実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図面において、同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
(第1の実施形態)
図1から図4を用いて、本発明の第1の実施形態に係るロータコアを備えた永久磁石式回転電機1の構成を説明する。図1は、第1の実施形態に係る永久磁石式回転電機1の回転面内断面図である。図2は、図1のステータコア部の斜視図である。図3は、第1の実施形態に係るロータ20の断面図である。図4は、第1の実施形態に係る永久磁石式回転電機1の断面の磁極付近の拡大図であり、図1の破線で囲ったX部を拡大して示した図である。
図1に示すように、本実施形態の永久磁石式回転電機1は、外周側に略環状のステータ10を配置し、内周側に略円柱状のロータ20を配置した、10極60スロット分布巻の永久磁石式回転電機である。ステータ10とロータ20の間にはエアギャップ30が設けられている。ステータ10は、ステータコア100、コアバック110、ティース130および複数の巻線140を有しており、エアギャップ30を介してロータ20と対向して配置されている。
図2に、図1で説明した永久磁石式回転電機1のステータコア100に配置された巻線構造について示したものである。図示したように、セグメントコイルを波巻で構成し、セグメントコイルの反差し込み側は電気的に波巻を構成できるように接続部145で電気的に接続されている。接続方式としては、半田やTig溶接、レーザー溶接が用いられる。
1つのスロットには4本の導体が設けられており、第1系統巻線141はステータコアの内周側の導体の2本で構成されている。また、第2系統巻線142は、第1系統巻線141の外周側の残りの2本で構成されている。これらの2系統巻線は、機械的にもまた電気的に接触しないように系統間には絶縁部材11が設けられた構造となっている。よって、それぞれの系統の巻線の口出し線は、内周側から出てくる第1系統巻線口出し線147と外周側から取り出される第2系統巻線口出し線148からなる。
本実施形態では、2系統巻線は機械的な接触を避けるため、左右の反対側から取り出すように設計されている。また、それぞれの系統巻線は3相巻線で構成されている。渡り線143が同相巻線と接続されている。巻始めの線と巻終わりの線のどちらも制御回路側に出しており、モータとして3相を構成する場合には、リレーにより巻終わりの3相線を全て電気的に繋ぐようにしている。
図1に戻って、ステータ10は、例えば次のようにして形成される。まず、電磁鋼板の一体打ち抜きコアを積層したステータコア積層体により、内周側に放射状のティース130を複数形成する。次に、各ティース130に巻線を設置して巻線140を形成した後、図示しないハウジングに焼嵌めまたは圧入して一体化する。このようにして、ステータ10が形成される。
また、図3に示すように、本実施形態のロータ20は、電磁鋼板を積層した鉄心であるロータコア200と、回転軸となるシャフト300とを有する。ロータコア200は、例えば、磁極中心線に対して対称な形状を有し、外周輪郭が真円である。ロータコア200の外周には、周方向に10極の磁極部220が設けられている。磁極部220は、円弧状の外周端(磁極円弧)219を有する。磁極部220の各々は、径方向よりも周方向に長い1つの磁石挿入孔201を有し、磁石挿入孔201の両端の内周側に磁石止め部211を有する。
磁石挿入孔201は、磁石止め部211の間に矩形形状の磁石収容部(空間)212を有する。磁石収容部212に、永久磁石210が配置される。図3の例において、磁石収容部212は、永久磁石210に占められている領域、永久磁石210の外周側と内周側の空隙、及び永久磁石210と空隙213との間の空隙を含む。
また、図4に示すように、本実施形態のロータ20は、磁石止め部211の外周側に空隙213を有し、空隙213の外周側にブリッジ部242を有する。空隙213は、磁石挿入孔201の一部である。また、ロータ20は、磁石収容部212の外周側に傘状コア230を有し、傘状コア230とブリッジ部242の間に接続部1(244)を有する。
また、ロータ20は、隣り合う磁石挿入孔201の間にq軸コア221を有する。q軸コア221のq軸垂直方向の最小幅(以下、Wq)の両端を通る2本の仮想的なq軸方向直線VL1及びVL2に挟まれたロータコア外周部250は、回転軸を中心としてロータ半径と略一致する半径の円上にある。具体的には、ロータ半径の円上又はその近傍にあり、ロータコア外周部250は、ロータ半径から数十μm程離れていてもよく、数十μm程の径方向長さの溝や凸部を有してもよい。q軸コア221とブリッジ部242の間に接続部2(243)を有する。幅Wqは、図12Aを参照して後述する。
また、傘状コア230、接続部1(244)、ブリッジ部242のコア外周輪郭は円弧で形成され、ブリッジ部242の径方向の幅(以下、Wb)は、磁石収容部212(又は磁石挿入孔201)の径方向長さ(以下、Tmg)/2より小さく(たとえば積層コアを形成する電磁鋼板の厚さ以下に)なっている。幅Wb及び長さTmgは、図12Aを参照して後述する。ここで、傘状コア230、接続部1(244)、ブリッジ部242のコア外周輪郭を円弧としたが、トルクリプル12次成分を悪化させない形状、例えば、径方向長さが数十μm程の凸部を磁極中央部に有してもよい。また、磁極中央部に小溝を有しても効果を有する場合がある(実施例5にて後述)。
次に、ステータ10の各スロットの各コイルの配置について図5を用いて説明する。図5において、U、V、Wの大文字と小文字は電流が逆方向であることを示す。図5の場合、スロット番号1には内径側に第1系統のコイルとなる1U11、1U13が配置されている。また、スロット番号2には残りの1U12と1U14コイルが配置されている。電気的にはこれらのコイルは直列に接続されている。また、外径側の第2系統巻線はスロット番号2には2U11と2U13、スロット番号3には、残りの2U12と2U14コイルが配置されている。電気的にはこれらのコイルは直列に接続されている。
第2系統巻線は第1系統巻線に対して1スロットずれて配置されることで、結果的に電気的に30°の位相差を設けることができる。10極60スロットの場合、1スロットのずれは、極対1つの1/12のずれであり、電気角で30°のずれを表すためである。仮に、第1系統巻線と第2系統巻線が同位相だとすると、第1系統巻線が磁石磁極を駆動する磁界の位相と、第2系統巻線が磁石磁極を駆動する磁界の位相が30°ずれることになり、それぞれのトルクと脈動に差が生じる。
