JP6191102B2 - 正浸透膜複合体 - Google Patents

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Description

本発明は、ゼオライトを含有する正浸透膜と、該正浸透膜を用いた造水方法、含水有機物の濃縮方法、および発電方法に関するものである。
世界的な水需要の増加に伴い、海水などの塩水の淡水化技術や排水の再生技術の必要性は増加している。近年、海水淡水化などのプラントでは、逆浸透膜を用いる分離方法が主流になっている。しかしながら、逆浸透膜を用いた淡水化では、水を透過させるために非常に高い圧力をかける必要があるためエネルギー消費量が大きくなるという課題や、海水を淡水化する際に通常の塩分濃度の2倍程度の濃縮海水を排出するため、付近の海水濃度が上昇し、生態系に悪影響を与える恐れがあるといった課題がある。
そのため、海水や排水の浸透圧をそのまま水分離に利用する、正浸透分離方法が注目されている(特許文献1)。正浸透分離方法は、エネルギー消費量が少ない、膜がファウリングしにくい、プロセスが単純である、といった利点があるため、技術的に期待され、正浸透圧分離による海水の淡水化、有機物等の濃縮の他、正浸透圧エネルギーを駆動力として発電を行う正浸透圧発電プロセスの提案もなされている(特許文献2)。
現在、正浸透分離に使用されている膜は、酢酸セルロースやポリイミドなど高分子の薄膜である(非特許文献1)。
正浸透分離に使用される膜は、膜が受ける種々のプロセス条件に耐えうることが要求されるが、従来の高分子正浸透膜は、酸や有機溶媒への耐久性や耐熱性、ファウリング除去の洗浄に使用される次亜塩素酸などの薬剤への耐久性、膜強度に課題があり、適用範囲が制限されていた。
これに対して、無機材料であるゼオライトを少量、ポリマーに含有させた正浸透膜が提案されており、非特許文献2には、酸素12員環構造のゼオライトを0.02〜0.4質量%添加したゼオライト−ポリアミド正浸透膜の性能評価が報告されている。これには、0.02〜0.4質量%までの場合、酸素12員環構造のゼオライトの含有量を増やすほど、塩の透過量も増加するため、最適な含有量は0.1質量%程度と記載されている。このような極めて少量のゼオライト含有量では、上記に示した酸や有機溶媒への耐久性や耐熱性、ファウリング除去の洗浄に使用される次亜塩素酸などの薬剤への耐久性、膜強度などについての改善は期待できない。また、特許文献3には親水性ポリマーとゼオライトを用いたハイブリッド有機/無機膜よりなる正浸透膜の記載がなされているが、具体的にこのハイブリッド有機/無機膜を使用した例はなく、ゼオライトの構造や含有量についての記載もない。
特表2011−525147号公報 特許第4166464号公報 特表2012−512740号公報
Environmental Science & Technology vol.44 No.10 (2010) Journal of Membrane Science 405-406(2012)149-157
従来、ゼオライトを少量、ポリマーに含有させた正浸透膜は知られているが、ゼオライトの構造や含有量についての十分な検討がなされていないために、酸や有機溶媒への耐久性や耐熱性、ファウリング除去の洗浄に使用される次亜塩素酸などの薬剤への耐久性、膜強度に優れ、更に正浸透膜としての膜性能にも優れた正浸透膜は提供されていない。
本発明の目的は、酸や有機溶媒に対し十分な耐久性をもち、耐熱性に優れ、ファウリング除去の洗浄に使用される次亜塩素酸などの薬剤への耐久性も高く、また、十分な膜強度をもち、膜が受ける種々のプロセス条件に耐えうる上に、正浸透膜としての膜性能にも優れるゼオライトを用いた正浸透膜を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、0.4質量%を超えるゼオライトを含有する膜、或いは、酸素10員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含有する膜が、耐酸性、耐有機溶媒性、耐熱性、耐薬品性に優れ、十分な膜強度をもち、正浸透膜としての機能性にも優れることを見出した。
即ち、本発明の要旨は、下記の〔1〕〜〔9〕に存する。
〔1〕 90質量%以上の、SiO /Al モル比が5以上のゼオライトを含有し、厚さが100μm以下である正浸透膜を無機多孔質支持層上に有する、正浸透膜複合体
〔2〕 前記ゼオライトが、酸素10員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含有することを特徴とする〔1〕に記載の正浸透膜複合体。
〔3〕 前記ゼオライトが、酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含むことを特徴とする〔1〕または〔2〕に記載の正浸透膜複合体
〔4〕 前記ゼオライトのうち少なくとも一種類のゼオライトがCHA型ゼオライトであることを特徴とする〔1〕ないし〔3〕のいずれかに記載の正浸透膜複合体
〔5〕 前記ゼオライトのSiO/Alモル比が10000以下であることを特徴とする〔1〕ないし〔4〕のいずれかに記載の正浸透膜複合体
〔6〕 前記ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å )が17以下であることを特徴とする〔1〕ないし〔5〕のいずれかに記載の正浸透膜複合体。
〔7〕 浸透圧の異なる2種類の水溶液(以下、この2種類の水溶液のうち、浸透圧の低い方の水溶液を「低浸透圧水溶液」と称し、浸透圧の高い方の水溶液を「高浸透圧水溶液」と称す。)を〔1〕ないし〔〕のいずれかに記載の正浸透膜複合体を介して接触させ、低浸透圧水溶液から高浸透圧水溶液に水を浸透させた後、該高浸透圧水溶液から水を回収することを特徴とする造水方法。
〔8〕 含水有機物と、該含水有機物より浸透圧の高い水溶液を、〔1〕ないし〔〕のいずれかに記載の正浸透膜複合体を介して接触させ、該含水有機物から該浸透圧の高い水溶液に水を浸透させることにより、該含水有機物を濃縮することを特徴とする含水有機物の濃縮方法。
〔9〕 浸透圧の異なる2種類の溶液(以下、この2種類の溶液のうち、浸透圧の低い方の溶液を「低浸透圧溶液」と称し、浸透圧の高い方の溶液を「高浸透圧溶液」と称す。)を、〔1〕ないし〔〕のいずれかに記載の正浸透膜複合体を介して接触させ、低浸透圧溶液から高浸透圧溶液に溶媒を浸透させ、その際の正浸透圧エネルギーを用いて発電機を駆動させることを特徴とする発電方法。
本発明によれば、酸や有機溶媒に対し十分な耐久性をもち、耐熱性に優れ、ファウリング除去の洗浄に使用される次亜塩素酸などの薬剤への耐久性も高く、また、十分な膜強度をもち、膜が受ける種々のプロセス条件に耐えうる上に、正浸透膜としての膜性能にも優れる正浸透膜が提供される。
本発明の正浸透膜を用いることにより、浸透圧の低い水溶液からの造水、含水有機物の濃縮、正浸透圧エネルギーを用いた発電を効率的に行うことが可能となる。
実施例において、正浸透膜の性能評価に用いた装置を示す模式図である。
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明の正浸透膜は、0.4質量%を超えるゼオライトを含有するものである。
また、本発明の別の態様の正浸透膜は、酸素10員環以下のゼオライトを含有するものである。
正浸透膜とは、浸透圧の異なる2つの溶液を、この膜の両側に接触させたときに、浸透圧の低い側から浸透圧の高い側に膜を透過させて溶媒を移動させる機能を有する膜のことであり、半透膜の一種である。
本発明でいう正浸透膜とは、半透膜として機能し、実質的に選択分離性を有する活性、即ち分離活性層に相当する。本発明における正浸透膜は、この分離活性層に相当する部分のみで構成されるものであってもよく、必要に応じて分離活性層と支持層との複合体を形成していてもよい。支持層との複合体を形成することで、正浸透膜の機械的強度を向上させることができる。なお、本明細書において、「正浸透膜」とは「分離活性層」をさし、分離活性層と支持層との複合体を形成しているものを「正浸透膜複合体」と呼称することがある。
[支持層]
本発明において、正浸透膜は支持層と複合体を形成していてもかまわない。正浸透膜は通常、その厚さが薄いほど膜を透過する溶媒の透過量が多くなる傾向にある。支持層と複合体を形成することで、正浸透膜を薄くしても実用上必要な機械的強度を維持することができるため、高い透過量を実現する上で有利である。
支持層は機械的強度を与えることが目的であるので、選択分離性については不活性であってよい。
支持層は高分子によって構成されていても、無機材料によって構成されていてもよい。
支持層が高分子で構成される場合、支持層はその表面に正浸透膜(分離活性層)を形成しうるような、化学的安定性があり、支持層中の溶媒の拡散を妨げない多孔質構造のものであればどのようなものであってもよい。具体的な材質としては、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルサルホンなどが挙げられる。また、具体的な形状としては、メッシュ状、スポンジ状、多孔質不織布状などが挙げられる。
支持層が無機材料で構成される場合、その表面に正浸透膜(分離活性層)を形成しうるような、化学的安定性があり、支持層中の溶媒の拡散を妨げない多孔質構造のものであればどのようなものであってもよい。無機材料よりなる支持層としては、例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体(セラミックス支持体)、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成形体などが挙げられる。
これら多孔質支持層の中でも、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したものを含む無機多孔質支持層(セラミックス支持体)は、大部分がゼオライトで構成される正浸透膜の場合に、支持層の一部が正浸透膜作成中にゼオライト化することで界面の密着性を高める効果があるために特に好ましい。特に、正浸透膜が実質的に全てゼオライトで構成されている場合には、ゼオライト膜作成中に支持層の一部がゼオライト化することで界面の密着性を高める効果があるので、支持層としては、セラミックスを焼結したものを含む無機多孔質支持層(セラミックス支持体)が望ましい。
具体的には、例えば、シリカ、α−アルミナ、γ−アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体(セラミックス支持体)が挙げられる。その中でもアルミナ、シリカ、ムライトのうちの少なくとも1種を含む無機多孔質支持層は、多孔質支持層の部分的なゼオライト化が容易であるため、支持層と正浸透膜を構成するゼオライトの結合が強固になり、緻密で阻止率の高い膜が形成されやすくなるのでより好ましい。
