JP7293090B2 - 転がり疲れ試験方法 - Google Patents

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本発明は、転がり疲れ試験方法に関する。
適正な潤滑条件下で使用されているにも関わらず、軸受が想定よりも早期に破損する短寿命はく離が起こる場合があり、軸受の小型・軽量化設計の実現への妨げとなっている。このようなはく離は、鋼に含まれる非金属介在物によって引き起こされている。非金属介在物は鋼の精錬・鋳造・凝固の過程で不可避的に生成し、その過程で除去しきれないものが以降の圧延や鍛造等を経た軸受素材中に含まれることになる。この介在物を起点としたはく離は通常、部品の表面ではなくやや内部に端を発する。これは軸受の軌道輪と転動体(球、ころ等)が転がり接触する際に軌道輪のやや内部に高いせん断応力が生じることによる。
一方で、水素侵入環境下でのはく離については、水素侵入環境下特有のミクロンオーダーの微視的な疲労組織(針状を呈するミクロ的な組織変化)の発生に端を発して引き起こされると考えられている。このタイプのはく離の場合、はく離後の断面観察を行うと前述の針状を呈するミクロ組織変化に加えて、ナイタル溶液で腐食した際に腐食されずに光学顕微鏡観察において白く見えるミクロ組織変化(白色組織変化とも称される)が部品内部で伝ぱしているき裂に付随して観察されることも水素侵入環境下での疲労の特徴となっている。このようなはく離は風力発電機に使用される軸受や自動車などの駆動系部品に組み込まれる軸受において認められている。水素が関与したとみられるそのメカニズムについては完全には明らかにされていないが、水素が局所的に塑性変形を助長してミクロ組織の変化を促すことで、疲労が促進されていると考えられる。さらに、水素は応力集中部に集積しやすい特徴を有することから、転がり疲労中に応力集中源として作用する非金属介在物の有害性は、水素が関与しない環境下に比べて高くなることも予想される。したがって、水素侵入環境下での疲労挙動や寿命に及ぼす介在物の影響を知る必要が当然ながら生じる。
ただし、疲労過程が部品内部で進行するという特徴から、転がり疲れの直接的な観察は困難となっている。また、はく離後にその起点となった介在物が破面上に見付かることも稀であった。そのために、介在物が軸受寿命を左右すること自体には疑いがないにも関わらず、介在物と寿命との直接的な関係は未だ明らかとはなっていない。なお、転がり軸受の寿命指標としてはL10寿命が重用されている。L10寿命とは、同じ条件で複数個のサンプルの寿命試験をした場合に、そのうちの90%の試験片がはく離しない寿命を指す。すなわち、軸受の寿命は確率論的に評価されることが通例となっている。それを打破し、介在物と寿命や転がり疲れとの関係を直接的に検証することが、短寿命はく離を回避可能な鋼を実現するために必要とみられる。
他方で、本発明者らは、鋼中に多数の空洞を残存・分散させたSUJ2鋼を人工的に作製し、これらの空洞に対する転がり疲れき裂挙動を観察し、その挙動と空洞あるいは一般介在物に対する応力シミュレーションとを対比させた結果から、介在物と母相間に隙間(空隙)がある場合に有害性が助長されることを見出している(例えば、非特許文献1参照)。
これに関連して、介在物-母相間の隙間を閉塞させるための熱間等方圧加圧(HIP(Hot Isostatic Pressing))加工を鋼材に施すと転がり疲れ寿命が大幅に向上することが確認されている(例えば、非特許文献2参照)。
さらに、転動部品の水素脆性起因の剥離寿命が長くなると評価する転動部品の耐水素脆性評価方法が開示される(例えば、特許文献1参照)。
特許第6297804号公報
藤松威史、平岡和彦、山本厚之、「高炭素クロム軸受鋼の転がり疲れにおける内部欠陥からのき裂発生挙動」、鉄と鋼、一般社団法人日本鉄鋼協会、Vol. 94、 No. 1 (2008年)、p. 13-20.
