JP6165906B2 - 配光可変型前照灯装置用すべり軸受の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、すべり軸受の製造方法に関し、特に自動車等の車両に装備される前照灯装置のうち、前照灯の配光角度を上下左右方向に可変とする配光可変型前照灯装置に好適に組み込み得るすべり軸受の製造方法に関する。
自動車等の車両には、通常、車両の進行方向前方側を照らす前照灯装置が装備されており、従前の前照灯装置としては、前照灯の配光角度(光軸)を上下方向でのみ変化させることができるもの(ロービームとハイビームの相互切り替えのみが可能なもの)が一般的であった。しかしながら、このような前照灯装置では、車両の旋回時等に運転者が最も視認すべき方向である旋回方向前方側を十分に照らすことができない。
そこで、配光可変型前照灯装置(「AFS」とも略称される。なお「AFS」とは、Adaptive Front−lighting Systemの頭文字の組み合わせである)が開発され、各種車両に実装されるに至っている。この配光可変型前照灯装置は、ステアリングの操舵角等に応じて、前照灯の配光角度を上下方向のみならず左右方向にも変化させ得るように構成されており、車両の旋回時等には、旋回方向前方側に配光が自動的に振り向けられることから、特に夜間走行時の安全性向上に寄与することができる。配光可変型前照灯装置は、例えば下記の特許文献1に記載されているように、光源およびリフレクタを有し、光ビームを照射する光学システムと、ステアリングの操舵角等に応じてリフレクタを上下左右方向に回動させる配光可変手段と、リフレクタの回動軸を回転自在に支持する軸受とを主要な構成として備える。
特開2005−125851号公報
上記のとおり、配光可変型前照灯装置は、夜間走行時等の安全性を向上し、交通事故の発生確率を低減し得るものとして有益であるが、前照灯の配光角度を上下方向でのみ変化させ得る従前の前照灯装置と比較すると、構造(機構)が複雑化する分どうしても高価となる。そのため、配光可変型前照灯装置は一部の高級車にしか装備されておらず、広く普及しているとは言い難いのが実情である。従って、配光可変型前照灯装置の普及を促進させるためにも、そのコスト低減を図ることが急務となっている。
そこで、本願発明者は、配光可変型前照灯装置の構成部品のうち、リフレクタ等の回動軸を支持する軸受を、内輪、外輪、保持器および転動体などの複数部材から構成される転がり軸受から、単一の筒状部材で構成されるすべり軸受に置換することを検討した。すべり軸受は、中実の金属材料(溶製材)の削り出し品であっても構わないが、転がり軸受をすべり軸受に置換することによるコスト低減効果を有効に享受すべく、樹脂製のすべり軸受を採用することを積極的に検討した。
ところが、前照灯装置内は光源点灯時に高温となることから、樹脂軸受では、いかに耐熱性に優れる樹脂を用いたとしても軸受面が熱変形するおそれがある。また、樹脂軸受では、走行時の振動の影響等を受けて軸受面が変形・破損等するおそれもある。従って、前照灯装置の構成部品の回転支持用途に樹脂軸受を使用した場合、所望の支持能力を安定的に維持することが難しく、前照灯装置の作動性が低下し易くなる。
このような実情に鑑み、本発明の課題は、配光可変型前照灯装置の作動性をはじめとした基本的性能を低下させることなく、そのコスト低減に寄与し得るすべり軸受を提供することにある。
上記の課題を解決するため、本発明では、前照灯の配光角度を上下左右方向に可変とする配光可変型前照灯装置に装備され、支持すべき軸を非含油状態で回転自在に支持する配向可変型前照灯装置用すべり軸受の製造方法であって、原料粉末として、主原料のしてのCu粉末と、充填材としてのSn粉末およびNi粉末とを含み、かつ原料粉末に占めるSn粉末の配合割合が7〜11wt%であると共に、Fe粉末を含まないものを製作する原料粉末製作工程と、原料粉末を圧縮成形することにより圧粉体を得る圧縮成形工程と、圧粉体を700〜800℃の温度範囲内で加熱することにより、Cu粉末同士が焼結結合してなり、かつSnがCu中に拡散することで形成されたCu−Sn合金の金属組織を有する焼結体であって、少なくとも軸受面となる領域にNi粉末が原形を留めたまま分散配置された上記焼結体を得る焼結工程と、焼結体に矯正加工を施すことにより、焼結体を完成品形状に仕上げる矯正工程と、を有することを特徴とする配光可変型前照灯装置用すべり軸受の製造方法を提供する。
