[発明の特徴]
本実施形態に係る二次電池は、正極と負極とを備える電極体と、この電極体を収容する外装体と、を備える二次電池であって、前記負極中の負極活物質は、シリコン酸化物中に連続相のリチウムシリケート相を有することを特徴とする。
また、負極活物質に係る別の実施形態は、シリコン酸化物中のリチウムシリケート連続相付近にシリコンを有することを特徴とする。
また、本実施形態に係る負極活物質の製造方法は、スピノーダル分相を形成するリチウムとシリコンの酸化物の組成比において、混和温度から急冷する工程と、スピノーダル分相を形成する温度領域で加熱処理をする工程を有することを特徴とする。
また、負極活物質の製造方法に係る別の実施形態は、スピノーダル分相を形成するリチウムとシリコンの酸化物の組成比において、混和温度から急冷する工程と、活物質表面を炭素材料で被覆する工程と、スピノーダル分相を形成する温度領域で加熱処理をする工程を有することを特徴とする。
また、負極活物質の製造方法に係る別の実施形態は、スピノーダル分相を形成するリチウムとシリコンの酸化物の組成比において、混和温度から急冷する工程と、活物質表面を炭素材料で被覆する工程と、スピノーダル分相を形成する温度領域で加熱処理をする工程と、シリコン酸化物からシリコンを生成する加熱工程を有することを特徴とする。
[作用]
リチウムシリケート相が連続相となることで、活物質内のリチウムイオンなどのアルカリ金属イオンの拡散性が向上することにより、電流値を増加させても二次電池の充放電効率やサイクル特性が良好となる。また、リチウムシリケート相付近にシリコンが存在することで、負極活物質の重量あたりの容量が増加する。また、負極活物質層表面の炭素層の存在によって、イオン伝導性に加え、電気伝導性も向上するため、電流値を増加させた際の、二次電池の充放電効率やサイクル特性が一層向上する。また、従来のシリコン酸化物系負極活物質よりもイオン伝導性や電気伝導性が向上するため、負極の塗布膜を厚くしても抵抗の上昇を抑制できるため、厚膜負極を用いた場合における電流値増加時の二次電池の充放電効率やサイクル特性が良好となる。
以下に本発明の各実施の形態について説明する。各図は発明の説明と理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の装置と異なる箇所があるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
本実施形態による二次電池の断面図を図1に示す。図1に示すように、本実施形態による二次電池は、アルミニウム箔等の金属からなる正極集電体3と、その上に設けられた正極活物質を含有する正極活物質層1とからなる正極、及び銅箔等の金属からなる負極集電体4と、その上に設けられた負極活物質を含有する負極活物質層2とからなる負極を有する。正極および負極は、正極活物質層1と負極活物質層2とが対向するように、不織布やポリプロピレン微多孔膜などからなるセパレータ5を介して積層されている。正極および負極はセパレータを介在させて渦巻き状に捲回された構造とすることもできる。この電極対は、アルミニウムラミネートフィルム等の外装体6、7で形成された容器内に収容されている。正極集電体3には正極タブ9が接続され、負極集電体4には負極タブ8が接続され、これらのタブは容器の外に引き出されている。容器内には電解液が注入され封止される。複数の電極対が積層された電極群が容器内に収容された構造とすることもできる。
本発明の実施形態による正極および負極は、リチウムイオンを吸蔵および放出し得る材料を含む。正極および負極には、リチウム以外のアルカリ金属イオンを吸蔵および放出し得る材料をも含むことができる。
以下、負極、正極、電解質、セパレータ、外装部材、正極端子、負極端子について説明する。
(負極)
本実施形態に係る負極は、負極集電体と、負極集電体の片面または両面に担持され、負極活物質、結着剤を含む負極活物質層とを有する。
負極活物質は、シリコン酸化物中に連続相のリチウムシリケート相を有することを特徴とする。リチウムシリケート相が連続相となることで、活物質内においてリチウムイオンなどのアルカリ金属イオンの拡散性が向上する。加えて、初回充電時に生じるアルカリ金属とシリコン酸化物によるアルカリ金属シリケート合成反応を抑制でき、初回充放電効率を向上できる。
リチウムシリケートとしては、Li4SiO4、Li2SiO3、Li2Si2O5、Li8SiO6、Li2Si3O7等が挙げられる。
リチウムシリケートとしては、Li4SiO4を主成分とすることが好ましい。Li4SiO4は特に化学的に安定であり、Li2SiO3などに対しアルカリ金属イオン、特にリチウムイオン伝導性を有するため、活物質内のアルカリ金属イオンの拡散を向上し、大電流特性を向上できるためである。
なお、後述する製造方法を用いた場合、シリケート相の主成分はLi4SiO4となる。
また、リチウムシリケート相内には、スピノーダル分相を形成する組成内において、他の化合物を含んでも良い。他の化合物として、酸化リチウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化鉛、酸化ホウ素、酸化リン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、シリコン、リン、水酸化リチウム、およびこれらとシリコン酸化物との反応物などが挙げられる。これらの化合物を含む場合は、特に制限されるものではないが、上記化合物とリチウムシリケートとの総量の対して、上記化合物が1mol%以上30mol%以下であることが好ましい。
連続相のリチウムシリケート相は、電子顕微鏡によって観察することができる。
シリコン酸化物は、SiOx(0<x≦2.0)であることが好ましい。負極活物質の重量あたりの容量を向上させる観点から、より好ましくはSiOx(0.8≦x≦1.6)であり、特に好ましくはSiOx(1.0≦x≦1.1)である。
シリコン酸化物は、その全部または一部がアモルファス構造を有することが好ましい。アモルファス構造のシリコン酸化物を有することで、充放電時の活物質の体積変化率を抑制でき、二次電池のサイクル特性を向上できる。アモルファス構造はエックス線回折測定(一般的なXRD測定)にて確認することができる。
また、シリコン酸化物は、主成分がアモルファス状のSiO2であることが好ましい。主成分がアモルファス状のSiO2になることで、充放電時の負極の体積膨張を抑制することができる。
本実施形態において、リチウムシリケートの連続相を有するシリコン酸化物の形状は、特に制限されるものではないが、シリコン酸化物相とリチウムシリケート相が、互いに絡み合った3次元網目状の構造を形成していることが好ましい。
リチウムシリケート相とシリコン酸化物相の比率は特に限定されないが、リチウムシリケート相がシリコン酸化物相に対して、好ましくは2mol%以上45mol%以下、より好ましくは5mol%以上35mol%以下であることが好ましい。
また、シリコン酸化物相とリチウムシリケート相の境界面から300nm以内に含まれるシリコン酸化物が、シリコン酸化物全重量の50%以上、好ましくは80%以上であることが好ましい。
