JP6977206B2 - 自然免疫を活性化する粘膜ワクチン用アジュバント - Google Patents
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Description
〔1〕 自然抗体の産生を増強する物質又は自然免疫を活性化する物質からなる粘膜ワクチン用アジュバントであって、該物質はB細胞の自然抗体の産生を増強する物質、IL-5の産生を増強する物質、樹状細胞を活性化する物質、インフラマソームを活性化する物質及びIFN-γ産生を増強する物質からなる群より選ばれる、粘膜ワクチン用アジュバント。
〔2〕 B細胞の自然抗体の産生を増強する物質がケンフェロール、シネンセチン、ケルセチン、ヘスペリジン、ルチン、モリン、カルミン酸、ロイフォリン、スピラエオシド及びケンフェライドであるフラボノイド化合物、PP1及びPP2であるSrcファミリーキナーゼ阻害剤、フォルスコリンであるcAMP誘導剤、PGB1及びPGF2αであるプロスタグランジン類、インゲノール3,20-ジベンゾエートであるインゲノール類、ホルボール12-ミリステート13-アセテート及び12-デオキシホルボール13-アセテートであるホルボール化合物、硫酸アトロピン、ロスコビチン、ピフィスリン-αならびにCyclo[Arg-Gly-Asp-D-Phe-Val]からなる群より選ばれる、〔1〕に記載の粘膜ワクチン用アジュバント。
〔3〕 IL-5の産生を増強する物質がホルボール12-ミリステート13-アセテート、ホルボール12,13-ジブチレート及び12-デオキシホルボール13-アセテートであるホルボール化合物、インゲノール3,20-ジベンゾエートであるインゲノール類、アンフォテリシンBである抗生物質、タキソール(パクリタキセル)、(S)-(-)-プロプラノロール塩酸塩、RHC-80267ならびにW7からなる群より選ばれる、〔1〕又は〔2〕に記載の粘膜ワクチン用アジュバント。
〔4〕 樹状細胞を活性化する物質がFSL-1、Pam2CSK4及びPam3CSK4であるTLR2リガンドならびにLPSであるTLR4リガンドからなる群より選ばれる、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の粘膜ワクチン用アジュバント。
〔5〕 インフラマソームを活性化する物質が、アンフォテリシンB、バリノマイシン及びCITCOからなる群より選ばれる、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の粘膜ワクチン用アジュバント。
〔6〕 IFN-γ産生を増強する物質が、インゲノール3,20-ジベンゾエートであるインゲノール類、カルミン酸、ロイフォリン及びシネセチンであるフラボノイド化合物ならびに12-デオキシホルボール13-アセテート、ホルボール12,13-ジブチレート及びホルボール12-ミリステート13-アセテートであるホルボール化合物からなる群より選ばれる、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の粘膜ワクチン用アジュバント。
〔7〕 ウイルス又は病原菌由来の不活化抗原と共に被験者に投与するための、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の粘膜ワクチン用アジュバント。
〔8〕 粘膜ワクチン用アジュバントを2種以上併用する、〔7〕に記載の粘膜ワクチン用アジュバント。
〔9〕 ウイルスが水痘ウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、重症急性呼吸器感染症候群(SARS)ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス及び風疹ウイルスからなる群より選ばれるものであり、
病原菌が百日咳菌、髄膜炎菌、インフルエンザb型菌、肺炎球菌、結核菌、コレラ菌及びジフテリア菌からなる群より選ばれるものである、〔7〕又は〔8〕に記載の粘膜ワクチン用アジュバント。
〔10〕 ウイルス又は病原菌由来の不活化抗原と、〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の粘膜ワクチン用アジュバントの少なくとも1種を含有する、経粘膜的に投与されるワクチン組成物。
