本発明の一実施形態によるブレーカーについて図面を参照して説明する。図1乃至図3はブレーカーの構成を示す。ブレーカー1は、固定接点21を有する固定片2と、先端部に可動接点3を有する可動片4と、温度変化に伴って変形する熱応動素子5と、PTC(Positive Temperature Coefficient)サーミスター6と、固定片2、可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6を収容するケース7等によって構成されている。ケース7は、樹脂ベース(第1ケース)71と樹脂ベース71の上面に装着されるカバー部材(第2ケース)72とカバー片8等によって構成されている。
固定片2は、リン青銅等を主成分とする金属板(この他、銅−チタン合金、洋白、黄銅などの金属板)をプレス加工することにより形成され、樹脂ベース71にインサート成形により埋め込まれている。固定片2の一端には外部回路と電気的に接続される端子22が形成され、他端側には、PTCサーミスター6を支持する支持部23が形成されている。PTCサーミスター6は、固定片2の支持部23に3箇所形成された凸状の突起(ダボ)24aの上に載置されて、突起24aに支持される。固定接点21は、銀、ニッケル、ニッケル−銀合金の他、銅−銀合金、金−銀合金などの導電性の良い材料のクラッド、メッキ又は塗布等により可動接点3に対向する位置に形成され、樹脂ベース71の上方に形成されている開口73bの一部から露出されている。端子22は樹脂ベース71の一端から外側に突き出されている。
本出願においては、固定片2において、固定接点21が形成されている側の面(すなわち図1において上側の面)を表(おもて)面、その反対側の面を裏(うら)面として説明している。他の部品、例えば、熱応動素子5についても同様である。
固定片2は、端子22、固定接点21及び支持部23(図中裏面が露出部23dに相当する)において露出し、端子22と固定接点21との間及び固定接点21と支持部23との間において樹脂ベース71に埋設される。固定片2の支持部23の表面は、ケース7の内部の収容空間に露出し、突起24aを介してPTCサーミスター6と電気的に接触している。
可動片4は、板状の金属材料をプレス加工することにより、長手方向の中心線に対して対称なアーム状に形成されている。可動片4の材料としては、固定片2と同等のリン青銅等を主成分とするものが好ましい。この他、銅−チタン合金、洋白、黄銅などの導電性弾性材料を用いてもよい。可動片4の長手方向の一端には外部回路と電気的に接続される端子41が形成されて樹脂ベース71から外側に露出される。可動片4の他端(アーム状の可動片4の先端に相当)には可動接点3が形成されている。可動接点3は、固定接点21と同等の材料によって形成され、溶接の他、クラッド、かしめ(crimping)等の手法によって可動片4の先端部に接合されている。可動片4は、可動接点3と端子41の間に、当接部42(アーム状の可動片4の基端及びケース7に埋設される部分に相当)、及び弾性部43を有している。当接部42は、端子41と弾性部43との間で樹脂ベース71及びカバー部材72と当接し、可動片4の短手方向に翼状に突出する突出部42aを有する。弾性部43は、当接部42から可動接点3の側に延出されている。当接部42において樹脂ベース71とカバー部材72によって裏表両面側から挟み込まれて可動片4が固定され、弾性部43が弾性変形することにより、その先端に形成されている可動接点3が固定接点21の側に押圧されて接触し、固定片2と可動片4とが通電可能となる。
樹脂ベース71とカバー部材72には、可動片4の当接部42と当接し、当接部42を固定状態で保持する当接部74と当接部79がそれぞれ形成されている。本実施形態では、樹脂ベース71の収納部73の外縁から樹脂ベース71の外壁に亘る領域に当接部74が形成されている。当接部74は、図1中、ケース7の底壁(内底面)の一部を構成する。また、カバー部材72において、可動片4を挟んで当接部74と対向する領域に当接部79が形成されている。当接部79は、図1中、ケース7の天壁(内天面)の一部を構成する。当接部42は、その裏面において樹脂ベース71の当接部74と当接し、その表面においてカバー部材72の当接部79と当接する。可動片4は、当接部74及び当接部79によって当接部42の裏表両面から挟み込まれて、ケース7に対して固定される。本実施形態においては、当接部42が可動片4の短手方向に翼状に突出する突出部42aを有するので、当接部42が幅広く大きな領域でケース7の当接部74及び当接部79によって挟み込まれ、可動片4がケース7に対して強固に固定される。
