
NCBI参照配列: XP_001083307.2(マカク(macacca)pIgR)
NCBI参照配列: XP_002760783.1(マーモセット(Callithrix)pIgR)
GenBank: AAD41688.1(フクロネズミpIgR)
GenBank: EDM09843.1(ラットpIgR)
GenBank: AAI10495.1(ヒトpIgR)
GenBank: AAI10496.1(ヒトpIgR)
NCBI参照配列: XP_514153.2(チンパンジーpIgR)
GenBank: AAC53585.1(マウスpIgR)
GenBank: AAQ14493.1(ニワトリpIgR)
NCBI参照配列: NP_001038109.1(ニワトリpIgR)
GenBank: AAP69598.1(ニワトリpIgR)
GenBank: AAW71994.1(ニワトリpIgR)
GenBank: AAH13556.1(マウスpIgR)
GenBank: EDL39729.1(マウスpIgR)
GenBank: CAA76272.1(マウスpIgR)
GenBank: BAA24431.1(マウスpIgR)
NCBI参照配列: NP_001164516.1(ウサギpIgR)
NCBI参照配列: XP_001492348.2(ウマpIgR)
GenBank: AAC41620.1(ウシpIgR)
GenBank: AAB23176.1(ヒトpIgR)
GenBank: AAB20203.1(ヒトpIgR)
GenBank: ABK62772.1(ゼノパスpIgR)
本明細書に同定されるポリペプチド配列に関する「アミノ酸配列同一性のパーセント(%)」は、配列を整列させ、そして必要であればギャップを導入して、最大配列同一性パーセントを達成した後、そしていかなる保存的置換も配列同一性の一部と見なさない、特定のポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である、候補配列中のアミノ酸残基の割合と定義される。当業者は、比較中の配列の全長に渡る最大整列を達成するために必要とされるような、任意のアルゴリズムを含めて、整列を測定するための適切なパラメーターを決定可能である。
機能的に活性である変異体は、アミノ酸またはヌクレオチド配列中の配列改変によって得られることも可能であり、ここで、配列改変は、本発明と組み合わせて用いられた際、非改変アミノ酸またはヌクレオチド配列の機能を保持する。こうした配列改変には、限定されるわけではないが、(保存的)置換、付加、欠失、突然変異および挿入が含まれうる。
異なる種由来のSC間のドメイン交換によって、あるいはドメインの欠失または付加によって、機能的に活性であるSC変異体を得ることも可能である。ドメインの天然の順(例えば哺乳動物SCに関する1−2−3−4−5)の変更もまた、機能的に活性である変異体を生じうる(例えば1−4−3−2−5)。
本発明の特定の態様において、上に定義するようなポリペプチドまたはヌクレオチド配列を、多様な化学的技術によって修飾して、修飾ポリペプチドまたはヌクレオチド配列と本質的に同じ活性(断片および変異体に関して上に定義するようなもの)を有し、そして場合によって他の望ましい特性、例えば反応性、N−グリコシル化部位および安定性(in vivoまたはin vitro安定性)を有する誘導体を産生することも可能である。望ましい特性は、例えば、タンパク質のpH安定性および/またはプロテアーゼ(例えば膵臓)安定性によって測定されるような、熱安定性および/または胃腸安定性の増加である。免疫グロブリンのグリコシル化パターンは、可溶性、タンパク質分解的攻撃および熱不活性化に対する耐性、免疫原性、半減期、生物活性および安定性、またはポリマー性免疫グロブリンに結合する能力に影響を及ぼしうる。
本発明のSCの変異体は、さらなるグリコシル化部位を導入するため、改変されたアミノ酸配列を有することも可能である。本発明の好ましい態様は、N−グリコシル化部位の付加である。これは、遺伝子操作技術、ならびに化学的および酵素的手段によって達成可能である。配列モチーフAsn−Xaa−Thr−Xaa(配列番号15)またはAsn−Xaa−Ser−Xaa(配列番号16)(ここで、Xaaは、プロリン以外の任意のアミノ酸である)をSCの多様な部位に導入すると、改善された特性(例えば安定性、病原体構造への結合、pIgへの結合)を持つ、機能的に活性である変異体の選択が可能になりうる。これによって、ヒト由来SCが7より多いグリコシル化部位を有することが可能になりうる。
ポリペプチドまたはヌクレオチド配列の変異体は、変異体を含む(が元来のものを含まない)本発明の組成物の活性が、配列改変を伴わないアミノ酸またはヌクレオチド配列(すなわち元来のポリペプチドまたはヌクレオチド配列)を含む、本発明にしたがって用いられるような免疫グロブリンまたはSCの活性の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、特に少なくとも90%、特に少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%に達する場合、本発明の背景において、機能的に活性である。
機能的に活性である変異体は、上に定義されるような配列を変化させることによって得られることも可能であり、そしてこうした変異体は、病原体に対する免疫反応、病原体構造および他の分子への結合を修飾する能力を含めて、変異体が由来するそれぞれの配列によって示されるものと類似の、またはヒトSCに類似の生物学的活性を有することによって特徴付けられる。
なお、用語「機能的に活性である変異体」には、天然存在アレル変異体、ならびに突然変異体または任意の他の非天然存在変異体が含まれる。当該技術分野に知られるように、アレル変異体は、ポリペプチドの生物学的機能を本質的には改変しない、1またはそれより多いアミノ酸の置換、欠失、または付加を有すると特徴付けられる(ポリ)ペプチドの代替型である。
好ましい態様において、アミノ酸交換、欠失または挿入によって、上に定義されるようなアミノ酸またはヌクレオチド配列から得られる機能的に活性である変異体はまた、活性を保存するかまたはより好ましくは改善することも可能である。
保存的置換は、側鎖および化学的特性において関連するアミノ酸ファミリー内で行われるものである。こうしたファミリーの例は、塩基性側鎖、酸性側鎖、非極性脂肪族側鎖、非極性芳香族側鎖、非荷電極性側鎖、小側鎖、巨大側鎖を持つアミノ酸である。
用語「粘膜免疫グロブリン不全」は、正常または参照範囲未満の粘膜試料に存在する免疫グロブリン濃度を意味するものとする。これは、特に、SIgAまたはSIgMのいずれかあるいはSIgAおよびSIgMの両方の組み合わせの含有量を指す。
用語「分泌型IgA不全」または「SIgA不全」は、分泌型IgAの不全である。用語「分泌型IgM不全」または「SIgM不全」は、分泌型IgMの不全である。
これらの分泌型免疫グロブリン不全は、遺伝子配置、化学薬品によって、あるいは例えばストレス、栄養不全、傷害または手術による粘膜関連リンパ組織(MALT)におけるSIg産生の局所障害によって引き起こされうる。
MALTは、ヒトにおいて、例えば
・GALT(腸関連リンパ組織、パイエル板は、小腸の裏打ちに見られるGALTの構成要素である)
・BALT(気管支関連リンパ組織)
・NALT(鼻関連リンパ組織)
・LALT(喉頭関連リンパ組織)
・SALT(皮膚関連リンパ組織)
・VALT(血管関連リンパ組織)
・EALT(結膜[CALT]および涙管[LDALT]関連リンパ組織で構成される眼関連リンパ組織)
と理解される。
SIgA不全は、SIgM不全と関連する可能性もある。
分泌型IgAおよび/または分泌型IgM不全の検出は、標準的イムノアッセイ技術による、または分子生物学技術による、唾液、頸管粘液、鼻粘液、胃液、汗、尿または糞便などの分泌物中のSIgAおよび/またはSIgMの測定によって行われる。分泌物中のSIgAおよび/またはSIgMの免疫学的検出は、ELISA、RIAによって、蛍光に基づく免疫アッセイ、時間分解蛍光光度法、沈降アッセイ、比濁アッセイ、表面プラズモン共鳴に基づくアッセイ、ならびに標識を伴うおよび伴わない類似のセットアップによって、実行可能である。重要な必要条件は、IgAおよび/またはIgMからSIgAおよび/またはSIgMを区別することが可能であるための、免疫グロブリン分子に結合した分泌成分の検出である。
SIg不全の分子生物学的検出は、それぞれの組織および細胞において、J鎖および/またはpIgRの発現のために、こうした分子に特異的な抗体を用いてタンパク質レベルで、またはこうした分子の遺伝子に特異的なプローブを用いて遺伝子レベルでのいずれかで、アッセイすることによって実行可能である。RNAおよびDNAの両方を調べてもよい。検出法は、テンプレート増幅(例えばPCR)またはシグナル増幅を伴うまたは伴わないハイブリダイゼーションに基づくアッセイであってもよい。
粘膜SIgA不全は、一般的な分泌型IgA不全の強い指標でありうる。粘膜SIgM不全は、一般的な分泌型IgM不全の強い指標でありうる。併せた粘膜SIgA/SIgM不全は、併せた一般的な分泌型IgAおよびIgM不全の強い指標である。
粘膜SIgレベルが、正常値または同じタイプの健康な被験体の値のいずれかである参照値に比較した際、50%未満である場合、特に40%、30%、20%または10%未満である場合、SIg不全が特に示される。
異なる個体において、分泌型免疫グロブリンレベルにはかなりの変動がある。個体の免疫状態の正確な測定はまず、優れた健康状態であり、そして低度から中程度の身体活動の期間中、数日から数週間に渡る、個体の通常のSIgAおよび/またはSIgM値のベースラインを確立することも可能である。ベースラインはまた、個体の年齢で多様でありうる。しかし、この方法は、慢性分泌型免疫不全の個体にはふさわしくない。したがって、正常集団の参照値もまた、考慮してもよい。
ヒトに関しては、正常唾液SIgAレベルは11〜65mg/dLであり、正常唾液SIgMレベルは1mg/dLである。正常SIg値は、典型的には、健康な被験体の試料において決定される。減少した唾液免疫グロブリンは、再発性上気道感染、選択的IgAおよび/またはIgM不全を持つ小児において、そしてときに、食物アレルギーを持つ個体において、存在する可能性がある。
イムノアッセイによって決定されるような、ヒト唾液試料におけるSIgA不全は、典型的には、SIgA濃度がリットルあたり100ミリグラムSIgA未満であるか、または唾液SIgA流速が1分あたり50マイクログラムSIgA未満であるか、またはSIgA対アルブミン比が4未満である場合、示される(Dwyerらによって、Aviation, Space, and Environmental Medicine, 2010, 第81巻, ページ582 ffに提唱されるとおり)。イムノアッセイによって決定されるような、ヒト糞便におけるSIgA不全は、典型的には、SIgA濃度が、糞便100gあたり10ミリグラム未満である場合、示される。
イムノアッセイによって決定されるような、ヒト涙におけるSIgA不全は、典型的には、SIgA濃度が、ミリリットルあたり50mg SIgA未満である場合、示される。
イムノアッセイによって決定されるような、ヒト鼻分泌物または唾液におけるSIgM不全は、典型的には、SIgM濃度が、鼻分泌物リットルあたり50mg未満である場合そして/またはSIgM濃度が、唾液中1mg/dL未満である場合、示される。
SIg不全に関して特定するためには、粘膜関連リンパ組織の少なくとも1つの区画のみで、SIgレベル減少が見出されればよい。
SIgA不全は、ときに、SIgM不全もまた決定された試料において決定されうる。したがって、好ましくは、SIgAおよびSIgMの両方を含む本発明の調製物を、SIgAおよびSIgM不全のリスクがある被験体において用いる。
用語「粘膜」は、免疫グロブリン不全に関して、粘膜試料、例えば、被験体の唾液、胃液、頸管粘液、鼻粘液、胃洗浄液、胃液、気管支洗浄液、尿、涙および糞便において決定されるような免疫グロブリンレベルを指す。
用語「粘膜」は、被験体を治療するための調製物、またはそれぞれの配合物の投与または適用または別の粘膜使用に関して、全身性または局所投与を含む粘膜経路を通じた投与を指し、ここで、活性成分は、粘膜表面との接触によって取り込まれる。これには、経口、鼻、膣、直腸、気管支投与および配合物、例えば液体、シロップ、ロゼンジ、錠剤、例えば発泡錠、スプレー、吸入具配合物、粉末、即席粉末、顆粒、座薬、カプセル、クリーム、ペースト、ジェル、ドロップ、懸濁物、エマルジョン、または乳製品およびチューインガムを含む食品が含まれる。
用語「被験体」は、本明細書において、診断、スクリーニング、監視または治療が意図される、本明細書において好ましくは哺乳動物および特にヒトを含む、任意の動物を指す。被験体は、特定の疾患状態のリスクがある可能性もあり、例えば疾患状態に罹患した、あるいは疾患状態が決定されようとしているかまたは疾患状態リスクが決定されようとしている患者である。用語「患者」には、本明細書において、常に、健康な被験体が含まれる。いくつかの態様において、本明細書に開示する方法には、SIg補充療法が必要な被験体、例えば立証されたSIg不全を有する被験体を選択し、そして本発明にしたがって前記被験体をさらに治療する工程が含まれうる。
用語、特定の疾患状態、例えばSIg不全または粘膜免疫グロブリン不全「のリスクがある」は、例えば特定の素因によって、こうした疾患状態を潜在的に発展させるか、またはすでに、先天的または後天的状態を含み、一過性疾患を含む、多様な段階でこうした疾患状態を患い、特に他の原因疾患状態、あるいはこうした免疫グロブリン不全の結果として続く、他の状態または合併症に関連している被験体を指す。
粘膜Ig不全のリスク決定および診断は、Ig不全がまだ診断されていない被験体において、特に重要である。このリスク決定には、したがって、予防的療法を可能にする初期診断が含まれる。
特に、本発明の調製物を、高リスク、例えば症状を伴わない粘膜Ig不全の高い確率を持つ患者(例えば4歳未満の小児、手術直前および手術後まもない患者、極度の身体的ストレス、例えば激しい運動を伴うスポーツまたは仕事の前後、あるいは病原体感染リスクが増加した旅行の際)に用いる。
リスク評価、および特に本発明にしたがった粘膜Ig不全の治療は、口、喉、鼻および耳、眼および食道、胃管および結腸管の感染性疾患で特に示される。
さらに好ましい使用は、微生物物質または生物、抗原または疾患を引き起こす剤、例えば毒素を含む病原体によって引き起こされる、疾患状態の防止である。例えば、入院患者は、院内感染のリスクを減少させるため、その免疫系を補強する必要がありうる。本発明記載の補助食品を与えられている新生ヒトまたは動物は、母親またはそれぞれの乳母から十分な母乳を得ることが不可能である場合に、生存のより高い可能性を有しうる。さらに、動物およびヒトにおける腸管病原性疾患のリスクは、本発明記載の食品によって減少させうる。特に、被験体がSIg不全に罹患している場合、病原体は、過剰毒性効果、すなわちそうでなければ疾患状態を引き起こさないであろう疾患誘発剤の用量での曝露に際しての疾患状態を誘導しうる。したがって、本発明記載の調製物は、SIg不全のリスクがあるかまたはSIg不全に罹患している被験体において、こうした過剰毒性効果を防止するために特に提供される。