橋本(K. Hashimoto)、藤松(T. Fujimatsu)、常陰(N. Tsunekage)、平岡(K. Hiraoka)、木田(K. Kida)、サントス(E. C. Santos)、「内部破壊タイプ転がり疲労寿命における介在物/母相境界空洞の影響(Effect of inclusion/matrix interface cavities on internal-fracture-type rolling contact fatigue life)」、マテリアルズ アンド デザイン(Materials & Design)、エルゼビア・ベーフェー(Elsevier B.V.)、(オランダ)、Vol. 32, Issue 10, 2011年12月、p. 4980-4985
特許文献1によれば、評価対象となる鋼は、酸化物系・硫化物系介在物が不特定に分散しており、介在物の大きさや位置や、介在物周囲の隙間の形状を考慮した耐水素脆性を評価することができない。これでは、破損起点の明確化や単一介在物に着目した破損メカニズムの解明を行うことは困難である。
非特許文献2によれば、介在物-母相界面の状態が寿命の変化要因になることは明らかである。これは、水素侵入環境下においても関与する可能性が高い。ただし、はく離が発生した後に、事前の介在物周囲の隙間の有無を検証することは事実上難しく、寿命の長短に対する隙間の寄与を推し量ることはできなかった。
したがって、介在物大きさと寿命や転がり疲れとの関係を解き明かすには、転がり疲れ試験に先立って寿命に強く関与する介在物-母相界面の状態を一定の状態に揃えておく、すなわち界面の条件を固定しておくことが必須である。また、軸受の短寿命はく離をもたらすのは比較的大きな介在物と推定され、そのような介在物が限られた評価数量の転がり疲れ試験片内のごく小さい応力負荷体積中に存在する可能性が低いことも考慮する必要がある。
近年の軸受鋼に対するニーズとして長寿命化を追求するだけではなく、水素侵入環境下において、転がり疲労に伴う短寿命はく離を抑制して、部品の信頼性を向上させることが望まれている。したがって、そのような軸受製品の実現にあたり、介在物の大きさと寿命との関係を明確にし、短寿命はく離の起点となる介在物の大きさを知ることが課題になる。
ただし、それには転がり疲れに影響を及ぼす因子である介在物の大きさや組成、形状、母相と介在物との界面状態、鋼中での存在位置が事前に判明した状態で、その介在物を対象として転がり疲れ試験を行い、介在物大きさと寿命、あるいは未はく離の場合であれば介在物大きさとその周囲の疲労の状況とを、一対一に対照させた検証を行うことが必要である。
なぜなら、先に挙げた各種因子が寿命に対して影響を及ぼす可能性が高いにも関わらず、試験後にはその影響を分離して検証することが困難なためである。しかしながら、これまでに対象介在物の情報が予め判明した状態で水素侵入環境転がり疲れ試験を行い、寿命や転がり疲れに及ぼす影響を一対一に対照させて検証するための試験方法は確立されていなかった。
本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、鋼の製鋼過程で生成し、その後の圧延や鍛造などを経た鋼の中に残存して分布している非金属介在物の大きさやその存在頻度には頼らない新たな手法による水素侵入環境下の転がり疲れ試験方法を提供することを目的とする。
本発明は、母相が鋼であり、表面から所定の深さに所定形状の粒子が埋め込まれた試験片について、水素侵入環境下における転がり疲れに対する有害性(寿命や疲労への影響)を精緻に検証する方法である。
本発明の人工的な欠陥導入による転がり疲れ試験方法によれば、水素侵入環境下における介在物の有害性(寿命や転がり疲れへの影響)を精緻に検証することが可能となる。
実施形態の試験片の構成を示す図である。 実施形態の転がり試験方法を示すフローチャートである。 マイクロピペット先端に保持した球形Al2O3粒子をドリルホールの位置に移動させた様子を示す写真である。 図1(b)のY部の拡大図である。 人工的に埋設した欠陥位置の精密目印となるスラスト試験片上の微小Si系酸化物粒子群を特定した写真である。
以下、本発明の実施形態である、転がり疲れ試験方法について、図を参照して詳細に説明をする。
図1は、本実施形態の試験片の構成を示す図である。図1(a)は、正面図であり、図1(b)は、側面図(X-X断面図)である。なお、説明を容易にするため、図1は寸法関係を一部誇張している。
実施形態の試験片100は、中心部に内径穴部101を有する中空円盤状の部材である。試験片100は、研磨面下の軌道相当位置に粒子(Al2O3粒子等)104が埋設されている。なお、図1では、説明の便宜上、粒子104及びドリルホール103を実線にて記載しているが、後述する熱間等方圧加圧加工により、粒子104は試験片内に埋設され、ドリルホール103は消滅する。
