ところで、エンジンブレーキが作用しない場合は減速度(負の加速度であり、減速の程度を表す。)が小さいので、運転者が減速不足を感じる場合もあり得る。つまり、アクセルオフの走行中であっても、減速に対する運転者の意思は様々であり、エンジンブレーキを一律にさようしないようにすればよいわけではない。減速に対する運転者の意思と走行状態とが合致しなれければ、運転者にアクセル又はブレーキの操作を強いることになる。
ここに開示された技術は、運転者の減速意思に応じた運転を実行することを目的とする。
ここに開示された技術は、エンジンと車輪との間の動力の伝達及び遮断を切り替える断続装置と、前記断続装置を制御する制御部とを備えた車両駆動ユニットの制御装置である。そして、前記制御部は、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が所定の第1閾値以上のときには、前記断続装置の締結によりエンジンブレーキを作用させる一方、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が該第1閾値未満のときには、前記断続装置を開放する。
そして、発電機をさらに備え、前記制御部はまた、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が前記第1閾値以上のときには、エンジンブレーキを作用させると共に前記発電機による回生制動を実行し、該回生制動による発電量を、アクセルがオフになる速度に応じて調整する。
以下、エンジンブレーキ運転を、回生制動の有無で区別するときには、回生制動を伴わないエンジンブレーキ運転を「通常エンジンブレーキ運転」と称し、回生制動を伴うエンジンブレーキ運転を「回生エンジンブレーキ運転」と称する。尚、通常エンジンブレーキ運転と回生エンジンブレーキ運転とを区別しない場合には、単に「エンジンブレーキ運転」と称する。
この構成によれば、制御部は、アクセルがオフになる速度(以下、「アクセルオフ速度」という)に基づいて運転者の減速意思を判定している。詳しくは、アクセルがオンのときに車速が上がり過ぎると、運転者は減速すべくアクセルペダルを速く戻す傾向がある。つまり、アクセルオフ速度が速いときには、運転者の減速意思が強いと判定することができる。一方、アクセルオンにより車速が所望の車速に達し且つ急に減速させる必要がない場合、即ち、加速意思がなく且つ減速意思も弱い場合には、運転者はアクセルをゆっくり戻す傾向がある。つまり、アクセルオフ速度が遅いときには、運転者の減速意思が弱いと判定することができる。そこで、制御部は、アクセルオフ速度が所定の第1閾値以上のときには、減速意思が強いとして、断続装置の締結によりエンジンブレーキを作用させて、エンジンブレーキ運転を行う。これにより、運転者の減速意思に則して、減速度を高めることができる。一方、制御部は、アクセルオフ速度が第1閾値未満のときには、減速意思が弱いとして、断続装置を開放し、開放運転を実行する。開放運転は、エンジンブレーキが作用しないので、エンジンブレーキ運転に比べて減速度が小さい。これにより、運転者の減速意思に則して、減速度を弱めることができる。
また、前記の構成によれば、アクセルオフ速度が速くてエンジンブレーキを作用させるときには、発電機による回生制動が実行される。これにより、減速度をさらに高めることができると共に、エネルギを回収して燃料消費を低減することができる。
また、前記の構成によれば、回生制動による発電量を、アクセルがオフになる速度に応じて調整する。発電量を調整することによって回生制動による減速度が調整される。つまり、アクセルオフ速度、即ち、減速意思に応じて回生制動による減速度が調整されるので、運転者の減速意思により則した運転を実行することができる。
さらに、エンジンブレーキの作用と共に回生制動を実行するのは、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上のときであってもよい。
この構成によれば、開放運転、通常エンジンブレーキ運転、回生エンジンブレーキ運転がアクセルオフ速度の大きさ、即ち、運転者の減速意思に応じて使い分けられる。具体的には、アクセルオフ速度が第1閾値未満のときには開放運転が実行され、アクセルオフ速度が第1閾値以上で第2閾値未満のときには通常エンジンブレーキ運転が実行され、アクセルオフ速度が第2閾値以上のときには回生エンジンブレーキ運転が実行される。このように、アクセルオフ速度が速くなるに従って、即ち、運転者の減速意思が大きくなるに従って、減速度が大きい運転が実行される。