また、シリコン酸化物中のリチウムシリケート連続相付近にシリコンを有することが好ましい。シリコンがシリケート相付近に存在することで、リチウムシリケート相を拡散したアルカリ金属イオンと効率的に反応し、充放電効率が向上する。さらに、負極活物質の重量あたりの容量が向上する。
本実施形態において、リチウムシリケート連続相付近にシリコンが存在するとは、シリコン酸化物相とリチウムシリケートの連続相の境界面から100nm以内に存在するシリコンが、シリコンの全重量の5%以上であり、より好ましくは10%以上であることを表す。
本実施形態において、シリコンの含有量は特に限定されないが、シリコン酸化物に対して20%以上200%以下(モル比)であることが好ましく、より好ましくは60%以上150%以下(モル比)、さらに好ましくは90%以上〜110%(モル比)である。
シリコンは、リチウムを吸蔵放出する際の膨張収縮が大きく、この応力を緩和するためにできるだけ微細化されて分散されていることが好ましい。具体的には、通常300nm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは10nm以下のサイズのクラスターとして分散されていることが好ましい。本発明のシリコンは、透過型電子顕微鏡観察(一般的なTEM観察)で確認することができる。
また、負極活物質表面は、炭素材料で被覆されていることが好ましい。炭素材料で被覆されることで、イオン伝導性に加え電気伝導性も向上するため、電流値を増加させた際の、二次電池の充放電効率やサイクル特性が一層向上する。
負極活物質表面に被覆する炭素材料としては、黒鉛、グラフェン、非晶質黒鉛、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、またはこれらの複合物を用いることができる。ここで、結晶性の高い黒鉛は、電気伝導性が高く、銅などの金属からなる負極集電体との接着性および電圧平坦性が優れている。一方、結晶性の低い非晶質炭素は、体積膨張が比較的小さいため、負極全体の体積膨張を緩和する効果が高く、かつ結晶粒界や欠陥といった不均一性に起因する劣化が起きにくい。
負極活物質の被覆炭素量は、被覆処理後の複合活物質粒子全体に対し、0質量%でも構わないが、1質量%以上50質量%以下とすることが好ましく、2質量%以上30質量%以下とすることがより好ましい。
負極活物質は特に制限するものではないが、粒子状のものを用いることができる。平均粒径は0.1〜30μmが好ましく、0.2〜20μmがより好ましい。負極活物質の平均粒径を0.1μm以上とすることによって、比表面積が大きくなって、二次電池用負極剤として用いた際に電池容量が低下することを抑制することができる。また、嵩密度が小さくなりすぎることが防止され、単位体積当たりの充放電容量が低下することも防ぐことができる。さらに、負極の形成も容易なものとなる。また、平均粒径を30μm以下とすることによって、電極に塗布した際に異物となって、電池特性が著しく低下することを防止することができる。加えて、電極形成が容易になり、集電体(銅箔等)から剥離する恐れを極力小さいものとすることができる。なお、本発明における平均粒径とは、レーザー光回析法による粒度分布測定において累積重量が50%となる時の粒子径(メジアン径)のことである。
負極活物質のBET比表面積は0.5〜30m2/gが好ましく、1〜20m2/gがより好ましい。BET比表面積が0.5m2/g以上であれば、表面活性を大きなものとでき、電極作製時の結着剤の結着力が小さくなって電池特性が低下することや、充放電を繰り返した時のサイクル特性を良好にできる。また、30m2/g以下であれば、電極作製時の溶媒の吸収量や結着剤の消費量が多くなることを防止することができる。なお、本発明におけるBET比表面積とは、窒素ガス吸着量によって測定した時の値である。
本発明において、連続相のリチウムシリケート相を有するシリコン酸化物の他に、アルカリ金属イオンを吸蔵放出し得る材料を負極活物質として含んでも良い。
アルカリ金属イオンを吸蔵放出し得る材料としては、公知の材料を使用することができ、例えば、黒鉛、グラフェン、非晶質黒鉛、ダイヤモンド状炭素、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンなどの炭素材料、Al、Si、Pb、Sn、Zn、Cd、Sb、In、Bi、Ag、Ba、Ca、Hg、Pd、Pt、Te、Laなどの金属、チタン酸リチウム、シリコン酸化物、スズ酸化物、銅酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、鉄酸化物、鉛酸化物などの酸化物、金属硫化物、金属窒化物が挙げられる。
以上の負極活物質は、連続相のリチウムシリケート相を有するシリコン酸化物に、単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
次に、本発明における本実施形態における、連続相のリチウムシリケート相を有するシリコン酸化物の製造方法について説明するが、製造方法は以下の方法に限定されるものではない。
本実施形態において、連続相のリチウムシリケート相を有するシリコン酸化物の製造方法は、スピノーダル分相を形成するリチウムとシリコンの酸化物の組成比において、不活性ガス雰囲気下において、混和温度以上に加熱する工程、急冷する工程およびスピノーダル分相を形成する温度領域で加熱処理をする工程を有することを特徴とする。
リチウムとシリコンの酸化物の組成比は、スピノーダル分解が起きるLi2OとSiO2の公知の比率が好ましい。組成比は、例えば、図2に示す「ガラス工学ハンドブック」、朝倉書店、1999年、192頁に記載されている分相域を表す図や、図3に示す“Journal of the American Ceramic Society”,volume74,Issue8、p.1839のFig.8に記載されている比率の範囲内を使用することができる。
分相を形成する組成比は、急冷条件等やLi以外のアルカリ金属を含むこと等によっても変化するが、一例として、リチウムとシリコンの酸化物がLi2O−SiO22成分系であるときの分相を形成する組成比はLi2Oがおよそ2mol%〜31mol%である。
連続相のリチウムシリケート相を有するシリコン酸化物の原料としては、例えば、酸化リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウム、ケイ酸リチウムおよびこれらの水和物や、金属リチウムなどから選択した一種以上のリチウム原料と、シリコン酸化物やケイ酸リチウムなどから選択した一種以上のシリコン酸化物原料と、を用いることができる。
シリコン酸化物原料は、シリコンとSiO2の混合物、またはこれらを非酸化性雰囲気下であらかじめ焼成したもの、SiO2を水素などの還元性のガスで焼成したもの、SiO2を所定の量の炭素または金属などと混合し所定の量まで還元したもの、シリコンを酸素ガスあるいは酸化物と共に焼成し所定の量まで酸化したもの、シランなどのシリコン化合物のガスと酸素ガスを混合し加熱反応あるいはプラズマ分解反応により所定量まで酸化したもの、などを用いることができる。
