本発明の各実施形態に係るボールねじ装置を添付図面に基づいて説明する。なお、第1実施形態、第2実施形態、第4実施形態〜第9実施形態、および第9実施形態の変形例は、参考例とする。
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態に係るボールねじ装置の構成を示す概略図である。図2(a)は図1の部分拡大断面図であり、(b)は循環コマの外観図である。図3(a)は循環コマの上面図であり、(b)は循環コマの側面図である。図4はボールねじの循環コマの部分をねじ軸の軸方向から見た概念図である。
図1に示すように第1実施形態に係るボールねじ装置1は、ボールねじ2と、ボールねじ2の異常を検出するための装置であるモニタ装置3とを有する。
ボールねじ2は、図1に示すように、ねじ軸4と、ねじ軸4に複数のボール5を介して螺合したナット6とを有する。
ねじ軸4は、円柱形状の部材からなり、その外周面には断面が略円弧形状のねじ溝4aが螺旋状に形成されている。なお、本明細書の各実施形態では、ねじ軸4を回転させるための不図示の駆動部(モータ)がねじ軸4に接続されている。
ナット6は、ねじ軸4の外径よりも大きな円形の貫通口が形成された略円筒形状の部材からなる。ナット6の内周面には、ねじ軸4のねじ溝4aに対応するように、断面が略円弧形状のねじ溝6aが螺旋状に形成されている。
ねじ軸4はナット6の貫通口に挿貫されており、互いのねじ溝4a、6aが対向してボールの転動路を形成している。この転動路内には、磁性を持つ金属製の複数のボール5が装填されており、これによってねじ軸4とナット6は螺合している。
斯かる構成により、不図示の駆動部によってねじ軸4を回転させることで、複数のボール5が転動路内を転動し、ナット6を軸方向へ直線移動させることができる。ここで、ナット6には、転動したボール5を転動路の所定の地点まで送り戻すための循環路を形成する循環コマ10が備えられている。このため、複数のボール5は循環路を介して転動路内を循環することが可能である。
循環コマ10は、図2(b)に示すように断面が小判形の柱状部材からなる。循環コマ10の上面には、断面が略円弧形状をしたS字型のS字溝10aが形成されている。なお、S字溝10aの深さは、図4に示すように後述するねじ軸4のねじ山部分4bの形状に合わせて、S字溝10aの中央位置で最も大きくなっている。S字溝10aの両端は、ねじ溝6aの断面と略同じ大きさに形成されている。
循環コマ10は、図2(a)に示すようにS字溝10aがねじ軸4の隣り合うねじ溝4aどうしを跨ぐようにナット6に配置されており、図4に示すようにS字溝10aとこれに対向するねじ軸4のねじ山部分4bによって上述の循環路が形成されている。
なお、詳細には、ナット6には図4に示すように径方向へ貫通しており、循環コマ10と嵌合する形状の開口部6bが形成されている。循環コマ10は、この開口部6bに嵌合することでナット6に取り付けられている。また、図2(b)に示すように循環コマ10の下部にはフランジ部10bが形成されており、これによって開口部6bに嵌合した循環コマ10のナット6の径方向における位置決めを行うことができる。
循環コマ10には、図3(a)に示すようにS字溝10aの中央位置に、上下方向(図3(a)紙面の垂直方向)へ貫通する円形のセンサ取付穴10cが設けられており、その内周面には後述するセンサ11の雄ねじ部と螺合可能な不図示の雌ねじ部が形成されている。なお、センサ取付穴10cはS字溝10aの中央位置に限られず、S字溝10a内のその他の位置に設けることも可能である。
循環コマ10のセンサ取付穴10cには、図4に示すように円柱形状のセンサ11が循環コマ10の下面側から挿入されており、循環路内へ露出している。詳しくは、センサ11は循環路内のボール5との間にギャップが生じるようにセンサ取付穴10cに挿入されている。
センサ11は、循環路内を転動するボール5を検出するものであり、本実施形態では渦電流式のセンサの一種である近接センサが用いられている。なお、近接センサについては後に詳述する。
センサ11の外周面には不図示の雄ねじ部が形成されており、循環コマ10のセンサ取付穴10cの雌ねじ部と螺合している。この構成により、センサ取付穴10c内でセンサ11を回転させることにより、センサ11を移動させ、センサ11とボール5のギャップを調整することができる。なお、センサ11の雄ねじ部は、後述する固定ナット13を取り付けるために、センサ取付穴10cの長さよりも長く形成されている。
センサ取付穴10cに取り付けられたセンサ11には、前述のようにセンサ11とボール5のギャップを調整した上で、図3(b)及び図4に示すように循環コマ10の下面側から固定ナット13が取り付けられている。固定ナット13は、センサ11の雄ねじ部と螺合することで、センサ11を循環コマ10に対して固定している。
なお、センサ11とモニタ装置3は図1に示すようにケーブル12を介して電気的に接続されており、センサ11から出力された検出信号はモニタ装置3に入力される。
モニタ装置3は、ボールねじ2のボール5の摩耗やつまり等の異常を検出するためのものであり、図1に示すようにアンプ18と、演算処理部15と、記憶部16と、出力部17とを有する。
アンプ18は、センサ11から出力された微弱な検出信号を増幅するものである。
演算処理部15は、アンプ18で増幅された検出信号の処理、ボールねじ2の異常の有無を判定するための後述する異常監視ルーチンの実行、及び出力部17の制御等を行う。
記憶部16には、後述するボール5の通過時間Tと通過周期Sのそれぞれの基準値が記憶されている。
出力部17は、ボールねじ2の異常が検出された際に警告を出力するものであり、不図示のディスプレイと不図示のスピーカとを備えている。
ここで、本実施形態においてセンサ11として用いられている渦電流式の近接センサについて説明する。
図5は渦電流式のセンサの種類と特徴を示す表である。図6は変位センサと近接センサの感知範囲を示す図である。
渦電流式のセンサは、鉄等の磁性を持つ金属に反応して電圧(又は電流)を検出信号として出力するセンサであって、近接センサと変位センサの2種類に分けられる。このうち近接センサは、図5及び図6に示すように、変位センサに比べてコストが低く感知範囲が広いという長所がある。また近接センサは、該近接センサと測定対象(ボール5)とのギャップの調整が易しいという長所もある。
図7は変位センサと近接センサの出力の違いを示す図である。図8は変位センサと近接センサのボール通過時の出力を示す図である。
図7に示すように近接センサは、該近接センサと測定対象との距離が大きいときに所定の電圧を出力し、当該距離が所定の距離を下回ると出力電圧がゼロに切り換わるものである。具体的には、図8に示すように、循環路内を転動するボール5が近接センサの感知範囲に入ったときに出力電圧がゼロに切り換わる。即ち、近接センサの出力電圧の波形はON/OFFの矩形状となり、これによって近接センサの感知範囲にボール5が存在するか否かを検出することができる。また、近接センサの出力が最大値より小さくなっている時間の半分の時刻がボールが最も近接センサに接近している、すなわち近接センサの正面に位置している時刻であるから、図8に示すように、循環路でボール8が一定の速度で転動している場合、現在検出しているボールが最も近接センサに接近している時刻から、現在検出しているボールの前のボールが最も近接センサに接近していた時刻を減じればボール通過周期Sが得られる。
したがって、図8に示すように近接センサの出力電圧に基づいて、ボール5の通過時間Tと通過周期Sを算出することができる。なお、本明細書において、ボール5の通過時間Tとは、循環路を転動するボール5がセンサの感知範囲に入ってから出るまでの時間をいう。また、ボール5の通過周期Sとは、循環路を転動するボール5がセンサの正面位置に到達してから、次のボール5が当該正面位置に到達するまでの時間をいう。
図9はボールまでの距離が異なる場合における変位センサと近接センサの出力を示す図である。図9に示すように、通過時間Tと通過周期Sは、ボール5が摩耗等して小さくなることにより近接センサとボール5との距離が遠くなった場合には、ボール5が正常の大きさで当該距離が近い場合に比べて短くなる。これは、図6に示すように近接センサの感知範囲が、近接センサの先端から離れるほど小さくなる、即ち図6のx方向における幅が小さくなるためである。
以上の構成の下、モニタ装置3は、図10に示し以下に述べる異常監視ルーチンを実行するように構成されている。なお、異常監視ルーチンは、使用者がモニタ装置3の電源を入れることによって開始される。また、不図示の駆動部は、ボールねじ2のねじ軸4を所定の速度で回転させるものとする。
ステップS11:演算処理部15が、アンプ18を介して得られたセンサ11からの検出信号に基づき、ボール5の通過時間T及び通過周期Sを算出する。
ステップS12:演算処理部15が、ステップS11で算出したボール5の通過時間T及び通過周期Sに基づいて、ボールねじ2に異常があるか否かを判定する。具体的には演算処理部15が、ステップS11で算出したボール5の通過時間T及び通過周期Sと、記憶部16に記憶されているそれぞれの基準値とを比較し、通過時間Tと通過周期Sがいずれも基準値の範囲内であれば異常なしと判定し、少なくとも一方が範囲外であれば異常ありと判定する。なお、ボール5の通過時間T及び通過周期Sのそれぞれの基準値とは、ボールねじ2に異常があるか否かを判定するための基準として、不図示の駆動部によるねじ軸4の回転速度に応じて予め定められたボール5の正常な通過時間T及び通過周期Sの範囲である。例えば、ボール5に摩耗や剥離が生じている場合等には、ボール5の通過時間T及び通過周期Sはそれぞれの基準値の下限よりも小さくなる。また、転動路の損傷等によりボール5のつまりが生じてセンサ11の感知範囲にボール5が停滞している場合等には、ボール5の通過時間T及び通過周期Sはそれぞれの基準値の上限よりも大きくなる。なお、本ステップS12において、演算処理部15がボールねじ2に異常があると判定した場合にはステップS13へ進み、そうでない場合にはステップS11へ戻る。
ステップS13:演算処理部15が、出力部17の不図示のディスプレイに警告情報を表示させ、不図示のスピーカに警告音を出力させるとともに、不図示の駆動部を停止させ、本異常監視ルーチンが終了する。
以上のように、モニタ装置3が異常監視ルーチンを実行することにより、ボールねじ2の動作中、常にボールねじ2の異常の有無を監視することができる。そして、ボールねじ2に異常が発生した場合には、即時にボールねじ2の動作を停止することができ、事故の発生を未然に防止することができる。このため、ボールねじ2の異常に気付かずに使用し続け、ボールねじ2の寿命を低下させてしまうことがない。また、ボールねじ2を適用した機械装置の他の部位にダメージを与え、機械装置の保守に多大な時間と費用を要することになってしまうこともない。なお、本実施形態に係るボールねじ装置1において、センサ11が取り付けられた循環コマ10はナット6の複数箇所に備えられており、モニタ装置3は以上に述べた異常監視ルーチンをセンサ11毎に実行する。
以上、本実施形態に係るボールねじ装置1は、上述のようにセンサ11が循環コマ10に配置されている。このため、上述した従来のボールねじ装置のように、センサを取り付けるための加工をナットに施す必要がない。ナットは循環コマに比べてサイズが大きいため、センサ取付穴の形成やバリ処理等に手間を要してしまうが、本実施形態に係るボールねじ装置1はこれを解消して製造の手間を軽減することができる。特に、循環コマ10はナットに比べてサイズが小さいため、センサを取り付けるための加工が容易であり、またボールねじ2を組み立てた後でナット6に取り付ける、即ち後付けが可能であるという利点も備えている。