〔11〕 ウイルスが水痘ウイルス、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、重症急性呼吸器感染症候群(SARS)ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトパピローマウイルス及び風疹ウイルスからなる群より選ばれるものであり、
病原菌が百日咳菌、髄膜炎菌、インフルエンザb型菌、肺炎球菌、結核菌、コレラ菌及びジフテリア菌からなる群より選ばれるものである、〔10〕に記載のワクチン組成物。
本明細書において「ワクチン」とは、身体中に投与されて、活性な免疫を生成する、抗原性部分を含む懸濁液又は溶液をいう。ワクチンを構成する抗原性部分は、微生物(例えば、ウイルス又は細菌など)又は微生物から精製された天然の産生物、合成生成物又は遺伝子操作したタンパク質、ペプチド、多糖又は同様な産生物であり得る。抗原性部分には、感染能を有する抗原と感染能を喪失した抗原とが含まれる。抗原性部分は、免疫原とも称される。
本発明におけるアジュバントの概念を説明する。
自然抗体を産生するのは、B細胞亜集団のひとつであるB-1細胞である。腹腔や胸腔、腸管粘膜固有層に多く存在し、恒常的に交叉反応性のIgM及びIgAクラスの自然抗体を産生している。B-1細胞に直接作用し、IgM産生を増強する物質は、本発明の粘膜ワクチン用アジュバントとして有効であると考えられる。さらに、感染予防に重要なIgAの産生も自然免疫により制御されており、TLRリガンドによる活性化とTransforming growth factor (TGF)-β、レチノイン酸、IL-5やIL-6などのサイトカインによる刺激が必須である。そこで、B-1細胞に直接作用し、TLR、TGF-β、IL-5を介してIgA産生を増強する物質は、粘膜ワクチン用アジュバントとなる可能性が高い。一方、リンパ組織に数多く存在するB-2細胞も腸管でのIgA産生に関与していることから、B-2細胞のIgAクラススイッチ誘導やIgA産生を増強する物質も粘膜ワクチン用アジュバントとなると考えられる。
液剤としては、精製水、緩衝液などに溶解したものなどが挙げられる。懸濁剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、カゼインなどと共に精製水、緩衝液などに懸濁させたものなどが挙げられる。粉末剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどとともによく混合したものなどが挙げられる。これらの製剤には、通常使用されている吸収促進剤、界面活性剤、保存剤、安定化剤、防湿剤、保湿剤、溶解剤などを必要に応じて添加することができる。
本発明の粘膜ワクチン用アジュバントは、粘膜ワクチンと組み合わせて用いるために、ウイルス又は病原菌由来の不活化抗原と、本発明の粘膜ワクチン用アジュバントの少なくとも1種とを含有し、粘膜投与されるワクチン組成物の剤形とすることができ、かかる組成物を提供する。本発明のワクチン組成物に含まれる不活化抗原と粘膜ワクチン用アジュバントとの重量比は、1:1〜1:50が推奨される。
BCL1細胞は、BALB/cマウスに放射線照射して自然発症した慢性 B 白血病細胞株であり、B-1a細胞と同様の細胞表面抗原を発現し、IL-5やLPS に応答してIgM産生細胞に分化する。このBCL1細胞を用いて、B-1細胞の自然抗体産生を増強する物質を粘膜ワクチン用アジュバントとしてスクリーニングした。市販の天然物ライブラリー(Natural Products Library、BioMol社)及び生理活性物質ライブラリー(ICCB Known Bioactives Library、BioMol社)から選択した化合物について、下記の方法でIgM産生増強効果を調べた。
BALB/cマウスに BCL1 細胞(1×105個)を腹腔内投与し、約1ヶ月後に脾臓を採取して細胞を凍結保存した。凍結保存細胞を融解し、ビオチン化抗マウスThy1.2抗体、抗マウスCD4及びCD8 抗体を作用させた後にストレプトアビジン結合磁気ビーズを作用させ、磁気細胞分離装置(IMagシステム)で磁気ビーズに結合したT細胞を除き実験に使用した(80-90%がCD5+ CD19+ BCL1細胞)。このBCL1細胞(1.5×105個/200 μl)を化合物単独(1 μM、0.1 μM又は500 ng/ml)、化合物とIL-5(1 ng/ml)、又は化合物とLPS(1 μg/ml)の組み合わせで培養した。3日後の培養上清中のIgM抗体をELISA法で測定した。
