JP6116448B2 - ゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法、ゴム組成物ならびに空気入りタイヤ - Google Patents

ゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法、ゴム組成物ならびに空気入りタイヤ Download PDF

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Description

本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料とするゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法、ゴム組成物ならびに空気入りタイヤに関する。
従来から、ゴム業界においては、カーボンブラックなどの充填材を含有するゴム組成物を製造する際の加工性や充填材の分散性を向上させるために、ゴムウエットマスターバッチを用いることが知られている。これは、充填材と分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力で充填材を分散溶媒中に分散させた充填材含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液と、を液相で混合し、その後、酸などの凝固剤を加えて凝固させたものを回収して乾燥するものである。ゴムウエットマスターバッチを用いる場合、充填材とゴムとを固相で混合して得られるゴムドライマスターバッチを用いる場合に比べて、充填材の分散性に優れ、加工性や補強性などのゴム物性に優れるゴム組成物が得られる。このようなゴム組成物を原料とすることで、例えば転がり抵抗が低減され、耐疲労性能に優れた空気入りタイヤなどのゴム製品を製造することができる。
一般に、天然ゴムラテックス溶液は、pHが9.5〜11であると、ゴムコロイド粒子がマイナスに帯電し、ゴムコロイド粒子間の反発が大きくなることで安定化している。かかる天然ゴムラテックス溶液にギ酸、硫酸などの酸を添加し、溶液のpHを3〜6にコントロールすることで、ゴムコロイド粒子を不安定化させて、互いに凝集・凝固させる方法が一般的である。しかしながら、かかる方法では、充填材の分散性能を均一に保った状態でゴムコロイド粒子を凝集・凝固させないと、最終的に得られるゴムウエットマスターバッチ中の充填材の分散性が悪化する。したがって、ゴムウエットマスターバッチを製造する際、スラリー溶液および/またはラテックス溶液のpH調整には工夫の余地がある。
下記特許文献1では、天然ゴムウエットマスターバッチの製造方法において、凝固剤を添加することなしに、凝固工程における液相のpHを8〜10に調整しつつ、攪拌下に温度を制御することにより、ラテックスを凝固させる技術が記載されている。
下記特許文献2では、ゴムラテックスとカーボンブラックの水分散スラリ−を液相で混合する工程、凝固工程および乾燥工程を有するカーボンブラック含有ゴムウエットマスターバッチを製造する方法において、カーボンブラックの水分散スラリーのpHを7.0以下に調整後、ゴムラテックスと混合する技術が記載されている。
特開2006−328135号公報 特開2007−197549号公報
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、上記先行技術には以下の問題があることが判明した。具体的には、上記特許文献1に記載の技術は、酸を使用することなく、機械的な撹拌エネルギーのみによってラテックスを凝固させる技術であり、凝固工程前の液相のpH調整に工夫が無いため、カーボンブラックの分散不良が発生する懸念がある。また、上記特許文献2に記載の技術では、カーボンブラックの水分散スラリーのpHを7.0以下に調整する点が記載されているが、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液については、一切言及が無く、ましてやそのpHを調整する点についても記載されているわけではない。
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、充填材の分散性能が良好であり、低発熱性能および耐疲労性能に優れた加硫ゴムの原料となるゴムウエットマスターバッチおよびゴム組成物を提供することにある。
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち本発明は、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料とするゴムウエットマスターバッチの製造方法であって、前記充填材を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液を製造する工程(I)と、前記スラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(II)と、酸を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固させる工程(III)とを含み、前記工程(III)における、前記酸を添加する前の、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液のpHを7.5〜8.5に調整し、前記工程(I)後に得られる、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液のpHを7.1以上に調整することを特徴とするゴムウエットマスターバッチの製造方法、に関する。
上記製造方法によれば、充填材を分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液を製造する(工程(I))。これにより、充填材の表面の一部あるいは全部に、極薄いラテックス相が生成し、工程(II)において残りのゴムラテックス溶液と混合する際、充填材の再凝集を防止することができ、かつゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固させる工程(III)においても、充填材の再凝集を抑制することができる。その結果、充填材が均一に分散し、経時的にも充填材の分散安定性に優れたゴムウエットマスターバッチを製造することができる。かかるウエットマスターバッチは充填材が均一に分散し、かつ経時的な分散材の再凝集も抑制されているため、これを原料として得られる加硫ゴムでは、低発熱性能および耐疲労性能が著しく向上する。
なお、上記製造方法では、単に充填材を分散溶媒中に分散させてスラリー溶液を製造する場合に比べて、スラリー溶液中の充填材の分散性に優れ、かつ充填材の再凝集を防止することができるため、スラリー溶液の保存安定性にも優れるという効果も奏する。
