本発明の成形用不織布は捲縮発現した潜在捲縮性繊維を含む不織布基材の片面に、多孔質粒子がバインダで接着されている。このように、本発明の成形用不織布を構成する不織布基材は捲縮発現した潜在捲縮性繊維を含んでおり、この捲縮発現した潜在捲縮性繊維は多くの捲縮を有するため、成形時の圧力によって伸びやすい。
このような潜在捲縮性繊維は伸びやすいように、50個/インチ以上の捲縮を発現できるのが好ましい。なお、捲縮数はJIS L1015:2010 8.12.1 けん縮数、に規定する方法により得られる値である。
この捲縮発現前の潜在捲縮性繊維としては、例えば、熱収縮率の異なる複数の樹脂が複合された複合繊維、繊維の一部に特定の熱履歴を施した繊維を挙げることができる。より具体的には、複合繊維として、偏心型芯鞘構造のもの、又はサイドバイサイド型構造のものを好適に用いることができる。熱収縮率の異なる樹脂の組み合わせとしては、例えば、ポリエステル−低融点ポリエステル、ポリアミド−低融点ポリアミド、ポリエステル−ポリアミド、ポリエステル−ポリプロピレン、ポリプロピレン−低融点ポリプロピレン、ポリプロピレン−ポリエチレンなど種々の合成樹脂を組み合わせたものが使用できる。特に、ポリエステル−低融点ポリエステル若しくはポリプロピレン−低融点ポリプロピレンの組み合わせからなる潜在捲縮性繊維は伸びやすいため好ましい。
また、繊維の一部に特定の熱履歴を施した潜在捲縮性繊維としては、例えば、ポリエステル、ポリアミドなどの熱可塑性樹脂からなる繊維の一側面を熱刃などにあてながら通過させたものを使用できる。
この潜在捲縮性繊維の繊度は特に限定するものではないが、成形後の外観品位に優れているように、4.4dtex以下であるのが好ましく、3.3dtex以下であるのがより好ましい。繊度の下限は特に限定するものではないが、乾式法により不織布基材を形成する場合には、外観品位に優れる成形不織布とすることができるように、また、伸びやすいように、0.5dtex以上であるのが好ましく、0.8dtex以上であるのがより好ましい。
なお、繊度の異なる潜在捲縮性繊維を2種類含んでいる場合、次の式により算出される平均繊度が前記繊度範囲内にあるのが好ましい。また、繊度の異なる潜在捲縮性繊維を3種類以上含んでいる場合も同様にして算出した値が前記繊度範囲内にあるのが好ましい。
Fav=1/[(Pa/100)/Fa+(Pb/100)/Fb]
ここで、Favは平均繊度(単位:dtex)、Paは不織布基材の繊維成分に占める一方の繊維(繊維A)の質量割合(単位:mass%)、Faは繊維Aの繊度(単位:dtex)、Pbは不織布基材の繊維成分に占める他方の繊維(繊維B)の質量割合(単位:mass%)、Fbは繊維Bの繊度(単位:dtex)を、それぞれ意味する。
また、潜在捲縮性繊維の繊維長は特に限定するものではないが、乾式法により不織布基材を形成する場合には、外観品位の優れる成形不織布とすることができるように、20〜80mmであるのが好ましく、30〜70mmであるのがより好ましい。
本発明の成形用不織布を構成する不織布基材は、上述のような潜在捲縮性繊維が捲縮発現したものであるが、潜在捲縮性繊維は加熱処理によって、捲縮発現させることができる。なお、加熱手段としては、例えば、熱風ドライヤー、赤外線ランプ、加熱ロールなどを挙げることができるが、潜在捲縮性繊維の捲縮発現を妨げないように、熱風ドライヤー、赤外線ランプなどの固体による強力な圧力がかからない条件下で実施するのが好ましい。繊維ウエブを形成した後に潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させる場合には、伸びやすい不織布基材とすることができるように、捲縮発現による繊維ウエブの収縮分を見込んでオーバーフィードしながら加熱し、捲縮を発現させるのが好ましい。
本発明の不織布基材は伸びやすいように、潜在捲縮性繊維を少なくとも50mass%含むのが好ましく、70mass%以上含むのがより好ましく、80mass%以上含むのが更に好ましく、90mass%以上含むのが更に好ましく、潜在捲縮性繊維のみ(100mass%)から構成されているのが最も好ましい。