Natural Products Libraryからは、単独でIgM抗体産生を増強する物質として、インゲノール3, 20-ジベンゾエート及び12-デオキシホルボール13-アセテートを見出した。さらに、LPSとの共培養でIgM抗体産生を増強する物質として、フォルスコリン、ケンフェロール、及びカルミン酸を見出した。IL-5との共培養でIgM抗体産生を増強する物質として、硫酸アトロピン、フォルスコリン、及びロイフォリンを見出した。
ICCB Known Bioactives Libraryからは、単独でIgM 抗体産生を増強する物質として、ホルボール12-ミリステート13-アセテートを見出した。さらに、LPS との共培養でIgM 抗体産生を増強する物質として、ピフィスリン-α、Cyclo[Arg-Gly-Asp-D-Phe-Val]及びSrcファミリーキナーゼ阻害剤のPP1、PP2を見出した。また、IL-5 との共培養でIgM 抗体産生を増強する物質として、ロスコビチン、Srcファミリーキナーゼ阻害剤のPP1及びPP2を見出した。
Natural Products Library及びICCB Known Bioactives Libraryから選択した化合物についてIgA産生増強作用を調べた。B-2細胞はBALB/cマウス(7〜9週令、雌性)から採取した脾臓細胞をビオチン標識抗マウスCD43抗体で標識し、ストレプトアビジンがラベルされた磁気ビーズに吸着させ、IMagシステムによりCD43陰性細胞を採取した。この細胞をB-2細胞(純度約95%)として、以下の実験に使用した。
B-2細胞を用いたIgA産生評価系は、LPSとTGF-β又はレチノイン酸(retinoic acid; RA)との共刺激によりB-2細胞にIgAクラススイッチ組換えが誘導され、さらにIL-5刺激により抗体産生量が増大するという知見(J Exp Med 170: 1415-1420, 1989; Cell Immunol 166:247-253, 1995)に基づいて構築した。さらに、poly(I:C)及びIL-5存在下、RAの濃度依存的にIgA産生が誘導されることを見出し、LPS刺激系と同様の条件検討を行うことでpoly(I:C)刺激によるIgA産生評価系を構築した。
LPS刺激系では、10% FBS、100 U/mlのペニシリン、0.1 mg/mlのストレプトマイシン及び55 μMの2-メルカプトエタノールを含むPRMI 1640培地中、TGF-β0.1 ng/ml又はRA 1 nMの存在下及び非存在下、LPS 2 μg/ml、IL-5 1 ng/ml及びライブラリーから選択した化合物(2、10 μM)を添加し、96ウェル丸底培養プレートに2.0×105cells/wellとなるように細胞を播種した。7日間培養の後、培養上清中のIgA濃度をELISA法により測定した。陽性対照としてライブラリーから選択した化合物の代わりにコレラトキシン(1 ng/ml: cholera toxin; CT)による処置群を設けた。
Poly(I:C)刺激系では、B-2細胞にpoly(I:C) 5 μg/ml、IL-5 5 ng/ml、RA 1 nM及びライブラリーから選択した化合物(2、10 μM)を添加し、96ウェル平底培養プレートを用いて同様に7日間培養し、培養上清中のIgA濃度をELISA法で測定した。
Natural Products Libraryからは、LPS刺激評価系では、LPS/IL-5系、LPS/TGF-β/IL-5系及びLPS/RA/IL-5系のすべての系においてIgA産生を増強する物質として、フォルスコリン、プロスタグランジン(PG) B1及びPGF2α、フラボノイド化合物であるケンフェロールを見出した。また、2つの系においてIgA産生を増強する物質として、フラボノイド化合物であるシネンセチン、ケルセチン、及びへスペリジンを、LPS/RA/IL-5系においてIgA産生を増強する物質として、ルチンを見出した。
Poly(I:C)刺激評価系にてIgA産生を増強する化合物として、ケンフェロール、モリン、スピラエオシド、ケンフェライドを見出した。
