JP6220983B2 - 熱電変換素子、熱電変換層、熱電変換層形成用組成物 - Google Patents

熱電変換素子、熱電変換層、熱電変換層形成用組成物 Download PDF

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Description

本発明は、熱電変換素子、熱電変換層、および、熱電変換層形成用組成物に関する。
熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換することができる熱電変換材料が、熱によって発電する発電素子やペルチェ素子のような熱電変換素子に用いられている。熱電変換素子は、熱エネルギーを直接電力に変換することができ、可動部を必要とせず、例えば、体温で作動する腕時計や僻地用電源、宇宙用電源等に用いられている。
なお、熱電変換素子の熱電変換性能を評価する指標の1つとして、無次元性能指数ZT(以下、単に性能指数ZTということがある)がある。この性能指数ZTは、下記式(A)で示され、熱電変換性能の向上には、絶対温度1K当りの熱起電力(以下、熱起電力ということがある)Sおよび導電率σの向上、熱伝導率κの低減が重要である。
性能指数ZT=S・σ・T/κ (A)
式(A)において、 S(V/K):絶対温度1K当りの熱起電力(ゼーベック係数)
σ(S/m):導電率
κ(W/mK):熱伝導率
T(K):絶対温度
なお、上記式(A)中、S・σの部分はパワーファクターと呼ばれ、単位温度あたりの発電電力を表す。
近年、熱電変換材料としてカーボンナノチューブ(以後、「CNT」とも称する)が着目されており、CNTを用いた熱電変換素子に関する技術がいくつか提案されている(例えば、特許文献1)。CNTを含む熱電変換層を作製する際には、一般的にCNTを分散させる分散剤が使用されるが、特許文献1では実施例においてポリスチレンが用いられている。
国際公開第2012/121133号
一方、近年、熱電変換素子が使用される機器の性能向上のために、熱電変換素子の熱電変換性能のより一層の向上が求められている。
本発明者らは、まず、特許文献1に記載されるようなCNTとポリスチレンとを含有する組成物の特性について検討を行ったところ、そもそも組成物中におけるCNTの分散性が必ずしも十分でないことを知見した。
また、このようなCNTの分散性が悪い組成物を用いて形成される熱電変換層の性能に関して検討を行ったところ、熱電変換層の導電率や熱電変換性能(パワーファクター)は昨今要求されるレベルを満たしておらず、更なる改良が必要であることを知見した。
本発明は、上記実情に鑑みて、導電率および熱電変換性能(パワーファクター)に優れた熱電変換層、および、この熱電変換層を有する熱電変換素子を提供することを目的とする。
また、本発明は、カーボンナノチューブの分散安定性に優れ、かつ、導電率およびパワーファクターに優れる熱電変換層を形成することができる熱電変換層形成用組成物を提供することも目的とする。
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、所定の構造を有する高分子を使用することにより、所望の効果が得られることを見出した。
より具体的には、以下の構成により上記目的を達成することができることを見出した。
(1) 熱電変換層と、熱電変換層と電気的に接続する電極対とを有する熱電変換素子であって、
熱電変換層が、カーボンナノチューブと、後述する一般式(1)で表される繰り返し単位および後述する一般式(2)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種を有する高分子とを含有する、熱電変換素子。
(2) Raがポリマー鎖である、(1)に記載の熱電変換素子。
(3) ポリマー鎖が、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、および、ポリアルキレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種に由来する、(1)または(2)に記載の熱電変換素子。
(4) 一般式(1)で表される繰り返し単位が後述する一般式(3)で表される繰り返し単位であり、一般式(2)で表される繰り返し単位が後述する一般式(4)で表される繰り返し単位である、(1)〜(3)のいずれかに記載の熱電変換素子。
(5) 高分子が、ポリアルキレンイミンと、少なくとも片末端にカルボキシル基を有するポリエステルとを反応させて得られる高分子である、(1)〜(4)のいずれかに記載の熱電変換素子。
(6) ポリアルキレンイミンの数平均分子量が300〜1500である、(5)に記載の熱電変換素子。
(7) カーボンナノチューブと、後述する一般式(1)で表される繰り返し単位および後述する一般式(2)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種を有する高分子とを含有する、熱電変換層。
(8) Raがポリマー鎖である、(7)に記載の熱電変換層。
(9) ポリマー鎖が、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、および、ポリアルキレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種に由来する、(7)または(8)に記載の熱電変換層。
(10) 一般式(1)で表される繰り返し単位が後述する一般式(3)で表される繰り返し単位であり、一般式(2)で表される繰り返し単位が後述する一般式(4)で表される繰り返し単位である、(7)〜(9)のいずれかに記載の熱電変換層。
(11) 高分子が、ポリアルキレンイミンと、少なくとも片末端にカルボキシル基を有するポリエステルとを反応させて得られる高分子である、(7)〜(10)のいずれかに記載の熱電変換層。
(12) ポリアルキレンイミンの数平均分子量が300〜1500である、(11)に記載の熱電変換層。
(13) カーボンナノチューブと、後述する一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種を有する高分子とを含有する、熱電変換層形成用組成物。
(14) Raがポリマー鎖である、(13)に記載の熱電変換層形成用組成物。
(15) ポリマー鎖が、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、および、ポリアルキレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種に由来する、(13)または(14)に記載の熱電変換層形成用組成物。
(16) 一般式(1)で表される繰り返し単位が後述する一般式(3)で表される繰り返し単位であり、一般式(2)で表される繰り返し単位が後述する一般式(4)で表される繰り返し単位である、(13)〜(15)のいずれかに記載の熱電変換層形成用組成物。
(17) 高分子が、ポリアルキレンイミンと、少なくとも片末端にカルボキシル基を有するポリエステルとを反応させて得られる高分子である、(13)〜(16)のいずれかに記載の熱電変換層形成用組成物。
(18) ポリアルキレンイミンの数平均分子量が300〜1500である、(17)に記載の熱電変換層形成用組成物。
(19) さらに、ClogP値が3.0以下であるアルコール系溶媒を含む、(13)〜(18)のいずれかに記載の熱電変換層形成用組成物。
