一般に、光学顕微鏡などの顕微観察装置は、物理的な回折限界に支配されるため、光の半波長程度以下の構造の観察が困難である。一方で、光学顕微鏡などの顕微観察装置は、真空環境が不要で低侵襲性や高速性等を有するなど、電子顕微鏡や原子力間顕微鏡などの他の顕微観察装置にはない優れた特性を有するため、回折限界を超越できるようにすることが強く要請されている。こうした要請に対し、上述した高解像検出装置のように定在波による構造照明を利用して超解像を行なう装置では、比較的簡易な構成で回折限界を超越することができる点で有用であった。
しかしながら、上述した高解像検出装置のように定在波による構造照明を利用して超解像を行なう装置では、超解像処理の対象が、コヒーレント光源を用いてもインコヒーレント結像が可能な蛍光サンプルといった特殊な試料のみに限定され、超解像処理を広く一般的な試料に適用することができないという課題があった。即ち、上述したような超解像の手法は、できるだけ高い分解能を得るためには明るくより鋭敏な構造照明を形成する必要があることから、レーザ光などのコヒーレント光源を用いることが望ましいのに対し、像形成のためには一般にコンピュータによる再構成演算が必要であることから、像形成が破壊的干渉ではなく強度和でなされるインコヒーレント結像に対してのみ有効適用が可能な手法であった。
本発明の照明方法および顕微観察装置は、試料面からの光波情報を用いた超解像処理の適用範囲の拡大を図ることを主目的とする。
本発明の照明方法および顕微観察装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
本発明の照明方法は、
試料の顕微観察される試料面からの光の強度分布に基づいて該試料面を解像する顕微観察装置に用いられる照明方法であって、
光源部からの光から生成される二光波の平面波を斜方方向から対向するよう照射することにより得られる二光束定在波を前記試料面に照射する一方で前記光源部からの光から生成される一光波の平面波の振幅と位相を調整して得られるバイアス平面波を前記試料面に対して法線方向から照射することによって三光束定在波を前記試料面への照射する、
ことを特徴とする。
本発明の照明方法では、光源部からの光から生成される二光波の平面波を斜方方向から対向するよう照射することにより得られる二光束定在波を試料面に照射する一方で光源部からの光から生成される一光波の平面波の振幅と位相を調整して得られるバイアス平面波を試料面に対して法線方向から照射することによって三光束定在波を試料面に照射する。バイアス平面波は、その振幅により試料面上に存在する他の光波群からなる電場変位を正側や負側に嵩上げするから、二光束定在波とバイアス平面波とからなる三光束定在波を試料面に照射することにより、この照射により試料面からの反射光や散乱光の電場変位を正側や負側に嵩上げする。これにより、試料面からの光波情報が打ち消し合うのを抑制し、蛍光試料に限定されずに一般的な試料に超解像処理を適用するなど、試料面からの光波情報を用いた超解像処理の適用範囲の拡大を図ることができる。ここで、「超解像」とは、光学系を通して対象物の細部まで明瞭な像を取得することを意味するものとし、高解像と言い換えることもできるし、より具体的には、観察光学系の回折限界を超える解像などということもできる。
こうした本発明の照明方法において、前記バイアス平面波は、位相が前記二光束定在波の電場変位が前記試料面上の各位置で値0になる程度の時期として予め定められた基準時期を境にして電場変位が前記試料面上で位置に拘わらず等しい変位をもって正側と負側とに交互に振れるように調整されており、振幅が前記試料面上に存在する他の光波群からなる電場変位を正側のみまたは負側のみとなる程度まで嵩上げするよう調整されている平面波である、ことを特徴とするものとすることもできる。こうすれば、二光束定在波による照明のみの場合には試料面上で正負に亘る電場分布が定在波状に周期的に現れるのに対し、バイアス平面波による照明を加えることによって試料面上での正負に亘る電場分布を正側のみまたは負側のみとなる程度まで嵩上げした(即ち、正負に亘らない程度まで嵩上げした)電場分布が周期的に現れるようにすることができる。ここで、「基準時期」は、定在波の電場変位が試料面上の各位置で値0若しくは略値0になる時期として予め定められたものや、定在波の電場と試料面での反射光波(全ての反射光波)の電場との和の電場変位が試料面上の各位置で値0若しくは略値0になる時期として予め定められたものなどとすることができる。
また、本発明の照明方法において、前記バイアス平面波は、振幅については前記二光束定在波の振幅と同一になるように調整されていると共に位相については前記二光束定在波に同期するように調整されている、ことを特徴とするものとすることもできる。こうすれば、三光束定在波が照射された試料面上での電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとなる程度まで嵩上げすることができる。
さらに、本発明の照明方法において、前記二光束定在波による前記試料面への照明を伴って前記バイアス平面波の位相を2πに至るまで所定量ずつシフトさせて前記試料面を照明することにより前記試料面から反射または散乱する光の強度分布であるシフト毎の光分布を取得する処理と、前記シフト毎の光分布に対してフーリエ変換して得られるフーリエ変換画像から前記二光束定在波に基づくモアレ縞に由来するピークの周期の2倍の周期となる前記三光束定在波に基づくモアレ縞に由来するピークだけが観察される判定用画像を検索する処理と、前記判定用画像が存在しないときには前記バイアス平面波の振幅を大きくする一方で前記判定用画像の数が閾値以上のときには前記バイアス平面波の振幅を小さくする処理と、からなる一連の処理を、前記判定用画像の数が前記閾値未満になるまで繰り返し実行し、前記判定用画像の数が前記閾値未満のときの振幅を前記バイアス平面波の初期振幅とすると共に前記判定用画像の数が前記閾値未満のときの該判定用画像に対応する位相を前記バイアス平面波の初期位相として調整された三光束定在波を照明する、ことを特徴とするものとすることもできる。こうすれば、容易に、自動的に、三光束定在波が照射された試料面上での電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとなる程度まで嵩上げすることができる。なお、三光束定在波の調整のために基準試料を用いる。基準試料は、定在波との間にモアレ縞を生成する周期構造とし、ラインピッチが既知であるようなラインアンドスペースパターンが望ましい。そして、基準試料に対し三光束定在波を入射し、生成するモアレ縞のパターンを利用することで調整を行なうのである。
あるいは、本発明の照明方法において、前記二光束定在波の位相と前記バイアス平面波の位相とを同期して順次シフトすることにより前記三光束定在波の位相を順次シフトする、ことを特徴とするものとすることもできる。この場合、前記二光束定在波の一方の平面波の位相を所定位相ずつ順次シフトすると共に前記バイアス平面波の位相を前記所定位相の半分ずつ順次シフトすることにより前記三光束定在波の位相を順次シフトする、ものとすることもできる。さらにこの場合、前記二光束定在波の一方の平面波の光路長を所定距離ずつ順次変更すると共に前記バイアス平面波の光路長を前記所定距離の半分ずつ順次変更することにより前記三光束定在波の位相を順次シフトする、ものとすることもできる。こうすれば、二光束定在波とバイアス平面波とからなる三光束定在波の位相の同期を保持したまま三光束定在波の位相を順次シフトさせることができる。この結果、三光束定在波の位相をシフトさせながら試料面からの反射光や散乱光などの光情報を得ることができる。ここで、「位相をシフトさせる」とは、二光束定在波や三光束定在波の節の位置を移動させることを意味する。
本発明の顕微観察装置は、
試料の顕微観察される試料面からの光の強度分布に基づいて該試料面を解像する顕微観察装置であって、
光源部と、
前記光源部からの光から生成される二光波の平面波を斜方方向から対向するよう照射することにより得られる二光束定在波を前記試料面に照射する二光束定在波照射手段と、前記光源部からの光から生成される一光波の平面波の振幅と位相を調整して得られるバイアス平面波を前記試料面に対して法線方向から照射するバイアス平面波照射部と、を有し、前記二光束定在波と前記バイアス平面波とによる三光束定在波を前記試料面に照射する照明装置と、
前記三光束定在波の照射によって反射および/または散乱する前記試料面からの光の強度分布を光分布として取得する光分布取得部と、
前記三光束定在波の位相を順次シフトするように前記照明装置を制御すると共に前記三光束定在波の位相がシフトする毎に前記光分布を取得するように前記光分布取得部を制御するシフト制御部と、
前記三光束定在波の位相がシフトする毎に取得したシフト毎の光分布に対して超解像処理を施して前記試料面を解像する解像部と、
を備えることを要旨とする。