本実施形態による埋め込み永久磁石式回転電機1は、1つ以上の3相インバータを含む第1の駆動回路に接続される第1系統巻線141と、1つ以上の3相インバータを含む第2の駆動回路に接続される第2系統巻線142を有する。1つの3相インバータが1つの系統巻線に接続される例を図6に、3つの3相インバータが1つの系統巻線に接続される例を図7Aに示す。
図6は2系統巻線を駆動する回路ブロック図の一例を示す。構成について説明する。3相巻線で構成される第1系統巻線141と、第1系統巻線141に対して電気角で30°の位相差を持って構成される第2系統巻線142にそれぞれ駆動回路1(40)及び駆動回路2(41)が接続されている。
駆動回路にはインバータ回路及び制御用ECUが含まれている。また、駆動回路は、各相の電流をフィードバックできるように相電流の検出手段CtU1〜CtW2をそれぞれ有しており、電流指令に対して実際に流れている電流を測定することで2系統間のアンバランスを補正している。第2系統巻線の電流位相を調整することができる。
それぞれの駆動回路40、41には、独立したバッテリBat1及びBat2が接続され、更にバッテリBat1及びBat2を充電するための発電機42も独立した系統端子を有している。これにより、駆動回路40、41に、互いに独立して電力を供給できる。
図6では、発電機42は1つの筐体から独立した発電電圧を供給する構造として説明したが、完全に2系統を分けられるように2個の発電機からそれぞれ供給するようにしてもよい。また、駆動回路1(40)と駆動回路2(41)はお互いの状況を把握できるように通信手段43を有しており、異常発生時に不具合側のモータ駆動の低下分を助けるように動作できるようになっている。
図7Aは、図6で示した2系統モータ駆動回路40、41に対して、モータ出力をブーストできる手段を内蔵した回路構成を示したものである。図6に示す構成例との違いは、バッテリが独立したものから統一され、更に駆動回路1(40)から発電機42に対して発電指令電圧Vrefが出せるような構成となっている。
駆動回路1(40)は、ECU1(81)及びインバータ(INV)1(61)、INV2(62)、INV3(63)を含む。ECU1(81)と、INV1(61)、INV2(62)、INV3(63)それぞれとは、配線71、72、73で接続されている。駆動回路2(41)は、ECU2(82)及びINV1(64)、INV2(65)、INV3(66)を含む。ECU2(82)と、INV1(64)、INV2(65)、INV3(66)それぞれとは、配線74、75、76で接続されている。駆動回路1(40)(ECU1(81))と駆動回路2(41)(ECU2(82))との間には、お互いの状態をやり取りできるように通信手段43を配置している。
また、図7Bは系統巻線が4系統になった場合のコイル配置の概念を示したものである。全周で1系統巻線をなすのではなく、途中までの区間で1系統巻線を構成し、残りのコイルで次の系統を構成した例である。図7Bに示したものは第1系統巻線15が全周の半分で構成され、残りの半分で第2系統巻線16を構成する。更に、その外周に配置される第3系統巻線17及び第4系統巻線18は、系統の切り替わり部を機械角で90°ずらしたものである。第1系統巻線15と第2系統巻線16及び第3系統巻線17、第4系統巻線18の切り替わり部分をずらすことで、第1系統巻線15と第2系統巻線16で発生するトルクアンバランスと第3系統巻線17及び第4系統巻線18で発生するトルクアンバランスを緩和できる効果がある。
図7Bに示した4系統巻線を持つモータは、第1系統巻線15に第1のインバータを接続し、第2系統巻線16に第1のインバータを接続し、第3系統巻線17に第1のインバータを接続し、及び第4系統巻線18に第1のインバータを接続し、4インバータを用いて4系統で駆動することができる。1つの系統巻線、例えば第2系統巻線16に接続される駆動回路に異常が発生すると、残る3系統で運転することになるが、第1系統巻線15が第3系統巻線17と第4系統巻線18に重複して配置されることで、第3系統巻線17と第4系統巻線18のトルクアンバランスを緩和することが可能である。
ここで、磁石トルクのみを利用する場合の回転電機においては、エアギャップにおける磁石磁界と巻線磁界を正弦波状に近づけて、トルクリプルを小さくしている。特に、ロータについては、磁極中央から磁極端部に近づくほど磁極外周とステータとの距離を離し、q軸のコアとステータの距離を特に大きくして、磁石磁界を正弦波状に近づけるとともに、リラクタンストルクに寄与する磁束がロータコアを通りにくくしている。ステータについては表面磁石式と同様の構成であるので、巻線に正弦波電流を課した際に生じるステータからの磁界は、エアギャップにおいて正弦波状になる。
これに対してリラクタンストルクを利用する場合を、図8を用いて説明する。図8において、2本の仮想的なq軸方向直線VL1、VL2に挟まれたロータコア外周部250をステータ10に近づけて、リラクタンストルクを生じる磁束MF1をステータ10からロータコア200に通すことにより、リラクタンストルクが発生する。また、ロータコア磁極部220を円筒形に近づけて、リラクタンストルクを生じる磁束MF2をステータ10からロータコア磁極部220に通すことにより、リラクタンストルクが発生する。
このとき、磁石磁束MF3もステータ10側に通り易くなるため、磁石トルクのみの場合よりトルクが大きく増加する。一方、トルクリプルに関しては、磁石トルクの脈動とリラクタンストルクの脈動の両方の影響を受けるため、磁石トルクのみの場合より増加する。
発明者は、リラクタンストルクを利用し、トルクリプルを低減することが可能であることを見出した。その構成と原理を以下に説明する。ここで検討するトルクリプルは、磁極対の中心角範囲に6波長存在する6次成分と12波長存在する12次成分である。はじめに、トルクリプル6次成分の低減について説明する。
図9に、図5に示すように巻線を構成したモータを、2系統それぞれが最大トルクを発生できる電流位相角で運転した場合に発生するトルク波形T1、T2と、それぞれの系統が発生したトルクを重ね合わせた合成トルクToutの波形と、を示す。第1系統巻線が磁石磁極を駆動する磁界の位相と、第2系統巻線が磁石磁極を駆動する磁界の位相が揃う。また、第1系統巻線と磁石磁極で生じるトルク脈動と、第2系統巻線と隣の磁石磁極で生じるトルク脈動は、6次成分が逆符号となる。
第1系統巻線の発生するトルクT1に対して第2系統巻線の発生するトルクT2は、電気角60°周期で繰り返すトルクリプルを打ち消すことができ、合成トルクToutの波形はトルクリプルの小さい波形とすることができる。これにより、電動パワーステアリング用のモータにとっては非常に良い性能を出すことができる。