したがって、本発明は、上述のような免疫複合体調製物を産生する新規方法であって、産業規模産生を通じて、十分な量の安定で高品質な調製物を提供する大きな利点を有する、前記方法を指す。組換えSCおよび免疫複合体の新規調製物を改善された品質で提供する。
それによって、食品、健康維持製品として特に有用であり、釣り合いが取れた生理機能を回復し、そして維持するか、あるいは療法的および予防的使用を含む医学的目的のための、自然免疫複合体を提供することも可能である。
非コア・フコース、特にルイスグリカンが、生物の自然免疫の一部としてもまた、重要な役割を果たすことがわかった。表面抗原、毒素または受容体などの病原体構造、および宿主のグリカン構造の間の相互作用の解明が詳細に研究されている。
特に、ルイスグリコシル化は、宿主細胞へのヘリコバクター・ピロリ付着と相互作用しうる。80%を超えるH.ピロリ株がII型ルイス抗原(LeXおよび/またはLeY)を発現し、そしてその半数は両方を発現する。より少ない比率のH.ピロリ株がI型ルイス血液型抗原(LeAおよび/またはLeB)を発現し、そして非常に少数がシアリル−LeXを発現する。
同様に、シアリル−LeXは、感染性心内膜炎と関連するいくつかの口腔細菌、例えばストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)、ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)およびエイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)の細胞表面上で発現される。
ノロウイルスは、例えば急性胃腸炎の原因病原体である。これらは、宿主細胞上の組織−血液型抗原(HBGA)、すなわちABH抗原およびルイス抗原に結合し、ここで、1型および2型炭水化物コア構造は、抗原的に別個の変異体を構成する。ヒト・ノロウイルスは、シアリルルイスxネオ糖タンパク質を認識する。
クロストリジウム・ディフィシレ毒素Aおよび腸管病原性大腸菌のインチミンは、SCのガラクトシルおよび/またはシアル酸残基に結合する。粘膜樹状細胞上のDC−SIGNは、SIgAの推定上の受容体として作用し、そしてしたがって、樹状細胞は、粘膜表面の免疫監視において、M細胞と協力しうることが示されてきている。
本発明は、SCのヒト様グリコシル化が、非ヒト種の選択された個体において見出され、そしてこうしたヒト様SCが、ヒト様SCを安定化させ、そして分泌型免疫グロブリンの天然機能を保持するのに有用な天然グリコシル化パターンを有する天然免疫グロブリンと、優先的に組み合わせて用いられるという発見に基づく。同じ種内のSCのグリコシル化パターンが広範囲で多様であり、したがって、乳製品を調製するために典型的に用いられる提供の大きなプールは、単離されたSC上にルイスエピトープを含む有意なレベルのN−グリコシル化を含有しないであろうことがわかった。こうした一般的な大規模プールは、本発明の目的のための原材料には有用でないであろう。しかし、いくつかの個体において、SCは、ヒト様の高レベルのルイスエピトープを有しうる。こうした個体は、大規模に、本発明にしたがった免疫複合体を製造するための原材料として使用可能な、大規模産生プールを調製するために適切であろう。あるいは、組換え産生法によって、それぞれのヒト様SCを産生してもよい。次いで、原材料から得られるSCを、特に天然グリコシル化パターンを有するポリマー性免疫グロブリン分子を含むIgAまたはIgM、特に非コア・フコシル化された免疫グロブリン鎖を含むものと組み合わせる。ポリマー性免疫グロブリンは、乳または血漿などの天然供給源から得られてもよいし、あるいは組換え的に産生されてもよい。あるいは、SCおよび免疫グロブリンを含む本発明の免疫複合体を、例えば非コア・フコースまたはルイスエピトープの含量に関して選択された、大規模産生プールから直接単離し、そして精製してもよい。したがって、in vivoで増加した安定性を持ち、粘膜中の回収および/または半減期の増加を生じる、貯蔵安定性製品または免疫複合体調製物を提供する度合いまで、安定化されたSCを含む、免疫複合体調製物を調製してもよい。
グリコシル化変動は、SCを産生する細胞または生物の異なる生理学的状態、例えば感染、炎症性因子の存在、食物および栄養供給、ストレスなどで起こりうる。混合物におけるグリコシル化変動のさらなる供給源は、異なる遺伝的バックグラウンドおよびSCを産生する個々の生物または細胞の構成(例えば種、亜種、血液型、pIgR遺伝子型およびハプロタイプ等)でありうる。グリコシル化パターンを決定する、適切な分析法は、例えばDeshpandeら(J. Proteome Res. 2010, 9, 1063−1075)に記載される。
ヒト乳は、ルイスエピトープを含有し、またブタ、ウマおよび他の種由来の乳は、ルイス抗原を含む糖タンパク質を含有すると報告されている。哺乳動物α1,2−およびα1,3/4−フコシルトランスフェラーゼは、A、B、およびHルイス血液型抗原およびルイス血液型関連炭水化物抗原(すなわち、LeX、LeY、LeA、LeB、シアリル−LeX、およびシアリル−LeA)の合成の最後の工程に関与する。産業規模で、非コア・フコシル化またはルイスグリコシル化SCまたは免疫グロブリンを含むSC免疫複合体を提供することは、未だに不可能である。
驚くべきことに、コア・フコシル化SCに対して非コア・ルイスフコシル化SCを、SCグリコフォームの異種混合物(遊離または免疫グロブリンに結合)の平均よりも有意により多く産生する個々の発現系、例えば細胞クローンまたは動物、組換え生物または微生物を同定することが可能である。個々のクローンまたは動物間の相違は、予想外に高い可能性もある。
非コア・フコシル化が、クロストリジウム・ディフィシレ毒素Aへの組換えSCの結合において、役割を果たすことは、驚くべき発見である。これは、フコース残基が会合に関与しないと結論づけたPerrierら 2006 J Biol. Chem. vol. 281(20), pp. 14280−14287とは対照的である。
別の驚くべき発見は、特定のグリコシル化モチーフのレベルが、SCが特定の病原体抗原を中和する強度と相関しうることである。
さらなる驚くべき知見は、受容体DC−SIGNに対する結合のレベルが、個々の乳試料間で非常に多様であり、そしてDC−SIGNへのSCの結合が、高マンノース含有グリカンの存在にもかかわらず、ルイスグリカンによって影響を受けることである。
ヒト様SCを提供するため、非ヒト乳を改善されたSCの供給源として用いてもよい。個々の動物の乳試料から単離されたSCまたは免疫複合体を、非コア・フコースまたはルイスエピトープのモル濃度含有量に関して分析する。動物は、特定のヒトまたは獣医学的病原体に対して免疫されて高度免疫乳を提供してもまたは免疫されていなくてもよい。
遺伝的手段によって、例えばpIg受容体の発現に関するアッセイ、pIgRハプロタイプ、および/または特定のフコシルトランスフェラーゼ遺伝子、例えばFUT3、4、5、6、7、9、10、11および/または他のグリコシルトランスフェラーゼ(例えばベータ−3−ガラクトシル−トランスフェラーゼまたはベータ−4−ガラクトシル−トランスフェラーゼ)に関するアッセイによって、動物がより多くのSIgAまたはより多くの特定のグリコシル化を産生する可能性に関して、動物をあらかじめスクリーニングしてもよく、そしてこうした目的のために、集団を交配させてもよい。
次いで、こうした動物を同定し、そして適切な発現産物のために選択する。
次いで、上に記載するような非コア・フコシル化またはルイスフコシル化SCを含む発現産物を、好ましくはプールし、そして本発明にしたがった免疫複合体の調製のための供給源として用いる。
実際、ヒト母乳以外の供給源に由来する、本発明にしたがって用いられるようなヒト様SCは、多くの病原体に対して広い範囲の中和活性を持つヒト天然SCと比較して、類似のまたはさらに改善された特性を有する。本明細書において、用語「病原体」には、常に、微生物および毒素が含まれ、また、細菌、真菌、ウイルスおよび原生動物細胞および産物、特にヒトまたは獣医学的病原体が含まれる。
本発明記載の調製物が、経口摂取後、粘膜通過を含む天然機能を維持する免疫グロブリンの適切な混合物を高い力価で含むことが好ましい。
本発明記載の免疫複合体調製物は、SCのN−グリコシル化パターンにおける標準化された多量の非コア・フコースまたはルイスエピトープのため、強度が高い利点を有する。それによって、免疫複合体調製物の抗微生物または抗毒素効果を含む、抗病原体効果が有意に増加しうる。
主な選択基準は、望ましい免疫を与えることが立証されている、ルイスエピトープのタイプおよび量に関する。好ましいルイスエピトープは、天然供給源において、平均的な普及よりも有意に増加している、LeBエピトープである。やはり好ましいのは、SC上のルイスxおよびシアル化ルイスxエピトープの存在である。乳由来産物中の好ましい相対増加は、プールサイズが少なくとも100個体から得られる、選択されない個体由来のプールされた供給源のシグナルを、非選択試料の標準偏差の少なくとも2倍超過したELISAシグナルの増加である。典型的には、特に反芻動物、例えばウシ、ヒツジまたはヤギの、少なくとも100個体由来の乳腺産物のプールは、標準ELISA技術によって決定された際、平均して、0.01モルより有意に低い非コア・フコースまたはルイスエピトープ/モルSC、通常、0.005モル未満/モル、大部分の場合、さらに検出不能なルイス抗原を有する。
しかし、本発明は、少なくとも0.01モル/モルSC、そして特に理論値の少なくとも1%、好ましくは少なくとも5%または少なくとも10%の非コア・フコースまたはルイスエピトープである、非コア・フコースまたはルイスエピトープに関するその品質にしたがって、個体、乳腺分泌物の個々の試料またはプール、培養上清または細胞抽出物の好ましい選択を提供する。より高い非コア・フコースまたはルイスグリコシル化レベル、例えば少なくとも0.01モル/モルSC、好ましくは少なくとも0.02モル/モルSC、より好ましくは少なくとも0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、または0.1モル/モルSC、より好ましくは、少なくとも0.2、0.3、0.4、または0.5モル/モルSC、さらにより好ましくは少なくとも1モル/モルSCまたはさらにより高く、例えば少なくとも2モル/モルSC、少なくとも3モル/モルSC、少なくとも4モル/モルSC、少なくとも5モル/モルSC、少なくとも6モル/モルSC、少なくとも7モル/モルSC、少なくとも8モル/モルSC、少なくとも9モル/モルSC、または少なくとも10モル/モルSCにしたがって、さらにより好ましい選択を行う。特定の場合、N−グリコシル化部位の理論値は、2(天然ウシSC)、3(天然ウマSC)、および7(天然ヒトSC)モル/モルに達する。本発明にしたがって、グリコシル化部位の理論値の少なくとも1%、好ましくは少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9または10%、より好ましくはグリコシル化部位の理論値の少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または最大90%のルイスエピトープの量にしたがって、選択を行うことが特に好ましい。
非コア・フコースの量は、例えばN−グリコシル化部位あたりの多数のフコシル化を通じて、N−グリコシル化部位の理論的量を超過し、それによって、モルに基づいてN−グリコシル化部位の数よりも多いルイスエピトープ、例えば少なくとも1.1倍、好ましくは少なくとも1.2倍、または少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、または少なくとも2倍のルイスエピトープを得ることも可能であり、特定の場合、量はさらに高く、例えばN−グリコシル化部位の理論量の少なくとも3倍、または少なくとも4倍、または少なくとも5倍、または少なくとも6倍、または少なくとも7倍、または少なくとも8倍、または少なくとも9倍、例えば最大10倍である。
個体由来または選択プール、すなわちプールした試料由来の試料の決定に基づいて、選択を行ってもよく、ここで、プールは10またはそれより多い個体から得られる。次いで、選択基準にしたがって、非コア・フコースまたはルイス陽性であることが立証されている材料をプールして、本発明にしたがった免疫複合体調製物の産業規模産生に用いようとする原材料として産生プールを提供してもよい。立証された高品質グリコシル化プロファイルを有する産生プールは、少なくとも10、より好ましくは少なくとも50、100、500、1,000または2,000提供の好ましいサイズ、あるいは好ましくは少なくとも10、50、100、500、1000、2000、10,000または20,000リットルを有する。品質管理測定として、通常、適切なグリコシル化の存在を工程内管理および/または最終産物管理によって確認する。最終産物は、典型的には、望ましいグリコシル化パターンにしたがって標準化される。
SCおよび/またはSIgAまたはSIgM上の非コア・フコースを決定するための例示的な試験系を、以下の実施例セクションに記載する。高感度の決定法は、標準RP−ESI−MSMS(RP−HPLC−ESI−MSMS、逆相高性能液体クロマトグラフィー−エレクトロスプレーイオン化−タンデム質量分析)によるグリカン分析を指す。以下の原理に基づいて、非コア・フコースまたはルイス型フコシル化のレベルまたは度合いを試験してもよい:
グリカンプロファイルおよびしたがって、所定のグリコシル化部位に付着したオリゴ糖の特定の組成の量を、SC由来の糖ペプチドの質量分析によって、決定してもよい(Stadlmann 2008, Proteomics 8, 2858−2871; Wuhrer 2007, Proteomics 7, 4070−4081)。いくつかの潜在的なグリコシル化部位を含む、SC上のグリカンのアンテナに付着したフコース−残基の特定の場合(ルイスグリコシル化)、以下の戦略を適用してもよい。
SIgA調製物をSDS−PAGE上で分離し、そしてSCバンドを溶出させる。該SCは、S−アルキル化されており、そしてトリプシンまたは別の適切なプロテアーゼで消化させる。該試料をさらに、最も内部のGlcNAc残基へのアルファ−1,6−連結中のフコース残基(コア・フコシル化)を特異的に除去することが可能なフコシダーゼでの処理に供する。こうした酵素の例は、ウシ腎臓由来のフコシダーゼである。
ペプチドおよび糖ペプチドの生じる混合物を、次いで、好ましくは例えば逆相クロマトグラフィによるクロマトグラフィ分離の後に、質量分析によって分析する。プロテアーゼ、クロマトグラフィカラムおよび溶媒勾配を適切に選択すると、各グリコシル化部位は、ピークによって示される。タンパク質のアミノ酸配列から、Asn連結グリコシル化の潜在的な部位を推定することも可能である。
最も逆相であるカラム上での、例えばWaters BioBasic C18カラム上での保持は、単に、ペプチド部分に頼るため、このピークは、所定のペプチドのすべてのグリコフォームおよびしたがってグリコシル化部位をカバーする。