このように、金属粉末を主原料とした原料粉末の圧粉体を焼結した焼結体からなるすべり軸受(以下、「焼結軸受」ともいう)であれば、樹脂製のすべり軸受と同等のコストで量産できる一方で、樹脂製のすべり軸受に比べて耐熱性や機械的強度が高く、軸受面が熱変形、破損等し難い。そのため、配光可変型前照灯装置の構成部品の軸を精度良く支持することができ、当該前照灯装置の作動性を安定的に維持しつつ、そのコスト低減を図ることができる。
焼結軸受は多孔質組織を有するものであり、その内部気孔に潤滑油を含浸させた状態(含油状態)で使用するのが一般的である。しかし、焼結軸受の内部気孔に潤滑油を含浸させていても、前照灯装置内は光源点灯時に高温となることから、内部気孔に含浸させた潤滑油が蒸発等し易い。そして、前照灯装置内で潤滑油が蒸発すると、蒸発した潤滑油成分が前照灯装置のレンズ内面や光源表面に付着してその透明度が低下し、前照灯の照度が低下するという前照灯装置として致命的な問題を招来する可能性がある。このような問題は、フッ素系潤滑油等の耐熱性に富む潤滑油を使用することで解消し得るが、フッ素系潤滑油は非常に高価であることから、転がり軸受をすべり軸受に置換することによるコストメリットを十分に享受することができなくなる。この点、本発明にかかる焼結軸受は非含油の状態で使用されるので、前方側を明るく照らし出すという前照灯装置の基本的な機能が損なわれることがなくなる。
焼結軸受の原料粉末としては、鉄系の金属粉末を主原料としたものを使用することも可能ではあるが、鉄系の金属材料は高硬度であるが故に、非含油状態での使用を考慮すると、支持すべき軸を傷付けるおそれがあることから好ましくない。また、鉄系の金属材料は錆び易いことから、非含油状態での使用を考慮すると耐久寿命の点で難がある。さらに、鉄系の金属粉末は融点が高い分、これを含む原料粉末の圧粉体を焼結するときには、その加熱温度を十分に高める必要があるため、種々の特性を付与すべく原料粉末に通常配合される充填材の種類に制約が生じ易くなる。そこで、本発明に係る焼結軸受は、Cu粉末を主原料とし、Fe粉末を含まない原料粉末の圧粉体を焼結してなるものとした。このようにすれば、Fe粉末を用いる場合における上述の各種問題発生を可及的に回避することができる。
上記構成において、原料粉末としては、Sn粉末、C粉末およびNi粉末を充填材として配合したものを使用することができる。Sn(錫)はCu(銅)に比べて相当に低融点である(Cuの融点:1080℃程度、Snの融点:230℃程度)ことから、これら充填材を含む原料粉末の圧粉体を、主原料であるCu粉末同士が焼結し得る温度で加熱すると、Sn粉末が溶融して母材(銅)中に拡散し、母材が合金(Cu−Sn合金)化してその硬度が高まる。これにより、焼結軸受の軸受面の耐摩耗性を高めることができる。なお、原料粉末(原料粉末全体)に占めるSn粉末の配合割合を7〜11wt%とすれば、銅を完全に合金化することができる。また、Ni粉末は、Cu粉末に比べて高硬度で高融点であることから、焼結軸受の軸受面にはNi粉末がその原形を留めたまま分散配置されるので、焼結軸受の軸受面の耐摩耗性を一層高めることができる。特に、原料粉末に占めるNi粉末の配合割合を4〜6wt%とすれば、支持すべき軸に対する攻撃性を高めることなく、耐摩耗性を効果的に高めることができる。
加えて、原料粉末に、C粉末(黒鉛粉末)を配合したことから、焼結軸受の軸受面の摺動性を高めることが(軸受面の摩擦係数を低減して、耐焼き付き性を高めることが)できる。Cu粉末を主原料として用いる関係上、固体潤滑剤として機能するC粉末は、焼結後においても、原形を留めたまま残存して軸受面上に分散配置されるからである。ここで、C粉末の配合割合を高くするほど摺動性は高まるが、C粉末の配合割合をあまりに高くすると、原料粉末の流動性が低下して成形金型への原料粉末の充填性が低下する他、原料粉末の圧縮性に悪影響が及んで圧粉体を所定密度に成形することが難しくなり、所定精度および所定強度の圧粉体、ひいては焼結軸受を得ることが困難となる。従って、C粉末を配合することによるメリットとデメリットのバランスを考慮して、原料粉末に占めるC粉末の配合割合は3〜7wt%とするのが望ましい。
