以下、添付図面を参照して本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置について説明する。
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係るインクジェット記録装置100の構成について説明する。図1(a)は、本実施形態のインクジェット記録装置100の内部構成を説明するために、一部を分解して示した斜視図である。また、図1(b)は、図1(a)に示されるインクジェット記録装置100のキャリッジ1に搭載された記録ヘッド5の斜視図である。また、図1(c)は、記録ヘッド5の記録媒体4に対向する面である吐出口形成面について示した平面図である。
図1(a)に示されるように、インクジェット記録装置100は、記録ヘッド5を搭載可能なキャリッジ1を備えている。また、インクジェット記録装置1は、キャリッジ1の移動可能な方向に沿って延びたガイドシャフト3を備えている。キャリッジ1は、ガイドシャフト3によって支持されている。ガイドシャフト3は、キャリッジ1の主走査方向(図中矢印S)に沿って、キャリッジ1の移動を案内している。キャリッジ1は、記録ヘッド5を搭載した状態で、キャリッジモータ(図示せず)の駆動によってガイドシャフト3に沿って往復移動することで走査を行っている。
インクジェット記録装置100は、記録媒体を搬送する搬送ローラ等の搬送手段を備えている。記録媒体4は、搬送手段により、搬送モータ(図示せず)の駆動に伴って、図1に示される矢印F方向に搬送される。本実施形態では、ガイドシャフト3は、記録媒体4の搬送方向F(副走査方向)と直交する方向に延在するように配置されている。キャリッジ1に搭載された記録ヘッド5は、キャリッジ1によって主走査方向Sに沿って走査を行いながら記録データに応じて記録媒体へのインクの吐出を行い、記録媒体への画像の記録が行われる。
また、インクジェット記録装置100は、インクタンク(図示せず)を備えている。本実施形態のインクジェット記録装置100では、インクタンクは、キャリッジ1及び記録ヘッド5の移動する領域から外れた位置に配置されている。インクタンクと記録ヘッド5との間には、チューブ状のインク供給路2がそれぞれに接続されて配置されている。インクタンクに貯留されたインクは、インク供給路2を通ってインクタンクから記録ヘッド5へ供給される。
また、図1(b)及び図1(c)に示されるように、記録ヘッド5には6つの吐出口形成基板6が取り付けられている。それぞれの吐出口形成基板6には、主走査方向に直交する方向に、吐出口列6aが形成されている。記録ヘッド5には、ジョイント部7が形成されている。ジョイント部7は、記録ヘッド5から離れた位置に配置されたインクタンクから延びたインク供給路2に接続される。
本実施形態のインクジェット記録装置100では、記録ヘッド5が往路に沿って移動する場合と、復路に沿って移動する場合のいずれにおいてもインクを吐出して記録媒体に記録を行う、いわゆる双方向記録方式が採用されている。記録ヘッド5による1回の記録を伴った走査が行われると、記録媒体4は搬送手段によって所定量搬送される。
図2は、図1に示したインクジェット記録装置100の制御構成を示すブロック図である。図2に示されるように、インクジェット記録装置100における制御部24は、CPU200、ROM201及びRAM202を備えている。また、制御部24には、インタフェース23が接続されており、外部装置22から制御部24へ画像データを入力する際には、インタフェース23を介して外部装置22から制御部24へ入力される。ROM201は、CPU200が実行するプログラムを格納するメモリとして機能している。また、RAM202は、インクジェット記録装置100の制御に用いられる各種データ(画像データや記録ヘッドに供給される記録信号など)を保存している。また、制御部24はゲートアレイ203を有している。ゲートアレイ203は、記録ヘッド5に記録信号の供給を行うと共に、インタフェース23、CPU200、RAM202間のデータ転送も行う。
ここで、制御部24は、発熱抵抗素子の駆動を制御する制御手段として機能する。また、制御部24は、記録ヘッドの温度が所定温度以上となるまで、発熱抵抗素子に、インクの吐出される発熱量よりも少ない発熱量による駆動を行わせることによって記録ヘッドにおける温度の制御を行う記録ヘッド温度加熱制御手段として機能する。また、制御部24は、インクの吐出される発熱量よりも少ない発熱量による駆動を行わせることによって、圧力室に貯留されているインクの加熱を行わせるための追加駆動を行わせる追加駆動手段として機能する。
記録ヘッドドライバ25は、制御部24から出力された記録信号に応じて記録ヘッド5を駆動させてインクの吐出を行う。また、モータドライバ26は、制御部24から出力された信号に応じて、搬送モータ9を駆動させ、搬送手段による記録媒体の搬送動作を行う。モータドライバ27は、制御部24から出力された信号に応じて記録ヘッド5を主走査方向の所定の記録位置に移動させるためにキャリッジモータ8を駆動させる。また、記録ヘッド5には、記録ヘッド5の温度を検出するための記録ヘッド温度検知センサ20が取り付けられている。また、記録ヘッド5の吐出量や、発熱抵抗素子、配線の抵抗などの工場検査時に取得される記録ヘッド5の初期の特性を記憶させるためのEEPROM21が、記録ヘッド5に備えられている。
また、この制御部24のゲートアレイ203とCPU200は、インタフェース23を介して外部装置22から受信した画像データを記録データに変換してRAM202に格納する。さらに、制御部24は、モータドライバ26、27、及び記録ヘッドドライバ25を同期させて駆動させることで、記録ヘッド5の記録動作、記録媒体の搬送動作、記録ヘッド5の主走査方向への往復移動を行う。これにより、記録データに応じた記録画像が記録媒体上に形成され、結果的に記録媒体上に記録が行われる。
図3に、記録ヘッド5における、吐出口列6aの形成された吐出口形成基板6の平面図を示す。また、図4に、図3に示される吐出口形成基板6におけるIV−IV線に沿う断面図を示す。本実施形態で適用する記録ヘッド5の一つの吐出口形成基板6には、図3に示されるように、2列の吐出口列が形成されている。これらの2列の吐出口列が、それぞれ向かい合う吐出口列に対して1200dpi(ドット/インチ)ずらされた状態で、副走査方向に640個ずつ、計1280個の吐出口30が配列されて形成されている。また、20は記録ヘッドの温度を検出するための温度センサであり、図4に示された発熱抵抗素子形成基板31に形成されたダイオードのアノード・カソード間電圧の温度依存性を利用して温度を検出する。吐出口形成基板6は、発熱抵抗素子形成基板31と上板部材35とが接合されて形成されている。
発熱抵抗素子形成基板31と、上板部材35との間には、共通インク室33が形成されている。発熱抵抗素子形成基板31には、発熱抵抗素子形成基板31を貫通するようにインク供給口32が形成されている。上板部材35には、吐出口30が形成されている。共通インク室33は、インク供給口32と連通している。共通インク室33からは、インク流路36が延びており、インク流路36は、上板部材35に形成された吐出口30に連通する。インク流路36における吐出口30側の端部には、発泡室38が形成されている。発泡室38には、吐出口30と対向する位置に発熱抵抗素子34が配置されている。すなわち、この上板部材35と発熱抵抗素子形成基板31との間には、それぞれの吐出口30と共通インク室33との両方に連通するインク流路36が形成されている。また、隣接する流路36同士の間には、仕切り壁37が形成されている。