可動片4は、弾性部43において、プレス加工により湾曲又は屈曲されている。湾曲又は屈曲の度合いは、熱応動素子5を収納できる限り特に限定はなく、反転動作温度及び正転復帰温度における弾性力、接点の押圧力などを考慮して適宜設定すればよい。また、弾性部43の下面には、熱応動素子5に対向して一対の突起(接触部)44a,44bが形成されている。突起44a,44bと熱応動素子5とは接触して、突起44a,44bを介して熱応動素子5の変形が弾性部43に伝達される(図1、図2及び図3参照)。
また、可動片4には、可動片4の厚み方向に貫通し、樹脂ベース71の突起74aが挿通される貫通穴45と、クランク状に形成された段曲げ部46と、段曲げ部46に形成された斜面47と、樹脂ベース71の位置決め部75と係合される一対の係合部48と、可動片4の長手方向に対して垂直な短手方向に可動片4の一部が切除されたくびれ部49が形成されている。貫通穴45、段曲げ部46、斜面47、係合部48及びくびれ部49は、弾性部43を挟んで可動接点3とは反対側、すなわち弾性部43に対して端子41の側に設けられている。貫通穴45は、可動片4の長手方向の中心線上に設けられている。斜面47は、可動片4の短手方向に沿って連続して形成されている。係合部48は、可動片4の短手方向に沿って2箇所に設けられている。
貫通穴45は、可動片4の当接部42に形成されている。当接部42は、弾性部43に対して可動片4の短手方向に幅広に形成されている。これにより、当接部42における可動片4の長手方向に垂直な断面積が、弾性部43における該断面積に対して大きい箇所となる。また、貫通穴45は、平面視で(可動片4の厚み方向に視て)可動片4の短手方向に長い長円形状に形成されている。
係合部48は、くびれ部49の端子41の側の端縁にて形成される。くびれ部49は、当接部42を挟んで弾性部43とは反対側で、当接部42と端子41の間に配設されている。くびれ部49の幅寸法(可動片4の短手方向の長さ寸法、以下同様)は、弾性部43の幅寸法に対して同等以下に設定されているのが望ましいが、少なくとも当接部42及び端子41の幅寸法よりも小さく設定されていればよい。本実施形態におけるくびれ部49は、上記特許文献1における第2弾性部としての機能を有しており、端子41に加えられた外力や衝撃を吸収し、可動接点3の位置を適正に維持する。
熱応動素子5は円弧状に湾曲した初期形状をなし、バイメタル、トリメタルなどの複合材料からなる。過熱により反転動作温度に達すると湾曲形状はスナップモーションを伴って逆反りし、冷却により正転復帰温度を下回ると復元する。熱応動素子5の初期形状は、プレス加工により形成することができる。所期の温度で熱応動素子5の逆反りする反転動作により可動片4の弾性部43が押し上げられ、かつ弾性部43の弾性力により元に戻る限り、熱応動素子5の材質及び形状は特に限定されるものでないが、生産性及び逆反り動作の効率性の観点から矩形が望ましく、小型でありながら弾性部43を効率的に押し上げるために正方形に近い長方形であるのが望ましい。なお、熱応動素子5の材料としては、例えば、高膨脹側に銅−ニッケル−マンガン合金又はニッケル−クロム−鉄合金、低膨脹側に鉄−ニッケル合金をはじめとする、洋白、黄銅、ステンレス鋼など各種の合金からなる熱膨張率の異なる2種類の材料を積層したものが、所要条件に応じて組み合わせて使用される。
熱応動素子5の逆反り動作により固定片2と可動片4との通電が遮断されたとき、PTCサーミスター6に流れる電流が増大する。PTCサーミスター6は、温度上昇と共に抵抗値が増大して電流を制限する正特性サーミスターであれば、反転動作電流、反転動作電圧、反転動作温度、正転復帰温度などの必要に応じて種類を選択でき、その材料及び形状はこれらの諸特性を損なわない限り特に限定されるものではない。本実施形態では、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム又はチタン酸カルシウムを含むセラミック焼結体が用いられる。セラミック焼結体の他、ポリマーにカーボン等の導電性粒子を含有させたいわゆるポリマーPTCを用いてもよい。
