JP6183083B2 - 金属被覆用樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、射出成形によって鋼、ステンレス等の金属部品に対して密着性に優れた被覆を可能にする金属被覆用樹脂組成物に関する。さらに詳しくは、金属部品を被着体とするインサート成形において、被着体に対してプライマー塗布等といった成形前処理を必要とせずに、被着体に対して高度に密着できるのみならず、冷温浴サイクルのような水分を伴うヒートショックを受けても当該金属部品に対する密着性を維持できる金属被覆用樹脂組成物に関するものである。
自動車部品では金属部分を樹脂被覆することにより消音性・制振動性を達成させ騒音低減や、家電部品では電気絶縁性を目的として樹脂による被覆がなされている。
金属部品にモールドする時は、その形状に追随できる方法が求められており、例えば金属部品を射出成形用金型にインサートし、溶融樹脂を射出する方法が取られている。家電・自動車用途では、その部品の使用環境下にもよるが高い耐熱性が必要であり、それ故に高結晶性樹脂が使用されている。しかしながら高結晶性樹脂では、迅速な結晶化とその直後の熱収縮や、徐々に起こるエンタルピー緩和で生じる残留応力による接着性低下への影響を考慮する必要がある。接着性低下の問題を解決する為に、一般的には金属部品にプライマー剤塗布、コロナ放電処理といった成形前処理を経た後に成形されている(特許文献1、特許文献2参照)。しかしながらプライマー剤塗布では、溶媒の蒸発時に気泡が残存する、溶媒として有機溶剤を使用すれば作業環境が劣悪になる、さらには工程数が増加することによる製造コスト高等、問題点が多い。コロナ放電処理では、設備投資によるコスト高や金属表面への均一な処理が困難であり、短時間にて表面処理の効果がなくなるという問題もある。
上記問題点を解決するモールディング用樹脂として、ホットメルトタイプのものが挙げられる(特許文献3、特許文献4参照)。モールド時の粘度を下げる為に樹脂を加温溶融させるだけのホットメルト接着剤は、溶剤含有系やエポキシ樹脂系における作業環境上の問題点が解決される。また、モールド後冷却するだけで固化して、性能を発現するので、生産性も高くなる。加えて、一般に熱可塑の樹脂を使用するので、製品としての寿命を終えた後も、加熱して樹脂を溶融除去することで、部材のリサイクルが容易に可能となる。しかし、モールディング用樹脂としての高い潜在能力を有しながら、これまでプライマー剤塗布などの成形前処理を充分に代替する材料となり得ていなかったのは、高温耐久性と接着性を両立した素材が提案されていなかったことによる。
結晶性樹脂にて高い接着性を有するホットメルトタイプのものも提案されている(特許文献5参照)が、電気電子部品封止用であるため低圧成形にて高い接着性が発現するような樹脂設計となっている。このホットメルトタイプ樹脂を大型成形品にて展開すると高い射出圧力が必要となるため、同じく金属部材である金型面への密着が顕著に見られ、金型離型性が極めて悪いという問題がある。さらには低圧成形のため、樹脂としての分子量を抑制しており、長期高温環境下での信頼性に乏しく、使用環境温度に制限があるという問題もあり、高い耐熱温度を必要とする自動車・家電用途での展開が困難であった。
そこで、本発明者らは、先に(1)ポリエステル、(2)ポリオレフィン、(3)エポキシ化合物、及び(4)粘着性付与剤を配合した樹脂組成物を提案した(特許文献6)。しかしながら、かかる樹脂組成物では、T型剥離強度においてはほぼ満足できる接着性であったが、180度ピーリング強度で判定できる金属との密着性に関しては、満足できるものではなく、特に表面硬度がD26以上になると、0℃−70℃サイクルのような冷温浴サイクルのような水によるヒートショックを受けると、金属部材と被覆材との密着性が低下し、金属部材との間に水分が侵入するなどによる防水性低下の問題が判明し、より高い金属部材に対する密着性を発現する樹脂組成物が求められている。
特開平6−255024号公報 特開2001−239548号公報 特開2002−309205号公報 特開平8−325539号公報 特開2010−150471公報 国際公開第2012/020750号パンフレット
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、鋼板、ステンレス等の金属部品に対して密着性に優れた被覆を可能にする金属被覆用樹脂組成物を提供しようとすることであり、さらに詳しくは、金属部品を被着体とするインサート成形において、被着体に対してプライマー塗布等といった成形前処理を必要とせずに、被着体に対して高度に密着できるのみならず、冷温浴サイクルのような水を含むヒートショックを受けても当該金属部品に対する密着性を維持できる金属被覆用樹脂組成物を提供することにある。
