図1に示すように、一実施形態に係るランフラットは、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、トレッド部(1)と、その両端から半径方向内側に延びる左右一対のサイドウォール部(2)と、サイドウォール部(2)の内側端に設けられた左右一対のビード部(3)とからなる。一対のビード部(3)には環状のビードコア(4)が埋設されている。また、一対のビード部(3)間にまたがって延びる少なくとも1枚のカーカス層(5)が埋設されている。なお、図中、CLはタイヤ赤道を示す。この例ではタイヤはタイヤ赤道CLに対して左右対称構造をなす。
カーカス層(5)は、トレッド部(1)からサイドウォール部(2)をへてビード部(3)に延び、ビード部(3)においてビードコア(4)の周りをタイヤ軸方向内側から外側に折り返されて係止されている。カーカス層(5)は、有機繊維コード等からなるカーカスコードをタイヤ周方向に対し実質上直角に配列してなる。カーカス層(5)の本体とその折返し部との間には、ビードコア(4)の径方向外周側に断面三角形状をなす硬質ゴム製のビードフィラー(6)が配されている。
一対のサイドウォール部(2)にはそれぞれ、その剛性を上げるために、サイドパッドとも称されるサイド補強ゴム部(7)が設けられている。サイド補強ゴム部(7)は、サイドウォール部(2)におけるカーカス層(5)のタイヤ内面側に配設されており、タイヤ子午線断面において三日月状の断面形状にて設けられている。
トレッド部(1)におけるカーカス層(5)の外周側(即ち、タイヤ径方向外側)には、カーカス層(5)とトレッドゴム部(8)との間に、ベルト(9)が配されている。ベルト(9)は、カーカス層(5)のクラウン部の外周に重ねて設けられており、1枚又は複数枚のベルトプライ、通常は少なくとも2枚のベルトプライで構成することができ、本実施形態では、カーカス層(5)側の第1ベルトプライ(9A)と、トレッドゴム部(8)側の第2ベルトプライ(9B)との2枚のベルトプライで構成されている。ベルト(9)は、ベルトコードをタイヤ周方向に対して一定角度で傾斜させかつタイヤ幅方向に所定間隔にて配列させてなるものである。
ベルト(9)の外周側(即ち、タイヤ半径方向外側)において、ベルト(9)とトレッドゴム部(8)との間には、繊維コードをタイヤ周方向に沿って配設してなるベルト補強層(10)が設けられている。ベルト補強層(10)は、ベルト(9)をその幅方向全体で覆うキャッププライであり、タイヤ周方向に実質的に平行に配列した繊維コードと、該繊維コードを被覆する被覆ゴムとで構成されている。ベルト補強層(10)は、1本の繊維コードをゴム被覆し又は複数本の繊維コードを一列に並べてゴム被覆した部材を、ベルト(9)の外周において、タイヤ周方向に対して0°〜5°の角度で螺旋状に巻回することにより形成することができる。
本実施形態に係るランフラットタイヤでは、ベルトプライ(9A)(9B)を構成するベルトコードとして、以下に詳述するスチールコードを用いる。
図2に示すように、一実施形態に係るスチールコード(20)は、スチール製の主フィラメント(21)を複数本撚り合わせることなく一列に引き揃えて主フィラメント束(22)とし、1本のスチール製のラッピングフィラメント(23)を主フィラメント束(22)の周囲に巻き付けてなるn+1構造(但し、n=3〜6)の扁平なコードである。
主フィラメント(21)としては、断面が円形であり、直径、即ちフィラメント径(d)が0.15〜0.30mmであるスチールフィラメントを用いることができる。直径(d)は、より好ましくは0.15〜0.25mmである。なお、主フィラメントの断面形状は真円でなくてもよく,たとえば楕円形でもよい。
主フィラメント束(22)は、同一径の複数本の主フィラメント(21)を、撚り合わせることなく横一列に引き揃えて配置することにより形成される。すなわち、主フィラメント(21)は、一つの平面に沿って1層をなすように並列される。そのため、得られるスチールコード(20)は扁平であり、図3に示すように長径(Dl)と短径(Da)を持つ。このような扁平なスチールコードであると、長径方向の曲げ剛性が高く、短径方向の曲げ剛性が低いので、ランフラット耐久性と操縦安定性と乗り心地性のバランスを改善できる。
主フィラメント束(22)を構成する主フィラメント(21)の本数は3〜6本である。3本以上であることにより、後述する面内剛性と面外剛性の比を10以上にしやすい。また、6本以下であることにより、主フィラメント束(22)を一列に並ぶ形状にしやすい。
主フィラメント束(22)の周囲に巻き付けるラッピングフィラメント(23)としては、波付け等していない真直なスチールフィラメントが用いられる。ラッピングフィラメント(23)によって主フィラメント(21)を拘束することにより主フィラメント束(22)の形状を保持することができる。そのため、引き揃えられた主フィラメント束(22)にスチールコードとしての一体感を持たせることで高い面内剛性を得られるため、操縦安定性を向上することができる。
なお、主フィラメント束(22)に対するラッピングフィラメント(23)の巻きピッチ(p)は、主フィラメント(21)の本数やフィラメント径等により異なるので特に限定されず、例えば、2.0〜30.0mmでもよく、3.0〜10.0mmでもよい。また、主フィラメント(21)は、波付けされていない真直な金属フィラメントであってもよく、あるいは波付け加工された金属フィラメントを用いてもよい。