ケース7を構成する樹脂ベース71及びカバー部材72は、難燃性のポリアミド(PA)、耐熱性に優れたポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの熱可塑性樹脂により成形されている。上述した樹脂と同等以上の特性が得られるのであれば、樹脂以外の材料を適用してもよい。樹脂ベース71には、熱応動素子5及びPTCサーミスター6などを収容するための収納部73及び可動片4を収納するための開口73a,73bなどが形成されている。なお、樹脂ベース71に組み込まれた可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6の端縁は、収納部73の内部に形成されている枠によってそれぞれ当接され、熱応動素子5の逆反り時に案内される。
また、樹脂ベース71は、可動片4の貫通穴45に挿通される突起74aと、可動片4を位置決めするための一対の位置決め部75と、可動片4の端子41を外部に露出させるための窓76を有する。突起74aは、貫通穴45に対応する形状に形成され、樹脂ベース71を補強する。突起74aの高さすなわち突出量は、可動片4の厚みより大きく設定され、カバー部材72の裏面には、突起74aの頂部に対応する凹部が必要に応じて設けられる。位置決め部75は、可動片4のくびれ部49に対応する形状に設けられている。すなわち、位置決め部75は、くびれ部49の近傍において切除された部分に介在し、樹脂ベース71を補強すると共に、カバー部材72の当接部79と溶着されて、ケース7の剛性・強度を高める。
カバー部材72には、カバー片8がインサート成形によって埋め込まれている。カバー片8は、上述したリン青銅等を主成分とする金属板又はステンレス鋼等の金属板をプレス加工することにより形成される。カバー片8は、図2及び図3に示すように、可動片4の上面と適宜当接し、可動片4の動きを規制すると共に、カバー部材72のひいては筐体としてのケース7の剛性・強度を高めつつブレーカー1の小型化に貢献する。カバー片8には、可動片4の側に突出する突起81a、81bが形成されている。突起81bによって弾性部43が熱応動素子5の方向に押圧され、通電時における固定接点21と可動接点3との接触圧力が適正化される。
図1に示すように、固定片2、可動片4、熱応動素子5及びPTCサーミスター6等を収容した樹脂ベース71の開口73a等を塞ぐように、カバー部材72が、樹脂ベース71の上面に装着される。樹脂ベース71とカバー部材72とは、例えば超音波溶着によって接合される。
図2は、通常の充電又は放電状態におけるブレーカー1の動作を示している。通常の充電又は放電状態においては、熱応動素子5は初期形状を維持し(逆反り前の正転形状であり)、固定接点21と可動接点3は接触し、可動片4の弾性部43などを通じてブレーカー1の両端子22、41間は導通している。可動片4の弾性部43と熱応動素子5とは接触しており、可動片4、熱応動素子5、PTCサーミスター6及び固定片2は、回路として導通している。しかし、PTCサーミスター6の抵抗は、可動片4の抵抗に比べて圧倒的に大きいため、PTCサーミスター6を流れる電流は、固定接点21及び可動接点3を流れる量に比して実質的に無視できる程度である。
図3は、過充電状態又は異常時などにおけるブレーカー1の動作を示している。過充電又は異常により高温状態となると、PTCサーミスター6が過熱され、反転動作温度に達した熱応動素子5は逆反りし、可動片4の弾性部43が押し上げられて固定接点21と可動接点3とが離反する。このとき、固定接点21と可動接点3の間を流れていた電流は遮断され、僅かな漏れ電流が熱応動素子5及びPTCサーミスター6を通して流れることとなる。PTCサーミスター6は、このような漏れ電流の流れる限り発熱を続け、熱応動素子5を逆反り状態に維持させつつ抵抗値を激増させるので、電流は固定接点21と可動接点3の間の経路を流れず、上述の僅かな漏れ電流のみが存在する(自己保持回路を構成する)。この漏れ電流は安全装置の他の機能に充てることができる。