本発明においては、工程(III)において、酸を添加する前の、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液のpHを7.5〜8.5に調整する点が特徴である。酸を添加する前の、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液のpHを最適な範囲とすることにより、充填材の分散性能を高めたまま、ゴムラテックスを凝固させることができる。
酸を添加する前の、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液のpHが7.5未満であると、ゴムラテックス溶液中でのゴムラテックス粒子の自己凝集が発生し、充填材の分散性が不十分な状態でゴムラテックスの凝固が発生する場合がある。一方、酸を添加する前の、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液のpHが8.5を超えると、ゴムラテックス粒子の帯電マイナス電荷が大きすぎて、ゴムラテックス粒子が付着した充填材との親和性が低くなり、やはり充填材の分散性が不十分な状態でゴムラテックスの凝固が発生する場合がある。
さらに、本発明においては、工程(I)後に得られる、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液のpHを7.1以上に調整する点も特徴である。本発明においては、表面に、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液を使用するが、かかる溶液のpHが7.1未満であると、充填材表面に付着したゴムラテックス粒子同士の吸着・凝集が発生し易く、結局のところ、充填材同士の凝集に伴う分散不良が発生し易くなる。しかしながら、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液のpHを7.1以上に調整することにより、本発明においては、充填材同士の凝集を防止し、充填材の分散性能を高めたまま、ゴムラテックスを凝固させることができる。
上記ゴムウエットマスターバッチの製造方法において、前記ゴムラテックス溶液のpHを10.2以下に調整することが好ましい。この場合、酸を添加する前の、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液のpHを7.5〜8.5に調整し易くなる。
本発明に係るゴムウエットマスターバッチは、前記いずれかの製造方法により得られたものである。かかるゴムウエットマスターバッチは、充填材が均一に分散し、経時的な充填材の分散安定性に優れたゴムウエットマスターバッチであって、低発熱性能および耐疲労性能に優れた加硫ゴムの原料となり得る。
本発明に係るゴム組成物は、前記いずれかに記載のゴムウエットマスターバッチを用いて得られたものである。かかるゴム組成物は、含有する充填材が均一に分散し、経時的な充填材の分散安定性に優れる。したがって、例えば、かかるゴム組成物を用いて得られた空気入りタイヤは、低発熱性能および耐疲労性能に優れる。
本発明に係るゴムウエットマスターバッチは、充填材を分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液を製造後(工程(I))、スラリー溶液と残りのゴムラテックス溶液とを混合し(工程(II))、次いで凝固することにより得られる(工程(III))。
本発明において、充填材とは、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウムなど、ゴム工業において通常使用される無機充填材を意味する。上記無機充填材の中でも、本発明においてはカーボンブラックを特に好適に使用することができる。
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。
分散溶媒としては、特に水を使用することが好ましいが、例えば有機溶媒を含有する水であってもよい。
ゴムラテックス溶液としては、天然ゴムラテックス溶液および合成ゴムラテックス溶液を使用することができる。
天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。本発明において使用する天然ゴムラテックス中の天然ゴムの数平均分子量は、200万以上であることが好ましく、250万以上であることがより好ましい。合成ゴムラテックス溶液としては、例えばスチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムを乳化重合により製造したものがある。
以下に、本発明に係るゴムウエットマスターバッチの製造方法について説明する。特に、本実施形態では、充填材としてカーボンブラック、ゴムラテックス溶液として、天然ゴムラテックス溶液を使用した例について説明する。この場合、カーボンブラックの分散度合いが非常に高く、かつ加硫ゴムとしたときの低発熱性能および耐疲労性能をさらに向上したゴムウエットマスターバッチを製造することができる。また天然ゴムラテックスについては濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなど区別なく使用できる。
かかる製造方法は、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、天然ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する工程(I)と、スラリー溶液と、残りの天然ゴムラテックス溶液とを混合して、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(II)と、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を凝固する工程(III)とを含む。
(1)工程(I)
