以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
−第1の実施の形態−
本発明による回転電機は、以下に説明するように、トルクリプル低減による低騒音化が可能である。そのため、例えば、電気自動車の走行用モータとして好適である。本発明による回転電機は、回転電機のみによって走行する純粋な電気自動車や、エンジンと回転電機の双方によって駆動されるハイブリッド型の電気自動車にも適用できるが、以下ではハイブリッド型の電気自動車を例に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の回転電機を搭載したハイブリッド型電気自動車の概略構成を示す図である。車両100には、エンジン120と第1の回転電機200と第2の回転電機202とバッテリ180とが搭載されている。バッテリ180は、回転電機200,202による駆動力が必要な場合には電力変換装置600を介して回転電機200,202に直流電力を供給し、回生走行時には回転電機200,202から直流電力を受ける。バッテリ810と回転電機200,202との間の直流電力の授受は、電力変換装置600を介して行われる。また、図示していないが、車両には低電圧電力(例えば、14ボルト系電力)を供給するバッテリが搭載されており、以下に説明する制御回路に直流電力を供給する。
エンジン120および回転電機200,202による回転トルクは、変速機130とデファレンシャルギア160を介して前輪110に伝達される。変速機130は変速機制御装置134により制御され、エンジン120はエンジン制御装置124により制御される。バッテリ180は、バッテリ制御装置184により制御される。変速機制御装置134、エンジン制御装置124、バッテリ制御装置184、電力変換装置600および統合制御装置170は、通信回線174によって接続されている。
統合制御装置170は、変速機制御装置134,エンジン制御装置124,電力変換装置600およびバッテリ制御装置184よりも上位の制御装置であり、変速機制御装置134,エンジン制御装置124,電力変換装置600およびバッテリ制御装置184の各状態を表す情報を、通信回線174を介してそれらからそれぞれ受け取る。統合制御装置170は、取得したそれらの情報に基づき各制御装置の制御指令を演算する。演算された制御指令は通信回線174を介してそれぞれの制御装置へ送信される。
高電圧のバッテリ180はリチウムイオン電池あるいはニッケル水素電池などの2次電池で構成され、250ボルトから600ボルト、あるいはそれ以上の高電圧の直流電力を出力する。バッテリ制御装置184は、バッテリ180の充放電状況やバッテリ180を構成する各単位セル電池の状態を、通信回線174を介して統合制御装置170に出力する。
統合制御装置170は、バッテリ制御装置184からの情報に基づいてバッテリ180の充電が必要と判断すると、電力変換装置600に発電運転の指示を出す。また、統合制御装置170は、主に、エンジン120および回転電機200,202の出力トルクの管理、エンジン120の出力トルクと回転電機200,202の出力トルクとの総合トルクやトルク分配比の演算処理を行い、その演算処理結果に基づく制御指令を、変速機制御装置134,エンジン制御装置124および電力変換装置600へ送信する。電力変換装置600は、統合制御装置170からのトルク指令に基づき、指令通りのトルク出力あるいは発電電力が発生するように回転電機200,202を制御する。
電力変換装置600には、回転電機200,202を運転するためのインバータを構成するパワー半導体が設けられている。電力変換装置600は、統合制御装置170からの指令に基づきパワー半導体のスイッチング動作を制御する。このパワー半導体のスイッチング動作により、回転電機200,202は電動機としてあるいは発電機として運転される。
回転電機200,202を電動機として運転する場合は、高電圧のバッテリ180からの直流電力が電力変換装置600のインバータの直流端子に供給される。電力変換装置600は、パワー半導体のスイッチング動作を制御して供給された直流電力を3相交流電力に変換し、回転電機200,202に供給する。一方、回転電機200,202を発電機として運転する場合には、回転電機200,202の回転子が外部から加えられる回転トルクで回転駆動され、回転電機200,202の固定子巻線に3相交流電力が発生する。発生した3相交流電力は電力変換装置600で直流電力に変換され、その直流電力が高電圧のバッテリ180に供給されることにより、バッテリ180が充電される。
図2は、図1の電力変換装置600の回路図を示す。電力変換装置600には、回転電機200のための第1のインバータ装置と、回転電機202のための第2のインバータ装置とが設けられている。第1のインバータ装置は、パワーモジュール610と、パワーモジュール610の各パワー半導体21のスイッチング動作を制御する第1の駆動回路652と、回転電機200の電流を検知する電流センサ660とを備えている。駆動回路652は駆動回路基板650に設けられている。
一方、第2のインバータ装置は、パワーモジュール620と、パワーモジュール620における各パワー半導体21のスイッチング動作を制御する第2の駆動回路656と、回転電機202の電流を検知する電流センサ662とを備えている。駆動回路656は駆動回路基板654に設けられている。制御回路基板646に設けられた制御回路648、コンデンサモジュール630およびコネクタ基板642に実装された送受信回路644は、第1のインバータ装置と第2のインバータ装置とで共通に使用される。
パワーモジュール610,620は、それぞれ対応する駆動回路652,656から出力された駆動信号によって動作する。パワーモジュール610,620は、それぞれバッテリ180から供給された直流電力を三相交流電力に変換し、その電力を対応する回転電機200,202の電機子巻線である固定子巻線に供給する。また、パワーモジュール610,620は、回転電機200,202の固定子巻線に誘起された交流電力を直流に変換し、高電圧バッテリ180に供給する。
パワーモジュール610,620は図2に記載のごとく3相ブリッジ回路を備えており、3相に対応した直列回路が、それぞれバッテリ180の正極側と負極側との間に電気的に並列に接続されている。各直列回路は上アームを構成するパワー半導体21と下アームを構成するパワー半導体21とを備え、それらのパワー半導体21は直列に接続されている。パワーモジュール610とパワーモジュール620とは、図2に示す如く回路構成がほぼ同じであり、ここではパワーモジュール610で代表して説明する。