また、上記リチウム原料とシリコン酸化物原料に加えて、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化ルビジウム、酸化セシウム、五酸化二リン、ニ酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化鉛、酸化マグネシウム、酸化ホウ素などを用いることができる。
リチウムとシリコンの酸化物の混和温度までの昇温速度は、特に制限はないが、生産性の観点から毎分4℃以上2000℃以下であることが好ましく、より好ましくは、毎分10℃以上2000℃以下である。
リチウムとシリコンの酸化物の混和温度は、リチウムとシリコンの酸化物の組成比において、液相になる温度以上であることを特徴する。液相となる温度として、例えば、図3のLIQUIDの範囲内を使用することができる。なお、リチウム以外のアルカリ金属などを含むことにより混和温度が変わる場合は、その組成において混和する温度を用いる。
混和温度での保持時間は、リチウムとシリコンの酸化物が混和状態であれば制限はないが、生産性の観点から、0.1時間以上100時間以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.5時間以上70時間以下である。
混和後の冷却速度は、急冷を特徴とする。急冷とは、混和状態からスピノーダル分解を発生する温度までの冷却速度が10℃/秒以上であることを示す。冷却速度は早いほど好ましく、100℃/秒以上がより好ましく、106℃/秒以上がさらに好ましい。冷却速度を早くすることにより、スピノーダル分相の形状が制御しやすくなり、充放電効率やサイクル特性が向上する。リチウムとシリコンの酸化物の組成比において、スピノーダル分相を形成する上限温度よりも200℃以上低い温度まで、上記冷却速度を維持することがより好ましい。前記温度まで冷却速度を維持することで、リチウムシリケート、シリコン酸化物、およびシリコンの不均一な核生成を抑制でき、二次電池のサイクル特性を向上できる。冷却下限温度は特に制限は無いが、生産性の観点から室温以上が好ましい。
冷却方法は上記の冷却速度条件を満たす公知の方法を用いることができ、例えば、プレス法、空冷法、液体窒素急冷法、「ニューガラスハンドブック」、丸善、1992年、172頁記載の単ローラー法、双ローラー法、などを用いてもよい。
冷却後の再加熱工程は、スピノーダル分相を形成する温度領域で加熱処理をすることを特徴とする。スピノーダル分相を形成する温度は、リチウムとシリコンの酸化物の組成において、たとえば図3の点線の範囲以下である。本実施形態において、加熱温度は、スピノーダル分相を形成する温度領域の上限を超えない範囲で、800℃以上が好ましい。800℃以上にすることでシリコン酸化物からシリコンが生成しやすくなり、負極活物質の重量あたりの容量が向上する。なお、リチウム以外のアルカリ金属などを含むことによりスピノーダル分相を形成する温度が変わる場合は、その組成においてスピノーダル分相を形成する温度を加熱温度とする。また、加熱時間は10分以上が好ましく、15分以上がより好ましい。また、加熱時間は7日以下が好ましく、3日以下がより好ましい。加熱終了後はスピノーダル分相を形成する温度領域の下限温度以下まで冷却することが好ましく、生産性の観点から室温まで冷却することがより好ましい。
加熱および冷却工程におけるガス雰囲気は、特に制限されるものではないが、公知の不活性ガス雰囲気を使用することができ、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、クリプトン、キセノン等、およびこれらの混合物を挙げることができる。ただし、原料にシリコンを混合した場合またはリチウム金属を含む場合は、酸素量を制限したガスが好ましい。酸素量を制限することで、スピノーダル分相処理工程終了後のシリコンの量の減少を抑制でき、負極活物質の重量あたりの容量を向上できる。好ましい酸素量は5%体積以下であり、特に好ましくは酸素量1%体積以下である。残りは、窒素、アルゴン、ヘリウム、クリプトン、キセノンなどの不活性ガスの単独またはこれらの混合物である。
本実施形態における連続相のリチウムシリケート相を有するシリコン酸化物に炭素材料を被覆する工程は、メカニカルミリング法、溶融炭化法、蒸着法等をその目的において適宜選択することができる。
メカニカルミリング法とは、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス、炭素繊維などのメカニカミリング時において溶融しない導電性炭素系材料と連続相のリチウムシリケート相を有するシリコン酸化物とを所定量混合した後、除熱が十分に確保された装置内で、混合する方法である。混合装置としては、ボールミルが例示される。
溶融炭化法とは、石油系ピッチ、メソフェーズピッチなどのピッチ系材料、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコールなどの炭化可能な高分子、クエン酸などの炭化可能な低分子有機物と連続相のリチウムシリケート相を有するシリコン酸化物とを所定量混合後、不活性ガス雰囲気下で加熱処理する方法である。溶融法における加熱温度は400℃以上が好ましく、導電性向上のためには700℃以上が好ましい。特に好ましくは800℃以上である。また、加熱時の上限温度は、リチウムシリケート相を有するシリコン酸化物のスピノーダル分解を発生する上限温度である。また、溶融炭化法を800℃以上で実施する際は、前述のスピノーダル分相を形成する再加熱工程を省略しても良い。
蒸着法とは、常圧下または減圧下で600〜1000℃、好ましくは800〜1000℃で、有機物ガスまたは蒸気を導入して熱CVDを施す方法である。有機物ガスを発生する原料として用いられる有機物としては、特に非酸化性雰囲気下において、上記熱処理温度で熱分解して炭素を生成し得るものが選択され、例えば、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、プロパン、ブタン、ブテン、ペンタン、イソブタン、ヘキサン等の炭化水素から選択される1種もしくは2種以上の混合物、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、クマロン、ピリジン、アントラセン、フェナントレン等の1環〜3環の芳香族炭化水素から選択される1種もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、タール蒸留工程で得られるガス軽油、クレオソート油、アントラセン油、ナフサ分解タール油も単独でもしくは2種以上の混合物として用いることができる。加熱時の上限温度は、リチウムシリケート相を有するシリコン酸化物のスピノーダル分解を発生する上限温度が好ましい。また、蒸着法を800℃以上で実施する際は、前述のスピノーダル分相を形成する再加熱工程を省略しても良い。