記録動作では、記録信号に従って記録ヘッドドライバ25が発熱抵抗素子34を駆動させることで、発熱抵抗素子34から発生する熱により、発熱抵抗素子34の周囲のインクが局所的に加熱される。これによって発泡室38内部の発熱抵抗素子34上に位置するインク内で膜沸騰を生じさせ、インク内で気泡を生じさせる。その際にインク内で圧力が高まることによって、インクの液滴が吐出口30から吐出される。
図5(a)に、記録ヘッド5を形成する部材の一つである放熱基板10の斜視図を、また図5(b)に、放熱基板10に吐出口形成基板6が組み付けられた状態の斜視図を示す。放熱基板10は、吐出口形成基板6とジョイント部7を含むモールド部材との間に配置されている。放熱基板10は、吐出に伴って発生する熱を吐出口形成基板6から逃がす役割と、吐出口形成基板6の組み付け精度を向上させる役割とを持っている。従って、放熱基板10を形成する材料としては、熱伝導率及び熱容量が大きく、且つ平面精度を出し易い材質のものが選択される。本実施形態においては、放熱基板10を形成する材料として、アルミナが用いられている。放熱基板10には、組み付けられる吐出口形成基板6に対応する位置に、インク流路11が形成されている。吐出口形成基板6が放熱基板10に取り付けられた際には、インク流路11は、図4におけるインク供給口32に連通する。
次に、本発明のインクジェット記録装置において行われる記録ヘッド温度の加熱制御について述べる。記録ヘッド温度の加熱制御時には、加熱制御信号に従って記録ヘッドドライバ25がインク内で気泡が生じない程度に発熱抵抗素子34を複数回に亘って駆動させることで、発熱抵抗素子34を発熱させて記録ヘッド温度の加熱制御を行う。本実施形態では、発熱抵抗素子34は、200Ωの抵抗体である。図6に、記録ヘッド温度の加熱制御が行われる際に発熱抵抗素子へ投入される投入電圧の変化についてのグラフを示す。図6に示されるように、本実施形態における記録ヘッド温度の加熱制御では、電圧24V、パルス幅0.1μsecの矩形パルスによるパルス電流が10kHzの周波数で発熱抵抗素子に印加される。記録ヘッド温度の加熱制御は、記録動作が行われる前に予め行われる。すなわち、記録ヘッド温度の加熱制御は、記録動作を伴うための各スキャンの開始前に行われる。
図7は、記録ヘッド温度の加熱制御が行われる際の制御フローのシーケンスを示したフローチャートである。記録ヘッド温度の加熱制御では、吐出口形成基板に設けられた温度センサ20による出力される温度をモニタしながら、温度センサの温度が目標温度に到達するまで発熱抵抗素子が繰り返し駆動される。これにより、記録ヘッドの温度が所定温度以上の温度(第1の所定温度以上の温度)となるまで、発熱抵抗素子による加熱が行われる。本実施形態においては、記録動作が行われる前の記録ヘッド温度の加熱制御における目標温度は40℃である。
S501でフローが開始されると、S502において記録ヘッドにおける温度センサ位置での温度が検出され、S503で、検出された温度が目標温度を超えているかどうかが判断される。また、S502で検出された温度センサ位置での温度が、S503で既に目標温度に達している場合には、発熱抵抗素子の駆動が行われずにフローがS508に進み、記録ヘッド温度の加熱制御が終了する。また、S502で検出された温度がS503で目標温度に達していない場合には、フローはS504に進み、記録ヘッド温度の加熱制御ための発熱抵抗素子の駆動が行われる。S504で発熱抵抗素子の駆動が行われると、S505で温度センサによる温度センサ位置での温度の検出が行われる。
S504で発熱抵抗素子の駆動が行われた結果、S505で検出された温度が、S506で目標温度に達している場合には、フローはS507に進み、発熱抵抗素子の駆動がOFFの状態に戻される。発熱抵抗素子がOFFの状態になると、フローはS508に進み、記録ヘッド温度の加熱制御が終了する。S505で検出された温度が目標温度に達していない場合には、フローはS504に戻り、再び記録ヘッド温度の加熱制御のために、S504で発熱抵抗素子の駆動が行われる。図7のフローに示されるように、S504での発熱抵抗素子の駆動は、S505で検出された温度が目標温度に達するまで繰り返される。
ここで、本実施形態のインクジェット記録装置100では、S504で記録ヘッド温度の加熱を行う際に、図3に示された吐出口列における1280個配列された吐出口30のそれぞれの発熱抵抗素子について、全て駆動させるわけではない。本実施形態では、記録ヘッドに配列された発熱抵抗素子が、吐出口列の配列方向に16のブロック(発熱抵抗素子80個ごと)に分けられる。80個の発熱抵抗素子を有するブロックごとに、ブロックに含まれる発熱抵抗素子について、ON/OFFの切り替えを行うことのできる構成になっている。記録ヘッド温度の加熱制御では、これらの発熱抵抗素子のブロックのうち、一部のブロックのみに含まれる発熱抵抗素子(第1の発熱抵抗素子群)で、発熱抵抗素子による駆動が行われる。記録ヘッド温度の加熱制御時に駆動される発熱抵抗素子のブロックの選択では、吐出口形成基板6の温度の分布が吐出口配列方向に沿ってできるだけ均一となるように発熱抵抗素子の駆動されるブロックが選択される。
記録ヘッド温度の加熱制御の開始時における吐出口形成基板6の温度が30℃で、環境温度が30℃である場合に、仮に全ての発熱抵抗素子を図8(c)に示されるようにONにして記録ヘッド温度の加熱制御を行った場合の温度分布を図8(d)に示す。図8(d)の温度分布は、記録ヘッドにおける吐出口列の配列方向両端部に位置する温度センサが40℃に到達した時点の記録ヘッドの温度分布である。
図8(a)に、本実施形態による加熱制御が行われる際に、駆動される発熱抵抗素子の含まれるブロックと、駆動される発熱抵抗素子の含まれないブロックとについて示した説明図を示す。また、図8(b)に、図8(a)に示されるブロックについて発熱抵抗素子の駆動が行われた際の、記録ヘッドにおける吐出口列の配列方向に沿った温度分布のグラフについて示す。また、図8(c)に、比較例として、加熱制御が行われる際に、全ての発熱抵抗素子について駆動させた際に、駆動される発熱抵抗素子の含まれるブロックについて示した説明図を示す。また、図8(d)に、図8(c)に示されるブロックについて発熱抵抗素子の駆動が行われた際の、記録ヘッドにおける吐出口列の配列方向に沿った温度分布のグラフについて示す。
これは、図5(b)に示したような構成で吐出口形成基板6が放熱基板10に組み付けられるので、吐出口列の配列方向の端部付近と中央部付近との間で放熱量が異なることに起因している。吐出口列の配列方向の端部では、配列方向の外側に向かって放熱させることができるのに対し、吐出口列の配列方向中央部では、発熱抵抗素子からの放熱が吐出口列の配列方向に交差する方向の外側に向かって行われるのみである。そのため、吐出口列の配列方向の端部に近い位置であるほど放熱基板へ放熱され易く、放熱される熱量が大きい。これにより、吐出口列の配列方向の端部付近と配列方向の中央部付近との間で放熱量が異なる。