この本発明の顕微観察装置では、照明装置は、光源部からの光から生成される二光波の平面波を斜方方向から対向するよう照射することにより得られる二光束定在波を試料面に照射する一方で光源部からの光から生成される一光波の平面波の振幅と位相を調整して得られるバイアス平面波を試料面に対して法線方向から照射することによって二光束定在波とバイアス平面波とによる三光束定在波を試料面に照射する。そして、三光束定在波の位相を順次シフトさせてシフト毎に試料面から反射や散乱する光の強度分布である光分布を取得し、取得したシフト毎の光分布に対して超解像処理を施して試料面を解像する。バイアス平面波は、その振幅により試料面上に存在する他の光波群からなる電場変位を正側や負側に嵩上げするから、二光束定在波とバイアス平面波とからなる三光束定在波を試料面に照射することにより、この照射により試料面からの反射光や散乱光の電場変位を正側や負側に嵩上げする。これにより、試料面からの光波情報が打ち消し合うのを抑制し、蛍光試料に限定されずに一般的な試料でも有効なシフト毎の光分布を取得して超解像処理を適用することができる。ここで、「位相がシフトする」とは、三光束定在波の節の位置が移動することを意味する。また、「超解像」とは、光学系を通して対象物の細部まで明瞭な像を取得することを意味するものとし、高解像と言い換えることもできるし、より具体的には、観察光学系の回折限界を超える解像などということもできる。
こうした本発明の顕微観察装置において、前記バイアス平面波照射部は、前記バイアス平面波の位相を、前記二光束定在波の電場変位が前記試料面上の各位置で値0になる程度の時期として予め定められた基準時期を境にして電場変位が前記試料面上で位置に拘わらず等しい変位をもって正側と負側とに交互に振れるように調整すると共に、前記バイアス平面波の振幅を、前記試料面上に存在する他の光波群からなる電場変位を正側のみまたは負側のみとなる程度まで嵩上げするよう調整する照射部である、ものとすることもできる。こうすれば、二光束定在波による照明のみの場合には試料面上で正負に亘る電場分布が定在波状に周期的に現れるのに対し、バイアス平面波による照明を加えることによって試料面上での正負に亘る電場分布を正側のみまたは負側のみとなる程度まで嵩上げした(即ち、正負に亘らない程度まで嵩上げした)電場分布が周期的に現れるようにすることができる。ここで、「基準時期」は、定在波の電場変位が試料面上の各位置で値0若しくは略値0になる時期として予め定められたものや、定在波の電場と試料面での反射光波(全ての反射光波)の電場との和の電場変位が試料面上の各位置で値0若しくは略値0になる時期として予め定められたものなどとすることができる。
この基準時期を用いて調整する態様の本発明の顕微観察装置において、前記二光波の平面波の各電場をE1,E2,前記バイアス平面波の電場をE3,前記二光波の平面波の各振幅をA,前記バイアス平面波の振幅を前記二光束定在波と等しい振幅,前記二光波の平面波および前記バイアス平面波の各波数をk,前記二光波の平面波の前記試料面に対する入射角をθ,前記二光波の平面波の入射面と前記試料面との交線方向の位置をx,前記試料面に対する法線方向の位置をy,角周波数をω,時間をtとしたときに、前記二光束定在波照明部は、次式(1)および式(2)の関係を有する前記二光波の平面波を用いて照明を行なう照明部であり、前記バイアス平面波照明部は、次式(3)の関係を有する前記バイアス平面波を用いて照明を行なう照明部である、ものとすることもできる。こうすれば、バイアス平面波による照明によって、二光束定在波による照明に基づく試料面上での正負に亘る電場分布を丁度正負に亘らないように嵩上げした電場をより確実に生成することができる。
この式(1)および式(2)の関係を有する二光波の平面波を用いて照明を行なうと共に式(3)の関係を有するバイアス平面波を用いて照明を行なう態様の本発明の照明装置において、前記二光波の平面波の前記試料面での反射による各反射光波の電場をE1r,E2r,前記試料面における前記二光波の平面波の各反射率をr1,r2,前記二光波の平面波の前記試料面での反射による各反射光波の前記二光波の平面波に対する位相差をδ1,δ2とすると共に、前記バイアス平面波の前記試料面での反射による反射光波の電場をE3r,前記試料面における前記バイアス平面波の反射率をr3,前記バイアス平面波の前記試料面での反射による反射光波の前記バイアス平面波に対する位相差をδ3,前記定在波と等しい振幅として前記バイアス平面波の振幅を補正したときの補正後振幅をP,前記バイアス平面波の位相を補正したときの位相補正分をΔDとしたときに、前記バイアス平面波照明部は、次式(4)ないし(6)の関係に基づく前記補正後振幅Pと前記位相補正分ΔDとを用いて前記電場E3を補正した補正後電場E3aの式(7)の関係を有する前記バイアス平面波を用いて照明を行なう照明部である、ものとすることもできる。こうすれば、振幅と位相とを補正したバイアス平面波による照明によって、定在波による照明と、この定在波を生成するための二光波の平面波の各反射光波と、バイアス平面波の反射光波とに基づく試料面上での正負に亘る電場分布を丁度正負に亘らないように嵩上げした電場をより確実に生成することができる。
また、基準時期を用いて調整する態様の本発明の顕微観察装置において、前記バイアス平面波照明部は、前記二光波の平面波と前記バイアス平面波との前記試料面での各反射光波の電場変位に基づく前記基準時期および振幅を用いて照明を行なう、ものとすることもできる。こうすれば、位相と振幅とを補正したバイアス平面波による照明によって、定在波による照明と、この定在波を生成するための二光波の平面波の各反射光波と、バイアス平面波の反射光波とに基づく試料面上での正負に亘る電場分布を正負に亘らない程度に嵩上げした電場を生成することができる。
本発明の顕微観察装置において、前記バイアス平面波照明部は、振幅については前記二光束定在波の振幅と同一になるように調整すると共に位相については前記二光束定在波に同期するように調整して前記バイアス平面波を照射する照射部である、ものとすることもできる。こうすれば、三光束定在波が照射された試料面上での電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとなる程度まで嵩上げすることができる。
本発明の顕微観察装置において、前記二光束定在波照明部による前記二光束定在波による照明を伴って前記バイアス平面波の位相を2πに至るまで所定量ずつシフトさせて前記バイアス平面波による照明を行なうよう前記照明装置を制御するバイアス平面波位相シフト制御と、前記バイアス平面波の位相を前記所定量ずつシフトさせる毎にシフト毎の光分布を取得するよう前記光分布取得部を制御するシフト毎光分布取得制御と、前記シフト毎の光分布に対してフーリエ変換して得られるフーリエ変換画像から前記二光束定在波に基づくモアレ縞に由来するピークの周期の2倍の周期となる前記三光束定在波に基づくモアレ縞に由来するピークだけが観察される判定用画像を検索すると共に前記判定用画像が存在しないときには前記バイアス平面波の振幅を大きくする一方で前記判定用画像の数が閾値以上のときには前記バイアス平面波の振幅を小さくするよう前記照明装置を制御する振幅調整制御と、からなる3つの制御を前記判定用画像の数が前記閾値未満になるまで繰り返し実行し、前記判定用画像の数が前記閾値未満のときの振幅を前記バイアス平面波の初期振幅として設定すると共に前記判定用画像の数が前記閾値未満のときの該判定用画像に対応する位相を前記バイアス平面波の初期位相として設定する初期値設定部、を備えるものとすることもできる。こうすれば、容易に、自動的に、三光束定在波が照射された試料面上での電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとなる程度まで嵩上げすることができる。
本発明の顕微観察装置において、前記シフト制御部は、前記二光束定在波の位相と前記バイアス平面波の位相とを同期して順次シフトするよう前記照明装置を制御することにより前記三光束定在波の位相を順次シフトする制御部であるものとすることもできる。この場合、前記シフト制御部は、前記二光束定在波の一方の平面波の位相を所定位相ずつ順次シフトすると共に前記バイアス平面波の位相を前記所定位相の半分ずつ順次シフトするよう前記照明装置を制御することにより前記三光束定在波の位相を順次シフトする制御部であるものとすることもできる。更にこの場合、前記シフト制御部は、前記二光束定在波の一方の平面波の光路長を所定距離ずつ順次変更すると共に前記バイアス平面波の光路長を前記所定距離の半分ずつ順次変更するよう前記照明装置を制御することにより前記三光束定在波の位相を順次シフトする制御部であるものとすることもできる。こうすれば、二光束定在波とバイアス平面波とからなる三光束定在波の位相の同期を保持したまま三光束定在波の位相を順次シフトさせることができる。この結果、三光束定在波の位相をシフトさせながら試料面からの反射光や散乱光などの光情報を得ることができる。
本発明の顕微観察装置において、前記試料を載置すると共に前記試料面の法線方向を回転軸として前記試料を回転させる回転ステージを備え、前記シフト制御部は、前記試料面が90度回転するよう前記回転ステージを制御すると共に、前記試料面の90度の回転の前後で前記三光束定在波の位相を順次シフトするように前記照明装置を制御すると共に前記三光束定在波の位相がシフトする毎に前記光分布を取得するように前記光分布取得部を制御する制御部である、ものとすることもできる。こうすれば、三光束定在波を調整することなく、容易に試料面に直交する2方向に三光束定在波を照射し、位相を順次シフトさせて光分布を取得することができる。
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施例としての照明装置20を含む顕微観察システム10の構成の概略を示す構成図であり、図2は、照明装置20により試料22の一表面(以下、試料面という)23に照射される定在波生成用の2つの平面波41,51による照明とバイアス平面波61による照明との様子を模式的に示す説明図である。試料22としては、例えば、半導体ウェハやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems),Micro−TAS(Micro Total Analysis Systems)等の微細工業製品、非染色観察対象としての生体細胞などがある。