本実施の形態では、スイッチング用パワー半導体素子としてIGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)21を用いている。IGBT21は、コレクタ電極,エミッタ電極及びゲート電極の3つの電極を備えている。IGBT21のコレクタ電極とエミッタ電極との間にはダイオード38が電気的に接続されている。ダイオード38は、カソード電極及びアノード電極の2つの電極を備えており、IGBT21のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう方向が順方向となるように、カソード電極がIGBT21のコレクタ電極に、アノード電極がIGBT21のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。
なお、スイッチング用パワー半導体素子として、MOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)を用いてもよい。MOSFETは、ドレイン電極,ソース電極及びゲート電極の3つの電極を備えている。MOSFETの場合には、ソース電極とドレイン電極との間に、ドレイン電極からソース電極に向かう方向が順方向となる寄生ダイオードを備えているので、図2のダイオード38を設ける必要がない。
各相のアームは、IGBT21のエミッタ電極とIGBT21のコレクタ電極とが電気的に直列に接続されて構成されている。なお、本実施の形態では、各相の各上下アームのIGBTを1つしか図示していないが、制御する電流容量が大きいので、実際には複数のIGBTが電気的に並列に接続されて構成されている。以下では、説明を簡単にするため、1個のパワー半導体として説明する。
図2に示す例では、各相の各上下アームはそれぞれ3個のIGBTによって構成されている。各相の各上アームのIGBT21のコレクタ電極はバッテリ180の正極側に、各相の各下アームのIGBT21のソース電極はバッテリ180の負極側にそれぞれ電気的に接続されている。各相の各アームの中点(上アーム側IGBTのエミッタ電極と下アーム側のIGBTのコレクタ電極との接続部分)は、対応する回転電機200,202の対応する相の電機子巻線(固定子巻線)に電気的に接続されている。
駆動回路652,656は、対応するインバータ装置610,620を制御するための駆動部を構成しており、制御回路648から出力された制御信号に基づいて、IGBT21を駆動させるための駆動信号を発生する。それぞれの駆動回路652,656で発生した駆動信号は、対応するパワーモジュール610,620の各パワー半導体素子のゲートにそれぞれ出力される。駆動回路652,656には、各相の各上下アームのゲートに供給する駆動信号を発生する集積回路がそれぞれ6個設けられており、6個の集積回路を1ブロックとして構成されている。
制御回路648は各インバータ装置610,620の制御部を構成しており、複数のスイッチング用パワー半導体素子を動作(オン・オフ)させるための制御信号(制御値)を演算するマイクロコンピュータによって構成されている。制御回路648には、上位制御装置からのトルク指令信号(トルク指令値)、電流センサ660,662のセンサ出力、回転電機200,202に搭載された回転センサのセンサ出力が入力される。制御回路648はそれらの入力信号に基づいて制御値を演算し、駆動回路652,656にスイッチングタイミングを制御するための制御信号を出力する。
コネクタ基板642に実装された送受信回路644は、電力変換装置600と外部の制御装置との間を電気的に接続するためのもので、図1の通信回線174を介して他の装置と情報の送受信を行う。コンデンサモジュール630は、IGBT21のスイッチング動作によって生じる直流電圧の変動を抑制するための平滑回路を構成するもので、第1のパワーモジュール610や第2のパワーモジュール620における直流側の端子に電気的に並列に接続されている。
図3は、図1の回転電機200の断面図を示す。なお、回転電機200と回転電機202とはほぼ同じ構造を有しており、以下では回転電機200の構造を代表例として説明する。ただし、以下に示す構造は回転電機200,202の双方に採用されている必要はなく、一方だけに採用されていても良い。
ハウジング212の内部には固定子230が保持されており、固定子230は固定子コア232と固定子巻線238とを備えている。固定子コア232の内周側には、回転子250が空隙222を介して回転可能に保持されている。回転子250は、シャフト218に固定された回転子鉄心252と、永久磁石254と、非磁性体のあて板226とを備えている。ハウジング212は軸受216が設けられた一対のエンドブラケット214を有しており、シャフト218はこれらの軸受216により回転自在に保持されている。
シャフト218には、回転子250の極の位置や回転速度を検出するレゾルバ224が設けられている。このレゾルバ224からの出力は、図2に示した制御回路648に取り込まれる。制御回路648は、取り込まれた出力に基づいて制御信号を駆動回路652に出力する。駆動回路652は、その制御信号に基づく駆動信号をパワーモジュール610に出力する。パワーモジュール610は、制御信号に基づきスイッチング動作を行い、バッテリ180から供給される直流電力を3相交流電力に変換する。この3相交流電力は図3に示した固定子巻線238に供給され、回転磁界が固定子230に発生する。3相交流電流の周波数はレゾルバ224の出力値に基づいて制御され、3相交流電流の回転子250に対する位相も同じくレゾルバ224の出力値に基づいて制御される。
図4は固定子230および回転子250の断面を示す図であり、図3のA−A断面図を示したものである。なお、図4ではハウジング212、シャフト218および固定子巻線238の記載を省略した。固定子コア232の内周側には、多数のスロット237とティース236とが全周に渡って均等に配置されている。図4では、スロットおよびティースの全てに符号を付すことはせず、代表して一部のティースとスロットにのみに符号を付した。スロット237内にはスロット絶縁材(図示省略)が設けられ、図3の固定子巻線238を構成するU相、V相、W相の複数の相巻線が装着されている。本実施の形態では、スロット237は等間隔に72個形成されている。