また、一般にボールねじ装置では、ねじ軸、ナット、及びボールに予圧が与えられているため、転動路においては、ねじ軸とナットによってボールに負荷が掛かっており、ボールの摩耗粉等が生じやすい。このため、上述した従来のボールねじ装置のようにセンサをナットに配置して転動路内のボールを検出する構成では、摩耗粉等がセンサの取付穴に詰まり、センサが誤反応してしまうという問題がある。これに対して本実施形態に係るボールねじ装置1は、センサ11を循環コマ10に配置して、負荷が掛かっていない循環路内のボール5を検出する構成であるため、斯かる問題を解消することができる。
上述のように、本実施形態に係るボールねじ装置1において、循環路は循環コマ10のS字溝10aとこれに対向するねじ軸4のねじ山部分4bによって形成されている。このため、循環路内のボール5の挙動はねじ軸4の回転運動の影響を受けやすい。そこで本実施形態では、上述のように循環コマ10のS字溝10aの中央位置に設けたセンサ取付穴10cにセンサ11を配置している。循環コマ10のS字溝10aは、その中央位置においてS字カーブが最も緩やかである。このため、循環路内を転動するボール5は、S字溝10aの中央位置において、慣性によるフラつきが最も小さく挙動が安定している。これに加え、循環路内を転動するボール5は、S字溝10aの中央位置において、ねじ軸4のねじ山部分4bの頂点近傍に到達するため、ボール5とセンサ11との距離が安定する。これらにより、循環コマ10のS字溝10aの中央位置に配置されたセンサ11は、安定した検出信号を出力することが可能となる。
また、上述した従来のボールねじ装置は、センサとボールが非接触、即ちセンサはボールとの間に所定のギャップを確保してナットに取り付けられている。そして、センサでボールの変位(センサとボールとの距離)を測定することでボールの摩耗状態を検出している。しかしながら、通常、ボールねじ装置におけるボールの摩耗はμmオーダーの微小量である。このため、従来のボールねじ装置ではセンサとボールのギャップを精確に調整する必要があり、センサが配置されるナットの加工やセンサの位置調整が煩雑であった。これに対して本実施形態に係るボールねじ装置1は、上述のようにセンサ11の検出信号からボール5の通過時間T及び通過周期Sを算出し、当該通過時間T及び通過周期Sに基づいてボールねじ2の異常の有無を判定する構成である。このため、センサ11はセンサ11の近傍にボール5が存在するか否かを検出できればよいため、センサ11とボール5のギャップの調整は従来のボールねじ装置ほど精確に行わなくてもよい。このため、循環コマ10の加工や、センサ11を循環コマ10に取り付けた際のセンサ11の位置調整が非常に容易である。
また、本実施形態に係るボールねじ装置1では、上述のように演算処理部15がボール5の通過時間Tと通過周期Sという2つの情報を両方とも参照することにより、ボールねじ2の異常の有無を正確に判定することができる。しかしながらこれに限られず、演算処理部15がセンサ11からの検出信号に基づいてボール5の通過時間Tと通過周期Sのいずれか一方の情報のみを算出し、算出した当該情報を参照してボールねじ2の異常の有無を判定する構成とすることもできる。
また、本実施形態に係るボールねじ装置1は、上述のようにセンサ11として渦電流式の近接センサを採用している。しかしこれに限られず、センサ11としてその他の非接触式のセンサを採用することも可能である。なお、本実施形態で採用した近接センサは、上述のように安価であるため、ボールねじ装置1の低コスト化を実現することができる。また、本実施形態におけるモニタ装置3はアンプ18を備える構成であるが、アンプ18の代わりにアンプ内蔵型の近接センサをセンサ11として備える構成としてもよい。
(第2実施形態)
図11に示す第2実施形態に係るボールねじ装置20について、上記第1実施形態と同様の構成については説明を省略し、異なる構成について詳細に説明する。なお、本実施形態におけるボールねじ2や循環コマ10の構成は上記第1実施形態と同様であるため、図2〜図4は本実施形態でも参照する。
図11は本発明の第2実施形態に係るボールねじ装置の構成を示す概略図である。本実施形態におけるモニタ装置3は、図11に示すようにA/D変換部(アナログ/デジタル変換部)19を有している。
A/D変換部19は、循環コマ10のセンサ11から出力されてアンプ18によって増幅された検出信号をデジタル信号に変換処理するものである。
記憶部16には、ボール5の通過時間Tと通過周期Sのそれぞれの基準値に加えて、後述するピーク出力Dの基準値が記憶されている。
本実施形態におけるセンサ11には、渦電流式の変位センサが用いられている。
ここで、渦電流式の変位センサは、図5に示すように、近接センサに比べて測定精度(変位センサで測定される変位センサと測定対象(ボール5)との距離の確かさ)が高いという長所がある。
図7に示すように変位センサは、出力電圧が変位センサと測定対象との距離に比例し、当該距離が所定の距離を上回ると一定の電圧を出力するものである。具体的には、図8に示すように、循環路内を転動するボール5が変位センサの感知範囲に入ったときに出力電圧が小さくなりはじめ、変位センサの正面位置にボール5が到達したときに出力電圧がピーク(最小)になる。即ち、変位センサの出力電圧の波形は谷形状となり、これによって変位センサの感知範囲にボール5が存在するか否かを検出することができる。
したがって、図8に示すように変位センサの出力電圧に基づいて、ボール5の通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dを算出することができる。なお、ピーク出力Dとは、変位センサの正面位置にボール5が到達したときの出力電圧であって、変位センサとボール5との距離に相当するものである。
図9に示すように、ピーク出力Dは、ボール5が摩耗等して小さくなることにより変位センサとボール5との距離が遠くなった場合には、ボール5が正常の大きさで当該距離が近い場合に比べて大きくなる。なお、通過時間Tと通過周期Sは、上述した近接センサと同様に変位センサとボール5との距離が大きくなった場合に短くなる。
以上の構成の下、モニタ装置3は、図12に示し以下に述べる異常監視ルーチンを実行するように構成されている。なお、異常監視ルーチンは、使用者がモニタ装置3の電源を入れることによって開始される。また、不図示の駆動部は、ボールねじ2のねじ軸4を所定の速度で回転させるものとする。
ステップS21:演算処理部15が、アンプ18及びA/D変換部19を介して得られたセンサ11からの検出信号に基づき、ボール5の通過時間T、通過周期S、及びセンサ11のピーク出力Dを算出する。
ステップS22:演算処理部15が、ステップS21で算出したボール5の通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dに基づいて、ボールねじ2に異常があるか否かを判定する。具体的には演算処理部15が、ステップS21で算出したボール5の通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dと、記憶部16に記憶されているそれぞれの基準値とを比較し、通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dが全て基準値の範囲内であれば異常なしと判定し、1つでも範囲外であれば異常ありと判定する。なお、ピーク出力Dの基準値とは、ボールねじ2に異常があるか否かを判定するための基準として予め定められたピーク出力Dの範囲である。例えば、ボール5に摩耗や剥離が生じている場合等には、ピーク出力Dは基準値の上限よりも大きくなる。なお、本ステップS22において、演算処理部15がボールねじ2に異常があると判定した場合にはステップS23へ進み、そうでない場合にはステップS21へ戻る。
ステップS23:上記第1実施形態で述べたステップS13と同様である。
以上のように、モニタ装置3が異常監視ルーチンを実行することにより、ボールねじ2の動作中、常にボールねじ2の異常の有無を監視することができる。したがって、本実施形態に係るボールねじ装置20は、上記第1実施形態に係るボールねじ装置1と同様の効果を奏することができる。
特に、本実施形態に係るボールねじ装置20では、上述のように演算処理部15がボール5の通過時間Tと通過周期Sに加えてピーク出力Dも参照することにより、ボールねじ2の異常の有無をより正確に判定することができる。なお、これに限られず、演算処理部15がセンサ11からの検出信号に基づいてボール5の通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dのうちの1つ又は2つの情報のみを算出し、算出した当該情報を参照してボールねじ2の異常の有無を判定する構成とすることもできる。
また、本実施形態に係るボールねじ装置20は、上述した異常監視ルーチンのステップS21において、演算処理部15が算出したボール5の通過時間T、通過周期S、及びセンサ11のピーク出力Dを記憶部16に保存する構成としてもよい。これにより、記憶部16に保存されている通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dの値を演算処理部15が出力部17の不図示のディスプレイに表示させ、使用者がこれらの値の推移を確認することで、ボールねじ2の異常の発生を予見し、異常が発生する前にボールねじ2のメンテナンスを実施することが可能となる。なお、このことは上記第1実施形態においても同様である。
(第3実施形態)
次に、本発明のボールねじ装置の第3実施形態について図面を参照しながら説明する。図13は、本実施形態のボールねじ装置300の概略構成を示すブロック図である。ボールねじ装置300は、第1実施形態と同様に、ボールねじ320と、渦電流式センサ313と、異常を検出するためのモニタ装置330とを備えている。
図14は、第3実施形態のボールねじ320の縦断面図である。ねじ軸301の外周面には、第1実施形態と同様に、断面がほぼ半円形のねじ溝302が螺旋状に形成されており、円筒状部材で形成されたナット303の内周面にも、断面がほぼ半円形のねじ溝304がねじ軸301のねじ溝302に対向して螺旋状に形成されており、このねじ軸301のねじ溝302とナット303のねじ溝304との間にボールの転動路305が形成される。なお、ナット303の図示左方端部には、取り付け用フランジ306が形成されており、そのフランジ306に、例えばボルトなどを挿通するための貫通孔が開設されている。
このボールの転動路305には、ねじ軸301又はナット302の回転運動に伴って転動するボール308が多数配設されている。また、ナット303を構成する円筒部材の内部には、転動路305のボール308を掬い上げて再び転動路305に戻すためのボール戻し路309が形成されている。本実施形態のボール戻し路309はナットの軸線方向と平行である。ボール戻し路309の端部には、夫々、転動路305に向かう連結路310が形成され、この連結路310、ボール戻し路309でボール循環路311が形成される。なお、図示左方の連結路310はデフレクタ312と呼ばれる循環部品に形成されており、このデフレクタ312をナット303のフランジ306に取り付けてボール循環路311が形成される。このようにナット303内にボール戻し路309(又はボール循環路311)が形成されているボールねじを内部循環方式のボールねじと称す。また、一般にボールねじの外部荷重に対する軸方向弾性変位量を小さくする目的でボールねじには予圧が与えられており、転動路305ではねじ軸301とナット302によってボール308に負荷がかかっている。これに対し、ボール戻し路309を含むボール循環路311は負荷がかからない、ボール308は所謂フリー状態である。
本実施形態では、前記ボール戻し路309内のボール308に対向するように渦電流式センサ313が取り付けられている。図15は、渦電流式センサの取付構造の一例を示す縦断面図である。この例は、ナット303の外周面からボール戻し路309に向けて、渦電流式センサ313の外径と同等か僅かに大きい内径の貫通孔314を形成し、その貫通孔314内に渦電流式センサ313の外周面を圧入又は接着したものである。なお、渦電流式センサ313の取り付け構造は、図15に示す例に限られない。ここで渦電流式センサ313の取り付け構造の他の例を図16(a)〜図16(c)に示す。
