自動車の車体骨格部品(例えばフロントピラーアウターレインフォースメントやサイドシルアウターレインフォースメント、フロントピラーインナーレインフォースメント、サイドシルインナーレインフォースメント、リアサイドフレーム)は、断面形状がハット型のプレス成形品を用いて構成される。
図1は、ハット型断面のプレス成形品の一例を示す模式図であり、同図(a)は側面図、同図(b)はA−A断面図である。プレス成形品90は、同図(b)に示すように、ウェブ部90aと、そのウェブ部90aの一方に延びる第1縦壁部90bと、その第1縦壁部90bからさらに延びる第1フランジ部90dと、ウェブ部90aの他方に延びる第2縦壁部90cと、その第2縦壁部90cからさらに延びる第2フランジ部90eとを有する。同図に示すプレス成形品90は、長手方向に上面視で湾曲することなく、直線状に伸びる。
このようなハット型断面のプレス成形品は、パンチおよびダイを用いたプレス成形により作製できる。その際にブランクホルダを用いる場合があり、ブランクホルダを用いるプレス成形は、絞り成形とも呼ばれる。また、プレス成形(絞り成形)では、ブランクホルダとともにパッドを用いる場合がある。
図2は、プレス成形(絞り成形)でブランクホルダとともにパッドを用いる場合の加工フローを模式的に示す断面図であり、同図(a)は上死点時、同図(b)はブランクホルダによる挟持時、同図(c)はパッドによる挟持時、同図(d)および同図(e)はパンチの押し込み時、同図(f)は下死点時をそれぞれ示す。同図では、上型が上死点から下死点まで下降する際に素材金属板50にウェブ部、縦壁部およびフランジ部が成形される場合を示す。
同図には、素材金属板50と、プレス成形装置が具備する金型20とを示す。同図に示すプレス成形装置の金型20は、上型40がダイ41と、それと隣接するパッド46とで構成され、下型30がパンチ31と、それと隣接するブランクホルダ(34および35)とで構成される。
下型30のパンチ31は、同図(a)に示すように、ウェブ部に対応する形状である先端面31aと、第1縦壁部に対応する形状である第1外側面31bと、第2縦壁部に対応する形状である第2外側面31cとを有する。一方、上型のダイ41は、凹部を有し、その第1内側面41aがパンチの第1外側面31bに対応する形状であり、その第2内側面41bがパンチの第2外側面31cに対応する形状である。
また、ダイ41の凹部には、パッド46が配置され、そのパッド46はパッド用加圧機構(例えばばねやゴム、ガスシリンダ、油圧シリンダ等)47を介してダイ41に装着されている。このように装着されたパッド46は、プレス方向にスライド可能であり、より具体的には、ダイ41(上型)に対してスライド可能である。パッド46の先端面(パンチの先端面31aと対向する面)は、パンチの先端面31aに対応する形状である。なお、パッド46は、上型締結用金型を介してプレス機に装着される場合もある。
一方、パンチ31の両側には、第1ブランクホルダ34および第2ブランクホルダ35がそれぞれ配置され、そのブランクホルダ(34および35)はブランクホルダ用加圧機構(例えばばねやゴム、油圧シリンダ、ガスシリンダ等、符号:36および37)によりプレス方向にスライド可能に支持されている。ここで、プレス方向とは、プレス成形する際にパンチ31とダイ41とが相対的に移動する方向であり、同図に示す金型20では、上下方向がプレス方向となる。
このような構成の金型20を用いたプレス成形では、同図(a)に示すように、素材金属板50を上型40と下型30の間に配置する。その状態で上型40を上死点から下降させると、ダイ41が素材金属板50を介してブランクホルダ(34および35)に当接してブランクホルダ用加圧機構(36および37)が縮む。このブランクホルダ用加圧機構(36および37)の復元力によってブランクホルダ(34および35)が素材金属板50に押し付けられ、同図(b)に示すように、素材金属板50がダイ41とブランクホルダ(34および35)とで挟持される。
上型40をさらに下降させると、同図(c)に示すように、パッド46が素材金属板50を介してパンチ31に当接する。これに伴い、パッド用加圧機構47が縮み、このパッド用加圧機構47の復元力によってパッド46が素材金属板50に押し付けられる。これにより、素材金属板50がパンチ31とパッド46とで挟持される。
このように素材金属板50が挟持されている状態で、上型40をさらに下降させる。これにより、パンチ31とダイ41とを相対的に移動させ、同図(d)および(e)に示すように、パンチ31とともに素材金属板50をダイ41の凹部に押し込む。このようにして素材金属板50に絞り加工を施すことによりプレス成形する。
そして、同図(f)に示すように、上型40が下死点に到達すると、ウェブ部がパンチの先端面31aとパッド46により仕上げられ、縦壁部がパンチの外側面(31bおよび31c)とダイ41によって仕上げられる。また、フランジ部がダイ41とブランクホルダ(34および35)によって仕上げられる。その結果、素材金属板50がハット型断面に成形される。
断面形状がハット型のプレス成形品の成形に関し、従来から種々の提案がなされており、例えば特許文献1および2がある。特許文献1では、パンチおよびダイによるプレス成形でパッドを用い、プレス成形中にパンチ位置とダイ位置およびパッド位置を測定する。成形開始時からダイとパッドの相対変位が零になるまで、パッドとパンチの相対変位を10〜20mmの範囲内になるようにパッドの位置を制御する。このようにパッドの位置を制御することにより、パンチとパッドの間の素材金属板にたるみを形成することができるとしている。この形成したたるみをプレス成形の後期で押しつぶすことにより、曲げ領域が拡大し、その結果、スプリングバックを低減できるとしている。
また、特許文献2が対象とするプレス成形品は、ウェブ部と、弧状に湾曲している部位を有する屈曲部を介してウェブ部につながり、かつ、屈曲部と反対側にフランジ部を有する縦壁部とを有する。特許文献2に提案されるプレス成形方法では、ダイ金型、曲げ型およびパッドを用いる。そして、素材金属板をダイ金型とパッドおよび曲げ型との間に配置し、そのパッドを素材金属板に近接又は接触させた状態でプレス成形を行う。
これにより、素材金属板の少なくとも一部を、ダイ金型のうち、ウェブ部に対応する部位の上でスライドさせつつ、縦壁部およびフランジ部を成形する。その結果、L字状形状部品のL字下側部に対応する部位が縦壁部に向けて引き込まれるとしている。このため、フランジ部で割れの発生を低減できるとともに、ウェブ部でしわの発生を低減できるとしている。