無機多孔質支持層の形状は、液体の混合物を有効に分離できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、円筒状等の管状のもの、円柱状や角柱状の孔がであって多数存在するハニカム状のものやモノリス(三次元ネットワーク構造)などが挙げられる。
無機多孔質支持層の表面が有する平均細孔径は特に制限されないが、細孔径が制御されているものが好ましく、支持層表面の平均細孔径は通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。支持層の平均細孔径が小さすぎると支持層中の溶媒の拡散抵抗が大きくなり、透過量が小さくなる傾向がある。平均細孔径が大きすぎると支持層自体の強度が不十分になることがあり、また、支持層表面の細孔の割合が増えて緻密な正浸透膜が形成されにくくなることがある。
無機多孔質支持層の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。支持層の気孔率は、液体を分離する際の透過量を左右し、上記下限未満では透過液の拡散を阻害する傾向があり、上記上限を超えると支持層の強度が低下する傾向がある。
無機多孔質支持層の平均厚さ(肉厚)は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。支持層はゼオライトを含有する正浸透膜に機械的強度を与える目的で使用されるが、支持層の平均厚さが薄すぎると、正浸透膜複合体が十分な強度を持たず、正浸透膜複合体が衝撃や振動等に対して弱くなる傾向がある。支持層の平均厚さが厚すぎると、透過液の拡散が悪くなり透過量が低くなる傾向がある。
なお、本発明の正浸透膜が後述のゼオライト膜である場合、支持層を支持体と称す場合がある。
支持層を有する正浸透膜複合体の形状は特に限定されず、管状、中空糸状、モノリス型、ハニカム型などあらゆる形状を採用できる。また大きさも特に限定されず、例えば、管状の場合は、通常長さ2cm以上200cm以下、内径0.05cm以上2cm以下、厚さ(正浸透膜と支持層との合計の厚さ)0.5mm以上4mm以下が実用的で好ましい。
[正浸透膜]
<ゼオライト含有量>
本発明において、0.4質量%を超えるゼオライトを含有する正浸透膜とは、半透膜として機能し、実質的に選択分離性を有する活性な薄膜(分離活性層)部分に対し、0.4質量%を超えるゼオライトを含有する膜のことをいう。
0.4質量%を超えるゼオライトを含有する正浸透膜中のゼオライトの含有量は、この分離活性層部分に対し、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上、最も好ましくは20質量%以上である。
また、本発明において、酸素10員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含有する正浸透膜のゼオライトの含有量は、分離活性層部分に対し、通常0.1質量%より大きく、好ましくは0.4質量%より大きく、より好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、特に好ましくは15質量%以上、最も好ましくは20質量%以上である。
上記いずれの正浸透膜においても、ゼオライトの含有量の上限は特に限定されず、正浸透膜が実質的に全てゼオライトで構成されていてもよい。実質的に全てゼオライトで構成されている正浸透膜(以下、実質的にゼオライトのみで構成される正浸透膜を「ゼオライト膜」と称す場合がある。)とは、選択分離性を有する活性な薄膜(分離活性層)がゼオライト膜であることを意味する。ゼオライト膜は、通常、前述の多孔質支持層上に膜状に固着されている。該ゼオライト膜は、支持層を有する(支持体層に固着される)ことによって機械的な強度が増し、取り扱いが容易になり、種々の装置設計が可能であるほか、全て無機材料で構成されるため、耐熱性、耐薬品性に優れる。
ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機化合物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などが挙げられ、本発明の正浸透膜は必要に応じてこれらのゼオライト以外のその他の成分を含んでいてもよい。また、本発明の正浸透膜は、一部アモルファス成分などが含有されていてもよいが、好ましくは実質的にゼオライトのみで構成されるゼオライト膜である。また、ゼオライト膜のX線回折のパターンを後述のように測定した際に、ゼオライトと支持層に由来するピーク以外のピークが観測されないことが望ましく、特にアモルファス成分に由来するハローピークが観測されないことが望ましい。実質的にゼオライトのみで構成される本発明の正浸透膜であるゼオライト膜中のゼオライトの含有率は、通常90質量%以上、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上で、通常100質量%以下である。
なお、正浸透膜中のゼオライトの含有量を決定する方法は、質量を測定ないし推定できる方法であればよく、特に限定されないが、例えば熱重量分析(TG)によって、分離活性層部分の高分子質量および含有されるゼオライトの質量を決定する方法、膜作製時の仕込み質量から決定する方法、分離活性層部分のみを剥離あるいは採取して、組成分析を行って質量を推定する方法などが挙げられる。
<厚さ>
本発明の正浸透膜の厚さは特に限定されないが、通常0.001μm以上、好ましくは0.005μm以上、より好ましくは0.01μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下である。正浸透膜の膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下する傾向がある。
このような膜厚のゼオライト膜を支持層に形成して正浸透膜複合体とする場合、支持層のゼオライト膜形成面の面積当たりのゼオライト量としては通常0.01g/m以上、好ましくは0.05g/m以上、より好ましくは0.1g/m以上、さらに好ましくは0.5g/m以上で、通常1000g/m以下、好ましくは600g/m以下、より好ましくは200g/m以下となる。
<ゼオライトの粒子径>
正浸透膜が含有するゼオライトの粒子径は特に限定されないが、一般にゼオライトは粒子径が小さくなると結晶性が低下するために、耐酸性、耐水性などが低下する傾向にあり、これらのゼオライトを含有する正浸透膜の耐酸性、耐水性なども低下する傾向がある。それ故、正浸透膜中のゼオライトの粒子径は通常1nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、特に好ましくは50nm以上である。また、ゼオライトの粒子径の上限は正浸透膜の膜厚以下である。さらに、正浸透膜が実質的に全てゼオライトで構成されるゼオライト膜である場合には、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合がより好ましい。ゼオライトの粒子径がゼオライト膜の厚さと同じであると、ゼオライトの粒界が最も小さくなり、阻止率が高くなる。後に述べる水熱合成で得られたゼオライト膜は、ゼオライトの粒子径と膜の厚さが同じになる場合があるので特に好ましい。
<ゼオライト>
本発明において、正浸透膜に含有されるゼオライトとしては、アルミノ珪酸塩であるものが好ましく、そのSiO/Alモル比は、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは12以上である。また上限は、通常10000以下、好ましくは8000以下、より好ましくは5000以下、さらに好ましくは2000以下である。
SiO/Alモル比が上記下限未満では耐久性が低下する傾向があり、上記上限を超過すると疎水性が強すぎるため、透過量が小さくなる傾向がある。SiO/Alモル比は、後に述べる水熱合成の反応条件により調整することができる。
なお、SiO/Alモル比は、例えば、実質的に全てゼオライトで構成されている正浸透膜および正浸透膜複合体の場合には、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)により得られた数値である。この場合、膜厚数ミクロンの膜のみの情報を得るために通常はX線の加速電圧を10kVとして測定が行われる。
0.4質量%を超えるゼオライトを含有する本発明の正浸透膜に含有される主たるゼオライトは特に制限されないが、好ましくは酸素6〜10員環構造を有するもの、より好ましくは酸素6〜8員環構造を有するものが望ましい。
酸素10員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含有する正浸透膜においても同様に、好ましくは酸素6〜10員環構造を有するもの、より好ましくは酸素6〜8員環構造を有するものが望ましい。
ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素元素とT元素(骨格を構成する酸素元素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素元素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
酸素6〜10員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AEL、AFG、ANA、BRE、CAS、CDO、CHA、DAC、DDR、DOH、EAB、EPI、ESV、EUO、FAR、FRA、FER、GIS、GIU、GOO、HEU、IMF、ITE、ITH、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MFI、MFS、MON、MSO、MTF、MTN、MTT、MWW、NAT、NES、NON、PAU、PHI、RHO、RRO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、STF、STI、STT、TER、TOL、TON、TSC、TUN、UFI、VNI、VSV、WEI、YUGなどが挙げられる。
酸素6〜8員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、ANA、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、STI、TOL、UFIなどが挙げられる。
酸素n員環構造はゼオライトの細孔のサイズを決定するものであり、6員環よりも小さいゼオライトではHO分子のKinetic直径よりも細孔径が小さくなるため正浸透膜の水透過量が小さくなり実用的でない場合がある。また、酸素10員環構造よりも大きい場合は細孔径が大きくなり、サイズの小さな塩や有機化合物を分離する際に阻止率が低下することがあるため、用途が限定的になる場合がある。
ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)は特に制限されないが、通常17以下、好ましくは16以下、より好ましくは15.5以下、特に好ましくは15以下であり、通常10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上である。
フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Åあたりの、骨格を構成する酸素元素以外の元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。なおフレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係は、ATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Fifth Revised Edition 2001 ELSEVIERに示されている。
本発明において、好ましいゼオライトの構造は、AEI、AFG、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、STI、TOL、UFIであり、より好ましい構造は、AEI、CHA、ERI、KFI、LEV、PAU、RHO、RTH、UFIであり、さらに好ましい構造は、CHA、LEVであり、最も好ましい構造はCHAである。
ここで、CHA型のゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものを示す。これは、天然に産出するチャバサイトと同等の結晶構造を有するゼオライトである。CHA型ゼオライトは3.8×3.8Åの径を有する酸素8員環からなる3次元細孔を有することを特徴とする構造をとり、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。
CHA型ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)は14.5である。また、SiO/Alモル比は上記と同様である。
本発明において、実質的に全てゼオライトで構成されているゼオライト膜と支持層からなる正浸透膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折のパターンにおいて、2θ=17.9°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の0.5倍以上の大きさであることが好ましい。即ち、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比A」ということがある。)が0.5以上であることが好ましい。ピーク強度比Aは、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.5以上である。ピーク強度比Aの上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
また、実質的に全てゼオライトで構成されているゼオライト膜と支持層からなる正浸透膜複合体は、ゼオライト膜がCHA型ゼオライトを含む場合、X線回折のパターンにおいて、2θ=9.6°付近のピークの強度が2θ=20.8°付近のピークの強度の2倍以上の大きさであることが好ましい。即ち、(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比B」ということがある。)が2以上であることが好ましい。このピーク強度比Bは、好ましくは2.5以上、より好ましくは3以上、より好ましくは4以上、さらに好ましくは6以上、特に好ましくは8以上、最も好ましくは10以上である。ピーク強度比Bの上限は特に限定されないが、通常1000以下である。
ここで、ピークの強度とは、測定値からバックグラウンドの値を引いたものをさす。
また、X線回折パターンとは、ゼオライトが主として付着している側の表面にCuKαを線源とするX線を照射して、走査軸をθ/2θとして得るものである。測定するサンプルの形状としては、正浸透膜複合体のゼオライト膜側の表面にX線が照射できるような形状であればどのようなものであってもよく、正浸透膜複合体の特徴をよく表すものとして、作製した正浸透膜複合体そのままのもの、あるいは正浸透膜複合体を装置によって制約される適切な大きさに切断したものが好ましい。
X線回折パターンは、正浸透膜複合体の表面が曲面である場合には自動可変スリットを用いて照射幅を固定して測定してもかまわない。自動可変スリットを用いた場合のX線回折パターンとは、可変→固定スリット補正を実施したパターンを指す。
ここで、2θ=17.9°付近のピークとは、支持層に由来しないピークのうち17.9°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
2θ=20.8°付近のピークとは、支持層に由来しないピークのうち20.8°±0.6°の範囲に存在するピークで最大のものを指す。
2θ=9.6°付近のピークとは、支持層に由来しないピークのうち9.6°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
X線回折パターンで2θ=9.6°付近のピーク、2θ=17.9°付近のピーク、2θ=20.8°付近のピーク、は、COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITE Third Revised Edition 1996 ELSEVIER(以下これを、「非特許文献3」ということがある。)によれば、rhombohedral settingで空間群を
Figure 0006191102
(No.166)とした時に、CHA構造において、それぞれ、指数が(1,0,0)の面に由来するピーク、(1,1,1)の面に由来するピーク、(2,0,−1)の面に由来するピーク、である。
即ち、2θ=17.9°付近のピークは(1,1,1)面に由来するピーク、2θ=20.8°付近のピークは、(2,0,−1)面に由来するピーク、2θ=9.6°付近のピークは、(1,0,0)面に由来するピークである。
CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライト膜における(1,0,0)面由来のピークの強度の(2,0,−1)面に由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比B)は、Halil Kalipcilar et al., "Synthesis and Separation Performance of SSZ-13 Zeolite Membranes on Tubular Supports", Chem. Mater. 2002, 14, 3458-3464(以下これを、「非特許文献4」ということがある。)よれば2未満である。
この比が2以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,0,0)面が正浸透膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。正浸透膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは阻止率の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
また、CHA型アルミノ珪酸塩のゼオライト膜における(1,1,1)面由来のピークの強度と(2,0,−1)面由来のピーク強度の典型的な比(ピーク強度比A)は、非特許文献4によれば0.5未満である。
この比が0.5以上であるということは、例えば、CHA構造をrhombohedral settingとした場合の(1,1,1)面が正浸透膜複合体の表面と平行に近い向きになるようにゼオライト結晶が配向して成長していることを意味すると考えられる。正浸透膜複合体においてゼオライト結晶が配向して成長することは阻止率の高い緻密な膜が出来るという点で有利である。
このように、ピーク強度比A、Bのいずれかが、上記した特定の範囲の値であるということは、ゼオライト膜のゼオライト結晶が配向して成長し、阻止率の高い緻密な膜が形成されていることを示すものである。
ピーク強度比A、Bはその値が大きいほどゼオライトの配向の程度が強いことを示し、一般的にゼオライトの配向の程度が強いほど緻密な膜が形成されていることを示す。一般的には、ゼオライトの配向が強いほど阻止率が高い傾向があるが、分離対象の混合物によっては分離性能が高くなる最適な配向の程度は異なるので、分離対象の混合物によって適宜、ゼオライトの配向の程度が最適な、即ち、ピーク強度比A、Bの値が適当な正浸透膜膜複合体を選択して使用することが望ましい。
<空気透過量>
本発明の正浸透膜または正浸透膜複合体の空気透過量は、通常1400L/(m・h)以下、好ましくは1000L/(m・h)以下、より好ましくは700L/(m・h)以下、より好ましくは600L/(m・h)以下、さらに好ましくは500L/(m・h)以下、特に好ましくは300L/(m・h)以下、最も好ましくは200L/(m・h)以下である。空気透過量の下限は特に限定されないが、通常0L/(m・h)以上、好ましくは0.01L/(m・h)以上、より好ましくは0.1L/(m・h)以上、より好ましくは1L/(m・h)以上である。
ここで、空気透過量とは、後に詳述するとおり、正浸透膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m・h)]であり、この空気透過量が大き過ぎると正浸透膜に欠陥が多く含まれることとなり、阻止率が小さくなる傾向があり、好ましくない。
<分離に供される分子>
本発明の正浸透膜の分離機能の一つは、分子ふるいとしての分離であり、用いるゼオライトの有効細孔径以上の大きさを有する分子とそれ以下の分子とを好適に分離することができる。なお、分離に供される分子の大きさに上限はないが、正浸透膜の分離対象となる分子の大きさは、通常100Å程度以下である。
[正浸透膜複合体の製造方法]
本発明において、正浸透膜および正浸透膜複合体の製造方法は特に限定されないが、正浸透膜が実質的に全てゼオライトで構成される無機多孔質支持層−ゼオライト膜複合体(以下、「ゼオライト膜複合体」と呼ぶことがある。)の場合には、例えば、水熱合成用の反応混合物(以下、これを「水性反応混合物」ということがある。)中に無機多孔質支持層となる多孔質支持体を入れて(浸漬して)直接水熱合成することで、多孔質支持体上にゼオライトを膜状に固着させ、好ましくは結晶化させることにより、正浸透膜複合体を製造する方法が好ましい。