実施例の顕微観察システム10は、図1に示すように、試料面23に3つの光(3光波,3光束)を照射する照明装置20と、例えば対物レンズを含む複数のレンズにより構成され試料面23からの光を透過する観察光学系としてのレンズ機構14と、例えばCCD(電荷結合半導体素子)又はCMOS(相補性金属酸化膜半導体素子)などの複数の受光素子を用いて試料面23からの光を測定光としてレンズ機構14を介して受光する受光部16と、照明装置20の各種調整機構を駆動する汎用のコンピュータ70(以下、調整用PCという)と、受光部16による受光量を信号として入力すると共に入力した受光量を解析して超解像を行なう汎用のコンピュータ80(以下、解析用PCという)と、を備える。実施例では、照明装置20とレンズ機構14と受光部16とによって顕微観察装置12(例えば、光学顕微鏡など)が構成され、この顕微観察装置12と調整用PC70と解析用PC80とによって顕微観察システム10が構成されている。
実施例の照明装置20は、レーザ光などのコヒーレント光を3つに分割して放射する光源部30と、試料面23を中央にして対向する位置に配置され試料面23上で互いに干渉させたときに定在波を生成する2つ(2光波,2光束)の平面波41,51(図2参照)による照明を試料面23に対して行なう2つの定在波用平面波照明部40,50と、試料面23の鉛直上方に配置され試料面23上で定在波と干渉したときに定在波の電場変位を嵩上げ(バイアス加算)する平面波(以下、バイアス平面波という)61(図2参照)による照明を試料面23に対して行なうバイアス平面波照明部60と、備える。バイアス平面波61による照明は、試料面23の鉛直上方から試料面23に対して行なわれることから、落射照明として機能する。
光源部30は、コヒーレント光源としての光源装置32と、光源装置32からの光を2つに分割してその一方をバイアス平面波照明部60に入射させるビームスプリッタ34と、ビームスプリッタ34により分割された他方の光を入射し2つに分割してその一方を定在波用平面波照明部40に入射させると共にその他方を定在波用平面波照明部50に入射させるビームスプリッタ36と、を有する。
定在波用平面波照明部40,50は、それぞれ、偏光子や波長板等により構成されビームスプリッタ36からの入射光を偏光面(電場の向き)が試料面23に平行となるS偏光とするよう調整する偏光調整機構42,52と、偏光子や波長板等により構成され平面波41,51の各振幅を調整する振幅調整機構44,54と、波長板や位相変調素子,ピエゾアクチュエータ等により構成され平面波41,51の干渉により試料面23上で生成される定在波をナノオーダでシフトさせる際に平面波41,51の各位相を調整する相対的位相差調整機構46,56と、ミラーやピエゾアクチュエータ等により構成され平面波41,51の試料面23に対する各入射角を微調整する入射角度微調整機構48,58と、を有する。平面波41,51の試料面23に対する入射角は、実施例では、試料22と定在波用平面波照明部40,50との相対的な位置関係によって、平面波41,51の干渉により試料面23上に所望の定在波が生成されるように予め調整されているものとしたが、入射角度微調整機構48,58により微調整が可能となっている。
バイアス平面波照明部60は、偏光子や波長板等により構成されビームスプリッタ34からの入射光を偏光面(電場の向き)が定在波生成用の平面波41,51の偏光面に合うように調整する偏光調整機構62と、偏光子や波長板等により構成されバイアス平面波61の振幅を調整する振幅調整機構64と、波長板や位相変調素子,ピエゾアクチュエータ等により構成されバイアス平面波61の位相を調整する位相差調整機構66と、ミラーやピエゾアクチュエータ等により構成されバイアス平面波61が試料面23に対して垂直に入射するように微調整する入射角度微調整機構68と、を有する。バイアス平面波61の試料面23に対する入射角は、実施例では、試料22とバイアス平面波照明部60との相対的な位置関係によって、バイアス平面波61による照明が試料面23に対してできるだけ理想的な落射照明となるように予め調整されているものとしたが、入射角度微調整機構68により微調整が可能となっている。
調整用PC70は、図示しないCPUやROM,RAM,HDD,入出力ポート等を有すると共にキーボードやマウス等の入力装置が接続され且つディスプレイ等の出力装置が接続されており、照明装置20における偏光調整機構42,52,62と、振幅調整機構44,54,64と、相対的位相差調整機構46,56,位相差調整機構66と、入射角度微調整機構48,58,68と、による各調整が行なわれるよう駆動信号を出力ポートを介して出力することによって、照明装置20の各種調整機構を駆動する。
解析用PC80は、図示しないCPUやROM,RAM,HDD,入出力ポート等を有すると共にキーボードやマウス等の入力装置が接続され且つディスプレイ等の出力装置が接続されており、受光部16による測定光の受光量を信号として入力ポートを介して入力すると共に、予めROMに記憶されたプログラムが採用する所定のアルゴリズムに入力した受光量を適用し解析して超解像を行なう。所定のアルゴリズムは、平面波41,51の干渉により試料面23上で生成される定在波による照明(以下、定在波照明ともいう)を複数回シフトさせて超解像を行なう超解像処理(超解像手法)を実現するためのものであり、実施例では、以下のアルゴリズムを用いるものとした。
実施例のアルゴリズムでは、まず、試料面23からの散乱光を含む測定光の受光量を受光部16上の位置i(i=1〜n)における受光量Xiとして予め定めておき、試料面23上の位置jにおける照明光の強度を示す照明光量Ij、及び、試料面23上の位置jと受光部16上の位置iとの関係に応じた回折の程度を示す回折寄与率D(|i−j|)を予め取得しておく。そして、定在波生成用の平面波41,51のうち少なくとも一方の位相を調整することにより試料面23上の定在波照明の位置をm通りシフトさせた際のシフト毎(定在波照明の位置毎)に、受光部16によるn個の受光量Xiを入力する。さらに、受光量Xiと照明光量Ijと回折寄与率D(|i−j|)とを用いた、試料面23上の位置jにおける散乱効率αjを未知数とする次式(8)に示すn個の方程式に基づいて、m通りの定在波照明により得られたn×m個の連立方程式を解くことによって(即ち、受光量Xiをこの連立方程式を用いて解析することによって)、散乱効率αjを求める。これにより、試料面23からの光波情報に基づく画像を取得する(即ち、結像を行なう)。実施例のアルゴリズムでは、こうした結像を、定在波生成用の平面波41,51の入射面と試料面23との交線方向(以下、x軸方向とする)の定在波照明のシフトと、試料面23上でx軸方向に垂直な方向(以下、z軸方向とする)の定在波照明のシフトとによって行なうものとした。これにより、より明瞭な画像を取得することができる。このアルゴリズムについては、本発明の中核をなさないため、これ以上詳細な説明は省略する。図3に、試料面23とx軸,y軸,z軸の各方向との関係の一例を示す。図中、y軸方向は、試料面23に対する法線方向となっている。図3には、x軸を定める入射面についても参考のために示した。実施例では、以下、必要に応じてこのx軸,y軸,z軸の各方向を用いて試料面23上の電場の様子等の説明を行なう。
ここで、「超解像」は、実施例では、例えばレンズなどの光学系を通して対象物の細部まで明瞭な像を取得することを意味するものとし、高解像と言い換えることもできるし、より具体的には、観察光学系の回折限界を超える解像などということもできる。また、「定在波による照明(定在波照明)をシフトする」とは、実施例では、定在波による照明(定在波照明)を形成する定在波の節の位置を所定方向に移動することを意味するものとする。
次にこうして構成された実施例の顕微観察システム10が含む照明装置20の動作について説明する。図4は、定在波生成用の平面波41,51のみによる照明を試料面23に対して行なう従来例の様子を模式的に示す説明図であり、図5は、定在波生成用の平面波41,51による照明とバイアス平面波61による照明とを試料面23に対して行なう実施例の様子を模式的に示す説明図であり、図6は、平面波41,51による定在波照明とバイアス平面波61による照明とを試料面23上で干渉させたときの試料面23上の電場の時間変化の様子の一例を示す説明図である。図4および図5中、「θ」は、平面波41,51の試料面23に対する入射角(実施例ではスカラー量)を示し、試料面23上の波形は、各照明の試料面23上での電場の和の波形の一状態を示す。なお、この電場の波形は、本来、試料面23上でz軸方向に電場変位が時間変化する波形であるが、説明図の都合上、y軸方向である紙面上下方向に振動する波形として示している。図6中、一点鎖線は平面波41,51の干渉による定在波のみの電場分布(電場変位の分布)を示し、破線はバイアス平面波61のみの電場分布を示し、実線は平面波41,51とバイアス平面波61との干渉による各照明の試料面23上での和の電場分布を示す。図6では、電場分布は、時間的に(a)〜(h)の状態を順に繰り返す。これらの状態のうち、図6(a),(e)の状態は、定在波の電場変位が試料面23上の各位置(xz平面上の各位置)で値0になる時期として予め実験や解析により定められた「基準時期」における電場分布の状態を示す。