工程(I)では、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、天然ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する。天然ゴムラテックス溶液は、あらかじめ分散溶媒と混合した後、カーボンブラックを添加し、分散させても良い。また、分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで所定の添加速度で、天然ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良く、あるいは分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで何回かに分けて一定量の天然ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良い。天然ゴムラテックス溶液が存在する状態で、分散溶媒中にカーボンブラックを分散させることにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造することができる。工程(I)における天然ゴムラテックス溶液の添加量としては、使用する天然ゴムラテックス溶液の全量(工程(I)および工程(II)で添加する全量)に対して、0.5〜50質量%が例示される。
工程(I)では、添加する天然ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量が、カーボンブラックとの質量比で0.5〜10%であることが好ましく、1〜6%であることが好ましい。また、添加する天然ゴムラテックス溶液中の固形分(ゴム)濃度が、0.5〜5質量%であることが好ましく、0.5〜1.5質量%であることがより好ましい。これらの場合、天然ゴムラテックス粒子をカーボンブラックに確実に付着させつつ、カーボンブラックの分散度合いを高めたゴムウエットマスターバッチを製造することができる。
工程(I)において、天然ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合する方法としては、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。
上記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断作用を生み出すためには、ローターとステーターとのクリアランスを0.8mm以下とし、ローターの周速を5m/s以上とすることが好ましい。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えばSILVERSON社製「ハイシアーミキサー」が挙げられる。
本発明においては、天然ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合し、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する際、カーボンブラックの分散性向上のために界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、ゴム業界において公知の界面活性剤を使用することができ、例えば非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン系界面活性剤などが挙げられる。また、界面活性剤に代えて、あるいは界面活性剤に加えて、エタノールなどのアルコールを使用しても良い。ただし、界面活性剤を使用した場合、最終的な加硫ゴムのゴム物性が低下することが懸念されるため、界面活性剤の配合量は、天然ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、実質的に界面活性剤を使用しないことが好ましい。
工程(I)において製造されるスラリー溶液中、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックは、90%体積粒径(μm)(「D90」)が、31μm以上であることが好ましく、35μm以上であることがより好ましい。この場合、スラリー溶液中のカーボンブラックの分散性に優れ、かつカーボンブラックの再凝集を防止することができるため、スラリー溶液の保存安定性に優れると共に、最終的な加硫ゴムの低発熱性能、耐久性およびゴム強度にも優れる。なお、本発明において天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックのD90は、カーボンブラックに加えて、付着した天然ゴムラテックス粒子も含めて測定した値を意味するものとする。
本発明においては、工程(I)後に得られる、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液のpHを7.1以上に調整する。かかるスラリー溶液のpH調整方法は特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニアなどの塩基をスラリー溶液に添加することでpHを調整する方法が挙げられる。工程(I)後に得られる、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液のpHの上限は特に限定されないが、例えば9.0程度が挙げられる。
(2)工程(II)
工程(II)では、スラリー溶液と、残りの天然ゴムラテックス溶液とを混合して、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する。スラリー溶液と、残りの天然ゴムラテックス溶液とを液相で混合する方法は特に限定されるものではなく、スラリー溶液および残りの天然ゴムラテックス溶液とを高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用して混合する方法が挙げられる。必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温してもよい。
残りの天然ゴムラテックス溶液は、次工程(III)での乾燥時間・労力を考慮した場合、工程(I)で添加した天然ゴムラテックス溶液よりも固形分(ゴム)濃度が高いことが好ましく、具体的には固形分(ゴム)濃度が10〜60質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。
なお、酸を添加する前の、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液のpHを7.5〜8.5に調整することを容易にするために、残りの天然ゴムラテックス溶液のpHは、10.2以下に調整することが好ましい。残りの天然ゴムラテックス溶液のpHを調整する方法としては、例えば、ギ酸、硫酸、ホウ酸、クエン酸などの酸を添加する方法や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニアなどの塩基をスラリー溶液に添加する方法が挙げられる。
(3)工程(III)
工程(III)では、酸を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固させる。凝固剤として作用する酸としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などが挙げられる。
