JP6202531B2 - クリープ速度分布評価方法 - Google Patents

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Description

本発明は、クリープ速度分布評価方法に関する。
ガスタービンや蒸気タービン等の高温で使用される構造部材は、クリープ変形が起きる。その際,クリープ変形の不均一が大きい構造部材は、曲りなどの不具合の原因になる恐れがある。
例えば、ガスタービンの圧縮機等に用いられるディスク等のロータ部材は、後段に向かうにしたがって圧縮された高温高圧の流体と接触することによって温度が高くなる。このような高温で高速回転して長期間にわたって使用されるロータ部材では、クリープ変形が生じる。そして、ロータ部材の強度が周方向の位置によってばらついていると、クリープ変形が生じた場合に周方向で変形量が変わってしまい、クリープ変形が不均一となってしまう。その結果、ロータは周方向に不均一に変形し、時間経過とともに全体としてロータが曲がってしまうおそれがある。その結果、ロータの軸振動の原因となる可能性がある。
そこで、ロータ部材を製造する素材である構造部材に対して、周方向の位置によってクリープ強度にばらつきが生じていないかを事前に確認する必要がある。クリープ強度を確認する方法としては、構造部材に対してクリープ試験を行うことでクリープ速度を確認する方法が挙げられる。また、クリープ試験と比較して短時間でクリープ強度を確認する方法として、クリープ強度に影響を及ぼす因子をクリープ速度と推定して用いる方法が用いられている。
このような方法として、例えば、特許文献1では構造部材の硬さ、結晶粒度、析出物等を利用してクリープ速度を推定している。具体的には、特許文献1に記載の方法は、クリープ強度に影響を及ぼす因子として、硬さ、結晶粒度または析出物のいずれか一つのうち、最も偏差比の大きい因子を用いてFEMクリープ解析を行って構造部材の経年曲がり量を予測評価する。即ち、特許文件1に記載の方法では、硬さ、結晶粒度または析出物等のうち、最も偏差比の大きい因子をクリープ速度の周方向における分布と推定して使用している。
特開2013−113144号公報
しかしながら、特許文献1で用いられる硬さ、結晶粒度、又は析出物とクリープ速度との間に明確な相関関係が認められない材料もあり、いずれか一つの因子だけを測定しても、構造部材におけるクリープ速度の異なる位置での分布を精度良く推定することが難しいという問題がある。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、構造部材におけるクリープ速度分布を高い精度で推定可能なクリープ速度分布評価方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
本発明の一態様におけるクリープ速度分布評価方法は、ロータ部材を製作するための素材である構造部材の異なる位置から複数の試験片をそれぞれ作成する試験片作成工程と、
前記複数の試験片に対して引張試験を実施することで、前記複数の試験片の引張強さをそれぞれ取得する引張試験工程と、前記複数の試験片の引張強さのうちで、最小引張強さと最大引張強さとの比率を前記構造部材の引張強さ比として算出する引張強さ比算出工程と、前記引張強さ比算出工程で算出した引張強さ比が、予め定めた引張強さとクリープ速度との相関関係により予め定められるクリープ速度比判定値に対応する引張強さ比判定値を満足しているか否か判定する引張強さ比判定工程とを含み、前記引張強さ比判定工程は、前記構造部材から前記ロータ部材を製造した場合に、前記ロータ部材における周方向のクリープ速度の分布が許容可能な範囲に収まっていることを表す第一引張強さ比判定値を上回っているか否かを判定し、前記第一引張強さ比判定値を下回った場合には、前記構造部材が前記ロータ部材の素材として使用できる可能性が有るレベルであることを示す第二引張強さ比判定値を上回っているか否かを判定する
このようなクリープ速度分布評価方法によれば、引張強さとクリープ速度との相関関係に引張試験工程で取得した引張強さを当てはめることで、構造部材におけるクリープ速度の分布を推定できる。即ち、引張強さとクリープ速度とに相関関係があることを利用することで、引張試験を実施して構造部材における異なる位置での引張強さの分布を測定することで、長時間かけてクリープ試験を実施することなく、構造部材における異なる位置でのクリープ速度分布を推定することができる。即ち、短時間で終了する引張試験を実施して引張強さを取得することで、構造部材におけるクリープ速度分布を高い精度で推定することができる。