前述のフロントピラーやサイドシルといった車体骨格部品は、接合(例えばスポット溶接)により一体化されて使用される。フロントピラーは、その下端をサイドシルの先端と接合される。フロントピラーのうちでサイドシルと接合される部分を構成する部材は、フロントピラーロアーと呼ばれる。このフロントピラーロアーは、ハット形断面のプレス成形品が用いられ、一例として、前述の特許文献2が対象とするプレス成形品のような形状が挙げられる。すなわち、特許文献2の図4Aに示されるように、ウェブ部と、弧状に湾曲している部位を有する屈曲部を介してウェブ部につながり、かつ、その屈曲部と反対側に第1フランジ部を有する第1縦壁部とを有する形状である。このプレス成形品は、第2縦壁部は、弧状に湾曲することなく、屈曲部を有さない。
このようなフロントピラーロアーを、車体剛性等の性能や衝突安全性能の向上のため、長手方向にL字状に湾曲する形状とする場合がある。
図3は、長手方向にL字状に湾曲する形状であり、かつ、断面形状がハット型であるプレス成形品を示す模式図であり、同図(a)は上面図、同図(b)はB−B断面図である。本明細書では、便宜上、プレス成形品をフロントピラーロアーとして用いた場合にサイドシルと接合される方を長手方向の「後」と呼び(同図(a)の符号B参照)、この「後」と反対の方を長手方向の「前」と呼ぶ(同図(a)の符号F参照)。
同図に示すプレス成形品10の断面形状は、同図(b)に示すように、ウェブ部10a、第1縦壁部10b、第2縦壁部10c、第1フランジ部10dおよび第2フランジ部10eを有する。同図(a)に太線で示すように、ウェブ部10aと第1縦壁部10bとの境界部は、その中間に長手方向に略4分の1円弧状に湾曲する部位10jを有する。また、ウェブ部10aと第2縦壁部10cとの境界部も、その中間に長手方向に略4分の1円弧状に湾曲する部位10kを有する。
このような境界部により形成されるウェブ部10aは長手方向にL字状に湾曲しており、その湾曲の内側に第1縦壁部10bが延び、外側に第2縦壁部10cが延びる。また、第1縦壁部10bからさらに第1フランジ部10dが延び、第2縦壁部10cからさらに第2フランジ部10eが延びる。
この長手方向にL字状に湾曲する形状のプレス成形品を、前述の通り、フロントピラーロアーとして用いる場合がある。また、サイドシルインナやサイドシルアウタ、フロントサイドメンバ、リアサイドフレームの構成部品として用いる場合がある。これらの場合、弧状に湾曲する部位(10jおよび10k)の中心角は、例えば、70〜170°に設定できる。また、ウェブ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位10jの曲率半径は、例えば、30〜600mmに設定できる。ウェブ部と第2縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位10kの曲率半径は、例えば、10〜600mmに設定できる。第1縦壁部の深さd1は、例えば、20〜350mmに設定でき、第2縦壁部の深さd2は、例えば、20〜350mmに設定できる。
長手方向にL字状に湾曲する形状のプレス成形品をフロントピラーロアーとして用いる場合、弧状に湾曲する部位(10jおよび10k)の中心角は、例えば、70〜120°に設定できる。また、ウェブ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位10jの曲率半径は、例えば、30〜300mmに設定できる。ウェブ部と第2縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位10kの曲率半径は、例えば、10〜200mmに設定できる。第1縦壁部の深さd1は、例えば、20〜200mmに設定でき、第2縦壁部の深さd2は、例えば、20〜200mmに設定できる。
長手方向にL字状に湾曲する形状のプレス成形品をリアサイドフレームとして用いる場合、弧状に湾曲する部位(10jおよび10k)の中心角は、例えば、70〜170°に設定できる。また、ウェブ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位10jの曲率半径は、例えば、50〜600mmに設定できる。ウェブ部と第2縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位10kの曲率半径は、例えば、50〜600mmに設定できる。第1縦壁部の深さd1は、例えば、40〜350mmに設定でき、第2縦壁部の深さd2は、例えば、40〜350mmに設定できる。
この長手方向にL字状に湾曲する形状のプレス成形品をパンチ、ダイおよびブランクホルダを用いたプレス成形により作製することができる。しかしながら、素材金属板として高強度の金属板、具体的には引張強さ(TS)が590MPa以上である金属板を用いる場合、プレス成形品に割れやしわが発生し易い。
一方、素材金属板として引張強さ(TS)が590MPa未満である金属板を用いる場合がある。この場合、第1縦壁部や第2縦壁部が深いと、プレス成形品に割れやしわが発生し易い。また、ウェブ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位10jの曲率半径が小さいと、プレス成形品に割れやしわが発生し易い。ウェブ部と第2縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位10kの曲率半径が小さいと、プレス成形品に割れやしわが発生し易い。
図4は、従来法によって成形されたL字状に湾曲する形状のプレス成形品の板厚減少率を示す上面図であり、同図(a)はパンチ、ダイに加えてブランクホルダを用いる絞り成形の場合、同図(b)は絞り成形で長手方向の一端を閉じた形状にした場合、同図(c)は絞り成形でパッドを用いた場合をそれぞれ示す。同図では、濃淡によって素材金属板の板厚基準の板厚減少率を示すとともに、プレス成形前の素材金属板の形状50を実線で示す。また、図中の数値は、板厚減少率(%)を表わす。
同図の板厚減少率は、FEM解析により求めた。その際、素材金属板は板厚が1.6mmの980MPa級デュアルフェーズ高強度鋼板とし、プレス成形品の寸法および形状は、後述する実施例と同様とした。また、同図の板厚減少率rtb(%)は、素材金属板の板厚tb(mm)を基準として下記(1)式により算出した。下記(1)式において、tはプレス成形品の板厚(mm)である。
rtb=(tb−t)/tb×100 ・・・(1)
絞り成形の場合、具体的にはパンチおよびダイによるプレス成形の際にブランクホルダを用いる場合、同図(a)より、ウェブ部と第2縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲している部位の内側のX領域で、ウェブ部10aと第2縦壁部10bとの境界部付近の領域が著しく減肉していることが確認される。ここで、本材料の変形形態では、素材金属板の板厚基準の板厚減少率が18%程度を越えると、実際のプレス成形品では割れが発生する。このため、実際のプレス成形品では、X領域で割れが発生すると判断される。