本実施形態に係るスチールコード(20)としては、上記のように主フィラメント束(22)の周りをラッピングフィラメント(23)で巻き付けてなる扁平なコードを、その短径方向における両面から押圧して、ラッピングフィラメント(23)を変形させたものが用いられる。押圧により、隣接する主フィラメント(21)の間に形成される空間の少なくとも一部に、ラッピングフィラメント(23)が空間の形状に沿って変形しその一部が侵入する、即ち、上記空間の少なくとも一部がラッピングフィラメント(23)の少なくとも一部によって埋められる。そのため、ラッピングフィラメント(23)による主フィラメント(21)の拘束力を大きくできる。また、ラッピングフィラメント(23)に比較的大きな塑性変形が加えられることにより、ラッピングフィラメント(23)に内在する回転トルク及び反発力が小さくなる。そのため、主フィラメント束(22)が1列に並ぶ形状を保持しやすく、扁平なコードによる優れた効果を発揮しやすい。
主フィラメント(21)とラッピングフィラメント(23)に用いられる鋼材としては、炭素を含有する各種ピアノ線材からなる炭素鋼を用いることができる。主フィラメント(21)の炭素含有量は、特に限定しないが、0.70〜1.20質量%であることが好ましい。一実施形態として、炭素含有量が0.85質量%以上0.95質量%未満のものを用いることができる。また、本実施形態では、ラッピングフィラメント(23)の硬度が主フィラメント(21)の硬度よりも低い。硬度は、炭素含有量により調整することができる。一実施形態として、主フィラメント(21)の炭素含有量(質量%)をCcとし、ラッピングフィラメント(23)の炭素含有量(質量%)をCwとして、両者の差であるCc−Cwが0.05〜0.40(質量%)であることが好ましい。このような差に設定することにより、スチールコードを押圧する際にラッピングフィラメントを断線することなく変形させることができる。すなわち、Cc−Cwが0.05質量%以上であることにより、ラッピングフィラメント(23)を押圧により変形させやすく、また、0.40質量%以下であることにより、ラッピングフィラメント(23)が押圧により断線する可能性を小さくすることができる。Cc−Cwは、より好ましくは0.10〜0.30質量%である。
上記押圧は不図示の圧延ロールを用いて行うことができ、ラッピングフィラメント(23)の巻き付け後の扁平なコードは、圧延ロールにより上下両面から挟まれて押圧される。ラッピングフィラメント(23)が外側に位置しており,かつその硬度が主フィラメント(21)よりも低いので、押圧によりラッピングフィラメント(23)を優先的に変形させることができる。隣接する主フィラメント(21)の間には断面が略扇形の空間が形成されており、圧延ロールによって押圧されると、ラッピングフィラメント(23)の内周側が該空間を埋めるように変形し、当該空間の形状に沿う突起(23a)が形成される。同時に、突起(23a)間に凹み(23c)が形成されるとともに、ラッピングフィラメント(23)の外周側部分(23b)は平面状に変形する。
本実施形態に係るスチールコード(20)では、押圧前のスチールコードの短径(Db)に対する押圧後のスチールコードの短径(Da)の比(Da/Db)が0.80以下の関係を持つ。上記のように両面から押圧したことにより、変形後のラッピングフィラメント(23)を持つスチールコード(20)の厚さ、即ち押圧後の短径(Da)は、変形前のラッピングフィラメントを持つスチールコードの厚さ、即ち押圧前の短径(Db)よりも小さい。このように、Da/Db≦0.80となる程度の大きさの力で押圧することにより、変形したラッピングフィラメント(23)の主フィラメント(21)間の空間への侵入が十分となり、ラッピングフィラメント(23)の拘束力を十分に確保することができる。また、ラッピングフィラメント(23)に内在する回転トルク及び反発力が十分に小さくできる。Da/Dbは、より好ましくは0.65〜0.75である。
ラッピングフィラメント(23)の押圧前の直径、即ちフィラメント径(d0)は、主フィラメント(21)の直径(d)よりも小径のものが好ましく、0.10〜0.15mmであることが好ましい。0.15mm以下であることにより、ラッピングフィラメント(23)に内在する回転トルク及び反発力を押圧によって十分に小さくできる。また、0.10mm以上であることにより、押圧時に断線する可能性を小さくできる。なお、ラッピングフィラメントの断面形状は真円でなくてもよく,たとえば楕円形でもよい。
本実施形態において、スチールコード(20)は、面外剛性(R2)に対する面内剛性(R1)の比(R1/R2)が10以上30以下である。ここで、面内剛性とは、スチールコード(20)を長径方向(B)(図3における左右方向)に曲げる際の曲げ剛性であり、タイヤでは幅方向の剛性に相当する。また、面外剛性とは、スチールコード(20)を短径方向(A)(図3における上下方向)に曲げる際の曲げ剛性であり、タイヤでは径方向の剛性に相当する。このような面内剛性及び面外剛性を持たせるためには、引き揃える主フィラメントの太さや本数などを適切に設定すればよく、例えば、主フィラメントの直径を大きくすることで、面内剛性及び面外剛性ともに高くすることができ、また、主フィラメントの引き揃え本数を多くすることで、面内剛性を高めて、R1/R2の比を大きくすることができる。
スチールコード(20)のR1/R2が10以上であることにより、ベルト耐久性を維持しつつ、操縦安定性を向上することができる。詳細には、一般に、操縦安定性を向上するためにスチールコードの打ち込み本数を増やすと、コードセパレーションを生じやすくなり、ベルト耐久性が低下するが、R1/R2を10以上とすることにより、打ち込み本数を増やすことなく、操縦安定性を向上することができる。また、R1/R2が30以下であることにより、タイヤ踏面の剛性を確保して、操縦安定性及びタイヤ高速耐久性を維持することができる。R1/R2は、より好ましくは15以上である。
