JP5345426B2 - 介在物評価方法 - Google Patents

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Description

本発明は、金属材料中に含まれる介在物について評価する方法に関する。
機械,構造物等における破壊事故の約80%が疲労破壊に起因するものだと言われており、疲労破壊による破壊事故を未然に防ぐことは極めて重要である。硬さHV400以上の高強度鋼においては、材料中に含まれる欠陥や非金属介在物が疲労破壊の起点となることが知られているので、材料中に含まれる非金属介在物について調査することは非常に重要である。
非金属介在物の評価方法については、世界各国で様々なものが提案されている。例えば、アメリカのASTM法、ドイツのVDEh法、日本のJIS(日本規格協会)の点算法などがある。
しかしながら、これらの評価方法によって定義された介在物指数と疲労強度との間には、明確な相関性はないことが指摘されている(非特許文献1,2を参照)。これは、前述した非金属介在物の評価方法が、疲労現象の詳細な観察結果に基づいて提案されたものではないからである。疲労強度に有害なのは、材料中に含まれる最大の非金属介在物であって、非金属介在物の化学組成,数,分布密度は本質的には関連性は低いからである。
材料中に含まれる最大の非金属介在物の寸法を予想する方法としては、極値統計法による介在物評価法がある(特許文献1を参照)。極値統計法とは、材料のうちの一部分についての非金属介在物の分布から、その材料に含まれる非金属介在物全体のうち最大の非金属介在物の寸法を予想する方法である。
また、金属材料の清浄度を定量的に評価する方法としては、金属材料から酸溶解によって非金属介在物を抽出し評価する方法(特許文献2,3を参照)や、電子ビーム溶解法(EB溶解法)によって金属材料を溶解し、浮上した非金属介在物を顕微鏡によって観察する方法(特許文献4を参照)がある。
一方、疲労試験を行えば、危険体積中に含まれる非金属介在物のうち最大の非金属介在物が起点となって破壊が生じると考えられる(非特許文献3を参照)。そこで、実際に疲労試験を行い、金属材料製の試験片に非金属介在物を起点とする破壊を生じさせ、その非金属介在物の寸法を測定し、極値統計法により危険体積中に存在する非金属介在物のうち最大の非金属介在物の寸法を予測する方法が開示されている(特許文献5を参照)。
ところで、水素が金属材料の強度を低下させることは古くから知られており、この現象は「水素脆化」,「水素助長割れ」,又は「遅れ破壊」と呼ばれ、多くの研究が行われている。しかしながら、水素が金属材料の強度を低下させる機構は、現在においても完全には明らかになっていないのが現状である。
福井らは、焼戻し温度を変えた低合金鋼を用いて、塩化水素水溶液中で30時間以上遅れ破壊が生じない曲げ応力の静的曲げ強度に対する比(以降は、遅れ破壊強度比と記す)を求め、硬さHRC40(HV375)以上であると遅れ破壊強度比の低下が著しいことを示している(非特許文献4を参照)。
特開平11−230961号公報 特開平9−125199号公報 特開平9−125200号公報 特開平6−192790号公報 特許第3944568号公報
J.Monnot, B.Heritier, J.Y.Cogne ,"Relationship of Melting Practice, Inclusion Type, and Size with Fatigue Resistance of Bearing Steel", ASTM STP, 987(1988), p.149 足立彰,荘司英雄,桑原絢夫,井上義幸,「軸受鋼の回転曲げ疲れについて」,電気製鋼Vol.46,No.3(1975),p.176〜182 村上敬宜,「金属疲労 微小欠陥と介在物の影響」,養賢堂,1993年,p94 福井彰一,「低合金鋼の遅れ破壊特性に及ぼす焼戻しの影響」,鉄と鋼 日本鐵鋼協會々誌Vol.55,No.12(1969),p.151〜161 周世栄,村上敬宜,福島良博,Stefano Beretta ,「三次元観察に基づく非金属介在物の極値統計評価」,鉄と鋼 日本鐵鋼協會々誌Vol.87,No.12(2001),p.748〜755 R.Takahashi and M.Shibuya, "Prediction of maximum size in Wicksell's corpuscle problem", Annals of the Institute of Statistical Mathematics, Vol.50, No.2(1998),p361-377 R.Takahashi and M.Shibuya, "The maximum size of the planar sections of random spheres and its application to metallurgy", Annals of the Institute of Statistical Mathematics, Vol.48, No.1(1996),p127-144 T.Fujita and Y.Yamada, "PHYSICAL METALLURGY AND SCC IN HIGH STRENGTH STEEL", (1977), p736, NZCE-5 大西敬三,加賀寿,「構造用鋼の室温水素ガス脆化」,第105回講演大会討論会講演概要,日本鉄鋼協会,p.A136〜A139