また、回転子コア252の外周近傍には、矩形の磁石を挿入するための複数の穴253が周方向に沿って等間隔に12個配設されている。各穴253は軸方向に沿って形成されており、その穴253には永久磁石254がそれぞれ埋め込まれ、接着剤などで固定されている。穴253の円周方向の幅は、永久磁石254(254a,254b)の円周方向の幅よりも大きく設定されており、永久磁石254の両側の穴空間257は磁気的空隙として機能する。この穴空間257は接着剤を埋め込んでも良いし,成型用樹脂で永久磁石254と一体に固めても良い。永久磁石254は回転子250の界磁極として作用し、本実施の形態では12極構成となっている。
永久磁石254の磁化方向は径方向を向いており、界磁極毎に磁化方向の向きが反転している。すなわち、永久磁石254aの固定子側面がN極、軸側の面がS極であったとすれば、隣の永久磁石254bの固定子側面はS極、軸側の面はN極となっている。そして、これらの永久磁石254a,254bが円周方向に交互に配置されている。
永久磁石254は、磁化した後に穴253に挿入しても良いし、回転子コア252の穴253に挿入した後に強力な磁界を与えて磁化するようにしても良い。ただし、磁化後の永久磁石254は強力な磁石なので、回転子250に永久磁石254を固定する前に磁石を着磁すると、永久磁石254の固定時に回転子コア252との間に強力な吸引力が生じて組み付け作業の妨げとなる。また、永久磁石254の強力な吸引力により、永久磁石254に鉄粉などのごみが付着するおそれがある。そのため、回転電機の生産性を考慮した場合、永久磁石254を回転子コア252に挿入した後に磁化するのが好ましい。
なお、永久磁石254には、ネオジウム系,サマリウム系の焼結磁石やフェライト磁石,ネオジウム系のボンド磁石などを用いることができる。永久磁石254の残留磁束密度はほぼ0.4〜1.3T程度である。
3相交流電流(を固定子巻線238に流すことで)により回転磁界が固定子230に発生すると、この回転磁界が回転子250の永久磁石254a,254bに作用してトルクが生じる。このトルクは、永久磁石254から出される磁束のうち各相巻線に鎖交する成分と、各相巻線に流れる交流電流の鎖交磁束に直交する成分の積で表される。ここで、交流電流は正弦波状になるように制御されているので、鎖交磁束の基本波成分と交流電流の基本波成分の積がトルクの時間平均成分となり、鎖交磁束の高調波成分と交流電流の基本波成分の積がトルクの高調波成分であるトルクリプルとなる。つまり、トルクリプルを低減するには、鎖交磁束の高調波成分を低減すればよい。言い換えれば、鎖交磁束と回転子の回転する角加速度の積が誘起電圧であるから、鎖交磁束の高調波成分を低減することは、誘起電圧の高調波成分を低減することに等しい。
図5は固定子230の斜視図である。本実施の形態では、固定子巻線238は固定子コア232に波巻で巻き回されている。固定子コア232の両端面には、固定子巻線238のコイルエンド241が形成されている。また、固定子コア232の一方の端面側には、固定子巻線238の口出し線242が引き出されている。口出し線242は、U相、V相、W相のそれぞれに対応して3本引き出されている。
図6は固定子巻線238の結線図であり、結線方式および各相巻線の電気的な位相関係を示したものである。本実施の形態の固定子巻線238にはダブルスター結線が採用されており、U1相巻線群、V1相巻線群、W1相巻線群から成る第1のスター結線と、U2相巻線群、V2相巻線群、W2相巻線群から成る第2のスター結線とが並列に接続されている。U1,V1,W1相巻線群およびU2,V2,W2相巻線群はそれぞれ4つの周回巻線で構成されており、U1相巻線群は周回巻線U11〜U14を有し、V1相巻線群は周回巻線V11〜V14を有し、W1相巻線群は周回巻線W11〜W14を有し、U2相巻線群は周回巻線U21〜U24を有し、V2相巻線群は周回巻線V21〜V24を有し、W2相巻線群は周回巻線W21〜W24を有している。
図6に示すように、V相およびW相はU相とほぼ同様の構成であり、それぞれに誘起される電圧の位相が電気角で120度ずれるように配置されている。また、それぞれの周回巻線の角度が相対的な位相を表している。図6に示すように、本実施の形態では、固定子巻線238は並列に結線されたダブルスター(2Y)結線を採用しているが、回転電機の駆動電圧によってはそれらを直列につないでシングルスター(1Y)結線としても良い。
図7は固定子巻線238のU相巻線の詳細結線を示す図であり、(a)はU1相巻線群の周回巻線U13,U14を示し、(b)はU1相巻線群の周回巻線U11,U12を示し、(c)はU2相巻線群の周回巻線U21,22を示し、(d)はU2相巻線群の周回巻線U23,24を示す。上述したように固定子コア232には72個のスロット237が形成されており(図4参照)、図7に示す符号01,02,〜,71,72はスロット番号を示している。
各周回巻線U11〜U24は、スロット内に挿通されるスロット導体233aと、異なるスロットに挿通されたスロット導体233aの同一側端部同士を接続して、コイルエンド241(図5参照)を構成する渡り導体233bとから成る。例えば、図7(a)に示すスロット番号55のスロット237に挿通されるスロット導体233aの場合、図示上側の端部は、上側コイルエンドを構成する渡り導体233bによって、スロット番号60のスロット237に挿通されるスロット導体233aの上側端部に接続され、逆に、下側端部は、下側コイルエンドを構成する渡り導体233bによって、スロット番号48のスロット237に挿通されるスロット導体233aの下側端部に接続されている。このような形態でスロット導体233aが渡り導体233bによって接続されることにより、波巻の周回巻線が形成される。
後述するように、本実施の形態では、1スロット内に4本のスロット導体233aが内周側から外周側に並んで挿通され、内周側から順にレイヤ1、レイヤ2、レイヤ3、レイヤ4と称する。図7において、周回巻線U13,U14,U21およびU22の実線部分はレイヤ1を示しており、一点鎖線の部分はレイヤ2を示している。一方、周回巻線U11,U12,U23およびU24においては、実線部分はレイヤ3を示しており、一点鎖線の部分はレイヤ4を示している。
なお、周回巻線U11〜U24は、連続した導体で形成されても良いし、セグメントコイルをスロット内に挿通した後に溶接等によりセグメントコイル同士を接続するようにしても良い。セグメントコイルを用いる場合、セグメントコイルをスロット237に挿通する前に、固定子コア232の端部より軸方向両端に位置するコイルエンド241を予め成形することができ、異相間もしくは同相間に適切な絶縁距離を容易に設けることができ。その結果、IGBT21のスイッチング動作によって生じるサージ電圧に起因する部分放電を抑制することができ、絶縁に関して有効である。