そこで、本実施形態では、吐出口列中央部の昇温ピークを抑制するため、図8(a)に示されるように、発熱抵抗素子ブロック2、4、6、8、9、11、13、15についてブロック内の発熱抵抗素子の駆動をOFFの状態にする。そして、発熱抵抗素子ブロック1、3、5、7、10、12、14、16についてブロック内の発熱抵抗素子の駆動をONの状態にする。このように、吐出口列における配列方向の中央部付近に位置するブロックについては、発熱抵抗素子の駆動を行うブロックの数を少なくし、吐出口列の配列方向中央部付近における発熱熱素子からの発熱量を少なくしている。
加熱制御開始時の吐出口形成基板の温度が30℃、環境温度30℃の条件の下で、図8(a)のパターンで加熱制御を行った場合には、温度センサが40℃に到達した時点で、記録ヘッド内の温度分布は、図8(b)に示される温度分布になる。一方、同様の条件の下で、図8(c)に示されるように全てのブロックについてブロック内の発熱抵抗素子の駆動をONの状態にすると、記録ヘッド内の温度分布は、図8(d)に示される温度分布となる。図8(a)に示されるブロックで発熱抵抗素子の駆動を行わせた場合の記録ヘッドの温度分布におけるピーク温度は、図8(c)に示されるブロックで発熱抵抗素子の駆動を行わせた場合の記録ヘッド内の温度分布におけるピーク温度よりも5℃低い。従って、吐出口列の配列方向に沿った記録ヘッド内の温度分布におけるピーク温度を少なく抑えることができ、吐出口列の配列方向に沿った記録ヘッド内の温度分布をより均一にすることができる。
また、図9(a)、(b)は、記録ヘッド温度の加熱制御開始時の吐出口形成基板の温度が30℃、環境温度30℃の条件の下で、図8(a)、(c)のそれぞれに示されるパターンで発熱抵抗素子が駆動された際の温度変化を示している。図9(a)、(b)は、温度センサが40℃に到達するまでの温度センサ位置における温度変化及び吐出口列内のピーク温度について示している。図9(a)に、図8(a)のパターン及び図8(c)のパターンで発熱抵抗素子の駆動が行われたときの加熱時間と温度センサ位置における温度変化との関係が示されている。また、図9(b)に、図8(a)のパターン及び図8(c)のパターンで発熱抵抗素子の駆動が行われたときの加熱時間と吐出口列内のピーク温度との関係が示されている。図9(a)、(b)に示されるように、本実施形態の図8(a)に示されるパターンで発熱抵抗素子の駆動が行われると、温度センサ位置でセンサ温度が40℃に到達するまでの時間は2.6secである。一方、図8(c)のパターンで発熱抵抗素子の駆動が行われると、温度センサ位置でセンサ温度が40℃に到達するまでの時間は1.8secとなる。
本実施形態のインクジェット記録装置では、上述のように、記録ヘッド温度の加熱制御の際に、記録ヘッド内の温度分布を均一にするために、図8(a)に示されるパターンによって発熱抵抗素子の駆動が行われる。そのため、記録ヘッド温度の加熱制御では、吐出口列を形成する吐出口に対応する発熱抵抗素子に、駆動する発熱抵抗素子と駆動しない発熱抵抗素子が存在する状態で行われる。
このように記録ヘッド温度の加熱制御を行うことで、吐出口列の配列方向に沿った温度分布を均一化にすることができる。しかしながら、それぞれの吐出口に対応したそれぞれの圧力室に貯留されたインクの温度同士を比較すると、駆動した発熱抵抗素子と駆動しなかった発熱抵抗素子との間で圧力室に貯留されたインクの温度に差が生じる。
このように、記録ヘッド温度の加熱制御の行われる際に、駆動された発熱抵抗素子と駆動されなかった発熱抵抗素子との間で、圧力室に貯留されているインクの温度に差が生じている。従って、仮にこのままの状態で記録が行われた場合には、これらの間でインクの温度が異なることから、その後のインク吐出の際に生じる圧力波の強さに差が生じる。これにより、発熱抵抗素子表面上に付着したまま残存してしまう異物の量が異なる。発熱抵抗素子の表面に残る異物の量が異なることから、発熱抵抗素子によってインクが加熱される熱量が異なり、それによって吐出口からのインクの吐出量に差が生じ、記録画像に濃度ムラが生じる可能性がある。
使用されるインクが水性顔料インクである場合には、顔料が水と有機溶剤から成る液体相の分散媒体に分散している。このときの顔料の分散性は、分散体である顔料の種類・量によって異なり、また、分散体の含まれる有機溶剤の種類・量によっても異なる。インクによっては、熱を加えることで分散が破壊され易く、インク内の固体成分が凝集し易いインクがある。熱によって分散が破壊され易いインクでは、発熱抵抗素子が発熱した際に、インク内で分散破壊によって異物が生じる場合がある。ここでいう異物は、インクが比較的高温になったことで、インク中に分散している固体成分が凝集したものを言うものとする。このとき生じた異物が、インク吐出を行った後にも発熱抵抗素子表面上に付着して残存する可能性がある。
図10(a)に、インクの温度が比較的高い場合の気泡の大きさと、インクの温度が比較的低い場合の気泡の大きさについて、記録ヘッドをインクの吐出される側から見て示した平面図を示す。また、図10(b)に、吐出駆動時の発熱抵抗素子近傍の温度と、インク内に気泡を生じさせたときの気泡のサイズ、圧力波の強さ、吐出終了後の発熱抵抗素子上に残存している異物量についてまとめたテーブルを示す。本実施形態においては、電圧24V・パルス幅0.6μsecの矩形パルスを発熱抵抗素子に印加することで、発熱抵抗素子を発熱させてインク滴を吐出する。
インク内で発生した気泡が消泡する際には、気泡が潰れることによってそこでキャビテーションが生じる。吐出駆動時の発熱抵抗素子の周囲のインクの温度が高いと、発熱抵抗素子の駆動によって生じる気泡のサイズが大きくなる。そのため、気泡が消泡する際には、キャビテーションの程度が大きくなり、比較的強い圧力波が生じる。そのため、そこで比較的大きな圧力変動が生じる。
図10(a)、(b)に示されるように、インクの温度が比較的高いときには気泡のサイズが比較的大きくなっているので、消泡する際の圧力変動も大きく、そこで比較的強い圧力波が生じる。一方、インクの温度が比較的低いときには、気泡のサイズが比較的小さいので、消泡する際の圧力変動は小さく、そこで生じる圧力波は比較的弱い。本実施形態では、消泡のときにキャビテーションによって生じる圧力変動を利用して、発熱抵抗素子上に付着する異物を発熱抵抗素子から剥離させて除去する。
発熱抵抗素子の表面上に生じた異物は、圧力室内で消泡したときに生じるインク内の圧力波が強い場合には、その圧力波によって発熱抵抗素子上から剥がされる。発熱抵抗素子上から剥がされた異物は、圧力室内部のインク内で浮遊し、インクの吐出の際にインク滴と共に吐出口から排出されて除去される。一方、圧力室内で消泡したときの圧力波が弱い場合には、異物が発熱抵抗素子上に付着したまま、発熱抵抗素子の表面上に残る可能性がある。