特許文献1のような極値統計法による非金属介在物の評価は、顕微鏡観察に基づいて最大の非金属介在物の寸法(最大の非金属介在物の投影面積の平方根√areamax )を定量的に予測できる方法であり、多くの研究者の間で利用されている。
しかしながら、金属材料としてSCM435を用いた場合は、顕微鏡観察によって比較的小さい基準面積S0 で疲労破壊の起点となる最大の非金属介在物の寸法を予測すると、誤差が大きくなる場合があることが指摘されている(非特許文献5を参照)。この理由は、疲労破壊の起点となった非金属介在物と顕微鏡によって観察された非金属介在物との種類(成分)が異なるからである。
さらに、疲労破壊の起点となる種類の非金属介在物を顕微鏡観察によって精度良く評価するためには、SCM435においては、検査基準面積の限界値Scritが約10000mm2 以上であることが指摘されている。したがって、疲労破壊の起点となる大きな非金属介在物を顕微鏡観察によって見つけることは必ずしも容易な作業ではないし、費用がかかると考えられる。
次に、特許文献2,3に記載の評価方法は、金属材料から非金属介在物を酸溶解によって抽出する方法であるが、複数の非金属介在物が連なりクラスター状をなしている場合には、検査体積内で最大の非金属介在物を正確には測定できないおそれがある。さらに、非金属介在物が酸に溶解する可能性もあるので、種々の非金属介在物を評価する方法としては最良の方法とは言えなかった。
また、特許文献4に記載の評価方法は、金属材料を電子ビームにより溶解する方法であるが、複数の非金属介在物が連なりクラスター状をなしている場合には、検査体積内で最大の非金属介在物を正確には測定できないおそれがある。
さらに、特許文献5に記載の評価方法は、疲労試験を利用して非金属介在物を評価するものであるが、超音波疲労試験機を用いて評価をすると、20kHzの繰り返し速度であれば、107 回程度の応力繰り返し数では10分間程度、108 回程度の応力繰り返し数では100分間程度で完了するため、迅速な評価が可能である。しかしながら、超音波疲労試験機は、特許文献5に記載されているように、砂時計型の試験片を用いなければならないという問題があった。特許文献5に記載の超音波疲労試験機を用いた場合の試験片の危険体積は小さく、33mm3 である。後述する油圧式のサーボ式疲労試験機の疲労試験片の場合は、危険体積は1272mm3 である。危険体積が大きい試験片から得られたデータは、信頼性が高いので、超音波疲労試験機を用いた非金属介在物の検査は、さらなる改良が望まれる。
油圧式のサーボ式疲労試験機では、平行部を有する試験片の使用が可能であるので、超音波疲労試験機と比べて10倍以上の危険体積を有する試験片の使用が可能である。しかしながら、油圧式のサーボ式疲労試験機の繰り返し速度は超音波疲労試験機と比べて遅く、20〜1000Hz程度である。繰り返し速度が20Hzの場合は、107 回程度の応力繰り返し数では約6日間、108 回程度の応力繰り返し数では約58日間も要する。繰り返し速度が500Hzの場合でも、107 回程度の応力繰り返し数では6時間程度、108 回程度の応力繰り返し数では約2日間も要する。さらに、軸荷重疲労試験機では、試験片に曲げ応力が作用しやすいので、試験片の取り付けが煩雑であるという問題点を有していた。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、簡便且つ迅速な介在物評価方法を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した結果、金属材料製の試験片に水素を侵入させ、試験片中に水素が存在している状態で引張試験を行えば、水素の影響により、試験片の危険体積中での最大の非金属介在物を起点とした破壊が生じやすくなり、試験片が低荷重で破断することを見出した。その結果、非金属介在物の評価を短時間且つ低コストで行うことができるとともに、安定した評価が可能であることを見出した。さらに、破壊の起点となった非金属介在物の寸法を極値統計法により解析すると、金属材料中で最大の非金属介在物の寸法を予測することができることを見出した。
すなわち、本発明の介在物評価方法は、水素を侵入させた金属材料製の試験片に対して引張試験を行い、前記水素の影響を受けた非金属介在物を起点とする破壊を前記試験片に生じさせた後に、前記試験片の危険体積中に存在する前記破壊の起点となった非金属介在物の種類を同定するとともに寸法を測定して、その非金属介在物の寸法の分布関数を求め、この分布関数により前記金属材料の清浄度を評価することを特徴とする。なお、金属材料製の試験片に水素を侵入させながら引張試験を行うことによっても、上記と同様に前記金属材料の清浄度を評価することができる。