本発明の負極活物質を所定の粒子サイズにするには、スピノーダル分相処理後に粉砕または分級、または粉砕しかつ分級する方法を用いることが好ましい。粉砕方法としては、乾式粉砕法、溶媒を媒体とした湿式粉砕法が用いることができる。湿式粉砕法では用いられる溶媒としては、取扱い性および安全性の観点から例えば、水、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、N,N−ジメチルホルムアミドなどが好ましい。使用する溶媒の量としては、粉末材料の1/10〜20倍が好ましく、1/5〜10倍が特に好ましい。粉砕方法として好ましくは、乾式粉砕法及び水を媒体とした湿式粉砕法のいずれかまたは両方が用いられる。粉砕機としては、例えば、乳鉢、ボールミル、円振動ボールミル、旋動振動ミル、衛星ボールミル、遊星ボールミル、旋回気流型ジェットミル、ポットミル、遠心ミル、タワーミル、サンドミル、アトライター、セントリミル、ダイノミル、ローラーミル、ピンミル、チューブミル、ロッドミル、ジョークラッシャーなどが用いられるが、好ましくは旋回気流型ジェットミル、ボールミル、振動ボールミルによる粉砕方法である。さらに、所定の粒径に合わせるために分級することが好ましく、風力分級装置(例えばサイクロン)や篩などが好ましく用いられる。篩で分級する場合は乾式法または水等の溶媒を用いた湿式法が好ましい。また、粉砕や分級の温度は、用いる材料、溶媒の種類にもよるが、5〜150℃が好ましく、10〜90℃がより好ましい。
また、本発明における他の実施形態では、化学気相成長法等によって、連続相のリチウムシリケート相を有するシリコン酸化物を製造してもよく、その場合は、必要に応じて、シリコン酸化物からシリコンを生成する工程、炭素材料を被覆する工程および粉砕・分級する工程を組み合わせることができる。
本発明の負極活物質に、リチウムシリケート相からなる連続相を有する範囲において、リンやホウ素をドープしても良い。リンやホウ素をドープすることで、負極活物質の電気伝導性が向上し二次電池において、電流値を増加させた際の、二次電池の充放電効率やサイクル特性が一層向上する。
本発明の負極には、必要に応じて導電剤を添加してもよい。導電剤を添加することで、集電性能を高めることができる。導電剤としては、公知のものが使用でき、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。
負極用結着剤としては、特に制限されるものではないが、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミドが挙げられる。
負極結着剤の含有量は、負極活物質と負極結着剤の総量に対して1〜30質量%の範囲であることが好ましく、2〜25質量%であることがより好ましい。1質量%以上とすることにより、活物質同士あるいは活物質と集電体との密着性が向上し、サイクル特性が良好になる。また、30質量%以下とすることにより、活物質比率が向上し、負極容量を向上することができる。また、ポリイミドやポリアミドイミドの前駆体である低分子物を用いる際は、電極塗工後に、硬化処理を施すことが好ましい。硬化方法に制限はないが、ポリマーを生成する温度まで加熱する熱硬化方法などが挙げられる。
負極集電体としては、特に制限されるものではないが、電気化学的な安定性から、アルミニウム、ニッケル、銅、銀、およびこれらの2種以上を含む合金が好ましい。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。
負極は、負極集電体上に、負極活物質と負極用結着剤を含む負極活物質層を形成することで作製することができる。負極活物質層は、一般的なスラリー塗布法で形成することができる。具体的には、負極活物質、結着剤および溶媒を含むスラリーを調製し、これを負極集電体上に塗布し、乾燥し、必要に応じて圧縮し、成形することで、負極を得ることができる。負極スラリーの塗布方法としては、ドクターブレード法、ダイコーター法、ディップコーティング法が挙げられる。予め負極活物質層を形成した後に、蒸着、スパッタ等の方法でアルミニウム、ニッケルまたはそれらの合金の薄膜を集電体として形成して、負極を得ることもできる。
(正極)
本実施形態に係る正極は、正極集電体と、正極集電体の片面または両面に担持され、正極活物質、導電剤および結着剤を含む正極活物質層とを有する。
正極活物質としては、特に限定されず、通常の二次電池用正極を用いることができる。例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiNi0.80Co0.15Al0.15O2、LiMn2O4、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiNi0.5Mn1.5O4、LiFePO4、NASICON型、リチウム遷移金属シリコン複合酸化物等のリチウム含有複合酸化物が挙げられる。これらのリチウム含有複合酸化物の遷移金属部分を他の元素で置換したものでもよく、これらのリチウム含有複合酸化物の混合物でもよい。
正極活物質としては、LiMnO2、LixMn2O4(0<x<2)等の層状構造を持つマンガン酸リチウムまたはスピネル構造を有するマンガン酸リチウム;LiCoO2、LiNiO2またはこれらの遷移金属の一部を他の金属で置き換えたもの;LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2などの特定の遷移金属が半数を超えないリチウム遷移金属酸化物;これらのリチウム遷移金属酸化物において化学量論組成よりもLiを過剰にしたもの等が挙げられる。二次電池の高エネルギー密度化の観点からは、LiαNiβCoγAlδO2(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.7、γ≦0.2)、LiαNiβCoγMnδO2(1≦α≦1.2、β+γ+δ=1、β≧0.6、γ≦0.2)、または充電曲線がリチウム金属に対して4.5V以上の領域を含む材料が好ましい。充放電曲線の測定条件としては、充放電電流を正極活物質の質量あたりで5mA/g、充電終止電圧を5.2V、放電終止電圧を3Vに設定することができる。
充電曲線がリチウム金属に対して4.5V以上の領域を含む材料としては、スピネル系材料、層状系材料、オリビン系材料が挙げられる。
充電曲線がリチウム金属に対して4.5V以上の領域を含むスピネル系材料としては、下記式(1):
Lia(MxMn2−x−yYy)(O4−wZw) (1)
[式(1)中、xは、0≦x≦1.2、好ましくは0.4<x<1.1であり、yは、0≦y、好ましくは0≦y<0.5であり、かつ、x+y<2、0≦a≦1.2、0≦w≦1である。Mは、Co、Ni、Fe、Cr、またはCuから選ばれる少なくとも一種を含み、Yは、Li、B、Na、Al、Mg、Ti、Si、K、またはCaから選ばれる少なくとも一種を含み、Zは、FおよびClのうち少なくとも一方を含む。]で表され、リチウムに対して4.5V以上の高電位で動作する材料として、例えば、LiNi0.5Mn1.5O4、LiCoMnO4、LiCrMnO4、LiFeMnO4、LiCu0.5Mn1.5O4などがより好ましい。また、これらの材料の固溶体や、これらの材料に、Al、Mg、B、Si、Ti、その他金属元素が少量添加された正極活物質であってもよい。
オリビン系材料は、下記式(2):
LiMPO4 (2)
