以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
先ず、図1には、本発明手法に従って製造される木質化粧板の一例である、自動車用内装部品として用いられる木質化粧板10の一部が、断面形態において、概略的に示されている。そこにおいて、木質化粧板10は、突板12の裏面(図1における下側の面)側に、補強層14と接合層16とが積層形成された突板シート18を有しており、そのような突板シート18の突板12の意匠面20たる表面側に、下塗層22及び接着層24が積層形成されることによって、本木シート26が構成されている。そして、この本木シート26の表面(接着層24の図1における上側の面)には、クリア層28が、またその裏面(接合層16の図1における下側の面)には、基材層30が、それぞれ、射出成形により積層形成されている。換言すれば、ここでは、木質化粧板10が、基材層30の上に、接合層16と補強層14と突板12と下塗層22と接着層24とクリア層28とが、その順番で、積層形成された矩形平板状の積層構造体にて構成されている。なお、以下においては、便宜上、突板12の意匠面20側となる、木質化粧板10の図1での上側の面を表面と言い、その反対側の面を裏面と言うこととする。また、図1及び後述する図2乃至図8では、本実施形態の木質化粧板10の構造の理解を容易とするために、突板12を始めとした各層の厚さが、クリア層28や基材層30の厚さと比較して、実際とは異なる誇張された大きさで示されていることが理解されるべきである。
また、木質化粧板10においては、本木シート26の外周部(端部)の全体を被覆する薄肉の被覆層31が、基材層30の一部として、一体形成されている。これにより、突板12を含む本木シート26の端部が、被覆層31にて保護されて、かかる本木シート26の端部の傷付きや空気との接触が防止されるようになっている。また、そのような被覆層31が不透明とされていることで、本木シート26の端部が外部から視認出来ないようにされて、木質化粧板10の意匠性の向上が図られている。
そして、本発明にあっては、かくの如き構造を有する木質化粧板10を、以下のような手順に従って製造するようにしたのである。
すなわち、先ず、図2に示されるような構造を有する突板シート18が準備される。この突板シート18の準備に際しては、平板状の突板12が、所定の木材から切り出す等して、用意される。なお、この突板12を所定の木材から切り出す際には、表面(意匠面20)に、所望の木目が現れるようにされる。そして、所定の木材から切り出された突板12には、必要に応じて、公知の乾燥工程が施される。
かかる突板12は、木質化粧板10に対して、リアルな木質感を与えるために設けられるものであって、好ましくは、例えば、オバンコール、ブビンガ、バーズアイメープル、カーリーメープル、ホワイトアッシュ、サペリマホガニー、タモ、スギ、ヒノキ、チェリー、チーク等の木目の美しい様々な天然木を、板目や柾目、杢目等の所望の木目が現われるようにスライスして得られる平板材からなっている。
また、その一方で、補強層14を構成する、突板12と略同じ大きさの矩形平板形態を呈するアルミニウムの薄板を、例えばプレス成形等により、所定のブランク等から切り出して、準備する。なお、この補強層14としては、突板シート18乃至は本木シート26に所望の剛性を付与し得る程度の剛性を有し、且つ基材層30の射出成形時等の圧力や熱によって損傷しないものであれば、その材質が、何等限定されるものではなく、例えば、鉄や銅等の他の金属薄板や、ポリプロピレンやABS樹脂等の硬質の樹脂シート、或いは不織布、更にはガラス繊維やカーボン繊維等の繊維シート等が、アルミニウムの薄板に代えて、何れも採用可能である。
さらに、突板12とは別に、接合層16を構成する、突板12と略同じ大きさの矩形平板状の木板を、所定の木材から切り出す等して、準備する。なお、木板を所定の木材から切り出す際には、木目の向き等が制限されることはないものの、かかる木材として、突板12を切り出す木材よりも木目の粗いもの、例えば、クラロウォールナットやマンガシロノ等が選択され得る。そして、所定の木材から切り出された木板には、必要に応じて、公知の乾燥工程が施される。