所定の部位の糖ペプチドは、いくつかの手段によって同定可能である:
1.)通常観察される不均一性のため、これらは、例えばヘキソース(162,05Da)、シアル酸(291.09Da)、N−アセチルヘキソサミン(203.08Da)またはフコース残基(146.06Da)の質量によって異なる、一連のピークを形成する。
2.)ESL−またはMALDI−MSによるMSMS断片化は、グリカンの配列および根底にあるペプチドの質量を明らかにしうる。
3.)ペプチド:N−グリコシダーゼ(FまたはA)による酵素的除去は、Gln(グルタミン)残基の代わりにGlu(グルタミン酸)を含有する脱グリコシル化ペプチドを生じ、これは、1Daの質量相違を生じるであろう。この脱グリコシル化ペプチドの質量は、1.)および2.)で得られたかまたは用いられた仮定とマッチしなければならない。
糖ペプチドピークがひとたび同定されたら、ピーク「量」すなわち特定の糖ペプチド種に対応するピーク下面積を適切な方法によって測定するが、これは、1つの分析物がしばしば、2またはそれより多い電荷状態を生じることを考慮に入れることも可能である。イオン化およびしたがって糖ペプチドの検出は、ペプチド部分によって支配されるため、ピーク量を、直接、グリコフォームのモル比率に置き換えることも可能である(Stadlmann, 2008, Proteomics 8, 2858−2871)。
特定の部位に存在するグリコフォームのリストから、フコシル化グリカンのモル分画を計算する。異なる部位に関する結果を付加して、特定の構造特徴が、特定のSC試料上に存在するモル比率に到達する。例えば、MS検出を伴う多孔性黒鉛上のクロマトグラフィによる遊離N−グリカンの分析によって、コア−フコース除去の完全性を検証することも可能である(Pabst 2007, Anal. Chem. 79, 5051−5057)。
多数の個々の供給源または調製物をスクリーニングするため、単純でそして迅速なアッセイ、例えば側方流動アッセイを用いてもよい。さらにまたはあるいは、ルイス型グリコシル化特異的リガンド、例えば多様なルイスエピトープに対する抗体または別の足場結合剤(例えば抗ルイスa、抗ルイスb、抗ルイスx、抗ルイスy、抗シアリルルイスx)、ヒトレクチンDC−SIGN、CD209(表面抗原分類209)としても知られる樹状細胞特異的細胞間接着分子3−非インテグリングラビングを使用したELISAアッセイを用いる。ルイスエピトープに対する他のレクチン結合の例は、イソレクチンA、ヒイロチャワンタケ(Aleuria aurantia)凝集素、トロンボモジュリン、ランゲリン、スカベンジャー受容体C型レクチン、E−セレクチン、シグレック、SIGN−受容体およびヒト・ロタウイルスのウイルスタンパク質8(VP8)である。
陽性対照として、典型的にはヒト材料を用いる。陰性対照として、プールされた商業的(すなわち選択されない、非ヒト)供給源由来の非フコシル化タンパク質、例えばBSAまたは任意の分泌型免疫グロブリン調製物を用い、こうした供給源は、いかなる場合でも、モルSCあたり、平均0.01モル未満の非コア・フコースを含む。SCおよび/または分泌型免疫グロブリン調製物における非コア・フコースまたはルイスエピトープを決定する結果を、典型的には、モルSCあたりの非コア・フコースあるいはSIgAまたはSIgMのあらかじめ決定された量、例えば0.01モル/モル(+/−20%)を伴う参照に比較する。したがって、結果は、半定量的であることも可能であり、そして参照量「より高い」または「未満」と称する。あるいは、例えば、異なるレベルの非コア・フコシル化またはルイスエピトープを含む一連の参照を含む適切な較正によって、定量的決定が可能であろう。標準的強度試験は、クロストリジウム・ディフィシレ毒素A、ヘリコバクター属、大腸菌毒素、カンピロバクター属(Campylobacter)、赤痢菌属(Shigella)、ロタウイルス、ノロウイルスの少なくとも1つの中和活性または結合アッセイ、あるいはリポ多糖、リポテイコ酸、ペプチドグリカン、キーホールリンペット(keyhole limpet)ヘモシアニン、DC−SIGN、イソレクチンA、ヒイロチャワンタケ凝集素、トロンボモジュリン、ランゲリン、スカベンジャー受容体C型レクチン、E−セレクチン、シグレック、SIGN−受容体との競合、結合阻害または他の相互作用を指す。
好ましくは、ドナー発現系は、ドナーの乳または乳分画から、分泌成分および場合によって免疫複合体調製物を得るため、泌乳期中の非ヒト雌性個体で構成される。例示的な原材料は、それぞれ、遊離分泌成分、ポリマー性免疫グロブリンおよび免疫複合体を濃縮された形で含有する、例えば、ホエイ、または乾燥ホエイである。好ましい原材料は、免疫グロブリンが、少なくとも2倍、3倍、4倍、または5倍濃縮されている可能性もある。
次いで、SCまたは免疫複合体を、精製された型で、こうした原材料から得て、本発明にしたがった免疫複合体産物を調製することも可能である。
本発明にしたがった免疫複合体を産生するために別に用いられる発現系はまた、組換え発現系であることも可能であり、とりわけ、すべての種および分類群の組換え宿主細胞、例えば組換え真核宿主であることも可能である。
したがって、アミノ酸配列、例えば配列番号1または任意の機能的に活性である変異体配列、あるいはSCをコードするヌクレオチド配列を使用して、組換え宿主を調製してもよい。配列は、好ましくは、哺乳動物起源、例えばヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジまたは非ヒトSC配列のヒト化型、あるいはキメラのSCをコードし、常に機能性変異体が含まれる。それぞれの配列情報は図に提供されるか、または適切であるように公的データベースから得られうる。
現在までの組換えSCは、分泌成分のグリカンにルイス型フコシル化を付加することが不可能な宿主において産生されてきている。一般的に用いられる精製組換えSCの宿主は、CHO細胞、BHK細胞、マウスJ558L細胞、昆虫細胞およびタバコ植物であった。
pIgR、例えばヒトpIgRの完全遺伝子のいずれかを宿主細胞に導入し、続いて膜貫通タンパク質pIgRを発現させ、その後、細胞外部分、SCを切断し、そして培養上清に遊離させることによって、組換えSCを産生することも可能である。別の発現は、SC、すなわち細胞外ドメインのみのヌクレオチド配列、例えば配列番号1のアミノ酸配列をコードする配列の転写である。すべての場合で、組換えSCの発現によって、最終産物の均質なC末端を保証する産生条件の正確な選択が可能になる。
これはまた、必要に応じた翻訳終結部位を選択することも可能にする。好ましくは、発現しようとするSC遺伝子上の停止コドンは、最後の細胞外免疫グロブリン様ドメインをコードする領域(すなわちヒトSC中のドメイン5)および膜貫通領域の間に位置する。しかし、本発明の組換えSCは、結合可能であり、そして非コア・フコースの必要なレベルを含有する限り、さらに短くてもよく、例えば5全長ドメイン未満、または4ドメイン未満、または3ドメイン未満、または2ドメイン未満、例えば少なくとも第一のドメインを含む。
配列番号1の最初の18アミノ酸は、用いる宿主細胞または生物、および必要な分泌効率に応じて、異なるシグナルペプチドによって置換されてもよいシグナルペプチドを含む。SCの化学合成による産生または細胞内産生のため、シグナルペプチドは必要ではない(例えば大腸菌封入体における非グリコシル化型の産生のため)。また、タンパク質を修飾して、配列番号1のC末端でさらなるアミノ酸を含有させてもよい。
タンパク質は、アミノ酸G545の後のそれぞれの核酸の必要な位の停止コドンによって、好ましくはK566およびE607の間の任意のアミノ酸で(これらの部位を含む)、より好ましくはR603およびE607の間(これらの部位を含む)、またはE607の後でタンパク質を終結させてもよい。より好ましくは、SCはR603の後で終結する。番号付けは配列番号1を指す。
好ましくは、本発明のSC調製物は均質であり、少なくとも80%、または少なくとも90%、または少なくとも95%、最大100%のSC分子が同じC末端を有する。
組換えSCのグリカンパターンは、宿主種、宿主生物、起源の組織および遺伝子操作細胞の生理学的状態に応じる。
好ましくは、宿主細胞は、ヒト細胞、例えばPerC.6、チャイニーズハムスター卵巣細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、ネズミ細胞、鳥類細胞株、細菌、酵母、真菌、植物および昆虫細胞からなる群より選択される。それによって、組換えSCは、望ましい非コア・フコシル化またはルイス型N−グリコシル化を伴って得られることも可能である。
高い非コア・フコシル化(SCモルあたり)を伴うSCを選択することによって、本発明の調製物における非コア・フコシル化の度合いを増加させてもよい。これは、産生宿主の選択レベルで実行可能であり(細胞株、微生物クローンまたは生物に関するスクリーニングなど)、これはまた、これらの試料のその後のプールのため、高モル非コア・フコシル化を伴うSCを含有する分泌物を提供するよう選択される個々のドナーのレベルでも実行可能である。本発明のSCまたは自然免疫複合体の調製物の酵素的または化学的フコシル化によって、フコシル化を増加させてもよい。
正常組織は、特定の部位(例えば結腸、精巣)で、そして特定の発生段階(胎児抗原)中に、ルイスエピトープの発現を示す。その結果、特定の部位由来の特定の細胞株、例えば結腸癌細胞株がルイス抗原を発現する。Caco−2細胞は、分化中に、H 1型血液型抗原および少量のLeBのみを発現する。多様な細胞株(HT−29、AGS、Kato III、HuTu−80、およびHEp−2)、ならびに初代胃細胞が、ルイス抗原発現に関して研究されてきている。しかし、これらの多くは、培養が困難であり、そして生得的な遺伝的不安定性のため、それぞれのルイス型N−グルコシル化を産生する産生宿主として適していないであろう。
植物N−グリカンは、オリゴマンノース性(Man>5GlcNAc2)、パウシマンノース性および複合タイプの型である。LeA部分は、N−グリカンのアンテナに位置し、単子葉植物および双子葉植物だけでなく、ヒメツリガネゴケ(Physcomitrella patens)(雌雄同体のコケ)および多様なコケ植物(bryophyte)種においても検出されてきている。LeAは、すべての植物組織(花、葉、根、および実生)中で発現され、若い組織(葉および根)では、原因であるα1,4−FucT活性が支配的である。しかし、植物において発現されるSIgAは、これまで、いかなるルイス型グリコシル化も示していなかった。
ルイスエピトープを含むN−グリコシル化タンパク質を産生可能である同じ宿主における、ポリマー性免疫グロブリン(例えば二量体IgAまたは五量体IgM)およびSCの同時発現は、非天然であり、そしてしたがって好ましくない、ルイスグリコシル化重鎖を導く。
したがって、本質的に望ましい方式で、すなわち遺伝的方式で、あるいは、そうでなければそれぞれの遺伝子修飾を通じて、例えば組換え技術を通じて、後天性または一過性能力によって、糖タンパク質をグリコシル化することが可能な発現系を用いて、それぞれのグリコシル化パターンを提供することが特に好ましい。例示的な発現系は、例えばフコシルトランスフェラーゼ2および3、ならびにベータ1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼI、IIおよびVの同時発現を通じて、ルイス−フコシル化N−糖タンパク質を産生する増進した能力を有する。
非コア・フコシル化またはルイスグリコシル化オリゴ糖および複合糖質を産生するよう操作された宿主は、例えば、血液型関連抗原を含むオリゴ糖、糖タンパク質または糖脂質を産生するため、多様なグリコシルトランスフェラーゼ、例えばフコシルトランスフェラーゼを発現する産生細胞株である。
血液型関連グリコシル化を生成するトランスジェニック動物が記載されてきている(例えばWO1995024495A1またはXuら。上記を参照されたい)。しかし、先行技術のトランスジェニック生物は、ルイス−フコシル化IgAまたはIgMを同時に提供するであろうし、これは過剰な非コア・フコシル化および非天然グリコシル化パターンを有するであろう。したがって、免疫複合体調製物は、特に、こうしたトランスジェニック動物の乳から得られない。
操作されたCHO細胞は、ルイス型フコシル化を生じることが記載されてきている(Loeflingら 2008, Glycobiology vol. 18 no. 7 pp. 494−501)。また、ルイス型フコシル化N−グリカンを生成する能力を持つCHO細胞の機能獲得型突然変異体が記載されてきている(Northら 2010, J Biol Chem. vol 285 pp. 5759−5775)。しかし、こうした宿主細胞における完全SIgAの発現は、非天然グリコシル化を伴うルイス−フコシル化アルファ−免疫グロブリン鎖を導くであろう。こうした細胞は、したがって、本発明にしたがった適切なグリコシル化の選択後、ヒト様SCを産生するためだけに使用可能である。上述のような乳試料のスクリーニングのために記載されるように、適切な組換え宿主細胞クローンの選択が行われる。LoeflingらおよびNorthらに記載されるものと、より異なるルイス型グリコシル化およびより遺伝的に安定な突然変異体に関して、操作し、スクリーニングし、そして選択することが好ましい。次いで、こうした宿主細胞由来の組換えSCを用いて、任意の供給源由来の非ルイスフコシル化(すなわち天然グリコシル化)免疫グロブリンを含む、本発明記載の免疫複合体を調製する。
具体的には、パイロットまたは産業規模のバイオリアクター中で、少なくとも1mg/L培地、好ましくは少なくとも10mg/L、好ましくは少なくとも100mg/L、最も好ましくは少なくとも1g/Lの収量で、ルイス−グリコシル化SCを発現する条件を使用して、組換え宿主細胞株を培養することが好ましい。
本発明記載の宿主細胞は、好ましくは、以下の試験によってその発現能または収量に関して試験される:ELISA、活性アッセイ、HPLC、あるいは本発明にしたがったSCまたは免疫複合体の量および品質を示す、他の適切な試験。発現レベルに関してだけでなく、提供可能なSCのグリコシル化パターンに関しても、宿主細胞を選択する:例えばルイスa、ルイスb、ルイスxおよびルイスyまたはそのシアル化型の少なくとも1つが、組換えSC上で見出されるはずである。好ましくは、ルイスxおよび/またはシアリル−ルイスxが試料中に存在する。より好ましくは、SC上の1より多いタイプのルイス抗原が試料中に存在する。
好ましい発酵技術は、バッチ、流加培養、または連続培養、例えば灌流培養である。
好ましくは、産生細胞株を、適切な炭素供給源を含む無機培地中で培養し、それによって、単離プロセスを有意にさらに単純化させる。好ましい無機培地の例は、利用可能な炭素供給源(例えばグルコース、グリセロールまたはメタノール)、多量元素(カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、塩素、硫酸、リン酸)および希元素(銅、ヨウ素、マンガン、モリブデン、コバルト、亜鉛、および鉄塩、ならびにホウ酸)、ならびに場合によって例えば栄養要求性を補完するためのビタミンまたはアミノ酸を含有するものである。
