JP6213417B2 - 2,2−ジフルオロアセトアルデヒドの保存安定性の向上方法 - Google Patents
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Description
が1分子結合した、式(3)で表されるヘミアセタール
の場合には、有意には観測されない。すなわち、このような「二量体」の生成は2,2−ジフルオロアセトアルデヒドのヘミアセタールに特有の現象(固有の課題)である。
の間のヘミアセタール
が主生成物となる。すなわち、この条件では、フリーの2,2-ジフルオロアセトアルデヒドはほぼ検出されず、アルコールが2分子反応した「アセタール」もほぼ検出されない。つまり系内では、該ヘミアセタールと、余剰の遊離アルコールが、主成分として共存する。
を部分還元に付すと、上の式のエステル部位の「−O−A」が、ほぼそのまま持ち越されて、生成物の2,2-ジフルオロアセトアルデヒドのヘミアセタールの「−O−R2」になる。(還元反応をアルコール溶媒中で行う場合には、エステル交換が一部生じるが、その場合も系中のアルコールの総量は変わらない。)ひとたびヘミアセタールに変換された後は、ヘミアセタールの「−O−R2」は「アルコール総量」にカウントされる(分解反応によって、アルコールを生じる能力があるため)。「2,2-ジフルオロアセトアルデヒドのヘミアセタール」という化学種だけに着目すれば、その由来如何によらず、その化合物における「アルデヒド:アルコール」の比率は正確に1:1であり、「アルコールのアルデヒド1モルに対する量」は、正確に「1モル(1倍モル)」である。
第1工程:式(3)で表される、2,2-ジフルオロアセトアルデヒドのヘミアセタール
式(2)で表される遊離のアルコール
を含む「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」を調製する工程と、
第2工程:該「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」を保存用容器内で保存する工程とを含み、かつ、
該保存用容器で保存を開始する時点における該「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」が実質的に中性で、かつ水の含量が1000ppm以下であり、
該保存用容器で保存を開始する時点における該「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」における該アルコールの総モル量(「遊離のアルコール」と「2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの各種ヘミアセタール」の合計モル量をいう。以下同じ。)が、2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの総モル量(「遊離の2,2-ジフルオロアセトアルデヒド」と「2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの各種ヘミアセタール」の合計モル量をいう。以下同じ。)に対して1.15倍以上、4.00倍以下である、
2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの保存安定性の向上方法である。
第1工程:2,2-ジフルオロアセトアルデヒドを、式(2)で表されるアルコールを共存させ、式(3)で表されるヘミアセタールを含有する「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」を調製する工程と、
第2工程:該「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」を保存用容器内で保存する工程と、
の2つの工程を含んでいる。それぞれについて、以下に説明する。
第1工程は「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」を作製する工程である。
本発明にいう「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」とは、式(3)で表される2,2-ジフルオロアセトアルデヒドのヘミアセタールと、これとは別に式(2)で表されるアルコールが余剰に存在した複合体(組成物)をいう。そして「2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの総量」に対して式(2)で表されるアルコール総量が「1.15倍モル以上、4.00倍モル以下」存在している。
本発明において、該保存用容器に供給される時点における該「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」は、実質的に中性である必要がある。この「実質的に中性」とは、液を採取してpH試験紙に浸したときにpHが5〜10であるような液性(当業者常識で「中性近傍」と認識される液性)をいい、さらに好ましくは6〜9である。これらのpHの範囲を外れて酸性側になると、ヘミアセタール部位が酸によって分解することがあるため、好ましくない。また逆に、これらのpHの範囲を外れてアルカリ性側になると、カニッツァロ反応等の副反応が起こりやすく、本発明の主旨である2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの安定化が図りにくくなるから、好ましくない。