また、周回巻線に使用する導体は平角線や丸線、もしくは細線を多本持ちにした導体でもよいが、小型高出力化や高効率化を目的として占積率を高めるためには、平角線が適している。
図8,9は、図7に示したU1相巻線群およびU2相巻線群の一部を拡大して示したものである。図8,9ではジャンパー線の部分を含む約4極分を示した。図8(b)に示すように、固定子巻線群U1は口出し線からスロット番号71のレイヤ4に入り、渡り導体233bによりスロット5個分を跨いだ後に、スロット導体233aがスロット番号66のレイヤ3に入る。次に、スロット番号66のレイヤ3から、スロット7個分を跨いでスロット番号59のレイヤ4に入る。
このように、口出し線が引き出されているコイルエンド側(図示下側)における渡り導体233bの跨ぎ量がスロットピッチNp=7、反対側のコイルエンド側における渡り導体233bの跨ぎ量がスロットピッチNp=5となるように、スロット番号06のレイヤ3まで固定子コア232を1周するように固定子巻線が波巻で巻き回される。ここまでの略1周分の固定子巻線が図6に示した周回巻線U11である。
次に、スロット番号06のレイヤ3から出た固定子巻線はスロット6個分をまたいでスロット番号72のレイヤ4に入る。スロット番号72のレイヤ4からは図6に示す周回巻線U12となる。周回巻線U12も周回巻線U11の場合と同様に、渡り導体233bの跨ぎ量が口出し線のある側ではスロットピッチNp=7、反対側ではスロットピッチNp=5に設定され、スロット番号06のレイヤ3まで固定子コア232を1周するように固定子巻線が波巻で巻き回される。ここまでの略1周分の固定子巻線が周回巻線U12である。
なお、周回巻線U12は、周回巻線U11に対して1スロットピッチずれて巻き回されることから、1スロットピッチ相当の電気角分の位相差が発生する。本実施の形態では、1スロットピッチは電気角30度相当であり、図6においても、周回巻線U11と周回巻線U12とは30度ずれて記載されている。
さらに、スロット番号07のレイヤ3から出た固定子巻線はスロット7個分をまたぐジャンパー線でスロット番号72のレイヤ2(図8(a)参照)に入る。その後は周回巻線U11,U12の場合と同様に、渡り導体233bの跨ぎ量が口出し線のある側ではスロットピッチNp=7、反対側ではスロットピッチNp=5に設定され、スロット番号72のレイヤ2からスロット番号07のレイヤ1まで固定子コア232を1周するように固定子巻線が巻き回される。ここまでの固定子巻線が図6に示した周回巻線U13である。
なお、図8から分かるように、周回巻線U13は周回巻線U12に対して周方向にずれずに巻きまわされることから、周回巻線U12,U13間には位相差は発生しない。図6においても、周回巻線U12,U13は位相差が無いように記載されている。
最後に、スロット番号07のレイヤ1から出た固定子巻線はスロット6個分をまたいでスロット番号01のレイヤ2に入る。その後は周回巻線U11,U12,U13の場合と同様に、渡り導体233bの跨ぎ量が口出し線のある側ではスロットピッチNp=7、反対側ではスロットピッチNp=5に設定され、スロット番号01のレイヤ2からスロット番号08のレイヤ1まで固定子コア232を1周するように固定子巻線が巻き回される。ここまでの固定子巻線が図6に示した周回巻線U14である。
なお、周回巻線U14は、周回巻線U13に対して1スロットピッチずれて巻き回されることから、1スロットピッチ相当の電気角30度相当の位相差が発生する。図8においても、周回巻線U13と周回巻線U14とは30度ずれて記載されている。
図9に示す固定子巻線群U2も、固定子巻線群U1の場合と同様の跨ぎ量で波巻に巻き回される。周回巻線U21はスロット番号14のレイヤ1からスロット番号07のレイヤ2まで巻き回され、周回巻線U22はスロット番号13のレイヤ1からスロット番号06のレイヤ2まで巻き回される。その後、固定子巻線はスロット番号06のレイヤ2からジャンパー線を介してスロット番号13のレイヤ3に入り、周回巻線U23としてスロット番号06のレイヤ4まで巻き回される。その後、固定子巻線をスロット番号12のレイヤ3からスロット番号05のレイヤ4まで巻き回すことで、周回巻線U24が形成される。
以上のように、固定子巻線群U1は周回巻線U11,U12,U13,U14からなり、それぞれの位相が合成された電圧が固定子巻線群U1に誘起される。同様に、固定子巻線群U2の場合も、周回巻線U21,U22,U23,U24の位相が合成された電圧が誘起される。図6に示すように固定子巻線群U1と固定子巻線群U2とは並列に接続されているが、固定子巻線群U1,U2のそれぞれに誘起される電圧の間には位相差がなく、並列接続であっても循環電流が流れるなどのアンバランスが起きることはない。
また、渡り導体233bの跨ぎ量を、一方のコイルエンド側ではスロットピッチNp=毎極スロット数+1とするとともに、他方のコイルエンド側ではスロットピッチNp=毎極スロット数−1とし、さらに、周回巻線U12,U13間の位相差および周回巻線U22,U23間の位相差をなくすように巻き回したことにより、図10に示すようなスロット導体233aの配置を実現することができる。
図10は、固定子コア232におけるスロット導体233aの配置を示す図であり、図7〜9のスロット番号71〜スロット番号12までを示したものである。なお、回転子の回転方向は図の左から右の方向である。本実施の形態では、2極分、つまり電気角360度にスロット237が12個配置されており、例えば、図10のスロット番号01からスロット番号12までは2極分に相当する。そのため、毎極スロット数は6、毎極毎相スロット数NSPPは2(=6/3)である。各スロット237には、固定子巻線238のスロット導体233aが4本ずつ挿通されている。
各スロット導体233aは矩形で示されているが、その矩形の中には、U相、V相、W相を示す符号U11〜U24,V,Wと、口出し線から中性点への方向を示す黒丸印「●」、その逆の方向を示すクロス印「×」をそれぞれ図示した。また、スロット237の最も内周側(スロット開口側)にあるスロット導体233aをレイヤ1と呼び、外周側(スロット底側)にかけて順にレイヤ2、レイヤ3、レイヤ4と呼ぶことにする。また、符号01〜12は図7〜9に示したのと同様のスロット番号である。なお、U相のスロット導体233aのみ周回巻線を表す符号U11〜U24で示し、V相およびW相のスロット導体233aに関しては、相を表す符号V,Wで示した。
図10において破線234で囲んだ8つのスロット導体233aは、全てU相のスロット導体233aである。例えば、中央に示すスロット導体群234の場合には、スロット番号05,06のレイヤ4は周回巻線U24,U23のスロット導体233a、スロット番号06,07のレイヤ3およびレイヤ2は周回巻線U11,U12および周回巻線U22,U21のスロット導体233a、スロット番号07,08のレイヤ1は周回巻線U13,U14のスロット導体233aである。