このような本発明の介在物評価方法においては、前記非金属介在物に関して前記引張試験の引張軸方向の投影面積を測定し、該投影面積の平方根を極値統計法で解析すれば、前記金属材料中に存在する非金属介在物のうち最大の非金属介在物の寸法を予測することができる。
前記試験片中の水素量は、0.2ppm以上であることが好ましく、0.3ppm以上であることがより好ましく、0.6ppm以上であることがさらに好ましい。また、前記金属材料の硬さは、HV400以上であることが好ましく、HV450以上であることがより好ましく、HV500以上であることがさらに好ましい。
本発明の介在物評価方法は簡便な方法であり、該介在物評価方法によれば、短時間且つ低コストで安定した評価を行うことが可能である。
引張試験片の形状,寸法を示す図である。 金属顕微鏡観察により得られた非金属介在物の寸法のデータを、極値統計法によって解析した極値統計グラフである。 疲労試験片の形状,寸法を示す図である。 疲労試験により得られた非金属介在物の寸法のデータを、極値統計法によって解析した極値統計グラフである。 図4の疲労試験により得られた極値統計グラフを変換したグラフである。 引張試験片の水素放出特性を示すグラフである。 公称応力−公称ひずみ曲線の一例を示すグラフである。 公称応力−公称ひずみ曲線の一例を示すグラフである。 公称応力−公称ひずみ曲線の一例を示すグラフである。 公称応力−公称ひずみ曲線の一例を示すグラフである。 公称応力−公称ひずみ曲線の一例を示すグラフである。 実施例1の引張試験片の破断面を観察した顕微鏡拡大図である。 実施例14の引張試験片の破断面を観察した顕微鏡拡大図である。 比較例2の引張試験片の破断面を観察した顕微鏡拡大図である。 比較例6の引張試験片の破断面を観察した顕微鏡拡大図である。 引張試験により得られた非金属介在物の寸法のデータを、極値統計法によって解析した極値統計グラフである。 引張強度と水素量との関係を示すグラフである。 引張強度比と引張試験片の硬さとの関係を示すグラフである。
本発明に係る介在物評価方法の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、金属材料製の引張試験片を用意する。金属材料の種類は特に限定されるものではないが、JISに規定されている軸受鋼(例えば高炭素クロム軸受鋼SUJ2)、構造用鋼(例えばSCM435)、ばね鋼(例えばSUP12)、工具鋼、ステンレス鋼等が使用可能である。
次に、引張試験片に水素を侵入させる(以降においては、水素チャージと記すこともある)。水素チャージの方法は特に限定されるものではないが、引張試験片を酸性の水溶液(例えばチオシアン酸アンモニウム水溶液)に浸漬する方法、引張試験片を水素ガスに暴露する方法、引張試験片を電解液(例えば、塩化ナトリウムとチオシアン酸アンモニウムの水溶液や硫酸と亜ヒ酸の水溶液)に浸漬しながら電流を印加する方法などがあげられる。なお、引張試験片に水素チャージを施してもよいが、引張試験片の形状に加工する前の金属材料に水素チャージを施して、水素チャージされた金属材料から引張試験片を製作してもよい。
そして、水素チャージを施した引張試験片に対して引張試験(静的な試験)を行い、引張試験片を破断させる。水素チャージを施した引張試験片は、水素の影響を受けて、引張試験片の危険体積中での最大の非金属介在物を起点とした破壊が生じやすくなっているので、水素チャージを施していないものと比べて低荷重で破断する。このとき、水素は引張試験片の危険体積中に均一に存在することが好ましい。
なお、水素チャージは引張試験前に行ってもよいが、引張試験中に引張試験片に水素チャージを行ってもよい。すなわち、引張試験片を酸性の水溶液(例えばチオシアン酸アンモニウム水溶液)に浸漬する方法、引張試験片を水素ガスに暴露する方法、あるいは、引張試験片を電解液(例えば、塩化ナトリウムとチオシアン酸アンモニウムの水溶液や硫酸と亜ヒ酸の水溶液)に浸漬する方法により、引張試験片に水素チャージを行いながら引張試験を行ってもよい。
次に、破断した引張試験片中の非金属介在物の分析を行う。すなわち、引張試験片の危険体積中に存在する、破壊の起点となった非金属介在物の種類を同定するとともに、該非金属介在物の寸法を測定し、該非金属介在物の寸法の分布関数を求める。このようにして得られた分布関数により、金属材料の清浄度を評価することができる。このような評価方法によれば、非金属介在物の評価を短時間且つ低コストで行うことができるとともに、安定した評価が可能である。また、超音波疲労試験機といった特殊な試験機を用いなくても、一般的な引張試験機を用いることによって、疲労破壊の起点となる非金属介在物の評価を容易に且つ高精度に行うことができる。よって、鉄鋼材料等の金属材料の品質保証や品質改良の評価に適用することができる。特に、高清浄度を求められる転がり軸受用鋼,精機製品用鋼の評価に好適である。
なお、危険体積とは、試験片において、破壊の起点となり得るような高い応力の作用する部分の体積を意味する。引張試験や後述する疲労試験(動的な試験)において通常使用される試験片においては、応力が入力される両端部の間に位置する平行部の体積が危険体積に相当する。平行部が円柱状の試験片の場合は、危険体積Vs は、0.25πd2 lで表すことができる。ここで、dは平行部の直径であり、lは平行部の長さである。
