タンパク質分子の三次元コンフォメーションはそのアミノ酸配列により決定され、タンパク質のコンフォメーションの内容がその化学的性質を決定する。
タンパク質は一般に、側鎖が結合したポリペプチド骨格からなる。各タンパク質は、アミノ酸の化学的に異なる側鎖の配列によって異なるものになる。タンパク質の折り畳み構造は、ポリペプチド鎖の様々な部分間、すなわち鎖のある部分と別の部分との間で形成される非共有結合性相互作用(たとえば、水素結合、イオン結合およびファンデルワールス引力)により安定化される。折り畳み形状各々の安定性は、こうした多くの非共有結合を組み合わせた強度により決定される。
各タンパク質の組織構造には4つの階層がある。アミノ酸配列は、タンパク質の一次構造である。二次構造は、骨格のアミド基とカルボキシル基との間の水素結合のパターンにより規定され、この場合、側鎖−主鎖および側鎖−側鎖の水素結合(たとえばαヘリックス、βシート)を考慮しない。三次構造は、ポリペプチド鎖全体の三次元構造であり、タンパク質の二次構造のβシートおよびαへリックスがどのように折り畳まれて三次元構造を規定するかを表す。四次構造は、複数のポリペプチド鎖の複合体として形成されるタンパク質分子の完全な構造をいう。
タンパク質ドメインは相互にほぼ独立して、コンパクトな球状構造を形成する構造単位である。ドメインは通常約40〜約350個のアミノ酸を含み、多くのより大きなタンパク質を構築するモジュール単位である。タンパク質の様々なドメインは、多くの場合、様々な機能と関連している。任意のポリペプチド鎖がとる最終的な折り畳み構造またはコンフォメーションは一般に自由エネルギーが最小となる。
1.キナーゼ
キナーゼは、リン酸供与体(通常アデノシン−5’−三リン酸(ATP:adenosine−5’−triphosphate))から受容体基質へのホスホリル転移反応を触媒する広く分布している酵素群である。どのキナーゼも本質的に同じホスホリル転移反応触媒するが、その基質特異性、構造、および関与する経路は著しい多様性を示す。入手可能な全キナーゼ配列(約60,000配列)の最近の分類によれば、キナーゼは25の相同タンパク質のファミリーに分類することができる。これらのキナーゼファミリーは構造フォールドの類似性に基づきさらに12のフォールド群に分けられる。さらに25のファミリーのうち22ファミリー(全配列の約98.8%)は、構造フォールドが分かっている10のフォールド群に属する。他の3ファミリーのうち、ポリリン酸キナーゼが特徴的なフォールド群を形成しており、残りの2ファミリーは共に膜内在性キナーゼで、最後のフォールド群を構成する。これらのフォールド群は、ロスマン様フォールド(β−α−β−α−βトポロジーで2本のαヘリックスにより連結された3本以上の平行βストランド)、フェレドキシン様フォールド(骨格に沿ってシグニチャーβαββαβの二次構造を持つ一般的なα+β型のタンパク質フォールド)、TIMバレルフォールド(ペプチド骨格に沿って8本のαへリックスと8本の平行βストランドが交互になった保存されたタンパク質フォールドをいう)および逆平行βバレルフォールド(βバレルは大きなβシートがねじれてコイル状になり、最初のストランドと最後のストランドが水素結合して閉鎖型構造を形成する)など最も多く認められるタンパク質フォールドの一部だけでなく、タンパク質構造の主要なクラス(α型、β型、α+β型、α/β型)をすべて含む。フォールド群内では、各ファミリーのヌクレオチド結合ドメインのコアが同じ構造を持ち、タンパク質コアのトポロジーは同一であるか、あるいは円順列変異により関連付けられる。フォールド群内のファミリー間の相同性については示唆されない。
群1(23,124配列)のキナーゼは、タンパク質S/T−Yキナーゼ、非定型プロテインキナーゼ、脂質キナーゼおよびATP grasp酵素を含み、タンパク質S/T−Yキナーゼおよび非定型プロテインキナーゼファミリー(22,074配列)をさらに含む。これらのキナーゼとして:コリンキナーゼ(EC2.7.1.32);プロテインキナーゼ(EC2.7.137);ホスホリラーゼキナーゼ(EC2.7.1.38);ホモセリンキナーゼ(EC2.7.1.39);I−ホスファチジルイノシトール4−キナーゼ(EC2.7.1.67);ストレプトマイシン6−キナーゼ(EC2.7.1.72);エタノールアミンキナーゼ(EC2.7.1.82);ストレプトマイシン3’−キナーゼ(EC2.7.1.87);カナマイシンキナーゼ(EC2.7.1.95);5−メチルチオリボースキナーゼ(EC2.7.1.100);バイオマイシンキナーゼ(EC2.7.1.103);[ヒドロキシメチルグルタリル−CoAレダクターゼ(NADPH2)]キナーゼ(EC2.7.1.109);タンパク質チロシンキナーゼ(EC2.7.1.112);[イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(NADP+)]キナーゼ(EC2.7.1.116);[ミオシン軽鎖]キナーゼ(EC2.7.1.117);ハイグロマイシンBキナーゼ(EC2.7.1.119);カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ(EC2.7.1.123);ロドプシンキナーゼ(EC2.7.1.125);[βアドレナリン受容体]キナーゼ(EC2.7.1.126);[ミオシン重鎖]キナーゼ(EC2.7.1.129);[タウタンパク質]キナーゼ(EC2.7.1.135);マクロライド2’−キナーゼ(EC2.7.1.136);I−ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(EC2.7.1.137);[RNAポリメラーゼ]−サブユニットキナーゼ(EC2.7.1.141);ホスファチジルイノシトール−4,5−二リン酸3−キナーゼ(EC2.7.1.153);およびホスファチジルイノシトール−4−リン酸3−キナーゼ(EC2.7.1.154)がある。群Iとしてはさらに脂質キナーゼファミリー(321配列)が挙げられる。このキナーゼとして、I−ホスファチジルイノシトール−4−リン酸5−キナーゼ(EC2.7.1.68);I D−ミオ−イノシトール−三リン酸3−キナーゼ(EC2.7.1.127);イノシトール−四リン酸5−キナーゼ(EC2.7.1.140);I−ホスファチジルイノシトール−5−リン酸4−キナーゼ(EC2.7.1.149);I−ホスファチジルイノシトール−3−リン酸5−キナーゼ(EC2.7.1.150);イノシトール−ポリリン酸マルチキナーゼ(EC2.7.1.151);およびイノシトール−六リン酸キナーゼ(EC2.7.4.21)が挙げられる。群Iとしてはさらに、イノシトール−四リン酸I−キナーゼ(EC2.7.1.134);ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(EC2.7.9.1);およびピルビン酸水ジキナーゼ(EC2.7.9.2)などを含むATP−graspキナーゼ(729配列)が挙げられる。
群II(17,071配列)キナーゼはロスマン様キナーゼを含む。群IIとしては、Pループキナーゼファミリー(7,732配列)がある。これには、グルコノキナーゼ(EC2.7.1.12);ホスホリブロキナーゼ(EC2.7.1.19);チミジンキナーゼ(EC2.7.1.21);リボシルニコチンアミドキナーゼ(EC2.7.1.22);デホスホ−CoAキナーゼ(EC2.7.1.24);アデニリル硫酸キナーゼ(EC2.7.1.25);パントテン酸キナーゼ(EC2.7.1.33);プロテインキナーゼ(細菌性)(EC2.7.1.37);ウリジンキナーゼ(EC2.7.1.48);シキミ酸キナーゼ(EC2.7.1.71);デオキシシチジンキナーゼ(EC2.7.1.74);デオキシアデノシンキナーゼ(EC2.7.1.76);ポリヌクレオチド5’−ヒドロキシル−キナーゼ(EC2.7.1.78);6−ホスホフルクト−2−キナーゼ(EC2.7.1.105);デオキシグアノシンキナーゼ(EC2.7.1.113);テトラアシル二糖4’−キナーゼ(EC2.7.1.130);デオキシヌクレオシドキナーゼ(EC2.7.1.145);アデノシルコビンアミドキナーゼ(EC2.7.1.156);ポリリン酸キナーゼ(EC2.7.4.1);ホスホメバロン酸キナーゼ(EC2.7.4.2);アデニル酸キナーゼ(EC2.7.4.3);ヌクレオシド−リン酸キナーゼ(EC2.7.4.4);グアニル酸キナーゼ(EC2.7.4.8);チミジル酸キナーゼ(EC2.7.4.9);ヌクレオシド−三リン酸−アデニル酸キナーゼ(EC2.7.4.10);(デオキシ)ヌクレオシド−リン酸キナーゼ(EC2.7.4.13);シチジル酸キナーゼ(EC2.7.4.14);およびウリジル酸キナーゼ(EC2.7.4.−)が含まれる。群IIとしてはさらにホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼファミリー(815配列)が挙げられる。この酵素として、プロテインキナーゼ(HPrキナーゼ/ホスファターゼ)(EC2.7.1.37);ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(GTP)(EC4.1.1.32);およびホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(ATP)(EC4.1.1.49)が挙げられる。群IIとしてさらに、ホスホグリセリン酸キナーゼ(1,351配列)ファミリーが挙げられる。この酵素として、ホスホグリセリン酸キナーゼ(EC2.7.2.3)およびホスホグリセリン酸キナーゼ(GTP)(EC2.7.2.10)が挙げられる。群IIとしてはさらに、アスパルトキナーゼファミリー(2,171配列)が挙げられる。この酵素として、カルバミン酸キナーゼ(EC2.7.2.2);アスパラギン酸キナーゼ(EC2.7.2.4);アセチルグルタミン酸キナーゼ(EC2.7.2.81);グルタミン酸5−キナーゼ(EC2.7.2.1)およびウリジル酸キナーゼ(EC2.7.4.−)が挙げられる。群IIとしてさらに、ホスホフルクトキナーゼ様キナーゼファミリー(1,998配列)が挙げられる。この酵素としては、6−ホスホフルクトキナーゼ(EC2.7.1.11);NAD(+)キナーゼ(EC2.7.1.23);I−ホスホフルクトキナーゼ(EC2.7.1.56);二リン酸−フルクトース−6−リン酸I−ホスホトランスフェラーゼ(EC2.7.1.90);スフィンガニンキナーゼ(EC2.7.1.91);ジアシルグリセロールキナーゼ(EC2.7.1.107);およびセラミドキナーゼ(EC2.7.1.138)が挙げられる。群IIとしてはさらにリボキナーゼ様ファミリー(2,722配列)が挙げられる。この酵素として、グルコキナーゼ(EC2.7.1.2);ケトヘキソキナーゼ(EC2.7.1.3);フルクトキナーゼ(EC2.7.1.4);6−ホスホフルクトキナーゼ(EC2.7.1.11);リボキナーゼ(EC2.7.1.15);アデノシンキナーゼ(EC2.7.1.20);ピリドキサールキナーゼ(EC2.7.1.35);2−デヒドロ−3−デオキシグルコノキナーゼ(EC2.7.1.45);ヒドロキシメチルピリミジンキナーゼ(EC2.7.1.49);ヒドロキシエチルチアゾールキナーゼ(EC2.7.1.50);I−ホスホフルクトキナーゼ(EC2.7.1.56);イノシンキナーゼ(EC2.7.1.73);5−デヒドロ−2−デオキシグルコノキナーゼ(EC2.7.1.92);タガトース−6−リン酸キナーゼ(EC2.7.1.144);ADP依存性ホスホフルクトキナーゼ(EC2.7.1.146);ADP依存性グルコキナーゼ(EC2.7.1.147);およびホスホメチルピリミジンキナーゼ(EC2.7.4.7)が挙げられる。群IIとしてはさらにチアミンピロホスホキナーゼ(EC2.7.6.2)を含むチアミンピロホスホキナーゼファミリー(175配列)が挙げられる。群IIとしてはさらに、グリセリン酸キナーゼ(EC2.7.1.31)を含むグリセリン酸キナーゼファミリー(107配列)が挙げられる。
群IIIのキナーゼ(10,973配列)として、フェレドキシン様フォールドキナーゼが挙げられる。群IIIとしてさらに、ヌクレオシド−二リン酸キナーゼファミリー(923配列)が挙げられる。この酵素として、ヌクレオシド−二リン酸キナーゼ(EC2.7.4.6)が挙げられる。群IIIはさらに、HPPKキナーゼファミリー(609配列)が挙げられる。この酵素として、2−アミノ−4−ヒドロキシ−6−ヒドロキシメチルジヒドロプテリジンピロホスホキナーゼ(EC2.7.6.3)が挙げられる。群IIIとしてはさらに、グアニドキナーゼファミリー(324配列)が挙げられる。この酵素として、グアニド酢酸キナーゼ(EC2.7.3.1);クレアチンキナーゼ(EC2.7.3.2);アルギニンキナーゼ(EC2.7.3.3);およびロンブリシンキナーゼ(EC2.7.3.5)が挙げられる。群IIIとしてはさらにヒスチジンキナーゼファミリー(9,117配列)が挙げられる。この酵素として、プロテインキナーゼ(ヒスチジンキナーゼ)(EC2.7.1.37);[ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(リポアミド)]キナーゼ(EC2.7.1.99);および[3−メチル−2−オキシブタン酸デヒドロゲナーゼ(リポアミド)]キナーゼ(EC2.7.1.115)が挙げられる。
群IVのキナーゼ(2,768配列)としてリボヌクレアーゼH様キナーゼが挙げられる。この酵素として、ヘキソキナーゼ(EC2.7.1.1);グルコキナーゼ(EC2.7.1.2);フルクトキナーゼ(EC2.7.1.4);ラムヌロキナーゼ(rhamnulokinase)(EC2.7.1.5);マンノキナーゼ(EC2.7.1.7);グルコノキナーゼ(EC2.7.1.12);L−リブロキナーゼ(EC2.7.1.16);キシルロキナーゼ(EC2.7.1.17);エリトリトールキナーゼ(EC2.7.1.27);グリセロールキナーゼ(EC2.7.1.30);パントテン酸キナーゼ(EC2.7.1.33);D−リブロキナーゼ(EC2.7.1.47);L−フコロキナーゼ(fucolokinase)(EC2.7.1.51);L−キシルロキナーゼ(EC2.7.1.53);アロースキナーゼ(EC2.7.1.55);2−デヒドロ−3−デオキシガラクトノキナーゼ(EC2.7.1.58);N−アセチルグルコサミンキナーゼ(EC2.7.1.59);N−アシルマンノサミンキナーゼ(EC2.7.1.60);ポリリン酸−グルコースホスホトランスフェラーゼ(EC2.7.1.63);β−グルコシドキナーゼ(EC2.7.1.85);酢酸キナーゼ(EC2.7.2.1);酪酸キナーゼ(EC2.7.2.7);分岐脂肪酸キナーゼ(EC2.7.2.14);およびプロピオン酸キナーゼ(EC2.7.2.−)が挙げられる。
群Vのキナーゼ(1,119配列)として、TIM β/α−バレルキナーゼが挙げられる。この酵素としては、ピルビン酸キナーゼ(EC2.7.1.40)がある。
群VIのキナーゼ(885配列)として、GHMPキナーゼが挙げられる。この酵素として、ガラクトキナーゼ(EC2.7.1.6);メバロン酸キナーゼ(EC2.7.1.36);ホモセリンキナーゼ(EC2.7.1.39);L−アラビノキナーゼ(EC2.7.1.46);フコキナーゼ(EC2.7.1.52);シキミ酸キナーゼ(EC2.7.1.71);4−(シチジン5’−ジホスホ)−2−C−メチル−D−エリスリトールキナーゼ(EC2.7.1.148);およびホスホメバロン酸キナーゼ(EC2.7.4.2)が挙げられる。
群VIIのキナーゼ(1,843配列)として、AIRシンセターゼ様キナーゼが挙げられる。この酵素として、チアミン−リン酸キナーゼ(EC2.7.4.16)およびセレニド水ジキナーゼ(EC2.7.9.3)が挙げられる。
群VIIIのキナーゼ(565配列)として、リボフラビンキナーゼ(565配列)が挙げられる。この酵素として、リボフラビンキナーゼ(EC2.7.1.26)が挙げられる。
群IXのキナーゼ(197配列)として、ジヒドロキシアセトンキナーゼが挙げられる。
この酵素として、グリセロンキナーゼ(EC2.7.1.29)が挙げられる。
群Xのキナーゼ(148配列)として、推定グリセリン酸キナーゼが挙げられる。この酵素として、グリセリン酸キナーゼ(EC2.7.1.31)が挙げられる。
群XIのキナーゼ(446配列)として、ポリリン酸キナーゼが挙げられる。この酵素として、ポリリン酸キナーゼ(EC2.7.4.1)が挙げられる。
群XIIのキナーゼ(263配列)として、膜内在性キナーゼが挙げられる。群XIIとしては、ドリコールキナーゼファミリーが挙げられる。この酵素として、ドリコールキナーゼ(EC2.7.1.108)が挙げられる。群XIIとしてはさらに、ウンデカプレノールキナーゼファミリーが挙げられる。この酵素として、ウンデカプレノールキナーゼ(EC2.7.1.66)が挙げられる。
キナーゼは多くの細胞代謝経路およびシグナル経路において不可欠な役割を果たしており、構造レベル、生化学レベルおよび細胞レベルで最もよく研究された酵素である。すべてのキナーゼは同じリン酸供与体(ほとんどの場合、ATP)を使用し、同じホスホリル転移反応を触媒するように思われるが、その構造フォールドおよび基質認識機構は著しい多様性を示す。これは主に、その基質の構造および特性の驚くべき多様性によっていると考えられる。
2.マイトジェン活性化プロテインキナーゼ活性化プロテインキナーゼ(MK2およびMK3)
MAPK化活性プロテインキナーゼ(MAP−KAPK:MAPK:mitogen−activated protein kinase)の様々な群がマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)の下流で同定されている。これらの酵素は、MAPKの直接の基質ではない標的タンパク質にシグナルを伝達するため、MAPKカスケードによるリン酸化依存性シグナル伝達を多様な細胞機能に中継する働きを担う。こうした群の1つは、3つのMAPKAPK:MK2、MK3(3pKとも呼ばれる)およびMK5(PRAKとも呼ばれる)により形成される。マイトジェン活性化プロテインキナーゼ活性化プロテインキナーゼ2(「MAPKAPK2」、「MAPKAP−K2」、「MK2」とも呼ばれる)は、セリン/トレオニン(Ser/Thr)プロテインキナーゼファミリーのキナーゼである。MK2は、MK3との相同性が高い(約75%アミノ酸同一性)。MK2およびMK3のキナーゼドメインは、カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ(calcium/calmodulin−dependent protein kinase)(CaMK)、ホスホリラーゼbキナーゼ、およびリボソームS6キナーゼ(ribosomal S6 kinase)(RSK)アイソフォームのC末端キナーゼドメイン(C−terminal kinase domain)(CTKD)と非常に類似している(約35%〜40%同一性)。mk2遺伝子は、選択的にスプライシングされた2つの転写物、370アミノ酸(MK2A)および400アミノ酸(MK2B)をコードする。mk3遺伝子は、382アミノ酸の1つの転写物をコードする。MK2およびMK3タンパク質は相同性が高いが、MK2AはC末端領域が短い。MK2BのC末端は、より短いMK2Aアイソフォームには存在しない機能的な二極性核局在化配列(nuclear localization sequence)(NLS)(Lys−Lys−Xaa10−Lys−Arg−Arg−Lys−Lys)[配列番号45]を含むことから、MK2アイソフォームの細胞局在は選択的スプライシングにより決定されることが示唆される。MK3も類似の核局在化配列を有する。MK2BとMK3とに見られる核局在化配列はDドメイン(Leu−Leu−Lys−Arg−Arg−Lys−Lys)[配列番号46]を包含し、DドメインはMK2BおよびMK3とp38αおよびp38βとの特異的相互作用を仲介することが研究により明らかになっている。MK2BおよびMK3はさらに、NLSおよびDドメインのN末端側に位置する機能的核外移行シグナル(nuclear export signal)(NES)を有する。MK2BのNESは刺激後に核外移行を誘導するようであるが、このプロセスはレプトマイシンBにより阻害され得る。MK2およびMK3の触媒ドメインのN末端側の配列はプロリンに富み、1つ(MK3)または2つの(MK2)推定Srcホモロジー3(Src homology 3)(SH3)ドメイン結合部位を含む。この部位はインビトロでMK2がc−AblのSH3ドメインに結合するのを仲介することが研究により明らかになっている。最近の研究からは、このドメインがMK2による細胞遊走に関与していることが示唆される。
MK2BおよびMK3は主に静止細胞の核にあるのに対し、MK2Aは細胞質に存在する。MK2BおよびMK3はどちらも、ストレス刺激を受けるとクロモソームリージョンメンテナンスプロテイン(chromosome region maintenance protein)(CRM1)依存性機構を介して細胞質に速やかに輸送される。キナーゼの活性化ループ内のThr334のホスホミメティック変異によりMK2Bの細胞質局在化が促進されるため、MK2Bの核外移行は、キナーゼ活性化により媒介されると考えられる。理論に拘泥するわけではないが、MK2BおよびMK3は、恒常的活性化型NLSおよびリン酸化制御NESを含む可能があると考えられる。
MK2およびMK3は、広範に発現するが、主に心臓、骨格筋および腎組織に発現していると考えられる。
2.1.活性化
p38αおよびp38βの様々なアクチベーターがMK2およびMK3活性を強力に刺激する。p38は、インビトロおよびインビボでMK2のプロリンにより誘導される4つのセリンまたはスレオニン部位:Thr25、Thr222、Ser272およびThr334のリン酸化に関与している。これらの部位のうち、MK3に保存されてないのはThr25のみである。理論に拘泥するわけではないが、リン酸化されたThr25の機能は不明ではあるものの、Thr25は2つのSH3ドメイン結合部位の間に位置することから、タンパク質間相互作用を調節し得ることが示唆される。MK2のThr222(MK3のThr201)はキナーゼドメインの活性化ループに位置し、MK2およびMK3キナーゼ活性に不可欠であることが明らかになっている。MK2のThr334(MK3のThr313)は触媒ドメインのC末端側に位置し、キナーゼ活性に不可欠である。MK2の結晶構造は決定されており、理論に拘泥するわけではないが、Thr334のリン酸化がMK2の核内移行および核外移行のスイッチとして働いている可能性がある。Thr334のリン酸化はさらに、触媒ドメインに対するMK2のC末端の結合を抑制または妨害し、NESを露出させて核外移行を促進し得る。
研究からは、p38は核内のMK2およびMK3を活性化できることが明らかになっている一方、実験的証拠からは、MK2およびMK3の活性化および核外移行はリン酸化依存性コンフォメーションスイッチと結び付いており、これがさらにp38の安定化および局在化も左右することが示唆され、p38自体の細胞内での場所がMK2、おそらくMK3によっても制御される。別の研究によれば、核のp38はMK2のリン酸化および活性化後にMK2と複合体を形成して細胞質に運ばれることが明らかになっている。MK2欠乏細胞ではp38レベルが低く、触媒的に不活性なMK2タンパク質の発現によりp38レベルが回復することが研究により明らかになっているため、p38とMK2との間の相互作用は、p38の安定化に重要である可能性がある。
2.2.基質および機能
MK2はMK3と同じ多くの基質を持つ。どちらの酵素も基質の選択性が類似しており、同等の速度定数でペプチド基質をリン酸化する。MK2による効率的なリン酸化に必要な最小配列は、Hyd−Xaa−Arg−Xaa−Xaa−pSer/Thrであることが確認された。この場合、Hydはかさ高い疎水性残基である。
実験的証拠により、サイトカイン生合成および細胞遊走におけるp38の役割が裏付けられている。マウスのmk2遺伝子を標的とした欠失からは、p38は多くの類似のキナーゼの活性化を仲介するものの、MK2がこうしたp38依存性生物学的プロセスを担う重要なキナーゼであると考えられることが示唆される。MK2が失われると(i)リポ多糖(lipopolysaccharide)(LPS)による腫瘍壊死因子α(tumor necrosis factor alpha)(TNFα)、インターロイキン−6(IL−6)およびγインターフェロン(gamma interferon)(IFN−γ)などのサイトカイン合成の欠損、および(ii)マウス胎仔線維芽細胞、平滑筋細胞および好中球の遊走の変化が起こる。炎症反応のMK2の役割を裏付けるように、MK2欠乏マウスは、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)感染に対する感受性の上昇、および局所虚血後の炎症を介したニューロン死の抑制を示す。また、MK2欠損細胞ではp38タンパク質のレベルが著しく低下するため、これらの表現型がMK2の欠損のみによるものであるかどうか調べる必要があった。そこで、MK2ミュータントをMK2欠損細胞に発現させたところ、その結果から、MK2の触媒活性は、p38レベルの回復には必要ないが、サイトカイン生合成の調節には不可欠であることが示された。