この6次成分の相殺は、系統巻線に対するロータ回転位置と各系統巻線の位相のみで決まるため、磁石トルクのみでなく、リラクタンストルクについても成立すると考えられる。このため、トルクリプル6次成分については、2系統巻線の位相差通電によって十分低減が可能であると考えられる。本実施形態の構成によりトルクリプル6次成分が低減されることを、図10に示す、磁場解析によるトルクリプル6次成分の計算結果のグラフを用いて説明する。
図10に示すグラフは両系統の総電流が115Aの場合であり、横軸は電流の位相角を示し、縦軸はトルクリプル6次成分を示す。電流の位相角は、ロータの高速回転時に磁石磁束を抑制して逆起電圧を小さくするために85度程度まで使用されるので、大きな位相角でもトルクリプルが小さいことが好ましい。
図10では、系統間に位相差を電気角で30°つけた場合と、位相差がない短節巻の場合を比較して示した。その結果、系統間位相差30°の場合は、トルクリプル6次成分は電流位相角85度以下で略1%以下であるのに対して、系統間に位相差がない場合は、トルクリプル6次成分は電流位相角が大きい場合に特に大きい、という結果になった。このことから、系統間に位相差をつけることは、トルクリプル6次成分の低減に大きな効果があることがわかる。
ここで、他の巻線構成について述べる。永久磁石式回転電機1の極数は、例えば、8極、10極、12極又は14極のいずれかであり、ロータコア200は磁極中心線に対して対称な形状を有する。これにより、双方向回転電機において好適な特性を示す。例として、永久磁石式回転電機1の極数及びスロット数は、8極48スロット、10極60スロット、12極72スロット、又は14極84スロットである。これらの分布巻の極数とスロット数の組み合わせにおいては、極対に対して6次および12次のトルクリプルが発生するため、同様の構成によりトルクリプルを低減可能である。
図5で内外の同相コイルのスロットずれをなくして、隣接スロットの同相コイルを別の系統にする場合は、位相差がないときは系統が1つの全節巻と同じであるので、短節巻よりもトルクリプルが大きい。このとき、トルクリプルが最も小さい最適な系統間位相差30°においては、上記構成例と同様にトルクリプル6次成分を小さくできる。
ただし、この構成例においては、最適位相差角度から系統間位相差が離れると、図5の巻線構成よりトルクリプルが増加しやすい。これは、位相差なしが全節巻であり、図5の位相差なしの短節巻よりトルクリプルが大きいためである。トルクリプル6次成分を1%程度に収めるためには、最適な系統間位相差(30°)の4/5(24°)から6/5(36°)の範囲が位相差の許容範囲になる。これに対して、隣接スロットの同相コイルが別系統の場合は、最適な系統間位相差の9/10から11/10の範囲が位相差の許容範囲になる。
また、図5の構成例においては、磁石磁極に対抗するスロット範囲に同相コイルスロットが2つあるが、同相コイルスロットが1つのみの場合は、内外系統分離では、最適位相角度差を2倍にするとトルクリプルを低減可能ではあるが、トルクが低下する。
集中巻の場合は、2系統で位相差を有効につけられる場合とつけられない場合がある。例えば、回転方向において見てU相コイルがあり、次のU相コイルとの機械角度差が、電気角で見て180°の整数倍でない場合には、位相差をつけることで巻線磁束が磁石磁極を駆動する位相を揃えることができるため、系統間位相差を利用できる。ただし、8極12スロットのように2:3の系列の場合、または、16極12スロットのように4:3の系列の場合は、回転方向において見てU相コイルがあり、次のU相コイルとの機械角度差が電気角で見て360°であるため、系統間位相差を利用できない。一方、10極12スロット、又は14極18スロットの場合は、系統間位相差を利用してトルクリプル6次成分を小さくできる。
これらのことから、リラクタンストルクを利用してトルクリプルを低減する際に、2系統の位相差通電により6次成分低減可能なステータを使用できることがわかる。そこで、上記のトルクリプル6次成分を低減できるステータと、12次成分を低減できるロータコア構造の回転電機は、より適切にリラクタンストルクを利用してトルクリプルを低減できる。以下にトルクリプル12次成分の低減について説明する。なお、12次成分を低減できるロータコア構造は、6次成分低減可能なステータ構造と異なる構造のステータを有する回転電機に適用できる。
リラクタンストルクを利用するとともにトルクリプル12次成分を低減することは、検討の結果、図3と図4で説明した埋め込み永久磁石式回転電機1のロータコア形状において、(1)傘状コア230の径方向厚さHcは、傘状コア外周から磁極ピッチ角(2π/極数)に張られる仮想的な弦までの長さHcmの0.5〜1.0倍の範囲にあり、(2)Wqをロータ20の回転中心から見た角度(中心角)は、π*ロータ半径/(3*極数)の0.4〜0.9倍の範囲にあり、(3)Wqは、Hcの1.15〜2.5倍の範囲にある時に実現できることを見出した。厚さHc及び長さHcmは、図12Aを参照して後述する。
また、本実施形態のロータ形状は、トルクリプル12次成分を低減するために、リラクタンストルク脈動と磁石トルク脈動の12次成分を相殺させる形状であることを説明する。このとき、リラクタンストルク脈動と磁石トルク脈動の12次成分の位相は逆位相であって、振幅が等しい。上記形状条件範囲を、Hcを横軸、Wqを縦軸として図11に示す。
図11のハッチングされた6角形の範囲内が、本実施形態の形状範囲である。この形状範囲は、Hc軸に垂直な直線Hc/Hcm=0.5と直線Hc/Hcm=1.0に挟まれており、Wq軸に垂直な直線Wqを見込む中心角=0.4と直線Wqを見込む中心角=0.9に挟まれている。また、直線Wq/Hc=1.15と直線Wq/Hc=2.5に挟まれている。
また、図12Aと図12Bに、図4のロータコア形状の各部の寸法の定義を示す。図12Bは、図12Aにおけるブリッジ部242付近の拡大図である。図12Aにおいて、Rtはロータ半径、Rmgは磁極円弧半径である。磁極円弧半径Rmgは磁極円弧219の曲率半径である。Wbはブリッジ幅であり、例えば略一定である。Wmgは磁石収容部212の周方向長さ、Tmgは磁石収容部212(磁石挿入孔201)の径方向長さである。
Hcは磁極外周部の傘状コア厚さである。傘状コア厚さHcは、傘状コア230の磁極中心の径方向厚さである。Hcmは傘状コア外周から、磁極ピッチ角(2π/極数)に張られる仮想的な弦まで、の長さである。長さHcmは、磁極円弧219の中心角を磁極ピッチ端に達するまで拡大したときの仮想円弧の径方向厚さである。Wqはq軸コア幅である。
図12Bにおいて、Rqはq軸コア221からブリッジ部242に接続する接続部2(243)の内周側の円弧半径(曲率半径)、Ls1は磁石収容部212の外周の端とブリッジ部242との間の距離である。Lbは、ブリッジ部242の長さである。のこのとき、We(磁石収容部212の外周の端とq軸コア221との距離)と、W1(磁石収容部212の外周の端における傘厚さ)は、自動的に決定される。