圧力室内で消泡する際の圧力変動が相対的に大きい方が、相対的に小さい場合よりも、インクの吐出が行われたときに残存する異物量が少なくなる。また、図10(b)に示されるように、発泡時のインクの温度が高い方が、発泡によって生じる気泡の大きさが大きく、インク内で消泡の際に生じる圧力波の強さが強い。また、インクの温度が低い方が、発泡によって生じる気泡の大きさは小さく、インク内で消泡の際に生じる圧力波は弱い。従って、発熱抵抗素子に対応する圧力室内部のインクの温度が低い方が、異物は除去されず、発熱抵抗素子上の異物の残存量が相対的に多くなる。逆に、発熱抵抗素子に対応する圧力室内部のインクの温度が高い方が、多くの異物が発熱抵抗素子上から剥離されて、圧力室の内部から吐出口を通って除去されるので、発熱抵抗素子上の異物の残存量が相対的に少なくなる。
インクを吐出する際の発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と、吐出後に発熱抵抗素子上に残る異物の量と間の関係から、インクの吐出の際に残存する異物量に差が生じるメカニズムを、図11を用いてさらに述べる。
本実施形態のインクジェット記録装置における記録ヘッド温度の加熱制御は、吐出口列を形成する吐出口のそれぞれに対応する発熱抵抗素子に、駆動される発熱抵抗素子と、駆動されない発熱抵抗素子とが存在する構成である。このときの記録ヘッド温度の加熱制御で駆動された発熱抵抗素子と、駆動されなかった発熱抵抗素子との間では、記録ヘッド温度の加熱制御が終了した際に対応する吐出口ごとに、圧力室内のインクに温度差が生じる。記録ヘッド温度の加熱制御を行うための駆動を行った発熱抵抗素子と駆動を行っていない発熱抵抗素子との間で、その後に発熱抵抗素子にインク吐出のための駆動を行わせた際のインクの温度変化を比較したグラフを図11に示す。図11は、横軸に発熱抵抗素子へ連続的に印加するパルスの通電時間を取り、縦軸にインク吐出のために発熱抵抗素子を駆動させた際の発熱抵抗素子の周囲のインクの温度変化を取って示したグラフである。
図11に示されるように、加熱制御終了時に温度差が生じた状態(図11中の時間A)でインクの吐出のために発熱抵抗素子を駆動させると、インク吐出時の発熱抵抗素子の周囲に位置するインクのピーク温度にも差が生じる。上述したように、熱による分散破壊が生じる顔料インクにおいて、インクの温度と発泡する際のインクの圧力との関係から、発熱抵抗素子の周囲のインクの温度が低い方が発熱抵抗素子上に残存する異物の量が多くなる。
発熱抵抗素子の周囲のインクの温度が比較的低い状態でインクの吐出のために発熱抵抗素子を駆動させても、発熱抵抗素子の駆動によってインクの温度が最大限上昇したピーク温度は閾値Tt以上にはならない。そのため、気泡が消泡する際のインク内の圧力波の強さが不十分なので、発熱抵抗素子上で発生した異物を剥離させることができない。従って、吐出口を通して異物を除去することができずに、異物が発熱抵抗素子上に堆積してしまう可能性がある。
仮に、異物が発熱抵抗素子上に堆積してしまった場合には、その後に発熱抵抗素子からインクに熱伝達を十分に行うことができなくなる可能性がある。そのため、インクの吐出の際にインクに付与される熱量について、吐出口ごとにばらつきが生じ、吐出口ごとにインクの吐出量にばらつきが生じてしまう。これによって、記録画像に濃度ムラが生じてしまい、記録画像の品質を低下させてしまう可能性がある。
一方、インクの吐出時に、インクの温度のピーク値が閾値Tt以上の温度となっていれば、その圧力室内部で、消泡の際に、十分な強さの圧力波が生成される。従って、消泡の際に生じるインク内の圧力波によって、発熱抵抗素子上に付着した異物を発熱抵抗素子上から剥離させ、圧力室内部のインクに異物を浮遊させることができる。また、インクの吐出の際には、インク内に浮遊する異物を、吐出口を通してインク滴と共に圧力室から除去することができる。そのため、結果的にインクの吐出の際に生じる異物の残量は問題のないレベルとなる。すなわち、発熱抵抗素子上には、実質的に異物が残っていないと言ってよいレベルとなる。
記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子については、その後に、特に発熱抵抗素子を駆動させなくても、インクを吐出させるために発熱抵抗素子を駆動させると、発熱抵抗素子の周囲のインクの温度が閾値Tt以上になる。そのため、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子では、そのままインクの吐出を行ったとしても、発熱抵抗素子上に異物が残ることが抑えられる。ところが、図11に示されるように、記録ヘッド温度の加熱制御時に駆動されなかった発熱抵抗素子については、その後にインクの吐出のために駆動させたとしても、発熱抵抗素子の周囲のインク温度は閾値Tt以上にはならない。そのため、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動しなかった発熱抵抗素子について、インクの吐出の際に発熱抵抗素子の周囲のインクの温度が閾値以上になれば、全体的に発熱抵抗素子上に異物が残ることを抑えることができる。
本実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されなかった発熱抵抗素子についても、インクの吐出の際の発熱抵抗素子の周囲のインクの温度を閾値Tt以上とするために、全体の発熱抵抗素子に対して追加駆動が行われる。追加駆動は、記録ヘッド温度の加熱制御を行ってから、記録を行うためのインクの吐出を行うために発熱抵抗素子を駆動させるまでの間に、発熱抵抗素子を所定回数駆動させることによって行われる。本実施形態では、吐出口列を構成する吐出口の全てに対応する圧力室に配置された発熱抵抗素子について、インクを吐出しない程度に発熱抵抗素子を駆動させる。すなわち、吐出口列に配置された全ての発熱抵抗素子について、インクを吐出しない程度に発熱抵抗素子を駆動させる。本実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動の行われていない発熱抵抗素子(第2の発熱抵抗素子群)を含めた、全ての発熱抵抗素子について発熱抵抗素子の駆動が行われている。
図12(a)に、記録ヘッド温度の加熱制御が行われた後で、まだ発熱抵抗素子の追加駆動が行われていない状態の、記録ヘッドにおける吐出口列の温度分布が示されている。また、図12(b)に、追加駆動が行われた後の、記録ヘッドにおける吐出口列の温度分布が示されている。図12(a)、(b)には、温度分布の下方に、対応するブロックについての発熱抵抗素子の駆動状態について示されている。白のブロックについては、そのブロック内の発熱抵抗素子は、まだ駆動されていない状態であることを示している。また、黒のブロックについては、そのブロック内の発熱抵抗素子は、記録ヘッド温度の加熱制御あるいは追加駆動によって既に駆動されている状態であることを示している。図12(a)に示されるように、追加駆動が行われていない状態では、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子と駆動されていない発熱抵抗素子との間に比較的大きな温度差が生じている。しかしながら、図12(b)に示されるように、追加駆動が行われた後には、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子と駆動されていない発熱抵抗素子との間の温度差が少なく抑えられている。従って、追加駆動が行われた状態でインクの吐出が行われると、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動の行われていない発熱抵抗素子が駆動されたとしても、インクの温度が閾値Tt以上の十分な高温な状態で駆動される。そのため、気泡が消泡する際のインク内の圧力波の強さは十分に大きく、発熱抵抗素子上に付着した異物は発熱抵抗素子から剥がされる。発熱抵抗素子から剥がされてインク内に浮遊する異物は、インクの吐出の際に吐出口を通して排出され、発熱抵抗素子上に異物が堆積することが抑えられる。