さらに、前記破壊の起点となった非金属介在物の寸法を、該非金属介在物の投影面積の平方根とすることが好ましい。すなわち、前記破壊の起点となった非金属介在物について、引張試験の引張軸方向から見た場合の投影面積areaを測定し、この投影面積areaの平方根√areaを算出して、この値の分布関数により金属材料の清浄度を評価することができる。このとき、投影面積の平方根√areaを極値統計法で解析すれば、金属材料中に存在する非金属介在物のうち最大の非金属介在物の寸法を予測することができる。
なお、投影面積areaの平方根√areaは、等価欠陥寸法に相当する。後述する疲労試験の場合は、破壊の起点となった非金属介在物について、疲労試験の主応力方向から見た場合の投影面積を測定し、これを投影面積areaとする。また、後述する金属顕微鏡観察により非金属介在物を観察する場合は、得られた顕微鏡画像(例えば顕微鏡写真)から非金属介在物の面積を測定し、これを投影面積areaとする。
さらに、極値統計法とは、極値分布を解析する方法を意味する。極値分布とは、ある基本分布関数に従うデータ群から一定数のデータの集合を取り出したとき、各集合の最大値や最小値が従う分布を意味する。基本分布が正規分布や指数分布であっても、その極値分布は基本分布とは異なった分布となる。
以下に、実施例,比較例,及び従来例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
〔金属顕微鏡観察による非金属介在物の評価について〕
金属材料中に含まれる非金属介在物の評価を金属顕微鏡観察により行う従来例について説明する。この評価方法は、前述の特許文献1に記載の方法である。
金属材料の種類は、後述する従来例(疲労試験)及び実施例(引張試験)で用いるものと同様の高炭素クロム軸受用鋼SUJ2である。その合金成分の組成比は、炭素1.00質量%、クロム1.44質量%、ケイ素0.26質量%、マンガン0.36質量%、モリブデン0.03質量%、リン0.011質量%、イオウ0.007質量%、銅0.10質量%、ニッケル0.07質量%、チタン0.002質量%、酸素6質量ppmであり、残部は鉄である。
このような金属材料を用い、以下のようにして金属顕微鏡観察用の試験片を作製した。後述する図1の引張試験片の平行部を、引張試験片の長手方向(引張軸方向)に直交する平面が切断面となるように切断して、直径4.5mm、厚さ2.0mmの円柱状の金属顕微鏡観察用試験片を切り出した。なお、この引張試験片は、引張試験に供していない未使用の物である。
円柱状の金属顕微鏡観察用試験片を樹脂に埋め込み、該金属顕微鏡観察用試験片の上下両平面のうち観察面となる片面のみを、エメリー紙を用いて研磨し#2000まで表面仕上げを行ってから(以降は、このようなエメリー紙を用いた表面仕上げをエメリー研磨と記す)、バフ研磨を行った。検査基準面積S0 は、金属顕微鏡観察用試験片の前記平面全体であり、15.9mm2 (4.5×4.5×π/4)である。金属顕微鏡による観察箇所は40箇所(検査視野数40)である。
観察面の金属顕微鏡写真を画像処理装置により画像処理し、検査基準面積S0 中の非金属介在物のうち最大の非金属介在物の寸法(最大の非金属介在物の投影面積の平方根√area)を測定した。その後、走査型電子顕微鏡(SEM)に付属のエネルギー分散形X線分析装置(EDX)で、非金属介在物の同定を行った。なお、SEM観察とEDX分析における加速電圧は20kVである。
このようにして金属顕微鏡観察により得られた最大の非金属介在物の寸法のデータを、極値統計法によって解析した。極値統計グラフを図2に示す。このグラフにおけるyは基準化変数(y=0.711×√area−4.984)、Fは累積度数、T(=1/(1−F))は再帰期間である。
2次元検査の場合は、検査基準面積S0 に仮想の厚さhを付与することにより、近似的に検査基準体積V0 (=S0 ×h)に対する3次元検査と見なすことができる。具体的な方法は、2次元検査によって測定した最大の非金属介在物の寸法√areamax の平均値(=7.77×10-3mm)を求めて、その値を観察領域の仮想の厚さhとする。よって、2次元検査に相当する検査基準体積V0 は、S0 とhにより算出され0.124mm3 となる。この近似的方法の妥当性は、高橋らの理論解析によって支持されている(非特許文献6,7を参照)。
また、EDXによる分析によって、最大の非金属介在物について化学成分の分析(元素分析)を行ったところ、40個の非金属介在物のうち14個でアルミニウム,カルシウム,及びイオウが検出され、1個の非金属介在物でアルミニウム及びイオウが検出された。残りの25個の非金属介在物については、非金属介在物が脱落していたため、化学成分の分析はできなかった。
〔疲労試験による非金属介在物の評価について〕
金属材料中に含まれる非金属介在物の評価を疲労試験により行う従来例について説明する。この評価方法は、前述の非特許文献3に記載の方法である。
