以下、本発明の実施形態に係るハイブリッド車両について説明する。
図1に示すように、ハイブリッド車両は、エンジン(内燃機関)2と電動機(モータ・ジェネレータ)3とを駆動源として備え、エンジン2及び電動機3から入力された駆動力を変速して出力する動力伝達装置1を備えている。
動力伝達機構1は、デュアルクラッチ自動マニュアルトランスミッション(Dual Clutch Automated Manual Transmission:DCT)である。
動力伝達装置1は、エンジン2又は/及び電動機3の動力(駆動力)を被駆動部である一対の駆動輪4,4に伝達して、該駆動輪4,4を駆動し得るように構成されている。さらに、動力伝達装置1は、エンジン2又は/及び電動機3の動力を、駆動輪4,4だけでなく、車両に搭載された補機5に伝達して、該補機5を駆動し得るように構成されている。補機5は、例えばエアコンのコンプレッサ、ウォータポンプ、オイルポンプなどである。
エンジン2は、ガソリン、軽油、アルコールなどの燃料を燃焼させることにより動力(トルク)を発生する内燃機関であり、発生した動力を外部に出力するための出力軸2aを有する。このエンジン2は、通常の自動車のエンジンと同様に、図示しない吸気路に備えたスロットル弁の開度を制御する(エンジン2の吸入空気量を制御する)ことによって、該エンジン2が出力軸2aを介して出力する動力が調整される。出力軸2aは本発明の内燃機関出力軸に相当する。
電動機3は、本実施形態では3相のDCブラシレスモータであり、そのハウジング(図示省略)内に回転自在に支承された中空のロータ(回転体)3aと、該ロータ3aの周囲でハウジング34に固定されたステータ(固定子)3bとを有する。ロータ3aには、複数の永久磁石が装着され、ステータ3bには、3相分のコイル(電機子巻線)3baが装着されている。なお、電動機3のステータ3bは、動力伝達装置1の外装ケース等、車体に対して静止した不動部に設けられたハウジング34に固設されている。
この電動機3のコイル3baは、インバータ回路を含む駆動回路であるパワー・ドライブ・ユニット(以下、「PDU」という)6を介して直流電源としてのバッテリ(二次電池)7に電気的に接続されている。また、PDU6は、電子制御ユニット(Electronic Control Unit)(以下、「ECU」という)8に電気的に接続されている。
ECU8は、各種演算処理を実行するCPU8aとこのCPU8aで実行される各種演算プログラム、各種テーブル、演算結果などを記憶するROM及びRAMからなる記憶装置(メモリ)8bとを備え、各種電気信号を入力すると共に、演算結果などに基づいて駆動信号を外部に出力する。
ECU8のCPU8aが、本発明における制御手段8a1、要求駆動力設定手段8a2、最大駆動力取得手段8a3、及び磁石温度判定手段8a4として機能する。
ECU8は、PDU6の他に、図示しないがエンジン2等に電気的に接続されており、エンジン2を含む動力伝達装置1の動作制御を行う。ECU8は、車速やエンジン2の回転数等から駆動輪4,4に伝達することが要求される動力を設定する要求駆動力設定手段8a2として機能すると共に、該要求駆動力設定手段8a2が設定した要求駆動力に応じて、エンジン2や電動機3を駆動させる制御手段8a1として機能する。
ECU8により、PDU6を介してコイル3baに流れる電流を制御することによって、電動機3がロータ3aから出力する動力(トルク)が調整される。この場合、PDU6の制御により、電動機3は、バッテリ7から供給される電力によってロータ3aに力行トルクを発生する力行運転を行い、モータとして機能する。即ち、ステータ3bに供給された電力が、動力に変換され、ロータ3aに出力される。
また、電動機3は、ECU8の指示信号に基づき、PDU6を介して制御される。これにより、電動機3は、外部からロータ3aに与えられる回転エネルギーによって発電し、その発電エネルギーをバッテリ7に充電しつつ、ロータ3aに回生トルクを発生する回生運転を行い、ジェネレータとして機能する。即ち、ロータ3aに入力された動力が、ステータ3bで電力に変換される。
図2を参照して、ECU8には、アクセルペダル(図示省略)の操作量を検知するアクセル開度センサ41の出力信号が供給される。ECU8は、この信号に基づいて当該車両の要求駆動力を設定する要求駆動力設定手段8a2として機能する。また、ECU8は、後述する第1クラッチC1、第2クラッチC2、補機用クラッチ33、第1同期装置S1、第2同期装置S2及び後退同期装置SRのスリーブの動作を図示しないアクチュエータもしくは駆動回路を介して制御する。
動力伝達装置1は、互いに差動回転可能に構成された回転要素からなる差動回転機構9を備える。本実施形態では、差動回転機構9として遊星歯車装置を採用している。
エンジン2の出力軸2aには、エンジン2からの動力が選択的に入力され、同軸心に配置される2本の主入力軸、すなわち第1主入力軸11及び第2主入力軸12が連結されている。第1主入力軸11は、エンジン2側から電動機3側に亘って延在しており、そのエンジン2側の外側に、中空に形成された第2主入力軸12が回転自在に設けられている。
第1主入力軸11は、第1クラッチ(第1断接手段)C1により、エンジン2の出力軸2aと接続、遮断される。第2主入力軸12は、第2クラッチ(第2断接手段)C2により、エンジン2の出力軸2aと接続、遮断される。第1主入力軸11は本発明の第1入力軸に相当する。
第1クラッチC1は、ECU8の制御の下で、エンジン2の出力軸2aに伝達されたエンジンENGの駆動力を第1主入力軸11に伝達度合いを変化させて伝達させることができる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。第2クラッチC2は、ECU8の制御の下で、エンジン2の出力軸2aに伝達されたエンジンENGの駆動力を第2主入力軸12に伝達度合いを変化させて伝達させることができる伝達状態と、この伝達を断つ開放状態とに切換自在に構成されている。
第1クラッチC1を接続状態に動作させると、出力軸2aから第1主入力軸11への動力伝達が可能となる。また、第2クラッチC2を接続状態に動作させると、出力軸2aから第2主入力軸12への動力伝達が可能となる。第1クラッチC1は本発明の第1断接手段に相当し、第2クラッチC2は本発明の第2断接手段に相当する。
また、これらのクラッチC1,C2は乾式クラッチであることが好ましい。この場合、これらのクラッチC1,C2が湿式クラッチである場合に比べて、断接時間が短縮できると共に、断接手段を小型化することが可能となる。なお、エンジンブレーキ等により発生する動力の変化によるショックは、電動機3の制御により抑えることができる。
主入力軸11,12に対して、副入力軸13が平行に配置されている。そして、副入力軸13は、本発明の第2入力軸に相当し、第1主入力軸11と平行に配置されたアイドル軸14を介して第2主入力軸12と常時結合されている。