一般に、毎極スロット数が6、毎極毎相スロット数が2、スロット237内のスロット導体233のレイヤ数が4の場合には、図11(a)に示すようにU相(V相、W相も同様)のスロット導体233aを配置する構成が採用される場合が多い。この場合、図示右側のスロット導体群と図示左側のスロット導体群との間隔は6スロットピッチとなる。
一方、本実施の形態の構成は、図11(b)に示すように、図11(a)に示したレイヤ1(L1)の2本のスロット導体233aを回転子の回転方向(図の右方向)へ1スロットピッチ分ずらし、かつ、レイヤ4(L4)の2本のスロット導体233aを回転方向と逆の方向(図の左方向)へ1スロットピッチ分ずらした構成となっている。そのため、図11(b)に示すように、レイヤ4およびレイヤ3(L3)の周回巻線U11のスロット導体233aを接続する渡り導体233bの跨ぎ量は7スロットピッチとなり、レイヤ4およびレイヤ3(L3)の周回巻線U24を接続する渡り導体233bの跨ぎ量は5スロットピッチとなる。なお、以下では、回転子の回転方向と逆の方向を、反回転方向と呼ぶことにする。
この場合、U相だけでなく、V相およびW相の対応する各スロット導体233aも同様に1スロットピッチ分ずらすことになるので、図10に示したように、U,V,W相に関して同一形状のスロット導体群234がそれぞれ形成される。すなわち、回転子の回転方向に対して、順に、U相で黒丸印のスロット導体233bから成るスロット導体群、W相でクロス印のスロット導体233bから成るスロット導体群、V相で黒丸印のスロット導体233bから成るスロット導体群、U相でクロス印のスロット導体233bから成るスロット導体群、W相で黒丸印のスロット導体233bから成るスロット導体群、V相でクロス印のスロット導体233bから成るスロット導体群が配置されることになる。
本実施の形態では、図10に示すように、(a)渡り導体233bは、毎極スロット数をN(=6)としたとき、一方のコイルエンドではスロットピッチNp=N+1(=7)でスロットを跨ぎ、他方のコイルエンドではスロットピッチNp=N−1(=5)でスロットを跨ぐようにスロット導体233a間を接続し、(b)固定子巻き線は、固定子コア周方向に連続して並んだ所定スロット数Ns(=4)のスロットに挿通されスロットおよびレイヤに関して隣接して配置された同一相の一群のスロット導体223bで構成されるスロット導体群234を有し、(c)所定スロット数Nsは、毎極毎相スロット数をNSPP(=2)、レイヤ数を2×NL(NL=2)としたとき、Ns=NSPP+NL=4に設定されている。
なお、スロット導体223bがスロットおよびレイヤに関して隣接して配置されるとは、すなわち、図10に示すように、同じレイヤで挿通されるスロット237が隣接し、また、同じスロット237内でレイヤが隣接するように配置されていることを意味する。そのように配置された一群のスロット導体233aを、本実施形態ではスロット導体群234と称している。
このように、同一相のスロット導体233bが4スロットに配置されるようなスロット導体群234とすることにより、トルクリプルを低減することができ、低騒音の回転電機の低騒音化を図ることができる。
図12は誘起電圧波形を示す図であり、曲線L11は図10に示すスロット導体配置を採用した本実施の形態の回転電機の誘起電圧波形を示し、曲線L12は比較例として特許文献1に記載の構造を採用した場合の誘起電圧波形を示す。また、図13は、図12のそれぞれの誘起電圧波形を高調波解析した結果を示したものである。
図12に示すように、曲線L11に示す誘起電圧波形は、曲線L12に示す誘起電圧波形よりも正弦波に近いことが分かる。また、図13の高調波解析結果に示すように、特に、5次と7次の高調波成分を減らすことができることが分かった。
図14は、交流電流を通電した場合のトルク波形を、本実施の形態の回転電機の場合と比較例の回転電機の場合とについて示したものである。また、図15は、図14に示す各トルク波形を高調波解析した結果を示す。図14の高調波解析結果に示すように、特に、6次のトルクリプルを減らすことができることが分かった。これは、誘起電圧、すなわち鎖交磁束の5次と7次の成分が、巻線配置を図7〜10に示すような配置とすることにより低減されたことを示す。
−第2の実施の形態−
図16、17は、本発明の第2の実施の形態を示す図であり、毎極毎相スロット数NSPPが2で、1つのスロット237に挿入されるスロット導体233aのレイヤ数が2の固定子に本発明を適用した場合を示す。図16は、固定子巻線のU相巻線の詳細結線を示す図であり、(a)はU1相巻線群を示し、(b)はU2相巻線群を示す。図17は、固定子コア232におけるスロット導体233aの配置を示す図である。
図16に示すように、U1相巻線群の周回巻線U11は口出し線からスロット番号72のレイヤ2に入り、渡り導体233bにより5スロット跨いだ後、スロット番号67のレイヤ1に入る。次いで、スロット番号67のレイヤ1を出た巻線は、7スロット跨いでスロット番号60のレイヤ2に入る。その後、巻線は5スロットの跨ぎと7スロットの跨ぎとを交互に繰り返しながら波巻きされ、固定子コア232をほぼ1周してスロット番号07のレイヤ1に入る。ここまでが周回巻線U11である。
スロット番号07のレイヤ1を出た巻線は、6スロット跨いだ後にスロット番号01のレイヤ2に入る。ここからが周回巻線U12であり、周回巻線U11の場合と同様に5スロットの跨ぎと7スロットの跨ぎとを交互に繰り返しながら波巻され、固定子コア232をほぼ1周してスロット番号08のレイヤ1に入る。
U2相巻線群の巻線もU1相巻線群の場合と同様に波巻により巻き回される。スロット番号14のレイヤ1からスロット番号07のレイヤ2までが波巻きされた巻線が周回巻線U21であり、スロット番号13のレイヤ1からスロット番号06のレイヤ2までの巻線が周回巻線U22である。
図17は、スロット番号01〜12およびスロット番号71,72の部分のスロット導体233aの配置を示したものであり、スロット番号01からスロット番号12までの12スロットピッチが2極分に相当する。図17と図10とを比較すると、図17に示すU,V,W相のスロット導体233aの配置は、図10に示すレイヤ1,2のスロット導体233aの配置と同一になっている。本実施の形態の場合、破線で囲まれた4本のスロット導体233aが一つのスロット導体群234を構成している。