このようなクリープ速度分布評価方法によれば、引張強さとクリープ速度との相関関係を利用して、引張強さ比からクリープ速度比を容易に推定することができる。そのため、クリープ試験を実施するような長い時間をかけずに短時間で構造部材のクリープ速度比を取得することができる。これにより、構造部材におけるクリープ速度の異なる位置でのばらつきの大きさを高い精度で容易に推定することができる。
このようなクリープ速度分布評価方法によれば、引張強さ比判定工程によって構造部材の引張り強さを判定することで、構造部材の品質を判定することができる。具体的には、予め定めたクリープ速度比判定値と、引張強さとクリープ速度との相関関係に基づいて引張強さ比判定値を定めることで、引張強さを用いて構造部材におけるクリープ速度のばらつきの大きさを高い精度で判定することができる。そして、引張強さ比判定値と、引張強さ比算出工程で算出した構造部材の引張強さ比とを比較することで、構造部材に実際に長時間かけてクリープ試験を実施することなく、異なる位置での構造部材におけるクリープ速度のばらつきの大きさを判定することができる。これにより、構造部材に対して短時間で精度の高いクリープ速度分布の評価を行い、構造部材の品質を確認することができる。
また、本発明の他の態様におけるクリープ速度分布評価方法では、前記引張強さ比判定工程で前記引張強さ比が予め定めた引張強さ比判定値を満足しないと判定した場合に、前記構造部材に熱処理を施す熱処理工程を含んでいてもよい。
このようなクリープ速度分布評価方法によれば、品質が所定の基準に適合しない構造部材であっても、熱処理によって材料特性を調整し直して、所定の基準に適合させることができる。
本発明のクリープ速度分布評価方法によれば、予め定めた引張強さとクリープ速度との相関関係に基づいて、引張強さからクリープ速度を推定することで、構造部材におけるクリープ速度分布を高い精度で推定することができる。
本発明の第一実施形態におけるクリープ速度分布評価方法のフロー図である。 本発明の第一実施形態における構造部材の引張強さの周方向の分布を示すグラフである。 本発明の第一実施形態における構造部材の定常クリープ速度の周方向の分布を示すグラフである。 本発明の第一実施形態における構造部材の引張強さ比とクリープ速度比の関係を示すグラフである。 本発明の第一実施形態における試験片作成工程に関する模式図で、同図(a)は構造部材を表す正面図、同図(b)は構造部材の側面の一部を拡大した側面拡大図である。 本発明の第二実施形態におけるクリープ速度分布評価方法のフロー図である。 本発明の第二実施形態における第一クリープ速度比判定値と第一引張強さ比判定値及び第二引張強さ比判定値との関係を示すグラフである。
《第一実施形態》
以下、本発明に係る第一実施形態のクリープ速度分布評価方法について図1から図5を参照して説明する。
クリープ速度分布評価方法S1は、予め定めた引張強さとクリープ速度との相関関係に基づいて、引張強さからクリープ速度を推定して評価対象におけるクリープ速度分布を評価する方法である。本実施形態におけるクリープ速度分布評価方法S1は、表1に示す様な構造部材Xを評価対象として、構造部材Xにおける周方向のクリープ速度分布を評価する。より具体的には、本実施形態ではクリープ速度として定常クリープ速度を用いる。クリープ速度分布評価方法S1は、構造部材Xから複数の試験片を作成する試験片作成工程S11と、作成した試験片に対して引張試験を実施して引張強さを取得する引張試験工程S12と、引張試験工程S12で取得した複数の引張強さから引張強さ比を算出する引張強さ比算出工程S13と、引張強さ比からクリープ速度分布を推定するクリープ速度分布推定工程S14と含む。
本実施形態における構造部材Xは、構造部材Xに類する部材によって引張強さとクリープ速度との相関関係が事前に取得されて評価対象となる部材である。具体的には、構造部材Xは、ガスタービン等に使用されるロータ部材X1であるディスクを作製するための素材となる部材であって、円板状をなすベース部材となっている(図5)。即ち、構造部材Xの形状を成形するように、余分な部分αを切り取ることで、ディスクが形成される。ここで、構造部材Xに類する部材とは、例えば、構造部材Xと同じ材料で構成されて製造ロットの異なる部材や、構造部材Xと同じ材料で熱処理条件が異なる部材等の構造部材Xを評価するための基準となる部材である。また、構造部材Xや構造部材Xに類する部材の材料としては、下記表1に記載のような鋼材が使用される。本実施形態の構造部材Xや構造部材Xに類する部材の材料としては、一例として、周方向の強度のばらつきの大きい低合金鋼を使用する。
Figure 0006202531
