JP6171891B2 - 熱履歴表示材 - Google Patents

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Description

本発明は、ある物品が経験する熱履歴を表示するための熱履歴表示材に関し、より詳しくは、所定の染料を含有する熱履歴表示層を備えており、その熱履歴表示層の色相変化によって物品が経験する熱履歴を表示することができる熱履歴表示材に関する。
各種製品や食品等の物品の保存状態、品質又は安全性を管理することなどを目的として、温度変化によって色相が変化する示温材を物品に貼着し、当該物品が経験する温度変化を、示温材の色相変化から把握する技術が従来公知である(例えば、特許文献1)。
しかし従来の示温材は、その構成が極めて複雑であった。また、経験した温度変化を表示することはできても、熱履歴を表示するものではなく、すなわち、経験した温度及びその温度下に置かれる時間の経歴(温度−時間経歴)に基づいて色相変化するものではなかった。
上記従来の問題を解決可能な示温材として、特許文献2には、高分子と、該高分子中に特定の分子分散状態で固定された染料とからなるポリマー組成物を含む温度時間経歴表示体が記載されている。この温度時間経歴表示体は、特定温度以上の温度で一定時間以上保持されると、初期の色相とは異なる色相に変色する。
特開平07−049656号公報 特開2009−299013号公報
上述した温度時間経歴表示体のような熱履歴表示材は、ある物品に貼着等して、当該物品の熱履歴(温度−時間経歴)を色相変化によって表示する用途に好適に適用できるものであるところ、当該物品の熱履歴を正確に表示できることが求められる。
そこで本発明は、色相変化によって、物品の熱履歴(温度−時間経歴)を正確に表示することのできる熱履歴表示材の提供を目的とする。
本発明は、以下に示す熱履歴表示材を提供する。
[1] 第1の被覆層と、
エキシマー状態とモノマー状態とで異なる蛍光波長を有する会合性の蛍光染料が特定の分子分散状態で固定されている熱履歴表示層と、
第2の被覆層と、をこの順に含み、
前記熱履歴表示層は、特定温度以上の温度で一定時間以上保持されたときに、初期の色相とは異なる色相に変色する層であり、
前記第1の被覆層の25℃における熱伝導性が1×104W/m2K以下である、熱履歴表示材。
[2] 前記第2の被覆層の25℃における熱伝導性が2×106W/m2K以上である、請求項1に熱履歴表示材。
[3] 前記熱履歴表示層は、バインダー樹脂と、該バインダー樹脂中に分散される前記蛍光染料とを含有する、[1]又は[2]に記載の熱履歴表示材。
[4] 前記熱履歴表示層の側面を被覆する第3の被覆層をさらに含み、
前記熱履歴表示層の一方の主面を被覆するように前記第1の被覆層が前記熱履歴表示層上に配置され、
前記熱履歴表示層の他方の主面を被覆するように前記第2の被覆層が前記熱履歴表示層上に配置される、[1]〜[3]のいずれかに記載の熱履歴表示材。
[5] 前記第3の被覆層は、厚み方向に貫通する貫通口を有する層であり、
前記熱履歴表示層は、前記貫通口内に埋設されている、[4]に記載の熱履歴表示材。
[6] 前記第1の被覆層は、透光性樹脂層を含む、[1]〜[5]のいずれかに記載の熱履歴表示材。
[7] 前記第2の被覆層は、金属層を含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の熱履歴表示材。
[8] 前記第2の被覆層における前記熱履歴表示層とは反対側の面に積層される接着性樹脂層をさらに含む、[1]〜[7]のいずれかに記載の熱履歴表示材。
[9] 前記熱履歴表示層において、前記蛍光染料の分子がモノマー状態で固定されている、[1]〜[8]のいずれかに記載の熱履歴表示材。
[10] 前記蛍光染料は、下記式:
Figure 0006171891
(式中、Rは各々独立に、水素、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数1〜36のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン基、フェニレンビニレン基又はシアノ基を示し、
1は各々独立に、水素、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数1〜36のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン基、フェニレンビニレン基又はシアノ基を示し、
2は各々独立に、水素、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数1〜36のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン基、フェニレンビニレン基又はシアノ基を示す。)
で表わされるオリゴフェニレンビニレン化合物である、[1]〜[9]のいずれかに記載の熱履歴表示材。
本発明の熱履歴表示材(ラベル)は、特定温度以上の温度で一定時間以上保持されたときに、初期の色相とは異なる色相に不可逆的に変色する熱履歴表示層を備えており、自身が経験した熱履歴(温度−時間経歴)を、熱履歴表示層の色相変化によって正確に表示することができる。このような熱履歴表示材を物品に貼着等しておくことにより、当該物品の熱履歴、すなわち、特定温度以上での経過時間の経歴(特定温度以上の温度で一定時間以上保持されたか否か)を、熱履歴表示層の色相変化によって正確にかつ容易に判別することができる。
とりわけ、本発明の熱履歴表示材は、それが貼着等される物品が置かれる環境温度に関わらず(又はおよそ関わらず)、当該物品の熱履歴を安定して正確に表示することができる点で極めて有利である。
本発明に係る熱履歴表示材の一実施形態を模式的に示す断面図である。 図1に示される熱履歴表示材に用いる第3の被覆層を模式的に示す上面図である。 実施例1で作製した熱履歴表示材を模式的に示す断面図である。
