以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
〔第1の実施の形態〕
本発明による回転電機は、以下に説明するように、トルクリプル低減による低騒音化が可能である。そのため、例えば、電気自動車の走行用モータとして好適である。本発明による回転電機は、回転電機のみによって走行する純粋な電気自動車や、エンジンと回転電機の双方によって駆動されるハイブリッド型の電気自動車にも適用できるが、以下ではハイブリッド型の電気自動車を例に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の回転電機を搭載したハイブリッド型電気自動車の概略構成を示す図である。車両100には、エンジン120と第1の回転電機200と第2の回転電機202とバッテリ180とが搭載されている。バッテリ180は、回転電機200,202による駆動力が必要な場合には電力変換装置600を介して回転電機200,202に直流電力を供給し、回生走行時には回転電機200,202から直流電力を受ける。バッテリ180と回転電機200,202との間の直流電力の授受は、電力変換装置600を介して行われる。また、図示していないが、車両には低電圧電力(例えば、14ボルト系電力)を供給するバッテリが搭載されており、以下に説明する制御回路に直流電力を供給する。
エンジン120および回転電機200,202による回転トルクは、変速機130とデファレンシャルギア160を介して前輪110に伝達される。変速機130は変速機制御装置134により制御され、エンジン120はエンジン制御装置124により制御される。バッテリ180は、バッテリ制御装置184により制御される。変速機制御装置134、エンジン制御装置124、バッテリ制御装置184、電力変換装置600および統合制御装置170は、通信回線174によって接続されている。
統合制御装置170は、変速機制御装置134、エンジン制御装置124、電力変換装置600およびバッテリ制御装置184よりも上位の制御装置であり、変速機制御装置134、エンジン制御装置124、電力変換装置600およびバッテリ制御装置184の各状態を表す情報を、通信回線174を介してそれらからそれぞれ受け取る。統合制御装置170は、取得したそれらの情報に基づき各制御装置の制御指令を演算する。演算された制御指令は通信回線174を介してそれぞれの制御装置へ送信される。
高電圧のバッテリ180はリチウムイオン電池あるいはニッケル水素電池などの2次電池で構成され、250ボルトから600ボルト、あるいはそれ以上の高電圧の直流電力を出力する。バッテリ制御装置184は、バッテリ180の充放電状況やバッテリ180を構成する各単位セル電池の状態を、通信回線174を介して統合制御装置170に出力する。
統合制御装置170は、バッテリ制御装置184からの情報に基づいてバッテリ180の充電が必要と判断すると、電力変換装置600に発電運転の指示を出す。また、統合制御装置170は、主に、エンジン120および回転電機200,202の出力トルクの管理、エンジン120の出力トルクと回転電機200,202の出力トルクとの総合トルクやトルク分配比の演算処理を行い、その演算処理結果に基づく制御指令を、変速機制御装置134、エンジン制御装置124および電力変換装置600へ送信する。電力変換装置600は、統合制御装置170からのトルク指令に基づき、指令通りのトルク出力あるいは発電電力が発生するように回転電機200,202を制御する。
電力変換装置600には、回転電機200,202を運転するためのインバータを構成するパワー半導体が設けられている。電力変換装置600は、統合制御装置170からの指令に基づきパワー半導体のスイッチング動作を制御する。このパワー半導体のスイッチング動作により、回転電機200,202は電動機としてあるいは発電機として運転される。
回転電機200,202を電動機として運転する場合は、高電圧のバッテリ180からの直流電力が電力変換装置600のインバータの直流端子に供給される。電力変換装置600は、パワー半導体のスイッチング動作を制御して、供給された直流電力を3相交流電力に変換し、回転電機200,202に供給する。一方、回転電機200,202を発電機として運転する場合には、回転電機200,202の回転子が外部から加えられる回転トルクで回転駆動され、回転電機200,202の固定子巻線に3相交流電力が発生する。
発生した3相交流電力は電力変換装置600で直流電力に変換され、その直流電力が高電圧のバッテリ180に供給されることにより、バッテリ180が充電される。
図2は、図1の電力変換装置600の回路図を示す。電力変換装置600には、回転電機200のための第1のインバータ装置と、回転電機202のための第2のインバータ装置とが設けられている。第1のインバータ装置は、パワーモジュール610と、パワーモジュール610の各パワー半導体21のスイッチング動作を制御する第1の駆動回路652と、回転電機200の電流を検知する電流センサ660とを備えている。駆動回路652は駆動回路基板650に設けられている。
一方、第2のインバータ装置は、パワーモジュール620と、パワーモジュール620における各パワー半導体21のスイッチング動作を制御する第2の駆動回路656と、回転電機202の電流を検知する電流センサ662とを備えている。駆動回路656は駆動回路基板654に設けられている。制御回路基板646に設けられた制御回路648、コンデンサモジュール630およびコネクタ基板642に実装された送受信回路644は、第1のインバータ装置と第2のインバータ装置とで共通に使用される。
パワーモジュール610,620は、それぞれ対応する駆動回路652,656から出力された駆動信号によって動作する。パワーモジュール610,620は、それぞれバッテリ180から供給された直流電力を3相交流電力に変換し、その電力を対応する回転電機200,202の電機子巻線である固定子巻線に供給する。また、パワーモジュール610,620は、回転電機200,202の固定子巻線に誘起された交流電力を直流に変換し、バッテリ180に供給する。
パワーモジュール610,620は図2に記載のごとく3相ブリッジ回路を備えており、3相に対応した直列回路が、それぞれバッテリ180の正極側と負極側との間に電気的に並列に接続されている。各直列回路は上アームを構成するパワー半導体21と下アームを構成するパワー半導体21とを備え、それらのパワー半導体21は直列に接続されている。パワーモジュール610とパワーモジュール620とは、図2に示す如く回路構成がほぼ同じであり、ここではパワーモジュール610で代表して説明する。