また、同図(a)のY領域で、素材金属板の板厚基準の板厚減少率が長手方向で短いサイクルで増加と減少を繰り返している。この場合、実際のプレス成形品では、しわがY領域に発生する。ここで、Y領域は、主に、ウェブ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲している部位の外側領域である。また、Y領域は、その外側領域の近傍と、ウェブ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲している部位と、その部位の近傍とを含む。
同図(b)のプレス成形では、同図(a)のプレス成形と同様に、パンチおよびダイによるプレス成形の際にブランクホルダを用いた。その際、パンチ、ダイ、ブランクホルダおよび素材金属板の形状を変更し、長手方向の後端で第1縦壁部および第2縦壁部が繋がる形状とした。この場合、X領域における減肉が低減され、割れの危険性の低減が確認される。一方、Y領域でしわが発生していることが確認される。
同図(c)のプレス成形では、パンチおよびダイによるプレス成形の際にブランクホルダとともにパッドを用いた。この場合、X領域で減肉して割れが発生すると判断される。一方、Y領域のしわの抑制が確認される。
なお、同図(a)〜(c)のプレス成形品では、素材金属板の形状を好適化することにより、第1フランジ部の内側に余肉部を設けている。この余肉部を第1フランジ部の内側に設けない場合、Z領域で割れが発生する危険性が高くなる(前記図3(a)参照)。ここで、Z領域は、主に、第1フランジ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の内側領域である。また、Z領域は、その内側領域の近傍と、第1フランジ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位と、その部位の近傍とを含む。
このように長手方向にL字状に湾曲する形状のプレス成形品では、素材金属板として高強度の金属板を用いる場合、割れやしわが発生する。一方、高強度でない金属板(例えば引張強さ(TS)が590MPa未満である金属板)を用いる場合、第1縦壁部や第2縦壁部が深いと、割れやしわが発生し易い。また、高強度でない金属板を用いる場合、ウェブ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の曲率半径が小さいと、割れやしわが発生し易い。高強度でない金属板を用いる場合、ウェブ部と第2縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の曲率半径が小さいと、割れやしわが発生し易い。
前述の特許文献1で提案されるプレス成形方法を長手方向にL字状に湾曲する形状のプレス成形品に適用することが考えられる。この場合、パンチおよびダイによるプレス成形でパッドを用いるので、Y領域のしわをある程度低減できるが、W領域にしわが発生する(前記図3(a)参照)。さらに、第1フランジ部の内側に余肉部を設けない場合、Z領域で割れが発生する危険性が高くなる。ここで、W領域は、主に、第2縦壁部と第2フランジ部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の外側領域である。また、W領域は、その外側領域の近傍の領域と、第2縦壁部と第2フランジ部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位と、その部位の近傍とを含む。
また、前述の特許文献2では、実施例6において、ダイ金型、曲げ型およびパッドを用いるプレス成形方法を長手方向にL字状に湾曲する形状のプレス成形品に適用している。この場合、第1フランジ部において割れが発生するとしている。
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、長手方向にL字状に湾曲する形状であるプレス成形品の成形で素材金属板として高強度の金属板を用いた場合でも、板厚の変化を低減でき、割れおよびしわが低減されたプレス成形品を得ることが可能なプレス成形装置およびプレス成形方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記問題を解決するため、種々の試験を行い、鋭意検討を重ねた結果、後述する図5に示すように、パンチ31およびダイ41によるプレス成形において、パッド(第1ダイ側パッド)42とともにブランクホルダ(34および35)を用い、さらに、パンチ内包パッド32とを用いることを見出した。この場合、素材金属板50の挟持完了時に、パンチ31の先端面から突き出るパンチ内包パッド32に沿って素材金属板50が変形する。これにより、パンチ31の先端面に対してパンチ内包パッド32と当接する部位を余らせた状態で素材金属板50を挟持でき、素材金属板50に成形されるウェブ部のX領域における割れを低減できる。
また、第1ダイ側パッド42とともにブランクホルダ(34および35)を用いることにより、素材金属板に成形されるウェブ部のY領域にしわが形成されるのを低減できる。その結果、プレス成形品で板厚の変化を低減できる。
本発明は、上記の知見に基づいて完成したものであり、下記(1)〜(4)のプレス成形装置、並びに、下記(5)のプレス成形方法を要旨としている。
(1)素材金属板から、長手方向にL字状に湾曲する形状であり、かつ、断面形状がウェブ部と、そのウェブ部から前記湾曲の内側に延びる第1縦壁部と、前記ウェブ部から前記湾曲の外側に延びる第2縦壁部と、前記第1縦壁部からさらに延びる第1フランジ部と、前記第2縦壁部からさらに延びる第2フランジ部とを有する形状であるプレス成形品を成形するプレス成形装置であって、前記ウェブ部、前記第1縦壁部および前記第2縦壁部とそれぞれ対応する形状の先端面、第1外側面および第2外側面を有し、かつ、長手方向にL字状に湾曲する形状であるパンチと、このパンチの先端面に内包されてプレス方向にスライド可能であり、かつ、前記先端面と前記第2外側面との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の内側で前記素材金属板と当接するパンチ内包パッドと、前記パンチの湾曲の内側で当該パンチと隣接してプレス方向にスライド可能な第1ブランクホルダと、前記パンチの湾曲の外側で当該パンチと隣接してプレス方向にスライド可能な第2ブランクホルダと、前記パンチと対をなすダイと、このダイに隣接してプレス方向にスライド可能であり、かつ、少なくとも、前記先端面と前記第1外側面との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の外側で前記素材金属板を介して前記パンチと当接する第1ダイ側パッドとを備え、前記第1ブランクホルダ、前記第2ブランクホルダおよび前記第1ダイ側パッドによる素材金属板の挟持の完了時において、前記パンチ内包パッドが、前記パンチから突き出るように配置され、前記パンチと前記ダイとをプレス方向に相対的に移動させることによる前記素材金属板の成形過程で前記ダイによって前記パンチ内包パッドが前記パンチに押し込まれることを特徴とするプレス成形装置。