金属に対する接着性(密着性)の評価に関し、通常はT型剥離強度で評価することが多いが、特に高い材料強度が要求されず、また強い応力があまり加わらないような場合、180度ピーリング剥離強度による評価の方が適切な場合がある。例えば、金属と被覆材との間に水分が侵入することを防止しようとする場合、180度ピーリング剥離試験において、被覆材が界面剥離せずに被覆材の材料破壊が生じるほどに高い界面の密着性が重要であると考えられる。また、加熱による二次収縮の抑制も重要であると考えられる。そこで本発明者等は、この密着性の向上と二次収縮性の抑制に着目したのである。
本発明者等は鋭意検討し、以下の発明を提案するに至った。即ち本発明は、以下の通りである。
[1] (A)数平均分子量500以上4000以下のポリエーテルジオールを共重合し、該ポリエーテルジオールの含有量が50〜65質量%であるポリエステルエラストマ、(B)非晶性樹脂、(C)ポリオレフィンエラストマ、(D)エポキシ化合物及び(E)粘着性付与剤を、質量比で(A)+(B)/(C)/(D)/(E)=100/20〜50/10〜30/10〜30の割合で含有し、(A)/(B)=92〜63/8〜37とすることを特徴とする金属被覆用樹脂組成物。
[2] 前記(B)非晶性樹脂が、アクリル系樹脂であることを特徴とする[1]に記載の金属被覆用樹脂組成物。
[3] 前記(B)非晶性樹脂が、ABS樹脂であることを特徴とする[1]に記載の金属被覆用樹脂組成物。
[4] 前記(D)エポキシ化合物が、ビスフェノール型エポキシ樹脂、またはノボラック型エポキシ樹脂であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の金属被覆用樹脂組成物。
[5] 前記(E)粘着性付与剤が、ロジン化合物であることを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] [1]〜[5]のいずれかの金属被覆用樹脂組成物を用いてSUS鋼板をインサート成形して得られたSUS鋼板被覆体において、該樹脂組成物のSUS鋼板からの180度ピーリング強度(N/インチ)が、5(N/インチ)以上である金属被覆用樹脂組成物。
本発明の樹脂組成物は、金属部品を被着体とするインサート成形において、被着体に対してプライマー塗布等といった成形前処理を必要とせずに、被着体に対して高度に密着できるのみならず、冷温浴サイクルのような水分を含むヒートショックを受けても当該金属部品に対する密着性を維持できる。
[(A)ポリエステルエラストマ]
本発明に用いる(A)ポリエステルエラストマは、ジカルボン酸成分とグリコール成分からなり、グリコール成分の一成分として、数平均分子量500以上4000以下のポリエーテルジオールを共重合し、該ポリエーテルジオールの含有量が50〜65質量%である共重合ポリエステルである。ポリエーテルジオールの含有量は、ポリエステルエラストマの質量に対し、共重合されているポリエーテルジオールの質量の割合を指す。
(A)ポリエステルエラストマに使用するジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、これらの少なくとも一種が全ジカルボン酸成分中40モル%以上であることが、経済性・耐熱性の観点から好ましく、70モル%以上であることが、より好ましく、80モル%以上であることが、さらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸が特に好ましい。その他のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸等が挙げられる。
(A)ポリエステルエラストマに使用するポリエーテルジオール以外のグリコール成分としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の脂肪族グリコールが挙げられる。これらの中でも、耐熱性を付与する上でエチレングリコール、1,4−ブタンジオールのいずれかであることが好ましい。ポリエーテルジオール以外のグリコール成分は、全グリコール成分に対して、ポリエーテルジオールの含有量が50〜65質量%であることを満たして共重合される。
ポリエーテルジオールとして、具体的には、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリプロピレンエーテルグリコール、テトラメチレングリコールとネオペンチルグリコールの共重合体、テトラメチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体等が挙げられる。経済性と接着性の観点から、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリ(テトラメチレングリコール/ネオペンチルグリコール)(共重合体)が特に好ましい。