まず、図13を用いてトルク脈動の位相に関して説明する。図13に示すように、リラクタンストルクを生じる磁束は、ロータ磁極のq軸コア221から磁石の内周側を通り、隣のq軸コア221に向かう経路を流れる。リラクタンストルクはステータ10がロータコア200を吸引することで生じるため、吸引力の立ち上りはq軸コア221の周方向端部を開始位置として生じ、脈動の立ち上りもq軸コア221の周方向端部が開始位置になる。このため、q軸コア幅によって開始位置の回転角が変化するため、脈動位相が変化することになる。
一方、磁石トルクを生じる磁束は、磁石磁極から隣の磁石磁極へ流れる経路になっており、N極とS極の2つの磁極が1つのまとまりとなるため、脈動の節(腹)の基準位置は磁極中央である。このとき、磁石周方向長さによって振幅は変化しても脈動位相は変化しないと考えられる。
また、磁石トルク脈動を、コギングトルクと同様に、磁石回転方向前方の作る脈動と後方が作る逆脈動の合成脈動と考えると、合成脈動の位相は変化しないことになる。磁石周方向幅によって、前方脈動と後方脈動の位相がずれると、合成脈動の位相は変化せずに振幅が変化することになる。エアギャップの磁石磁束密度分布の周方向幅が変化する場合も同じ現象が生じる。
ロータ20の極数をPとするとき、エアギャップの磁石磁束密度分布の幅が中心角で4π/3Pより小さい状態から大きい状態に広がっていくとき、合成脈動の振動は小さくなっていき、振れ方向が逆転する。このため、エアギャップの磁石磁束密度分布の幅が中心角で4π/3Pに近いことが好ましい。
リラクタンストルク脈動の位相と磁石トルク脈動の12次成分の位相を逆位相にする形状について、図13と図14を用いて説明する。すでに述べたように、図13において、リラクタンストルク脈動の開始位置は点Srであり、磁石トルク脈動の開始位置は磁極中央から2π/3Pの中心角にある点Smとすることができる。点Srと点Smの間の中心角はπ/3P+π/6P=1.5π/3Pである。
また、図14に示すように、12次成分の1周期はπ/3Pであり、リラクタンストルク脈動と磁石トルク脈動の開始位置が1.5周期遅れるため、リラクタンストルク脈動と磁石トルク脈動は逆位相になる。このとき、リラクタンストルク脈動と磁石トルク脈動の12次成分の振幅が同じであれば、相殺されて合成脈動が小さくなることがわかる。
このときの寸法については、(1)Wqの中心角≦π/3P、(2)Wmgの中心角≦4π/3P、(3)Weの中心角≦π/6P、となっている。ここで、Wqの中心角+Wmgの中心角+Weの中心角*2=2π/Pとしてよい。
条件(1)については、磁石トルク脈動との位相差を1.5周期とするために必要である。このとき、リラクタンストルクを生じる磁束の立ち上りから終了までの回転角が12次成分周期と同じπ/3Pであり、生じるリラクタンストルク脈動は12次成分が主体となる。Wqの中心角の上限がπ/3Pより小さいのは、接続部2(243)の径方向長さがブリッジ幅より大きく、周方向にブリッジ部242とつながっているためである。ステータと等距離のq軸コア外周輪郭部の中心角が実効的に広がることを考慮しており、Wqの中心角/(π/3P)上限値は検討の結果0.9であった。
条件(2)については、エアギャップの磁石磁束密度分布の幅を適正(約4π/3P)にするために必要である。また、接続部1(244)により磁石磁束の周方向広がりが生じるため、4π/3Pより小さいことが必要である。
結果として、条件(3)については、Weの中心角はπ/6Pより大きくなる。また、Weの中心角に接続部1(244)とブリッジ部242と接続部2が含まれる。また、Weの中心角>π/6Pであることは、Wbが小さい限りにおいて、磁石磁極から同じ磁石の他方の磁極への磁束漏れを低減して、磁石トルクを大きく保つことに有効である。このとき、Wbはロータコアを積層形成する電磁鋼板の板厚以下であることが好ましい。また、ブリッジ部242の長さLbの中心角は、(π/6P)*0.6以上であることが好ましい。
Wqの中心角の下限については、前記接続部2の径方向長さがブリッジ幅より大きく、周方向にブリッジ部242とつながっているため、π/3Pより小さく、Wqの中心角/(π/3P)下限値は検討の結果0.4であった。ただし、Wqの範囲のq軸コアに凹部があると、リラクタンストルク脈動の12次成分が減少するとともに、高次成分が増加する。
ここで、他に有効な形状範囲が存在するか検討する。Wqの中心角を大きくしてWmgの中心角を小さくし、リラクタンストルクを大きく活用する場合を考える。この場合、たとえば、Wqの中心角〜2π/3P、Wmgの中心角〜3π/3Pとすると、リラクタンストルク脈動の12次成分の位相がπ/3P/2(半周期)進み、磁石トルク脈動は位相が変わらないので、リラクタンストルク脈動と磁石トルク脈動が同位相になり、相殺できず、トルクリプルが大きいままになる。
また、Wqの中心角〜3π/3P、Wmgの中心角〜2π/3Pとすると、磁石トルクが小さいので同体格のトルクが減少し、好ましくない。このように、トルクリプル12次成分を低減するには、リラクタンストルクの利用をある程度制限する必要がある。
上記のWqを見込む中心角の範囲に関して、磁場解析によるリラクタンストルクの波形と磁石トルクの波形の検討により以下に説明する。リラクタンストルク波形については、トルクを計算する際の電磁鋼板内の透磁率分布を数値データとして保存しておき、その透磁率分布データを用いて、磁石磁束なし電流有の条件で計算することにより、算出が可能である。磁石トルクは、トルクからリラクタンストルクを差し引くことで算出できる。これにより、本発明のロータ形状において、リラクタンストルクと磁石トルクの脈動波形が逆位相になることを説明する。
図15に、Hc/Hcm=0.694として、Wqの中心角/(π/3P)を0.432、0.577、0.721(10極60スロットでのWqの中心角では2.59°、3.46°、4.32°)としたときの電流位相角30°の脈動波形を示す。また、形状範囲における計算形状の位置を形状範囲図に示す。図15の脈動波形はトルク波形から平均トルクを差し引いて算出した。
図15に示されるように、Wqの中心角/(π/3P)が0.577では磁石トルク脈動とリラクタンストルク脈動が逆位相で振幅が近く、合成脈動は小さかった。一方、Wqの中心角/(π/3P)が0.432では、リラクタンストルク脈動の位相が遅れて、合成脈動は大きかった。Wqの中心角/(π/3P)が0.721では、リラクタンストルク脈動の位相が進み、合成脈動は大きかった。磁石トルク脈動の位相も変化しているが、この変動はWqとWmgを大きくかえても大きくなることはなく、形状変化に対して略一定であった。このことからWqはリラクタンストルク脈動の位相に影響することが磁場解析にて確認できたことがわかる。