本発明によれば、導電率および熱電変換性能(パワーファクター)に優れた熱電変換層、および、この熱電変換層を有する熱電変換素子を提供することができる。
また、本発明によれば、カーボンナノチューブの分散安定性に優れ、かつ、導電率および熱電変換性能(パワーファクター)に優れる熱電変換層を形成することができる熱電変換層形成用組成物を提供することもできる。
本発明の熱電変換素子の一例を模式的に示す断面図である。図1中の矢印は素子の使用時に付与される温度差の方向を示す。 本発明の熱電変換素子の一例を模式的に示す断面図である。図2中の矢印は素子の使用時に付与される温度差の方向を示す。
以下に、本発明の熱電変換素子などの好適態様について説明する。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明の熱電変換素子の特徴点の一つとしては、所定の構造を有する高分子をCNTの分散剤として使用している点が挙げられる。後述するように、高分子には窒素原子を含む主鎖部と、ポリマー鎖またはアルキル基を含む側鎖部とが含まれる。このような構造を有することにより、従来の分散剤よりもCNTの分散性がより向上する。その理由の詳細は不明だが、高分子の構造が大きく寄与していると推測される。
具体的には、まず、上記高分子は、主鎖部に窒素原子が含まれ、この部分がCNT表面と相互作用すると考えられる。この場合、高分子の主鎖中に含まれる複数の窒素原子がCNT表面と多点で相互作用できる。特に、後述するように、架橋構造を含む繰り返し単位が高分子中に含まれる場合などは、窒素原子が一面上に二次元的に配置されやすくなり、結果として、CNTとより強固に相互作用しやすくなる。また、高分子がCNTに相互作用し、CNT表面上に配置されると、高分子中の側鎖部がCNTを中心として外側に広がる構造をとりやすい。結果として、高分子の側鎖部の立体反発によりCNT同士の再凝集が抑制されている。
一般的に、CNTは、複数が集まったバンドル状の状態で存在している場合が多く、分散剤を使用することにより、このバンドル状態がほぐされて分散することができる。本発明においては、上記構造を有する高分子を分散剤として使用することにより、バンドル状態をほぐす程度が大きく、結果としてCNTが均一に分散しやすくなっていると推測される。このようなCNTの分散性が向上すると、組成物の粘度自体も低下し、取り扱い性も向上する。さらに、このようなCNTの分散性が高い組成物を用いて形成される熱電変換層は、CNT本来の性能が出やすく、結果として優れた導電率および熱電変換性能(パワーファクター)を示す。
以下では、まず、所定の熱電変換層を形成するために使用される組成物について詳述し、その後、この組成物を用いて形成される熱電変換層を有する熱電変換素子について詳述する。
<熱電変換層形成用組成物>
熱電変換層形成用組成物(以後、単に「組成物」とも称する)には、カーボンナノチューブと、所定の構造を有する高分子とが少なくとも含まれる。
以下、組成物中に含まれる各成分について詳述する。
[カーボンナノチューブ]
本発明で用いるカーボンナノチューブ(CNT)は、1枚の炭素膜(グラフェンシート)が円筒状に巻かれた単層CNT、2枚のグラフェンシートが同心円状に巻かれた2層CNT、および、複数のグラフェンシートが同心円状に巻かれた多層CNTがある。本発明においては、単層CNT、2層CNT、多層CNTを各々単独で用いてもよく、2種以上を併せて用いてもよい。特に、導電性および半導体特性において優れた性質を持つ単層CNTおよび2層CNTを用いることが好ましく、単層CNTを用いることがより好ましい。
本発明で用いる単層CNTは、半導体性のものであっても、金属性のものであってもよく、両者を併せて用いてもよい。また、CNTには金属等が内包されていてもよく、フラーレン等の分子が内包されたもの(特にフラーレンを内包したものをピーポッドという)を用いてもよい。
CNTはアーク放電法、化学気相成長法(以下、CVD法という)、レーザー・アブレーション法等によって製造することができる。本発明に用いられるCNTは、いずれの方法によって得られたものであってもよいが、好ましくはアーク放電法およびCVD法により得られたものである。
CNTを製造する際には、同時にフラーレンやグラファイト、非晶性炭素が副生成物として生じることがある。これら副生成物を除去するために精製してもよい。CNTの精製方法は特に限定されないが、洗浄、遠心分離、ろ過、酸化、クロマトグラフ等の方法が挙げられる。その他に、硝酸、硫酸等による酸処理、超音波処理も不純物の除去には有効である。併せて、フィルターによる分離除去を行うことも、純度を向上させる観点からより好ましい。
精製の後、得られたCNTをそのまま用いることもできる。また、CNTは一般に紐状で生成されるため、用途に応じて所望の長さにカットして用いてもよい。CNTは、硝酸、硫酸等による酸処理、超音波処理、凍結粉砕法等により短繊維状にカットすることができる。また、併せてフィルターによる分離を行うことも、純度を向上させる観点から好ましい。
本発明においては、カットしたCNTだけではなく、あらかじめ短繊維状に作製したCNTも同様に使用できる。
CNTの平均長さは特に限定されないが、製造容易性、成膜性、導電性等の観点から、0.01〜1000μmであることが好ましく、0.1〜100μmであることがより好ましい。また、CNTの平均直径は特に限定されないが、耐久性、透明性、成膜性、導電性等の観点から、0.4nm以上100nm以下(より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは15nm以下)であることが好ましい。
組成物中のカーボンナノチューブの含有量は、熱電変換性能の点で、組成物中の全固形分に対して、5〜80質量%であることが好ましく、5〜70質量%であることがより好ましく、5〜50質量%であることが特に好ましい。
カーボンナノチューブは、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、上記固形分とは、熱電変換層を形成する成分を意図し、溶媒は含まれない。
[高分子]
組成物中には、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種を有する高分子(以後、単に「高分子」とも称する)が含有される。この高分子は、CNTの分散剤として機能する。
以下、高分子の構造について詳述する。
(一般式(1)で表される繰り返し単位)
一般式(1)中、L1およびL2は、それぞれ独立に、2価の連結基を表す。なお、L1およびL2が複数ある場合は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。
2価の連結基としては、例えば、2価の炭化水素基(2価の飽和炭化水素基であっても、2価の芳香族炭化水素基であってもよい。2価の飽和炭化水素基としては、直鎖状、分岐状または環状であってもよく、炭素数1〜20であることが好ましく、例えば、アルキレン基が挙げられる。また、2価の芳香族炭化水素基としては、炭素数5〜20であることが好ましく、例えば、フェニレン基が挙げられる。それ以外にも、アルケニレン基、アルキニレン基であってもよい。)、2価の複素環基、−O−、−S−、−SO−、−NR−、−CO−、−COO−、−CONR−、−SO−、−SONR−、または、これらを2種以上組み合わせた基(例えば、アルキレンオキシ基、アルキレンオキシカルボニル基、アルキレンカルボニルオキシ基など)などが挙げられる。ここで、Rは、水素原子またはアルキル基(好ましくは炭素数1〜10)を表す。