2.3.mRNA翻訳の制御
研究から、MK2はTNFαのmRNAの翻訳速度を高めることによりTNFαの産生を増加させることが明らかになっているが、MK2欠乏マウスではTNFαの転写、プロセシングおよびシェディングの著しい低下は検出でなきかった。p38経路は、mRNAの安定性の調節に重要な役割を果たしていることが知られており、p38がこの機能を仲介すると思われる標的がMK2である。MK2欠乏マウスを用いた研究により、サイトカインの産生作用および遊走作用にはMK2の触媒活性が必要であることが明らかになったことから、理論に拘泥するわけではないが、MK2はmRNAの安定性に関与する標的をリン酸化することが示唆される。これを裏付けるように、MK2は、ヘテロ核リボヌクレオタンパク質(hnRNP)AO、トリステトラプロリン、ポリ(A)結合タンパク質PABP1およびHuR(RNA結合タンパク質のelav(キイロショウジョウバエの胚性致死視覚異常(embryonic−lethal abnormal visual))ファミリーの広範に発現するメンバー)に結合および/またはリン酸化することが示されている。これらの基質は、3’非翻訳領域AUリッチエレメントを含むmRNAと結合するか、または共精製されることが知られていることから、MK2がTNFαなどAUリッチなmRNAの安定性を調節できることが示唆される。現時点でMK3が同様の機能を果たすかどうか不明であるが、MK2−欠乏線維芽細胞をLPS処理するとhnRNP AOのリン酸化が完全に消失したため、MK3はMK2の喪失を補うことができないことが示唆される。
MK3はMK2と共に真核生物の伸長因子2(eEF2)キナーゼのリン酸化に関与する。eEF2キナーゼはeEF2をリン酸化し、不活化する。eEF2活性は、翻訳におけるmRNAの伸長にとって重要であり、eEF2のThr56がリン酸化されるとmRNA翻訳が終結する。eEF2キナーゼのSer377のMK2およびMK3によるリン酸化は、こうした酵素がeEF2キナーゼ活性を調節することができること、それによりmRNA翻訳の伸長を制御することを示唆している。
2.4.MK2およびMK3による転写制御
核内のMK2は、多くのMKと同様にcAMP応答配列結合タンパク質(cAMP response element binding)(CREB)、血清応答因子(serum response factor)(SRF)および転写因子ER81のリン酸化に寄与する。野生型とMK2欠損細胞との比較から、MK2はストレスにより誘導される主要なSRFキナーゼであることが明らかになったため、ストレス性の初期応答におけるMK2の役割が示唆される。MK2およびMK3はどちらもインビボで塩基性へリックス−ループ−ヘリックス転写因子E47と相互作用し、インビトロではE47をリン酸化する。MK2によるE47のリン酸化は、E47の転写活性の抑制によりE47依存性遺伝子発現を阻害することが確認されたことから、MK2およびMK3は組織特異的遺伝子発現および細胞分化を調節し得ることが示唆される。
2.5.MK2およびMK3の他の標的
他にいくつかのMK2およびMK3基質が同定されていることから、複数の生物学的プロセスにおけるMK2およびMK3の多様な機能が窺われる。MK2の生理的基質に足場タンパク質14−3−3ζがある。研究により、14−3−3ζはプロテインキナーゼ、ホスファターゼおよび転写因子など細胞シグナル伝達経路のいくつかの成分と相互作用することが示されている。他の研究からは、MK2による14−3−3ζのSer58のリン酸化がその結合活性を低下させることが明らかになっており、MK2は、14−3−3ζにより通常調節される複数のシグナル伝達分子の調節に影響し得ることが示唆される。
他の研究からは、MK2は7員のArp2およびArp3複合体のp16サブユニット(p16−Arc)のSer77と相互作用し、リン酸化することも明らかになっている。p16−Arcはアクチン細胞骨格の調節に役割を果たしていることから、MK2がこのプロセスに関与することが示唆される。別の研究からは、MK2により低分子量熱ショックタンパク質HSP27、リンパ球特異的タンパク質LSP−1およびビメンチンがリン酸化されることが明らかになっている。HSP27は分子シャペロンとして働き、細胞を熱ショックおよび酸化ストレスから保護し得る大きなオリゴマーを形成するため、特に関心を集めている。HSP27はリン酸化されると、大きなオリゴマーを形成する能力を喪失し、アクチン重合を阻止できなくなることから、MK2によるHSP27のリン酸化は、本来ならばストレス時に不安定化されるアクチン動態を調節して恒常性機能を高めることが示唆される。MK3もインビトロおよびインビボでHSP27をリン酸化することが明らかになったが、ストレス性状態におけるその役割はまだ解明されていない。
MK2およびMK3は、5−リポキシゲナーゼをもリン酸化し得る。5−リポキシゲナーゼは炎症性メディエーターのロイコトリエン類形成の初期段階を触媒する。また、MK2によりチロシンヒドロキシラーゼ、グリコーゲンシンターゼおよびAktがリン酸化されることも明らかになった。最後に、MK2は腫瘍抑制タンパク質ツベリンのSer1210をリン酸化し、14−3−3の結合部位を形成する。ツベリンおよびハマルチンは通常、mTOR依存性シグナル伝達に拮抗して細胞増殖(cell growth)を負に制御する機能複合体を形成することから、p38によるMK2の活性化は、ツベリンに対する14−3−3の結合を促進することにより細胞増殖(cell growth)を調節し得ることが示唆される。
3.キナーゼの阻害
真核生物のプロテインキナーゼは、その触媒ドメインに基づき相同タンパク質の最大のスーパーファミリーの1つを構成する。関連性のあるプロテインキナーゼの大部分は、セリン/トレオニンあるいはチロシンリンの酸化に特異的なものである。プロテインキナーゼは細胞外刺激に対する細胞応答に不可欠な役割を果たしている。したがって、プロテインキナーゼの刺激は、シグナル伝達系の最も一般的な活性化機構の1つと考えられる。多くの基質は、複数のプロテインキナーゼによりリン酸化されることが知られている。様々なプロテインキナーゼの触媒ドメインの一次配列については、かなりの量の情報が公開されている。これらの配列は、ATP結合、触媒作用および構造の完全性の維持に関与する多くの残基を共有する。大部分のプロテインキナーゼは、よく保存された30〜32kDaの触媒ドメインを有する。
プロテインキナーゼの調節エレメントを同定し、利用するための研究が試みられてきた。こうした調節エレメントとして、阻害剤、抗体およびブロッキングペプチドがある。
3.1.阻害剤
酵素阻害剤は、酵素に結合することにより酵素活性を低下させる分子である。阻害剤の結合により、基質が酵素の活性部位に入り込むのを防ぎ、および/または酵素がその反応を触媒するのを妨害することができる。阻害剤の結合は、可逆的結合あるいは不可逆的結合のどちらかである。不可逆的阻害剤は通常、酵素と反応し、(たとえば酵素活性に必要な必須アミノ酸残基を修飾することにより)酵素を化学的に変化させ、その反応を触媒できないようにする。これに対し、可逆的阻害剤は非共有的に結合し、こうした阻害剤の結合が酵素との結合、酵素−基質複合体との結合、またはこれらの両方との結合であるかに応じて様々な種類の阻害を起こす。
酵素阻害剤は、多くの場合、その特異性および力価により評価される。「特異性」という用語は、この文脈(context rein)で使用する場合、阻害剤が他のタンパク質に対して選択的に結合すること、または他のタンパク質に対して結合しないことをいう。「力価」という用語は、本明細書で使用する場合、酵素の阻害に必要な阻害剤の濃度を示す阻害剤の解離定数をいう。
プロテインキナーゼの阻害剤は、プロテインキナーゼ活性を調節する際のツールとしての使用に関して研究されてきた。阻害剤については、たとえば、サイクリン依存性(Cdk)キナーゼ、MAPキナーゼ、セリン/トレオニンキナーゼ、Srcファミリータンパク質チロシンキナーゼ、チロシンキナーゼ、カルモジュリン(CaM)キナーゼ、カゼインキナーゼ、チェックポイントキナーゼ(Chkl)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK−3)、c−JunN末端キナーゼ(JNK)、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ1(MEK)、ミオシン軽鎖キナーゼ(myosin light chain kinase)(MLCK)、プロテインキナーゼA、Akt(プロテインキナーゼB)、プロテインキナーゼC、プロテインキナーゼG、タンパク質チロシンキナーゼ、RafキナーゼおよびRhoキナーゼとの併用に関与する研究が行われている。
3.2.抗体
抗体は血清タンパク質であり、抗体の分子は、抗体分子の標的上にある小さな化学基と相補的な狭い領域を表面に有する。こうした相補領域(抗体結合部位または抗原結合部位と呼ばれる)は、1つの抗体分子ごとに少なくとも2、抗体分子の種類によっては10、8あり、または12と多くの相補領域がある種もあり、抗原のその対応する相補領域(抗原決定基またはエピトープ)と反応し、多価抗原のいくつかの分子と結合して格子を形成する。
全抗体分子の基本的な構造単位は、同一の2本の軽(L)鎖(各々約220アミノ酸を含む)および同一の2本の重(H)鎖(各々通常約440アミノ酸を含む)の4本のポリペプチド鎖からなる。2本の重鎖および2本の軽鎖は、非共有的結合および共有的(ジスルフィド)結合の組み合わせによって結び合わされている。この分子は、2つの同一部分で構成され、各々が軽鎖のN末端領域および重鎖のN末端領域からなる同一の抗原結合部位を持つ。軽鎖および重鎖は通常どちらも協同して抗原結合表面を形成する。
ヒト抗体は、2種類の軽鎖、κ鎖およびλ鎖を提示するが、免疫グロブリンの個々の分子は一般にいずれかのみである。正常血清では、分子の60%がκ決定基を持ち、30パーセントがλ決定基を持つことが明らかになっている。他の多くの種が2種類の軽鎖を提示することが明らかになっているが、その割合は多様である。たとえば、マウスおよびラットの場合、λ鎖は含まれるが、全体の数パーセントに過ぎず、イヌおよびネコの場合、κ鎖の割合は非常に低く、ウマにはκ鎖が含まれないと考えられる。ウサギは、系統およびb遺伝子座のアロタイプによって5〜40%のλを持ち、ニワトリの軽鎖は、κよりもλと相同である。
哺乳動物の場合、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMという5クラスの抗体があり、そのそれぞれに対応する重鎖のクラス−α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)およびμ(IgM)がある。さらに、IgG免疫グロブリンの4つのサブクラス(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)にはそれぞれγ1、γ2、γ3およびγ4重鎖がある。分泌される形態では、IgMは、4本の鎖単位5つからなる五量体であり、合わせて抗原結合部位が10になる。各五量体は、隣接する2つの尾部領域間に共有結合的に挿入される1コピーのJ鎖を含む。
5つの免疫グロブリンクラスはすべて、広範囲な電気泳動移動度を示し、均一でないという点で他の血清タンパク質と異なる。こうした不均一性(たとえば個々のIgG分子は総電荷が相互に異なること)は、免疫グロブリンの固有の特性である。
モノクローナル抗体(mAbs)は、免疫されたドナー由来のマウス脾臓細胞をマウス骨髄腫細胞株と融合して選択培地で増殖するマウスハイブリドーマクローンを樹立することにより作製することができる。ハイブリドーマ細胞は、抗体分泌B細胞と骨髄腫細胞とのインビトロ融合により得られる不死化したハイブリッド細胞である。インビトロ免疫とは、抗原特異的B細胞を培地で初回活性化することをいい、マウスモノクローナル抗体を作製するもう1つの確立した手段である。
また、末梢血リンパ球由来の免疫グロブリンの重鎖(VH)および軽鎖(VκおよびVλ)の可変遺伝子の多様なライブラリーを、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction)(PCR)増幅法により増幅してもよい。PCRを用いて重鎖および軽鎖のV遺伝子をランダムに組み合わせることにより、重鎖および軽鎖の可変ドメインがポリペプチドスペーサーにより連結された単一のポリペプチド鎖をコードする遺伝子(一本鎖FvまたはscFv)を作製してもよい。次いでコンビナトリアルライブラリーをクローニングして、ファージの先端でのマイナーコートタンパク質との融合により糸状バクテリオファージの表面に提示させる。
ガイデッド・セレクションの手法は、ヒト免疫グロブリンV遺伝子を齧歯動物免疫グロブリンV遺伝子でシャフリングすることに基づく。この方法では、(i)ヒトλ軽鎖のレパートリーを、目的の抗原と反応するマウスモノクローナル抗体の重鎖可変領域(VH)ドメインとシャフリングする;(ii)その抗原の半ヒトFabを選択する(iii)選択したλ軽鎖遺伝子を第2のシャフリングでヒト重鎖のライブラリーの「ドッキングドメイン」として使用してヒト軽鎖遺伝子を持つクローンFabフラグメント単離する;(v)その遺伝子を含む哺乳動物細胞発現ベクターをエレクトロポレーションによりマウス骨髄腫細胞にトランスフェクトする;および(vi)抗原と反応するFabのV遺伝子をマウス骨髄腫において完全なIgG1、λ抗体分子として発現させる必要がある。
本明細書で使用する場合、「抗体」という用語は、たとえば天然抗体および非天然抗体を共に含む。具体的には、「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体ならびにそのフラグメントを含む。さらに、「抗体」という用語は、キメラ抗体および合成の完全抗体ならびにそのフラグメントを含む。
抗原決定基またはエピトープは、分子の抗原部位である。連続的な抗原決定基/エピトープは基本的に直鎖である。螺旋状のポリマーまたはタンパク質など規則正しい構造では、抗原決定基/エピトープは基本的にその分子の相互に接近し得る様々な部分のアミノ酸側鎖を含む構造表面内または表面上の限られた領域あるいは斑点と考えられる。これらは、コンフォメーションの決定基である。本明細書で使用する場合、エピトープは、キナーゼ阻害ペプチドの抗原決定基/抗原結合部位であってもよい。エピトープは、関連する一次配列でも、二次配列でも、または三次配列でもよい。
相補性の原理は、多くの場合、鍵と鍵穴の関係にたとえられ、2つの反応分子が相互に非常に接近したときのみ効果的に作用できる比較的弱い結合力(疎水結合および水素結合、ファンデルワールス力およびイオン相互作用)が関わっており、実際に非常に接近するため一方の分子の突き出た構成原子または原子群が他方の相補的な凹みまたは陥凹部にはまることができる。抗原抗体相互作用は高度の特異性を示し、多くのレベルで顕著である。分子レベルまで下げると、特異性とは、抗原に対する抗体の結合部位の相補性が無関係の抗原の抗原決定基とまったく類似していないことを意味する。2種類の抗原の抗原決定基が構造的にやや類似しているときは常に、一方の決定基が他方の決定基とある程度一致して複数の抗体の結合部位が形成される場合があり、この現象により交差反応が起こる。交差反応は抗原抗体反応の相補性または特異性を理解するうえで非常に重要である。免疫学的な特異性または相補性により、抗原の中の少量の不純物/混入物質の検出が可能になる
ある抗体とプロテインキナーゼとの間の相互作用の特異性が研究されてきたのは、プロテインキナーゼ活性の調節に使用するためであった。抗体が単離されてきたのは、たとえば、MAPキナーゼ経路、プロテインキナーゼA、プロテインキナーゼB、プロテインキナーゼG、セリン/トレオニンキナーゼ、グリコーゲン−シンターゼキナーゼ3(glycogen−synthase kinase−3)(GSK−3)、ストレス活性化タンパク質(stress−activated protein)(SAP)キナーゼ経路およびチロシンキナーゼと併用するためであった。加えて、抗体は、プロテインキナーゼ阻害剤およびプロテインキナーゼ基質と併用するために単離されてきた。
3.3.ブロッキングペプチド
ペプチドは、鎖内の一方のアミノ酸のカルボキシル基が他方のアミノ酸のアミノ基とペプチド結合を介して連結されている2個以上のアミノ酸の鎖からなる化合物である。ペプチドは、特にタンパク質の構造および機能の研究に使用されてきた。合成ペプチドは特に、タンパク質ペプチド相互作用がどこで起こるかを確認するためのプローブとして使用することができる。阻害ペプチドは、特にプロテインキナーゼ、癌タンパク質および他の障害の阻害に対するペプチドの作用を調査する臨床研究に使用してもよい。
いくつかのブロッキングペプチドの使用について研究がなされてきた。たとえば、MAPKプロテインキナーゼのひとつである細胞外シグナル制御キナーゼ(extracellular signal−regulated kinase)(ERK)は、細胞増殖および分化に不可欠である。MAPKの活性化には、MAPKが上流のMAPKK(MEK)によりリン酸化され、次いでそれを受けてMAPKK(MEK)は第3のキナーゼMAPKKK(MEKK)によりリン酸化されるカスケード機構を必要とする。ERK阻害ペプチドは、ERKに結合してMEKのデコイとして働く。ERK阻害ペプチドは、MEK1のアミノ末端に13アミノ酸(GMPKKKPTPIQLN)[配列番号1]を含み、ERKに結合する。これによりERKはMEKと相互作用できないため、MEKによるERK活性化が阻止される。ERK阻害ペプチドはさらに、ペプチドを細胞透過性にするアンテナペディア(Antennapedia)由来のタンパク質導入(PTD)配列(DRQIKIWFQNRRMKWKK)[配列番号2]を含む。
他のブロッキングペプチドとしては、autocamtide−2関連阻害ペプチド(autocamtide−2 related inhibitory peptide)(AIP)が挙げられる。この合成ペプチドは、Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)への特異性が高く強力な阻害剤である。AIPは、CaMKIIの高度に選択的なペプチド基質autocamtide−2の非リン酸化性アナログである。AIPは、100nMのIC50でCaMKIIを阻害する(IC50は50%阻害を得るのに必要な阻害剤の濃度である)。AIPによる阻害は、syntide−2(CaMKIIペプチド基質)およびATPに対して非競合的であるが、autocamtide−2に対しては競合的である。この阻害は、Ca2+/カルモジュリンの有無により影響されない。CaMKII活性は、AIP(1μM)により完全に阻害される一方、PKA、PKCおよびCaMKIVは影響を受けない。AIPのアミノ酸配列は:KKALRRQEAVDAL(Lys−Lys−Ala−Leu−Arg−Arg−Gln−Glu−Ala−Val−Asp−Ala−Leu)[配列番号3]である。
他のブロッキングペプチドとして、細胞分裂プロテインキナーゼ5(Cdk5)阻害ペプチド(CIP)が挙げられる。Cdk5はp25に結合すると、アルツハイマー病特異的ホスホ−エピトープで微小管タンパク質タウをリン酸化する。p25は切断型活性化因子で、アミロイドβ(Aβ)ペプチドに曝露されると生理的Cdk5活性化因子p35から産生される。ニューロンがCIPに感染すると、CIPは、p25/Cdk5活性を選択的に阻害し、皮質ニューロンにおけるタウの異常なリン酸化を抑制する。CIPの特異性の理由は、十分に解明されていない。
他に細胞外制御キナーゼ2(extracellular−regulated kinase 2)(ERK2)、ERK3、p38/HOG1、プロテインキナーゼC、カゼインキナーゼII、Ca2+/カルモジュリンキナーゼIV、カゼインキナーゼII、Cdk4、Cdk5、DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA−PK)、セリン/トレオニン−プロテインキナーゼPAK3、ホスホイノシチド(PI)−3キナーゼ、PI−5キナーゼ、PSTAIRE(高度に保存されたcdk配列)、リボソームS6キナーゼ、GSK−4、胚中心キナーゼ(germinal center kinase)(GCK)、SAPK(ストレス活性化プロテインキナーゼ(stress−activated protein kinase))、SEK1(stress signaling kinase:ストレスシグナル伝達キナーゼ)および接着斑キナーゼ(FAK:focal adhesion kinase)のブロッキングペプチドが研究されている。
3.4.タンパク質形質導入ドメイン(protein transduction domain)
タンパク質形質導入ドメイン(PTD)は、哺乳動物細胞の形質膜を透過し、膜を通り多くの種類および分子量の化合物を輸送できるペプチドのクラスである。そうした化合物としては、タンパク質などのエフェクター分子、DNA、コンジュゲートされたペプチド、オリゴヌクレオチドおよびリポソームなどの微小粒子が挙げられる。PTDを他のタンパク質に化学的に連結または融合しても、得られた融合タンパク質はやはり細胞に進入することができる。形質導入の正確な機構は不明であるが、こうしたタンパク質のインターナリゼーションは受容体またはトランスポーターを介したものではないと考えられる。PTDは一般に10〜16アミノ酸長であり、たとえば、アルギニンおよび/またはリジンに富むペプチドなどその組成により分類することができる。
PTDはカーゴ分子の細胞取り込みを促進するため、エフェクター分子を細胞に輸送できるPTDを使用することは、薬剤設計において注目が高まっている。こうした細胞透過性ペプチドは一般に、その配列に従い両親媒性(極性末端と無極性末端との両方を持つことを意味する)のものか、またはカチオン性のものに分類され、巨大分子の非侵襲的な送達技術となっている。PTDはまた、多くの場合、「Trojanペプチド」、「膜移動配列(membrane translocating sequence)」または「細胞透過性タンパク質(cell permeable protein)」(CPP)とも呼ばれる。PTDはさらに、新規なHSP27キナーゼ阻害剤の細胞膜透過を促進するのに使用してもよい(参照によってその全体を本明細書に援用する、特許文献1、特許文献2を参照されたい)。
3.4.1.ウイルスPTDを含むタンパク質
形質導入特性を持つものとして報告された最初のタンパク質は、ウイルス由来であった。このタンパク質は依然として最も一般に受け入れられているPTDの作用モデルである。ウイルスPTDを含むタンパク質として最もよく特徴が分かっているのは、HIV−1 トランスアクチベーター・オブ・トランスクリプション(Transactivator of Transcription)(TAT)およびHSV−1 VP22タンパク質である。
TAT(HIV−1トランス活性化因子遺伝子産物)は、組み込まれたHIV−1ゲノムの強力な転写因子として働く86アミノ酸のポリペプチドである。TATは、潜伏感染細胞においてウイルス複製を刺激するウイルスゲノムに作用する。TATタンパク質のトランスロケーション特性により、TATタンパク質は休止状態の感染細胞を活性化することができ、非感染細胞を刺激し、サイトカインなどの多くの細胞遺伝子を調節することによりその後の感染に関与し得る。TATの最小PTDは9アミノ酸のタンパク質配列RKKRRQRRR(TAT49〜57)[配列番号4]である。TATのより長いフラグメントを使用した研究により、120kDaまでの融合タンパク質が成功裏に形質導入されることが明らかになった。複数のTAT−PTDと共に合成TAT誘導体を添加すると、膜移動が起こることが明らかになっている。TAT PTDを含む融合タンパク質は、癌に関する実験、死タンパク質を細胞に輸送する実験、神経変性障害の疾患モデルの治療部分として使用されてきた。
VP22は、HSVビリオンの構造の一部であるHSV−1テグメントタンパク質である。VP22は、受容体非依存性のトランスロケーションが可能で、核に蓄積する。VP22はこの特性によりPTDを含むペプチドに分類される。全長VP22を含む融合タンパク質は、形質膜を通り効率的に移動する。
3.4.2.細胞間移動特性を持つホメオタンパク質