引張強さとクリープ速度との間に相関関係とは、構造部材Xに類する部材において異なる位置で測定した引張強さの分布の広がりと、引張強さを取得した位置と対応する位置で測定したクリープ速度の分布の広がりとが、図2及び図3に示すように、同じ傾向となる関係である。具体的には、本実施形態では、構造部材Xに類する部材の周方向の異なる位置で引張試験片を作成してそれぞれの引張強さを測定する。そして、引張強さを取得した位置と対応する位置で作成したクリープ試験片に対してクリープ試験を実施してそれぞれ定常クリープ速度を測定する。このように測定した引張強さと定常クリープ速度とは、一方が増加すれば他方は減少するという相関関係を有する。
本実施形態では、引張強さとクリープ速度との相関関係に基づいて、引張強さのばらつきの大きさと定常クリープ速度のばらつきの大きさとの関係を、引張強さ比とクリープ速度比との関係として取得する。
引張強さ比は、構造部材Xや構造部材Xに類する部材における引張強さの分布の状態を表している。具体的には、引張強さ比は、例えば、構造部材Xにおいて異なる位置で測定した複数の引張強さのうち、最も大きい値と最も小さい値との比率である。本実施形態では、引張強さ比は、図2に示すような構造部材Xの引張強さの周方向の分布のデータにおける最大引張強さTSmaxに対する最小引張強さTSminの比率として算出される。即ち、引張強さ比は、一つの構造部材Xにおける引張強さのばらつきの大きさを表している。したがって、引張強さ比が1に近づくことは、最大引張強さTSmaxと最小引張強さTSminの差が小さく構造部材Xにおける引張強さのばらつきが小さいことを表しており、引張強さ比が0に近づくことは、最大引張強さTSmaxと最小引張強さTSminの差が大きく構造部材Xにおける引張強さのばらつきが大きいことを表している。
クリープ速度比は、構造部材Xや構造部材Xに類する部材におけるクリープ速度の分布の状態を表している。具体的には、クリープ速度比は、例えば、構造部材Xにおいて異なる位置で測定した複数のクリープ速度のうち、最も小さい値と最も大きい値との比率である。本実施形態では、クリープ速度比は、図3に示すような構造部材Xの定常クリープ速度の周方向の分布のデータにおける最小クリープ速度CRminに対する最大クリープ速度CRmaxの比率として算出される。即ち、クリープ速度比は、一つの構造部材Xにおける定常クリープ速度のばらつきの大きさを表している。したがって、クリープ速度比が1に近づくことは、最大クリープ速度CRmaxと最小クリープ速度CRminの差が小さく構造部材Xにおける定常クリープ速度のばらつきが小さいことを表しており、引張強さ比が1よりも大きくなることは、最大クリープ速度CRmaxと最小クリープ速度CRminの差が大きく構造部材Xにおける定常クリープ速度のばらつきが大きいことを表している。
したがって、引張強さ比とクリープ速度比との関係は、引張強さとクリープ速度との間に相関関係に基づいて、複数の構造部材Xに類する部材に対して引張強さ及び定常クリープ速度から引張強さ比及びクリープ速度比を取得することで算出される。具体的には、引張強さ比とクリープ速度比との関係は、複数の構造部材Xに類する部材から事前に引張強さ比及びクリープ速度比を算出することで、図4に示すような線形の相関関係のグラフとして定められる。
試験片作成工程S11は、図5(a)に示すように、構造部材Xの外周部分の所定位置Aから試験片を作成する。本実施形態の試験片作成工程S11は、所定位置Aから周方向に一定の間隔ずつ離れた複数の位置から引張試験片を作成する。具体的には、本実施形態の試験片作成工程S11は、所定位置Aから45度ずつ周方向に回転した位置であるBからHの位置においても引張試験を実施するための引張試験片をそれぞれ作成する。そして、本実施形態の試験片作成工程S11では、構造部材Xがディスク等のロータ部材X1を作成する前のベース部材であるため、図5(b)に示すように、ロータ部材X1を作成する上で不要となる外周部分の余肉となる部分αから引張試験片を作成する。
なお、試験片の採取位置のピッチは、本実施形態のように45度ずつに限定されるものではなく、構造部材Xの材料試験結果を元に30度から90度の間で任意に選択することができる。
引張試験工程S12は、構造部材Xの所定位置Aから周方向に回転した位置Hまでの異なる位置から作成した引張試験片に対して、それぞれ引張試験を実施して、引張強さを測定する。
引張強さ比算出工程S13は、複数の引張試験片から測定された引張強さを用いて引張強さ比を算出する。具体的には、引張強さ比算出工程S13では、測定した複数の引張強さから、最大引張強さTSmaxと最小引張強さTSminとを抜き出し、最大引張強さTSmaxに対する最小引張強さTSminの比を算出して引張強さ比を取得する。