具体的には、例えば、ゼオライト膜複合体は、組成を調整して均一化した水性反応混合物を、内部に多孔質支持体を入れたオートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して、一定時間加熱することにより製造することができる。
水性反応混合物は、Si元素源、Al元素源、アルカリ源、および水を含み、さらに必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を含むものである。
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、珪酸ナトリウム、無定形アルミノシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等の1種または2種以上を用いることができる。
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等の1種または2種以上を用いることができる。
なお、水性反応混合物には、Si元素源、Al元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
水性反応混合物に用いるアルカリ源は特に限定されず、後述の有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオン、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)などのアルカリ土類金属水酸化物などの1種または2種以上を用いることができる。
アルカリの種類も特に限定されず、通常、Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baなどが用いられる。これらの中で、Na、Kが好ましく、Kがより好ましい。また、アルカリは2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとKを併用するのが好ましい。
水性反応混合物は、有機テンプレート(構造規定剤)を含有していても含有していなくてもよいが、有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム元素に対するケイ素元素の割合が高くなり、耐酸性が向上することから、有機テンプレートを用いることが好ましい。
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成し得るものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
ゼオライトがCHA型の場合、有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。
具体的には、例えば、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオン、3−キナクリジナールから誘導されるカチオン、3−exo−アミノノルボルネンから誘導されるカチオン等の脂環式アミンから誘導されるカチオンが挙げられる。これらの中で、1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンがより好ましい。
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンを有機テンプレートとしたとき、緻密な膜を形成しうるCHA型ゼオライトが結晶化する。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得る上に、耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
1−アダマンタンアミンから誘導されるカチオンのうち、N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンがさらに好ましい。N,N,N−トリアルキル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンの3つのアルキル基は、同一でも異なっていてもよく、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムカチオンである。
このようなカチオンは、CHA型ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられる。
また、その他の有機テンプレートとしては、N,N,N−トリアルキルベンジルアンモニウムカチオンも用いることができる。この場合も3つのアルキル基は、同一でも異なっていてもよく、好ましくは低級アルキル基、より好ましくはメチル基である。それらの中で、最も好ましい化合物は、N,N,N−トリメチルベンジルアンモニウムカチオンである。
また、このカチオンが伴うアニオンは上記と同様である。
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO/Alモル比として表す。
水性反応混合物のSiO/Al比は特に限定されないが、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上であり、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは300以下、特に好ましくは100以下である。
SiO/Al比がこの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し、更に生成したゼオライトが強い親水性を示し、有機化合物、無機化合物、イオン類を含む液体の混合物から溶媒を選択的に透過することが可能となる。また、耐酸性が強くAlが脱離しにくいゼオライト膜が得られる。
特に、SiO/Al比がこの範囲にあるとき、緻密な膜を形成しうるCHA型ゼオライトを結晶化させることができる。また、膜が水を選択的に透過するのに十分な親水性を有するCHA型ゼオライトが生成し得るほか、耐酸性に優れたCHA型ゼオライトが得られる。
水性反応混合物中のSi元素源と有機テンプレートの比は、SiOに対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiO比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下である。
水性反応混合物の有機テンプレート/SiO比がこの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成しうることに加えて、生成したゼオライトが耐酸性に優れ、Alが脱離しにくい膜が得られる。また、この条件において、特に緻密で耐酸性に優れたCHA型ゼオライトを形成させることができる。
水性反応混合物中のSi元素源とアルカリ源の比は、M(2/n)O/SiO(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)モル比で、通常0.02以上、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。
CHA型ゼオライト膜を形成する場合、アルカリ金属の中でもKを含む場合がより緻密で結晶性の高い膜を生成させるという点で好ましい。その場合のKと、Kを含むすべてのアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属とのモル比は、通常0.01以上、好ましくは0.1以上、より好ましくは0.3以上であり、通常1以下、好ましくは0.8以下である。
また、水性反応混合物中へのKの添加は、前述のピーク強度比A、Bを大きくする傾向があり、好ましい。
水性反応混合物中のSi元素源と水の比は、SiOに対する水のモル比(HO/SiOモル比)で、通常10以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは150以下である。
水性反応混合物中のHO/SiOモル比がこの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成しうる。
水の量は緻密なゼオライト膜の生成において特に重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが緻密な膜ができやすい傾向にある。
一般的に、粉末のCHA型ゼオライトを合成する際の水の量は、HO/SiOモル比で15〜50程度である。これに対して、HO/SiOモル比が高い(50を超え1000以下)、すなわち水が多い条件にすることにより、多孔質支持体上にCHA型ゼオライトが緻密な膜状に結晶化した分離性能の高いゼオライト膜複合体を得ることができる。
さらに、ゼオライト膜複合体を製造する場合は、水熱合成に際し、多孔質支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。多孔質支持体上に予め種結晶を付着させておくことで、支持体上でのゼオライトの結晶化を促進でき、緻密で分離性能の高いゼオライト膜が生成しやすくなる。
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには形成するゼオライト膜と同じ結晶型であることが好ましい。従ってCHA型ゼオライト膜を形成する場合は、CHA型ゼオライトの種結晶を用いることが好ましい。
種結晶の粒子径は小さい方が望ましく、必要に応じて粉砕して用いても良い。種結晶の粒径は、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上であり、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
多孔質支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に多孔質支持体を浸漬して種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを多孔質支持体表面上に塗りこむことによって種結晶を付着させた後、乾燥する方法などを用いることができる。これらの方法のうち、種結晶の付着量を制御し、再現性良くゼオライト膜複合体を製造するには、ディップ法が望ましい。
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されないが、特に水が好ましい。分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体上に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。一方で、例えば、ディップ法によって多孔質支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