図16(a)は、渦電流式センサ313の取り付け構造の他の例を示す縦断面図である。この例では、渦電流式センサ313の外周面に、ナット303の外周面に適合するフランジ315が固定されている。そして、ナット303の外周面からボール戻し路309に向けて、渦電流式センサ313の外径より少し大きい内径の貫通孔314を形成し、その貫通孔314内に渦電流式センサ313を挿入し、ナット303の外周面に渦電流式センサ313のフランジ315を接着したものである。
図16(b)は、渦電流式センサ313の取り付け構造の更に他の例を示す縦断面図である。この例では、渦電流式センサ313の外周面に雄ねじ部316が形成されている。そして、ナット303の外周面からボール戻し路309に向けて貫通孔314を形成し、渦電流式センサ313の雄ねじ部316と螺合する雌ねじ部317を貫通孔314に形成し、その雌ねじ部317に渦電流式センサ313の雄ねじ部316を螺合したものである。この例では、例えばボール戻し路309内のボール308と渦電流式センサ313のギャップを調整しやすい。
図16(c)は、渦電流式センサ313の取り付け構造の更にまた他の例を示す縦断面図である。この例では、渦電流式センサ313の外周面に雄ねじ部316が形成されている。また、ナット303の外周面からボール戻し路309に向けて、渦電流式センサ313の外径より少し大きい内径の貫通孔314を形成し、その貫通孔314のナット外周面側端部に、前記渦電流式センサ313の雄ねじ部316に螺合するナット318が接着されている。そして、このナット318に渦電流式センサ313の雄ねじ部316を螺合してナット303に渦電流式センサ313を取り付けたものである。この例では、例えばボール戻し路309内のボール308と渦電流式センサ313のギャップを調整しやすい。
図13に示すように、本実施形態のボールねじ装置300のモニタ装置330は第2実施形態と同様の構成であり、アンプ321とA/D変換部322と演算処理部323と記憶部324と出力部325とを備えている。なお、渦電流式センサ313が実際に取り付けられているのはナット303であるが、異常を検出するのはボールねじ320(主としてボール308)であるから、異常検出対象はボールねじ320とする。渦電流式センサ313の出力は微弱なのでアンプ321で増幅する。増幅された渦電流式センサ313のアナログ出力をA/D(アナログ・デジタル)変換部322でデジタル値に変換し、マイクロコンピュータなどの演算処理部323で演算処理して異常の判定を行う。演算処理部323には、データや演算結果を記憶するRAMやプログラムを記憶するROMなどの記憶部324、モニタやスピーカなどの出力部325が接続されている。
渦電流式センサ313には、渦電流式変位センサと渦電流式近接センサがある。渦電流式変位センサおよび渦電流式近接センサの出力特性は、第1実施形態および第2実施形態と同様なので、図5〜図7を参照し、詳細な説明は省略する。また、ボールねじ装置300に取り付けられた状態におけるボール検出時の出力特性についても図8および9を参照する。
図14〜図16の各図のようにナット303に取り付けられた渦電流式センサ313が渦電流式変位センサである場合と渦電流式近接センサである場合では、夫々の出力は図8のように違って表れる。すなわち、ボール戻り路309内でボール308が一定の速度で転動(移動)している場合、渦電流式変位センサでは、ボール308の接近に伴って出力が次第に小さくなり、具体的にはボール308の外周は球面であるから出力は非線形に小さくなり、ボール308が最も近づいたときにピーク(極小)となり、ボール308が遠ざかるに従って次第に大きくなる。具体的には非線形に大きくなる。一方、渦電流式近接センサでは、ボール308が所定の距離まで近づくと出力はステップ的に減少し、具体的には0となり、ボール308が所定の距離まで遠ざかると出力はステップ的に増大する。
また、ボール戻り路309内を移動するボール308に摩耗がある場合とない場合とについても、第1および第2実施形態と同様に、図9に示すような出力特性となる。
従って、これらボール通過周期S、ボール通過時間T、或いは出力ピーク値(極小値)Dを算出し、それらを記憶部324に記憶された基準値範囲と比較することでボール308の摩耗異常を検出することが可能となる。渦電流式センサ313が渦電流式近接センサである場合に、異常検出のために演算処理部323で行われる演算処理のフローチャートは、第1実施形態と同様で、図10に示す通りである。
また、渦電流式センサ313が渦電流式変位センサである場合に、異常検出のために演算処理部323で行われる演算処理のフローチャートは、第2実施形態と同様で、図12に示す通りである。
このように本実施形態のボールねじ装置300では、ナット303の外周面から形成した貫通孔314内に渦電流式センサ313を挿入してボール戻し路309内のボール308に対向させ、渦電流式センサ313の出力からボール戻し路309内のボール308のボール通過周期Sを算出し、算出されたボール通過周期Sが予め設定された基準値範囲外である場合に異常と判定することとしたため、渦電流式センサ313の高度な取付精度が要求されず、従って組み立て性が良い。また、ボール戻し路309内のボール308に対向するように渦電流式センサ313を取り付けることができ、ボール戻し路内309ではボール308に負荷がかからずボール308はフリー状態であり、摩耗粉が発生しないことから、渦電流式センサ313が誤動作しない。
また、渦電流式センサ313が渦電流式近接センサである場合、渦電流式近接センサの出力からボール戻し路309内のボール308のボール通過時間Tを算出し、算出されたボール通過時間Tが予め設定された基準値範囲外である場合に異常と判定することとしたため、渦電流式センサ313の高度な取付精度が要求されず、従って組み立て性が良い。また、ボール戻し路309内のボール308に対向するように渦電流式センサ313を取り付けることができ、ボール戻し路309内ではボール308に負荷がかからずボール308はフリー状態であり、摩耗粉が発生しないことから、渦電流式センサ313が誤動作しない。
また、渦電流式センサ313が渦電流式変位センサである場合、渦電流式変位センサの出力ピーク値Dを算出し、算出された出力ピーク値Dが予め設定された基準値範囲外である場合に異常と判定することとしたため、渦電流式センサ313の高度な取付精度が要求されず、従って組み立て性が良い。また、ボール戻し路309内のボール308に対向するように渦電流式センサ313を取り付けることができ、ボール戻し路309内ではボール308に負荷がかからずボール308はフリー状態であり、摩耗粉が発生しないことから、渦電流式センサ313が誤動作しない。また、異常判定時に警告を出力する構成としたため、ボールねじ320の異常を認識しやすい。
また、本実施形態においても、第1および第2実施形態と同様に、渦電流式近接センサであればボール5の通過時間Tと通過周期Sのいずれか一方の情報のみを算出し、算出した当該情報を参照しての異常の有無を判定する構成とすることもできる。また、ボール5の通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dのうちの1つ又は2つの情報のみを算出し、算出した当該情報を参照して異常の有無を判定する構成とすることもできる。
(第4実施形態)
次に、本発明のボールねじ装置の第4実施形態について図面を参照しながら説明する。図17は、本実施形態のボールねじ装置400の概略構成を示すブロック図である。ボールねじ装置400は、第1実施形態と同様に、ボールねじ420と、渦電流式センサ413と、異常を検出するためのモニタ装置430とを備えている。
図18(a)は、本実施形態のボールねじ装置400の縦断面図である。ねじ軸401の外周面には、断面がほぼ半円形のねじ溝402が螺旋状に形成されており、これに対向するナット403の内周面にも、断面がほぼ半円形のねじ溝404が螺旋状に形成されており、このねじ軸401のねじ溝402とナット403のねじ溝404との間にボールの転動路405が形成される。この転動路405には、ねじ軸401又はナット402の回転運動に伴って転動するボール408が多数配設されている。また、ナット403には、転動路405のボール408を掬い上げて再び転動路405に戻すためのボール戻しチューブ409が外部より差し込まれている。戻しチューブ409の内周面側がボール408を循環させるための循環路となっている。なお、転動路405ではねじ軸401とナット402によってボール408に負荷がかかっている。これに対し、ボール戻しチューブ409内ではボール408に負荷がかからない、ボール408は所謂フリー状態である。
本実施形態では、図18(b)に明示するように、前記ボール戻しチューブ409内のボール408に対向するように渦電流式センサ413が取り付けられている。渦電流式センサ413は、ボール戻しチューブ409の外側から貫通穴414を形成し、その貫通穴414内に渦電流式センサ413を挿入して取り付けられている。なお、渦電流式センサを取り付けるための貫通穴414の構造は、図18(b)に示す例に限られない。ここで貫通穴414の他の例を図19(a)〜(d)に示す。
図19には、渦電流式センサ413を取り付けるための貫通穴414の種々の形態を示す。図19(a)は、図18(b)と同様に、逆U字状のボール戻しチューブ409の湾曲外側中央部に渦電流式センサ413を取り付けるための貫通穴414を一箇所形成した。図19(b)は、同じくボール戻しチューブ409の湾曲外側両端部に渦電流式センサ413を取り付けるための貫通穴414を二箇所形成した。図19(c)は、同じくボール戻しチューブ409の湾曲外側と湾曲内側の中間において長手方向の中央部に渦電流式センサ413を取り付けるための貫通穴414を一箇所形成した。図19(d)は、同じくボール戻しチューブ409の湾曲外側と湾曲内側の中間において長手方向の両端部に渦電流式センサ413を取り付けるための貫通穴414を二箇所形成した。
また、渦電流式センサ413の取り付け構造は、図18(b)に示す例に限られない。ここで渦電流式センサ413の取り付け構造の他の例を図20(a)〜図20(d)に示す。図20(a)は、渦電流式センサ413の取付構造の一例を示す縦断面図である。この例は、ボール戻しチューブ409の外周面からチューブ内部に向けて、渦電流式センサ413の外径と同等か僅かに大きい内径の貫通穴414を形成し、その貫通穴414内に渦電流式センサ413の外周面を圧入又は接着したものである。図20(b)は、渦電流式センサ413の取付構造の他の例を示す縦断面図である。この例では、渦電流式センサ413の外周面に、ボール戻しチューブ409の外周面に適合するフランジ415が固定されている。そして、ボール戻しチューブ409の外周面からチューブ内部に向けて、渦電流式センサ413の外径より少し大きい内径の貫通穴414を形成し、その貫通穴414内に渦電流式センサ413を挿入し、ボール戻しチューブ409の外周面に渦電流式センサ413のフランジ415を接着したものである。
図20(c)は、渦電流式センサ413の取付構造の更に他の例を示す縦断面図である。この例では、渦電流式センサ413の外周面に雄ねじ部416が形成されている。そして、ボール戻しチューブ409の外周面からチューブ内部に向けて貫通穴414を形成し、渦電流式センサ413の雄ねじ部416と螺合する雌ねじ部417を貫通穴414に形成し、その雌ねじ部417に渦電流式センサ413の雄ねじ部416を螺合したものである。この例では、例えばボール戻しチューブ409内のボール408と渦電流式センサ413のギャップを調整しやすい。