ここに開示された別の技術は、エンジンと車輪との間の動力の伝達及び遮断を切り替える断続装置と、前記断続装置を制御する制御部とを備えた車両駆動ユニットの制御装置である。そして、前記制御部は、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が所定の第1閾値以上のときには、前記断続装置の締結によりエンジンブレーキを作用させる一方、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が該第1閾値未満のときには、前記断続装置を開放する。
前記制御部はまた、アクセルがオフになった後のブレーキ及びアクセルの操作に応じて前記第1閾値を補正する。
この構成によれば、制御部は、アクセルオフ速度に基づいて運転者の減速意思を判定している。制御部は、アクセルオフ速度が所定の第1閾値以上のときには、減速意思が強いとして、断続装置の締結によりエンジンブレーキを作用させて、エンジンブレーキ運転を行う。これにより、運転者の減速意思に則して、減速度を高めることができる。一方、制御部は、アクセルオフ速度が第1閾値未満のときには、減速意思が弱いとして、断続装置を開放し、開放運転を実行する。開放運転は、エンジンブレーキが作用しないので、エンジンブレーキ運転に比べて減速度が小さい。これにより、運転者の減速意思に則して、減速度を弱めることができる。
また、前記の構成によれば、アクセルがオフになった後のブレーキ及びアクセルの操作に応じて第1閾値が補正される。アクセルがオフになった後、開放運転又はエンジンブレーキ運転が実行される。その際、選択された運転の減速度が運転者の減速意思とずれていた場合には、運転者はブレーキ又はアクセルを操作することになる。つまり、アクセルがオフになった後に運転者がブレーキ又はアクセルを操作することは、選択された運転の減速の程度が運転者の減速意思とずれていることを意味する。そこで、制御部は、アクセルがオフになった後にブレーキ又はアクセルの操作があったときには、開放運転とエンジンブレーキ運転との閾値である第1閾値をその操作に応じて補正する。これにより、次回からは、運転者の減速意思により則した運転を実行することができる。
さらに、車両駆動ユニットの制御装置は、発電機をさらに備え、前記制御部は、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が前記第1閾値以上のときには、エンジンブレーキを作用させると共に前記発電機による回生制動を実行するようにしてもよい。
この構成によれば、アクセルオフ速度が速くてエンジンブレーキを作用させるときには、発電機による回生制動が実行される。これにより、減速度をさらに高めることができると共に、エネルギを回収して燃料消費を低減することができる。
さらに、エンジンブレーキの作用と共に回生制動を実行するのは、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上のときであってもよい。
この構成によれば、開放運転、通常エンジンブレーキ運転、回生エンジンブレーキ運転がアクセルオフ速度の大きさ、即ち、運転者の減速意思に応じて使い分けられる。これにより、前述の如く、アクセルオフ速度が速くなるに従って、即ち、運転者の減速意思が大きくなるに従って、減速度が大きい運転が実行される。
ここに開示された別の技術は、エンジンと車輪との間の動力の伝達及び遮断を切り替える断続装置と、前記断続装置を制御する制御部とを備えた車両駆動ユニットの制御装置である。そして、前記制御部は、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が所定の第1閾値以上のときには、前記断続装置の締結によりエンジンブレーキを作用させる一方、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が該第1閾値未満のときには、前記断続装置を開放する。
そして、発電機をさらに備え、前記制御部は、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上のときには、エンジンブレーキを作用させると共に前記発電機による回生制動を実行する。
前記制御部はまた、アクセルがオフになった後のブレーキ及びアクセルの操作に応じて前記第1閾値及び第2閾値を補正する。
この構成によれば、制御部は、アクセルオフ速度に基づいて運転者の減速意思を判定している。制御部は、アクセルオフ速度が所定の第1閾値以上のときには、減速意思が強いとして、断続装置の締結によりエンジンブレーキを作用させて、エンジンブレーキ運転を行う。これにより、運転者の減速意思に則して、減速度を高めることができる。一方、制御部は、アクセルオフ速度が第1閾値未満のときには、減速意思が弱いとして、断続装置を開放し、開放運転を実行する。開放運転は、エンジンブレーキが作用しないので、エンジンブレーキ運転に比べて減速度が小さい。これにより、運転者の減速意思に則して、減速度を弱めることができる。