面内剛性(R1)の値は特に限定されず、0.5〜15.5N/8本であってもよく、1.2〜15.5N/8本であってもよい。面外剛性(R2)の値も特に限定されず、0.04〜0.55N/8本であってもよく、0.12〜0.55N/8本であってもよい。
図4に示すように、ベルトプライ(9A)(9B)は、スチールコード(20)を、その長径方向(B)がベルト面(即ち、ベルト外周面)に平行になるように配置することで形成されている。すなわち、ベルトプライ内において、スチールコード(20)は、その短径方向(A)がベルトプライの厚み方向(K)と一致するようにして、所定間隔でコーティングゴム(30)内に埋設されている。そのため、スチールコード(20)は、その長径方向(B)がトレッド面に平行になるように配置される。このように構成することにより、ベルトプライの厚みを薄くしてタイヤ重量の増加を抑えることができ、タイヤ幅方向における曲げ剛性が高くなるので、乗り心地性を損なうことなく、操縦安定性を向上することができる。
スチールコード(20)は、タイヤ周方向に対して10°〜35°の角度で傾斜しており、かつ、2枚のベルトプライ(9A)(9B)間で互いに交差するように配設されている。スチールコード(20)の傾斜角度が10°以上であることにより、ランフラット走行時の操縦安定性を向上することができ、また、35°以下であることにより、タイヤ踏面の剛性不足を抑えて、操縦安定性及びタイヤ高速耐久性を向上することができる。
なお、ベルトプライにおけるスチールコードの打ち込み本数は、特に限定されず、例えば、10〜30本/25.4mmでもよく、また10〜25本/25.4mmでもよい。
本実施形態に係るランフラットタイヤでは、ベルト補強層(10)を構成する繊維コードとして、片撚り構造のナイロン繊維コードを用いる。詳細には、ナイロンフィラメント(好ましくは、ナイロン66フィラメント)を束ねたヤーンを、撚り係数Kが750〜1100となるように、一方向に撚りを付与した片撚り構造の繊維コードを用いる。ベルト補強層(10)の全幅で撚り係数Kが750〜1100の範囲内のものを用いる。かかる繊維コードを用いることにより、乗り心地性と操縦安定性を損なうことなく、耐摩耗性を向上することができる。
ナイロン繊維コードは、公称繊度(表示繊度とも称される。)が1000〜2000dtexであることが好ましい。公称繊度が1000dtex以上であることにより、コード強力を確保して打ち込み本数の増加を抑えることができ、接着性や発熱性に有利となり、耐久性の低下を抑えることができる。また、公称繊度が2000dtex以下であることにより、コード径の増大によるタイヤ質量の増加を抑えることができ、耐摩耗性に有利である。公称繊度は、より好ましくは1200〜1600dtexである。
上記撚り係数Kは、長さ10cm当たりの撚り数をT(回/10cm)とし、公称繊度をD(dtex)として、K=T(D/1.14)1/2で定義される値である。撚り係数Kが750以上であることにより、タイヤ周方向の剛性が高くなりすぎるのを抑えて、乗り心地性及び操縦安定性の低下を抑えることができる。撚り係数Kが1100以下であることにより、タイヤ周方向の剛性を確保してベルト拘束力を維持することができ、耐摩耗性を向上することができる。
一実施形態において、ベルト補強層(10)は、ナイロン繊維コードの2%伸長時の荷重(N)とその打ち込み本数(本/25mm)との積が、ショルダー領域(10A)よりもセンター領域(10B)で大きく形成される。すなわち、ベルト補強層(10)は、その幅方向両端部に位置する一対のショルダー領域(10A)と、該ショルダー領域(10A)間に位置するセンター領域(10B)とからなる。ショルダー領域(10A)における上記2%伸張時の荷重と打ち込み本数の積をMShとし、センター領域(10B)における上記2%伸張時の荷重と打ち込み本数の積をMCeとして、MCeがMShよりも大きく、より詳細には、両者の比であるMSh/MCeが1.00未満に設定されている。これにより、センター領域(10B)での拘束力が高まり、耐摩耗性と操縦安定性を向上することができる。MSh/MCeは、より好ましくは0.90〜0.98である。
このようにショルダー領域(10A)とセンター領域(10B)で上記積を変更する方策としては、ショルダー領域(10A)とセンター領域(10B)で公称繊度を変える等して2%伸張時の荷重が異なるものを用いてもよく、あるいはまた同じコードを用いつつ打ち込み本数を変更してもよく、両者を組み合わせてもよい。また、例えば同じコードを用いて打ち込み本数を変更する場合、ショルダー領域(10A)とセンター領域(10B)の間に打ち込み本数が漸次変化する徐変領域を設けてもよい。
ここで、ショルダー領域(10A)とセンター領域(10B)の境界(11)は、特に限定されず、例えば、ベルト補強層(10)のタイヤ軸方向(即ち、タイヤ幅方向)における幅(W)に対して、ベルト補強層(10)の端から15〜35%の範囲内に設定することが好ましい。すなわち、ショルダー領域(10A)のタイヤ軸方向における幅(Ws)が0.15W〜0.35Wであり、センター領域(10B)のタイヤ軸方向における幅(Wc)が0.30W〜0.70Wであることが好ましい。より好ましくは、境界(11)は、ベルト補強層(10)の端から上記幅(W)の20〜30%の範囲内に設定することである。ここで、境界(11)を設定する際の寸法値は、タイヤを正規リム(JATMAであれば標準リム)に装着して正規内圧(JATMAであれば最高空気圧)を充填した無負荷の正規状態でのものである。