クリープ速度分布推定工程S14は、予め定めた引張強さとクリープ速度との相関関係に基づいて、引張試験工程S12で取得した引張強さを用いて構造部材Xにおけるクリープ速度分布を推定する。本実施形態のクリープ速度分布推定工程S14は、引張強さとクリープ速度との相関関係から算出した引張強さ比とクリープ速度比との関係と、引張強さ比算出工程S13で引張強さを用いて算出した引張強さ比とから構造部材Xのクリープ速度比をクリープ速度分布として推定する。具体的には、クリープ速度分布推定工程S14は、前述した図4のグラフに示すような引張強さ比とクリープ速度比との関係に、算出した引張強さ比を当てはめることで、対応するクリープ速度比を推定する。
次に、第一実施形態のクリープ速度分布評価方法S1の作用について説明する。
第一実施形態のクリープ速度分布評価方法S1では、試験片作成工程S11として、評価対象となる構造部材Xの所定位置Aにおいて、ロータ部材X1を作成する上で不要となる外周部分の余肉となる部分αから引張試験片を作成する。同様に、所定位置Aから45度ずつ周方向に回転した位置であるBからHの位置からも引張試験片を作成する(図5)。作成した複数の引張試験片を用いて引張試験工程S12で引張試験を実施して各引張験片から引張強さを測定する。その後、引張強さ比算出工程S13で、測定した複数の引張強さから最大引張強さTSmaxと最小引張強さTSminとを抜き出し、引張強さ比を算出する。引張強さ比算出工程S13によって算出した引張強さ比を予め定めておいた引張強さ比とクリープ速度比との関係に当てはめることで、クリープ速度比を構造部材Xにおけるクリープ速度分布として取得する。
上記のようなクリープ速度分布評価方法S1によれば、引張強さとクリープ速度との相関関係に引張試験工程S12で取得した引張強さを当てはめることで、構造部材Xにおけるクリープ速度分布を推定できる。即ち、引張強さとクリープ速度とに相関関係があることを利用することで、引張試験を実施して構造部材における周方向の異なる位置での引張強さの分布を測定することで、長時間かけてクリープ試験を実施することなく、構造部材Xにおける周方向のクリープ速度分布を推定することができる。即ち、短時間で終了する引張試験を実施して引張強さを取得することで、構造部材Xにおけるクリープ速度分布を高い精度で推定することができる。
また、引張強さとクリープ速度との相関関係に基づいて求められる引張強さ比とクリープ速度比との関係を利用して、引張強さ比からクリープ速度比を容易に推定することができる。そのため、クリープ試験を実施するような長い時間をかけずに、短時間で構造部材Xのクリープ速度比を取得することができる。これにより、評価対象となる構造部材Xにおけるクリープ速度の周方向の異なる位置でのばらつきの大きさを高い精度で容易に推定することができる。
《第二実施形態》
次に、図6及び図7を参照して第二実施形態のクリープ速度分布評価方法S2ついて説明する。
第二実施形態においては第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。この第二実施形態のクリープ速度分布評価方法S2は、引張強さとクリープ速度との相関関係を利用して引張強さ比から構造部材Xが所定の基準に適合しているか否かを判定する点について、第一実施形態と相違する。
即ち、第二実施形態のクリープ速度分布評価方法S2は、所定の基準として相関関係により予め定められるクリープ速度比判定値に対応する引張強さ比判定値を超えているか否か判定する。具体的には、クリープ速度分布評価方法S2は、評価対象である構造部材Xを製造し、引張強さ比算出工程S13で算出した引張強さ比が、引張強さ比判定値を上回っているか否か判定し、判定結果に応じて構造部材Xを処理する。より具体的には、図6に示すように、クリープ速度分布評価方法S2は、構造部材Xを製造する構造部材製造工程S21と、製造した構造部材Xから試験片を作成する試験片作成工程S11と、作成した試験片に対して引張試験を実施する引張試験工程S12と、引張試験工程S12で取得した複数の引張強さから引張強さ比を算出する引張強さ比算出工程S13と、算出した引張強さ比が予め定めた引張強さ比判定値を上回っているか否かを判定する引張強さ比判定工程S22とを含む。さらに、クリープ速度分布評価方法S2は、引張強さ比判定工程S22での判定結果に基づいてクリープ試験を実施するクリープ試験工程S23と、クリープ試験工程S23での試験結果を判定するクリープ試験結果判定工程S24と、引張強さ比判定工程S22とクリープ試験結果判定工程S24での判定結果に基づいて構造部材Xを調査する調査工程S25と、調査工程S25での調査結果を判定する材質調査結果判定工程S26と、を含む。
構造部材製造工程S21は、材料から評価対象となる構造部材Xを製造する。本実施形態の構造部材製造工程S21は、原材料を溶かす溶解工程S211と、溶かした材料を所定の形状にする鍛造工程S212、所定の形状となった構造部材Xに対して熱処理を実施する熱処理工程S213とを有する。