ホメオタンパク質は、形態学的プロセスに関与する高度に保存されたトランス活性化転写因子である。ホメオタンパク質は60アミノ酸の特異的配列によりDNAに結合する。DNA結合ホメオドメイン(homeodomain)は、ホメオタンパク質の最も高度に保存された配列である。いくつかのホメオタンパク質はPTD様活性を示すことが報告されており、細胞型特異性を示さず、エネルギー非依存性かつエンドサイトーシス非依存性に細胞膜を通り効率的に移動することができる。
アンテナペディアタンパク質(Antennapedia protein)(Antp)は、細胞膜を通過して移動できるトランス活性因子である。移動可能な最小配列は、タンパク質のホメオドメイン(HD)の第3ヘリックスに対応する16アミノ酸のペプチドである。このヘリックスのインターナリゼーションは4℃で起こることから、このプロセスはエンドサイトーシス依存性ではないことが示唆される。AntpHDとの融合タンパク質として作製される100アミノ酸までのペプチドは、細胞膜を透過する。移動可能な他のホメオドメインとして、フシタラズ(Fushi tarazu)(Ftz)およびEngrailed(En)ホメオドメインが挙げられる。多くのホメオドメインは高度に保存された第3ヘリックスを共有する。
3.4.3.合成PTD
いくつかのPTDペプチドが合成されている。こうした合成ペプチドの多くは、十分に明らかにされた既存のペプチドをベースにするが、PTD機能に重要であると考えられる塩基性残基および/または正電荷を理由に選択されるものもある。合成ペプチドとしては、PTD−4(YARAAARQARA)[配列番号5];PTD−5(RRQRRTSKLMKR)[配列番号6];MST−1(AAVLLPVLLAAR)[配列番号7];L−R9(RRRRRRRRR)[配列番号8];およびペプチド2(SGWFRRWKK)[配列番号9]があるが、これに限定されるものではない。
3.4.4.ヒトPTD
ヒトPTDは、ヒト患者への導入時に起こり得る免疫原性の問題を回避することができる。PTD配列を含むペプチドとして、Hoxa−5、Hox−A4、Hox−B5、Hox−B6、Hox−B7、HOX−D3、GAX、MOX−2およびFtzPTDが挙げられる。これらのタンパク質はすべて、AntpPTD(RQIKIWFQNRRMKWKK)[配列番号10]に見出される配列を共有する。他のPTDとしては、Islet−1、インターロイキン−1β、腫瘍壊死因子、およびエネルギー非依存性、受容体非依存性かつエンドサイトーシス非依存性に移動できるカポジ線維芽細胞増殖因子(K−fibroblast growth factor)(K−FGFまたはFGF−4)シグナルペプチド由来の疎水性配列が挙げられる。未確定のPTDには、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリーのメンバーがある。
4.障害:炎症性障害
「炎症」という用語は、本明細書で使用する場合、血管化組織が傷害に応答する生理的プロセスをいう。たとえば参照によって本明細書に援用するファンダメンタルイムノロジー(FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY)、第4版、ウィリアムE.ポール(William E.Paul)編、リッピンコット−レイブンパブリッシャーズ(Lippincott−Raven Publishers)、フィラデルフィア(1999年)のp.1051〜1053を参照されたい。炎症プロセスにおいて解毒および修復に関与する細胞は、炎症性メディエーターにより傷害された部位に動員される。炎症は、多くの場合、炎症の部位での白血球、特に好中球(多形核細胞)の強い浸潤を特徴とする。こうした細胞は、血管壁または未損傷組織で有毒物質を放出して組織損傷を促進する。従来から、炎症は急性反応および慢性反応に分けられている。
「急性炎症」という用語は、本明細書で使用する場合、体液、血漿タンパク質および好中球の蓄積を特徴とする急性損傷に対するほぼ一様で一時的な(数分から数日)速い反応をいう。急性炎症の場合、刺激が除去されると、炎症を起こした組織への単球(適切に活性化されるとマクロファージになる)の動員が停止し、すでに存在するマクロファージはリンパ管を介して組織から消失する。急性炎症を起こす傷害性物質の例としては、病原体(たとえば、細菌、ウイルス、寄生虫)、外因性原因の異物(たとえば、アスベスト)または内因性原因の異物(たとえば、尿酸結晶、免疫複合体)、および物理的要因(たとえば、熱傷)または化学物質(たとえば、腐食剤)があるが、これに限定されるものではない。
「慢性炎症」という用語は、本明細書で使用する場合、持続期間がより長く、終息があいまいで無期限である炎症をいう。最初の炎症性物質の排除が不十分であるか、あるいは複数の急性イベントが同じ部位で起こることにより急性炎症が持続すると、慢性炎症になる。慢性炎症は、リンパ球およびマクロファージの流入および線維芽細胞の増殖を含み、炎症活性が長時間にわたるか、または頻回する部位で組織の瘢痕化が起こることがある。慢性炎症の場合、すでに存在するマクロファージはそのままとどまり、マクロファージの増殖が刺激される。
誘発物質に関係になく、急性炎症を伴う生理的変化には主に以下の4つの特徴が包含される:(1)血管拡張が、急性組織傷害に対する最も初期の身体反応の1つであり、正味の血流量が増加する;(2)炎症刺激に反応して、細静脈の表面の内皮細胞が収縮し、細胞内の接合部が拡大して間隙が生じ、血管透過性が高まるため血漿タンパク質および血液細胞が血管から漏出する;(3)炎症は、多くの場合、炎症の部位での白血球、特に好中球(多形核細胞)の強い浸潤を特徴とする。こうした細胞は、血管壁または未損傷組織で有毒物質を放出して組織損傷を促進する;および(4)特定の刺激に反応して白血球から放出されるパイロジェンにより発熱が起こる。
炎症プロセスにおいて、炎症反応の可溶性の炎症性メディエーターは細胞成分と一緒に全身性に作用し、身体的苦痛の原因物質を抑制および排除しようとする。「炎症性メディエーター」という用語は、本明細書で使用する場合、炎症プロセスの分子メディエーターをいう。こうした可溶性の拡散性分子は、組織損傷および感染の部位で局所的に作用すると共に、より遠位の部位でも作用する。炎症性メディエーターの中には炎症プロセスで活性化されるものもあれば、急性炎症に反応してまたは他の可溶性の炎症性メディエーターにより細胞の供給源から合成および/または放出されるものもある。炎症反応の炎症性メディエーターの例として、血漿プロテアーゼ、補体、キニン、凝固および線溶関連タンパク質、脂質メディエーター、プロスタグランジン、ロイコトリエン類、血小板活性化因子(platelet−activating factor)(PAF)、以下に限定されるものではないが、ヒスタミン、セロトニンおよび神経ペプチドなどのペプチドおよびアミン、以下に限定されるものではないが、インターロイキン−1、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(1L−8)、腫瘍壊死因子(TNF)、インターフェロンγおよびインターロイキン12(IL−12)などのプロ炎症性サイトカインがあるが、これに限定されるものではない。
炎症に関連するいくつかの障害は、様々な疾患の根底にある。それらとして、喘息、自己免疫疾患、慢性前立腺炎、糸球体腎炎、炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease)(IBD)、骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease)(PID)、再灌流傷害、関節リウマチ、血管炎および過敏症があるが、これに限定されるものではない。
喘息
喘息は呼吸器系に関わる慢性疾患であり、多くの場合、1つまたは複数のトリガーに反応して気道が突発的に収縮し、炎症を起こすことがあり、過剰量の粘液で覆われる。そうしたトリガーとして、以下に限定されるものではないが、アレルゲン、煙、寒気もしくは暖気、芳香、ペットのフケ、湿った空気などの環境刺激物質への曝露、運動もしくは激しい活動または精神的苦痛があるが、これに限定されるものではない。気道が狭くなると、以下に限定されるものではないが、喘鳴、息切れ、胸部圧迫感、咳嗽、呼吸困難および喘音などの症状が現れる。正常対照被検体に比べて喘息被検体のIL−6の血清レベルが高いことが、気管支喘息の病態生理に関係していると考えられている(非特許文献1)。さらに研究によれば、喘息患者の気管支肺胞洗浄液(bronchoalveolar lavage fluid)(BALF)では著しいレベルのTNF−αおよびIL−6が検出されるのに対し、無症状期喘息患者のBALFでは患者のIL−1βレベルと同レベルが検出されるという観察から、肺胞マクロファージおよびT細胞の活性化が示唆される(非特許文献2)。
自己免疫疾患
強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis)(AS、ベヒテレフ病、ベヒテレフ症候群、マリー・シュトリュンペル病)は、慢性炎症性関節炎および自己免疫疾患である。強直性脊椎炎は脊椎および骨盤の仙腸骨(sacroilium)が主に侵され、最終的に脊椎の癒合を引き起こす。研究によれば、AS患者の場合、TNF−αおよびIL−6が増加し(ただしIL−1βレベルは上昇しない)、IL−6が疾患の活性と密接に相関することが報告されている(非特許文献3)。ASの症状として、脊椎の下部または場合によっては全脊椎の慢性疼痛およびこわばり(多くの場合、疼痛はどちらか一方の臀部または大腿後部から仙腸関節に至る)、発赤を起こす眼の炎症(虹彩毛様体炎、ぶどう膜炎)、眼痛、視力喪失、飛蚊症、羞明、疲労、悪心、大動脈炎、肺尖部線維症、および仙骨神経根鞘の拡張症があるが、これに限定されるものではない。
1型糖尿病は、膵臓の島細胞がT細胞から攻撃され、インスリンを身体で産生できなくなる自己免疫疾患である。β細胞破壊膵島炎はIL−1およびTNF−αの発現の増加と関連していることが報告されている。さらに、糖尿病非発症マウスおよび非肥満糖尿病(non−obese diabetic)(NOD)マウスの膵島β細胞中のサイトカインのトランスジェニック発現から、インスリン依存性糖尿病(insulin−dependent diabetes mellitus)(IDDM)発症におけるIFNα、IFNγ、IL−2およびIL−10の病理学的役割、およびIL−4、IL−6およびTNF−αの保護的役割が示唆されている(非特許文献4)。1型糖尿病の症状として、多尿、多飲および体重減少があるが、これに限定されるものではない。
Guilliame−Barre症候群は、急性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(末梢神経系が侵される自己免疫障害)である。この症候群は重度である場合が多く、通常脚の筋力低下が上肢および顔に進行するような上行性麻痺が起こると共に深部腱反射が完全に消失する。研究からは、疾患の動物モデルでIL−1β、IL−6およびTNF−αが差次的に発現し、こうしたサイトカインが重要な役割を果たしていることが示唆されると報告されている(非特許文献5)。Guilliame−Barre症候群の症状として、通常最初に下肢が侵され、急速に上行性に進行する対称性筋力低下、異常感覚を伴うまたは伴わない「ゴム状脚(rubbery legs)」、延髄の障害(中咽頭嚥下障害)、呼吸の困難、顔面の筋力低下、感覚消失(固有受容)、血圧の大きな変動、起立性低血圧および心不整脈があるが、これに限定されるものではない。
ループスは、身体の任意の部位を侵し、炎症および組織損傷を引き起こす慢性自己免疫性結合組織疾患である。ループスは、非常に多くの場合、心臓、関節、皮膚、肺、血管、肝臓、腎臓および神経系が障害される。研究から、ループス腎炎患者の腎臓ではIL−6およびTNF−αが活発に合成されることが明らかになっている(非特許文献6)。別の研究からは、ループス腎炎の動物モデルではTNF−αおよびIL−1βの発現が高いことが報告されている(非特許文献7)。ループスの症状として、疲労、発熱、体重増加または減少、関節痛、こわばり、腫脹、顔の頬部発疹、皮膚病変、口腔びらん、脱毛症、息切れ、胸痛、ドライアイおよびレイノー現象があるが、これに限定されるものではない。
多発性硬化症(multiple sclerosis)(MS)は、脳および脊髄の有髄ニューロンが侵される自己免疫疾患である。MSは、髄鞘の損傷により起こり、この被膜が損傷されると神経インパルスが遅くなるか、または停止する。研究から、MS症例ではTNF−αの発現が増加すること(非特許文献8)、およびMS患者病変ではIL−6の発現が増加することが報告されている(非特許文献9)。多発性硬化症の症状として、バランスの喪失、筋痙縮、任意の部位のしびれまたは知覚異常、腕または脚の運動の問題、1本または複数の腕または脚の振戦、便秘、便の漏出、失禁、複視、眼の不快感、顔面痛および聴力損失があるが、これに限定されるものではない。
乾癬は、皮膚および関節が侵される慢性非伝染性自己免疫疾患である。乾癬は一般に、赤色鱗状斑が皮膚に現れる。こうした乾癬プラークは、炎症が起こり、皮膚が過剰に生成された部位である。皮膚は、こうした部位に急速に蓄積し、銀白色の外観を呈する。プラークは、肘、膝、頭皮および性器など任意の部位が侵される場合がある。研究から、乾癬患者では高レベルのTNF−α、IL−1βおよびIL−6が報告されている(非特許文献10)。
強皮症は、皮膚、血管、筋肉および内蔵の変化に関わる広範囲にわたる結合組織疾患である。研究からは、強皮症患者の血清では対照の血清よりIL−6が高頻度で検出され、どちらの患者群でもTNF−αは同じレベルで検出されるのに対し、IL−1βはどちらの群でも検出されないことが報告されている(非特許文献11)。皮膚の症状として、温熱と寒冷に反応して起こる手および足の指の白化、蒼化または発赤(レイノー現象)、脱毛、皮膚が硬くなる、異常に暗色または明色な皮膚、皮膚肥厚および光沢のある手および前腕、ならびに指先またはつま先の潰瘍があるが、これに限定されるものではない。骨および筋肉の症状として、関節痛、足のしびれおよび疼痛、手指および関節の疼痛、こわばりおよび腫脹、手首痛があるが、これに限定されるものではない。他の症状として、便秘、下痢、乾性咳嗽、喘鳴および嚥下困難があるが、これに限定されるものではない。
シェーグレン病(Mikulicz病、乾燥症候群)は、免疫細胞が、涙および唾液を産生する外分泌腺を攻撃して破壊する自己免疫障害である。研究からは、シェーグレン病患者と健常対照との間でIL−1β、IL−6およびTNF−αのレベルが著しく異なることが明らかになっている(非特許文献12)、シェーグレン病の症状として、口内乾燥、ドライアイ、皮膚乾燥、鼻の乾燥および膣の乾燥があるが、これに限定されるものではない。
糸球体腎炎
糸球体腎炎(glomerulonephritis)(GN)は、腎臓の小血管(糸球体)の炎症を特徴とする腎臓病である。研究から、炎症性サイトカインIL−1およびTNF−αがそれぞれ糸球体腎炎の免疫/炎症プロセスに関与しており、その作用を阻止すると疾患が抑制されることが報告されている(非特許文献13、14)。別の研究からは、IL−6も糸球体腎炎に関与していることが報告されている(非特許文献15)。糸球体腎炎の症状として、浮腫、高血圧および尿中の赤血球の存在があるが、これに限定されるものではない。
泌尿器慢性骨盤痛
泌尿器慢性骨盤痛症候群とは、膀胱と関連する疼痛症候群(すなわち、間質性膀胱炎(interstitial cystitis)(IC)、膀胱痛症候群(painful bladder syndrome)(PBS))および前立腺と関連する疼痛症候群(慢性前立腺炎(chronic prostatitis)(CP)、慢性骨盤痛症候群(chronic pelvic pain syndrome)(CPPS))をいう。慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)は、尿路感染の証拠がなく、3カ月を超えて持続する骨盤痛または会陰部痛を特徴とする。研究から、炎症および非炎症CPPSの群では対照群に比べてIL−1β、TNF−αおよびIL−6のレベルが著しく高いことが報告されている(非特許文献16、17、18)。こうした症候群の症状は、消長を繰り返すことがある。疼痛は、軽度の不快感から衰弱性のものなど多岐にわたる場合があり、背部および直腸から放射状に広がり、座ることが困難になる恐れもある。排尿障害(排尿困難または排尿痛)、関節痛(関節の痛み)、筋肉痛(筋肉の痛み)、原因不明の疲労、腹痛、陰茎の絶え間ない焼けるような痛み、およびその頻回の痛みがすべて現れる場合もある。頻尿および尿意切迫は、間質性膀胱炎(前立腺ではなく膀胱を中心とする炎症)を示唆する場合がある。精液放出時に前立腺が収縮するため、射精に痛みを伴うこともあるが、神経および筋肉による射精後疼痛の方がより一般的である。患者によっては、性欲低下、性機能障害および勃起困難を報告するものもある。射精後の疼痛は、CP/CPPSを良性前立腺肥大(benign prostatic hyperplasia)(BPH)の男性または正常男性と鑑別する非常に特有の愁訴である。
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease)(IBD)
「炎症性腸疾患(IBD)」という用語は、大腸および小腸の一群の炎症状態をいう。IBDとして、クローン病(Crohn’s disease)(CD)および潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)(UC)が挙げられる。IBDの他の形態としては、コラーゲン性大腸炎、リンパ球性大腸炎、虚血性大腸炎、経路変更後の大腸炎、ベーチェット症候群、感染性大腸炎および中間型大腸炎が挙げられる。こうした障害の多くは、腹痛、嘔吐、下痢、血便(便の鮮血)、体重減少、および関節炎、壊疽性膿皮症および原発性硬化性胆管炎のような様々な関連する愁訴または疾患の症状を呈することがある。診断は一般に病理学的病変部の生検を伴う結腸鏡検査による。研究から、IL−6、IL−1およびTNF−αなどのサイトカインが腸の免疫系の調節中心的な役割を果たしており、IBDでは多くのプロおよび抗炎症性サイトカインの粘膜および全身濃度が高いことが報告されている(非特許文献19)。研究からはさらに、クローンの患者ではTNF−α、IL−1βおよびIL−6が高レベルであり、生検標本の培養の上澄み液のIL−1βおよびIL−6の濃度が、内視鏡的評価および組織学的評価のいずれの測定でも組織障害の程度と正の相関関係にあることが明らかになっている(非特許文献20)。
骨盤内炎症性疾患(PID)
骨盤内炎症性疾患(PID)は、女性の子宮、ファローピウス管および/または卵巣の炎症をいい、近傍の組織および器官に粘着して瘢痕の形成に進展する。PIDは、組織壊死および膿瘍形成に至ることもある。研究から、抗菌治療前のPID患者では(治療後に比べて)IL−1β、IL−6およびTNF−αが著しく高く、こうしたサイトカインがPIDの病因に重要な役割を果たしていることが報告されている(非特許文献21)。
再灌流傷害
再灌流傷害とは、一定期間の虚血後に組織への血液供給が回復したときに起こる組織の損傷をいう。血液からの酸素および栄養素がなかったため、血行が回復すると、正常機能が回復するのではなく酸化ストレスが誘導され炎症および酸化損傷が引き起こされる状態になる。研究から、IL−6がTNF−αのダウンレギュレーションを介して温虚血/再灌流傷害から肝臓を守ることが報告されている(非特許文献22)。症状として、白血球レベルの上昇、アポトーシスおよびフリーラジカルの蓄積があるが、これに限定されるものではない。
関節リウマチ(RA:rheumatoid arthritis)
関節リウマチ(RA)は、最も一般的には貧血と共に関節(関節炎)および腱鞘の炎症および組織損傷が起こる慢性全身性自己免疫障害である。また、RAでは肺、心膜、胸膜および眼の強膜のびまん性炎症が起こり、さらに皮膚の下の皮下組織では結節性病変が最も多く見られる。RAは能力傷害を来す痛みを伴う状態となることもあり、機能および運動性の実質的な喪失に至る恐れもある。研究から、RAおよび若年性関節炎患者の血清中ではIL−1β、IL−6およびTNF−αのレベルが高いことが報告されている(非特許文献23)。RAの症状は、関節(腫脹、疼痛、圧痛、局所熱感、こわばりおよび運動の制限);皮膚(リウマトイド結節);肺(線維症、カプラン症候群、胸水);腎臓(腎アミロイドーシス);心臓および血管(アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、脳卒中);および眼(上強膜炎、乾性角結膜炎)に発現し得る。
血管炎
「血管炎」とは、血管(動脈および静脈)の炎症性破壊を特徴とする障害をいう。研究から、全身性血管炎の治療ではTNF−α、IL−1およびIL−6が有望な生物学的標的であることが報告されている(非特許文献24)。血管炎の症状は通常、単臓器または多臓器機能不全の全身性症状である。こうした症状として、疲労、脱力、発熱、関節痛、腹痛、高血圧、腎不全および神経機能障害を挙げることができる。他の症状としては、多発性単神経炎、触知可能な紫斑(皮膚の紫斑)および肺−腎症候群を挙げることができる。過敏性血管炎(hypersensitivity vasculitis)(HSV)は、外因性物質に対する免疫応答による二次性血管炎である。研究から、活発なHSV患者では健康な対照群よりも血清中のIL−6およびTNF−αが著しく高いことが報告されている(非特許文献25)。
5.障害:線維症
線維症は、器官または組織の傷害または炎症により、またはそこへの血液供給の妨害によりその部位に過剰な線維性結合組織が形成または発生する。線維症は、瘢痕が生じる正常な治癒反応の結果起こることもあれば、あるいは、異常な反応プロセスであることもある。
線維症には、以下に限定されるものではないが、膵臓および肺の嚢胞性線維症、注射部位線維症、心内膜心筋線維症、肺の特発性肺線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症および腎性全身性線維症など、いくつかの病型がある。
嚢胞性線維症(cystic fibrosis)(CF、ムコビドーシス、ムコビシドーシス)は、常染色体劣性遺伝疾患である。嚢胞性線維症は、米国で最も多く見られる致死的な遺伝性障害の1つで約30,000人が罹患しており、コーカサス人集団で最も多く、出生児3,300人に1人の割合で発生する。嚢胞性線維症に関わる遺伝子は、1989年に同定され、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)(CFTR)というタンパク質をコードする。CFTRは通常、全身の外分泌上皮に発現し、クロライドイオン、炭酸水素塩イオンおよびグルタチオンが細胞を出入りするのを調節する。嚢胞性線維症患者では、CFTR遺伝子の変異によってCFTRタンパク質の機能が変化するか、あるいは完全に失われ、外分泌液の浸透圧モル濃度、pHおよびレドックス特性に異常を来す。CFは、肺では気道を閉塞する粘稠な粘液分泌として現れる。汗腺などの他の外分泌器官では、CFは閉塞性の表現型を示さないこともあり、その代わり塩組成が異常な分泌物として現れる(このためCF患者の検出には汗の浸透圧の臨床試験が行われる)。嚢胞性線維症患者の疾病および死亡の主な原因は、進行性肺疾患である。気道の通路を塞ぐCF粘液の粘稠性は、分泌物の浸透圧モル濃度の異常だけでなく、大量のDNA、アクチン、プロテアーゼおよび好中球という炎症細胞のサブセットに由来する酸化促進酵素の存在によって生じると考えられている。実際、CFの肺疾患は、ウイルスおよび細菌性病原体の両方に対して機能亢進した初期の好中球による炎症反応を特徴とする。CFの肺の過剰炎症症候群にはいくつかの基盤があり、そのうちプロ炎症性ケモカイン、主にIL−8と抗炎症性サイトカイン、主にIL−10との間の不均衡が主要な役割を果たしていることが報告されている(非特許文献26を参照されたい)。研究から、嚢胞性線維症患者の気管支肺胞洗浄液では健康な対照の気管支肺胞洗浄液に比べてTNF−α、IL−6およびIL−1βのレベルが高いことが報告されている(非特許文献27)。
注射部位線維症(injection fibrosis)(IF)は、多くの場合、乳児および小児の四頭筋、三頭筋および臀筋に起こる筋肉内注射の合併症であり、被検体は患部筋肉を十分に曲げることができない。注射部位線維症は典型的には無痛性であるが、進行性である。研究から、糖タンパク質オステオポンチン(osteopontin)(OPN)が組織リモデリングに関与しており(非特許文献28)、この炎症促進性メディエーターがヒト単球のIL−1βのアップレギュレーションを引き起こし、これに伴いTNF−αおよびIL−6の産生が増加することが報告されている(非特許文献29、30)。