金属材料の種類は、前述の金属顕微鏡観察の場合及び後述の引張試験の場合において用いたものと全く同様である。この金属材料を用いて、図3に示すような形状,寸法の疲労試験片を製作した。すなわち、直径25mmの丸棒材を、平行部の取り代が直径当たり1.0mm、他の部分の取り代が直径当たり0.6mmとなるように機械加工した後に、熱処理を施した。熱処理の内容は、840℃で焼入れ(油冷)した後に240℃で焼戻し(炉冷)するというものである。
この疲労試験片の破壊の起点となる危険体積Vs は477mm3 である。また、平行部の表面から中心部までの間の20点について測定荷重2.94Nでビッカース硬さを測定したところ、表面から中心部まで硬さにバラツキはほとんどなく、±2%以内であった。また、各疲労試験片の硬さの平均値はHV682であった。
次に、熱処理を施した疲労試験片に対して、機械加工,エメリー研磨,バフ研磨を行って、平行部を仕上げた。そして、一部の疲労試験片については、濃度20質量%のチオシアン酸アンモニウム水溶液に40℃で48時間浸漬することにより水素チャージを行った。そして、平行部に対してエメリー研磨及びバフ研磨を行うことにより、水素チャージにより形成された腐食層を取り除いて、仕上げを行った。
このようにして得た疲労試験片(7種)に対して疲労試験(動的な試験)を行って、平行部を破断させた。この疲労試験は、油圧サーボ式の引張圧縮疲労試験機を用いて大気中で行い、繰り返し速度fは50〜75Hz、応力比Rは−1(引張応力と圧縮応力とが等しい)である。なお、引張圧縮疲労試験においては、試験部に曲げ応力が作用すると若干低めの疲労強度が得られる傾向がある。よって、各試験片毎につかみ部付近の円周を4等分する位置にひずみゲージを取り付け、応力を負荷した際に試験部に曲げ応力が作用しないように注意深く調整しながら、試験片を疲労試験機に取り付けた。
水素チャージを行った疲労試験片については、水素チャージ終了時から疲労試験を開始するまでの時間を3時間とした。また、疲労試験が終了したら直ちに、疲労試験片中の水素の量を測定した。水素量の測定は、四重極質量分析計を用いた昇温脱離ガス分析法(TDS)によって行った。すなわち、疲労試験片の平行部から直径7.0mm,厚さ2.0mmの円板状の試料を切り出し、昇温速度0.5K/sで573Kまで昇温し、脱離した水素の量を測定した。結果を表1に示す。
Figure 0005345426
疲労試験により疲労試験片の平行部が破断したら、疲労試験の主応力方向(引張応力方向)に垂直な面全体について観察を行った。すなわち、破断面をSEM観察し、破壊の起点となった非金属介在物の寸法(疲労試験の主応力方向から見た場合の投影面積の平方根√area)を測定した。その後、SEMに付属のEDXで、その非金属介在物の同定を行った。なお、SEM観察とEDX分析における加速電圧は20kVである。
疲労試験における負荷応力、破断寿命(疲労試験片が破断するまでの応力繰り返し数)、破壊の起点となった非金属介在物の種類(カッコ内は非金属介在物を構成する元素)、非金属介在物の投影面積の平方根√area、及び疲労試験後に疲労試験片に存在する水素量を表1に示す。なお、試験片No.2* は、付加応力850MPaで応力繰り返し数2×107 回まで非破断であった試験片No.2の疲労試験片を、引き続き付加応力950MPaでの疲労試験に供した結果である。
水素チャージの有無にかかわらず、疲労試験片は非金属介在物を起点として破壊した。破壊した疲労試験片の破断面には、典型的なフィッシュ・アイが観察され、その中心には非金属介在物が存在した。フィッシュ・アイの形状は、ほぼ円形であった。非金属介在物の化学成分としては主にアルミニウムとカルシウムが検出されたことから、非金属介在物はAl2 3 ・(CaO)x 系であると考えられる。
このようにして疲労試験により得られた、破壊の起点となった非金属介在物の寸法(投影面積の平方根√area)のデータを、極値統計法によって解析した。極値統計グラフ(四角印のプロット)を図4に示す。このグラフにおけるyは基準化変数(y=0.194×√area−3.030)、Fは累積度数、Tは再帰期間である。この場合の検査基準体積V0 は、疲労試験片の平行部の体積である。すなわち、疲労試験片の危険体積Vs は477mm3 である。
なお、このグラフには、図2に示した金属顕微鏡観察により得られた極値統計グラフ(丸印のプロット)を併せて示してある。金属顕微鏡観察の場合の検査基準体積V0 は、0.124mm3 である。このように検査基準体積V0 の数値が異なる場合の極値統計データは、基準サンプルの検査基準体積V0 を基に変換して評価することができる。そこで、非特許文献5に記載の手順に従って、疲労試験による破壊の起点となった非金属介在物を検査基準体積V0 を基に変換して評価すると、図5のグラフのようになる。すなわち、極値統計グラフの直線は、ln(Vs /V0 )だけ平行移動した直線となり、今回の場合はln(Vs /V0 )は8.236である。
