JP6162978B2 - 空気入り安全タイヤ - Google Patents

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Description

本発明は、空気入り安全タイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関する。
パンク等によりタイヤの内部圧力(以下、「内圧」と略記する)が低下した状態でも、荷重支持能力を失うことなくある程度の距離を安全に走行することが可能なタイヤとして、いわゆるサイド補強タイプの安全タイヤが各種提案されている。サイド補強タイプの安全タイヤとは、タイヤのサイドウォール部のカーカスの内面に、比較的モジュラスが高い断面三日月状のサイド補強ゴム層を配置してサイドウォール部の剛性を向上させ、内圧低下時にサイドウォール部の撓み変形を極端に増加させることなく荷重を負担できるようにした構造のタイヤをいう。
また、現在、通常走行用の乗用車用タイヤのカーカスプライ材に用いるゴム補強繊維コードとしては、重量当たりの強度が高く、寸法安定性や耐水分安定性、剛性、コスト性等に優れるとの観点から、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステルコードが広く用いられている。また、アラミドコードも汎用されている。
一般に、PET等の有機繊維からなるコードをタイヤの補強材として用いる際には、コードに対し、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤等の接着剤による浸漬処理を施した後に、ゴムを被覆して、ゴム−コード複合体としてタイヤに適用する。しかし、PET等のポリエステル繊維の表面には、その化学構造上、反応活性点が少ないため、コードとゴムとの複合工程において、フィラメントと接着剤との間の接着力を確保することが困難であった。PETとゴムとの接着性をより向上させる技術として、例えば、特許文献1には、PETをエポキシ系接着剤に一度浸漬した後、RFL系の接着剤に再度浸漬させる2浴処理が開示されている。
特開2000−355875号公報(特許請求の範囲等)
しかしながら、サイド補強タイプの安全タイヤを低内圧にて走行させた場合、タイヤの転動に伴って、サイド補強ゴムと、ビードコアのタイヤ半径方向外側に配置されたビードフィラーゴムとの間に繰り返し圧縮歪みが集中して発生することにより、カーカスプライコードが疲労し、そのコード強力が低下して、低内圧走行が困難となるという問題があった。
また、上記特許文献1において提案されている2浴処理によれば、PETとゴムとの間の接着性を向上させることが可能である。しかし、高負荷かつ高温の環境下でタイヤを用いる場合には、ポリエステル繊維とゴムとの間において、動的歪の入力下でのより強固な接着性、特には、耐熱接着性が求められており、新たな技術の確立が期待されていた。また、特許文献1に係るエポキシ系接着剤を用いた場合、処理されたコードが硬化するために、転動にともなって発生するカーカスプライへの圧縮入力によってタイヤ中のコード強力が低下しやすいという課題を抱えていた。これは、カーカスプライコードにポリエステル繊維を用いた場合のみならず、アラミド繊維を用いた場合においても同様であった。
そこで本発明の目的は、カーカスプライコードの圧縮疲労性を改良することで、耐久性が向上した空気入り安全タイヤを提供することにある。
すなわち、本発明の空気入り安全タイヤは、一対のビード部にそれぞれ埋設された一対のビードコア間に延在する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスを骨格とし、該カーカスのサイドウォール部のタイヤ幅方向内側にサイド補強ゴムを備える空気入り安全タイヤであって、
タイヤ幅方向断面において、前記サイド補強ゴムの面積をS1、前記ビードコアのタイヤ半径方向外側に配置されたビードフィラーの面積をS2、該ビードフィラーおよび該ビードコアのタイヤ幅方向外側に配置されたゴムチェーファーの面積をS3としたとき、下記式(1)および(2)、
0.10≦(S2+S3)/S1≦2.50 (1)