図20(d)は、渦電流式センサの取付構造の更にまた他の例を示す縦断面図である。この例では、渦電流式センサ413の外周面に雄ねじ部416が形成されている。また、ボール戻しチューブ409の外周面からチューブ内部に向けて、渦電流式センサ413の外径より少し大きい内径の貫通穴414を形成し、その貫通穴414のボール戻しチューブ外周面側端部に、前記渦電流式センサ413の雄ねじ部416に螺合するナット418が接着されている。そして、このナット418に渦電流式センサ413の雄ねじ部416を螺合してボール戻しチューブ409に渦電流式センサ413を取り付けたものである。この例では、例えばボール戻しチューブ409内のボール408と渦電流式センサ413のギャップを調整しやすい。
図17に示すように、本実施形態のボールねじ装置400のモニタ装置430は第2実施形態と同様の構成であり、アンプ421とA/D変換部422と演算処理部423と記憶部424と出力部424とを備えている。なお、渦電流式センサ413が実際に取り付けられているのはボール戻しチューブ409であるが、異常を検出するのはボールねじ420(主としてボール408)であるから、異常検出対象はボールねじ420とする。渦電流式センサ413の出力は微弱なのでアンプ421で増幅する。増幅された渦電流式センサ413のアナログ出力をA/D(アナログ・デジタル)変換部422でデジタル値に変換し、マイクロコンピュータなどの演算処理部423で演算処理して異常の判定を行う。演算処理部423には、データや演算結果を記憶するRAMやプログラムを記憶するROMなどの記憶部424、モニタやスピーカなどの出力部425が接続されている。
渦電流式センサ413には、渦電流式変位センサと渦電流式近接センサがある。渦電流式変位センサおよび渦電流式近接センサの出力特性は、第1実施形態および第2実施形態と同様なので、図5〜図7を参照し、詳細な説明は省略する。また、ボールねじ装置400に取り付けられた状態におけるボール検出時の出力特性についても図8および9を参照する。
図18〜図20各図のようにボール戻しチューブ409に取り付けられた渦電流式センサ413が渦電流式変位センサである場合と渦電流式近接センサである場合では、夫々の出力は図8のように違って表れる。すなわち、ボール戻しチューブ409内でボール408が一定の速度で転動(移動)している場合、渦電流式変位センサでは、ボール408の接近に伴って出力が次第に小さくなり、具体的にはボール408の外周は球面であるから出力は非線形に小さくなり、ボール408が最も近づいたときにピーク(極小)となり、ボール408が遠ざかるに従って次第に大きくなる。具体的には非線形に大きくなる。一方、渦電流式近接センサでは、ボール408が所定の距離まで近づくと出力はステップ的に減少し、具体的には0となり、ボール408が所定の距離まで遠ざかると出力はステップ的に増大する。
また、ボール戻しチューブ409内を移動するボール408に摩耗がある場合とない場合とについても、第1および第2実施形態と同様に、図9に示すような出力特性となる。
従って、これらボール通過周期S、ボール通過時間T、或いは出力ピーク値(極小値)Dを算出し、それらを記憶部424に記憶された基準値範囲と比較することでボール408の摩耗異常を検出することが可能となる。渦電流式センサ413が渦電流式近接センサである場合に、異常検出のために演算処理部423で行われる演算処理のフローチャートは、第1実施形態と同様で、図10に示す通りである。渦電流式センサ413が渦電流式変位センサである場合に、異常検出のために演算処理部423で行われる演算処理のフローチャートは、第2実施形態と同様で、図12に示す通りである。
このように本実施形態のボールねじ装置400では、ナット403の外側から取り付けるボール戻しチューブ409の外側から形成した貫通穴414内に渦電流式センサ413を挿入してボール戻しチューブ409内のボール408に対向させ、渦電流式センサ413の出力からボール戻しチューブ409内のボール408のボール通過周期Sを算出し、算出されたボール通過周期Sが予め設定された基準値範囲外である場合に異常と判定することとしたため、ナット403に加工する必要がなく、ナット403に渦電流式センサ413を高精度に取り付ける必要もなく、従って組み立て性が良い。また、ボール戻しチューブ409内のボール408に対向するように渦電流式センサ413を取り付けることができ、ボール戻しチューブ409内ではボール408に負荷がかからずボール408はフリー状態であり、摩耗粉が発生しないことから、渦電流式センサ413が誤動作しない。一方、比較的小型部品であるボール戻しチューブ409に予め渦電流式センサ413を取り付けるようにすればボール戻しチューブ409内のボール408に対して高精度に渦電流式センサ413を取り付けることも可能である。
また、渦電流式センサ413が渦電流式近接センサである場合、渦電流式近接センサの出力からボール戻しチューブ409内のボール408のボール通過時間Tを算出し、算出されたボール通過時間Tが予め設定された基準値範囲外である場合に異常と判定することとしたため、渦電流式センサ413の高度な取付精度が要求されず、従って組み立て性が良い。また、ボール戻しチューブ409内のボール408に対向するように渦電流式センサ413を取り付けることができ、ボール戻しチューブ409内ではボール408に負荷がかからずボール408はフリー状態であり、摩耗粉が発生しないことから、渦電流式センサ413が誤動作しない。
また、渦電流式センサ413が渦電流式変位センサである場合、渦電流式変位センサの出力ピーク値Dを算出し、算出された出力ピーク値Dが予め設定された基準値範囲外である場合に異常と判定することとしたため、渦電流式センサ413の高度な取付精度が要求されず、従って組み立て性が良い。また、ボール戻しチューブ409内のボール408に対向するように渦電流式センサ413を取り付けることができ、ボール戻しチューブ409内ではボール408に負荷がかからずボール408はフリー状態であり、摩耗粉が発生しないことから、渦電流式センサ413が誤動作しない。また、異常判定時に警告を出力する構成としたため、ボールねじ420の異常を認識しやすい。
また、本実施形態においても、第1および第2実施形態と同様に、渦電流式近接センサであればボール5の通過時間Tと通過周期Sのいずれか一方の情報のみを算出し、算出した当該情報を参照しての異常の有無を判定する構成とすることもできる。また、ボール5の通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dのうちの1つ又は2つの情報のみを算出し、算出した当該情報を参照して異常の有無を判定する構成とすることもできる。
(第5実施形態)
次に、本発明のボールねじ装置の第5実施形態について図面を参照しながら説明する。図21は、本実施形態のボールねじ装置500の概略構成を示すブロック図である。ボールねじ装置500は、第1実施形態と同様に、ボールねじ520と、渦電流式センサ513と、異常を検出するためのモニタ装置530とを備えている。
図22は、本実施形態のボールねじ装置500の正面図、図23は、図22のボールねじ装置500の平面図、図24は、図22のボールねじ装置500の縦断面図、図25は、図22のA−A断面図である。ねじ軸501の外周面には、断面がほぼ半円形のねじ溝502が螺旋状に形成されており、これに対向するナット503の内周面にも、断面がほぼ半円形のねじ溝504が螺旋状に形成されており、このねじ軸501のねじ溝502とナット503のねじ溝504との間にボールの転動路505が形成される。この転動路505には、ねじ軸501又はナット502の回転運動に伴って転動するボール508が多数配設されている。また、ナット503には、転動路505のボール508を掬い上げて再び転動路505に戻すための樹脂製循環部材506が外部より差し込まれており、樹脂製循環部材506の内部にはボール戻し路509が形成されている。つまり、ボール戻し路509がボール508を循環させるための循環路となっている。なお、転動路505ではねじ軸501とナット502によってボール508に負荷がかかっている。これに対し、樹脂製循環部材506のボール戻し路509内ではボール508に負荷がかからない、ボール508は所謂フリー状態である。
図26には、前記樹脂製循環部材506の斜視図を示す。本実施形態では、ナット503の外周面の一部を切除するようにして凹部が形成され、その凹部の底面が樹脂製循環部材506の取付用の外側平坦部507となっている。この外側平坦部507には、ナット503の外側から転動路505に連通する二個一組の差込み穴510が形成されている。一方、樹脂製循環部材506は、例えば本出願人が先に提案した特開2012−137154号公報に記載されるように、従来のボール戻しチューブと同様にナット503の外部に配置されるチューブ状の本体部506aと、本体部506aの長手方向両端部に形成された一対の脚部506bとからなる。樹脂製循環部材506は、例えば二個の分割体を組み立てて構成するようにしてもよい。そして、樹脂製循環部材506の一対の脚部506bの夫々を前記二個一組の差込み穴510の夫々にナット503の外部から挿入し、樹脂製循環部材506の本体部506aの外側に押え部材511を被せ、押え部材511に形成された貫通穴にねじ部材515を挿入し、ナット503の図示しないねじ穴にねじ部材515を締付けて樹脂製循環部材506がナット503に固定される。樹脂製循環部材506の本体部506aはナット503の外側平坦部507に当接している。
本実施形態では、図25に明示するように、樹脂製循環部材506のボール戻し路509内のボール508に対向するように渦電流式センサ513が取り付けられている。周知のようにナット503は軸回りの両方向に回転するので、樹脂製循環部材506内のボール戻し路509ではボール508は往復方向に転動するのであるが、例えばナット503内の転動路505からボール戻し路509にボール508が移動する部分、或いはボール戻し路509からボール転動路505にボール508が移動する部分をすくい上げ部とすると、本実施形態の渦電流式センサ513は、樹脂製循環部材506の外側からボール戻し路509に貫通する挿入穴514をボール戻し路509の両端部の何れか一方のすくい上げ部に形成し、その挿入穴514内に渦電流式センサ513を挿入して取り付けられている。本実施形態では、樹脂製循環部材506の外周面からボール戻し路509内部に向けて、渦電流式センサ513の外径と同等か僅かに大きい内径の挿入穴514を貫通形成し、その挿入穴514内に渦電流式センサ513の外周面を圧入又は接着したものである。
なお、渦電流式センサ513の取り付け構造は、図25に示す例に限られない。ここで渦電流式センサ513の取り付け構造の他の例を図27〜図29に示す。図27は、渦電流式センサ513の取付構造の他の例を示す平面図である。以下、図27〜図29では、樹脂製循環部材506の形状や個数が、図22〜図26のものと異なっていたり、樹脂製循環部材506をナット503に固定するための押え部材511の形状が、図22〜図26のものと異なっていたりするが、樹脂製循環部材506や押え部材511の機能や作用は同等である。例えば、樹脂製循環部材506を二個取り付ける例では、ボール循環系統が二系統あることになる。図27の例では、樹脂製循環部材506のチューブ状の本体部506aの一方の端部近傍でナット503の外側平坦部507に取付部材516をセットし、その取付部材516をねじ部材517でナット503の外側平坦部507に固定する。この取付部材516には貫通穴が形成されており、その貫通穴に渦電流式センサ513を挿入し、図示しない固定方法で固定する。渦電流式センサ513の検出部は樹脂製循環部材506の本体部506aの外周面に当接しており、当該樹脂製循環部材506の外側からボール戻し路509内部のボール508に対向している。本実施形態の樹脂製循環部材506は非磁性体であるので、樹脂製循環部材506の外側からボール戻し路509内部のボール508に渦電流式センサ513を対向させておけば、後述するように、ボール508の移動に伴って渦電流式センサ513の出力が変化する。