心内膜心筋疾患(好酸球増加症候群)は、血液中の好酸球数が持続的に増加する(≧1500好酸球/mm3)ことを特徴とする疾患プロセスである。HSは、同時に多くの器官が侵される。研究から、ウイルスによる心筋炎患者ではIL−1β、IL−6およびTNF−αが高レベルで発現することが報告されている(非特許文献31)。症状として、心筋症、皮膚病変、血栓塞栓性疾患、肺疾患、ニューロパチー、肝脾腫大(肝臓および脾臓が共に拡大する)および心室の大きさの縮小を挙げることができる。治療としては、コルチコステロイドを用いて好酸球レベルを低下させることが挙げられる。
特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis)(IPF、特発性線維化肺胞炎)は、原因不明の慢性進行性間質性肺疾患である。特発性肺線維症は、通常の間質性肺炎の組織学的パターンに関連し、関連する炎症がほとんど見られない肺間質の線維組織の異常かつ過剰な沈着を特徴とすることもある。研究から、特発性肺線維症(IPF)患者ではTNF−αおよびIL−6の放出が著しく増加しており(非特許文献32)、これがIL−1βの発現レベルに起因することが報告されている(非特許文献33)。症状として、呼吸困難(呼吸の困難)のほか、空咳、ばち状指(手指の奇形)および断続性ラ音(吸入時の肺においてパチパチする音)が挙げられる。
縦隔線維症(mediastinal fibrosis)(MF)は、大血管および気道を塞ぐリンパ節を中心とした浸潤性石灰化線維症を特徴とする。MFは、ヒストプラスマ症の後期合併症である。線維症のマウスモデルを用いた研究から、IL−1βおよびTNF−αが著しく高いことが報告されている(非特許文献34)。
骨髄線維症(骨髄様化生、慢性特発性骨髄線維症、原発性骨髄線維症)は、骨髄が線維症を起こす骨髄の障害である。骨髄線維症は、進行性の骨髄不全に至る。平均生存期間は5年で、死因として感染症、出血、臓器不全、門脈圧亢進症および白血病化が挙げられる。ウイルスによる骨髄線維症の動物モデルではTNF−αおよびIL−6のレベルが高いことが報告されている(非特許文献35)。
後腹膜線維症(Ormond病)は、後腹膜の線維組織の増殖を特徴とする疾患である。後腹膜は、腎臓、大動脈、腎路および他の構造体を含む体区画である。IL−1、IL−6およびTNF−αが後腹膜線維症の発生に重要な役割を担うことが報告されている(非特許文献36)。後腹膜線維症の症状として、腰痛、腎不全、高血圧および深部静脈血栓症を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis)(NSF、腎性線維化性皮膚症)は、皮膚、関節、眼および内蔵の線維症に関係する。NSFは、ガドリニウムの曝露に起因する場合がある。患者は、線維性の小結節およびプラークを伴い皮膚が広範囲にわたり硬化する。さらに屈曲拘縮が起こり動ける範囲が制限され得る。NSFは、皮膚線維芽細胞および樹状細胞の増殖、コラーゲン線維束の膨化、弾性線維の増加およびムチンの沈着を示す。いくつかの報告によれば、ある炎症促進状態が腎性全身性線維症を起こす素因となり(非特許文献37)、腎性全身性線維症の動物モデルではTNF−αのレベルが高いこと(非特許文献38)が示唆されている。
6.障害:内皮細胞機能障害
内皮細胞機能障害(内皮機能不全)とは、凝固、血小板粘着、免疫機能、ならびに血管内腔および血管外腔の容積および電解質量の制御など内皮が行う通常の生化学的プロセスの生理学的機能異常をいう。内皮機能不全は、たとえば敗血症性ショック、高血圧、高コレステロール血症および糖尿病などの疾患の経過だけでなく、タバコ製品の喫煙など環境要因に起因することもある。研究から、IL−6、IL−1βおよびTNF−αなどのサイトカインの影響下で内皮依存性拡張反応が傷害され得、内皮が、循環血中のホルモンまたはオータコイドに反応する能力を失うことがあることが報告されている。この作用により、血管攣縮、血栓症またはアテローム発生の素因が形成され得る(非特許文献39)。さらに、研究によれば、IL−1βおよびTNF−αにより調節されるIL−6の過剰発現が、内皮細胞機能障害に重要な役割を果たすことが示唆されている(非特許文献40、41)。
内皮機能不全は、適切な刺激に反応して動脈および細動脈が十分に拡張できないことを特徴とする場合がある。たとえば機能障害の内皮細胞(血管拡張が低下している)は、健康な内皮細胞と同程度に一酸化窒素(NO)を産生できない。この差については、アセチルコリンのイオントフォレーシス、様々な血管作用薬の動脈内投与、皮膚の局所的な加温、および血圧カフを高圧力に膨張させることによる一時的な動脈閉塞など様々な方法により検出可能である。検査は冠動脈自体で行ってもよいが、しかしながら、この侵襲的方法は、冠動脈内カテーテル治療という臨床上の理由がなければ通常行われない。こうした技法は、内皮を刺激してNOを放出させ、周囲の血管平滑筋に拡散し血管拡張を起こすと考えられる。
生物活性のある組換えタンパク質およびペプチド治療剤の送達を可能にする系は、多くの研究の対象となってきた。治療薬を局所送達する系は、そうした薬の生物学的作用の有効性を高めることができる。
インビボで組換えタンパク質を所望の標的に送達するための挑戦が続いている。タンパク質形質導入ペプチドの分野は発展したものの、タンパク質の発現には、アデノ随伴ウイルス、アデノウイルス、レンチウイルス、ヘルペスウイルスベクターおよびプラスミド発現ベクターによるタンパク質コード遺伝子の古典的な送達法を選択することが依然として好ましい。
ウイルスベクターによる遺伝子発現は、特定の遺伝子を許容細胞に送達するそうしたベクターの本来の能力のため、分裂活性がある細胞型、または増殖を停止した細胞型に新たに機能タンパク質を発現させる最も効率的で信頼性の高いアプローチと考えられる。とはいえ、ウイルスベクターでは、目的のタンパク質の治療発現レベルを達成するには常に大量の投与が必要とされる。さらに、ウイルスベクターは宿主のクロマチン質と統合する場合がある。これらの特性は宿主遺伝子系に長期的に作用するため、最終的な臨床応用の際には安全性について深刻な懸念が残る。
より安全な別のアプローチは、外部で組換えタンパク質を作製してから、全身性にまたは局所注射により組換えタンパク質を標的器官に送達するものである。しかしながら、細胞または組織への組換えタンパク質の送達およびバイオアベイラビリティーについてはさらに改善を要する。いくつかの研究によれば、創薬、および120kDaまでのタンパク質の様々な細胞への形質導入におけるPTDの可能性が示唆されているが、PTDによるタンパク質形質導入の有効性に関する問題は、未解決のままである。実際、いくつかの研究から、インビトロ/インビボでPTDによる融合タンパク質の形質導入ができないこと、さらに免疫応答が誘導できないことも明らかになっている。さらに、PTD融合タンパク質または他の非分泌性タンパク質の細胞内発現では組換えタンパク質と同じ体内分布を達成できないであろうことを明らかにしている研究もあり、PTDが血液脳関門を通過するかは分かっていない状況である。
本発明は、キナーゼを阻害する治療用阻害ペプチド、治療ドメインおよびタンパク質形質導入ドメインを含むクラスのペプチドのキナーゼ活性の阻害剤としての使用、および様々な障害の治療薬としてのPTDの使用を提供する。
本発明は、治療用キナーゼ阻害組成物、およびマイトジェン活性化プロテインキナーゼ活性化プロテインキナーゼを阻害するのに有用な方法を提供する。
用語の解説
アミノ酸について本明細書に使用する略語は、以下のとおり従来から使用されている略語である:A=Ala=アラニン;R=Arg=アルギニン;N=Asn=アスパラギン;D=Asp=アスパラギン酸;C=Cys=システイン;Q=Gln=グルタミン;E=Glu=グルタミン酸;G=Gly=グリシン;H=His=ヒスチジン;I=Ile=ルソロイシン(lsoleucine);L−Leu=ロイシン;K=Lys=リジン;M=Met=メチオニン;F=Phe=フェニアラニン(Phenyalanine);P=Pro=プロリン;S=Ser=セリン;T=Thr=トレオニン;W=Trp=トリプトファン;Y=Tyr=チロシン;V=Val=バリン。アミノ酸は、L−アミノ酸でも、またはD−アミノ酸でもよい。アミノ酸は、ペプチドの半減期が延長する、またはペプチドの力価が向上する、またはペプチドのバイオアベイラビリティーが向上するように改変された合成アミノ酸により置換されていてもよい。
「投与する」という用語は、本明細書で使用する場合、分注する、供給する、適用する、与える、分配するまたは提供することをいう。「投与する(administering)」または「投与(administration)」という用語は同義で使われ、インビボ投与だけでなく、エキソビボでの組織への直接的な投与も含む。一般に、組成物は、通常の無毒な薬学的に許容されるキャリア、アジュバントおよびビヒクルを望ましいように含む投薬単位剤形で経口投与、頬粘膜投与、非経口投与、局部投与、吸入もしくは吹送による(すなわち、口または鼻からの)投与または直腸内投与のいずれかで全身投与しても、あるいは、以下に限定されるものではないが、注射、埋め込み、移植、局部適用などの手段によりまたは非経口的に局所投与してもよい。「非経口」という用語は、本明細書で使用する場合、たとえば皮下注射(すなわち皮膚の下への注射)、筋肉内注射(すなわち筋肉への注射)、静脈内注射(すなわち静脈への注射)、髄腔内注射(すなわち脊髄周囲または脳のくも膜下の空間への注射)、胸骨内注射または注入法など、注射により体内に導入すること(すなわち注射による投与)をいう。非経口的に投与される組成物は、針、たとえば外科用針を用いて送達される。「外科用針」という用語は、本明細書で使用する場合、液体(すなわち流動可能な)組成物を、選択された解剖学的構造物に送達するのに適した任意の針をいう。注射用の無菌水性または油性懸濁液などの注射用調製物は、好適な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いて従来技術に従い製剤化することができる。
追加投与については、たとえば、静脈内、心膜腔内、経口、インプラントを介して、経粘膜的、経皮的、筋肉内、皮下、腹腔内、髄腔内、リンパ管、病巣内または硬膜外に行ってもよい。投与は、たとえば、1回、複数回および/または長期間にわたり1回または複数回行ってもよい。「局部投与」および「局部に適用する」という用語は、本明細書で使用する場合、同義で使われ、ペプチド、核酸、またはペプチドまたは核酸を含むベクターを上皮表面など1つまたは複数の組織または細胞の表面に送達することをいう。
局部投与は、経皮投与とは異なり一般に、全身作用ではなく局所作用を与える。「局部投与」および「経皮投与」という用語は、本明細書で使用する場合、他に記載または黙示がない限り、同義で使われる。
「結合する(associate)」という用語はおよびその文法上の様々な形は、本明細書で使用する場合、直接的、間接的、活発に、不活発に、不活性に、活性に、完全にあるいは不完全に接合する、連結するまたは組み合わせることをいう。
「生体適合性」という用語は、本明細書で使用する場合、臨床的なリスク/ベネフィット評価に基づき、生きている組織に対して臨床的に問題となる組織の刺激、傷害、毒性反応または免疫学的反応を引き起こさないことをいう。
「生分解性」という用語は、本明細書で使用する場合、単純な化学プロセス、体内酵素の作用または人体内の他の類似の機構により、材料が経時的に能動的または受動的に分解することをいう。
「キャリア」という用語は、本明細書で使用する場合、活性成分と組み合わせても生体に対して著しい刺激を引き起こさず、かつ本発明の組成物の生物活性および特性を阻害せずに投与しやすくする有機または無機成分をいい、天然であるか合成であるかを問わない。キャリアは、治療される被検体への投与に好適となるよう十分に高純度で十分に低毒性でなければならない。キャリアは不活性でもよく、あるいは医薬効果、美容効果またはその両方を有していてもよい。
「状態」という用語は、本明細書で使用する場合、様々な健康状態をいい、根底にある任意の機構、または健常組織および器官の障害、傷害ならびに促進により引き起こされる障害または疾患を含む健康状態である。
「接触(contacting)」という用語は、本明細書で使用する場合、接触させること、または接触することをいい、「接触(contact)」という用語は、本明細書で使用する場合、接触している状況または状態、あるいは密接または局所的に近接している状況または状態をいう。組成物を、以下に限定されるものではないが、器官、組織、細胞または腫瘍などの標的部位に接触させるには、当業者に知られている任意の投与手段により行えばよい。
「制御可能な調節エレメント」という用語は、本明細書で使用する場合、核酸またはそのペプチドまたはタンパク質産物の発現を行うことができる核酸配列をいう。制御可能な調節エレメントは、本発明の核酸、ペプチドまたはタンパク質に作動可能に連結されていてもよい。以下に限定されるものではないが、制御配列などの制御可能な調節エレメントは、核酸、ペプチドまたはタンパク質の発現を指令するように機能する限り、発現を制御する核酸、ペプチドまたはタンパク質と近接している必要はない。このため、たとえば、本発明のプロモーター配列と核酸との間には、転写されるが翻訳されない配列が介在してもよく、それでもプロモーター配列はコード配列に「作動可能に連結されている」と見なすことができる。他のこうした制御配列として、ポリアデニル化シグナル、終結シグナルおよびリボソーム結合部位があるが、これに限定されるものではない。
「放出制御」という用語は、任意の薬剤を含む製剤において、製剤からの薬剤放出の様式およびプロファイルが制御されていることをいうものとする。これは、速放性製剤および非速放性製剤を意味し、非速放性製剤として、徐放性製剤および遅延放出型製剤があるが、これに限定されるものではない。
「サイトカイン」という用語は、本明細書で使用する場合、細胞が分泌し、他の細胞に対して様々な作用を与える小さな可溶性タンパク質物質をいう。サイトカインは、成長、発生、創傷治癒および免疫応答など多くの重要な生理的機能を媒介する。サイトカインは、細胞膜にある細胞特異的受容体に結合することにより作用し、細胞内で特徴的なシグナル伝達カスケードを開始させ、最終的に標的細胞の生化学的および表現型の変化を引き起こす。一般にサイトカインは局所的に作用する。サイトカインとして、多くのインターロイキンおよびいくつかの造血成長因子を包含するI型サイトカイン;インターフェロンおよびインターロイキン−10を含むII型サイトカイン;TNFαおよびリンホトキシンを含む腫瘍壊死因子(「TNF」)関連分子;インターロイキン1(「IL−1」)を含む免疫グロブリンスーパーファミリーメンバー;および多様な免疫および炎症機能において重要な役割を担う分子のファミリーであるケモカインが挙げられる。細胞の状態に応じて同じサイトカインが細胞に対して異なる作用を及ぼす場合がある。サイトカインは、多くの場合、他のサイトカインの発現および他のサイトカインのカスケードの引き金を調節する。
本明細書では、「遅延放出」という用語は、薬剤製剤において製剤投与と製剤からの薬剤放出との間に時間的遅延があることをいう通常の意味に使用する。「遅延放出」は薬剤を長時間にわたり徐々に放出してもしなくてもよく、したがって「徐放性」であってもなくてもよい
「疾患」または「障害」という用語は一般に、本明細書で使用する場合、健康の障害または機能異常の状態をいう。本発明に関連する障害として、炎症性疾患、線維症、内毒素性ショック、膵炎、喘息、局所性炎症性疾患、アテローム動脈硬化性心血管疾患、アルツハイマー病、腫瘍性疾患、神経虚血、関節リウマチ、クローン病、炎症性腸疾患、内膜過形成、狭窄症、再狭窄、アテローム性動脈硬化症、平滑筋細胞腫瘍および転移、平滑筋の痙攣、アンギナ、プリンツメタル狭心症、虚血、徐脈、高血圧、心肥大、腎不全、脳卒中、肺高血圧症、妊娠中毒症、早期陣痛、子癇前症、子癇、レイノー病またはレイノー現象、溶血性尿毒症、裂肛、アカラシア、インポテンツ、片頭痛、平滑筋の痙攣に起因する虚血性筋傷害、血管障害、徐脈性不整脈、鬱血性心不全、気絶心筋、肺高血圧症、拡張機能障害、グリオーシス(中枢神経系の損傷部での細胞外マトリックス(extracellular matrix)(ECM)の沈着を含む場合があるアストロサイトの増殖をいう)、慢性閉塞性肺疾患(気流閉塞または制限を特徴とする呼吸器疾患をいう;以下に限定されるものではないが、慢性気管支炎および気腫がある)、骨減少症、内皮機能不全、炎症、変形性関節症、強直性脊椎炎、シェーグレン病、Guilliame−Barre病、感染症、敗血症、エンドトキシンショック、乾癬、放射線腸炎、強皮症、硬変、間質性線維症、大腸炎、虫垂炎、胃炎、喉頭炎、髄膜炎、膵炎、耳炎、再灌流傷害、外傷性脳障害、脊髄損傷、末梢神経障害、多発性硬化症、ループス、アレルギー、心血管代謝疾患、肥満、II型糖尿病(diabetes mellitus)、I型糖尿病(diabetes mellitus)およびNASH/硬変を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
「ドメイン」という用語は、本明細書で使用する場合、ほぼ独立して、コンパクトな球状構造を形成するタンパク質の構造単位をいう。「薬剤」という用語は、本明細書で使用する場合、治療薬、または疾患の予防、診断、軽減、治療または治癒に使用される食品以外の任意の物質をいう。
「ハイブリダイゼーション」という用語は、2本の一本鎖核酸分子が塩基対を介して相互に結合することをいう。ヌクレオチドは通常の状態でその相補体に結合するため、2本の完全な相補鎖は容易に相互に結合する(すなわち「アニールする」)。しかしながら、ヌクレオチドの分子の様々な幾何形状により、2本の鎖間の1つの不一致があっても鎖間の結合はエネルギー的により好ましくないものになる。塩基の不一致については、2本鎖のアニーリング速度を定量することにより測定することができ、これは、アニールする2本の鎖間の塩基配列における類似性に関する情報を与え得る。
「ヒドロゲル」という用語は、本明細書で使用する場合、ゼラチン質またはゼリー状の塊を形成するのに必要な水性成分を含み、固体、半固体、擬塑性または可塑性構造物となる物質をいう。ヒドロゲルは、水性環境の存在下で最終的に平衡量になるかなりの量のH2Oを含み、保持している。
「親水性の」という用語は、本明細書で使用する場合、材料または物質が水などの極性物質に対して親和性を有することをいう。
「体内の」、「空隙容積」、「切除ポケット(resection pocket)」、「窩」、「注射部位」、「沈着部位」または「インプラント部位」という用語は、本明細書で使用する場合、制限されることなく身体の全組織を含むものとし、非限定的な例として注射、外科的切開、腫瘍または組織の除去、組織傷害、膿瘍形成によりそこに形成された空間、または疾患もしくは病態に対する臨床評価、治療または生理的反応の作用によりそのように形成された任意の他の類似した空洞、空間またはポケットをいう場合がある。
「阻害する(inhibiting)」、「阻害する(inhibit)」または「阻害(inhibition)」という用語は、本明細書で使用する場合、プロセスの量または速度を減少させるか、プロセス全体を停止させるか、あるいは、その作用または機能を低下、限定または阻止するという意味で使用される。阻害は、量、速度、作用機能またはプロセスを、阻害されない物質である基準物質と比較して少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%減少または低下させることを含んでもよい。
「傷害」という用語は、本明細書で使用する場合、物理的でも化学的でもよい外部の作用物質または力により引き起こされる身体の構造または機能の損傷または損害をいう。
「単離された」という用語は、核酸、ペプチドまたはタンパク質などの材料が、(1)天然の環境で通常見出され、それに付随するかまたは相互作用する成分を実質的にまたは本質的に含まないことをいう。「実質的にまたは本質的に含まない」という用語は、ある材料が、その天然の環境で見出され、通常それに付随するかまたは相互作用する成分を少なくとも80%含まないという意味で使用される。単離された材料は任意に、その自然環境でその材料と一緒に見出されない材料を含み、すなわち(2)その材料がその自然環境にある場合、その材料は人為的なヒトの介入によりある組成物に人工的(非天然)に改変されている、および/またはその環境に見出される材料にとって本来の細胞(たとえば、ゲノムまたは細胞内オルガネラ)でない位置に配置されている。人工材料を得るための改変は、自然状態にある材料に行っても、自然状態から除去した材料に行ってもよい。たとえば、天然核酸は、それが由来する細胞内で行われるヒトの介入により、改変されるか、または改変されたDNAから転写される場合、単離された核酸になる。たとえば、「真核細胞の部位特異的変異誘発のための化合物および方法(Compounds and Methods for Site Directed Mutagenesis in Eukaryotic Cells)」、クミーク(Kmiec)、米国特許第5,565,350号;「インビボでの真核細胞の相同配列ターゲティング(In Vivo Homologous Sequence Targeting in Eukaryotic Cells)」;ザーリング(Zarling)ら、国際出願PCT/US93/03868号を参照されたい。同様に、天然核酸(たとえばプロモーター)は、非天然手段によりその核酸の本来のゲノム遺伝子座でない遺伝子座に導入された場合も、単離されたものになる。本明細書に定義される「単離された」核酸は、「異種」核酸ともいう。
「キナーゼ」という用語は、本明細書で使用する場合、リン酸基を高エネルギーのドナー分子から特定の標的分子または基質に転移する種類の酵素をいう。高エネルギーのドナー群として、ATPがあるが、これに限定されるものではない。
「キナーゼ活性」という用語は、本明細書で使用する場合、キナーゼによるキナーゼ基質のリン酸化をいう。
「キナーゼ基質」という用語は、本明細書で使用する場合、キナーゼによりリン酸化され得る基質をいう。
文法上様々な形をとる「不安定な」という用語は、本明細書で使用する場合、変化しやすい、または変化する可能性が高いことをいう。不安定な化合物は、状態を変化させる、または不活性になることができる化合物である。
「親油性の」という用語は、本明細書で使用する場合、極性または水性環境と比較して無極性環境の方に親和性を示すか、または親和性を有することをいう。
「長時間放出」という用語は、本明細書で使用する場合、インプラントが治療レベルの活性成分を少なくとも7日間、または約30〜約60日間送達するように構成および配置されていることを意味する。
「哺乳動物細胞」という用語は、本明細書で使用する場合、哺乳綱の動物に由来する細胞をいう。本明細書で使用する場合、哺乳動物細胞は、正常細胞、異常細胞および形質転換細胞を含んでもよい。本発明に使用される哺乳動物細胞の例として、ニューロン、上皮細胞、筋細胞、血液細胞、免疫細胞、幹細胞、骨細胞、内皮細胞および芽細胞があるが、これに限定されるものではない。
「調節する」という用語は、本明細書で使用する場合、ある程度またはある比率まで制御する、変化させる、適合させる、または調整することを意味する。
「正常な」という用語は、大きな群の標準、モデル、中央値または平均をいう。
「健常な被検体」という用語は、炎症性障害の症状または他の証拠を持たない被検体をいう。
「核酸」という用語は、他の限定がない限り、一本鎖あるいは二本鎖形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーをいい、天然のヌクレオチドと同様の要領で一本鎖核酸にハイブリダイズするという点で天然ヌクレオチドの本質的性質を持つ既知のアナログ(たとえばペプチド核酸)を包含する。
「ヌクレオチド」という用語は、複素環塩基、糖および1つまたは複数のリン酸基からなる化学化合物をいう。最も一般的なヌクレオチドでは、塩基がプリンまたはピリミジンの誘導体、糖が五炭糖デオキシリボースまたはリボースである。ヌクレオチドは核酸のモノマーで3つ以上が結合して核酸を形成する。ヌクレオチドは、RNA、DNA、および以下に限定されるものではないが、CoA、FAD、DMN、NADおよびNADPなどいくつかの補助因子の構造単位である。プリンは、アデニン(A)およびグアニン(G)を、ピリミジンは、シトシン(C)、チミン(T)およびウラシル(U)を含む。
「作動可能に連結された」という語句は、第1の配列(1つまたは複数の配列)またはドメインが第2の配列(1つまたは複数の配列)またはドメインに対して十分に近位に配置されているため、第1の配列(1つまたは複数の配列)またはドメインが第2の配列(1つまたは複数の配列)もしくはドメインまたはその第2の配列もしくはドメインの制御下の領域に影響を与えることができることをいう。