0.3≦S2/(S2+S3)≦0.9 (2)
を満足し、該ゴムチェーファーが、該ビードコアの中心よりもタイヤ幅方向外側に位置し、かつ、前記カーカスプライの補強コードがポリエステル繊維および/またはアラミド繊維からなることを特徴とするものである。
本発明によれば、上記構成としたことにより、耐久性が向上した空気入り安全タイヤを実現することが可能となった。
(a)〜(c)は、本発明の空気入り安全タイヤの一例を示す幅方向片側断面図である。 本発明の空気入り安全タイヤのさらに他の例を示す一部切欠斜視図である。 乱流発生用凸部による乱流の発生状態を示す説明図である。 乱流発生用凸部の配置条件を示す説明図である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1(a)に、本発明の空気入り安全タイヤの一例を示す幅方向片側断面図を示す。図示するように、本発明の空気入り安全タイヤは、一対のビード部11にそれぞれ埋設された一対のビードコア1間に延在する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカス2を骨格とする。図示するタイヤは、カーカス2のクラウン部タイヤ半径方向外側に2枚のベルト層3を備え、カーカス2のサイドウォール部12のタイヤ幅方向内側に断面略三日月状のサイド補強ゴム4を備える、いわゆるサイド補強タイプの安全タイヤである。
図示するように、本発明のタイヤにおいては、タイヤ幅方向断面において、サイド補強ゴム4の面積をS1、ビードフィラー5の面積をS2、ゴムチェーファー6の面積をS3としたとき、下記式(1)および(2)、
0.10≦(S2+S3)/S1≦2.50 (1)
0≦S2/(S2+S3)≦0.9 (2)
を満足する点が重要である。これは、以下のような理由による。
すなわち、タイヤの内圧が低下したときに車両の荷重を支持するためには、タイヤのサイドウォール部およびビード部の剛性を高める必要がある。サイドウォール部の剛性を高めるためには、タイヤ最大幅近傍において、カーカスプライのタイヤ幅方向内側に、断面略三日月状のサイド補強ゴム4を配置することが効果的である。また、ビード部の剛性を高めるためには、カーカスプライ2とビードコア1とが隣接する箇所の近傍、および、リムとタイヤとが接触する箇所の近傍に、弾性率の高いゴムを挿入することが効果的である。この際、サイドウォール部の剛性はサイド補強ゴム4の面積S1により制御することができ、ビード部の剛性はビードフィラー5の面積S2とゴムチェーファー6の面積S3との和である(S2+S3)により制御できると考えられる。
かかる観点から、本発明者はさらに検討した結果、上記サイド補強ゴム4の面積S1と、ビードフィラー5とゴムチェーファー6との面積の和(S2+S3)との関係を上記式(1)に従い規定することで、サイドウォール部およびビード部の剛性をバランスよく高めて、内圧低下時においても安定して荷重を支持できるタイヤが得られることを見出したものである。(S2+S3)/S1の値が0.10より小さいと、ビード部の相対的な剛性が低下して、ビード部近傍でタイヤが早期に故障するおそれがある。また、(S2+S3)/S1の値が2.50より大きいと、サイドウォール部のたわみが増大して、発熱によるゴム破壊によりタイヤが早期に故障するおそれがある。好適には、本発明のタイヤは、下記式(3)、
0.20≦(S2+S3)/S1≦1.50 (3)
を満足するものとする。これにより、ランフラット走行時におけるタイヤ耐久性をより高めることができる。
また、ビード部近傍におけるカーカスプライへの繰り返し圧縮入力に伴うコード強力の低下を避けるためには、ビードフィラー5とゴムチェーファー6との面積の和(S2+S3)に占めるビードフィラー5の面積S2の比率であるS2/(S2+S3)の値が、上記式(2)を満足することが必要である。S2/(S2+S3)の値が0.9よりも大きいと、タイヤに荷重が負荷されて撓む際に、サイドウォール部の変形に伴ってカーカスプライへの圧縮入力が増大して、コードの強力低下が大きくなる。一方、S2/(S2+S3)の値はゼロであってもよく、すなわち、本発明においては、ビードフィラー5は配置しなくてもよい。この場合には、コードへの圧縮入力が極めて小さくなることから、コードの強力低下も極めて小さく抑えることができる。好適には、本発明のタイヤは、下記式(4)、