過充電状態を解除し、又は異常状態を解消すると、PTCサーミスター6の発熱も収まり、正転復帰温度に戻ると、熱応動素子5は元の初期形状に復元する。そして、可動片4の弾性部43の弾性力によって可動接点3と固定接点21とは再び接触し、回路は遮断状態を解かれ、図2に示す導通状態に復帰する。
図4は、熱応動素子5の構成を示している。図4において、(a)は、熱応動素子5の初期形状である正転時の形状(正転形状)であり、(b)は、熱応動素子5の反転時の形状(反転形状)である。図5は、熱応動素子5の中心近傍の断面を示している。図4と同様に図5においても、(a)は、熱応動素子5の正転時の形状であり、(b)は、熱応動素子5の反転時の形状である。
熱応動素子5は、低膨張率金属層51と高膨張率金属層52とが積層されてなる。低膨張率金属層51は可動片4に隣り合って対向する表面側に、高膨張率金属層52はPTCサーミスター6に隣り合って対向する裏面側に、それぞれ設けられている。熱応動素子5は、その中央部が可動片4の側に突出するように、円弧状に湾曲した初期形状を有している。すなわち、低膨張率金属層51が円弧の半径方向の外側に、高膨張率金属層52が円弧の半径方向の内側に、それぞれ位置するように、低膨張率金属層51と高膨張率金属層52とが積層されている。
熱応動素子5の温度が上昇すると、熱によって高膨張率金属層52が低膨張率金属層51よりも大きく膨張し、反転動作温度を超えると、図4(b)及び図5(b)に示される反転形状に変形する。その後、熱応動素子5の温度が低下すると、高膨張率金属層52が低膨張率金属層51よりも収縮し、正転復帰温度以下になると、図4(a)及び図5(a)に示される正転形状に復帰する。
熱応動素子5は、PTCサーミスター6の側、すなわち可動片4とは反対の側に突出する第1突出部53を有している。換言すると、熱応動素子5は、高膨張率金属層52が設けられている裏面側に突出している。
第1突出部53は、熱応動素子5の中心54の周囲に形成されている。熱応動素子5の中心54とは、熱応動素子5が熱膨張により反転形状に変形した場合、第1突出部53を除いた領域であって、最もPTCサーミスター6の側に位置する領域をいう。
通常、中心54は、熱応動素子5の平面視における面積中心とされる。例えば、熱応動素子5が、平面視で概略矩形状に形成されている場合、その対角線の交点が熱応動素子5の中心54とされる。また、熱応動素子5が、平面視で円形に形成されている場合、その円の中心が熱応動素子5の中心54とされる。
中心54は、反転形状をとったとき、熱応動素子5の湾曲が極値点をとる領域である。熱応動素子5に第1突出部53が形成されていないと仮定した場合、熱応動素子5は、熱変形時に、その中心54を含むスポット状の極めて狭い領域においてPTCサーミスター6と当接する。この場合、当該領域に応力が集中するため、熱応動素子5は、高い温度領域でも容易に正転形状に復帰する傾向が強くなる。
本実施形態にあっては、かかる応力の集中を緩和するために、熱応動素子5に第1突出部53が設けられている。第1突出部53は、環状に連続して形成されている。環状に形成された第1突出部53の中心は、熱応動素子5の中心54とほぼ一致する。本実施形態においては、第1突出部53は、一周回連続して形成されているが、部分的に断続していてもよい。また、同心円状に複数の第1突出部53が形成されていてもよい。この場合、熱応動素子5の中心54からより離れた第1突出部53は、その突出量が大きく設定される。
図6には、ブレーカー1における熱応動素子5の反転動作が拡大して示されている。既に述べたように、熱応動素子5の温度が上昇し、反転動作温度を超えると、高膨張率金属層52の内部応力が低膨張率金属層51の内部応力よりも大きくなり、スナップアクションを伴って、熱応動素子5が反転形状に変形する。このとき、第1突出部53は、PTCサーミスター6と当接し、熱応動素子5の本体部分を支持する。これにより、熱応動素子5の中心54は、PTCサーミスター6から浮いた状態で離反している。従って、熱応動素子5の中心54には、熱応動素子5とPTCサーミスター6との当接に伴う応力がかからず、熱応動素子5の中心54における局所的な変形が回避される。