まず、照明装置20の定在波用平面波照明部40,50の動作について説明する。実施例では、定在波生成用の二光波の平面波41,51の各電場をE1,E2,平面波41,51の各振幅をA,平面波41,51の各波数をk,平面波41,51の試料面23に対する入射角をθ(前述),平面波41,51の入射面と試料面23との交線方向の位置をx(前述),試料面23に対する法線方向の位置をy(前述),角周波数をω,時間をtとする。これらのうち、振幅Aと入射角θとが調整対象としての目標値であり、電場E1,E2が最終的に得るべき目標値(平面波41,51の波形)である。波数kと角周波数ωとは光源部30の特性に基づいて予め定められた値である。そして、定在波用平面波照明部40,50は、次式(1)および式(2)の関係を有する二光波の平面波41,51による照明を試料面23に対して行なう。具体的には、調整用PC70によって、ビームスプリッタ36からの入射光を偏光面が試料面23に平行となるS偏光とする調整が行なわれるよう偏光調整機構42,52を駆動し、平面波41,51の各振幅を目標値としての振幅Aとする調整が行なわれるよう振幅調整機構44,54を駆動し、平面波41,51の干渉により試料面23上で生成される定在波を前述した所定のアルゴリズムに従ってナノオーダでシフトさせる際に平面波41,51の各位相の調整が行なわれるよう相対的位相差調整機構42,52を駆動し、平面波41,51の試料面23に対する各入射角を目標値としての入射角θとする微調整が行なわれるよう入射角度微調整機構48,58を駆動する。
こうして定在波用平面波照明部40,50が駆動され式(1)および式(2)の関係を有する定在波照明が行なわれると(この定在波照明のみが行なわれたとすると)、図4の波形や図6の一点鎖線の波形に示すように、試料面23上で正負に亘る電場分布が定在波状に周期的に現れる。即ち、試料面23上の電場分布において隣接するピークが正負に亘る(跨る)分布が形成される。
続いて、照明装置20のバイアス平面波照明部60の動作について説明する。実施例では、バイアス平面波61の電場をE3,バイアス平面波61の振幅(以下、バイアス用振幅という)を平面波41,51の干渉により生成される定在波と等しい振幅(即ち、振幅Aの2倍),バイアス平面波61の各波数をk,試料面23に対する法線方向の位置をy(前述),角周波数をω,時間をtとする。これらのうち、バイアス用振幅が調整対象としての目標値であり、電場E3が最終的に得るべき目標値(バイアス平面波61の波形)である。前述したように波数kと角周波数ωとは光源部30の特性に基づいて予め定められた値である。そして、バイアス平面波照明部60は、次式(3)の関係を有するバイアス平面波61による照明を試料面23に対して行なう。具体的には、調整用PC70によって、ビームスプリッタ34からの入射光について偏光面を定在波生成用の平面波41,51の偏光面に合わせる調整が行なわれるよう偏光調整機構62を駆動し、バイアス平面波61のバイアス用振幅を目標値(振幅Aの2倍)とする調整が行なわれるよう振幅調整機構64を駆動し、式(3)の電場E3の位相(x軸方向の位置に関係なくy軸方向の位置に応じた初期位相)が得られるよう位相差調整機構62を駆動し、バイアス平面波61が試料面23に対して垂直に入射する微調整が行なわれるよう入射角度微調整機構68を駆動する。
こうしてバイアス平面波照明部60が駆動され式(3)の関係を有するバイアス平面波61による照明が行なわれると(このバイアス平面波61による照明のみが行なわれたとすると)、バイアス平面波61は、図6の破線の波形に示すように、定在波の電場変位が試料面23上の各位置(xz平面上の各位置)で値0になる時期として予め定められた「基準時期」を境にして、試料面23上で位置(xz平面上の各位置)に拘わらず等しい変位をもって正側と負側とに交互に振れるよう定在波(図6中、一点鎖線参照)に同期し、且つ、定在波の振幅と等しいバイアス用振幅(値2A)で振動するものとなる。ここで、バイアス用振幅は、定在波の振幅と等しい振幅、即ち、定在波生成用の平面波41,51の振幅Aの2倍の値(値2A)としたから、図6からも分かるように、試料面23上での定在波の電場変位(試料面23上に存在する他の光波群(平面波41,51)からなる電場変位)を丁度正側のみまたは負側のみとなるまで嵩上げする振幅となっている。
このように、定在波照明に加えて、定在波に同期し且つ定在波と等しい振幅で振動するバイアス平面波61による照明を試料面23に対して行なうから、図6に試料面23上に現れる電場E1,E2,E3の和の電場として実線で示すように、定在波照明による試料面23上での正負に亘る電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとなるように嵩上げした(即ち、丁度正負に亘らないように嵩上げした)電場分布が周期的に現れるようにすることができる。即ち、試料面23上の電場分布の波形において隣接するピークが正負に亘らない分布を形成することができる。
図7は、図4の従来例の試料面23上の2点の解像対象の解像を行なう様子の一例を説明するための説明図であり、図8は、図5の実施例の試料面23上の2点の解像対象の解像を行なう様子の一例を説明するための説明図であり、図9は、平面波41,51による定在波照明とバイアス平面波61による照明とを試料面23上で干渉させたときの試料面23上の照明強度(電場の二乗値)の時間変化の様子の一例を示す説明図である。図9中、細い実線は平面波41,51とバイアス平面波61との干渉による各照明の試料面23上での和の電場分布を示し、太い実線は平面波41,51とバイアス平面波61との干渉後の試料面23上の照明強度を示す。図9では、図6(b),(c),(f),(g)の状態に対応する4状態を示している。
実施例の照明装置20のような構造照明を利用する超解像処理(超解像手法)は、微細な周期状の照明強度分布を有する照明に対する試料応答を活用する。図7に示すように、従来例の定在波照明のみの場合は、試料面23上の電場分布(電場変位の分布)において隣接するピークが正負に亘るため、試料面23からの隣接するピーク間の光波情報は互いに打ち消し合う。この場合、超解像処理の適用対象は、コヒーレント光源を用いてもインコヒーレント結像が可能な蛍光サンプルといった特殊な試料のみに限定され、超解像処理を広く一般的な試料に適用することができなかった。一方、図8に実施例の様子として示すように、定在波照明に加えてバイアス平面波61による照明を行なう場合は、試料面23上の電場分布を隣接するピークが正負に亘らないように生成して、微細な周期状の照明強度分布を生成することができるため(図9参照)、試料面23からの隣接するピーク間の光波情報の打ち消し合いがなくなり、光波情報の足し合わせにより像形成を行なうことができる。したがって、コヒーレント光源からの光を試料に照射してその試料からの測定光を受光して結像し超解像を行なう際に、蛍光サンプルのように干渉性がない測定光を発する特殊な試料に限定されることなく、試料が発する散乱光を含む測定光の干渉性の有無に関係なく一般的な試料に対して超解像処理を適用することができる。
また、実施例の照明装置20では、バイアス平面波61を、定在波に同期し且つ定在波と等しい振幅で振動するものとすることにより、定在波照明による試料面23上での正負に亘る電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとなるように嵩上げする(即ち、丁度正負に亘らないように嵩上げする)から、定在波照明により試料面23上での正負に亘る電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとする嵩上げ量より小さい嵩上げ量とするものに比して、試料面23からの隣接するピーク間の光波情報の打ち消し合いをより確実に抑制することができる。また、定在波照明により試料面23上での正負に亘る電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとする嵩上げ量より大きい嵩上げ量とするものに比して、より陰影が明瞭な像形成を行なうことができる。
図10に、超解像処理を適用する際の計算機シミュレーション条件を示し、図11に一般的な光学顕微鏡により得られる照明強度分布の一例を示し、図12に、一般的な試料に対して定在波照明のみを照射して図10に示す条件下で超解像処理を行なった場合の計算機シミュレーション結果としての照明強度分布の一例を示し、図13に、蛍光サンプルに対して定在波照明のみを照射して図10に示す条件下で超解像処理を行なった場合の計算機シミュレーション結果としての照明強度分布の一例を示し、図14に、一般的な試料に対して定在波照明とバイアス平面波による照明とを照射して図10に示す条件下で超解像処理を行なった場合(実施例の照明装置20を用いて超解像処理を行なった場合)の計算機シミュレーション結果としての照明強度分布の一例を示す。図10に示すシミュレーション条件は、光源からの光の波長が488nm,定在波のピッチ(節と節との間の長さ)が270nm,超解像処理における所定方向への定在波照明のシフト回数が10回,その1回のシフトステップサイズ(シフト量)が25nm,光学系NA(実施例のレンズ機構14のレンズ開口数)が0.95,レイリー限界が313nm,2点の解像対象の試料が互いに50nm離れた位置(試料面23上の位置)にある条件となっている。図11に示すように、一般的な光学顕微鏡の場合には、解像対象の試料の像はぼやけて全く見ることができない。図12に示すように、蛍光でない一般的な試料に定在波照明のみを照射する従来例の場合には、発散のために超解像を行なうことができない。一方、図13に示すように、蛍光サンプルに定在波照明のみを照射する従来例の場合には、従来より超解像が可能であった。そして、図14に示すように、定在波照明とバイアス平面波による照明とを行なう本発明の照明装置20によれば、蛍光サンプルでない一般的な試料であっても50nm相当の微細構造を明瞭に分離して像形成が行なわれ超解像が可能となっている。