本実施の形態では、スイッチング用パワー半導体素子としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)21を用いている。IGBT21は、コレクタ電極、エミッタ電極及びゲート電極の3つの電極を備えている。IGBT21のコレクタ電極とエミッタ電極との間にはダイオード38が電気的に接続されている。ダイオード38は、カソード電極及びアノード電極の2つの電極を備えており、IGBT21のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、カソード電極がIGBT21のコレクタ電極に、アノード電極がIGBT21のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。
なお、スイッチング用パワー半導体素子として、MOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよい。MOSFETは、ドレイン電極、ソース電極及びゲート電極の3つの電極を備えている。MOSFETの場合には、ソース電極とドレイン電極との間に、ドレイン電極からソース電極に向かう方向が順方向となる寄生ダイオードを備えているので、図2のダイオード38を設ける必要がない。
各相のアームは、IGBT21のエミッタ電極とIGBT21のコレクタ電極とが電気的に直列に接続されて構成されている。なお、本実施の形態では、各相の各上下アームのIGBTを1つしか図示していないが、制御する電流容量が大きいので、実際には複数のIGBTが電気的に並列に接続されて構成されている。以下では、説明を簡単にするため、1個のパワー半導体として説明する。
図2に示す例では、各相の各上下アームはそれぞれ3個のIGBTによって構成されている。各相の各上アームのIGBT21のコレクタ電極はバッテリ180の正極側に、各相の各下アームのIGBT21のソース電極はバッテリ180の負極側にそれぞれ電気的に接続されている。各相の各アームの中点(上アーム側IGBTのエミッタ電極と下アーム側のIGBTのコレクタ電極との接続部分)は、対応する回転電機200,202の対応する相の電機子巻線(固定子巻線)に電気的に接続されている。
駆動回路652,656は、対応するインバータ装置を制御するための駆動部を構成しており、制御回路648から出力された制御信号に基づいて、IGBT21を駆動させるための駆動信号を発生する。それぞれの駆動回路652,656で発生した駆動信号は、対応するパワーモジュール610,620の各パワー半導体素子のゲートにそれぞれ出力される。駆動回路652,656には、各相の各上下アームのゲートに供給する駆動信号を発生する集積回路がそれぞれ6個設けられており、6個の集積回路を1ブロックとして構成されている。
制御回路648は各インバータ装置の制御部を構成しており、複数のスイッチング用パワー半導体素子を動作(オン・オフ)させるための制御信号(制御値)を演算するマイクロコンピュータによって構成されている。制御回路648には、上位制御装置からのトルク指令信号(トルク指令値)、電流センサ660,662のセンサ出力、回転電機200,202に搭載された回転センサのセンサ出力が入力される。制御回路648はそれらの入力信号に基づいて制御値を演算し、駆動回路652,656にスイッチングタイミングを制御するための制御信号を出力する。
コネクタ基板642に実装された送受信回路644は、電力変換装置600と外部の制御装置との間を電気的に接続するためのもので、図1の通信回線174を介して他の装置と情報の送受信を行う。コンデンサモジュール630は、IGBT21のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制するための平滑回路を構成するもので、第1のパワーモジュール610や第2のパワーモジュール620における直流側の端子に電気的に並列に接続されている。
図3は、図1の回転電機200の断面図を示す。なお、回転電機200と回転電機202とはほぼ同じ構造を有しており、以下では回転電機200の構造を代表例として説明する。ただし、以下に示す構造は回転電機200,202の双方に採用されている必要はなく、一方だけに採用されていても良い。
ハウジング212の内部には固定子230が保持されており、固定子230は固定子コア232と固定子巻線238とを備えている。固定子コア232の内周側には、回転子250が空隙222を介して回転可能に保持されている。回転子250は、シャフト218に固定された回転子コア252と、永久磁石254と、非磁性体のあて板226とを備えている。ハウジング212は軸受216が設けられた一対のエンドブラケット214を有しており、シャフト218はこれらの軸受216により回転自在に保持されている。
シャフト218には、回転子250の極の位置や回転速度を検出するレゾルバ224が設けられている。このレゾルバ224からの出力は、図2に示した制御回路648に取り込まれる。制御回路648は、取り込まれた出力に基づいて制御信号を駆動回路652に出力する。駆動回路652は、その制御信号に基づく駆動信号をパワーモジュール610に出力する。パワーモジュール610は、制御信号に基づきスイッチング動作を行い、バッテリ180から供給される直流電力を3相交流電力に変換する。この3相交流電力は図3に示した固定子巻線238に供給され、回転磁界が固定子230に発生する。3相交流電流の周波数はレゾルバ224の出力値に基づいて制御され、3相交流電流の回転子250に対する位相も同じくレゾルバ224の出力値に基づいて制御される。
図4(a)は、回転子250の回転子コア252を示す斜視図である。固定子コア252は、図4(b)に示すような2種類のコア301,302を3段で構成している。コア302の軸方向長さH2は、コア301の軸方向長さH1の合計とほぼ同じに設定されている。
図5は固定子230および回転子250の断面を示す図であり、図5(a)はコア301の部分を通るA−A断面図(図3参照)であり、図5(b)はコア302の部分を通るB−B断面図(図3参照)である。なお、図5ではハウジング212、シャフト218および固定子巻線238の記載を省略した。固定子コア232の内周側には、多数のスロット237とティース236とが全周に渡って均等に配置されている。図5では、スロットおよびティースの全てに符号を付すことはせず、代表して一部のティースとスロットにのみに符号を付した。スロット237内にはスロット絶縁材(図示省略)が設けられ、図3の固定子巻線238を構成するU相、V相、W相の複数の相巻線が装着されている。本実施の形態では、スロット237は等間隔に72個形成されている。