ICCB Known Bioactives Libraryからは、poly(I:C)刺激評価系にてIgA産生を増強する化合物として、Srcファミリーキナーゼ阻害剤であるPP1及びPP2を見出した。
IL-5産生自然リンパ球は肺組織に最も多く存在する。そこで、IL-5遺伝子が蛍光タンパク質Venusの遺伝子に置換されたIL-5/Venusノックインマウス(J. Immunol. 188:703-713, 2012)から採取した肺組織細胞に化合物を添加し、IL-5産生細胞の増加の程度をフローサイトメトリー法により検出する評価系を構築した。この評価系を用い、Natural Products Library及びICCB Known Bioactives Libraryから選択した化合物について、下記の方法でIL-5産生の増強効果を調べた。
IL-5/Venusノックインマウスの肺全葉を採取後、ミンスし、1 mlのRPMI1640に10%FCS、1 mg/mlコラゲナーゼA、100 μg/ml DNase Iを加えた培養液で、37℃、30分間CO2インキュベーターで培養した。その後70 μmのメッシュに通したものを肺組織細胞懸濁液とした。得られた肺組織細胞2×105個を平底96ウェルプレートに撒き、ライブラリーから選択した化合物(10 μM)を添加し、4日間培養した。培養液はRPMI1640に10%FCS、50 μM 2-ME、100 U/mlペニシリン、0.1 mg/mlストレプトマイシンを加えたものを用いた。陰性コントロールとして0.1% DMSOを、陽性コントロールとして培養液にrIL-33(10 ng/ml)を加えたウェルを用意した。4日後、フローサイトメーターでVenusの発現量を測定した。細胞毒性による細胞死は、7AAD(7-Amino-Actinomycin D)によって評価した。
陰性コントロールでは約0.7%のVenus陽性細胞が、陽性コントロールでは約8%(陰性コントロールの11.4倍)のVenus陽性細胞が検出された。陰性コントロールを1とし、陰性コントロールに比べて1.5倍以上のVenus陽性細胞が検出された物質を、以下の表1、2にまとめる。
スクリーニング物質としてNatural Product LibraryとICCB Known Bioactives Libraryから選択した化合物あるいはTLRリガンドを用いた。BALB/cマウス大腿骨及び脛骨より骨髄細胞を採取し、ACK処理にて赤血球を除去した細胞浮遊液を得た。24 ウェルプレートに 1×106cells/mLで100 ng/mL FLT3リガンドを添加したRPMI1640培地にて7日間培養し、骨髄由来樹状細胞(BMDC)を誘導した。また、BALB/cマウスの脾臓からIMagシステムを利用した細胞分離によりT細胞と樹状細胞を除去したThy1.2陰性CD11c陰性B細胞を単離した。2×105 cells/wellのB細胞に対し、5×104 cells/wellの樹状細胞を加え1 ng/mLのIL-5存在下、ライブラリーから選択した化合物あるいはTLRリガンドで刺激して7日間培養し、培養上清中のIgAをELISA法で測定した。
その結果、TLR2リガンドのPam2CSK4、Pam3CSK4及びFSL-1又はTLR4リガンドのLPSが、B細胞のみと比較し樹状細胞とB細胞との共培養でより多くのIgA産生を誘導した。
TLR4/MD-2又はTLR7、TLR9を強発現させたBa/F3細胞株に、さらに緑色蛍光タンパク(GFP)のプロモーター部位にNF-κB結合部位を持つプラスミドをトランスフェクトしたBa/F3細胞株を使用した。これらの細胞を96ウェルプレートに1×105 cells/well で播種し、スクリーニング物質としてNatural Product Library及びICCB Known Bioactives Library から選択した化合物を添加し、37℃、5% CO2下で培養した。培養18時間後、細胞を回収し、フローサイトメトリーを用いてNF-κBの活性化をGFPの発現でモニターすることで候補物質のTLR活性化作用を検討した。陰性コントロールと比較して、GFPの発現強度が増加したものを陽性とした。
また、上記試験により、TLR4活性化効果を認めた化合物については、TLR4の反応を阻害する抗マウスTLR4/MD-2モノクローナル抗体(クローンMTS510)を20 μg/mlで30分間前処置した後に候補化合物を添加し、TLR4に対する特異性を検証した。