具体的には、第2主入力軸12上に固定されたギヤ12aとアイドル軸14上に固定されたギヤ14aとが噛合してギヤ対15が構成されており、第2主入力軸12に伝達された動力はギヤ対15を介してアイドル軸14に伝達される。そして、ギヤ14aと副入力軸13上に固定されたギヤ13aとが噛合してギヤ対16が構成されており、アイドル軸14に伝達された動力はギヤ対16を介して副入力軸13に伝達される。なお、副入力軸13の両端部は、それぞれ図示しない軸受に回転自在に支持されている。アイドル軸14は、図示しないハウジング等の固定部に対してアイドル回転自在に支持されている。
そして、第1主入力軸11及び副入力軸13に対して、出力軸17が平行に配置されている。なお、出力軸17の両端部は、図示しない軸受にそれぞれ回転自在に支持されている。
第1主入力軸11上には、第1同期機構(シンクロメッシュ機構)S1を介して、第1主入力軸11と選択的に連結される複数の駆動ギヤ18a,18bからなる第1ギヤ群が設けられている。
第1同期装置S1は、周知のものであり、図示しないアクチュエータ及びシフトフォークにより、スリーブを第1主入力軸11の軸方向に移動させることによって、3速駆動ギヤ18a又は5速駆動ギヤ18bを第1主入力軸11と選択的に連結させる。スリーブが図示の中立位置から左側へ移動した場合、3速駆動ギヤ18aと第1主入力軸11とが連結される(以下、この状態を「3速段確立状態」という)。一方、スリーブが中立位置から右側へ移動した場合、5速駆動ギヤ18bと第1主入力軸11とが連結される(以下、この状態を「5速段確立状態」という)。スリーブが中立位置に位置するとき、3速駆動ギヤ18aと5速駆動ギヤ18bとの双方が第1主入力軸11から遮断される。(以下、この状態を「中立状態」という)。
副入力軸13上には、第2同期機構(シンクロメッシュ機構)S2を介して、副入力軸13と出力軸17とを選択的に連結する複数の駆動ギヤ19a,19bからなる第2ギヤ群が設けられている。
第2同期装置S2は、周知のものであり、図示しないアクチュエータ及びシフトフォークにより、スリーブを副入力軸13の軸方向に移動させることによって、2速駆動ギヤ19a又は4速駆動ギヤ19bを副入力軸13と選択的に連結させる。スリーブが図示の中立位置から左側へ移動した場合、2速駆動ギヤ19aと副入力軸13とが連結される(以下、この状態を「2速段確立状態」という)。一方、スリーブが中立位置から右側へ移動した場合、4速駆動ギヤ19bと副入力軸13とが連結される(以下、この状態を「4速段確立状態」という)。スリーブが中立位置に位置するとき、2速駆動ギヤ19aと4速駆動ギヤ19bとの双方が副入力軸13から遮断される(以下、この状態を「中立状態」という)。
3速駆動ギヤ18aと出力軸17上に固定された低速従動ギヤ17aとが噛合して3速ギヤ列20が構成されている。また、5速駆動ギヤ18bと出力軸17上に固定された高速従動ギヤ17bとが噛合して5速ギヤ列21が構成されている。
2速駆動ギヤ19aと出力軸17上に固定された前記低速従動ギヤ17aとが噛合して2速ギヤ列22が構成されている。また、4速駆動ギヤ19bと出力軸17上に固定された前記高速従動ギヤ17bとが噛合して4速ギヤ列23が構成されている。なお、本実施形態において、低速従動ギヤ17aと高速従動ギヤ17bとが本発明の第3ギヤ群に相当する。
このように、動力伝達装置1は、変速比の異なる複数のギヤ列20〜23を備える。第1主入力軸11には、変速比順位で奇数番目の各変速段(変速ギヤ)を確立する奇数番ギヤ列20,21の駆動ギヤ18a,18bが、副入力軸13には、変速比順位で偶数番目の各変速段を確立する偶数番ギヤ列22,23の駆動ギヤ19a,19bが回転自在に軸支されている。
さらに、第1主入力軸11に対して、後退軸24が平行に配置されている。そして、後退軸24に対して、後退アイドル軸25が同軸に配置されている。実施形態では、後退軸24の外側に、中空に形成された後退アイドル軸25が回転自在に設けられている。なお、後退軸24の両端部は、図示しない軸受にそれぞれ回転自在に支持されている。
そして、後退軸24と後退アイドル軸25とは、後退同期機構(シンクロメッシュ機構)SRを介して接続されている。後退同期装置SRは、周知のものであり、図示しないアクチュエータ及びシフトフォークにより、スリーブを後退アイドル軸25の軸方向に移動させることによって、後退ギヤ25aを後退軸24に選択的に連結させる(以下、この状態を「後進段確立状態」という)。スリーブが図示の中立位置から右側へ移動した場合、後退ギヤ25aと後退軸24とが連結される。スリーブが中立位置に位置するとき、後退ギヤ25aは後退軸24から遮断される(以下、この状態を「中立状態」という)。
第1主入力軸11と後退アイドル軸25とは、後退ギヤ対26を介して結合されている。この後退ギヤ対26は、第1主入力軸11上に固定されたギヤ11aと後退アイドル軸25上に固定されたギヤ25bとが噛合して構成されている。また、後退軸24とアイドル軸14とは、後退ギヤ対27を介しても結合されている。この後退ギヤ対27は、後退軸24上に固定されたギヤ24aとアイドル軸14上に固定された前記ギヤ14aとが噛合して構成されている。
第1主入力軸11、ひいては出力軸17に対して、カウンタ軸28が平行に配置されている。そして、出力軸17とカウンタ軸28とは、カウンタギヤ対29を介して結合されている(図2参照)。このカウンタギヤ対29は、出力軸17上に固定されたギヤ17cとカウンタ軸28上に固定されたギヤ28aとが噛合して構成されている。
カウンタ軸28は、駆動輪4,4の間の差動歯車ユニット30を介して該駆動輪4,4に連結されている。差動歯車ユニット30は、駆動輪4,4にそれぞれ車軸31,31を介して連結された図示しないサイドギヤを内蔵するギヤケース30aと、このギヤケース30aの外周に固定されたギヤ30bとを備える。そして、該差動歯車ユニット30のギヤ30bに、カウンタ軸28上に固定されたギヤ28bが噛合されている。
これにより、カウンタ軸28は、駆動輪4,4と連動して回転するように、差動歯車ユニット30を介して駆動輪4,4に連結されている。また、出力軸17上には、図示しないパーキング機構のギヤと噛合するパーキングギヤ17dも固定されている。なお、カウンタ軸28の両端部は、それぞれ図示しない軸受に回転自在に支持されている。
差動回転機構9は、中空の電動機3の径方向内側に設けられている。なお、電動機3を構成するロータ3a、ステータ3b及びコイル3baの一部又は全部を、第1主入力軸11の軸線方向と直交する方向(周方向)に差動回転機構9と重なるように配置することにより、動力伝達装置1の小型化を図ることが可能となり、好ましい。