2価の連結基は置換基を有していてもよく、置換基を有する場合、置換基としては、例えば、メチル基、エチル基等の炭素数1から20までのアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6から16までのアリール基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホンアミド基、N−スルホニルアミド基、アセトキシ基等の炭素数1から6までのアシルオキシ基、メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1から6までのアルコキシ基、塩素、臭素等のハロゲン原子、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、シクロヘキシルオキシカルボニル基等の炭素数2から7までのアルコキシカルボニル基、シアノ基、t−ブチルカーボネート等の炭酸エステル基等が挙げられる。
1の好適態様としては、カーボンナノチューブの分散性がより優れる点、および/または、熱電変換層の導電率およびパワーファクターの少なくとも一方がより優れる点(以後、単に「本発明の効果がより優れる点」とも称する)で、2価の炭化水素基が挙げられ、アルキレン基がより好ましく挙げられる。
アルキレン基としては、直鎖状、分岐鎖状、または、環状のいずれであってもよく、鎖状であることが好ましい。
アルキレン基に含まれる炭素数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1〜10が好ましく、2〜4がより好ましく、2がさらに好ましい。
2の好適態様としては、本発明の効果がより優れる点で、−CO−L4−が挙げられる。L4の定義に関しては、後述する一般式(3)の説明において詳述する。
Raは、ポリマー鎖、または、アルキル基を表す。なお、Raが複数ある場合は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。
アルキル基中に含まれる炭素数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、15以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、合成上の点から、30以下の場合が多く、20以下が好ましい。
ポリマー鎖とは、ポリマー由来の基であり、所定の繰り返し単位を含む。ポリマー鎖はその主鎖部分で、上記L2と結合可能であることが好ましい。
ポリマーとしては、公知のポリマーなどから目的等に応じて選択することができ、例えば、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、ポリアルキレングリコール、ポリアミド、ポリシロキサン、ポリウレタン、および、これらの変成物、または、これらの共重合体が挙げられる。なかでも、本発明の効果がより優れ、合成が容易である点から、ポリエステルが好ましい。
なお、ポリ(メタ)アクリレートとは、ポリアクリレートおよびポリメタクリレートを含む概念である。
ポリマー鎖の分子量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、ポリマー鎖の数平均分子量が500〜100000が好ましく、1000〜30000がより好ましく、2000〜10000がさらに好ましい。
本明細書において、数平均分子量の測定は、HPC−8220GPC(東ソー製)、ガードカラム:TSKguardcolumn SuperHZ−L、カラム:TSKgel SuperHZM−M、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ3000、TSKgel SuperHZ2000を直結し、カラム温度40℃、試料濃度0.1質量%のテトラヒドロフラン溶液を10μl注入し、溶出溶媒としてテトラヒドロフランを毎分0.35mlの流量でフローさせ、RI検出装置にて試料ピークを検出することで行う。また、標準ポリスチレンを用いて作製した検量線を用いて計算する。
ポリマー鎖の構造は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、一般式(X)で表されるポリマー鎖であることが好ましい。なお、以下の一般式(X)で表されるポリマー鎖は、いわゆるポリエステル由来の基に該当する。以下、一般式(X)中、*は結合位置を表す。
一般式(X)中、L10は、アルキレン基を表す。アルキレン基の炭素数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1〜20が好ましく、3〜10がより好ましい。複数のL10は、同一であっても、異なっていてもよい。
Rbは、水素原子、または、1価の有機基を表す。1価の有機基は特に制限されず、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルカルボニル基、シクロアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、シクロアルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基などが挙げられ、これらの基は、さらに置換基を有していてもよい。
Rbの好適態様としては、以下の一般式(Y)で表される基が挙げられる。*は、結合位置を表す。
一般式(Y) *−CO−Rc
Rcは、1価の炭化水素基を表す。炭化水素基中に含まれる炭素数は特に制限されないが、1〜20が好ましく、3〜10がより好ましい。Rcとしては、アルキル基、アリール基などが挙げられる。
nは、2以上の整数を表し、本発明の効果がより優れる点で、5〜100が好ましく、15〜50がより好ましい。
ポリマー鎖の他の好適態様としては、一般式(Z)で表される繰り返し単位を有するポリマー鎖、または、一般式(V)で表されるポリマー鎖なども挙げられる。
一般式(Z)中、Rは、水素原子またはアルキル基を表す。アルキル基の炭素数は特に制限されないが、1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。
は、単結合または2価の連結基を表す。2価の連結基の定義は、上述したL1で表される2価の連結基と同義である。なかでも、本発明の効果がより優れる点で、2価の連結基としては、−COO−が好ましい。
は、1価の有機基を表す。Rで表される1価の有機基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルカルボニル基、シクロアルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、シクロアルキルアミノカルボニル基、アリールアミノカルボニル基、または、これらを組み合わせた基が挙げられる。1価の有機基としては、アルキル基(好ましくは、炭素数1〜6)、アリール基が好ましく挙げられる。
一般式(V)中、Lは、アルキレン基を表す。アルキレン基の炭素数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1〜5が好ましく、1〜3がより好ましい。複数のLは、同一であっても、異なっていてもよい。