上述したように、Sn粉末は、圧粉体を加熱して焼結体を得る段階で溶融して母材中に拡散することから、焼結軸受(焼結体)のうち、圧粉体の段階でSn粉末が分散していた部位には空孔が形成されることとなる。そのため、Sn粉末として、その粒径があまりに大きいものを使用すると、焼結軸受に不当に大きな空孔が形成されることとなって強度面で不利となる。従って、Sn粉末は、その平均粒径が45μm以下のものを使用するのが望ましい。
上記構成において、原料粉末に配合するNi粉末としては、その平均粒径が5μm以下のものを使用するのが望ましい。各種粉末を混合して原料粉末を生成する際に、原料粉末中へのNi粉末の分散性を向上させ、軸受面の耐摩耗性を満遍なく高めるためである。すなわち、平均粒径が5μmを超えるような大粒のNi粉末を使用すると、原料粉末中にNi粉末を万遍なく分散させることが難しくなり、軸受面の各部間で耐摩耗性にばらつきが生じる可能性がある。
上記構成において、C粉末は、その全量に対し、平均粒径が60〜110μmのものを30wt%以上含むものとすることができる。C粉末の粒度分布は、特に原料粉末の流動性を左右する。従って、C粉末としてこのようなものを使用すれば、原料粉末の流動性を一層高めて、圧粉体、ひいては焼結軸受の一層の高精度化を達成することが可能となる。
以上に示すように、本発明によれば、配光可変型前照灯装置の作動性をはじめとした基本的性能を低下させることなく、そのコスト低減に寄与することができる。
本発明の実施形態に係る焼結軸受を組み込んだ配光可変型前照灯装置の一構成例の要部を模式的に示す図である。 図1中のA−A線矢視断面図である。 焼結軸受の製造工程を示すフロー図である。 耐摩耗性の確認試験に用いる試験装置の概略斜視図である。 耐摩耗性の確認試験に用いた試料の組成を示す図である。 耐摩耗性の確認試験結果を示す図である。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る焼結金属製のすべり軸受を備えた配光可変型前照灯装置1の一構成例の要部を模式的に示し、図2に、図1中のA−A線矢視断面図を示す。この配光可変型前照灯装置1は、リフレクタ2と、このリフレクタ2の略中央部に付設された光源3と、リフレクタ2および光源3を保持して左右方向に回転(回動)する第1回動部材4と、上下方向に回転(回動)する第2回動部材5と、ケーシング6と、第1および第2回動部材4,5を回動させるための図示外の駆動手段とを備える。ケーシング6には焼結金属製のすべり軸受(以下、焼結軸受という)10,10が取り付け固定されており、これら焼結軸受10,10で第2回動部材5の左右両側に突設された軸部5a,5aが回転自在に支持されている。また、第2回動部材5にも焼結軸受10が取り付け固定されており、この焼結軸受10で第1回動部材4に突設された軸部4aが回転自在に支持されている。
焼結軸受10は、銅(Cu)を主成分とし、鉄(Fe)を含まない焼結金属の多孔質体で径一定の円筒状に形成されたものであり、内部気孔に潤滑油を含浸しない非含油状態でケーシング6および第2回動部材5にそれぞれ組み付けられている。この焼結軸受10は、図3に示すように、原料粉末製作工程P1、圧縮成形工程P2、焼結工程P3および矯正工程P4を順に経て製造される。以下、各工程について詳述する。
(A)原料粉末製作工程
この原料粉末製作工程P1では、例えばV型混合機に、銅(Cu)粉末、錫(Sn)粉末、黒鉛(C)粉末およびニッケル(Ni)粉末をそれぞれ適量投入して混合し、焼結軸受10を製造するための原料粉末を製作する。この原料粉末には、Fe粉末は一切含まれない。ここでは、平均粒径が150μm以下のCu粉末を主原料とし、これに、充填剤としてのSn粉末、C粉末およびNi粉末を、原料粉末に占める配合割合が、それぞれ、7〜11wt%、3〜7wt%および4〜6wt%となるように配合する。なお、これら充填剤のうち、Ni粉末としては、原料粉末中へのNi粉末の分散性を向上するために、その平均粒径が5μm以下のものを使用する。すなわちNi粉末を原料粉末中に配合する理由は、焼結軸受10のうち、特に軸受面(内周面)の耐摩耗性向上を図るためであるが、Ni粉末の平均粒径が5μmを超えると原料粉末中での分散性が低下し、焼結軸受10の軸受面の耐摩耗性を均一に高めることが難しくなる(軸受面の各部で耐摩耗性にばらつきが生じ易くなる)からである。