差動回転機構9は、第1回転要素、第2回転要素、及び第3回転要素を互いに差動回転可能な差動装置により構成されている。差動回転機構9を構成する差動装置は、本実施形態では、シングルピニオン型の遊星歯車装置であり、3つの回転要素として、サンギヤ(第1回転要素)9sと、リングギヤ(第3回転要素)9rと、これらのサンギヤ9s及びリングギヤ9rの間で当該両ギヤ9r,9sに噛合された複数のプラネタリギヤ9pを回転自在に支持するキャリア(第2回転要素)9cとを同軸心に備えている。
差動回転機構9のサンギヤ9s、キャリア9c、リングギヤ9rからなる3つの回転要素を、速度線図(各回転要素の相対的な回転速度を直線で表すことができる図)におけるギヤ比に対応する間隔での並び順にサンギヤ9s側からそれぞれ第1回転要素、第2回転要素、第3回転要素とすると、第1回転要素はサンギヤ9s、第2回転要素はキャリア9c、第3回転要素はリングギヤ9rとなる。
そして、差動回転機構9のギヤ比(リングギヤ9rの歯数/サンギヤ9sの歯数)をgとして、第1回転要素たるサンギヤ9sと第2回転要素たるキャリア9cの間の間隔と、第2回転要素たるキャリア9cと第3回転要素たるリングギヤ9rの間の間隔との比は、g:1となる。
サンギヤ9sは、第1主入力軸11と連動して回転するように、該第1主入力軸11の電動機3側の一端部に固定され、該第1主入力軸11に連結されている。さらに、サンギヤ9sは、エンジン2側の反対側でロータ3aと固定されている。これにより、サンギヤ8s、第1主入力軸11及びロータ3aは連動して回転する。
リングギヤ9rは、電動機3のロータ3aと連動して回転するように該ロータ3aの内側に連結されている。そして、リングギヤ9rは、シンクロメッシュ機構で構成されたロック装置SLにより、不動部であるハウジング34に固定される固定状態と、非固定状態とを切換自在となっている。
ロック装置SLは、周知のものであり、図示しないアクチュエータ及びシフトフォークにより、スリーブをリングギヤ9rの回転軸方向に移動させることによって、リングギヤ9rをハウジング34に選択的に連結させる。スリーブが図示の中立位置から右側へ移動した場合、リングギヤ9rは固定状態になる。スリーブが中立位置に位置するとき、リングギヤ9rは非固定状態となる(以下、この状態を「中立状態」という)。
なお、ロック装置SLは、シンクロメッシュ機構に限らず、スリーブ等による摩擦係合解除機構の他、湿式多板ブレーキ、ハブブレーキ、バンドブレーキ等のブレーキや、ワンウェイクラッチ、2ウェイクラッチなどで構成してもよい。
キャリア9cは、3速駆動ギヤ18aと連動して回転するように、該3速駆動ギヤ18aの電動機3側の一端部に固定され、該3速駆動ギヤ18aに連結されている。
なお、差動回転機構9は、サンギヤと、リングギヤと、互いに噛合し一方がサンギヤ、他方がリングギヤに噛合する一対のピニオンを自転及び公転自在に軸支するキャリアとからなるダブルピニオン型で構成してもよい。この場合、例えば、サンギヤ(第1回転要素)を第1主入力軸11に固定し、リングギヤ(第2回転要素)を3速駆動ギヤ13aに連結し、キャリア(第3回転要素)をロック機構R1で不動部に解除自在に固定するように構成すればよい。
さらに、後退アイドル軸25に対して、補機5の入力軸5aが平行に配置されている。そして、後退アイドル軸25と補機5の入力軸5aとは、ベルト機構32を介して接続されている。このベルト機構32は、後退アイドル軸25上に固定されたギヤ25cと入力軸5a上に固定されたギヤ5bとがベルト32aを介して連結されて構成されている。補機5の入力軸5aには、補機用クラッチ33が介設されており、ギヤ5bと補機5の入力軸5aとが補機用クラッチ33を介して同軸心に連結されている。
補機用クラッチ33は、ECU8の制御の下で、ギヤ5bと補機5の入力軸5aとの間を接続又は遮断するように動作するクラッチである。補機用クラッチ33を接続状態に動作させると、ギヤ5bと補機5の入力軸5aとが互いに一体に回転するように補機用クラッチ33を介して接続される。また、補機用クラッチ33を遮断状態に動作させると、該補機用クラッチ33によるギヤ5bと補機5の入力軸5aとの間の接続が解除される。この状態では、後退アイドル軸25を介しての第1主入力軸11から補機5の入力軸5aへの動力伝達が遮断される。
次に、上記のように構成された動力伝達装置の動作について説明する。動力伝達装置1の主要な動作モードとして、エンジン2のみを車両の動力発生として走行するエンジン走行モードと、電動機3のみを車両の動力発生として走行するEV走行モードと、エンジン2と電動機3との双方を運転して走行するHEV走行モードとがある。
HEV走行モードには、エンジン2の出力に電動機3の出力を加えて走行するアシスト走行モードと、エンジン2の出力を電動機3に分配して電動機3が回生運転を行いながら走行する回生走行モードとがある。回生走行モードでは、電動機3の回生運転によりバッテリ7が充電を行われる。EV走行モードでは、バッテリ7に蓄積された電気エネルギーを消費して電動機3が動力を出力する。
そして、本実施形態では、ECU8が車両のアクセル操作量や車速等から所定のマップ等を用いて車両の要求駆動力(要求駆動力)を設定し、この要求駆動力に応じて、各走行モードや変速段を選択する。さらに、ECU8は、選択した走行モードや変速段等に応じて、動力伝達装置1を制御する。
例えば、ECU8は、エンジン2を適正運転領域、例えば燃費が良好となる領域で運転させたときに該エンジン2から出力された動力(以下、この動力を「適正運転動力」という)が要求駆動力に満たないとき、アシスト走行モードを選択する。このとき、ECU8は、要求駆動力に対する不足分をバッテリ7からPDU6を介して電力が電動機3に供給されるように制御する。ただし、不足分を補うために、定格出力又は最高回転数を超えて電動機3を運転させる必要が生じる場合、電動機3を定格出力又は最高回転数で運転させ、エンジン2の出力を増加させる。
また、ECU8は、適正運転動力が要求駆動力を超えるとき、回生走行モードを選択し、ギヤ等による伝達ロスを除いた差分の動力(エネルギー)を電動機3によって電力に変換し、PDU6を介してバッテリ7に充電させる。ECU8は、バッテリ7の充電レベル(SOC)が小さいときも、バッテリ7の充電を促進するために、回生走行モードを選択し、エンジン2の出力を増加させる。
次に、本実施形態の動力伝達装置1の各変速段について図1及び図3を参照して説明する。上述したように、本実施形態の動力伝達装置1は、変速比の異なる複数の変速段の各ギヤ対を介して入力軸の回転速度を複数段に変速して出力軸17に出力するように構成されている。つまり、本実施形態の動力伝達装置1は有段変速機を有する。動力伝達装置1は、前進5段後進1段の変速段を確保している。動力伝達装置1では、変速段が大きいほど変速比が小さいように規定されている。
エンジン始動時、第1クラッチC1を接続状態にして、電動機3を駆動し、エンジン2を始動させる。即ち、電動機3はスタータとしての機能を兼ね備えている。