図2は、本実施形態の転がり試験方法を示すフローチャートである。
まず、試験片の作製を行う(STEP1)。試験片100(試験片本体部)の素材としてはSUJ2鋼のφ65mm圧延材を使用した。この鋼材に865℃で1h保持後に空冷する焼ならし、および最高点加熱温度を800℃とし、その温度で保持後に徐冷を行う球状化焼なましを施した。そこから、外径48mm(図1中のA)、内径20mm(図1中のB)、厚さ8mm(図1中のC)で片面102をバフ研磨仕上げした試験片100を作製した。なお、試験片の上記外径、内径、及び、厚さについては、試験条件に応じて、適宜変更されうる。
その後、この試験片100のバフ研磨面102側の軌道相当位置に直径0.25mmで深さ1mmの単穴のドリルホール103の加工を施した(STEP2)。なお、ドリルホールの上記直径、及び、深さについては、試験条件及び粒子の形状や大きさに応じて、適宜変更されうる。
なお、ここでは一例としてSUJ2鋼を用いた事例を説明したが、それ以外の鋼も利用することができる。その場合、STEP1の焼ならしや球状化焼なましや後述の試験片再加工時の焼ならしや球状化焼なましはその選定した鋼種にあった条件を選定するか、鋼種によっては省略しても良いものとする。
転がり疲れ試験片100に人工的に導入する欠陥には、鋼中の介在物組成として代表的なAl2O3を想定し、代替物質として人工化合物のAl2O3粒子(粒子104)を用意した。それらの中から、球形状を有するAl2O3粒子を1粒選定し、CCDカメラ付き実体顕微鏡と組み合わせた単粒子の精密操作を自在に行うための制御装置を使い、選定した粒子104をドリルホール103内に投入した(STEP3)。
このときの粒子104のピックアップとリリースは精密制御装置に接続した先端部内径10μmのマイクロピペットを介して行った。このマイクロピペットの先端部内径はピックアップする粒子の大きさに応じて適宜サイズを変更して良い。図3は、粒子104をピペット先端に吸着してピックアップし、そのまま試験片上のドリルホール103の位置にピペット先端を移動させたときの保持状況を示したものである。なお、粒子104をドリルホール103内に投入するにはピペット先端での吸着を解除して行う。
このとき、直径が既知であるドリルホール103の径(実施形態では0.20mm)を基準として、粒子104であるAl2O3の直径を精密に測定することができる。図3に対して測定された粒子104であるAl2O3の直径は79μmであった。なお、粒子の上記直径については、試験条件に応じて、適宜変更されうる。
実際に鋼中に含まれている非金属介在物について、本実施形態の方法による転がり疲れ試験を行う場合には、例えば電解抽出などの手段を用いて鋼といったん分離して取り出してから本実施形態の方法を適用すれば良い。なお、本実施形態の粒子104の形状は球形であるが、これに限られず、非金属介在物やそれに類似した組成を有する化合物の形状に関しては、球形以外のものを選択することもできる。なお、鋼中に含まれる非金属介在物としては、Al2O3やMgO-Al2O3やCaO-Al2O3、CaO-Al2O3-SiO2、SiO2、TiNなどが知られるところであり、類似した組成を有する化合物とは、例えば例示した非金属介在物の組成構成範囲に調整されている化合物のことを指す。
粒子104に使用する化合物については、工業的に合成されたものであっても良く、また、実験室レベルで作製したものであっても良い。
また、本実施形態では、粒子104を1つとしているが、粒子104を複数として、複数の非金属介在物もしくはそれに類似した組成を有する化合物についても本実施形態の試験片を利用して転がり疲れ試験を行うことができる。その場合には、試験片100上にドリルホール103を一穴加工して、そのなかに複数個の介在物もしくはそれに類似した組成を有する化合物(粒子104)を投入する方法を取り得る。
もしくは、試験目的に応じて、ドリルホール103同士の相対的な配置や深さを定めて複数穴のドリルホール103を形成する加工を行ない、それぞれのドリルホール103に対して介在物もしくはそれに類似した組成を有する1以上の化合物(粒子104)を投入する方法も取り得る。
続いて、粒子104であるAl2O3がドリルホール103内から脱落しないようにしながら、別途用意した低炭素鋼製のケースに試験片100を収め、試験片100の内径穴部101に芯金を入れてからケースを密閉し、ケース内部を真空脱気した後、圧力147MPa、温度1170℃で5h保持する熱間等方圧加圧加工を施してから、ケースごと徐冷した(STEP4)。
この熱間等方圧加圧加工の条件は、非金属介在物もしくは非金属介在物に類似した組成を有する化合物と周囲の母相である鋼とを密着させる手段として、試験片に1160℃以上の温度で110MPa以上の熱間等方圧加圧加工を加えればよい。この工程を経由させることによって、Al2O3と母相の界面に隙間の無い状態を造ることができるので、転がり疲れに及ぼす隙間の影響を排除することができる。より望ましい熱間等方圧加圧の圧力は140MPa以上である。