次いで、木材と金属とを強固に接着可能な公知の接着剤を用いて、突板12の裏面に接着剤層32を形成した後、先に準備されたアルミニウム薄板を、かかる接着剤層32を介して、突板12の裏面に接着することにより、突板12の裏面に補強層14を積層形成する。これによって、突板12の剛性が高められ、以て、木質化粧板10を製造する際の突板シート18乃至は本木シート26のハンドリング性が、有利に向上せしめられることとなる。
その後、接着剤層32を構成する接着剤と同様な接着剤を用いて、補強層14の裏面に接着剤層34を形成した後、先に準備された木板を、かかる接着剤層34を介して、補強層14の裏面に接着する。これにより、突板12の裏面に、補強層14を介して、接合層16が積層形成され、以て、突板シート18が得られるのである。
なお、本発明手法においては、基材層30を構成する樹脂材料として、常に、金属材料との接合性乃至は密着性に優れたものが選択されるわけではない。そこで、ここでは、基材層30に対する接合性乃至は密着性に優れた接合層16が、補強層14の裏面に積層形成されているのである。
引き続いて、図3(a)に示されるように、補強層14と接合層16が裏面に積層形成された突板12(突板シート18)に対し、その意匠面20上に、アクリル系ウレタン塗料が公知の手法により塗工されて、下塗層22が形成される。なお、そのような下塗層22を形成するためのアクリル系ウレタン塗料としては、公知の各種の塗料を用いることが出来るが、本実施形態においては、硬化剤としてのポリイソシアネート化合物と、主剤としてのアクリルポリオールとが、使用に際して一定の割合にて配合せしめられる、所謂2液硬化型のアクリル系ウレタン塗料が、使用されている。また、そのようなアクリル系ウレタン塗料の塗工手法は、何等限定されるものではない。即ち、下塗層22は、アクリル系ウレタン塗料を、突板12の意匠面20に対して、例えば、ローラや刷毛等を用いて塗布したり、或いは吹付塗装したりする、公知の各種の塗装方法の何れかが適宜に採用されて、形成されるのである。
ここで、本実施形態のように、下塗層22が、突板12の意匠面20上に直接に積層形成されている場合、かかる意匠面20に存在する凹凸部や孔部を埋め、更に、下塗層22の表面(図3における上側の面)の平滑性を確保して、後述するクリア層28形成後の木質化粧板10表面の凹み等を防止するために、下塗層22がある程度の厚さを有していることが必要である。このため、かかる下塗層22は、40〜80μm程度の厚さを有していることが、望ましい。
さらに、ここでは、アクリル系ウレタン塗料(下塗層22)に含まれるイソシアネートが、突板12の木質組織乃至は繊維組織を構成するセルロース中に含まれる水酸基とウレタン結合を形成すると共に、かかる塗料の一部が、突板12の意匠面20に存在する凹凸部や孔部、或いは木質繊維等に食い込んだり、含浸したりする状態となる。かくして、下塗層22が、突板12と化学的に結合せしめられ、また、それに加えて、充分なアンカー効果が発揮されることとなる。これによって、下塗層22と突板12とが、化学的に、更には物理的に極めて強固に接合せしめられ得るのである。
そして、図3(b)に示されるように、かかる下塗層22は、流動性は有しないものの、完全には硬化していない不完全硬化状態とされるのである。即ち、下塗層22の形成材料である2液硬化型のアクリル系ウレタン塗料は、主剤(アクリルポリオール)と硬化剤(ポリイソシアネート化合物)とが混合されて、加熱されることにより、硬化反応が進行して、三次元架橋構造を有する熱硬化性のアクリルウレタン樹脂からなる下塗層22を形成するのである。従って、ここで言う下塗層22の不完全硬化状態とは、アクリルウレタン樹脂が、常温の状態か、或いは加熱されている状態かに拘わらず、塑性流動することがなく、且つ架橋度が100%未満である状態のことを意味している。