[式(2)中、Mは、遷移金属であり、Fe、Mn、Co、またはNiから選択されるいずれか一種以上を含むことが好ましく、CoまたはNiのいずれか一方であることがより好ましい。]で表され、例えば、LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、LiNiPO4などが挙げられる。また、これらの材料において、遷移金属の一部を別の元素で置換したり、酸素部分をフッ素で置換したりしたものを使用してもよい。高エネルギー密度の観点から、上記式(2)において、Mに少なくともCo、Niのうちの少なくとも一種を含むと、リチウムに対して4.5V以上の高電位で動作するため好ましい。
層状系材料は、下記式(3):
Li(LixM1−x−zMnz)O2 (3)
[式(3)中、0≦x<0.3、0.3≦z≦0.7であり、MはCo、Ni、またはFeから選ばれる少なくとも一種である。]で表される化合物を挙げることができる。
正極活物質は、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの正極活物質の比表面積は、例えば0.01〜5m2/gであり、0.05〜4m2/gが好ましく、0.1〜3m2/gがより好ましく、0.2〜2m2/gがさらに好ましい。比表面積をこのような範囲とすることにより、電解液との接触面積を適当な範囲に調整することができる。すなわち、比表面積を0.01m2/g以上とすることにより、リチウムイオンの挿入脱離がスムーズに行われ易くなり、抵抗をより低減することができる。また、比表面積を5m2/g以下とすることにより、電解液の分解が促進することや、活物質の構成元素が溶出することをより抑制することができる。比表面積は、通常のBET比表面積測定法により測定できる。
前記正極活物質の中心粒径は、0.01〜50μmであることが好ましく、0.02〜40μmがより好ましい。粒径を0.01μm以上とすることにより、正極活物質の構成元素の溶出をより抑制でき、また、電解液との接触による劣化をより抑制できる。また、粒径を50μm以下とすることにより、リチウムイオンの挿入脱離がスムーズに行われ易くなり、抵抗をより低減することができる。中心粒径は、50%累積径D50(メジアン径)であり、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって測定できる。
正極用結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミドが挙げられる。中でも、汎用性や低コストの観点から、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。使用する正極用結着剤の量は、トレードオフの関係にある結着力とエネルギー密度の観点から、正極活物質100質量部に対して2〜10質量部が好ましい。
正極集電体としては、電気化学的な安定性の観点から、例えば、アルミニウム、ニッケル、銀、ステンレス鋼(SUS)、バルブメタル、又はそれらの合金を用いることができる。その形状としては、箔、平板状、メッシュ状が挙げられる。特にアルミニウム箔を好適に用いることができる。
正極活物質を含む正極材料には、インピーダンスを低下させる目的で、導電補助材を添加してもよい。導電補助材としては、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック等の炭素質微粒子が挙げられる。
正極は、例えば、正極活物質、結着剤及び溶媒(さらに必要により導電補助材)を含むスラリーを調製し、これを正極集電体上に塗布し、乾燥することにより、正極集電体上に正極活物質層を形成することにより作製できる。
(セパレータ)
正極と負極との間に設けられるセパレータとしては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂およびセルロース等からなる多孔質ポリマー膜や織布、不織布、あるいはイオン伝導性ポリマー電解質膜が挙げられる。これらは単独または組み合わせで使用することができる。また、セパレータ表面には、安全性の向上等、必要に応じてセラミック材料が付着または固着しても良い。
(電解液)
本実施形態において、電解液は、非水電解溶媒として、環状カーボネートを含むことが好ましい。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)などが挙げられる。また、これら化合物の水素の一部又は全部がフッ素で置換されていてもよい。環状カーボネートは一種を単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。ECやPCは誘電率が高く電解質の溶解性に優れるので好ましく、ECがより好ましい。
また、4.5V以上の高電位で正極活物質を動作させる場合は、環状カーボネートよりも耐酸化性の高い溶媒を併用したほうが良い。耐酸化性の高い溶媒としては、フッ素化エーテル、スルホン化合物、フッ素化リン酸エステルなどが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
本実施形態において、フッ素化エーテル化合物は、下記式(4)で表される。
(式(4)中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して、アルキル基又はフッ化アルキル基を示し、R
1及びR
2のうち少なくとも一方はフッ化アルキル基である。)
また、R
1およびR
2の炭素数の合計が10以下であることが好ましい。
また、式(4)中、フッ化アルキル基におけるフッ素原子の含有率はフッ素原子と水素原子の合計に対して50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。フッ素原子の含有率が多いと、耐電圧性がより向上し、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する正極活物質を用いた場合でもサイクル後における電池容量の劣化をより有効に低減することが可能である。
フッ素化エーテル化合物としては、例えば、CF3OCH3、CF3OC2H5、F(CF2)2OCH3、F(CF2)2OC2H5、CF3(CF2)CH2O(CF2)CF3、F(CF2)3OCH3、F(CF2)3OC2H5、F(CF2)4OCH3、F(CF2)4OC2H5、F(CF2)5OCH3、F(CF2)5OC2H5、F(CF2)8OCH3、F(CF2)8OC2H5、F(CF2)9OCH3、CF3CH2OCH3、CF3CH2OCHF2、CF3CF2CH2OCH3、CF3CF2CH2OCHF2、CF3CF2CH2O(CF2)2H、CF3CF2CH2O(CF2)2F、HCF2CH2OCH3、(CF3)(CF2)CH2O(CF2)2H、H(CF2)2OCH2CH3、H(CF2)2OCH2CF3、H(CF2)2CH2OCHF2、H(CF2)2CH2O(CF2)2H、H(CF2)2CH2O(CF2)3H、H(CF2)3CH2O(CF2)2H、H(CHF)2CH2O(CF2)2H、(CF3)2CHOCH3、(CF3)2CHCF2OCH3、CF3CHFCF2OCH3、CF3CHFCF2OCH2CH3、CF3CHFCF2CH2OCHF2、CF3CHFCF2OCH2(CF2)2F、CF3CHFCF2OCH2CF2CF2H、H(CF2)4CH2O(CF2)2H、CH3CH2O(CF2)4F、F(CF2)4CH2O(CF2)2H、H(CF2)2CH2O(CF2)2HO(CF2)3Hなどが挙げられる。