「粒子」という用語は、本明細書で使用する場合、本明細書に記載するようなキナーゼ阻害組成物の全部または一部を含み得る非常に小さな構成要素(たとえばナノ粒子、微小粒子または場合によってはより大きいもの)をいう。
「ペプチド」という用語は、本明細書で使用する場合、ペプチド結合により結合した2つ以上のアミノ酸をいう。
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では同義で使われ、アミノ酸残基のポリマーをいう。これらの用語は、天然のアミノ酸ポリマーだけでなく、1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然アミノ酸の人工の化学アナログであるアミノ酸ポリマーにも使用される。こうした天然のアミノ酸のアナログの本質的性質は、タンパク質に組み込んだ際に、天然のアミノ酸だけからなることを除いて同じタンパク質に対して誘導された抗体にそのタンパク質が特異的に反応することである。「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、以下に限定されるものではないが、グリコシル化、脂質結合、硫酸化、グルタミン酸残基のγ−カルボキシル化、ヒドロキシル化およびADP−リボシル化などの改変体も含む。周知の通り、そして上述のように、ポリペプチドは必ずしも直鎖でなくてもよいことは言うまでもない。たとえば、ポリペプチドは、ユビキチン化に伴い分枝であってもよく、自然なプロセシングイベント、および自然には起こらないヒトの操作により引き起こされるイベントなど一般に翻訳後のイベントにより分枝を含むあるいは含まない環状であってもよい。環状、分枝および分枝環状のポリペプチドは、自然な非翻訳プロセスにより合成することができ、合成方法だけで合成することもできる。
「ペプチド模倣物」という用語は、本明細書で使用する場合、ペプチドを模倣するように設計された小さいタンパク質様の鎖をいう。ペプチド模倣物は典型的には、分子特性を変更するため既存のペプチドを改変して得られる。
「薬学的に許容されるキャリア」という用語は、本明細書で使用する場合、ヒトまたは他の脊椎動物への投与に好適な1種または複数種の固体または液体の相溶性充填剤、希釈液または封入物質をいう。
「ポリマー」という用語は、本明細書で使用する場合、より小さな同一の分子(モノマーという)が連結してなる様々な化学化合物のいずれかをいう。ポリマーは一般に高分子量である。分子を結合してポリマーを形成するプロセスは「重合」と呼ばれる。
「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボポリヌクレオチド、リボポリヌクレオチド、またはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で天然のヌクレオチドと実質的に同じヌクレオチド配列にハイブリダイズする、および/または、天然のヌクレオチド(1つまたは複数の天然のポリヌクレオチド)と同じアミノ酸(1つまたは複数のアミノ酸)に翻訳されるという点で天然リボヌクレオチドの本質的性質を持つこれらのアナログをいう。ポリヌクレオチドは、全長でも、あるいはネイティブまたは異種の構造遺伝子もしくは調節遺伝子の部分配列でもよい。他に記載がない限り、この用語は、特定の配列およびその相補配列への言及を含む。したがって、安定性または他の理由により改変された骨格を持つDNAまたはRNAは、本明細書で意図する「ポリヌクレオチド」である。さらに、2つだけ例を挙げると、イノシンなどの例外的な塩基、またはトリチル化塩基などの修飾塩基を含むDNAまたはRNAも、本明細書で使用するポリヌクレオチドである。当然のことながら、DNAおよびRNAには、当業者に公知の多くの有用な目的を満たす非常に様々な改変体が作製されてきた。本明細書に使用するポリヌクレオチドという用語は、そうした化学的、酵素的または代謝的に改変されたポリヌクレオチド形態だけでなく、ウイルスならびに特に、単純型細胞および複雑型細胞などの細胞を特徴とする化学形態のDNAおよびRNAも包含する。
「一次配列」という用語は、本明細書で使用する場合、アミノ酸配列をいう。
「プロドラッグ」という用語は、本明細書で使用する場合、不活性型だが、被検体への投与後に生物的変換により活性型に変換されるペプチドまたは誘導体を意味する。
本明細書において以下の用語:(a)「参照配列」、(b)「比較ウィンドウ」、(c)「配列同一性」、(d)「配列同一性の割合」および(e)「実質的な同一性」は、2つ以上の核酸またはポリヌクレオチド間の配列関係を説明するのに使用する。
「参照配列」という用語は、配列比較の根拠として使用される配列をいう。参照配列は、たとえば、全長cDNAまたは遺伝子配列のセグメント、あるいは、完全なcDNAまたは遺伝子配列のように所定の配列のサブセットでも、または全体でもよい。
「比較ウィンドウ」という用語は、ポリヌクレオチド配列の連続した所定のセグメントをいい、ポリヌクレオチド配列は参照配列と比較することができ、2つの配列の最適なアライメントを得るため、比較ウィンドウのポリヌクレオチド配列部分は参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して付加または欠失(すなわちギャップ)を含んでもよい。一般に、比較ウィンドウは少なくとも20の連続するヌクレオチド長であり、任意に少なくとも30の連続するヌクレオチド長、少なくとも40の連続するヌクレオチド長、少なくとも50の連続するヌクレオチド長、少なくとも100の連続するヌクレオチド長またはそれ以上であってもよい。当業者であれば、ポリヌクレオチド配列にギャップを加えたことにより参照配列に対する類似度が高まるのを回避するため、一般にギャップペナルティーを導入し、マッチした数から差し引くことを理解する。
比較のための配列のアライメント方法は当該技術分野において公知である。比較のための配列の最適なアライメントは、スミス(Smith)およびウォーターマン(Waterman)著、アドバンスイズ・イン・アプライド・マセマティクス(Advances in Applied Mathematics)2:p.482(1981年)の局所的相同性アルゴリズム(local homology algorithm);ニードルマン(Needleman)およびブンシュ(Wunsch)著,ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)48:p.443(1970年)の相同性アライメントアルゴリズム(homology alignment algorithm);パーソン(Pearson)およびリップマン(Lipman)著、プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ(Proceedings of the National Academy of Sciences)、85:p.2444(1988年)の類似性検索法(the search for similarity method);以下に限定されるものではないが、マウンテンビュー、カリフォルニア州のインテリジェニティクス(Intelligenetics)によるPC/遺伝子プログラムのCLUSTAL;575 サイエンスドライブ、マディソン、ウィスコンシン州、米国のWisconsin Genetics Software Package、ジェネティクス・コンピューター・グループ(Genetics Computer Group)(GCG)、によるGAP、BESTFIT、BLAST、FASTAおよびTFASTAなどのこれらのアルゴリズムのコンピューターインプリメンテーションにより行うことができる。CLUSTALプログラムについては、ヒギンス(Higgins)およびシャープ(Sharp)著、ジーン(Gene)73:p.237〜244(1988年);ヒギンス(Higgins)およびシャープ(Sharp)著、CABIOS、5:p.151〜153(1989年);コルペ(Corpet)ら著、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)16:p.10881〜90(1988年);ホワン(Huang)ら著、コンピューター・アプリケーションズ・イン・ザ・バイオサイエンシズ(Computer Applications in the Biosciences)、8:p.155〜65(1992年)およびパーソンら著、メソッズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Methods in Molecular Biology)24:p.307〜331(1994年)により詳述されている。データベース類似性検索に使用できるBLASTの一連のプログラムは、ヌクレオチドデータベース配列に対してクエリー配列がヌクレオチドであるBLASTN;タンパク質データベース配列に対してクエリー配列がヌクレオチドであるBLASTX;タンパク質データベース配列に対してクエリー配列がタンパク質であるBLASTP;ヌクレオチドデータベース配列に対してクエリー配列がタンパク質であるTBLASTN;およびヌクレオチドデータベース配列に対してクエリー配列がヌクレオチドであるTBLASTXを含む。カレント・プロトコルズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current Protocols in Molecular Biology)第19章、アウスベル(Ausubel)ら編、グリーン・パブリッシング・アンド・ワイリー−インターサイエンス(Greene Publishing and Wiley−Interscience)ニューヨーク(1995年)を参照されたい。
他に記載がない限り、本明細書に記載する配列同一性/類似性の値は、デフォルトパラメーターを用いてBLAST2.0シリーズのプログラムにより得た値をいう。アルチュール(Altschul)ら著、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ、25:p.3389〜3402(1997年)。BLAST解析を行うためのソフトウェアは、たとえば国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology−Information)(http://www.hcbi.nlm.nih.gov/)から一般に入手可能である。このアルゴリズムではまず、クエリー配列中の長さWの短い単語を特定し、これをデータベース配列中の同じ長さの単語と整列させて、マッチするか、あるいは、ある正の値のスコアの閾値Tを満たす高スコアの配列ペア(high scoring sequence pair)(HSP)を特定する。Tは、近傍単語スコア閾値(neighborhood word score threshold)と呼ばれる(アルチュールら、上掲)。これらの最初の近傍単語のヒットをもとにして、それらを含むより長いHSPを見つけ出す検索を開始する。次に累積のアライメントスコアが高くならなくまるまで、各配列に沿って単語のヒットを両方向にのばしていく。ヌクレオチド配列の累積のスコアは、パラメーターM(マッチした残基ペアのリワードスコア(reward score);常に>0)およびN(ミスマッチ残基のペナルティースコア(penalty score);常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列の場合、累積のスコアの計算にはスコアリングマトリックスを使用する。単語ヒットの各方向への引きのばしは、累積のアライメントスコアがその最大達成値から量X減少するとき;1つまたは複数の負のスコアの残基アライメントの蓄積により累積のスコアが0以下になるとき;またはどちらの配列も末端に達したとき、停止する。アライメントの感度および速度は、BLASTアルゴリズムのパラメーターW、TおよびXにより判定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列に対応)は、デフォルトとして単語長(W)11、期待値(E)10、カットオフ100、M=5、N=−4および両鎖比較(comparison of both strands)を使用する。アミノ酸配列の場合、BLASTPプログラムは、デフォルトとして単語長(W)3、期待値(E)10およびBLOSUM62スコアリングマトリックスを使用する(ヘニコフ(Henikoff) & ヘニコフ(Henikoff)著、(1989年)プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)89:p.10915を参照されたい)。
BLASTアルゴリズムは、パーセント配列同一性の算出だけでなく、2つの配列間の類似性の統計解析も行う(たとえばカーリン(Karlin) & アルチュール(Altschul)著、プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)、90:p.5873〜5787(1993年)を参照されたい)。BLASTアルゴリズムにより得られる類似性の1つの尺度は、最小和確率(smallest sum probability)(P(N))であり、これは、2つのヌクレオチド配列間またはアミノ酸配列間のマッチが偶然に起こる確率の指標となる。BLAST検索は、タンパク質がランダムな配列としてモデル化され得ると仮定する。しかしながら、実際の多くのタンパク質は非ランダムの配列領域を含み、これがホモポリマートラクト(homopolymeric tract)、ショートピリオドリピート(short−period repeat)、または1つまたは複数のアミノ酸に富んだ領域になり得る。こうした低複雑性領域は、タンパク質の他の領域が完全に異なっていても無関係のタンパク質間で整列され得る。いくつかの低複雑性フィルタープログラムを用いてこうした低複雑性アライメントを抑制してもよい。たとえば、SEG(ウートン(Wooten)およびフェダーヘン(Federhen)著、コンピューターズ & ケミストリー(Computers & Chemistry)、17:p.149〜163(1993年))およびXNU(クラブリー(Claverie)およびステイテス(States)著、コンピューターズ & ケミストリー、17:p.191〜201(1993年))低複雑性フィルターを単独で、または組み合わせて使用してもよい。
本明細書で使用する場合、2つの核酸配列またはポリペプチド配列の文脈において「配列同一性」または「同一性」とは、所定の比較ウィンドウで一致度が最大になるよう整列したときに2つの配列の残基が同じであることをいう。タンパク質について配列同一性の割合を使用する場合、同一でない残基の位置は、多くの場合、保存的アミノ酸置換により異なったものであり、すなわち、アミノ酸残基は、類似の化学的性質(たとえば電荷または疎水性)を持つ他のアミノ酸残基に置換されたものであり、したがって分子の機能特性は変化していないと認識される。配列が保存的置換により異なっている場合、置換の保存的性質を補正するためパーセント配列同一性を上方に調整してもよい。こうした保存的置換により異なる配列は、「配列類似性」または「類似性」を有するものとされる。この調整を行う手段は当業者によく知られており、典型的には保存的置換を完全ミスマッチとしてではなく部分ミスマッチとしてスコア化することにより、配列同一性の割合を高める。このため、たとえば、同一のアミノ酸にスコア1を与え、非保存的置換にスコア0を与え、保存的置換には0と1との間のスコアを与える。保存的置換のスコア化は、たとえばプログラムPC/GENE(インテリジェニティクス、マウンテンビュー、カリフォルニア州、米国)に実装されている、たとえばマイヤーズ(Meyers)およびミラー(Miller)著、コンピューター・アプリケーションズ・イン・ザ・バイオサイエンシズ(Computer Applic. Biol. Sci.)、4:p.11〜17(1988年)のアルゴリズムに従い計算される。
本明細書で使用する場合、「配列同一性の割合」は、比較ウィンドウにおいて最適に整列された2つの配列を比較して決定される値を意味し、比較ウィンドウ内のポリヌクレオチド配列の部分は、2つの配列の最適なアライメントを得るため参照配列(付加または欠失を含まない)と比較して付加または欠失(すなわちギャップ)を含んでもよい。この割合は、2つの配列で同一の核酸塩基またはアミノ酸残基が生じる位置の数を決定してマッチした位置の数を得、このマッチした位置数を、比較ウィンドウ内の位置の全数で割り、その結果に100を掛けて配列同一性の割合を得ることにより計算される。
ポリヌクレオチド配列の「実質的な同一性」という用語は、ポリヌクレオチドが、標準的なパラメーターを用いて、記載されたアライメントプログラムの1つにより、参照配列と比較して少なくとも70%の配列同一性、少なくとも80%の配列同一性、少なくとも90%の配列同一性および少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含むことを意味する。当業者であれば、こうした値は、コドンの縮重、アミノ酸の類似性、リーディングフレームの位置および同種のものを考慮して、2つのヌクレオチド配列がそれぞれコードするタンパク質の同一性を決定するため、適切に調整してもよいことを認識するであろう。こうした目的上、アミノ酸配列の実質的な同一性とは通常、少なくとも60%、または少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%の配列同一性を意味する。ヌクレオチド配列が実質的に同一であることの別の指標として、2個の分子がストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズするかどうかがある。ただし、ストリンジェントな条件下で相互にハイブリダイズしない核酸でも、核酸がコードするポリペプチドが実質的に同一であるならば、実質的に同一である。これは、たとえば核酸のコピーが、遺伝コードにより認められる最も高いコドン縮重度を用いて生じたとき起こり得る。2つの核酸配列が実質的に同一であることの1つの指標は、第1の核酸がコードするポリペプチドが、第2の核酸がコードするポリペプチドと免疫学的に交差反応を示すことである。
ペプチドの文脈における「実質的な同一性」という用語は、ペプチドが、所定の比較ウィンドウにおいて参照配列に対して少なくとも70%の配列同一性、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または参照配列に対して95%の配列同一性を持つ配列を含むことを示す。任意に、最適なアライメントは、ニードルマン(Needleman)およびブンシュ(Wunsch)著、ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(J. Mol. Biol.)48:p.443(1970年)の相同性アライメントアルゴリズムを用いて行う。2つのペプチド配列が実質的に同一であるという指標は、あるペプチドが、第2のペプチドに対して産生された抗体と免疫学的に反応することである。したがって、たとえば2つのペプチドが保存的置換しか異なっていない場合、第1のペプチドは第2のペプチドと実質的に同一である。「実質的に類似」しているペプチドは、同一でない残基の位置が保存的アミノ酸の変化によって異なる場合を除けば、上述のような配列を共有する。
「タンパク質形質導入ドメイン」(「PTD」、「Trojanペプチド」、「膜移動配列(membrane translocating sequence)」、「細胞透過性タンパク質」、「CPP」とも呼ばれる)という用語は、本明細書で使用する場合、一般に哺乳動物細胞の形質膜を透過できるペプチドのクラスをいう。PTDは一般に10〜16アミノ酸長であり、哺乳動物細胞を通過して多くの種類および分子量の化合物を輸送できる。こうした化合物として、タンパク質、DNA、コンジュゲートされたペプチド、オリゴヌクレオチドなどのエフェクター分子、およびリポソームなどの微小粒子があるが、これに限定されるものではない。PTDを他のタンパク質に化学的に連結または融合して融合タンパク質を形成しても、こうした融合タンパク質は依然として形質膜を透過して細胞に進入することができる。
「抑制する(reduce)」または「抑制すること(reducing)」という用語は、本明細書で使用する場合、度合い、強度、状況、状態または程度を低下または減少させることをいう。
「制御配列」(「調節領域」または「調節エレメント」とも呼ばれる)という用語は、プロモーター、エンハンサー、または転写因子などの調節タンパク質が、優先的に結合して遺伝子発現、およびそれによるタンパク質発現を制御するDNAの他のセグメントをいう。
「被検体」または「個体」または「患者」という用語は同義で使われ、哺乳動物系統の動物種の一部をいい、マウス、ラット、ネコ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ハムスター、フェレット、カモノハシ、ブタ、イヌ、モルモット、ウサギ、および、たとえばサル、類人猿またはヒトなどの霊長類が挙げられるが、これに限定されるものではない。
本明細書における「徐放性」(「持続放出」とも呼ばれる)という用語は、通常の意味で使用され、薬剤製剤が、薬剤を長時間にわたり徐々に放出し、必ずではないが、好ましくは、長期間にわたり薬剤の血中レベルが実質的に一定になることをいう。
「症状」という用語は、本明細書で使用する場合、特に正常な機能、感覚または外見からの変化として個体が経験する際の障害または疾患の徴候または指標をいう。
「症候群」という用語は、本明細書で使用する場合、何らかの疾患または状態を示唆する症状のパターンをいう。
「治療薬」という用語は、本明細書で使用する場合、薬剤、分子、核酸、タンパク質、代謝物、ペプチド、組成物、または治療効果を発揮する他の物質をいう。「活性がある」という用語は、本明細書で使用する場合、本発明の組成物の成分、要素または構成要素が目的の治療効果に関与することをいう。本明細書の「治療薬」および「活性薬」という用語は同義で使われる。
「治療成分」という用語は、本明細書で使用する場合、集団の一定の割合で特定の疾患の症候の進行を阻止、抑制または防止する治療上有効な投与量(すなわち投与の用量および頻度)をいう。一般に使用される治療成分の例として、集団の50%で特定の疾患症候に対して治療上有効である個々の投与量の用量を説明するED50がある。