また、ここで言うアクリルウレタン樹脂の架橋度とは、下記の要領で求められたものである。先ず、重量:W0 のアクリルウレタン樹脂を、25℃の酢酸エチル・酢酸ブチル混合液中に、10分間浸漬した後、このアクリルウレタン樹脂を含む溶液を、濾紙で濾過する。その後、濾紙上の不溶解分を採取し、真空乾燥した後、不溶解分の重量:W1 を精秤する。そして、その精秤された不溶解分の重量:W1 と、最初に酢酸エチル・酢酸ブチル混合液中に浸漬されたアクリルウレタン樹脂の重量:W0 を下記の式に代入することによって、架橋度(重量%)が求められるのである。
架橋度(重量%)=(W1/W0)×100
すなわち、2液硬化型のアクリル系ウレタン塗料を塗工することで、下塗層22が突板12の意匠面20上に形成された突板シート18を、熱風式乾燥炉内等に投入して、例えば、標準硬化条件である50℃×1時間に満たない、50℃×30分の条件や90℃×2分等の条件で、硬化操作を実施することにより、下塗層22を、流動性は喪失しているものの、下塗層22の架橋度が100%に達していない不完全硬化状態とするのである。なお、下塗層22を不完全硬化状態とする硬化条件は、例えば、最終的に得られる木質化粧板10の外観や品質・性能を考慮して、適宜に決定される。また、かかる硬化(加熱)操作により、アクリル系ウレタン塗料中に含まれる有機溶媒等の溶剤が有利に除去されることとなる。
かかる不完全硬化状態とされた下塗層22(アクリルウレタン樹脂)の架橋度の具体的な値は、特に限定されるものではないものの、不完全硬化状態とされた時点での下塗層22の架橋度が、好ましくは85.0〜99.9%程度とされる。何故なら、かかるアクリルウレタン樹脂の架橋度が85.0%未満であると、下塗層22が軟らか過ぎるため、後述するように、接着層24を形成するときに、下塗層22の表面が変形する恐れがあるからであり、また、下塗層22の流動性を完全に喪失させ得ない可能性があるからである。一方、アクリルウレタン樹脂の架橋度が99.9%を超える場合には、未架橋の部分が少な過ぎ、そのために、後述するように、アクリルシラップ(38)の塗工時乃至は接着層24の形成時において、かかる未架橋のアクリルウレタン樹脂(下塗層22)中のアクリル樹脂とアクリルシラップ(38)乃至は接着層24中のアクリル樹脂との分子レベルでの混ざり合い、換言すれば相溶が不充分となる恐れがあるからである。そして、かかる下塗層22の架橋度は、85.0〜99.0%程度とされていることが、より好ましく、更に望ましくは85.0〜95.0%程度である。
次いで、図4に示されるように、不完全硬化状態の下塗層22の上に、アクリルシラップ38を公知の手法により塗工する。なお、そのようなアクリルシラップ38の塗工手法は、何等限定されるものではなく、アクリルシラップ38を、不完全硬化状態の下塗層22の表面に対して、例えば、ローラや刷毛等を用いて塗布したり、或いは吹付塗装したりする公知の各種の塗装方法の何れかが適宜に採用される。
また、ここで用いられるアクリルシラップとは、公知の塗料材料であって、具体的には(メタ)アクリル酸エステル系ポリマー(低分子量重合体)をラジカル重合性モノマーに溶解した水あめ状の重合性液状混合物のことであり、本実施形態においては、特に、ポリマーである低分子量のポリメチルメタクリレート(PMMA)を、モノマーであるメチルメタクリレート(MMA)に溶解させて、更に必要に応じて重合促進剤等の添加物を加えたものが用いられているが、何等、これに限定されるものではない。
そして、ここでは、下塗層22が不完全硬化状態であるところから、下塗層22中の未架橋のアクリル樹脂とアクリルシラップ38中のアクリル樹脂とが、同一乃至は同種の樹脂であるが故に、相溶し、下塗層22の表面部位付近で、分子レベルで混ざり合うこととなる。従って、下塗層22の不完全硬化状態は、少なくとも、アクリルシラップ38の塗工が完了するまで、好ましくは、アクリルシラップ38の重合(固化)が完了するまで、維持されていることが好ましい。なお、加熱条件下においてアクリルシラップ38を塗工する場合に、その際の熱により下塗層22の硬化が促進されることがあるので、注意を要する。
その後、塗工されたアクリルシラップ38を重合(固化)させることにより、熱可塑性のアクリル樹脂(PMMA)からなる接着層24が形成される。即ち、モノマーであるメチルメタクリレート(MMA)を重合せしめることにより、アクリルシラップ38が固化せしめられて、ポリメチルメタクリレート(PMMA)からなる接着層24が形成されることとなるのである。