発現系の性質に応じて、細胞または培地から精製可能なSCの発現を達成するのに適した条件下で、形質転換細胞を培養する。当業者に理解されるであろうように、培養条件は、宿主細胞のタイプおよび使用する特定の発現ベクターを含む要因に応じて、多様であろう。
SCが細胞から分泌される場合、最新技術を用いて、培地から単離し、そして精製することも可能である。組換え発現産物の分泌は、産物が典型的には、細胞が破壊されて細胞内タンパク質が遊離する結果、タンパク質の複雑な混合物からよりも培養上清から回収されるため、一般的に、精製プロセスを促進する工程を含むため、好適である。
また、培養形質転換細胞を、超音波でまたは機械的に、酵素的にまたは化学的に破壊して、SCを単離しそして精製する、望ましいSCを含有する細胞抽出物を得ることも可能である。
遺伝子操作技術に加えて、SCへのルイス−グリコシル化オリゴ糖の化学的コンジュゲート化、in vitroでSC上のルイス抗原を生成するフコースの酵素的付加、あるいはルイス−グリコシル化特異的リガンド結合による、プールされた供給源からのSCまたは分泌型免疫グロブリンの濃縮を提供することもまた可能である(例えばルイス抗原への特異的な抗体または別の足場の結合、特異的レクチン、例えばDC−SIGN、トロンボモジュリン、ロータス・テトラゴノロブス(Lotus tetragonolobus)由来のイソレクチンAおよびヒイロチャワンタケ凝集素、特定のシグレック、セレクチン)。
SCまたは免疫複合体を得るために用いられる、本発明にしたがった単離および精製法は、可溶性の相違を利用する、例えば塩析および溶媒沈降、分子量の相違、例えば限外濾過およびゲル電気泳動、電荷の相違、例えばイオン交換クロマトグラフィであるか、あるいは、特異的アフィニティを利用する、例えばアフィニティクロマトグラフィであるか、あるいは疎水性の相違を利用する、例えば逆相高性能液体クロマトグラフィであるか、あるいは等電点の相違を利用する、例えば等電点電気泳動であることも可能である。好ましくは、任意のSCポリペプチドのみを、または免疫グロブリンと複合体化したSCポリペプチドを分離するために使用される特定の精製工程は、100kDa〜500kDaの間の分子カットオフを用いた限外濾過技術、および硫酸アンモニウムなどの塩または有機溶媒を用いた沈降などの沈降技術である。
慣用的な方法、例えばウェスタンブロットまたはその活性のアッセイ、例えば二量体IgAまたはJ鎖に結合する能力によって、またはSCに対する特異的抗血清での検出によって、単離されおよび精製されたSCを同定しそして分析してもよい。
アミノ酸分析、アミノ末端分析、一次構造分析、糖分析等によって、精製化合物の構造を定義してもよい。SC化合物が多量にそして特定の場合、高純度で得られうることが好ましく、したがって、薬学的組成物中の活性成分として用いようとする本発明記載の免疫複合体の一部として用いられるための必要要件を満たす。
本発明記載の免疫複合体調製物は、好ましくは、食品として用いられ、例えば、病原体によって引き起こされる疾患状態のリスクがあるかまたはこれに罹患している、特定の食餌の必要がある被験体に、特定の食餌を提供する。
さらなる好ましい使用は、微生物物質または生物、抗原または疾患誘因剤、例えば毒素を含む、病原体によって引き起こされる疾患または障害の防止である。例えば、入院患者は、院内感染のリスクを減少させるため、その免疫系を補強する必要がありうる。本発明記載の補助食品を与えられている新生ヒトまたは動物は、母親またはそれぞれの乳母から十分な初乳を得ることが不可能である場合に、生存のより高い可能性を有しうる。さらに、動物およびヒトにおける腸管病原性疾患のリスクは、こうした食品によって減少させうる。
本発明記載の調製物を用いて、口、喉、鼻および耳、眼および食道、胃管および結腸管の感染性疾患を治療することも可能である。
適切には、本発明記載の調製物を、場合によって、タンパク質、炭水化物、脂質、および他の生理学的活性物質などのさらなる栄養物質を提供する配合物中で提供してもよい。
本発明記載にしたがって産生される調製物には、牛乳およびいずれかの乳製品の副産物であるホエイ粉末が含まれる。本発明記載のホエイに基づく製品は、さらに、例えば、血清アルブミン、ラクトアルブミン、ラクトグロブリン、ラクトフェリン、ラクトペルオキシダーゼ、オリゴ糖、ペプチド、ラクトースおよびミネラルを含む。いくつかの場合、過剰免疫成体由来の乳またはホエイから産物を得て、本発明にしたがった調製物が、疾患生物、病原体または疾患関連抗原の特定の群と反応性である、ある程度増加したレベルの免疫グロブリンを含有する。
本発明は特に、天然グリコシル化パターンを有する、すなわちN−グリカン上にルイスエピトープを含まない、IgAまたはIgM分子による、ルイスグリコシル化機能性ヒト様SCの安定化を含む。
安定化免疫複合体は、タンパク質のpH安定性および/またはプロテアーゼ安定性によって測定した際、増加した熱安定性および/または胃腸安定性を有し、これが回収増加またはin vivo半減期の延長を生じうる。安定化効果は、粘膜回復に特に重要である。本発明記載の調製物の投与に際して、ELISAなどの免疫学的技術によって、粘膜における免疫複合体の免疫活性を決定してもよい。粘膜中の免疫グロブリンの増加したレベルは、増加した回復を示す。
本発明記載の調製物は、さらに、遊離未結合SC、ならびに免疫グロブリンと複合体化したSCを含んでもよく、こうしたSCはその機能特性をさらに増進しうる。
本発明の好ましい態様は、多様な病原性抗原を中和することが可能な、タンパク質分解的に安定な多価および多重特異性分子を提供するため、自然抗体に付着する本発明にしたがったSC分子である。
本発明にしたがった免疫複合体調製物が、5〜100%w/w分泌型免疫グロブリン(すなわちSCと複合体化した多重免疫グロブリン)を含有することがさらに好ましい。より具体的には、調製物は、20〜70%のw/w分泌型免疫グロブリンを含有してもよい。
本発明にしたがった調製物はまた、好ましくは、炭水化物などの他の構成要素を含有することも可能である。炭水化物は、好ましくは、ホエイタンパク質濃縮物から供給され、そして0〜95%w/wの間の濃度で、調製物中に存在する。より好ましくは、炭水化物は、30〜90%w/wの間で存在する。炭水化物は、容易に利用可能なエネルギー供給源を提供する。
デキストロースもまた、好ましくは、炭水化物添加物として用いられ、これは、粉末の凝集を防止するのを補助し、そして炭水化物のさらなる型を提供する調製物中に含まれてもよい。
さらに好ましい添加物は、ホエイタンパク質であり、これはさらに、免疫グロブリン調製物、栄養目的のためのアミノ酸、オリゴ糖、および調製物の生理学的値を増進させる物質を安定化させうる。
本発明記載の配合物中に、有機酸、植物エッセンシャルオイル、カチオン、コロイド銀または四級アンモニウム塩を含む、抗微生物物質、例えば抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤、抗寄生虫剤、または殺微生物物質を含むこともまた好ましい可能性もある。
本発明記載の配合物を、液体、エマルジョン、懸濁物、スラリーとして、あるいは乾燥型、例えば粉末または顆粒の形で、提供することが特に好ましい。
特に好ましい配合物を、粉末または顆粒として製造し、これは使用直前に液体内に配合することも可能である。
さらに好ましい投与型は、錠剤、ロゼンジ、カプセル、ペースト、顆粒、クリーム等であり、これらは、標準法によって産生可能である。錠剤は、好ましくは、補助添加剤、例えば充填剤、結合剤、崩壊剤、潤滑剤、フレーバー等を含有する。イソマルトースを用いて、顆粒を産生してもよい。1mg〜10gの免疫複合体の1日用量を、ヒトにおいて使用するための本発明記載の配合物中で提供してもよい。
粘膜の部位で、例えば粘膜部位(鼻、口、眼、食道、喉、肺、耳、胃管、腸および結腸)、例えば局所的であって全身作用を伴わずに、作用するように配合された調製物を提供することがさらに好ましい。本発明記載の調製物は、典型的には、口、鼻、気管支、膣、結腸使用を含む、経口または粘膜使用のために提供されて、例えば、咽頭、腸、泌尿生殖器管および歯肉上皮への接着を阻害する。局所適用に適した型で、例えばクリーム、スプレーまたは小滴中で、特定の医学的適応のため、調製物を提供してもよい。
本発明にしたがった免疫複合体調製物を、感染および/または炎症および/またはアレルギー症状および/または自己免疫疾患症状および/または粘膜表面、例えば胃腸管、泌尿生殖器管、呼吸管、鼻腔、眼または口腔の免疫グロブリン不全を治療しそして/または防止するため、特に術後または入院中に、特に用いてもよい。
前述の説明は、以下の実施例を参照するとより完全に理解されるであろう。しかし、こうした例は、単に本発明の1またはそれより多い態様を実施する方法の代表的なものであり、そして本発明の範囲を限定すると読み取ってはならない。
実施例1
ルイスグリコシル化SIgAのための乳およびホエイ試料のスクリーニング
試料調製物(乳、ホエイ)
ヤギ、ヒツジまたはウシ由来の10mlの乳を、新鮮に試料採取し、そして40,000xgで30分間、4℃で遠心分離する。脂肪層をスパーテルで取り除き;残った液体を新規遠心管内に移し、そして再び、40,000xgで30分間遠心分離した。
液層(乳清)を分注し、そして−20℃で保存するかまたは直接スクリーニングに用いた。
陽性対照試料
陽性試料として、ヒト乳を上述のように調製する。
陰性対照試料
ウシ乳の陰性対照として、(Vollmilch、3.5%脂肪、Niederoesterreichische Molkerei、オーストリア)を用いる。
ヤギ乳の陰性対照「Ja Natuerlich」、Ziegenmilch、Sennerei Zillertal、オーストリアを用いる。
スクリーニングELISA
標準的ELISA形式でスクリーニングを行う:ヤギ乳試料のスクリーニングのため、ELISAプレート(Nunc Maxi−Sorp Immuno Plate)を、ウェルあたり100マイクロリットルで、mlコーティング緩衝液(1000ml蒸留水中、3.03g Na2CO3、6.0g NaHCO3、pH9.6)あたり1マイクログラムの濃度で、ポリクローナルウサギ抗ヤギIgA(AbD Serotec第AAI44)でコーティングする。ウシ乳試料またはヒツジ乳試料のスクリーニングのため、抗ウシIgA(Genataur、第RA−10A、ベルギー)または抗ヒツジIgA(LSBio、第LS−C57110、USA)を、それぞれ、プレートにコーティングする。陽性対照試料のため、抗ヒトIgA抗体をそれぞれのウェルにコーティングする(Bethyl Laboratories、第A80−103A、USA)。プレートを蓋で閉じて、そして4℃で一晩インキュベーションする。
次の工程の前に、コーティング溶液を取り除き、そして200μlのTPBS(500ml蒸留水、0.05%(v/v)Tween20中、1.16g Na2HPO4、0.1g KCl、0.1g K3PO4、4.0g NaCl、pH7.4)でウェルを満たすことによって、プレートを3回洗浄する。プレートをシンクの上で軽く叩くことによって、溶液または洗浄液を除去する。紙タオル上でプレートを軽く叩くことによって、残りの滴を除去する。あるいは、ELISA洗浄装置で洗浄を行ってもよい。
プレートをSuperblockブロッキング緩衝液(Thermo、第37515)150マイクロリットル/ウェルで満たし、そして室温で2時間インキュベーションする。
再び、プレートを上述のように洗浄する。
乳清試料を試料TPBSで希釈する(1:2および1:10)。各希釈(1:2および1:10)に関して16の陰性対照を各プレートに添加する。各希釈に関する4つの陽性対照試料をプレートに添加する。それぞれの希釈の100マイクロリットルを、洗浄したプレートのウェルに添加し、そして室温で2時間インキュベーションする。
洗浄後、TPBS中の抗ルイスx抗体(LSBio、第LS−C75829)、抗シアリル−ルイスa抗体(LSBio、第LS−C33820)、抗ルイスa抗体(LSBio、第LS−C50512)、抗シアリル−ルイスb抗体(Gene Tex、第GTX72378、USA 1:300)、抗ルイスb抗体(LSBio、第LS−C46049)および抗ルイスy抗体(LSBio、第LS−C71674、USA、1:50)希釈の100マイクロリットルの混合物を、それぞれの試料ウェルに、そして陰性および陽性対照試料ウェルに添加する。
プレートを再び室温で2時間インキュベーションし、そして続いて洗浄する。
ニワトリ抗マウスIgG−HRP(Thermo、第SA1−72029、TPBS中、1:500)のウェルあたり100マイクロリットルを添加し、そして室温で2時間インキュベーションする。続いて、プレートをTPBSで3回洗浄する。
基質緩衝液(TMB基質キット;Vector Laboratories、第SK−4400、USA)で、さらなる洗浄工程を行う。その後、色素原基質を添加する(Vector Laboratories、SK−4400)。短期間インキュベーションした後(OD650>1.0の陽性対照、OD<0.2の陰性対照の測定)、50マイクロリットルの1N硫酸を添加し、そしてプレートをマイクロプレート読み取り装置中、OD450で読み取り、TMBを基質として利用する標準的ELISA技術におけるように、OD600によって補正する。
評価:
各希釈に関する16の陰性対照のOD値を、陰性シグナルの平均および標準偏差の計算に用いる。
少なくとも1つの希釈で、同じ希釈の陰性対照の標準偏差の2倍を加えた平均吸光度より高い吸光度を示すならば、乳清試料は、このスクリーニングアッセイにおいて、陽性と見なされる。
陽性乳清試料をさらなる分析に用いる。
本実施例は、現在商業的に入手可能な乳よりも実質的により高い含量のルイス−グリコシル化SIgAを含む乳を産生するため、動物種、個体および亜種を選択し、そしてスクリーニングすることが可能であることを立証する。
実施例2
哺乳動物細胞におけるルイスフコシル化組換えヒト分泌成分の発現
本実施例は、多様なグリコシルトランスフェラーゼによって修飾された分泌成分を発現する哺乳動物細胞の確立、およびそれに続く、ルイス−フコシル化分泌成分を産生するクローンに関するスクリーニングを記載する。
分泌成分タンパク質配列(pIgRの細胞外部分)を図1に示す。
タンパク質配列をDNA(哺乳動物細胞発現のために最適化)に逆翻訳し、そしてデノボ合成する(Geneart、ドイツ)。クローニング目的のため、DNAにHindIIIおよびXbaI認識および切断部位(イタリックおよび下線)を提供する。図2を参照されたい。
遺伝子を、ベクターpCDNA3.1+(Invitrogen、米国)中のHindIIIおよびXbaI部位に挿入する。