以上説明した実施例の顕微観察システム10が含む照明装置20によれば、定在波用平面波照明部40,50によって、光源部30からの光を用いて二光波の平面波41,51を生成すると共に、生成した二光波の平面波41,51を試料面23上で干渉させて生成される定在波による照明を試料面23に対して行なう。さらに、バイアス平面波照明部60によって、定在波の電場変位が試料面23上の各位置で値0になる時期として予め定められた基準時期を境にして電場変位が試料面23上で位置に拘わらず等しい変位をもって正側と負側とに交互に振れるよう定在波に同期し、且つ、試料面23上での定在波の電場変位を丁度正側のみまたは負側のみとなるまで嵩上げする振幅として予め定められたバイアス用振幅(定常波と等しい値2Aの振幅)で振動する平面波であるバイアス平面波61を、光源部30からの光を用いて生成すると共に、生成したバイアス平面波61による照明を試料面23に対して行なう。したがって、定在波による照明のみの場合には試料面上で正負に亘る電場分布が定在波状に周期的に現れるのに対し、バイアス平面波61による照明を加えることによって試料面23上での正負に亘る電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとなるまで嵩上げした(即ち、丁度正負に亘らなくなるまで嵩上げした)電場分布が周期的に現れるようにすることができる。これにより、試料面23からの光波情報が打ち消し合うのが抑制され、蛍光試料に限定されずに一般的な試料に超解像処理を適用するなど、試料面23からの光波情報を用いた超解像処理の適用範囲の拡大を図ることができる。
実施例の顕微観察システム10が含む照明装置20では、バイアス平面波61を、定在波に同期し且つ定在波と等しい振幅で振動するものとすることにより、定在波照明による試料面23上での正負に亘る電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとなるように嵩上げする(即ち、丁度正負に亘らないように嵩上げする)ものとしたが、バイアス平面波61を、定在波照明により試料面23上での正負に亘る電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとする嵩上げ量より若干小さい嵩上げ量とするものとしたり、定在波照明により試料面23上での正負に亘る電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとする嵩上げ量(値Aの2倍)より若干大きい嵩上げ量としたりしてもよい。若干小さい嵩上げ量とすることは、バイアス平面波61のバイアス用振幅を、例えば値Aの1.9倍とするなどにより行なうことができる。また、若干大きい嵩上げ量とすることは、バイアス平面波61のバイアス用振幅を、例えば値Aの2.1倍とするなどにより行なうことができる。
実施例の顕微観察システム10が含む照明装置20では、バイアス平面波61は、平面波41,51の干渉により生成される定在波の電場変位が試料面23上の各位置で値0になる時期として予め定められた「基準時期」を境にして、試料面23上で位置に拘わらず等しい変位をもって正側と負側とに交互に振れるよう定在波に同期するものとしたが、この「基準時期」としては、例えば、定在波の電場変位が試料面23上の各位置で値0になる直前の時期や直後の時期などを用いるものとしてもよい。
実施例の顕微観察システム10が含む照明装置20では、バイアス平面波61による照明を落射照明として行なう、即ち落射型を用いるものとしたが、透過型を用いるものとしてもよい。また、定在波照明についてはエバネッセント型の照明を用いるものとしてもよいし、照明装置20を含む顕微観察装置12としては、偏光子を使用して暗視野型の装置としてもよいし、明視野型の装置としても構わない。
実施例の顕微観察システム10が含む照明装置20では、上述した所定のアルゴリズムを用いて超解像処理を行なうものとしたが、これとは異なる超解像処理を行なうものとしてもよい。例えば、周波数空間領域において、複数の取得像を合成し、帯域を拡張後に逆フーリエ変換し、実空間領域内での超解像観察像を得る処理(手法)を行なうものとしてもよいし、複数の取得像から逐次的に反復演算し、超解像観察像を得る処理(手法)を行なうなどとしてもよい。
実施例の顕微観察システム10が含む照明装置20では、試料面23上での各光波の反射による反射光波については特に考慮していないが、反射光波の影響が比較的大きい場合などにはこれを考慮するものとしてもよい。この変形例の場合、照明装置20のバイアス平面波照明部60の動作を以下のように行なう。なお、照明装置20の定在波用平面波照明部40,50の動作は実施例と同様である。
この変形例では、定在波生成用の平面波41,51の試料面23での反射による各反射光波の電場をE1r,E2r,試料面23における平面波41,51の各反射率をr1,r2,平面波41,51の試料面23での反射による各反射光波の平面波41,51に対する位相差をδ1,δ2とする。なお、振幅A,波数k,入射角θ,位置x,位置y,角周波数ω,時間tについては、実施例と同様である。そうすると、平面波41,51の各反射光波について、次式(4)および式(5)の関係が成立する。さらに、バイアス平面波61の試料面23での反射による反射光波の電場をE3r,試料面23におけるバイアス平面波61の反射率をr3,バイアス平面波61の試料面23での反射による反射光波のバイアス平面波61に対する位相差をδ3,定在波と等しい振幅としてのバイアス用振幅(値2A)を補正したときの補正後振幅をP,バイアス平面波61の位相を補正したときの位相補正分をΔD,補正後振幅Pと位相補正分ΔDとを用いて電場E3を補正した補正後電場をE3aとする。そうすると、バイアス平面波61の反射光波について、式(6)の関係が成立する。また、バイアス平面波61は、式(7)の関係を有することになる。ここで、補正後振幅Pと位相補正分ΔDとが調整対象としての目標値であり、補正後電場E3aが最終的に得るべき目標値(バイアス平面波61の波形)である。前述したように波数kと角周波数ωとは光源部30の特性に基づいて予め定められた値である。なお、試料面23上には、電場E1,E1r,E2,E2r,E3a,E3rの和の電場が現れる。
ここで、この変形例では、補正後振幅Pは、試料面23上での定在波および全ての反射光波(即ち、平面波41,51の反射光波とバイアス平面波61自身の反射光波)の和の電場変位(即ち、電場E1,E1r,E2,E2r,E3rの和の電場変位)を丁度正側のみまたは負側のみとなるまで(即ち、丁度正負に亘らなくなるまで)嵩上げする振幅として予め実験や解析により定められたものを用いるものとした。また、位相補正分ΔDは、定在波の電場と試料面23での全ての反射光波の電場との和の電場変位(即ち、電場E1,E1r,E2,E2r,E3rの和の電場変位)が試料面23上の各位置で値0若しくは略値0になる時期として予め定められた「基準時期」のタイミングで、バイアス平面波61のみによる電場変位(即ち、電場E3aの電場変位)が試料面23上で位置に拘わらず値0となるように予め実験や解析により定められたものを用いるものとした。したがって、補正後振幅Pによる振幅の補正は、全ての反射光波の試料面23上での電場変位に基づくバイアス用振幅の補正ということができ、位相補正分ΔDによる位相の補正は、全ての反射光波の試料面23上での電場変位に基づく「基準時期」の補正ということができる。
そして、この変形例では、バイアス平面波照明部60は、式(7)の関係を有するバイアス平面波61による照明を試料面23に対して行なう。具体的には、調整用PC70によって、ビームスプリッタ34からの入射光について偏光面を定在波生成用の平面波41,51の偏光面に合わせる調整が行なわれるよう偏光調整機構62を駆動し、バイアス平面波61の振幅を補正後振幅Pとする調整が行なわれるよう振幅調整機構64を駆動し、位相補正分ΔDを含む式(7)の電場E3aの位相(x軸方向の位置に関係なくy軸方向の位置に応じた初期位相)が得られるよう位相差調整機構62を駆動し、バイアス平面波61が試料面23に対して垂直に入射する微調整が行なわれるよう入射角度微調整機構68を駆動する。即ち、バイアス平面波照明部60は、式(4)ないし(6)の関係に基づいて(各反射光波を考慮して)、試料面23上での定在波および全ての反射光波の和の電場変位(即ち、試料面23上に存在する他の光波群からなる電場変位)を丁度正負に亘らなくなるまで嵩上げする補正後振幅Pと、上述の「基準時期」のタイミングでバイアス平面波61のみによる電場変位を試料面23上で位置に拘わらず値0とす位相補正分ΔDとを予め定めておき、こうして定めた補正後振幅Pと位相補正分ΔDとを用いて電場E3を補正した補正後電場E3aの式(7)の関係を有するバイアス平面波61による照明を行なうのである。
