JP6115126B2 - ヒトIgG3の精製方法 - Google Patents

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Description

本発明はヒトIgG3を精製する方法に関する。特に本発明は、アフィニティークロマトグラフィーを用いてヒトIgG3を高純度に精製する方法に関する。
近年、ガンや感染症等の治療に抗体を含む医薬品(抗体医薬)が用いられている。抗体医薬に用いる抗体は、遺伝子工学的手法により得られた、当該抗体を発現可能な細胞(たとえば、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞等)を培養後、カラムクロマトグラフィー等を用いて高純度に精製し、製造する。
カラムクロマトグラフィーのうち、アフィニティークロマトグラフィーは、吸着対象物質に対し特異的に結合可能な物質(リガンド)を不溶性担体に固定化して得られる吸着剤を用いたクロマトグラフィーであり、多くの夾雑物を含む培養液から吸着対象物質を特異的に吸着/分離させることができる。
抗体精製のためのアフィニティークロマトグラフィー用吸着剤として一般に用いられているのは、黄色ブドウ球菌由来のタンパク質であるプロテインAをリガンドとした吸着剤(プロテインA固定化ゲル)である。プロテインA固定化ゲルを用いた抗体精製は、通常、中性付近でプロテイン固定化Aゲルに抗体を吸着させた後、平衡化緩衝液で当該ゲルを洗浄することで夾雑物を除去し、最後に酸性緩衝液で当該ゲルから吸着した抗体を溶出させることで行ない、1回の操作で抗体純度を90%以上まで向上させることができる。
しかしながら、プロテインAへの吸着性を有するヒトガンマグロブリン(以下、ヒトIgGとする)は、ヒトIgGの4つのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)のうち、ヒトIgG1、ヒトIgG2およびヒトIgG4であり、ヒトIgG3への吸着能は有していない。一方で、ヒトIgG3には強い薬効を有するものが知られていること(非特許文献1)から、ヒトIgG3を精製する手法が望まれていた。
Journal of Immunological Methods 306,151−160,2005
ヒトIgG3への吸着性を有するアフィニティークロマトグラフィー用吸着剤として、連鎖球菌由来のプロテインGをリガンドとした吸着剤(プロテインG固定化ゲル)が知られている。しかしながらプロテインG固定化ゲルは、ヒトIgG3への吸着性が高いため、当該ゲルから吸着したヒトIgG3を溶出させるには、pH2.5からpH3.0の強い酸性溶液を必要とした。このような強い酸性溶液を用いると、抗体の凝集や分解が促進する可能性がある。そのため抗体医薬を製造する目的で、プロテインG固定化ゲルによる精製を用いるのは困難であった。
またプロテインGゲル以外で、ヒトIgG3への吸着性を有するアフィニティークロマトグラフィー用吸着剤として、ラクダ抗体の抗体結合部位をリガンドとした吸着剤が開発されている(製品名 HiTrap IgSelect、GEヘルスケア社)。しかしながら抗体結合容量も低く、高価なため、抗体医薬を製造する目的への使用には適さなかった。
そこで本発明の目的は、従来の方法では精製が困難であったヒトIgG3を、穏和な条件下で高純度かつ大量に精製可能な方法を提供することにある。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ヒトFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した吸着剤を用いることで、穏和な条件で高純度かつ大量にヒトIgG3を精製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の(A)から(C)の態様を包含する。
(A)ヒトFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した吸着剤を用いた、ヒトIgG3の精製方法。
(B)ヒトIgG3が、ヒトIgG3のFc領域を含むキメラ抗体、またはヒトIgG3のFc領域と他のタンパク質との融合タンパク質である、(A)に記載の精製方法。
(C)ヒトFc結合性タンパク質が、(1)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸を含むタンパク質、または(2)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸を含み、かつ前記アミノ酸のうちの一つ以上が他のアミノ酸に置換、挿入または欠失したタンパク質である、(A)または(B)に記載の精製方法。
以下、本発明について詳細に説明する。
ヒト体内には4種類のIgG(ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4)が存在しており、それぞれ特有の機能を担っている。その中でもヒトIgG3はCDC(Complement−Dependent Cytotoxity:補体依存性細胞傷害)活性が他の3種よりも高いことが示されており、この構造を基にした医薬品開発が期待される。