また、回転子コア252の外周近傍には、矩形の磁石を挿入するための複数の穴253が周方向に沿って等間隔に12個配設されている。各穴253は軸方向に沿って形成されており、その穴253には永久磁石254がそれぞれ埋め込まれ、接着剤などで固定されている。穴253の円周方向の幅は、永久磁石254(254a,254b)の円周方向の幅よりも大きく設定されており、永久磁石254の両側の空隙257は磁気的空隙として機能する。この空隙257は接着剤を埋め込んでも良いし,成型用樹脂で永久磁石254と一体に固めても良い。永久磁石254は回転子250の界磁極として作用し、本実施の形態では12極構成となっている。
永久磁石254の磁化方向は径方向を向いており、界磁極毎に磁化方向の向きが反転している。すなわち、永久磁石254aの固定子側面がN極、軸側の面がS極であったとすれば、隣の永久磁石254bの固定子側面はS極、軸側の面はN極となっている。そして、これらの永久磁石254a,254bが円周方向に交互に配置されている。
永久磁石254は、磁化した後に穴253に挿入しても良いし、回転子コア252の穴253に挿入した後に強力な磁界を与えて磁化するようにしても良い。ただし、磁化後の永久磁石254は強力な磁石なので、回転子250に永久磁石254を固定する前に磁石を着磁すると、永久磁石254の固定時に回転子コア252との間に強力な吸引力が生じて組み付け作業の妨げとなる。また、永久磁石254の強力な吸引力により、永久磁石254に鉄粉などのごみが付着するおそれがある。そのため、回転電機の生産性を考慮した場合、永久磁石254を回転子コア252に挿入した後に磁化するのが好ましい。
なお、永久磁石254には、ネオジム系、サマリウム系の焼結磁石やフェライト磁石、ネオジム系のボンド磁石などを用いることができる。永久磁石254の残留磁束密度はほぼ0.4〜1.3T程度である。
3相交流電流(を固定子巻線238に流すことで)により回転磁界が固定子230に発生すると、この回転磁界が回転子250の永久磁石254a,254bに作用してトルクが生じる。このトルクは、永久磁石254から出される磁束のうち各相巻線に鎖交する成分と、各相巻線に流れる交流電流の鎖交磁束に直交する成分の積で表される。ここで、交流電流は正弦波状になるように制御されているので、鎖交磁束の基本波成分と交流電流の基本波成分の積がトルクの時間平均成分となり、鎖交磁束の高調波成分と交流電流の基本波成分の積がトルクの高調波成分であるトルクリプルとなる。つまり、トルクリプルを低減するには、鎖交磁束の高調波成分を低減すればよい。言い換えれば、鎖交磁束と回転子の回転する角加速度の積が誘起電圧であるから、鎖交磁束の高調波成分を低減することは、誘起電圧の高調波成分を低減することに等しい。
図6は固定子230の斜視図である。本実施の形態では、固定子巻線238は固定子コア232に波巻で巻き回されている。固定子コア232の両端面には、固定子巻線238のコイルエンド241が形成されている。また、固定子コア232の一方の端面側には、固定子巻線238の口出し線242が引き出されている。口出し線242は、U相、V相、W相のそれぞれに対応して3本引き出されている。
図7は固定子巻線238の結線図であり、結線方式および各相巻線の電気的な位相関係を示したものである。本実施の形態の固定子巻線238にはダブルスター結線が採用されており、U1相巻線群、V1相巻線群、W1相巻線群から成る第1のスター結線と、U2相巻線群、V2相巻線群、W2相巻線群から成る第2のスター結線とが並列に接続されている。U1,V1,W1相巻線群およびU2,V2,W2相巻線群はそれぞれ4つの周回巻線で構成されており、U1相巻線群は周回巻線U11〜U14を有し、V1相巻線群は周回巻線V11〜V14を有し、W1相巻線群は周回巻線W11〜W14を有し、U2相巻線群は周回巻線U21〜U24を有し、V2相巻線群は周回巻線V21〜V24を有し、W2相巻線群は周回巻線W21〜W24を有している。
図7に示すように、V相およびW相はU相とほぼ同様の構成であり、それぞれに誘起される電圧の位相が電気角で120度ずれるように配置されている。また、それぞれの周回巻線の角度が相対的な位相を表している。図6に示すように、本実施の形態では、固定子巻線238は並列に結線されたダブルスター(2Y)結線を採用しているが、回転電機の駆動電圧によってはそれらを直列につないでシングルスター(1Y)結線としても良い。
図8は固定子巻線238のU相巻線の詳細結線を示す図であり、図8(a)はU1相巻線群の周回巻線U13,U14を示し、図8(b)はU1相巻線群の周回巻線U11,U12を示し、図8(c)はU2相巻線群の周回巻線U21,U22を示し、図8(d)はU2相巻線群の周回巻線U23,U24を示す。上述したように固定子コア232には72個のスロット237が形成されており(図5参照)、図8に示す符号01,02,…,71,72はスロット番号を示している。
各周回巻線U11〜U24は、スロット内に挿通されるスロット導体233aと、異なるスロットに挿通されたスロット導体233aの同一側端部同士を接続して、コイルエンド241(図6参照)を構成する渡り導体233bとから成る。例えば、図8(a)に示すスロット番号55のスロット237に挿通されるスロット導体233aの場合、図示上側の端部は、上側コイルエンドを構成する渡り導体233bによって、スロット番号60のスロット237に挿通されるスロット導体233aの上側端部に接続され、逆に、下側端部は、下側コイルエンドを構成する渡り導体233bによって、スロット番号48のスロット237に挿通されるスロット導体233aの下側端部に接続されている。このような形態でスロット導体233aが渡り導体233bによって接続されることにより、波巻の周回巻線が形成される。
後述するように、本実施の形態では、1スロット内に4本のスロット導体233aが内周側から外周側に並んで挿通され、内周側から順にレイヤ1、レイヤ2、レイヤ3、レイヤ4と称する。図8において、周回巻線U13,U14,U21およびU22の実線部分はレイヤ1を示しており、一点鎖線の部分はレイヤ2を示している。一方、周回巻線U11,U12,U23およびU24においては、実線部分はレイヤ3を示しており、一点鎖線の部分はレイヤ4を示している。
なお、周回巻線U11〜U24は、連続した導体で形成されても良いし、セグメントコイルをスロット内に挿通した後に溶接等によりセグメントコイル同士を接続するようにしても良い。セグメントコイルを用いる場合、セグメントコイルをスロット237に挿通する前に、固定子コア232の端部より軸方向両端に位置するコイルエンド241を予め成形することができ、異相間もしくは同相間に適切な絶縁距離を容易に設けることができ、その結果、IGBT21のスイッチング動作によって生じるサージ電圧に起因する部分放電を抑制することができ、絶縁に関して有効である。
また、周回巻線に使用する導体は平角線や丸線、もしくは細線を多本持ちにした導体でもよいが、小型高出力化や高効率化を目的として占積率を高めるためには、平角線が適している。