多孔質支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、多孔質支持体の膜形成面1mあたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下である。
種結晶の付着量が上記下限未満の場合には、結晶が形成されにくくなり、膜の成長が不十分になったり、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上記上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
水熱合成により多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
水熱合成によりゼオライト膜を形成させる際の反応温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、目的とするゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
水熱合成によりゼオライト膜を形成させる際の加熱時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難くなることがある。反応時間が長すぎると、目的とするゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
水熱合成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、上記の温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥させ、また、有機テンプレートを使用した場合に該有機テンプレートを焼成して除去することを意味する。
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。加熱処理の温度は、有機テンプレートの焼成除去を目的とする場合は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、さらに好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。
有機テンプレートの焼成除去を目的とする場合には、加熱処理の温度が低すぎると有機テンプレートの残留割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なくなって、そのために分離、濃縮に使用した際の透過流束が減少する可能性があり、加熱処理温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるため、ゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われて分離性能が低くなることがある。
加熱時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥され、また有機テンプレートが焼成除去される時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。加熱時間の上限は特に限定されず、通常200時間以下、好ましくは150時間以下、より好ましくは100時間以下である。
テンプレートの焼成を目的とする場合の加熱処理は空気雰囲気で行えばよいが、窒素などの不活性ガスや酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは上記の加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
有機テンプレートの焼成除去を目的とする加熱処理の際の昇温速度は、多孔質支持体とゼオライトの熱膨張率の差に起因してゼオライト膜に亀裂を生じさせることを防止するために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。昇温速度の下限は、通常、作業性を考慮して0.1℃/分以上である。
また、有機テンプレートの焼成除去を目的とする加熱処理においては、加熱処理後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要があり、降温速度も昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。降温速度の下限は、通常、作業性を考慮して0.1℃/分以上である。
合成されたゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換しても良い。イオン交換は、有機テンプレートを用いてゼオライト膜を合成した場合は、通常、有機テンプレートを除去した後に行う。イオン交換するイオンとしては、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン、Fe、Cu、Znなどの遷移金属のイオンなどが挙げられる。これらの中で、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオンが好ましい。
イオン交換は、焼成後(有機テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、NHNO、NaNOなどのアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む塩の水溶液、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。さらに、必要に応じて200〜500℃で焼成してもよい。
ゼオライト以外の成分としてシリカ、アルミナなどの無機バインダーを有する正浸透膜および正浸透膜複合体複合体の製造方法は特に制限されないが、例えば、無機バインダーとゼオライト粉末を混合した後に支持層に塗布するなどの方法によって担持させて一体化させる方法や、無機バインダーとゼオライト粉末の混合物を、ガラス基板やテフロン(登録商標)板、テフロン(登録商標)フィルムなど剥離容易な平板やフィルムの上に塗布して膜化し、固化させた後に平板やフィルムを取り除くことで無機バインダーとゼオライト粉末からなる正浸透膜を得る方法、また、前述の水性反応混合物中に多孔質支持体を浸漬して直接水熱合成することで、多孔質支持体上にゼオライトを膜状に固着、好ましくは結晶化させて得られたゼオライト膜の表面に無機バインダーを塗布する方法などが挙げられる。
ゼオライト以外の成分としてポリマーなどの有機化合物を有する正浸透膜および正浸透膜複合体複合体の製造方法は特に制限されないが、ポリマー中にゼオライト粉末を混練した後にポリマーで薄膜を作製する方法と同様の方法で薄膜化する方法、ポリマーが可溶な溶媒にポリマーを溶解させ、そこにゼオライト粉末を分散させた後に、スピンコートなど公知の方法でゼオライト粉末が分散したポリマー溶液を薄膜化する方法、前述の水性反応混合物中に多孔質支持体を浸漬して直接水熱合成することで、多孔質支持体上にゼオライトを膜状に固着、好ましくは結晶化させて得られたゼオライト膜の表面に溶媒に溶解させたポリマーを塗布する方法、ポリマー中にゼオライト粉末、必要に応じて界面活性剤などを加えて紡糸液を作成し、これを二重管ノズルなどを用いて紡糸液を吐出させ、水などを満たした凝固浴槽へ浸漬して固化することにより製造する方法などが挙げられる。
ゼオライト以外の成分としてゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを有する正浸透膜の製造方法は特に制限されないが、例えば、前述の水性反応混合物中に多孔質支持体を浸漬して直接水熱合成することで、多孔質支持体上にゼオライトを膜状に固着、好ましくは結晶化させて得られたゼオライト膜複合体をSi化合物を含む溶液に浸漬することにより、ゼオライト膜表面をSi化合物で修飾する方法が挙げられる。
このようにして製造される本発明の正浸透膜やゼオライト膜複合体等の正浸透膜複合体は、優れた分離性能をもつものであり、本発明における浸透圧の低い水溶液からの造水、含水有機物の濃縮、正浸透圧エネルギーを用いた発電手段として好適に用いることができる。
[造水方法]
本発明の造水方法は、本発明の正浸透膜あるいは正浸透膜複合体を膜分離手段として用いるものである。以下、本発明の正浸透膜あるいは正浸透膜複合体を「正浸透膜(複合体)」と称す。
本発明の造水方法においては、正浸透膜(複合体)を用い、分離活性層である正浸透膜側に浸透圧の低い低浸透圧水溶液を接触させ、その反対側に浸透圧の高い高浸透圧水溶液を接触させることで、低浸透圧水溶液から高浸透圧水溶液へ膜を介して水を浸透させ、その後に高浸透圧水溶液から水を回収することで造水する。この正浸透膜(複合体)による分離において、低浸透圧水溶液を「供給溶液」、高浸透圧水溶液を「取り出し側溶液」ということがある。
低浸透圧水溶液(供給溶液)において水に溶解されている溶質は、特に限定されないが、例えば、塩および他のイオン種(塩化物、硫酸塩、臭化物、珪酸塩、ヨウ化物、リン酸塩、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、硝酸塩、砒素、リチウム、ホウ素、ストロンチウム、モリブデン、マンガン、アルミニウム、カドミウム、クロム、コバルト、銅、鉄、鉛、ニッケル、セレン、銀、および亜鉛等)、糖類、有機溶媒、窒素化合物、リン化合物などを含むものであり、塩類を含むものが典型的である。より具体的には、海水、汽水、飲料に適さない塩水、鉱水、生活排水、工業排水などが挙げられる。
高浸透圧水溶液(取り出し側溶液)は、低浸透圧水溶液よりも相対的に高い浸透圧を持つ水溶液であればよく、その溶質は特に限定されないが、例えば炭酸アンモニウム水溶液、重炭酸アンモニウム水溶液、カルバミン酸水溶液、RO排水(逆浸透膜濃縮水)などの高濃度塩含有水、塩化カルシウム水溶液、ホウ酸ナトリウム水溶液、NaHPO水溶液などが挙げられる。取り出し側溶液の溶質濃度は、通常、供給溶液の濃度より高い。溶質濃度の高い取り出し側溶液は、供給溶液より高濃度の水溶液とするのに十分な可溶性を有する溶質を用いて調製することができる。また、造水においては、得られた水を飲用に供することがあるので、取り出し側溶液の溶質は人体に無害なものが望ましい。また、供給溶液との正浸透圧差が大きいほど水の透過量は大きくなるので、取り出し側溶液は低溶質濃度で浸透圧が高いものが望ましい。また、溶質が加熱により熱分解して気体となるような熱分解性塩溶液、溶質が晶析によって分離が容易な水溶液であるなど、取り出し側溶液は、透過した水と溶質との分離が容易な水溶液が望ましい。