ヒトIgG3を工業に生産するためには、アフィニティークロマトグラフィーを用いた実用的な精製法が必要である。その必要要件は、第一に高純度(例えば、純度90%以上)のヒトIgG3が得られること、第二にヒトIgG3の凝集や分解を最小限に抑えるような穏和な条件で精製可能であること、第三に精製に要するコストや時間を最小限に抑られるだけの十分な抗体吸着容量を有することである。特にヒトIgG3を抗体医薬目的で利用する場合は、一回の治療で比較的大量に投与する必要があるため、高純度なヒトIgG3を安価にかつ大量に製造する必要がある。そのため前記第一および第三の要件は必須である。また、ヒトIgG3は構造上複数のサブユニットがジスルフィド結合などによって会合した構造を有しているため、生理条件から大きく外れる極端なpH、温度、塩濃度、酸化還元状態により、凝集や分解が促進される。そのため、高品質のヒトIgG3を歩留り良く製造するためには、前記第二の要件も必須である。
抗体精製目的で通常用いられるプロテインA固定化ゲルは、ヒトIgG1、ヒトIgG2およびヒトIgG4の精製は可能であるが、ヒトIgG3を精製することができないため、ヒトIgG3を製造する目的で使用することはできない。プロテインG固定化ゲルは、ヒトIgG3を精製することはできるが、前述したようにゲルへの吸着性が高く、また抗体結合容量も低いため、前記第二および第三の要件が不十分であった。
そこで本発明者らはFc結合性タンパク質固定化ゲルについて、前記第一から第三の要件を検討した結果、以下に示すように、三つ全ての要件を満たしていることが明らかとなった。まず第一の要件について検討した結果、ヒトIgG3を含む細胞培養液からFc結合性タンパク質固定化ゲルを用いた精製を行なうことで、SDS−PAGE分析およびゲルろ過分析による測定で、純度90%以上のヒトIgG3を取得できた(実施例4)ことから、第一の要件は満たしているといえる。次に第二の要件について検討した結果、Fc結合性タンパク質固定化ゲルに吸着したヒトIgG3を溶出させる際、pH3.0からpH4.0、好ましくはpH3.2からpH3.8程度の比較的弱い酸性溶液でヒトIgG3を溶出することができる(実施例5)。プロテインG固定化ゲルに吸着したヒトIgG3を溶出させるにはpH2.5からpH3.0の溶液が必要なことから(実施例5)、Fc結合性タンパク質固定化ゲルを用いた精製はプロテインG固定化ゲルを用いた精製と比較して穏和な条件下で精製できるため、第二の要件も満たしているといえる。そして第三の要件について検討した結果、Fc結合性タンパク質固定化ゲルは、カラム滞留時間5.8分でゲル1mLあたり30mg以上のヒトIgG3を吸着した(実施例6)。ヒトIgG3の生産コストを考慮すると、少なくともゲル1mLあたり20mg/mL以上、好ましくはゲル1mLあたり30mg以上の動的吸着量が必要となるが、本結果は前記条件を満たしており、第三の要件も満たしているといえる。
本発明においてヒトFc結合性タンパク質は、ヒトFcγRIの細胞外領域(具体的には天然型ヒトFcγRIの場合、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち16番目から292番目までの領域)を構成するタンパク質のことをいう。ただし必ずしもヒトFcγRI細胞外領域の全領域でなくてもよく、ヒトFcγRI細胞外領域を構成するポリペプチドのうち、少なくともヒトIgG3のFc領域に結合する本来の機能を発現し得る領域のポリペプチドを含んでいればよい。当該ヒトFc結合性タンパク質の一例として、
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸を含むタンパク質や、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸を含み、かつ前記アミノ酸のうちの一つ以上が他のアミノ酸に置換、挿入または欠失したタンパク質、
があげられる。前記(ii)の具体例としては、特開2011−206046号公報に開示のヒトFc結合性タンパク質や、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち34番目から307番目までのアミノ酸配列を含むFc結合性タンパク質(特願2012−270375号)や、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち34番目から307番目までのアミノ酸配列を含み、かつ当該34番目から307番目までのアミノ酸配列において以下の(1)から(42)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じている、Fc結合性タンパク質(特願2012−270375号)があげられる。
(1)配列番号1の37番目のスレオニンがイソロイシンに置換
(2)配列番号1の38番目のプロリンがセリンに置換
(3)配列番号1の53番目のロイシンがグルタミンに置換