前記フッ素化エーテル化合物のうち、下記式(4−1)で表されるフッ素化エーテル化合物がより好ましい。
X1−(CX2X3)n−O−(CX4X5)m−X6 (4−1)
(式(4−1)中、n、mはそれぞれ独立に1〜8である。X1〜X6は、それぞれ独立に、フッ素原子または水素原子である。ただし、X1〜X3の少なくとも1つはフッ素原子であり、X4〜X6の少なくとも一つはフッ素原子である。)
フッ素化エーテル化合物は、耐電圧性と他の電解質との相溶性の観点から、下記式(4−2)で表される化合物であることが更に好ましい。
X1−(CX2X3)n−CH2O−CX4X5−CX6X7−X8 (4−2)
(式(4−2)中、nは1〜8であり、X1〜X8は、それぞれ独立に、フッ素原子または水素原子である。ただし、X1〜X3の少なくとも1つはフッ素原子であり、X4〜X8の少なくとも一つはフッ素原子である。)
式(4−2)において、nが2以上のとき、複数個存在するX2は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数個存在するX3は互いに同一であっても異なっていてもよい。
また、さらに、耐電圧性と他の電解質との相溶性の観点から、フッ素化エーテル化合物は、下記式(4−3)で表されることがより好ましい。
H−(CY1Y2−CY3Y4)n−CH2O−CY5Y6−CY7Y8−H (4−3)
(式(4−3)において、nは1、2、3または4である。Y1〜Y8は、それぞれ独立に、フッ素原子または水素原子である。ただし、Y1〜Y4の少なくとも1つはフッ素原子であり、Y5〜Y8の少なくとも1つはフッ素原子である。)
式(4−3)において、Y1〜Y4は、nが2以上のとき、複数個存在するX2は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数個存在するX3は互いに同一であっても異なっていてもよい。
フッ素化エーテル化合物の含有量が前記非水電解溶媒中15体積%以上90体積%以下であることが好ましく、40体積%以上90体積%以下であることがより好ましく、50体積%以上90体積%以下であることがより好ましく、50体積%以上80体積%以下であることが更に好ましい。フッ素化エーテル化合物の含有率が少なすぎると、電解液の粘度が高くなるため導電性が低下し、サイクルでの容量低下を招く。フッ素化エーテル化合物の含有率が多すぎると、電解液の誘電率が下がり、支持塩が解離できなくなり、同様に容量低下が起こる。なお、フッ素化エーテル化合物は一種を単独でまたは二種以上を混合して用いることができる。
本実施形態において、スルホン化合物は、下記式(5)で表される(以下、「式(5)で表されるスルホン化合物」を、単に「スルホン化合物」と記載することもある)。
(式(5)において、R
1及びR
2は、それぞれ独立に、置換または無置換のアルキル基を示す。R
1の炭素原子とR
2の炭素原子が単結合又は二重結合を介して結合し、環状構造を形成していてもよい)
式(5)で表されるスルホン化合物において、R
1の炭素数n
1、R
2の炭素数n
2はそれぞれ1≦n
1≦12、1≦n
2≦12であることが好ましく、1≦n
1≦6、1≦n
2≦6であることがより好ましく、1≦n
1≦3、1≦n
2≦3であることが更に好ましい。また、アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のものを含む。
R1及びR2において、置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基)、炭素数6〜10のアリール基(例えば、フェニル基、ナフチル基)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)等が挙げられる。
また、スルホン化合物は下記式(5−1)で表される環状スルホン化合物であることが好ましい。
(式(5−1)中、R
3は、置換または無置換のアルキレン基を示す。)
R
3において、アルキレン基の炭素数は4〜9であることが好ましく、4〜6であることが更に好ましい。
R3において、置換基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基)、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子)等が挙げられる。
また、環状スルホン化合物は下記式(5−2)で表される化合物であることがより好ましい。
(式(5−2)中、mは1〜6の整数である。)
式(5−2)において、mは、1〜6の整数であり、1〜3の整数であることが好ましい。
式(5−1)で表される環状スルホン化合物としては、例えば、テトラメチレンスルホン、ペンタメチレンスルホン、ヘキサメチレンスルホン等が好ましく挙げられる。また、置換基を有する環状スルホン化合物として、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホランなどが好ましく挙げられる。これらの材料は、フッ素化エーテル化合物と相溶性を持つと共に、比較的高い誘電率を有するため、リチウム塩の溶解/解離作用に優れるという利点がある。
また、スルホン化合物は、鎖状スルホン化合物であってもよい。鎖状スルホン化合物としては、例えば、エチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、エチルイソブチルスルホン、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン等が挙げられる。これらのうちエチルメチルスルホン、エチルイソプロピルスルホン、エチルイソブチルスルホンが好ましい。これらの材料は、フッ素化エーテル化合物と相溶性を持つと共に、比較的高い誘電率を有するため、リチウム塩の溶解/解離作用に優れるという利点がある。
スルホン化合物は1種を単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
スルホン化合物の含有量は、非水電解溶媒中5体積%以上75体積%以下であることが好ましく、5体積%以上50体積%以下であることがより好ましい。スルホン化合物の含有率が少なすぎると電解液の相溶性が低下し、含有率が多すぎると、電解液の粘度が高くなり、特に室温でのサイクル特性の容量低下を招く。
本実施形態において、フッ素化リン酸エステルは、下記式(6)で表される。
(式(6)において、R
1、R
2、R
3は、それぞれ独立に、アルキル基またはフッ化アルキル基を示し、これらのうち少なくとも1つがフッ化アルキル基である。)
フッ化アルキル基とは、少なくとも1つのフッ素原子を有するアルキル基である。式(6)において、R
1、R
2およびR
3の炭素数は、それぞれ独立に、1〜3であることが好ましい。R
1、R
2およびR