(A)ポリエステルエラストマにポリエーテルジオールを共重合する理由は、超低密度の後記する(C)ポリオレフィンエラストマ成分との容易な微分散・混合を達成するためである。
ポリエーテルジオールの数平均分子量が500未満であると、ポリオレフィンエラストマとの容易な微分散・混合が達成しづらくなることがある。一方、数平均分子量が4000を超えると、(A)のポリエーテルジオール部分以外のポリエステル部分との相溶性が低下し、ブロック状に共重合することが難しくなる場合がある。ポリエーテルジオールの数平均分子量は、800以上であることがより好ましく、1000以上であることがさらに好ましい。ポリエーテルジオールの数平均分子量は、3000以下であることがより好ましく、2000以下であることがさらに好ましい。
また、ポリエステルエラストマ中のポリエーテルジオールの含有量が、65質量%を超えると、(A)のポリエーテルジオール部分以外のポリエステル部分の凝集力が低下し、非晶性樹脂のブレンドでは目標とする硬度を達成できない。50質量%未満では成形時の収縮率が大きく密着性を妨げることが懸念される。ポリエーテルジオールの含有量は、53質量%以上63質量%以下がより好ましく、55質量%以上60質量%以下がさらに好ましい。
本発明に用いる(A)ポリエステルエラストマは、常温流通可能なように、融点160℃以上230℃以下の結晶性ポリエステルであることが好ましい。(A)ポリエステルエラストマの融点は、160〜220℃であることがより好ましい。融点160℃未満では、自動車・家電用としての耐熱特性を満たすことが困難であり、230℃超の融点では、溶融・分散時に(D)エポキシ化合物や(E)粘着性付与剤の耐熱温度を超過するため樹脂劣化を引き起こすことが懸念される。
本発明に用いる(A)ポリエステルエラストマの還元粘度は、後記する測定方法で測定した場合、0.50dl/g以上2.50dl/g以下であることが好ましい。0.50dl/g未満では、樹脂としての耐久性が低く、2.50dl/gを超えると、被着体への濡れ性が不十分になる可能性がある。また、(A)ポリエステルエラストマの酸価は200eq/t以下が好ましい。後記する(D)エポキシ化合物を樹脂組成物に含有するので、混合時のゲル化を避ける為に、50eq/t以下が特に好ましい。
本発明に用いる(A)ポリエステルエラストマの表面硬さは、後記する測定方法で測定した場合、38D未満であることが好ましい。38D未満ではポリエーテルジオールの成分量が多く、樹脂としての結晶性が低下しているためアニールによる寸法変化、二次収縮を小さくすることができる。38D以上ではジカルボン酸成分量が増加し、迅速な結晶化と、それに伴う熱収縮により防水性にも優れるような金属への密着性を阻害するおそれがある。
本発明に用いる(A)ポリエステルエラストマは、超低密度の(C)ポリオレフィンエラストマとの容易な微分散・混合を達成するために、密度が1.10g/cm以下のポリエーテルジオールを共重合していることが好ましい。
また、ポリエーテルジオール以外に、例えばダイマー酸、ダイマージオール等の長鎖のジカルボン酸成分および/またはグリコール成分を含んでも良いが、低温での接着性を付与する目的でグリコール成分としてポリエーテルジオールを用いることが、特に好ましい。
[(C)ポリオレフィンエラストマ]
本発明に用いる(C)ポリオレフィンエラストマは、比重が0.95g/cm以下の超低密度のポリオレフィンエラストマが好ましい。このような超低密度のポリオレフィンを使用することによって、元来非相溶のポリエステルエラストマと、容易に微分散・混合でき、特別な混練設備を必要とせず、良好な接着剤を得ることができる。また、低密度で結晶性も低いことで、ポリエステルに生じた射出成形時の残存応力の経時的な緩和にも適切に作用する。
このような特性を有するポリオレフィンエラストマは、超低密度ポリエチレン、エチレン共重合体が、入手容易、安価、金属やフィルムへの接着性に悪影響しない点で、特に好ましい。具体的には、超低密度ポリエチレン、エチレンプロピレンエラストマー、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−アクリル酸エチル−無水マレイン酸三元共重合体、エチレン−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン−酢酸ビニル−メタクリル酸グリシジル三元共重合体、エチレン−アクリル酸メチル−メタクリル酸グリシジル三元共重合体が挙げられる。これらの中でも、超低密度ポリエチレンやエチレンと他αオレフィン共重合体が好ましい。