(4)配列番号1の62番目のグルタミン酸がバリンに置換
(5)配列番号1の63番目のバリンがアラニンまたはグルタミン酸に置換
(6)配列番号1の66番目のロイシンがグルタミンまたはプロリンに置換
(7)配列番号1の67番目のセリンがプロリンに置換
(8)配列番号1の69番目のアラニンがバリンまたはスレオニンに置換
(9)配列番号1の71番目のセリンがスレオニンまたはロイシンに置換
(10)配列番号1の78番目のアスパラギン酸がグルタミン酸に置換
(11)配列番号1の81番目のイソロイシンがバリンに置換
(12)配列番号1の84番目のセリンがスレオニンに置換
(13)配列番号1の88番目のフェニルアラニンがチロシンに置換
(14)配列番号1の95番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
(15)配列番号1の119番目のヒスチジンがグルタミンに置換
(16)配列番号1の127番目のバリンがアラニンに置換
(17)配列番号1の146番目のアルギニンがリジンに置換
(18)配列番号1の147番目のアスパラギン酸がアスパラギンに置換
(19)配列番号1の151番目のヒスチジンがチロシンに置換
(20)配列番号1の178番目のスレオニンがアラニンに置換
(21)配列番号1の191番目のアルギニンがリジンに置換
(22)配列番号1の199番目のスレオニンがアラニンに置換
(23)配列番号1の200番目のロイシンがメチオニンに置換
(24)配列番号1の213番目のスレオニンがアラニンに置換
(25)配列番号1の216番目のバリンがアラニンに置換
(26)配列番号1の221番目のロイシンがアルギニンに置換
(27)配列番号1の229番目のセリンがアスパラギンに置換
(28)配列番号1の236番目のイソロイシンがリジンに置換
(29)配列番号1の244番目のチロシンがヒスチジンに置換
(30)配列番号1の253番目のスレオニンがアラニンに置換
(31)配列番号1の290番目のアルギニンがグルタミンに置換
(32)配列番号1の293番目のリジンがアスパラギンに置換
(33)配列番号1の297番目のリジンがグルタミン酸に置換
(34)配列番号1の306番目のプロリンがスレオニンに置換
(35)配列番号13の34番目のグルタミンがアルギニンに置換
(36)配列番号13の45番目のグルタミンがリジンに置換
(37)配列番号13の82番目のグルタミンがプロリンに置換
(38)配列番号13の177番目のアスパラギンがアスパラギン酸に置換
(39)配列番号13の213番目のスレオニンがセリンに置換
(40)配列番号13の242番目のグルタミンがアルギニンに置換
(41)配列番号13の253番目のスレオニンがセリンに置換
(42)配列番号13の271番目のグルタミン酸がアスパラギン酸に置換
本発明において不溶性担体とは、ヒトIgG3の吸着/溶出に用いる溶液や溶剤に対して不溶性であり、かつ前述したFc結合性タンパク質を共有結合で固定化するための官能基(例えばヒドロキシ基)を有した物質であればよく、ジルコニア、ゼオライト、シリカ、皮膜シリカ等の無機系物質に由来した担体であってもよいし、セルロース、アガロース、デキストラン等の天然有機高分子物質に由来した担体であってもよいし、ポリアクリル酸、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリメタクリレート、ビニルポリマー等の合成有機高分子物質に由来した担体であってもよい。
なお担体表面に有する官能基がヒドロキシ基の場合、活性化剤を用いて、当該ヒドロキシ基から、ヒトIgG3と共有結合可能な活性化基を形成させるとよい。前記活性化剤の具体例として、エピクロロヒドリン(活性化基としてエポキシ基を形成)、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル(活性化基としてエポキシ基を形成)、トレシルクロリド(活性化基としてトレシル基を形成)、ビニルブロミド(活性化基としてビニル基を形成)があげられる。また、ヒドロキシ基をアミノ基やカルボキシル基などに変換した後、活性化剤を作用させて活性化基を形成させてもよく、当該活性化剤の具体例として3−マレイミドプロピオン酸N−スクシンイミジル(活性化基としてマレイミド基を形成)、1,1’−カルボニルジイミダゾール(活性化基としてカルボニルイミダゾール基を形成)があげられる。
本発明の方法で精製するヒトIgG3は、少なくとも、本発明の方法で用いる吸着剤のリガンドであるFc結合性タンパク質と吸着可能な、ヒトIgG3のFc領域を含んでいればよく、完全な形のヒトIgG3である必要はない。具体的には、ヒトIgG3のFc領域を含むキメラ抗体や、ヒトIgG3のFc領域と他のタンパク質との融合体が例示できる。
本発明は、ヒトIgG3を精製する際、ヒトFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した吸着剤を用いることを特徴としている。本発明により、これまで穏和な条件下での高純度かつ大量の精製が困難であったヒトIgG3の精製が可能となったため、ヒトIgG3を利用した抗体医薬の製造に有用といえる。
ヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルを用いてIgG3を含むCHO培養上清を精製したとき(実施例4)の、素通り画分と溶出画分をゲルろ過分析した結果を示す図。 ヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルを用いてIgG3を含むCHO培養上清を精製したとき(実施例4)の、素通り画分と溶出画分をSDS−PAGE分析した結果を示す図。 プロテインA固定化ゲルを用いてIgG3を含むCHO培養上清を精製したとき(比較例1)の、素通り画分と溶出画分をゲルろ過分析した結果を示す図。 プロテインA固定化ゲルを用いてIgG3を含むCHO培養上清を精製したとき(比較例1)の、素通り画分と溶出画分をSDS−PAGE分析した結果を示す図。 ヒトFc結合性タンパク質(FcR)固定化ゲルとプロテインG固定化ゲル(HiTrap ProteinG)との、pHグラジエント法によるヒトIgG3の溶出性を比較した図(実施例5)。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1 ヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルの調製
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるヒトFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドで大腸菌を形質転換して得られた形質転換体を培養し、得られた菌体から前記Fc受容体タンパク質を精製することで、不溶性担体に固定化させるリガンドを調製した。
(2)ビニルポリマーゲル(トヨパール、東ソー社製)が有するヒドロキシ基に1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルおよびエチレンジアミンを順次反応させることによってアミノ基を導入後、3−マレイミドプロピオン酸N−スクシンイミジルを反応させて、マレイミド基にて活性化されたトヨパールを得た。
(3)得られた前記活性化トヨパールに(1)で調製したリガンドを反応させることにより、ヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルを作製した。
実施例2 ヒトIgG3試料の調製
以下に示す方法で、ヒト血漿分画製剤であるガンマグロブリン製剤(化学及血清療法研究所)からヒトIgG3試料の調製を行なった。
(1)プロテインAゲルであるTOYOPEARL AF−rProtein A−650F(東ソー社製)50mLをXK26/20カラム(GEヘルスケア社製)に充填することでアフィニティーカラムを作製した。
(2)(1)で作製したアフィニティーカラムを緩衝液A(20mM Tris−HCl(pH7.4)、0.5M NaCl)で平衡化後、緩衝液Aで45mg/mLに希釈したガンマグロブリン製剤25mLを流速5mL/minでアフィニティーカラムに添加し、素通り画分を回収した。
(3)(2)で回収した素通り画分を限外ろ過膜(ミリポア社製)にて5mLまで濃縮後、あらかじめ緩衝液B(0.1M リン酸緩衝液(pH7.0)、150mM NaCl)で平衡化したゲルろ過カラム(TSKgel G3000SW(21.5mmφ×30cm)、東ソー社製)に、流速3mL/minで添加し、3mLずつ画分を回収した。
(4)(3)で回収した画分の純度をSDS−PAGEで確認後、ヒトIgG3を多く含む画分を集めて、限界ろ過膜(ミリポア社製)にて濃縮した。
(5)上記(1)から(4)の操作を繰り返すことで、約50mgのヒトポリクローナルIgG3を調製した。
実施例3 ヒトIgG3を含むCHO細胞培養上清の調製
(1)抗IL−8抗体(ヒトIgG1)を生産するCHO細胞(ATCC No.CRL−12445)を培養し、清澄化してCHO細胞培養液を得た。
(2)得られた培養液を、プロテインAゲルを充填したカラム(MabSelect SuRe、GEヘルスケア社製)に添加することで抗IL−8抗体を吸着させ、素通り画分を回収することで抗体を含まないCHO細胞培養液を得た。
(3)(2)で調製した培養液に、実施例2で調製したヒトIgG3試料を、終濃度0.8mg/mLとなるように添加することで、ヒトIgG3を含むCHO細胞培養上清を調製した。
実施例4 ヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルによるCHO細胞培養上清からのヒトIgG3精製
実施例3で調製したヒトIgG3を含むCHO細胞培養上清1mLを、実施例1で作製したヒトFc結合性タンパク質固定化ゲル(5mmφ×20mm、容量0.4mL)を用いて精製した。精製条件を表1に示す。
Figure 0006115126