安定なトランスフェクタントを生成するため、プラスミドをPvuIで直線化し、そして続いて、製造者(Invitrogen)にしたがって、リポフェクタミン2000を用い、CHO−K1細胞(CHO DUK−;ATCC CRL 9096)内にトランスフェクションする。トランスフェクションの24時間後、各Tフラスコ中の細胞を、100mmペトリ皿に分け、そして選択培地中でインキュベーションする。G418の濃度は200〜400マイクログラム/mLである。選択培地を3日ごとに交換する。薬剤耐性クローンは、およそ2週間後に判別可能であり、顕微鏡下で同定され、そしてピペットマンを用いて手で摘み取られる。選択したコロニーを、G418の存在下で2週間、96ウェルプレート中で培養する。増殖した細胞を2つ組ウェルに分け、そして標準的ELISAにおいて、分泌成分の発現に関して、上清を試験する。簡潔には、ヤギ抗分泌成分抗体(Acris Antibodies AP21476FC−N)をプレートにコーティングし、インキュベーションおよび洗浄後、細胞上清を添加する(1:2および1:10希釈)。インキュベーションおよび洗浄後、マウス抗ヒトSCを添加し(Sigma I6635)、そして続いて、抗マウスIgG−HRPで検出する。選択した陽性クローンを、分泌成分の精製に、そしてさらにグリコシルトランスフェラーゼでのトランスフェクションに用いる。
多様なグリコシルトランスフェラーゼでのトランスフェクション:分泌成分を発現する安定陽性クローンを選択し、そして一方はフコシルトランスフェラーゼ2およびフコシルトランスフェラーゼ3を、他方はベータ1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼをコードする、2つのプラスミドでトランスフェクションする。
アルファ1,2−フコシルトランスフェラーゼ(FUT2)のタンパク質配列を図3に示す。
5’および3’端に、NheIおよびEcoRI認識および切断部位を含む、FUT2の逆翻訳配列。遺伝子をデノボ合成する(Geneart、ドイツ)、図4を参照されたい。該遺伝子を、ベクターpIRES(Clontech、第631605)のマルチクローニング部位A内のNheIおよびEcoRIを用いてクローニングし、pIRESF2を生じる。
フコシルトランスフェラーゼ3のタンパク質配列を図5に示す。
配列を最適化コドン使用配列に逆翻訳して、そしてごく末端にXbaIおよびNotI認識部位を提供する、図6を参照されたい。
DNAをデノボ合成し、そして上述のようにFUT2遺伝子を含有するpIRESF2ベクターのマルチクローニング部位BのXbaIおよびNotI部位内にクローニングして、プラスミドpIRESF23を生じる。
トランスフェクションのため、FUT2およびFUT3遺伝子を含有するpIRESF23ベクターをBpmIで直線化する。
多様なベータ1,3−ガラクトシル−トランスフェラーゼを含有する多数の発現プラスミドを調製する。したがって、ガラクトシルトランスフェラーゼのタンパク質配列を、DNA配列(哺乳動物細胞における発現のために最適化)に逆翻訳し、そしてごく末端にユニークな制限部位(NheIおよびNotI)を提供する。DNAを合成し、そしてpEF1アルファIRES(Clontech631970)のNheIおよびNotI部位内にクローニングする。それぞれのプラスミドをAatIIで直線化した後、FUT2およびFUT3を含有するpIRESF23とともに、組換えヒト分泌成分を発現しているCHO細胞に同時トランスフェクションする。
ベータ1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼIのタンパク質配列を図7に示す。
ベータ1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼIの遺伝子を図8に示す。
ベータ1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼVのタンパク質配列を図9に示し、クローニングの準備が出来ているそれぞれの遺伝子を図10に示す。
ベータ1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼIIのタンパク質配列を図11に示し、クローニング部位を伴うそれぞれの遺伝子を図12に示す。
トランスフェクションおよび選択法
ヒト分泌成分を発現するCHO細胞クローンは、標準的トランスフェクション法において、プラスミド混合物でトランスフェクションされている;直線化pIRESF23を、それぞれ、ベータ−1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼI、ベータ−1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼIIおよびベータ−1,3−ガラクトシルトランスフェラーゼVをコードする直線化プラスミドと組み合わせる。該トランスフェクションの後に、標準的選択法を行って、安定なクローンを得る(G418濃度は、選択培地mlあたり1000マイクログラムまで増加させることも可能である)。
ルイスグリコシル化分泌成分を発現するクローンに関するスクリーニング
CHOクローンの上清を、分泌成分およびルイスグリコシル化に特異的なELISAにおいて、試験する:
標準的ELISA形式でスクリーニングを行う:細胞培養上清をスクリーニングするため、ELISAプレート(Nunc Maxi−Sorp Immunoプレート)を、
ウェルあたり100マイクロリットルで、mlコーティング緩衝液(1000ml蒸留水中、3.03g Na2Co3、6.0g NaHCO3、pH9.6)あたり1マイクログラムの濃度のヒト分泌成分抗体(Ray Biotech、第DS−PB−03010、米国)でコーティングする。
プレートを蓋で閉じて、そして4℃で一晩インキュベーションする。
次の工程の前に、コーティング溶液を取り除き、そして200μlのTPBS(500ml蒸留水、0.05%(v/v)Tween20中、1.16g Na2HPO4、0.1g KCl、0.1g K3PO4、4.0g NaCl、pH7.4)でウェルを満たすことによって、プレートを3回洗浄する。プレートをシンクの上で軽く叩くことによって、溶液または洗浄液を除去する。紙タオル上でプレートを軽く叩くことによって、残りの滴を除去する。あるいは、ELISA洗浄装置で洗浄を行ってもよい。
プレートをSuperblockブロッキング緩衝液(Thermo、第37515)150マイクロリットル/ウェルで満たし、そして室温で2時間インキュベーションする。
再び、プレートを上述のように洗浄する。
細胞培養上清を試料TPBSで希釈する(1:2および1:10)。各希釈(1:2および1:10)に関して16の陰性対照を各プレートに添加する。各希釈に関する4つの陽性対照試料をプレートに添加する。それぞれの希釈の100マイクロリットルを、洗浄したプレートのウェルに添加し、そして室温で2時間インキュベーションする。
洗浄後、TPBS中の抗ルイスx抗体(LSBio、第LS−C75829)、抗シアリル−ルイスa抗体(LSBio、第LS−C33820)、抗ルイスa抗体(LSBio、第LS−C50512)、抗シアリル−ルイスb抗体(Gene Tex、第GTX72378、USA 1:300)、抗ルイスb抗体(LSBio、第LS−C46049)および抗ルイスy抗体(LSBio、第LS−C71674、USA、1:50)希釈の100マイクロリットルの混合物を、それぞれの試料ウェルに、そして陰性および陽性対照試料ウェルに添加する。
プレートを再び室温で2時間インキュベーションし、そして続いて洗浄する。
ニワトリ抗マウスIgG−HRP(Thermo、第SA1−72029、TPBS中1:500)のウェルあたり100マイクロリットルを添加し、そして室温で2時間インキュベーションする。続いて、プレートをTPBSで3回洗浄する。
基質緩衝液(TMB基質キット;Vector Laboratories、第SK−4400、USA)で、さらなる洗浄工程を行う。その後、色素原基質を添加する(Vector Laboratories、SK−4400)。短期間インキュベーションした後(OD650>1.0の陽性対照、OD<0.2の陰性対照の測定)、50マイクロリットルの1N硫酸を添加し、そしてプレートをマイクロプレート読み取り装置中、OD450で読み取り、TMBを基質として利用する標準的ELISA技術におけるように、OD600によって補正する。
評価:
各希釈に関する16の陰性対照を、陰性シグナルの平均および標準偏差の計算に用いる。
少なくとも1つの希釈で、同じ希釈の陰性対照の標準偏差の2倍を加えた平均吸光度より高い吸光度を示すならば、試料は、このスクリーニングアッセイにおいて、陽性と見なされる。
陽性試料をタンパク質精製およびさらなる分析に用いる。
本実施例は、高いモル比率のルイス−エピトープを含む、ヒト乳由来でない分泌成分を生成することが可能であることを立証する。
実施例3:
分泌成分上のルイスエピトープの存在の定量的評価
標準的プロトコルにしたがって、Sepharoseにカップリングしたウサギ抗ヒト分泌成分を含むアフィニティクロマトグラフィによって、動物細胞の上清由来の組換え分泌成分および分泌型IgAの精製を行う。
グリカン分析のための試料調製:
還元SDS−PAGE(80x80x1mm、10%BisTris NuPAGEゲル、MES SDS泳動緩衝液(Invitrogen))によって、精製分泌型IgAをSC、J鎖、H鎖、および軽鎖に分離する。クーマシー染色によって、タンパク質バンドを視覚化する。分子量標準を用いる。
〜80kDaのクーマシー染色バンドを切り出し、そしてトリプシンでゲル内消化して、そしてアルキル化する(ゲル内トリプシン消化キット、Thermo Scientific、製品番号89871)。
分泌成分の精製し、還元し、そしてアルキル化したペプチドを、10mM NH4Ac(pH5.0)中、37℃で、ウシ腎臓由来のアルファ−1−6−フコシダーゼ(ProZyme、第GKX−5006、米国)で一晩処理することによって、最も内側のGlcNAc残基で脱フコシル化する。必要であれば、MS検出を伴う多孔性黒鉛上のクロマトグラフィによる遊離N−グリカンの分析によって、コア−フコース除去の完全性を検証することも可能である。
Aquasil C−18プレカラム(30mmx0.32mm、5マイクロメートル、Thermo Scientific)、BioBasic C18分析カラム(150mmx0.18mm、5マイクロメートル、Thermo Scientific)、Waters CapLC、Rheodyne 10ポートバルブおよび標準ESI源を備えた、Waters Q−TOF UltimaからなるキャピラリーLC−ESI−MS系上で、ペプチドおよび糖ペプチドの分析を行う。
溶媒Aは、pH3.0の65mMギ酸アンモニウムからなり、そして溶媒Bは溶媒A中の80%アセトニトリル(ACN)である。ACNの非存在下で、プレカラムを平衡化し、そして装填する。その後、6.3から62.5%溶媒Bまでの勾配を45分間に渡って発展させる。m/z 150〜1800の範囲で、陽性イオンを測定する。キャピラリー電圧は3.2kVであり、そしてコーン電圧は35Vであり、供給源温度は100℃であり、脱溶媒和温度は120℃である。
MaxEnt3デコンボルーション/脱同位体(deisotoping)特徴を含むMassLynx4.0ソフトウェア(Waters)を用いて、データを評価する。
PNGナーゼF(Roche)での脱グリコシル化によってグリコシル化ペプチドを同定し、そして逆相HPLC、その後、質量分析によって、さらに分離する。脱グリコシル化ペプチドは、グルタミン残基の代わりにグルタミン酸残基を含有し、これは1Daの質量相違を生じる。
同じペプチド骨格上の異なるグリカン構造は、ありうる糖ペプチドシグナルを異なる質量のいくつかの分子種に分割する。糖ペプチドの存在はまた、異なるグリコフォーム間で、特異的単糖相違に基づく工程で、質量のはしごとして、総質量スペクトル中で示されうる(例えばm/z146[フコース]、162[ヘキソース]、203[N−アセチルヘキソサミン]、291[N−アセチルノイラミン酸])。
糖ペプチドピークがひとたび同定されたら、ピーク「量」すなわち特定の糖ペプチドに対応するピーク下面積を測定する。イオン化およびしたがって糖ペプチドの検出は、ペプチド部分によって支配されるため、ピーク量を、直接、グリコフォームのモル比率に置き換えることも可能である。
同定されたまたは潜在的な糖ペプチドの溶出時間に渡って、質量スペクトルを得て、そしてこれを合計し、平滑化し、そして重心を求めた(centroided)後、m/z対強度スペクトルを、分析のため、ソフトウェアに提示する。
低強度グリコフォームに関してシグナル対ノイズ比を増加させるため、より広いクロマトグラフィ時間枠に渡るよりも、それぞれの溶出ピークのみに渡って、MSスペクトルを合計することが推奨される。
特定のグリコシル化部位で生じるグリコフォームのリストから、フコシル化グリカンのモル分率を計算する。異なる部位の結果を付加して、分泌成分中で生じるモル比率フコシル化グリカンに到達する。
ヒト分泌成分の試料での、例示的な結果および計算を示す:
各ペプチドグリコフォームの相対量:
ペプチド82〜109
グリコシル化部位Asn83およびAsn90では、グリコフォームの95%が非コア・フコース残基を所持する
ペプチド168〜190
グリコシル化部位Asn186では、グリコフォームの97%が非コア・フコース残基を所持する
ペプチド413〜434
グリコシル化部位Asn421では、グリコフォームの100%が非コア・フコース残基を所持する
ペプチド457〜479
グリコシル化部位Asn469では、グリコフォームの89%が非コア・フコース残基を所持する
ペプチド498〜515
グリコシル化部位Asn499では、グリコフォームの64%が非コア・フコース残基を所持する。
試料の非コア(ルイス)フコシル化=0,95モル+0,97モル+1モル+0,89モル+0,64モル=4,45モル/モル分泌成分
実施例4
哺乳動物細胞における二量体IgAの発現および組換えルイスグリコシル化分泌成分を含むSIgA分子の再構成
ネズミJ558L細胞を、ハプテン・ニトロフェニルへの生殖系列抗体結合の発現のための宿主として用いる。この目的のため、キメラ重鎖(ネズミVH/ヒトIgA2定常領域)を哺乳動物発現ベクターpCDNA3.1にクローニングし、このプラスミドをJ558L細胞にトランスフェクションし、そしてdIgAを安定発現しているクローンを選択し、そしてスクリーニングする。IgA2重鎖と平行に、IgA1重鎖を含む構築物を調製し、そして用いる。
二量体IgAを精製し、そしてCHO細胞由来の組換え分泌成分で再構成する(実施例2を参照されたい)。
キメラ抗ニトロフェニルIgA重鎖のタンパク質配列(小文字=リーダーペプチド、下線=ネズミVH)を図13に示し、HindIIIおよびXbaI制限部位を含む重鎖構築物のDNA配列を図14に示す。
HindIIIおよびXbaI部位とともに遺伝子を完全に合成し(Geneart、ドイツ)、そしてpCDNA3.1+(Invitrogen、米国)のそれぞれの部位内にクローニングする。トランスフェクション前に、組換えプラスミドをPvuIで直線化する。