は、水素原子または1価の有機基を表す。1価の有機基としては、ヒドロキシル基が好ましい。
mは、繰り返し単位数を表す。mとしては、特に制限されないが、通常、2以上であり、2〜1000程度が好ましい。
一般式(1)で表される繰り返し単位の好適態様としては、一般式(3)で表される繰り返し単位が挙げられる。
一般式(3)中、L1およびRaは、一般式(1)中のL1およびRaと同義であり、好適態様も同じである。
4は、単結合または2価の連結基を表す。2価の連結基の定義は、上述したL1で表される2価の連結基と同義である。L4の好適態様としては、アルキレン基、−O−、−S−、−CO−、または、これらを組み合わせた基が挙げられる。
(一般式(2)で表される繰り返し単位)
一般式(2)中、L1は、2価の連結基を表す。L1の定義は、上述の通りであり、好適態様も同じである。
一般式(2)中、Raは、ポリマー鎖、または、アルキル基を表す。Raの定義は、上述の通りであり、好適態様も同じである。
一般式(2)中、L3は、単結合または2価の連結基を表す。2価の連結基の定義は、一般式(1)中のL1で表される2価の連結基と同義である。L3の好適態様としては、アルキレン基、−O−、−S−、−CO−、または、これらを組み合わせた基が挙げられる。
一般式(2)中、Aは、アニオン性基(陰イオン性官能基)を表す。アニオン性基としては、例えば、−COO、−PO、−SO 、−SONHなどが挙げられるが、本発明の効果がより優れる点で、−COO、−PO、−SO が好ましく、−COOがより好ましい。
なお、複数のAがある場合、それは同一であっても、異なっていてもよい。
一般式(2)で表される繰り返し単位の好適態様としては、一般式(4)で表される繰り返し単位が挙げられる。なお、一般式(4)で表される繰り返し単位は、Aが−COOである場合に対応する。
一般式(4)中、L1、L3およびRaは、一般式(2)中の各基と同じである。
上記高分子中においては、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位の少なくともいずれか一方が含まれていればよく、本発明の効果がより優れる点で、両方が含まれていてもよい。
高分子中における一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位の合計含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、高分子中の全繰り返し単位に対して、5〜60モル%が好ましく、10〜40モル%がより好ましい。
(その他の繰り返し単位)
高分子には、上記一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位以外の他の繰り返し単位が含まれていてもよい。
例えば、高分子には、以下一般式(5)で表される繰り返し単位が含まれていてもよい。一般式(5)で表される繰り返し単位は、いわゆる架橋構造となり得る繰り返し単位であり、この繰り返し単位が含まれることにより窒素原子のCNTに対する相互作用がしやすくなり、本発明の効果がより優れる。
一般式(5)中の、L1の定義は、上述の通りである。
一般式(5)で表される繰り返し単位が含まれる場合、高分子中における一般式(5)で表される繰り返し単位の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、高分子中の全繰り返し単位に対して、1〜40モル%が好ましく、3〜20モル%がより好ましい。
また、高分子には、以下一般式(6)で表される繰り返し単位が含まれていてもよい。一般式(6)で表される繰り返し単位が含まれることにより、カルボン酸などのCNT欠陥部と相互作用し、CNTに対する相互作用がより向上する。
一般式(6)中の、L1の定義は、上述の通りである。
一般式(6)で表される繰り返し単位が含まれる場合、高分子中における一般式(6)で表される繰り返し単位の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、高分子中の全繰り返し単位に対して、1〜40モル%が好ましく、3〜20モル%がより好ましい。
高分子の分子量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、高分子の数平均分子量が1000〜100000が好ましく、2000〜80000がより好ましく、5000〜40000がさらに好ましい。
(高分子の合成方法)
上記高分子の合成方法は特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、(1)主鎖に1級アミンを有する高分子と、1級アミンと反応可能な官能基とRaとを含む化合物とを反応させる方法や、(2)重合後に、一般式(1)(または、一般式(2))で表される繰り返し単位となり得るモノマーを重合させる方法、などが挙げられる。なかでも、合成がより容易である点から、上記(1)の方法が好ましい。
なお、主鎖に1級アミンを有する高分子としては、いわゆるポリアルキレンイミンが挙げられる。
また、上記合成法としては、例えば、特許5224936号などに記載の方法を採用できる。
高分子の好適態様の一つとしては、本発明の効果がより優れる点で、ポリアルキレンイミンと、少なくとも片末端にカルボキシル基を有するポリマーとを反応させて得られる高分子が挙げられる。
使用されるポリアルキレンイミンの数平均分子量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、100〜5000が好ましく、300〜2500がより好ましく、300〜1500がさらに好ましい。
片末端にカルボキシル基を有するポリマーの主鎖構造としては特に制限されず、上述した、ポリマー鎖を構成できるポリマー(例えば、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレンなど)が挙げられる。
このようなポリマーは公知の方法で合成することができ、例えば、片末端にカルボキシル基を有するポリエステルは、(1)カルボン酸とラクトンの重縮合、(2)ヒドロキシ基含有カルボン酸の重縮合、(3)二価アルコールと二価カルボン酸(もしくは環状酸無水物)の重縮合より製造する方法が挙げられる。
また、片末端にカルボキシル基を有するポリ(メタ)アクリレート(または、ポリスチレン)はカルボキシル基含有連鎖移動剤(例えば、3−メルカプトプロピオン酸等)の存在下、(メタ)アクリレート系モノマー(または、スチレン系モノマー)をラジカル重合することにより製造することができる。
ポリアルキレンイミンと、少なくとも片末端にカルボキシル基を有するポリマーとの反応条件は特に制限されず、20〜200℃が好ましく、40〜150℃がより好ましい。反応時間は、1〜48時間が好ましく、1〜24時間が生産性の観点からより好ましい。
反応に際しては、必要に応じて、溶媒(水または有機溶媒)の存在下で実施してもよい。
上記反応を実施することにより、一般式(3)で表される繰り返し単位および一般式(4)で表される繰り返し単位を有する高分子が形成される。なお、その際、一般式(3)で表される繰り返し単位中のL1がアルキレン基であり、一般式(4)で表される繰り返し単位中のL1がアルキレン基である。