一方、熱応動素子5は、第1突出部53においてPTCサーミスター6と当接しているので、第1突出部53には、PTCサーミスター6との当接に伴う応力がかかる。しかしながら、第1突出部53が熱応動素子5の中心54から離れた場所に配設されていることにより、第1突出部53にかかる応力が分散される。さらに、本実施形態にあっては、環状に連続する領域に第1突出部53が形成されているので、第1突出部53とPTCサーミスター6との接触面積が増大し、上記応力の分散作用は、より顕著に得られる。
第1突出部53の突出量は、熱応動素子5が反転形状に変形したときに、その中心54がPTCサーミスター6と僅かに当接する程度に設定されていてもよい。この場合であっても、熱応動素子5にかかる応力の一部を第1突出部53によって負担し、熱応動素子5の中心54にかかる応力を減少できるからである。
以上のように、本実施形態のブレーカー1によれば、可動片4とは反対の側に突出する第1突出部53が熱応動素子5に形成されているので、可動接点3が固定接点21から離反しているとき、すなわち、熱応動素子5が反転形状にあるとき、第1突出部53が可動片4とは反対の側に配設されているPTCサーミスター6と当接する。従って、熱応動素子5において応力が集中しやすい中心54から離して第1突出部53を設けることにより、熱応動素子5に生ずる応力を容易に分散でき、ブレーカー1の完成品における正転復帰温度を低く維持できるようになる。従って、板厚の薄い熱応動素子5を用いながらも、その曲率半径を小さく設定することなく、完成品のブレーカー1において熱応動素子5を所望の温度で正転復帰させることが可能となる。これにより、ブレーカー1の小型化と歩留まり向上の両立を図ることができるようになる。
なお、上述したブレーカー1の歩留まり向上を図るためには、湾曲係数の大きい熱応動素子5を用いることによっても実現可能である。熱応動素子5の湾曲係数は、熱応動素子5の低膨張率金属層51及び高膨張率金属層52を構成する材料及び厚みの比率等を適宜変更することによって、調整される。一般に、熱応動素子5によって可動片4の先端近傍を非導通状態で保持する保持力は、湾曲係数に比例し、同一の材料にて熱応動素子5を構成する場合、熱応動素子5の寸法が小さくなるほど、保持力が小さくなる傾向にある。そのため、熱応動素子5の小型化を図る際には、その材料の選択肢が限定され、かつ大きい保持力を実現するのが困難となる場合がある。しかしながら、本実施形態のブレーカー1によれば、特段に湾曲係数の大きい熱応動素子5を用いることなく、ブレーカー1の歩留まり向上を図ることができるので、熱応動素子5の低膨張率金属層51及び高膨張率金属層52を構成する材料等の選択の自由度が高められる。
ブレーカー1によれば、第1突出部53が、熱応動素子5の中心54の周囲に形成されているので、応力が集中しやすい中心54において熱応動素子5に生ずる応力を効果的に分散できる。これにより、ブレーカー1の完成品における正転復帰温度を容易に低く維持できるようになる。
ブレーカー1によれば、環状に連続して形成されている第1突出部53において熱変形時の熱応動素子5が支持されるので、熱応動素子5の中心54の応力をより一層効果的に分散しうる。
(変形例1)
図7は、熱応動素子5の変形例である熱応動素子5A、5B及び5Cを示している。図7(a)に示される熱応動素子5Aにおいては、3個のドット状の第1突出部53aが、図7(b)に示される熱応動素子5Bにおいては、4個のドット状の第1突出部53bが、それぞれ点在して形成されている。各第1突出部53a及び53bは、熱応動素子5A及び5Bの中心54の周囲に形成されている。より具体的には、各第1突出部53a及び53bは、熱応動素子5の中心54からほぼ等距離の場所に等間隔で配設されている。
これらの熱応動素子5A及び5Bにおいても、熱応動素子5A及び5Bが反転形状に熱変形したとき、第1突出部53a及び53bは、複数箇所でPTCサーミスター6と当接し、熱応動素子5A及び5Bの本体部分を支持する。従って、熱応動素子5A及び5Bの中心54には、熱応動素子5A及び5BとPTCサーミスター6との当接に伴う応力がかからず、熱応動素子5A及び5Bの中心54における局所的な変形が回避される。さらに、第1突出部53a及び53bが複数個点在して形成されているので、図4及び図5に示される熱応動素子5と同様に応力の分散作用が得られる。第1突出部53bの点数をさらに増やすことにより、第1突出部53bとPTCサーミスター6との接触面積が増大し、さらなる応力の分散作用が得られる。また、ドット状の第1突出部53a及び第1突出部53bは、環状の第1突出部53と比較すると、熱応動素子5等の温度特性(反転動作温度及び正転復帰温度)に及ぼす影響が少ないため、設計が容易となる。
