JP6110818B2 - 熱電変換材料、熱電変換素子ならびにこれを用いた熱電発電用物品およびセンサー用電源 - Google Patents

熱電変換材料、熱電変換素子ならびにこれを用いた熱電発電用物品およびセンサー用電源 Download PDF

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Description

本発明は、熱電変換材料、熱電変換素子ならびにこれを用いた熱電発電用物品およびセンサー用電源に関する。
近年、地球環境に配慮して、従来の化石エネルギーから再生可能エネルギーへの移行が求められている。この状況において、熱電発電は、熱エネルギーを直接電力に変換することができるため、太陽熱発電、地熱発電、温水熱発電、工業炉や自動車からの排熱等、未利用の膨大な熱エネルギーを有効活用できる点で注目されている。具体的には、熱電発電は、体温で作動する腕時計や僻地用電源、宇宙用電源等への実用化が検討されている。
熱電発電には、熱エネルギーと電気エネルギーを相互に変換することができる熱電変換材料を用いて作製された熱電変換素子(熱電発電素子ともいう)が用いられる。熱電変換材料は、無機熱電変換材料および有機熱電変換材料があり、なかでもカーボンナノチューブ(CNTという場合がある)を用いた材料が注目されている。
例えば、カーボンナノチューブ微粒子を分散させたフレキシビリティーを有する有機材料(特許文献1)、半導体特性を有する単層カーボンナノチューブの内部にビスマス等の熱電変換材を充填したナノワイヤ(特許文献2)等が挙げられる。
なお、熱測定装置では、半導体性CNTと金属性CNTとの混合物を含むカーボンナノチューブの集合体(特許文献3)を使用した温度センサーが知られている。
国際公開第2012/121133号パンフレット 特開2007−59647号公報 特開2012−122864号公報
しかし、これら特許文献に記載された材料を用いても、カーボンナノチューブの分散性、導電率等の熱電変換性能は十分ではなく、改善の余地がある。
本発明は、導電性、熱起電力および電気的安定性に優れ、熱伝導率の低い熱電変換材料および熱電変換素子、ならびに、この熱電変換素子を用いた熱電発電用物品およびセンサー用電源を提供することを課題とする。
本発明者らは、熱電変換を形成する材料として用いられるカーボンナノチューブについて検討した結果、単層カーボンナノチューブ(SWCNTということがある)は、金属性、すなわち金属的な電気伝導性を示す構造を持つ単層カーボンナノチューブ(金属性単層カーボンナノチューブということがある)と、半導体性、すなわち半導体的な電気伝導性を示す構造を持つ単層カーボンナノチューブ(半導体性単層カーボンナノチューブということがある)が存在するが、使用する全SWCNT中の半導体性SWCNTの存在比率が、バインダー、好ましくは高分子のバインダーと使用する場合に重要であることを見出した。
さらに詳細な検討を行った結果、熱電変換層が、全単層カーボンナノチューブのうちの90%以上が半導体性単層カーボンナノチューブである単層カーボンナノチューブとバインダーとを含有していると、半導体性SWCNTは金属性SWCNTよりも電気伝導率が低いにもかかわらず導電性が向上し、熱起電力および電気的安定性も向上し、しかも半導体性単層カーボンナノチューブの存在比率が低い場合に比べて熱伝導率が低下して、優れた熱電変換性能が得られることを見出した。
本発明は、これらの知見に基づいて完成された。
すなわち、上記の課題は以下の手段により達成された。
(1)基材上に、第1の電極、熱電変換層および第2の電極を有する熱電変換素子であって、熱電変換層が単層カーボンナノチューブとバインダーとを含有し、単層カーボンナノチューブが半導体性単層カーボンナノチューブを90%以上含有し、バインダーの少なくとも1種が共役高分子である熱電変換素子。
(2)熱電変換層中の、全固形分における単層カーボンナノチューブの含有率が10質量%以上である(1)に記載の熱電変換素子。
(3)バインダーの少なくとも1種が、非共役高分子である(1)または(2)に記載の熱電変換素子。
)半導体性単層カーボンナノチューブが、全単層カーボンナノチューブのうちの98%以下である(1)〜()のいずれか1つに記載の熱電変換素子。
)(1)〜()のいずれか1つに記載の熱電変換素子を用いた熱電発電用物品。
)(1)〜()のいずれか1つに記載の熱電変換素子を用いたセンサー用電源。
)熱電変換素子の熱電変換層を形成するための熱電変換材料であって、熱電変換材料が、単層カーボンナノチューブとバインダーとを含有し、単層カーボンナノチューブが半導体性単層カーボンナノチューブを90%以上含有し、バインダーの少なくとも1種が共役高分子である熱電変換材料。
)有機溶媒を含む()に記載の熱電変換材料。
)単層カーボンナノチューブを有機溶媒中に分散してなる()に記載の熱電変換材料。
本発明において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明の熱電変換材料および本発明の熱電変換材料で形成された熱伝変換層は、単層カーボンナノチューブの分散性がよく、優れた導電性および熱伝導率を発現する。したがって、本発明の熱電変換素子は、熱起電力および電気的安定性に優れ、しかも低い熱伝導率を発揮する。また、本発明の熱電変換素子を用いた本発明の熱電発電用物品およびセンサー用電源等は優れた熱電変換性能を発揮する。
本発明の熱電変換素子の一例の断面を模式的に示す図である。図1中の矢印は熱電変換素子の使用時に付与される温度差の方向を示す。 本発明の熱電変換素子の別の一例の断面を模式的に示す図である。図2中の矢印は熱電変換素子の使用時に付与される温度差の方向を示す。 実施例で製造した熱電変換素子の模式正面図である。
本発明の熱電変換素子は、基材上に、第1の電極、熱電変換層および第2の電極を有し、熱電変換層が、全単層カーボンナノチューブのうちの90%以上が半導体性単層カーボンナノチューブである単層カーボンナノチューブとバインダーとを含有している。この熱電変換層は後述する本発明の熱電変換材料によって基材上に成膜されている。
本発明の熱電変換素子の熱電変換性能は、下記式(A)で示される性能指数ZTによりはかることができる。
性能指数ZT=S・σ・T/κ (A)
式(A)において、 S(V/K):絶対温度1K当りの熱起電力(ゼーベック係数)
σ(S/m):導電率
κ(W/mK):熱伝導率
T(K):絶対温度
上記式(A)から明らかなように、熱電変換性能の向上には、熱起電力Sおよび導電率σを高めるとともに、熱伝導率κを下げることが重要となる。このように熱電変換性能には、導電率σ以外のファクターが大きく影響するため、一般的に導電率σが高いとされる材料であっても、熱電変換材料として有効に機能するかは実際のところ未知数である。
本発明は、熱電変換特性の向上の要求に応えるものである。すなわち、本発明の熱電変換素子は、全単層カーボンナノチューブのうち半導体性単層カーボンナノチューブの存在比率を90%以上にして、あえて電気伝導率を低くした単層カーボンナノチューブとバインダーとを含有する本発明の熱電変換材料で成膜された熱電変換層を備える。これにより、後述の実施例で示されているように、導電率σ、熱起電力Sおよび電気的安定性が向上し、しかも半導体性単層カーボンナノチューブの存在比率が低い単層カーボンナノチューブを含有する熱電変換層を備えた熱電変換素子に比べて熱伝導率κが低下して、優れた熱電変換性能を発現する。
なお、熱電変換素子は、熱電変換層の厚さ方向または面方向に温度差が生じている状態で、厚さ方向または面方向に温度差を伝達するように機能するため、ある程度の厚みを有する形状に熱電変換層を成膜するのが望ましい。そのため、熱電変換層を熱電変換材料の塗布により成膜する場合には、熱電変換材料には良好な塗布性や成膜性が要求される。本発明の熱電変換材料は、単層カーボンナノチューブの分散性が良好で塗布性や成膜性にも優れ、熱電変換層の成膜に適する。
以下、本発明の熱電変換材料、次いで本発明の熱電変換素子等について、説明する。
[熱電変換材料]
本発明の熱電変換材料は、熱電変換素子の熱電変換層を形成するための熱電変換組成物であって、単層カーボンナノチューブおよびバインダーを含有し、バインダー中に単層カーボンナノチューブが分散している。
まず、本発明の熱電変換材料に用いる各成分について説明する。
<単層カーボンナノチューブ>
一般に、カーボンナノチューブは、炭素膜(グラフェンシート)を筒状に丸めた形状を有し、1枚のグラフェンシートが円筒状に巻かれた単層カーボンナノチューブ、2枚のグラフェンシートが同心円状に巻かれた2層カーボンナノチューブ、複数のグラフェンシートが同心円状に巻かれた多層カーボンナノチューブ(MWCNT)に分類される。本発明においては、これらのうち単層カーボンナノチューブを用いる。
SWCNTは、グラフェンシートの円筒面における炭素原子の配列構造によって性質が異なることが知られている。グラフェンシートの六角形の向きはSWCNTの軸に対して任意の方向をとることができ、このとき発生したらせん構造をカイラルといい、任意の6員環の基準点からの2次元格子ベクトルのことをカイラルベクトル(Ch)と呼ぶ。カイラルベクトル(Ch)は、下記式(I)で示される。式(I)中のa、bは、互いに直交する単位ベクトルを表す。式中の(n、m)をカイラル指数という。
式(I) Ch=na+mb
SWCNTの立体構造は、このカイラル指数(n、m)に従って下記の3種類の構造をとることが知られており、構造に応じて電気的性質が異なる。