0≦S2/(S2+S3)≦0.80 (4)
を満足するものとする。これにより、走行後のコード強力の低下を避けることが可能となる。
本発明のタイヤにおいては、タイヤ幅方向断面において、サイド補強ゴム4の面積S1、ビードフィラー5の面積S2およびゴムチェーファー6の面積S3が上記式(1)および(2)、好適にはさらに上記式(3)および(4)を満足するものであればよく、サイド補強ゴム4、ビードフィラー5およびゴムチェーファー6のそれぞれを構成するゴム組成物の具体的配合やその物性等については、特に制限されるものではない。
ここで、図示するように、サイド補強ゴム4は、タイヤのカーカスプライ2とインナーライナー(図示せず)との間に、ベルト3の端部からタイヤ最大幅部を超えてビード部11まで配設される。また、本発明において、サイド補強ゴム4は、1種のゴム組成物で構成されている場合に限定されず、実質的に複数種のゴムの積層構造や組み合わせ構造からなっていてもよい。また、サイド補強ゴム4は、図示するような断面略三日月状の形状には限られない。さらに、ビードフィラー5は、通常は、ビードコア1間にトロイド状に延在するカーカスプライの本体部2Aと、ビードコア1の周りに内側から外側に折り返されたカーカスプライの折返し部2Bとの間であって、ビードコア1のタイヤ半径方向外側に配置される。さらにまた、ゴムチェーファー6は、下端部がビードコア1のタイヤ半径方向外側端よりもタイヤ半径方向内側であって、上端部がタイヤ断面高さの10〜70%の範囲の位置である領域に配置される。ここで、タイヤ断面高さとは、タイヤを適用リムに組み付けて、規定の空気圧を充填した際における、無負荷状態でのタイヤ半径方向の高さを意味する。また、規格とは、後述する、タイヤが生産または使用される地域において有効な産業規格である。
また、本発明においては、カーカスプライ2の補強コードが、ポリエステル繊維および/またはアラミド繊維からなる。カーカスプライ2の補強コードとして、ポリエステル繊維コード、アラミド繊維コードまたはポリエステル繊維とアラミド繊維とのハイブリッドコードを用いることで、これらの繊維は重量当たりの強度および剛性が高いことから、より少ないコードおよびゴムによりタイヤの強度を保持しつつ、タイヤの真円性を確保して、タイヤ形状保持に優れた効果を得ることができる。ポリエステル繊維としては、具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等を挙げることができる。中でも、本発明においては、カーカスプライ2の補強コードとして、PET,PENおよびアラミド繊維を好適に用いることができる。特に、PENは、剛直な分子構造を有することから、タイヤの形状保持性を高めることができる。
本発明においては、かかるカーカスプライ2の補強コードが、エポキシ化合物を含む前処理液または接着剤液で処理されてなることが好ましい。ポリエステル繊維およびアラミド繊維を用いた補強コードを、エポキシ化合物を含む前処理液または接着剤液で処理して用いることで、ゴムと補強コードとの接着性を向上して、タイヤ耐久性の向上に寄与することができ、好ましい。このうち、本発明に用いるエポキシ化合物を含む前処理液としては、1分子中にエポキシ基を2個以上有するエポキシ化合物の1種または2種以上の混合物であるエポキシ化合物を含有するものが好適である。より具体的には、ハロゲン含有のエポキシ類が好ましく、例えば、エピクロルヒドリン多価アルコールまたは多価フェノールとの合成によって得られるものを挙げることができ、グリセロールポリグリシジルエーテルなどの化合物が好ましい。このようなエポキシ化合物を含む前処理液の繊維表面への付着量としては、0.05〜1.5質量%、好適には0.10〜1.0質量%の範囲である。前処理液には、平滑剤、乳化剤、帯電防止剤、その他の添加剤等を必要に応じて混合してもよい。かかる前処理液は、ポリエステル繊維ないしアラミド繊維の表面に付着させて用いることができる。