そのようなアクリルシラップ38の重合操作は、例えば、下塗層22上にアクリルシラップ38が塗工された突板シート18を、熱風式乾燥炉等に投入して、例えば90〜120℃×10〜15分程度の条件下で実施されることとなる。なお、接着層24を形成するためのアクリルシラップ38に含まれる重合促進剤の種類によっては、加熱等の特別な操作を実施することなしに、その硬化を完了させることも、可能である。
また、かかるアクリルシラップ38の重合(接着層24の形成)操作と同時に、その際の熱により、下塗層22の硬化を進行せしめて、下塗層22を完全に硬化せしめることが出来る。ここで、下塗層22を完全に硬化せしめるということは、下塗層22の硬化反応を進行せしめて、三次元架橋構造を有する熱硬化性のアクリルウレタン樹脂からなる下塗層22を形成することである。なお、下塗層22は、木質化粧板10の完成時において完全に硬化していればよい。従って、下塗層22を完全に硬化させるための加熱等の工程を、接着層24の形成後に、別途実施することも出来る。また、後述する基材層30やクリア層28の射出成形時の溶融樹脂や金型の熱を利用して、下塗層22の硬化を促進することも出来る。更に、下塗層22を形成するためのアクリル系ウレタン塗料に含まれる硬化剤の種類によっては、加熱等の特別な工程を実施することなしに、下塗層22を完全に硬化させることも可能である。
そして、ここでは、そのようにして形成された接着層24と完全硬化状態の下塗層22とが、それらの界面付近部位において、同一乃至は同種の樹脂である、それぞれの層中のアクリル樹脂が、それらの相溶性によって分子レベルで混ざり合わされた状態で、積層形成されることによって、化学的に強固に接合されるようになっているのである。なお、かかる接着層24は、後述するクリア層28との熱融着を有利に実現するために、一般に20〜60μm程度の厚さにおいて形成されることとなる。
かくして、図5に示されるような、接合層16と補強層14と突板12と下塗層22と接着層24とが、その順番で積層形成された、矩形平板状の積層構造体にて構成されている本木シート26が、得られるのである。
次に、かかる得られた本木シート26の裏面に、基材層30を射出成形により積層形成すると共に、更に、かかる本木シート26の表面には、クリア層28を射出成形により積層形成するのであるが、それら基材層30及びクリア層28の形成には、二色成形手法の如き公知の各種の手法が、採用されることとなる。
ここでは、先ず、二色成形装置の一方の成形型(基材層成形用型)において、不透明なABS樹脂からなる基材層30を射出成形により形成すると共に、本木シート26の外周部(端部)の全体を被覆する被覆層31を、基材層30の一部として形成する。なお、基材層30を形成するための樹脂材料としては、汎用的なABS樹脂の他、自動車用内装部品の形成材料として一般に用いられる、例えば、ポリカーボネート/ABS樹脂や、ガラス繊維を含むABS樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ノリル樹脂等の熱可塑性樹脂が、適宜に用いられ得る。
このような基材層30の形成工程では、基材層30の射出成形時に、基材層30を構成する合成樹脂の一部が、木目の粗い木板からなる接合層16の裏面に存在する凹凸部や孔部、或いは木質繊維の間等に入り込むようになる。それによって、アンカー効果が有利に発揮されて、基材層30が、接合層16に対して、ひいては突板12を含む本木シート26に対して、より一層強固に接合されるのである。また、基材層30の一部からなる被覆層31が、本木シート26の外周部(端部)の全体を被覆するようにして形成されるため、そのような被覆層31にて、突板12の端部の空気との接触が遮断されることとなる。更に、基材層30(被覆層31)が不透明なABS樹脂等にて構成されることで、本木シート26の端部が外部から視認出来ないようにされている。