磁場解析により、トルクリプル2%未満になる形状を探索すると、0.5≦Wqの中心角/(π/3P)≦0.75であった。トルクリプル4%未満になる形状を探索すると、0.4≦Wqの中心角/(π/3P)≦0.9であり、範囲が比例的に増加した。このことから、従来の5%よりトルクリプルが改善される4%未満では、0.4≦Wqの中心角/(π/3P)≦0.9の形状範囲となるが、より好ましくは、0.5≦Wqの中心角/(π/3P)≦0.75の形状範囲である。
次に、本実施形態のロータコア形状が、リラクタンストルク脈動と磁石トルク脈動の12次成分の振幅を近くして、リラクタンストルク脈動と磁石トルク脈動が相殺し、トルクリプル12次成分を十分低減することを説明する。トルクリプル12次成分は、極数とスロット数から決まるコギングトルクの最低次の12次成分と同じ次数である。
ギャップ磁石磁束密度分布の幅が約4π/3Pであるとき、コギングトルク12次成分を低減できる。また、同じ次数の磁石トルク脈動12次成分も、ギャップ磁石磁束密度分布の幅が約4π/3Pであるときに低減する傾向がある。このため、Wmgの中心角≦4π/3PでWmgの中心角が4π/3Pに近いことが必要である。ただし、リラクタンストルク脈動と磁石トルク脈動が相殺するためには、磁石トルク脈動12次成分が小さすぎてはならない。
ここで、エアギャップの磁石磁束密度分布への傘状コア230の径方向長さHcの影響を図16を用いて説明する。エアギャップの磁石磁束密度分布は、磁場解析により算出した。図16は、本実施形態のロータコア形状において、Hcを変えた時のエアギャップの磁石磁束密度分布を、磁極中央の磁石磁束密度分布値で除して規格化した分布である。図16において、Hcが増加すると分布幅が広がることが示されている。この理由は傘状コア領域が広がることにより磁石磁束が移動しやすくなるためと考えられる。
この規格化磁石磁束密度分布の半値幅の中心角が4π/3Pより小さい値から大きい値に変化していくと、12次成分は振幅が小さくなり振動正負が逆転する方向に変化していき、リラクタンストルク脈動と同位相になる方向に進む。このとき、リラクタンストルク脈動と逆位相で相殺するためには、12次成分は、振動正負が逆転しない範囲にあることが必要である。このとき、Wmgの中心角≦4π/3PであるとともにHc<Hcmである必要がある。
図17に、10極60スロットモータでWqの中心角/(π/3P)が0.577の場合に、Hc/Hcmを0.617、0.694、0.771としたときの磁場解析による電流位相角30°の脈動波形を示す。脈動波形はトルク波形から平均トルクを引いて算出した。また、形状範囲における計算形状の位置を形状範囲図に示す。
図17に示されるように、Hc/Hcm=0.771では磁石トルク脈動が小さくリラクタンストルク脈動が大きく、逆位相であり、合成脈動は大きかった。Hc/Hcm=0.617では磁石トルク脈動が大きくリラクタンストルク脈動が小さく、逆位相であり、合成脈動は大きかった。これに対して、Hc/Hcm=0.694では磁石トルク脈動とリラクタンストルク脈動が逆位相で振幅が近く、合成脈動は小さかった。
ここで、磁石トルク脈動がHc/Hcmとともに変化するのは、前述したように、Hc/Hcmとともにエアギャップの規格化磁石磁束密度分布の幅が変化するためである。また、脈動12次成分の振動正負が逆転しない範囲にあって、リラクタンストルク脈動と12次成分が逆位相で振幅が近い条件がHc/Hcm=0.694であることを示す。
ここで、Hcの増加で磁石トルク脈動が減少するのは、エアギャップの規格化磁石磁束密度分布の幅が増加するため、磁石の回転方向前方で生じる脈動と磁石の回転方向後方で生じる脈動の位相が逆位相に近づき、合成脈動の磁石トルク脈動が減少するためである。磁石磁束分布の周方向幅が増加すると、前・後の脈動の位相が進み又は遅れするため、合成脈動は振幅が変化するためである。
一方、図17が示すように、Hcの増加でコア領域が増加するが、リラクタンストルク脈動の増加はわずかである。これは、本実施形態のHcの範囲は、リラクタンストルク脈動への影響が小さいことを示す。磁場解析により、トルクリプル12次成分が2%未満になる形状を探索すると、0.55≦Hc/Hcm≦0.9であった。トルクリプル12次成分が4%未満になる形状を探索すると、0.5≦Hc/Hcm≦1.0であり、2%未満の範囲0.35に対して4%未満で範囲が0.15増加した。このことから、従来よりトルクリプルが改善される4%未満では0.5≦Hc/Hcm≦1.0の形状範囲となり、より好ましくは0.55≦Hc/Hcm≦0.9の形状範囲である。
また、発明者らは、解析結果の検討の結果、トルクリプル12次成分低減にかかわるWqとHcは独立ではなく、Wq/Hcにもトルクリプル12次成分低減の好適な形状範囲があることを見出した。磁場解析により、トルクリプル12次成分が2%未満になる形状を探索すると、1.2≦Wq/Hc≦2.1であった。トルクリプル12次成分が4%未満になる形状を探索すると、1.15≦Wq/Hc≦2.5であり、2%未満の範囲0.95に対して4%未満で範囲が0.4増加した。このことから、従来よりトルクリプルが改善される4%未満では1.15≦Wq/Hc≦2.5の形状範囲となり、より好ましくは1.2≦Wq/Hc≦2.1の形状範囲である。
また、Hcを大きくしてかつWmgを小さくすることにより、規格化磁束密度分布の幅を維持することも考えられるが、Wmgを小さくするとトルクが減少するので、小さすぎるWmgは好ましくない。このとき、Wmgの中心角/(4π/3P)は7/8から1の間にあることが好ましい。
ここで、Hc、Wqに関して、本実施形態と別の形状範囲が好適かどうかについて述べる。Hcを大きくして磁石トルク脈動12次成分の振動正負を逆転しておき、Wqの中心角を増加し、Wmgの中心角を減少してリラクタンストルク脈動12次成分の振動正負も逆転して、磁石トルク脈動12次成分とリラクタンストルク脈動12次成分を逆位相とすることも考えられる。しかし、Wmgが小さくなるためトルクが減少し、コギングトルク低減がしにくくなる。
ここで、ブリッジ部242の両側にある接続部1(244)と接続部2(243)の影響について説明する。接続部1(244)が大きくなると、傘状コア230の端部でギャップ磁束密度が増加し、規格化磁束密度分布の肩部を増加させる。ただし、傘厚が薄く、接続部1(244)の径方向厚さがブリッジ幅に近い時は、トルクリプル12次成分への影響が小さく、コギングトルクのみに影響が現れる。傘厚が厚い時は、電流位相角が大きく磁石磁束が抑制される時に、接続部1(244)が大きいと、規格化磁束密度分布が広がりやすくなるため、トルクリプル12次成分が増加しやすい。このため、傘厚が厚い時は、接続部1(244)の範囲を小さくすることが好ましい。