図9,図10は、図8に示したU1相巻線群およびU2相巻線群の一部を拡大して示したものである。図9,図10ではジャンパー線の部分を含む約4極分を示した。図9(b)に示すように、固定子巻線群U1は口出し線からスロット番号71のレイヤ4に入り、渡り導体233bによりスロット5個分を跨いだ後に、スロット導体233aがスロット番号66のレイヤ3に入る。次に、スロット番号66のレイヤ3から、スロット7個分を跨いでスロット番号59のレイヤ4に入る。
このように、口出し線が引き出されているコイルエンド側(図示下側)における渡り導体233bの跨ぎ量がスロットピッチNp=7、反対側のコイルエンド側における渡り導体233bの跨ぎ量がスロットピッチNp=5となるように、スロット番号06のレイヤ3まで固定子コア232を1周するように固定子巻線が波巻で巻き回される。ここまでの略1周分の固定子巻線が図7に示した周回巻線U11である。
次に、スロット番号06のレイヤ3から出た固定子巻線はスロット6個分を跨いでスロット番号72のレイヤ4に入る。スロット番号72のレイヤ4からは図7に示す周回巻線U12となる。周回巻線U12も周回巻線U11の場合と同様に、渡り導体233bの跨ぎ量が口出し線のある側ではスロットピッチNp=7、反対側ではスロットピッチNp=5に設定され、スロット番号06のレイヤ3まで固定子コア232を1周するように固定子巻線が波巻で巻き回される。ここまでの略1周分の固定子巻線が周回巻線U12である。
なお、周回巻線U12は、周回巻線U11に対して1スロットピッチずれて巻き回されることから、1スロットピッチ相当の電気角分の位相差が発生する。本実施の形態では、1スロットピッチは電気角30度相当であり、図7においても、周回巻線U11と周回巻線U12とは30度ずれて記載されている。
さらに、スロット番号07のレイヤ3から出た固定子巻線はスロット7個分を跨ぐジャンパー線でスロット番号72のレイヤ2(図9(a)参照)に入る。その後は周回巻線U11,U12の場合と同様に、渡り導体233bの跨ぎ量が口出し線のある側ではスロットピッチNp=7、反対側ではスロットピッチNp=5に設定され、スロット番号72のレイヤ2からスロット番号07のレイヤ1まで固定子コア232を1周するように固定子巻線が巻き回される。ここまでの固定子巻線が図7に示した周回巻線U13である。
なお、図9から分かるように、周回巻線U13は周回巻線U12に対して周方向にずれずに巻き回されることから、周回巻線U12,U13間には位相差は発生しない。図7においても、周回巻線U12,U13は位相差が無いように記載されている。
最後に、スロット番号07のレイヤ1から出た固定子巻線はスロット6個分を跨いでスロット番号01のレイヤ2に入る。その後は周回巻線U11,U12,U13の場合と同様に、渡り導体233bの跨ぎ量が口出し線のある側ではスロットピッチNp=7、反対側ではスロットピッチNp=5に設定され、スロット番号01のレイヤ2からスロット番号08のレイヤ1まで固定子コア232を1周するように固定子巻線が巻き回される。ここまでの固定子巻線が図7に示した周回巻線U14である。
なお、周回巻線U14は、周回巻線U13に対して1スロットピッチずれて巻き回されることから、1スロットピッチ相当の電気角30度相当の位相差が発生する。図7においても、周回巻線U13と周回巻線U14とは30度ずれて記載されている。
図10に示す固定子巻線群U2も、固定子巻線群U1の場合と同様の跨ぎ量で波巻に巻き回される。周回巻線U21はスロット番号14のレイヤ1からスロット番号07のレイヤ2まで巻き回され、周回巻線U22はスロット番号13のレイヤ1からスロット番号06のレイヤ2まで巻き回される。その後、固定子巻線はスロット番号06のレイヤ2からジャンパー線を介してスロット番号13のレイヤ3に入り、周回巻線U23としてスロット番号06のレイヤ4まで巻き回される。その後、固定子巻線をスロット番号12のレイヤ3からスロット番号05のレイヤ4まで巻き回すことで、周回巻線U24が形成される。
以上のように、固定子巻線群U1は周回巻線U11,U12,U13,U14からなり、それぞれの位相が合成された電圧が固定子巻線群U1に誘起される。同様に、固定子巻線群U2の場合も、周回巻線U21,U22,U23,U24の位相が合成された電圧が誘起される。図7に示すように固定子巻線群U1と固定子巻線群U2とは並列に接続されているが、固定子巻線群U1,U2のそれぞれに誘起される電圧の間には位相差がなく、並列接続であっても循環電流が流れるなどのアンバランスが起きることはない。
また、渡り導体233bの跨ぎ量を、一方のコイルエンド側ではスロットピッチNp=毎極スロット数+1とするとともに、他方のコイルエンド側ではスロットピッチNp=毎極スロット数−1とし、さらに、周回巻線U12,U13間の位相差および周回巻線U22,U23間の位相差をなくすように巻き回したことにより、図11に示すようなスロット導体233aの配置を実現することができる。
図11は、固定子コア232におけるスロット導体233aの配置を示す図であり、図8〜図10のスロット番号71〜スロット番号12までを示したものである。なお、回転子の回転方向は図の左から右の方向である。本実施の形態では、2極分、つまり電気角360度にスロット237が12個配置されており、例えば、図11のスロット番号01からスロット番号12までは2極分に相当する。そのため、毎極スロット数は6、毎極毎相スロット数NSPPは2(=6/3)である。各スロット237には、固定子巻線238のスロット導体233aが4本ずつ挿通されている。
各スロット導体233aは矩形で示されているが、その矩形の中には、U相、V相、W相を示す符号U11〜U24,V,Wと、口出し線から中性点への方向を示す黒丸印「●」、その逆の方向を示すクロス印「×」をそれぞれ図示した。また、スロット237の最も内周側(スロット底側)にあるスロット導体233aをレイヤ1と呼び、外周側(スロット開口側)にかけて順にレイヤ2、レイヤ3、レイヤ4と呼ぶことにする。また、符号01〜12は図8〜図10に示したのと同様のスロット番号である。なお、U相のスロット導体233aのみ周回巻線を表す符号U11〜U24で示し、V相およびW相のスロット導体233aに関しては、相を表す符号V,Wで示した。
図11において破線234で囲んだ8つのスロット導体233aは、全てU相のスロット導体233aである。例えば、中央に示すスロット導体群234の場合には、スロット番号05,06のレイヤ4は周回巻線U24,U23のスロット導体233a、スロット番号06,07のレイヤ3およびレイヤ2は周回巻線U11,U12および周回巻線U22,U21のスロット導体233a、スロット番号07,08のレイヤ1は周回巻線U13,U14のスロット導体233aである。