図4は、図1(b)のY部の拡大図である。図2に示すように、本実施形態の方法で試験片100を作製したことにより、ドリルホール103内に投入したAl2O3(粒子104)の直上方向のドリルホール最終閉塞部(図4中のA部、及び、図5)に、数μm程度の大きさの微小なSi系酸化物群が不可避的に形成して点在する。これが転がり疲れ試験において軌道配置する際の欠陥導入箇所の精密な目印として利用できる。なお、これらのSi系酸化物の個々の大きさは数μm程度に過ぎず、はく離寿命に対しては影響を及ぼさない。
熱間等方圧加圧加工に続いて、焼ならしと球状化焼なましを施してから、SUJ2の部分を再び試験片の形状(外径φ56×内径φ20×厚さ4.8mm)に加工し、焼入焼戻し(835℃-0.5h、油冷→180℃-1.5h、空冷)を行って試験片の硬さを62HRC程度に調整した(STEP5)。
このとき、人工的に導入した内部の欠陥(粒子104)に対して転がり疲れを付与する本実施形態の目的のため、試験片100の硬さは、少なくとも転がり接触応力の影響を受ける領域(粒子104が埋め込まれた深さ領域は包含される)においては55HRC以上必要である。これより硬さが低い場合は、欠陥やその周辺のみならず、母相の転がり疲れが進行するため、欠陥自体の有害性を区別して検証することが困難となる。より望ましい試験片100の硬さは、58HRC以上である。なお、試験片100の硬化手段としては、クロム鋼(SCr鋼)やクロムモリブデン鋼(SCM鋼)等の肌焼鋼にに対して浸炭施すことによってもよい。
続いて、熱処理時の酸化スケールを平面研削で除去してから、周波数50MHzの超音波探傷試験により試験片中のAl2O3の深さを特定し、この深さ情報をもとに試験片のバフ研磨仕上げを行い、後述のスラスト試験条件における高せん断応力深さ域にAl2O3(粒子104)が配置されるように調整した(STEP6)。
次に、陰極チャージ法により試験片内の水素導入処理を実施する(STEP7)。試験片鋼中への水素導入処理の水素チャージ方法については特に限定されないが、本実施形態では、3%塩化ナトリウム+0.3%チオシアン酸アンモニウム水溶液中で試験片を陰極とした電気分解による陰極チャージ法を用いる。ただし、それ以外の水素添加方法を取ることも特に制限されるものではない。水素侵入環境転がり疲労を引き起こすために十分な量の水素をチャージするため、上記方法にて8時間の連続チャージを行い、試験片に流れる平均電流密度は0.2mA/cm2としている。試験片鋼中にチャージされた水素は試験片を大気中に取り出したのちは徐々に放出されるため、鋼中の水素量が飽和状態のまま試験に供すためには水素導入処理後は速やかにスラスト試験へ供する必要がある。その目安は水素導入処理後、1時間以内とするのが良い。他方、いったん水素をチャージしたのち、鋼中水素量を調整するために、水素導入処理後に静置(1時間以上24時間以内)してからスラスト試験へ供しても良い。また、埋設した介在物あるいは化合物の周囲に存在する水素の影響に限定して検証するために水素導入処理後、拡散性水素が十分放出されると考えられる時間(24時間以上)静置した試験片を用いてスラスト試験を行ってもよい。この試験は水素が侵入した後にある程度の時間が経ってから、あるいは、後述のスラスト試験により転がり疲れを付与したのちに水素チャージをして再びスラスト試験を行う方法を取ることもできる。この場合、介在物周りに転がり疲れの過程を通じて欠陥やひずみ、残留応力がもたらされた場合には、それらに対する水素の影響を検証することができる。
次に、この試験片を用いてスラスト型転がり疲れ試験を実施する(STEP8)。スラスト型転がり疲れ試験を行うにあたり、まず、介在物埋設箇所の精密目印となる微小Si系酸化物粒子群の試験片100上での位置を図5のように特定した。続いて、その直上を転動体が通るように軌道を配置した。試験片100の配置に関しては、上板にSUJ2製単式スラスト軸受のレース(型番51305)を使用し、下板をAl2O3埋設試験片100とし、上板と下板の間に転動体として直径3/8インチのSUJ2製鋼球3個を120°ピッチで等分配置するようにした。なお、軌道の配置に関しては、微小なSi系酸化物粒子群を活用することで埋設箇所直上の位置は特定されるのであるから、埋設箇所直上を軌道幅の中心が通るようにしてもよく、また、敢えて軌道幅の中心から適宜ずらすようにすることも目的に応じて選択して良い。