組成物中における上記高分子の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、カーボンナノチューブ100質量部に対して、30〜500質量部が好ましく、50〜200質量部がより好ましく、75〜175質量部がさらに好ましい。
なお、上記高分子は、1種のみを用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
(その他任意成分)
本発明の組成物には、上述したカーボンナノチューブおよび高分子以外の他の成分(分散媒、上記高分子以外の高分子化合物(以下、他の高分子化合物)、酸化防止剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、可塑剤など)が含まれていてもよい。
分散媒(溶媒)は、カーボンナノチューブを分散できればよく、水、有機溶媒およびこれらの混合溶媒を用いることができる。好ましくは有機溶媒であり、例えば、アルコール系溶媒、クロロホルム等の脂肪族ハロゲン系溶媒、DMF、NMP、DMSO等の非プロトン性の極性溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、テトラメチルベンゼン、ピリジン等の芳香族系溶媒、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケントン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、THF、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル系溶媒等が挙げられる。
分散媒は、1種単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
また、分散媒は、あらかじめ脱気しておくことが好ましい。分散媒中における溶存酸素濃度を、10ppm以下とすることが好ましい。脱気の方法としては、減圧下超音波を照射する方法、アルゴン等の不活性ガスをバブリングする方法等が挙げられる。
さらに、分散媒として水以外を使用する場合は、あらかじめ脱水しておくことが好ましい。分散媒中における水分量を、1000ppm以下とすることが好ましく、100ppm以下とすることがより好ましい。分散媒の脱水方法としては、モレキュラーシーブを用いる方法、蒸留等、公知の方法を用いることができる。
組成物中の分散媒の含有量は、組成物全量に対して、25〜99.99質量%であることが好ましく、30〜99.95質量%であることがより好ましく、30〜99.9質量%であることがさらに好ましい。
なかでも、分散媒としては、カーボンナノチューブの分散性がより優れ、熱電変換層の特性(導電率およびパワーファクター)がより向上する点で、ClogP値が3.0以下のアルコール系溶媒が好適に挙げられる。ClogP値に関する説明は、後段で詳述する。
アルコール系溶媒とは、−OH基(ヒドロキシ基)を含む溶媒を意図する。
上記アルコール系溶媒はClogP値が3.0以下を示すが、カーボンナノチューブの分散性がより優れ、熱電変換素子の特性がより向上する点で、1.0以下が好ましく、0以下がより好ましい。下限は特に制限されないが、上記効果の点で、−3.0以上が好ましく、−2.0以上がより好ましく、−1.0以上がさらに好ましい。
上記ClogP値のアルコール系溶媒としては、例えば、1−ノナノール(ClogP値:2.94)、1−オクタノール(ClogP値:2.41)、1−ヘキサノール(ClogP値:1.88)、1−ペンタノール(ClogP値:1.35)、1−ブタノール(ClogP値:0.82)、1−プロパノール(ClogP値:0.29)、エタノール(ClogP値:−0.24)、メタノール(ClogP値:−0.76)、ジエチレングリコール(ClogP値:−1.30)、メチルカルビトール(ジエチレングリコールモノメチルエーテル)(ClogP値:−0.74)、ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)(ClogP値:0.71)、トリエチレングリコール(ClogP値:−1.44)、テトラエチレングリコール(ClogP値:−1.57)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(ClogP値:−1.01)、プロピレングリコール(ClogP値:−1.06)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(ClogP値:−1.01)などが挙げられる。
まず、logP値とは、分配係数P(Partition Coefficient)の常用対数を意味し、ある化合物が油(ここではn−オクタノール)と水の2相系の平衡でどのように分配されるかを定量的な数値として表す物性値であり、数字が大きいほど疎水性の化合物であることを示し、数字が小さいほど親水性の化合物であることを示すため、化合物の親疎水性を表す指標として用いることができる。
logP=log(Coil/Cwater)
Coil=油相中のモル濃度
Cwater=水相中のモル濃度
一般に、logP値は、n−オクタノールと水を用いて実測により求めることもできるが、本発明においては、logP値推算プログラムを使用して求められる分配係数(ClogP値)(計算値)を使用する。具体的には、本明細書においては、“ChemBioDraw ultra ver.12”から求められるClogP値を使用する。
他の高分子化合物としては、共役系高分子および非共役系高分子が挙げられる。
酸化防止剤としては、イルガノックス1010(日本チガバイギー製)、スミライザーGA−80(住友化学工業(株)製)、スミライザーGS(住友化学工業(株)製)、スミライザーGM(住友化学工業(株)製)等が挙げられる。
耐光安定剤としては、TINUVIN 234(BASF製)、CHIMASSORB 81(BASF製)、サイアソーブUV−3853(サンケミカル製)等が挙げられる。
耐熱安定剤としては、IRGANOX 1726(BASF製)が挙げられる。可塑剤としては、アデカサイザーRS(アデカ製)等が挙げられる。
上記分散媒以外の他の成分の含有率は、組成物中の全固形分中、5質量%以下が好ましく、0〜2質量%がより好ましい。
(熱電変換層形成用組成物の調製)
本発明の組成物は、上記の各成分を混合して調製することができる。好ましくは、分散媒にカーボンナノチューブ、高分子、所望により他の成分を混合して、カーボンナノチューブを分散させて調製する。
組成物の調製方法に特に制限はなく、通常の混合装置等を用いて常温常圧下で行うことができる。例えば、各成分を溶媒中で撹拌、振とう、混練して溶解または分散させて調製すればよい。溶解や分散を促進するため超音波処理を行ってもよい。
また、上記分散工程において溶媒を室温以上沸点以下の温度まで加熱する、分散時間を延ばす、または撹拌、浸とう、混練、超音波等の印加強度を上げる等によって、カーボンナノチューブの分散性を高めることができる。
<熱電変換素子、および、熱電変換層>
本発明の熱電変換素子は、上記カーボンナノチューブと上記高分子とを含む熱電変換層を備えていれば、その構成は特に制限されない。なお、後述するように、熱電変換層は、上述した組成物を用いて形成することができる。