〔1速段〕
1速段(擬似1速段)は、ロック装置SLにより、リングギヤ9rを固定状態とし、第1同期装置S1、第2同期装置S2及び後退同期装置SRを中立状態とすることで確立される。1速段は、後述する2速段よりもギヤ比が大きい変速段に相当する。エンジン2により走行する場合には、第2クラッチC2を遮断状態(以下、OFF状態という)、第1クラッチC1を接続状態(以下、ON状態という)にする。
これにより、エンジン2から出力された駆動力は、エンジン2の出力軸2a、第1クラッチC1、第1主入力軸11を介して、サンギヤ9sに伝達され、エンジン2の出力軸2aに入力されたエンジン2の回転数が1/(g+1)に減速されて、キャリア9cを介し3速駆動ギヤ18aに伝達される。
3速駆動ギヤ18aに伝達された駆動力は、3速駆動ギヤ18a及び低速従動17aで構成される3速ギヤ列20のギヤ比(3速駆動ギヤ18aの歯数/低速従動ギヤ17aの歯数)をiとして、1/i(g+1)に変速されて低速従動ギヤ17a及び出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達され、1速段が確立される。
このように、動力伝達装置1においては、差動回転機構9及び3速ギヤ列20で1速段を確立できるため、1速段専用の同期機構が必要なく、これにより、動力伝達装置1の軸長の短縮化を図ることができる。
なお、エンジン2を駆動させると共に、電動機3を駆動させれば、1速段での電動機3によるアシスト走行(エンジン2の駆動力を電動機3で補助する走行)を行うこともできる。この場合、電動機3から出力される駆動力は、サンギヤ9s、キャリア9c、3速ギヤ列20、出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。さらに、第1クラッチC1をOFF状態とすれば、電動機3のみで走行するEV走行を行うこともできる。
また、減速回生運転中では、電動機3を制動することにより車両を減速状態として電動機3で発電させ、PDU6を介してバッテリ7に充電させることができる。
また、第1クラッチC1をON状態とし、第2クラッチC2をOFF状態とし、エンジン2の駆動により1速段で走行中、ECU8は、車両速度やアクセルペダルの開度等の車両情報から2速段へのアップシフトが予想される場合、第2同期装置S2を2速段確立状態、又は、この状態に近づけるプリシフト状態とする。これにより1速段から2速段へのアップシフトをスムーズに行うことが可能な1速段2速段準備状態となる。
〔2速段〕
2速段は、第2同期装置S2を2速段確立状態とし、第1同期装置S1、ロック装置SL及び後退同期装置SRを中立状態とすることで確立される。エンジン2により走行する場合には、第2クラッチC2をON状態とする。この2速段では、エンジン2から出力される駆動力は、第2主入力軸12、ギヤ対15、アイドル軸14、ギヤ対16、副入力軸13、2速ギヤ列22、及び出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。
また、エンジン2の駆動により2速段で走行中、ECU8は、1速段へのダウンシフトが予想される場合、ロック装置SLを固定状態、又は、この状態に近づけるプリシフト状態とする。これにより2速段から1速段へのダウンシフトをスムーズに行うことが可能な2速段1速段準備状態となる。
さらに、ロック装置SLを固定状態として、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この場合、電動機3から出力される駆動力は、サンギヤ9s、3速ギヤ列20、出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。この状態を2速段プレ1速段状態という。
さらに、この状態でエンジン2による駆動を止めて、EV走行を行うこともできる。エンジン2による駆動を止める場合には、例えばエンジン2をフューエルカット状態や休筒状態としてもよい。又、減速回生運転を行うことができる。
また、エンジン2の駆動により2速段で走行中、ECU8は3速段へのアップシフトが予想される場合、第1同期装置S1を3速段確立状態、又は、この状態に近づけるプリシフト状態とする。これにより2速段から3速段へのアップシフトをスムーズに行うことが可能な2速段3速段準備状態となる。
さらに、第1同期装置S1を3速段確立状態として、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この場合、電動機3から出力される駆動力は、サンギヤ9s、3速ギヤ列20、出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。この状態を2速段プレ3速段状態という。
さらに、この状態でエンジン2による駆動を止めて、EV走行を行うこともできる。エンジン2による駆動を止める場合には、例えばエンジン2をフューエルカット状態や休筒状態としてもよい。又、減速回生運転を行うことができる。
〔3速段〕
3速段は、第1同期装置S1を3速段確立状態とし、第2同期装置S2、ロック装置SL及び後退同期装置SRを中立状態とすることで確立される。エンジン2により走行する場合には、第1クラッチC1をON状態とする。この3速段では、エンジン2から出力される駆動力は、第1主入力軸11、3速ギヤ列20、及び出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。
なお、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、3速段での電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この場合、電動機3から出力される駆動力は、サンギヤ9s、3速ギヤ列20、及び出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。さらに、第1クラッチC1をOFF状態とし、EV走行を行うこともできる。また、EV走行時に、第1クラッチC1をON状態とし、エンジン2による駆動を止めて、EV走行を行うこともできる。又、3速段で減速回生運転を行うことができる。
3速段で走行中、ECU8は、2速段へのダウンシフトが予想される場合、第2同期装置S2を2速段確立状態、又はこの状態に近づけたプリシフト状態とする。これにより、3速段から2速段へのウンシフトをスムーズに行うことが可能な3速段1速段準備状態となる。
さらに、第2同期装置S2を2速段確立状態として、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この状態を3速段プレ2速段状態という。