次いで、基材層30が形成された本木シート26に対して、二色成形装置の他方の成形型(クリア層成形用型)において、透明なアクリル樹脂からなるクリア層28が、射出成形により形成される。なお、本発明手法においては、透明性を有する合成樹脂であると共に、熱可塑性のアクリル樹脂からなる接着層24との熱融着が可能であることから、クリア層28を形成するための樹脂材料として、ポリカーボネート樹脂を用いることも可能である。
ここで、クリア層28の射出成形時においては、射出充填されたアクリル樹脂の溶融樹脂が、熱可塑性のアクリル樹脂からなる接着層24に熱融着する。即ち、溶融樹脂の熱により、接着層24が一時的に軟化乃至溶融せしめられ、かかる溶融樹脂と接着層24を構成するアクリル樹脂とが分子レベルで混ざり合わされることとなる。その結果、クリア層28が、接着層24に対して強固に結合するようになるのである。また、クリア層28は、接着層24との接合面の外周部(端部)において、基材層30の一部からなる被覆層31の表面とも、熱融着により固着する。かくして、図1に示される如き構造を備えた、目的とする木質化粧板10が得られるのである。
このように、本実施形態の木質化粧板10にあっては、突板12とクリア層28とが、下塗層22及び接着層24を介して、化学的にも、物理的にも強固に接合されており、それによって、クリア層28の突板12に対する剥離強度が、十分に且つ効果的に高められている。それ故、木質化粧板10が、氷点下から100℃以上もの著しい温度変化が起きる車室内に設置される自動車用内装部品として、長期に亘って使用されても、クリア層28が、突板12の意匠面20から剥離してしまうようなことが、極めて効果的に防止され得る特徴を発揮するのである。
また、かかる木質化粧板10では、アクリルシラップ38の塗工時に、下塗層22が、流動性が失われた状態で、不完全硬化しているため、アクリルシラップ38と共に、下塗層22が流動することが回避され、更に、クリア層28の射出成形時においては、アクリルシラップ38は既に重合せしめられて、接着層24を形成しているため、クリア層28を形成する溶融樹脂と共に、接着層24が流動することも回避され得ることとなる。その結果、クリア層28を通じて外部から視認され得る接着層24及び下塗層22に流動跡等が発生して、意匠性が低下するようなことが、効果的に防止され得るのである。
さらに、本実施形態においては、突板12の裏面にアルミニウム薄板からなる補強層14が設けられて、本木シート26の剛性が、そのような補強層14を有しないものに比して有利に高められている。これによって、本木シート26のハンドリング性の向上が有利に図られている。
また、本実施形態の木質化粧板10では、突板12と基材層30との間に、アルミニウム薄板からなる補強層14が介装されているにも拘わらず、かかる補強層14と基材層30との間に、基材層30との接着性に優れた木板からなる接合層16が介装されていることによって、突板12と基材層30とが、強固に接合されている。このため、車室内でも温度変化の激しい箇所に、木質化粧板10が使用されても、突板12と基材層30とが剥離するようなことも、効果的に防止され得る。
さらに、本実施形態では、本木シート26の突板12の意匠面20側にクリア層28を射出成形するのに先立って、基材層30が、本木シート26の接合層16の裏面上に射出成形されている。このため、例えば、基材層30の射出成形前にクリア層28を射出成形する場合とは異なって、クリア層28の射出成形時に、クリア層28を形成するアクリル樹脂の射出圧によって、接合層16の裏面に存在する凹凸部や孔部が潰れてしまうようなことが有利に回避され、以て、そのような凹凸部や孔部の潰れによりアンカー効果が低下して、基材層30の接合層16に対する接合性が低下してしまうようなことが、未然に防止され得ることとなる。
また、本実施形態の木質化粧板10においては、下塗層22の存在により、突板12に樹脂が含浸して、光の屈折等により、突板12が透けて見えることによって、意匠性が低下してしまうという問題の発生が、有利に阻止されている。即ち、下塗層22によって、アクリルシラップ38の塗工時や、基材層30やクリア層28の射出成形の際、溶融樹脂や金型の熱により、接着層24が軟化した時に、アクリルシラップ38乃至は接着層24を構成するアクリル樹脂が突板12に含浸してしまうようなことが、有利に阻止されているからである。