この変形例によっても、実施例と同様に、バイアス平面波61による照明を加えることによって試料面23上での正負に亘る電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとなるまで嵩上げした(即ち、丁度正負に亘らなくなるまで嵩上げした)電場分布が周期的に現れるようにすることができる。これにより、試料面23からの光波情報が打ち消し合うのが抑制され、蛍光試料に限定されずに一般的な試料に超解像処理を適用するなど、試料面23からの光波情報を用いた超解像処理の適用範囲の拡大を図ることができる。
この変形例に用いられる各データの例としては、図15に例1として示すように、振幅Aを値1.0,反射率r1,r2を値0.4,反射率r3を値0.2,位相差δ1,δ2,δ3を値3.14とした場合には、補正後振幅Pを値1.5,位相補正分ΔDを値0とすればよいことが解析によって分かっている。また、図15に例2として示すように、振幅Aを値1.0,反射率r1,r2を値0.75,反射率r3を値0.55,位相差δ1,δ2,δ3を値3.14とした場合には、補正後振幅Pを値1.1,位相補正分ΔDを値0とすればよいことが解析によって分かっている。さらに、図15に例3として示すように、振幅Aを値1.0,反射率r1,r2を値0.3,反射率r3を値0.2,位相差δ1,δ2を値1.57,位相差δ3を値3.14とした場合には、補正後振幅Pを値2.6,位相補正分ΔDを値0.28とすればよいことが解析によって分かっている。
次に、上述した実施例で原理を説明した二光波の平面波とバイアス平面波とを用いて具体的な機器を組み込んで構成した第2実施例の顕微観察システム110について説明する。図16は、第2実施例の顕微観察システム110の構成の概略を示す構成図である。第2実施例の顕微観察装置110は、図示するように、試料122を載置する回転ステージとしてのサンプルステージ121と、レーザ光源132と、レーザ光源132からの直線偏光の偏光方向を任意に変更可能な波長板134と、波長板134により偏光方向が定められた光を図16の紙面に平行な偏光(以下、「平面内偏光」という。)の透過成分と図16の紙面に垂直な偏光(以下、「垂直偏光」という。)の反射成分とに分割する偏光ビームスプリッタ136と、偏光ビームスプリッタ136により反射された垂直偏光成分の方向を変更するミラー140と、ミラー140からの垂直偏光成分を二光束に分割するビームスプリッタ142と、ビームスプリッタ142からの垂直偏光成分の一方を試料122の試料面123に照射するミラー148と、ビームスプリッタ142からの垂直偏光成分の他方の方向を変更するミラー144aと光路長の変更により位相を変更するためにミラー144aを駆動するピエゾアクチュエータ144bとからなる駆動ミラー144と、駆動ミラー144からの垂直偏光成分を試料122の試料面123に照射するミラー146と、偏光ビームスプリッタ136からの平面内偏光成分の光量調節(強度調節、振幅調節)を行なう波長板150および偏光板152と、光量調節がされた平面内偏光成分の方向を変更するミラー154aと光路長の変更により位相を変更するためにミラー154aを駆動するピエゾアクチュエータ154bとからなる駆動ミラー154と、駆動ミラー154からの平面内偏光成分のビーム径を拡大するビームエキスパンダ156と、ビーム径が拡大された平面内偏光成分が最終的に平行光となるようにするためのレンズ158と、平面内偏光の透過成分と垂直偏光の反射成分とに分割する偏光ビームスプリッタ160と、偏光ビームスプリッタ162からの平面内偏光成分を垂直偏光成分に偏光する波長板162と、波長板162からの垂直偏光成分を試料面123に照射する対物レンズ164と、試料面123で反射して偏光ビームスプリッタ160で反射された平面内偏光成分の散乱光を結像する結像レンズ166と、結像レンズ166により結像された光の光量の分布(光分布データ)を検出する冷却CCD(charge-coupled device)カメラ168と、サンプルステージ121や波長板134,150,偏光板152,駆動ミラー145,155,冷却CCDカメラ168などを駆動制御すると共に冷却CCDカメラ168により検出された光分布データを入力して超解像処理を行なうコンピュータ170と、を備える。
第2実施例の顕微観察システム110では、システムを構成する具体的な各機器等については以下のものを用いた。
(1)レーザ光源132:Coherent Inc.製のCWブルーレーザ(出力パワー:150mW、波長:488nm、偏光:リニア垂直(>100:1)、ビーム径:0.70±0.05mm)
(2)波長板134,150,162:ソーラボ製のMounted Zero Order 1/2 Waveplate(型番:WPH10M-488、材質:Crystal Quarts、直径:24.0mm)
(3)偏光ビームスプリッタ136:ソーラボ製のPolarizing Beamsplitter Cubes(型番:PBS101、材質:SF2、Tp:Ts:1000:1、サイズ:10mm×10mm×10mm)
(4)偏光ビームスプリッタ160:ソーラボ製のPolarizing Beamsplitter Cubes(型番:PBS251、材質:SF2、Tp:Ts:1000:1、サイズ:25.4mm×25.4mm×25.4mm)
(5)ミラー140,144a,154a:シグマ光機製の45°入射用誘多膜平面ミラー(型番:TFM-25C05-500、材質:BK7、入射角:45度±3度、直径:25mm)
(6)ミラー146,148:シグマ光機製のアルミ平面ミラー(型番:TFM-25C05-20、材質:BK7、直径:25mm)
(7)ビームスプリッタ142:シグマ光機製の無偏光キューブハーフミラー(型番:NPCH-10-4880、材質:BK7、サイズ:10mm×10mm×10mm、R:T:1:1)
(8)ビームエキスパンダ156:シグマ光機製のレーザビームエキスパンダー(型番:BE-21-V、アフォーカル倍率:×21.0、入射有効径:1.7mm)
(9)対物レンズ164:Edmund Optics製の対物レンズ(型番:BD Plan Apo SL 20×,BD Plan Apo SL 50×,BD Plan Apo SL 100×、NA:0.28,0.42,0.55、焦点距離:10mm,4mm,2mm、作動距離:30.5mm,20.0mm,13.0mm)
(10)ピエゾアクチュエータ144b,154b:Physik Instrumente製のPZT(型番:P-753.11C、閉ループ制御時の駆動距離:10μm、位置決め分解能:Closed loop:0.1nm)およびPhysik Instrumente製のPZTコントローラ(型番:E-710.4CL、サンプリングレート(サーボ):200μs/5kHz、サンプリングレート(センサ):50μs/20kHz、DAC分解能:20bit)
(11)冷却CCDカメラ168:BTTRAN製の冷却CCDカメラ(型番:BS-40、ピクセルサイズ:8.3μm×8.3μm、ピクセル数:772×580、ダイナミックレンジ:16bit、最小撮像時間:0.001s、インターフェース:USB)
(12)サンプルステージ121:シグマ光機製の回転ステージ(型番:KSP-606M、テーブル面直径:60mm、表示分解能:1度)
第2実施例の顕微観察システム110では、レーザ光源132からのレーザ光(直線偏光)は、波長板134により偏光方向を決定され、偏光ビームスプリッタ136により平面内偏光成分と垂直偏光成分とに分割される。垂直偏光成分は、ミラー140によりビームスプリッタ142に入射されて分割され、一方の光はミラー148によって入射角が調整されて対物レンズ164の外側(図中右側)から試料122の試料面123に照射され、他方の光は駆動ミラー144とミラー146とによりミラー148からの一方の光に対して反対方向(図中左側)から同じ入射角に調整されて対物レンズ164の外側から試料122の試料面123に照射される。ミラー146からの光とミラー148からの光の二光束は、同一の垂直偏光で同一の入射角で反対方向から試料面123に照射されるから、二光束干渉定在波として試料面123に照射されることになる。この二光束干渉定在波は、駆動ミラー144により他方の光の光路長を変更することにより位相を調節することができる。
一方、偏光ビームスプリッタ136を透過した平面内偏光成分は、波長板150と偏光板152によりその光量(強度、振幅)が調節され、駆動ミラー155により反射されてビームエキスパンダ156に入射される。ビームエキスパンダ156でビーム径が約20倍に拡大された平面内偏光成分は、レンズ158により最終的に平行光として試料面123に照射されるよう調節されて偏光ビームスプリッタ160に入射されるが、平面内偏光成分であるため、全ての光が反射されることなく偏光ビームスプリッタ160を透過する。偏光ビームスプリッタ160を透過した平面内偏光成分は、波長板162により垂直偏光成分に偏光され、対物レンズ164を通って平行光となって試料面123に照射される。こうした落射照明は、上述したように、ミラー146,148からの二光束干渉定在波は垂直偏光成分と同様の垂直偏光成分であるから、二光束干渉定在波と高い干渉性を有するもの、即ち三光束干渉定在波となり、第1実施例の顕微観察システム10で説明した定在波生成用の平面波41,51による照明とバイアス平面波61による照明とによる三光波の照明と同様の照明となる。
三光束干渉定在波の照射による試料面123からの反射光や散乱光は、そのうち二光束干渉定在波に由来するものは斜方照明であることから、対物レンズ164によって取得されないが、落射照明に由来するものは、対物レンズ164を通過し、波長板162により平面内偏光成分に変更される。このため、偏光ビームスプリッタ160によって反射され、結像レンズ166に入射され、冷却CCDカメラ168内のCCD上で結像される。