ナイロン繊維コードの打ち込み本数、即ち、ベルト補強層(10)の幅25mm当たりのナイロン繊維コードの打ち込み本数は、特に限定されず、例えば30〜65本/25mmでもよく、また40〜60本/25mmでもよい。ナイロン繊維コードの2%伸張時の荷重も、特に限定されず、例えば5〜20Nでもよく、また8〜15Nでもよい。
本実施形態に係るランフラットタイヤでは、サイドウォール部(2)を補強するサイド補強ゴム部(7)が以下に詳述するゴム組成物を用いて形成されることが好ましい。すなわち、サイド補強ゴム部(7)は、ランフラット耐久性を向上させる新規な物性を持つゴム組成物を用いて形成されたものであり、該ゴム組成物は、測定温度23℃での50%伸張時の引張応力をM50Nとし、測定温度100℃での50%伸張時の引張応力をM50Hとして、両者の比であるM50H/M50Nが次の関係を満足する。すなわち、サイド補強ゴム部(7)を構成するゴム組成物は、加硫ゴム物性が次の関係を満たす。
1.0 ≦ M50H/M50N ≦ 1.3
これにより、同物性を有するサイド補強ゴム部(7)が得られ、通常走行時における走行性能(例えば、轍乗り越し性)を維持しつつ、ランフラット走行時におけるサイドウォール部の変形を抑えてランフラット耐久性を向上することができる。
詳細には、一般にランフラットタイヤのサイド補強ゴム部に用いられる高硬度配合のゴム組成物では高温時に弾性率が低下するが、本実施形態では、この関係を反転させて、ランフラット走行時に相当する高温(100℃)時における引張応力が、通常走行時に相当する常温(23℃)時における引張応力と、同等以上であるゴム組成物を用いる。M50H/M50Nが1.0以上であると、ランフラット走行時における剛性低下を抑えて、ランフラット耐久性を向上することができる。より好ましくは、高温時の引張応力が常温時の引張応力よりも高いことであり、即ち、M50H/M50N>1.0であり、更に好ましくはM50H/M50Nは1.1以上である。また、M50H/M50Nが1.3以下であることにより、高温時での剛性が高くなりすぎるのを防いで、ランフラット耐久性の向上効果を発揮することができる。M50H/M50Nは、1.3未満であることが好ましく、より好ましくは1.2以下である。
該ゴム組成物の100℃での50%伸張時の引張応力(M50H)は3.5MPa以上であることが、高温時におけるサイドウォール部の剛性を高めて、ランフラット耐久性を向上する上で好ましい。M50Hの下限は、より好ましくは4.0MPa以上である。また、M50Hの上限は、特に限定しないが、5.5MPa以下であることが好ましく、より好ましくは5.3MPa以下であり、このような上限値に設定することにより、高温時に剛性が高くなりすぎてサイドウォール部がしなりにくくなることを抑えて、ランフラット耐久性を向上することができる。
該ゴム組成物の23℃での50%伸張時の引張応力(M50N)は、特に限定されないが、通常走行時における走行性能を良好に維持するため、3.0〜5.0MPaであることが好ましく、より好ましくは下限値が3.5MPa以上であり、上限値が4.5MPa以下である。
サイド補強ゴム部(7)には、ゴム成分としてのジエン系ゴムに充填剤を配合してなり、上記加硫ゴム物性を有する種々のゴム組成物を用いることができる。一実施形態に係るゴム組成物は、天然ゴム及びポリブタジエンゴムを含むジエン系ゴムに、フェノール系熱硬化性樹脂と、その硬化剤としてのメチレン供与体を配合してなるものであり、メチレン供与体に対するフェノール系熱硬化性樹脂の配合量の質量比が1.5倍以上である。
該ゴム組成物において、ゴム成分としてのジエン系ゴムは、天然ゴム(NR)とポリブタジエンゴム(BR)を含む。天然ゴム及びポリブタジエンゴムとしては、特に限定されず、ゴム工業において一般に使用されているものを用いることができる。ゴム成分中における両者の配合比率は、特に限定されず、例えば、天然ゴムは20〜70質量%であってもよく、30〜60質量%であってもよい。ポリブタジエンゴムは30〜80質量%であってもよく、40〜70質量%であってもよい。天然ゴムの含有率を高めることにより耐引裂性能を向上することができ、ポリブタジエンゴムの含有率を高めることにより耐屈曲疲労性を向上することができる。
該ゴム成分は、天然ゴムとポリブタジエンゴムのみで構成してもよいが、その他のジエン系ゴムを配合してもよい。その他のゴムとしては、特に限定されないが、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)などが挙げられる。
フェノール系熱硬化性樹脂としては、フェノール、レゾルシン、及びこれらのアルキル誘導体からなる群から選択された少なくとも1種のフェノール類化合物を、ホルムアルデヒドなどのアルデヒドで縮合してなる熱硬化性樹脂が用いられ、高硬度化を図ることができる。上記アルキル誘導体には、クレゾール、キシレノールといったメチル基誘導体の他、ノニルフェノール、オクチルフェノールといった比較的長鎖のアルキル基による誘導体が含まれる。フェノール系熱硬化性樹脂の具体例としては、フェノールとホルムアルデヒドを縮合してなる未変性フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂)、クレゾールやキシレノール、オクチルフェノール等のアルキルフェノールとホルムアルデヒドを縮合してなるアルキル置換フェノール樹脂、レゾルシンとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシンとアルキルフェノールとホルムアルデヒドを縮合してなるレゾルシン−アルキルフェノール共縮合ホルムアルデヒド樹脂などの、各種ノボラック型フェノール樹脂が挙げられる。また、例えばカシューナッツ油、トール油、ロジン油、リノール油、オレイン酸及びリノレイン酸よりなる群から選択された少なくとも一種のオイルで変性されたオイル変性ノボラック型フェノール樹脂を用いることもできる。これらのフェノール系熱硬化性樹脂は、いずれか1種を用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