図28各図は、渦電流式センサ513の取付構造の更に他の例を示す平面図である。この例では、樹脂製循環部材506の一方の脚部506bの近傍でナット503の外側平坦部507に取付部材516をセットし、その取付部材516をねじ部材517でナット503の外側平坦部507に固定する。この取付部材516には貫通穴が形成されており、その貫通穴に渦電流式センサ513を挿入し、図示しない固定方法で固定する。渦電流式センサ513の検出部は樹脂製循環部材506の脚部506bの外周面に当接しており、当該樹脂製循環部材506の外側からボール戻し路509のすくい上げ部に位置するボール508に対向している。図28(a)は、渦電流式センサ513をボール戻し路509のリード角分傾けて取り付けた例であり、図28(b)は、ボール戻し路509のリード角を考慮しないで渦電流式センサ513を取り付けた例である。前述のように、本実施形態の樹脂製循環部材506は非磁性体であるので、樹脂製循環部材506の外側からボール戻し路509内部のボール508に渦電流式センサ513を対向させておけば、ボール508の移動に伴って渦電流式センサ513の出力が変化する。
図29は、渦電流式センサ513の取付構造の更にまた他の例を示す平面図である。この例では、樹脂製循環部材506の一対の脚部506bの夫々の近傍でナット503の外側平坦部507に取付部材516をセットし、それらの取付部材516をねじ部材517でナット503の外側平坦部507に固定する。この取付部材516には貫通穴が形成されており、その貫通穴に渦電流式センサ513を挿入し、図示しない固定方法で固定する。渦電流式センサ513の検出部は樹脂製循環部材506の脚部506bの外周面に当接しており、当該樹脂製循環部材506の外側からボール戻し路509のすくい上げ部に位置するボール508に対向している。本実施形態の樹脂製循環部材506は非磁性体であるので、樹脂製循環部材506の外側からボール戻し路509内部のボール508に渦電流式センサ513を対向させておけば、ボール508の移動に伴って渦電流式センサ13の出力が変化する。
図21に示すように、本実施形態のボールねじ装置500のモニタ装置530は第2実施形態と同様の構成であり、アンプ521とA/D変換部522と演算処理部523と記憶部524と出力部525とを備えている。なお、渦電流式センサ513が実際に取り付けられているのは樹脂製循環部材506であるが、異常を検出するのはボールねじ520(主としてボール508)であるから、異常検出対象はボールねじ520とする。渦電流式センサ513の出力は微弱なのでアンプ521で増幅する。増幅された渦電流式センサ513のアナログ出力をA/D(アナログ・デジタル)変換部522でデジタル値に変換し、マイクロコンピュータなどの演算処理部523で演算処理して異常の判定を行う。演算処理部523には、データや演算結果を記憶するRAMやプログラムを記憶するROMなどの記憶部524、モニタやスピーカなどの出力部525が接続されている。
渦電流式センサ513には、渦電流式変位センサと渦電流式近接センサがある。渦電流式変位センサおよび渦電流式近接センサの出力特性は、第1実施形態および第2実施形態と同様なので、図5〜図7を参照し、詳細な説明は省略する。また、ボールねじ装置500に取り付けられた状態におけるボール検出時の出力特性についても図8および9を参照する。
例えば、図22〜図29のように樹脂製循環部材506に取り付けられた渦電流式センサ513が渦電流式変位センサである場合と渦電流式近接センサである場合では、夫々の出力は図8のように違って表れる。すなわち、ボール戻し路509内でボール508が一定の速度で転動(移動)している場合、渦電流式変位センサでは、ボール508の接近に伴って出力が次第に小さくなり、具体的にはボール508の外周は球面であるから出力は非線形に小さくなり、ボール508が最も近づいたときにピーク(極小)となり、ボール508が遠ざかるに従って次第に大きくなる。具体的には非線形に大きくなる。一方、渦電流式近接センサでは、ボール508が所定の距離まで近づくと出力はステップ的に減少し、具体的には0となり、ボール508が所定の距離まで遠ざかると出力はステップ的に増大する。
また、ボール戻し路509内を移動するボール508に摩耗がある場合とない場合とについても、第1および第2実施形態と同様に、図9に示すような出力特性となる。
従って、これらボール通過周期S、ボール通過時間T、或いは出力ピーク値(極小値)Dを算出し、それらを記憶部524に記憶された基準値範囲と比較することでボール508の摩耗異常を検出することが可能となる。渦電流式センサ513が渦電流式近接センサである場合に、異常検出のために演算処理部523で行われる演算処理のフローチャートは、第1実施形態と同様で、図10に示す通りである。
渦電流式センサ513が渦電流式変位センサである場合に、異常検出のために演算処理部523で行われる演算処理のフローチャートは、第2実施形態と同様で、図12に示す通りである。
このように本実施形態のボールねじ装置500では、ナット503の外側から取り付ける樹脂製循環部材506に形成した挿入穴514内に渦電流式センサ513を挿入してボール戻し路509内のボール508に対向させるか、又は樹脂製循環部材506の外側に渦電流式センサ513を配置してボール戻し路509内のボール508に対向させ、渦電流式センサ513の出力からボール戻し路509内のボール508のボール通過周期Sを算出し、算出されたボール通過周期Sが予め設定された基準値範囲外である場合に異常と判定することとしたため、ナット503に加工する必要がなく、ナット503に渦電流式センサ513を高精度に取付ける必要もなく、従って組み立て性が良い。また、ボール戻し路509内のボール508に対向するように渦電流式センサ513を取り付けることができ、ボール戻し路509内ではボール508に負荷がかからずボール508はフリー状態であり、摩耗粉が発生しないことから、渦電流式センサ13が誤動作しない。
また、渦電流式センサ513が渦電流式近接センサである場合、渦電流式近接センサの出力からボール戻し路509内のボール508のボール通過時間Tを算出し、算出されたボール通過時間Tが予め設定された基準値範囲外である場合に異常と判定することとしたため、渦電流式センサ513の高度な取付精度が要求されず、従って組み立て性が良い。また、ボール戻し路509内のボール508に対向するように渦電流式センサ513を取り付けることができ、ボール戻し路509内ではボール508に負荷がかからずボール508はフリー状態であり、摩耗粉が発生しないことから、渦電流式センサ513が誤動作しない。
また、渦電流式センサ513が渦電流式変位センサである場合、渦電流式変位センサの出力ピーク値Dを算出し、算出された出力ピーク値Dが予め設定された基準値範囲外である場合に異常と判定することとしたため、渦電流式センサ513の高度な取付精度が要求されず、従って組み立て性が良い。また、ボール戻し路509内のボール508に対向するように渦電流式センサ513を取り付けることができ、ボール戻し路509内ではボール508に負荷がかからずボール508はフリー状態であり、摩耗粉が発生しないことから、渦電流式センサ513が誤動作しない。また、異常判定時に警告を出力する構成としたため、ボールねじ520の異常を認識しやすい。
また、本実施形態においても、第1および第2実施形態と同様に、渦電流式近接センサであればボール508の通過時間Tと通過周期Sのいずれか一方の情報のみを算出し、算出した当該情報を参照しての異常の有無を判定する構成とすることもできる。また、ボール508の通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dのうちの1つ又は2つの情報のみを算出し、算出した当該情報を参照して異常の有無を判定する構成とすることもできる。
(第6実施形態)
図30は、本発明の第6実施形態に係るボールねじ装置600を示す部分断面図である。本実施形態に係るボールねじ装置600は、上記各実施形態と同様に、ねじ軸601およびナット602を備えている。このうちの、ナット602は円筒状の部材で形成されており、このナット602の内周面には螺旋状のねじ溝604が形成されている。前記ナット602の内周面側を挿通するねじ軸601の外周面には、ボールの転走路として螺旋状のねじ溝603が、ねじ軸601の一端部から他端部にわたって形成されている。このねじ溝603は前記ナット602のねじ溝604と対向しており、ねじ溝603とねじ溝604との間に設けられた多数のボール605は、ねじ軸601またはナット602の回転運動に伴って、ねじ溝603とねじ溝604とで形成される転動路を転動するようになっている。ねじ溝603,604は、その断面がボール605とそれぞれ二点で接触する形状(例えばゴシックアーク状)に形成されている。
また、ナット602はボール戻し路606を円筒状部材の内部に有している。このボール戻し路6はナット2の軸方向に貫通している。ナット2の軸方向両端部にはそれぞれエンドデフレクタ607が組み込まれている。一方のエンドデフレクタ607には転動路の一方側端部とボール戻し路606の一方側端部とを連結する連結路606aが形成されている。連結路606aは滑らかな曲路で構成されている。同様に、他方のエンドデフレクタ607(不図示)には転動路の他方側端部とボール戻し路606の他方側端部とを連結する連結路606a(不図示)が形成されている。各連結路606aは転動路の一方側または他方側端部とボール戻し路606の一方側または他方側端部とをそれぞれ変曲部606bを頂点とする滑らかな曲路で連結している。ボール戻し路606と各連結路606aとで、ボール605を循環させるための循環路が形成されている。一方のエンドデフレクタ607の連結路606aによりボール戻し路606に導入され、他方のエンドデフレクタ607(不図示)の連結路606a(不図示)によりボール戻し路606から転動路に戻される。こうしてボール605は、ナット602の内部の転動路とボール戻し路606とを無限循環するようになっている。なお、ボール605は導電性を有する材料(例えば合金鋼等)からなり、前記ねじ溝603,604とそれぞれ二点で接触している。
図31はエンドデフレクタ607の拡大図であり、(a)は組み付け状態においてナット602の中心から外径方向に見た状態を示し、(b)は組み付け状態においてナット602の軸方向から見た状態を示している。エンドデフレクタ607は、樹脂材を射出成形により形成したものであり、前記ボール戻し路606の内部を循環するボール605に向かって非接触式センサ609を挿入固定する為のセンサ挿入穴608を有している。このセンサ挿入穴608は、ナット602に組み付けた状態における軸方向端面(図31(a)の右側)から連結路606aを構成する曲路の頂点である変曲部606bに向けて軸方向に延在して設けられている。つまり、エンドデフレクタ607の軸方向端面に対し、垂直方向に延在して設けられている。このため、センサ挿入穴608の加工は容易である。このセンサ挿入穴608には、ボール605の有無を検出する非接触式センサ609として、渦電流式近接センサがエンドデフレクタ607の外部側から挿入されている。
前記非接触式センサ609、すなわち本実施形態において渦電流式近接センサは、ボール605との間に所定のギャップが生じるようにセンサ挿入穴608に挿入固定されている。すなわち非接触式センサ609はエンドデフレクタ607の軸方向端面に対して垂直方向に挿入固定されている。この非接触式センサ609の信号出力端子には、非接触式センサ609から出力された信号に基づいてボールねじの状態、具体的にはボール605の剥離や摩耗の有無等を検知するモニタ装置610が接続されている。なお、渦電流式の非接触式センサ609は樹脂製であるエンドデフレクタ607を感知しないので、センサ挿入穴609の連結路606a側、すなわちボール605側は開口していない。また、非接触式センサ609をエンドデフレクタ607に固定する方法としては、エンドデフレクタ607の成形時に一体成形するか、或いはエンドデフレクタ607の成形後にセンサ挿入穴608に圧入嵌合する。