本発明に用いるエポキシ化合物を含む接着剤液は、具体的には、エポキシ化合物として、1分子中に2個以上、好ましくは4個以上のエポキシ基を含む化合物、好適には、エポキシ基を含む化合物、または、多価アルコール類とエピクロルヒドリンとの反応生成物を含有することが好ましい。エポキシ化合物の具体例としては、例えば、ジエチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ポリエチレン・ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール・ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール・ジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオール・ジグリシジルエーテル、グリセロール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・トリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン・ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ペンタエリチオール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル、などの多価アルコール類とエピクロルヒドリンの反応生成物;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂などが挙げられる。
エポキシ化合物を含む接着剤液には、エポキシ化合物の他、当業界においてエポキシ系接着剤に用いられる各種配合成分を配合することができる。
本発明において、カーカス2は、平行に配列された複数の補強コードをコーティングゴムで被覆してなる少なくとも1枚、例えば、1〜3枚、特には1〜2枚のカーカスプライから構成される。本発明においてカーカスプライ2を2枚以上とする場合には、すべてのカーカスプライ2の補強コードを、ポリエステル繊維またはアラミド繊維からなるものとする。
また、本発明においてカーカスプライ2は、図示するように、ビードコア1の周りに内側から外側に折り返されて巻き上げられてなる。このカーカスプライの折返し部2Bは、図示するように、サイド補強ゴム4の最大厚み部よりもビードコア1側に位置することが好ましい。これは、タイヤ重量の低減につながるためである。
より好適には、カーカスプライの折返し部2Bの、ビードコア1の中心からの高さHが、30mm以下、特には、5〜25mmの範囲であるものとして、例えば、図1(b)に示すように、カーカスプライ2の折返し端部の高さを、低く設定する。カーカスプライの折返し部2Bをサイド補強ゴム4の最大厚み部よりもビードコア1側に位置するよう低く設定し、特には、その高さHを30mm以下とすると、荷重時に圧縮入力が加わるリムフランジとタイヤとの接触点近傍に有機繊維が配置されない構造となるので、コードの疲労性を考慮せずに、操縦安定性等のタイヤ性能をコントロールすることが可能となる。カーカスプライの折返し部2Bの高さが高すぎると、リムフランジ部に圧縮入力が働くため、近傍の補強コードの末端が疲労し、それが破壊核となり、ゴム層の剥離等を誘発して、通常走行時のタイヤの耐久性を十分に向上させることができない場合がある。
また、本発明においては、ビードフィラー5の高さHが、15mm以下、特には10mm以下の範囲であることも好ましい。ビードフィラー5を、例えば、図1(c)に示すように、小さい形状とすることで、カーカスコードの折返し部2Bがタイヤ内面の方にすぐに沿うものとなるので、荷重時においてビード部近傍にリムフランジとタイヤとの接触点を支点にした曲げ入力が加わった際に、曲げ変形の外側にカーカスコードが存在するものとなって、圧縮入力ではなく引張入力のみがコードに加わることとなる。これにより、繰り返し曲げ変形に起因する折返し部分のカーカスコードの強力低下の促進を抑制でき、コード切れによる故障の発生を抑制することができるので、コードの疲労性を考慮せずに操縦性等のタイヤ性能を制御することができ、結果として、高剛性のカーカスコードにおいても市場耐久性を確保しつつ、操縦性向上のメリットを享受することができる。