第2実施例の顕微観察システム110では、駆動ミラー144により光路長を変更することにより二光束干渉定在波をナノメートルスケールでシフトすると共に、二光束干渉定在波のシフトによって生じる位相変化に対して駆動ミラー154により落射照明の位相を同期させることにより、三光束干渉定在波の位相をナノメートルスケールでシフトすることができる。したがって、三光束干渉定在波の位相をナノメートルスケールのシフト量で1波長分(2π)に至るまで順次シフトさせてシフト毎に冷却CCDカメラ168で光分布データを取得すれば、試料面123の観測範囲全体で三光束干渉定在波の位相をシフト量ずつシフトさせた光分布データを得ることができる。一方、サンプルステージ121により試料122を回転させることができるから、サンプルステージ121の回転中心に試料122を載置し、三光束干渉定在波の位相をナノメートルスケールのシフト量で1波長分に至るまで順次シフトさせてシフト毎に冷却CCDカメラ168で光分布データを検出し、その後、試料122を90度回転し、再び三光束干渉定在波の位相をナノメートルスケールのシフト量で1波長分に至るまで順次シフトさせてシフト毎に冷却CCDカメラ168で光分布データを検出するものとすれば、得られる光分布データは、三光束干渉定在波を試料面123に直交する方向に照射し、三光束干渉定在波の位相を順次シフトさせるものとなる。
図17は、位相差ζ1と光路長lとの関係を説明する説明図である。駆動ミラー144のミラー144aが移動距離d1だけ移動すると、ミラー144aへの入射角をθ1とすれば、光路差l1は次式(9)によって表わされる。このときの位相差ζ1は、波長をλとすれば式(10)により表わされ、移動距離d1は式(11)により表わされる。駆動ミラー144を駆動して二光束干渉定在波の他方の光の位相をζ1だけシフトすると、二光束定在波の位相はζ1/2だけシフトするから、バイアス平面波の位相をζ1/2だけシフトすれば三光束干渉定在波の位相をζ1/2だけシフトすることができる。駆動ミラー154のミラー154aの移動距離をd2、バイアス平面波の位相差をζ2、ミラー154aへの入射角をθ2として、d1,ζ1,θ1を置き換えれば式(9)〜式(11)はバイアス平面波にも成立する。ここで、ζ1=2ζ2であるから、双方の式(10)から式(12)となり、これを整理して移動距離d2について解くと式(13)となる。ミラー144a,154aの入射角θ1,θ2が共に45度で波長λが488nmのときを考えれば、移動距離d1≒172.5・ζ1/π[nm],d2=d1/2となる。そして、位相差ζ1=2π/nとすれば、移動距離d1=345/n[nm]となり、n=60の位相差ζ1=π/30(6度)のときで移動距離d1=5.75nm,d2=2.875nmとなる。第2実施例で用いたピエゾアクチュエータ144b,154bは位置決め分解能が0.1nmであるから、位相差ζ1=π/30(6度)を十分な精度で変更することができる。
次に、第2実施例の顕微観察システム110で試料面123を顕微観察する様子について説明する。第2実施例の顕微観察システム110では、まず、試料面123に位相を順次シフトさせた三光束干渉定在波を照射してシフト毎の光分布データを取得する光分布データ取得制御を実行し、次に、得られたシフト毎の光分布データを逆問題解析により解析する超解像処理を実行する。図18はコンピュータ170により実行される光分布データ取得制御プログラムの一例を示すフローチャートであり、図19はコンピュータ170により実行される超解像処理プログラムの一例を示すフローチャートであり、図20は図19における超解像処理プログラムによる処理を模式的に示す説明図である。以下に、光分布データ取得制御を説明し、その後に、超解像処理を説明する。
光分布データ取得制御プログラムを起動すると、まず、試料122の試料面123の観察範囲の中心がサンプルステージ121の回転中心となるよう初期位置をセットし(ステップS100)、三光束干渉定在波の初期値を調整する(ステップS110)。三光束干渉定在波の初期値の調整は、落射照明の強度(振幅)と位相を調整することにより行なうことができる。こうした初期調整は、具体的には、基準試料を用いて、二光束干渉定在波を照射した状態で図21に例示する初期調整プログラムを実行することにより行なわれる。基準試料としては、定在波との間にモアレ縞を生成する周期構造とし、ラインピッチが既知であるようなラインアンドスペースパターンが望ましい。
初期調整プログラムが実行されると、まず、駆動ミラー154を駆動して落射照明の位相を位相変更量Δζ2だけ変更し(ステップS300)、冷却CCDカメラ168により光強度像を取得すると共に(ステップS310)、取得した光強度像をフーリエ変換してフーリエ変換画像を取得し(ステップS320)、合計位相変更量ΣΔζ2を2πと比較し(ステップS330)、合計位相変更量ΣΔζ2が2πに至るまでステップS300〜S330の処理を繰り返す。ここで、落射照明の位相を位相変更量Δζ2だけ変更する処理は、位相変更量Δζ2として例えば6度(π/30)を用いれば、このときの駆動ミラー154の移動距離d2は入射角θ2が45度のときには5.75nmとなるから、駆動ミラー154のピアゾアクチュエータ154bを駆動してミラー154aを5.75nmだけ移動させるものとなる。したがって、ステップS300〜S330を繰り返す処理は、落射照明の位相を位相変更量Δζ2ずつ変更した際の位相毎の光強度像のフーリエ変換画像を取得する処理となる。このフーリエ変換画像では、基準試料と用いると、一定の周期の二光束干渉定在波に基づくモアレ縞に由来するピークやその2倍の周期の三光束干渉定在波に基づくモアレ縞に由来するピークを観察することができる。合計位相変更量ΣΔζ2が2πに至ると、取得したフーリエ変換画像のうち三光束干渉定在波に基づくモアレ縞に由来するピークのみが観察される画像を判定用画像として検索し(ステップS340)、判定用画像が存在するか否かを判定し(ステップS350)、判定用画像が存在しないときには、取得した全てのフーリエ変換画像を破棄し(ステップS370)、波長板150と偏光板152を予め定めた分だけ駆動して落射照明の強度(振幅)を予め定めた所定量だけ大きくして(ステップS380)、ステップS300に戻る。ここで、所定量としては、二光束干渉定在波の振幅の1/10や1/20或いは1/30などを用いることができる。一方、ステップS350で判定用画像が存在すると判定されたときには、検出された判定用画像数が閾値未満であるか否かを判定し(ステップS380)、検出された判定用画像数が閾値以上であるときには、取得した全てのフーリエ変換画像を破棄し(ステップS390)、波長板150と偏光板152を予め定めた分だけ駆動して落射照明の強度(振幅)を予め定めた所定量だけ小さくして(ステップS400)、ステップS300に戻る。ここで閾値としては、例えば値2や値3などを用いることができる。このようにして判定用画像が存在し、その画像数が閾値未満となったときには、そのときの振幅を初期振幅として設定すると共に判定用画像を取得したときの位相を初期位相として設定し(ステップS410)、落射照明が初期位相となるように駆動ミラー154を駆動して(ステップS420)、初期調整プログラムを終了する。なお、振幅は既に初期振幅になっているため、特に調整する必要はない。このように調整することにより、許容範囲内で、落射照明の振幅を二光束干渉定在波の振幅の2倍に調整することができると共に落射照明の位相を二光束干渉定在波の位相に同期させることができる。即ち、顕微観察の許容範囲内で有効な三光束干渉定在波を得ることができる。
光分布データ取得制御プログラムの説明に戻る。三光束干渉定在波の初期値を調整すると、冷却CCDカメラ168に結像される散乱光の強度(光量)分布(光分布データ)を入力し(ステップS120)、三光束干渉定在波の位相をシフト量ζだけシフトさせ(ステップS130)、合計シフト量Σζが2πに至っているか否かを判定し(ステップS140)、合計シフト量ζが2πに至るまでステップS120〜S140の処理を繰り返す。ここで、シフト量ζは、例えば、2π/nで表わしたときにnが10や20或いは30などを用いることができる。三光束干渉定在波の位相をシフト量ζだけシフトする処理は、具体的には、駆動ミラー144のミラー144aを移動距離d1=172.5・ζ/π[nm]だけ移動させると共に駆動ミラー154のミラー154aを移動距離d2=d1/2[nm]だけ移動させる処理となる。これは、同期している三光束干渉定在波を形成する二光束干渉定在波(斜方照明)の二光束の一方の位相をシフト量ζだけシフトすると二光束干渉定在波は位相がζ/2だけシフトするから、この位相がシフトした二光束干渉定在波に三光束目のバイアス平面波(落射照明)を同期させるには位相をζ/2だけシフトすればよいことに基づく。これらのことを以下に更に説明する。
いま、二光束のz軸方向の電場成分E1,E2をそれぞれ次式(14),(15)とすると、電場成分E1+E2は式(16)として示される定在波となる。一方、バイアス平面波の電場成分E3は式(17)で示されるから、簡単のため位相ζ1、ζ2を無視すると、電場成分E1+E2+E3は式(18)となる。ここで、二光束の定在波とバイアス平面波とが理想的に同期する条件は、2a=b、且つ、ζ3=0,πとなる。2a=bは、二光束干渉定在波の振幅とバイアス平面波の振幅とが同じであることを意味すると共に、二光束干渉定在波を形成する二光波の平面波の振幅の2倍とバイアス平面波の振幅とが同じであることを意味している。理想的に同期した三光束定在波は、式(19)となる。