熱電変換素子の好ましい態様としては、所定の成分を含む熱電変換層と、熱電変換層と電気的に接続する電極対(一対の電極)(言い換えれば、熱電変換層と接触する電極対)とを有する態様が挙げられる。より具体的には、熱電変換層と、熱電変換層と電気的に接続する第1の電極と、熱電変換層と電気的に接続し、第1の電極と離間した位置にある第2の電極とを有する態様が挙げられる。例えば、一対の電極間に熱電変換層が挟持されていてもよいし、熱電変換層の主面上に2つの電極が離間するように配置されていてもよい。
なお、後述するように、熱電変換素子には、基材が含まれていてもよい。
本発明の熱電変換素子の構造の一例として、図1および図2に示す素子の構造が挙げられる。図1および図2中、矢印は、熱電変換素子の使用時における温度差の向きを示す。
図1に示す熱電変換素子1は、第1の基材12上に、第1の電極13および第2の電極15を含む一対の電極と、第1の電極13および第2の電極15間に、カーボンナノチューブと高分子とを含む熱電変換層14を備えている。第2の電極15の他方の表面には第2の基材16が配設されており、第1の基材12および第2の基材16の外側には互いに対向して金属板11および17が配設されている。
図2に示す熱電変換素子2は、第1の基材22上に、第1の電極23および第2の電極25が配置され、その上にカーボンナノチューブと高分子とを含む熱電変換層24が設けられている。
熱電変換層の保護の観点から、熱電変換層の表面は電極または基材により覆われることが好ましい。例えば、図1に示すように、熱電変換層14の一方の表面が第1の電極13を介して第1の基材12で覆われ、他方の表面が第2の電極15を介して第2の基材16で覆われていることが好ましい。この場合、第2の電極15の外側に第2の基材16を設けることなく第2の電極15が最表面として空気にさらされていてもよい。また、図2に示すように、熱電変換層24の一方の表面が第1の電極23および第2の電極25並びに第1の基材22で覆われ、他方の表面も第2の基材26により覆われることが好ましい。
また、熱電変換素子に使用される基材の表面(熱電変換層との圧着面)には、予め電極が形成されていることが好ましい。基材または電極と熱電変換層との圧着は、密着性向上の観点から100℃〜200℃程度に加熱して行うことが好ましい。
以下、熱電変換素子を構成する各部材について詳述する。
(基材)
本発明の熱電変換素子の基材(熱電変換素子1における第1の基材12、第2の基材16、熱電変換素子2における第1の基材22、第2の基材26)は、ガラス、透明セラミックス、金属、プラスチックフィルム等の基材を用いることができる。本発明の熱電変換素子において、基材はフレキシビリティーを有しているのが好ましく、具体的には、ASTM D2176に規定の測定法による耐屈曲回数MITが1万サイクル以上であるフレキシビリティーを有しているのが好ましい。このようなフレキシビリティーを有する基材は、プラスチックフィルムが好ましく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−フタレンジカルボキシレート、ビスフェノールAとイソおよびテレフタル酸のポリエステルフィルム等のポリエステルフィルム、ゼオノアフィルム(商品名、日本ゼオン社製)、アートンフィルム(商品名、JSR社製)、スミライトFS1700(商品名、住友ベークライト社製)等のポリシクロオレフィンフィルム、カプトン(商品名、東レ・デュポン社製)、アピカル(商品名、カネカ社製)、ユーピレックス(商品名、宇部興産社製)、ポミラン(商品名、荒川化学社製)等のポリイミドフィルム、ピュアエース(商品名、帝人化成社製)、エルメック(商品名、カネカ社製)等のポリカーボネートフィルム、スミライトFS1100(商品名、住友ベークライト社製)等のポリエーテルエーテルケトンフィルム、トレリナ(商品名、東レ社製)等のポリフェニルスルフィドフィルム等が挙げられる。入手の容易性、耐熱性(好ましくは100℃以上)、経済性および効果の観点から、市販のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、各種ポリイミドやポリカーボネートフィルム等が好ましい。
基材の厚さは、取り扱い性、耐久性等の点から、好ましくは30〜3000μm、より好ましくは50〜1000μm、さらに好ましくは100〜1000μm、特に好ましくは200〜800μmである。基材の厚みをこの範囲にすることで、熱伝導率が低下せず、外部衝撃による熱電変換層の損傷も起こりにくい。
(電極)
基材は、熱電変換層との圧着面に電極を設けて用いることが好ましい。
基材上に設ける第1の電極および第2の電極を形成する電極材料としては、ITO(酸化インジウムスズ)、ZnO等の透明電極材料、銀、銅、金、アルミニウム等の金属電極材料、CNT、グラフェン等の炭素材料、PEDOT(poly(3,4-ethylenedioxythiophene))/PSS(Poly(4-styrenesulfonic acid))等の有機材料、銀、カーボン等の導電性微粒子を分散した導電性ペースト、銀、銅、アルミニウム等の金属ナノワイヤーを含有する導電性ペースト等が使用できる。これらの中でも、アルミニウム、金、銀もしくは銅の金属電極材料、またはこれらの金属を含有する導電性ペーストが好ましい。
(熱電変換層)
本発明の熱電変換素子が有する熱電変換層は、カーボンナノチューブと高分子とを含む。
カーボンナノチューブおよび高分子の定義については、上述の通りである。
熱電変換層中におけるカーボンナノチューブの含有量は特に制限されないが、熱電変換層の性能がより優れる点で、熱電変換層の全質量に対して、5〜80質量%であることが好ましく、5〜70質量%であることがより好ましく、5〜50質量%であることが特に好ましい。
熱電変換層中における高分子の含有量は特に制限されないが、熱電変換層の性能がより優れる点で、カーボンナノチューブ100質量部に対して、30〜500質量部が好ましく、50〜200質量部がより好ましく、75〜175質量部がさらに好ましい。
また、熱電変換層には、カーボンナノチューブおよび高分子以外の材料が含まれていてもよく、例えば、上述した組成物に含まれていてもよい任意成分(例えば、バインダー)などが挙げられる。
熱電変換層の形成方法は特に制限されないが、工業的な生産性に優れる点で、上記組成物を用いて形成することが好ましい。より具体的には、基材上に本発明の組成物を塗布し、成膜することにより、熱電変換層を形成することができる。
成膜方法は特に限定されず、例えば、スピンコート法、エクストルージョンダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、スクリーン印刷法、ステンシル印刷法、ロールコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ディップコート法、インクジェット法など、公知の塗布方法を用いることができる。
また、塗布後は、必要に応じて乾燥工程を行う。例えば、熱風を吹き付けることにより溶媒を揮発、乾燥させることができる。
本発明においては、熱電変換層の平均厚さは、温度差を付与する観点等から、0.1〜1000μmであることが好ましく、1〜100μmであることがより好ましい。
なお、熱電変換層の平均厚さは、任意の10点における熱電変換層の厚みを測定し、それらを算術平均して求める。
<熱電発電用物品>
本発明の熱電発電物品は、本発明の熱電変換素子を用いた熱電発電物品である。