一般に、毎極スロット数が6、毎極毎相スロット数が2、スロット237内のスロット導体233のレイヤ数が4の場合には、図12(a)に示すようにU相(V相、W相も同様)のスロット導体233aを配置する構成が採用される場合が多い。この場合、図示右側のスロット導体群と図示左側のスロット導体群との間隔は6スロットピッチとなる。
一方、本実施の形態の構成は、図12(b)に示すように、図12(a)に示したレイヤ1(L1)の2本のスロット導体233aを回転子の回転方向(図の右方向)へ1スロットピッチ分ずらし、かつ、レイヤ4(L4)の2本のスロット導体233aを回転方向と逆の方向(図の左方向)へ1スロットピッチ分ずらした構成となっている。そのため、図12(b)に示すように、レイヤ4およびレイヤ3(L3)の周回巻線U11のスロット導体233aを接続する渡り導体233bの跨ぎ量は7スロットピッチとなり、レイヤ4およびレイヤ3(L3)の周回巻線U24を接続する渡り導体233bの跨ぎ量は5スロットピッチとなる。なお、以下では、回転子の回転方向と逆の方向を、反回転方向と呼ぶことにする。
この場合、U相だけでなく、V相およびW相の対応する各スロット導体233aも同様に1スロットピッチ分ずらすことになるので、図11に示したように、U,V,W相に関して同一形状のスロット導体群234がそれぞれ形成される。すなわち、回転子の回転方向に対して、順に、U相で黒丸印のスロット導体233aから成るスロット導体群、W相でクロス印のスロット導体233aから成るスロット導体群、V相で黒丸印のスロット導体233aから成るスロット導体群、U相でクロス印のスロット導体233aから成るスロット導体群、W相で黒丸印のスロット導体233aから成るスロット導体群、V相でクロス印のスロット導体233aから成るスロット導体群が配置されることになる。
本実施の形態では、図11に示すように、(a)渡り導体233bは、毎極スロット数をN(=6)としたとき、一方のコイルエンドではスロットピッチNp=N+1(=7)でスロットを跨ぎ、他方のコイルエンドではスロットピッチNp=N−1(=5)でスロットを跨ぐようにスロット導体233a間を接続し、(b)固定子巻線は、固定子コア周方向に連続して並んだ所定スロット数Ns(=4)のスロットに挿通されスロットおよびレイヤに関して隣接して配置された同一相の一群のスロット導体233aで構成されるスロット導体群234を有し、(c)所定スロット数Nsは、毎極毎相スロット数をNSPP(=2)、レイヤ数を2×NL(NL=2)としたとき、Ns=NSPP+NL=4に設定されている。
なお、スロット導体223bがスロットおよびレイヤに関して隣接して配置されるとは、すなわち、図11に示すように、同じレイヤで挿通されるスロット237が隣接し、また、同じスロット237内でレイヤが隣接するように配置されていることを意味する。そのように配置された一群のスロット導体233aを、本実施形態ではスロット導体群234と称している。
図13(a)は、図5(a)に示した断面図の一部を拡大して示したものである。回転子コア252のコア301には、永久磁石254の両側に形成される空隙257の他に、回転子250の表面に磁気的空隙258を構成する溝が設けられている。空隙257はコギングトルク低減のために設けられたものであり、磁気的空隙258は通電時のトルク脈動を低減するために設けられたものである。回転子250内周側から見て、永久磁石254aの左側の磁石間の中心軸をq軸a、永久磁石254bの左側の磁石間の中心軸をq軸bとすると、磁気的空隙258aはq軸aに対して右側に、磁気的空隙258bはq軸bに対して左側にずれて配置される。さらに、磁気的空隙258aと磁気的空隙258bは、磁極の中心軸であるd軸に対称に配置されている。
一方、図13(b)は、図5(b)に示した断面図の一部を拡大して示したものである。回転子コア252のコア302の場合には、磁気的空隙258a,258bの代わりに磁気的空隙258c,258dが形成されている。回転子250内周側から見て、磁気的空隙258cはq軸aに対して左側に、磁気的空隙258dはq軸bに対して右側にずれて配置されている。図5から分かるように、コア301とコア302の断面形状は、磁気的空隙258a,258bと258c,258dの位置が異なるだけでその他の部分は同一である。
ここで、磁気的空隙258aと258d、258bと258cはそれぞれ電気角で180度ずれた位置に配置される。すなわち、コア301を磁極1ピッチ分回転させることでコア302を形成することができる。これにより、コア301とコア302は同じ型で製作でき、製作コストを削減することができる。また、各コア301,302の穴253の周方向位置は、ずれることなく一致している。その結果、各穴253に装着される各永久磁石254は軸方向に分割されることなく、一体に各コア301,302を貫通している。もちろん、複数に分割された永久磁石254を、穴253の軸方向に積層するように設けても構わない。
3相交流電流により回転磁界が固定子230に発生すると、この回転磁界が回転子250の永久磁石254a,254bに作用して磁石トルクが生じる。さらに、回転子250には、この磁石トルクに加えてリラクタンストルクが作用する。
図14はリラクタンストルクを説明する図である。一般に、磁束が磁石中心を通る軸をd軸,磁束が磁石の極間から極間へ流れる軸をq軸と呼ぶ。このとき、磁石の極間中心にある鉄心部分を補助突極部259と呼ぶ。回転子250に設けられた永久磁石254の透磁率は空気とほぼ同じであるため、固定子側から見た場合、d軸部は磁気的に凹んでおり、q軸部は磁気的に凸になっている。そのため、q軸部の鉄心部分は突極と呼ばれる。リラクタンストルクは、このd軸とq軸の磁束の通り易さの差、すなわち、突極比によって生じる。
このように、本発明が適用される回転電機は、磁石トルクと、補助突極リラクタンストルクの両方を利用する回転電機である。そして、磁石トルクとリラクタンストルクのそれぞれからトルク脈動が発生する。トルク脈動には通電しない場合に発生する脈動成分と通電によって発生する脈動成分があり、通電しない場合に発生する脈動成分は一般的にコギングトルクと呼ばれており、実際に回転電機を負荷状態で使う場合には、コギングトルクと通電時の脈動成分が合わさったトルク脈動が発生する。
このような回転電機のトルク脈動を低減する方法として述べられている方法は、ほとんどがコギングトルクの低減のみに言及し、通電によって発生するトルク脈動に関しては述べられていない場合が多い。しかし、回転電機の騒音は、無負荷時ではなく負荷時に生じることが多い。つまり、回転電機の低騒音化には負荷時のトルク脈動を低減することが大事であり、コギングトルクだけの対策では不十分である。
本実施の形態におけるトルク脈動の低減方法について説明する。