また、本発明に用いる(C)ポリオレフィンエラストマの配合量は、(A)ポリエステルエラストマと(B)非晶性樹脂の合計に対して、質量比で(A)+(B)/(C)=100/20〜50である。(C)ポリオレフィンエラストマが20質量部未満の場合、(A)ポリエステルエラストマの結晶化やエンタルピー緩和によるひずみエネルギーの緩和が難しいため、密着強度が経時的に低下する傾向がある。また、(C)ポリオレフィンエラストマを、50質量部を超えて配合した場合、樹脂組成物がもつ接着特性を打ち消してしまう傾向がある。また相分離により、大幅な機械物性の低下、射出成形時の層間剥離など成形性に悪影響を及ぼす場合がある。
初期密着性並びに、水分を伴う時の耐ヒートショック性を考慮した密着性を満足した上で、離型性、成形性(被着体との剥離なし)を満足させるためには、前記質量比は、(A)+(B)/(C)=100/20〜40であることが好ましい。
[(D)エポキシ化合物]
本発明に用いる(D)エポキシ化合物とは、分子中にグリシジル基を有するエポキシ樹脂のことである。分子中にグリシジル基は平均1.1個以上であることが好ましい。これらの中でも、ビスフェノール型エポキシ樹脂または、ノボラック型エポキシ樹脂であることが好ましい。
具体的には、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、ノボラックグリシジルエーテル、ブロム化ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテルタイプ等などが挙げられる。これらのエポキシ化合物は、(A)ポリエステルエラストマを可塑化することで、(A)ポリエステルエラストマの結晶化を制限し、またはエンタルピー緩和を抑制することで、経時的な接着界面での応力発生を防ぐ。また、金属表面との密着性を向上させる。従って、特に、接着力を大幅に向上させるためには、(A)ポリエステルエラストマに対して相溶性の良いものが好ましい。ここでエポキシ化合物の数平均分子量は、得られる組成物の機械的物性や(A)ポリエステルエラストマとの相溶性の観点から、450〜40000が好ましい。
本発明の樹脂組成物における(A)ポリエステルエラストマと(B)非晶性樹脂の合計に対する(D)エポキシ化合物の配合比は、質量比で(A)+(B)/(D)=100/10〜30である。(D)エポキシ化合物が、30質量部より多いと、機械的特性が劣り接着性、耐熱性が低下するおそれがある。また、十分な溶融特性が得られず成形性も不十分となることがある。一方、(D)エポキシ化合物が10質量部未満であると被着体との密着性に劣り、接着性が低下する場合がある。
初期密着性並びに、水分を伴う時の耐ヒートショック性を考慮した密着性を満足した上で、離型性、成形性(被着体との剥離なし)を満足させるためには、前記質量比は、(A)+(B)/(D)=100/15〜30であることが好ましい。
本発明に用いる(E)粘着性付与剤は、軟化温度が60℃以上のものが好ましい。軟化温度が60℃以上では、射出成形時の冷却・固化に時間を要することなく、生産サイクルが短くなるため好ましい。
具体的には、ロジン及びロジン誘導体、テルペンフェノール、純粋なフェノール樹脂等を使用できる。より詳細な具体例は、例えば(あ)天然及び改質ロジン、例えばガムロジン、木材ロジン、タル油ロジン、蒸留したロジン、水素化ロジン、二量化ロジン、及び重合したロジン、(い)天然及び改質ロジンのグリセロール及びペンタエリトリトールエステル、例えば木材ロジンのグリセロールエステル、水素化ロジンのグリセロールエステル、重合したロジンのグリセロールエステル、水素化ロジンのペンタエリトリトールエステル、及びロジンのフェノール改質ペンタエリトリトールエステル、(う)フェノール改質テルペン樹脂及びその水素化誘導体、例えば二環テルペンとフェノールの酸性媒体中での縮合により得られる樹脂生成物、(え)熱可塑性アルキルフェノール樹脂である。上記粘着付与樹脂の2種以上の混合物、並びに上記樹脂と少量(例えば10質量%未満)の相溶性樹脂のブレンドを用いてもよい。
本発明において、粘着性付与剤は、次の理由により、ロジン化合物であることが好ましい。ロジン化合物を用いることにより、金属板との密着力が増大する。これは、樹脂組成物中のロジン化合物が、経時的に金属接着面に対してブリードし、金属面との親和性が上昇するため、また、ロジン化合物としての凝集力が向上するためである。
また、ロジン化合物の酸価は、ポリエステルとの相溶性や耐水性の点から、2〜300(KOH mg/g)が好ましい。
本発明の樹脂組成物における(A)ポリエステルエラストマと(B)非晶性樹脂の合計に対する(E)粘着性付与剤の配合比は、質量比で(A)+(B)/(E)=100/10〜30である。(E)粘着性付与剤が30質量部より多いと、樹脂組成物の機械特性が劣り密着性、耐熱性が低下するおそれがある。また、相分離による射出成形時の層間剥離などの問題が、発生するおそれがある。一方、(E)粘着性付与剤が10質量部未満であると被着体との密着性が低下する場合がある。