なお、本発明においてビードフィラー5の高さを15mm以下とするのは、リムフランジの形状および数値が規格化されているため、サイズによらず高さ15mm以下にすれば、圧縮入力が加わる部分からカーカスコードを回避することができるためである。また、ビードフィラー5の高さが15mm以下では、ビード周辺の曲げ剛性や内圧条件、入力等により、プライ端にぎりぎり圧縮入力がかかってしまう可能性があるので、好適にはビードフィラー5の高さを10mm以下とすることで、タイヤの種類によらず確実に圧縮入力を回避することができる。ビードフィラー5の高さの下限値には特に制限はなく、例えば、0mm(ビードフィラーゴムなし)とすることもできる。
ここで、本発明においてカーカスプライ2およびビードフィラーの高さとは、タイヤを適用リムに組み付けて、規定の空気圧を充填した際における、無負荷状態でのタイヤ径方向の高さを意味する。また、適用リムとは下記の規格に規定されたリムをいい、規定の空気圧とは、下記の規格において、最大負荷能力に対応して規定される空気圧をいう。規格とは、タイヤが生産または使用される地域において有効な産業規格であり、例えば、アメリカ合衆国ではThe Tire and Rim Association Inc.のYear Bookであり、欧州ではThe European Tire and Rim Technical OrganizationのStandards Manualであり、日本では日本自動車タイヤ協会のJATMA Year bookである。
ベルト層3は、タイヤ赤道面に対して15°〜35°で傾斜して延びるコードのゴム引き層、好ましくは、スチールコードのゴム引き層からなり、2層のベルト層3は、通常、ベルト層3を構成するコードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されて、ベルトを構成する。図示する例では、ベルトは2枚のベルト層3からなるが、本発明のタイヤにおいては、ベルトを構成するベルト層の枚数はこれに限られるものではない。さらに、図示はしないが、ベルト3のタイヤ半径方向外側に、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなり、ベルトの全体を覆うベルト補強層(キャップ層)と、キャップ層の両端部のみを覆う一対のベルト補強層(レイヤー層)とを配置することもできる。
また、本発明のタイヤにおいては、図2に示すように、接地部およびタイヤにリムを装着した際のリムとの接触部以外の、タイヤ表面の少なくとも一部、好適には図示するようにタイヤサイド部に、乱流発生用凸部7を配設することもできる。かかる乱流発生用凸部7を設けることで、タイヤ表面からの放熱効果を向上して、ランフラット走行時におけるタイヤの温度上昇を抑制し、カーカス2の周辺温度を、カーカス2を構成する繊維コードが高い熱収縮応力を示す温度付近に維持することが可能となる。その結果、ランフラット走行時における撓み抑制効果を得ることができ、ランフラットタイヤの応急走行寿命をより向上させることが可能となる。
タイヤ表面に乱流発生用凸部7を設けることで、通常はタイヤの回転に伴ってタイヤ周方向に表面上を流れていく空気の流れが、乱流発生用凸部7にぶつかる部分で乱流となってタイヤ表面上を流れ、これによりタイヤ表面との間で積極的な熱交換が行われて、タイヤの放熱を促進させることができることとなる。ここで、図3を用いて、本発明における乱流発生用凸部7による乱流の発生状態につき説明する。図3は、本発明のランフラットタイヤの表面近傍を示す部分断面図である。図示するように、走行時において、乱流発生用凸部7が形成されていない部分のタイヤ表面に接触していた空気の流れS1は、タイヤの回転に伴って、乱流発生用凸部7でタイヤ表面から剥離されて、乱流発生用凸部7を乗り越える。このとき、乱流発生用凸部7の背面側には、空気の流れが滞留する部分(領域)S2が生ずる。その後、空気の流れS1は次の乱流発生用凸部7との間のタイヤ表面で跳ね返って、次の乱流発生用凸部7により再びタイヤ表面から剥離される。この際にも、次の乱流発生用凸部7の背面側には、空気の流れが滞留する部分(領域)S3が生ずることになる。