このとき、コギングトルクとトルクリプルの12次成分に影響する接続部1(244)は、傘厚が厚い時は、回転方向前後の2つの接続部1(244)の内周側周方向端部の中心角が4π/3Pに近いことが好ましい。また、接続部2(243)の大きさは、リラクタンストルク脈動の位相に影響する。リラクタンストルクを利用する点からは、空隙213のq軸コアからブリッジ部242に接続する円弧半径は小さくし、Wqは大きくする方が好ましい。
以上の検討から、トルクリプル12次成分の低減には、次の構成の採用が有効であることが確認された。q軸コア221のq軸垂直方向の最小幅Wqの両端を通る2本の仮想的なq軸方向直線に挟まれたロータコア外周部250は回転軸を中心としてロータ半径と略一致する半径の円上にあり、傘状コア230、接続部1(244)、ブリッジ部242のコア外周輪郭は円弧で形成される。ロータ外周輪郭は真円であってもよく、ブリッジ部242の幅Wbは小さいことが好ましく、磁石収容部212(磁石挿入孔201)の径方向長さTmgの1/2より小さく(たとえば電磁鋼板の厚さ以下に)なっており、Wmgの中心角は4π/3Pに近く4π/3Pより小さく、(1)Hcは、Hcmの0.5〜1.0倍の範囲にあり、(2)Wqは、π*ロータ半径/(3*極数)の0.4〜0.9倍の範囲にあり、(3)Wqは、Hcの1.15〜2.5倍の範囲にある。
以上の構成により、リラクタンストルクを利用し、リラクタンストルク脈動と磁石トルク脈動の12次成分を相殺できるq軸コア幅と傘状コア厚さを有し、トルクリプル12次成分を低減することができる。
従来のロータコア形状は、傘状コア230の径方向長さが長いか、q軸コア幅が広いか、ブリッジ部242に相当する部分の幅が広いという特徴を有する場合がある。これは、リラクタンストルクを大きく利用するために、リラクタンストルクに寄与する磁束の通るコア領域を広くしているためであり、トルクリプルを十分小さくできていない。また、上記従来構成以外の構成では、q軸コア幅がかなり狭いか、または、q軸に凹部があるという特徴を有する。これは、磁石トルクに寄与する磁束を主体にしており、リラクタンストルクを生じる磁束の通るq軸コア領域を狭くし、q軸リラクタンストルクを利用しない構成である。
本実施形態のトルクリプル12次成分を低減できるロータコア形状は、リラクタンストルクを利用して、トルクリプル12次成分を低減できるq軸コア幅と傘状コア厚さを有するため、従来のロータコア形状の特徴とは異なっている。
図1、図2及び図4で説明した本実施形態の永久磁石式回転電機1の構成は、以上の検討結果を踏まえて決定されたものである。すなわち、ロータ20は、磁石止め部211の外周側に空隙213を有し、空隙213の外周側にブリッジ部242を有する。また、磁石収容部の外周側に傘状コア230を有し、傘状コア230とブリッジ部242の間に接続部1(244)を有する。
また、隣り合う磁石挿入孔201の間にq軸コア221を有し、q軸コア221のq軸垂直方向の最小幅Wqの両端を通る2本の仮想的なq軸方向直線に挟まれたロータコア外周部250は回転軸を中心としてロータ半径と略一致する半径の円上にあり、q軸コア221とブリッジ部242の間に接続部2(243)を有する。
また、傘状コア230、接続部1(244)、ブリッジ部242のコア外周輪郭は円弧で形成され、ブリッジ部242の径方向の幅Wbは、磁石収容部212(磁石挿入孔201)の径方向長さTmg/2より小さく(たとえば積層コアを形成する電磁鋼板の厚さ以下に)なっている。
また、q軸コア221のq軸垂直方向の最小幅Wqの両端を通る2本の仮想的なq軸方向直線に挟まれたロータコア外周部は、回転軸を中心としてロータ半径と略一致する半径の円上にあり、傘状コア230、接続部1(244)、ブリッジ部242のコア外周輪郭は円弧で形成され、ロータ外周輪郭は真円であってもよく、ブリッジ部242の幅Wbは小さいことが好ましく、磁石収容部212(磁石挿入孔201)の径方向長さTmgの1/2より小さく(たとえば電磁鋼板の厚さ以下に)なっており、Wmgの中心角は4π/3Pに近く4π/3Pより小さく、(1)Hcは、Hcmの0.5〜1.0倍の範囲にあり、(2)Wqは、π*ロータ半径/(3*極数)の0.4〜0.9倍の範囲にあり、(3)Wqは、Hcの1.15〜2.5倍の範囲にある。
以上で説明したような磁極部形状のロータコアにより永久磁石式回転電機1のトルクリプルを低減できる。さらに、2系統巻線に電流位相差をつけて通電する構成により、トルクリプルの低減にさらに優れた永久磁石式回転電機1を得ることができる。
本実施形態の永久磁石式回転電機1の特性を磁場解析により計算した結果を図18に示す。図18に示すように、トルクリプル6次成分は電流の位相角85度以下において1%未満になっている。また、トルクリプル12次成分は電流の位相角60°以下において略2%以下である。トルクの低下する電流の位相角85度においても5%であり、高位相角においても小さいトルクリプル12次成分が得られた。これにより、本発明の構成においては、従来より大幅に小さいトルクリプルを実現できることが示された。
これにより、本実施形態の構成によれば、従来より大幅に小さいトルクリプルを実現できることが示された。さらに、リラクタンストルクを利用することにより、磁石使用量に対するトルクを大きく増加できることも分かる。
なお、本実施形態の永久磁石式回転電機1をEPS装置に用いることで、車室内に伝搬する振動や騒音を抑制できる。また、その他の自動車用電動補機装置、たとえば電動ブレーキを行う自動車用電動補機装置に適用することでも、振動や騒音を抑制することが可能である。さらには、本実施形態の永久磁石式回転電機1の採用は自動車分野に限定されず、低振動化が好ましい産業用の永久磁石式回転電機全般にも適用可能である。
ここで、ロータの材質が変化した場合について述べる。電磁鋼板の材質の変化、例えば、加工や応力の影響については、ギャップの透磁率より圧倒的に大きな透磁率を有する限り、エアギャップの磁石磁束密度分布を変えないため、トルクリプルへの影響は小さく、コアの形状が支配的である。これは、磁石挿入孔の外周側の透磁率を1/100としても、磁場計算結果におけるエアギャップの磁石磁束密度分布とトルクリプルに影響がでないことから確認した。
また、磁石材質の変化についても、残留磁束密度を1.1Tから1.6Tまで変えたときに、真円ロータの磁場計算結果におけるエアギャップの磁石磁束密度分布とトルクリプルに影響がでないことを確認した。これは、エアギャップが周方向に均一で、周方向の磁気抵抗に変化がないために磁石残留磁束密度の影響を受けにくいことが理由と考えられる。このことから、電磁鋼板材質や磁石材質の変化の影響は小さく、コアの形状の影響が支配的である。
(第2の実施形態)