図13に、本実施形態の制御シーケンスのフローチャートを示す。S1001において、図7に示した記録ヘッド温度の加熱制御を行う。そして、記録ヘッド温度の加熱制御が終了した後に、S1002において、発熱抵抗素子の追加駆動の回数の設定が行われる。S1002で発熱抵抗素子の追加駆動についての駆動回数が設定されると、設定された回数の分の追加駆動がS1003で行われる。S1003で追加駆動が行われると、追加駆動を終了して、S1004で記録のためのインクの吐出が行われる。
本実施形態では、追加駆動の際に発熱抵抗素子の駆動に用いられるパルスの波形は、図6に示される記録ヘッド温度の加熱制御時の駆動波形と同様の波形が用いられている。なお、発熱抵抗素子の駆動に用いられるパルスの波形は、吐出口からインクが吐出されない程度の駆動波形であれば、異なる波形が用いられても構わない。また、駆動周波数についても、異なる駆動周波数としても構わない。
図14に、追加駆動が行われる際の、発熱抵抗素子の周囲の温度変化についてのグラフを示す。図14には、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されなかった発熱抵抗素子の周囲のインクの温度とが示されている。
記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子では、追加駆動が行われる際に、既にインクがある程度の高温になっている。記録ヘッド温度の加熱制御時に駆動された発熱抵抗素子と駆動されなかった発熱抵抗素子との両方に追加駆動が行われる際には、駆動された発熱抵抗素子の周囲のインクの温度上昇速度に対し、駆動されなかった発熱抵抗素子の周囲のインクの温度上昇速度の方が速い。また、追加駆動が行われても、駆動された発熱抵抗素子の周囲のインクでは、追加駆動による温度上昇の幅が、駆動されなかった発熱抵抗素子の周囲のインクよりも小さい。既に高温となっているインクでは、インク内でそれ以上の熱を収容しきれなくなり、発熱抵抗素子の追加駆動によって熱が発生しても、その熱は放熱基板等を通してインクの外部に放熱される。このように、放熱、熱拡散等の影響により、高温のインクほど、温度上昇し難くなる。従って、図14に示されるように、追加駆動の回数が大きくなるほど、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子と駆動されなかった発熱抵抗素子との両者の間の温度差は小さくなっていく。そのため、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されなかった発熱抵抗素子についても、インクの吐出が行われる際には、インクの温度のピーク値が閾値Tt以上となる。従って、発熱抵抗素子上に異物が付着したとしても、消泡時に生じる圧力波によって発熱抵抗素子上から剥がすことができる。発熱抵抗素子から剥がされて圧力室の内部に浮遊する異物は、インクの吐出時に、吐出口を通して除去することができる。
また、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子については、インクの温度が既に高温となっているので、それ以上は温度上昇し難い。また、追加駆動によって行われる発熱抵抗素子の駆動回数は、記録ヘッド温度の加熱制御で行われる発熱抵抗素子の駆動回数に比べて少なく、追加駆動によって発生する熱量は、記録ヘッド温度の加熱制御で発生する熱量に比べて小さい。そのため、記録ヘッド温度の加熱制御で行われた吐出口列の配列方向に沿った温度のバランスは、追加駆動が行われても比較的良好に保たれたままである。従って、吐出口列における配列方向に沿った温度分布を均一に保つことができる。
このように、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子と駆動されなかった発熱抵抗素子との両者の間の、インク吐出時の温度差が緩和される。従って、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されなかった発熱抵抗素子についても、発熱抵抗素子上に異物が堆積することを抑えることができる。記録の際に発熱抵抗素子に堆積した異物によってインクへの熱伝達が減少することを抑えることができるので、吐出口ごとのインクの吐出量を一定に保つことができる。そのため、記録画像に濃度ムラが生じることを抑えることができ、記録画像の品質を高く維持することができる。
図15に、追加駆動における駆動回数ごとの、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子と駆動されなかった発熱抵抗素子との間の周囲のインクの温度差と、画像ムラの関係を調べた検討結果のテーブルを示す。画像ムラが視認できる場合を「×」視認できない場合を「○」として、検討結果がテーブルに示されている。ここでは、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子と駆動されなかった発熱抵抗素子との間の温度差は、高精細なサーモビューアで測定した数値について示されている。また、温度差は、熱シミュレーション等によって求められてもよい。
また、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子と駆動されなかった発熱抵抗素子との間の温度差については、追加駆動回数を変更することで設定した。この検討結果によれば、両者の間の温度差が5℃以下であれば、発熱抵抗素子上の異物によって生じる記録画像の濃度ムラが視認できないレベルであることがわかった。また、この温度差が5℃になったときの追加駆動の回数は50回であった。この検討結果から、本実施形態での追加駆動回数は50回と設定した。
このように、本実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御を行った後に、発熱抵抗素子の追加駆動が行われるので、記録ヘッド温度の加熱制御時に駆動されなかった発熱抵抗素子についても発熱抵抗素子の周囲のインクの温度を上昇させることができる。従って、記録ヘッド温度の加熱制御時に駆動されなかった発熱抵抗素子の周囲のインク内で十分に大きなサイズの気泡を発生させることができ、気泡が消泡する際には、十分な強さの圧力波を発生させることができる。インク内で十分な強さの圧力波を発生させることができるので、発熱抵抗素子上に付着する異物を発熱抵抗素子から剥がすことができ、インクの吐出と共に異物を圧力室から除去することができる。発熱抵抗素子上での異物の堆積を抑えることができるので、その後のインク吐出の際に、吐出口ごとにインクの吐出量が変化することを抑えることができる。従って、記録画像に濃度ムラが発生することを抑えることができ、記録画像の品質を高く維持することができる。