この際、タイヤの放熱効果を高めるためには、上記により乱流となった空気の流れS1が接触する領域での、S1の速度を速くすることが有利である。かかる観点から、本発明においては、図示するように、乱流発生用凸部7をタイヤ周方向において複数にて配設して、これら乱流発生用凸部7を、乱流発生用凸部7の長手方向の中央にてその幅wを二等分する点の、隣り合う乱流発生用凸部7間での距離をピッチp、乱流発生用凸部7の高さをhとしたときに、1.0≦p/h≦50.0、かつ、1.0≦(p−w)/w≦100.0の関係を満足するよう配置することが好ましい(図3,4参照)。
p/hの値が1.0未満であると、隣り合う乱流発生用凸部7に挟まれたタイヤ表面に空気の流れが入り込まず、一方、50.0を超えると乱流の影響が及ばない領域が発生するため、いずれにしても、乱流発生用凸部7を設けた部分の放熱効率が、設けていない部分と同等になってしまう。p/hの値は、2.0≦p/h≦24.0とすることがより好ましく、さらに好ましくは、10.0≦p/h≦20.0である。
また、本発明において、(p−w)/wは、ピッチpに対する乱流発生用凸部7の幅wの割合を示しており、この値が小さいことは、放熱面に対して乱流発生用凸部7の面積の割合が増大すること、すなわち、放熱面の面積が減少することを意味する。従って、この(p−w)/wの値が1未満であると、放熱面の面積が少なすぎて、放熱効率の十分な向上効果が期待できず、さらに、ゴムの体積が増大することによるゴムの発熱の増大が懸念される。一方、(p−w)/wの値が100.0を超えると、ピッチpに対して幅wが薄くなりすぎて、乱流発生用凸部7に相対して流入衝突する空気の流れS1に対して十分な剛性を維持することができず、乱流発生用凸部7としての役割が不十分となるおそれがある。(p−w)/wの値は、好適には、4.0≦(p−w)/w≦39.0である。
さらに、本発明のタイヤにおいては、乱流発生用凸部7の高さhが0.5mm≦h≦7mmを、幅wが0.3mm≦w≦4mmを、それぞれ満足することが好ましい。高さhが7mmを超え、かつ、幅wが4mmを超えると、乱流発生用凸部7の体積が増大して、乱流発生用凸部7における発熱が増加するとともに、乱流発生用凸部7が表面を覆う面積が増大して、ゴム表面で蓄熱してしまうおそれがある。また、hが0.5mm未満であり、かつ、wが0.3mm未満であると、前述したと同様に、乱流発生用凸部7としての必要な剛性を保てなくなるため、放熱効果が十分に得られなくなるおそれがある。
また、図4に模式的に示すように、本発明のタイヤにおいて、乱流発生用凸部7は、その長手方向aとタイヤ半径方向rとのなす角度θが70°以下となるように配置されていることが好ましい。乱流発生用凸部7が配設されるタイヤ表面の空気の流れは、タイヤが回転することで生ずる遠心力により、わずかにタイヤ半径方向外側に向かっている。そこで、乱流発生用凸部7の長手方向aがタイヤ半径方向rに対しなす角度θを70°以下とすることで、タイヤ表面への空気の流入により、乱流発生用凸部7の背後に生ずる空気の滞留部分S2,S3を低減して、放熱効率を向上させることができる。なお、乱流発生用凸部7の長手方向aは、タイヤ半径方向rを基準にして、片側70°およびもう片側70°の合計140°の範囲にあればよい。
この場合、回転するタイヤの表面においては、そのタイヤ半径方向rの位置によって、空気の流速が異なる。そのため、乱流発生用凸部7をタイヤ半径方向に複数にて配設する場合には、上記角度θを、乱流発生用凸部7のタイヤ半径方向の位置により、乱流発生用凸部7ごとに異なるものとすることが好ましい。
本発明においては、乱流発生用凸部7の形状については特に制限はないが、好適には、図示するように、乱流発生用凸部7が、少なくともタイヤ半径方向内方において、頂部7Aを有するものとする。すなわち、乱流発生用凸部7としては、図2に示すように4箇所の頂部7Aを有する形状の他、頂部7Aにあたる部分がそれぞれ曲面となっているような形状を有するものであってもよいが、少なくともタイヤ半径方向内方において頂部7Aを有するものとすることで、この頂部7Aの周辺に三次元的な空気の流れが発生し、放熱効果がより向上することとなる。