以下、実施の形態を示して、本発明に係る熱履歴表示材について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る熱履歴表示材の一実施形態を模式的に示す断面図である。図1に示される熱履歴表示材1は、第1の被覆層10;蛍光染料を含有し、特定温度以上の温度で一定時間以上保持されたときに、初期の色相とは異なる色相に不可逆的に変色する熱履歴表示層20;第2の被覆層40をこの順に含む。また、熱履歴表示層20の側面を被覆するように第3の被覆層30が配置されており、第2の被覆層40における熱履歴表示層20とは反対側の面に積層される第3の接着性樹脂層50をさらに備えている。熱履歴表示材1は、第1の被覆層10が最表面となるように、熱履歴を検知する対象の物品に貼着等して使用され、具体的には、第3の接着性樹脂層50を用いて当該物品に貼着して使用される。
(1)熱履歴表示層
熱履歴表示層20は、所定の蛍光染料が特定の分子分散状態で固定されている層であり、特定温度以上の温度で一定時間以上保持されたときに、初期の色相とは異なる色相に不可逆的に変色する性質を有している。このような性質を発現させるため、本発明では、上記蛍光染料としてエキシマー状態とモノマー状態とで異なる蛍光波長を有する会合性の蛍光染料を用いる。
上記会合性の蛍光染料は、その分子分散状態によって異なる色相を呈するものであり、また、特定の分子分散状態にある該蛍光染料を用いて熱履歴表示層20を形成したときでも、熱履歴表示層20内でその特定の分子分散状態を保持できるものである。このような蛍光染料を含む熱履歴表示材1が、特定温度以上で所定時間以上保持されると、熱履歴表示層20内に含まれる蛍光染料分子の分子分散状態が変化し、その結果、蛍光染料(従って熱履歴表示層20)の色相が変化する。
エキシマー状態とモノマー状態とで異なる蛍光波長を有する会合性の蛍光染料は、通常、蛍光染料分子が互いに近接するとき、一方が光を吸収して励起状態となると、他方の基底状態の分子とエキシマー(励起会合体)を形成し、モノマー発光よりも長波長側のエキシマー発光を示す。
「エキシマー状態」とは、複数の蛍光染料分子同士が互いに会合又は近接した状態であって、複数の蛍光染料分子同士が会合又は近接することにより、分子間のエネルギー転移により蛍光染料分子単独による発光(モノマー発光)よりも長波長での発光(エキシマー発光)を起こす状態を意味する。一方、「モノマー状態」とは、蛍光染料分子同士がエキシマー状態よりも離間した状態にあるために蛍光染料分子間のエネルギー授受が起こらず、その時の蛍光染料分子の発光(モノマー発光)が、単一の励起分子が基底状態に戻る際の発光に相当している状態を意味する。
モノマー状態とエキシマー状態の遷移の境界は連続的なものである。従って、モノマー状態からエキシマー状態への移行又はエキシマー状態からモノマー状態への移行において、蛍光染料分子は部分的にモノマー状態とエキシマー状態が混合された状態を経るため、熱履歴表示層20の発光光の色相は連続的(又は段階的)に変化するように見える。熱履歴表示層20の色相が熱履歴(温度−時間経歴)に応じて連続的(又は段階的)に変色することは、熱履歴表示材1が貼着された物品のより詳細な熱履歴を知ることができる点で好ましい。
本発明で用いる蛍光染料は、エキシマー発光及びモノマー発光がともに可視領域にある。これにより、特定温度以上の温度で一定時間以上保持したときに、初期の色相とは異なる色相に変色する性質を熱履歴表示層20に付与することができる。
蛍光染料が示すエキシマー発光とモノマー発光との極大蛍光波長の差は、100nmよりも大きいことが好ましい。さらに好ましくは120nm以上、最も好ましいのは150nm以上である。極大蛍光波長の差が100nm以下であると、特定温度以上の温度で一定時間以上保持されたときの色相変化が小さく、色相変化を目視で識別するのが難しいことがある。
熱履歴表示層20の色相を目視にて容易に確認できることから、蛍光染料は、可視領域の光によって励起され、蛍光を発し得るものであることが好ましい。これにより、物品が置かれる通常の環境下(照明下や太陽光下)で熱履歴表示層20の色相を目視にて容易に識別することができる。モノマー状態の蛍光染料が吸収できる可視光の波長及びその波長での吸光度と、エキシマー状態の蛍光染料が吸収できる可視光の波長及びその波長での吸光度とは、同じであってもよいし、少なくとも一部が異なっていてもよい。
モノマー状態及びエキシマー状態のいずれもが可視光によって励起され、可視領域の蛍光を発し得る、好ましく用いられる蛍光染料は、オリゴフェニレンビニレン化合物類である。なかでも、色相変化が比較的顕著であり、目視確認しやすいオリゴフェニレンビニレン化合物類として、下記式:
Figure 0006171891
で表わされる化合物を挙げることができる。上記式中、Rは各々独立に、水素、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数1〜36のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン基、フェニレンビニレン基又はシアノ基を示し、R1は各々独立に、水素、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数1〜36のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン基、フェニレンビニレン基又はシアノ基を示し、R2は各々独立に、水素、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数1〜36のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン基、フェニレンビニレン基又はシアノ基を示す。