なお、上記実施形態では、追加駆動の行われる駆動回数は、50回と設定されているが、本発明はこれに限定されない。追加駆動の行われる駆動回数は、記録ヘッドの構成や発熱抵抗素子の駆動条件、その他環境条件等により変わり得る数値である。発熱抵抗素子上に付着する異物の量を少なく抑えることができるのであれば、他の駆動回数であっても良い。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係るインクジェット記録装置の発熱抵抗素子の追加駆動について説明する。上記第1実施形態においては、記録ヘッド温度の加熱制御が終了してから、その後のインクの吐出を行うまでの間に、発熱抵抗素子の全部に対して所定回数インクを吐出しない程度に駆動させる追加駆動が行われる。これに対し、本発明の第2実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御が終了してからの追加駆動を、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動しなかった発熱抵抗素子のみに実施する構成としている。
図16(a)に、本実施形態による加熱制御が行われる際に、駆動される発熱抵抗素子の含まれるブロックと、駆動されない発熱抵抗素子の含まれるブロックとについて示した説明図を示す。また、図16(b)に、加熱制御が行われた後に、追加駆動によって駆動される発熱抵抗素子の含まれるブロックと、駆動されない発熱抵抗素子の含まれるブロックとについて示した説明図を示す。図16(a)、(b)では、白で示されたブロックについては、そのブロック内の発熱抵抗素子は駆動されないことを示している。また、黒で示されたブロックについては、そのブロック内の発熱抵抗素子は、記録ヘッド温度の加熱制御あるいは追加駆動によって駆動されることを示している。
本実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されなかった発熱抵抗素子についてのみ、追加駆動で所定回数インクを吐出しない程度に駆動させる。すなわち、インクの吐出される発熱量よりも少ない発熱量による駆動を行わせることによって、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されなかった発熱抵抗素子に対応する圧力室に貯留されているインクの加熱を行わせる。これにより、追加駆動の際に駆動させる発熱抵抗素子の数を、第1実施形態のものよりも少なく設定することができる。
本実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動させた発熱抵抗素子については、追加駆動では駆動されないので、記録ヘッド温度の加熱制御終了時の温度からの温度上昇はしない。追加駆動では、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されない発熱抵抗素子について駆動させるのみなので、追加駆動によってインクの温度が上昇するのは、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されない発熱抵抗素子だけである。
追加駆動は、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されない発熱抵抗素子についてのインク吐出の際のインクの温度を、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動された発熱抵抗素子のインク吐出の際のインクの温度に近づけるために行われる。そのため、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されない発熱抵抗素子について、追加駆動の行われる際に発熱抵抗素子を駆動させる駆動回数をさらに少なく設定することができる。
図17に、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動される発熱抵抗素子の周囲のインクの温度変化と、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されない発熱抵抗素子の周囲のインクの温度変化とについてのグラフを示す。図17に示されるように、本実施形態では、加熱制御時に駆動された発熱抵抗素子については、追加駆動では駆動されないので、その発熱抵抗素子の周囲のインクの温度は時間の経過と共に緩やかに減少している。また、加熱制御時に駆動されていない発熱抵抗素子については、追加駆動で繰り返し駆動されることで、その発熱抵抗素子の周囲のインクの温度は、時間の経過と共に上昇している。記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動される発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されない発熱抵抗素子の周囲のインクの温度とが交わる部分の追加駆動回数をAとしている。 本実施形態においても、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動される発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されない発熱抵抗素子の周囲のインクの温度とが、高精細なサーモビューアによって計測されている。本実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動される発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と、記録ヘッド温度の加熱制御の際に駆動されない発熱抵抗素子の周囲のインクの温度との温度差が0となる追加駆動回数Aは20回である。そのため、追加駆動回数については20回の駆動に設定されている。
本実施形態では、追加駆動の際に発熱抵抗素子を駆動させる回数を少なく設定できるので、追加駆動に要する時間を減少させることができる。また、発熱抵抗素子の駆動回数を少なくすることができるので、消費電力を少なくすることができ、インクジェット記録装置の運転コストを少なくすることができる。
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態に係るインクジェット記録装置の発熱抵抗素子の追加駆動について説明する。上記第1実施形態及び第2実施形態では、追加駆動の際に発熱抵抗素子を駆動させる駆動回数が予め設定されている。そして、設定された分の駆動回数について、発熱抵抗素子を駆動させることによって追加駆動が行われている。これに対し、第3実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御での発熱抵抗素子の駆動回数に応じて、追加駆動での発熱抵抗素子の駆動回数を変化させている。