また、本発明においては、乱流発生用凸部7が、長手方向において分割されていることも好ましい。乱流発生用凸部7が長手方向において分割されていると、タイヤ回転時において乱流発生用凸部7の背後に生ずる空気の滞留部分S2,S3が削減されるため、乱流発生用凸部7を設けた部位全体にわたり平均的な放熱が達成できることとなる。なお、この場合の乱流発生用凸部7の分割数は特に限定されず、任意に選択することができる。
さらに、本発明のタイヤにおいて、乱流発生用凸部7がタイヤ周方向および半径方向にそれぞれ複数にて配設されている場合には、乱流発生用凸部7のタイヤ周方向における設置頻度が、タイヤ半径方向の位置により異なることが好適である。回転するタイヤの表面においては、その半径方向の位置によって空気の流速が異なる。また、放熱効率はタイヤ表面上を流れる空気の流速に依存する。従って、乱流発生用凸部7をタイヤ周方向および半径方向にそれぞれ複数個設置し、乱流発生用凸部7のタイヤ周方向における設置頻度、すなわち設置個数を、タイヤ半径方向によって変化させることで、タイヤの表面におけるタイヤ半径方向位置の違いによる放熱効率の不均一性が解消できる。
また、例えば、本発明のタイヤにおいて、トレッド部13の表面には適宜トレッドパターンが形成されており、最内層にはインナーライナー(図示せず)が形成されている。さらに、本発明のタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の、若しくは、酸素分圧を変えた空気、または、窒素等の不活性ガスを用いることができる。
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
ポリエチレンテレフタレート(PET)のマルチフィラメントである1670dtexのヤーン収束体2本の下撚りおよび上撚りを、長さ10cmあたり40回の撚り数で撚り合わせて、1670dtex/2、撚り数40×40(回/10cm)で表される構造のPETコードを得た。このポリエステル撚りコードに、接着剤処理として、エポキシ化合物を含まない接着剤(下記表1参照)、または、エポキシ化合物を含む接着剤(下記表2参照)に浸漬し、160℃のトライゾーンで2.0kg/本のテンション下で60秒間、240℃のホットゾーンで2.0kg/本のテンション下で60秒間、計120秒間の熱処理を施し、さらに、最終的にレゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)系接着剤を用いて処理を行って、接着剤を塗布したコードを作製した。なお、ディップ処理工程の最後のホットゾーンのテンションを微調整して、コードの66N荷重時の中間伸度が4.3%になるように調整した。
<エポキシ化合物を含まない接着剤の調製>
まず、軟水、レゾルシン、ホルムアルデヒド37%水溶液およびビニルピリジンラテックスの混合液を25℃で24時間熟成し、RFL液を作製した。次に、レゾルシンホルムアルデヒドノボラック型縮合物と苛性ソーダ水溶液とをRFL液に混合して、下記表1中に示す配合の接着剤を作製した。
Figure 0006162978
Figure 0006162978
*1)ナガセケムテックス(株)製
得られたポリエステルコードをゴムで被覆して、ゴム−コード複合体を得た。また、ポリエチレンナフタレート(PEN,原糸タイプNo.Q904(帝人(株)製))の1670dtex/2、撚り数39×39(回/10cm)で表される構造のコード、および、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(アラミド,Kevler(ケブラー)(東レ・デュポン(株)製))の1670dtex/2、撚り数39×39(回/10cm)で表される構造のコードについて、上記と同様にして接着剤処理を施して、ゴムで被覆し、ゴム−コード複合体を得た。