潜在捲縮性繊維以外の繊維としては難燃性に優れるように、200℃以上の融点又は分解点を有する合成繊維であるのが好ましく、例えば、ポリエステル系繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維など)、ポリアミド系繊維(6ナイロン繊維、66ナイロン繊維など)、ポリビニルアルコール繊維、アクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリウレタン繊維、フッ素繊維、アラミド繊維等の合成繊維を挙げることができる。このような合成繊維の繊度は、4.4dtex以下であるのが好ましく、3.3dtex以下であるのがより好ましい。なお、合成繊維の繊度の下限は特に限定するものではないが、0.5dtex以上であるのが好ましく、0.8dtex以上であるのが好ましい。また、合成繊維の繊維長は特に限定するものではないが、20〜80mmであるのが好ましく、30〜70mmであるのがより好ましい。
また、潜在捲縮性繊維以外の繊維として、セルロース系繊維を含んでいても良い。セルロース系繊維は燃焼時に炭化することにより、燃焼速度を落とす効果を奏するため、難燃性に優れている。このセルロース系繊維としては、例えば、レーヨン繊維、ポリノジック繊維、キュプラ繊維、綿繊維、麻繊維などを挙げることができ、これらの中でも、綿繊維又はレーヨン繊維は経済性の面で好ましく、特にレーヨン繊維は染色等の加工性に優れ、しかも燃焼しても有毒ガスが発生せず、高温にもならないため、好適に使用できる。このセルロース系繊維の繊度は、4.4dtex以下であるのが好ましく、3.3dtex以下であるのがより好ましい。なお、セルロース系繊維の繊度の下限は特に限定するものではないが、0.5dtex以上であるのが好ましく、0.8dtex以上であるのがより好ましい。また、セルロース系繊維の繊維長は特に限定するものではないが、20〜80mmであるのが好ましく、30〜70mmであるのがより好ましい。
本発明における「融点」は、JIS K7121−1987の規定に則り、熱流束示差走査熱量測定(DSC)により得たDSC曲線から読み取った融解温度をいい、「分解点」はJIS K 7120-1987(プラスチックの熱重量測定方法)に定義される開始温度T1をいう。また、「繊度」はJIS L 1015:2010、8.5.1(正量繊度)に規定されているA法により得られる値を意味し、「繊維長」はJIS L 1015:2010、8.4.1[補正ステープルダイヤグラム法(B法)]により得られる値を意味する。
本発明の成形用不織布はこのような不織布基材の片面に、多孔質粒子がバインダで接着していることによって、目止めされた通気度の低いものであり、結果として、通気度の低い成形不織布を製造することができる。なお、多孔質粒子によって、バインダが保持されやすいのか、バインダは比較的、不織布基材の片面表面に存在しやすく、少量のバインダで多孔質粒子を接着できるため、捲縮発現した潜在捲縮性繊維が本来有する伸びやすさが損なわれておらず、成形時に伸びやすい成形用不織布である。
この多孔質粒子は表面に細孔を有する多孔質のもので、表面積が広いため、バインダを吸収又は吸着し、バインダの保持性に優れていると考えている。そのため、このような作用に優れているように、多孔質粒子の比表面積は5m2/g以上であるのが好ましく、10m2/g以上であるのがより好ましく、20m2/g以上であるのが更に好ましく、25m2/g以上であるのが更に好ましく、30m2/g以上であるのが更に好ましい。この比表面積はBET法で測定した値である。
また、多孔質粒子の平均粒子径は不織布表面に均一に分散し、効率的に目止めを行うことができるように、1〜100μmであるのが好ましく、1〜50μmであるのがより好ましく、1〜20μmであるのが更に好ましく、1〜10μmであるのが更に好ましい。この平均粒子径はレーザ回折・散乱法によって求めた粒度分布における個数平均径の値をいう。