次に、図19A及び19Bを用いて、第2の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。図19Aは、第2の実施形態に係るロータ20の断面の磁極付近の拡大図であり、第1の実施形態で説明した図4と対応している。図19Bは、図19Aのブリッジ部付近の拡大図および形状寸法の定義の説明図である。なお、第1の実施形態と共通の部分は説明を一部省略する。
図4においては、磁極円弧半径Rmgがロータ半径Rtと一致していたが、本実施形態の永久磁石式回転電機1においては、Rmg=Rt*0.68になっている点が異なっている。この時、傘状コア230、接続部1(244)、ブリッジ部242の外周が半径Rmgの円弧になっている。
q軸コア221のq軸垂直方向の最小幅Wqの両端を通る2本の仮想的なq軸方向直線VL1、VL2に挟まれたロータコア外周部250は、回転軸を中心とした半径Rtの円上にある。磁極円弧半径Rmgがロータ半径Rtより小さいとき、ブリッジ部242がロータ外半径より内周側にあるため、Hcが増加する。また、磁極円弧と磁極ピッチ端の径方向の交点Pが内周側にあるために、Hcmも増加する。この時のHcmは次式で与えられる。Hcm=Rmg*(1−COS((ASIN((Rt−Rmg)/Rmg*SIN(π/P))+π/P)))。
磁石収容部212が内周側に移動するためWmgの中心角が増加する。エアギャップは、磁極中央からブリッジ部242に近づくにつれて増加し、ブリッジ部242に近い側のエアギャップ磁石磁束密度を減少させる。このとき、エアギャップの規格化磁石磁束密度分布の幅を増加させる方向に作用するのは、Hcの増加とWmgの見込み中心角の増加であり、減少方向に作用するのは、磁極中央から離れるとともに増加するエアギャップである。
また、エアギャップが一定でないため、磁石残留密度が大きくなると、磁極中央より周方向に離れた部分のギャップ磁束密度増加が相対的に大きい傾向があり、磁石材質の影響が発生する。このため、磁石残留密度の増加はエアギャップの規格化磁石磁束密度分布の幅を増加させる方向に作用する。
また、図20に示すように、Rmg=Rtでは、規格化分布は矩形分布に近づき、分布端の肩部の勾配が急傾斜になっている。Rmgが小さくなると、規格化分布は正弦波に近づいていき、分布端の肩部の勾配は緩やかになっていく。このとき、肩部の勾配が緩やかな方が小さい半値幅で低トルクリプル12次成分を与える最適分布になることを見出した。
磁場解析の結果においては、Rmg=Rtでの最適分布の幅の中心角は(4π/3P)*1.0375、Rmg=Rt*0.68での幅の中心角は(4π/3P)*0.971であった。この好適な分布を与えたのは、Rmg=Rtにおいて23/24≦Wmgの中心角/(4π/3P)≦1であり、Rmg=Rt*0.68において11/12≦Wmgの中心角/(4π/3P)≦1であるときであった。また、この分布は比較的小さいコギングトルクを与えた。
規格化分布幅の違いにより、最適なHc/Hcmは、Rmg=Rtで0.671、Rmg=Rt*0.68で0.576であった。Rmgによる分布幅の差によりHc/Hcmに差0.1が生じた。このため、Rmgが小さいとHcを相対的に小さくしていくことになる。ただし、製造上の理由などでHcを縮小できない場合は、適正な分布幅に幅縮小するために、磁石磁束密度を減少するか、Wmgを縮小することになる。ただし、トルク低下を避けるためにWmgは小さすぎないことが望ましい。このことから、Wmgの中心角/(4π/3P)は7/8以上であることが好ましい。
また、好適な規格化分布にロータコア外周形状は影響するが、Wbは影響しないことは磁場解析により確認している。Rmg=Rt*0.68では、磁石残留磁束密度を変更して大きくする場合、規格化分布は周方向に拡大する傾向になるが。Wmgを縮小すれば規格化分布の周方向幅を制御できる。Rmgが小さくなると、エアギャップの規格化磁石磁束密度分布の幅を増減させる効果と分布形状変化による幅減少効果が相乗するが、最も影響が大きいのは分布形状変化の効果であった。このため、Rmg=RtよりHc/Hcmが減少する傾向になる。
ここで、製造上の理由から傘状コア端部の厚さはWb以上が好ましいため、傘上コア端部の厚さの下限からHc/Hcmを決めると、好適なHc/Hcmより大きくなる傾向がある。これによりエアギャップの規格化磁石磁束密度分布の幅が好適な分布幅より大きくなり、分布幅を好適にするにはWmgを減少させることになる。このとき、規格化磁石磁束密度分布の形状が山形になることとWmgの減少により、トルクが減少することになり、Rmgが小さすぎるのは好ましくない。このため、Rmgの下限はRt*2/3以上であることが好ましい。
ここで、ブリッジ部242のq軸側にある接続部2(243)の影響について説明する。q軸コア221のq軸垂直方向の最小幅(以下、Wq)の両端を通る2本の仮想的なq軸方向直線に挟まれたロータコア外周部250は、回転軸を中心とした半径Rtの円上にあるが、ロータコア外周部250より広い範囲が半径Rtの円上にあるq軸外周円弧を形成することも可能であり、これは接続部2(243)が広くなることを示す。
接続部2(243)は、q軸外周円弧の端点からブリッジ部242に接続される外周接続点までを含む。また、接続部2(243)の内周側輪郭は円弧で構成され、q軸コアとブリッジ部242を接続し、接続部2(243)は、内周側輪郭円弧とブリッジ部242の内周接続点までを含む。外周接続点と内周接続点が磁極中央側に寄ることは、接続部2(243)が広くなることを示す。接続部2(243)が広くなることは、リラクタンストルク脈動の位相を変化させてトルクリプル12次成分に影響を与えるため、円弧端点と接続点の位置に制限がつく。
q軸外周円弧の端点については、リラクタンストルク脈動の開始位置に直接的に関係するため、q軸外周円弧の中心角は、π/3Pに届かない必要があり、π/3Pと2本の仮想的なq軸方向直線に挟まれたロータコア外周部250の中心角の平均より小さいことが好ましい。一方、外周接続点のq軸両側の点を見込む中心角は、π/3Pより大きくてよい。内周接続点は外周接続点の見込み角と同程度が好ましい。
本実施形態の永久磁石式回転電機1の特性を磁場解析により計算すると、電流115A、電流位相角30°において、トルクリプル12次成分が0.5%であった。これにより、磁極円弧半径をRt*0.68とした場合においてもトルクリプルを十分小さくできることがわかる。ただし、最大トルクは第1の実施形態の場合より4%低下した値になった。
以上の検討から、第2の実施形態の構成は、トルクリプルが優れており、効果のあることが示された。