そして、接着層24が熱可塑性のアクリル樹脂からなるところから、本木シート26の形成からの時間の経過や、基材層30の形成時の溶融樹脂及び金型の熱による影響等によって、接着層24とクリア層28との接合性が低下してしまうようなことがない特徴がある。更に、クリア層28を形成する際の接着層24の硬化状態を確認する必要等もないことから、本実施形態のように、基材層30及びクリア層28の形成を、二色成形手法によって効率的に実施することが可能となる。
なお、上述せる如き木質化粧板10の製造においては、アクリルシラップ38の塗工に先立って、下塗層22の表面を研磨することが望ましい。けだし、下塗層22においては、その硬化が表面から進行するものであるところから、図6(a)に示されるように、相対的に硬化の進行が速い(架橋度の高い)表面部位22aと、相対的に硬化の進行が遅い(架橋度の低い)内側部位22bとが形成されるようになる。そこで、下塗層22の表面を研磨することによって、その表面部位22aを除去して、図6(b)に示されるように、内側部位22bが露出せしめられるようにされるのである。そして、そのようにして露出せしめられた不完全硬化状態の面(下塗層22)に対して、アクリルシラップ38が塗工されることにより、下塗層22中の未架橋のアクリル樹脂とアクリルシラップ38中のアクリル樹脂とを効果的に相溶させることが可能となり、下塗層22と接着層24との接合強度を更に有利に高めることが可能となるのである。また、かかる研磨処理によって、下塗層22の表面に微細な凹凸が形成されることにより、アンカー効果が発揮せしめられて、下塗層22と接着層24との接合強度をより一層高めることが出来るという利点も生じるのである。
以上、本発明の代表的な実施形態の一つについて詳述してきたが、それは、あくまでも例示に過ぎないものであって、本発明は、そのような実施形態に係る具体的な記述によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。
例えば、図7(a)及び(b)には、本発明手法に従って製造された木質化粧板の別の実施形態が、断面形態において示されている。本実施形態の木質化粧板40は、突板12の表面に、ポリエステル系ウレタン塗料を硬化させて得られる塗膜層42が形成されていること以外は、前記第一の実施形態に係る木質化粧板10と、同様な構造とされている。それ故、第一の実施形態の木質化粧板10と同様な構造とされた部分については、同一の符号を付すことにより、詳細な説明を省略することとする。
そして、そこでは、かかる塗膜層42を形成するために用いられるポリエステル系ウレタン塗料が、比較的粘度の低いものであるため、図7(b)に示されるように、突板12の表面に存在する微細な空隙44を効果的に埋めることが出来る。そのため、かかる空隙44に起因してクリア層28の表面に凹凸が生じることを、有利に阻止乃至は抑制することが出来るのである。
また、ポリエステル系ウレタン塗料(塗膜層42)に含まれるイソシアネートが、突板12の木質組織乃至は繊維組織を構成するセルロース中に含まれる水酸基とウレタン結合を形成することにより、塗膜層42が、突板12と化学的に結合せしめられ、更に、それに加えて、充分なアンカー効果が発揮されることとなる。それによって、塗膜層42と突板12とが、化学的に、更には物理的に極めて強固に接合されるのである。そして、このような塗膜層42の上には、下塗層22が形成されることとなるが、塗膜層42と下塗層22とは同じウレタン塗料からなるものであるため、互いにウレタン結合することにより強固に接合されるようになる。このため、塗膜層42の形成(介在)によって、下塗層22の剥離強度が低下することはなく、以て、クリア層28の剥離強度が著しく低下してしまうようなこともないのである。