TLR4の活性化については、タキソールに有効性を認めた。
スクリーニング物質としてNatural Product LibraryとICCB Known Bioactives Libraryから選択した化合物を用いた。マウス骨髄由来マクロファージを96ウェルプレートに1×105 cells/well で播種し、37℃、5% CO2下で2時間培養することで細胞をウェルに接着させた。その後、IL-1β産生のpriming stepとしてLPSを1 μg/ml添加した。3時間培養後、細胞をPBSで2回洗浄した後、ライブラリーから選択した化合物を添加した。16時間培養後、上清を回収し、上清中のIL-1β量をELISA法で測定した。また、陽性コントロールとしてライブラリーから選択した化合物の代わりにATP 2 mMを添加し、ATPによって誘導されるIL-1β産生量の1/4以上認められたものを陽性と判定した。
スクリーニングの結果、抗生物質であるアンフォテリシンB、バリノマイシン及びCITCOがIL-1βの産生を誘導した。濃度依存性を検討したところ、アンフォテリシンBは10 μMで産生が強く認められ、30 μMに濃度を上げてもそれ以上の増加は認められなかった。バリノマイシンは1、5 μg/mlで濃度依存的にIL-1βの産生を増強し、25 μg/mlではそれ以上の増加は認められなかった。CITCOは1、5、25 μg/mlで濃度依存的にIL-1βの産生を増強した。
IFN-γは活性化T細胞やNK 細胞から分泌されるサイトカインで様々な免疫応答や炎症反応を調節する。IFN-γは Th1 応答を誘導するだけでなく抗腫瘍活性や抗ウイルス活性を持つことも知られている。結核菌が分泌する蛋白のひとつであるAg85Bは、マウスとヒトでTh1応答を誘導できる。マウスのAg85B 特異的Th1が認識する主なエピトープはPeptide-25(P25)である。そこで、P25特異的T細胞受容体(TCR)を発現させたトランスジェニックマウス(P25 TCR-Tg)の脾臓細胞をP25で刺激し、P25単独よりもIFN-γ産生を増強する天然物をスクリーニングした。スクリーニング物質としてNatural Product LibraryとICCB Known Bioactives Libraryから選択した化合物を用いた。
P25 TCR-Tg脾臓細胞(5×105個/ml)をP25(10 μg/ml)とライブラリーから選択した化合物(10 μM又は10 μg/ml)で刺激し、200 μlずつ96ウェルプレートで培養した。一部の化合物は0.1 - 10 μM 又は0.1 - 10 μg/mlでも刺激した。刺激後3日目に培養上清を採取し、ELISA法を用いて培養上清中のIFN-γを測定した。P25 + 化合物の値 = A、P25のみの値 = B、未刺激の値 = Cとして、(A - C)/(B - C)= 1.3以上を増強と判定した。
その結果、P25によるIFN-γ産生を増強させる化合物として、インゲノール3,20-ジベンゾエート、12-デオキシホルボール13-アセテート、カルミン酸、ロイフォリン、シネンセチン、ホルボール12,13-ジブチレート、ホルボール12-ミリステート13-アセテートを見出した。
また、IFN-γを増強した物質について、卵白アルブミン(ovalbumin, OVA)を腫瘍代理抗原として用い、OVA 特異的細胞傷害(CTL)活性を増強できるかどうか検討した。
P25 TCR-Tg脾臓細胞より、CD4 T細胞(P25 CD4+ T細胞)を精製し、C57BL/6マウス脾臓細胞より抗原提示細胞(APC)を精製した。精製したP25 CD4+ T細胞, APC, P25, OVA, ライブラリーから選択した化合物の混和物(200 μl)を96ウェルプレートで一晩培養し、洗浄後10-5 % グルタールアルデヒド溶液で処理してさらに洗浄した。一方、OT-I Tg (OVA特異的TCR Tg)の脾臓細胞より精製したCD8+ T細胞をCFSEでラベルし、洗浄後CFSE-OT-I CD8+ T細胞として使用した。グルタールアルデヒド処理した細胞にCFSE-OT-I CD8+ T細胞を加えて3日間培養した。3日後にCFSE-OT-I CD8+ T細胞のCFSEの輝度をFACS解析して、細胞の増殖を測定し、CTL 活性の有無を判定した。