フェノール系熱硬化性樹脂の硬化剤として配合するメチレン供与体としては、ヘキサメチレンテトラミン及び/又はメラミン誘導体が用いられる。メラミン誘導体としては、例えば、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサメチロールメラミンペンタメチルエーテル、及び多価メチロールメラミンからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、メチレン供与体としては、ヘキサメトキシメチルメラミン及び/又はヘキサメチレンテトラミンが好ましく、より好ましくはヘキサメトキシメチルメラミンである。
フェノール系熱硬化性樹脂の配合量(A)は、メチレン供与体の配合量(B)との質量比で、A/B≧1.5である。硬化剤としてのメチレン供与体の割合が多すぎると、ゴムの架橋系に悪影響を及ぼすおそれがある。適切な割合で使用することにより、M50H/M50Nの比を上記範囲内に設定しやすくなり、ランフラット走行時の変形抑制効果を高めて、ランフラット耐久性を向上することができる。A/Bは、より好ましくは2.0以上であり、更に好ましくは2.5以上である。A/Bの上限は、5.0以下であることが好ましく、より好ましくは4.0以下である。
フェノール系熱硬化性樹脂の配合量は、特に限定しないが、ジエン系ゴム100質量部に対して1〜20質量部であることが好ましく、より好ましくは1〜10質量部である。また、メチレン供与体の配合量は、特に限定しないが、ジエン系ゴム100質量部に対して0.2〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
実施形態に係るゴム組成物には、キノリン系老化防止剤と、キノリン系老化防止剤以外の少なくとも一種の老化防止剤を配合することが好ましい。これらの2種以上の老化防止剤を配合することにより、ランフラット耐久性を向上することができる。
キノリン系老化防止剤としては、例えば、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、及び、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロ−キノリン(ETMDQ)からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
キノリン系老化防止剤と併用する他の老化防止剤としては、例えば、芳香族第2級アミン系老化防止剤、フェノール系老化防止剤、硫黄系老化防止剤、及び亜リン酸エステル系老化防止剤からなる群から選択される少なくとも1種の老化防止剤が挙げられる。
芳香族第2級アミン系老化防止剤としては、例えば、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(6PPD)、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(IPPD)、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(DPPD)、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン(DNPD)、N−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンなどのp−フェニレンジアミン系老化防止剤; p−(p−トルエンスルホニルアミド)ジフェニルアミン、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(CD)、オクチル化ジフェニルアミン(ODPA)、スチレン化ジフェニルアミンなどのジフェニルアミン系老化防止剤; N−フェニル−1−ナフチルアミン(PAN)、N−フェニル−2−ナフチルアミン(PBN)等のナフチルアミン系老化防止剤などが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
フェノール系老化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(DTBMP)、スチレン化フェノール(SP)などのモノフェノール系老化防止剤; 2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(MBMBP)、2,2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)(MBETB)、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(BBMTBP)、4,4’−チオ−ビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(TBMTBP)などのビスフェノール系老化防止剤; 2,5−ジ−tert−ブチルハイドロキノン(DBHQ)、2,5−ジ−tert−アミルハイドロキノン(DAHQ)などのハイドロキノン系老化防止剤などが挙げられる。これらはいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