溶解工程S211は、構造部材Xを構成する原材料を溶解する。
鍛造工程S212は、構造部材Xを所定の形状に成形する。本実施形態の鍛造工程S212は、金敷などで圧力を加えることで円盤状のベース部材を成形する。
熱処理工程S213は、鍛造工程S212によって形成した構造部材Xに対して焼入れや焼戻し等の熱処理を行い、構造部材Xの材料特性を調整する。
引張強さ比判定工程S22は、算出しておいた引張強さ比とクリープ速度比との関係から、構造部材Xにおけるクリープ速度のばらつきの大きさとして許容可能な所定の基準を満足しているか否かを判定する。具体的には、引張強さ比判定工程S22では、図7に示すように、構造部材Xにおいてロータ曲がりを防止するために許容可能な所定の基準として、構造部材Xの異なる位置の定常クリープ速度のばらつきの上限値に対応するクリープ速度比判定値を第一クリープ速度比判定値CR1として予め定める。このロータ曲がりを防止するための許容基準は、構造部材Xの材料強度及び使用環境/条件によって決められる。例えば、クリープ速度が全周にわたって十分に低く、クリープ速度差があっても変形が十分に小さい場合などでは、第一クリープ速度比判定値CR1は大きな値となる。第一クリープ速度比判定値CR1は、構造部材Xの定常クリープ速度のばらつきが、構造部材Xからディスク等のロータ部材X1を製造した場合に、ロータ部材X1における周方向にクリープ速度の分布が許容可能な範囲に収まっていることを表す基準値である。即ち、第一クリープ速度比判定値CR1を下回っていることで、構造部材Xにおけるクリープ速度の周方向のばらつきが小さく、その構造部材Xがロータ部材X1を製造する素材として適しているとみなせることを表している。第一クリープ速度比判定値CR1は、例えば、最大クリープ速度CRmaxが、最小クリープ速度CRminに対して2.3倍程度の値を用いて設定する。さらに、変形の不均一を厳しく防止する構造部材Xに対しては1.5倍程度の値を用いて設定することが望ましい。
さらに、引張強さ比判定工程S22では、設定した第一クリープ速度比判定値CR1を、図7に示すように、引張強さとクリープ速度の相関関係から算出した引張強さ比とクリープ速度比との関係に当てはめることで対応する引張強さ比判定値を第一引張強さ比判定値TS1と定める。
さらに、引張強さ比判定工程S22では、第一引張強さ比判定値TS1よりも許容する範囲の広い基準として第二引張強さ比判定値TS2を予め定める。即ち、第二引張強さ比判定値TS2は、その構造部材Xがロータ部材X1を製造する素材として適していると確実にみなせるわけではないが、素材として使用できる可能性が有るレベルであることを示す引張強さ比判定値である。第二引張強さ比判定値TS2は、例えば、第一引張強さ比判定値TS1に対して1.5倍程度の値を用いて設定する。
そして、引張強さ比判定工程S22では、引張強さ比算出工程S13で算出した引張強さ比が、第一引張強さ比判定値TS1または第二引張強さ比判定値TS2を上回っているか否か判定する。具体的には、本実施形態の引張強さ比判定工程S22では、算出した引張強さ比が第一引張強さ比判定値TS1を上回った場合、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として適しているとみなし、ロータ部材X1を実施して問題ないと判定する。また、引張強さ比判定工程S22では、算出した引張強さ比が第一引張強さ比判定値TS1を下回ったが、第二引張強さ比判定値TS2を上回った場合、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として使用できる可能性が有るとみなし、クリープ試験工程S23にて実際にクリープ試験を実施する。また、引張強さ比判定工程S22では、算出した引張強さ比が第一引張強さ比判定値TS1及び第二引張強さ比判定値TS2を下回った場合、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として適していないとみなし、調査工程S25で構造部材Xの成分分析、組織試験等の材質調査を実施する。
クリープ試験工程S23は、引張強さ比判定工程S22でロータ部材X1を製造する素材として使用できる可能性が有ると判定された構造部材Xに対して、クリープ試験を実施して、クリープ速度として定常クリープ速度を測定する。本実施形態のクリープ試験工程S23は、引張強さ比判定工程S22で引張強さ比が第一引張強さ比判定値TS1を下回ったが、第二引張強さ比判定値TS2を上回っていると判定された場合に、引張試験工程S12と同様に、構造部材Xの所定位置Aから周方向に回転した位置Hまでの異なる位置から、それぞれクリープ試験片を作成する。クリープ試験工程S23では、作成したクリープ試験片に対して実際にクリープ試験を実施し、クリープ速度として定常クリープ速度をそれぞれ測定する。