最初に、非通電時の無負荷特性に関して説明する。図15(a)は、固定子巻線238に電流を流さない場合の磁束、すなわち、永久磁石254による磁束の分布のシミュレーション結果を示したものであり、永久磁石254aで構成される領域401と永久磁石254bで構成される領域402の2極を表している。つまり、領域401と領域402が交互に周方向に配置されている回転電機をシミュレーションした結果であり、A−A断面について示している。本実施例の回転電機は12極であるから、各々6極ずつ交互に周方向に配置される。極単位に注目すると、領域401には磁気的空隙258aと258bが補助突極部259に配置されており、領域402の補助突極部259には磁気的空隙258がない。
非通電時には、永久磁石254の磁束は磁石端部を短絡している。そのため、q軸には磁束は全く通らない。また、磁石端部の空隙257から少しずれた位置に設けられた磁気的空隙258a,258bの部分にも、磁束が殆ど通らないことがわかる。固定子コア232を通る磁束は、永久磁石254の固定子側の鉄心部分を通ってティース236へと至っている。このため、磁気的空隙258a,258bは、コンギングトルクに関係する非通電時の磁束にほとんど影響を与えないので、磁気的空隙258a,258bはコギングトルクや誘起電圧などの無負荷特性には影響を与えないことがわかる。
図15(b)は領域401のみ、図15(c)は領域402のみのシミュレーション結果であり、それぞれ図15(b)は領域401のみ、図15(c)は領域402のみが周方向に永久磁石254の磁化方向が極毎に反転するように12極配置された回転電機を示している。図15(b),図15(c)も図15(a)同様の磁束分布となり、q軸には磁束は通らない。
図16,図17は、コギングトルクの低減方法を説明するための図である。図16は、回転子250と固定子コア232の一部を示す断面図である。図16において、τpは永久磁石254の極ピッチ、τmは永久磁石254の幅角度である。また、τgは永久磁石254とその両側に設けられた空隙257とをあわせた角度、すなわち、図4に示した穴253の幅角度である。これらの角度の比τm/τp、τg/τpを調節することで、コギングトルクを小さくすることができる。本実施の形態では、τm/τpを磁石極弧度、τg/τpを磁石穴極弧度と呼ぶことにする。
図17は、磁石極弧度τm/τpの比とコンギングトルクとの関係を示す図である。なお、図17に示した結果は、τm=τgとした場合であり、また永久磁石254と空隙257を回転子250の外周と同心の扇形とした場合である。これを本実施例のように矩形の磁石とした場合には若干最適値が変わるが、発明として同じであることは言うまでもない。図17において、縦軸はコンギングトルクの振幅を表し、横軸は回転子250の電気角で示した回転角を表している。脈動の振幅の大きさは、比τm/τpの大きさによって変化しており、τm=τgの場合、τm/τpを0.75程度に選ぶとコンギングトルクを小さくすることができる。また、図13(a)に示した磁気的空隙258によってコギングトルクが変わらないという傾向は、磁石幅と極ピッチの比τm/τpが図17に示すいかなる値であっても同じである。すなわち、磁気的空隙258の位置によって図17のグラフが変わることはない。
図18はコギングトルクの波形を示したものである。横軸は回転子の回転角度であり、電気角で示している。ラインL11は磁気的空隙258を有する領域401と磁気的空隙258がない領域402が交互に配置される図15(a)の回転子の場合を示し、ラインL12は磁気的空隙258を有する領域401のみが配置される図15(b)の回転電機の場合を示し、ラインL13は磁気的空隙258がない領域402のみが配置される図15(c)の回転電機の場合を示す。図16(a)の結果から、磁気的空隙258の有無はコギングトルクにほとんど影響のないことがわかる。
図19は誘起電圧波形を示す図であり、曲線L21は図11に示すスロット導体配置を採用した本実施の形態の回転電機の誘起電圧波形を示し、曲線L22は比較例として特許文献1に記載の固定子構造を採用した場合の誘起電圧波形を示す。また、図20は、図19のそれぞれの誘起電圧波形を高調波解析した結果を示したものである。
図19に示すように、曲線L21に示す誘起電圧波形は、曲線L22に示す誘起電圧波形よりも正弦波に近いことが分かる。また、図20の高調波解析結果に示すように、特に、5次と7次の高調波成分を減らすことができることが分かった。
図15から図20に示した結果より、本発明の回転子構造の特徴のひとつである磁気的空隙258はコギングトルクと誘起電圧には無関係であるが、コギングトルクは従来の方法として磁石極弧度τm/τpの比で低減でき、誘起電圧の高調波成分は本発明の固定子構造で低減できる。つまり、それぞれを独立して低減を図ることが可能である。
次に、通電時の負荷特性に関して説明する。
本実施例の回転電機は1極あたり6スロットあるモータであって、固定子コア232のスロット237に設けられている固定子巻線238のスロット導体233が図11に示すように配置されているため、図20に示すように誘起電圧の5次と7次の高調波成分を減らすことができ、この高調波成分に起因する3相モータに特有な6次のトルク脈動を少なくすることができる。
図21は通電時のトルク波形を示したものである。横軸は回転子の回転角度であり、電気角で示している。ラインL31は磁気的空隙258を有する領域401と磁気的空隙258がない領域402が交互に配置される図15(a)の回転子の場合を示し、ラインL32は磁気的空隙258を有する領域401のみが配置される図15(b)の回転電機の場合を示し、ラインL33は磁気的空隙258がない領域402のみが配置される図15(c)の回転電機の場合を示す。
図21を見ると、本実施の形態の回転電機は12次のトルク脈動成分、すなわち電気角で30deg周期の成分が支配的であって、6次成分はほとんど無いことがわかる。また、磁気的空隙258を形成しない、すなわち領域402のみの場合のトルク脈動L33に対して、L31,L32ともにトルク脈動の波形が変化していることがわかる。これは、通電時の磁束が、磁気的空隙258の影響を受けていることを示している。さらに、領域401のみの回転電機のトルク脈動L32と領域402のみの回転電機のトルク脈動L33とは、位相がほぼ正反対になっている。図15(a)に示したように本実施例の回転電機は領域401と領域402とを交互に配置する構成になっており、トルク脈動L31に示すように回転子全体が受けるトルク脈動の合計は、トルク脈動L32とトルク脈動L33の平均値となる。
このように,本実施の形態では、上述したような磁気的空隙258a,258bを設けたことにより、通電時のトルク脈動を低減することができる。このような効果を得るためには、磁気的空隙258を構成する溝の幅角度(周方向角度)を、ティース236のピッチ角の1/4から1/2の範囲に設定するのが好ましい。なお、前記磁気的空隙は、磁極中心を通るq軸に対して対称で、突極中心を通るd軸に対して非対称に配置しても同様の効果を得ることができる。また、補助突極部259に形成する磁気的空隙258を2種類以上としても良い。それにより、トルク脈動低減の自由度が増し、より詳細に脈動低減を行うことができる。
