JP6197391B2 - 構造物の疲労寿命評価方法 - Google Patents
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しかしながら、このように算出した応力拡大係数は、実物の応力拡大係数と乖離したものとなることが少なくない。このため、従来の疲労寿命評価は、信頼性が低いものであった。その結果、例えば、構造物のメンテナンス期間が短く不必要なメンテナンス作業が必要になる等、構造物の維持管理上好ましくない事態が生じ得る。
また、本手法では、最終的な構造物の疲労寿命の評価をシミュレーションによらずに、実際に疲労試験を実施することにより行う。本手法では、先ず、算出した欠陥部の残留応力による応力拡大係数を、欠陥部にかかる外力による応力拡大係数範囲に加算して、実機での欠陥部の応力拡大係数範囲を求める。そして、疲労試験片のき裂端の応力拡大係数が、算出した実機での欠陥部の応力拡大係数範囲と一致するように試験片荷重条件を設定する。このように、実機と試験片との応力拡大係数範囲を一致させることで、疲労試験の試験結果から構造物の疲労寿命を評価できる。
したがって、本発明によれば、信頼性の高い疲労寿命評価をすることができる。このため、構造物の適切なメンテナンス期間を設定することができ、不必要なメンテナンス作業の削減、構造物の維持管理費用の削減を図ることができる。
本手法では、図2に示す溶接欠陥構造物Aを対象とする。本実施形態の溶接欠陥構造物Aは、縦横に複数の溶接線2が形成されてなる球形ガスホルダーであり、既設のものである(以下、実機と称する場合がある)。
本手法は、この溶接欠陥構造物Aを対象とし、疲労き裂進展確認試験を実施することで、疲労寿命を評価するものである。本手法は、図1に示すように、実機側のフローF1と、疲労試験側のフローF2と、がある。
このステップS1は、超音波探傷手法の一種であるTOFD(Time Of Flight Diffraction)法により、図2に示す溶接欠陥構造物Aの溶接線2に沿って欠陥を探傷するものである。本実施形態では、溶接線2に沿ってレールを敷設し、周知のTOFD方式の超音波探傷装置を自動走行させることで、溶接線2に沿って欠陥を探傷する。
TOFD法は、一対の発信および受信用の2つの探蝕子を対向させて配置して、被検査断面を透過させるように超音波の送受信を行う手法である。TOFD法は、表面直下の表面透過波(ラテラル波)および底面反射波と「欠陥」の上下端で発生する回折波の伝搬時間差を利用して、幾何学的に「欠陥」の寸法(欠陥高さ、欠陥の長さ)を計測することができる。TOFD法は、特に、肉厚方向の寸法を高精度計測することができる。
このステップS3は、ステップS1における超音波探傷の結果、欠陥が複数箇所で検出された場合、その寸法の計測結果に基づいて、その複数の溶接欠陥部3うちからいずれか一の溶接欠陥部3を選択するものである。本実施形態では、欠陥寸法の計測結果に基づいて、最も大きい欠陥が計測された溶接欠陥部3を選択する。
図3は、本発明の実施形態における溶接欠陥部3の溶接残留応力の計測結果を示すグラフである。図3において、縦軸は溶接欠陥部3の厚み中心を基準「ゼロ」とする溶接方向(板厚方向)の距離z(mm)を示し、横軸は溶接残留応力σY(MPa)を示す。図4は、本発明の実施形態における溶接欠陥部3の溶接残留応力の計測点(a,b)と、欠陥4との位置関係を示す図である。符号5は溶接欠陥構造物Aの外表面を示し、符号6は溶接欠陥構造物Aの内表面を示す。
図5は、国際規格(BS7910:2005)のパンフレットに規定される所定の手順及び計算式に従い算出した算出結果(BS7910)を示している。このように、国際規格のパンフレットから算出した結果は、実機における溶接残留応力の計測結果(実機)と乖離していることが分かる。
ステップS5は、ステップS4の溶接残留応力の計測結果とステップS2の欠陥4の寸法の計測結果に基づいて、溶接欠陥部3の溶接残留応力による応力拡大係数を求めるものである。本実施形態では、日本溶接協会規格(WES2805:2007)に従い、以下のようにして溶接残留応力による応力拡大係数を算出する。
本実施形態の欠陥4は、埋没き裂である(図4参照)。本実施形態では、図6に示すように、欠陥寸法に対して、溶接欠陥部3の溶接残留応力分布をスケーリングすることで、溶接残留応力による応力拡大係数を求める。
溶接残留応力の特性(引張応力成分σt、曲げ応力成分σb)は、下式(1)、(2)から求めることができる。
ステップS6では、FEM解析により溶接欠陥構造物Aの外力による応力拡大係数範囲を求める。本実施形態では、図2に示す球形ガスホルダーのFEM解析モデルを生成し、ガス内圧による応力(σmax、σmin)から応力拡大係数範囲を求める。なお、球形ガスホルダーの場合、ガス内圧が均一に作用するため、外力による応力拡大係数範囲は、溶接欠陥部3の位置によらず一定である。
ステップS7は、ステップS5の溶接残留応力による応力拡大係数(本実施形態ではマイナス値)を、ステップS6の外力による応力拡大係数範囲に加算し、溶接欠陥部3の応力拡大係数範囲を求めるものである。具体的に、溶接欠陥部3の応力拡大係数範囲(ΔK)は、後述する図8(a)に示される荷重ケース(0)のように表すことができる。