硫黄系老化防止剤としては、例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾールの亜鉛塩などのベンズイミダゾール系老化防止剤; ジブチルジチオカルバミン酸ニッケルなどのジチオカルバミン酸塩系老化防止剤; 1,3−ビス(ジメチルアミノプロピル)−2−チオ尿素、トリブチルチオ尿素などのチオウレア系老化防止剤; チオジプロピオン酸ジラウリルなどの有機チオ酸系などが挙げられる。亜リン酸エステル系老化防止剤としては、例えば、トリス(ノニルフェニル)ホスファイトなどが挙げられる。これらについてもいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
キノリン系老化防止剤と併用する他の老化防止剤としては、上記の中でも、芳香族第2級アミン系老化防止剤が好ましく、より好ましくはp−フェニレンジアミン系老化防止剤である。
キノリン系老化防止剤の配合量は、老化防止剤の全配合量に対して20質量%以上であることが好ましく、ランフラット耐久性の向上効果を高めることができる。より好ましくは25質量%以上であり、更に好ましくは30質量%以上である。この比率の上限は、80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは75質量%以下である。老化防止剤の全配合量、すなわちキノリン系老化防止剤とそれ以外の老化防止剤の配合量の合計は、ジエン系ゴム100質量部に対して、1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは1.5〜7質量部であり、更に好ましくは2〜5質量部である。キノリン系老化防止剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、0.2〜8質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜4質量部である。
実施形態に係るゴム組成物には、カーボンブラック及び/又はシリカなどの充填剤を配合することができる。充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して20〜100質量部であることが好ましく、より好ましくは30〜80質量部であり、更に好ましくは50〜70質量部である。充填剤としては、カーボンブラック単独、又はカーボンブラックとシリカのブレンドが好ましく、より好ましくはカーボンブラックである。なお、充填剤の種類及び配合量により、ゴム組成物の引張応力の値を調整することができる。
カーボンブラックとしては、特に限定されず、例えば、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)のものを用いることができ、より好ましくはFEF級のものである。
実施形態に係るゴム組成物には、上記成分の他に、オイル、亜鉛華、ステアリン酸、ワックス、加硫剤、加硫促進剤など、タイヤ用ゴム組成物において一般に使用される各種添加剤を配合することができる。ここで、加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられ、特に限定するものではないが、その配合量はジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜8質量部であり、更に好ましくは1〜5質量部である。また、加硫促進剤の配合量としては、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1〜7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5〜5質量部である。
該ゴム組成物は、通常に用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練し作製することができる。また、該ゴム組成物からなるサイド補強ゴム部は、常法に従い、例えば140〜180℃でタイヤを加硫成形することにより形成することができる。かかるゴム組成物であると、フェノール系熱硬化性樹脂とメチレン供与体を上記の質量比で配合するとともに、キノリン系老化防止剤を含む2種以上の老化防止剤を配合したことにより、高温時における引張応力を高めてM50H/M50Nの比を上記範囲内に設定しやすく、ランフラット耐久性を顕著に改善することができる。
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[サイド補強ゴム部用組成物の調製及び評価]
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第1工程(ノンプロ混合工程)で、硫黄と加硫促進剤とメチレン供与体を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、第2工程(ファイナル混合工程)で硫黄と加硫促進剤とメチレン供与体を添加混合して(排出温度=100℃)、サイド補強ゴム部用ゴム組成物を調製した。
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
・NR:天然ゴム、RSS3号
・BR:JSR(株)製「BR01」
・カーボンブラック:N550、東海カーボン(株)製「シーストSO」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS−20」
・フェノール系樹脂:オイル変性ノボラック型フェノール樹脂、住友ベークライト(株)製「スミライトレジンPR13349」
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」
・老化防止剤1:N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、住友化学(株)製「アンチゲン6C」