本発明においては、水の含量が1000ppm(「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」の液全体における質量基準の値)以下であることも必要である。これ以上、多くの水が存在すると、2,2-ジフルオロアセトアルデヒドが水と反応して次の「水和体」
2,2-ジフルオロアセトアルデヒドは、非特許文献1の方法によって、次の式で表されるα、α−ジフルオロ酢酸エステル
を水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム等の「ヒドリド還元剤」で部分還元して、式(3)のヘミアセタール{(−O−A)の部位が(−O−R2)に相当する。}として得るのが、一般に知られた合成法である。
この有機層を乾燥剤で乾燥処理(水を除去)した上で、エバポレーションによって溶媒留去を行うことにより、反応液の含水量は1000ppm以下に低減でき、式(3)で表されるヘミアセタール(1−アルコキシ−2,2−ジフルオロエタノール)を得ることができる。
但し、以上の後処理を経て得られる物質は、式(3)で表されるヘミアセタールであるが、溶媒抽出を経ているため、余剰のアルコールはほとんど存在しない。つまり、このままでは、本発明が課題とする長期間の保存安定性の向上は図れない。このため、これを本発明所定の「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」に変換する必要がある。そのためには、式(2)で表されるアルコールをあらためて添加し、2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの総量に対し、式(2)で表されるアルコールの総量が1.15倍モル以上、4.00倍モルになるように調整することができる。アルコールの添加後、脱水を兼ねてエバポレーションを行い、例えば1.15倍モル〜1.60倍モルといった小過剰のアルコール(しかし保存安定性の向上にきわめて有効な量)だけを系内に残し、その他のアルコールを回収することもできる。
一方、α、α−ジフルオロ酢酸エステル類(上記合成法1と同じ原料)を、特定のルテニウム錯体を触媒として水素(H2)ガスと接触させることによっても、2,2−ジフルオロアセトアルデヒドを製造できる(国際出願:PCT/JP2014/051365)(合成例2)。このルテニウム触媒を触媒とする水素との直接反応は、ルテニウムという触媒を必要とするものの、大量の取り扱いの難しいヒドリド還元剤を扱わなくて済むため、大量規模での合成を行う上で特に有利である。
上記、置換アルキル基、置換芳香環基にいう「置換基」とは、前記のアルキル基又は芳香環基の、任意の炭素原子上に、任意の数および任意の組み合わせで、存在するものを指す。係る置換基は、フッ素、塩素および臭素等のハロゲン原子、メチル基、エチル基およびプロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基およびブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基およびプロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基およびブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基およびプロポキシルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピロリル基(窒素保護体も含む)、ピリジル基、フリル基、チエニル基、インドリル基(窒素保護体も含む)、キノリル基、ベンゾフリル基およびベンゾチエニル基等の芳香環基、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基、ならびにヒドロキシル基の保護体等である。さらに、該置換アルキル基は、前記のアルキル基の任意の炭素−炭素単結合が、任意の数および任意の組み合わせで、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合に置き換わることもできる(当然、これらの不飽和結合に置き換わったアルキル基は、前記の置換基を同様に有することもできる)。置換基の種類に依っては置換基自体が副反応に関与する場合もあるが、好適な反応条件を採用することにより最小限に抑えることができる。なお、本明細書において、"低級"とは、炭素数1〜6の、直鎖状もしくは分枝状の鎖式または環式(炭素数3以上の場合)であるものを意味する。また、前記の“係る置換基は”の“芳香環基”には、ハロゲン原子、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、ヒドロキシル基およびヒドロキシル基の保護体等が置換することもできる。さらに、ピロリル基、インドリル基、カルボキシル基、アミノ基およびヒドロキシル基の保護基は、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.等に記載された保護基である。