J鎖およびNIPに特異的なラムダ軽鎖の恒常的な合成を示す、ネズミJ558L細胞(Health Protection Agency Culture Collection、第88032902)を、ペニシリン(100IU/ml)およびストレプトマイシン(100マイクロg/ml;Bio Whittaker、メリーランド州ウォーカーズビル)および10%ウシ胎児血清(Invitrogen)を加えたRPMI培地中、37℃、5%CO2を含む大気中で増殖させる。エレクトロポレーションによってJ558Lの安定トランスフェクションを達成し、そして500マイクロg/ml G418(Sigma)を含有する培地中で、クローンを選択する。細胞を2〜3週間インキュベーションした後、上清液を採取し、そして酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)によって免疫グロブリン産生に関してスクリーニングする。
ELISAのため、マイクロプレートを抗j鎖抗体(ヤギ抗J鎖、Santa Cruz、sc−34654)でコーティングする。洗浄後、細胞培養上清(1:2および1:10に希釈)を添加する。インキュベーションおよび洗浄に続いて、抗ヒトIgAアルファ鎖−HRPコンジュゲートを、IgAを発現する細胞株の検出に用いる。
製造者および標準的アフィニティクロマトグラフィ法にしたがった、抗ヒトIgAカップリングSepharose(Sigma A2691)を利用したアフィニティクロマトグラフィによって、選択したクローンの培養上清からの組換えdIgAの精製を行う。
IgAおよび組換え分泌成分由来のSIgAの再構成
100マイクロリットルあたり10マイクログラムの濃度で、等モルの精製dIgAおよび精製分泌成分(それぞれ、フコシル化および非フコシル化)をPBS緩衝液中で一晩混合することによって、dIgA分泌成分複合体の再構築をin vitroで行った。
再構成した複合体を、非還元および還元6%SDSポリアクリルアミドゲル上にそれぞれ装填し、二フッ化ポリビニリデン膜にブロッティングし、そして分泌成分に対する抗血清で検出する。
dIgAおよびpIgA分子の位に対する分泌成分のシフトによって、共有再構成を行う。還元条件下で、すべてのレーンで類似の度合いに、遊離分泌成分のみが検出可能であり、これによって、分泌成分およびIgAがジスルフィド架橋によって連結されることが示される。
複合体をHPLCによってさらに精製する。PBS中のこうした精製SIgA(ルイスグリコシル化および非フコシル化)を定量化し、そして抗原結合および安定性実験において用いる。
実施例5:
組換えルイスグリコシル化SIgAの安定性試験
本発明の分子の生物物理学的、生化学的および生物学的安定性を示すため、多様なアッセイを行う。
生物物理学的安定性に関しては、試料を示差走査熱量測定によって分析する:
免疫複合体および抗体を20mMクエン酸ナトリウム、150mM NaCl緩衝液、pH6.0に対して透析する。抗体濃度をUV吸光度によって測定する。透析液を用いて、抗体を1mg/mLに希釈する。自動化キャピラリーDSC(MicroCal、LLC)を用いてスキャンを行う。ベースライン減算のため、透析液を用いた2回のスキャンを行う。中程度のフィードバックモードを用いて、20〜95℃、1℃/分で、スキャンを実行する。Origin 7.0を用いてスキャンを分析する。三次多項式を用いて、非ゼロベースラインを修正する。ソフトウェア内の非2状態アンフォールディングモデルを用いて、各免疫複合体のアンフォールディング遷移を適合させる。
生化学的安定性(酸インキュベーション後のゲル電気泳動):免疫複合体および対照を含むすべての試料を、脱塩カラム(NAP25カラム、GE Healthcare)を用いることによって、多様なpH値(4.0、5,0、6,0および7.0)の配合物に緩衝液交換し、そしてその濃度を5mg/mlに調整する。配合した抗体溶液を0.22マイクロメートルフィルターによって滅菌し、そして1mlの各溶液を無菌化I型USP 5mlガラスバイアルに満たし、そしてオートクレーブ処理したゴム栓で密封する。これらの調製した試料を、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)分析前に、40℃の温度管理インキュベーター中、1日保存した。
サイズ排除クロマトグラフィ:凝集物(高分子量産物)および分解種(低分子量産物)のある量を、G3000SWXLカラム(7.8mm内径、30cm;日本・東ソー社)を用いたSECによって分析する。可動相は、50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)および500mM塩化ナトリウムからなる。実験条件は以下の通りである。注入タンパク質、20mg;流速、0.5ml/分;検出波長、215および280nm;ならびに分析時間、30分間。ガラスバイアル中に40℃で1日間保存されている試料中に存在する高分子量産物および低分子量産物の量を、決定し、そしてそれぞれの新鮮に調製した試料のものと比較した相対増分として表す。
プロテアーゼ安定性
すべての消化を、5mg/mlの試料タンパク質濃度および1mlの総体積を用いて、37℃で8時間行う。トリプシンおよびペプシン(Sigma、米国)をタンパク質分解酵素として用いる。0.05M Tris緩衝液、pH8.0中で、トリプシン消化を行う。0.05酢酸ナトリウム緩衝液、pH4.0で、ペプシンでの消化を行う。消化前に、すべてのタンパク質をこれらの緩衝液に対して24時間透析する。酵素対タンパク質比は、どちらの酵素に関しても1:25または1:50である。反応混合物に等モル量のダイズ(soybean)トリプシン阻害剤(Sigma)を添加することによって、トリプシン消化を停止する一方、100マイクロリットルの2.5M Trisを添加することにより、溶液pHを約8に上昇させることによって、ペプシン消化を終結させる。消化後、さらなる分析の前に、すべての反応混合物を凍結させる。
消化の評価:各消化物を融解し、そしてIgA二量体、IgG、およびウシ血清アルブミンで較正したSuperdex 200(GE Healthcare)のカラム(1.5x90cm)に適用する。溶出物の吸光度を280nmで記録する。
出現ピークに関するピーク下面積および損なわれていない分子に対応する位置を、全面積のパーセントとして示す。
実施例6:
異なってグリコシル化されたSIgAの特異性試験
多様なルイス陽性およびルイス陰性SIgA(先の実施例に記載するような再構成SIgA)を、広範囲の病原体構造への結合に関して試験してもよい。
本発明の精製免疫複合体の力価を、大腸菌(Escherichia coli)由来リポ多糖(LPS)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来リポタイコ酸(L2515、Sigma、米国)、黄色ブドウ球菌由来ペプチドグリカン(PGN)およびキーホールリンペット・ヘモシアニン(KLH、MP Biomedicals)結合に関して、ELISA法において試験してもよい。該アッセイは、J. Dairy Sci. vol.93 pp. 5467−5473に記載される:
プレートを、100μL/ウェルの、炭酸緩衝液(10.6g/L Na2CO3、pH9.6)mLあたり1μgのKLH、4μgのLPS、5μgのLTA、または2μgのPGNでコーティングする。洗浄後、プレートを、0.05%Tween20を含むPBS中の100μL/ウェルの2.5%ウサギ血清で、室温(21℃)で少なくとも30分間ブロッキングする。PBS、0.05%Tween20、および2.5%ウサギ血清中の試料の連続希釈(1:4)を添加する。プレートを室温(21℃)で1時間インキュベーションする。
100μL/ウェルの1:15,000希釈のペルオキシダーゼにカップリングしたウサギ抗ウシ−(抗ヒト、抗ヤギ)−IgAを用いて、免疫複合体および抗体のLPS、LTA、PGN、またはKLHへの結合を検出する。洗浄後、100μL/ウェルのテトラメチルベンジジン(71.7μg/mL)および0.05%H2O2をウェルに添加し、そして室温(21℃)で10分間インキュベーションする。50μL/ウェルの2.5NのH2SO4を用いて反応を停止する。450nmの波長でマイクロプレート分光光度計を用いて、吸光度を測定する。力価としてレベルを計算し、そして力価をEmaxの50%に最も近い吸光度を生じる希釈のlog2値として表し、ここでEmaxはすべてのマイクロタイタープレート上の2つ組に存在する標準陽性試料の最高の平均吸光度を示す。
クロストリジウム・ディフィシレ毒素Aおよび大腸菌インチミンへの結合は、例えば、THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY VOL. 281, NO. 20, pp. 14280−14287に記載されてきており、ノロウイルス−VLPへの結合は、例えば、Journal of Virology, Vol. 79, pp. 6714−6722に記載される:
マイクロウェル結合アッセイ−Nunc MaxiSorp ELISAプレートのウェルを、50mM重炭酸ナトリウム(pH9.6)の100マイクロリットル中の200ngの免疫複合体、抗体、または分泌成分で、室温で1時間、コーティングする。5%(w/v)脱脂粉乳を含有する200マイクロリットルのPBS−Tで、ウェルをブロッキングする。100マイクロリットルのPBS中の毒素A(500ng/ml)またはGST−インチミン(200ng/ml)またはノロウイルスVLP(1マイクログラム/ml)を室温で2時間インキュベーションする。PBS−Tで3回洗浄した後、特異的抗体を用いて(SC−毒素A相互作用をネズミ抗毒素A IgGで検出し、ノロウイルスVLPをマウス抗ノロウイルスで検出し、そしてGSTに対するネズミmAbを用いてGST−インチミンを検出する)、その後、西洋ワサビ(horseradish)・ペルオキシダーゼコンジュゲート化ヤギ抗マウスIgGおよび色素源としての1,2−フェニレンジアミンを用いて、結合を検出する。1体積の2M H2SO4を用いて反応を停止し、そして参照波長として620nmを用いて、光学密度を492nmで測定する。
実施例7:
実施例11にしたがって得られたヤギSIgAの抗細菌活性−細菌抗原への自然抗体の結合
大腸菌由来リポ多糖(LPS)およびクロストリジウム・ディフィシレ毒素Aと本発明の精製免疫複合体の反応性をELISAにおいて試験する。
プレートを、100μL/ウェルの、炭酸緩衝液(10.6g/L Na2CO3、pH9.6)のmLあたり4μgのLPS(大腸菌O157H7由来のリポ多糖、List Biological Laboratories、米国カリフォルニア州キャンベル、カタログ番号206)または1μgのクロストリジウム・ディフィシレ毒素A(List Biological Laboratories、米国カリフォルニア州キャンベル、カタログ番号152)でコーティングした。洗浄後、プレートを、0.05%Tween20を含むPBS中の100μL/ウェルの2.5%ウサギ血清で、室温(21℃)で少なくとも30分間ブロッキングする。PBS、0.05%Tween20、および2.5%ウサギ血清中の試料の連続希釈(1:4)を添加する。プレートを室温(21℃)で1時間インキュベーションする。
100μL/ウェルのそれぞれ1:15,000希釈のアルカリホスファターゼにカップリングしたウサギ抗ヤギ−IgA(および抗ヒト−IgA)を用いて、免疫複合体および抗体のLPSまたはC.ディフィシレ毒素Aへの結合を検出する。洗浄後、100μL/ウェルのパラニトロフェニルホスフェートをウェルに添加し、そして室温(21℃)で30分間インキュベーションする。
405nmの波長で、マイクロプレート分光光度計を用い、光学密度を測定する。
試験した調製物は、以下の実施例11にしたがって異なる試料から調製した、ヒトSIgA(Sigma I2636)およびいくつかのヤギSIgAであり、すべて、モルSIgAあたり少なくとも0.01モルの非コア・フコースを有した。その結果、すべてのヤギSIgAは、ヒト参照よりも約5倍高く、C.ディフィシレ毒素AおよびLPS(大腸菌O157H7)に結合した。
実施例8:
側方流動アッセイによる、乳またはホエイ試料における非コア・フコシル化免疫複合体を決定するための迅速スクリーニング試験
単純および迅速アッセイを用いて、プール中の分泌成分上のルイスエピトープを伴うN−グリコシル化のレベルを増加させるため、プール内への特定の乳試料の包含に関して決定してもよい。
こうしたオンサイトアッセイは、乳またはホエイ試料で、特定の閾値で陽性を示すよう最適化された迅速イムノアッセイであってもよい。
側方流動試験(側方流動免疫クロマトグラフィアッセイ)は、試料中のターゲット分析物の存在を検出するよう意図された単純なデバイスである。しばしば、ディップスティック形式で産生され、側方流動試験は、毛細管現象を通じて、固体支持体に沿って試験試料が流動するイムノアッセイの型である。試料を試験に適用した後、試料は、試料と混合される着色試薬と遭遇し、そして固定されている結合タンパク質である、基質遭遇ラインまたはゾーンを通過する。試料に存在する分析物に応じて、着色試薬は、試験ラインまたはゾーンで結合しうる。こうしたアッセイのスキームを図15に示す。
側方流動イムノアッセイを15分以内に行うことも可能であり、そしてこれを用いて、非コア・フコシル化が増加した、免疫複合体を含有する乳またはホエイ試料を選択することも可能である。
アッセイの仕様は、グリコシル化の特定の閾値(モル分泌成分あたりモル非コア・フコースで表される)での乳またはホエイマトリックス中の非コア・グリコシル化分泌成分の検出である。こうしたアッセイの最適化のため、非コア・フコシル化を含まない、低非コア・フコシル化および高非コア・フコシル化(糖分析によって決定される通り、例えば実施例9を参照されたい)を伴う精製SIgAを用いる。
特定の仕様を伴うこうしたアッセイは、請負業者、例えばKestrel Biosciences(米国カールスバッド)、Biocare Diagnostics(中国香洲区)、Biotem(フランス)およびその他で開発可能である。
あるいは、一般的な迅速アッセイデバイス(gRAD、RapidAssays、デンマーク・コペンハーゲン)を用いることによって、アッセイを設計する。基本的に、ビオチン化捕捉試薬、金標識検出試薬および試料を混合し、そして次いで、側方流動アッセイデバイスに適用する。この実施例で用いるgRADデバイスは、固定抗ウサギ抗体ゾーンおよびビオチン結合ゾーン(対照)を含有する。
本実施例中の捕捉試薬は、ビオチン化DC−SIGN−Fc融合タンパク質である。
本実施例中の金標識検出抗体は、ウサギ抗ヤギIgAである。
RapidAssays、デンマークに提供された指示にしたがって、検出および捕捉試薬を産生する。RapidAssays試薬キットの指示にしたがって、アッセイを最適化する。
ビオチン化:
DC−SIGN−Fc(R&D Systems、第161−DC−050)をまず、ビオチン化試薬と混合し、これが、タンパク質上に存在する遊離一級アミンと反応する。次いで、クロマトグラフィを通じて、非タンパク質カップリングビオチン試薬を除去する。gRADで用いるためには、リンカーは可能な限り長くなければならない。EZ−Link NHS−PEG12−ビオチン、ビオチン−NHS、ビオチン−LC−NHSおよびビオチン−PEG4−NHS(Pierce)を試し、そしてアッセイ最適化相において比較しなければならない。