この多孔質粒子としては、例えば、非晶質シリカ、無水シリカ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸カルシウム、ハイドロタルサイト、ゼオライト、サチンホワイト、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ケイ藻土、カオリン、タルク、酸性白土、活性白土、ベントナイト、水酸化マグネシウムなどの無機系多孔質粒子、イオン交換樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ポリエチレン樹脂粉末、尿素ホルマリン樹脂粉末、アクリル樹脂粉末、スチレン−アクリル樹脂粉末などの有機系多孔質粒子を挙げることができる。
このような多孔質粒子を接着しているバインダは、多孔質粒子を接着していることによって不織布基材を目止めし、通気度を低くしている。このバインダは多孔質粒子を接着できれば良く、特に限定するものではないが、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、メタクリル酸エステル−ブタジエンゴム、エラストマー系樹脂などを挙げることができる。
本発明の成形用不織布は多孔質粒子がバインダで接着されていることによって、バインダ量を少なくすることができ、成形用不織布の伸びやすさを阻害しない。具体的には、バインダ固形分量は1〜50g/m2であることができ、2.5〜30g/m2であるのが好ましく、2.5〜25g/m2であるのがより好ましく、5〜20g/m2であるのが更に好ましく、5〜15g/m2であるのが更に好ましく、5〜10g/m2であるのが更に好ましい。
また、多孔質粒子とバインダ固形分量との比率は、多孔質粒子が脱落しにくく、また、バインダによって成形用不織布の伸びを悪くしないように、(多孔質粒子):(バインダ固形分量)=1:1〜20:1であるのが好ましく、(多孔質粒子):(バインダ固形分量)=2:1〜15:1であるのがより好ましく、(多孔質粒子):(バインダ固形分量)=3:1〜10:1であるのが更に好ましい。
本発明の成形用不織布は通気度が低く、しかも伸びやすいものであることができる。より具体的には、通気度が5〜20(cm3/cm2・s)、かつ少なくとも一方向における10N荷重時の伸びが15mm以上であることができる。このように通気度が低いことによって、吸音性能などの特性に優れているばかりでなく、成形時に皺が発生しにくく、外観品位の優れる成形不織布を製造できる。つまり、通気度が5(cm3/cm2・s)未満と、一定の吸引圧力(差圧)を与えたときの空気流量が少ないと、成形時にエアが抜けにくく、皺が発生しやすいが、5(cm3/cm2・s)以上であれば皺が発生しにくく、一方で、通気度が20(cm3/cm2・s)を超えるような、一定の吸引圧力(差圧)を与えたときの空気流量が多いと、粗い構造を有することになるが、20(cm3/cm2・s)以下であれば、緻密な構造を有する、外観品位に優れる成形不織布を製造できる。好ましい通気度は10〜15(cm3/cm2・s)である。この通気度はJIS L1913:2010「一般不織布試験方法」に規定される6.8.1(フラジール形法)によって測定される値をいう。
本発明の成形用不織布は前述のような通気度を有するにもかかわらず、少なくとも一方向における10N荷重時の伸びが15mm以上の、成形時に伸びやすいものであることができる。従来、前述のような通気度とするには、メルトブロー不織布を使用したり、多量のバインダで接着することによって皮膜を形成するなど、繊維同士が融着又は接着しており、成形時に伸びないものであったが、本発明においては、多孔質粒子がバインダで接着されていることによって、多孔質粒子自体で目止めできるとともに、バインダ量を少なくすることができるため、少なくとも一方向における10N荷重時の伸びが15mm以上の、成形時に伸びやすいものであることができ、好ましくは、20mm以上の伸びである。なお、一般的に、不織布基布製造時において、流れ方向(たて方向)に対して張力が働き、繊維がたて方向に配向しやすいことから、たて方向には伸びにくい傾向があるため、よこ方向における10N荷重時の伸びが15mm以上であるのが好ましい。