供給溶液および取り出し側溶液は正浸透分離に先立って、濾過など公知技術による前処理を行うことで固体および化学廃棄物、生物的汚染物質を除去しても良い。
供給溶液である低浸透圧水溶液から取り出し側溶液である高浸透圧水溶液へ正浸透膜を介して水を透過させる際には、供給溶液、取り出し側溶液を膜に接触させるだけでもよいが、撹拌などの手段によって膜近傍の濃度分極を取り除くことが、透過量の経時的な低下を防止する点で望ましい。特に、供給溶液、取り出し側溶液のそれぞれを適切な流速で流通あるいは循環させて正浸透膜(複合体)と接触させることで、濃度分極が生じにくくなり透過量の低下を抑制して効率的な造水が可能となる。
造水を行う際の温度は特に制限されないが、通常1℃以上、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、特に好ましくは15℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下である。一般に温度が高いほうが駆動力となる浸透圧の差が大きくなるため水の透過に有利である。一方、温度が高すぎると、溶液を加熱するためのエネルギーコストが高くなるために不利である。
[含水有機物の濃縮方法]
本発明の含水有機物の濃縮方法は、本発明の正浸透膜(複合体)を膜分離手段として用いるものである。
本発明の含水有機物の濃縮方法においては、正浸透膜(複合体)を用い、分離活性層である正浸透膜側に濃縮したい含水有機物を接触させ、その反対側に含水有機物よりも浸透圧の高い水溶液を接触させることで、含水有機物から浸透圧の高い水溶液へ膜を介して水を浸透させることで含水有機物を濃縮する。この正浸透膜(複合体)による濃縮において、含水有機物を「供給溶液」、浸透圧が高い水溶液を「取り出し側溶液」ということがある。
濃縮の対象となる含水有機物としては、本発明の正浸透膜(複合体)によって、濃縮が可能な含水有機物であれば特に制限はなく、如何なる含水有機物であってもよい。
含水有機物中の有機物としては、糖類、肥料、酵素;酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などのカルボン酸類や、スルフォン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級および第2級ニトロ化合物などの有機酸類;メタノール、エタノール、イソプロパノール(2−プロパノール)などのアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物;酢酸エステル、アクリル酸エステル等のエステル類などが挙げられる。
また、含水有機物の有機物としては、水と混合物(混合溶液)を形成し得る高分子化合物でもよい。かかる高分子化合物としては、分子内に極性基を有するもの、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリオール類;ポリアミン類;ポリスルホン酸類;ポリアクリル酸などのポリカルボン酸類;ポリアクリル酸エステルなどのポリカルボン酸エステル類;グラフト重合等によってポリマー類を変性させた変性高分子化合物類;オレフィンなどの非極性モノマーとカルボキシル基等の極性基を有する極性モノマーとの共重合によって得られる共重合高分子化合物類などが挙げられる。
また、含水有機物としては、水とフェノールの混合物のように、共沸混合物を形成する混合物でもよく、共沸混合物を形成する混合物の濃縮においては、本発明の正浸透分離によれば、水を選択的にかつ蒸留による濃縮よりも効率よく除去して含水有機物を濃縮することができ、好ましい。このような濃縮に供する共沸混合物を形成する混合物としては、具体的には、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等のアルコール類と水の混合物;酢酸エチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル等のエステル類と水の混合物;ギ酸、イソ酪酸、吉草酸等のカルボン酸類と水の混合物;フェノールやアニリン等の芳香族有機化合物と水の混合物;アセトニトリル、アクリロニトリル等の窒素含有化合物と水との混合物等が挙げられる。
さらに、含水有機物としては、水とポリマーエマルジョンとの混合物でもよい。ここで、ポリマーエマルジョンとは、接着剤や塗料等で通常使用される、界面活性剤とポリマーとの混合物である。ポリマーエマルジョンに用いられるポリマーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリオレフィン、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのオレフィン−極性モノマー共重合体、ポリスチレン、ポリビニルエーテル、ポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体等の熱可塑性樹脂;尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;天然ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン−ブタジエン共重合体などのブタジエン共重合体等のゴム等が挙げられる。また界面活性剤としては、それ自体既知のものを用いればよい。
更に、含水有機物の例としては、果汁、酒類、食酢などの液体食品、液体肥料、生活排水、工業排水、揮発性有機化合物(VOC)を回収した水溶液などが挙げられる。果汁、酒類、食酢などの液体食品においては、正浸透膜(複合体)による濃縮であれば、蒸発などの手法と異なり、低温でも濃縮が可能であるため、風味を損なわずに、濃縮、減容できるという点で特に望ましい。
また、本発明の正浸透膜(複合体)は、耐酸性を有するため、水と酢酸など有機酸の混合物からの有機酸の濃縮、エステル化反応促進のための系中の水の除去などにも有効に利用できる。
取り出し側溶液は、含水有機物に対して相対的に高い浸透圧を持つ水溶液であればよく、その溶質は特に限定されないが、例えば炭酸アンモニウム水溶液、重炭酸アンモニウム水溶液、カルバミン酸水溶液、RO排水などの高濃度塩含有水、塩化カルシウム水溶液、ホウ酸ナトリウム水溶液、NaHPO水溶液などが挙げられる。取り出し側溶液の溶質濃度は、通常、供給溶液である含水有機物の有機物濃度より高い。溶質濃度の多い取り出し側溶液は、供給溶液より高濃度の水溶液とするのに十分な可溶性を有する溶質を用いて調製することができる。また、取り出し側溶液の溶質は特に限定されないが、人体に無害なものが望ましい。また、含水有機物との浸透圧差が大きいほど水の透過量は大きくなるので、取り出し側溶液は低溶質濃度で浸透圧が高いものが望ましい。また、溶質が加熱により熱分解して気体となるような熱分解性塩溶液、溶質が晶析によって分離が容易な水溶液であるなど、透過した水と溶質との分離が容易な水溶液が溶質の回収・再利用を簡便に行えるという点で望ましい。
供給溶液および取り出し側溶液は、正浸透分離に先立って、濾過など公知技術による前処理を行ってもよい。
含水有機物の濃縮においては、供給溶液、取り出し側溶液を正浸透膜(複合体)に接触させるだけでもよいが、撹拌などの手段によって膜近傍の濃度分極を取り除くことが、透過量の経時的な低下を防止する点で望ましい。特に、供給溶液、取り出し側溶液のそれぞれを適切な流速で流通あるいは循環させて正浸透膜(複合体)と接触させることで、濃度分極が生じにくくなり透過量の低下を抑制して効率的な含水有機物の濃縮が可能となる。
含水有機物の濃縮を行う際の温度は特に制限されないが、通常1℃以上、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下である。一般に温度が高いほうが駆動力となる浸透圧の差が大きくなるため濃縮に有利である。一方、温度を室温以上に高くするには一般には熱エネルギーを加える必要があるので、エネルギー的に不利である。
[発電方法]
本発明の発電方法は、本発明の正浸透膜(複合体)を、正浸透エネルギーを取り出す手段として用いるものである。
本発明の発電方法においては、浸透圧の異なる2種類の溶液をそれぞれ正浸透膜(複合体)の両側に接触させ、浸透圧の低い低浸透圧溶液から浸透圧の高い高浸透圧溶液に溶媒が浸透する際の正浸透圧エネルギーを利用して発電機を駆動させることにより発電を行う。
低浸透圧溶液は特に制限されず、高浸透圧溶液よりも相対的に浸透圧が低い溶液であればよい。具体的には、精製水、飲料可能な水、河川などの淡水、生活排水、工業排水、鉱水、汽水、海水などが挙げられる。一方、高浸透圧溶液も特に制限されず、低浸透圧溶液よりも相対的に浸透圧が高い容液であればよい。具体的には海水、RO膜を利用した淡水化によって生成される濃縮された海水、高い浸透圧を実現するために十分な可溶性を有する溶質を用いて作製した溶液などが挙げられる。
発電は、規模が大きく、連続的に行う必要があるため、必要とされる浸透圧の異なる2種類の溶液の量は多く、連続的に供給される必要がある。したがって、低浸透圧溶液としては、河川などの淡水、生活排水、工業排水、鉱水、汽水、海水が特に望ましく、高浸透圧溶液は、海水、RO膜を利用した淡水化によって生成される濃縮された海水が特に望ましい。
また、本発明の発電方法を実施する場所としては特に制限されないが、これらの2種類の溶液が同時に得られるという点で、河口付近、汽水湖、沿岸部にあるRO膜を利用した海水淡水化設備の近辺、沿岸部の工場付近、沿岸部などが好適である。
溶媒が浸透する際の正浸透圧エネルギーを駆動力とする発電機は特に制限されないが、水流発電機が好適に用いられる。
本発明の正浸透膜(複合体)を用いて発電するプロセスは特に制限されないが、一例として特許文献2に記載されるものが挙げられる。正浸透膜(複合体)に接触する浸透圧の異なる2種類の溶液はいずれもそれぞれ流通していることが望ましい。溶液が流通することで、膜近傍での濃度勾配が解消されるため、得られる正浸透圧エネルギーを一定に保つことが容易になるほか、溶液が流通することで膜に接触する容液の濃度のコントロールが容易となり、得られる正浸透圧エネルギーを一定に保つことが容易になる。また、溶液を流通させることで高浸透圧容液の膜部分からの出口側に水流発電機を置いて単純な機構で発電を行うことが可能になる。正浸透膜(複合体)を溶媒が浸透することによって、高浸透圧溶液の量が増加するため、高浸透圧溶液では、膜部分からの出口側の流速は、膜部分の入り口の流速よりも速くなる。したがって出口側に水流発電機を置くことで送液に必要なエネルギーよりも多くのエネルギーを電力として得ることが可能となる。