さらに、磁気的空隙を設けない場合に比べてトルクが下がらないという特徴も有している。従来、トルク脈動低減のために行われているスキューという構造の場合には、スキューすることでトルクが下がってしまい、小型化の妨げになるという欠点があった。しかし、本実施の形態では、コギンギングトルクと独立して、通電時のトルク脈動だけを低減することができるだけでなく、トルクそのものが下がらないという利点を有している。これは、もともとの溝無しロータの場合のトルク脈動が、12次成分が支配的だったためで、これは、スロット導体233を図11に示すような配置にしていたことも功を奏している。
図22は通電時のトルク波形を高調波解析した結果であり、ラインL41はスロット導体233の配置を図12(a)とし、回転子は図15(c)に示すように磁気的空隙258を設けていない回転電機の結果であり、ラインL42はスロット導体233の配置を本実施の形態である図12(b)とし、回転子は図15(c)に示すように磁気的空隙258を設けていない回転電機の結果であり、L43はスロット導体233の配置を本実施の形態である図12(b)とし、回転子も本実施の形態である図15(a)に示すような構造の回転電機の結果である。
図22の高調波解析結果に示すように、ラインL42はラインL41に比べ、電気角60deg周期の成分である6次成分が低減されていることがわかる。これはスロット導体233の配置を本実施の形態である図12(b)にしたことにより低減されたことを示す。また。ライン43はラインL42に比べ、電気角30deg周期の成分である12次成分が低減されていることがわかる。これは回転子を本実施の形態である図15(a)に示すような構造にしたことにより低減されたことを示す。つまり、トルクリプルの高調波次数によって、それぞれ独立に低減できる。
上述したように、本実施の形態でトルクリプルを低減できるが、回転電機がトルクを発生する際、固定子コア232を円環状に振動させる電磁加振力が発生し、この円環振動が騒音の原因となる場合がある。
図23に固定子コア232の円環0次成分の振動モードを示す。なお、細線が固定子コア232の原形を示している。この振動モードは、同じく円環0次の成分を持った電磁加振力に共振することで騒音の原因となるが、円環0次の電磁加振力の大きさは、トルクリプルの大きさと等価であり、トルクリプルを低減することで円環0次の電磁加振力を低減できるため、本実施の形態ではトルクリプル同様に低減が可能である。
図24に固定子コア232の円環6次成分の振動モードを示す。なお、細線が固定子コア232の原形を示している。この振動モードは、同じく円環6次の成分を持った電磁加振力に共振することで騒音の原因となるが、本実施の形態では、図13(a)に示すように極ごとに磁気的空隙258を設けるため、極ごとに磁気的アンバランスがあるため、図13(a)に示すコア301,302ごとには極数の1/2の円環次数を持った加振力が発生するが、コア301とコア302の磁気的空隙258は、それぞれ磁極1ピッチずれた位置に配置されているため、電磁加振力が軸方向に打ち消され、円環6次の振動モードと共振することはない。
図25に固定子コア232の円環6次成分をもち、固定子の軸方向両端で位相が反転する振動モードを示す。なお、細線が固定子コア232の原形を示している。コア301とコア302が発生する電磁加振力は前述のように位相が反転しているため、コア301とコア302の2種類のコアを、2段で回転子コアを構成すると共振してしまうが、本実施の形態のように3段で構成することで、電磁加振力がこの振動モードと共振することはない。もちろん、2種類以上のコアを3段以上で構成すれば、本実施の形態と同様の効果を得ることができる。
〔第2の実施の形態〕
図26,図27は、本発明の第2の実施の形態を示す図であり、毎極毎相スロット数NSPPが2で、1つのスロット237に挿入されるスロット導体233aのレイヤ数が2の固定子に本発明を適用した場合を示す。ロータは第1の実施の形態と同様の構成である
。図26は、固定子巻線のU相巻線の詳細結線を示す図であり、(a)はU1相巻線群を
示し、(b)はU2相巻線群を示す。図27は、固定子コア232におけるスロット導体
233aの配置を示す図である。
図26に示すように、U1相巻線群の周回巻線U11は口出し線からスロット番号72のレイヤ2に入り、渡り導体233bにより5スロット跨いだ後、スロット番号67のレイヤ1に入る。次いで、スロット番号67のレイヤ1を出た巻線は、7スロット跨いでスロット番号60のレイヤ2に入る。その後、巻線は5スロットの跨ぎと7スロットの跨ぎとを交互に繰り返しながら波巻され、固定子コア232をほぼ1周してスロット番号07のレイヤ1に入る。ここまでが周回巻線U11である。
スロット番号07のレイヤ1を出た巻線は、6スロット跨いだ後にスロット番号01のレイヤ2に入る。ここからが周回巻線U12であり、周回巻線U11の場合と同様に5スロットの跨ぎと7スロットの跨ぎとを交互に繰り返しながら波巻され、固定子コア232をほぼ1周してスロット番号08のレイヤ1に入る。
U2相巻線群の巻線もU1相巻線群の場合と同様に波巻により巻き回される。スロット番号14のレイヤ1からスロット番号07のレイヤ2までが波巻された巻線が周回巻線U21であり、スロット番号13のレイヤ1からスロット番号06のレイヤ2までの巻線が周回巻線U22である。
図27は、スロット番号01〜12およびスロット番号71,72の部分のスロット導体233aの配置を示したものであり、スロット番号01からスロット番号12までの12スロットピッチが2極分に相当する。図27と図11とを比較すると、図27に示すU,V,W相のスロット導体233aの配置は、図11に示すレイヤ1,2のスロット導体233aの配置と同一になっている。本実施の形態の場合、破線で囲まれた4本のスロット導体233aが1つのスロット導体群234を構成している。
本実施の形態のスロット導体群234に関しても、上述した第1の実施の形態のスロット導体群234(図11参照)と同様の条件を満足している。すなわち、(a)渡り導体233bは、毎極スロット数をN(=6)としたとき、一方のコイルエンドではスロットピッチNp=N+1=7でスロットを跨ぎ、他方のコイルエンドではスロットピッチNp=N−1=5でスロットを跨ぐようにスロット導体233a間を接続し、(b)固定子巻