また、前記の構成によれば、アクセルオフ速度が速くてエンジンブレーキを作用させるときには、発電機による回生制動が実行される。これにより、減速度をさらに高めることができると共に、エネルギを回収して燃料消費を低減することができる。
また、エンジンブレーキの作用と共に回生制動を実行するのは、アクセルがオフになり且つアクセルがオフになる速度が前記第1閾値よりも大きい第2閾値以上のときであるから、開放運転、通常エンジンブレーキ運転、回生エンジンブレーキ運転がアクセルオフ速度の大きさ、即ち、運転者の減速意思に応じて使い分けられる。これにより、前述の如く、アクセルオフ速度が速くなるに従って、即ち、運転者の減速意思が大きくなるに従って、減速度が大きい運転が実行される。
また、前記の構成によれば、制御部は、アクセルがオフになった後にブレーキ又はアクセルの操作があったときにはその操作に応じて、開放運転と通常エンジンブレーキ運転との閾値である第1閾値及び、通常エンジンブレーキ運転と回生エンジンブレーキ運転との閾値である第2閾値を補正する。これにより、次回からは、運転者の減速意思により則した運転を実行することができる。
前記の構成によれば、運転者の減速意思に応じた運転を実行することができる。
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に、車両駆動ユニットの制御装置のブロック図を示す。
車両駆動ユニットの制御装置は、パワートレインPTと制御部100とを備えている。
パワートレインPTは、複数の気筒を有する4サイクル火花点火式エンジン(以下、「エンジン」という)11と、左右の車輪(駆動輪)12,12と、変速を行う変速装置13と、変速装置13からの出力を左右の車輪12,12に分配する差動装置14と、エンジン11と変速装置13との間に介設されたトルクコンバータ15と、スタータと発電機とを兼用しているベルト駆動スタータジェネレータ(以下、「BISG」という)16とを有している。変速装置13及びトルクコンバータ15は、断続装置の一例である。BISG16は、発電機の一例である。
変速装置13は、多段自動変速機である。変速装置13は、詳細な図示は省略するが、複数の遊星歯車機構と、遊星歯車機構に含まれる各回転要素の回転を選択的に規制する摩擦締結要素としての複数のクラッチ要素及びブレーキ要素とを有している。変速装置13は、複数のクラッチ要素及びブレーキ要素の中から選択された要素を締結することによって、各変速段を実現するように構成されている。図1では、複数のクラッチ要素をクラッチ要素13aとして模式的に図示している。
トルクコンバータ15は、ポンプ、タービン及びステータを有し、エンジン11の動力(トルク)を作動油を介して変速装置13に伝達する。トルクコンバータ15は、エンジン11の出力軸とタービンとを直結するロックアップクラッチ15aを有している。
制御部100は、VCM17、PCM18及びTCM19を有している。VCM17、PCM18及びTCM19は、それぞれ、プロセッサ、ROM、RAM、I/Oインターフェース回路及びデータバスを有している。
VCM17は、主に車両全体を制御している。VCM17には、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ21、車速を検出する車速センサ22、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ23、ブレーキ操作の有無を検出するブレーキスイッチ24、運転者がブレーキペダル31に足を載せたことを検出するブレーキタッチセンサ25、運転者がアクセルペダル32に足を載せたことを検出するアクセルタッチセンサ26、運転者がシフトノブ33に触ったことを検出するシフトノブタッチセンサ27及び運転者がECO運転モードを選択するためのECOスイッチ28からの信号が入力される。ブレーキタッチセンサ25は、例えば、赤外線センサであって、ブレーキペダル31上の物体の有無を検知する。同様に、アクセルタッチセンサ26は、アクセルペダル32上の物体の有無を、シフトノブタッチセンサ27は、シフトノブ33上の物体の有無を検知する。ECOスイッチ28は、例えば、インストゥルメントパネル上に配置され、ECO運転の実行/解除を切り替えるスイッチである。ECO運転は、通常運転よりも燃費性能を自動的に向上させた運転である。