初期接着性並びに、水分を伴う時の耐ヒートショック性を考慮した密着性を満足した上で、離型性、成形性(被着体との剥離なし)を満足させるためには、前記質量比は、(A)+(B)/(E)=100/15〜25であることが好ましい。
本発明に用いる(B)非晶性樹脂は、180度ピーリング強度を向上させ、水分含んだ耐ヒートショック性を向上させるために必須の成分であるが、本発明に用いる(B)非晶性樹脂とは、後記する実施例記載の示差走査熱量分析計(DSC)により求めた融解ピーク並びに結晶融解熱量が観測されない樹脂であり、アクリル系樹脂などの非晶性樹脂が挙げられる。
アクリル系樹脂としては、ABS(アクリルニトリル/ブタジエンゴム/スチレン共重合体)、AES(アクリルニトリル−スチレン/エチレン−プロピレンゴムグラフト共重合体)、ASA(アクリルニトリル−スチレン/アクリル酸エステルグラフト共重合体)、スチレン−アクリル共重合体、MBS(メチル(メタ)アクリレート/ブタジエンゴム/スチレン共重合体)、メタクリル酸エステル−アクリルニトリル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体、メタクリル酸エステル/アクリル酸エステルゴムグラフト共重合体などが挙げられるが、相溶性、成形性の点でABS樹脂が好ましい。
180度ピーリング強度を向上させ、水分含んだ耐ヒートショック性を向上させるために、(B)非晶性樹脂の他に、低結晶性樹脂を併用しても良い。低結晶性樹脂としては、低結晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。低結晶性共重合ポリエステル樹脂としては、イソフタル酸共重合PBTが相溶性の点で好ましい。テレフタル酸/イソフタル酸のモル比率は、90/10〜30/70が好ましく、より好ましくは80/20〜50/50である。
本発明の樹脂組成物における(B)非晶性樹脂の配合比は、(A)+(B)を100とした時、質量比で(A)/(B)=92〜63/8〜37である。(A)/(B)=92〜66/8〜34であることが好ましい。(B)非晶性樹脂が37質量部より多いと、相溶性(押出性)が悪化したり、樹脂組成物の機械特性が劣り、耐熱性が低下するおそれがある。また、相分離による射出成形時の層間剥離などの問題が、発生するおそれがある。一方、(B)非晶性樹脂が8質量部未満であると被着体との密着性が向上しない場合がある。配合比は、質量比で(A)/(B)=85〜66/15〜34が、二次収縮抑制効果が優れる点で好ましい。
本発明の(A)ポリエステルエラストマの製造方法としては、公知の方法をとることができるが、例えば、上記のジカルボン酸及びジオール成分を150〜250℃でエステル化反応後、減圧しながら230〜300℃で重縮合することにより、目的のポリエステルを得ることができる。あるいは、上記のジカルボン酸のジメチルエステル等の誘導体とジオール成分を用いて150〜250℃でエステル交換反応後、減圧しながら230〜300℃で重縮合することにより、目的のポリエステルエラストマを得ることができる。
ポリエステルエラストマの重合時に、ジカルボン酸成分及びポリエーテルジオールは反応系外に出ることはほとんど無いので、これらの配合量から、ポリエステルエラストマ中のポリエーテルジオールの含有量は算出可能である。
さらには本発明の樹脂組成物に高温長期間の耐久性を必要とする場合は、酸化防止剤を添加することが好ましい。例えば、ヒンダードフェノール系として、1,3,5−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,1,3−トリ(4−ヒドロキシ−2−メチル−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,1−ビス(3−t−ブチル−6−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロパノイック酸、ペンタエリトリトールテトラキス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられ、また、燐系として、3,9−ビス(p−ノニルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(オクタデシロキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジフォスファスピロ[5.5]ウンデカン、トリ(モノノニルフェニル)フォスファイト、トリフェノキシフォスフィン、イソデシルフォスファイトが挙げられる。これらを単独に、または複合して使用できる。添加量は、質量基準で、0.1%以上5%以下が好ましい。0.1%未満だと熱劣化防止効果に乏しくなることがある。5%を超えると、密着性等に悪影響を与える場合がある。