クリープ試験結果判定工程S24では、クリープ試験工程S23で測定した複数の定常クリープ速度のばらつきの大きさを第一クリープ速度比判定値CR1と直接比較して判定する。具体的には、クリープ試験結果判定工程S24では、測定した複数の定常クリープ速度からクリープ速度比を算出して、そのクリープ速度比が第一クリープ速度比判定値CR1を下回っているか否かを判定する。クリープ試験結果判定工程S24では、算出したクリープ速度比が第一クリープ速度比判定値CR1を下回った場合、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として使用できると判定する。一方、クリープ試験結果判定工程S24では、算出したクリープ速度比が第一クリープ速度比判定値CR1を上回った場合、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として使用に適さないとみなし、調査工程S25で構造部材Xの成分分析、組織試験等の材質調査を実施する。
調査工程S25では、引張強さ比判定工程S22でロータ部材X1を製造する素材として使用できないと判定された構造部材Xに対して成分分析、組織試験等の材質調査を実施する。
材質調査結果判定工程S26は、調査工程S25の材質調査の結果に基づいて、構造部材Xをディスク等のロータ部材X1を製造する素材として使用できると考えられる状態にするための熱処理条件として昇温速度,加熱時間や加熱温度等を算出する。算出結果に基づいて、構造部材Xが熱処理によって調整すれば、ディスク等のロータ部材X1を製造する素材として使用できるか否かを判定する。ロータ部材X1を製造する素材として使用できると判定した場合は、材質調査結果判定工程S26を実施後に、算出した熱処理条件に基づいて、構造部材Xに対して再び熱処理工程S213を実施し、構造部材Xの材料特性を再度調整する。一方、ロータ部材X1を製造する素材として使用できると考えられる熱処理条件を見出すことができない構造部材Xは、ロータ部材X1を製造する素材として使用できないとみなし、ディスクを製造せずに廃却する。
次に、第二実施形態のクリープ速度分布評価方法S2の作用について説明する。
第二実施形態のクリープ速度分布評価方法S2では、溶解工程S211で原材料を溶かし、鍛造工程S212で成形した後に、熱処理工程S213で焼入れや焼戻し等の熱処理を実施して材料特性を調整して構造部材Xを製造する。製造した構造部材Xを評価対象として、第一実施形態と同様に、試験片作成工程S11、引張試験工程S12、及び引張強さ比算出工程S13を実施することによって引張強さ比を算出する。
算出した構造部材Xの引張強さ比が、第一引張強さ比判定値TS1及び第二引張強さ比判定値TS2を上回っているか否かを引張強さ比判定工程S22で判定する。引張強さ比判定工程S22で、算出した引張強さ比が第一引張強さ比判定値TS1を上回ったと判定した場合、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として適しているとみなす。その後、製品加工を実施して構造部材Xからロータ部材X1としてディスクを製造する。
また、引張強さ比判定工程S22で、算出した引張強さ比が第一引張強さ比判定値TS1を下回ったが、第二引張強さ比判定値TS2を上回ったと判定した場合、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として使用できる可能性が有るとみなす。その後、クリープ試験工程S23で、構造部材Xからクリープ試験片を作成して実際にクリープ試験を実施する。クリープ試験工程S23を実施後に、クリープ試験で測定した定常クリープ速度からクリープ速度比を算出して、第一クリープ速度比判定値CR1を下回っているか否かを直接比較して判定する。算出したクリープ速度比が第一クリープ速度比判定値CR1を下回った場合、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として使用できるとみなし、製品加工を実施して構造部材Xからディスクを製造する。一方、算出したクリープ速度比が第一クリープ速度比判定値CR1を上回った場合、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として使用に適さないとみなし、調査工程S25で構造部材Xの成分分析、組織試験等の材質調査を実施する。