以下、実施例に基づいて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は、前記上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
[物性および分離性能の測定]
以下の実施例において、正浸透膜複合体の物性や分離性能等の測定は、特に明記しない限り次のとおり行った。
(1)X線回折(XRD)測定
ゼオライト膜のXRD測定を、以下の条件で行った。
・装置名:オランダPANalytical社製X’PertPro MPD
・光学系仕様 入射側:封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit (0.04rad)
Divergence Slit (Valiable Slit)
試料台:XYZステージ
受光側:半導体アレイ検出器(X’ Celerator)
Ni−filter
Soller Slit (0.04rad)
ゴニオメーター半径:240mm
・測定条件 X線出力(CuKα):45kV、40mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0−70.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.05°
計数時間:99.7sec
自動可変スリット(Automatic−DS):1mm(照射幅)
横発散マスク:10mm(照射幅)
なお、X線は円筒管の軸方向に対して垂直な方向に照射した。またX線は、できるだけノイズ等がはいらないように、試料台においた円筒管状のゼオライト膜複合体と、試料台表面と平行な面とが接する2つのラインのうち、試料台表面ではなく、試料台表面より上部にあるもう一方のライン上に主にあたるようにした。
また、照射幅を自動可変スリットによって1mmに固定して測定し、Materials Data, Inc.のXRD解析ソフトJADE 7.5.2(日本語版)を用いて可変スリット→固定スリット変換を行ってXRDパターンを得た。
(2)空気透過量
ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、密閉状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインとゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターで空気の流量を測定し、空気透過量[L/(m・h)]とした。マスフローメーターとしてはKOFLOC社製8300、Nガス用、最大流量500ml/min(20℃、1気圧換算)を用いた。KOFLOC社製8300においてマスフローメーターの表示が10ml/min(20℃、1気圧換算)以下であるときは、Lintec社製MM−2100M、Airガス用、最大流量20ml/min(0℃、1気圧換算)を用いて空気の流量を測定した。
(3)SEM測定
ゼオライト膜のSEM測定は、以下の条件で行った。
・装置名:SEM:FE−SEM Hitachi:S−4100
・加速電圧:10kV
(4)SEM−EDX測定
ゼオライト膜のSEM−EDX測定は、以下の条件で行った。
・装置名:SEM:FE−SEM Hitachi:S−4800
EDX:EDAX Genesis
・加速電圧:10kV
倍率5000倍での視野全面(25μm×18μm)を走査してX線定量分析を行った。
(5)イオン濃度測定
評価前後の供給溶液、取り出し側溶液中のイオン濃度の測定は以下の条件で行った。
試料を適切な濃度に希釈し、測定対象イオン毎に次のイオンクロマト装置を用いて測定した。
陽イオンの測定:Dionex社製 イオンクロマト分析装置 DX500i型
陰イオンの測定:Dionex社製 イオンクロマト分析装置 ICS−2100型
(6)正浸透膜の分離性能の評価
正浸透膜の分離性能の評価に用いた装置の概略図を図1に示す。
図1において、管状の正浸透膜複合体1はエンドピン2によって一端が封止され、正浸透膜複合体1の他端は十分な長さのシリコンチューブ3に接続されている。この正浸透膜複合体1を供給溶液4を入れた容器10内にエンドピン2側を下にして直立させて挿入し、正浸透膜複合体1およびシリコンチューブ3の内側に取り出し側溶液5を入れた。この状態で一定時間室温で放置し、一定時間経過後、シリコンチューブ3内の取り出し側溶液5の液面5Aの上昇量から液透過量を算出した。
さらに、一定時間経過後の正浸透膜複合体1およびシリコンチューブ3の内側の溶液と、正浸透膜複合体1の外側の溶液を回収し、それぞれの回収液中の溶質イオンの濃度をイオンクロマト装置により測定し、正浸透膜に接触させる前の供給溶液中および取り出し側溶液中の溶質のイオン濃度と、回収液中の溶質イオン濃度から溶質の阻止率を算出した。
[実施例1]
<正浸透膜複合体の作製>
以下の方法で、CHA型ゼオライトを無機多孔質支持体上に直接水熱合成することにより、実質的にCHA型ゼオライト膜のみで構成される正浸透膜が無機多孔質支持体上に形成されたCHA型ゼオライト正浸透膜複合体を作製した。
水熱合成用の水性反応混合物として、以下のものを調製した。
1mol/L−NaOH水溶液10.5gと1mol/L−KOH水溶液7.0gと水100.5gを混合したものに水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.88gを加えて撹拌し溶解させ、透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N−トリメチル−1−アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」という。)水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)2.36gを加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)10.5gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。
この水性反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.066/0.15/0.1/100/0.04、SiO/Al=15である。
無機多孔質支持体として、多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断し、超音波洗浄機で洗浄した後、乾燥させたものを用いた。
種結晶として、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/20/0.07(モル比)の水性反応混合物を160℃で、2日間水熱合成して結晶化させたCHA型ゼオライトを用いた。この種結晶の粒径は0.5μm程度であった。
この種結晶を0.3質量%水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬した後、100℃で5時間乾燥させて、種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は0.6g/mであった。
この種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、静置状態で、160℃にて48時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を水性反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。
乾燥後のゼオライト膜複合体を、電気炉で500℃にて5時間焼成した。焼成時の昇温速度は0.5℃/分、降温速度は0.5℃/分とした。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体および種結晶の合計重量の差から求めた、支持体上に結晶化したCHA型ゼオライトの重量は120g/mで、SEMにより測定したゼオライト膜の膜厚は約20μmであった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は50L/(m・h)であった。
生成したゼオライト膜のXRDを測定したところ、CHA型ゼオライトが生成していることがわかった。XRDパターンから、(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)=4.9であり、種結晶に用いた粉末のCHA型ゼオライトのXRDに比べ2θ=17.9°付近のピークの強度が顕著に大きく、rhombohedral settingにおける(1,1,1)面への配向が推測された。
また、このゼオライト膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
SEM−EDXにより測定した、ゼオライト膜のSiO/Alモル比は17であった。
得られたCHA型ゼオライト正浸透膜複合体を用いて、図1の装置で正浸透膜の分離性能の評価を行った。供給溶液としては3.5質量%のNaCl水溶液70.0gを用い、CHA型ゼオライト正浸透膜複合体の外側に接触させた。取り出し側溶液としては40質量%のMg(NO・6HO水溶液9.9gを用い、CHA型ゼオライト正浸透膜複合体およびそれに接続したシリコンチューブの内側に接触させた。供給溶液と取り出し側溶液をCHA型ゼオライト正浸透膜複合体を介して接触させてから45時間40分後にCHA型ゼオライト正浸透膜複合体を供給溶液から引上げ、透過実験を終了した。開始時から終了時までの平均した水の透過流束は0.14L/(m・h)であった。透過実験開始時の供給溶液および取り出し側溶液のイオン濃度と透過実験終了時の供給溶液および取り出し側溶液のイオン濃度をイオンクロマト装置で測定した結果、下記表1に示す通りであった。
Figure 0006191102
NaイオンおよびClイオンについて、透過実験開始時の供給溶液のイオン濃度Cと終了時の取り出し側溶液側のイオン濃度Cから下記式で算出される阻止率を計算すると、CHA型ゼオライト正浸透膜複合体のNaの阻止率は95.24%であり、Clの阻止率は97.17%であった。
阻止率=(1−C/C)×100
[実施例2]
以下の方法で、MFI型ゼオライトを無機多孔質支持体上に直接水熱合成することにより、実質的にMFI型ゼオライト膜のみで構成される正浸透膜が無機多孔質支持体上に形成されたMFI型ゼオライト正浸透膜複合体を作製した。
水熱合成用の水性反応混合物として、以下のものを調製した。
コロイダルシリカ(アルドリッチ社製 HS−40)7.2g、水114.3gと有機テンプレートとして、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TPAOH」という。)水溶液(TPAOH40質量%含有、セイケム社製)を4.2g混合し、1時間撹拌して溶解させ、透明な水性反応混合物とした。