その結果、OVA特異的CTL活性を強く増強する物質として、インゲノール類のインゲノール3,20-ジベンゾエート及び、ホルボールエステル類の12-デオキシホルボール13-アセテート、ホルボール12,13-ジブチレート、ホルボール12-ミリステート13-アセテートを見出した。
BALB/cマウス(7〜8週令、雌性)に、インフルエンザHAタンパク質抗原ワクチン(A/California/7/2009 (H1N1))(一般財団法人 阪大微生物病研究会製)1 μgを、アジュバントとして10 μgのPam3CSK4とともにマウスの鼻に13 μL(片鼻に6.5 μLずつ)接種し、その2週間後、同量のワクチンとアジュバントを経鼻接種した。さらに、2週間後、鼻腔洗浄液、血漿を回収し、鼻腔洗浄液中のワクチン抗原に特異的なIgA及び血漿中のワクチン抗原に特異的なIgGをELISA法により測定した。その結果、図1で示すようにPam3CSK4 10 μgにより鼻腔洗浄液中に顕著にIgAが誘導された。また、図2で示すように血漿中のIgGも顕著に誘導された。
BALB/cマウス(7〜8週令、雌性)に、インフルエンザHAタンパク質抗原ワクチン(A/California/7/2009 (H1N1))1μgを、アジュバントとしてPam3CSK4 10 μg及びPP2 1.3 nmolとともにマウスの鼻に13 μL (片鼻に6.5 μLずつ)接種し、その2週間後、同量のワクチンとアジュバントを経鼻接種した。さらに、2週間後、鼻腔洗浄液、血漿を回収し、鼻腔洗浄液中のワクチン抗原に特異的なIgA及び血漿中のワクチン抗原に特異的なIgGをELISA法により測定した。IgA産生の結果を図1にIgG産生の結果を図2に示す。
粘膜ワクチン用アジュバントとして、PP2とPam3CSK4とを併用した群では、鼻腔粘膜上に誘導されたワクチン抗原特異的なIgA量は、ワクチン単独あるいはPam3CSK4処置群と比較すると、有意に増加した。PP2の併用により、血漿中のIgGもPam3CSK4処置群と比較して増加する傾向にあった。このことから、候補となるアジュバント物質の組合せを検討することにより、より効果的にIgA産生を誘導する粘膜ワクチン用アジュバントを得られる可能性が示唆された。
BALB/cマウス(7〜8週令、雌性)に、インフルエンザHAタンパク質抗原ワクチン(A/California/7/2009 (H1N1))1 μgを、アジュバントとしてインゲノール3,20-ジベンゾエート 0.13 nmol、又はインゲノール3,20-ジベンゾエート 0.13 nmolとpoly(I:C) 1 μgとを混合したものとともにマウスの鼻に13 μL(片鼻に6.5 μLずつ)接種し、その2週間後、同量のワクチンとアジュバントを経鼻接種した。さらに、2週間後、鼻腔洗浄液、血漿を回収し、鼻腔洗浄液中のワクチン抗原に特異的なIgA及び血漿中のワクチン抗原に特異的なIgGをELISA法により測定した。
その結果を図3に示す。ワクチン単独の処置群と比較して、インゲノール3,20-ジベンゾエートは鼻腔洗浄液中のIgA産生を誘導した。また、アジュバントとしてインゲノール3,20-ジベンゾエートとpoly(I:C)とを併用した群では、鼻腔粘膜上に誘導されたワクチン抗原特異的なIgA量は、poly(I:C)処置群と比較し、約2倍に増加した。
IgG産生の結果を図4に示す。血漿中のIgGは、ワクチン単独の処置群と比較して、インゲノール3,20-ジベンゾエートにより約3.7倍に増加した。インゲノール3,20-ジベンゾエートとpoly(I:C)との併用では、poly(I:C)処置群と比較し、増加する傾向にあった。
Claims (2)
- 自然抗体の産生を増強する物質又は自然免疫を活性化する物質を含む経鼻粘膜投与型インフルエンザワクチン用アジュバントであって、該物質は樹状細胞を活性化する物質、及びインフラマソームを活性化する物質からなる群より選ばれ、
樹状細胞を活性化する物質がPam3CSK4であるTLR2リガンドであり、
インフラマソームを活性化する物質が、バリノマイシン又はCITCOである、
粘膜上への分泌型IgA産生を誘導する経鼻粘膜投与型インフルエンザワクチン用アジュバント。 - 前記物質を2種以上併用する、請求項1に記載の経鼻粘膜投与型インフルエンザワクチン用アジュバント。
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