また、VCM17は、PCM18及びTCM19と信号の授受可能に接続されている。例えば、VCM17は、エンジン11を作動させるオン指令、エンジン11を停止させるオフ指令、エンジン11に対する要求トルクに関するトルク指令をPCM18に送信する。また、VCM17は、変速装置13に対する要求ギヤ段に関する指令及び変速装置13及びトルクコンバータ15に対するクラッチの締結/開放に関する指令を変速装置13及びトルクコンバータ15に送信する。
PCM18は、主にエンジン11及びBISG16を制御している。例えば、PCM18は、VCM17からの信号を受けて、燃料噴射に関する指令や点火に関する指令をエンジン11へ、発電指令又は力行指令をBISG16へ送信する。
TCM19は、主に変速装置13及びトルクコンバータ15を制御している。例えば、TCM19は、VCM17からの信号を受けて、クラッチ要素及びブレーキ要素の作動指令を変速装置13へ、ロックアップクラッチ15aの作動指令をトルクコンバータ15へ送信する。
VCM17は、ECOスイッチ28が運転者により選択されている場合には、通常運転よりも燃費性能を向上させた運転であるECO運転を実行する。例えば、ECO運転においては、VCM17は、通常運転に比べて、動力性能が劣るとしても燃費性能が向上するタイミングで変速段が切り替わるように、TCM19へ指令を出力する。つまり、ECO運転では、動力性能よりも燃費性能が優先される。
このように構成された車両駆動ユニットの制御装置は、アクセルがオフのときに、エンジンブレーキを作用させない開放運転と、エンジンブレーキを作用させるエンジンブレーキ運転とを切り替えている。図2,3に、アクセルオフ時の運転制御のフローチャートを示す。
まず、制御部100は、ステップS1において、各種センサの検出信号を読み込む。具体的には、制御部100は、アクセル開度センサ21からのアクセル開度Acc、車速センサ22からの車速V、エンジン回転数センサ23からのエンジン回転数Ne及びブレーキスイッチ24からのブレーキスイッチのオン/オフ状態を読み込む。
次に、ステップS2において、制御部100は、車両が走行中であり且つアクセルがオンからオフになったか否かを判定する。例えば、制御部100は、車速Vが所定速度以上且つエンジン回転数Neが所定回転数以上である場合に、走行中であると判定する。制御部100は、アクセル開度Accが零になったときに、アクセルがオンからオフになったと判定する。制御部100は、車両が走行中であり且つアクセルがオンからオフになった場合にはステップS3へ進む一方、車両が走行中ではなく又はアクセルがオンからオフになっていない場合(例えば、アクセルがオンの場合や、アクセルが単にオフの場合)にはステップS5へ進む。
ステップS3において、制御部100は、ブレーキがオフか否かを判定する。例えば、制御部100は、ブレーキスイッチ24がオフの場合にブレーキがオフであると判定する。制御部100は、ブレーキがオフの場合にはステップS7へ進む一方、ブレーキがオフでない場合にはステップS4へ進む。
ブレーキがオフでない場合、即ち、ブレーキがオンの場合には、制御部100は、ステップS4においてエンジン11の燃料供給及び点火を停止し、ステップS1へ戻り、ステップS1,S2の処理を再び実行する。つまり、ブレーキがオンの場合には、エンジンブレーキ運転や開放運転を行うことなく、単に燃料供給及び点火を停止する。ここで、再度のステップS2においては、前回のステップS2以降にアクセルがオンになっていない限りアクセルがオンからオフになったと判定されることはないので、NOと判定され、制御部100は、ステップS5へ進む。
ステップS5では、制御部100は、燃料供給及び点火停止中であり且つアクセルがオンになったか、又は燃料供給及び点火停止中であり且つエンジン回転数が所定の復帰回転数以下になったかを判定する。燃料供給及び点火停止中にアクセルがオンになったか又は燃料供給及び点火停止中にエンジン回転数が所定の復帰回転数以下になった場合には、制御部100は、ステップS6において燃料供給及び点火を再開し、ステップS1へ戻る。一方、ステップS5の何れの条件も満たさない場合には、制御部100は、ステップS1へ戻る。
例えば、運転者がアクセルをオンにして運転している場合には、制御部100は、ステップS2からステップS5へ進み、燃料供給及び点火停止中ではないのでNOと判定され、ステップS1へ戻る。こうして、ステップS1,S2,S5の処理が繰り返される。アクセルがオンからオフになると、制御部100は、ステップS2からステップS3へ進む。アクセルをオンからオフにした後にブレーキが踏まれた場合には、制御部100は、ステップS3からステップS4へ進み、燃料供給及び点火停止を実行して、ステップS1へ戻る。その後のステップS2では、アクセルオフの状態が継続している限りNOと判定され、制御部100は、ステップS5へ進む。そして、アクセルが再びオンとなり、そのアクセルがオンからオフになるまで、ステップS1,S2,S5の処理が繰り返される。