(B)圧縮成形工程P2
この圧縮成形工程P2では、上記の原料粉末製作工程P1で製作した原料粉末を図示しない成形金型のキャビティに投入して圧縮成形し、完成品としての焼結軸受10に近似した円筒形状の圧粉体を得る。
ところで、上述のとおり、原料粉末にはC粉末が配合されている。C粉末は固体潤滑剤として機能するものであり、これを配合しておけば、圧粉体の離型性を向上することが可能となる。また、Cu粉末を主原料として用いる関係上、C粉末は、後述する焼結工程P3を経た後でも、原形を留めたまま残存して軸受面上に分散配置されることから、焼結軸受10の軸受面の摺動性を有効に高める(軸受面の摩擦係数を低減し、耐焼き付き性を高める)ことができる。このような利点を考慮すれば、C粉末の配合量をできるだけ多くする(原料粉末に占めるC粉末の配合割合をできるだけ高くする)のが望ましいが、黒鉛は、銅、錫およびニッケルよりも比重が小さい(C粉末は、Cu粉末、Sn粉末およびNi粉末よりも低密度である)ために、C粉末の配合割合を高めれば高めるほど、原料粉末の流動性(圧縮成形工程P2で使用する成形金型への充填性)や圧縮成形性が低下し、所定形状および所定密度の圧粉体を得ることが難しくなる。
そこで、焼結軸受10の軸受面の摺動性向上等のメリットを有効に享受しつつ、圧粉体の成形精度低下というデメリットを最小限に抑えるため、C粉末を、原料粉末に占める配合割合が3〜7wt%となるように配合し、かつC粉末としては、その全量に対し、平均粒径が60〜110μmのものを30wt%以上含むものを使用することとした。すなわち、C粉末の配合割合を上記範囲に設定することにより、圧縮成形性が低下するのを可及的に防止することができ、また、C粉末として上記の粒度分布を具備するものを使用することにより、流動性が向上する。
原料粉末には、固体潤滑剤として機能するC粉末が含まれることから、上記したとおり、圧粉体を成形金型から離型する際には圧粉体をスムーズに離型することができる。そのため、離型に伴って圧粉体が部分的に欠損等するのを可及的に防止し、高精度の圧粉体を得ることができる。
(C)焼結工程P3
焼結工程P3では、圧縮成形工程P2で得られた圧粉体を700〜800℃の温度範囲内で所定時間加熱することにより、Cu粉末同士が焼結結合してなる焼結体を得る。ここで、圧粉体(原料粉末)にはCuに比べて低融点のSnの粉末が含まれている(Cuの融点:約1080℃、Snの融点:約230℃)ことから、圧粉体を上記の温度範囲内で加熱すると、Cu粉末同士が焼結結合するのと同時に、Sn粉末が溶融して母材(Cu)中に拡散し、母材(Cu)が合金(Cu−Sn合金)化してその硬度が高まる。
(D)矯正工程P4
この矯正工程P4では、焼結工程P3を経て得られた焼結体に矯正加工(サイジング加工)を施す。これにより、焼結体の形状や各部寸法が所定精度に仕上げられ、完成品としての焼結軸受10が得られる。
以上で示したように、焼結軸受10であれば、樹脂製のすべり軸受と同等のコストで量産できる一方で、樹脂製のすべり軸受に比べて耐熱性や機械的強度が高く、軸受面が熱変形、破損等し難い。そのため、配光可変型前照灯装置1の構成部品の軸を精度良く支持することができ、当該前照灯装置1の作動性を安定的に維持しつつ、そのコスト低減を図ることができる。また、本発明に係る焼結軸受10は、非含油の状態で使用されるので、前照灯装置1の最も基本的でかつ最大の機能、すなわち前方側を明るく照らし出すという機能が損なわれることがなくなる。
焼結軸受10の原料粉末としては、鉄系の金属粉末を主原料としたもの、あるいは適量含むものを使用することも可能ではあるが、鉄系の金属材料は高硬度であるが故に、非含油状態での使用を考慮すると支持すべき軸(軸部4a,5a)を傷付けるおそれがあることから好ましくない。また、本発明に係る焼結軸受10は、Cu粉末を主原料とし、Fe粉末を含まない原料粉末を圧粉・焼結することで得られたものであることから、Fe粉末を用いる場合における各種の問題発生を可及的に回避することができる。