で表されるルテニウム触媒(Ru−MACHOTMとして知られている)は活性が特に高く、特に好ましい。
キシド等のアルカリ金属のアルコキシド、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジンおよび1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン等の有機塩基、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ナトリウムビス(トリメチルシリル)アミドおよびカリウムビス(トリメチルシリル)アミド等のアルカリ金属のビス(トリアルキルシリル)アミド、ならびに水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウムおよび水素化ホウ素カリウム等のアルカリ金属の水素化ホウ素等である。その中でもアルカリ金属のアルコキシド(アルコキシドの炭素数は1〜6)が好ましく、リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシドおよびカリウムメトキシドが特に好ましい。なお、後述の合成例の通り、ナトリウムメトキシドは通常メタノール溶液として入手できる。このため、反応系中には、メタノールが残存することになる(すなわち、メタノールが、式(2)のアルコールとしての役割を少なくとも一部は果たす。)
塩基を用いる場合の該使用量は、原料のα,α−ジフルオロ酢酸エステル類1molに対して0.001mol以上を用いれば良く、0.005〜5molが好ましく、0.01〜3molが特に好ましい。
上述のどちらの合成法で2,2-ジフルオロアセトアルデヒドを得る場合においても、反応後の後処理を行う課程において、或いは後処理を一通り終え、保存用容器内に供給する時点で、反応液の組成を求めることは、好ましい。反応液の組成を求める方法に限定はないが、1H−NMRは特に有利な方法である。化学種によっては19F−NMRを用いて定量した方が、正確な場合がある(後述の実施例の通り、DFAL−DFOLの定量がその例)。したがって、1H−NMRを基本としつつ19F−NMRを組み合わせて定量を行うのは、効果的な方法である。
第2工程は、前記第1工程で調製した「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」を保存用容器内で保存する工程である。
ジエチルエーテル30mLにα、α−ジフルオロ酢酸エチル2.5g(20ミリモル)を溶解させ、−78℃に冷却した水素化リチウムアルミニウム1.9g(50ミリモル)とテトラヒドロフラン溶液50mLに滴下した。3時間攪拌した後、エタノール5mLを加え室温まで昇温した。反応溶液を氷水に注ぎ濃硫酸15mLを加え、ジエチルエーテルで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ジエチルエーテルを留去し蒸留精製により、1−エトキシ−2,2−ジフルオロエタノール(DFAL−EtOH)を60%の収率で得た。
ステンレス鋼製オートクレーブに下記式
CHF2COOC2H5
で示されるα、α−ジフルオロ酢酸エチル450g(3.6モル)、下記式
DFAL−EtOHの経時変化をより正確に見極めるため、1H−NMRおよび19F−NMRを用いた定量方法を以下の通りとした。
PTF−TFM:7.53−7.93ppm(4H)、
DFAL−EtOH:4.50−4.71ppm(1H)、
DFAL−MeOH:3.51−3.53ppm(3H)、
DFAL−DFOL:CF2HCH(OH)OCH2CF 2H −125〜−126ppm(2F)
二量体:4.92−5.11ppm(1H)、
エタノール:3.65−3.73ppm(2H)
メタノール:3.41−3.45ppm(3H)
遊離のDFOL:−128〜−127ppm(2F)
(なお、DFAL−EtOH、DFAL−MeOHならびに、DFAL−DFOLにおいて、1Hの測定対象としたのは、1位のHである。また、遊離のメタノール、アセタールは検出されなかった。)
以下の実施例に用いたサンプルは上記「合成例2」と同様の方法によって作製した。但し「合成例2」のサンプルとは異なり、初期の「二量体」の存在量が、「合成例」に比べ、やや多くなっている。しかし、これは後処理のタイミング等、わずかな相違によって生じたものである。そして一旦「二量体」が生成すると、その「二量体」は、元のヘミアセタールに戻ったり、さらに別の化学種に変換したりすることは、通常ない。このため、本発明においては、初期(保存開始時点)の「二量体の存在量」の多寡は問題にせず、保存期間(1年間)に、DFAL−ヘミアセタールがどれだけ減って、二量体が新たに生成したか、という点に着目する。