走行中にアクセルがオンからオフになり且つブレーキがオフの場合には、制御部100は、ステップS1〜S3を経て、ステップS7に進む。ステップS7において、制御部100は、アクセルがオフになる速度であるアクセルオフ速度Vaccが所定の第1速度V1未満か否かを判定する。第1速度V1は、第1閾値の一例である。
ここで、アクセルオフ速度Vaccについて、図4を参照しながら説明する。図4は、アクセル開度とエンジン出力との関係を示すグラフである。
エンジン11は、エンジンブレーキとして機能するように、各要素を作動させるために動力を要するので、アクセル開度を零から増加させても直ちにトルクを出力するわけではない。エンジン11は、アクセル開度が所定の最小開度まで上昇して初めて、トルクを出力するようになる。エンジン出力が零となるアクセル開度である最小開度は、エンジン11の暖機状態及びエンジン回転数に依存する。つまり、エンジン11の暖機状態とエンジン回転数が決まれば、最小開度が決まる。本実施形態では、アクセル開度が、最小開度となってから零になるまでのアクセル開度の減少率をアクセルオフ速度Vaccとしている。つまり、アクセルオフ開度Vaccは、(最小開度)/(エンジン開度が最小開度となってから零となるまでの時間)である。
制御部100は、ステップS7及び後述するステップS14において、アクセルオフ速度Vaccに基づいて、開放運転、通常エンジンブレーキ運転及び回生エンジンブレーキ運転のいずれを実行するかを判定している。図5に、アクセルオフ速度に応じた運転マップを示す。図5では、回生エンジンブレーキ運転における回生量も図示している。
アクセルオフ速度Vaccが第1速度V1未満の場合には、制御部100は、運転者の減速意思が弱いと判断して、ステップS8,S9においてエンジンブレーキが作用しない開放運転を実行する。具体的には、制御部100は、ステップS8において、変速装置13のクラッチ要素13aを開放し且つトルクコンバータ15のロックアップクラッチ15aを開放し(即ち、締結を解除する)、ステップS9において、エンジン11の燃料供給及び点火を停止する。つまり、エンジン11と車輪12,12との間のトルク伝達が遮断された状態で燃料供給及び点火が停止されるので、エンジン11はエンジンブレーキとして作用しない。
こうして、アクセルオフ速度Vaccが第1速度V1未満の場合には、減速意思が非常に弱いとして、減速度の小さい開放運転が実行される。開放運転では、運転者の弱い減速意思に応じた小さな減速度で走行できると共に、走行距離当たりの燃料消費を抑制して燃費を向上させることができる。
一方、アクセルオフ速度Vaccが第1速度V1以上の場合には、制御部100は、運転者の減速意思が強いと判断して、ステップS12,S13においてエンジンブレーキが作用するエンジンブレーキ運転を実行する。具体的には、制御部100は、ステップS12において、変速装置13のクラッチ要素13aの締結及びトルクコンバータ15のロックアップクラッチ15aの締結を維持し、ステップS13において、エンジン11の燃料供給及び点火を停止する。ここで、「変速装置13のクラッチ要素13aの締結」とは、変速装置13の複数のクラッチ要素の全てを締結することを意味するのではなく、複数のクラッチ要素及びブレーキ要素のうち、エンジン11と車輪12,12との間でのトルク伝達をそのときの運転状況に応じた適切な変速段で実現するために必要な要素を締結することを意味する。つまり、運転状況に応じて、2つのクラッチ要素を締結する場合もあれば、1つのクラッチ要素及び1つのブレーキ要素を締結する場合もある。
つまり、エンジン11と車輪12,12との間のトルク伝達が維持された状態で燃料供給及び点火が停止されるので、エンジン11は、車輪12,12にとって抵抗として作用し、エンジンブレーキとして機能する。そのため、車輪12,12には大きな減速度が付与される。
続いて、制御部100は、ステップS14において、エンジンブレーキ運転を回生制動を伴わない通常エンジンブレーキ運転とするか、回生制動を伴う回生エンジンブレーキ運転とするかを判定する。具体的には、制御部100は、アクセルオフ速度Vaccが所定の第2速度V2未満か否かを判定する。第2速度V2は、第1速度V1よりも大きい。第2速度V2は、第2閾値の一例である。
アクセルオフ速度Vaccが第2速度V2未満の場合には、制御部100は、BISG16による回生制動を行うことなく、ステップS15へ進む。つまり、通常エンジンブレーキ運転が実行されることになる。
