JP6166087B2 - バルブリフタ及びその製造方法、並びに該バルブリフタと相手材との組合せ - Google Patents

バルブリフタ及びその製造方法、並びに該バルブリフタと相手材との組合せ Download PDF

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Description

本発明は、内燃機関の動弁系における、摩擦損失が少なく耐摩耗性に優れたバルブリフタ及びその製造方法、並びに該バルブリフタと相手材との組合せに関する
エネルギー、環境問題に対応して燃費を向上させるため、内燃機関の摩擦損失の低減は重要な課題となっている。内燃機関の主要摺動部としては、動弁系、ピストン系、クランクシャフト系が挙げられる。摩擦損失はこれらの主要摺動部で75〜90%を占めており、中高速回転域ではピストンリング、ピストン、コンロッドの割合が高く、低速回転域では動弁系のフリクションの占める割合が高い。これらの摩擦損失を低減する技術は、基本的に摺動面の表面粗さを低減して摩擦抵抗を低くすること、潤滑の観点から保油性を向上した表面構造とすることを基本に、様々な改良がなされている。
例えば、特許文献1は、カムとバルブリフタの表面粗さを安価に且つ効果的に向上させて摩擦損失を低減させる表面処理方法として、カムの外周面及びバルブリフタの頂面に40〜200μmの微小ショットを100 m/秒以上の高速で噴射する精密ショットピーニングを施す方法を開示し、摺動面を表面粗さ0.8 μm Rz未満で且つ粗さ性状が微小ディンプル状である平滑面に仕上げるとともに加工硬化させている。特許文献1に開示された処理方法によって得られる表面は、図6に示すような、最表面が平滑で、一定の間隔でディンプル状の凹部が形成された表面構造をしていると教示されている。すなわち、上述した摩擦損失を低減する技術の側面では、摺動面の表面粗さを0.8 μm Rz未満に平滑化すると同時に、ディンプル状凹部の形成により保油性を向上した表面構造を指向したものであるようにみえる。
しかしながら、実際には、40〜200μmの微小ショットを100 m/秒以上の高速で噴射するショットピーニング処理を施し、摺動面の表面粗さを0.8 μm Rz未満とすると規定しただけでは、特にエンジンの回転数が1000回転以下の低回転領域において充分な保油性を示す凹部の深さが得られるとは限らず、また最表面も微小突起等が存在し、充分な摩擦損失の低減に至っていないのが実情である。
特許第4451994号公報
本発明は、内燃機関動弁系の摩擦損失を低減することが可能な表面構造をもつバルブリフタ及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、エンジンの動弁系摺動部材を代表するバルブリフタ摺動面の表面性状を示す様々な粗さパラメータと動弁系のフリクショントルクデータ(カムの駆動トルクデータ)との相関について、多変量解析等の手段を用いて、鋭意研究した結果、Rk値(JIS B 0671-2:2002)とRsk値(JIS B 0601:2001)がフリクショントルクデータに有意であり、これらの粗さパラメータを所定の値に制御することにより、摩擦損失が少なく耐摩耗性に優れた摺動部材とすることができることに想到した。
すなわち、本発明のバルブリフタは、内燃機関に用いられるバルブリフタであって、前記バルブリフタの材質がクロムモリブデン鋼及び合金工具鋼のいずれかから選択された鋼材であり、前記バルブリフタの前記鋼材からなる冠面及び/又は側面の粗さ曲線が0.24〜1μmのRk値(JIS B 0671-2:2002)及び−1.5〜−0.3のRsk値(JIS B 0601:2001)を有することを特徴とする。
前記バルブリフタは、マクロ形状を最適化することによっても摩擦損失を低減することができる。例えば、前記冠面は球面凸形状であり、且つ、前記球面凸形状の突出量が2〜20μmであることが好ましく、前記側面はバレル形状であり、且つ、前記バレル形状の突出量が3〜10μmであることが好ましい。