記録ヘッド温度の加熱制御の行われる際の記録ヘッドの周囲の環境は、加熱制御の行われるごとに変化し得る。また、記録ヘッド温度の加熱制御が開始されて行われている間にも、記録ヘッドの周囲の環境は変化し得る。そのため、記録ヘッド温度の加熱制御の際に記録ヘッドにおける温度センサ位置での温度が目標温度となるまでに発熱抵抗素子を駆動させる駆動回数は、その都度変化し得る。そして、記録ヘッド温度の加熱制御で駆動された発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と駆動されていない発熱抵抗素子の周囲のインクの温度との間の温度差が大きいとき程、加熱制御時に駆動した発熱抵抗素子の駆動回数が多く設定される。これに伴い、記録ヘッド温度の加熱制御時に駆動された発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と駆動されなかった発熱抵抗素子の周囲のインクの温度との差が大きくなる。また、追加駆動は、インクの吐出時における、記録ヘッド温度の加熱制御で駆動された発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と駆動されていない発熱抵抗素子の周囲のインクの温度との間の温度差を小さくするために行われている。従って、加熱制御時に駆動した発熱抵抗素子の駆動回数が多くなるほど、追加駆動での発熱抵抗素子の駆動回数を多くすることが好ましい。
こうすることにより、インク吐出時における、記録ヘッド温度の加熱制御で駆動された発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と駆動されていない発熱抵抗素子の周囲のインクの温度との間の温度差を小さくすることができる。そのため、記録ヘッド温度の加熱制御で駆動されていない発熱抵抗素子の周囲のインクの温度を高くすることができ、その発熱抵抗素子上に異物が堆積することを抑えることができる。図18に、記録ヘッド温度の加熱制御の際の発熱抵抗素子の駆動回数と、追加駆動の際の駆動回数との間の関係についての説明図を示す。図18に示されるように、記録ヘッド温度の加熱制御時の条件に応じて、追加駆動での発熱抵抗素子の駆動回数を変化させることが好ましい。
本実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御時に駆動される発熱抵抗素子の駆動パルス数が多いほど、追加駆動での発熱抵抗素子の駆動回数が多く設定される。図19に、本実施形態で用いられる、記録ヘッド温度の加熱制御での発熱抵抗素子の駆動回数と、追加駆動で行われる発熱抵抗素子の駆動回数とについて示したテーブルを示す。図19に示される追加駆動での発熱抵抗素子の駆動回数は、記録ヘッド温度の加熱制御で駆動された発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と、駆動されない発熱抵抗素子の周囲のインクの温度との間の温度差が0℃となるような発熱抵抗素子の駆動回数が示されている。
図19に示される追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数が、図13に示されるシーケンス中のS1002において、追加駆動における駆動回数が設定される。本実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御時の発熱抵抗素子の駆動回数が10000回未満の場合の追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数を10回としている。また、記録ヘッド温度の加熱制御時の発熱抵抗素子の駆動回数が10000回以上20000回未満の場合の追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数を30回としている。また、記録ヘッド温度の加熱制御時の駆動回数が20000回以上30000回未満の場合の追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数を50回としている。また、記録ヘッド温度の加熱制御時の発熱抵抗素子の駆動回数が30000回以上40000回未満の場合の追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数を70回としている。また、記録ヘッド温度の加熱制御時の駆動回数が40000回以上の場合の追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数を90回としている。
このように、記録ヘッド温度の加熱制御時に発熱抵抗素子を駆動させる駆動回数に応じて、追加駆動における発熱抵抗素子の駆動回数を変化させることで、記録ヘッドの周囲の環境の変化に対応して適切な温度でインクの吐出を行うことができる。そのため、記録ヘッドの周囲の環境が変化したとしても、吐出口ごとにインクの吐出量に差が生じることを抑えることができ、記録画像に濃度ムラが生じることを抑えることができる。これにより、記録画像の品質を高く維持することができる。また、追加駆動に要する時間を過不足のない適切な時間に設定することができる。
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態に係るインクジェット記録装置の発熱抵抗素子の追加駆動について説明する。上記第3実施形態では、追加駆動の際の発熱抵抗素子の駆動回数を、記録ヘッド温度の加熱制御時に発熱抵抗素子を駆動させる駆動回数に応じて変化させる形態について説明した。第4実施形態では、追加駆動の際の発熱抵抗素子の駆動回数が、記録ヘッド温度の加熱制御時に発熱抵抗素子を連続的に駆動させる駆動時間に応じて変化させる形態について説明する。
記録ヘッド温度の加熱制御時の駆動パルスの駆動周波数が一定である場合には、発熱抵抗素子を駆動した時間に応じて、記録ヘッド温度の加熱制御時駆動の行われた発熱抵抗素子の周囲のインクの温度が変化する。このときの記録ヘッド温度の加熱制御時駆動の行われた発熱抵抗素子の周囲のインクの温度変化に応じて、追加駆動の行われる際の発熱抵抗素子の駆動回数を変化させる。
図6に示されるように、本実施形態での加熱制御での駆動パルスの駆動周波数は10kHzである。このときの追加駆動における発熱抵抗素子の駆動回数は、図20に示されるように設定される。図20は、記録ヘッド温度の加熱制御が行われる際の駆動時間と、追加駆動の行われる駆動回数との間の関係について示したテーブルである。本実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御時の駆動時間が1秒未満の場合の追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数が10回、加熱制御時の駆動時間が1秒以上2秒未満の場合の追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数が30回に設定される。また、加熱制御時の駆動時間が2秒以上3秒未満の場合の追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数が50回、加熱制御時の駆動時間が3秒以上4秒未満の場合の追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数が70回に設定される。また、加熱制御時の駆動時間が4秒以上の場合の追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数が90回に設定される。