上記式において、Rは、好ましくは水素はヒドロキシル基であり、さらに好ましくは水素である。R1は、好ましくは炭素数1〜36のアルコキシ基であり、さらに好ましくは炭素数15〜36のアルコキシ基である。またR2は、好ましくは炭素数1〜36のアルコキシ基であり、さらに好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基である。
熱履歴表示層20は、蛍光染料とともにバインダー樹脂を含有する層であることが好ましい。この場合、熱履歴表示層20において蛍光染料は、バインダー樹脂中に分散・固定される。
バインダー樹脂は、透光性を有し、蛍光染料を均一に溶解分散し得るものが選択される。また、バインダー樹脂は、加熱、冷却に対して物性が可逆的に変化する樹脂であることが好ましく、加工性等の観点からは、溶剤可溶性樹脂又は熱可塑性樹脂であることが好ましい。バインダー樹脂のガラス転移温度は、加工性等の観点から、好ましくは50℃以上である。
好ましく用いられるバインダー樹脂の具体例は、ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等);シクロオレフィン系樹脂;ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、PETと1,4−シクロヘキサンジメタノールとの共重合体(PETG)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等);ポリカーボネート系樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリアミドイミド系樹脂;ポリエーテルイミド系樹脂;ポリウレタン系樹脂;ポリビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリ2−ビニルピリジン、ポリビニルブチラル等);ポリスチレン系樹脂;ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン6.6、ナイロン12、ナイロン4.6等);ポリアクリロニトリル樹脂;アクリル系樹脂(ポリアクリル酸樹脂の他、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリレート、ポリブチルアクリレート等のポリアクリレート樹脂など);ポリアセタール系樹脂;ポリアクリルアミド系樹脂;ポリグリコール系樹脂;共重合樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン、エチレンビニルアセテート等);ポリアリルスルホン系樹脂;ポリフェニレンオキサイド系樹脂;熱硬化性樹脂;再生セルロース系樹脂(セロファン、セルロースアセテート、セルロールアセテートブチレート等);天然繊維(羊毛、絹、綿等);また、エラストマー類として、スチレンブタジエン共重合体、ポリブタジエン、エチレンプロピレン共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ニトリルゴム、シリコーンゴム、熱可塑性エラストマー、などのような合成ポリマーの単独重合体又は共重合体を含む。また、ゼラチン、セルロース、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、変性ポリビニルアルコール、カゼインのような生分解性高分子や、パラフィンのような炭化水素化合物も使用し得る。これらのなかでも、ポリエステル類を用いることが好ましく、特にPET、PETGを用いることが好ましい。
熱履歴表示層20において、バインダー樹脂と蛍光染料とは、適度な相溶性(親和性)を有することが好ましい。「適度な相溶性(親和性)」とは、バインダー樹脂及び該バインダー樹脂中に特定の分子分散状態で固定された蛍光染料が、特定温度以上の温度で一定時間以上保持されたときに、初期の色相とは異なる色相に不可逆的に変色する程度の相溶性である。バインダー樹脂と蛍光染料との相溶性が低すぎる場合には、作製された熱履歴表示層20において両者は分離したままの状態であり、また、特定温度以上の温度で一定時間以上保持してもこの状態が維持される。この場合、蛍光染料分子は常に近接した状態にあるので、特定温度以上の温度で一定時間以上保持する前後のいずれにおいても、モノマー状態を発現させることができない。
一方、バインダー樹脂と蛍光染料との相溶性が高すぎる場合には、蛍光染料が完全にバインダー樹脂に溶解した状態となるため、熱履歴表示層20における蛍光染料の含有量によっては、特定温度以上の温度で一定時間以上保持する前後のいずれにおいても、蛍光染料分子が離間して分散された状態となり、エキシマー状態を発現させることができない。
適度な相溶性を有するバインダー樹脂と蛍光染料の組み合わせの一例は、バインダー樹脂としてのポリエステル樹脂(特に、PET、PETG)又はポリスチレン類と、蛍光染料としての、R1が炭素数15〜36のアルコキシ基であり、R2が炭素数1〜3のアルコキシ基である上記式で表わされるオリゴフェニレンビニレン化合物との組み合わせである。バインダー樹脂と蛍光染料との相溶性を適度なものとすることにより、バインダー樹脂中の蛍光染料が特定温度以上の温度で一定時間以上保持されたときに、その分子分散状態に応じた色相変化を示すようになる。
熱履歴表示層20における蛍光染料の含有量は、バインダー樹脂100重量%に対して0.01〜10重量%であることが好ましく、0.1〜8重量%であることがより好ましく、0.5〜5重量%であることがさらに好ましい。蛍光染料の含有量はこのような範囲において、蛍光染料が特定温度以上の温度で一定時間以上保持されたときに、初期の色相とは異なる色相に変色するように、バインダー樹脂と蛍光染料との相溶性に応じて調整されることが望ましい。
熱履歴表示層20中の蛍光染料の分子は、初期においてモノマー状態で分散・固定されていることが好ましい。この場合、熱履歴表示材が特定温度以上に所定時間以上曝されることにより、蛍光染料分子の分散状態がエキシマー状態に移行し、蛍光染料の色相が変化する。