2本の極値統計グラフの直線の傾きが異なる理由は、疲労試験において破壊の起点となった非金属介在物と、金属顕微鏡観察によって観察された非金属介在物の種類(成分)が異なるからであると考えられる。両直線の傾きが異なることは、非特許文献5でも指摘されている。金属顕微鏡観察による評価で、疲労試験において破壊の起点となる非金属介在物を予想するためには、検査基準面積S0 が15.9mm2 以上の大きな面積を観察する必要がある。したがって、破壊の起点となる大きな非金属介在物を金属顕微鏡観察によって見つけることは、必ずしも容易な作業ではないし、コストが高くなると考えられる。
〔引張試験による非金属介在物の評価について〕
金属材料中に含まれる非金属介在物の評価を引張試験により行う本発明の実施例について説明する。
金属材料の種類は、前述の金属顕微鏡観察及び疲労試験の場合において用いたものと全く同様である。この金属材料を用いて、図1に示すような形状,寸法の引張試験片を製作した。すなわち、直径25mmの丸棒材を、平行部の取り代が直径当たり1.0mm、他の部分の取り代が直径当たり0.6mmとなるように機械加工した後に、下記の5つの条件のうちのいずれかの条件で熱処理を施した。
条件A:RXガス雰囲気中で840℃に保持してから油冷にて焼入れした後に、240℃で2時間保持してから炉冷して焼戻しを行った。
条件B:RXガス雰囲気中で840℃に保持してから油冷にて焼入れした後に、300℃で2時間保持してから炉冷して焼戻しを行った。
条件C:RXガス雰囲気中で840℃に保持してから油冷にて焼入れした後に、370℃で2時間保持してから水冷して焼戻しを行った。
条件D:RXガス雰囲気中で840℃に保持してから油冷にて焼入れした後に、470℃で2時間保持してから水冷して焼戻しを行った。
条件E:RXガス雰囲気中で840℃に保持してから油冷にて焼入れした後に、550℃で2時間保持してから油冷して焼戻しを行った。
これらの引張試験片の破壊の起点となる危険体積Vs は477mm3 である。また、平行部の表面から中心部までの間の20点について測定荷重2.94Nでビッカース硬さを測定したところ、表面から中心部まで硬さにバラツキはほとんどなく、±3%以内であった。さらに、各引張試験片の硬さの平均値は、熱処理の条件が条件Aの場合はHV678(バラツキは±2%以内)、熱処理の条件が条件Bの場合はHV611(バラツキは±2%以内)、熱処理の条件が条件Cの場合はHV559(バラツキは±3%以内)、熱処理の条件が条件Dの場合はHV447(バラツキは±2%以内)、熱処理の条件が条件Eの場合はHV346(バラツキは±3%以内)であった。
次に、熱処理を施した引張試験片に対して、機械加工,エメリー研磨,バフ研磨を行って、平行部を仕上げた。そして、一部の引張試験片については、濃度1質量%又は20質量%のチオシアン酸アンモニウム水溶液に40℃で48時間浸漬することにより水素チャージを行った(なお、以降においては、水素チャージに用いたチオシアン酸アンモニウム水溶液の濃度を、水素チャージ濃度と記すこともある)。そして、平行部に対してエメリー研磨及びバフ研磨を行うことにより、水素チャージにより形成された腐食層を取り除いて、仕上げを行った。
このようにして得た引張試験片(24種)に対して引張試験(静的な試験)を行って、平行部を破断させた。この引張試験は、大気中室温下で行い、引張速度(クロスヘッドスピードV)は0.05、1、及び100mm/minのうちのいずれかとした。引張試験を大気中室温下で行うので、水素チャージを行った引張試験片については、水素チャージ終了後から引張試験を開始するまでの時間によって、引張試験片中に含まれる水素量が異なると思われる。そこで、水素チャージ終了時から引張試験を開始するまでの時間(放置時間)を2時間に統一して、引張試験開始時に引張試験片中に含まれる水素量が各引張試験片でほぼ同一となるようにした。
また、水素チャージ終了時から引張試験を開始するまで、大気中室温下で24時間,72時間,150時間,又は200時間放置することにより、水素量を変化させて、引張試験片の引張強度及び破壊形態と水素量との関係を調べた。
水素チャージを行った引張試験片については、引張試験が終了したら直ちに、引張試験片に存在している水素の量を測定した。水素量の測定は、四重極質量分析計を用いた昇温脱離ガス分析法(TDS)によって行った。すなわち、引張試験片の平行部から直径4.5mm,厚さ2.0mmの円板状の試料を切り出し、昇温速度0.5K/sで573Kまで昇温し、脱離した水素の量を測定した。結果を表2に示す。
Figure 0005345426
ここで、水素チャージした引張試験片の水素放出特性を調査した。水素放出特性の調査には、前記金属材料で構成された丸棒試験片(直径4.5mm、長さ100mm)を用いた。そして、上記と同様に熱処理や水素チャージを行った後に、四重極質量分析計を用いた昇温脱離ガス分析法により水素量を測定した。昇温速度は0.5K/sで、573Kまで昇温した。なお、水素チャージ濃度は20質量%である。
常温における水素放出特性を調べるため、水素チャージした丸棒試験片から所定の時間が経過する毎に厚さ2.0mmのチップ状試料を切り出し、水素量を測定した。なお、このチップ状試料は、丸棒試験片の端面から4.5mm以上離れた位置から切り出した。熱処理条件が条件Aである丸棒試験片の水素量を、図6のグラフに示す。このグラフから分かるように、水素チャージ終了からの時間が経過するに従って、水素量が単調に低下した。なお、水素チャージをしていない丸棒試験片の水素量は0.02ppmである。