また、3速段で走行中、ECU8は、4速段へのアップシフトが予想される場合第2同期装置S2を4速段確立状態、又はこの状態に近づけたプリシフト状態とする。これにより、3速段から4速段へのアップシフトをスムーズに行うことが可能な3速段4速段準備状態となる。
さらに、第2同期装置S2を4速段確立状態として、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この状態を3速段プレ4速段状態という。
〔4速段〕
4速段は、第2同期装置S2を4速段確立状態とし、第1同期装置S1、ロック装置SL及び後退同期装置SRを中立状態とすることで確立される。エンジン2により走行する場合には、第2クラッチC2をON状態とする。この4速段では、エンジン2から出力される駆動力が、第2主入力軸12、ギヤ対15、アイドル軸14、ギヤ対16、副入力軸13、4速ギヤ列23、及び出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。
また、エンジン2の駆動により4速段で走行中、ECU8は、3速段へのダウンシフトが予想される場合、第1同期装置S1を3速段確立状態、又は、この状態に近づけるプリシフト状態とする。これにより4速段から3速段へのダウンシフトをスムーズに行うことが可能な4速段3速段準備状態となる。
さらに、第1同期装置S1を3速段確立状態として、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この場合、電動機3から出力される駆動力は、サンギヤ9s、3速ギヤ列20、出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。この状態を4速段プレ3速段状態という。
さらに、第1同期装置S1を3速段確立状態とし、エンジン2による駆動を止めて、EV走行を行うこともできる。エンジン2による駆動を止める場合には、例えばエンジン2をフューエルカット状態や休筒状態としてもよい。又、減速回生運転を行うことができる。
また、エンジン2の駆動により4速段で走行中、ECU8は、5速段へのアップシフトが予想される場合、第1同期装置S1を5速段確立状態、又は、この状態に近づけるプリシフト状態とする。これにより、4速段から5速段へのアップシフトをスムーズに行うことが可能な4速段5速段準備状態となる。
さらに、第1同期装置S1を5速段確立状態とし、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この場合、電動機3から出力される駆動力は、サンギヤ9s、5速ギヤ列21、出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。この状態を4速段プレ5速段状態という。
さらに、この状態でエンジン2による駆動を止めて、EV走行を行うこともできる。エンジン2による駆動を止める場合には、例えばエンジン2をフューエルカット状態や休筒状態としてもよい。又、減速回生運転を行うことができる。
また、ロック装置SLを固定状態とし、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この状態を4速段プレ1速段状態という。
〔5速段〕
5速段は、第1同期装置S1を5速段確立状態とし、第2同期装置S2、ロック装置SL及び後退同期装置SRを中立状態とすることで確立される。エンジン2により走行する場合には、第1クラッチC1をON状態とする。この5速段では、エンジン2から出力される駆動力が、第1主入力軸11、5速ギヤ列21、及び出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。
なお、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、5速段での電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この場合、電動機3から出力される駆動力は、サンギヤ9s、5速ギヤ列21、及び出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。さらに、第1クラッチC1をOFF状態とし、EV走行を行うこともできる。又、第1クラッチC1をON状態とし、エンジン2による駆動を止めて、EV走行を行うこともできる。又、5速段で減速回生運転を行うことができる。
5速段で走行中、ECU8は、4速段へのダウンシフトが予想される場合、ECU8が、第2同期装置S2を4速段確立状態、又はこの状態に近づけたプリシフト状態とする。これにより、5速段から4速段へのダウンシフトをスムーズに行うことが可能な5速段4速段準備状態となる。
さらに、第2同期装置S2を4速段確立状態として、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この状態を5速段プレ4速段状態という。
さらに、第2同期装置S2を2速段確立状態として、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この状態を5速段プレ2速段状態という。
〔後進段〕
後進段は、後退同期装置SRを、後退軸24と後退ギヤ25aとを連結させた状態とし、第2同期装置S2を2速段確立状態とし、第1同期装置S1及びロック装置SLを中立状態とすることで確立される。エンジン2により走行する場合には、第1クラッチC1をON状態とする。この後進段では、エンジン2から出力される駆動力は、第1主入力軸11、後退ギヤ対26、後退アイドル軸25、後退軸24、後退ギヤ対27、アイドル軸14、ギヤ対16、副入力軸13、2速ギヤ列22、及び出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。
なお、エンジン2を駆動させると共に電動機3を駆動させれば、後進段での電動機3によるアシスト走行を行うこともできる。この場合、電動機3から出力される駆動力は、サンギヤ9s、第1主入力軸11、後退ギヤ対26、後退アイドル軸25、後退軸24、後退ギヤ対27、アイドル軸14、ギヤ対16、副入力軸13、2速ギヤ列22、及び出力軸17等を介して駆動輪4,4に伝達される。また、第1クラッチC1をOFF状態とすることで、EV走行を行うこともできる。後進段で減速回生運転を行うことができる。
上記のように、本実施形態では、第1主入力軸11にエンジン2の駆動力が伝達される変速段は、1速段、3速段及び5速段である。1速段は第1同期装置S1をニュートラル状態にすると共にロック装置SLを固定状態にする。これによって、差動回転機構9及び3速ギヤ列20を介してエンジン2の駆動力が第1主入力軸11に伝達される。従って、1速段を確立する場合においては、差動回転機構9及び3速ギヤ列20を含めて、本発明の「第1入力軸の変速ギヤ」となる。このため、本実施形態では、ロック装置SLは、1速段において第1主入力軸11と出力軸17とを連結するため、ロック装置SLも本発明の第1同期機構となる。