・老化防止剤2:2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体(TMDQ)、川口化学工業(株)製「アンテージRD」
・加硫促進剤:スルフェンアミド系、大内新興化学工業(株)製「ノクセラーNS−P」
・メチレン供与体:ヘキサメトキシメチルメラミン、三井サイテック(株)製「CYREZ 964RPC」
・硫黄:四国化成工業(株)「ミュークロンOT−20」。
各ゴム組成物について、160℃で25分間加硫した厚さ2mmの試験片を用いて、下記方法により、23℃での50%伸張時の引張応力(M50N)と、100℃での50%伸張時の引張応力(M50H)を測定し、両者の比(M50H/M50N)を求めた。
・M50:JIS K6251に準拠。ダンベル状3号形の試験片につき、室温23℃にて引張試験を実施し、50%伸長時の引張応力(M50N)を求めた。また、試験片を1時間以上100℃の恒温槽で保持した後、恒温槽つきの引っ張り試験機にて、100℃の雰囲気下で引張試験を実施し、50%伸長時の引張応力(M50H)を求めた。
表1に示すように、コントロールである配合1では、常温と高温の引張応力の比であるM50H/M50Nが0.9であり、高温時に剛性が下がるものであった。配合2では、配合1に対し、カーボンブラックを増量しかつフェノール系樹脂及びメチレン供与体を添加したことにより、高温時における引張応力の低下はなくなったものの、剛性上昇が大きすぎ、M50H/M50Nが1.3を超えた。これに対し、フェノール系樹脂とメラミン化合物を所定量配合するとともに、キノリン系老化防止剤を含む2種以上の老化防止剤を配合した配合3〜6では、高温時における引張応力を高めてM50H/M50Nの比を1.1〜1.2の範囲内にすることができた。
[スチールコードの作製及び評価]
下記表2中のベルトの欄に示す構造を持つスチールコードを作製した。各スチールコードは、複数本のスチール製の主フィラメント(炭素含有量=0.92質量%)を撚り合わせることなく1列に引き揃えて配置した主フィラメント束を、直径d=0.15mmの1本のスチール製のラッピングフィラメント(炭素含有量=0.72質量%)でラッピングし、更に圧延ロールで押圧してなるn+1構造のスチールコードである。なお、表2中の「4×0.22+1」の0.22は主フィラメント径dが0.22mmであることを示す。比較例6は押圧しなかった。実施例1と実施例5のDa/Dbの違いは、圧延ロールによる押圧力の違いによるものである。ラッピングフィラメントの巻きピッチp=5.0mmとした。フィラメント及びスチールコードについての測定方法は以下の通りである。
・フィラメントの炭素含有量:JIS G1211に準拠した赤外線吸収法(附属書3:全炭素定量法−高周波誘導加熱炉燃焼)。より詳細には、LECO製「CS−400」なる装置を用い、鋼を高周波加熱により溶解し、赤外線吸収法で定量分析。
・フィラメント径、コード径:JIS G3510に準拠し、所定の厚み計によりスチールコード及びフィラメントの直径を計測。
・コード形状:ラッピングフィラメントでラッピングした際に、引き揃えた主フィラメントが一列に並んでいるものを○(良好)とし、やや崩れているものを△とし、大きく崩れているものを×(不良)とした。
・面内剛性/面外剛性(R1/R2):図5に示す断面形状の面外剛性測定用サンプルと図6に示す断面形状の面内剛性測定用サンプルを作製した。
面外剛性測定用サンプルは、スチールコードを、図5に示すように、その長径方向がトッピング反の表面に平行になるように打ち込み本数=15本/25.4mmで配置し、その上下の被覆ゴム厚みを0.50mmとして、反幅300mmにてトッピング反を作製した。得られたトッピング反を160℃×20分で加硫し、スチールコードが8本含まれるように切断して面外剛性測定用サンプルを得た。
面内剛性測定用サンプルは、未加硫の上記トッピング反を長径方向同士が平行になるように8枚重ね合わせてから、160℃×20分で加硫し、図6に示すように切り出すことで、スチールコードが8本含まれる面内剛性測定用サンプルを得た。
面内剛性及び面外剛性の測定は、図7に示すように、一対の支えロール(42)(42)上にサンプル(40)をおき、上方から押込み治具(44)を用いて押込み量30mmでサンプル(40)を10回押し込み、10回目の押込み時における5mm押し込んだときの荷重を測定し、この荷重をそれぞれ面内剛性及び面外剛性とした。これらはともに、スチールコード8本当たりの曲げ剛性である。支えロール(42)は、回転時の負荷(回転抵抗)がほぼない回転自在のロールであり、ロール径は20mm、ロール間距離(軸間距離)は100mmとした。サンプル(40)は、スチールコードの長手方向Nが支えロール(42)の軸方向に垂直になるように配置し、かつ、図5,6に示した各サンプルの上方から押込み治具で押し込まれるように配置した。押込み治具(44)は、直径15mmのロールであり、押込み速度は300mm/分とした。
なお、トッピング反を作製する際の被覆用ゴム組成物の配合は、天然ゴム(RSS#3)100質量部に対し、カーボンブラックHAF(東海カーボン(株)製「シースト300」)60質量部、老化防止剤(フレキシス社製「サントフレックス6PPD」)2.0質量部、ステアリン酸コバルト2.0質量部、フェノール系樹脂(田岡化学(株)製「スミカノール620」)2.0質量部、ヘキサメトキシメチルメラミン4.0質量部、亜鉛華3号8.0質量部、不溶性硫黄6.0質量部、及び加硫促進剤DZ1.0質量部とした。
[タイヤの作製及び評価]