工程(III)において、酸を添加する前の、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液のpHを7.5〜8.5に調整する方法としては、工程(II)において、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液を製造する際、得られる混合溶液を適宜、加熱、減圧脱揮する方法や、クエン酸、乳酸、炭酸水素ナトリウムなどのpH調整剤を適宜添加する方法が挙げられる。
工程(III)における凝固段階の後、凝固物を含む溶液を乾燥させることでゴムウエットマスターバッチを得る。凝固物を含む溶液の乾燥方法としては、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
工程(III)後に得られるゴムウエットマスターバッチは、ゴム100質量部に対して充填材を40〜80質量部含有することが好ましい。この場合、充填材の分散度合いと、加硫ゴムとしたときの低発熱性能および耐疲労性能とを、バランス良く向上したゴムウエットマスターバッチを製造することができる。
工程(III)後に得られる天然ゴムウエットマスターバッチは、含有するカーボンブラックが均一に分散し、経時的なカーボンブラックの分散安定性に優れる。
工程(III)後に得られるゴムウエットマスターバッチにおいて、必要に応じて硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を配合することにより、本発明に係るゴム組成物を製造することができる。
硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係るタイヤゴム用ゴム組成物における硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.3〜6質量部であることが好ましい。硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下し、6質量部を超えると、特に耐熱性および耐久性の両方が悪化する。加硫ゴムのゴム強度を良好に確保し、耐熱性と耐久性をより向上するためには、硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して1.5〜5.5質量部であることがより好ましく、2.0〜4.5質量部であることがさらに好ましい。
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1.0〜5.0質量部であることがより好ましく、1.5〜4.0質量部であることがさらに好ましい。
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.5〜6.0質量部であることがより好ましく、1.0〜4.5質量部であることがさらに好ましい。
本発明に係るゴム組成物は、ゴムウエットマスターバッチに加えて、必要に応じて、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、老化防止剤、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
上述したとおり、本発明に係るゴムウエットマスターバッチは、含有する充填材が均一に分散し、経時的な充填材の分散安定性に優れることから、これを用いて製造されたゴム組成物も、やはり含有する充填材が均一に分散し、経時的な充填材の分散安定性に優れる。特に、このゴム組成物を用いて製造された空気入りタイヤ、具体的にはトレッドゴム、サイドゴム、プライもしくはベルトコーティングゴム、またはビードフィラーゴムに本発明に係るゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、充填材が良好に分散したゴム部を有することとなるため、例えば転がり抵抗が低減され、かつ低発熱性能および耐疲労性能に優れる。
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。使用原料および使用装置は以下のとおりである。
(使用原料)
a)充填材
カーボンブラック「N110」;「シースト9」(東海カーボン社製)
カーボンブラック「N330」;「シースト3」(東海カーボン社製)
カーボンブラック「N550」;「シーストSO」(東海カーボン社製)
カーボンブラック「N774」;「シーストS」(東海カーボン社製)
b)分散溶媒 水
c)ゴムラテックス溶液
天然ゴム濃縮ラテックス溶液;レヂテックス社製(DRC(Dry Rubber Content))=60%
天然ゴムラテックス溶液(NRフィールドラテックス);(Golden Hope社製)(DRC=31.2%
d)凝固剤 ギ酸(一級85%、10%溶液を希釈して、pH1.2に調整したもの)、「ナカライテスク社製」
e)酸化亜鉛 3号亜鉛華、三井金属社製
f)ステアリン酸 日油社製
g)ワックス 日本精蝋社製
h)老化防止剤
(A)N−フェニル−N'−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン「6PPD」、(モンサント社製)
(B)2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体「RD」、(大内新興化学社製)
i)硫黄 鶴見化学工業社製
j)加硫促進剤
(A)N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド 「サンセラーCM」(三新化学工業社製)
(B)1,3−ジフェニルグアニジン 「ノクセラーD」(大内新興化学社製)
(評価)
評価は、各ゴム組成物を所定の金型を使用して、150℃で30分間加熱、加硫して得られたゴムについて行った。
(加硫ゴムの低発熱性能)
JIS K6265に準じて、製造した加硫ゴムの低発熱性能を、損失正接tanδにより評価した。なお、tanδは、UBM社製レオスペクトロメーターE4000を使用し、50Hz、80℃、動的歪2%の状態で測定し、その測定値を指標化した。評価は、実施例1〜3および比較例1〜6については、比較例1を100としたときの指数評価で示し、実施例4については、比較例7を100としたときの指数評価で示し、実施例5については、比較例8を100としたときの指数評価で示し、実施例6については、比較例9を100としたときの指数評価で示した。数値が小さいほど低発熱性能に優れることを意味する。
(加硫ゴムの耐疲労性能)