「治療ドメイン」という用語は、本明細書で使用する場合、ペプチドKALNRQLGVAA[配列番号13]もしくはそのセグメントと実質的に同一であるペプチド、ペプチドセグメントまたはそれらの変異体または誘導体をいう。治療ドメインは一般に、哺乳動物細胞の形質膜を透過できず、キナーゼ酵素と接触すると、キナーゼ酵素のキナーゼ活性を低下させるようにキナーゼ酵素を阻害する。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約99%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約95%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約90%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約85%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約80%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約75%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約70%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約80%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約75%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約70%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約65%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約60%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約55%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約50%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約45%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約40%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約35%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約30%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約25%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約20%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約15%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約10%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約9%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約8%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約7%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約6%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約5%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約4%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約3%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約2%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約1%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約0.1%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。治療ドメインは、その治療ドメインによって活性が阻害されないキナーゼ酵素の活性の約0.01%となるようにキナーゼ酵素を阻害し得る。
「治療用阻害ペプチド」という用語は、本明細書で使用する場合、第1のドメインおよび第2のドメインからなるペプチドをいう。第1のドメインはタンパク質形質導入ドメイン(PTD)を含み、第2のドメインに対して近位に位置する。第2のドメインは第1のドメインに対して近位に位置し、治療ドメインを含む。「近位」という用語は、本明細書で使用する場合、空間、時間または順序において非常に近いか、または次にくるものをいう。
「治療効果」という用語は、本明細書で使用する場合、望ましく有益であると判断される治療の結果をいう。治療効果として、疾患の症候の直接的または間接的な停止、抑制または阻止を挙げることができる。治療効果としてはさらに、疾患の症候の進行の直接的または間接的な停止、抑制または阻止を挙げることもできる。本発明の1種または複数種の活性薬の「治療有効量」または「有効量」という用語は、治療効果を発揮するのに十分な量である。一般に、本発明に従い使用できる活性薬の有効量は、約0.000001mg/kg体重から約100mg/kg体重の範囲である。ただし、投与量レベルは、傷害の種類、患者の年齢、体重、性別、医学的状態、状態の重症度、投与経路および使用される個々の活性薬など様々な因子を勘案する。このため投与計画は大きく異なる場合があるが、医師により標準的な方法を用いて日常的に決定され得る。
核酸の細胞への形質導入およびトランスフェクションを行う方法はいくつか存在する。「形質導入」または「形質導入する」という用語は、本明細書で使用する場合、同義で使われ、生体膜を通過するプロセスをいう。生体膜の通過は、ある細胞から別の細胞への通過でも、細胞外環境から細胞内環境への通過でも、または細胞膜または核膜の通過でもよい。形質導入が行われる材料として、タンパク質、融合タンパク質、ペプチド、ポリペプチド、アミノ酸、ウイルスDNAおよび細菌DNAがあるが、これに限定されるものではない。
「治療する」または「治療すること」という用語は、本明細書で使用する場合、以下の(a)障害の重症度を軽減すること;(b)治療対象の障害に特徴的な症状の発生を抑制すること;(c)治療対象の障害に特徴的な症状の悪化を抑制すること;(d)以前に障害があった患者の障害の再発を抑制すること;および(e)以前に障害の症状を示したことがある患者の症状の再発を抑制することの1つまたは複数を達成することをいう。
「変異体」という用語およびその文法上の様々な形は、本明細書で使用する場合、参照ヌクレオチド配列または参照アミノ酸配列とそれぞれ実質的に同一であるヌクレオチド配列またはアミノ酸配列をいう。配列の違いは、配列または構造における自然な変化の結果であっても、あるいは意図的な変化の結果であってもよい。自然な変化は、個々の核酸配列の自然界における正常な複製または重複の過程で起こり得る。意図的な変化については個々の目的に合わせて特異的に設計し、配列に導入してもよい。こうした特異的変化は、様々な変異誘発法を用いてインビトロで行ってもよい。こうした特異的に作製された配列変異体は、当初配列の「ミュータント:または誘導体」という場合がある。
当業者であれば同様に、単一または複数のアミノ酸の置換、欠失、付加または置き換えを持つポリペプチド変異体を作製することができる。こうした変異体として、特に(a)1つまたは複数のアミノ酸残基が保存的または非保存的アミノ酸で置換されている変異体;(b)1つまたは複数のアミノ酸が付加されている変異体;(c)少なくとも1つのアミノ酸が置換基を含む変異体;(d)標的タンパク質が、融合パートナー、タンパク質タグ、またはたとえば抗体のエピトープなど標的タンパク質に有用な特性を与え得る他の化学部分など別のペプチドまたはポリペプチドと融合されている変異体を挙げることができる。遺伝法(抑制、欠失、突然変異など)、化学法および酵素法など、こうした変異体を得る技法は当業者に知られている。本明細書で使用する場合、「突然変異」という用語は、生体の遺伝子または染色体内のDNA配列が変化した結果、親型には見られない新たな特徴または形質が形成されること、あるいは、遺伝子をコードするDNAのヌクレオチド配列の変化、または染色体の物理的な配置の変化のいずれかにより染色体内でそうした変化が起こるプロセスをいう。突然変異の3種の機構として、置換(ある塩基対と別の塩基対との交換)、付加(1つまたは複数の塩基の配列への挿入)および欠失(1つまたは複数の塩基対の喪失)が挙げられる。
「置換」という用語は、本明細書に使用する場合、DNAの塩基(1つまたは複数の塩基)が別の塩基(1つまたは複数の塩基)と交換されることをいう。置換は、同義置換でも、または非同義置換でもよい。本明細書で使用する場合、「同義置換」とは、タンパク質をコードする遺伝子のエクソンにおいてある塩基が別の塩基に置換されても、生成されるアミノ酸配列が改変されないような置換をいう。「非同義置換」という用語は、本明細書で使用する場合、タンパク質をコードする遺伝子のエクソンにおいてある塩基が別の塩基に置換されて、生成されるアミノ酸配列が改変されるような置換をいう。
本明細書の「欠失」および「欠失突然変異」という用語は同義で使われ、DNAから塩基(1つまたは複数の塩基)が失われることをいう。
「付加」という用語は、本明細書で使用する場合、配列に1つまたは複数の塩基または1つまたは複数のアミノ酸が挿入されることをいう。
以下は、相互に保存的に置換されるアミノ酸群である:1)アラニン(A)、セリン(S)、トレオニン(T);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン酸(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);および6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
組成物:治療用キナーゼ阻害ペプチド
一態様によれば、本発明は、病態生理として炎症性サイトカインの発現を含む炎症性障害を治療する、キナーゼを阻害する組成物であって、
(a)治療有効量の治療用阻害ペプチドであって、治療有効量の治療用阻害ペプチドは少なくとも1種のキナーゼ酵素を阻害し、治療用阻害ペプチドは第1のドメインおよび第2のドメインを含み、第1のドメインはタンパク質形質導入ドメイン(PTD)を含み、第2のドメインに対して近位に位置し、第2のドメインは第1のドメインに対して近位に位置し、治療ドメインを含み、組成物は直接的または間接的に少なくとも1種の炎症性サイトカインの発現を低下させる、組成物を提供する。一実施形態によれば、第1のドメインは第2のドメインの5’側に位置する。別の実施形態によれば、第2のドメインは第1のドメインの3’側に位置する。
一実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.00001mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.0001mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.001mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.01mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.1mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約1mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約10mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約20mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約30mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約40mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約50mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約60mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約70mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約80mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約90mg/kg体重から約100mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約90mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約80mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約70mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約60mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約50mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約40mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約30mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約20mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約10mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約1mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約0.1mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約0.1mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約0.01mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約0.001mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約0.0001mg/kg体重の量である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療有効量は約0.000001mg/kg体重から約0.00001mg/kg体重の量である。
別の実施形態によれば、本発明の治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、本発明の治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列FAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号12]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、本発明の治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列KAFAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号15]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、本発明の治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、本発明の治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARQARAKALNRQLGVAA[配列番号16]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、本発明の治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALARQLAVA[配列番号17]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、本発明の治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALARQLGVA[配列番号18]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、本発明の治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALNRQLAVA[配列番号19]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、本発明の治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALNRQLGVA[配列番号20]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、本発明の治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALNRQLGVAA[配列番号21]を持つペプチドである。
別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRQLGVAA[配列番号13]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KAANRQLGVAA[配列番号22]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALARQLGVAA[配列番号23]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNAQLGVAA[配列番号24]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRALGVAA[配列番号25]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRQAGVAA[配列番号26]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRQLAVAA[配列番号27]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRQLGAAA[配列番号28]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRQLGVA[配列番号29]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KKKALNRQLGVAA[配列番号30]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KAANRQLGVAA[配列番号22]を持つドメインである、別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNAQLGVAA[配列番号24]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRQAGVAA[配列番号26]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRQLGAAA[配列番号28]を持つドメインである、別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRQLGVAA[配列番号13]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALARQLGVAA[配列番号23]を持つドメインである。別の実施形態によれば 本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRALGVAA[配列番号25]を持つドメインである。別の実施形態によれば、本発明の治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRQLAVAA[配列番号27]を持つドメインである。
別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKA[配列番号31]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列WLRRIKA[配列番号32]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列YARAAARQARA[配列番号5]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列YGRKKRRQRRR[配列番号33]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRI[配列番号34]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列FAKLAARLYR[配列番号35]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列KAFAKLAARLYR[配列番号36]を持つドメインである、別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列YARAAARQARA[配列番号5]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列FAKLAARLYRKA[配列番号43]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列KAFAKLAARLYRKA[配列番号44]を持つドメインである。
別の実施形態によれば、第1のドメインは第2のドメインの5’側に位置する。別の実施形態によれば、第2のドメインは第1のドメインの3’側に位置する。別の実施形態によれば、第1のドメインは第2のドメインに作動可能に連結されている。別の実施形態によれば、第2のドメインは第1のドメインに作動可能に連結されている。
別の実施形態によれば、キナーゼ酵素はマイトジェン活性化プロテインキナーゼ活性化プロテインキナーゼである。いくつかのそうした実施形態によれば、キナーゼ酵素はMK2である。いくつかのそうした実施形態によれば、キナーゼ酵素はMK3である。別の実施形態によれば、キナーゼ酵素はCaMKである。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は線維症である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は内皮細胞機能障害である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は内毒素性ショックである。内毒素性ショック(敗血症性ショック)は、炎症性物質の存在により循環系が体組織に十分な血行を供給できない状態である。研究から、内毒素性ショックが致死的経過をたどるかどうかはTNF−αの血清レベルにより判定され(モーゼス(Mozes),T.ら著、イムノロジー・レターズ(Immunology Letters)27(2):p.157〜62、1991年)、敗血症性ショック患者ではIL−6レベルが著しく上昇する(ワーゲ(Waage),A.ら著、ザ・ジャーナル・オブ・エクスペリメンタル・メディシン(The Journal of Experimental Medicine)169:p.333〜338、1989年)ことが報告されている。内毒素性ショックの症状として、軽度の発熱、空腹感の欠如、軽度の心身機能の低下、心拍数の増加、低脈圧、脱水状態および下痢があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は膵炎である。膵炎は膵臓の炎症である。急性膵炎は突発性であるのに対し、慢性膵炎は、脂肪便または糖尿病(diabetes mellitus)を伴いまたは伴わずに繰り返し起こる腹痛または持続する腹痛を特徴とする。急性膵炎の病態生理にプロ炎症性サイトカイン(たとえば、TNF−α、IL−1β)が中心的な役割を果たしており、IL−6およびIL−8などの他のメディエーターの産生を誘導する近位のメディエーターとして働くことにより、急性膵炎の全身性合併症を媒介し得るという多くの証拠がある。IL−1βおよびTNF−αは、疾患の進行をもたらす作用物質と考えられ、IL−6およびIL−8は、重症度の指標と考えられている(プーラン(Pooran),N.ら著、ジャーナル・オブ・クリニカル・ガストロエンテロロジー(Journal of Clinical Gastroenterology)37(3):p.263〜266、2003年)。膵炎の症状として、上腹部から背部に広がる重度の痛み、悪心、嘔吐、血圧の変動(高いまたは低い)、心拍数の増加、呼吸数の増加、腹部圧痛があるが、これに限定されるものではなく、腸雑音が減弱することもある。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は喘息である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は局所性炎症性疾患である。研究から、循環血中のIL−6およびTNF−αが局所性炎症反応の誘発に重要な役割を果たしていることが報告されている(シン(Xing),Z.著、ザ・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(The Journal of clinical Investigation)、101(2):p.311〜320、1998年)。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はアテローム動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease)(アテローム性動脈硬化症、ASVD)である。ASVDは、コレステロールなどの脂肪性材料の蓄積により動脈壁が肥厚した状態である。ASVDは、1つにはマクロファージ白血球の蓄積により動脈血管が侵される症候群(動脈壁の慢性炎症反応)であり、機能的な高密度リポタンパク質によりマクロファージから脂肪およびコレステロールが十分に除去されず、低密度リポタンパク質によって促進される。研究によれば、アテローム性動脈硬化症の発症および臨床的続発性においてIL−1βが調節タンパク質として関係していると考えられる(モイヤー(Moyer),C.F.ら著、ザ・アメリカン・ジャーナル・オブ・パソロジー(The American Journal of Pathology)、138(4);p.951〜960、1991年)。別の研究からは、IL−6およびTNF−αもアテローム性動脈硬化症の危険因子と関連している(ハディ(Haddy),N.ら著、アテロスクレローシス(Atherosclerosis)70(2):p.277〜283、2003年)ことが報告されている。アテローム動脈硬化性心血管疾患の症状として、心発作、心臓突然死(症状の発現から1時間以内に死亡)、末梢動脈閉塞性疾患、アテローム発生(アテローム性プラークの発生)および狭窄症があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はアルツハイマー病(Alzheimer’s disease)である。アルツハイマー病(AD)は、認知症の一形態である。ADは、大脳皮質および特定の皮質下領域におけるニューロンおよびシナプスの脱落を特徴とする。この脱落により、側頭葉および頭頂葉ならびに前頭皮質および帯状回の部位の変性を含め、患部領域は著しく萎縮する。ADの原因および進行については十分に解明されていないが、一般に神経原線維のもつれおよびアミロイド−βが関係していると考えられる。いくつかの研究によれば、ADのアミロイド形成が脳におけるIL−1β/IL−6による急性期反応に起因することが示唆されている(バンデナビール(Vandenabeele),P.およびフィアーズ(Fiers),W.著、イムノロジー・トゥデイ(Immunology Today)12(7):p.217〜9、1991年)。別の研究によれば、TNF−αおよびIL−1βの発現レベルと認知機能障害との間の相関関係が示唆されている(アルバレス(Alvarez),X.ら著、モレキュラー・アンド・ケミカル・ニューロパソロジー(Molecular and chemical neuropathology)29(2〜3):p.237〜252、1996年)。ADの症状として、記憶喪失、錯乱、興奮性、攻撃性、気分変動および死があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は腫瘍性疾患である。腫瘍性疾患として、以下に限定されるものではないが、乳癌および前立腺癌などの上皮由来癌があるが、これに限定されるものではない。いくつかの実施形態によれば、障害は乳癌である。いくつかの実施形態によれば、障害は前立腺癌である。