本実施例における「総アルコール量/総アルデヒド」(モル比)=1.50
総アルコール量とは、1−エトキシ−2,2−ジフルオロエタノール(DFAL−EtOH) 、2,2−ジフルオロ−1−メトキシエタノール、β、β−ジフルオロエチルヘミアセタール(DFAL−DFOL)、ジフルオロエタノール、エチルアルコールの合計モル数である。
総アルコール量/総アルデヒド=1.23
総アルコール量とは、1−エトキシ−2,2−ジフルオロエタノール(DFAL−EtOH) 、2,2−ジフルオロ−1−メトキシエタノール、β、β−ジフルオロエチルヘミアセタール(DFAL−DFOL)、ジフルオロエタノール、エチルアルコールの合計モル数である。
総アルコール量/総アルデヒド=1.19
総アルコール量とは、1−エトキシ−2,2−ジフルオロエタノール(DFAL−EtOH) 、2,2−ジフルオロ−1−メトキシエタノール、β、β−ジフルオロエチルヘミアセタール(DFAL−DFOL)、ジフルオロエタノール、エチルアルコールの合計モル数である。
総アルコール量/総アルデヒド=1.17
総アルコール量とは、1−エトキシ−2,2−ジフルオロエタノール(DFAL−EtOH) 、2,2−ジフルオロ−1−メトキシエタノール、β、β−ジフルオロエチルヘミアセタール(DFAL−DFOL)、ジフルオロエタノール、エチルアルコールの合計モル数である。
総アルコール量/総アルデヒド=1.11
総アルコール量とは、1−エトキシ−2,2−ジフルオロエタノール(DFAL−EtOH) 、2,2−ジフルオロ−1−メトキシエタノール、β、β−ジフルオロエチルヘミアセタール(DFAL−DFOL)、ジフルオロエタノール、エチルアルコールの合計モル数である。
総アルコール量/総アルデヒド=1.07
総アルコール量とは、1−エトキシ−2,2−ジフルオロエタノール(DFAL−EtOH) 、2,2−ジフルオロ−1−メトキシエタノール、β、β−ジフルオロエチルヘミアセタール(DFAL−DFOL)、ジフルオロエタノール、エチルアルコールの合計モル数である。
Claims (4)
- 第1工程:式(3)で表される、少なくとも1種の2,2-ジフルオロアセトアルデヒドのヘミアセタール
(式中、R2は炭素数1〜6の環状または鎖状または分岐鎖の炭化水素を表し、水素原子はフッ素原子に一部または全て置換されていてもよい。)と、
式(2)で表される、少なくとも1種の遊離のアルコール
(式中、R2の意味は式(3)と同じ。)と、
を含む、少なくとも1種の「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」を調製する工程と、
第2工程:該「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」を保存用容器内で保存する工程と、
を含み、かつ、
該保存用容器で保存を開始する時点における該「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」が実質的に中性で、かつ水の含量が1000ppm以下であり、
該保存用容器で保存を開始する時点における該「2,2-ジフルオロアセトアルデヒド・アルコール複合体」における該アルコールの総モル量(少なくとも1種の「遊離のアルコール」と、少なくとも1種の「2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの各種ヘミアセタール」の合計モル量をいう。以下同じ。)が、2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの総モル量(少なくとも1種の「遊離の2,2-ジフルオロアセトアルデヒド」と、少なくとも1種の「2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの各種ヘミアセタール」の合計モル量をいう。以下同じ。)に対して1.15倍以上、4.00倍以下である、
2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの保存安定性の向上方法。 - 該アルコールの総モル量が、2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの総モル量に対して1.15倍以上、1.60倍以下である、請求項1に記載の2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの保存安定性の向上方法。
- 式(2)で表されるアルコールが、少なくともメタノール又はエタノールである、請求項1または請求項2に記載の2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの保存安定性の向上方法。
- 第2工程における保存温度が−30〜+50℃である事を特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の2,2-ジフルオロアセトアルデヒドの保存安定性の向上方法。
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