当該車両は、通常、ECU8の制御手段8a1の制御によって、要求駆動力に応じて選択する方法によって、プレシフトの変速段を含めた変速段が選択される。通常の方法では、ECU8は、アクセル開度センサ22の出力信号に応じて要求駆動力を決定する。ECU8は、要求駆動力が増加している場合、加速することを要求されていると判断し、駆動力を増大するために変速比の大きい変速段(ダウンシフト側の変速段)へプレシフトを行う。例えば、ECU8は、4速段で走行中の場合、プレシフトで3速段を選択する。
また、要求駆動力が減少している場合は、減速することを要求されていると判断し、走行速度を減少するために変速比の大きい変速段(アップシフト側の変速段)へプレシフトを行う。例えば、4速段で走行中は、プレシフトで3速段を選択する。
また、ECU8は、要求駆動力が一定の場合、同じ速度で走行する等速走行を要求されていると判断する。このとき、ECU8は、車両の走行速度に応じて走行速度が安定する変速段へプレシフトを行う。車両の走行速度が増加するほど変速比を小さくすると走行速度は安定する。例えば、4速段で走行中の走行速度が、3速段より5速段の方が安定する走行速度の場合にはプレシフトで5速段を選択する。
ところで、図3は、4速段で走行中の電動機3の回転数と駆動力とに対する永久磁石の単位時間当たりの発熱量の一例を示す。横軸は回転数、縦軸は駆動力である。駆動力が0より大きいときは力行状態を表し、駆動力が0より小さいときは回生状態を表す。図中の点線は、電動機3の出力トルクが同じラインを表す等トルクラインである。
図3に示される4つの領域a,b,c,dは、永久磁石の単位時間当たりの発熱量の分布を表す。同じ領域内では、永久磁石の単位時間当たりの発熱量は同等である。発熱量が同等とは必ずしも発熱量が等しい必要はなく、等しいとして扱った場合でも問題は発生しないとみなせる程度の差は同等としてよい。これらの4つの領域a〜dが、本発明における比率群に相当する。右側の領域になるほど単位時間当たりの発熱量は大きい。従って、領域aから領域dのうちでは、領域aが最も単位時間当たりの発熱量が大きく、領域dが最も単位時間当たりの発熱量が少ない。
この電動機3の回転数と駆動力とによる永久磁石の単位時間当たりの発熱量は、電動機3の特性によって決定され、ECU8のメモリ8bにテーブルとして保存されている。
プレシフトの変速段を選択する際の電動機3の回転数は、当該車両の車輪と出力部材33との間の変速比が固定であるため、車両の車輪の回転数(車両の走行速度)と動力伝達機構1の変速比に応じて一意に決定される。
2速段又は4速段で走行中は、出力軸17に固定された低速従動ギヤ17a及び高速従動ギヤ17bの回転によって3速駆動ギヤ18a及び5速駆動ギヤ18bが回転する。このとき、1速段、3速段又は5速段がプレシフト状態であれば、第1主入力軸11は回転している。また、このとき、1速段でプレシフト状態にしていれば、リングギヤ9rが固定されているため、3速駆動ギヤ18aが回転することでキャリア9cが公転して、サンギヤ9sが回転しており、第1主入力軸11は回転している。
上記のように、副入力軸13の変速段(2速段、4速段)によって走行中に、第1主入力軸11の何れかの変速段(1速段、3速段、5速段)がプレシフト状態であれば第1主入力軸11は回転しており、これに伴い、電動機3のロータ3aも回転している。このロータ3aの回転数が電動機3の回転数である。この回転数は、上述のとおり、車両の走行速度と動力伝達装置1の変速比に応じて決定される。
従って、副入力軸13の変速段(2速段、4速段)によって走行中に、第1主入力軸11の何れかの変速段(1速段、3速段、5速段)がプレシフト状態であるとき、電動機3の回転数は、車両の走行速度と変速段とによって定まる。そこで、この電動機3の回転数は車両の走行速度と変速段とに対するテーブルから検索することで決定しており、このテーブルをメモリ8bに保存している。なお、電動機3の回転数を走行速度と変速段の変速比から算出してもよい。
プレシフトの変速段を選択する際の電動機3の駆動力は、要求駆動力設定手段8a2として機構するCPU8aが設定した要求駆動力と動力伝達装置1の変速比とから決定する。
ただし、各変速段において動力伝達装置1から出力可能な最大駆動力の範囲は決まっている。そこで、最大駆動力取得手段8a3として機構するCPU8aが取得した最大駆動力が要求駆動力以上となるように、変速段を選択する。なお、最大駆動力取得手段8a3は、プレシフト状態を含めた各変速段に対応する最大駆動力をテーブルから検索することで所得する。
電動機3は、ロータ3aに装着された永久磁石の温度が限界温度(減磁温度)を超えると、減磁が発生して、出力が低下するおそれがある。永久磁石に発生した渦電流により渦電流損が増加すると、発熱が増大する。高速回転する電動機3の発熱(損失)は、この渦電流損の寄与が大きく、渦電流損は電動機3の回転数に略比例する。これは、図3から、電動機3の回転数が高いほど、電動機3の単位当たりの発熱量が大きいことからも明らかである。
そこで、ハイブリッド車両は、電動機3のロータ3aに装着された永久磁石(図示略)の温度を検出する磁石温度検知手段42を備えている。磁石温度検知手段42は、本発明の温度取得部に相当する。
本実施形態では、磁石温度検知手段42は、永久磁石の温度を直接的に検出する温度センサである。なお、磁石温度検知手段42は、永久磁石の温度を直接的に検出する代わりに、予め実行される試験などによって得られる所定のマップを参照して、他の温度検知値(例えば、電動機3の冷却媒体の温度の検出結果など)に応じて、永久磁石の温度を取得することによって、永久磁石の温度を推定するものであってもよい。
さらに、PDU8のCPU8aは、電動機3の発熱が現在の状態のまま持続すると、永久磁石の温度が閾温度Tthを超えるか否かを判定する磁石温度判定手段8a4として機能する。
磁石温度判定手段8a4は、例えば、磁石温度検知手段42の検出した温度が、閾温度Tthより所定温度低い温度を超えたとき、永久磁石の温度が閾温度Tthを超える可能性があると判定する。この所定温度は、余裕幅であり、所定の時間内に閾温度Tthを超えるか否かを実験やシミュレーションなどによって求めればよい。
なお、電動機3の減磁温度は、電動機3の出力(トルクおよび回転数)に応じて異なっており、電動機3の出力が高くなるほど減磁温度は低くなる。しかし、本実施形態では、永久磁石の閾温度Tthを、電動機3の出力に拘わらず減磁が発生し得る限界温度に設定している。このような閾温度Tthは、電動機3の仕様によって実験的に定めればよい。ただし、電動機3のトルクに応じて、閾温度Tthを変化させてもよい。
なお、磁石温度判定手段8a4は、例えば、磁石温度検知手段の検出した温度の変化率、温度の変化速度(微分)などに基づいて、判定してもよい。