この10N荷重時の伸びは、次の方法により測定した値をいう。
(1)成形用不織布から、200mm×30mmの大きさを有する試験片を3枚採取する。例えば、成形用不織布製造時における流れ方向(たて方向)に200mmで、よこ方向(たて方向と直交する方向)に30mmの試験片を3枚採取する。或いは、よこ方向に200mmで、たて方向に30mmの試験片を3枚採取する。
(2)インストロンタイプの引張試験機を用い、チャック間100mm、引張速度200mm/min.の条件で、各々の試験片の10N荷重時の伸びを測定する。
(3)試験片の各々3点の算術平均値を算出し、「10N荷重時の伸び」とする。
本発明の成形用不織布の目付、厚さは、使用用途、所要強度、繊維の配合等によって異なるため、特に限定するものではないが、目付は50〜200g/m2であるのが好ましく、100〜200g/m2であるのがより好ましい。また、厚さは0.3〜2mmであるのが好ましく、0.5〜1mmであるのがより好ましい。
本発明における目付はJIS L1913:2010「一般不織布試験方法」に規定される6.2[単位面積当たりの質量(ISO法)]によって測定される値を意味し、厚さは前田式圧縮弾性測定器を用い、圧接子5cm2、圧接荷重1.96kPaで測定した値を意味する。
本発明の不織布は成形時に伸ばしやすいため、皺がなく、外観が優れるとともに、通気度の低い成形不織布を製造することができるため、目視により美観を必要とする用途に好適に使用することができる。特に、自動車用途の成形用不織布として好適に使用できる。なお、成形はヒートプレスによる成形であっても、コールドプレスによる成形であっても、外観が優れるとともに、通気度の低い成形不織布を製造することができる。
本発明の成形用不織布は、例えば、捲縮発現した潜在捲縮性繊維を含む不織布基材の片面に、多孔質粒子を含むバインダを印刷することによって製造することができる。つまり、捲縮発現した潜在捲縮性繊維を含む不織布基材を使用しており、成形時に、金型形状に沿って捲縮が伸びることができるため、皺がなく、外観の優れる成形不織布を製造することができる成形用不織布を製造することができる。また、多孔質粒子を含むバインダを印刷していることによって、不織布基材の片面表面に、少量のバインダで多孔質粒子を接着できるため、捲縮発現した潜在捲縮性繊維が本来有する伸びやすさを損なわず、成形時に伸びやすく、通気性の低い成形不織布を製造することができる成形用不織布を製造できる。
捲縮発現した潜在捲縮性繊維を含む不織布基材は、例えば、前述のような捲縮発現する前の潜在捲縮性繊維を含む繊維ウエブを、カード法、エアレイ法などの乾式法、湿式法、又はスパンボンド法などの直接法により形成した後、熱処理を実施することによって捲縮を発現させて製造できる。なお、繊維ウエブの形成方法としては、潜在捲縮性繊維の捲縮が発現して繊維ウエブが収縮しやすく、結果として、伸びやすい不織布基材を製造しやすい、乾式法により形成するのが好ましい。
潜在捲縮性繊維の捲縮発現は、捲縮の発現によって、10N荷重時の伸びが15mm以上であるような伸びやすい成形用不織布としやすいように、繊維ウエブのたて方向、よこ方向のいずれの方向においても、10〜70%収縮させるのが好ましく、10〜50%収縮させるのがより好ましく、10〜35%収縮させるのが更に好ましい。
この収縮の百分率(Sr)は、収縮前のたて方向又はよこ方向における、繊維ウエブの長さをLb、収縮後のたて方向又はよこ方向における、繊維ウエブの長さをLaとした時に、次の式から算出される値である。例えば、たて方向における長さが100cmの繊維ウエブを、たて方向における長さを90cmの長さにまで縮めた場合、収縮の百分率は10%である。
Sr=[(Lb−La)/Lb]×100
このように、たて方向とよこ方向の両方向に収縮させるためには、例えば、たて方向に関してはオーバーフィードし、よこ方向に関しては収縮を阻害しないように、固定していない状態で熱を作用させることによって実施できる。なお、繊維ウエブに対する熱は、コンベア等で搬送しながら作用させることができ、作用させる熱は潜在捲縮性繊維が捲縮を発現できる熱であれば良く、潜在捲縮性繊維によってその温度は異なるため、特に限定するものではない。この温度は潜在捲縮性繊維に応じて、実験的に適宜設定できる。