さらに、本発明のバルブリフタ冠面及び/又は側面の粗さ特性を考慮すると、前記冠面及び/又は前記側面と摺動する相手材の摺動面の粗さ曲線は0.2μm以下のRa値(JIS B 0601:2001)を有することが好ましく、バルブリフタの冠面とカムの組合せ、及びバルブリフタの側面とガイド穴側壁の組合せにおいて、前記関係を満足することが特に好ましい。
また、本発明のバルブリフタの製造方法は、前記バルブリフタの前記鋼材からなる冠面及び/又は側面を、0.24μm未満のRk値に機械加工した後、粗さ曲線で0.24〜1μmのRk値を有するようにショットピーニング処理を施したことを特徴とする。さらに、前記ショットピーニング処理を行った後、粗さ曲線で−1.5〜−0.3のRsk値を有するように最表面の微小突起を除去する加工を行うことが好ましい。
本発明のバルブリフタは、摺動面の粗さ曲線が所定のRk値を有しているので、充分な保油性により優れた摩擦性能を示すことができる。この摩擦性能は、前記摺動面の粗さ曲線が負の所定のRsk値を有することにより、表面の平滑性の向上を確保し、さらなる摩擦性能の向上に繋がり、内燃機関の摩擦損失を低減し、最終的には燃費向上に貢献する。さらに、バルブリフタマクロ形状を最適化すること、すなわち、冠面の球面凸形状や、側面のバレル形状と組み合わせることにより、さらなる摩擦損失の低減に寄与することができる。また、本発明のバルブリフタの製造方法は、機械工業界では広く利用されているショットピーニング処理やラップ処理のような量産化の容易な手法により製造できるため、容易に実用化することができる。
本発明の実施の形態を示す内燃機関の直打式動弁系の断面図である。 本発明のバルブリフタの一例を示す断面図である。 本発明のバルブリフタの別の一例を示す断面図である。 本発明のバルブリフタの摺動面の断面曲線の一例を示す図であり、(a)は全体図、(b)は中央部を拡大した図である。 本発明のバルブリフタの摺動面の断面曲線の別の一例を示す図であり、(a)は全体図、(b)は中央部を拡大した図である。 特許文献1の摺動面の概略拡大断面図である。
本発明のバルブリフタは、図1にその断面図を示すように、内燃機関の直打式動弁系に適用される。バルブリフタ1は、カム2とバルブ3の間に配置され、カム2の回転運動をバルブ3の往復運動に変換する機能を有し、カム2とバルブリフタ1の冠面4の間及びシリンダガイド穴の側壁(ガイド穴の摺動面)5とバルブリフタ1の側面6との間で摺動し、特にカム2とバルブリフタ冠面4の間では大きな荷重下での摺動となるため、優れた摺動特性が求められている。バルブリフタの摺動特性は、摺動面の表面性状を示す粗さパラメータにおいて、特に、JIS B 0671-2:2002に規定されるRk値に強い相関性を示し、Rk値が0.24〜1μmの範囲で低摩擦係数の優れた摺動特性を示す。Rk値は、粗さ曲線の突出山部高さと突出谷部深さの間のコア部のレベル差を意味しており、この値が大きくなれば凹部が深くなり保油性が向上すると考えられる。Rk値が0.24μm未満では保油性が充分でないため低摩擦係数を示さず、1μmを超えた場合も粗さが粗くなって低摩擦係数を示さない。Rk値は0.31〜0.9μmがより好ましい。また、JIS B 0601:2001に規定されるRsk値も次に強い相関性があり、Rsk値は−1.5〜−0.3とする。Rsk値は、粗さ曲線のスキューネス(skewness:ゆがみ度)を意味しており、粗さ曲線の平均線に対する非対称性の度合を示している。本発明のように表面が平滑であり、窪みのある状態でRsk値は負の値をとる。Rsk値が−1.5未満では保油性に影響する凹部の体積が十分でなくなり、−0.3を超えると表面の平滑性が十分でなくなるため好ましくない。Rsk値は−1.5〜−0.7がより好ましく、−1.5〜−0.9がさらに好ましい。
また、バルブリフタは、一般的には、図2に示すように、冠面4は平面状で側面6は円柱状であるが、本発明では、図3に示すように(図3は誇張して描かれている)、冠面4は球面凸形状とし、側面6はバレル形状とすることが好ましい。このような形状とすることにより、摩擦損失と摩耗量の両方を低減することが可能となる。冠面4の球面凸形状の突出量(p)は2〜20μmであることが好ましく、2〜10μmであることがより好ましい。側面6のバレル形状の突出量(q)は3〜10μmであることが好ましく、3〜8μmであることがより好ましい。