3の少なくとも1つは、対応する無置換のアルキル基が有する水素原子の50%以上がフッ素原子に置換されたフッ化アルキル基であることが好ましい。また、R
1、R
2およびR
3の全てがフッ化アルキル基であり、R
1、R
2およびR
3が対応する無置換のアルキル基の水素原子の50%以上がフッ素原子に置換されたフッ化アルキル基であることがより好ましい。フッ素原子の含有率が多いと、耐電圧性がより向上し、リチウムに対して4.5V以上の電位で動作する正極活物質を用いた場合でも、サイクル後における電池容量の劣化をより低減することできるからである。また、フッ化アルキル基における水素原子を含む置換基中のフッ素原子の比率は55%以上がより好ましい。
フッ素化リン酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、リン酸トリス(トリフルオロメチル)、リン酸トリス(ペンタフルオロエチル)、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)(TTFP)、リン酸トリス(2,2,3,3−テトラフルオロプロピル)、リン酸トリス(3,3,3−トリフルオロプロピル、リン酸トリス(2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピル)等のフッ素化アルキルリン酸エステル化合物が挙げられる。中でも、フッ素化リン酸エステル化合物として、リン酸トリス(2,2,2−トリフルオロエチル)(TTFP)が好ましい。フッ素化リン酸エステルは、一種を単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
非水電解溶媒に含まれるフッ素化リン酸エステルの含有率は、特に制限されるものではないが、非水電解溶媒中0体積%以上95体積%以下が好ましく、10体積%以上95体積%以下がより好ましく、20体積%以上70体積%以下がさらに好ましい。フッ素含有リン酸エステルの非水電解溶媒中の含有率が10体積%以上であると、耐電圧性を高める効果がより向上する。また、フッ素含有リン酸エステルの非水電解溶媒中の含有率が95体積%以下であると、電解液のイオン伝導性が向上して電池の充放電レートがより良好になる。
フッ素化リン酸エステルも耐酸化性が高いため5V級活物質を用いた場合の溶媒の酸化分解を抑えることができる。その結果、充放電サイクルの容量維持率の向上やガス発生を低減することができる。
本実施形態において、非水電解溶媒は、脂肪族カルボン酸エステル、γ−ラクトン、環状エーテル、上記以外の鎖状エーテル等を含んでもよい。脂肪族カルボン酸エステルとしては、例えば、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル、およびこれらの誘導体(フッ素化物を含む)が挙げられる。γ−ラクトンとしては、例えば、γ−ブチロラクトンおよびその誘導体(フッ素化物を含む)が挙げられる。環状エーテルとしては、例えば、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびその誘導体(フッ素化物を含む)が挙げられる。鎖状エーテルとしては、例えば、1,2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)、ジエチルエーテル、およびこれらの誘導体(フッ素化物を含む)が挙げられる。これらは一種を単独で、または二種以上を混合して用いることができる。
その他、非水電解溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン(例えば、1,3−ジオキソラン)、アセトニトリル、プロピルオニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、アニソール、N−メチルピロリドン、およびこれらの誘導体(フッ素化物を含む)を用いることもできる。
本実施形態において、電解液は、添加剤として下記式(7)で表される環状スルホン酸エステルをさらに含むことが好ましい。電解液が環状スルホン酸エステルを含有すると、環状スルホン酸エステルが正極表面に被膜を形成することにより、電解液の反応を抑え体積膨張を抑制することができる。
(式(7)中、A及びBは、それぞれ独立に、アルキレン基又はフッ化アルキレン基を示す。Xは、単結合又は−OSO
2−基を示す)
式(7)において、アルキレン基の炭素数は、例えば1〜8であり、好ましくは1〜6であり、より好ましくは1〜4である。
フッ化アルキレン基とは、無置換アルキレン基のうちの少なくとも一つの水素原子がフッ素原子で置換された構造を有する置換アルキレン基を表す。式(7)において、フッ化アルキレン基の炭素数は、例えば1〜8であり、好ましくは1〜6であり、より好ましくは1〜4である。
なお、−OSO2−基は、どちらの向きであってもよい。
式(7)において、Xが単結合の場合、環状スルホン酸エステルは環状モノスルホン酸エステルとなり、環状モノスルホン酸エステルは下記式(7−1)で表される化合物であることが好ましい。
(式(7−1)中、R
101及びR
102は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは0、1、2、3、又は4である。)
式(7)において、Xが−OSO2−基の場合、環状スルホン酸エステルは環状ジスルホン酸エステルとなり、環状ジスルホン酸エステルは下記式(7−2)で表される化合物であることが好ましい。
(式(7−2)中、R
201〜R
204は、それぞれ独立に、水素原子、フッ素原子、又は炭素数1〜4のアルキル基を示す。nは1、2、3、又は4である。また、nが2以上の場合、複数個存在するR
203は互いに同一であっても異なっていてもよく、複数個存在するR
204は、互いに同一であっても異なっていてもよい。)
環状スルホン酸エステルとしては、例えば、1,3−プロパンスルトン、1,2−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,2−ブタンスルトン、1,3−ブタンスルトン、2,4−ブタンスルトン、1,3−ペンタンスルトン等のモノスルホン酸エステル(式(7)中のXが単結合の場合)、メチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル等のジスルホン酸エステル(式(7)中のXが−OSO2−基の場合)などが挙げられる。これらの中でも、被膜形成効果、入手容易性、コストの点から、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、メチレンメタンジスルホン酸エステルが好ましい。
環状スルホン酸エステルの電解液中の含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましく、0.3〜3質量%であることがさらに好ましい。環状スルホン酸エステルの含有量が0.01質量%以上の場合、正極表面に被膜をより効果的に形成して電解液の分解を抑制することができる。環状スルホン酸エステルの含有量が10質量%以下の場合、電解液の粘度や導電性をより適正な範囲内に調整することで、20℃での充電で理論容量に近い初期容量を確保することができる。