図32はモニタ装置610の概略構成を示すブロック図である。モニタ装置610は、非接触式センサ609から出力された電圧信号のノイズ成分を除去するフィルタ回路611と、フィルタ回路611を通過した非接触式センサ609の出力をボール605の有無に基づくON/OFFの出力電圧値として得る入力部612と、入力部612で得られた非接触式センサ609の出力電圧値からボール605の通過周期Sと通過時間Tとを演算し、この演算結果が、記憶部614に予め設定された基準値の範囲内から外れたときに剥離等の異常が図30のボールねじ装置600に発生したと判定する演算処理部613と、この演算処理部613の判定結果を外部に出力する出力部615とから構成されている。
本実施形態で非接触式センサ609として用いられている渦電流式近接センサの出力特性は、第1実施形態と同様なので、図5〜図7を参照し、詳細な説明は省略する。また、ボールねじ装置600に取り付けられた状態におけるボール検出時の出力特性についても図8および9を参照する。すなわち、このような構成において、ねじ軸601とナット602との相対的な回転運動に伴ってボール605がエンドデフレクタ607の連結路606aを通過すると、図8に示すように、非接触式センサ609から通過周期S及び通過時間TでON/OFF信号が出力される。このとき、図9に示す様に、ボール605に剥離や摩耗が生じていると、ボール605と非接触式センサ609との間のギャップ量が大きくなる方向にボール605が変位する。この様に、ボール605と非接触式センサ609との間のギャップ量が大きくなると、非接触式センサ609から出力される信号がONとなる通過時間が、図8に示す剥離のない場合の通過時間よりも短い時間となる。
なお、通過時間Tはボール605の転走速度、すなわち、ねじ軸601とナット602との相対的な回転速度差に比例して変化する為、異常を判定する基準値を絶対値で設定することはできない。従って、通過時間Tの平均値に対する比率、或いは通過周期Sに対する比率により判定の基準値を設定する。なお、このことは、上記各実施形態および以下の各実施形態における通過時間Tについても同様である。
以上の様に、非接触式センサ609から出力された信号をモニタ装置610に供給し、通過周期S及び通過時間Tが予め定められた範囲内にあるか否かをモニタ装置610の演算処理部613で判定することにより、ボール605に剥離や摩耗の異常が生じているか否かを検知することができる。なお、異常検出のためにモニタ装置610で行われる演算処理のフローチャートは、第1実施形態と同様で、図10に示す通りである。
上述した様な構成により、本実施形態のボールねじ装置は、低コストでありながら組立性に優れ、転動体の摩耗状態等の検知を可能としている。
即ち、非接触式センサ609の検出部近傍を通過するボール605の有無をデジタル化された1/0の情報として検知しており、非接触式センサ609とボール605との変位(距離)を検出する必要がないので、安価な渦電流式近接センサを用いることができ、さらにAD変換器等の高価なアナログ信号処理装置を不要としている。また、非接触式センサ609の出力信号からは、ボール605が非接触式センサ609の検出部近傍を通過する際の通過周期S及び通過時間Tを計測することでボールねじの状態を検知する為、安価なモニタ装置610(演算処理装置)が使用可能である。
さらに、非接触式センサ609とボール605との間の距離を高精度に調整する必要がないので、非接触式センサ609のエンドデフレクタ607への組付け作業が容易である。また、非接触式センサ609はエンドデフレクタ607に固定された状態でナット602に組み込まれるので、ボールねじの組み立てが容易である。
なお、非接触式センサのエンドデフレクタへの取り付け構造は、図31に示す例に限られない。ここで非接触式センサの取り付け構造の他の例を図33〜図35に示す。
図33は、本実施形態において非接触式センサの取り付け構造の他の例を示し、(a)は組み付け状態においてナットの中心から外径方向に見た状態を示し、(b)は組み付け状態においてナットの軸方向から見た状態を示している。本例におけるエンドデフレクタ607aの場合には、センサ挿入穴608aの内周面に雌ねじを形成すると共に、非接触式センサ609aの外周面に雄ねじを形成し、前記センサ挿入穴608aに前記非接触式センサ609aを螺合させることにより、ボール605と非接触式センサ609aとの距離を調整可能としている。調整完了後、固定ナット620を非接触式センサ609に螺合させ、さらにエンドデフレクタ607aに当接した状態で締め付けることにより、非接触式センサ609をエンドデフレクタ607aに固定している。その他の構成及び作用は、前述した第6実施形態と同様である。
図34は、非接触式センサの取り付け構造の更に他の例を示し、(a)は組み付け状態においてナットの中心から外径方向に見た状態を示し、(b)は組み付け状態においてナットの軸方向から見た状態を示している。本例の場合には、内周面に雌ねじが形成された埋め込みナット621を、接着、圧入、一体成形等のいずれかの方法によりセンサ挿入穴608bに固定している。そして、この埋め込みナット621に、外周面に雄ねじが形成された非接触式センサ609aを螺合させた後、固定ナット620によりエンドデフレクタ607bに固定している。その他の構成及び作用は、前述した第6実施形態と同様である。
図35は、非接触式センサの取り付け構造の更に他の例を示し、(a)は組み付け状態においてナットの中心から外径方向に見た状態を示し、(b)は組み付け状態においてナットの軸方向から見た状態を示している。本例の場合には、接着剤622により、エンドデフレクタ607cに形成されたセンサ挿入穴608に非接触式センサ609を接着固定している。接着剤622としては、空気遮断で硬化する嫌気性接着剤を使用することができる。その他の構成及び作用は、前述した第6実施形態と同様である。
図36は、非接触式センサの取り付け構造の更に他の例を示し、(a)は組み付け状態においてナットの中心から外径方向に見た状態を示し、(b)は組み付け状態においてナットの軸方向から見た状態を示している。本例の場合には、センサ挿入穴608は、エンドデフレクタ607の連結路606aを構成する曲路の変曲部606bのR中心を通る直線上に、該直線に沿う方向に延在して設けられている。そして非接触式センサ609も同様に、連結路606aの変曲部606bのR中心を通る直線上に、該直線に沿う向きでセンサ挿入穴608に挿入固定されている。固定方法はセンサ挿入穴608に圧入嵌合しても良いし、接着剤を用いても良い。非接触式センサ609をこのような向きで固定することで、非接触式センサ609はボール605と正対する。その結果、ボール605を検知し易くなり、より正確な検知が可能となる。
また、本実施形態は各種の変形が可能である。例えば、エンドデフレクタを金属製とすることも可能であり、この場合、センサ挿入穴は、連結路側が開口した貫通孔である必要がある。従って、連結路にはセンサ挿入穴の開口のエッジ部が存在するので、このエッジ部にボールが衝突することで摩耗が進行する虞がある。これを回避する為には、非接触式センサ及びセンサ挿入穴の直径をできるだけ小径とすることが好ましい。また、非接触式センサとしては、ボールと非接触式センサとの距離に比例して出力値が変化する渦電流式変位センサを使用することもできる。この場合、渦電流式変位センサからのアナログ出力を、デジタル信号(ON/OFF信号)に変換することによりボールねじの状態を検知することができる。
また、本実施形態においても、第1および第2実施形態と同様に、渦電流式近接センサであればボール605の通過時間Tと通過周期Sのいずれか一方の情報のみを算出し、算出した当該情報を参照しての異常の有無を判定する構成とすることもできる。また、ボール605の通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dのうちの1つ又は2つの情報のみを算出し、算出した当該情報を参照して異常の有無を判定する構成とすることもできる。
(第7実施形態)
図37は、本発明の第7実施形態に係るボールねじ装置700を示す部分断面図である。本実施形態に係るボールねじ装置700は、上記各実施形態と同様に、ねじ軸701およびナット702を備えている。このうちの、ナット702は円筒状部材で形成されており、このナット702の内周面には螺旋状のねじ溝704が形成されている。前記ナット702の内周面側を挿通するねじ軸701の外周面には、螺旋状のねじ溝703が、ねじ軸701の一端部から他端部にわたって形成されている。このねじ溝703は前記ナット702のねじ溝704と対向しており、ねじ溝703とねじ溝704との間に設けられた多数のボール705は、ねじ軸701またはナット702の回転運動に伴って、ねじ溝703とねじ溝704とによって形成される転動路716を転動するようになっている。ねじ溝703,704は、その断面がボール705とそれぞれ二点で接触する形状(例えばゴシックアーク状)に形成されている。なお、前記ボール705は、導電性を有する材料(例えば合金鋼等)により形成されている。
そして、前記転動路716の始点と終点とを連通させて、ボール705を無限循環させる循環路であるボール戻し路706が内部に形成されたチューブ707が、ナット702の外周面に固定されている。チューブ707の両端部はナット702の外周面側からナット702を貫通して転動路716に至っている。ボール705は、前記転動路716内を移動しつつねじ軸701の回りを複数回回って転動路716の終点に至ると、チューブ707の一方の端部であるすくい上げ部720からすくい上げられてボール戻し路706を通り、チューブ707の他方の端部である出口から転動路716の始点に戻される。このように、転動路716内を転動するボール705がボール戻し路706により無限に循環されるようになっているので、ねじ軸701とナット702とは継続的に相対移動することができる。また、転動路716の終点とチューブ707の端部との境界部におけるナット702のねじ溝704には、急激な荷重変動を緩和してボール705に損傷が生じることを防止する為に、滑らかな膨らみのクラウニング部721が設けられている。
ナット702は、前記ボール戻し路706の内部を循環するボール705に向かって非接触式センサ709を挿入固定する為のセンサ挿入孔708を有している。このセンサ挿入孔708は、ナット702の外周面から、ボール戻し路706の端部側であるチューブ707の前記すくい上げ部720に向けて、ナット702の軸方向から見てすくい上げ部720に対して垂直となる方向に、ボール戻し路706までナット702を貫通して形成されている。そして、ボール705の有無を検出する非接触式センサ709として、渦電流式近接センサが、ナット702の外径側から前記センサ挿入孔708に挿入されている。このように本実施形態では、転動路716とボール戻し路706との間のすくい上げ部720の近傍に渦電流式近接センサが配置されている。
前記非接触式センサ709、すなわち本実施形態において渦電流式近接センサは、ボール705との間に所定のギャップが生じるようにセンサ挿入穴708に挿入固定されており、この非接触式センサ709の信号出力端子には、非接触式センサ709から出力された信号に基づいてボールねじの状態、具体的にはボール705の剥離や摩耗の有無等を検知するモニタ装置710が接続されている。また、非接触式センサ709は、ナット702にセンサ挿入孔708を形成後、センサ挿入孔708に圧入嵌合することで、ナット702に固定されている。