「特定温度」は、熱履歴表示層20のガラス転移温度以上の温度であることが好ましい。ガラス転移温度未満では、バインダー樹脂によって蛍光染料分子同士が十分離間・分散した状態で拘束され、その分散状態は変化しないが、ガラス転移温度以上になることによって、バインダー樹脂の高分子鎖の絡み合いが緩くなるとともに高分子鎖の運動が大きくなり、この拘束が解かれ、蛍光染料分子が移動可能となり、エキシマー(励起会合体)を形成して色相が変化(レッドシフト)し始める。特定温度以上の温度に曝される時間が一定時間以上継続すると、エキシマー(励起会合体)の濃度が、モノマー状態の色相と明確に区別できるような色相に変化する程度にまで高くなる。拘束が解かれた蛍光染料分子は、より高い温度では移動量が大きくなるため、特定温度が高いほど、エキシマー(励起会合体)の濃度が、モノマー状態の色相と明確に区別できるような色相に変化する程度にまで高くなるまでの時間は短くなる。
使用する蛍光染料及びバインダー樹脂の種類、並びにそれらの配合割合等を調整することによって、熱履歴表示材の設計(すなわち、どの程度の熱履歴によって色相変化を生じさせるか)を所望のものとすることができる。
蛍光染料がモノマー状態でバインダー樹脂中に分散・固定された熱履歴表示層20を得る方法としては、例えば、溶融したバインダー樹脂に蛍光染料を混ぜて分散させ、成形時に水等を使って通常よりも急速に冷却することで分散したまま固める方法が挙げられる。バインダー樹脂に蛍光染料を混合、分散させるときの温度は、通常、バインダー樹脂のガラス転移温度以上の温度であり、好ましくは、ガラス転移温度(K)からガラス転移温度(K)×2.0の間、さらに好ましくは、ガラス転移温度(K)×1.1からガラス転移温度(K)×1.7の間である。
熱履歴表示層20は、上記のような、溶融ブレンドにより蛍光染料をバインダー樹脂中にモノマー状態で分散・固定させたものに限られず、他の製造方法により蛍光染料をバインダー樹脂中にモノマー状態で分散・固定させたものであってもよく、例えば、蛍光染料とバインダー樹脂とを溶媒に溶解させる溶液ブレンドにより、蛍光染料とバインダー樹脂との均一混合を行ってもよい。この場合、例えば、この溶液の塗膜を形成した後、溶媒を除去する乾燥処理を施すことによって、熱履歴表示層20を得ることができる。
また、蛍光染料をバインダー樹脂に化学結合(共有結合)させたもので熱履歴表示層20を構成してもよい。このような化学結合タイプの熱履歴表示層20によれば、色相変化速度の遅延化が可能であるとともに、使用中に蛍光染料が熱履歴表示層20からブリードアウトする可能性を排除することができる。ただし、化学結合タイプの熱履歴表示層20が色相変化を起こすには溶融ブレンドによる熱履歴表示層20よりも多量の蛍光染料を必要とする傾向にあるため、上述の範囲内で、蛍光染料の含有量を増やすことが望ましい。
蛍光染料をバインダー樹脂に化学結合(共有結合)させる場合には、蛍光染料に、バインダー樹脂と反応し得る反応性置換基を導入する。反応性置換基の具体例は、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、アクリル酸基、アクリレート基、イソシアネート基、エポキシ基、シアネートエステル類、ベンゾオキサジン類を含み、好ましくはヒドロキシル基である。
例えば蛍光染料が上記式で表わされるオリゴフェニレンビニレン化合物である場合、R、R1、R2のいずれか1以上の置換基に反応性の官能基を導入するか、又は、R、R1、R2のいずれか1以上を反応性置換基とすればよい。
バインダー樹脂における蛍光染料の結合位置は特に制限されず、バインダー樹脂の高分子主鎖に蛍光染料を結合させてもよいし、あるいは、蛍光染料の会合性を制御するために高分子側鎖に蛍光染料を結合させてもよい。
化学結合タイプにおけるバインダー樹脂の種類は、蛍光染料と化学結合可能な置換基を有する限り特に制限されず、上で例示した中から選択することができる。また、バインダー樹脂として分岐高分子、ハイパーブランチ、デンドリマー、架橋高分子等を使用すれば、化学結合された蛍光染料のモビリティーが増すため、色相変化の閾値を明確にすることができる。
熱履歴表示層20は、蛍光染料やバインダー樹脂の他、添加剤等を含むことができる。添加剤の具体例は、有機系、無機系又は有機金属系のトナー、蛍光増白剤を含む。これらの1種又は2種以上を含有させることによって、熱履歴表示層20の色相変化をさらに明確にすることができる。他の添加剤の具体例は、バインダー樹脂以外の重合体、制電剤、消泡剤、染色性改良剤、上記蛍光染料以外の染料、顔料、艶消し剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線防止剤を含む。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系等の酸化防止剤が使用可能であり、安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系の他、イオウ系、アミン系等の安定剤が使用可能である。
熱履歴表示層20は、フィルム状又は繊維状であることができ、好ましくはフィルム状である。フィルム状の熱履歴表示層20の厚みは特に制限されないが、通常10〜200μm程度である。また、熱履歴表示層20は、粒子や細片のような微細物を固めて適切な大きさの成形体としたものであってもよい。
(2)第1の被覆層
第1の被覆層10は、熱履歴表示層20の一方の主面(図1における上面)上に配置される層である。第1の被覆層10を熱履歴表示層20の一方の主面に配置することにより、当該主面を被覆し、保護することができる。図1に示される実施形態において第1の被覆層10は、透光性樹脂層11と、その熱履歴表示層20側の面に積層される第1の接着性樹脂層12とからなる。第1の接着性樹脂層12は、透光性樹脂層11を熱履歴表示層20(及び後述する第3の被覆層30)に貼着するための層である。