本発明の樹脂組成物には、その他各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、本発明以外の樹脂、無機フィラー、安定剤、紫外線吸収剤、及び老化防止剤を熱可塑性接着剤への添加剤として広く用いられているものを本発明の特徴を損なわない範囲で添加することができる。
本発明の樹脂組成物は、(A)ポリエステルエラストマ、(B)非晶性樹脂、(C)ポリオレフィンエラストマ、(D)エポキシ化合物、及び(E)粘着性付与剤の合計で、60質量%以上を占めることが好ましい。(A)〜(E)の合計で、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がいっそう好ましい。
本発明以外の樹脂としては、(A)以外のポリエステル樹脂、(C)以外のポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂、(E)以外のフェノール樹脂、フェノキシ樹脂、石油樹脂等を添加することができる。
無機フィラーとしては、タルク、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、クレー、ベントナント、フュ−ムドシリカ、シリカ粉末、雲母等を本発明の樹脂組成物100質量部に対して40質量部以下配合することができる。
また、その他の添加剤として、各種金属塩等の結晶核剤、着色顔料、無機、有機系の充填剤、タック性向上剤、クエンチャー、金属不活性化剤、UV吸収剤、HALS等の安定剤、シランカップリング剤、難燃剤等を添加することもできる。
本発明の樹脂組成物の組成、及び組成比を決定する方法としては、試料を重クロロホルム等の溶剤に溶解して測定するH−NMRのプロトン積分比から算出することも可能である。
本発明の樹脂組成物の製造方法としては、本発明のポリエステルエラストマとエポキシ化合物、ポリオレフィンエラストマ、粘着性付与剤及び非晶性樹脂、並びに上記の任意成分を単軸もしくは二軸のスクリュー式溶融混錬機、または、ニーダー式加熱機に代表される通常の熱可塑性樹脂の混合機を用いて製造し、引き続き造粒工程によりペレット化する。
本発明の樹脂組成物を金属の被覆剤として用いる方法として、好ましくは、前述の製造方法により造粒されたペレットを使用し、金型内部に被着体である金属部品板をインサートし、射出成形により被覆させる方法である。
本発明の被覆剤を用い、主に金属部品を被覆させるわけであるが、金属としては、鋼、ステンレス等に使用できる。
本発明の金属被覆用樹脂組成物を用いてSUS鋼板をインサート成形して得られたSUS鋼板被覆体において、下記実施例の項に記載の方法で、該樹脂組成物のSUS鋼板からの180度ピーリング強度(N/インチ)を測定したとき、該ピーリング強度は5(N/インチ)以上である。該ピーリング強度は10(N/インチ)以上が好ましく、12.5(N/インチ)以上がより好ましい。
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例によってなんら限定されるものではない。尚、実施例に記載された各測定値は次の方法によって測定したものである。
[融点、融解熱量]:
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」にて、測定試料5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封し、一度250℃で5分ホールドして試料を完全に溶融させた後、液体窒素で急冷して、その後−150℃から250℃まで、20℃/minの昇温速度で測定した。得られた曲線の吸熱ピークを融点とした。また、融解熱量(J/g)は融解ピーク面積からを求めた。
[還元粘度]:
充分乾燥したポリエステル系樹脂0.10gをフェノール/テトラクロロエタン(質量比6/4)の混合溶媒25mlに溶解し、ウベローゼ粘度計にて30℃で測定した。
[表面硬さ]:
ASTM D2240にしたがって測定した。
[二次収縮率]:
(測定用成形サンプルの成形)
本発明の実施例及び比較例の樹脂組成物の各ペレットを用い、電動射出成形機EC−100N(東芝成形機械社製)を用いて幅100mm、長さ100mm、厚さ2.0mmの測定用サンプルを作成した。この際の成形温度はホッパー下からノズル先まで170〜210℃で、金型温度は40℃にて行った。
(測定方法)
得られた成形サンプルについて、70℃の環境下に1時間静置した後取り出し、成形サンプルのサイズをノギスを用いて測定を行った。
[ピーリング強度測定方法]:
(測定用インサート成形サンプルの作成)