本実施形態において、非水電解液は、非水電解溶媒にリチウム塩からなる電解質が溶解されたものである。リチウム塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、リチウムイミド塩、LiPF6、LiAsF6、LiAlCl4、LiClO4、LiBF4、LiSbF6等が挙げられる。これらのなかでも、LiPF6、LiBF4が好ましい。リチウムイミド塩としては、例えば、LiN(CkF2k+1SO2)(CmF2m+1SO2)(kおよびmは、それぞれ自然数であり独立して1または2であることが好ましい)が挙げられる。リチウム塩は、1種を単独で用いることができ、2種以上を組み合わせて用いることもできる。リチウム塩の電解液中の濃度は、0.5〜1.5mol/Lであることが好ましい。リチウム塩の濃度をこの範囲とすることにより、密度や粘度、電気伝導率等を適切な範囲に調整し易い。
(電池の形状および外装)
電池の形状としては、例えば、円筒形、角形、コイン型、ボタン型、ラミネート型が挙げられる。
ラミネート型の場合、電極及びセパレータが平面形状のまま積層されており、Rの小さい部分(捲回構造の巻き芯に近い領域または扁平型捲回構造の折り返す部位にあたる領域)が存在しない。そのため、充放電に伴う体積変化が大きい活物質を用いた場合、捲回構造を持つ電池に比べて、充放電に伴う電極の体積変化による悪影響を受けにくい。
電池の外装体としては、例えば、ステンレス、鉄、アルミニウム、チタン、又はこれらの合金、あるいはこれらのメッキ加工品が挙げられる。メッキとしては例えばニッケルメッキを用いることができる。電池の形状がラミネート型の場合は、外装体としてラミネートフィルムが好ましい。
ラミネートフィルムとしては、例えば、熱溶着層と金属箔層とが積層されたフィルムを用いることができる。ラミネートフィルムの樹脂基材層上の金属箔層としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン箔が挙げられる。ラミネートフィルムの熱溶着層(樹脂基材層)の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性高分子材料が挙げられる。また、ラミネートフィルムの樹脂基材層や金属箔層はそれぞれ1層に限定されるものではなく2層以上であってもよい。汎用性やコストの観点から、アルミニウムラミネートフィルムが好ましい。
外装体としてラミネートフィルムを用いた場合、外装体として金属缶を用いた場合に比べて、ガス発生に起因する電池の体積変化や電極の歪みが生じやすい。これは、ラミネートフィルムが金属缶に比べて電池の内圧により変形しやすいためである。さらに、外装体としてラミネートフィルムを用いた二次電池を封止する際には、通常、電池内圧を大気圧より低くし、内部に余分な空間がないため、電池内でガスが発生した場合に直ちに電池の体積変化や電極の変形につながりやすい。また、ラミネート型電池の場合は、捲回構造をもつ電池に比べて電極間にガスが発生した際に電極間に滞留しやすいため電極間の間隔が広がり易い傾向があり、ラミネートフィルム外装体を用いると、この傾向はより顕著になる。しかし、本実施形態によれば、このような問題の発生を抑えることができ、ラミネートフィルム外装体を用いたラミネート型電池であっても、長期信頼性に優れた二次電池を提供することができる。
以下に実施例を説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明は以下に掲載される実施例に限定されるものでない。
(実施例1)
炭酸リチウム(和光純薬製、特級)4gと一酸化ケイ素(大阪チタニウム社製)27gとを白金るつぼ内に仕込んだ後、反応炉内でアルゴンガスを10NL/minで流通させつつ1500℃の温度で30分加熱して溶解させた後、溶解物を双ロール法で室温まで冷却した。冷却速度は106℃/秒であった。
得られた反応物を粗粉砕後、粉砕物20gに人造黒鉛粉末20gを加え、アルミナ製ボールミルにて120rpmで18時間処理を行った。上記の処理した粉末を、アルミナ製るつぼに入れた後、アルゴン雰囲気下900℃で5時間加熱処理した。
上記処理後の粉末を電子顕微鏡にて観察したところ、2種の相が互いに絡み合った、スピノーダル分解により形成された分相構造を有していた。また、29Si−NMR測定の結果、−66ppmにピークがあり、シリケート相はLi4SiO4が主成分であった。また、シリコン由来のピークも29Si−NMRから確認した。
(比較例1)
一酸化ケイ素(大阪チタニウム製)18gとオルトケイ酸リチウム(Li4SiO4)2gとをアルミナ製ボールミルにて120rpmで18時間処理を行い、さらに人造黒鉛20gを加え、120rpmで18時間処理した。処理後の粉末を、アルミナ製るつぼに入れた後、アルゴン雰囲気下900℃で5時間加熱処理した。
上記処理後の粉末を電子顕微鏡にて観察したところ、2種の相が互いに絡み合ったスピノーダル分解により形成された分相構造を有していなかった。
実施例1および比較例1において得られた活物質について、充放電特性を評価した。
(充放電試験)
得られた試料に平均径6μmのグラファイト30wt%、ポリフッ化ビニリデン12wt%を添加し分散媒としてN−メチルピロリドンを用いて混練し、厚さ15μmの銅箔上に塗布した後、100℃で12時間真空乾燥し試験電極とした。対極および参照極を金属Li、電解液をLiPF6を1Mとなるように溶解したEC/DMC(体積比1:2)溶液とした電池を露点―50℃の低水分雰囲気中で作製した。
充放電試験の条件は、参照極と試験電極間の電位差0.01Vまで1mA/cm2の電流密度で充電、さらに0.01Vで8時間の定電圧充電を行い、放電は1mA/cm2の電流密度で1.5Vまで行った。
充放電試験において、充電容量および放電容量は、充電または放電の開始から終了するまでに流れた電気量とした。また、初回充放電効率は、1サイクル目の放電容量の、1サイクル目の充電容量に対する百分率として求めた。
次に同様に参照極と試験電極間の電位差0.01Vまで1mA/cm2の電流密度で充電、さらに0.01Vで8時間の定電圧充電を行い、放電を10mA/cm2の電流密度で1.5Vまで行った。放電時の電流密度1mA/cm2の際の容量に対する10mA/cm2の際の容量の比を比較して大電流特性を評価した。
また、参照極と試験電極間の電位差0.01Vまで1mA/cm2の電流密度で充電、1mA/cm2の電流密度で1.5Vまで放電するサイクルを100回行い1サイクル目に対する100サイクル目の放電容量の維持率を測定した。
表1に、実施例および比較例について、連続相を有するリチウムシリケート相の有無と、評価結果と、を示す。
表1に示すように、リチウムシリケートの連続相を有することで、初回充放電効率、サイクル特性ともに向上することがわかる。
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれらに限られず、特許請求の範囲に記載の発明の要旨の範疇において様々に変更可能である。また、本発明は、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成できる。