引張試験により引張試験片の平行部が破断したら、引張軸方向(引張応力方向)に垂直な面全体について観察を行った。すなわち、破断面をSEM観察し、破壊の起点となった非金属介在物の寸法(引張試験の引張軸方向から見た場合の投影面積の平方根√area)を測定した。その後、SEMに付属のEDXで、その非金属介在物の同定を行った。なお、SEM観察とEDX分析における加速電圧は20kVである。
引張速度、引張破断強度、ひずみ、水素チャージ濃度、放置時間(水素チャージ終了時から引張試験を開始するまでの時間)、引張試験後に引張試験片に存在する水素量、破壊の起点となった非金属介在物の種類(カッコ内は非金属介在物を構成する元素)、及び非金属介在物の投影面積の平方根√areaを表2に示す。なお、比較例1,2,8,9に関しては、破壊の起点が非金属介在物ではなく、引張試験片のマトリックス又は表面であったので、破壊の起点となった非金属介在物の種類の欄には、破壊の起点である「マトリックス」又は「表面」を記載してある。
ここで、実施例と比較例における公称応力−公称ひずみ曲線の一例を、図7〜11に示す。この場合、水素チャージ終了時から引張試験を開始するまでの時間は2時間であり、引張速度は1mm/minである。各図とも、熱処理条件及び硬さが同一のものを比較しているが、硬さがHV678,611,559,447である図7〜10における比較例の曲線は、降伏した後に塑性域で破断したが、実施例の曲線は弾性域で破断した。そのため、各実施例の引張破断強度は、水素チャージを行っていない比較例の引張破断強度よりも低い。一方、硬さがHV346である図11における両比較例の曲線は、弾性域では破断せず、引張破断強度はほぼ同等であり、水素チャージによる強度低下は起こらなかった。
表2から分かるように、水素チャージを行った実施例1〜15は、硬さがHV400以上であり、非金属介在物を起点として破壊した。この非金属介在物の化学成分としては主にアルミニウムとカルシウムが検出されたことから、非金属介在物はAl2 3 ・(CaO)x 系であると考えられる。
図12に、実施例1の引張試験片の破断面を観察した顕微鏡拡大図を示し、図13に、実施例14の引張試験片の破断面を観察した顕微鏡拡大図を示す。それぞれの図の(a)は破断面全体の図であり、(b)は(a)のうち破壊の起点及びその周辺部分を拡大した図である。
これらの図から、非金属介在物を起点として破壊が放射状に広がっていったことが分かる。また、図12の(b)及び図13の(b)から、破壊の起点となった非金属介在物、すなわち危険体積中の最大の非金属介在物の寸法が測定できる。
比較例1の引張試験片は水素チャージを行ったものであるが、引張試験片はカップアンドコーン型破壊を起こし、破断面の観察結果からは、破壊の起点となった非金属介在物を特定することはできなかった。
また、比較例2〜9の引張試験片は水素チャージを行っておらず、引張試験片中の水素量は0.03ppm以下である。比較例2〜9のうち、非金属介在物を起点として破壊したものは5例で、その他は、引張試験片の表面を起点として破壊したものが1例、基地組織(マトリックス)を起点として破壊したものが3例であった。この非金属介在物の化学成分としてTiが検出されたことから、非金属介在物はTiNであると考えられる。図14に、引張試験片の表面を起点として破壊した比較例2の破断面を観察した顕微鏡拡大図を示す。なお、図15は、Ti系の非金属介在物を起点として破壊した比較例6の破断面を観察した顕微鏡拡大図である。
実施例1〜15の引張試験片の引張試験により得られた、破壊の起点となった非金属介在物の寸法(投影面積の平方根√area)のデータを、極値統計法によって解析した。極値統計グラフを図16に示す。三角印のプロットが実施例であり、×印のプロットが比較例である。このグラフにおけるyは基準化変数、Fは累積度数、Tは再帰期間である。実施例の基準化変数はy=0.1730×√area−2.4879である。比較例の基準化変数はy=1.1577×√area−11.326である。実施例と比較例とでは、引張破壊起点の非金属介在物の成分が異なるので、極値統計グラフは一致していない。この場合の検査基準体積V0 は、引張試験片の平行部の体積である。すなわち、引張試験片においては、危険体積Vs は477mm3 である。なお、このグラフには、図4に示した疲労試験により得られた極値統計グラフ(四角印のプロット)を併せて示してある。
図16のグラフから分かるように、引張試験により得られた極値統計グラフと疲労試験により得られた極値統計グラフとは、ほぼ一致している。図16のグラフの再帰期間T(N)と引張試験により得られた分布直線とを用いて、試験片の危険体積Vs (=477mm3 )中の非金属介在物のうち、破壊の起点となる最大の非金属介在物の寸法√areamax を予測すると、試験片が10個の場合は27.7μm、100個の場合は41.0μmであった。