図7(c)に示される熱応動素子5Cにおいては、ビード状の第1突出部53cが、ブレーカー1の短手方向に連続して形成されている。第1突出部53cは、熱応動素子5の中心54から離れた場所に形成されている。
この熱応動素子5Cにおいては、熱応動素子5が反転形状に熱変形したとき、熱応動素子5は第1突出部53cと中心54、すなわち2つの領域でPTCサーミスター6と当接し、熱応動素子5の本体部分が支持される。これにより、熱応動素子5にかかる応力は分散される。本変形例にあっては、ビード状に連続する領域に第1突出部53cが形成されているので、第1突出部53cとPTCサーミスター6との接触面積が増大し、上記応力の分散作用は、より顕著に得られる。
(変形例2)
図8は、PTCサーミスター6の変形例であるPTCサーミスター6Aを示している。図8に示されるPTCサーミスター6Aは、熱応動素子5と対向する表面61に、熱応動素子5の側に突出する第2突出部62を有する点で、図1等に示されるPTCサーミスター6とは相違する。
第2突出部62は、PTCサーミスター6Aの表面61の中心63の周囲に形成されている。PTCサーミスター6Aの中心63は、熱応動素子5の中心54とほぼ一致するため、第2突出部62は、熱応動素子5の中心54の周囲に形成されているのと実質的に同等とすることができる。
第2突出部62は、環状に連続して形成されている。このようなPTCサーミスター6Aは、中心63に対して対称な形状であるため、樹脂ベース71への組み込みの際、方向性を考慮する必要がなく、ブレーカー1の組み立て工程の簡素化を図ることが可能となる。環状に形成された第2突出部62の中心は、熱応動素子5の中心54と平面視でほぼ一致する。本実施形態においては、第1突出部53は、一周回連続して形成されているが、部分的に断続していてもよい。また、同心円状に複数の第2突出部62が形成されていてもよい。この場合、熱応動素子5の中心54からより離れた第2突出部62は、その突出量が大きく設定される。
熱応動素子5が反転形状に熱変形したとき、第2突出部62は、熱応動素子5と当接し、熱応動素子5を支持する。これにより、上記本実施形態と同様に、熱応動素子5の中心54は、PTCサーミスター6Aから浮いた状態で離反し、熱応動素子5の中心54には、熱応動素子5とPTCサーミスター6Aとの当接に伴う応力がかからず、熱応動素子5の中心54における局所的な変形が回避される。
一方、熱応動素子5において、PTCサーミスター6Aの第2突出部62と当接している環状の部分には、PTCサーミスター6Aとの当接に伴う応力がかかる。しかしながら、第2突出部62が熱応動素子5の中心54から離れた場所に配設されていることにより、第2突出部62と当接している部分にかかる応力が分散される。さらに、本実施形態にあっては、環状に連続する領域に第2突出部62が形成されているので、上記応力の分散作用は、より顕著に得られる。
第2突出部62の突出量は、熱応動素子5が反転形状に熱変形したときに、その中心54がPTCサーミスター6Aの中心63と僅かに当接する程度に設定されていてもよい。この場合であっても、熱応動素子5にかかる応力の一部を第2突出部62によって分散し、熱応動素子5の中心54にかかる応力を減少できるからである。
本変形例のPTCサーミスター6Aを備えたブレーカー1によれば、熱応動素子5の側に突出する第2突出部62がPTCサーミスター6Aに形成されているので、可動接点3が固定接点21から離反しているとき、すなわち、熱応動素子5が反転形状にあるとき、第2突出部62が熱応動素子5と当接する。従って、熱応動素子5において応力が集中しやすい中心54から離して第2突出部62を設けることにより、熱応動素子5に生ずる応力を容易に分散でき、ブレーカー1の完成品における正転復帰温度を低く維持できるようになる。従って、板厚の薄い熱応動素子5を用いながらも、その曲率半径を小さく設定することなく、完成品のブレーカー1において熱応動素子5を所望の温度で正転復帰させることが可能となる。これにより、ブレーカー1の小型化と歩留まりの向上の両立を図ることができるようになる。