(i)n=mの場合:アームチェア型と称される炭素原子の配列構造をとり、金属性を示す。
(ii)m=0の場合:ジグザグ型と称される炭素原子の配列構造をとる。
(iii)上記以外:カイラルチューブと呼ばれる。
また、(n−m)が3の倍数では金属性を、3の倍数以外では半導体の特性を示すことが知られている。
本発明で用いるSWCNTは、複数のSWCNTを含有するSWCNT集合体であって、全SWCNTのうちの90%以上が半導体性SWCNTである。すなわち、SWCNTは、全SWCNTのうちの90%以上の半導体性SWCNTと10%以下の金属性SWCNTとを含有している。
本発明の熱電変換材料が、全単層カーボンナノチューブのうちの90%以上が半導体性単層カーボンナノチューブであるSWCNTを後述するバインダーと共に含有していると、導電率、熱起電力および電気的安定性が向上し、しかも、半導体性単層カーボンナノチューブの存在比率が低い単層カーボンナノチューブを含有する熱電変換材料に比べて熱伝導率が低下して、優れた熱電変換性能を発現する熱電変換層が得られる。
なお、半導体性SWCNTと金属性SWCNTとの存在比率において、半導体性SWCNTが90%以上であると、導電性および起電力が向上する。さらに、このような存在比率であるとSWCNT全体の電気的性質が均質になるため、このようなSWCNTを含む熱電変換材料を用いた熱電変換素子の電気抵抗がより低くなり、熱電変換層の面内の電気抵抗値のバラツキが小さくなる、すなわちバラツキの抑制が可能となるものと思われる。
これに加えて、このような電気的性質が均質なSWCNTを使用することで、熱電変換材料中のSWCNTの分散性が向上し、熱電変換層でのSWCNT間の接触頻度が大きくなり、熱伝導率に寄与するフォノン散乱が大きくなるものと推定される。
このような効果は、バインダーを使用することで、顕著となると考えられる。
通常、SWCNTは、金属性SWCNTと半導体性SWCNTとの混合物であり、金属性SWCNTと半導体性SWCNTとの存在比(半導体性SWCNT:金属性SWCNT)は、どの構造のSWCNTも、等確率で合成されるならば、2:1となる。しかし、実際には、偶然の存在比によって金属性SWCNTと半導体性SWCNTとが混在し、存在比は変化する。
本発明においては、このような混合物からなるSWCNTのなかでも、全SWCNTのうちの90%以上が半導体性SWCNTであるSWCNT、すなわち存在比が9:1以上のSWCNTを用いる。SWCNT中の半導体性SWCNTの存在比率は、熱電変換層の膜質、熱電変換性能等の点で、90〜98%が好ましく、93〜98%がさらに好ましい。
SWCNT中の半導体性SWCNTの存在比率は、Nair.N, Usrey ML, Kim WJ, Braatz RD, Strano MS, “Estimation of the (n,m) concentration distribution of single−walled carbon nanotubes from photoabsorption spectra” Anal. Chem.,2006,78(22),7689〜7696に記載された方法で、決定することができる。具体的には、吸収スペクトルに基づいて決定できる。これは、SWCNTの構造に依存して光吸収特性が大きく変化するためである。用いるSWCNTを例えばデオキシコール酸ナトリウム等で純水中に分散させ、その吸収スペクトルを可視−近赤外領域で測定すると、用いたSWCNTの構造によってエネルギーは異なるが、エネルギーがおよそ0.5〜1.6eV付近に半導体性SWCNTの光吸収(S11、S22)に由来するピークが観測され、エネルギーが1.3〜2eV付近に金属性SWCNTの光吸収(M11)に由来するピークが観測される。これらピークの面積や吸光度を比較することで、金属性SWCNTと半導体性SWCNTとの存在比率を決定することが可能である。
金属性SWCNTと半導体性SWCNTの存在比率を次の方法により決定できる。例えば、半導体性SWCNTの存在比率が100%のSWCNTを一定量含むSWCNT分散溶液と、半導体性SWCNTの存在比率が0%のSWCNTを一定量含む分散溶液の吸収スペクトルから、金属性SWCNTもしくは半導体性SWCNTの組成比と吸光度の関係を示す検量線を予め作成しておき、用いるSWCNTの分散溶液の吸収スペクトルにおける金属性SWCNTもしくは半導体性SWCNTの吸光度と検量線とを比較して、上記SWCNTの分散溶液の金属性SWCNTと半導体性SWCNTの比率を決定することができる。
本発明で用いるSWCNTは、全単層カーボンナノチューブのうち半導体性SWCNTを90%以上含有するものであればよく、半導体性SWCNTおよび金属性SWCNTの種類は特に限定されない。すなわち、本発明のSWCNTに含有される半導体性SWCNTは、上述のカイラル指数の差(n−m)が3の倍数以外のものであれば、そのカイラル指数(n、m)は特に限定されず、1種の半導体性SWCNTであっても、複数種の半導体性SWCNTの混合物であってもよい。同様に、SWCNTに含有される金属性SWCNTも、(n−m)が3の倍数であれば、そのカイラル指数(n、m)は特に限定されず、1種の金属性SWCNTであっても、複数種の金属性SWCNTの混合物であってもよい。
本発明で用いるSWCNTのサイズは、ナノメートルサイズであれば特に限定されない。本発明で用いるCNTの長軸方向の平均長さ(単に長さともいう。)は、特に限定されないが、製造容易性、成膜性、導電性の観点から、0.01μm以上2000μm以下が好ましく、0.01μm以上1000μm以下がより好ましく、0.1μm以上1000μm以下がさらに好ましい。長さは、1μm以上1000μm以下であることが特に好ましく、また0.1μm以上100μm以下であることも特に好ましい。長さの下限については、0.01μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、1μm以上が特に好ましい。長さの上限については、2000μm以下が好ましく、1000μm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましい。
本発明で用いるSWCNTの直径は、特に限定されないが、耐久性、透明性、成膜性、導電性等の観点から、0.4nm以上100nm以下が好ましい。直径の上限については、50nm以下が好ましく、15nm以下がより好ましい。本発明においては、0.5nm以上3nm以下がより好ましく、さらに好ましくは1.0nm以上3nm以下、特に好ましくは1.0nm以上2.5nmである。SWCNTの直径の測定方法については後述する。
CNTには、欠陥のあるCNTが含まれていることがある。このようなCNTの欠陥は、熱電変換層用分散物などの導電性を低下させるため、低減することが好ましい。CNTの欠陥の量は、ラマンスペクトルのG−バンドとD−バンドの強度比G/D(以下、G/D比という。)で見積もることができる。G/D比が高いほど欠陥の量が少ないCNT材料であると推定できる。本発明で用いるSWCNTは、G/D比が10以上であることが好ましく、30以上であることがより好ましい。SWCNTのG/D比の測定方法については後述する。
熱電変換材料中のSWCNTの含有率(濃度)は、熱電変換性能等の点で、熱電変換材料の全固形分中、すなわち熱電変換層の全固形分中、10質量%以上が好ましく、10〜90質量%がより好ましく、10〜70質量%がさらに好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。
本発明では、本発明で使用するSWCNTは、90%以上の半導体性SWCNTを含むならば、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、カーボンナノフィラメント、カーボンナノコイル、気相成長カーボン(VGCF)、コップ型のナノカーボン物質等の不純物を含有していてもよい。また、SWCNTは、金属等が内包されていてもよく、フラーレン等の分子が内包されていてもよい(特にフラーレンを内包したものをピーポッドという)。SWCNTは不純物の含有率が5質量%未満であることが好ましく、1質量%未満であることがより好ましい。
本発明で使用するSWCNTは、90%以上の半導体性SWCNTを含むならば、市販品を用いても、新たに合成してもよい。
なお、市販品としては、例えば「IsoNanotubes−S」(商品名、NanoIntegris社製)等が挙げられる。
全単層カーボンナノチューブのうち半導体性SWCNTが90%以上であるSWCNTを新たに合成して得る方法を以下に説明する。
なお、通常の合成方法で得られるSWCNTは、半導体性SWCNTおよび金属性SWCNTからなるため、合成されたSWCNTは半導体性SWCNTおよび金属性SWCNTの存在比率が合成条件等で変化する。したがって、本発明で用いるSWCNTは、従来の製造方法によって存在比率不定の混合物であるSWCNTを合成し、次いで、通常、金属性SWCNTと半導体性SWCNTとを分離し、必要に応じて半導体性SWCNTの存在比率を調整して、製造できる。
SWCNTの合成方法は、例えば、アーク放電法、化学気相成長法(以下、CVD法という)、レーザー・アブレーション法等が挙げられる。合成されたSWCNTは、いずれの方法によって得られたものであってもよいが、好ましくはアーク放電法およびCVD法によって得られたものである。