この水性反応混合物の組成(モル比)は、SiO/HO/TPAOH=1/140/0.17である。
無機多孔質支持体として、ニッカトー社製のムライトチューブPM(外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断し、外表面を耐水性紙やすりを用いて滑らかにして、超音波洗浄機で洗浄した後、乾燥させたものを用いた。
種結晶として、SiO/HO/TPAOH=1/12/0.4の(モル比)の水性反応混合物を、160℃で48時間水熱合成して結晶化させたMFI型ゼオライトを用いた。この種結晶の粒径は0.5μm程度であった。
この種結晶を1質量%水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬した後、100℃で5時間乾燥させて、種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は4.6g/mであった。
この種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、静置状態で、175℃にて48時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を水性反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で5時間乾燥させた。
乾燥後のゼオライト膜複合体を、電気炉で450℃にて10時間焼成した。焼成時の昇温速度は0.5℃/分、降温速度は0.5℃/分とした。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と支持体および種結晶の重量の差から求めた、支持体上に結晶化したMFI型ゼオライトの重量は80g/mで、SEMにより測定したゼオライト膜の膜厚は約15μmであった。
焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は550L/(m・h)であった。
生成したゼオライト膜のXRDを測定したところ、MFI型ゼオライトが生成していることがわかった。
また、このゼオライト正浸透膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
ゼオライト膜のSiO/Alモル比をSEM−EDXにより測定しようとしたが、出発原料の水性反応混合物にAlが含まれないために、ゼオライト膜のSiO/Alモル比も非常に高くなることから、正確な値が得られなかった。ゼオライト膜のSEM−EDXでは通常、SiO/Alモル比の測定限界値が100程度と考えられるため、少なくともこのゼオライト膜のSiO/Alモル比は100以上であると推測される。
得られたMFI型ゼオライト正浸透膜複合体を用いて実施例1と同様に正浸透膜の分離性能の評価を行った。評価は実施例1と同様に45時間40分かけて行った。
MFI型ゼオライト正浸透膜複合体を透過した水の平均した透過流束は0.068L/(m・h)であった。
透過実験開始時の供給溶液および取り出し側溶液のイオン濃度と透過実験終了時の供給溶液および取り出し側溶液のイオン濃度をイオンクロマト装置で測定した結果、下記表2に示す通りであった。
Figure 0006191102
得られたMFI型ゼオライト正浸透膜複合体のNaの阻止率は93.91%であり、Clの阻止率は89.39%であった。
[実施例3]
以下の方法で、MOR型ゼオライトを無機多孔質支持体上に直接水熱合成することにより、実質的にMOR型ゼオライト膜のみで構成される正浸透膜が無機多孔質支持体上に形成されたMOR型ゼオライト正浸透膜複合体を作製した。
水熱合成用の水性反応混合物として、以下のものを調製した。
NaOH(97.0質量%、純正化学社製)6.5gと水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.23gと水113gを混合、撹拌したものに、コロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック−40)43.5gを加えて2時間撹拌し、水性反応混合物とした。
この水性反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/HO=1/0.042/0.56/26.7、SiO/Al=24である。
無機多孔質支持体として、ニッカトー社製のムライトチューブPM(外径12mm、内径9mm)を80mmの長さに切断し、超音波洗浄機で洗浄した後、乾燥させたものを用いた。
種結晶として、SiO/Al/NaOH/HO=1/0.0078/0.64/11.5(モル比)の水性反応混合物を、180℃で6時間水熱合成して結晶化させたMOR型ゼオライトを用いた。この種結晶の粒径は1μm程度であった。
この種結晶を1質量%水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬した後、100℃で5時間乾燥させて、種結晶を付着させた。付着した種結晶の質量は0.6g/mであった。
この種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入ったテフロン(登録商標)製内筒(200ml)に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、静置状態で、180℃にて10時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を水性反応混合物から取り出し、洗浄後、100℃で4時間以上乾燥させた。
乾燥後のゼオライト膜複合体の重量と支持体および種結晶の合計重量の差から求めた、支持体上に結晶化したMOR型ゼオライトの重量は180g/mであった。
乾燥後のゼオライト膜複合体の空気透過量は0L/(m・h)であった。
生成したゼオライト膜のXRDを測定したところ、MOR型ゼオライトが生成していることがわかった。
また、このMOR型ゼオライト正浸透膜複合体をSEMで観測した結果、表面に結晶が緻密に生成していた。
得られたMOR型ゼオライト正浸透膜複合体を用いて実施例1と同様に正浸透膜の分離性能の評価を行った。評価は実施例1と同様に45時間40分かけて行った。
MOR型ゼオライト正浸透膜複合体を透過した水の平均した透過流束は0.029L/(m・h)であった。
透過実験開始時の供給溶液および取り出し側溶液のイオン濃度と透過実験終了時の供給溶液および取り出し側溶液のイオン濃度をイオンクロマト装置で測定した結果、下記表3に示す通りであった。
Figure 0006191102
得られたMOR型ゼオライト正浸透膜複合体のNaの阻止率は79.73%であり、Clの阻止率は95.17%であった。
実施例1,2,3における透過流束と、NaおよびCl阻止率を下記表4にまとめて示す。
Figure 0006191102
実施例1,2,3より、本発明のゼオライト膜が浸透圧の低い溶液から浸透圧が高い溶液へ溶媒を浸透させる正浸透膜として機能することが分かる。
また、実施例1,2,3の比較から、酸素12員環、酸素10員環、酸素8員環を含む正浸透膜の順で溶質のイオンの阻止率が向上し、また、透過流束も増加することから、正浸透膜に含有されるゼオライトとしては酸素12員環よりも酸素10員環、酸素8員環のゼオライトが好適であり、酸素10員環ゼオライトよりも酸素8員環ゼオライトが好適であることが分かる。
本発明は産業上の任意の分野に使用可能であるが、例えば、海水淡水化などの造水分野、果汁、酒類などの液体状の食品の濃縮をはじめとする含水有機物の濃縮、浸透圧の異なる2液を利用した発電などの分野に特に好適に使用できる。
1 正浸透膜複合体
2 エンドピン
3 シリコンチューブ
4 供給溶液
5 取り出し側溶液

Claims (9)

  1. 90質量%以上の、SiO/Alモル比が5以上のゼオライトを含有し、厚さが100μm以下である正浸透膜を無機多孔質支持層上に有する、正浸透膜複合体。
  2. 前記ゼオライトが、酸素10員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含有することを特徴とする請求項1に記載の正浸透膜複合体。
  3. 前記ゼオライトが、酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の正浸透膜複合体。
  4. 前記ゼオライトのうち少なくとも一種類のゼオライトがCHA型ゼオライトであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の正浸透膜複合体。
  5. 前記ゼオライトのSiO/Alモル比が10000以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の正浸透膜複合体。
  6. 前記ゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)が17以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の正浸透膜複合体。
  7. 浸透圧の異なる2種類の水溶液(以下、この2種類の水溶液のうち、浸透圧の低い方の水溶液を「低浸透圧水溶液」と称し、浸透圧の高い方の水溶液を「高浸透圧水溶液」と称す。)を請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の正浸透膜複合体を介して接触させ、低浸透圧水溶液から高浸透圧水溶液に水を浸透させた後、該高浸透圧水溶液から水を回収することを特徴とする造水方法。
  8. 含水有機物と、該含水有機物より浸透圧の高い水溶液を、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の正浸透膜複合体を介して接触させ、該含水有機物から該浸透圧の高い水溶液に水を浸透させることにより、該含水有機物を濃縮することを特徴とする含水有機物の濃縮方法。
  9. 浸透圧の異なる2種類の溶液(以下、この2種類の溶液のうち、浸透圧の低い方の溶液を「低浸透圧溶液」と称し、浸透圧の高い方の溶液を「高浸透圧溶液」と称す。)を、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の正浸透膜複合体を介して接触させ、低浸透圧溶液から高浸透圧溶液に溶媒を浸透させ、その際の正浸透圧エネルギーを用いて発電機を駆動させることを特徴とする発電方法。
JP2012184306A 2012-08-23 2012-08-23 正浸透膜複合体 Active JP6191102B2 (ja)

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