熱履歴表示材1における第1の被覆層10側の面は、熱履歴表示材1を物品に貼着等したときに、最表面となる側の面(貼着される面とは反対側の面)であり、熱履歴表示層20に色相変化が生じたか否かを視認する側の面である。従って、第1の被覆層10は透光性樹脂層11を含む構成としている。第1の接着性樹脂層12もまた、透光性を有するものである。
第1の被覆層10の熱伝導性は、25℃において1×104W/m2K以下とされ、好ましくは0.8×104W/m2K以下とされる。かかる範囲内の熱伝導性を有する第1の被覆層10を熱履歴表示材1の最表面に配置することにより、熱履歴表示材1が貼着等される物品が置かれる環境温度に関わらず(又はおよそ関わらず)、熱履歴表示層20の色相変化によって当該物品の熱履歴を安定して正確に表示することができる。第1の被覆層10の25℃における熱伝導性が1×104W/m2Kを超える場合、上記環境温度の影響を受け、該環境温度に依存して色相変化のタイミングが異なってしまい、熱履歴表示材としての機能が損なわれてしまう。
本発明によれば、例えば環境温度が−35〜+40℃の間で変動するときでも、色相変化のタイミングを一定にすることが可能であり、物品の熱履歴を安定して正確に表示することができる。
本発明において「熱伝導性」とは、下記式:
熱伝導性(W/m2K)=熱伝導率(W/mK)/層厚(m)
で定義される。熱伝導率とは、この熱移動の起こりやすさを表す物性値であり、単位長さ(厚み)あたり1℃の温度差があるとき、単位時間に単位面積を移動する熱量として定義される。熱伝導率は層を構成する物質に固有の物性値であり、その値が大きいほど、移動する熱量が大きく、熱が伝わりやすい。一方、移動する熱量(熱の伝わりやすさ)は、層厚に反比例する。本発明における熱伝導性は、熱伝導率及び層厚を加味した正味の熱の伝わりやすさを示したものである。熱伝導率は、後述する[実施例]の項に示すようなレーザフラッシュ法により求めることができる。
なお、上記式における層厚とは、第1の被覆層10のように多層構造からなる場合には、多層構造の合計厚みである。
透光性樹脂層11を構成する樹脂は、透光性を有し、第1の被覆層10としたときに上記範囲の熱伝導性を実現し得る樹脂である限り特に制限されないが、例えば、ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、PETと1,4−シクロヘキサンジメタノールとの共重合体(PETG)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等);アクリル系樹脂(ポリアクリル酸樹脂の他、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリレート、ポリブチルアクリレート等のポリアクリレート樹脂など);ポリスチレン系樹脂;ポリアミド系樹脂(ナイロン6、ナイロン6.6、ナイロン12、ナイロン4.6等);ポリオレフィン系樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等);ハロゲン化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン);セルロース系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアクリロニトリル樹脂等の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
所定の熱伝導性を得るために、透光性樹脂層11の主面の少なくとも一方に、熱伝導性を低下させることができるコーティング剤を塗布してもよい。
透光性樹脂層11の厚みは、第1の被覆層10としたときに上記範囲の熱伝導性を実現し得る厚みである限り特に制限されないが、10〜300μm程度であることが好ましい。透光性樹脂層11の厚みが10μmより小さい場合、熱履歴表示層20の保護機能が不十分になる傾向にあり、また、透光性樹脂層11に紫外線吸収剤を添加して紫外線吸収性を付与する場合、その紫外線吸収性が不十分となる傾向にある。一方、透光性樹脂層11の厚みが300μmを超える場合、熱履歴表示材をラベル用途などに用いるときの取扱い性に欠けることがある。
第1の接着性樹脂層12は、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ゴム系等の粘着剤で構成される粘着剤層であることができ、接着剤で構成される接着剤層であることもできる。第1の接着性樹脂層12の厚みは、通常0.05〜10μm程度である。
上述のように、熱履歴表示材1における第1の被覆層10側の面は、熱履歴表示層20に色相変化が生じたか否かを視認する側の面である。従って、第1の被覆層10のヘイズは、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。ヘイズは、JIS K 7136に従う方法により測定される。
(3)第2の被覆層
第2の被覆層40は、熱履歴表示層20の他方の主面(図1における下面)上に配置される層である。第2の被覆層40を熱履歴表示層20の他方の主面に配置することにより、当該主面を被覆し、保護することができる。また、第2の被覆層40は、熱により熱履歴表示層20の成分が一部溶出するという不具合が生じる万一の事態に備えて、そのような溶出物から、熱履歴表示材1を貼着等した物品を保護する役割も果たす。
図1に示される実施形態において第2の被覆層40は、高熱伝導性層41と、その熱履歴表示層20側の面に積層される第2の接着性樹脂層42とからなる。第2の接着性樹脂層42は、高熱伝導性層41を熱履歴表示層20(及び後述する第3の被覆層30)に貼着するための層である。