さらに、図8には、本発明手法に従って製造された木質化粧板の他の実施形態が、断面形態において示されている。本実施形態の木質化粧板46は、クリア層48がポリカーボネート樹脂にて形成されていると共に、かかるクリア層48の上に、ハードコート層50が形成されていること以外は、前記第一の実施形態に係る木質化粧板10と、同様な構造とされている。それ故、第一の実施形態の木質化粧板10と同様な構造とされた部分については、同一の符号を付すことにより、詳細な説明を省略することとする。
この図8に示される実施形態では、ポリカーボネート樹脂が耐衝撃性の高い樹脂材料であるところから、クリア層48の耐衝撃性が有利に高められている。しかしながら、ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性に優れる反面、硬度が低いため、耐傷付き性が充分でなく、クリア層48表面が傷付き易いものとなってしまうため、かかるクリア層48の上に、硬度が高いハードコート層50を形成することで、クリア層48の表面が保護されるようになっている。
そこにおいて、ハードコート層50は、無色透明な樹脂塗膜にて形成されていることが好ましく、またそのハードコート層50を形成するための樹脂塗料としては、ポリウレタン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、アミノアルキッド樹脂系塗料等のクリア塗料が、例示され得る。また、かかるハードコート層50の形成は、上記のような塗料を用いた塗装に何等限られるものではなく、例えば、アクリル樹脂を射出成形する等の公知の層形成手法が、採用可能である。
なお、補強層14は、前述せる如き材料の中でも、特に、高い伝熱性を有する金属薄板にて構成されていることが、望ましく、そうすることにより、前述せるような、基材層30やクリア層28の射出成形に際して、溶融樹脂の熱が、射出成形用の金型と補強層14の両方に伝達されるようにして、それによって、熱影響による突板12の意匠面20の変色等の不具合の発生が、効果的に防止され得るようになる。尤も、このような補強層14は、本発明において必須のものではなく、省略可能である。
また、接合層16は、補強層14よりも、合成樹脂製の基材層30に対する接合性乃至は密着性が高いものであれば、その材質が、特に限定されるものではない。それ故、補強層14が金属薄板からなる場合には、接合層16として、例えば、木綿からなる天然織布、或いはガラス繊維やカーボン繊維等を編織した繊維シート、更には各種の不織布等が、木板に代えて採用可能である。また、補強層14が各種の織布や不織布等にて構成される場合、若しくは補強層14が設けられない場合には、接合層16を省略することも出来る。勿論、接合層16を公知の接着剤にて構成しても、何等差支えないのである。
さらに、例示の実施形態のように、基材層30に一体形成された被覆層31が、クリア層28の突板12側(図1における下側)の面に固着せしめられている場合、かかる基材層30の形成材料としては、上記に例示した熱可塑性樹脂の中でも、クリア層28を形成する透明な樹脂材料(アクリル樹脂又はポリカーボネート樹脂)と良好に熱融着する樹脂材料、具体的には、ABS樹脂や、ポリカーボネート/ABS樹脂、ガラス繊維強化ABS樹脂等が、有利に用いられることとなる。
更にまた、下塗層22を形成するアクリル系ウレタン塗料中に、所定の顔料を添加、混合して、下塗層22を着色するようにすることも可能である。そこで、下塗層22は、透明なアクリル系ウレタン塗料を用いて透明な状態で形成し、この下塗層22の突板12側とは反対側の面上に、顔料が添加、混合されたアクリル系ウレタン塗料からなる着色層を、更に形成するようにしても良い。この場合には、着色層を不完全硬化状態とした状態で、アクリルシラップ38の塗工が実施されることとなる。また、突板12を公知の方法で染色したり、或いは突板12の意匠面20にワイピング等により顔料を染み込ませるようにしても良い。
なお、望ましくは、基材層30の射出成形操作は、クリア層28の射出成形操作に先立って、実施されることとなる。
加えて、本発明手法は、自動車用内装部品以外にも、家具や建築材、家電製品等の各種の物品の表皮材として用いられる木質化粧板の何れに対しても、有利に適用され得る。
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。