本実施の形態のスロット導体群234に関しても、上述した第1の実施の形態のスロット導体群234(図10参照)と同様の条件を満足している。すなわち、(a)渡り導体233bは、毎極スロット数をN(=6)としたとき、一方のコイルエンドではスロットピッチNp=N+1=7でスロットを跨ぎ、他方のコイルエンドではスロットピッチNp=N−1=5でスロットを跨ぐようにスロット導体233a間を接続し、(b)固定子巻き線は、固定子コア周方向に連続して並んだ所定スロット数Ns(=3)のスロットに挿通されスロットおよびレイヤに関して隣接して配置された同一相の一群のスロット導体223bで構成されるスロット導体群234を有し、(c)所定スロット数Nsは、毎極毎相スロット数をNSPP(=2)、レイヤ数を2×NL(NL=1)としたとき、Ns=NSPP+NL=3に設定されている。
そのため、第1の実施の形態と同様に、トルクリプルを低減することができ、低騒音の回転電機の低騒音化を図ることができる。
−第3の実施の形態−
図18,19は、本発明の第3の実施の形態を示す図であり、毎極毎相スロット数NSPPが3で、1つのスロット237に挿入されるスロット導体233aのレイヤ数が4の固定子に本発明を適用した場合を示す。図18は、U相巻線の詳細結線の一部を示したものであり、(a)はU1相巻線群を示し、(b)はU2相巻線群を示す。図19は、固定子コア232におけるスロット導体233aの配置を示す図である。
図18に示すように、毎極毎相スロット数NSPPが3で、1つのスロット237に挿入されるスロット導体233aのレイヤ数2×NLが4の場合、固定子コア232のスロット数は108となり、U1相巻線群およびU2相巻線群を構成する周回巻線の数はそれぞれ6となる。また、各周回巻線における跨ぎ量も5スロットピッチと7スロットピッチとなる。
図18(a)に示すU1相巻線群において、スロット番号105のレイヤ4からスロット番号07のレイヤ3までの巻線が周回巻線U11であり、スロット番号106のレイヤ4からスロット番号08のレイヤ3までの巻線が周回巻線U12であり、スロット番号107のレイヤ4からスロット番号09のレイヤ3までの巻線が周回巻線U13である。スロット番号09のレイヤ3を出た巻線は、ジャンパー線を介してスロット番号106のレイヤ2へ入る。そして、スロット番号106のレイヤ2からスロット番号08のレイヤ1までの巻線が周回巻線U14であり、スロット番号107のレイヤ2からスロット番号09のレイヤ1までの巻線が周回巻線U15であり、スロット番号108のレイヤ2からスロット番号10のレイヤ1までの巻線が周回巻線U16である。
図18(b)に示すU2相巻線群において、スロット番号19のレイヤ1からスロット番号09のレイヤ2までの巻線が周回巻線U21であり、スロット番号18のレイヤ1からスロット番号08のレイヤ2までの巻線が周回巻線U22であり、スロット番号17のレイヤ1からスロット番号07のレイヤ2までの巻線が周回巻線U13である。スロット番号07のレイヤ2を出た巻線は、ジャンパー線を介してスロット番号18のレイヤ3へ入る。そして、スロット番号18のレイヤ3からスロット番号08のレイヤ4までの巻線が周回巻線U24であり、スロット番号17のレイヤ3からスロット番号07のレイヤ4までの巻線が周回巻線U25であり、スロット番号18のレイヤ3からスロット番号06のレイヤ4までの巻線が周回巻線U26である。
図19は、スロット番号01〜18の部分のスロット導体233aの配置を示したものであり、本実施の形態の場合、スロット番号01からスロット番号18までの18スロットピッチが2極分に相当する。図18からも分かるように、周回巻線U14〜U16、および周回巻線U21〜U23は、スロット237のレイヤ1とレイヤ2とに交互に挿通され、一方、周回巻線U11〜U13、および周回巻線U24〜U26は、スロット237のレイヤ3とレイヤ4とに交互に挿通される。そして、図19の破線で囲んだ12のスロット導体233aが一群となって一つのスロット導体群1234を構成している。これら12のスロット導体233aは、同一相の12の周回巻線U111〜U16、U21〜U26に含まれるスロット導体233aである。
V相およびW相のスロット導体233aに関してもU相の場合と同様で、同一相の12のスロット導体233aが一群となって一つのスロット導体群を構成している。それらのスロット導体群は、第1の実施の形態の場合と同様に、回転子の回転方向に対して、順に、U相で黒丸印のスロット導体233bから成るスロット導体群、W相でクロス印のスロット導体233bから成るスロット導体群、V相で黒丸印のスロット導体233bから成るスロット導体群、U相でクロス印のスロット導体233bから成るスロット導体群、W相で黒丸印のスロット導体233bから成るスロット導体群、V相でクロス印のスロット導体233bから成るスロット導体群が配置されることになる。
図19から分かるように、本実施の形態のスロット導体群1234も、上述した第1の実施の形態のスロット導体群234(図10参照)と同様の条件を満足している。すなわち、(a)渡り導体233bは、毎極スロット数をN(=6)としたとき、一方のコイルエンドではスロットピッチNp=N+1=7でスロットを跨ぎ、他方のコイルエンドではスロットピッチNp=N−1=5でスロットを跨ぐようにスロット導体233a間を接続し、(b)固定子巻き線は、固定子コア周方向に連続して並んだ所定スロット数Ns(=5)のスロットに挿通されスロットおよびレイヤに関して隣接して配置された同一相の一群のスロット導体223bで構成されるスロット導体群234を有し、(c)所定スロット数Nsは、毎極毎相スロット数をNSPP(=3)、レイヤ数を2×NL(NL=2)としたとき、Ns=NSPP+NL=5に設定されている。
そのため、第1および第2の実施の形態と同様に、トルクリプルを低減することができ、低騒音の回転電機の低騒音化を図ることができる。特に、本実施の形態では、図19に示すようにスロット内に同一相のスロット導体233aが4つのレイヤの全てに入っているので、12のスロット導体233aを連続する5つのスロットに入れたことによるトルク低下を抑えることができる。
ところで、毎極毎相スロット数をNSPPが増えると、図11のように1スロットピッチずらすことによって消せる高周波成分の次数が変わってくる。例えば、NSPP=2の場合、1スロットピッチは電気角で30度に相当する。30度は6次成分の半周期であるため、図13に示すように6次に近い5次成分と7次成分の誘起電圧を小さくすることができる。一方、本実施の形態のようにNSPPをさらに増やすと1スロットピッチが小さくなるため、さらに高次の高調波成分を低減することができる。