Kmax=Kσmax+Kres …(4)
Kmin=Kσmin+Kres …(5)
このため、図1に示すように、本手法では、ステップS3から、疲労試験側のフローF2のステップS11に移行する。
このステップS11は、ステップS3において選択した溶接欠陥部3をトレパニングによって切り出し、欠陥4及びその周辺部を採取するものである。なお、実機の採取箇所は、その後補修する。
本手法は、次のステップS12において、採取片7のき裂寸法の計測を行う。
このステップS12は、採取した溶接欠陥部3をスライスして、図7(a)に示すように、欠陥4がスライス面に露出する所定厚みの採取片7を形成し、その欠陥4の寸法をスケール等で計測するものである。
このステップS13は、採取片7から図7(b)に示す斜線部を研磨し、所定サイズの矩形状のチップとしたものに、図7(c)に示すように、つかみ部9をレーザー溶接等することで疲労試験片8を形成するものである。
このステップS14は、作製した疲労試験片8の欠陥4のき裂端の応力拡大係数範囲が、算出した溶接欠陥部3の応力拡大係数範囲と一致するように、試験片荷重条件を設定するものである。
図8及び図9は、本発明の実施形態における荷重条件を示すグラフである。図8及び図9において、縦軸は応力拡大係数Kを示し、横軸は時間Tを示す。図8及び図9は、本実施形態の疲労試験の荷重ケース(0)〜(4)を示している。
荷重ケース(1)は、図8(a)に示すように、Kmaxを維持したまま、マイナス値のKminをゼロに調整したものであり、荷重ケース(0)よりも荷重がきつい安全側のものである。
荷重ケース(2)は、図8(b)に示すように、マイナス値のKminをゼロとなるように荷重ケース(0)をオフセットしたものであり、荷重ケース(1)よりも荷重がきつい安全側のものである。
荷重ケース(4)は、図9(b)に示すように、BS規格により算出した溶接残留応力による応力拡大係数(KBSres)に、外力による応力拡大係数範囲に加算したもの(従来手法のもの)であり、荷重ケース(3)よりも荷重がきつい安全側のものである。
図10は、本発明の実施形態における疲労試験の試験結果を示すグラフである。図10は、縦軸は無次元き裂長さa/W(aはき裂長さ)を示し、横軸は総繰り返し回数N(cycle)を示す。なお、無次元き裂長さが1となったとき、試験片が破断したことを示す。
一方、疲労試験片(A‐4)は、荷重ケース(1)→荷重ケース(0)で繰り返し荷重を加えたもの(本手法:実機に近い荷重条件)では、図10に示すように、疲労試験片(A‐3)を大幅に超えたときに破断した。
以下は、別の実機(球形ガスホルダーB(上述した球形ガスホルダーAと同タイプ))について本手法を適用した場合の結果を示している。
図11は、本発明の別実施形態における溶接残留応力による応力拡大係数の算出法を説明するための図である。
実機Bの欠陥寸法は、3.2mmであり、図11に示すように溶接欠陥部3の溶接残留応力分布をスケーリングすることで、上記ステップS5と同様にして、溶接残留応力による応力拡大係数を求める。
疲労試験片(B‐4)は、荷重ケース(1)→荷重ケース(0)で繰り返し荷重を加えたもの(本手法:実機に近い荷重条件)であり、図12に示すように、疲労寿命は最も長いものであった。
一方、疲労試験片(B‐1)より安全側の荷重ケース(4)を選択したもの(従来手法)では、疲労寿命は疲労試験片(B‐1)よりも短くなることが予測される。このように、従来手法による疲労寿命評価は、短命になりやすいものであることが分かる。
Claims (4)
- 構造物において欠陥を探傷する第1工程と、
前記欠陥の寸法を計測する第2工程と、
前記欠陥がある欠陥部における残留応力を計測する第3工程と、
前記残留応力の計測結果と前記寸法の計測結果に基づいて、前記欠陥部の残留応力による応力拡大係数を求める第4工程と、
前記応力拡大係数を、FEM解析によって求めた前記欠陥部にかかる外力による応力拡大係数範囲の最大値と最小値に加算し、前記欠陥部の応力拡大係数範囲の最大値と最小値を求める第5工程と、
前記欠陥部の応力拡大係数範囲の最大値と最小値から、試験片荷重の最大値と最小値を設定した試験片荷重条件のもとで疲労試験を実施し、前記構造物の疲労寿命を評価する第6工程と、を有し、
前記第6工程では、前記構造物から採取した前記欠陥部から前記疲労試験の疲労試験片を形成する、ことを特徴とする構造物の疲労寿命評価方法。 - 前記残留応力は、溶接残留応力である、ことを特徴とする請求項1に記載の構造物の疲労寿命評価方法。
- 前記構造物は、球形ガスホルダーである、ことを特徴とする請求項1または2に記載の構造物の疲労寿命評価方法。
- 前記第1工程では、超音波探傷手法を用いる、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の構造物の疲労寿命評価方法。
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