図38はモニタ装置710の概略構成を示すブロック図である。モニタ装置710の構成は、第6実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。また、渦電流式近接センサの出力特性は、第1実施形態と同様なので、図5〜図7を参照し、詳細な説明は省略する。また、ボールねじ装置700に取り付けられた状態におけるボール検出時の出力特性についても図8および9を参照して説明した第6実施形態と同様なので、詳細な説明は省略する。
こうして、本実施形態においても、非接触式センサ709から出力された信号をモニタ装置710に供給し、通過周期S及び通過時間Tが予め定められた基準値の範囲内にあるか否かをモニタ装置710の演算処理部713で判定することにより、ボール705に摩耗や剥離等の異常が生じているか否かを検知することができる。なお、異常検出のためにモニタ装置710で行われる演算処理のフローチャートは、第1実施形態と同様で、図10に示す通りである。
上述した様な構成により、本実施形態のボールねじ装置700は、第6実施形態と同様に、低コストでありながら組立性に優れ、転動体の摩耗状態等の検知を可能としている。
即ち、非接触式センサ709の検出部近傍を通過するボール705の有無をデジタル化された1/0の情報として検知しており、非接触式センサ709とボール705との変位(距離)を検出する必要がないので、安価な渦電流式近接センサを用いることができ、さらにAD変換器等の高価なアナログ信号処理装置を不要としている。また、非接触式センサ709の出力信号からは、ボール705が非接触式センサ709の検出部近傍を通過する際の通過周期S及び通過時間Tを計測することでボールねじの状態を検知する為、安価なモニタ装置710(演算処理装置)が使用可能である。
さらに、非接触式センサ709とボール705との間の距離を高精度に調整する必要がないので、非接触式センサ709のナット702への組付け作業が容易である。
また、転動路716とボール戻し路706との間のすくい上げ部720の近傍に渦電流式近接センサが配置されているので、渦電流式近接センサは負荷の掛かっていない状態のボール705を検出している。一方、転動路716のボール705には負荷が掛かっている。従って、この位置のボール705の流れを検出することで、ボール705の流れ方向によって転動路716に異常があるのか、チューブ707のボール戻し路706に異常があるのかが、該1つのセンサでわかる。ボール705の流れ方向は、ナット702の移動方向またはねじ軸701の回転方向により判断できる。すなわち、ボール705の流れ方向が転動路716からボール戻し路706へ向かっている状態であれば、ボール705は負荷の掛かった状態から無負荷の状態になるので、異常がなければボール705はスムーズにボール戻し路706に移動する。しかし、ここでボール705がスムーズにボール戻し路706に移動しない場合、すなわちボール705の通過時間Tあるいは通過周期Sが基準よりも長いと、ボール戻し路706に何らかの異常があってボール705の移動を阻害している可能性がある。
また、ボール705の流れ方向がボール戻し路706から転動路716へ向かっている状態であれば、ボール705は無負荷の状態から負荷の掛かった状態になる。この場合、ボール705の通過時間Tあるいは通過周期Sが基準よりも長いと、転動路716に何らかの異常があってボール705の移動を阻害している可能性がある。一方、ボール705の通過時間Tあるいは通過周期Sが基準よりも短い場合でも、転動路716に何らかの不具合が生じてボール705に通常の負荷が加わっていないことが考えられる。このように、ボール705の流れの方向によって、不具合箇所の目星が付け易くなる。なお、このようにボール705の流れ方向を判断するために、ナット702の移動方向またはねじ軸701の回転方向を検出するためのセンサ(図示省略)を例えばナット702に設け、該センサからの検出結果に基づいてボール705の流れ方向を表示するための表示手段(図示省略)を例えばモニタ装置710に設けても良い。
なお、非接触式センサのナットへの取り付け構造は、図37に示す例に限られない。ここで非接触式センサの取り付け構造の他の例を図39〜図41に示す。
図39は、本実施形態において非接触式センサの取り付け構造の他の例を示している。本例におけるナット702aの場合には、センサ挿入穴708aの内周面に雌ねじを形成すると共に、非接触式センサ709aの外周面に雄ねじを形成し、前記センサ挿入穴708aに前記非接触式センサ709aを螺合させることにより、ボール705と非接触式センサ709aとの距離を調整可能としている。調整完了後、固定ナット722を非接触式センサ709に螺合させ、さらにセンサ挿入孔708aの内部に形成した段部に当接した状態で締め付けることにより、非接触式センサ709をナット702aに固定している。その他の構成及び作用は、前述した第7実施形態と同様である。
図40は、非接触式センサの取り付け構造の更に他の例を示している。本例の場合、センサ挿入孔708bを、ナット702bのねじ溝704の前記クラウニング部721に開口し、転動路716に対して略垂直方向すなわちねじ軸701の半径方向に延在する貫通孔とすると共に、接着剤723により、前記センサ挿入穴708bに非接触式センサ709を接着固定している。接着剤723としては、空気遮断で硬化する嫌気性接着剤を使用することができる。また、上述した図39における固定ナット722を接着固定することで、非接触センサ709aをナット702aに確実に固定することができる、その他の構成及び作用は、前述した第7実施形態と同様である。
図41は、非接触式センサの取り付け構造の更に他の例を示している。本例の場合には、ナット702には複数のチューブ707、すなわち複数のボール戻し路706が設けられており、それぞれのボール戻し路706に対して非接触センサ709を設けている。また、各ボール戻し路706に対して2つの非接触センサ709を設けることも可能であり、この場合には、各チューブ707の両端部分にそれぞれ非接触センサ709を設置する。その他の構成及び作用は、前述した第7実施形態と同様である。
また、本実施形態は各種の変形が可能である。例えば、非接触式センサとしては、ボールと非接触式センサとの距離に比例して出力値が変化する渦電流式変位センサを使用することもできる。この場合、渦電流式変位センサからのアナログ出力を、デジタル信号(ON/OFF信号)に変換することによりボールねじの状態を検知することができる。また、ナットにはセンサ挿入孔の開口のエッジ部が存在するので、このエッジ部にボールが衝突することで摩耗が進行する虞がある。これを回避する為には、非接触式センサ及びセンサ挿入孔の直径をできるだけ小径とすることが好ましい。
また、本実施形態においても、第1および第2実施形態と同様に、渦電流式近接センサであればボール705の通過時間Tと通過周期Sのいずれか一方の情報のみを算出し、算出した当該情報を参照しての異常の有無を判定する構成とすることもできる。また、ボール705の通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dのうちの1つ又は2つの情報のみを算出し、算出した当該情報を参照して異常の有無を判定する構成とすることもできる。
(第8実施形態)
図42(a)は、本発明の第8実施形態に係るボールねじ装置800の径方向から見た断面図を示している。本実施形態に係るボールねじ装置800は、図42(a)に示す様に、上記各実施形態と同様に、ねじ軸801およびナット802を備えている。このうちの、ナット802は円筒状部材で形成されており、このナット802の内周面には螺旋状のねじ溝804が形成されている。前記ナット802の内周面側を挿通するねじ軸801の外周面には、螺旋状のねじ溝803が、ねじ軸801の一端部から他端部にわたって形成されている。このねじ溝803は前記ナット802のねじ溝804と対向しており、ねじ溝803とねじ溝804との間に設けられた多数のボール805は、ねじ軸801またはナット802の回転運動に伴って、ねじ溝803とねじ溝804とで形成される転動路816を転動するようになっている。ねじ溝803,804は、その断面がボール805とそれぞれ二点で接触する形状(例えばゴシックアーチ状)に形成されている。なお、前記ボール805は、導電性を有する材料(例えば合金鋼等)により形成されている。
ナット802はボール戻し路806を円筒状部材の内部に有している。ナット802の軸方向両端部には樹脂製のエンドキャップ807がそれぞれ固定されている。そして、各エンドキャップ807には、前記転動路816の始点と終点とを連通させる連結路806aが形成されている。連結路806aは滑らかな曲路で構成されている。連結路806aは転動路816の端部とボール戻し路806の端部とを変曲部806bを頂点とする滑らかな曲路で連結している。ボール戻し路806と両端部の連結路806aとでボール805を循環させるための循環路が形成されている。ボール805は、前記転動路816内を移動しつつねじ軸801の回りを回って転動路816の終点に至ると、一方のエンドキャップ807にすくい上げられ、連結路806aおよびナット802を軸方向に貫通するボール戻し路806を通り、他方のエンドキャップ807の連結路806aから転動路816の始点に戻される。このように、転動路816内を転動するボール805がエンドキャップ807の連結路806aおよびボール戻し路806により無限に循環されるようになっているので、ねじ軸801とナット802とは継続的に相対移動することができる。
図42(b)、(c)はそれぞれエンドキャップ807の拡大図であり、(b)は組み付け状態においてナット802の軸方向から見た状態を示し、(c)は組み付け状態においてナット802の径方向から見た状態を示している。エンドキャップ807は、樹脂材を射出成形により形成したものであり、前記ボール戻し路806の内部を循環するボール805に向かって非接触式センサ809を挿入固定する為のセンサ挿入穴808を有している。このセンサ挿入穴808は、ナット802に組み付けた状態における軸方向端部面(図42(c)の左側)から連結路806aを構成する曲路の頂点である変曲部806bに向けて軸方向に延在して設けられている。このセンサ挿入穴808には、ボール805の有無を検出する非接触式センサ809として、渦電流式近接センサがエンドキャップ807の外部側から挿入されている。この様なエンドキャップ807は、複数のボルト820によりナット802の軸方向両端面にそれぞれ固定されている。
前記非接触式センサ809、すなわち本実施形態において渦電流式近接センサは、ボール805との間に所定のギャップが生じるようにセンサ挿入穴808に挿入固定されており、この非接触式センサ809の信号出力端子には、非接触式センサ809から出力された信号に基づいてボールねじの状態、具体的にはボール805の剥離や摩耗の有無等を検知するモニタ装置810が接続されている。なお、渦電流式の非接触式センサ809は樹脂製であるエンドキャップ807を感知しないので、センサ挿入穴808の前記連結路806a側、すなわちボール805側は開口していない。また、非接触式センサ809をエンドキャップ807に固定する方法としては、エンドキャップ807の成形時に一体成形するか、或いはエンドキャップ807の成形後にセンサ挿入穴808に圧入嵌合、或いは接着剤により接着固定する。
図43はモニタ装置810の概略構成を示すブロック図である。モニタ装置810の構成は、第6実施形態と同様であるので、詳細な説明は省略する。また、渦電流式近接センサの出力特性は、第1実施形態と同様なので、図5〜図7を参照し、詳細な説明は省略する。また、ボールねじ装置800に取り付けられた状態におけるボール検出時の出力特性についても図8および9を参照して説明した第6実施形態と同様なので、詳細な説明は省略する。