また、Sn粉末およびNi粉末を含む原料粉末を用いて焼結軸受10を製作したことにより、焼結軸受10(の軸受面)の耐摩耗性を高めることができる。すなわち、上記したとおり、SnはCuに比べて融点が低いことから、Sn粉末を含む圧粉体を、主原料であるCu粉末同士が焼結結合し得るような温度範囲で加熱すると、Sn粉末が溶融して母材(銅)中に拡散し、母材が合金(Cu−Sn合金)化してその硬度、ひいては耐摩耗性が高まるからである。また、NiはCuに比べて高硬度で高融点であることから、原料粉末に配合したNi粉末は溶融することなく焼結軸受10の各部に分散配置されることとなり、焼結軸受10の軸受面の耐摩耗性向上に有効に寄与する。従って、Cu単体では確保することが難しい焼結軸受10の軸受面に必要とされる耐摩耗性を、有効に確保することができる。
但し、原料粉末に占めるSn粉末の配合割合が7wt%を下回ると、Cuを完全に合金化することが難しくなる。一方、同配合割合が11wt%を超えると、合金化に寄与しない余剰のSnが存在することとなって非効率である。従って、原料粉末に占めるSn粉末の配合割合は、上述のとおり7〜11wt%の範囲とするのが望ましい。なお、上記のとおり、Sn粉末は焼結体を得る過程で溶融・消失することから、焼結体(焼結軸受10)のうち、圧粉体の段階でSn粉末が分散(存在)していた部位には空孔が形成されることとなる。そのため、Sn粉末として、その粒径があまりに大きいものを使用すると、焼結軸受10中に不当に大きな空孔が形成されることとなって強度面で不利となる。従って、原料粉末に配合するSn粉末は、その平均粒径が45μm以下のものとするのが望ましい。
また、Ni粉末は焼結軸受10の耐摩耗性を向上するものとして有益であるが、原料粉末に占めるNi粉末の配合割合が6wt%を超えると、支持すべき軸(軸部4a,5a)を傷付ける可能性が高まる。一方、同配合割合が4wt%を下回ると、焼結軸受10の軸受面の耐摩耗性向上効果を十分に享受することができなくなる。従って、原料粉末に占めるNi粉末の配合割合は、4〜6wt%の範囲内とするのが望ましい。これにより、支持すべき軸に対する攻撃性を高めることなく、耐摩耗性の向上効果を得ることができる。
以上、本発明の一実施形態について説明を行ったが、焼結軸受10は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形を施すことが可能である。例えば、以上で説明した実施形態では、焼結軸受10を径一定の円筒状に形成しているが、焼結軸受10の外周面は、当該焼結軸受10が取り付けられる部材(図1および図2に示す例では、第2回動部材5およびケーシング6)の取り付け部形状に応じて変更することが可能である。また、本発明に係る焼結軸受10が装着される配光可変型前照灯装置1の形態も、図1および図2に示すものに限定されるわけではない。
本発明の有用性を実証すべく、本発明の構成を具備する原料粉末を用いて焼結軸受10を形成した場合(実施例)と、本発明の構成を具備しない原料粉末を用いて焼結軸受10を形成した場合(比較例)とで摩耗量にどの程度差が生じるのかを、図4に示す試験機20を用いて比較検証した。図4に示す試験機20は、軸部22およびその外周に離間して設けられた一対のリング部23,23を有するバーベル21と、バーベル21を載置した平板状のプレート24とを備えたいわゆるバーベルプレート試験機である。この試験機20では、バーベル21に下向きの荷重をかけ、リング部23,23の外周面をプレート24の上面に押し付けた状態で、バーベル21とプレート24とを所定速度で相対回転させ(本試験ではバーベル21を静止させた状態でプレート24を回転させる)、所定時間経過後におけるプレート24の摩耗量を測定する。
当該確認試験では、配光可変型前照灯装置1の軸に対応する材料(例えばステンレス鋼)でバーベル21(軸部22および一対のリング部23,23)を製作し、実施例に係る原料粉末(実施例1,2)および比較例に係る原料粉末(比較例1〜4)でプレート24をそれぞれ製作した。なお、実施例1,2、および比較例1〜4に係るプレート24の材料組成は図5に示す。