(2)上記(1)に記載のプレス成形装置が、さらに、前記ダイに隣接してプレス方向にスライド可能であり、かつ、前記パンチ内包パッドが前記素材金属板と当接する領域のうちの少なくとも一部で前記素材金属板と当接する第2ダイ側パッドとを備え、前記第2ダイ側パッドによる前記素材金属板への押付力が、前記パンチ内包パッドによる前記素材金属板への押付力と同等以上であり、前記成形過程で、前記第2ダイ側パッドによって前記パンチ内包パッドが前記パンチに押し込まれることを特徴とするプレス成形装置。
(3)前記パンチ内包パッドは、その断面形状が、前記先端面と前記第2外側面との境界部に近い方の側端と当該パンチ内包パッドの中央との間に頂部が位置する凸形状であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のプレス成形装置。
(4)上記(1)〜(3)に記載のプレス成形装置が、さらに、前記第2ブランクホルダと前記ダイとの間隔を、少なくとも、前記第2縦壁部と前記第2フランジ部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の外側で、前記素材金属板の板厚より大きい状態で維持する機構を備えることを特徴とするプレス成形装置。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載のプレス成形装置を用いて前記素材金属板から前記プレス成形品を成形するプレス成形方法であって、前記パンチ内包パッドが前記パンチから突き出た状態で、前記第1ブランクホルダ、前記第2ブランクホルダおよび前記第1ダイ側パッドによって前記素材金属板を挟持するステップと、前記素材金属板が挟持されている状態で前記パンチと前記ダイとをプレス方向に相対的に移動させることにより、前記ダイまたは前記第2ダイ側パッドを当接させて前記パンチ内包パッドを前記パンチ内に押し込みつつ、前記ウェブ部、前記第1縦壁部、前記第2縦壁部、前記第1フランジ部および前記第2フランジ部を仕上げるステップとを含むことを特徴とするプレス成形方法。
本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、素材金属板の挟持の完了時にパンチ内包パッドによって素材金属板を余らせ、そのパンチ内包パッドをプレス成形の過程でダイまたは第2ダイ側パッドによってパンチ内に押し込む。これにより、パンチ内包パッドが存在する領域の近傍で減肉が低減されつつ成形が進行し、割れを低減できる。また、第1ダイ側パッドとともに第1ブランクホルダおよび第2ブランクホルダを用いることにより、しわの発生を低減できる。その結果、得られるプレス成形品の板厚の変化を低減することができる。
以下に、本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法について、図面を参照しながら説明する。
図5は、本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法による加工フロー例を模式的に示す断面図であり、同図(a)は上死点時、同図(b)はブランクホルダによる挟持時、同図(c)は第1ダイ側パッドによる挟持時、同図(d)は第2ダイ側パッドの当接時、同図(e)はパンチ内包パッドの押し込み時、同図(f)は下死点時をそれぞれ示す。同図は、前記図3に示す形状のプレス成形品の加工フロー例であり、前記図3のB−B位置の断面図である。また、同図では、上型が上死点から下死点まで下降する際に素材金属板にウェブ部、縦壁部およびフランジ部が成形される場合を示す。
同図には、素材金属板50と、プレス成形装置が具備する金型20とを示す。同図に示すプレス成形装置の金型20の下型30は、パンチ31、第1ブランクホルダ34、第2ブランクホルダ35およびパンチ内包パッド32で構成される。パンチ31は、同図(a)に示すように、プレス成形品のウェブ部、第1縦壁部および第2縦壁部とそれぞれ対応する形状の先端面31a、第1外側面31bおよび第2外側面31cを有する。また、パンチ31は、プレス成形品に対応するように長手方向にL字状に湾曲する形状である。
パンチ内包パッド32は、パンチの先端面31aに内包されている。また、パンチ内包パッド32は、パンチ内包パッド用加圧機構(例えばばねやゴム、ガスシリンダ、油圧シリンダ等)33により支持されており、プレス方向にスライド可能である。このようなパンチ内包パッド32は、パンチの先端面31aと第2外側面31cとの境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の内側で素材金属板50と当接する。
図6は、パンチ内包パッド、第1ダイ側パッドおよび第2ダイ側パッドが下死点時に位置または当接する領域の一例を模式的に示す上面図であり、同図(a)はパンチ内包パッドが位置する領域を示し、同図(b)は第1ダイ側パッドおよび第2ダイ側パッドが当接する領域を示す。同図には、成形されたプレス成形品10を示し、パンチ内包パッドが下死点時に位置する領域10l、第1ダイ側パッドが下死点時に当接する領域10mおよび第2ダイ側パッドが下死点時に当接する領域10nを斜線を施して示す。
パンチ内包パッドは、前述の通り、パンチの先端面と第2外側面との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の内側で素材金属板と当接する。換言すると、パンチ内包パッドは、図6(a)に示すように、ウェブ部10aと第2縦壁部10cとの境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位(同図(a)の太線部10k参照)の内側の領域10lに位置する。
第1ブランクホルダ34は、図5に示すように、パンチ31のL字状湾曲の内側でパンチ31と隣接する。また、第2ブランクホルダ35は、パンチ31のL字状湾曲の外側でパンチ31と隣接する。第1ブランクホルダ34および第2ブランクホルダ35は、それぞれブランクホルダ用加圧機構(例えばばねやゴム、油圧シリンダ、ガスシリンダ、符号:36および37)により支持されており、プレス方向にスライド可能である。