上述した実施の形態では、NSPP=2およびレイヤ数4の例として図10に示す配置を、NSPP=2およびレイヤ数2の例として図17に示す配置を、NSPP=3およびレイヤ数4の例として図19に示した。しかしながら、以下の構成(a),(b),(c)を備えるものとしては、図20〜23に示すような配置構成も含まれる。
(a)渡り導体は、毎極スロット数をNとしたとき、一方のコイルエンドではスロットピッチNp=N+1でスロットを跨ぎ、他方のコイルエンドではスロットピッチNp=N−1でスロットを跨ぐように前記スロット導体間を接続する。
(b)固定子巻き線は、固定子コア周方向に連続して並んだ所定スロット数Nsのスロットに挿通されるとともにスロットおよびレイヤに関して隣接して配置された同一相の一群のスロット導体で構成されるスロット導体群を有する。
(c)所定スロット数Nsは、毎極毎相スロット数をNSPP、レイヤ数を2×NLとしたとき、Ns=NSPP+NLに設定されている。
図20は毎極毎相スロット数NSPPが2でレイヤ数2×NLが4の場合の他の配置例を示したものである。レイヤ3,4におけるスロット導体233aの配置は図10に示すものと同じであるが、レイヤ1,2の配置が異なっている。図10のレイヤ1,2の配置は、図11(b)に示したように、レイヤ2のスロット導体233aに対して、レイヤ1のスロット導体233aを図示右方向に1スロットピッチずらした配置になっている。一方、図20に示す例では、レイヤ1のスロット導体233aに対して、レイヤ2のスロット導体233aを図示右方向に1スロットピッチずらした配置になっている。この場合も、スロット導体233aは4スロットに配置され、各スロット内のスロット導体233aの数も図10に示す場合と同一なので、図10に示した配置の場合と、同様の効果を奏することができる。
この配置は、次のように考えることもできる。図7〜10に示したように、レイヤ1,2に挿通されるのは周回巻線U13,U14,U21,U22であって、巻線はレイヤ1とレイヤ2とに交互に挿通されることになる。レイヤ1,2のスロット導体の配置と、レイヤ3,4のスロット導体の配置とは、個別に設定することができる。そこで、レイヤ1,2に配置される一群のスロット導体、およびレイヤ3,4に配置される一群のスロット導体をそれぞれスロット導体小群と呼び、図10や図20に示したスロット導体群234は2つのスロット導体小群からなると考えることができる。以下では、図10に示したスロット導体群を符号234Aで表し、図20に示したスロット導体群を符号234Bで表すことにする。
図21は、毎極毎相スロット数NSPP=2、レイヤ数2×NLが4の場合のスロット導体群の内の3例を示したものである。図21において、(a)は図10に示したスロット導体群234Aであり、(b)は図20に示したスロット導体群234Bであり、(c)はスロット導体群234Cを示す。
図21(a)に示すスロット導体群234Aは、2つのスロット導体小群235aで構成されている。スロット導体小群235aは、奇数レイヤに含まれる2つのスロット導体233aと、隣接する偶数レイヤに含まれる2つのスロット導体233aとを含んでいる。ここでは、奇数レイヤを(2m−1)レイヤ、偶数レイヤを2mレイヤと呼ぶことにする。ただし、mは、m=1,2,・・・,NLである。図21のようにレイヤ数2×NLが4である場合には、mは1または2である。
スロット導体小群235aは、(2m−1)レイヤのスロット導体233aに対して2mレイヤのスロット導体233aを反回転方向へ1スロットピッチずらしたものになっている。図21に記載のNpは、スロット導体233aをずらす際のスロットピッチを示しており、Np=1は回転子回転方向へ1スロットピッチずらすことを示しており、Np=−1は回転子回転方向と逆の方向へ1スロットピッチずらすことを示している。さらに、外周側に位置するスロット導体小群235aを、内周側のスロット導体小群235aに対して半回転方向に1スロットピッチ(Np=−1)ずらした配置になっている。なお、図21において、実線の矢印はスロット導体小群内におけるスロット導体のずらし方向を示し、破線の矢印はスロット導体小群のずらし方向を示している。
一方、図21(b)に示すスロット導体群234Bは、2種類のスロット導体小群235a,235bから成る。スロット導体小群235bは、(2m−1)レイヤのスロット導体233aに対して2mレイヤのスロット導体233aを回転方向へ1スロットピッチ(Np=1)ずらしたものになっている。そして、内周側のスロット導体小群235bに対して、外周側のスロット導体小群235aを反回転方向に1スロットピッチ(Np=−1)ずらした配置になっている。すなわち、スロット導体小群235aの周方向中央位置は、スロット導体小群235bの周方向中央位置に対して1スロットピッチだけ反回転方向にずれている。
図21(c)に示すスロット導体群234Cは、図21(a)の場合と同様に同一のスロット導体小群235aによって構成されているが、スロット導体小群235aの配置が異なっている。スロット導体群234Cの場合、内周側のスロット導体小群235aに対して、外周側のスロット導体小群235aは回転子回転方向に1スロットピッチ(Np=1)だけずれて配置されている。
図21に示すスロット導体群234A〜234Cはスロット導体233aの配置が異なっているが、いずれのスロット導体群234A〜234Cも、(2m−1)番目のレイヤのスロット導体と2m番目のレイヤのスロット導体とが互いに固定子コア周方向(回転子回転方向または反回転方向)に1スロットピッチずれて配置されているスロット導体小群をNL個有し、それらNL個のスロット導体小群は、固定子コア周方向に1スロットピッチずつずれて配置されている。すなわち、外周側のスロット導体小群が内周側のスロット導体小群に対して固定子コア周方向に1スロットピッチずれた構成となっている。
図22は、毎極毎相スロット数NSPP=2、レイヤ数6の場合のスロット導体群の例を示したものであり、ここでは3種類のスロット導体群2234A,2234B,2234Cを図22の(a)〜(c)に示した。いずれのスロット導体群2234A,2234B,2234Cも、レイヤ数(2×NL)が6なので3つのスロット導体小群から構成されている。3つのスロット導体小群は、図21に示したスロット導体小群235a,235bのいずれかである。