バルブリフタ1は、その冠面4でカム2と摺動し、側面6でシリンダのガイド穴側壁5と摺動する。よって、動弁系の摩擦損失を低減するには、もちろん、バルブリフタ1の摺動面の表面性状だけでなく、その相手材であるカムやガイド穴の表面性状も最適化することが重要となる。本発明のバルブリフタは摺動面の粗さ曲線において、Rk値とRsk値を最適化しているが、相手材の表面性状としては、バルブリフタ摺動面に保持した潤滑油が相手材の凹凸に沿って逃げて枯渇しない程度に平滑な表面性状をしていることが好ましい。すなわち、相手材の平均的な表面性状として、算術平均粗さRa値で表せば0.2μm以下とすることが好ましい。Ra値が0.1μm以下であればより好ましい。
バルブリフタの材質は、クロムモリブデン鋼(JIS G 4053、SCM材)、合金工具鋼(JIS G4404、SKD11及び相当材)使用する。クロムモリブデン鋼、合金工具鋼の棒材又は板材から、冷間鍛造によりバルブリフタを成形し、少なくとも前者は浸炭焼入れ、後者は焼き入れ焼き戻しを行って使用する。もちろん窒化処理を行うこともできる。さらに、相手材の摺動面に、低摩擦、耐摩耗をさらに向上させる目的で、DLC被膜、イオンプレーティング被膜、メッキ被膜などの表面処理を施してもよい。もちろん、それらの表面性状は本発明で規定する粗さ特性(0.2μm以下のRa値)をもつことが好ましい
本発明のバルブリフタの製造方法は、クロムモリブデン鋼又は合金工具鋼からなるバルブリフタの冠面及び/又は側面を0.24μm未満のRk値に機械加工した後、粗さ曲線で0.24〜1μmのRk値を有するようにショットピーニング処理を施すことを特徴とする。ショットピーニング処理を施す前の摺動面のRk値が0.24μm以上では、処理後のRk値が1μmを超えてしまい好ましくない。ショットピーニング処理は、比較的滑らかな表面に油溜りとして機能する微小の凹部を形成してRk値を増加し、保油性を向上させるために行われる。ある程度の深さの微小凹部を形成するという観点では、硬質の微小ショットを高速で吹き付ける公知の方法が使用できる。
ショットピーニング処理は、一般に、被処理物の表面を荒らすと同時にRsk値を負の値とする傾向を示す。しかし、上述の微小ショットを使用する方法では、最表面に微小突起が残っており、Rsk値は、バラツキが大きい場合や、摩擦係数を低減するに充分な値になっていない場合もある。もちろん、微小突起が残っていても、なじみ運転によりこれらの微小突起が除去され、その後は、低摩擦係数を示すということも可能であるが、運転初期から優れた低摩擦係数を求める場合には、前記ショットピーニング処理を行った後、粗さ曲線で−1.5〜−0.3のRsk値を有するように最表面の微小突起を除去する加工を行うことが好ましい。微小突起の除去には、ラップ処理や、比較的大きなショットで微小突起をつぶすようなショットピーニング処理を使用することができる。
実施例1及び比較例1
SCM420材から、冷間鍛造、浸炭焼入、研磨加工等の工程を経て、図2に示す形状のバルブリフタを作製した。冠面の粗さ曲線はRk値が0.18μmであった。実施例1は、このようにして得られたバルブリフタの冠面に、平均粒径55μmの微小ショットを0.5 MPaの噴射圧力で約2秒照射するショットピーニング処理を行った。また、ショットピーニング未処理のものを比較例1とした。ショットピーニング処理を施したバルブリフタの表面粗さパラメータ(Rk値、Rsk値)及び摩擦抵抗については、次のように測定した。
[1] 表面粗さパラメータ(Rk値、Rsk値)の測定
実施例1のバルブリフタ冠面について、触針式表面粗さ試験機を用いて、Rk値とRsk値を測定した。バルブリフタ8個分の平均値として、Rk値は、0.50μm、Rsk値は−0.55であった。
[2] 摩擦抵抗の測定