また、摩耗試験の主だった試験条件は以下の(1)〜(4)に示すとおりであり、本発明に係る焼結軸受10の実際の使用条件・使用環境を考慮して、バーベル21のリング部23とプレート24との間に潤滑油等の潤滑剤は一切介在させないこととした。
(1)荷重:20Nと50Nを1分毎に切り替え
(2)試験時間:60分
(3)回転速度:2.7m/s
(4)雰囲気:常温常湿
摩耗試験の試験結果を図6に示す。図6に示す試験結果からも明らかなように、本発明の構成を具備する原料粉末を用いた実施例1および実施例2では、Cu粉末およびFe粉末を主原料とした原料粉末を用いた比較例(特に比較例1および比較例2)よりも、摩耗量が著しく少なくなった。また、実施例1と実施例2との比較、および比較例1〜3相互間の比較からは、原料粉末に占めるC粉末の配合割合を高めるほど摩耗量が少なくなり、C粉末の配合割合を高めることが耐摩耗性向上に有効であることが理解される。なお、実施例1と比較例3とを比較すると、摩耗量に大差がなく、同等の耐摩耗性を確保し得るものと考えられるが、比較例3に係る試料はFe粉末を含む原料粉末から製造されたものであることから、支持すべき軸に相当するバーベル21(リング部23)に多くの傷が形成されてしまった。従って、比較例3の構成を具備した焼結軸受は、非含油状態での軸支持用途には不適当である。また、比較例4は、実施例1の構成からNi粉末を省略し、その省略分だけSn粉末の配合割合を高めたものであるが、Ni粉末を配合した実施例1に比べ、摩耗量が増大する結果となっている。
以上の試験結果から、本発明の有用性が実証される。すなわち、本発明に係る焼結軸受10であれば、その軸受面に高い耐摩耗性および摺動性を確保することができるので、非含油の状態で配光可変型前照灯装置1に組み込んで使用した場合にも、前照灯装置1の構成部品の回転軸を長期間に亘って精度良く支持することができる。これにより、配光可変型前照灯装置1の作動性をはじめとした基本的な性能・機能を損なうことなく、そのコスト低減に寄与することができる。
1 配光可変型前照灯装置
2 リフレクタ
3 光源
4a 軸部(支持すべき軸)
5a 軸部(支持すべき軸)
10 焼結軸受(すべり軸受)
20 試験機
21 バーベル
24 プレート

Claims (6)

  1. 前照灯の配光角度を上下左右方向に可変とする配光可変型前照灯装置に装備され、支持すべき軸を非含油状態で回転自在に支持する配向可変型前照灯装置用すべり軸受の製造方法であって、
    原料粉末として、主原料のしてのCu粉末と、充填材としてのSn粉末およびNi粉末とを含み、かつ前記原料粉末に占める前記Sn粉末の配合割合が7〜11wt%であると共に、Fe粉末を含まないものを製作する原料粉末製作工程と、
    前記原料粉末を圧縮成形することにより圧粉体を得る圧縮成形工程と、
    前記圧粉体を700〜800℃の温度範囲内で加熱することにより、前記Cu粉末同士が焼結結合してなり、かつSnがCu中に拡散することで形成されたCu−Sn合金の金属組織を有する焼結体であって、少なくとも軸受面となる領域に前記Ni粉末が原形を留めたまま分散配置された前記焼結体を得る焼結工程と、
    前記焼結体に矯正加工を施すことにより、前記焼結体を完成品形状に仕上げる矯正工程と、
    を有することを特徴とする配光可変型前照灯装置用すべり軸受の製造方法。
  2. 前記原料粉末に、さらにC粉末を充填材として配合する請求項1に記載の配光可変型前照灯装置用すべり軸受の製造方法。
  3. 前記原料粉末に占める前記C粉末および前記Ni粉末の配合割合を、それぞれ、3〜7wt%および4〜6wt%とした請求項2に記載の配光可変型前照灯装置用すべり軸受の製造方法。
  4. 前記Sn粉末は、その平均粒径が45μm以下のものである請求項1〜3の何れか一項に記載の配光可変型前照灯装置用すべり軸受の製造方法。
  5. 前記Ni粉末は、その平均粒径が5μm以下のものである請求項〜4の何れか一項に記載の配光可変型前照灯装置用すべり軸受の製造方法。
  6. 前記C粉末は、その全量に対し、平均粒径が60〜110μmのものを30wt%以上含むものである請求項2又は3に記載の配光可変型前照灯装置用すべり軸受の製造方法。
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