本発明の実施例及び比較例の樹脂組成物の各ペレットを用い、インサート金属板として幅25mm、長さ100mm、厚さ2.0mmのSUS鋼板を用い、以下の方法で射出成形機を用いて測定用インサート成形サンプルを作成した。すなわち、射出成形機には電動射出成形機EC−100N(東芝成形機械社製)を使用し、幅25mm、長さ100mm、厚さ4mmの金型に前記の金属板をインサートし、射出成形した。この際の成形温度はホッパー下からノズル先まで170〜210℃で、金型温度は40℃にて行った。
(測定方法)
得られたインサート成形サンプルについて、東洋ボールドウイン社製RTM100を用いて、25℃雰囲気下で、50mm/minの引張速度でピーリング強度を測定した。
ピーリング剥離強度(初期)は、下記の基準にて評価を行った。
◎ :12.5N/インチ以上
○ :10N/インチ以上12.5N/インチ未満
△ :5N/インチ以上10N/インチ未満
× :5N/インチ未満
(ピーリング試験後の剥離状況の観察)
剥離状況を以下の基準で評価した。
◎ :全面にわたって被覆材の材料破壊が認められる。
○ :部分的に被覆材の材料破壊が認められる。
× :被覆材の材料破壊が認められない(層間剥離)。
[冷温浴サイクル試験]:
インサート成形サンプルを「0℃の水槽に30分間浸漬後、70℃の温水槽に30分間浸漬する」を1サイクルとし、50サイクル後に、上記と同様のピーリング強度を測定した。
ピーリング剥離強度は、以下の基準で評価した。
◎ :10N/インチ以上
○ :6N/インチ以上10N/インチ未満
△ :4N/インチ以上6N/インチ未満
× :4N/インチ未満
[ポリエステルエラストマの製造例]:
(ポリエステルエラストマA1)
撹拌機、温度計、溜出用冷却器を装備した反応缶内にテレフタル酸35質量部、1,4−ブタンジオール40質量部、テトラブチルチタネート0.4質量部を加え、170〜220℃で2時間エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、数平均分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール「PTMG1000」(三菱化学社製、密度0.98g/cm)を60質量部とヒンダードフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1330」(チバスペシャリティケミカルズ(株)社製)を0.8質量部投入し、255℃まで昇温する一方、系内をゆっくり減圧にしてゆき、60分かけて255℃で重縮合反応を行い、ポリエステルエラストマ(A1)を得た。このポリエステルエラストマ(A1)の全グリコール成分に対するポリテトラメチレンエーテルグリコール割合は28mol%、ポリエステルエラストマ中のポリエーテルジオールの含有量は59質量%、融点は172℃、ガラス転移温度は−50℃で、還元粘度は1.7dl/g、酸価は20eq/tであった。
(ポリエステルエラストマA2)
テレフタル酸44質量部、1,4−ブタンジオール50質量部、テトラブチルチタネート0.4質量部を加え200〜250℃で2時間エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、数平均分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール「PTMG1000」(三菱化学社製、密度0.98g/cm)を50質量部とヒンダートフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1330」(チバスペシャリティケミカルズ(株)社製)を0.8質量部投入し255℃まで昇温する一方、系内をゆっくり減圧にしてゆき、60分かけて255℃で重縮合反応を行い、ポリエステルエラストマ(A2)を得た。このポリエステルエラストマ(A2)の全グリコール成分に対するポリテトラメチレンエーテルグリコール割合は19mol%、ポリエステルエラストマ中のポリエーテルジオールの含有量は48質量%、融点は182℃、ガラス転移温度は−45℃で、還元粘度は1.7dl/g、酸価は20eq/tであった。
(ポリエステルエラストマA3)
テレフタル酸47質量部、1,4−ブタンジオール55質量部、テトラブチルチタネート0.4質量部を加え200〜250℃で2時間エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、数平均分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール「PTMG1000」(三菱化学社製、密度0.98g/cm)を45質量部とヒンダートフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1330」(チバスペシャリティケミカルズ(株)社製)を0.8質量部投入し255℃まで昇温する一方、系内をゆっくり減圧にしてゆき、60分かけて255℃で重縮合反応を行い、ポリエステルエラストマエラストマ(A3)を得た。このポリエステルエラストマ(A3)の全グリコール成分に対するポリテトラメチレンエーテルグリコール割合は16mol%、ポリエステルエラストマ中のポリエーテルジオールの含有量は44質量%、融点は200℃、ガラス転移温度は−35℃で、還元粘度は1.7dl/g、酸価は20eq/tであった。