バルブリフタの摩擦抵抗の測定は、実機(2.0L、DOHC直列4気筒16バルブ)のシリンダヘッドアッシーを用いて、カム軸をモーターで駆動させ、そのときの駆動トルクを測定することによって行った。測定にあたっては、排気側のカムシャフトのみを駆動し、バルブリフタ8個分のフリクショントルクをトルクメータにより測定した。カムの回転数としては摩擦損失の大きな500 rpm、油温は80℃の条件で測定した。また、カムの表面粗さはRaで0.13μmであった。比較例1のカムの駆動トルクを1としたとき、実施例1の駆動トルクは0.86であった。すなわち、摩擦抵抗は14%低減されたものとみなされる。なお、摩擦抵抗の測定後、300時間の連続運転による摩耗量は、ボス厚(m)の測定によれば、実施例1も比較例1も1μm以下で殆ど摩耗していなかった。
実施例2〜4
バルブリフタの形状として、図3に示すように、冠面が球面凸形状(突出量9μm)及び側面(スカート面)がバレル形状(突出量7μm)とし、ショットピーニング処理における微小ショットの噴射圧力を表1に示す圧力とした以外は、実施例1と同様にしてショットピーニング処理を行った。表面粗さパラメータ(Rk値、Rsk値)の測定と摩擦抵抗の測定も実施例1と同様にして行った。その結果を、実施例1及び比較例1の結果とともに表1に示す。また、実施例3の冠面の形状及び粗さ曲線を図4の(a)及び(b)に示すが、冠面が球面凸形状をしており(図4(a))、ショットピーニング処理だけでは、最表面に微小突起が存在する(図4(b))ことが分かる。
実施例5〜7
実施例5〜7では、それぞれ実施例2〜4と同様にして作製、ショットピーニング処理したバルブリフタに、さらにフィルムラップ加工機を使ってラップ処理を施した。表面粗さパラメータ(Rk値、Rsk値)の測定と摩擦抵抗の測定を、実施例1と同様にして行った。その結果を表2に示す。また、実施例6の冠面の形状及び粗さ曲線を図5の(a)及び(b)示すが、冠面が球面凸形状をしており(図5(a))、ラップ処理によって、最表面の微小突起が除去され表面が平滑化している(図5(b))ことが分かる。
1 バルブリフタ
2 カム
3 バルブ
4 バルブリフタ冠面
5 バルブ穴側壁
6 バルブリフタ側面(スカート面)

Claims (8)

  1. 内燃機関に用いられるバルブリフタであって、前記バルブリフタの材質がクロムモリブデン鋼及び合金工具鋼のいずれかから選択された鋼材であり、前記バルブリフタの前記鋼材からなる冠面及び/又は側面の粗さ曲線が0.24〜1μmのRk値(JIS B 0671-2:2002)及び−1.5〜−0.3のRsk値(JIS B 0601:2001)を有することを特徴とするバルブリフタ
  2. 請求項1に記載のバルブリフタにおいて、前記冠面が球面凸形状であり、且つ、前記球面凸形状の突出量が2〜20μmであることを特徴とするバルブリフタ
  3. 請求項1又は2に記載のバルブリフタにおいて、前記側面がバレル形状であり、且つ、前記バレル形状の突出量が3〜10μmであることを特徴とするバルブリフタ
  4. 前記バルブリフタの前記冠面及び/又は前記側面と摺動する相手材の摺動面の粗さ曲線が0.2μm以下のRa値(JIS B 0601:2001)を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のバルブリフタと相手材の組合せ。
  5. 請求項4に記載のバルブリフタと相手材の組合せにおいて、前記冠面と摺動する前記相手材がカムであることを特徴とするバルブリフタと相手材の組合せ。
  6. 請求項4又は5に記載のバルブリフタと相手材の組合せにおいて、前記側面と摺動する前記相手材がガイド穴側壁であることを特徴とするバルブリフタと相手材の組合せ。
  7. 請求項1〜3のいずれかに記載のバルブリフタの製造方法であって、前記バルブリフタの前記鋼材からなる冠面及び/又は側面を0.24μm未満のRk値に機械加工した後、粗さ曲線で0.24〜1μmのRk値を有するようにショットピーニング処理を施すことを特徴とするバルブリフタの製造方法。
  8. 請求項7に記載のバルブリフタの製造方法であって、前記ショットピーニング処理を行った後、粗さ曲線で−1.5〜−0.3のRsk値を有するように最表面の微小突起を除去する加工を行うことを特徴とするバルブリフタの製造方法。
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