線は、固定子コア周方向に連続して並んだ所定スロット数Ns(=3)のスロットに挿通されスロットおよびレイヤに関して隣接して配置された同一相の一群のスロット導体223bで構成されるスロット導体群234を有し、(c)所定スロット数Nsは、毎極毎相スロット数をNSPP(=2)、レイヤ数を2×NL(NL=1)としたとき、Ns=NSPP+NL=3に設定されている。
そのため、第1の実施の形態と同様に、トルクリプルを低減することができ、低騒音の回転電機の低騒音化を図ることができる。
〔第3の実施の形態〕
図28,図29は、本発明の第3の実施の形態を示す図であり、毎極毎相スロット数NSPPが3で、1つのスロット237に挿入されるスロット導体233aのレイヤ数が4の固定子に本発明を適用した場合を示す。ロータは第1の実施の形態と同様の構成である。図28は、U相巻線の詳細結線の一部を示したものであり、(a)はU1相巻線群を示し、(b)はU2相巻線群を示す。図19は、固定子コア232におけるスロット導体233aの配置を示す図である。
図28に示すように、毎極毎相スロット数NSPPが3で、1つのスロット237に挿入されるスロット導体233aのレイヤ数2×NLが4の場合、固定子コア232のスロット数は108となり、U1相巻線群およびU2相巻線群を構成する周回巻線の数はそれぞれ6となる。また、各周回巻線における跨ぎ量も5スロットピッチと7スロットピッチとなる。
図28(a)に示すU1相巻線群において、スロット番号105のレイヤ4からスロット番号07のレイヤ3までの巻線が周回巻線U11であり、スロット番号106のレイヤ4からスロット番号08のレイヤ3までの巻線が周回巻線U12であり、スロット番号107のレイヤ4からスロット番号09のレイヤ3までの巻線が周回巻線U13である。スロット番号09のレイヤ3を出た巻線は、ジャンパー線を介してスロット番号106のレイヤ2へ入る。そして、スロット番号106のレイヤ2からスロット番号08のレイヤ1までの巻線が周回巻線U14であり、スロット番号107のレイヤ2からスロット番号09のレイヤ1までの巻線が周回巻線U15であり、スロット番号108のレイヤ2からスロット番号10のレイヤ1までの巻線が周回巻線U16である。
図28(b)に示すU2相巻線群において、スロット番号19のレイヤ1からスロット番号09のレイヤ2までの巻線が周回巻線U21であり、スロット番号18のレイヤ1からスロット番号08のレイヤ2までの巻線が周回巻線U22であり、スロット番号17のレイヤ1からスロット番号07のレイヤ2までの巻線が周回巻線U13である。スロット番号07のレイヤ2を出た巻線は、ジャンパー線を介してスロット番号18のレイヤ3へ入る。そして、スロット番号18のレイヤ3からスロット番号08のレイヤ4までの巻線が周回巻線U24であり、スロット番号17のレイヤ3からスロット番号07のレイヤ4までの巻線が周回巻線U25であり、スロット番号18のレイヤ3からスロット番号06のレイヤ4までの巻線が周回巻線U26である。
図29は、スロット番号01〜18の部分のスロット導体233aの配置を示したものであり、本実施の形態の場合、スロット番号01からスロット番号18までの18スロットピッチが2極分に相当する。図28からも分かるように、周回巻線U14〜U16、および周回巻線U21〜U23は、スロット237のレイヤ1とレイヤ2とに交互に挿通され、一方、周回巻線U11〜U13、および周回巻線U24〜U26は、スロット237のレイヤ3とレイヤ4とに交互に挿通される。そして、図29の破線で囲んだ12のスロット導体233aが一群となって1つのスロット導体群1234を構成している。これら12のスロット導体233aは、同一相の12の周回巻線U111〜U16、U21〜U26に含まれるスロット導体233aである。
V相およびW相のスロット導体233aに関してもU相の場合と同様で、同一相の12のスロット導体233aが一群となって1つのスロット導体群を構成している。それらのスロット導体群は、第1の実施の形態の場合と同様に、回転子の回転方向に対して、順に、U相で黒丸印のスロット導体233aから成るスロット導体群、W相でクロス印のスロット導体233aから成るスロット導体群、V相で黒丸印のスロット導体233aから成るスロット導体群、U相でクロス印のスロット導体233aから成るスロット導体群、W相で黒丸印のスロット導体233aから成るスロット導体群、V相でクロス印のスロット導体233aから成るスロット導体群が配置されることになる。
図29から分かるように、本実施の形態のスロット導体群1234も、上述した第1の実施の形態のスロット導体群234(図11参照)と同様の条件を満足している。すなわち、(a)渡り導体233bは、毎極スロット数をN(=9)としたとき、一方のコイルエンドではスロットピッチNp=N+1=10でスロットを跨ぎ、他方のコイルエンドではスロットピッチNp=N−1=8でスロットを跨ぐようにスロット導体233a間を接続し、(b)固定子巻線は、固定子コア周方向に連続して並んだ所定スロット数Ns(=5)のスロットに挿通されスロットおよびレイヤに関して隣接して配置された同一相の一群のスロット導体223bで構成されるスロット導体群234を有し、(c)所定スロット数Nsは、毎極毎相スロット数をNSPP(=3)、レイヤ数を2×NL(NL=2)としたとき、Ns=NSPP+NL=5に設定されている。
そのため、第1および第2の実施の形態と同様に、トルクリプルを低減することができ、低騒音の回転電機の低騒音化を図ることができる。
ところで、毎極毎相スロット数NSPPが増えると、図12のように1スロットピッチずらすことによって消せる高周波成分の次数が変わってくる。例えば、NSPP=2の場合、1スロットピッチは電気角で30度に相当する。30度は6次成分の半周期であるため、図20に示すように6次に近い5次成分と7次成分の誘起電圧を小さくすることができる。一方、本実施の形態のようにNSPPをさらに増やすと1スロットピッチが小さくなるため、さらに高次の高調波成分を低減することができる。また、回転子コア252に設けられた磁気的空隙258の幅を小さくすることで、さらに高次のトルクリプル高調波成分を低減でき、より静粛性に優れた回転電機を提供することができる。
また、図1、図2に示すように、上述した回転電機と、直流電力を供給するバッテリと、バッテリの直流電力を交流電力に変換して回転電機に供給する変換装置とを備え、回転電機のトルクを駆動力として用いることを特徴とする車両において、低騒音化が図れた静粛な車両を提供することができる。
以上、12極の磁石モータを例に説明したが、極数に限らず、他の極数のモータに適用できる。また、本発明は車両用モータに限らず、さまざまな用途に使用されるモータにも適用することができ、さらには、モータに限らず、発電機など種々の回転電機に適用が可能である。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記の実施形態になんら限定されるものではない。