これに対して、再帰期間T(N)と疲労試験により得られた分布直線とを用いて同様に予測を行うと、試験片が10個の場合は27.6μm、100個の場合は39.5μmであった。これらの結果から、水素チャージを行った引張試験片について引張試験を行い、破壊の起点となった非金属介在物の寸法のデータを用いて解析すれば、疲労試験で得られる結果、すなわち金属材料中に存在する非金属介在物のうち最大の非金属介在物の寸法を精度良く予測できることが分かる。
次に、実施例1〜7,11,12及び比較例2〜4について、引張強度と水素量との関係を調べた。これらの引張試験片の熱処理の条件は、条件Aである。また、実施例1〜7,11,12の引張試験片は水素チャージを行ったものであり、比較例2〜4の引張試験片は水素チャージを行っていないものである。さらに、実施例1〜7,11,12は、水素チャージ終了時から引張試験を開始するまでの時間(放置時間)を種々変更することにより、引張試験片中の残留水素量を変化させている。
図17のグラフから、水素チャージによって引張強度が低下していることが分かり、このことから、水素の影響によって非金属介在物を起点とした破壊が生じやすくなることが推測される。
大西と加賀は、焼戻し温度を変えて強度を1160〜1570MPaとしたAISI4340鋼を用いて、高圧水素雰囲気下でクリープ型の低荷重試験を行い、水素圧力の増加に伴って破断強度は低下し、強度が高いほど破断強度の低下が顕著であることを示している。さらに、水素量について調査し、水素圧が3MPaの場合は0.14ppm、5MPaの場合は0.13ppm、10MPaの場合は0.23ppmであることを示している(非特許文献9を参照)。
本発明において、水素が0.32ppm存在する状態で引張試験を行うと、非金属介在物を起点として破壊が生じ、強度の低下が起こる。したがって、大西と加賀の報告に基づいて考えると、引張試験片中に水素が0.2ppm以上存在する状態で引張試験を行うと、非金属介在物を起点として破壊が生じ、強度の低下が起こると考えられる。引張試験片中の水素量は、0.2ppm以上であることが好ましく、0.3ppm以上(又は0.32ppm以上)であることがより好ましく、0.6ppm以上(又は0.64ppm以上)であることがさらに好ましい。
また、実施例1〜3、実施例13、実施例14、及び比較例1について、水素チャージ前後の引張強度の比(水素チャージ後の引張強度/水素チャージ前の引張強度)を算出し、この引張強度比と引張試験片の硬さとの関係を調べた。引張試験片の硬さは、熱処理の条件により調整している。
図18のグラフから、引張試験片の硬さが高くなるに従って引張強度が低下していることが分かる。福井らは、焼戻し温度を変えた低合金鋼を用いて、静的曲げ強度に対して、塩化水素水溶液中で30時間以上遅れ破壊が生じない曲げ応力比(以降は遅れ破壊強度比と記す)を求め、引張試験片の硬さがHRC40(HV375)以上であると遅れ破壊強度比の低下が著しいことを示している。
また、Fujitaらは、低合金鋼を用いて、水中に100時間浸漬した場合の引張破壊強度を求め、引張試験片の硬さがHV400以上であると、水中に100時間浸漬した場合の引張破壊強度は、大気中での引張破壊強度よりも低いことを報告している(非特許文献8を参照)。
本発明においては、硬さがHV366の引張試験片とHV447以上の引張試験片においては、水素の影響が異なっている。すなわち、硬さがHV366の引張試験片においては、水素チャージの有無にかかわらず引張破壊強度はほぼ同じである。一方、硬さがHV447以上の引張試験片においては、水素は非金属介在物を起点とする破壊を促進し、引張破壊強度が低下する。
したがって、福井らとFujitaらの報告に基づいて考えると、引張試験片の硬さがHV400以上であると、水素の影響によって非金属介在物を起点とする破壊が生じやすくなると考えられるので、非金属介在物の安定した評価を行うためには、引張試験片の硬さはHV450以上であることがより好ましく、HV500以上であることがさらに好ましい。

Claims (3)

  1. 水素を侵入させた硬さHV400以上の金属材料製の試験片に対して引張試験を行い、前記水素の影響を受けた非金属介在物を起点とする破壊を前記試験片に生じさせた後に、前記試験片の危険体積中に存在する前記破壊の起点となった非金属介在物の種類を同定するとともに、前記水素の影響を受けて前記引張試験による前記破壊の起点となった非金属介在物の寸法を測定して、その非金属介在物の寸法の分布関数を求め、この分布関数により前記金属材料の清浄度を評価することを特徴とする介在物評価方法。
  2. 前記非金属介在物に関して前記引張試験の引張軸方向の投影面積を測定し、該投影面積の平方根を極値統計法で解析して、前記金属材料中に存在する非金属介在物のうち最大の非金属介在物の寸法を予測することを特徴とする請求項1に記載の介在物評価方法。
  3. 前記試験片中の水素量が0.2ppm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の介在物評価方法。
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