表2に示すサイド補強ゴム部(7)、ベルト(9)及びベルト補強層(10)(キャッププライ)の構成に従い、タイヤサイズ:245/40ZR18のラジアルタイヤ(ランフラットタイヤ)を、常法に従い加硫成形した。各タイヤについて、サイド補強ゴム部、ベルト及びベルト補強層以外の構成は、全て共通の構成とした。なお、カーカス層は、レーヨン繊維コード1840dtex/3を打ち込み数21本/25mmで1プライとした。
ベルトプライ(9A)/(9B)におけるスチールコードの角度は、タイヤ周方向に対して+27°/−27°とした。各タイヤは、ベルト強力がほぼ同一となるように、スチールコードの打ち込み本数を設定した。ベルトプライ(9A)(9B)は、スチールコードをその長径方向がベルト面に平行になるように、表2記載の打ち込み本数にて配置した上で、カレンダー装置を用いてトッピング反とすることにより作製した。
ベルト補強層(10)は、表2に記載の繊維コードを用いて、ベルト(9)の全幅を覆うキャッププライの1枚構成とした。表2中の「Ny66」はナイロン66を意味し、「1400dtex/1」は公称繊度1400dtexの片撚り構造を示し、「1400dtex/2」は公称繊度1400dtexの双撚り構造を示す。ショルダー領域(10A)(表中「Sh」)とセンター領域(10B)(表中「Ce」)の境界(11)は、ベルト補強層(10)の端からベルト補強層幅(W)の25%の位置に設定した。
ベルト補強層(10)を構成する繊維コードの2%伸張時の荷重は、JIS L1017に準じ、20℃、65%RHの恒温条件で24時間以上放置後、常温にて引張試験したときの2%伸長時の荷重である。
得られた各タイヤについて、ランフラット耐久性、タイヤ高速耐久性、実車操縦安定性、耐摩耗性及び轍乗り越し性を評価した。各測定・評価方法は以下の通りである。
・ランフラット耐久性:表面が平滑な鋼製で、直径1700mmのドラム試験機を用いた。タイヤ内圧0kPaで、荷重はロードインデックスに対応する負荷能力の65%とした。試験開始から5分で80km/hまで速度を上昇させた後、80km/hで故障が発生するまで走行させた。故障が発生するまでの走行距離を、比較例1のタイヤを100として指数表示した。数字大きいほどランフラット耐久性が良好である。
・タイヤ高速耐久性:FMVSS109(UTQG)準拠。表面が平滑な鋼製で、直径1700mmのドラム試験機を用いて行った。タイヤ内圧は220kPaで、荷重はJATMA規定の最大荷重の88%とした。80km/hで60分慣らし走行した後放冷し、再度空気圧を調整した後本走行を行った。本走行は120km/hから開始し、30分毎に8km/hずつ段階的に速度を上昇させ、故障が発生するまで走行させた。故障が発生するまでの走行距離を、比較例1のタイヤを100として指数表示した。数字大きいほど高速耐久性が良好である。
・実車操縦安定性能:内圧200kPaで標準リムに組み込んだ試験タイヤを排気量2500ccの試験車両に装着し、訓練された3名のテストドライバーが、テストコースを走行し、官能評価した。採点は10段階評価で、比較例1のタイヤを6点とした相対比較にて行い、3人の平均点を比較例1のタイヤを100とした指数で表示した。数字大きいほど操縦安定性が良好である。
・耐摩耗性:内圧200kPaで標準リムに組み込んだ試験タイヤを排気量2000ccの4WD車に装着し、2500km毎に左右ローテーションさせながら10000km走行させて、走行後の残溝の深さを測定した。残溝は4本の平均値である。比較例1の値を100とした指数で表示し、指数が大きいほど耐摩耗性が良好である。
・轍乗り越し性:内圧200kPaで標準リムに組み込んだ試験タイヤを試験車両の前輪に装着し、一般道の轍を模した図8に示す断面形状を持つ試験路(轍の高低差h=20mm)にて、タイヤの乗り越し性を官能評価した。轍をスムーズに乗り越せるものを○、やや乗り越しにくいものを△、非常に乗り越しにくいものを×とした。
結果は、表2に示す通りである。比較例1は、ベルト補強層が双撚り構造のナイロン繊維コードからなり全幅で一定の構成とした。かかる比較例1に対し、実施例1〜7であると、ランフラット耐久性と高速耐久性と轍乗り越し性(乗り心地性)を損なうことなく、操縦安定性と耐摩耗性が顕著に向上していた。
比較例2では、ベルト補強層に用いた繊維コードの撚り係数Kが規定外の526と小さいため、特にセンター領域での拘束力が過度に大きく、操縦安定性が低下し、また、轍乗り越し性にも劣っていた。比較例3では、ベルト補強層に用いた繊維コードの撚り係数Kが規定外の1402と大きく、特にセンター領域での拘束力に劣り、操縦安定性と耐摩耗性が低下した。
比較例4では、ベルトを構成するベルトコードの面内面外剛性比であるR1/R2が規定外の9.2と小さかったため、比較例1に対してランフラット耐久性は同等レベルであったが、操縦安定性に劣っていた。比較例5では、面内面外剛性比であるR1/R2が規定外の41.1と大きすぎたため、走行中のタイヤ踏面の変形が大きく、高速耐久性及び操縦安定性が低下し、耐摩耗性もやや劣っていた。比較例6では、ベルトコードに圧延ロールによる押圧処理をしておらずDa/Dbが規定外の1.00であったため、ラッピングフィラメントによる拘束力が不十分であり、主フィラメントが一列に並ぶ形状がやや乱れて操縦安定性が低下した。比較例7では、ベルトコードの引き揃え本数が多すぎたため、主フィラメントが一列に並ぶ形状がとれず、操縦安定性、轍乗り越し性に劣っていた。
比較例8では、サイド補強ゴム部の常温と高温の引張応力の比であるM50H/M50Nが0.9であり、高温時に剛性が下がるものであったため、比較例1に対してランフラット耐久性に劣っていた。比較例9では、M50H/M50Nが1.4と大きすぎたため、比較例1に対してランフラット耐久性が低下した。