磁石温度判定手段8a4が永久磁石の温度が閾温度Tthを超えると判定した場合、PDU8は電動機3の昇温を抑制する制御を行う。上記したように、よって、電動機3の昇温を抑制して減磁が発生することを防止するためには、電動機3の回転数を抑制すればよい。動力伝達装置1では、電動機3のロータ3aに第1主入力軸11が固定されているので、この第1主入力軸11の回転数を抑制すればよい。
以下、磁石温度判定手段8a4が永久磁石の温度が閾温度Tthを超える可能性があると判定した場合における、PDU8が行う変速段の選択方法について説明する。
奇数の変速段がシフト状態又はプレシフト状態にある場合、PDU8は、当該奇数の変速段よりも変速比が小さい奇数の変速段にアップシフトする制御を行う。これにより、第1主入力軸11の回転数が減少するに伴い電動機3の回転数は減少し、永久磁石の発熱を抑制することが可能となる。
これは、具体的には、例えば、3速段で走行している場合、2速段プレ5速段、4速段プレ5速段、5速段に変速することが含まれる。また、4速段プレ3速段で走行している場合、4速段プレ5速段、5速段、5速段プレ4速段、5速段プレ2速段などに変速することが含まれる。
なお、第1主入力軸11の回転数が減少することに伴い、差動回転機構9を構成するサンギヤ9s、キャリア9c及びリングギヤ9rの回転数が減少するので、これらギヤ間でのギヤ損失による発熱が減少する。そして、動力伝達装置1では、電動機3の近傍に差動回転機構9が配置されているので、電動機3は、差動回転機構9からの受熱が減少することによっても、昇温が抑制される。
上記のように、本発明で変速可能な変速段は複数になることが多い。そこで、様々な変速条件を加えて、変速段を選択することが好ましい。
例えば、変速比の変化が大きいと、変速ショックが大きいので、変速比の変化は小さいことが好ましい。具体的には、3速段で走行している場合、5速段に変速するよりも4速段又は4速段プレ5速段に変速することが好ましい。また、2速段プレ1速段で走行している場合、2速段プレ5速段に変速するよりも2速段プレ3速段に変速することが好ましい。
ただし、磁石温度判定手段8a4が、電動機3の発熱が現在の状態のまま持続すると、短時間で永久磁石の温度が閾温度Tthを超えると判断した場合には、2速段プレ1速段で走行している場合、2速段プレ5速段に変速して、電動機3の回転数の減少を大きくすることも好ましい。
また、電動機3の出力トルクを増加させることなく、要求駆動力設定手段8a2が設定した要求駆動力を動力伝達装置1が出力することが可能なように、奇数の変速段がシフト状態にある場合、PDU8は、当該奇数の変速段よりも変速比が小さい偶数の変速段にアップシフトすると共に、当該奇数の変速段よりも変速比が大きい奇数の変速段をプレシフト状態にすることが好ましい。これにより、電動機3による駆動力の低下を、エンジン2によって補うことができる。具体的には、例えば、3速段で走行している場合、2速段プレ5速段に変速すればよい。
また、例えば、最大駆動力取得手段8a3が取得する最大駆動力が、要求駆動力設定手段8a2が設定した要求駆動力を超えるように、変速段を選択することが好ましい。
これにより、例え、動力伝達装置1が変速直後には要求駆動力を出力することができなくとも、その後、変速することなく、エンジン2や電動機3から伝達される駆動力を増大することにより、要求駆動力を出力することが可能となる。
ハイブリッド車両は,運転者が選択可能なハイブリッド車両の制御モードとして複数のモードを備え、選択されたモードに応じて、変速段を決定してもよい。例えば、このようなモードとして、通常モード、省燃費モード及び駆動力重視モードの3つのモードを備えてもよい。通常モードは、運転者が省燃費モード及び駆動力重視モードを選択していないときのモードである.省燃費モードは、通常モードよりも燃費を向上させるように、動作モード及び変速段(エンジン2および電動機3の回転数)を選択するモードである。駆動力重視モードは、通常モードよりも駆動力及び駆動力応答性を向上させるように、動作モード及び変速段(エンジン2および電動機3の回転数)を選択するモードである。
そして、通常モード選択時は、電動機3が最少損失となるように動作モード及び変速段を選択し、省燃費モード選択時は、車両全体で最少損失となるように動作モード及び変速段を選択し,駆動力重視モード選択時は、駆動力変動又は変速時間が最少となるように動作モード及び変速段を選択すればよい。
また、変速比が小さい偶数の変速段にアップシフトすると共に変速比が小さい奇数の変速段をプレシフト状態にした後に、車速を増速する必要がある場合、例えば、前述したモードに応じて、以下のように変速段を切り替えればよい。
通常モード選択時は、電動機3が最少損失となるように、当該奇数の変速段をシフト状態にすると共に当該偶数の変速段より変速比が大きい偶数の変速段をプレシフト状態にする。さらに、車速を増速する場合には、当該偶数の変速段をシフト状態にすると共に当該奇数の変速段をプレシフト状態する。具体的には、例えば、前進7段後進1段の変速段を確保した動力伝達装置1Aにおいて(図5参照)、4速段プレ7速段に変速した場合、7速段プレ6速段に変速し、その後、6速段プレ7速段に変速すればよい。
省燃費モード選択時は、奇数の変速段をプレシフト状態を維持したまま当該偶数の変速段より変速比が小さい偶数の変速段をシフト状態にする。これにより、通常モード選択時と比較して変速時間は長くなるが、車両全体では最少損失となる。具体的には、例えば、4速段プレ7速段に変速した場合、6速段プレ7速段に変速すればよい。
駆動力重視モード選択時は、当該偶数の変速段より変速比が小さい偶数の変速段にプレシフト状態にすると共に当該奇数の変速段より変速比が大きい奇数の変速段をプレシフト状態する。さらに、車速を増速する場合には、当該偶数の変速段をシフト状態にすると共に当該奇数の変速段より小さい奇数の変速段にプレシフト状態する。これにより、駆動力変動及び変速時間が最小となる。具体的には、例えば、4速段プレ7速段に変速した場合、5速段プレ6速段に変速し、その後、6速段プレ7速段に変速すればよい。
次に、本実施形態のECU8のCPU8aによって実行される変速制御について説明する。
図4は、CPU8aが実行する本発明の変速制御の手順を示すフローチャートである。本フローチャートで示される制御処理プログラムは、所定時間(例えば、10msec)毎に呼び出されて実行される。
最初のステップST1では、電動機3の発熱が現在の状態のまま持続すると、永久磁石の温度が閾温度Tthを超えるか否かを判定する。
ステップST1の判定結果がNOのときは、ステップST2に進み、上述した通常の方法で変速段の決定を行う。ステップST1の判定結果がYESのときは、ステップST3に進む。
ステップST3では、第1主入力軸11で走行しているか否かの判定を行う。