乳癌は、乳房の組織、通常乳管(乳汁を乳頭に運ぶ管)および小葉(乳汁を作る腺)に形成される癌である。乳癌には4つのステージがある。ステージ0(上皮内癌)としては非浸潤性小葉癌(lobular carcinoma in situ)(「LCIS」)および非浸潤性乳管癌(ductal carcinoma in situ)(「DCIS」)があり、癌性細胞はそれぞれ小葉または乳管の内膜に存在する。ステージ1は浸潤性乳癌の初期で、腫瘍の直径が2cm以下であり、癌細胞が乳房以外に広がっていない。ステージIIでは、腫瘍は(i)直径2cm以下で、癌が脇の下のリンパ節に広がる;(ii)直径2〜4cmで、癌が脇の下のリンパ節に広がっている場合がある;あるいは(iii)癌の直径は5cmを超えるが、癌は脇の下のリンパ節に広がっていない。ステージIIIは、腫瘍は大きい場合があるが、癌は乳房および近くのリンパ節以外に広がっていない。癌は局所進行癌である。ステージIIIAでは、腫瘍は直径5cm未満であることもあれば、そうでない場合もあるが、脇の下のリンパ節に広がっている。ステージIIIBでは、腫瘍が胸壁または乳房の皮膚に増殖し、癌は胸骨の裏側のリンパ節に広がっている。ステージIIICでは、腫瘍はその大きさにかかわらず、脇の下のリンパ節、胸骨の裏側および鎖骨の上または下に広がっている。ステージIVは遠隔転移癌で、癌が体内の他の部位に広がっている。研究から、転移性乳癌患者ではIL−6レベルが高く(チャン(Zhang)、G.J.およびアダチ(Adachi),I.著、アンチキャンサー・リサーチ(Anticancer Research)19(2B):p.1427〜1432、1999年)、TNF−αが、乳腺腫瘍のエストロゲン合成を刺激するIL−6の能力を増強し得る(リード(Reed),M.J.およびプロヒト(Purohit),A.著、エンドクライン・レビューズ(Endocrine Reviews)18(5):p.701〜715、1997年)ことが報告されている。別の研究からは、腫瘍関連IL−1βが腫瘍の微小環境に存在し、乳腺腫瘍の増殖および転移の調節において中心的な役割を果たし得ることが報告されている(カーツマン(Kurtzman),S.H.ら著、オンコロジー・リポーツ(Oncology Reports)6(1):p.65〜70、1998年)。
前立腺癌は、前立腺(膀胱の下、直腸の前にある男性生殖器系の腺)の組織に形成される癌である。前立腺癌には4つのステージがある。ステージ1では、癌は直腸診で触知できず、超音波画像でも確認できない。癌は、別の理由で行われる手術時に偶然発見される。ステージ1の癌は前立腺のみに存在し、程度はG1(またはグリーソンスコアが4以下)である。ステージIIでは、腫瘍がステージ1より進行するか、または程度が高まっているが、腫瘍は前立腺にとどまっている。腫瘍は直腸診で触知できるか、または超音波画像で確認できる場合がある。ステージIIIでは、腫瘍は前立腺を超えて広がり、精嚢に浸潤している場合があるが、リンパ節には広がっていない。ステージIVでは、腫瘍が膀胱、直腸または(精嚢を超えて)近くの構造物に浸潤している場合がある。リンパ節、骨または身体の他の部位に広がっている場合もある。研究から、転移性疾患患者は限局性疾患患者よりもIL−6およびTNF−αの血清レベルが著しく高く、どちらのサイトカインのレベルも疾患の程度に直接相関することが報告されている(ミハラキ(Michalaki),V.ら著、ブリティッシュ・ジャーナル・オブ・キャンサー(British Journal of Cancer)90(12):p.2312〜6、2004年)。別の研究からは、インビボでの血管形成および様々な腫瘍細胞の浸潤性にはIL−1βが必須であることが報告されている(ボロノフ(Voronov),E.ら著、プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ(Proc. Natl. Acad. Sci. USA)、100(5):p.2645〜2650、2003年)。前立腺癌の男性は、症状をまったく示さないこともある。症状を示す男性の場合、一般的な症状として、尿の悩み、インポテンツ、血尿または血精液、および腰、尻または大腿上部の頻回の疼痛があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は虚血である。虚血は、一般に血管の要因により血液供給が制限された状態であり、その結果組織の機能障害を来す。研究から、虚血後の初期の再循環時にIL−6、IL−1βおよびTNF−αのレベルが上昇することが報告されている(サイトウ(Saito),K.ら著、ニューロサイエンス・レターズ(Neuroscience Letters)206(2〜3):p.149〜152、1996年)。虚血の症状として、血液供給における酸素およびグルコースの不足があるが、これに限定されるものではない。いくつかのそうした実施形態によれば、障害は神経虚血である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は関節リウマチ(RA)である。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はクローン病である。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は炎症性腸疾患である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は内膜過形成である。内膜過形成は、再建手術すなわち動脈内膜切除(血液循環の改善を目的に動脈を開くか広くするために行われる、脂肪で覆われ肥厚した動脈内膜の外科的切除)の合併症として血管の内膜(動脈または静脈の最内層)が肥厚した状態である。これには、増殖、遊走および細胞外マトリックスへの沈着を引き起こす細胞活性化のプログラムを誘導する機構因子、細胞因子および液性因子による平滑筋細胞の協調刺激が関係している。内膜過形成は、傷害に対する血管の一般的な反応である。研究から、IL−1βおよびTNF−αにより調節されるIL−6の過剰発現が、アテローム関連細胞に重要な役割を果たしていることが報告されている(コーンマン,K.ら著、ジャーナル・オブ・ペリオドンタル・リサーチ、34(7):p.353〜357、2006年;リビー,P.ら著、サーキュレイション、86(6補巻):p.III47〜52(1992年))。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は狭窄症である。狭窄症は、血管または他の管状臓器または構造物の異常な狭小化である。その結果起こる症候群は、患部の構造によって異なる。研究から、IL−1βおよびTNF−αにより調節されるIL−6の過剰発現がアテローム関連細胞(Id)において重要な役割を果たしていることが報告されている。狭窄症の症状として、チアノーゼ(皮膚および粘膜の青色調、脱毛および皮膚のてかりなどの萎縮性変化、体温低下、脈拍の減弱、錯感覚および麻痺を挙げることができるが、これに限定されるものではない。いくつかのそうした実施形態によれば、障害は再狭窄(狭窄症の再発)である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は平滑筋細胞の腫瘍および転移である。いくつかの平滑筋細胞の腫瘍およびその転移が研究されてきた。それには平滑筋腫がある。こうした新生物は一般に良性の平滑筋新生物であり、前癌性のものではなく、子宮、小腸および食道など任意の器官で起こり得る。子宮筋腫は、子宮平滑筋の平滑筋腫である。子宮筋腫は良性であるが、過度の月経出血、貧血および不妊症を起こすことがある。皮膚の平滑筋腫(leiomyomas)として、孤立性の皮膚平滑筋腫、立毛筋由来の多発性皮膚(または毛)平滑筋腫(leiomyomas)、血管平滑筋腫(血管の平滑筋腫(leiomyomas))、生殖器、乳輪および乳頭の肉様膜筋由来の肉様膜(または性器)の平滑筋腫(leiomyomas)、ならびに血管脂肪平滑筋腫が挙げられる。研究から、子宮腔、腺筋症および子宮内膜ポリープ群の平滑筋腫は、IL−1βおよびTNF−αなど高レベルのサイトカインを含むことが報告されている(イナガキ(Inagaki),N.ら著、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・オブステトリクス & ギネコロジー・アンド・リプロダクティブ・バイオロジー(European Journal of Obstetrics & Gynecology and Reproductive Biology)111(2):p.197〜203、2003年)。別の研究からは、平滑筋腫ではIL−6も発現することが報告されている(ルオ(Luo),Xら、エンドクリノロジー(Endocrinology)146(3):p.1097〜1118、2005年)。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は平滑筋の痙攣である。平滑筋の痙攣は、平滑筋(筋肉群)の突発性の不随意収縮である。研究から、抵抗動脈の血管反応性がIL−1β、IL−6およびTNF−α間のバランスと関係することが報告されている(ビラ(Vila),E.およびサライセス(Salaices),M.著、アメリカン・ジャーナル・オブ・フィジィオロジー−ハート・アンド・フィジィオロジー(Am. J. Physiol. Heart Circ. Physiol. 288:p.H1016〜H1021、2005年)。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はアンギナ(狭心症)である。アンギナは心筋虚血による重度の胸痛である。研究から、不安定狭心症では高レベルのIL−6が多く見られ、予後不良に関連していることが報告されている(ビアスッチ(Biasucci),L.ら著、サーキュレイション、94:p.874〜877、1996年)。加えて、研究から、IL−6とTNF−αとの間の発現レベルが冠動脈疾患による死亡率と関連することが報告されている(ククネン(Koukkunen),H.ら著、アナルズ・オブ・メディシン(Annals of Medicine)33(1):p.37〜47、2001年)。アンギナの症状として、胸部不快感、胸痛、胸部、上腹部の圧迫感、重圧感、締め付け感、絞扼感、灼熱感または窒息感、背部痛、頸部痛、顎痛、肩痛、悪心、嘔吐および蒼白があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はプリンツメタル狭心症(異型狭心症)である。プリンツメタル狭心症は、正常な冠動脈または軽度のアテローム性動脈硬化症の患者に起こる。症状として、アンギナの症状があるが、これに限定されるものではなく、典型的には(労作時よりも)安静時に周期的に起こる。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は徐脈(徐脈性不整脈)である。徐脈とは、安静時心拍数60拍/分未満をいう。研究から、IL−1β、IL−6およびTNF−αのレベルの上昇が徐脈に関連していることが報告されている(フクハラ(Fukuhara),Y.ら著、トキシコロジー(Toxicol.)41(1):p.49〜55、2003年)。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は徐脈性不整脈である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は高血圧である。高血圧とは、血圧上昇(高血圧)をいう。研究から、IL−1β、IL−6およびTNF−αのレベルの上昇が徐脈に関連していることが報告されている(フクハラ(Fukuhara),Y.ら著、トキシコロジー(Toxicol.)、41(1):p.49〜55、2003年)。高血圧の症状として、頭痛、傾眠、錯乱、視覚障害、悪心、嘔吐、発作、興奮性および呼吸窮迫があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は心肥大(心臓の肥大)である。心室肥大は、心臓の心室の肥大である。心室肥大は一般に、高血圧(または他の病状)による病理学的変化と関連している。研究から、IL−1βおよびTNF−αが肥大反応を刺激するのに十分であることが報告されて、IL−6の過剰発現が心肥大を起こし得ることが示唆されている(ヨコヤマ(Yokoyama),T.ら著、サーキュレイション(Circulation)、95:p.1247〜1252、1997年)。心肥大の症状として、頭痛、傾眠、錯乱、視覚障害、悪心、嘔吐、発作、興奮性および呼吸窮迫を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は腎不全である。腎不全(腎臓の不全)は、腎臓が十分に機能できなくなると起こる。研究から、腎不全とIL−1βおよびTNF−αとの関連(デカン−ラーチャ(Descamps−Latscha),B.ら著、ザ・ジャーナル・オブ・イムノロジー(J. Immunol.)、154(2):p.882〜892、1995年)、およびIL−6の増加との関連(ハーベリン(Herbelin),A.ら著、キドニー・インターナショナル(Kidney International)39:p.954〜960、1991年)が報告されている。腎不全の症状として、血液中の高レベルの尿素、血液中のホスファートの蓄積、悪心、嘔吐、体重減少、夜間頻尿、掻痒、不整脈、脚、足首または足の腫脹、および背中または脇腹の痛みがあるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は脳卒中である。脳卒中は、脳への血液供給の障害による脳機能の喪失である。研究から、脳卒中後にIL−6およびTNF−αの血清レベルが上昇すること(フェラレーセ(Ferrarese),C.ら著、ジャーナル・オブ・セレブラル・ブラッド・フロー & メタボリズム(Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism)19:p.1004〜1009、1999年)、および局所性脳虚血後にIL−1βの発現レベルが上昇すること(ワン(Wang),X.ら著、ストローク(Stroke)28:p.155〜162、1997年)が報告されている。脳卒中の症状として、片麻痺、しびれ、知覚または振動覚の低下、嗅覚の異常、眼瞼下垂、平衡障害、失語、失行、記憶欠損および回転性めまいがあるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は肺高血圧症である。肺高血圧症とは、肺動脈、肺静脈または肺毛細管の血圧上昇をいう。研究から、肺高血圧症患者ではTNF−αレベルが上昇するが、IL−6の血清レベルに差異がないことが報告されている(ジョッパ(Joppa),P.ら著、チェスト(Chest)130(2):p.326〜333、2006年)。肺高血圧症の症状として、息切れ、眩暈、失神、末梢性浮腫および心不全があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は妊娠中毒症である。妊娠中毒症(妊娠の高血圧障害)は、子癇前症および子癇を総称する。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は子癇前症である。子癇前症は、妊娠中に高血圧が生じ、尿中にかなりの量のタンパク質を伴う状態である。研究から、子癇前症の女性では正常な妊娠第3三半期の女性に比べてIL−6およびTNF−αの血漿レベルが高いことが報告されている(コンラッド(Conrad),K.ら著、アメリカン・ジャーナル・オブ・リプロダクティブ・イムノロジー(American Journal of Reproductive Immunology)40(2):p.102〜111、1998年)。また、被検体群間でIL−1βのレベルに変化がないと考えられた(Id.)。症状として、血圧上昇、母体内皮、腎臓および肝臓の全般的な損傷があるが、これに限定されるものではない。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は子癇である。子癇は、強直間代発作(大発作)の出現を特徴とする。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は早期陣痛である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はレイノー病/現象である。レイノー病は、寒冷な温度に曝露されるか、または心理的ストレスに反応して端(手指、つま先、鼻および耳)への血流(血液の流れ)が侵される血管の障害である。研究から、IL−6およびTNF−α(リクリック(Rychlik),W.ら著、インターナショナル・アンギオロジー(International Angiology)25(4):436、2006年)がレイノー現象の病因に関与していることが報告されている。レイノー病の症状として、チアノーゼおよび蒼白があるが、これに限定されるものではない。症状が特発性である場合、レイノー病と診断されるのに対し、レイノー現象は、以下に限定されるものではないが、結合組織障害、全身性エリテマトーデス、関節炎および他のリウマチ性疾患など多様な他の状態に続発して起こる。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は溶血性尿毒症である。研究から、TNF−αおよびIL−1が、溶血性尿毒症症候群における炎症性メディエーターベロ毒素−1の誘導に重要な役割を果たしていることが報告されている(バン・デ・カール(van de Kar),N.C.ら著、ブラッド(Blood)80(11):p.2755〜2764、1992年)。別の研究からは、IL−6のレベルが上昇することも報告されている(カープマン(Karpman),D.ら著、ペディアトリック・ネフロロジー(Pediatric Nephrology)9(6):p.694〜699、1995年)。溶血性尿毒症は、溶血性貧血(赤血球の異常な分解)、急性腎不全(尿毒症)および血小板数の減少(血小板減少症)を特徴とする疾患である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は裂肛である。裂肛は、肛門管の皮膚の自然な亀裂または裂傷である。大部分の裂肛は、肛門粘膜がその能力を超えて伸展することにより起こる。表在性または浅い裂肛は一般に自然治癒する。裂肛によっては、慢性で深くなるものもあり、治癒しない。治癒しない最も一般的な原因は、内肛門括約筋の痙攣であり、これにより肛門粘膜への血液供給が傷害される。研究から、肛門周囲クローン病患者では小腸クローン病患者および健常対照よりも、直腸粘膜のIL−1β、IL−6と血清のIL−6およびTNF−αとが高いことが報告されている(ルッフォロ(Ruffolo),C.ら著、インフラマトリー・バウエル・ディジージィズ(Inflammatory Bowel Diseases)14(10):p.1406〜1412、2008年)。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はアカラシアである。アカラシア(食道アカラシア、噴門アカラシア、噴門痙攣、食道無蠕動)は、食道運動障害である。食道の平滑筋層が正常な蠕動を失い、下部食道括約筋が嚥下に反応して適切に弛緩できなくなる。研究から、食道炎患者の粘膜では対照患者と比較してIL−6およびIL−1βが著しく多い量で産生されることが報告されている(リーダー(Rieder),F.ら著、ガストロエンテロロジー(Gastroenterology)132(1):p.154〜165、2007年)。症状として、嚥下障害、逆流、体重減少、咳嗽および胸痛があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はインポテンツである。勃起不全(ED:erectile dysfunction)は、陰茎の勃起が得られないか、または維持できないことを特徴とする性機能障害である。勃起は、陰茎内の海綿体に血液が入り、保持されることによる水圧作用として起こる。研究から、ED患者のIL−6、IL−1βおよびTNF−αの血中レベルの上昇が性的能力と負に相関することが報告されている(ブラチョプロス(Vlachopoulos),C.ら著、ヨーロピアン・ハート・ジャーナル(European Heart Journal)27(22):p.2640〜2648、2006年)。EDは、循環器疾患の症状であることもある。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は片頭痛である。片頭痛は、重度の頭痛、悪心および身体知覚の異常を特徴とする神経症候群である。研究から、片頭痛発作時のIL−6およびTNF−αの血清レベルの上昇が報告されている(ピーターリン(Peterlin),B.ら著、セファラジア(Cephalagia)27(5);p.435〜446、2007年)。片頭痛型頭痛は片側性、拍動性の頭痛で、4時間から72時間持続する。症状として、悪心、嘔吐、羞明および音恐怖があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は平滑筋の痙攣に起因する虚血性筋傷害である。研究から、IL−1、IL−6およびTNF−αが陰性変力作用を引き起こし、虚血再灌流が生じた心筋にアポトーシスを誘導することが報告されている(サイニ(Saini),H.K.ら著、エクスペリメンタル & クリニカル・カージオロジー(Experimental & Clinical Cardiology)10(4):p.213〜222、2005年)。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は血管障害である。血管障害は、血管の炎症性破壊を特徴とする不均一な障害群をいう。