さらに、引張強さ比判定工程S22で、算出した引張強さ比が第一引張強さ比判定値TS1及び第二引張強さ比判定値TS2を下回ったと判定した場合、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として使用できないとみなす。その後、調査工程S25で構造部材Xの材質調査を実施する。
調査工程S25での材質調査の結果に基づいて、材質調査結果判定工程S26でロータ部材X1を製造する素材として使用できる状態に構造部材Xをするための昇温速度,加熱時間や加熱温度等の熱処理条件を算出する。材質調査結果判定工程S26で使用できる熱処理条件が見いだせなかった構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として使用できないとみなし、ディスクを製造せずに廃却する。一方、材質調査結果判定工程S26で使用できる熱処理条件が見いだせた構造部材Xは、算出した昇温速度,加熱時間や加熱温度に基づいて、熱処理工程S213で構造部材Xに対して再び熱処理を実施し、材料特性を調整する。
熱処理工程S213で熱処理が実施された構造部材Xに、再び、試験片作成工程S11、引張試験工程S12、及び引張強さ比算出工程S13を実施することによって引張強さ比を算出し、引張強さ比判定工程S22を実施する。引張強さ比判定工程S22での判定結果が、第一引張強さ比判定値TS1を上回った場合には、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として適しているとみなし、ディスクを製造する。逆に、再び引張強さ比判定工程S22での判定結果が、第一引張強さ比判定値TS1を下回った場合には、その構造部材Xはロータ部材X1を製造する素材として適していないとみなし、調査工程S25で構造部材Xの成分分析、組織試験等の材質調査を実施する。このようにしてロータ部材X1を製造する素材として適しているとみなしてディスクを製造するか、適していないとみなして廃却するまで、構造部材Xに対して熱処理工程S213以降の工程が繰返される。
上記のようなクリープ速度分布評価方法S2によれば、引張強さ比判定工程S22によって構造部材Xに引張り強さを判定することで、構造部材Xがロータ部材X1などの製品を製造する素材として適しているか否か等の品質を容易に判定することができる。具体的には、構造部材Xにおいて許容可能な定常クリープ速度のばらつきの上限値から予め定めた第一クリープ速度比判定値CR1と、引張強さとクリープ速度との相関関係に基づいて算出される引張強さ比とクリープ速度比との関係とによって、第一引張強さ比判定値TS1を定めることで、引張強さを用いて構造部材Xにおける定常クリープ速度のばらつきの大きさを高い精度で判定することができる。即ち、第一引張強さ比判定値TS1と、引張強さ比算出工程S13で算出した構造部材Xの引張強さ比とを比較することで、評価対象である構造部材Xに対して実際に長時間かけてクリープ試験を実施することなく、周方向の定常クリープ速度のばらつきの大きさを判定することができる。これにより、構造部材Xに対して短時間で精度の高いクリープ速度分布の評価を行い、構造部材Xの品質を確認することができる。
また、引張強さ比判定工程S22で引張強さ比が予め定めた第一引張強さ比判定値TS1及び第二引張強さ比判定値TS2を下回ったと判定した場合に、構造部材Xに熱処理を施す熱処理工程S213を実施する。これにより、ディスク等のロータ部材X1を製造する素材として使用できない等の品質が所定の基準に適合しない構造部材Xであっても、熱処理によって材料特性を調整し直して、基準に適合させてロータ部材X1として使用することができる。
さらに、第一引張強さ比判定値TS1よりも許容する範囲の広い第二引張強さ比判定値TS2も引張強さ比判定工程S22で基準として用いることで、複数の基準を設けて構造部材Xがロータ部材X1を製造する素材として使用できるか否かを判定することができる。したがって、複数の基準で判定することで、構造部材Xの品質をより細かく確認することができる。
また、引張強さ比判定工程S22での判定結果に基づいて、調査工程S25を実施してから熱処理工程S213を実施することで、ロータ部材X1を製造する素材として使用できない構造部材Xを所定の基準に適合するよう材料特性を調整することが効率的にできる。これにより、品質が基準に適していない構造部材Xを効率的に調整することで所定の基準に適合させることができる。