なお、加熱手段は特に限定するものではないが、例えば、熱風ドライヤー、赤外線ランプ、加熱ロールなどを挙げることができるが、捲縮を発現させて、たて方向及びよこ方向に収縮させるのが好ましいため、熱風ドライヤー、赤外線ランプなどの、繊維ウエブを圧力によって固定せず、収縮を阻害しない加熱手段であるのが好ましい。
なお、不織布基材の形態安定性を高めるために、熱処理を実施する前に、ニードルや水流などの流体で絡合するのが好ましい。特に、水流で絡合すると、伸びやすく、しかも意匠性に優れる不織布基材を製造できるため好適である。
このように形成した不織布基材の片面に多孔質粒子を含むバインダを印刷することによって、本発明の成形用不織布を製造することができる。多孔質粒子及びバインダとしては、前述のものを使用することができ、多孔質粒子とバインダ固形分量との比率は、多孔質粒子が脱落しにくく、また、バインダによって成形用不織布の伸びを悪くしないように、(多孔質粒子):(バインダ固形分量)=1:1〜20:1であるのが好ましく、(多孔質粒子):(バインダ固形分量)=2:1〜15:1であるのがより好ましく、(多孔質粒子):(バインダ固形分量)=3:1〜10:1であるのが更に好ましい。
なお、バインダは多孔質粒子に加えて、難燃剤(例えば、リン系難燃剤、臭素系難燃剤、無機系難燃剤)、熱硬化性樹脂、撥水剤、撥油剤、染料、顔料、及び/又は界面活性剤などを含み、各種機能を付与することができる。
このようなバインダを印刷する方法は、従来から公知の方法により実施することができる。例えば、シリンダを使用する方法、グラビア印刷、凸版印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷などにより実施することができる。
なお、印刷パターンは特に限定するものではないが、通気度が5〜20(cm3/cm2・s)、かつ少なくとも一方向における10N荷重時の伸びが15mm以上であるのが好ましいため、このような物性を満たすように、印刷するのが好ましい。例えば、不織布基材表面の全面に対して印刷することによって、前記物性を満たしやすいため、好適な印刷パターンである。
この印刷は1度だけ実施しても良いし、2度以上、繰り返し実施しても良いが、従来よりもバインダ固形分量が少ない、1〜50g/m2であることができ、好ましくは2.5〜30g/m2、より好ましくは2.5〜25g/m2、更に好ましくは5〜20g/m2、更に好ましくは5〜15g/m2、更に好ましくは5〜10g/m2として、捲縮発現した潜在捲縮性繊維のバインダによる接着を弱くして、伸長性を損なわないようにするのが好ましい。
このように製造した本発明の成形用不織布は、前述の通り、通気度が5〜20(cm3/cm2・s)、かつ少なくとも一方向における10N荷重時の伸びが15mm以上であるのが好ましい。このような通気度かつ伸びを有する成形用不織布は、潜在捲縮性繊維の捲縮発現の程度、多孔質粒子量、バインダ量等を調整することによって製造することができる。
なお、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させて不織布基材を形成した後で、バインダを印刷する前に、カレンダー加工を施すことによって、通気度を調節することもできる。なお、このカレンダー加工によって潜在捲縮性繊維等の繊維を融着させると、伸びにくくなってしまうため、不織布基材構成繊維を融着させない条件でカレンダー加工を実施するのが好ましい。
本発明の成形用不織布は単体で使用することもできるが、別の材料と複合することによって、各種用途に適用できるため、成形用不織布の片面に接着剤を備えているのが好ましい。本発明の成形用不織布が複合体の表面を構成し、美観を醸し出すことができるように、接着剤は成形用不織布の片面のみ(好ましくは、多孔質粒子の接着面の反対面のみ)に備えているのが好ましい。