一方、アクセルオフ速度Vaccが第2速度V2以上の場合には、制御部100は、ステップS18において、BISG16を発電機として機能させ、回生制動を行う。つまり、回生エンジンブレーキ運転が実行される。回生エンジンブレーキ運転では、エンジン11の抵抗に加えて、BISG16の駆動力がエンジンブレーキとして作用するため、通常エンジンブレーキ運転よりも大きな減速度が付与される。
このとき、制御部100は、アクセルオフ速度Vaccが大きくなるほど、発電量が大きくなるようにBISG16を制御している。具体的には、図5に示すように、発電量は、アクセルオフ速度Vaccに比例して(厳密には、(Vacc―V2)に比例して)大きくなるように調整される。
制御部100は、こうして回生運転、通常エンジンブレーキ運転及び回生エンジンブレーキ運転を切り替える一方で、その切り替えに用いる第1速度V1及び第2速度V2を各運転中における運転者のアクセル及びブレーキ操作に基づいて補正している。
詳しくは、開放運転では、制御部100は、ステップS10において、アクセルがオフになってから所定時間内にブレーキが操作されたか(即ち、ブレーキがオンになるか)否かを判定する。ブレーキが操作された場合には、制御部100は、ステップS11において、第1速度V1を所定量だけ小さく補正する。つまり、ブレーキ操作は減速が不足していることを意味する。第1速度V1を小さく補正することによって、次回からは、開放運転よりも減速度が大きい通常エンジンブレーキ運転が実行され易くなる。
通常エンジンブレーキ運転では、制御部100は、ステップS15において、アクセルがオフになってから所定時間内にアクセル又はブレーキが操作されたか否かを判定する。アクセルが操作された(即ち、アクセルがオンになった)場合には、制御部100は、ステップS16において、第1速度V1を所定量だけ大きく補正する。つまり、アクセル操作は減速が過剰であることを意味する。第1速度V1を大きく補正することによって、次回からは、通常エンジンブレーキ運転よりも減速度が小さい開放運転が実行され易くなる。一方、ブレーキが操作された場合には、制御部100は、ステップS17において、第2速度V2を所定量だけ小さく補正する。つまり、ブレーキ操作は減速が不足していることを意味する。第2速度V2を小さく補正することによって、次回からは、通常エンジンブレーキ運転よりも減速度が大きい回生エンジンブレーキ運転が実行され易くなる。
回生エンジンブレーキ運転では、制御部100は、ステップS19において、アクセルがオフになってから所定時間内にアクセル又はブレーキが操作されたか否かを判定する。アクセルが操作された場合には、制御部100は、ステップS20において、第2速度V2を所定量だけ大きく補正する。つまり、アクセル操作は減速が過剰であることを意味する。第2速度V2を大きく補正することによって、次回からは、回生エンジンブレーキ運転よりも減速度が小さい通常エンジンブレーキ運転が実行され易くなる。一方、ブレーキが操作された場合には、制御部100は、ステップS21において、第2速度V2を所定量だけ小さく補正する。つまり、ブレーキ操作は減速が不足していることを意味する。第2速度V2を小さく補正することによって、図5におけるアクセルオフ速度Vaccと回生量との関係を示す直線が破線で示すように低速側へ平行移動する。例えば、図5に示すように、アクセルオフ速度VaccがVaである場合、第2速度V2が低速側へ補正された結果、回生量が増加することになる。これにより、減速度が増加する。
こうして、アクセルがオフになった後の運転者の操作に基づいて第1速度V1及び第2速度V2を補正することによって、減速度を運転者の減速意思により則したものにすることができる。
尚、通常エンジンブレーキ運転及び回生エンジンブレーキ運転においては、エンジン回転数が所定の下限回転数未満になると、ステップS22において、制御部100は、変速装置13のクラッチ要素13aを開放し且つトルクコンバータ15のロックアップクラッチ15aを開放する。つまり、エンジンブレーキ運転においては、エンジンブレーキが作用した状態でエンジン11が停止に向かうが、エンジン11が停止するまでエンジン11と車輪12,12とが連結されていると、車両の快適性、即ち、NVH(Noise, Vibration and Harshness)が悪化する。そこで、エンジン回転数が所定の下限回転数未満となったときにクラッチ要素13a及びロックアップクラッチ15aを開放することによって、エンジン11をスムーズに停止させることができる。