(ポリエステルエラストマA4)
テレフタル酸36質量部、1,4−ブタンジオール40質量部、テトラブチルチタネート0.4質量部を加え200〜250℃で2時間エステル化反応を行った。エステル化反応終了後、数平均分子量2000のポリテトラメチレンエーテルグリコール「PTMG2000」(三菱化学社製、密度0.98g/cm)を60質量部とヒンダートフェノール系酸化防止剤「イルガノックス1330」(チバスペシャリティケミカルズ(株)社製)を0.8質量部投入し255℃まで昇温する一方、系内をゆっくり減圧にしてゆき、60分かけて255℃で重縮合反応を行い、ポリエステルエラストマエラストマ(A4)を得た。このポリエステルエラストマ(A4)の全グリコール成分に対するポリテトラメチレンエーテルグリコール割合は14mol%、ポリエステルエラストマ中のポリエーテルジオールの含有量は57質量%、融点は203℃、ガラス転移温度は−30℃で、還元粘度は1.7dl/g、酸価は20eq/tであった。
実施例1
上記ポリエステルエラストマの製造例で得られたポリエステルエラストマA1、ポリオレフィンエラストマとして、超低密度ポリエチレン(住友化学(株)製 エクセレン EUL731 密度0.90g/cm)、エポキシ化合物として、JER1007K(ジャパンエポキシ化学(株)社製、ノボラック型エポキシ樹脂)、粘着性付与剤として、KE604(荒川化学工業(株)社製 高酸価型ロジン)及び非晶性樹脂として、ABS樹脂(テクノポリマー株式会社社製テクノABS330C)を、200℃にて、ニーディングゾーンを3ヶ所有する二軸スクリュー式押出し機にて、混練・ペレット化した。このペレットを用いて、前記の評価を行った。結果を表1に示す。
実施例2〜5、比較例1〜6
表1記載の組成で、同様に実施した。ポリエステルエラストマA3、A4を用いた場合は、220℃で実施した。結果を表1に示す。
表1に示すように、本発明の樹脂組成物を用いたものにおいては、組成物の相溶性が良く、押出機からのストランドの引取性(押出性)に問題なく、二次収縮率が0.24%以下に抑制されているのみならず、180ピーリング試験で、界面全体に被覆材の材料破壊が認められ、初期ピーリング強度及び冷温浴サイクル処理後のピーリング強度が、満足できるレベルである。
一方、比較例1〜5の本発明外の樹脂組成物は、押出性は問題なかったが、180ピーリング試験で、比較例2、4で部分的に材料破壊が認められるだけで比較例1、3、5は層間剥離しており、初期ピーリング強度及び冷温浴サイクル処理後のピーリング強度が、満足できるレベルでない。また非晶性樹脂を用いない比較例6では表面硬度が満足できるレベルではない。
本発明の樹脂組成物は、複雑な形状を有する金属部品に対しても、射出成形によって、当該金属部品に種々の特性を付与できる。すなわち、複雑な形状を有する金属部品に対しても、射出成形によって、特に防水性がある電気絶縁性の付与が可能となる。

Claims (4)

  1. (A)数平均分子量500以上4000以下のポリエーテルジオールを共重合し、該ポリエーテルジオールの含有量が50〜65質量%であるポリエステルエラストマ、(B)非晶性樹脂、(C)ポリオレフィンエラストマ、(D)エポキシ化合物及び(E)粘着性付与剤を、質量比で(A)+(B)/(C)/(D)/(E)=100/20〜50/10〜30/10〜30の割合で含有し、(A)/(B)=92〜63/8〜37であり、前記(B)非晶性樹脂が、ABS樹脂であることを特徴とする金属被覆用樹脂組成物。
  2. 前記(D)エポキシ化合物が、ビスフェノール型エポキシ樹脂、またはノボラック型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の金属被覆用樹脂組成物。
  3. 前記(E)粘着性付与剤が、ロジン化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属被覆用樹脂組成物。
  4. 請求項1〜のいずれかの金属被覆用樹脂組成物を用いてSUS鋼板をインサート成形して得られたSUS鋼板被覆体において、該樹脂組成物のSUS鋼板からの180度ピーリング強度(N/インチ)が、5(N/インチ)以上である金属被覆用樹脂組成物。
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