ここで、熱電発電物品としては、具体的には、温泉熱発電機、太陽熱発電機、廃熱発電機等の発電機や、腕時計用電源、半導体駆動電源、小型センサー用電源などが挙げられる。
すなわち、上述した本発明の熱電変換素子は、これらの用途に好適に用いることができる。
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
実施例に用いた高分子としては、表1に示す、ポリアルキレンイミンと片末端カルボキシル基含有化合物とを以下の条件にて反応させて得られる高分子をそれぞれ使用した。
なお、ポリアルキレンイミンとしては、日本触媒社より販売されている「SP−018」「SP−012」「SP−003」を使用した。これらのポリアルキレンイミンは、一般式(5)で表される繰り返し単位(L1=エチレン基)が含まれていた。
また、表1には、使用したポリアルキレンイミンの数平均分子量を合わせて示す。数平均分子量は、上述した条件に基づいて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定した。
なお、比較例2で使用したポリスチレンとしては、アルドリッチ社製ポリスチレンMw4000−200000を用いた。
以下に、高分子(高分子、および、比較高分子1)の合成方法を示す。なお、各実施例で使用された高分子には、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位がそれぞれ含まれていた。
(高分子の合成)
n−オクタン酸10g、ε−カプロラクトン158g、チタン(IV)テトラブトキシド5gを混合し、160℃で8時間加熱した後、室温まで冷却し、ポリエステル(片末端カルボキシル基含有化合物に該当)を得た。そのポリエステル100gに、ポリエチレンイミン(日本触媒製SP−018、数平均分子量1800)10gを混合し、120℃で3時間加熱した。その後、65℃まで放冷し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを添加して、高分子1のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAと称する)10質量%溶液を得た。
なお、後述する実施例で使用する他の高分子は、上記ポリエステルやポリエチレンイミンの種類を変更することにより、合成を行った。
また、上記ε−カプロラクトンの使用量を変更して、鎖長の異なるポリエステルを合成し、使用した。
なお、実施例3および4で使用した片末端カルボキシル基含有化合物の合成方法を以下に示す。
また、実施例6で使用した片末端カルボキシル基含有化合物としては、アルドリッチ社製 O−(2−カルボキシエチル)ポリエチレングリコール3000を用いた。
(実施例3で使用した片末端カルボキシル基含有化合物)
250mL容の3つ口フラスコに、メチルメタクリレート100g、3−メルカプトプロピオン酸1.77gを投入し、80℃に加熱した。加熱後にAIBN(アゾビスイソブチロニトリル、和光純薬製)を100mg投入し40分反応させ、その後繰り返して2回AIBN(和光純薬製)を50mg投入し40分反応させた。その後、テトラヒドロフランを10g投入して反応を終了させた。反応液を再沈殿させ、カルボキシル基含有化合物を80g得た(重量平均分子量6100)。
(実施例4で使用した片末端カルボキシル基含有化合物)
250mL容の3つ口フラスコに、スチレン104g、3−メルカプトプロピオン酸1.77gを投入し、80℃に加熱した。加熱後にAIBN(アゾビスイソブチロニトリル、和光純薬製)を100mg投入し40分反応させ、その後繰り返して2回AIBN(和光純薬製)を50mg投入し40分反応させた。その後、テトラヒドロフランを10g投入して反応を終了させた。反応液を再沈殿させ、カルボキシル基含有化合物を85g得た(重量平均分子量6100)。
<実施例1>
高分子1(200mg)、単層CNT(名城ナノカーボン社製)100mgを、オルトジクロロベンゼン(o−ジクロロベンゼン)15ml中に添加し、ホモジナイザーにて5分間分散させ、その後、フィルミックス40−40型(プライミックス社製)にて高せん断力を用いる分散処理(周速30m/s、2.5分間攪拌)を2回行い、分散液101(熱電変換層形成用組成物に該当)を得た。
基材として厚さ1.1mm、大きさ40mm×50mmのガラス基板を用いた。この基材をアセトン中で超音波洗浄した後、10分間UV(紫外線)−オゾン処理を行った。その後、この基材上の両端部側それぞれに、大きさ30mm×5mm、厚さ10nmの金を第1の電極および第2の電極として形成した。
調製した分散液101を、電極が形成された基材上にテフロン(登録商標)製の枠を貼り付け、その枠内に溶液を流し込み、60℃のホットプレート上で1時間乾燥させ、乾燥後に枠を取り外し、厚さ約1.1μmの熱電変換層を形成し、図2に示す構成の熱電変換素子101を作製した。
分散液中でのCNTの分散性、並びに、熱電変換層の導電率およびパワーファクターを下記の方法で評価した。
なお、CNTの分散性の評価としては、分散液の粘度を測定した。粘度が低いほうがCNTの凝集が生じておらず、CNTの分散性がよいことを表す。
[粘度測定]
レオメーター(サーモエレクトロン社製、HAAKE RheoStress 600)により、せん断速度20/s、温度25℃の下で、分散液の粘度を測定し、以下の基準により評価した。結果は、表1にまとめて示す。
「AAA」:粘度が1Pa・s未満の場合
「AA」:粘度が1Pa・s以上1.25Pa・s未満の場合
「A」:粘度が1.25Pa・s以上1.5Pa・s未満の場合
「B」:粘度が1.5Pa・s以上2.0Pa・s未満の場合
「C」:粘度が2.0Pa・s超の場合
[導電率、パワーファクター]
熱電変換素子の第1の電極を一定温度に保ったホットプレート上に設置し、第2の電極を温度制御用のペルチェ素子上を設置した。つまり、図2中の第1の電極23が位置する第1の基材22の下部にホットプレートを設置し、第2の電極25が位置する第1の基材22の下部にペルチェ素子を配置した。
ホットプレートの温度を一定(100℃)に保ちつつ、ペルチェ素子の温度を低下させることにより両電極間に温度差(0Kを超え4K以下の範囲)を付与した。
この時、両電極間に発生した熱起電力(μV)を両電極間に生じた特定の温度差(K)で除することにより、単位温度差当たりの熱起電力S(μV/K)を算出した。また同時に、両電極間に発生した電流を測定する事で導電率(S/cm)を算出した。パワーファクター(S・σ)(μW/m・K2)は、得られた熱起電力Sと導電率σから算出した。結果は、表1にまとめて示す。
<実施例2〜13、比較例1〜2>
使用する高分子、および/または、溶媒の種類を後述する表1のように変更した以外は、実施例1と同様の手順に従って、熱電変換素子を作製した。作製された分散液および熱電変換素子を用いて、各種評価を行った。結果は、表1にまとめて示す。
表1中、「質量比(高分子/CNT)」欄は、高分子の質量とCNTの質量との比である。
上記表1に示すように、本発明の熱電変換素子(熱電変換層)は、導電率およびパワーファクターに優れることが確認された。また、得られた熱電変換層形成用組成物中におけるCNTの分散性も優れていた。
なかでも、実施例2〜6の比較より、Raとしてポリマー鎖を使用した方がより優れた効果が得られることが確認され、特に、ポリエステル由来のポリマー鎖を使用した場合、特に優れた効果が得られることが確認された。