PBS pH7.4および100mM炭酸緩衝液pH8.0を、DC−SIGN−Fcのビオチン化にそれぞれ用いる(Tris緩衝液中であってはならないし、またはアジ化ナトリウムを含有してはならず、これはこれらがコンジュゲート化をブロックするであろうためである)。DC−SIGN−Fc濃度は1mg/mlでなければならない。
2μlのビオチン化ストック(mg/ml DMSOでのストック濃度:ビオチン−NHS(40)、ビオチン−LC−NHS(53)、ビオチン−PEG4−NHS(69)、ビオチン−PEG12−NHS(110))をDC−SIGN−Fcのmgあたり添加する。
次いで、反応混合物を暗所中、室温で2時間混合する。残った活性ビオチン−NHSを10μlの3Mエタノール−アミンの添加およびさらに30分間のインキュベーションでブロッキングする。
Sphadex G25媒体でのゲル濾過/緩衝液交換を用いて、遊離ビオチンを除去する。より少ない体積に関しては、小さい使い捨てカラム、例えばPD10(General Electric)を用いて、ゲル濾過を実行してもよい。未結合ビオチンは、試験ラインに対する結合に関して干渉して、生じる反応を低下させるであろうため、プロセスを反復して、未結合ビオチンを出来る限り多く除去する。
コロイド性金コーティング検出試薬の調製(RapidAssays使用説明書による)
ポリクローナルウサギ抗ヤギIgA(Acris Antibodies GmbH、ドイツ、第AP05548PU−N)を用い、そしてこれを1mg/mlまたはそれより高い濃度で調製し、そしてこれは、0.5xPBS緩衝溶液中でなければならない。
Naked Goldゾル40nmおよびNaked Goldゾル20nmを用いる。
1. 金を攪拌するかまたは回転させて、沈殿したいかなる金も再懸濁する。0.5mlのNaked Goldゾルを、10の清浄な個々の試験管に入れる。
2. 各試験管を、提供するpHチャートからのpH値(または1〜10)でラベルする:pH5.4、pH6.6、pH7.3、pH7.8、pH8.2、pH8.4、pH8.8、pH9.2、pH9.6、pH10.1。
3. pHチャートを用いて、マイクロリットルで多様な量の緩衝液を各試験管に添加する。攪拌して混合する。
4. 各試験管を低速ボルテックス装置に入れ、そして抗体溶液(試料調製セクションを参照されたい)を添加する。完全に混合する(約2〜3秒)。
理想的には、40nm金に関して、7μlの2mg/ml抗体溶液が最適である。20nm金に関して、理想的には、14μlの2mg/ml抗体溶液が最適である。
5. いくつかの試験管で、深い紫色および/または黒い沈殿物は、抗体またはタンパク質が等電点の下であり、個々の金ゾルの架橋を導くことを示す。架橋ゾルを免疫学的アッセイで用いることは不可能であり、そしてこのゾルは廃棄しなければならない。深い紫色のゾルは通常多くが不活性でもある。わずかな紫色または色の変化がない試験管のみが免疫学的アッセイに有用である。
6. 反応を全部で30分間続ける。
7. 50μlのブロッキング安定化剤溶液を添加することによって、反応を停止する。
ブロッキング剤をさらに、室温で16時間、反応させることを可能にすることが最適である。
コンジュゲート化反応の有効性を試験するため、10μlのコーティング金ゾル(BSAブロッキング溶液の添加前)を、10μlの1M NaClと混合する。不完全コーティングを伴うゾルは、溶液から抜け出すであろう(黒くなる)が、完全にコーティングされたゾルは安定なままであろう(赤)。
次いで、上述のような試薬、および製造者にしたがったgRADデバイス(Rapid Assays、デンマーク)を用いて、側方流動アッセイを最適化する。ヤギ乳より精製され、そしてルイスグリコシル化に関して分析されたSIgAを、最適化法のために用いる。0.00モル非コア・フコース/モル分泌成分を伴うSIgAを陰性対照として用いる。陽性対照として、あらかじめ定義された非コア・フコシル化を伴うヤギSIgAを用いる(少なくとも0.01モル非コア・フコース/モル分泌成分を伴うSIgAを含有する乳に関するスクリーニングが望ましい場合、この量のグリコシル化を伴うSIgA調製物を、最適化のため、参照として用いる、例えば実施例9の試料12)。マトリックスとして、ルイスグリコシル化を含まないヤギ乳を用いる。50μgの精製SIgAをマトリックスのmlあたり添加する。試験最適化のため、これらの混合物を陽性および陰性試料として用いる。
大規模に、上昇したレベルの非コア・フコシル化分泌免疫グロブリンを含む乳を提供するため、記載するアッセイを用いて、非コア・フコシル化免疫グロブリンに関して、潜在的な乳供給源を試験する。
陽性(すなわち閾値より高い非コア・フコシル化)試料のみをプールのために選択する。
実施例9:
主要フコシル化構造を示すヤギ分泌成分のグリカン分析
ヤギ分泌成分の以下の配列を分析のために用いた(配列番号17)
(太字の文字は、N−グリコシル化部位を示す。)
全体グリコシル化
実施例11にしたがって、分泌型免疫グロブリンを調製する。還元SDS−PAGE(80x80x1mm、10%BisTris NuPAGEゲル、MES SDS泳動緩衝液(Invitrogen))によって、精製分泌型免疫グロブリンを、分泌成分、J鎖、H鎖、および軽鎖に分離する。クーマシー染色によって、タンパク質バンドを視覚化する。分子量標準を用いる。およそ80kDaのクーマシー染色バンドを切り出し、そしてゲル内消化する。PNGAseFを用いて、SDS PAGEゲルから直接、分泌成分よりグリカンを遊離させた後、16時間トリプシン消化して、続いて、ホウ化水素還元を行った(トリプシンでのプロテアーゼ処理後のPNGAse F/A消化は、グリコサイト(glycosite)4番を未消化のままにし、そしてしたがって完全ではないであろう)。PGC(多孔性黒鉛クロマトグラフィ)およびESI−MS検出によって、グリカン分析を行った。分析系に注射する前に、ウェルシュ菌(Clostridium perfrigens)由来の連結非特異的シアリダーゼを用いて、グリカンを脱シアル化し、そして溶出時間にしたがって分析した。非コア・フコースおよびコア・フコースを含むグリカンを分離することも可能であり、そしてこれは、完全グリカンのパーセントとして表される。
糖ペプチド分析
RP−ESI−MSMSを用いることによって、ペプチドと同じ方式で、グリコサイトを分析する。ペプチド骨格にしたがって、構造を溶出させ、そしてグリコシル化不均一性のため、特定の質量分布を示す。
ペプチドおよび糖ペプチドの分析を、Aquasil C−18プレカラム(30mmx0.32mm、5マイクロメートル、Thermo Scientific)、BioBasic C18分析カラム(150mmx0.18mm、5マイクロメートル、Thermo Scientific)、Waters CapLC、Rheodyne 10ポートバルブおよび標準ESI源を備えた、Waters Q−TOF UltimaからなるキャピラリーLC−ESI−MS系上で、ペプチドおよび糖ペプチドの分析を行う。溶媒Aは、pH3.0の65mMギ酸アンモニウムからなり、そして溶媒Bは溶媒A中の80%アセトニトリル(ACN)である。ACNの非存在下で、プレカラムを平衡化し、そして装填する。その後、6.3から62.5%溶媒Bまでの勾配を45分間に渡って発展させる。m/z 150〜1800の範囲で、陽性イオンを測定する。キャピラリー電圧は3.2kVであり、そしてコーン電圧は35Vであり、供給源温度は100℃であり、脱溶媒和温度は120℃である。
MaxEnt3デコンボルーション/脱同位体(deisotoping)特徴を含むMassLynx4.0ソフトウェア(Waters)を用いて、データを評価する。PNGナーゼF(Roche)での脱グリコシル化によってグリコシル化ペプチドを同定し、そして逆相HPLC、その後、質量分析によって、さらに分離する。脱グリコシル化ペプチドは、グルタミン残基の代わりにグルタミン酸残基を含有し、これは1Daの質量相違を生じる。
同じペプチド骨格上の異なるグリカン構造は、ありうる糖ペプチドシグナルを異なる質量のいくつかの分子種に分割する。糖ペプチドの存在はまた、異なるグリコフォーム間で、特異的単糖相違に基づく工程で、質量のはしごとして、総質量スペクトル中で示されうる(例えばm/z146[フコース]、162[ヘキソース]、203[N−アセチルヘキソサミン]、291[N−アセチルノイラミン酸])。
糖ペプチドピークがひとたび同定されたら、ピーク「量」すなわち特定の糖ペプチドに対応するピーク下面積を測定する。イオン化およびしたがって糖ペプチドの検出は、ペプチド部分によって支配されるため、ピーク量を、直接、グリコフォームのモル比率に置き換えることも可能である。同定されたまたは潜在的な糖ペプチドの溶出時間に渡って、質量スペクトルを得て、そしてこれを合計し、平滑化し、そして重心を求めた後、m/z対強度スペクトルを、分析のため、ソフトウェアに提示する。
低強度グリコフォームに関してシグナル対ノイズ比を増加させるため、より広いクロマトグラフィ時間枠に渡るよりも、それぞれの溶出ピークのみに渡って、MSスペクトルを合計することが推奨される。特定のグリコシル化部位で生じるグリコフォームのリストから、フコシル化グリカンのモル分率を計算する。異なる部位に関する結果を付加して、分泌成分中で生じるフコシル化グリカンのモル比に到達する。
以下のグリコサイトペプチドを同定した:
グリコサイト番号1 ANLTNFPE(配列番号18) 82〜89位
グリコサイト番号2 NDSGR(配列番号19) 103〜107位
グリコサイト番号3 LALLAQPGNGTYTVILNQLTDQDAGFYWCVTDGDTSWTSTVQLK(配列番号20) 412〜455位
グリコサイト番号4 NVTAWLGE(配列番号21) 468〜476位
グリコサイト1、2および4は、分析法中に検出可能であるが、グリコサイトペプチド番号3は、調べられないままであり、他のプロテアーゼおよび質量分析もまた用いる。
以下の表は、多様なヤギ乳試料の分泌成分の非コア・フコースのモル含量を示す。
表1:非コア・フコースに関するヤギ分泌成分分析(グリコシル化部位1、2および4(モルSCあたりのmmol))
実施例10:
細胞傷害性アッセイ
Vero細胞を周密単層に増殖させ、そして1mM EDTA中の0.1%トリプシン2mlとインキュベーションすることによって継代培養する。細胞を計数し、そして6.25x104細胞/mlを、80μlの総体積中、96ウェルプレート内に植え付ける。プレートを37℃および5%CO2中、20〜24時間インキュベーションする。クロストリジウム・ディフィシレ毒素A(List Biological Laboratories、米国カリフォルニア州キャンベル、カタログ番号152)をPBS(PAA、オーストリア)で0.2μg/mlの最終濃度まで希釈し、そしてヒトhSIgA(Sigma、第I1010)の希釈と、それぞれ、実施例11にしたがって得られたウシSIgA(<10mmol非コア・フコース/モル)およびヤギSIgA(試料番号6 <10mmol非コア・フコース/モル、試料番号12 >10mmol非コア・フコース/モル)と37℃で1時間、インキュベーションする。ヒトSIgAを毒素に比較して10倍モル過剰で、ならびに等モルで用いる。ウシおよびヤギSIgAを等モルで用いる。ウシ血清アルブミン(New England Biolabs)およびPBS(リン酸緩衝生理食塩水)は陰性対照として働く。毒素A/抗体混合物をランダムな順序で96ウェルプレートに添加し、そしてさらに48時間インキュベーションする。10μlのWST−8(Sigma)を各ウェルに添加し、そしてプレートを37℃で2〜4時間インキュベーションする。生存細胞は、細胞数に比例して、デヒドロゲナーゼでの還元により、水溶性の黄色いホルマザン色素を産生する。マイクロプレート読み取り装置(Tecan(登録商標)Infinity−1000)を用いて、450nmでの吸光度を決定する。各データ点を3つ組で行う。図16は、2つのSIgAヤギ試料、1つのウシSIgA試料および対照としてのヒトhSIgA試料の結果を示す。この結果は、このアッセイにおける毒素Aの中和のレベルが、それぞれの試料上の非コア・フコシル化の量と相関することを示す。
実施例11:
乳試料からの分泌型免疫グロブリンの調製
本実施例は、乳試料からの分泌型免疫グロブリンのパイロット規模調製を記載する。
材料および方法
ホエイの調製
すべての遠心分離工程に関して、ローターJLA 10.500とともに、Beckman−CoulterTM Avanti J−25遠心分離装置を用いた。0.5Lの名目体積を持つビーカーを用いたが、最大0.4Lまでしか満たさなかった。
脱脂質化
11827g(8000RPM)、30分間、室温の遠心分離によって、脱脂質化を行った。上清をさらなる調製に用いた。ペレット(脂肪)を廃棄した。
カゼインの酸性沈殿
4.6のpHが得られるまで、脱脂質化乳を一定して勢いよく攪拌しながら、5%HCl溶液をゆっくりと添加することによって、酸性沈殿を行った。
沈殿物の除去
14969g(9000RPM)、45分間、室温の遠心分離によって、沈殿物の除去を行った。上清をさらなる調製に用いた。ペレット(沈殿物)を廃棄した。
深層濾過
蠕動ポンプ(Watson−Marlow X−100)および無菌フィルター装置(Sartorius−Stedim Sartobran P 0.45+0.2μm孔サイズ;濾過面積0.1m2)を用いて、ホエイを濾過した。
限外濾過/ディアフィルトレーション
装置
Millipore LabscaleTM TFF系
Millipore Cogent μScale TFF系
濾過膜
GE Healthcare KvickTM Start 100kD 50cm2
GE Healthcare KvickTM Lab 100kD 100cm2
ホエイの濃縮およびディアフィルトレーション
Millipore LabscaleTM TFF系に関して、総膜面積0.015m2で、ホエイの限外濾過およびディアフィルトレーションのため、3つの膜を用いた。ポンプ設定は2であり、そしておよそ2.5バールの膜差圧を調整した。ホエイを〜1:25に濃縮し、そしてリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でディアフィルトレーションする一方、濃縮ホエイを7倍過剰のPBSで緩衝液交換した。
Millipore Cogent μScale TFF系:総膜面積0.03m2の3つの膜を用いた。ポンプ設定は最大流量の40%であり、およそ150mL/分に相当し、膜差圧は2.5バールであった。
別個の時間間隔で、浸透試料の重量を測定することによって、浸透流を測定した。
調製用SEC
Superose6
HiScaleTMカラム26/40内にパッキングされたSuperose 6調製等級を用いた。ベッド高は32.5cmであり、そしてカラム体積は173mLであった。流速は30cm/時間(2.65ml/分)であり、そして試料体積は15mLであり、カラム体積(CV)の4.7%に相当した。0.3CV〜0.57CVまで、分画を行い、分画サイズは5mlであった。平衡化および流動緩衝液は1xPBSであった。
Superdex200
Superdex200調製等級HiLoadTMカラム26/60を用いた。ベッド高は59.7cmであり、そしてカラム体積は317mLであった。流動条件はSuperose6に記載するものと同じであった。