得られたゴム−コード複合体を用いて、打込み数50本/50mmのトリートを作製し、これをカーカスプライに適用して、タイヤサイズ225/45R17の空気入り安全タイヤを作製した。この供試タイヤは、一対のビード部にそれぞれ埋設された一対のビードコア間に延在する1枚のカーカスプライからなるカーカスを骨格とし、カーカスのタイヤ半径方向外側には、タイヤ周方向に対し±40°の角度で互いに交錯配置される2層のベルト(材質:スチール)を有していた。また、カーカスのサイドウォール部のタイヤ幅方向内側にはサイド補強ゴムを備え、ビードコアのタイヤ半径方向外側にはビードフィラーが配置され、ビードフィラーおよびビードコアのタイヤ幅方向外側にはゴムチェーファーが配置されていた。タイヤ幅方向断面における、サイド補強ゴムの面積S1、ビードフィラーの面積S2およびゴムチェーファーの面積S3が下記表中に示す条件を満足するように調整して、各実施例、参考例および比較例の供試タイヤを作製した。なお、参考例6,7については、ビードフィラーを設けなかった。
(ドラム耐久試験)
各供試タイヤをJATMAに規定される標準リムにリム組みした後、ドラム試験機に取り付け、内圧100kPaを充填し、JATMAに規定される最大荷重を負荷して、ドラム上を20000km走行させた。試験終了後に、各供試タイヤを解剖して、カーカスプライの残存強力を測定し、新品時からの強力保持率を評価した。結果は、比較例1の強力保持率を100としたときの指数で表示し、数値が大きいほど、ドラム耐久性に優れていることを表す。その結果を、下記の表中に併せて示す。
Figure 0006162978
*2)A:カーカスプライの折返し部の、ビードコアの中心からの高さHが、60mmである構造。B:カーカスプライの折返し部の、ビードコアの中心からの高さHが、30mmである構造。C:カーカスプライの折返し部の、ビードコアの中心からの高さHが、15mmである構造。
Figure 0006162978
上記表中に示したように、カーカスプライの補強コードにポリエステル繊維またはアラミド繊維を用いるとともに、タイヤ幅方向断面における、サイド補強ゴム、ビードフィラーおよびゴムチェーファーの面積の比率が、式(1)、(2)で規定される所定の関係を満足するよう設定した各実施例の供試タイヤにおいては、上記関係を満足しない比較例の供試タイヤに比して、ドラム耐久性が向上していることが確かめられた。
1 ビードコア,2 カーカス,3 ベルト層,4 サイド補強ゴム,5 ビードフィラー,6 ゴムチェーファー,7 乱流発生用凸部,7A 頂部,11 ビード部,12 サイドウォール部,13 トレッド部

Claims (5)

  1. 一対のビード部にそれぞれ埋設された一対のビードコア間に延在する少なくとも1枚のカーカスプライからなるカーカスを骨格とし、該カーカスのサイドウォール部のタイヤ幅方向内側にサイド補強ゴムを備える空気入り安全タイヤであって、
    タイヤ幅方向断面において、前記サイド補強ゴムの面積をS1、前記ビードコアのタイヤ半径方向外側に配置されたビードフィラーの面積をS2、該ビードフィラーおよび該ビードコアのタイヤ幅方向外側に配置されたゴムチェーファーの面積をS3としたとき、下記式(1)および(2)、
    0.10≦(S2+S3)/S1≦2.50 (1)
    0.3≦S2/(S2+S3)≦0.9 (2)
    を満足し、該ゴムチェーファーが、該ビードコアの中心よりもタイヤ幅方向外側に位置し、かつ、前記カーカスプライの補強コードがポリエステル繊維および/またはアラミド繊維からなることを特徴とする空気入り安全タイヤ。
  2. 下記式(3)および(4)、
    0.20≦(S2+S3)/S1≦1.50 (3)
    0.3≦S2/(S2+S3)≦0.80 (4)
    を満足する請求項1記載の空気入り安全タイヤ。
  3. 前記カーカスプライの補強コードが、エポキシ化合物を含む前処理液または接着剤液で処理されてなる請求項1または2記載の空気入り安全タイヤ。
  4. 前記カーカスプライの折返し部の、前記ビードコアの中心からの高さH が、30mm以下である請求項1〜3のうちいずれか一項記載の空気入り安全タイヤ。
  5. 前記ビードフィラーの高さH が、15mm以下である請求項1〜4のうちいずれか一項記載の空気入り安全タイヤ。
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