第2の被覆層40の熱伝導性は、25℃において2×106W/m2K以上であることが好ましく、3×106W/m2K以上であることがより好ましい。かかる範囲内の熱伝導性を有する第2の被覆層40を物品に貼着等される面に配置することにより、前述の第1の被覆層10が所定の熱電層性を有することを前提として、熱履歴表示材1が貼着等される物品が置かれる環境温度に関わらず(又はおよそ関わらず)、熱履歴表示層20の色相変化によって当該物品の熱履歴をより安定してより正確に表示することができる。
ここでいう熱伝導性もまた、上記式で定義されるものである。また層厚は、第2の被覆層40のように多層構造からなる場合には、多層構造の合計厚みである。
高熱伝導性層41を構成する材料は、第2の被覆層40としたときに上記範囲の熱伝導性を実現し得る材料であることが好ましく、例えば、アルミニウム、スズ、ステンレス、銅等の高熱伝導率の金属を挙げることができる。高熱伝導性層41の厚みは、第2の被覆層40としたときに上記範囲の熱伝導性を実現し得る厚みであることが好ましく、環境温度に影響を受けることなく、物品(例えば、熱履歴表示材を貼着した容器内の内容物)の温度をより正確に表示できるよう、1〜100μm程度とすることが好ましい。
第2の接着性樹脂層42の構成、材料及び厚みは、第1の接着性樹脂層12と同様であることができる。第2の接着性樹脂層42に、例えば金属粉のような、第2の被覆層40の熱伝導性を向上させる添加剤を添加してもよい。
なお、図1に示される実施形態において第2の被覆層40は、高熱伝導性層41を熱履歴表示層20(及び後述する第3の被覆層30)に貼着するための第2の接着性樹脂層42を含むが、このような実施形態に限らず、例えば、第2の被覆層40を高熱伝導性層41のみで構成し、後述する第3の被覆層30側に接着性樹脂層を設けて、第2の被覆層40を貼合するようにしてもよい。
(4)第3の被覆層
図1に示される実施形態において第3の被覆層30は、熱履歴表示層20の全側面を被覆し、保護するための層である。また、第1の被覆層10等とともに、物品に貼着等するラベル用途としての熱履歴表示材1の適度な剛性を確保する役割も果たしている。図1に示される実施形態のように、複数の被覆層を用いて熱履歴表示層20のすべての表面を被覆(封止)しておくことは、熱履歴表示層20の経時安定性、とりわけ色相変化により物品の熱履歴を安定して正確に表示する機能を長期持続性を確保するうえで好ましい。
図1に示される実施形態においては、図2を参照して、厚み方向に貫通し、熱履歴表示層20と同形状の貫通口31を略中央に有する層を第3の被覆層30として用い、その貫通口31内に熱履歴表示層20を埋設することで、熱履歴表示層20の全側面を被覆している。貫通口31の形状は特に制限されず、熱履歴表示層20の外形形状に応じた形状とすればよい。
第3の被覆層30を構成する材料は、例えば、透光性樹脂層11について上で例示した熱可塑性樹脂の中から選択することができるが、第3の被覆層30の熱伝導性を第1の被覆層10よりも高くすることは、物品の熱履歴を正確に表示するうえで有利である。図1に示される実施形態において第3の被覆層30の厚みは、熱履歴表示層20の厚みと同じか又は同程度とすることができる。
なお、本発明においては、第3の被覆層30を省略することも可能である。この場合、熱履歴表示層20のすべての表面を被覆(封止)するために、第1の被覆層10と第2の被覆層40とを全辺にわたって接合することが好ましい。この際、場合によっては、第1の被覆層10の第1の接着性樹脂層12および第2の被覆層40の第2の接着性樹脂層42の少なくともいずれか一方を省略することもできる。
(5)第3の接着性樹脂層
第3の接着性樹脂層50は、必要に応じて任意で設けられる層であり、熱履歴表示材1を物品に貼着するための層である。第3の接着性樹脂層50を設けることにより、熱履歴表示材1をシール形態のラベルとすることができる。
第3の接着性樹脂層50の構成、材料及び厚みは、第1の接着性樹脂層12と同様であることができる。第3の接着性樹脂層50に、例えば金属粉のような熱伝導性を向上させる添加剤を添加してもよい。
(6)その他の構成部材
図1を参照して、本発明の熱履歴表示材は、その剛性を高めるために、第3の接着性樹脂層50の外面に積層される支持層を含むことができる。支持層は、例えば、透光性樹脂層11を構成する樹脂として上で例示したものの中から選択される熱可塑性樹脂からなるフィルムであることができる。支持層を含む場合、さらにその外面に熱履歴表示材1を物品に貼着するための第4の接着性樹脂層を積層することができる。
また、熱履歴表示材1における物品に貼着される側の最表面に接着性樹脂層(第3の接着性樹脂層50又は第4の接着性樹脂層)が積層される場合、この接着性樹脂層の外面に、接着性樹脂層の表面を保護しておく剥離層を積層することが好ましい。この剥離層は、通常、物品への貼着時まで積層され、貼着時に剥離される。剥離層としては、ポリエステル系樹脂フィルムやポリオレフィン系樹脂フィルムの他、剥離紙等を用いることができる。
本発明の熱履歴表示材(ラベル)によれば、これを物品に貼着したりすることにより、当該物品及び熱履歴表示材が置かれる環境温度に関わらず(又はおよそ関わらず)、当該物品が特定温度以上の温度で一定時間以上保持されたか否かを、熱履歴表示層の色相変化により正確にかつ容易に判別することができる。また、本発明の熱履歴表示材は、簡単な構成を有しているため、容易にかつ製造コスト上有利に製造することができる。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、ポリエステル樹脂の溶液粘度(還元粘度ηsp/c(dl/g))、ポリエステル樹脂の組成比、ポリエステル樹脂のガラス転移温度、並びに、各層の熱伝導性の測定は、下記の方法に従った。
(1)ポリエステル樹脂の溶液粘度(還元粘度ηsp/c(dl/g))
ポリエステル樹脂0.1gを精秤し、25mLのフェノール/テトラクロロエタンの混合溶媒(質量比3/2)に溶解した後、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。