乳試料
地区の食料品店からウシおよびヒツジ乳を得て、ヤギホエイおよびヤギ乳のすべての試料を、Hofkaeserei Doerfl(Untere Bergstrasse 1, 3041 Doerfl、オーストリア)から得た。
分析用SEC
HP Chemstation 1100(Agilent)を分析用SECに用いた。カラムは、どちらもGE HealthcareのSuperose6 10/300GLおよびSuperdex200 10/300GLであった。流速は0.5mL/分であり、そして注入体積は50μLであった。平衡化および泳動緩衝液は1xPBSであった。UVシグナルを214nmで記録した。
SDS−PAGE
最終濃度200mMまでのDTTおよびNuPAGE LDS試料緩衝液(4x)とともに試料を添加し、そして10分間煮沸した。試料をTris−酢酸 3〜8%ゲル上に装填し、泳動緩衝液は、1xNuPAGE Tris−酢酸SDS泳動緩衝液であった。泳動条件は、150V、最大アンペア、1.5時間であった。マーカーは、Invitrogen HiMarkプレ染色高分子量タンパク質標準であった。タンパク質染色をクーマシーブルーで行った。
ドットブロット
調製用SEC実験由来の試料の5μl部分をニトロセルロース膜に適用した。試料を風乾した後、膜を3%BSAで1時間ブロッキングし、そして0.1%Tween20を含有するPBS緩衝液(洗浄緩衝液)で、3回洗浄した。その後、膜を特異的抗体−HRPコンジュゲートと1時間インキュベーションした。以下のコンジュゲートを用いた:1)ウサギ抗ヤギIgM−HRP、製品番号AAI45P;2)ウサギ抗ヤギIgG(H/L)−HRP、製品番号5160−2504;3)ウサギ抗ヤギIgA−HRP、製品番号AAI44P(AbD Serotec、ドイツ)。コンジュゲートストックを、1%BSAを含有する洗浄緩衝液で1:30000〜1:50000に希釈した。洗浄緩衝液で3回洗浄した後、SuperSignal West Pico化学発光基質(Pierce、ドイツ)およびBoehringer MannheimのLumi−ImagerTMスキャナを用いてシグナル化を行った。
3.4.1に記載するようにプロセスの完全質量バランスを確立し、そしてこれを表2中、2つのヤギ乳試料(実施例9の試料番号11および12)に関して示す。HPLC分析由来のすべてのピークプロファイルを個々の免疫グロブリンにデコンボルーションした。次いで、調製用実行データから得たタンパク質の純度および量に基づいて、SIgA含量を計算した。文献データ由来のヤギ乳のIgA含量は30〜80μg/mlである。これらの値は、理論的収量計算の基準として働いた。
表2:試料11および12のプロセシングの質量バランス、収量および純度
1試料体積の42%に基づく総IgAの理論的収量を用いた
実施例12:
DC−SIGN結合に関するELISA
本実施例は、分泌型IgA上のルイス特異的グリコシル化に関して、個々の乳試料をスクリーニングすることが可能であることを示す。レクチンDC−SIGNは、ルイス血液型構造に結合することが知られ、そしてしたがって、スクリーニング抗原として使用可能である。
個々のヤギ乳試料におけるSIgAのDC−SIGN反応性に関するスクリーニングELISA
96ウェルNUNCイムノプレート中でELISAを行う。
コーティング:新鮮なコーティング緩衝液100μl/ウェル中、1:100に希釈したDC−SIGN−Fc融合タンパク質(R&D Systems、第161−DC−050;ストック溶液100μg/ml)を4℃で一晩インキュベーションする。PBS−Tweenで3回洗浄した後、PBS−Tween 300μl/ウェルと室温で30分間インキュベーションする。PBS−Tweenで3回洗浄する。
試料調製:個々のヤギ由来の10mlの乳を新鮮に採取し、そして40,000xg、4℃で30分間遠心分離する。脂肪層をスパーテルで取り除き;残った液体を新規遠心管に移し、そして再び、40,000xgで30分間遠心分離する。液層(乳清)を分注し、そして−20℃で保存するかまたは直接スクリーニングに用いる。
陽性試料として、ヒトhSIgA(Sigma第I1010)を5μg/mLの濃度で用いる。
陰性対照として、ヤギ乳「Ja Natuerlich」、Ziegenmilch、Sennerei Zillertal、オーストリアを用いる。
試料を常に、コンジュゲート緩衝液中で希釈した2つの希釈、1:2および1:10で、100μl/ウェルで添加し、室温で2時間インキュベーションする。
PBS−Tweenで3回洗浄した後、コンジュゲートをウェルに添加し(100μl、ウサギ抗ヤギIgA−アルカリホスファターゼ・コンジュゲート、abcam第112864、コンジュゲート緩衝液中、1:1000で希釈)、そして暗所中、室温で1.5時間インキュベーションする。
陽性対照のため、抗ヒトIgA−アルカリホスファターゼ(Acris、第R1342AP、1:1000)を用いる。ウェルを続いて、PBS−Tweenで3回洗浄する。100μl色素原基質(1mgパラニトロフェニルホスフェート/ml染色緩衝液)と、室温でインキュベーションして、検出を行う。
30分後、マイクロプレート光度計で405nmでプレートを測定する(参照波長620nm)。
コーティング緩衝液:0,42g Na2CO3+0,84g NaHCO3+100ml A.D.,=pH9.7、4℃で保存、最大3日間使用。
ブロッキング溶液/洗浄緩衝液:100ml PBS+100μl Tween20(=0,1%)、常に新鮮。
コンジュゲート緩衝液:10g PVP+250μl Tween20+0.1g MgCl2+500ml PBS、7.4にpH調整。
4℃で保存、場合によってNaH3を添加することによって保存。
染色緩衝液:47.8mlジエタノールアミン+3.3ml 75mM MgCl2溶液+448.9ml A.D.、pHを9.8に調整(急いでいる場合は、コーティング緩衝液を代わりに使用してもよいが、シグナルは弱くなるであろう)、4℃で保存、場合によってNaH3を添加することによって保存。
2つのELISAプレートの結果を図17に示す。
ELISAデータの統計的評価(評価の例示のために、希釈1:2のOD(光学密度)値のみを用いる):
プレートA:
陰性対照の平均OD: 0.082
陰性対照の標準偏差: 0.061
陽性に関する閾値(対照の平均に、標準偏差の3倍を加える): 0.265
陽性試料(閾値より高いOD)
試料41(1.041)
試料48(0.744)
試料56(0.691)
試料69(0.286)
プレートB:
陰性対照のOD: 0.130
陰性対照の標準偏差: 0.074
陽性に関する閾値(対照の平均に、標準偏差の3倍を加える): 0.352
陽性試料(閾値より高いOD)
試料90 (0.584)
試料91 (0.385)
試料107 (1.627)
試料109 (0.498)
試料112 (1.100)
試料115 (0.371)
試料132 (0.889)
すべての陽性試料をプールする。
DC−SIGN結合(ルイスグリコシル化に相当)に関する陽性は、亜種、摂食、健康状態等の意味で、他の動物に比較して、これらの動物が異なるためでありうる。
本発明記載の免疫複合体を含有する乳の産業的調製のため、高い非コア・フコシル化分泌型免疫グロブリンを含む乳の収集を確実にするために、個々の動物を再試験する。
DC−SIGN陽性ELISAを生じる、こうした動物由来の乳を別個に収集し、そして続いてプロセシングする。個体由来の乳が陰性であるとの試験結果を得たら直ちに、それぞれの個体由来のそのミルクはもはや、ルイスグリコシル化濃縮分泌成分および免疫複合体を含有する乳のプールの調製には用いられない。
モルSCまたはSIgAあたり少なくとも10mmol非コア・フコースの試料を参照として用いた際、試験を較正して、参照より高いまたは低いレベルを決定することも可能である。
実施例13
DC−SIGNへの組換えヒトSCの結合
組換えSCの非コア・フコシル化の驚くべき効果を示すため、適切な細胞にSCの遺伝子をトランスフェクションすることによって、タンパク質を産生する。
実施例2に記載するように、CHO LEC11内で、ベクターpCDNA3.1+(Invitrogen、米国)中のHindIIIおよびXbaI部位で、図2の遺伝子を挿入する(細胞株およびトランスフェクション技術は、Rittershausら J Biol Chem. Vol. 274, pp.11237−44にしたがう)。
対照として、Phaliponら 2002, Immunity, Vol. 17, pp107−115)によるCHO DUK−(ATCC CRL 9096)を、分泌成分遺伝子の発現宿主として用いる。
CHOクローンの上清を、分泌成分およびルイスグリコシル化に特異的なELISAで試験する:
標準的ELISA形式でスクリーニングを行う。細胞培養上清ELISAプレート(Nunc Maxi−Sorp Immunoプレート)を、ウェルあたり100マイクロリットルの、mlコーティング緩衝液(1000ml蒸留水中、3.03g Na2CO3、6.0g NaHCO3、pH 9.6)あたり1マイクログラムの濃度の抗ヒト分泌成分抗体(Ray Biotech、第DS−PB−03010、米国)でコーティングする。
プレートの蓋を閉じて、そして4℃で一晩インキュベーションする。
次の工程の前に、コーティング溶液を取り除き、そして200μlのTPBS(500ml蒸留水、0.05%(v/v)Tween20中、1.16g Na2HPO4、0.1g KCl、0.1g K3PO4、4.0g NaCl、pH7.4)でウェルを満たすことによって、プレートを3回洗浄する。プレートをシンクの上で軽く叩くことによって、溶液または洗浄液を除去する。紙タオル上でプレートを軽く叩くことによって、残りの滴を除去する。あるいは、ELISA洗浄装置で洗浄を行ってもよい。
プレートをSuperblockブロッキング緩衝液(Thermo、第37515)150マイクロリットル/ウェルで満たし、そして室温で2時間インキュベーションする。
再び、プレートを上述のように洗浄する。
細胞培養上清を試料TPBSで希釈する(1:2および1:10)。各希釈(1:2および1:10)に関して16の陰性対照を各プレートに添加する。各希釈に関する4つの陽性対照試料をプレートに添加する。それぞれの希釈の100マイクロリットルを、洗浄したプレートのウェルに添加し、そして室温で2時間インキュベーションする。
洗浄後、TPBS中、1:100希釈の抗シアリル−ルイスx抗体(Merck Millipore、MAB2096)100マイクロリットルを、それぞれの試料ウェルに、そして陰性および陽性対照試料ウェルに添加する。
プレートを再び室温で2時間インキュベーションし、そして続いて洗浄する。
次いで、ニワトリ抗マウスIgG−HRP(Thermo、第SA1−72029、TPBS中1:500)のウェルあたり100マイクロリットルを添加し、そして室温で2時間インキュベーションする。続いて、プレートをTPBSで3回洗浄する。
次いで、基質緩衝液(TMB基質キット;Vector Laboratories、第SK−4400、USA)で、さらなる洗浄工程を行う。その後、色素原基質を添加する(Vector Laboratories、SK−4400)。短期間インキュベーションした後(OD650>1.0の陽性対照、OD<0.2の陰性対照の測定)、50マイクロリットルの1N硫酸を添加し、そしてプレートをマイクロプレート読み取り装置中、OD450で読み取り、TMBを基質として利用する標準的ELISA技術におけるように、OD600によって補正する。
LEC11中で発現された組換えヒトSCが、シアリル−ルイスxを示すことが示されうる。対照的に、正常CHO(CHO DUK−)中の組換えSCの発現は、いかなる非コア・フコシル化も示さない。
精製:
アフィニティクロマトグラフィの標準的プロトコルにしたがって、Sepharoseにカップリングしたウサギ抗ヒト分泌成分を伴うアフィニティクロマトグラフィによって、動物細胞上清からの組換え分泌成分および分泌型IgAの精製を行う。
脱シアル化:
100マイクログラムの組換えSCを、50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH6.0中の0.1単位のシアリダーゼ(Prozyme、カタログ番号GK80040)を含む30マイクロリットルの反応体積中で、37℃で8時間脱シアル化する。
製造者にしたがって、PD SpinTrap G−25(GE Healthcare、カタログ番号28−9180−04)を通じて脱塩した後、DC−SIGNへの結合に関して、ELISAにおいて、組換えSCタンパク質を試験する。
DC−SIGN ELISA
96ウェルNUNCイムノプレート中でELISAを行う。
コーティング:新鮮なコーティング緩衝液(0,42g Na2CO3+0,84g NaHCO3+100mlA.D.,=pH9.7、4℃で保存、最大3日間使用)中、DC−SIGN−Fc融合タンパク質(R&D Systems、第161−DC−050;ストック溶液100μg/ml)を1:100に希釈する。
コーティングを100μl/ウェルで添加し、4℃で一晩、インキュベーションを行う。
PBS−Tweenで3回洗浄した後、PBS−Tween 300μl/ウェルと室温で30分間インキュベーションする。PBS−Tweenで3回洗浄する。
試料:
CHO DUK−細胞ならびにCHO LEC11で産生した組換えSC調製物を、それぞれシアリダーゼ処理の前および後で、mlあたり1マイクログラムの出発濃度で、コンジュゲート緩衝液中で連続希釈する(1:5段階で)。100μlの各希釈をコーティングプレートに2つ組で添加し、そして室温で2時間インキュベーションする。
PBS−Tweenで3回洗浄した後、コンジュゲートをウェルに添加し(100μl、抗ヒトSC−HRPコンジュゲート、Acris、第AP21476HR−N、コンジュゲート緩衝液中、1:1000希釈)、そして室温で1.5時間インキュベーションする。
続いて、ウェルをPBS−Tweenで3回洗浄する。次いで、基質緩衝液(TMB基質キット;Vector Laboratories 第SK−4400、米国)で、さらなる洗浄工程を行う。その後、色素原基質を添加する(Vector Laboratories、SK−4400)。短期間インキュベーションした後、50マイクロリットルの1N硫酸を添加し、そしてプレートをマイクロプレート読み取り装置中、OD450で読み取り、TMBを基質として利用する標準的ELISA技術におけるように、OD600によって補正する。
ブロッキング溶液/洗浄緩衝液: 100ml PBS+100μl Tween20(=0,1%)
コンジュゲート緩衝液: 10g PVP+250μl Tween20+0.1g MgCl2+1mM CaCl2+500ml PBS、pHを7.4に調整
PBSは、1mM Caを含むリン酸緩衝生理食塩水である。
4℃で保存、場合によってNaH3を添加することによって保存。
CHO LEC11由来の脱シアル化組換えSCは、CHO CHO DUK−中で産生された脱シアル化分泌成分ならびにCHO LEC11中で発現されたシアル化SCに比較した際、DC−SIGNにより強く結合することが示されうる。