一方、上型40は、図5(a)に示すように、ダイ41、第1ダイ側パッド42および第2ダイ側パッド43で構成される。ダイ41は、パンチ31を受け入れる凹部を有し、その第1内側面41aがパンチの第1外側面31bに対応する形状であり、第2内側面41bがパンチの第2外側面31cに対応する形状である。
ダイ41の凹部には、第1ダイ側パッド42および第2ダイ側パッド43が配置される。その第1ダイ側パッド42および第2ダイ側パッド43は、それぞれパッド用加圧機構(例えばばねやゴム、ガスシリンダ、油圧シリンダ等、符号:44および45)を介して支持されており、プレス方向にスライド可能である。
第1ダイ側パッド42は、素材金属板50を介してパンチ31と当接する。具体的には、素材金属板50を介在させた状態で、少なくとも、パンチの先端面31aと第1外側面31bとの境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の外側でパンチ31と当接する。換言すると、第1ダイ側パッド42は、前記図6(b)に示すように、ウェブ部10aと第1縦壁部10bとの境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位(図6(b)の太線部10j参照)の外側の領域を含むような領域10mに下死点時に当接する。
このような構成の金型20を用いる本発明のプレス成形装置は、第1ダイ側パッド42が、前記図2を用いて説明した従来のブランクホルダとともにパッドを用いるプレス成形方法におけるパッドと、同様に動作して同様の役割を果たす。一方、パンチ内包パッド32は、第1ブランクホルダ34、第2ブランクホルダ35および第1ダイ側パッド42による素材金属板の挟持の完了時にパンチ31から突き出るように配置される(図5(c)参照)。このパンチ内包パッド32は、素材金属板の成形過程でダイ41または第2ダイ側パッド43によってパンチ31に押し込まれる(図5(f)参照)。
このような本発明のプレス成形装置を用いる本発明のプレス成形方法の加工フロー例を説明する。
素材金属板のプレス成形にあたり、図5(a)に示すように素材金属板50を上型40と下型30の間に配置する。その状態で、上型40を下降させることにより、パンチ31とダイ41とをプレス方向に相対的に移動させる。これにより、同図(b)に示すように、第1ブランクホルダ34および第2ブランクホルダ35を素材金属板50を介在させた状態でダイ41に押し付ける。このようにして素材金属板50を第1ブランクホルダ34および第2ブランクホルダ35によって挟持する。
上型40をさらに下降させることにより、同図(c)に示すように、第1ダイ側パッド42を素材金属板50を介在させた状態でパンチ31に押し付ける。これにより、素材金属板50を第1ダイ側パッド42によって挟持する。
このようにして第1ブランクホルダ34、第2ブランクホルダ35および第1ダイ側パッド42による素材金属板50の挟持を完了させる。その際、パンチ内包パッド32がパンチ31から突き出ていることから、素材金属板50がパンチ内包パッド32に沿ってたわむように変形する。これにより、パンチ内包パッド32が位置する領域に存在する素材金属板の体積が増加し、素材金属板を余らせることができる。
引き続いて上型40を下降させることにより、同図(d)に示すように、第2ダイ側パッド43を素材金属板50を介在させた状態でパンチ内包パッド32に押し付ける。上型40をさらに下降させると、それに伴ってパンチ内包パッド32がパンチ31内に押し込まれる。やがて、同図(e)に示すように、パンチ内包パッド32がパンチ31内に収容されるとともに、第2ダイ側パッド43が素材金属板50が介在する状態でパンチ31と当接する。
上型40をさらに下降させて下死点に到達させると、パンチ31、ダイ41、第1ブランクホルダ34、第2ブランクホルダ35、第1ダイ側パッド42および第2ダイ側パッド43により、素材金属板50にウェブ部、第1縦壁部、第2縦壁部、第1フランジ部および第2フランジ部が形成される。
その際、ウェブ部のうちでパンチ内包パッド32が存在する領域に位置する部位は、パンチ内包パッドと当接しない部分が存在しうる。その場合は、当該部位は、主に、ダイ41の凹部へパンチ31を押し込むのに伴い、第1ダイ側パッド42と第2ブランクホルダ35との間の素材金属板50がパンチの先端面31aおよび第2外側面31cに沿って張り出されることによって成形される。また、第2ダイ側パッド43やダイの第2外側面41bの押し付けによっても成形される。
このような加工フロー例を採用できる本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、第1ブランクホルダ34、第2ブランクホルダ35および第1ダイ側パッド42による素材金属板50の挟持の完了時に、パンチ内包パッド32によって素材金属板を余らせる。これにより、パンチ内包パッド32が存在する領域の近傍で減肉を低減することができる。このため、素材金属板として高強度の金属板を用いた場合であっても、前述のX領域で割れが発生するのを低減できる。これに伴い、第2縦壁部のうちでX領域の外側に位置する領域も減肉を低減できる。
また、本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、第1ダイ側パッド42が、少なくとも、パンチの先端面31aと第1外側面31bとの境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の外側で素材金属板50を介してパンチ31と当接する。また、第1ダイ側パッド42は、後述するように、パンチの先端面31aと第1外側面31bとの境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位と当接してもよい。このような第1ダイ側パッド42による素材金属板50のパンチ31への押し付けにより、前述のY領域でしわが発生するのを低減できる。加えて、第1ブランクホルダ34および第2ブランクホルダ35を用いて素材金属板50に絞り加工を施しつつ成形するので、前述の特許文献1および2に記載されるようなブランクホルダを用いないプレス成形と比べ、素材金属板50の幅方向に発生する張力が増加する。これによっても、Y領域でしわが発生するのを低減できる。
第2ブランクホルダ35を用いることにより、W領域でしわが発生するのを低減することもできる。
Z領域の割れは、前述の通り、素材金属板の形状を好適化すれば低減できる。具体的には、得られるプレス成形品において、第1フランジ部の内側に余肉部が形成されるようにすればよい。これにより、プレス成形の過程で、素材金属板のうちで長手方向の後側に位置する部位がZ領域およびその周辺に向かって流入し易くなり、上記割れを低減できる。この余肉部は、プレス成形後にトリミングにより除去すれば、所望の形状のプレス成形品を得ることができる。