SWCNTを合成する際には、同時にフラーレンやグラファイト、非晶性炭素が副生成物として生じることがある。合成して得られたSWCNTは、そのまま後述する分離工程に用いることもでき、また、これら副生成物を除去したものを用いることもできる。精製方法は、特に限定されないが、洗浄、遠心分離、ろ過、酸化、クロマトグラフ、硝酸または硫酸等による酸処理、超音波処理、フィルターによる分離除去等が挙げられる。
合成で得られたSWCNTは、一般に紐状で生成されるため、用途に応じて所望の長さにカットまたは粉砕して用いてもよい。SWCNTの切断方法は、例えば、硝酸、硫酸等による酸処理、超音波処理、凍結粉砕法等が挙げられる。また、SWCNTの粉砕方法は、例えば、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等のボール型混練装置等が挙げられる。なお、合成方法等を調整して、予め短繊維状に作製したSWCNTを用いることもできる。
このようにして製造されたSWCNTにおいて、金属性SWCNTと半導体性SWCNTとを分離する。金属性SWCNTと半導体性SWCNTとの分離方法は、各種検討されている。例えば、過酸化水素を使用する方法、アガロースゲルを用いて分離する方法、金属性SWCNTと半導体性SWCNTとの帯電の仕方の相違を利用して分離する方法(特許第2522469号公報の[0012])、密度勾配遠心分離法を用いる方法(Michael S. ARNOLD, ALEXANDER A. GREEN, JAMES F. HULVAT, SAMUEL I. STUPP AND MARK C. HERSAM, “Sorting carbon nanotubes by electronic structure using density differentiation”, Nature Nanotechnology,Vol.1,60〜65,2006)等が知られている。本発明においては、これらの分離方法を特に限定されることなく採用でき、密度勾配遠心分離法を用いる方法が好ましい。
このようにして、全単層カーボンナノチューブのうち半導体性SWCNTが90%以上であるSWCNTを得ることができる。
半導体性SWCNTの存在比率を所望の値に調整する場合は、例えば、分離された金属性SWCNTと半導体性SWCNTとを適宜の割合で混合すればよい。なお、上述のようにして合成したSWCNTまたは分離したSWCNTが、全単層カーボンナノチューブのうち半導体性SWCNTが90%以上である場合には、分離工程および半導体性SWCNTの存在比率の調整は必須ではなく、必要によっては、不純物のみ除去すればよい。
<バインダー>
本発明の熱電変換材料は、バインダーを含有する。上述の、半導体性SWCNTを90%以上含有するSWCNTと共にバインダーを用いることで、上述のように、熱電変換素子の熱電変換性能が向上する。
このようなバインダーとしては、特に限定されないが、共役高分子および非共役高分子が挙げられる。したがって、本発明の熱電変換材料は、共役高分子および非共役高分子からなる群より選択される少なくとも1種の高分子化合物をバインダーとして含有するのが好ましい。複数の高分子化合物を含有する場合には、同種の高分子化合物を複数含有していても、また異種の高分子化合物を複数含有していてもよく、少なくとも1種が共役高分子または非共役高分子であるのが好ましく、少なくとも1種の共役高分子と少なくとも1種の非共役高分子との混合物であるのが好ましい。このような混合物を含有していると、SWCNTの分散性が向上し、熱電変換材料で成膜された熱電変換層の熱電変換性能および膜質等が向上する。
本発明において、高分子化合物が共重合体であるときは、ブロック共重合体、ランダム共重合体、交互共重合体であってもよく、またグラフト共重合体等であってもよい。
バインダーとしての高分子化合物は、必ずしも高分子量化合物である必要はなく、オリゴマーであってもよく、例えば、重量平均分子量で5,000以上が好ましく、7,000〜300,000がより好ましい。
熱電変換材料中の高分子化合物の含有率は、特に限定されないが、熱電変換性能等の点から、熱電変換材料および熱電変換層の全固形分中、5〜90質量%が好ましく、10〜80質量%がより好ましく、20〜70質量%がより好ましく、20〜60質量%がさらに好ましい。
熱電変換材料中の共役高分子の含有率は、特に限定されないが、熱電変換性能等の点から、上述の高分子化合物の含有率を満たす範囲内であればよく、例えば、上述の範囲内において、熱電変換材料および熱電変換層の全固形分中、15〜70質量%が好ましく、25〜60質量%がより好ましく、30〜50質量%がさらに好ましい。
同様に、熱電変換材料中の非共役高分子の含有率は、特に限定されないが、熱電変換性能の点から、上述の高分子化合物の含有率を満たす範囲内であればよく、例えば、上述の範囲内において、熱電変換材料および熱電変換層の全固形分中、20〜70質量%が好ましく、30〜65質量%がより好ましく、35〜60質量%がさらに好ましい。
熱電変換材料が共役高分子および非共役高分子を含有する場合は、上述の含有率を満たす範囲内において、非共役高分子の含有率は、共役高分子100質量部に対して、10〜1500質量部が好ましく、30〜1200質量部がより好ましく、80〜1000質量部が特に好ましい。
熱電変換材料中の、SWCNTと高分子化合物との含有比(SWCNT:高分子化合物)は、質量基準で、0.05:1〜4:1が好ましく、0.1:1〜2.3:1がさらに好ましい。上述の含有比が上記範囲内にあると、SWCNTの分散性がさらに向上して、良好な成膜性を発現する熱電変換材料となる。
1.共役高分子
共役高分子は、主鎖がπ電子または孤立電子対で共役する共役構造を有する高分子化合物であれば特に限定されない。このような共役構造として、例えば、主鎖上の炭素−炭素結合において一重結合と二重結合とが交互に連なる構造が挙げられる。
このような共役高分子としては、チオフェン化合物、ピロール化合物、アニリン化合物、アセチレン化合物、p−フェニレン化合物、p−フェニレンビニレン化合物、p−フェニレンエチニレン化合物、p−フルオレニレンビニレン化合物、フルオレン化合物、芳香族ポリアミン化合物(アリールアミン化合物ともいう)、ポリアセン化合物、ポリフェナントレン化合物、金属フタロシアニン化合物、p−キシリレン化合物、ビニレンスルフィド化合物、m−フェニレン化合物、ナフタレンビニレン化合物、p−フェニレンオキシド化合物、フェニレンスルフィド化合物、フラン化合物、セレノフェン化合物、アゾ化合物、および金属錯体化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含む共役高分子が挙げられる。
なかでも熱電変換性能の観点から、チオフェン化合物、ピロール化合物、アニリン化合物、アセチレン化合物、p−フェニレン化合物、p−フェニレンビニレン化合物、p−フェニレンエチニレン化合物、フルオレン化合物およびアリールアミン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含む共役高分子が好ましい。
上記の各化合物が有してもよい置換基は、特に制限はないが、他の成分との相溶性、用いうる分散媒の種類等を考慮して、分散媒への共役高分子の分散性を高めうるものが好ましい。
このような置換基の一例として、分散媒として有機溶媒を用いる場合、直鎖、分岐または環状のアルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基のほか、アルコキシアルキレンオキシ基、アルコキシアルキレンオキシアルキル基、クラウンエーテル基、アリール基等を好ましく用いることができる。これらの基は、さらに置換基を有してもよい。また、置換基の炭素数に特に制限はないが、好ましくは1〜12、より好ましくは4〜12であり、特に炭素数6〜12の長鎖のアルキル基、アルコキシ基、チオアルキル基、アルコキシアルキレンオキシ基、アルコキシアルキレンオキシアルキル基が好ましい。
一方、分散媒として水または水を含む混合溶媒を用いる場合は、各モノマーの末端または置換基は、さらに、カルボキシ基、スルホ基、水酸基、リン酸基等の親水性基を有することが好ましい。他にも、ジアルキルアミノ基、モノアルキルアミノ基、アミノ基、カルボキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミド基、カルバモイル基、ニトロ基、シアノ基、イソシアネート基、イソシアノ基、ハロゲン原子、パーフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基等を有することができ、好ましい。
置換基の数も特に制限されず、共役高分子の分散性や相溶性、導電性等を考慮して、1個または複数個が好ましい。
上記共役高分子は、具体的には、特開2012−251132号公報の[0014]〜[0047]に記載の「導電性高分子」を好適に用いることができ、好ましくはこの内容は本願明細書に組み込まれる。
2.非共役高分子
非共役高分子は、ポリマー主鎖の共役構造で導電性を示さない高分子化合物である。具体的には、ポリマー主鎖が、芳香環(炭素環系芳香環、ヘテロ芳香環)、エチニレン結合、エテニレン結合および孤立電子対を有するヘテロ原子から選択される環、基または原子から構成されている高分子以外の高分子である。