図22(a)に示すスロット導体群2234Aでは、最内周に配置されたスロット導体小群235aに対して、その外周側に隣接して配置されたスロット導体小群235aが反回転方向に1スロットピッチ(Np=−1)ずれて配置されている。さらに外周側に配置されたスロット導体小群235aは、最内周のスロット導体小群235aに対して2スロットピッチ(Np=−2)ずれて、すなわち、その内周側に隣接するスロット導体小群235aに対しては1スロットピッチずれている。
図22(b)に示すスロット導体群2234Bは、2つのスロット導体小群235aと1つのスロット導体小群235bで構成されている。最内周のスロット導体小群235aに対して、その外周側に隣接して配置されたスロット導体小群235bは反回転方向に1スロットピッチ(Np=−1)ずれて配置され、さらに外周側に配置されたスロット導体小群235aは2スロットピッチ(Np=−2)ずれて配置されている。
図22(c)に示すスロット導体群2234Cは、2つのスロット導体小群235aと1つのスロット導体小群235bで構成されている。最内周のスロット導体小群235bに対して、その外周側に隣接して配置されたスロット導体小群235aは回転方向に1スロットピッチ(Np=1)ずれて配置され、さらに外周側に配置されたスロット導体小群235aは反回転方向に1スロットピッチ(Np=−1)ずれて配置されている。
このように、図22に示した、毎極毎相スロット数NSPP=2、レイヤ数NL=6の場合のスロット導体群2234A,2234B,2234Cも、(2m−1)番目のレイヤのスロット導体と2m番目のレイヤのスロット導体とが互いに固定子コア周方向(回転子回転方向または反回転方向)に1スロットピッチずれて配置されているスロット導体小群をNL個有し、それらNL個のスロット導体小群は、固定子コア周方向に1スロットピッチずつずれて配置されている。
図23は、毎極毎相スロット数NSPP=3、レイヤ数2×NLが4の場合(NL=2)のスロット導体群の例を示したものである。図22(a)は図19に示したスロット導体群1234を示したものであり、図21(a)では1234Aと記す。図23(b)、(c)は他の例を示したものであり、それぞれスロット導体群1234B、スロット導体群1234Cと記す。いずれのスロット導体群1234A,1234B,1234Cも、毎極毎相スロット数NSPP=3なのでスロット導体群の一つのレイヤには3つのスロット導体233aが含まれ、レイヤ数(2×NL)が4なので2つのスロット導体小群から構成されている。
スロット導体小群には2種類のスロット導体小群1235a,1235bがある。スロット導体小群1235aは、(2m−1)レイヤのスロット導体233aに対して2mレイヤのスロット導体233aを反回転方向へ1スロットピッチ(NL=−1)ずらしたものになっている。スロット導体小群1235bは、(2m−1)レイヤのスロット導体233aに対して2mレイヤのスロット導体233aを回転方向へ1スロットピッチ(Np=1)ずらしたものになっている。
図23(a)〜(c)に示すスロット導体小群の配置は、図21(a)〜(c)に示した配置に対応している。すなわち、図23(a)では内周側のスロット導体小群1235aに対して外周側のスロット導体小群1235aを半回転方向に1スロットピッチ(Np=−1)ずらした配置になっており、図23(b)では内周側のスロット導体小群1235bに対して外周側のスロット導体小群1235aを反回転方向に1スロットピッチ(Np=−1)ずらした配置になっており、図23(c)では内周側のスロット導体小群1235aに対して外周側のスロット導体小群1235aを回転子回転方向に1スロットピッチ(Np=1)ずらした配置になっている。
図23に示した毎極毎相スロット数NSPP=3、レイヤ数2×NLが4の場合(NL=2)においても、各スロット導体群は、(2m−1)番目のレイヤのスロット導体と2m番目のレイヤのスロット導体とが互いに固定子コア周方向(回転子回転方向または反回転方向)に1スロットピッチずれて配置されているスロット導体小群をNL個有し、それらNL個のスロット導体小群は、固定子コア周方向に1スロットピッチずつずれて配置されている。
また、図21(a),図22(a),図23(a)に示すスロット導体群の構成は、次のように表すこともできる。固定子巻き線は、スロットおよびレイヤに関して隣接して配置された同一相の一群のスロット導体233aで構成され、同一レイヤのスロット導体が連続するNSPPスロットに渡って配置されたスロット導体群を有する。そして、各スロット導体群の構成は、スロット内周側から数えて2m番目のレイヤ(すなわち偶数番目のレイヤ)のスロット導体が、1番目のレイヤのスロット導体に対して固定子コア周方向の一方の向きである反回転方向にmスロットピッチずらして配置され、1番目のレイヤを除く(2m−1)番目のレイヤ(すなわち奇数番目のレイヤ)のスロット導体が、1番目のレイヤのスロット導体に対して反回転方向に(m−1)スロットピッチずらして配置された構成となっている。ただし、NSPPは毎極毎相スロット数、2×NLはレイヤ数であって、mはm=1,2,・・・,NLとする。
上述したように、本実施の形態では、波巻きの固定子巻線の巻き回し方を工夫することにより鎖交磁束の高調波成分を低減し、低トルクリプルおよび低騒音を図るようにした。ところで、ロータをスキューさせてトルクリプルを低減する方法が従来から知られているが、この場合、スキュー角度によって小さくできる成分が決まる。そのため、例えば、ロータのスキューだけでは6次と12次のトルクリプルを同時に小さくすることはできない。一方、図10に示す実施形態では、図15に示したように12次のトルクリプルは低減できないものの、6次のトルクリプルは大幅に低減できる。そこで、本実施の形態と、12次を低減できるようにスキューされたロータとを組み合わせることにより、さらにトルクリプルを低減することができ、低騒音な回転電機を提供することができる。
また、図1、2に示すように、上述した回転電機と、直流電力を供給するバッテリと、バッテリの直流電力を交流電力に変換して回転電機に供給する変換装置とを備え、回転電機のトルクを駆動力として用いることを特徴とする車両において、低騒音化が図れた静粛な車両を提供することができる。
以上、車両用の磁石モータを例に説明したが、本発明を適用することで固定子230の起磁力波形に含まれる高調波成分も低減できることから、誘導モータやシンクロナスリラクタンスモータなど、回転子250に磁石を持たない種々のモータに適用できる。また、本発明は車両用モータに限らず、さまざまな用途に使用されるモータにも適用することができ、さらには、モータに限らず、発電機など種々の回転電機に適用が可能である。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記の実施形態になんら限定されるものではない。