このように本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、得られるプレス成形品で減肉を低減できるとともにしわの発生を低減できることから、得られるプレス成形品で板厚の変化を低減できる。
本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、素材金属板として高強度の金属板を用いない場合にも適用できる。この場合、プレス成形品のウェブ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の曲率半径を小さくしても、板厚の変化を低減できるとともに、割れおよびしわが低減されたプレス成形品を得ることができる。このようなプレス成形品を、ウェブ部と第2縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の曲率半径も小さくしても、得ることができる。また、上述のプレス成形品を、第1縦壁部および第2縦壁部を深くしても、得ることができる。したがって、本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、プレス成形品の形状設計の自由度を向上できる。
本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、第2ダイ側パッド43を用いることなく、素材金属板の成形過程でダイ41によってパンチ内包パッド32をパンチ31に押し込む実施形態を採用することができる。この実施形態でも、素材金属板50の挟持の完了時に、パンチ内包パッド32によって素材金属板を余らせることにより、パンチ内包パッド32が存在する領域およびその近傍で減肉を低減することができる。このため、素材金属板として高強度の金属板を用いた場合であっても、前述のX領域で割れの危険性を低減できる。これに伴い、第2縦壁部のうちでX領域の外側に位置する領域も減肉を低減できる。
この実施形態では、パンチ内包パッド32は、ダイ41の凹部の底面(パンチの先端面と対向する面)との接触によって押し込まれる。この場合、パンチ内包パッド32が押し込まれるタイミングが遅く、パンチ内包パッド32が当接する領域およびその近傍で素材金属板に減肉が生じる場合があり、板厚の変化の増加が懸念される。
このため、本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、前記図5に示すように、プレス成形装置が、ダイ41に隣接してプレス方向にスライド可能であり、かつ、パンチ内包パッド32が素材金属板50と当接する領域のうちの少なくとも一部で素材金属板50と当接する第2ダイ側パッド43とを備え、第2ダイ側パッド43による素材金属板への押付力が、パンチ内包パッド32による素材金属板への押付力と同等以上であり、成形過程で、第2ダイ側パッド43によってパンチ内包パッド32がパンチに押し込まれるのが好ましい。
ここで、第2ダイ側パッド43による素材金属板50への押付力が、パンチ内包パッド32による素材金属板への押付力と同等以上であるとは、例えば、第2ダイ側パッド用加圧機構45の復元力を、パンチ内包パッド用加圧機構33の復元力より強くすればよい。これにより、ダイ41の凹部にパンチ31を押し込む際、先ず第2ダイ側パッド43と素材金属板を介して当接するパンチ内包パッド32がパンチ31に押し込まれ、その後、第2ダイ側パッド43が素材金属板を介してパンチ31やパンチ内包パッド32と当接する状態となる。すなわち、パンチ内包パッド32が、パンチ31から突き出ることなく、パンチ31に収容された状態となる。
また、第2ダイ側パッド用加圧機構45の復元力を、パンチ内包パッド用加圧機構33の復元力と同等にすればよい。この場合でも、ダイ41の凹部にパンチ31を押し込む際、パンチ内包パッド32が素材金属板50によって押圧されることにより、パンチ内包パッド32がパンチ31に押し込まれる方向の力を受ける。このため、第2ダイ側パッド43が素材金属板を介してパンチ内包パッド32と当接すると、先ずパンチ内包パッド32がパンチ31に押し込まれ、その後、パンチ31やパンチ内包パッド32と当接する状態となる。すなわち、パンチ内包パッド32が、パンチ31から突き出ることなく、パンチ31に収容された状態となる。
このように動作する第2ダイ側パッド43を用いれば、パンチ内包パッド32を押し込むタイミングを調整することができ、パンチ内包パッド32が当接する領域およびその近傍における素材金属板の減肉をより低減でき、板厚の変化をより低減できる。
本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、パンチ内包パッド32の断面形状に特に制限はなく、例えば直線状とすることができ、また、前記図5(b)に示すように、凸形状とすることができる。凸形状とする場合、凸形状の頂部32aの位置に拘わらずパンチ内包パッド32が存在する領域の近傍で減肉を低減する効果を奏するが、割れの発生する領域で素材金属板をより余らせて割れの発生を効果的に低減する観点から、先端面と第2外側面との境界部に近い方の側端32bとパンチ内包パッドの中央32cとの間に頂部32aが位置する凸形状とするのが好ましい。
本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、第1ブランクホルダと第2ブランクホルダとが分離した構成を採用することもできる。また、第1ブランクホルダと第2ブランクホルダとが長手方向の一端または両端で繋がり、一体化されている構成を採用することもできる。
本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、第2ブランクホルダ35とダイ41との間隔を、少なくとも、素材金属板に成形される第2縦壁部と第2フランジ部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位10oの外側10pで、素材金属板50の板厚より大きい状態で維持する機構を備えることが好ましい(前記図6(b)参照)。これにより、素材金属板のうちで上記間隔が板厚より大きい状態で第2ブランクホルダ35と当接する部位が、ダイ41の凹部内に流入するのを促進できる。その結果、得られるプレス成形品のX領域で減肉を低減できる。また、第2縦壁部のうちでX領域の外側に位置する領域でも減肉を低減できる。
当該機構は、第2ブランクホルダ35とダイ41との間隔を、一部で、素材金属板50の板厚より大きい状態で維持する場合、例えば、第2ブランクホルダ35やダイ41の素材金属板50と当接する面に段差を設けることにより実現できる。また、例えば、第2ブランクホルダとダイとの間にディスタンスブロックと呼ばれる金型の機構を配置することにより実現できる。また、例えば、第2ブランクホルダ35やダイ41の素材金属板50と当接する面に段差を設けることと、第2ブランクホルダとダイとの間にディスタンスブロックと呼ばれる金型の機構を配置することとの組み合わせによっても実現できる。