この接着剤は成形の際に別の材料と接着しやすいように、200℃以下の融点をもつ樹脂(以下、「接着樹脂」ということがある)を含んでいるのが好ましく、190℃以下の融点であるのが好ましく、180℃以下の融点であるのがより好ましい。一方で、融点が低すぎると、耐熱性が低下し、適用用途が限定されるため、80℃以上の融点であるのが好ましく、90℃以上の融点あるのがより好ましい。
このような接着樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン(例えば、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、変性ポリエステル、エチレン−酢酸ビニル共重合体などから選ばれる樹脂を、1種類又は2種類以上使用することができる。これらの中でもポリエチレンは、成形温度が低く、また接着性も優れているため好適である。
このような接着剤は別の材料との接着性に優れるように、例えば、接着樹脂が繊維形態又はパウダー形態を採っており、成形用不織布の片面に積層された状態にあるのが好ましい。より具体的には、接着性樹脂繊維、接着樹脂繊維を含む繊維シート(例えば、不織布、織物、編物)、又は接着樹脂パウダーが成形用不織布の片面に積層されているのが好ましい。
なお、片面に接着樹脂繊維が積層された成形用不織布は、接着樹脂繊維を成形用不織布に積層した後に、水流などの絡合作用で、及び/又は接着樹脂繊維の接着性を発現させることによって製造することができる。また、片面に接着樹脂繊維を含む繊維シートが積層された成形用不織布は、成形用不織布に繊維シートを積層し、水流などの絡合作用で、及び/又は接着樹脂繊維の接着性を発現させることによって製造することができる。更に、片面に接着樹脂を有する成形用不織布は、接着樹脂パウダーを成形用不織布の片面に散布し、接着樹脂パウダーの接着性を発現させることによって製造することができる。
このように成形用不織布が接着剤を備えている場合、接着剤量は特に限定するものではないが、10〜60g/m2であるのが好ましく、20〜50g/m2であるのがより好ましい。
なお、本発明の成形用不織布と複合化できる別の材料は複合体の使用用途によって異なり、特に限定するものではないが、好適である自動車用途の場合、剛性、耐熱性、難燃性、吸音性等を考慮して、例えば、樹脂含浸したガラスウールマット;フェルト;ロックウールマット;レジンフェルト;ポリウレタン、ポリスチレン又はポリオレフィン系樹脂の発泡体;ポリエステル繊維等の合成繊維からなる不織布などであることができる。
このような複合体は、接着剤を備えている成形用不織布の接着剤を別の材料と当接するように積層した状態で成形(例えば、ヒートプレス、コールドプレス)して製造できる。或いは、接着剤を備えていない成形用不織布を、前述のような接着剤(例えば、接着樹脂パウダー、接着樹脂繊維、接着樹脂繊維を含む繊維シートなど)を介して別の材料と積層した状態で成形(例えば、ヒートプレス、コールドプレス)して製造できる。
このような複合体は、例えば、自動車、産業用機械、建設機械などのエンジンルームにおける吸音材、マンション、住宅、学校、病院、図書館などの建築物用吸音材、自動車天井材などに使用することができ、自動車のエンジンルームにおける吸音材として好適に使用できる。特に、成形用不織布の通気度が5〜20(cm3/cm2・s)であるような場合、及び/又は別の材料として吸音性能に優れるものを使用した場合、自動車のエンジンルームにおける吸音材として好適に使用できる。
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
ポリプロピレン/ポリプロピレンランダムコポリマーの組み合わせで、偏心芯鞘型に構成された潜在捲縮性繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:51mm、宇部日東化成製、SW−V)を100%用い、カード機により開繊して繊維ウエブを形成した後、ノズル径0.13mm、ノズルピッチ0.6mmのノズルプレートから水圧4MPaの水流を繊維ウエブの両面に対して噴出して、絡合繊維ウエブを形成した。