本発明では、このような条件を満たす非共役高分子であれば、その種類は特に限定されず、通常知られている非共役高分子を用いることができる。好ましくは、ビニル化合物、(メタ)アクリレート化合物、カーボネート化合物、エステル化合物、アミド化合物、イミド化合物、フッ素化合物およびシロキサン化合物からなる群より選択される少なくとも1種の化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含む非共役高分を用いる。
これらの化合物は置換基を有していてもよく、置換基としては共役高分子の置換基と同じものが挙げられる。
ビニル化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含むポリビニル化合物において、ビニル化合物は、分子内に炭素−炭素二重結合を有する化合物であれば特に限定されない。ビニル化合物として、具体的には、スチレン、ビニルピロリドン、ビニルカルバゾール、ビニルピリジン、ビニルナフタレン、ビニルフェノール、酢酸ビニル、スチレンスルホン酸、ビニルアルコール、ビニルトリフェニルアミン等のビニルアリールアミン、ビニルトリブチルアミン等のビニルトリアルキルアミン等が挙げられる。また、他のビニル化合物として、例えば、ポリオレフィンの構成成分に対応するオレフィンである炭素数2〜4のオレフィン(エチレン、プロピレン、ブテン等)が挙げられる。
(メタ)アクリレート化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含むポリ(メタ)アクリレートにおいて、(メタ)アクリレート化合物は、アクリレート化合物およびメタクリレート化合物の双方またはいずれかであり、これらの混合物をも包含する。(メタ)アクリレート化合物としては、具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート等の無置換アルキル基含有疎水性アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、1−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、1−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、1−ヒドロキシブチルアクリレート等の水酸基含有アクリレート等のアクリレートモノマー、これらのモノマーのアクリロイル基をメタクリロイル基に換えたメタクリレート系モノマー等が挙げられる。
カーボネート化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含むポリカーボネートの具体例として、ビスフェノールAとホスゲンからなる汎用ポリカーボネート、ユピゼータ(商品名、三菱ガス化学株式会社製)、パンライト(商品名、帝人化成株式会社製)等が挙げられる。
エステル化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含むポリエステルを形成する化合物として、ポリアルコールおよびポリカルボン酸、乳酸等のヒドロキシ酸が挙げられる。ポリエステルの具体例として、バイロン(商品名、東洋紡績株式会社製)等が挙げられる。
アミド化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含むポリアミドの具体例として、PA−100(商品名、株式会社T&K TOKA製)等が挙げられる。
イミド化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含むポリイミドの具体例として、ソルピー6,6−PI(商品名、ソルピー工業株式会社製)等が挙げられる。
フッ素化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含むフッ素樹脂を形成するフッ素化合物として、具体的には、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル等が挙げられる。
シロキサン化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含むポリシロキサンとして、具体的には、ポリジフェニルシロキサン、ポリフェニルメチルシロキサン等が挙げられる。
非共役高分子は、可能であれば、単独重合体でも、上述の各化合物等との共重合体であってもよい。
本発明では、非共役高分子として、ビニル化合物またはカーボネート化合物に対応する構成成分を繰り返し構造として含む非共役高分子を用いることがより好ましい。
非共役高分子は、疎水性であることが好ましく、スルホン酸や水酸基等の親水性基を分子内に有しないことがより好ましい。また、溶解度パラメータ(SP値)が11以下の非共役高分子が好ましい。SP値が11以下の非共役高分子としては、ポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリ酢酸ビニル等のポリビニル化合物、ポリメチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート等のポリ(メタ)アクリレート、ポリエステル、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂等が好ましく、ポリスチレン、ポリビニルナフタレン、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネートがより好ましい。
本発明の熱電変換材料が共役高分子と非共役高分子とを含有していると、熱電変換性能をより一層向上させることができる。そのメカニズムについては、まだ定かではないが、(1)非共役高分子は最高被占軌道(HOMO)準位と最低空軌道(LUMO)準位の間のギャップ(バンドギャップ)が広いため、共役高分子中のキャリア濃度を適度に低く保てる点で、非共役高分子を含まない系よりもゼーベック係数を高いレベルで保持でき、(2)一方で、共役高分子とSWCNTとの共存によりキャリアの輸送経路がさらに形成されることで、高い導電率を保持できるため、と推定される。すなわち、熱電変換材料中に、SWCNT、ならびに、非共役高分子および共役高分子それぞれの少なくとも1種を共存させることで、ゼーベック係数と導電率の双方を向上させることが可能となり、結果として熱電変換性能(ZT値)が大きく向上する。
本発明の熱電変換材料には上記の共役高分子または非共役高分子を1種単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
<分散媒>
本発明の熱電変換材料は、上述したSWCNTおよびバインダーに加えて、分散媒(溶媒ともいう)を含有することが好ましい。本発明の熱電変換材料は、分散媒中にバインダーが溶解し、SWCNTが分散されたSWCNT分散液であることがより好ましい。
分散媒は、各成分を良好に分散又は溶解できればよく、水、有機溶媒およびこれらの混合溶媒を用いることができる。好ましくは有機溶媒である。有機溶媒としては、アルコール、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、DMF、NMP、DMSO等の非プロトン性の極性溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、テトラメチルベンゼン、ピリジン等の芳香族系溶媒、シクロヘキサノン、アセトン、メチルエチルケントン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、THF、t−ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル系溶媒等が好ましく、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、DMF、NMP等の非プロトン性の極性溶媒、ジクロロベンゼン、キシレン、メシチレン、テトラリン、テトラメチルベンゼン等の芳香族系溶媒、THF等のエーテル系溶媒等がより好ましい。
本発明の熱電変換材料には分散媒を1種単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
分散媒は、あらかじめ脱気しておくことが好ましい。分散媒中における溶存酸素濃度を10ppm以下とすることが好ましい。脱気の方法としては、減圧下超音波を照射する方法、アルゴン等の不活性ガスをバブリングする方法等が挙げられる。
さらに、有機溶媒、および、水を含まない混合溶媒は、あらかじめ脱水しておくことが好ましく、水分量を1000ppm以下とすることがより好ましく、100ppm以下とすることがさらに好ましい。脱水方法としては、モレキュラーシーブを用いる方法、蒸留等、公知の方法を用いることができる。
熱電変換材料中の分散媒量は、熱電変換材料の全量に対して、25〜99.99質量%が好ましく、30〜99.95質量%がより好ましく、30〜99.9質量%がさらに好ましい。すなわち、熱電変換材料において、SWCNTおよびバインダー等の各固形分濃度を合計した総固形分濃度は、0.01〜75質量%が好ましく、0.05〜70質量%がより好ましく、0.1〜70質量%がさらに好ましい。
<他の成分>
本発明の熱電変換材料は、上記成分の他に、金属元素、酸化防止剤、耐光安定剤、耐熱安定剤、可塑剤等を含有していてもよい。他の成分の含有率は、熱電変換材料および熱電変換層の全固形分中、5質量%以下が好ましく、0〜2質量%がさらに好ましい。