素材金属板50の板厚より大きい状態で維持する機構を備える場合、第2ブランクホルダ35とダイ41との間隔が過大であると、前述のW領域にしわが形成されるおそれがある。このため、第2ブランクホルダ35とダイ41との間隔は、W領域にしわが形成されない程度に適宜設定すればよい。第2ブランクホルダ35とダイ41との間隔d(mm)は、例えば、下記(2)式を満足するように設定することができる。
tb×1.01≦d≦tb×1.50 ・・・(2)
ただし、tbは素材金属板の板厚(mm)とする。
前述のように第1フランジ部の内側に余肉部を形成することによってZ領域の割れを低減する場合、第2ブランクホルダ35とダイ41との間隔を、素材金属板に成形される第2縦壁部と第2フランジ部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位10oから後側の部位の外側で、素材金属板50の板厚より大きい状態で維持する機構を備えることがより好ましい。加えて、第1ブランクホルダ34とダイ41との間隔を、素材金属板に成形される第1縦壁部と第1フランジ部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位を含めて、その部位から後側の部位の内側で、素材金属板50の板厚より大きい状態で維持する機構を備えることがより好ましい。
これにより、前述の通り、得られるプレス成形品のX領域で減肉を低減でき、また、第2縦壁部のうちでX領域の外側に位置する領域でも減肉を低減できる。加えて、第1フランジ部の内側に余肉部を形成することによって素材金属板のうちで長手方向の後側に位置する部位がZ領域およびその周辺に向かって流入するのをより促進でき、Z領域の割れを低減する効果が向上する。
パンチ内包パッド32は、前述の通り、パンチの先端面31aと第2外側面31cとの境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の内側で素材金属板と当接する。このようなパンチ内包パッド32を素材金属板と当接させる領域は、著しく減肉して割れを引き起こすX領域の形状や大きさに基づいて適宜設定すればよい。X領域は、FEM解析や従来のプレス成形方法によって得られるプレス成形品の板厚減少率を測定することにより調査すればよい。具体的には、前記図6に示すように、下死点時にパンチ内包パッドが位置する領域10lを扇状にすることができ、すなわち、素材金属板の挟持の完了時にパンチ内包パッドを素材金属板に当接させる領域を扇状にすることができる。
第2ダイ側パッド43を用いる場合、第2ダイ側パッド43によりパンチ内包パッド32の押し込みを実現するため、第2ダイ側パッド43が、パンチ内包パッド32が素材金属板50と当接する領域のうちの少なくとも一部で素材金属板50と当接する。この場合、パンチ内包パッド32が素材金属板と当接する領域を含むように、第2ダイ側パッド43が、素材金属板を介してパンチ31およびパンチ内包パッド32と当接するのが好ましい。これにより、パンチ内包パッド32が素材金属板50と当接する領域の周辺の素材金属板を第2ダイ側パッド43とパンチ31とで挟持することができる。このため、第2ダイ側パッド43によりパンチ内包パッド32の押し込みのみならず、素材金属板の位置ずれや割れの発生をより低減できる。
第2ダイ側パッド43が当接する領域は、具体的には、前記図6に示すように、パンチ内包パッド32が素材金属板と当接する領域を、素材金属板に成形されるウェブ部10aと第2縦壁部10cとの境界部に沿って長手方向の前後に延長したような領域とすることができる。換言すると、パンチ内包パッド32が素材金属板と当接する領域を、パンチの先端面31aと第2外側面31cとの境界部に沿って長手方向の前後に延長したような領域とすることができる。
この第2ダイ側パッド43が当接する領域は、素材金属板に成形されるウェブ部10aと第2縦壁部10cとの境界部の一部を含んでもよい。また、素材金属板に成形されるウェブ部の前側および後側のいずれか一方または両方に伸びてもよい。
第1ダイ側パッド42は、前述の通り、少なくとも、パンチの先端面31aと第1外側面31bとの境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の外側で素材金属板50を介してパンチ31と当接する。このような第1ダイ側パッド42を当接させる領域は、従来のブランクホルダとともにパッドを用いるプレス成形方法でパッドを当接させる領域と同様に適宜設定することができる。例えば、得られるプレス成形品でしわが形成される部位や、プレス成形の過程で素材金属板に位置ずれが起こる部位に基づいて適宜設定すればよい。これらの部位は、FEM解析や従来のプレス成形方法によって得られるプレス成形品を測定することにより調査すればよい。
Z領域の割れは、前述の通り、第1フランジ部の内側に余肉部を形成することによって低減できる。この場合、第1フランジ部の内側に余肉部を形成することにより、素材金属板のうちで長手方向の後側に位置する部位をZ領域およびその周辺に向かって流入するのを促進する。この流入が阻害されるのを防止するため、素材金属板のうちで湾曲より長手方向の後側に位置する部位に第1ダイ側パッドを当接させる場合、その押し付け圧力を適宜設定するのが好ましい。押し付け圧力は、第1フランジ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の近傍等に割れが発生しない程度に適宜設定すればよい。
第1ダイ側パッドが当接する領域は、具体的には、前記図6(b)に示すように、素材金属板に成形されるウェブ部10aと第1縦壁部10bとの境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位に沿う一定の幅の領域と、ウェブ部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位より前方の領域とに当接させることができる。換言すると、パンチの先端面31aと第1外側面31bとの境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位に沿う一定の幅の領域と、先端面のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位より前方の領域とに当接させることができる。この第1ダイ側パッドは、必要に応じて分割して配置してもよい。