また、開放運転、通常エンジンブレーキ運転及び回生エンジンブレーキ運転の何れの運転においても、燃料供給及び点火を停止した後にアクセルがオンになると、燃料供給及び点火が再開される。
以上のように、車両駆動ユニットの制御装置は、エンジン11と車輪との間の動力の伝達及び遮断を切り替える変速装置13及びトルクコンバータ15と、変速装置13及びトルクコンバータ15を制御する制御部100とを備え、制御部100は、アクセルがオフになり且つアクセルオフ速度Vaccが所定の第1速度V1以上のときには、変速装置13及びトルクコンバータ15の締結によりエンジンブレーキを作用させる一方、アクセルがオフになり且つアクセルオフ速度Vaccが第1速度V1未満のときには、変速装置13及びトルクコンバータ15を開放する。
この構成によれば、開放運転は、エンジンブレーキが作用しないので減速度が比較的小さい。一方、エンジンブレーキ運転は、エンジンブレーキが作用するので減速度が比較的大きい。アクセルオフ速度Vaccには運転者の減速意思がよく現れているので、アクセルオフ速度Vaccに基づいて、開放運転とエンジンブレーキ運転とを切り替えることによって、運転者の減速意思に応じた減速度の運転が自動的に選択される。こうして、運転者の減速意思に応じた運転を実行することによって、運転者の操作を極力減らすことができ、運転時の快適性を向上させることができる。
それに加えて、運転者の操作を極力減らすことによって、燃費を向上させることができる。つまり、減速が過剰な場合には、運転者にアクセルペダル32を踏ませることになるが、減速が適切であれば、そのようなアクセル操作が不要になり、燃料消費を低減させることができる。一方、減速が不足している場合には、運転者にブレーキペダル31を踏ませることになる。この場合、液圧ブレーキ等を作動させるために燃費が悪化する。しかしながら、減速が適切であれば、そのようなブレーキ操作が不要になり、液圧ブレーキの作動に関連するエネルギの消費が抑制されるので、燃料消費を低減させることができる。このように、加減速に関する運転者の不要な操作を減らすことによって燃費を向上させることができる。
また、車両駆動ユニットの制御装置は、BISG16をさらに備え、制御部100は、アクセルがオフになり且つアクセルオフ速度Vaccが第1速度V1以上のときには、エンジンブレーキを作用させると共にBISG16による回生制動を実行する。
この構成によれば、エンジンブレーキ運転を実行するときに回生制動が実行されるため、燃費を向上させることができる。
さらに、エンジンブレーキの作用と共に回生制動を実行するのは、アクセルがオフになり且つアクセルオフ速度Vaccが第1速度V1よりも大きい第2速度V2以上のときである。
この構成によれば、エンジンブレーキ運転が回生制動を伴わない通常エンジンブレーキ運転と回生制動を伴う回生エンジンブレーキ運転とに分けられる。そして、アクセルオフ速度Vaccに応じて、開放運転、通常エンジンブレーキ運転及び回生エンジンブレーキ運転が切り替えられる。こうして、減速度の異なるエンジンブレーキ運転を選択肢に追加することによって、運転者の減速意思により則した運転を実現することができる。
また、制御部100は、回生制動による発電量を、アクセルオフ速度Vaccに応じて調整する。
この構成によれば、回生エンジンブレーキ運転においては、発電量が一律ではなく、アクセルオフ速度Vaccに応じて調整される。発電量が変化すると、回生制動による減速度も変化する。つまり、回生エンジンブレーキ運転における減速度を運転者の減速意思に応じて調整することができる。その結果、運転者の減速意思により則した運転を実現することができる。
また、制御部100は、アクセルがオフになった後のブレーキ及びアクセルの操作に応じて第1速度V1を補正する。
この構成によれば、制御部100は、開放運転及びエンジンブレーキ運転中のブレーキ及びアクセル操作に応じて第1速度V1を補正する。つまり、開放運転中及びエンジンブレーキ運転中のブレーキ及びアクセル操作は、減速度に対する運転者の反応である。ブレーキ操作は、減速不足を表し、アクセル操作は、減速過剰を表している。そこで、こられのブレーキ及びアクセル操作に応じて第1速度V1を補正することによって、アクセルオフ速度Vaccがそれほど大きくなくてもエンジンブレーキ運転を実行したり、アクセルオフ速度Vaccがそれほど小さくなくても開放運転を実行したりすることができる。これにより、開放運転及びエンジンブレーキ運転の選択を運転者の減速度に対する運転傾向に適応させることができる。
さらに、制御部100は、アクセルがオフになった後のブレーキ及びアクセルの操作に応じて第1速度V1及び第2速度V2を補正する。