金属元素は、特に限定されないが、原子量45〜200の金属元素が好ましく、遷移金属元素が更に好ましく、亜鉛、鉄、パラジウム、ニッケル、コバルト、モリブデン、白金、スズであることが特に好ましい。金属元素は、単体、イオン等として、1種単独でまたは2種以上含有されているのが好ましい。金属元素の混合率は、熱電変換材料および熱電変換層の全固形分中、50〜30000ppmが好ましい。金属元素濃度は、例えば、ICP質量分析(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)装置(例えば、株式会社島津製作所製「ICPM−8500」(商品名))、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(例えば、株式会社島津製作所製「EDX−720」(商品名))等の公知の分析法により定量することができる。
酸化防止剤としては、イルガノックス1010(日本チバガイギー製)、スミライザーGA−80(住友化学工業(株)製)、スミライザーGS(住友化学工業(株)製)、スミライザーGM(住友化学工業(株)製)等が挙げられる。耐光安定剤としては、TINUVIN 234(BASF製)、CHIMASSORB 81(BASF製)、サイアソーブUV−3853(サンケミカル製)等が挙げられる。耐熱安定剤としては、IRGANOX 1726(BASF製)が挙げられる。可塑剤としては、アデカサイザーRS(アデカ製)等が挙げられる。
<熱電変換材料の調製>
本発明の熱電変換材料は、上記の各成分を混合して調製することができる。好ましくは、分散媒にSWCNTおよびバインダー、所望により他の成分を混合して、各成分を溶解または分散させて調製する。このとき、熱電変換材料中の各成分は、SWCNTが分散状態で、バインダー等および他の成分が分散または溶解しているのが好ましく、SWCNT以外の成分が溶解状態であることがより好ましい。SWCNT以外の成分が溶解状態であると、粒界による導電率の低下抑制効果が得られる。なお、分散状態とは、長時間(目安としては1ヶ月以上)保存しても分散媒中で沈降しない程度の粒径を有する分子の集合状態であり、また、溶解状態とは分散媒中にて1個の分子状態で溶媒和している状態を言う。
熱電変換材料の調製方法に特に制限はなく、通常の混合装置等を用いて常温常圧下で行うことができる。例えば、各成分を分散媒中で撹拌、振とう、混練して溶解または分散させて調製すればよい。溶解や分散を促進するため超音波処理を行ってもよい。
熱電変換材料の調製は、大気中で行うこともできるが、不活性雰囲気で行うのが好ましい。不活性雰囲気とは、酸素濃度が大気中濃度よりも少ない状態、好ましくは酸素濃度が10%以下の雰囲気をいう。
また、上記分散工程において分散媒を室温(20℃〜30℃)以上沸点以下の温度まで加熱する、分散時間を延ばす、または撹拌、浸とう、混練または超音波等の印加強度を上げる等によって、SWCNTの分散性を高めることができる。
[熱電変換素子]
本発明の熱電変換素子は、基材上に、第1の電極、熱電変換層および第2の電極を有し、熱電変換層(熱電変換膜ともいう)は、上述の、半導体性SWCNTを90%以上含有するSWCNTとバインダーとを含有し、SWCNTが熱電変換層中に分散している。
本発明の熱電変換素子は、基材上に、第1の電極、熱電変換層および第2の電極を有するものであればよく、第1の電極および第2の電極と熱電変換層との位置関係等、その他の構成については特に限定されない。本発明の熱電変換素子において、熱電変換層は、その少なくとも一方の面に第1の電極および第2の電極に接するように配置されていればよい。例えば、熱電変換層が第1の電極および第2の電極で挟まれる態様、すなわち、本発明の熱電変換素子が基材上に第1の電極、熱電変換層および第2の電極をこの順に有している態様であってもよい。また、熱電変換層がその一方の面に第1の電極および第2の電極に接するように配置される態様、すなわち、本発明の熱電変換素子が基材上に互いに離間して形成された第1の電極および第2の電極に積層された熱電変換層を有している態様であってもよい。
本発明の熱電変換素子の構造の一例として、図1および図2に示す素子の構造が挙げられる。
図1に示す熱電変換素子1は、第1の基材12上に、第1の電極13および第2の電極15を含む一対の電極と、電極13および15間に本発明の熱電変換材料で成膜された熱電変換層14を備えている。第2の電極15の他方(熱電変換層14と反対側)の表面には第2の基材16が配設されており、第1の基材12および第2の基材16の外側には互いに対向して金属板11および17が配設されている。金属板11および17は、特に限定されず、熱電変換素子に通常用いられる金属材料で形成されている。
本発明の熱電変換素子は、基材上に電極を介して本発明の熱電変換材料で熱電変換層を膜(フィルム)状に設け、この基材を第1の基材12として機能させることが好ましい。すなわち、熱電変換素子1は、2枚の基材12および16それぞれの表面(熱電変換層14の形成面)に、第1の電極13または第2の電極15が設けられ、これら電極13および15の間に本発明の熱電変換材料を用いて形成された熱電変換層14を有する構造であることが好ましい。
図2に示す熱電変換素子2は、第1の基材22上に、第1の電極23および第2の電極25が配設され、第1の電極23および第2の電極25を共に覆うように熱電変換層24が成膜され、この熱電変換層24上に第2の基材26が設けられている。熱電変換素子2は、第1の電極および第2の電極の配設位置、金属板の有無以外は熱電変換素子1と同様である。
熱電変換素子1の熱電変換層14は一方の表面が第1の電極13を介して第1の基材12で覆われている。また、熱電変換素子2の熱電変換層24は一方の表面が第1の電極23および第2の電極25ならびに第1の基材22で覆われている。熱電変換層14または熱電変換層24の他方の表面にも第2の基材16または26を第2の電極15を介して、または、電極を介さず、圧着させることが、熱電変換層14および24の保護の観点から好ましい。また、熱電変換素子1および2において、電極と熱電変換層との圧着は密着性向上の観点から100〜200℃程度に加熱して行うことが好ましい。
本発明の熱電変換素子の基材、熱電変換素子1および2における第1の基材12、22および第2の基材16、26それぞれは、ガラス、透明セラミックス、金属、プラスチックフィルム等の基材を用いることができる。本発明の熱電変換素子において、基材はフレキシビリティーを有していることが好ましく、具体的には、ASTM D2176に規定の測定法による耐屈曲回数MITが1万サイクル以上であるフレキシビリティーを有していることが好ましい。このようなフレキシビリティーを有する基材は、プラスチックフィルムが好ましく、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−フタレンジカルボキシレート、ビスフェノールAとイソおよびテレフタル酸のポリエステルフィルム等のポリエステルフィルム、ゼオノアフィルム(商品名、日本ゼオン社製)、アートンフィルム(商品名、JSR社製)、スミライトFS1700(商品名、住友ベークライト社製)等のポリシクロオレフィンフィルム、カプトン(商品名、東レ・デュポン社製)、アピカル(商品名、カネカ社製)、ユーピレックス(商品名、宇部興産社製)、ポミラン(商品名、荒川化学社製)等のポリイミドフィルム、ピュアエース(商品名、帝人化成社製)、エルメック(商品名、カネカ社製)等のポリカーボネートフィルム、スミライトFS1100(商品名、住友ベークライト社製)等のポリエーテルエーテルケトンフィルム、トレリナ(商品名、東レ社製)等のポリフェニルスルフィドフィルム等が挙げられる。使用条件や環境により適宜選択されるが入手の容易性、好ましくは100℃以上の耐熱性、経済性および本発明の上記効果の観点から、市販のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、各種ポリイミドやポリカーボネートからなるフィルム等が好ましい。
特に、熱電変換層との圧着面に電極を設けた基材を用いることが好ましい。この基材上に設ける第1の電極および第2の電極を形成する電極材料としては、ITO、ZnO等の透明電極、銀、銅、金、アルミニウム等の金属電極、カーボンナノチューブおよびグラフェン等の炭素材料、PEDOT/PSS(3,4−エチレンジオキシチオフェン/ポリ(スチレンスルホン酸))等の有機材料、銀、カーボン等の導電性微粒子を分散した導電性ペースト、銀、銅、アルミニウム等の金属ナノワイヤーを含有する導電性ペースト等が使用できる。これらの中でも、アルミニウム、金、銀または銅であるのが好ましい。このとき、熱電変換素子1は、第2の電極15の外側に第2の基材16が設けられているが、第2の基材16を設けることなく第2の電極15が最表面として空気に晒されていてもよい。また、熱電変換素子2は、熱電変換層24の外側に第2の基材26が設けられているが、第2の基材26を設けることなく熱電変換層24が最表面として空気に晒されていてもよい。
基材の厚さは、熱伝導率、取り扱い性、耐久性、外部衝撃による熱電変換層の破損防止等の点から、好ましくは30〜3000μm、より好ましくは50〜1000μm、さらに好ましくは100〜1000μm、特に好ましくは200〜800μmである。
熱電変換層の層厚は、0.1〜1000μmが好ましく、1〜100μmがより好ましい。熱電変換層の層厚が上述の範囲内にあると、熱電変換層に温度差が生じやすく、また熱電変換層内の抵抗が小さくなる。
一般に、熱電変換素子は、有機薄膜太陽電池用素子等の光電変換素子と比べて、簡便に製造できる。特に、本発明の熱電変換材料を用いると有機薄膜太陽電池用素子と比較して光吸収効率を考慮する必要がないため100〜1000倍程度の厚膜化が可能であり、空気中の酸素や水分に対する化学的な安定性が向上する。