(2)ポリエステル樹脂の組成比
ポリエステル樹脂約5mgを、0.7mLの重クロロホルムとトリフルオロ酢酸の混合溶媒(体積比9/1)に溶解し、1H−NMR(varian製、UNITY50)を使用して求めた。
(3)ポリエステル樹脂のガラス転移温度
(株)日立ハイテクサイエンス社製高感度示差走査熱量計(DSC)(型式:EXSTAR DSC7020)にて窒素ガス雰囲気下で、昇温速度10℃/分にて測定した。
(4)各層の熱伝導性
まず、レーザフラッシュ法に基づき、下記測定条件及び測定手順にて、25℃における各層の熱伝導率を求めた。
〔測定条件〕
・測定装置:アルバック理工(株)製「TC7000型」、
・レーザパルス幅:0.4ms、
・レーザパルスエネルギー:10J/pulse以上、
・レーザ波長:1.06μm(Ndガラスレーザ)、
・レーザビーム径:10φ、
・温度測定方法:赤外線センサー(熱拡散率測定)、熱電対(比熱測定)、
・測定温度:25℃、
・測定雰囲気:真空中。
〔測定手順〕
1.熱の吸収及び輻射率を良くするため、試料表裏面に黒化材(カーボンスプレー)を塗布する、
2.パルスレーザ光を試料表面に照射する、
3.時間と共に試料温度が上昇し、再び下降する温度履歴曲線を取得する、
4.得られた温度上昇量θmを用いて、下記式:
Cp=Q/(M・θm)
[Q:熱入量(パルス光エネルギー)、M:試料の質量]
に基づいて比熱Cpを求める、
5.温度上昇量θmの1/2だけ温度が上昇するのに要する時間t1/2を用いて、下記式:
α=0.1388×d2/t1/2
[d:試験片の厚さ]
に基づいて熱拡散率αを求める、
6.下記式:
λ=α・Cp・ρ
[ρ:試験片の密度]
に基づいて熱伝導率λを求める。
次いで、下記式:
熱伝導性(W/m2K)=熱伝導率λ(W/mK)/層厚(m)
[層厚は、上記dと同義]
に基づいて熱伝導性を求める。
<実施例1>
次の手順に従って、図3に示される構成の熱履歴表示材を作製した。
(1)熱履歴表示層の作製
温度計、撹拌機、還流式冷却管および蒸留管を具備した反応容器に、グリコール成分としてエチレングリコール及びプロピレングリコール、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を、グリコール成分/ジカルボン酸成分のモル比が2.5となるように仕込み、さらに、モノマー成分(グリコール成分及びジカルボン酸成分の合計)200モル部に対してトリエチルアミンを0.3モル部を仕込み、窒素雰囲気、2気圧にて、5時間かけて250℃まで徐々に昇温し、留出する水を系外に除きつつエステル化反応を行った。続いて、常圧に戻した後、モノマー成分200モル部に対して二酸化ゲルマニウム0.05モル部を加え、5分間攪拌した後、30分かけて10mmHgまで減圧初期重合を行うとともに温度を250℃まで昇温し、さらに1mmHg以下で60分間後期重合を行い、共重合ポリエステル樹脂を得た。
得られた共重合ポリエステル樹脂のガラス転移温度は78℃、還元粘度は0.7であった。また、組成比は、モル比でテレフタル酸/エチレングリコール/プロピレングリコール=100/40/60であった。
その後、得られた共重合ポリエステル樹脂を再溶融した後、上記式においてRが水素、R1がオクタデシルオキシ基(C1837O−)、R2がメトキシ基であるC18RG染料(オリゴフェニレンビニレン化合物)を、得られた共重合ポリエステル樹脂に対して、1.3重量%添加して10分間溶融ブレンドし、共重合ポリエステル樹脂中に上記蛍光染料が均一に分散されたポリマー組成物を得た。得られたポリマー組成物を230℃で加熱プレスした後、冷水で急冷して厚さ50μmの熱履歴表示層20(直径約2cmの円柱形状)を得た。熱履歴表示層20は黄色を呈するものであった。
(2)第1の被覆層の作製
厚み100μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用意し、その一方の面にアクリル系粘着剤〔綜研化学(株)製「SKダイン701」〕を乾燥後の厚みが約1.5μmとなるようにグラビヤロールコーターにて塗布し、60℃で10秒間乾燥させた。次いで、粘着剤層の外面に剥離紙を貼り合わせた後、縦3cm×横3cmのサイズに切り出し、粘着剤層を有する第1の被覆層を得た。得られた第1の被覆層(PETフィルムと粘着剤層との積層体)の熱伝導性は3.1×103W/m2Kであった。
(3)第2の被覆層の作製
第2の被覆層40として、厚み25μmのスズ箔を用意し、その一方の面にアクリル系粘着剤〔綜研化学(株)製「SKダイン701」〕を乾燥後の厚みが約1.5μmとなるようにグラビヤロールコーターにて塗布し、60℃で10秒間乾燥させて、粘着剤層50を形成した。第2の被覆層40であるスズ箔の熱伝導性は2.36×106W/m2Kであった。次いで、粘着剤層50の外面に剥離紙51を貼り合わせた後、縦3cm×横3cmのサイズに切り出し、粘着剤層50を有する第2の被覆層40を作製した。
(4)第3の被覆層の作製
基材33として、厚み50μmの空洞含有ポリエステルフィルム〔東洋紡製「クリスパーK7911」〕を用意し、その一方の面にアクリル系粘着剤〔綜研化学(株)製「SKダイン701」〕を乾燥後の厚みが約1.5μmとなるようにグラビヤロールコーターにて塗布し、60℃で10秒間乾燥させて、粘着剤層32を形成した。次いで、粘着剤層32の外面に剥離紙を貼り合わせた後、基材33、粘着剤層32及び剥離紙に対して厚み方向に貫通する直径約2cmの貫通口を設け、この貫通口が中央に位置するように、縦3cm×横3cmのサイズに切り出し、粘着剤層32を有する基材33からなる第3の被覆層30を作製した。
(5)熱履歴表示材の作製