製造した加硫ゴムの耐疲労性能を、JIS K6260に準拠して評価した。評価は、実施例1〜3および比較例1〜6については、比較例1を100としたときの指数評価で示し、実施例4については、比較例7を100としたときの指数評価で示し、実施例5については、比較例8を100としたときの指数評価で示し、実施例6については、比較例9を100としたときの指数評価で示した。数値が大きいほど良好な耐疲労性能を示す。
実施例1
0.5質量%に調整した希薄ラテックス水溶液にカーボンブラック60質量部を添加し、これにPRIMIX社製ロボミックスを使用してカーボンブラックを分散させることにより(該ロボミックスの条件:9000rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液を製造した(工程(I))。表1に「工程(I)後に得られる、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液のpH」を「スラリー溶液のpH」と省略して示す。
次に、工程(I)で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液に、残りの天然ゴムラテックス溶液(固形分(ゴム)濃度25質量%となるように水を添加して調整されたもの)を、工程(I)で使用した天然ゴムラテックス溶液と合わせて、固形分(ゴム)量で100質量部となるように添加し、次いでSANYO社製家庭用ミキサーSM−L56型を使用して混合し(ミキサー条件11300rpm、30分)、カーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を製造した(工程(II))。表1に「工程(II)において添加する、残りの天然ゴムラテックス溶液のpH」を「天然ゴムラテックス溶液のpH」と省略して示す。
工程(II)で製造されたカーボンブラック含有天然ゴムラテックス溶液を加熱することにより、「工程(III)における、酸を添加する前の、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液のpH」を表1に記載の値に調整した。その後、凝固剤としてギ酸10質量%水溶液をpH4になるまで添加した(工程(III))。凝固物をスエヒロEPM社製スクリュープレスV−02型で水分率1.5%以下まで乾燥することにより、天然ゴムウエットマスターバッチを製造した。表1に「工程(III)における、酸を添加する前の、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液のpH」を「凝固前のカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液のpH」と省略して示す。
得られた天然ゴムウエットマスターバッチに表1に記載の各種添加剤を配合してゴム組成物とし、その加硫ゴムの物性を測定した。結果を表1に示す。
比較例1
ゴムウエットマスターバッチを製造する方法に代えて、通常のドライ混合により、天然ゴム、カーボンブラック、および各種添加剤を配合することにより、天然ゴムマスターバッチを製造したこと以外は、実施例1と同様の方法によりゴム組成物および加硫ゴムを製造した。加硫ゴムの物性を表1に示す。
実施例2〜6および比較例2〜9
「工程(III)における、酸を添加する前の、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有ゴムラテックス溶液のpH」、「工程(I)後に得られる、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液のpH」、および「工程(II)において添加する、残りの天然ゴムラテックス溶液のpH」を表1および表2に示す値に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により天然ゴムウエットマスターバッチ、ゴム組成物および加硫ゴムを製造した。加硫ゴムの物性を表1および表2に示す。
表1および表2の結果から、実施例1〜3で得られるゴムウエットマスターバッチを原料として得られるゴム組成物の加硫ゴムは、低発熱性能および耐疲労性能に優れることがわかる。また、カーボンブラックの種類を変更した実施例4〜6で得られるゴムウエットマスターバッチを原料として得られるゴム組成物の加硫ゴムでも、同様の効果が得られることがわかる。なお、実施例2〜3では、「工程(II)において添加する、残りの天然ゴムラテックス溶液のpH」を10.2以下に調整しているため、実施例1の加硫ゴムに比して、耐疲労性能に優れることがわかる。
一方、比較例2,3では、「工程(III)における、酸を添加する前の、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液のpH」が8.5を超えるため、最終的に得られる加硫ゴムは、低発熱性能および耐疲労性能に劣ることがわかる。また、比較例4,5では、「工程(III)における、酸を添加する前の、ゴムラテックス粒子が付着した充填材含有ゴムラテックス溶液のpH」が7.5未満であるため、工程(II)において不均一な凝固が進行し、結果として、最終的に得られる加硫ゴムの低発熱性および耐疲労性能が悪化することがわかる。さらに、比較例6では、「工程(I)後に得られる、ゴムラテックス粒子が付着した充填材を含有するスラリー溶液のpH」が7.1未満であるため、最終的に得られる加硫ゴムの低発熱性および耐疲労性能が悪化することがわかる。

Claims (2)

  1. 少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料とするゴムウエットマスターバッチの製造方法であって、
    前記充填材を前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液を製造する工程(I)と、
    前記スラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(II)と、
    酸を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液を凝固させる工程(III)とを含み、
    前記工程(III)における、前記酸を添加する前の、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材含有ゴムラテックス溶液のpHを7.5〜8.5に調整し、
    前記工程(I)後に得られる、ゴムラテックス粒子が付着した前記充填材を含有するスラリー溶液のpHを7.1以上に調整することを特徴とするゴムウエットマスターバッチの製造方法。
  2. 前記ゴムラテックス溶液のpHを10.2以下に調整する請求項1に記載のゴムウエットマスターバッチの製造方法。
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