また、実施例2、7〜9の比較より、ポリエステル中の繰り返し単位数が15〜50において、より優れた効果が得られることが確認された。
また、実施例2、10〜11の比較より、質量比(高分子の質量/CNTの質量)が0.75〜1.75において、より優れた効果が得られることが確認された。
また、実施例2、12〜13の比較より、ポリアルキレンイミンの数平均分子量が300〜1500において、より優れた効果が得られることが確認された。
また、実施例1と2との比較より、ClogP値が3.0以下である溶媒を使用した場合、より優れた効果が得られることが確認された。
一方、所定の分散剤を使用していない比較例1および2においては、所望の効果が得られなかった。特に、比較例2は特許文献1に具体的に開示されているポリスチレンを使用した態様に該当する。
1、2 熱電変換素子
11、17 金属板
12、22 第1の基材
13、23 第1の電極
14、24 熱電変換層
15、25 第2の電極
16、26 第2の基材

Claims (16)

  1. 熱電変換層と、前記熱電変換層と電気的に接続する電極対とを有する熱電変換素子であって、
    前記熱電変換層が、カーボンナノチューブと、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種を有する高分子とを含有する、熱電変換素子。

    一般式(1)中、L1およびL2は、それぞれ独立に、2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。
    一般式(2)中、L1は、2価の連結基を表す。L3は、単結合または2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。Aは、アニオン性基を表す。
  2. 前記ポリマー鎖が、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、および、ポリアルキレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種に由来する、請求項に記載の熱電変換素子。
  3. 前記一般式(1)で表される繰り返し単位が一般式(3)で表される繰り返し単位であり、前記一般式(2)で表される繰り返し単位が一般式(4)で表される繰り返し単位である、請求項1または2に記載の熱電変換素子。

    一般式(3)中、L1は、2価の連結基を表す。L4は、単結合または2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。
    一般式(4)中、L1は、2価の連結基を表す。L3は、単結合または2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。
  4. 前記高分子が、ポリアルキレンイミンと、少なくとも片末端にカルボキシル基を有するポリエステルとを反応させて得られる高分子である、請求項1〜のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
  5. 前記ポリアルキレンイミンの数平均分子量が300〜1500である、請求項に記載の熱電変換素子。
  6. カーボンナノチューブと、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種を有する高分子とを含有する、熱電変換層。

    一般式(1)中、L1およびL2は、それぞれ独立に、2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。
    一般式(2)中、L1は、2価の連結基を表す。L3は、単結合または2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。Aは、アニオン性基を表す。
  7. 前記ポリマー鎖が、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、および、ポリアルキレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種に由来する、請求項に記載の熱電変換層。
  8. 前記一般式(1)で表される繰り返し単位が一般式(3)で表される繰り返し単位であり、前記一般式(2)で表される繰り返し単位が一般式(4)で表される繰り返し単位である、請求項6または7に記載の熱電変換層。

    一般式(3)中、L1は、2価の連結基を表す。L4は、単結合または2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。
    一般式(4)中、L1は、2価の連結基を表す。L3は、単結合または2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。
  9. 前記高分子が、ポリアルキレンイミンと、少なくとも片末端にカルボキシル基を有するポリエステルとを反応させて得られる高分子である、請求項6〜8のいずれか1項に記載の熱電変換層。
  10. 前記ポリアルキレンイミンの数平均分子量が300〜1500である、請求項に記載の熱電変換層。
  11. カーボンナノチューブと、一般式(1)で表される繰り返し単位および一般式(2)で表される繰り返し単位からなる群から選択される少なくとも1種を有する高分子とを含有する、熱電変換層形成用組成物。

    一般式(1)中、L1およびL2は、それぞれ独立に、2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。
    一般式(2)中、L1は、2価の連結基を表す。L3は、単結合または2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。Aは、アニオン性基を表す。
  12. 前記ポリマー鎖が、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリスチレン、および、ポリアルキレングリコールからなる群から選択される少なくとも1種に由来する、請求項11に記載の熱電変換層形成用組成物。
  13. 前記一般式(1)で表される繰り返し単位が一般式(3)で表される繰り返し単位であり、前記一般式(2)で表される繰り返し単位が一般式(4)で表される繰り返し単位である、請求項11または12に記載の熱電変換層形成用組成物。

    一般式(3)中、L1は、2価の連結基を表す。L4は、単結合または2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。
    一般式(4)中、L1は、2価の連結基を表す。L3は、単結合または2価の連結基を表す。Raは、ポリマー鎖を表す。
  14. 前記高分子が、ポリアルキレンイミンと、少なくとも片末端にカルボキシル基を有するポリエステルとを反応させて得られる高分子である、請求項11〜13のいずれか1項に記載の熱電変換層形成用組成物。
  15. 前記ポリアルキレンイミンの数平均分子量が300〜1500である、請求項14に記載の熱電変換層形成用組成物。
  16. さらに、ClogP値が3.0以下であるアルコール系溶媒を含む、請求項11〜15のいずれか1項に記載の熱電変換層形成用組成物。
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