なお、引張強さ比判定工程S22での判定結果に基づく構造部材Xの処理工程は、本実施形態に限定されるものではない。例えば、引張強さ比判定工程S22によって判定した後に、調査工程S25を実施せずに、熱処理工程S213を実施してもよい。また、調査工程S25を実施せずに、複数回にわたって熱処理工程S213を実施した後に、引張強さ比判定工程S22によって引張強さ比が第一引張強さ比判定値TS1及び第二引張強さ比判定値TS2を下回ったと判定された場合に、調査工程S25を実施したり、クリープ試験工程S23を実施したりしてもよい。さらに、クリープ試験結果判定工程S24を実施後に、第一クリープ速度比判定値CR1を上回った構造部材Xに対して熱処理工程S213を実施してもよい。したがって、引張強さ比判定工程S22を実施後の調査工程S25やクリープ試験工程S23や熱処理工程S213を実施する順番や回数等は、本実施形態に限定されるものではなく、必要に応じて適宜設定されればよい。
また、引張強さ比判定工程S22の代りに、第一実施形態と同様に、引張強さ比からクリープ速度比を推定してもよい。例えば、推定したクリープ速度比を、第一クリープ速度比判定値CR1と直接比較したり、第二引張強さ比判定値TS2に対応する第二クリープ速度比判定値を算出して、この第二クリープ速度比判定値と直接比較したりして判定してもよい。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
なお、本実施形態では、構造部材Xとしてロータ部材X1を製造するベース部材を例に挙げたがこれに限定されるものではない。即ち、経年劣化等が懸念されてクリープ速度分布を評価したい構造部材Xを用いればよい。
また、構造部材Xの材料は、本実施形態のように低合金鋼に限定されるものではない。例えば、構造部材Xの材料は、表1のJ材からP材のような高クロム鋼のような高合金鋼に用いられてもよい。
さらに、本実施形態では、引張強さとクリープ速度との間に相関関係に基づいて、引張強さ及び定常クリープ速度の周方向のばらつきの大きさの関係を引張強さ比とクリープ速度比との関係として算出したが、これに限定されるものではない。例えば、引張強さとクリープ速度との間に相関関係に基づいて、最大引張強さTSmaxと最小引張強さTSminとの差分と、最大クリープ速度CRmaxと最小クリープ速度CRminとの差分との関係を求めて利用してもよい。なお、最大引張強さTSmaxと最小引張強さTSminとの差分と、最大クリープ速度CRmaxと最小クリープ速度CRminとの関係も、引張強さ比とクリープ速度比との関係のように、線形の相関関係のグラフとして定めることができる。
さらに、本実施形態では、降伏応力(0.2%耐力)とクリープ速度との間に相関関係に基づいて、降伏応力及び定常クリープ速度の周方向のばらつきの大きさの関係を降伏応力比とクリープ速度比との関係として算出することができる。
S1、S2…クリープ速度分布評価方法 X…構造部材 X1…ロータ部材 α…余肉となる部分 S11…試験片作成工程 A…所定位置 S12…引張試験工程 S13…引張強さ比算出工程 TSmax…最大引張強さ TSmin…最小引張強さ CRmax…最大クリープ速度 CRmin…最小クリープ速度 S14…クリープ速度分布推定工程 S21…構造部材製造工程 S211…溶解工程 S212…鍛造工程 S213…熱処理工程 S22…引張強さ比判定工程 CR1…第一クリープ速度比判定値 TS1…第一引張強さ比判定値 TS2…第二引張強さ比判定値 S23…クリープ試験工程 S24…クリープ試験結果判定工程 S25…調査工程

Claims (2)

  1. ロータ部材を製作するための素材である構造部材の異なる位置から複数の試験片をそれぞれ作成する試験片作成工程と、
    前記複数の試験片に対して引張試験を実施することで、前記複数の試験片の引張強さをそれぞれ取得する引張試験工程と、
    前記複数の試験片の引張強さのうちで、最小引張強さと最大引張強さとの比率を前記構造部材の引張強さ比として算出する引張強さ比算出工程と、
    前記引張強さ比算出工程で算出した引張強さ比が、予め定めた引張強さとクリープ速度との相関関係により予め定められるクリープ速度比判定値に対応する引張強さ比判定値を満足しているか否か判定する引張強さ比判定工程とを含み、
    前記引張強さ比判定工程は、前記構造部材から前記ロータ部材を製造した場合に、前記ロータ部材における周方向のクリープ速度の分布が許容可能な範囲に収まっていることを表す第一引張強さ比判定値を上回っているか否かを判定し、前記第一引張強さ比判定値を下回った場合には、前記構造部材が前記ロータ部材の素材として使用できる可能性が有るレベルであることを示す第二引張強さ比判定値を上回っているか否かを判定するクリープ速度分布評価方法。
  2. 前記引張強さ比判定工程で前記引張強さ比が予め定めた引張強さ比判定値を満足しないと判定した場合に、前記構造部材に熱処理を施す熱処理工程を含む請求項1に記載のクリープ速度分布評価方法。
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