熱電変換材料の塗布方法は、特に限定されず、例えば、スピンコート、エクストルージョンダイコート、ブレードコート、バーコート、スクリーン印刷、ステンシル印刷、ロールコート、カーテンコート、スプレーコート、ディップコート、インクジェット印刷法等、公知の塗布方法を用いることができる。この中でも、特に、熱電変換層の電極への密着性に優れる観点でスクリーン印刷が好ましい。また熱電変換層の成膜性に優れる点でインクジェット印刷法特に好ましい。
熱電変換材料を塗布した後、必要に応じて加熱工程や乾燥工程を設けて分散媒等を留去してもよい。例えば、加熱乾燥、熱風を吹き付けることにより、分散媒を揮発させて熱電変換材料の塗膜を乾燥させることができる。
本発明の熱電変換材料で形成される熱電変換層および本発明の熱電変換素子は、導電性、熱起電力および電気的安定性に優れ、熱伝導率も低く、優れた熱電変換性能を発揮する。したがって、本発明の熱電変換材料は熱電変換素子および熱電発電素子の膜(導電性膜等)の材料として、また本発明の熱電変換層は熱電発電素子の膜(導電性膜等)として好適に用いられる。
本発明の熱電発電用物品は、熱電発電素子として本発明の熱電変換素子を用いる。具体的には、温泉熱発電機、太陽熱発電機、廃熱発電機等の発電機、腕時計用電源、半導体駆動電源、(小型)センサー用電源等の用途に本発明の熱電変換素子を用いることが好ましい。
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
実施例1
1.熱電変換材料液101の調製および熱電変換層101の成膜
前述の吸収スペクトルに基づく方法(ピークM11とS22との面積を比較する方法)によって決定した半導体性SWCNTの存在比率(以下、同じ。)が90%の単層カーボンナノチューブとして「IsoNanotubes−S」(NanoIntegris社製)2mg、ポリスチレン(重量平均分子量2,000,000、Aldrich社製)18mgに、o−ジクロロベンゼン4mLを加えて、メカニカルな攪拌装置で20分間攪拌した。その後、超音波洗浄機「US−2」(井内盛栄堂(株)製、出力120W、間接照射)を用いて、30℃で40分間超音波分散することによって、o−ジクロロベンゼン分散液として熱電変換材料液101(実施例において、熱電変換材料液を単に熱電変換材料という)を調製した。
基板として1.1mmの厚み、40mm×50mmのガラス基板をアセトン中で超音波洗浄した後、10分間UV−オゾン処理を行った。別途、このガラス基板上に、厚さ300μmのニトフロンNo.901UL(商品名、日東電工社製)と両面粘着フィルムを用いて、型枠を作製した(開口部20mm×20mmの開口部)。型枠内に熱電変換材料101を流し込み、室温で乾燥させた後、80℃で2時間乾燥することで、厚さ約1μmの熱電変換層101(試料No.101)を成膜した。
2.熱電変換材料102の調製および熱電変換層102の成膜
熱電変換材料101の調製において、上記存在比率が90%の単層カーボンナノチューブに代えて半導体性SWCNTの存在比率が95%の単層カーボンナノチューブとして「IsoNanotubes−S」(NanoIntegris社製)を用いた以外は熱電変換材料101と同様にして熱電変換材料102を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料102を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層102(試料No.102)を成膜した。
3.熱電変換材料103の調製および熱電変換層103の成膜
熱電変換材料101の調製において、上記存在比率が90%の単層カーボンナノチューブに代えて半導体性SWCNTの存在比率が99%の単層カーボンナノチューブとして「IsoNanotubes−S」(NanoIntegris社製)を用いた以外は熱電変換材料101と同様にして熱電変換材料103を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料103を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層103(試料No.103)を成膜した。
4.熱電変換材料104の調製および熱電変換層104の成膜
熱電変換材料101の調製において、上記半導体性SWCNTの存在比率が90%の単層カーボンナノチューブ「IsoNanotubes−S」(NanoIntegris社製、)4mg、および、ポリスチレン(重量平均分子量2,000,000、Aldrich社製)16mgを用いた以外は熱電変換材料101と同様にして熱電変換材料104を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料104を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層104(試料No.104)を成膜した。
5.熱電変換材料105の調製および熱電変換層105の成膜
熱電変換材料101の調製において、上記半導体性SWCNTの存在比率が90%の単層カーボンナノチューブ「IsoNanotubes−S」(NanoIntegris社製)1mg、および、ポリスチレン(重量平均分子量2,000,000、Aldrich社製)19mgを用いた以外は熱電変換材料101と同様にして熱電変換材料105を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料105を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層105(試料No.105)を成膜した。
6.熱電変換材料201の調製および熱電変換層201の成膜
熱電変換材料101の調製において、上記半導体性SWCNTの存在比率が90%の単層カーボンナノチューブ「IsoNanotubes−S」(NanoIntegris社製)2mg、および、ポリ(3−オクチルチオフェン)(レジオランダム、Aldrich社製、重量平均分子量67,400)18mgを用いた以外は熱電変換材料101と同様にして熱電変換材料201を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料201を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層201(試料No.201)を成膜した。
7.熱電変換材料202の調製および熱電変換層202の成膜
熱電変換材料101の調製において、上記存在比率が90%の単層カーボンナノチューブに代えて半導体性SWCNTの存在比率が95%の単層カーボンナノチューブ「IsoNanotubes−S」(NanoIntegris社製)2mg、および、ポリ(3−オクチルチオフェン)(レジオランダム、Aldrich社製、重量平均分子量67,400)18mgを用いた以外は熱電変換材料101と同様にして熱電変換材料202を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料202を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層202(試料No.202)を成膜した。
8.熱電変換材料301の調製および熱電変換層301の成膜
熱電変換材料101の調製において、上記半導体性SWCNTの存在比率が90%の単層カーボンナノチューブ「IsoNanotubes−S」(NanoIntegris社製)2mg、ポリスチレン(重量平均分子量2,000,000 Aldrich社製)9mg、および、ポリ(3−オクチルチオフェン)(レジオランダム、Aldrich社製、重量平均分子量67,400)9mgを用いた以外は熱電変換材料101と同様にして熱電変換材料301を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料301を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層301(試料No.301)を成膜した。
9.熱電変換材料401の調製および熱電変換層401の成膜
熱電変換材料301の調製において、o−ジクロロベンゼンの代わりにメシチレンを用いた以外は熱電変換材料301と同様にして熱電変換材料401を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料401を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層401(試料No.401)を成膜した。
10.熱電変換材料402の調製および熱電変換層402の成膜
熱電変換材料301の調製において、o−ジクロロベンゼンの代わりにテトラリンを用いた以外は熱電変換材料301と同様にして熱電変換材料402を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料402を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層402(試料No.402)を成膜した。
11.熱電変換材料c101の調製および熱電変換層c101の成膜