なお、本実施形態についても第1の実施形態と同様に、本実施形態の永久磁石式回転電機1をEPS装置に用いることで、車室内に伝搬する振動や騒音を抑制できる。また、その他の自動車用電動補機装置、たとえば電動ブレーキを行う自動車用電動補機装置に適用することでも、振動や騒音を抑制することが可能である。さらには、本実施形態の永久磁石式回転電機1の採用は自動車分野に限定されず、低振動化が好ましい産業用の永久磁石式回転電機全般にも適用可能である。
(第3の実施形態)
次に、図21を用いて、本発明の第3の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。図21は、第3の実施形態に係るロータ20の断面の磁極付近の拡大図であり、第1の実施形態でそれぞれ説明した図4と対応している。なお、第1の実施形態と共通の部分は説明を一部省略する。
第1の実施形態で説明した永久磁石式回転電機1は、ブリッジ幅が積層コアを形成する電磁鋼板の厚さより小さく形成されていたが、本実施形態の永久磁石式回転電機1は、ブリッジ幅を電磁鋼板の厚さと等しくしている。ブリッジ幅が0.25から0.5mmに増加すると、漏れが増加するため、ギャップ磁束分布の幅が縮小する。磁場計算で、ブリッジ幅増加時の分布幅を評価すると、ブリッジ幅を変えずにHcをWb増加と同じだけ減少したときの分布幅に略一致した。また、Wbによらず、好適な規格化分布は同じ分布形状になった。このため、異なるロータ20間においてWbが異なる場合は、Hc’=(Hc−基準Wbからの変化)を使用すれば、Wbの影響を考慮した以下の形状範囲が得られる。基準Wbは、Tb/2である。
(1)0.5≦(Hc−Wb+Tb/2)/Hcm≦0.8、かつ、(2)0.4≦Wq/[π/(3P)*ロータ半径]≦0.9、かつ、(3)1.2≦Wq/(Hc−Wb+Tb/2)≦2.5。ただし、良特性を得るためには、より好ましくは、(1)0.5≦(Hc−Wb+Tb/2)/Hcm≦0.7、かつ、(2)0.5≦Wq/[π/(3P)*ロータ半径]≦0.75、かつ、(3)1.25≦Wq/(Hc−Wb+Tb/2)≦2.1である。
本実施形態の永久磁石式回転電機1の特性を磁場解析により計算すると、電流115A、電流位相角30°において、トルクリプル12次成分が0.2%であった。これにより、磁極円弧半径をRt*0.68とし、ブリッジ幅を電磁鋼板の厚さと等しくした場合においてもトルクリプルを十分小さくできることがわかる。ただし、最大トルクは第1の実施形態の場合の5%低下した値になった。
(第4の実施形態)
次に、図22を用いて、本発明の第4の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。
本実施形態の永久磁石式回転電機1における磁極部220は、図22に示すように、第2の実施形態と同様の構造を有している。すなわち、磁極部220は、ブリッジ幅を電磁鋼板の厚さと等しくした以外は、図19A及び19Bに示したのと同様の磁極円弧半径の形状を有する。なお、第2の実施形態と共通の部分は説明を一部省略する。
本実施形態の永久磁石式回転電機1の特性を磁場解析により計算すると、電流115A、電流位相角30°において、トルクリプル12次成分が0.4%であった。これにより、磁極円弧半径をRt*0.68とし、ブリッジ幅を電磁鋼板の厚さと等しくした場合においてもトルクリプルを十分小さくできることがわかる。ただし、最大トルクは第1の実施形態の場合より10%低下した値になった。
(第5の実施形態)
次に、図23A及び23Bを用いて、本発明の第5の実施形態に係る永久磁石式回転電機1を説明する。本実施形態の永久磁石式回転電機1は、第1の実施形態と同様に、10極60スロット集中巻の回転電機である。図23Aは、第5の実施形態に係るロータ20の断面の磁極付近の拡大図であり、第1の実施形態で説明した図4と対応している。図23Bは、第5の実施形態に係るロータ20のブリッジ部242付近の拡大図である。なお、第1の実施形態と共通の部分は説明を省略する。Ls2は磁石収容部212の外周側の周方向端と傘状コア230の内周側直線部の周方向端との距離である。
コア外周輪郭の円弧には、磁極中央部に浅く小さい幅の溝400を設けることが可能である。このとき、ギャップ磁束分布は磁極中央部のギャップ長が増加するため、周囲から中央部に磁束が回り込み、分布の周方向幅が少し狭まる。また、傘状コア230を通るリラクタンストルクに寄与する磁束が減少するため、磁石トルク脈動とリラクタンストルク脈動が十分に相殺されなくなる。
これらの変化を打ち消すように、傘状コア230の径方向長さを増加すれば、トルクリプル12次成分とコギングトルク12次成分低減可能である。このとき、磁極中央部の傘状コアの径方向長さをHcとすれば同様の条件式でよい。また、傘状コア230の厚さが増加するため、傘状コア端部の厚さも増加し、前述したように、接続部1(244)を周方向に広げることはトルクリプル12次成分を悪化させる。このため、接続部1(244)の内周側周方向端の磁極両側の中心角は、4π/3Pに近い値にしている。
本実施形態の永久磁石式回転電機1の特性を磁場解析により計算すると、電流115A、電流位相角30°において、トルクリプル12次成分が2.1%であった。これにより、d軸上のロータ外周部(磁極中心外周部)に小溝がある場合においてもトルクリプルを十分小さくできることがわかる。ただし、最大トルクは第1の実施形態の場合より2.5%低下した値になった。
以上説明したように、本発明の各実施形態の構成は、リラクタンストルクを利用する従来構成のトルクリプル約5%と比較してトルクリプルが優れており、磁石トルクのみを利用する従来構成に対してはトルクが優れており、効果のあることが示された。すなわち、各実施形態で説明した永久磁石式回転電機1の構造は、トルクリプル低減に有効な構造である。
以上説明した実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
永久磁石式回転電機1は、たとえば自動車の電動パワーステアリング用モータとすることができる。また、永久磁石式回転電機1は、第1〜第5の実施形態で説明したような10極60スロット分布巻の、いずれかの構成を有することができる。また、振動騒音を抑制できるとともに高トルクであるため、様々な形態の回転電機において本発明を適用可能である。
上記のような永久磁石式回転電機1を備え、この永久磁石式回転電機1を用いて、電動パワーステアリングまたは電動ブレーキを行う制御部を含む、自動車用電動補機システムを構成してもよい。このようにすれば、振動や騒音を抑制した自動車用電動補機システムを実現できる。
以上説明した各実施形態や各種変形例はあくまで一例であり、発明の特徴が損なわれない限り、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。また、上記では種々の実施形態や変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。