(第5実施形態)
次に、本発明の第5実施形態に係るインクジェット記録装置の発熱抵抗素子の追加駆動について説明する。上記第3実施形態及び第4実施形態では、追加駆動の際の発熱抵抗素子の駆動回数を、記録ヘッド温度の加熱制御時に発熱抵抗素子を駆動させる駆動回数あるいは発熱抵抗素子を連続的に駆動させる駆動時間に応じて変化させる形態について説明した。これに対し、第5実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御が開始されるときの記録ヘッドの温度と、記録ヘッド温度の加熱制御における目標温度との差に応じて、追加駆動で駆動される発熱抵抗素子の駆動回数を変化させる。
記録ヘッド温度の加熱制御では、図7に示したように温度センサの出力値が目標温度以下の場合に発熱抵抗素子が駆動される。このとき、記録ヘッド温度の加熱制御では、発熱抵抗素子駆動開始前の温度センサによる出力値が目標温度以下である場合には、加熱制御で駆動の行われる発熱抵抗素子の周囲のインクの温度が目標温度を超えるように、発熱抵抗素子の駆動が行われる。従って、図7のS502で取得される温度の値が目標温度よりも大きく下回っている場合には、それに応じて多くの回数分、発熱抵抗素子の駆動が行われる。すなわち、記録ヘッド温度の加熱制御で発熱抵抗素子の駆動が開始される前の温度センサの出力値と目標温度との間の乖離が大きいほど、加熱制御を終了するまでの時間が長く設定される。つまり、加熱制御が開始される前の温度センサの出力値と目標温度との乖離が大きいほど、記録ヘッド温度の加熱制御時に駆動させた後の発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と、そこで駆動しなかった発熱抵抗素子の周囲のインクの温度との差が大きくなる。従って、このときに生じた温度差を緩和するために、追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数も多く設定される。
このように、本実施形態では、発熱抵抗素子駆動開始前の温度センサによる出力値と目標温度との間の温度差に応じて、追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数を変化させる。
図21に、記録ヘッド温度の加熱制御が開始される前の温度センサの出力値と目標温度との差と、それに応じて変化する追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数について示したテーブルを示す。テーブルに記載されている回数の設定値によって追加駆動による発熱抵抗素子の駆動が行われるので、記録ヘッド温度の加熱制御で駆動されなかった発熱抵抗素子の周囲のインクの温度を、駆動された発熱抵抗素子の周囲のインクの温度に近づけることができる。これにより、インクが吐出される際の、記録ヘッド温度の加熱制御で駆動された発熱抵抗素子の周囲のインクの温度と、駆動しなかった発熱抵抗素子の周囲のインクの温度との差が少なく抑えられ、発熱抵抗素子上に異物が堆積することを抑えることができる。
本実施形態では、図13に示したシーケンスのS1002において、記録ヘッド温度の加熱制御が開始される前の温度センサの出力値と、目標温度との差に基づいて、図21に示されたテーブルから追加駆動数が設定される。本実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御が開始される前の温度と目標温度との差が5℃未満である場合には、追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数が10回に設定される。また、記録ヘッド温度の加熱制御が開始される前の温度と目標温度との差が5℃以上10℃未満である場合には、追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数が30回に設定される。また、記録ヘッド温度の加熱制御が開始される前の温度と目標温度との差が10℃以上15℃未満である場合には、追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数が50回に設定される。また、記録ヘッド温度の加熱制御が開始される前の温度と目標温度との差が15℃以上20℃未満である場合には、追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数が70回に設定される。また、記録ヘッド温度の加熱制御が開始される前の温度と目標温度との差が20℃以上である場合には、追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数が90回に設定される。このように、記録ヘッド温度の加熱制御が開始されるときの記録ヘッドの温度と加熱制御の目標温度の差に応じて、追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数を設定することもできる。
なお、本実施形態では、記録ヘッド温度の加熱制御が行われる場合において、条件に応じて、追加駆動による発熱抵抗素子の駆動回数を設定する形態について説明したが、本発明はこれに限定されない。追加駆動による発熱抵抗素子の駆動が、一定の駆動周波数で行われるのであれば、条件に応じて、連続的に駆動される発熱抵抗素子の駆動時間に設定が行われる形態であっても良い。
なお、上述したインクジェット記録装置は、記録ヘッドの主走査方向の移動と、記録媒体の副走査方向の搬送と、を伴って画像を記録するいわゆるシリアルスキャンタイプのインクジェット記録装置である。しかしながら、本発明は記録媒体の幅方向の全域に亘って延在する記録ヘッドを用いるフルラインタイプの記録装置にも適用可能である。
また、本明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わずに用いられる。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または記録媒体の加工を行う場合も表すものとする。
また、「記録装置」とは、プリンタ、プリンタ複合機、複写機、ファクシミリ装置などのプリント機能を有する装置、ならびにインクジェット技術を用いて物品の製造を行なう製造装置を含む。
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものを表すものとする。
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきものである。記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。