熱電変換材料101の調製において、上記存在比率が90%の単層カーボンナノチューブに代えて半導体性SWCNTの存在比率が76%のカーボンナノチューブとして「ASP−100F」(Hanwha Nanotech社製)を用いた以外は熱電変換材料101と同様にして熱電変換材料c101を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料c101を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層c101(試料No.c101)を成膜した。
12.熱電変換材料c201の調製および熱電変換層c201の成膜
熱電変換材料201の調製において、上記存在比率が90%の単層カーボンナノチューブに代えて半導体性SWCNTの存在比率が76%のカーボンナノチューブとして「ASP−100F」(Hanwha Nanotech社製)を用いた以外は熱電変換材料201と同様にして熱電変換材料c201を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料c201を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層c201(試料No.c201)を成膜した。
13.熱電変換材料c301の調製および熱電変換層c301の成膜
熱電変換材料301の調製において、上記存在比率が90%の単層カーボンナノチューブに代えて半導体性SWCNTの存在比率が76%のカーボンナノチューブとして「ASP−100F」(Hanwha Nanotech社製)を用いた以外は熱電変換材料301と同様にして熱電変換材料c301を調製した。また、熱電変換層101の成膜において、熱電変換材料101に代えて熱電変換材料c301を用いたこと以外は熱電変換層101と同様にして熱電変換層c301(試料No.c301)を成膜した。
なお、ポリ(3−オクチルチオフェン)およびポリスチレンの重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフ)によるポリスチレン換算値として求めた。詳細には、ポリ(3−オクチルチオフェン)またはポリスチレンにo―ジクロロベンゼンを加えて145℃で溶解し、1.0μmの焼結フィルターでろ過して0.15w/v%の試料溶液を調製し、下記条件にて測定した。
装置:「Alliance GPC2000(Waters社製)」
カラム:「TSKgel GMH−HT」−「TSKgel GMH−HT」−「TSKgel GMH−HTL」−「TSKgel GMH−HTL」(いずれも7.5mmI.D.×30cm、東ソー社製)
カラム温度:140℃
検出器:示差屈折率計
移動相:o−ジクロロベンゼン
[SWCNTの直径の測定]
各例に用いたSWCNTそれぞれの直径を次のようにして評価した。
各SWNCTの532nm励起光でのラマンスペクトルを測定し(励起波長532nm)、ラジアルブリージングモード(RBM)のシフトω(RBM)(cm−1)より、下記算出式を用いて、直径を算出した。その結果を以下に示す。
算出式:直径(nm)=248/ω(RBM)
上記存在比率が90%の単層カーボンナノチューブ:1.4nm
上記存在比率が95%の単層カーボンナノチューブ:1.3nm
上記存在比率が99%の単層カーボンナノチューブ:1.6nm
上記存在比率が76%の単層カーボンナノチューブ:1.2nm
[SWCNTのG/D比の測定]
各例に用いたSWCNTそれぞれのG/D比を次のようにして測定した。
各SWNCTにつき、532nmの励起光にてラマンスペクトルを測定した。得られたスペクトルから、各SWCNTのGバンド(1590cm−1付近、グラフェン面内振動)とDバンド(1350cm−1付近、sp炭素ネットワークの欠陥由来)の強度比G/D比を算出した。その結果を以下に示す。
上記存在比率が90%の単層カーボンナノチューブ:31
上記存在比率が95%の単層カーボンナノチューブ:35
上記存在比率が99%の単層カーボンナノチューブ:34
上記存在比率が76%の単層カーボンナノチューブ:55
14.熱電変換材料および熱電変換層の評価
上述のようにして調製した各熱電変換材料の分散性と、成膜した各熱電変換層の導電率、熱電性能および膜質を下記のようにして測定し、または評価した。結果を表1に示す。
[分散性]
各熱電変換材料の分散性を次のようにして評価した。すなわち、各熱電変換材料を手で振とうした後、ディスポーザブルピペットで1滴採取してスライドグラスにのせ、カバーグラスで各熱電変換材料を挟んだプレパラートを用意した。このプレパラートを、デジタルマイクロスコープ「VHX−200」(製品名、キーエンス社製)で500×500μmの視野像を観察することで確認した。評価は下記のように行い、数字が小さいほど分散性が良好であり、好ましい。
1:凝集物は確認されなかった。
2:凝集物が10個未満確認された。
3:凝集物が10個以上20個未満確認された。
4:凝集物が20個以上確認された。
[導電率の測定]
各熱電変換層の導電率は、高抵抗率計「ハイレスタUP」または低抵抗率計「ロレスタGP」(商品名、いずれも(株)三菱化学アナリテック製)を用いて、各熱電変換層の表面抵抗率(単位:Ω/□)を測定した。また、触針型膜厚計「XP−200」(商品名、Ambios Technology製)により各熱電変換層の膜厚(単位:cm)を測定し、下記式より導電率(S/cm)を算出した。
式:(導電率)=1/((表面抵抗率(Ω/□))×(膜厚(cm)))
[熱電性能:PF]
各熱電変換層の熱電性能は、熱電特性測定装置「MODEL RZ2001i」(商品名、オザワ科学社製品名)を用いて、温度100℃の大気雰囲気で、ゼーベック係数S(μV/k)と導電率σ(S/m)を測定した。得られたゼーベック係数Sと導電率σから、熱電特性としてPower Factor(PF)を、下記式より算出した。なお、熱電性能(PF)は試料No.c101に対する相対値とした。
式:PF(μW/(m・K))=(ゼーベック係数S)×(導電率σ)
[膜質の評価]
各熱電変換層の膜質の評価は、熱電変換層の表面(観察面積15×15mm、膜中央部)を目視により観察し、下記の基準で判断した。
1:凝集物による凹凸が確認されなかった。
2:凝集物による凹凸が5個以下確認された。
3:凝集物による凹凸が6個以上10個以下確認された。
4:凝集物による凹凸が11個以上20個以下確認された。
5:凝集物による凹凸が21個以上確認された。
表1において、「試料No.」は成膜した熱電変換層の試料番号を表す。
表1に、全SWCNT中の半導体性SWCNTの存在比率(金属製SWCNT/半導体性SWCNT)を「存在比」と表記し、分散液の固形分中のSWCNTの固形分濃度を「SWCNT濃度(質量%)」と表記する。
Figure 0006110818
表1の結果より、半導体性SWCNTの存在比が10/90以上のSWCNTを用い、バインダーとしてポリスチレンを用いた試料No.101〜105、特にSWCNT濃度が10質量%以上である試料No.101〜104は、いずれも、熱電変換材料の分散性が良好であり、熱電変換層の膜質も良好で導電性にも優れていた。その結果、熱電変換性能も優れていた。
また、半導体性SWCNTの存在比が10/90および5/95である試料No.101および102は、半導体性SWCNTの存在比が1/99である試料No.103と比較して、膜質が優れていた。
さらに、固形分中のSWCNT濃度がより大きい試料No.104は、より少ない試料No.101等と比較して導電性により優れ、さらに高い熱電変換性能を示した。
バインダーとして共役高分子であるポリ(3−オクチルチオフェン)を用いた試料No.201および202は、バインダーとしてポリスチレンを用いた試料No.101および102よりも、分散性、導電性および熱電変換性能がより良好であった。また、半導体性SWCNTの存在比が小さいSWCNTを用いた試料No.c201と比較して、優れた熱電性能を示した。
さらに、バインダーとしてポリスチレンとポリ(3−オクチルチオフェン)を併用した試料No.301は、分散性が良好であり、特に膜質に優れていた。分散媒としてメシチレン、テトラリンを用いた試料No.401および402は、特に優れた熱電性能を示した。
一方、バインダーとしてポリスチレンとポリ(3−オクチルチオフェン)を併用し、半導体性SWCNTの存在比が小さいSWCNTを用いた試料No.c301は分散性、膜質、導電性および熱電性能が劣っていた。
実施例2
1.熱電変換材料501の調製
ポリ(3−オクチルチオフェン)(レジオランダム、Aldrich社製、重量平均分子量67,400)80mgに、o−ジクロロベンゼン10mLを加えて、超音波洗浄機「US−2」(井内盛栄堂(株)製、出力120W、間接照射)を用いて、バインダー溶液501を調製した。
次に、得られたバインダー溶液501に、半導体性SWCNTの存在比率が90%の単層カーボンナノチューブとして「IsoNanotubes−S」(NanoIntegris社製)20mgを加え、超音波ホモジナイザー「VC−750」(SONICS&MATERIALS.Inc製品名、テーパーマイクロチップ(プローブ径6.5mm)使用、出力40W、直接照射、Duty比50%)を用いて、30℃で30分間超音波分散し、さらに、超音波洗浄機「US−2」(井内盛栄堂(株)製、出力120W、間接照射)を用いて、30℃で60分間超音波分散することによって、カーボンナノチューブ分散液501を調製した。