同ブレーカー1によれば、第2突出部62が、熱応動素子5の中心54の周囲に形成されているので、応力が集中しやすい中心54において熱応動素子5に生ずる応力を分散できる。これにより、ブレーカー1の完成品における正転復帰温度を容易に低く維持できるようになる。
同ブレーカー1によれば、環状に連続して形成されている第2突出部62において、熱変形時の熱応動素子5が支持されるので、熱応動素子5と第2突出部53との接触面積が増大し、熱応動素子5の中心54の応力をより一層効果的に分散しうる。
図9は、PTCサーミスター6Aの変形例であるPTCサーミスター6B、6C及び6Dを示している。図9(a)に示されるPTCサーミスター6Bにおいては、3個のドット状の第2突出部62bが、図9(b)に示されるPTCサーミスター6Cにおいては、4個のドット状の第2突出部62cが、それぞれ点在して形成されている。各第2突出部62b及び62cは、PTCサーミスター6B及び6Cの中心63の周囲に形成されている。より具体的には、各第2突出部62b及び62cは、PTCサーミスター6B及び6Cの中心63、すなわち熱応動素子5の中心54からほぼ等距離の場所に等間隔で配設されている。
これらのPTCサーミスター6B及び6Cにおいても、熱応動素子5が反転形状に熱変形したとき、第2突出部62b及び62cが、熱応動素子5と当接し、熱応動素子5の本体部分を支持する。従って、熱応動素子5の中心54には、熱応動素子5とPTCサーミスター6との当接に伴う応力がかからず、熱応動素子5の中心54における局所的な変形が回避される。さらに、第2突出部62b及び62cが複数個点在して形成されているので、図8に示されるPTCサーミスター6と同様に応力の分散作用が得られる。第2突出部62cの点数をさらに増やすことにより、熱応動素子5と第2突出部53との接触面積が増大し、さらなる応力の分散作用が得られる。
図9(c)に示されるPTCサーミスター6Dにおいては、ビード状の第2突出部62dが、連続して形成されている。第2突出部62dは、PTCサーミスター6Dの中心63、すなわち熱応動素子5の中心54から離れた場所に形成されている。
このPTCサーミスター6Dにおいては、熱応動素子5が反転形状に熱変形したとき、熱応動素子5は、第2突出部62cと中心63すなわち2つの領域でPTCサーミスター6Dと当接し、熱応動素子5の本体部分が支持される。これにより、熱応動素子5にかかる応力は分散される。本変形例にあっては、ビード状に連続する領域に第2突出部62dが形成されているので、熱応動素子5と第2突出部53との接触面積が増大し、上記応力の分散作用は、より顕著に得られる。
第2突出部62、62b、62c又は62dは、図4乃至図7に示される第1突出部53、53a、53b又は53cと組み合わせて用いられてもよい。この場合、第1突出部53等と第2突出部62等とが互いに当接しないよう、第1突出部53等及び第2突出部62等の熱応動素子5の中心54からの距離等が適宜調整されるのが好ましい。
なお、本発明は上記実施形態の構成に限られることなく、少なくとも熱応動素子5に可動片4とは反対の側に突出する第1突出部53が形成されているか、又はPTCサーミスター6に熱応動素子5の側に突出する第2突出部62が形成されていればよい。
ブレーカー1において、PTCサーミスター6が省略されていてもよい。この場合にあっては、熱応動素子5が反転形状にあるとき、第1突出部53等は、可動片4とは反対の側にある部品例えば樹脂ベース71の表面と当接する。また、第1突出部53に替えて又は第1突出部53に追加して、樹脂ベース71の表面に第2突出部62と同等の突出部が形成されていてもよい。