この第1ダイ側パッドが当接する領域は、素材金属板に成形されるウェブ部10aと第1縦壁部10bとの境界部の一部または全部を含んでもよい。また、素材金属板に成形されるウェブ部10aと第2縦壁部10cとの境界部の一部または全部を含んでもよい。
素材金属板の挟持の完了時にパンチ内包パッド32をパンチ31から突き出させる量a(単位:mm、図5(a)参照)は、X領域における板厚減少率に応じて適宜設定すればよい。パンチ内包パッド32の突き出し量aは、例えば、3〜50mmとすることができる。
このように突き出るパンチ内包パッド32を第2ダイ側パッド43によって押し込むが、押込みの開始および終了のタイミングは、X領域における板厚減少率に応じて適宜設定することができる。本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、押し込みの開始は素材金属板の挟持完了位置から0〜50%の位置とするのが好ましく、押し込みの終了は素材金属板の挟持完了位置から10〜60%の位置とするのが好ましい。これにより、X領域における減肉をより低減できるとともに、パンチ内包パッドが当接する領域の外周における素材金属板の減肉をより低減できる。
ここで、金型として、例えば、上型が上死点から下死点に移動することによりプレス成形する金型を用いる場合、挟持完了位置とは上型が第1ブランクホルダ、第2ブランクホルダおよび第1ダイ側パッドによる素材金属板の挟持が完了した時の上型の位置を意味し、加工終了位置とは下死点での上型の位置を意味する。また、挟持完了位置から10%の位置とは、挟持完了位置から上型までの距離(mm)が挟持完了位置から下死点までの距離(mm)に対して10%となる位置を意味する。
本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は、素材金属板を挟持する手順に限定はない。前記図5に示す加工フローのように、第1ブランクホルダおよび第2ブランクホルダによって挟持した後で第1ダイ側パッドによって挟持してもよく、第1ダイ側パッドによって挟持した後で第1ブランクホルダおよび第2ブランクホルダによって挟持してもよい。
なお、前記図5に示す本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法による加工フロー例では、金型として、上型をダイ、第1ダイ側パッドおよび第2ダイ側パッドで構成するとともに下型をパンチ、パンチ内包パッド、第1ブランクホルダおよび第2ブランクホルダで構成した金型を用いる。上述の金型を用いる実施形態に、本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法は限定されない。すなわち、金型として、上型をパンチ、パンチ内包パッド、第1ブランクホルダおよび第2ブランクホルダで構成するとともに下型をダイ、第1ダイ側パッドおよび第2ダイ側パッドで構成した金型を用いる実施形態を採用できる。
本発明の効果を検証するため、本発明のプレス成形装置およびプレス成形方法によって素材金属板にウェブ部、第1縦壁部、第2縦壁部、第1フランジ部および第2フランジ部を成形し、得られたプレス成形品の板厚減少率、割れおよびしわを評価する試験を行った。
本試験では、FEM解析を行い、そのFEM解析では、前記図3に示す形状のプレス成形品を前記図5を用いて説明した加工フローによってプレス成形した。その際、素材金属板は、板厚が1.6mm、引張強さ980MPa級デュアルフェーズ高強度鋼板とした。また、得られるプレス成形品において、幅が約15mmの第1フランジ部の内側に幅が最大で97mm程度の余肉部が形成されるように素材金属板の形状を設定した。
プレス成形品のウェブ部と第1縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の曲率半径は、80mmとした。また、プレス成形品のウェブ部と第2縦壁部との境界部のうちで長手方向に弧状に湾曲する部位の曲率半径は、36mmとした。第1縦壁部の深さd1は44mmとし、第2縦壁部の深さd2は51mmとした。
素材金属板の挟持の完了時にパンチ内包パッド32をパンチ31から突き出させる量aは、10mmとした。また、パンチ内包パッド32の押付力は約75kNとし、第2ダイ側パッドの押付力は約100kNとした。パンチ内包パッドの押し込みの開始は、素材金属板の挟持完了位置から0%の位置とし、押し込みの終了は、素材金属板の挟持完了位置から25%の位置とした。
素材金属板の板厚より大きい状態で維持する機構として、第1ブランクホルダの一部に0.1mmの段差を設け、第1ブランクホルダとダイとの間隔を素材金属板の板厚より大きい状態で維持した。また、第2ブランクホルダの一部に0.1mmの段差を設け、第2ブランクホルダとダイとの間隔を素材金属板の板厚より大きい状態で維持した。
図7は、実施例でブランクホルダによる挟持後の成形時に素材金属板の板厚より大きい状態で維持された領域を模式的に示す上面図である。同図には、成形されたプレス成形品10を示す。同図では、第1ブランクホルダによって素材金属板の板厚より大きい状態で維持された領域10q、すなわち、第1ブランクホルダの段差部と当接する領域に斜線が施されている。併せて、第2ブランクホルダによって素材金属板の板厚より大きい状態で維持された領域10r、すなわち、第2ブランクホルダの段差部と当接する領域に斜線が施されている。
第1ブランクホルダによって素材金属板の板厚より大きい状態で維持された領域10qは、同図に示すように、第1縦壁部と第1フランジ部との境界部のうちの長手方向に弧状に湾曲する部位10sの内側と、その弧状に湾曲する部位10sの後側全部の内側と、その弧状に湾曲する部位10sの前側近傍の内側とした。また、第2ブランクホルダによって素材金属板の板厚より大きい状態で維持された領域10rは、同図に示すように、第2縦壁部と第2フランジ部との境界部のうちの長手方向に弧状に湾曲する部位10oの外側と、その弧状に湾曲する部位10oの後側近傍の外側と、その弧状に湾曲する部位10oの前側近傍の外側とした。
図8は、本発明によって成形されたL字状に湾曲する形状のプレス成形品の板厚減少率を示す上面図である。同図では、濃淡によって素材金属板の板厚基準の板厚減少率を示すとともに、プレス成形前の素材金属板の形状50を実線で示す。また、同図の板厚減少率rtb(%)は、素材金属板の板厚tb(mm)を基準として前記(1)式により算出した。図中の数値は、板厚減少率(%)を表わす。
同図より、ウェブ部のX領域で減肉が低減されて割れが抑制されるとともに、Y領域でしわが抑制された。また、Z領域で割れが抑制された。さらに、W領域でしわが抑制された。その結果、長手方向に弧状に湾曲する部位およびその近傍において、素材金属板の板厚基準の板厚減少率が−4〜14%となり、板厚の変化が低減できた。