粘着剤層50付きの第2の被覆層40(剥離紙51が付いた状態)を剥離紙51が下側となるように設置した。次に、剥離紙を剥離した粘着剤層32付きの基材33からなる第3の被覆層30を、粘着剤層32が下側となるように、第2の被覆層40の上に端を合わせて重ねることで、第2の被覆層40に貼り付けた。その後、基材33の貫通口に熱履歴表示層20を埋め込んだ。次いで、剥離紙を剥離した粘着剤層12を有する第1の被覆層10を、粘着剤層12が下側となるように、基材33及び熱履歴表示層20の上に端を合わせて重ね、熱履歴表示層20及び基材33に貼り付けて、熱履歴表示材を得た。
<比較例1>
(1)第1の被覆層の作製
厚み25μmの2軸延伸PETフィルムを用意し、その一方の面にアクリル系粘着剤〔綜研化学(株)製「SKダイン701」〕を乾燥後の厚みが約1.5μmとなるようにグラビヤロールコーターにて塗布し、60℃で10秒間乾燥させた。次いで、粘着剤層の外面に剥離紙を貼り合わせた後、縦3cm×横3cmのサイズに切り出し、粘着剤層を有する第1の被覆層を得た。得られた第1の被覆層(PETフィルムと粘着剤層との積層体)の熱伝導性は1.2×104W/m2Kであった。
(2)熱履歴表示材の作製
上記(1)で得られた第1の被覆層を用いたこと以外は、実施例1と同様にして熱履歴表示材を作製した。
(評価試験)
熱履歴表示材を最表面の粘着剤層を介して、酒缶(喜多産業製 富久娘「燗番娘」)の胴部に貼着した。この酒缶は、加熱機能付きのアルミニウム缶である。熱履歴表示材が貼着された酒缶を、気温−20℃、40℃のそれぞれの環境下に置き、缶底を押して加温を開始し、熱履歴表示材の色相変化を目視観察した。
実施例1の熱履歴表示材は、−20℃、40℃のいずれの環境下においても、加温開始後約5分で初期の黄色からオレンジ色に変色した。これに対して、比較例1の熱履歴表示材は、−20℃の環境下では、初期の黄色からオレンジ色に変色するのに加温開始後約10分を要した一方、40℃の環境下では、加温開始後約3分で初期の黄色からオレンジ色に変色し、変色するまでの時間にばらつきが生じた。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 熱履歴表示材、10 第1の被覆層、11 透光性樹脂層、12 第1の接着性樹脂層(粘着剤層)、20 熱履歴表示層、30 第3の被覆層、31 貫通口、32 粘着剤層、33 基材、40 第2の被覆層、41 高熱伝導性層、42 第2の接着性樹脂層、50 第3の接着性樹脂層(粘着剤層)、51 剥離紙。

Claims (10)

  1. 第1の被覆層と、
    エキシマー状態とモノマー状態とで異なる蛍光波長を有する会合性の蛍光染料が特定の分子分散状態で固定されている熱履歴表示層と、
    第2の被覆層と、をこの順に含み、
    前記熱履歴表示層は、特定温度以上の温度で一定時間以上保持されたときに、初期の色相とは異なる色相に変色する層であり、
    前記第1の被覆層の25℃における熱伝導性が1×104W/m2K以下である、熱履歴表示材。
  2. 前記第2の被覆層の25℃における熱伝導性が2×106W/m2K以上である、請求項1に熱履歴表示材。
  3. 前記熱履歴表示層は、バインダー樹脂と、該バインダー樹脂中に分散される前記蛍光染料とを含有する、請求項1又は2に記載の熱履歴表示材。
  4. 前記熱履歴表示層の側面を被覆する第3の被覆層をさらに含み、
    前記熱履歴表示層の一方の主面を被覆するように前記第1の被覆層が前記熱履歴表示層上に配置され、
    前記熱履歴表示層の他方の主面を被覆するように前記第2の被覆層が前記熱履歴表示層上に配置される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱履歴表示材。
  5. 前記第3の被覆層は、厚み方向に貫通する貫通口を有する層であり、
    前記熱履歴表示層は、前記貫通口内に埋設されている、請求項4に記載の熱履歴表示材。
  6. 前記第1の被覆層は、透光性樹脂層を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱履歴表示材。
  7. 前記第2の被覆層は、金属層を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱履歴表示材。
  8. 前記第2の被覆層における前記熱履歴表示層とは反対側の面に積層される接着性樹脂層をさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱履歴表示材。
  9. 前記熱履歴表示層において、前記蛍光染料の分子がモノマー状態で固定されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の熱履歴表示材。
  10. 前記蛍光染料は、下記式:
    Figure 0006171891
    (式中、Rは各々独立に、水素、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数1〜36のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン基、フェニレンビニレン基又はシアノ基を示し、
    1は各々独立に、水素、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数1〜36のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン基、フェニレンビニレン基又はシアノ基を示し、
    2は各々独立に、水素、炭素数1〜36のアルキル基、炭素数1〜36のアルコキシ基、ヒドロキシル基、ヒドロキシアルキル基、ハロゲン基、フェニレンビニレン基又はシアノ基を示す。)
    で表わされるオリゴフェニレンビニレン化合物である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の熱履歴表示材。
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