ステップST3で、第1主入力軸11で走行中であると判定されたとき(ステップST3の判定結果がYESのとき)は、ステップST4に進み、第1主入力軸11で走行していないと判定されたとき(ステップST3の判定結果がNOのとき)は、ステップST9に進む。
ステップST4では、要求駆動力が所定値以上か否かの判定を行う。要求駆動力が所定値以上であるか否かの判定は、アクセル開度センサ41が検知したアクセルペダルの操作量(要求駆動力)が所定値以上か否かによって行う。所定値は、変速動作を伴わないと要求駆動力を満たせないときの値であり、メモリ8bに記憶しておく。この値は、車両の走行速度に応じて変化させてもよい。
なお、要求駆動力が所定値以上か否かの判定を、例えば、スポーツ走行モードにするか否かの設定を行えるようにしておき、オンのときに要求駆動力が所定値以上であると判定してもよい。スポーツ走行とは、走行性能を向上するためにエンジン2の回転数を高い状態に保ち、アクセルペダルの操作による加減速の要求に素早く反応できる走行を指す。運転者がスポーツ走行モードをオンに設定しているときは、エネルギーの効率より駆動力を重視している可能性が高いため、要求駆動力に応じた変速ギヤにすることで運転者の要求に応えることができる。スポーツ走行モードの設定(オンかオフかの状態)は、メモリ8bに記憶される。
ステップST4の判定で要求駆動力が所定値以上であると判定されたとき(ステップST4の判定結果がYESのとき)はステップST5に進む。
ステップST5では、副入力軸13の変速段(偶数段)をダウンシフトする変速段の決定を行い、ステップST6に進む。ステップST6では、第1主入力軸11の変速段(奇数段)をアップ側にプレシフトする変速段の決定を行う。
前記ステップST4の判定で要求駆動力が所定値未満であると判定されたとき(ステップST4の判定結果がNOのとき)は、ステップST7に進む。
ステップST7では、副入力軸13の変速段をアップシフト又はダウンシフトする変速段の決定を行い、ステップST8に進む。ステップST8では、第1主入力軸11の変速段をアップ側にプレシフトする変速段の決定を行う。
第1主入力軸11で走行していない判定されたとき(ステップST3の判定結果がNOのとき)は、ステップST9で、プレシフト状態であるか否かの判定を行う。
ステップST9で、第1主入力軸11の変速段がプレシフト状態であると判定されたとき(ステップST9の判定結果がYESのとき)は、ステップST10に進む。
ステップST10では、第1主入力軸11の変速段をアップ側にプレシフトする変速段の決定を行う。
ステップST9で、第1主入力軸11の変速段がプレシフト状態でないと判定されたとき(ステップST9の判定結果がNOのとき)は、ステップST2に進み、上述した通常の方法で変速段の決定を行う。
ステップST2、ST6、ST8、ST10の処理が終了したらステップST11に進み、決定した変速段を選択するシフト又はプレシフトを実行し、本処理を終了する。
以上のように、制御手段としてのCPU8aは、電動機3の発熱が現在の状態のまま持続すると、永久磁石の温度が閾温度Tthを超えるか否かを判定したとき(ステップST1の判定結果がYESのとき)、第1主入力軸11の変速段をアップ側にプレシフトする変速段の決定を行う(ステップST6、ステップST8、ステップST10)。これにより、電動機3に接続されている第1主入力軸11の回転数が減少して、電動機3の回転数が減少するので、電動機3の発熱は低減される。よって、電動機3の昇温が抑制され、昇温により電動機3に生じる不具合を抑制することが可能となる。
さらに、制御手段としてのCPU8aは、電動機3の発熱が現在の状態のまま持続すると、永久磁石の温度が閾温度Tthを超えると判定したとき(ステップST1の判定結果がYESのとき)、即ち第1主入力軸11の変速段で走行している場合(ステップST3の判定結果がYESの場合)、副入力軸13の変速段で走行し(ステップST5、ST7)、且つ、第1主入力軸11の変速段をアップ側にプレシフトする(ステップST6、ST8)。これにより、動力伝達装置1から出力可能な駆動力の減少分を,補うことが可能となる。よって、電動機3の発熱を抑制すると共に、駆動力不足を回避することが可能となる。
なお、本発明に係る動力伝達装置は、上述したものに限定されない。例えば、図5に示すように、動力伝達装置1に対して前進2段の変速段を追加して前進7段後進1段の変速段を確保した動力伝達装置1Aであってもよい。動力伝達装置1Aは、動力伝達装置1と類似するので、相違点についてのみ説明する。
第1主入力軸11A上には、2つの同期装置(シンクロメッシュ機構)、即ち第1同期装置S1及び第3同期装置S3を介して、出力軸17Aと選択的に連結される複数の駆動ギヤ18a,18b,18cからなる第1ギヤ群が設けられている。
副入力軸13A上にも、2つの同期装置(シンクロメッシュ機構)、即ち第2同期装置S2及び第4同期装置S4を介して、副入力軸13Aと出力軸17Aとを選択的に連結する複数の駆動ギヤ19a,19b,19cからなる第2ギヤ群が設けられている。
副入力軸13Aと出力軸17Aとは、3速ギヤ対20、5速ギヤ対21及び7速ギヤ対51を介して結合されている。7速ギヤ対51は、7速駆動ギヤ18cと出力軸17A上に固定された従動ギヤ17eとが噛合して構成されている。
副入力軸13Aと出力軸17Aとは、2速ギヤ対22、4速ギヤ対23及び6速ギヤ対52を介して結合されている。6速ギヤ対52は、6速駆動異ギヤ19cと出力軸17A上に固定された従動ギヤ17eとが噛合して構成されている。
このように構成された動力伝達装置1Aは、各同期装置S1〜S4,SR,SLの設定状態に応じて、変速比の異なる複数の変速段の各ギヤ対を介して入力軸の回転速度を複数段に変速して出力軸17Aに出力する。
また、差動回転機構9は、遊星歯車装置により構成する場合について説明したが、遊星歯車装置以外の差動装置を使用してもよい。
また、動力伝達装置1,1Aにおいて、第1主入力軸11,11Aに奇数の変速段に係る駆動ギヤ18a,18b,18cが回転自在に支持され、副入力軸13,13Aに偶数の変速段に係る駆動ギヤ19a,19b,19cが回転自在に支持されている場合について説明した。しかし、第1主入力軸11,11Aに偶数の変速段に係る駆動ギヤが回転自在に支持され、副入力軸13,13Aに奇数の変速段に係る駆動ギヤが回転自在に支持されていてもよい。
また、第1主入力軸11,11Aと電動機3のロータ3aとが差動回転機構9を介して接続されている場合について説明した。しかし、差動回転機構9が存在せず、第1主入力軸11,11Aと電動機3のロータ3aとが直接的に接続されていてもよい。
また、動力伝達装置1,1Aにおいて、第1主入力軸11,11Aに電動機3のロータ3aが接続され、副入力軸13,13Aには電動機が接続されていない場合について説明した。しかし、第1主入力軸11,11Aに電動機が接続されておらず、副入力軸13,13Aには電動機が接続されていてもよい。