こうして、本実施形態においても、非接触式センサ809から出力された信号をモニタ装置810に供給し、通過周期S及び通過時間Tが予め定められた基準値の範囲内にあるか否かをモニタ装置810の演算処理部813で判定することにより、ボール805に摩耗や剥離が生じているか否かを検知することができる。なお、異常検出のためにモニタ装置810で行われる演算処理のフローチャートは、第1実施形態と同様で、図10に示す通りである。
上述した様な構成により、本実施形態に係るボールねじ装置800は、第6実施形態と同様に、低コストでありながら組立性に優れ、転動体の摩耗状態等の検知を可能としている。
即ち、非接触式センサ809の検出部近傍を通過するボール805の有無をデジタル化された1/0の情報として検知しており、非接触式センサ809とボール805との距離(変位)を検出する必要がないので、安価な渦電流式近接センサを用いることができ、さらにAD変換器等の高価なアナログ信号処理装置を不要としている。また、非接触式センサ809の出力信号からは、ボール805が非接触式センサ809の検出部近傍を通過する際の通過周期S及び通過時間Tを計測するという単純な処理によりボールねじの状態を検知するために、高度な演算処理能力を必要とせず、安価なモニタ装置810(演算処理装置)が使用可能である。
さらに、非接触式センサ809とボール805との間の距離を高精度に調整する必要がないので、非接触式センサ809のナット802への組付け作業が容易である。
なお、本実施形態では、転動路816が2条であるボールねじに本発明を適用した例を示したが、これに限定されることなく、1条或いは3条以上のボール転動路を有するボールねじにも本発明を適用することができる。
なお、非接触式センサのエンドキャップへの取り付け構造は、図47(b)、(c)に示す例に限られない。ここで非接触式センサの取り付け構造の他の例を図44および図45に示す。
図44(a)は、本実施形態において非接触式センサの取り付け構造の他の例を示している。本例におけるエンドキャップ807aの場合には、センサキャップ807aの軸方向側端面(連結路806aとは反対側の面)に非接触式センサ809aを保持固定するセンサ保持具821を装着し、このセンサ保持具821に、内周面に雌ねじが形成された固定ナット822を圧入等の方法により固定している。そして、非接触式センサ809aの外周面に雄ねじを形成し、前記固定ナット822に非接触式センサ809aを螺合させることにより、ボール805と非接触式センサ809aとの距離を調整可能としている。調整完了後、ナット823を非接触式センサ809aに螺合させ、さらに締め付けることにより、非接触式センサ809aをエンドキャップ807aに固定している。以上の様に、エンドキャップ807aの連結路806aを構成する曲路の頂点である変曲部806b付近が薄肉であり、センサ挿入孔808の形成が困難である場合に本例は好適である。
図44(b)は、上述した図44(a)の変形例である。本変形例におけるエンドキャップ807bの場合には、非接触式センサ809aに螺合された2つのナット823,823により、センサ保持具821を狭持することで、非接触式センサ809aをセンサキャップ807bに固定している。その他の構成及び作用は、前述した第8実施形態と同様である。
図45は、非接触式センサの取り付け構造の更に他の例を示している。本例の場合、エンドキャップ807cは金属製であり、センサ挿入穴808aの内周面に雌ねじを形成すると共に、非接触式センサ809aの外周面に雄ねじを形成し、センサ挿入穴808aに非接触式センサ809aを螺合させることにより、ボール805と非接触式センサ809aとの距離を調整可能としている。調整完了後、ナット823を非接触式センサ809aに螺合させ、さらに締め付けることにより、非接触式センサ809aをエンドキャップ807aに固定している。なお、前記センサ挿入穴808aは軸方向にエンドキャップ807cを貫通しており、その一端を連結路806aに開口している。
また、ナット823に代えて、非接触式センサ809aの雄ねじ部分に接着剤を塗布して緩み止めとすることもできる。接着剤としては、空気遮断で硬化する嫌気性接着剤を使用することができる。その他の構成及び作用は、前述した第8実施形態と同様である。
また、本実施形態は各種の変形が可能である。例えば、非接触式センサとしては、ボールと非接触式センサとの距離に比例して出力値が変化する渦電流式変位センサを使用することもできる。この場合、渦電流式変位センサからのアナログ出力を、デジタル信号(ON/OFF信号)に変換することによりボールねじの状態を検知することができる。また、図45に示した金属製のエンドキャップ807cにはセンサ挿入孔の開口にエッジ部が存在するので、このエッジ部にボールが衝突することで摩耗が進行する虞がある。これを回避する為には、非接触式センサ及びセンサ挿入孔の直径をできるだけ小径とすることが好ましい。
また、本実施形態においても、第1および第2実施形態と同様に、渦電流式近接センサであればボール805の通過時間Tと通過周期Sのいずれか一方の情報のみを算出し、算出した当該情報を参照しての異常の有無を判定する構成とすることもできる。また、ボール805の通過時間T、通過周期S、及びピーク出力Dのうちの1つ又は2つの情報のみを算出し、算出した当該情報を参照して異常の有無を判定する構成とすることもできる。
(第9実施形態)
図46は、本発明の第9実施形態のボールねじ装置900の要部を示す斜視図であり、一部を断面で示す。本実施形態のボールねじ装置900は、第6実施形態と略同様の構成である。以下、第6実施形態と同様の構成については図30および図31を参照して説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
本実施形態のボールねじ装置900は、ねじ軸901とナット902との間に介装された多数のボール905のうち、1個だけ他の全てのボール905を形成する金属材料と異なる金属材料で形成されている。また、エンドデフレクタ907に取り付けられている非接触式センサ909は、渦電流式変位センサとなっている。また、非接触式センサ909には第6実施形態と略同様のモニタ装置910(図32参照)が接続されているが、本実施形態のモニタ装置910は、渦電流式変位センサからのアナログ出力をデジタル信号(ON/OFF信号)に変換するためのA/D変換器(図示省略)が備えられている。
本実施形態では、非接触式センサ909として用いる渦電流式変位センサの出力特性が測定対象物の材質により異なることに着目し、この出力特性によってボール905の状態を検知している。
図47(a)は、鉄(Fe)および鉄以外の金属に対する渦電流式変位センサの出力特性を示す図である。ここでは鉄以外の金属として、銅(Cl)、アルミニウム(Al)、およびステンレス(sus304)について測定している。なお、図47(a)は、検出対象物を鉄として、鉄との距離に対して電圧が比例して出力されるように調整された渦電流式変位センサを用いて出力を測定した結果を示している。図47(a)に示すように、銅(Cl)、アルミニウム(Al)、およびステンレス(sus304)の各金属材に対する出力特性はそれぞれ固有の曲線を描き、渦電流式変位センサは金属材によって出力特性が異なることを示している。
ここで、ナット902を軸方向に移動させるために、ねじ軸901とナット902とによって負荷を受ける、ボールねじ装置900の主となるボール905aの材料を金属A材とし、異常検出のためのモニタリング用のボール905bの材料を金属B材とする。例えば金属A材として鉄材を用い、金属B材として銅材を用いた場合、図47(a)に示すように、ボール905aまたは905bまでの距離が同じでも銅材の出力電圧が大きいため、出力信号をモニタリングすることで金属B材のボール905bを識別することができる。
本実施形態においては、金属A材として鉄材を用い、金属B材として真鍮材を用いている。図47(b)は、鉄材で形成されたボール905aおよび真鍮材で形成されたボール905bに対する渦電流式変位センサの出力特性を示す図である。図47(b)に示すように、ボール905aまたは905bまでの距離が同じでも鉄材のボール905aよりも真鍮材のボール905bの方が、出力電圧が大きい。そうすると、本実施形態においては、渦電流式変位センサの出力ピーク値(極小値)は、鉄材のボール905aが通過したときは小さく、真鍮材のボール905bが通過したときは大きくなる。図48は、本実施形態における渦電流式変位センサの出力特性を示す図である。図48に示すように、金属B材のボールすなわち真鍮材のボール905bは鉄材のボール905aとは出力信号のピーク値が異なるので、これをモニタ装置910でモニタリングすることにより、真鍮材のボール905bを識別することができる。
このようにして、モニタ装置910でモニタリング用の金属B材のボール905bが通過する周期を算出することで、ボール905aが転動路916およびボール戻し路906を周回する循環周期を容易に捉えることができる。例えば、ボール905aに摩耗や剥離が生じている場合等には、ボール905aの循環周期は基準値の下限よりも小さくなる。また、転動路916の損傷等によりボール905aのつまりが生じてボール905aが停滞している場合等には、ボール905aの循環周期は基準値の上限よりも大きくなる。このようにボールねじ装置900の異常の有無を監視し、異常があればモニタ装置910の出力部が警告を出力する。その結果、本実施形態のボールねじ装置900は、第6実施形態と同様の効果を発揮することができる。すなわち、非接触式センサ909とボール905aまたは905bとの間の距離を高精度に調整する必要がないので、非接触式センサ909のエンドデフレクタ907への組付け作業が容易である。このようにして、本実施形態のボールねじ装置900は、低コストでありながら組立性に優れ、転動体の摩耗状態等の検知を可能としている。
なお、本実施形態においては、非接触式センサ909すなわち渦電流式変位センサの取り付け位置を加工のし易さを考慮してエンドデフレクタ907としたが、非接触式センサ909の取り付け位置はここに限定されない。つまり、本実施形態では金属B材のボール905bを検知できれば良いので、非接触式センサ909の取り付け位置はボール905bに負荷が掛かっていない状態で検出する位置に限られず、ボールに負荷が掛かっている転動路916で検出する構成としても良い。例えば、ナット902の外周側からナット902の内周面のねじ溝904の底部に貫通するセンサ挿入穴を設け、このセンサ挿入穴に非接触式センサ909を取り付ける構成とすることも可能である。
(第9実施形態の変形例)
次に第9実施形態の変形例について説明する。図49は、第9実施形態の変形例に係るボールねじ装置900aの要部を示す斜視図であり、一部を断面で示す。本変形例は第9実施形態と略同様の構成であり、同様の構成については説明を省略し、異なる構成を中心に説明する。
本変形例のボールねじ装置900aは、モニタリング用の金属B材のボールすなわち真鍮材で形成されたボール905bが複数個加えられている。具体的には、ボールの転動路916の1リードにつき1個が加えられている。このような構成とすることで、ボール905aが1リード分移動する周期を容易に捉えることができる。その結果、ボールねじ装置900aの異常の有無をより精度良く監視することができる。他の効果は第6実施形態と同様である。また、渦電流式変位センサの取り付け位置についても第9実施形態と同様に、ボール905bに負荷が掛かっている転動路916で検出する構成としても良い。
以上で本発明の各実施形態および変形例についての説明を終えるが、本発明の態様は、これら各実施形態および変形例に限定されない。例えば、上記各実施形態は本発明をボールねじ装置に適用したものであるが、本発明は、搬送装置や工作機械等に取り付けられて用いられる図50に示した如きリニアガイド装置1000等の移動体案内装置に用いることもできる。その場合にあっても上記各実施形態と同様の効果を発揮する。さらに、ボールねじ装置等の具体的構造等についても、設計上あるいは製作上の都合等により適宜変更が可能である。また、各実施形態および変形例を適宜組み合わせても良い。