また、図1等においては、可動片4は、貫通穴45、段曲げ部46及びくびれ部49の構成を有する形態であるが、これらの構成うちのいずれか又は全てが省略されていてもよい。例えば、貫通穴45を省略する場合は、樹脂ベース71の突起74aも省略される。また、段曲げ部46が省略される場合は、端子41が当接部42に対して平坦な形状となる。この構成においては、段曲げ部46を省略することにより、可動片4及び樹脂ベース71の長手方向の寸法を小さくして、ブレーカー1のさらなる小型化を図ることができる。また、くびれ部49が省略される場合は、可動片4は、当接部42から端子41に亘って等幅に形成され、これに伴い樹脂ベース71の位置決め部75の形状も変更される。このように、可動片4の当接部42並びに樹脂ベース71の当接部74及びカバー部材72の当接部79等の形状は、図1等に示したものに限られず、適宜変更可能である。また、熱応動素子5、PTCサーミスター6及び収納部73等の形状も、図1等に示したものに限られず、適宜変更可能である。また、熱応動素子5とPTCサーミスター6との間に、別部品を配置する構成であってもよい。この場合、第1突出部53に替えて又は第1突出部53に追加して、上記別部品の表面に第2突出部62と同等の突出部が形成されていてもよい。
また、支持部23に設けられる突起24aの数は、特に限定されない。例えば、固定接点21に隣接する箇所や支持部23の中央部等に、別の突起が追加されていてもよい。さらにまた、PTCサーミスター6と固定片2との間に別部品を配置する構成であってもよい。この場合、支持部23は、上記別部品を介してPTCサーミスター6を支持する。また、支持部23において、一部又は全ての突起が省略されていてもよい。
また、樹脂ベース71とカバー部材72との接合手法は、超音波溶着に限られることなく、両者が強固に接合される手法であれば、適宜適用することができる。例えば、液状又はゲル状の接着剤を塗布・充填し、硬化させることにより、両者が接着されてもよい。また、ケース7は、樹脂ベース71とカバー部材72等によって構成される形態に限られることなく、2個以上の部品によって可動片4が挟まれて保持される形態であればよい。この場合、一方が第1ケース、他方が第2ケースとなる。また、樹脂ベース71とカバー部材72との接合においては、かしめ等の手法を用いることができる。かかる手法は、両者の接合部分に金属が配されている場合、特に有効である。
また、特開2005−203277号公報に示されるような、当接部42又はその近傍において、可動片4が端子41の側と可動接点3の側に構造的に分離されている形態に、本発明を適用してもよい。また、アームターミナルと可動アームとが溶接等によって固定されていてもよい。この場合において、当接部42及び端子41は、固定片2等と共に樹脂ベース71にインサート成形されていてもよい。さらに、本発明は、一対の固定接点及び一対の可動接点を有し、可動片がその中央部でケースによって支持される形態にも適用可能である。
また、本発明のブレーカー1は、2次電池パック、電気機器用の安全回路等にも広く適用できる。図10は2次電池パック100を示す。2次電池パック100は、2次電池101と、2次電池101の出力端回路中に設けたブレーカー1とを備える。図11は電気機器用の安全回路102を示す。安全回路102は2次電池101の出力回路中に直列にブレーカー1を備えている。
表1の仕様に基づく熱応動素子を備えたブレーカーが試作され、反転動作温度及び正転復帰温度が測定された。それぞれの温度は、ブレーカーに組み込む前の熱応動素子単体及びブレーカー完成品において測定された。なお、各仕様において、熱応動素子の材料は同一である。
比較例1のブレーカーには、厚さがT1、曲率半径がR1であり、第1突出部が形成されていない従来の熱応動素子が用いられた。この比較例1に対して、熱応動素子の厚さをT2(T2<T1)とした仕様が比較例2である。比較例2にあっては、熱応動素子の厚さが減じられたことに伴い、可動片の先端近傍を非導通状態で保持する保持力が低下し、ブレーカー完成品における正転復帰温度がより高い温度に推移する。この比較例2に対して、ブレーカー完成品における正転復帰温度が比較例1と同等になるように、曲率半径ををR2(R2<R1)とした仕様が比較例3である。比較例3にあっては、曲率半径が減少されたことに伴い、熱応動素子単体及びブレーカー完成品における正転復帰温度が低下すると共に、歩留まりが悪化する。
実施例1は、比較例2に対して、第1突出部が形成されている仕様であり、実施例2は、比較例2に対して、第2突出部が形成されている仕様である。いずれの実施例においても、ブレーカー完成品における正転復帰温度と熱応動素子単体における正転復帰温度との差が、比較例1と同等に維持され、熱応動素子の厚さが減じられたことに伴う保持力の低下が解消されている。また、いずれの実施例においても、曲率半径がR1であることから、歩留まりが比較例1と同等に維持されている。