精製前の培養上清、素通り画分、溶出画分について、ゲルろ過分析およびSDS−PAGE分析を行ない組成と純度を確認した。なおゲルろ過分析は、カラムとしてTSKgel G3000SWXL(7.8mmΦ×30cm、東ソー社製)を、溶離液としてPBS(pH7.4)を用い、流速1mL/minで測定した。ゲルろ過分析の結果(クロマトグラム)を図1に、SDS−PAGE分析の結果を図2にそれぞれ示す。両分析の結果、ヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルによる精製で、純度90%以上のヒトIgG3が得られることを確認した。
比較例1 プロテインA固定化ゲルによるCHO細胞培養上清からのIgG3精製
実施例3で調製したヒトIgG3を含むCHO細胞培養上清1mLを、1mL容のプロテインAゲルカラム(MabSelect SuRe、GEヘルスケア社製)を用いて精製した。精製条件を表2に示す。
Figure 0006115126
精製前の培養上清、素通り画分、溶出画分について、実施例4と同様のゲルろ過分析およびSDS−PAGE分析を行ない組成と純度を確認した。ゲルろ過分析の結果(クロマトグラム)を図3に、SDS−PAGE分析の結果を図4にそれぞれ示す。両分析の結果、ヒトIgG3は全て素通り画分中にあり、ヒトIgG3の精製ができていないことがわかる。
実施例5 ヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルとプロテインG固定化ゲルのヒトIgG3溶出性の比較
(1)実施例1で作製したヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルおよび市販のプロテインG固定化ゲル(HiTrap ProteinG HP、GEヘルスケア社製)を、それぞれ空カラム(5mmφ×5mm)に充填して、アフィニティーカラムを作製した。
(2)作製した各アフィニティーカラムに対し、実施例2で調製したヒトIgG3試料を添加してヒトIgG3を吸着させ、PBS(Phosphate Buffered Saline)で洗浄後、pHグラジェントをリニアにかける溶出を行なうことで、アフィニティーカラムからのヒトIgG3の溶出し易さを評価した。実験条件を表3に示す。
Figure 0006115126
得られたクロマトグラムを図5に示す。ヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルを用いた場合、プロテインG固定化ゲルを用いた場合と比較して、ヒトIgG3が中性側で溶出されていることがわかる。つまり、ヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルを用いたヒトIgG3の精製は、従来のゲル(プロテインG固定化ゲル)を用いた精製と比較し、より穏和な条件で精製できることがわかる。
実施例6 ヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルのヒトIgG3動的結合量測定
(1)実施例1で作製したヒトFc結合性タンパク質固定化ゲルを4.6mmφ×35mmのステンレス製カラムに充填してアフィニティーカラムを作製した。
(2)実施例2で調製したヒトIgG3試料を濃度1mg/mLとなるようPBSで希釈後、(1)で作製したアフィニティーカラムに、流速0.1mL/分で添加した。本条件でのアフィニティーカラム滞留時間は5.8分となる。
(3)アフィニティーカラムから溶出した液を吸光度280nmでモニターし、溶出液の濃度が0.1mg/mL(10%破過)となるまでヒトIgG3試料溶液を通液した。
結果、10%破過までに要する時間は176分であり、それまでに添加したヒトIgG3量はゲル1mLあたり30.3mgであった。本測定で添加したヒトIgG3量は動的吸着量と同じ意味である。なお同様の測定を流速0.3mL/分、すなわち滞留時間1.9分で行なったところ、10%破過までに要する時間は47分であり、添加したヒトIgG3量(動的吸着量)はゲル1mLあたり24.1mgであった。
本発明は、従来の抗体用アフィニティークロマトグラフィー用吸着剤では精製が困難であったヒトIgG3を、穏和な条件下で高純度かつ大量に精製することができる。ヒトIgG3は、CDC(補体依存性細胞傷害)活性がヒトIgGの他のサブクラスよりも高いことが知られていることから、本発明によりヒトIgG3を利用した抗体医薬の開発や利用が促進されることが期待される。

Claims (2)

  1. ヒトFc結合性タンパク質を不溶性担体に固定化した吸着剤を用いた、ヒトIgG3の精製方法であって、ヒトFc結合性タンパク質が配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも16番目のグルタミンから289番目のバリンまでのアミノ酸を含むタンパク質であり、吸着剤に吸着したヒトIgG3をpH3.5〜5.0で溶出させる前記方法。
  2. ヒトIgG3が、ヒトIgG3のFc領域を含むキメラ抗体、またはヒトIgG3のFc領域と他のタンパク質との融合タンパク質である、請求項1に記載の精製方法。
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