次に、得られたカーボンナノチューブ分散液501に、非共役高分子としてポリスチレン(重量平均分子量2,000,000、Aldrich社製)100mgを添加し、50℃の温浴中にて溶解させたのち、自公転式攪拌装置「ARE−250」(シンキー社製)により、回転数2000rpm、攪拌時間5分、攪拌することで、o−ジクロロベンゼン分散液として熱電変換材料501を調製した。
2.熱電変換層501の成膜
調製した熱電変換材料501を基板上に塗布して、熱電変換層501を成膜した。具体的には、イソプロピルアルコール中で超音波洗浄した後、10分間UV−オゾン処理を行った厚み1.1mmのガラス基板上に、レーザー加工で形成した開口部13×13mmを有し、かつ厚み2mmのメタルマスクをかぶせた。次に、開口部に熱電変換材料501を注入したのち、メタルマスクを取り外して、ガラス基板を80℃のホットプレート上で加熱乾燥させて、熱電変換層501を成膜した。
3.熱電変換素子501の製造
上記で調製した熱電変換材料501を用いて、図3に示す熱電変換素子3を製造した。
具体的には、イソプロピルアルコール中で超音波洗浄した後、大きさ40×50mm、厚み1.1mのガラス基板32上に、エッチングにより形成した開口部20×20mmのメタルマスクを用いて、イオンプレーティング法によりクロムを100nm、次に金を200nm積層成膜することにより、クロム層30および金層31からなる第1の電極33を形成した。
次に、レーザー加工で形成した開口部13×13mmを有し、かつ厚み2mmのメタルマスクを用いて、上記開口部に調製した熱電変換材料501を注入し、ガラス基板32を80℃のホットプレート上で加熱乾燥させることで、第1の電極33上に熱電変換層34を形成した。
次に、導電性ペーストドータイト「D−550」(商品名、藤倉化成製、銀ペースト)をスクリーン印刷法により、熱電変換層34上に第2の電極35を成膜し、熱電変換素子3(試料No.501)を製造した。
4.熱電変換材料601の調製、熱電変換層601の成膜および熱電変換素子601の製造
熱電変換材料501の調製において、非共役高分子としてポリスチレンの代りにポリ(2−ビニルナフタレン)(重量平均分子量175,000、Aldrich製)を用いた以外は熱電変換材料501と同様にして熱電変換材料601を調製した。
また、熱電変換層501の成膜および熱電変換素子501の製造において、熱電変換材料501に代えて熱電変換材料601を用いたこと以外は熱電変換層501の成膜および熱電変換素子501の製造と同様にして熱電変換層601を成膜し、熱電変換素子601(試料No.601)を製造した。
5.熱電変換材料602の調製、熱電変換層602の成膜および熱電変換素子602の製造
熱電変換材料501の調製において、非共役高分子としてポリスチレンの代りにPC−Z型ポリカーボネート「パンライトTS−2020」(帝人化成株式会社製)を用いた以外は熱電変換材料501と同様にして熱電変換材料602を調製した。
また、熱電変換層501の成膜および熱電変換素子501の製造において、熱電変換材料501に代えて熱電変換材料602を用いたこと以外は熱電変換層501の成膜および熱電変換素子501の製造と同様にして熱電変換層602を成膜し、熱電変換素子602(試料No.602)を製造した。
6.熱電変換材料c501の調製、熱電変換層c501の成膜および熱電変換素子c501の製造
熱電変換材料501の調製において、上記存在比率が90%の単層カーボンナノチューブに代えて半導体性SWCNTの存在比率が76%の単層カーボンナノチューブとして「ASP−100F」(Hanwha Nanotech社製)を用いた以外は熱電変換材料501と同様にして熱電変換材料c501を調製した。
また、熱電変換層501の成膜および熱電変換素子501の製造において、熱電変換材料501に代えて熱電変換材料c501を用いたこと以外は熱電変換層501の成膜および熱電変換素子501の製造と同様にして熱電変換層c501を成膜し、熱電変換素子c501(試料No.c501)を製造した。
7.熱電変換材料、熱電変換層および熱電変換素子の評価
上述のようにして調製した各熱電変換材料、熱電変換層および熱電変換素子について、分散性と、熱起電力、抵抗均一性および熱伝導率を下記のようにして測定し、または評価した。結果を表2に示す。
[分散性]
各熱電変換材料の分散性は、各熱電変換材料約1mgをミクロスパーテルでスライドグラスにのせ、カバーグラスで各熱電変換材料を挟んでプレパラートを作製し、デジタルマイクロスコープ「VHX−200」(製品名、キーエンス社製)で500×500μmの視野像を観察することで確認した。評価は下記のように行い、数字が小さいほど分散性が良好であり、好ましい。
1:凝集物が10個未満確認された。
2:凝集物が10個以上確認された。
[熱起電力]
各熱電変換素子の熱起電力は、各熱電変換素子のガラス基板32を表面温度80℃のホットプレートで加熱した際に、第1の電極33と第2の電極35との間で生じる電圧差を、デジタルマルチメーター「R6581」(アドバンテスト社製、製品名)で測定した。熱電変換素子の熱起電力は熱電変換素子c501(試料No.c501)の熱起電力に対する相対値として示す。
[抵抗均一性]
各熱電変換素子におけるガラス基板32上に設けた第1の電極33の金層31と、各熱電変換素子における第2の電極35との間の抵抗を、デジタルマルチメーターPC5000(三和電気計器株式会社製、製品名)にて計測した。抵抗のばらつきを、熱電変換素子における金層31面内の任意の5点の計測結果の標準偏差を計算することにより求めた。
この度合いσは、以下の式により求めた。熱電変換素子の抵抗均一性を示す度合いσは熱電変換素子c501(試料No.c501)の度合いσに対する相対値として示す。
なお、抵抗の平均値μを、熱電変換素子c501(試料No.c501)の抵抗の平均値μに対する相対値として示す。
Figure 0006110818
式中、xは抵抗の測定値、μは抵抗の平均値、Nは測定点数(5点)である。この度合いσが小さいと、その熱電変換素子は、金層31面内の抵抗のばらつきが少なく、電気的に安定に機能することを示している。
[熱伝導率の評価]
成膜した各熱電変換層の熱伝導率(κ[W/mK])は、薄膜熱物性測定装置「NanoTR」(株式会社ピコサーム製)を用い、パルス光加熱サーモリフレクタンス法にて測定を行った。熱電変換素子の熱伝導率κは熱電変換素子c501(試料No.c501)の熱伝導率κに対する相対値として示す。
なお、熱電変換性能は、下記式(A’)で表されるZT値(無次元量)で評価することができ、ZT値が大きいほど、熱電変換性能が大きい。よって、熱伝導率が小さいほど、ZT値は大きい、すなわち熱電変換性能が大きいといえる。
式(A’) ZT=(ゼーベック係数)×(導電率)/熱伝導率
[導電率および熱電性能(PF)の測定]
各熱電変換層について実施例1と同様にして、導電率および熱電性能(PF)を測定し、その結果(熱電性能は熱電変換層c501の熱電性能に対する相対値)を、表2に示す。
表2において、「試料No.」は熱電変換素子の試料番号を表す。
表2には、全SWCNT中の半導体性SWCNTの存在比率(金属製SWCNT/半導体性SWCNT)を「存在比」と表記する。
Figure 0006110818
表2の結果より以下のことが分かる。半導体性SWCNTの存在比が10/90である試料No.501、601および602は、上記いずれの非共役高分子を用いても半導体性SWCNTの存在比が小さい試料No.c501と比較して、導電性、熱電性能および熱起電力に優れていた。また、熱電変換素子の抵抗値が小さく熱電変換素子の面内の抵抗も均一であり、熱伝導率も小さかった。
1、2、3 熱電変換素子
11、17 金属板
12、22 第1の基材
13、23 第1の電極
14、24 熱電変換層
15、25 第2の電極
16、26 第2の基材
30 クロム層
31 金層
32 ガラス基板
33 第1の電極
34 熱電変換層
35 第2の電極(導電性ペースト)

Claims (9)

  1. 基材上に、第1の電極、熱電変換層および第2の電極を有する熱電変換素子であって、
    該熱電変換層が、単層カーボンナノチューブとバインダーとを含有し、該単層カーボンナノチューブが半導体性単層カーボンナノチューブを90%以上含有し、該バインダーの少なくとも1種が共役高分子である熱電変換素子。
  2. 前記熱電変換層中の、全固形分における前記単層カーボンナノチューブの含有率が10質量%以上である請求項1に記載の熱電変換素子。
  3. 前記バインダーの少なくとも1種が、非共役高分子である請求項1または2に記載の熱電変換素子。
  4. 前記半導体性単層カーボンナノチューブが、全単層カーボンナノチューブのうちの98%以下である請求項1〜のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
  5. 請求項1〜のいずれか1項に記載の熱電変換素子を用いた熱電発電用物品。
  6. 請求項1〜のいずれか1項に記載の熱電変換素子を用いたセンサー用電源。
  7. 熱電変換素子の熱電変換層を形成するための熱電変換材料であって、該熱電変換材料が、単層カーボンナノチューブとバインダーとを含有し、該単層カーボンナノチューブが半導体性単層カーボンナノチューブを90%以上含有し、該バインダーの少なくとも1種が共役高分子である熱電変換材料。
  8. 有機溶媒を含む請求項に記載の熱電変換材料。
  9. 前記単層カーボンナノチューブを前記有機溶媒中に分散してなる請求項に記載の熱電変換材料。
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