この構成によれば、制御部100は、開放運転、通常エンジンブレーキ運転及び回生エンジンブレーキ運転中のブレーキ及びアクセル操作に応じて第1速度V1及び第2速度V2を補正する。これにより、開放運転、通常エンジンブレーキ運転及び回生エンジンブレーキ運転の選択を運転者の減速度に対する運転傾向に適応させることができる。
《その他の実施形態》
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、前記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
例えば、実施形態では、変速装置13及びトルクコンバータ15を断続装置として採用しているが、断続装置の構成はこれに限られるものではない。様々な変速装置又はクラッチ機構を断続装置として採用することができる。例えば、自動変速機に限らず、手動変速機においても本技術を採用することができる。手動変速機においては、通常、運転者の操作によってクラッチの断続が制御されるが、それとは別に制御部100により制御される自動クラッチ機構を設けるようにする。そして、前述のようなアクセルがオンからオフになった状況では、アクセルオフ速度Vaccに応じて制御部100が自動クラッチ機構を制御し、開放運転及びエンジンブレーキ運転を選択するようにすればよい。
また、エンジン11と車輪12,12とのトルク伝達の断続を、変速装置13及びトルクコンバータ15の両方で行っているが、何れか一方だけで行ってもよい。つまり、前記実施形態では、エンジン11と車輪12,12との間のトルク伝達が遮断する際に、変速装置13のクラッチ要素13a及びトルクコンバータ15のロックアップクラッチ15aの両方を開放しているが、クラッチ要素13a及びロックアップクラッチ15aの少なくとも一方を開放する構成であればよい。また、ロックアップ機能を有さないトルクコンバータであれば、変速装置13によってトルク伝達の断続を切り替えればよい。
また、前記実施形態では、BISG16を発電機として採用しているが、発電機は、BISGに限られるものではない。例えば、発電機は、スタータとジェネレータとが統合されたものではなく、ジェネレータ、即ち、オルタネータであってもよい。
前記実施形態では、アクセル開度が最小開度(エンジン出力が零となる開度)となってから零になるまでのアクセル開度の減少率をアクセルオフ速度Vaccとして採用しているが、アクセルオフ速度はこれに限られるものではない。例えば、アクセル開度が零となる直前の所定期間におけるアクセル開度の減少率をアクセルオフ速度Vaccとしてもよい。あるいは、アクセル開度が最小開度となるときのアクセル開度の微分値をアクセルオフ速度Vaccとしてもよい。つまり、アクセル開度が零に向かって減少する速さを表す指標であれば、任意の値をアクセル速度Vaccとして採用することができる。
また、前記実施形態では、回生エンジンブレーキ運転中のアクセル及びブレーキ操作に応じて第2速度V2を補正しているが、補正の対象は第2速度V2に限られない。例えば、図6に示すように、運転者のアクセル及びブレーキ操作に応じてアクセルオフ速度Vaccに対する回生量の変化率を補正してもよい。具体的には、アクセル操作がされた場合には、減速が過剰であったとして、アクセルオフ速度Vaccに対する回生量の変化率(即ち、傾き)を小さくする。これにより、アクセルオフ速度Vaccが同じであっても(例えば、Va)、回生量が減少し、減速度が低下する。一方、ブレーキ操作がされた場合には、減速が不足であってとして、アクセルオフ速度Vaccに対する回生量の変化率を大きくする。これにより、アクセルオフ速度Vaccが同じであっても(例えば、Va)、回生量が増加し、減速度が増加する。尚、第2速度V2の補正と、アクセルオフ速度Vaccに対する回生量の変化率の補正とを組み合わせて行ってもよい。
また、エンジンブレーキ運転においては、エンジン回転数が所定値以下になると変速装置13のクラッチ要素13aを開放し且つトルクコンバータ15のロックアップクラッチ15aを開放しているが、これに限られるものではない。エンジンブレーキ運転においてエンジン回転数が所定の復帰回転数以下になった場合に、制御部100が燃料供給及び点火を再開して、アイドル運転を実行するようにしてもよい。
さらに、開放運転において、エンジン11は最終的に停止するが、これに限られるものではない。開放運転中にエンジン回転数が所定の復帰回転数以下になった場合に、制御部100が燃料供給及び点火を再開するようにしてもよい。
その他、本技術の作用効果を奏することができる限りは、各ステップの順番を入れ替えたり、複数のステップを並列に処理したり、別のステップを追加したりしてもよい。