位相ζ1,ζ2を考慮して電場成分E1+E2+E3を表わすと式(20)となる。2a=bであり、且つ、位相ζ1,ζ2,ζ3が同期しているとして全て値0とし、定在波をシフトさせるために位相ζ1をζ1+Δζ1,位相ζ3をζ3+Δζ1/2として変形すると、式(21)を得る。式(21)では、x軸項,時間項が分離しているから、位相をシフトしても定在波を維持しているのが解る。即ち、斜方照明における位相シフトの半分の位相シフトを落射照明に与えることにより三光束干渉定在波の位相をシフトすることができる。
入射光波の干渉だけでなく反射光波の干渉を考えると、以下のようになる。三光束のz軸方向の電場成分E1,E,E3の反射光波をEr1,Er2,Er2、反射率をr1,r2,r3とすると、反射光波Er1,Er2,Er3は、次式(22),(23),(24)により示される。この三光波を加えても落射照明の強度と位相を補正することにより三光束干渉定在波を生成することができ、斜方照明の一光束の位相をシフトし、その半分の位相シフトを落射照明に与えることにより、三光束干渉定在波のシフトが可能となる。斜方照明は同じ角度で入射するから、r1=r2、ζ4=ζ1+ζ7、ζ5=ζ2+ζ7となり、y=0とすると、二光束干渉定在波は式(25)となり、落射照明は式(26)となる。式(25)と式(26)から式(27)となるように落射照明の振幅(強度)と位相を調整すれば、式(28)の三光束干渉定在波の式となる。ここで、二光束干渉定在波の式(25)のBは、斜方照明の一方の平面波の位相をζだけシフトするとζ/2だけずれる。一方、落射照明の位相をζ/2だけシフトすると、式(26)のDはζ/2だけずれるから、式(27)の等号を保持したまま定在波のシフトが実現する。したがって、入射光波の干渉だけでなく反射光波の干渉を考慮しても、同期している三光束干渉定在波の斜方照明(二光束干渉定在波)の一方の平面波の位相をシフト量ζだけシフトさせると共に落射照明(バイアス平面波)の位相をシフト量ζ/2だけ同期してシフトさせることにより、同期を保持したまま三光束干渉定在波の位相をシフトすることができるのが解る。
再び、光分布データ取得制御プログラムの説明に戻る。合計シフト量Σζが2πに至るまでステップS120〜S140の処理を繰り返すと、回転済フラグFを調べる(ステップS150)。回転済フラグFは、初期値として値0がセットされており、ステップS120〜S140の処理を繰り返してサンプルステージ121を90度回転させたときに後述するステップS180で値1がセットされるフラグである。回転済フラグFが値0のときは、ステップS110で調整した初期値を用いて三光束干渉定在波を初期値に調整し(ステップS160)、サンプルステージ121を90度回転させて(ステップS170)、回転済フラグFに値1をセットし(ステップS180)、ステップS120に戻る。サンプルステージ121を90度回転させてステップS120に戻るのは、試料面123に照射される三光束干渉定在波を相対的に90度回転させて再び位相をシフト量ζだけシフトする処理を行なうためである。これにより、三光束干渉定在波を試料面123に直交する2方向に照射し、三光束干渉定在波の位相を順次シフトさせて光分布を取得することができる。
サンプルステージ121を90度回転させた後に三光束干渉定在波の位相をシフト量ζずつシフトして光分布データを取得して合計シフト量Σζが2πに至ると、ステップS150で否定的判定がなされ、本ルーチンを終了する。
次に、超解像処理について説明する。図19の超解像処理プログラムが起動されると、まず、既知の構造の推定試料のシフト毎の光分布データを計算する処理が行なわれる(ステップS200)。推定試料としては、既知であれば如何なるものを用いてもよく、例えば試料面123の設計値どおりの理想的な構造を用いるものとしたり、試料面123の構造が全く分からない場合には一様なもの(即ち、真っ平らなもの)を用いるものとしたりすることができる。推定試料のシフト毎の光分布データは、光分布データ取得制御プログラムで用いたシフト量ζを用いて計算される。続いて、試料面123のシフト毎の光分布データと推定試料のシフト毎の光分布データとの誤差を求め(ステップS210)、この誤差を打ち消す方向に推定試料に修正を加えて近似試料を作成し(ステップS220)、誤差が収束したか否かを判定する(ステップS230)。ここで、推定試料に修正を加える際の修正量は予め定められた微小量としたり、誤差の大きさにゲインを乗じて得られる値としたりすることができる。また、誤差が収束したか否かの判定としては、誤差が収束したと判断することができる程度の値として予め定めた閾値と誤差とを比較し、誤差が閾値以下に至ったときに収束したと判断する手法を用いたり、ステップS200〜S230の処理を予め定めておいた所定回数(例えば、100回や1000回或いは10000回など)繰り返したときに収束したと判断する手法を用いたりすることができる。誤差が収束していないと判定されたときには、近似試料を推定試料に置き換えて(ステップS240)、置き換えた推定試料のシフト毎の光分布データを計算するステップS200の処理に戻る。こうしたステップS200〜S230の処理を繰り返すことにより、近似試料は試料面123に近似していく。ステップS230で収束したと判定されると、そのときに得られた近似試料を解(即ち、試料面123の解像)として出力して(ステップS250)、本プログラムを終了する。
以上説明した第2実施例の顕微観察システム110によれば、第1実施例の顕微観察システム10の照明装置20による効果と同様の効果、即ち、落射照明を加えることによって試料面123上での正負に亘る電場分布を丁度正側のみまたは負側のみとなるまで嵩上げした(即ち、丁度正負に亘らなくなるまで嵩上げした)電場分布が周期的に現れるようにすることができる。
また、第2実施例の顕微観察システム110によれば、駆動ミラー144により二光束干渉定在波を生成する他方の光の光路長を移動距離d1に対応する分だけ変更することにより二光束干渉定在波の位相をシフトすると共に二光束干渉定在波の位相シフトに同期して駆動ミラー154により落射照明の光路長を移動距離d2=d1/2に対応する分だけ変更することにより落射照明の位相を二光束干渉定在波の位相変化に同期させることにより、試料面123に照射する三光束干渉定在波の位相をシフト量ζずつシフトさせて光分布データを検出することができる。しかも、こうした光分布データの検出に加えて、サンプルステージ121を駆動して試料122を90度回転させ、更に試料面123に照射する三光束干渉定在波の位相をシフト量ζずつシフトさせて光分布データを検出することにより、容易に、三光束干渉定在波を試料面123に直交する方向に照射し、三光束干渉定在波の位相を順次シフトさせて光分布を取得することができる。
第2実施例の顕微観察システム110によれば、落射照明の位相が2πに至るまで位相変更量Δζ2だけ変更して冷却CCDカメラ168により光強度像を取得し、取得した光強度像をフーリエ変換して得られるフーリエ変換画像から三光束干渉定在波に基づくモアレ縞に由来するピークのみが観察される画像を判定用画像として検索し、判定用画像が存在しないときには波長板150と偏光板152を駆動して落射照明の強度(振幅)を所定量だけ大きくし、判定用画像数が閾値以上であるときには波長板150と偏光板152を駆動して落射照明の強度(振幅)を所定量だけ小さくする処理を判定用画像数が閾値未満に至るまで繰り返し、判定用画像数が閾値未満に至ったときの振幅を落射照明の初期振幅とし、判定用画像が閾値未満に至ったときの判定用画像に対応する位相を落射照明の初期位相とすることにより、落射照明の振幅を二光束干渉定在波の振幅の2倍に調整することができると共に落射照明の位相を二光束干渉定在波の位相に同期させることができる。即ち、顕微観察の許容範囲内で有効な三光束干渉定在波を得ることができる。
第2実施例の顕微観察システム110では、レーザ光源132としてCoherent Inc.製のCWブルーレーザ、波長板134,150,162としてソーラボ製のMounted Zero Order 1/2 Waveplate、偏光ビームスプリッタ136としてソーラボ製のPolarizing Beamsplitter Cubes、偏光ビームスプリッタ160としてソーラボ製のPolarizing Beamsplitter Cubes、ミラー140,144a,154aとしてシグマ光機製の45°入射用誘多膜平面ミラー、ミラー146,148としてシグマ光機製のアルミ平面ミラー、ビームスプリッタ142としてシグマ光機製の無偏光キューブハーフミラー、ビームエキスパンダ156としてシグマ光機製のレーザビームエキスパンダー、対物レンズ164としてEdmund Optics製の対物レンズ、ピエゾアクチュエータ144b,154bとしてPhysik Instrumente製のPZTおよびPhysik Instrumente製のPZTコントローラ、冷却CCDカメラ168としてBTTRAN製の冷却CCDカメラ、サンプルステージ121としてシグマ光機製の回転ステージ、を用いるものとしたが、これらの機器等に限定されるものではなく、これらと同等の性能、あるいは、これら以上の性能を有するものであれば、如何なる機器等を用いるものとしてもよい。
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。