続いて、絡合繊維ウエブを110℃で乾燥した後、よこ方向に固定することなく、たて方向にオーバーフィードしながらコンベアで搬送中に、熱風ドライヤーによる温度139℃での熱処理を約15秒間実施することによって、潜在捲縮性繊維の捲縮を発現させ、たて方向に10%収縮させ、よこ方向に20%収縮させて、捲縮発現した潜在捲縮性繊維からなる不織布基材(目付:120g/m2)を形成した。
次いで、次の割合でバインダ溶液を調製した。
(1)ポリアクリル酸エステル樹脂バインダ[DIC(株)製、登録商標:ボンコートAB−886]・・4部
(2)アルキルエステル・メタクリル酸樹脂増粘剤[日本カーバイド工業(株)製、登録商標:ニカゾールVT−253]・・7部
(3)多孔質炭酸カルシウム粒子[白石工業株式会社製、登録商標:カルライトKT、平均粒子径:7μm、BET比表面積:35.0m2/g]・・20部
(4)水・・71部
(5)25%アンモニア水・・1部
そして、前記不織布基材の片面の全面に対して、前記バインダ溶液をスクリーン印刷(ベタ柄)した後、温度180℃のドライヤーで乾燥して、成形用不織布[目付:172g/m2、厚さ:0.6mm、多孔質炭酸カルシウム粒子量:44g/m2、バインダ固形分量:8g/m2、通気度:11(cm3/cm2・s)、たて方向における10N荷重時の伸び:8mm、よこ方向における10N荷重時の伸び:25mm]を製造した。
(比較例1)
不織布基材の片面に対して、ポリアクリル酸エステル樹脂バインダ[DIC(株)製、登録商標:ボンコートAB−886]を印刷したこと以外は、実施例1と同様にして、成形用不織布[目付:184g/m2、厚さ:0.6mm、バインダ固形分量:64g/m2、通気度:23(cm3/cm2・s)、たて方向における10N荷重時の伸び:6mm、よこ方向における10N荷重時の伸び:11mm]を製造した。
(比較例2)
不織布基材の片面に対して、次のバインダ溶液を印刷したこと以外は、実施例1と同様にして、成形用不織布[目付:172g/m2、厚さ:0.6mm、炭酸カルシウム粒子量:44g/m2、バインダ固形分量:8g/m2、通気度:39(cm3/cm2・s)、たて方向における10N荷重時の伸び:1mm、よこ方向における10N荷重時の伸び:2mm]を製造した。
(1)ポリアクリル酸エステル樹脂バインダ[DIC(株)製、登録商標:ボンコートAB−886]・・4部
(2)アルキルエステル・メタクリル酸樹脂増粘剤[日本カーバイド工業(株)製、登録商標:ニカゾールVT−253]・・7部
(3)炭酸カルシウム粒子[白石工業株式会社製、登録商標:ホワイトンP−30、平均粒子径:5μm、BET比表面積:1.1m2/g]・・20部
(4)水・・71部
(5)25%アンモニア水・・1部
(成形後の外観評価)
実施例1及び比較例1〜2の成形用不織布を、120℃に加熱した一対の金型(最大深さ:3cm)により90秒間加圧して、エンジンルームサイレンサーの形状に成形し、成形不織布を作製した。
その後、成形不織布の外観を観察し、次の基準にしたがって評価した。これらの結果は表1に示す通りであった。
(基準)
○:皺がなく、繊維の緻密感もあり、外観品位に優れる
△:緻密感がないため、外観品位に劣る
▲:皺が発生しているため、外観品位に劣る
×:破断してしまい、外観品位が著しく劣る
実施例1の成形用不織布は、捲縮発現した潜在捲縮性繊維を含む不織布基材を含んでいるため、皺のない、外観の優れる成形不織布を製造することができるものであった。
また、実施例1と比較例2との比較から、多孔質粒子がバインダで接着されていることによって、同じバインダ量であっても、通気度の低い成形用不織布を製造することができるため、通気度の低い成形不織布を製造できるものであった。そのため、多孔質粒子をバインダで接着して、比較例2と同程度の通気度の成形用不織布とするのであれば、バインダ量を少なくすることができるため、比較例2よりも成形時に伸びやすい成形用不織布になると推定された。
このように、多孔質粒子をバインダで接着することによって、低い通気度と成形時の伸びとを両立できる成形用不織布であることがわかった。