続いて転動体と試験片100の接触部に所望の最大ヘルツ接触応力が加わるように荷重を付与した。このときの負荷サイクル速度、潤滑種別、試験温度は適宜選択するものとする。試験後は埋設箇所の目印を頼りにして介在物埋設箇所周辺の断面観察を行うことができる。観察断面としてはスラスト試験の軌道の接線方向に平行な断面としても良いし、軌道に対し直交する垂直断面としても良い。また、軌道に対して軌道面から追い込み観察することもできる。観察断面までの追い込みの手段としては、精密な機械研磨と鏡面研磨による方法およびそれを繰り返して行う方法、FIB(Focused Ion Beam)のイオンビーム研削による方法、およびそれを組み合わせた方法などが利用できる。
以上の通り、本実施形態の人工的な欠陥導入を行ったのち、水素をチャージしてから転がり疲れ試験を行う方法を用いることにより、予め選定した非金属介在物もしくはそれと類似した組成を有する化合物を人工的に導入し、それを対象として水素侵入環境下の転がり疲れ試験を行い、事前に把握していた位置情報を元に試験後に介在物埋設箇所周辺のき裂等の転がり疲れ挙動を確実に観察することが実現可能である。
また、水素チャージした試験片の介在物からはく離を生じさせることによって、介在物大きさと水素侵入環境下寿命との関係についても検証が可能な方法である。また、本方法は、予め転がり疲れを付与する介在物の組成・形状、および介在物-母相界面の状態を定めた状態で試験を行うことから、それらの条件を有限要素法解析に反映させることも容易であり、この観点からも水素侵入環境下での介在物周囲の疲労挙動に関して、従来以上に高度な検証が可能になる。
以上説明したように、本実施形態は、非金属介在物もしくはそれに類似した組成を有する化合物について、予め大きさ、組成、形状を選定したものを人工的な手段で軸受用鋼製の転がり疲れ試験片中に導入し、さらに介在物もしくは化合物と母相とをお互いに密着した状態に制御したのち、その介在物もしくは化合物を対象として水素侵入環境下で転がり疲れ試験を行い、転がり疲れに対する有害性(寿命や疲労への影響)を精緻に検証するという方法である。また、この発明の方法では、はく離に至る前段階で試験を中断した場合であっても、鋼中の介在物もしくは化合物の存在位置が予め精密に特定されていることにより、その周囲の疲労状況の断面観察について、確実に遂行することを可能にする。
本実施形態の人工的な欠陥導入による水素侵入環境下での転がり疲れ試験方法は、寿命に関与する介在物の大きさ、形状、組成、母相との隙間の状況、鋼中の存在位置といった諸情報について予め判明した状態から試験を行うことにより、介在物の有害性(寿命や転がり疲れへの影響)を精緻に検証することを可能とする、これまでに無い新たな試験方法である。本試験方法を用いた場合、介在物の精密な位置情報が予め判明しているために、介在物周囲の疲労状況の観察を容易に行うことができる。その観察手法としては従来から良く用いられてきた断面観察による手法が利用可能であるし、あるいは非破壊での観察手法の適用も可能であり、介在物周囲の疲労挙動について従来以上に精緻な検証の実現が期待できる。
以上、実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
100:試験片
101:内径穴部
104:粒子

Claims (5)

  1. 母相が鋼であり、表面から所定の深さに所定形状の粒子が埋め込まれ、前記表面と前記粒子との間に、Si系酸化物群が備わる試験片に、陰極チャージ法により水素導入処理を実施して、前記水素導入処理後1時間以内に、前記試験片の前記Si系酸化物群の上部を転動体が通るように軌道を配置してスラスト型転がり疲れ試験を行う、転がり疲れ試験方法。
  2. 前記粒子は、非金属介在物もしくは非金属介在物に類似した組成を有する化合物である、請求項1記載の転がり疲れ試験方法。
  3. 前記粒子は、複数の非金属介在物もしくは非金属介在物に類似した組成を有する化合物である、請求項1記載の転がり疲れ試験方法。
  4. 前記非金属介在物もしくは前記非金属介在物に類似した組成を有する化合物と周囲の前記母相である鋼とを密着させるために、前記試験片に対して、1160℃以上の温度で140MPa以上の熱間等方圧加圧加工を加えた、請求項またはに記載の転がり疲れ試験方法。
  5. 前記試験片の硬さは、55HRC以上である、請求項1からのいずれかに記載の転がり疲れ試験方法。
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藤松 威史、平岡 和彦、山本 厚之,"高炭素クロム軸受鋼の転がり疲れにおける内部欠陥からのき裂発生挙動",鉄と鋼,日本,日本鉄鋼協会,2008年01月25日,Vol.94,No.1,pp.13-20,https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.94.13

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