動脈も静脈も侵される恐れがある。研究から、IL−6が、心臓移植関連の冠動脈血管障害の重要な危険因子であることが報告されている(デンセム(Densem),C.ら著、ザ・ジャーナル・オブ・ハート・アンド・ラング・トランスプランテーション(The Journal of Heart and Lung Transplantation)、24(5):p.559〜565、2005年)。血管障害の症状として、発熱、体重減少、紫斑、網状皮斑、筋肉痛または筋炎、関節痛または関節炎、多発性単神経炎、頭痛、脳卒中、耳鳴、視力低下、急性視力障害、心筋梗塞、高血圧、壊疽、鼻出血、血の混じった咳、肺浸潤、腹痛、血便および糸球体腎炎があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は鬱血性心不全(congestive heart failure)(CHF)である。鬱血性心不全は、心臓が体内の十分な血液の循環を維持できない状態である。研究から、CHF患者は健常な被検体と比較してIL−6およびTNF−αのレベルが高いことが報告されている(アウクルスト(Aukrust),P.ら著、ザ・アメリカン・ジャーナル・オブ・カージオロジー(The American Journal of Cardiology)83(3):p.376〜382、1999年)。典型的なCHFの症状として、息切れ、咳、足および足首の腫脹、腹部の腫脹、体重増加、不整な脈拍または速い脈拍、疲労、脱力、不整脈、貧血および甲状腺機能亢進症があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は仮死または冬眠心筋である。「慢性心筋虚血(chronic myocardial ischemia)(CMI)」という用語は、本明細書で使用する場合、心筋が「冬眠する」冠状血管の狭小化に起因する心筋虚血の遷延性亜急性または慢性状態をいい、心筋がその収縮性を下方調節または抑制することで、心筋の酸素需要を下方調節または抑制して灌流の減少に適合し、それにより細胞の生存率を維持し、心筋の壊死を防止することを意味する。この冬眠心筋は、適切な血液供給が再建されれば正常またはほぼ正常な機能を回復することができる。冠血流(血液の流れ)が正常またはほぼ正常まで再建されたならば、虚血は回復するが、しかしながら、冬眠心筋は依然として収縮しない。虚血回復後の心機能の回復を遅らせるこの流れ機能のミスマッチは、仮死と呼ばれている。機能が回復する期間には数日から数カ月まで大きなばらつきがあり、最初の虚血性傷害の持続期間、最初の傷害の虚血の重症度、および動脈流の回復が十分であるかなど、いくつかのパラメーターによって異なる。いくつかの研究によれば、冬眠心筋の炎症について証拠が得られている。ウーシュ(Heusch),G.ら著、アメリカン・ジャーナル・オブ・フィジィオロジー−ハート・アンド・アンド・サーキュレイトリー・フィジィオロジー(American Journal of Physiology−Heart and Circulatory Physiology)288:p.984〜99(2005年)。さらに研究では、合併症のない冠動脈血行再建後にIL−6およびTNF−αなどのプロ炎症性サイトカインが増加しており、術後の心筋虚血および局所壁運動異常に関与し得ることが報告されている(ランキン(Rankin),J.著、ザ・ジャーナル・オブ・ソラシック・アンド・カージオバスキュラー・サージャリー(The Journal of Thoracic and Cardiovascular Surgery)108:p.626〜35、1994年)。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は拡張機能障害である。拡張機能障害とは、拡張期における心臓(すなわち左心室)の充満の異常をいう。拡張期は、心臓(すなわち心室)は収縮していないが、実際には弛緩し、全身から(右心室に)または肺から(左心室に)戻ってきた血液で充満している心周期の時相である。研究によれば、IL−6、IL−1βおよびTNF−αが全身性敗血症の心筋抑制および他の心機能不全の病型を媒介すると考えられる(ケリー(Kelly),R.およびスミス(Smith),T.W.著、サーキュレイション(Circulation)、95:p.778〜781、1997年)。症状として、肺水腫、高血圧、大動脈狭窄、心臓組織の瘢痕および糖尿病あるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はグリオーシス(アストロサイトの増殖をいう、中枢神経系の損傷部位に細胞外マトリックス(extracellular matrix)(ECM)の沈着を含むことがある)である。研究から、IL−1およびIL−6がグリア性瘢痕の形成を促進するのに対し、IL−6の放出を誘発しないTNF−αは、グリオーシスを誘導しないことが報告されている(ウォイシエコウスキー(Woiciechowsky),C.ら著、メディカル・サイエンス・モニター(Medical Science Monitor)10(9):p.BR325〜330、2004年)。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease)(COPD)(気流閉塞または制限を特徴とする呼吸器疾患をいう;慢性気管支炎および気腫を含むが、これらに限定されるものではない)である。COPD患者の痰ではIL−6、IL−1βおよびTNF−αのレベルの上昇が測定されている(チャン(Chung),K.著、ヨーロピアン・レスピラトリー・ジャーナル(European Respiratory Journal)18:p.50s〜59S、2001年)。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は骨減少症である。骨減少症は、骨塩量(骨の密度および強度の程度を示す)が健常被検体よりは少ないが、骨粗鬆症に分類されるほど少なくない状態である。二重エネルギーX線吸収測定法(DEXA:dual−energy X−ray absorptiometry)で測定した骨塩量Tスコアが−1.0〜−2.5であると骨減少症と定義し得る。研究から、IL−1β、IL−6およびTNF−αが骨吸収の誘導に関与していることが報告されている(リファス(Rifas),L.著、カルシファイド・ティシュー・インターナショナル(Calcified Tissue International)、64:p.1〜7、1999年)。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は変形性関節症(osteoarthritis)(変形性関節症、OA)である。変形性関節症は、1つまたは複数の関節軟骨の分解および最終的な減少によって起こる関節炎の一種である。変形性関節症は一般に手、足、脊椎ならびに尻および膝などの大きな体重を支える関節が侵される。研究から、初期OA患者の滑膜の特徴として、プロ炎症性サイトカイン(IL−1α、IL−1β、TNF−α)の産生に伴う慢性炎症性変化があることが報告されている(スミス、M.D.ら著、ザ・ジャーナル・オブ・リューマトロジー(The Journal of rheumatology)24(2):p.365〜371、1997年)。変形性関節症の症状として、反復使用後の患部関節(1つまたは複数の患部関節)の疼痛、腫脹、熱感および患部関節(1つまたは複数の患部関節)のきしみ音があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は強直性脊椎炎である。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はシェーグレン病である。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はGuilliame−Barre症候群である。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は強皮症である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は敗血症である。敗血症は、全身の炎症状態(全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome)(SIRS))と、感染症の存在または感染症の存在が疑われることとを特徴とする状態である。血液、尿、肺、皮膚または他の組織中の微生物に対してこうした炎症反応が全身に起こり得る。研究によれば、敗血症と関連する炎症、罹病率および死亡率にIL−6およびTNF−αが重要なメディエーターとして関係があると考えられる(レオン(Leon),Lら著、アメリカン・ジャーナル・オブ・フィジィオロジー−レギュラトリー・インテグラティブ・アンド・コンパラティブ・フィジィオロジー(American Journal of Physiology−Regulatory, Integrative and Comparative Physiology)275:p.R269〜R277、1998年)。敗血症の症状として、全身に認められる急性炎症、発熱、白血球数の増加、悪心および嘔吐、心拍数の増加、ならびに呼吸数の増加があるが、これに限定されるものではない。いくつかのそうした実施形態によれば、障害はエンドトキシンショックである。敗血症は、感染症の局所部位に由来する病原性細菌の血流への侵入に起因する、毒性を伴う全身性疾病である。症状として、悪寒、発熱および疲労があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は乾癬である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は放射線腸炎である。放射線性腸炎(放射線腸炎)は、放射線療法による小腸粘膜の炎症(腫脹)である。研究から、照射後にIL−1βおよびTNF−αのmRNAのレベルが上昇すること、およびIL−6の発現が高まることが報告されている(リナード(Linard),C.ら著、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ラジエーション・オンコロジー・バイオロジー・フィジックス(International Journal of Radiation Oncology・Biology・Physics)58(2):p.427〜434、2004年)。放射線腸炎の症状として、無食欲症、下痢、悪心、嘔吐および体重減少があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は硬変である。硬変は、慢性肝疾患(chronic liver disease)(CLD)に起因する肝臓の瘢痕化および肝臓機能の低下である。研究から、慢性肝疾患患者ではIL−1β、TNF−αおよびIL−6の血清レベルが上昇すること、およびCLD患者の硬変群は、非硬変例よりもIL−1β、IL−6およびTNF−αの血清レベルが高いことが報告されている(ティルグ(Tilg),H.ら著、ガストロエンテロロジー(Gastroenterology)103(1):p.264〜74、1992年)。硬変の症状として、出血性痔核、錯乱、インポテンツ、黄疸、悪心および嘔吐、体重減少、鼓腸、消化不良、発熱、腹痛および尿量の減少があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は間質性線維症である。間質性肺疾患(interstitial lung disease)すなわちILDは、慢性、非悪性(非癌性)および非感染性であり得る180を超える慢性肺障害を含む。間質性肺疾患は、線維症に侵された(瘢痕化)間質と呼ばれる肺胞と肺胞の間の組織から命名された。間質性肺疾患は、間質性肺線維症または肺線維症と呼ばれることもある。研究から、高レベルのIL−1βの発現と共にIL−6およびINF−αの局所的増加、さらに組織傷害の証拠を示す活発な急性炎症性組織反応が報告されている(コルブ(Kolb),M.ら著、ザ・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション、107(12):p.1529〜1536、2001年)。こうした各疾患の症状および経過は、個人間で異なる場合があるが、ILDの多くの病型間に共通する要素は、すべてが炎症、たとえば細気管支炎(細気管支(細い気道)に関わる炎症);肺胞炎(肺胞(空気の袋)に関わる炎症);または血管炎(小血管(毛細管)に関わる炎症)から始まることである。間質性肺疾患の80パーセント超が塵肺症、薬剤誘発性疾患または過敏性肺炎と診断される。他の病型には、サルコイドーシス;特発性肺線維症;閉塞性細気管支炎;組織球症X;慢性好酸球性肺炎;膠原血管病;肉芽腫性血管炎;グッドパスチャー症候群および肺胞蛋白症がある。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は大腸炎である。大腸炎は、大腸(結腸)の炎症(腫脹)である。大腸炎には、たとえば急性および慢性感染症、炎症性障害(潰瘍性大腸炎、クローン病、リンパ球性およびコラーゲン性大腸炎)、血流(血液の流れ)の欠乏(虚血性大腸炎)、および過去の大腸の放射線など多種多様な原因があり得る。研究から、大腸炎の動物モデルではTNF−αの阻害の結果、IL−1およびIL−6のレベルが低下し、大腸炎の重症度が低下することが報告されている(ノイラート(Neurath),M.ら著、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・イムノロジー(European Journal of Immunology)27(7):p.1743〜1750、2005年)。大腸炎の症状として、腹部出血、腹痛、血便、脱水状態、下痢および腸内ガスの増加があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は虫垂炎である。虫垂炎は、大腸に結合した小さな袋である虫垂の炎症である。研究から、急性虫垂炎の診断ではIL−6のレベルが高いことが最も信頼されるトレンドであることが報告されている(パージャネン(Paajanen),H.ら著、スカンジナビアン・ジャーナル・オブ・クリニカル & ラボラトリー・インベスティゲーション(Scandinavian Journal of Clinical & Laboratory Investigation)62(8):p.579〜584、2002年)。別の研究からは、虫垂炎(apendicitis)患者の腹膜水には低レベルのIL−6と共にTNF−αが存在することが報告されている(ファーナンド(Fernando),A.ら著、アナルズ・オブ・サージャリー(Annals of Surgery)237(3):p.408〜416、2003年)。虫垂炎の症状として、腹痛、発熱、食欲減退、悪心、嘔吐、悪寒および便秘があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は胃炎である。胃炎は、胃の粘膜の炎症である。胃炎の一般的な原因として、たとえばアルコール、喫煙および細菌感染が挙げられる。研究から、全員が慢性胃炎であったヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)に感染した患者では、H.ピロリ(H.pylori)陰性で胃粘膜が組織学的に正常な患者よりも、ヒト胃粘膜によるTNF−αおよびIL−6の産生が著しく多いことが報告されている(クラブトリー(Crabtree),J.ら著、ガット(Gut)、32:p.1473〜1477、1991年)。胃炎の症状として、腹痛、消化不良、暗色便、食欲不振、悪心、嘔吐、および血液またはコーヒー残渣様物質の嘔吐があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は喉頭炎である。喉頭炎は、喉頭(喉頭(voice box))の炎症である。喉頭炎は通常、声がかれる嗄声と関連している。喉頭は気管の最上部に位置し、声帯を含む。声帯は、炎症を起こすかまたは感染すると肥大する。これが嗄声の原因となり得、ときに気道を塞ぐこともある。研究から、喉頭炎が経鼻胃管により誘導される症例ではIL−1β、IL−6およびTNF−αが増加することが報告されている(リマ−ロドリーグ(Lima−Rodrigues),M.ら著、ザ・ラリンスコープ(The Larynscope)118(1):p.78〜86、2008年)。喉頭炎の症状として、発熱、嗄声、および頸部のリンパ節または腺の腫大が挙げられる。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は髄膜炎である。髄膜炎は、脳脊髄液が侵される、脳および脊髄を覆う膜の炎症である。研究から、組換え型のIL−6およびTNF−αが髄膜炎または血液脳関門傷害を誘導できることが報告されており、(TNFと共にあるいはそれなしで)脳脊髄液内でのIL−1のin situ産生が、様々な中枢神経系感染症に見られる髄膜炎症および血液脳関門傷害の両方を媒介できることが示唆される(クアリアレロ(Quagliarello),V.ら著、ザ・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(The Journal of Clinical Investigation)、87(4):p.1360〜1366、1991年)。髄膜炎の症状として、発熱および悪寒、精神状態の変化、悪心および嘔吐、羞明、重度の頭痛、髄膜症、激越および呼吸速迫があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は耳炎である。耳炎とは、耳の感染症または炎症をいう。耳炎では、耳の内側または耳の外側が侵されることがある。この状態は、短時間突発性で起こる(急性)か、または長期間にわたり繰り返し起こる(慢性)かによって分類される。研究から、中耳炎の動物モデルではIL−1βおよびTNF−αのレベルが高くなることが報告されている(サトウ(Sato),K.ら著、アナルズ・オブ・オトロジー、ライノロジー・アンド・ラリンゴロジー(Annals of Otology, Rhinology and Laryngology)108(6):p.559〜63、1999年)。別の研究からは、滲出性中耳炎患者では高レベルのIL−6が報告されている(チャン(Jang),C.およびキム(Kim),Y.著、インターナショナル・ジャーナル・オブ・ペディアトリック・オトライノラリンゴロジー(International Journal of Pediatric Otorhinolaryngology)66(1):p.37、2002年)。症状として、悪寒、下痢、耳だれ、耳痛、耳鳴り(ear noise)または耳鳴(ear buzzing)、発熱、聴力損失、興奮性、悪心および嘔吐があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は再灌流傷害である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は外傷性脳障害である。外傷性脳障害は、脳の正常な機能を破壊する頭部への打撃もしくは衝撃または穿通性頭部外傷により起こる。頭部への打撃または衝撃がすべて外傷性脳障害を引き起こすとは限らない。外傷性脳障害の重症度は、「軽度」(精神状態または意識の短時間の変化)から重度(傷害後長期間にわたる無意識または健忘症)まで、多岐にわたることがある。研究から、重度の外傷性脳障害患者ではIL−6およびTNF−αのレベルが共に高くなっていることが報告されている(ツカ(Csuka),E.ら著、ジャーナル・オブ・ニューロイムノロジー(Journal of Neuroimmunology)101(2):p.211〜21、1999年)。外傷性脳障害の症状として、頭痛または頸部痛、記憶、集中または意志決定の困難、疲労、気分変動、悪心、羞明、かすみ目、耳鳴り、および味覚または嗅覚の喪失があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は脊髄損傷である。脊髄外傷または傷害は、脊髄自体の直接的な傷害に起因することもあれば、周囲の骨、組織または血管の損傷に間接的に起因することもある脊髄の損傷である。研究から、傷害された脊髄ではTNF−α、IL−6およびIL−1βの発現のレベルが高くなることが報告されている(ハヤシ(Hayashi),M.ら著、ジャーナル・オブ・ニューロトラウマ(Journal of Neurotrauma)17(3):p.203〜18、2000年)。脊髄損傷の症状として、傷害部位およびその下の脱力および感覚消失、呼吸困難、正常な腸および膀胱制御の喪失、しびれ、痙直および疼痛があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は末梢神経障害である。「末梢神経障害」という用語は、末梢神経系の損傷をいう。実験的軸索切断後にIL−6が過剰発現すること、および傷害(神経挫滅)後にIL−1およびTNF−αのレベルが次第に上昇することが報告されている(クリャンゲ(Creange),A.ら著、ヨーロピアン・サイトカイン・ネットワーク(European Cytokine Network)8(2):p.145〜51、1997年)。症状は患部神経の種類と関係があり、数日、数週または数年の期間にわたることもある。運動神経の損傷の最も一般的な症状は筋力低下である。他の症状として、有痛性痙攣および線維束性収縮(皮膚上から観察できる筋肉の不随意収縮)、筋肉減少、骨の変性、ならびに皮膚、毛髪および爪の変化を挙げることができる。感覚神経は機能の範囲がより広範で高度に分化しているため、感覚神経が損傷されると症状の範囲はより複雑になる。ミエリンで囲まれたより大型の感覚線維は、振動覚、触覚および位置覚を伝える。大型の感覚線維が損傷されると、振動および接触を感じる能力が低下し、その結果一般感覚の麻痺、特に手および足の感覚の麻痺に至る。ミエリン鞘のないより小型の感覚線維は、疼痛および温覚を伝達する。自律神経損傷の症状は多様であり、どの器官または腺が侵されたかによって異なる。自律神経損傷の一般的な症状として、正常な発汗ができずに熱不耐症を来し得る;膀胱制御の喪失により感染症または失禁を起こす恐れ;および血管を拡張または収縮させて安全な血圧レベルに維持する筋肉を制御できないなどが挙げられる。血圧が制御されないと、眩暈、頭部ふらふら感、またはさらに急に座位から立位に移る際に失神(体位性または起立性低血圧という状態)を起こすこともある。胃腸の症状には自律神経ニューロパチーを伴う場合が多い。多くの場合、腸管筋の収縮を制御する神経が機能不全になり、下痢、便秘または失禁を来す。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は多発性硬化症である。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はループス(全身性紅斑性狼瘡)である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は心血管代謝症候群である。心血管代謝症候群(症候群X、CMS:cardiometabolic syndrome)は、以下の状態:(i)腰回りの過体;(ii)高レベルのトリグリセリド;(iii)低レベルのHDL(善玉コレステロール);(iv)高血圧症;および(v)高レベルの空腹時血糖のいずれか3つが存在するものと定義される。CMSの有病率の上昇は、多くの年齢群で増加している肥満と関連付けられている。現在、CMSから心血管死亡率および/または2型糖尿病(diabetes mellitus)の発症が予測されると考えられる。また、CMSには体組成の変化および脂肪再分布が合併し、多くの場合、インスリン感受性の変化が認められる。糖尿病の人の多くは、こうした状態のいくつかが同時に認められる。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は肥満である。米国国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)によれば、肥満は、肥満指数(BMI:body mass index)が30以上と定義される。肥満指数は、身長に対する体重の割合を標準化したもので、多くの場合、健康の一般的な指標として使用される。BMIは、体重(キログラム単位)を身長(メートル単位)の二乗で除して算出することができる。大部分の成人の場合、BMIが18.5〜24.9であれば正常と考えられる。いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はII型糖尿病(diabetes mellitus)である。2型糖尿病(非インスリン依存性糖尿病(non−insulin−dependent diabetes mellitus)(NIDDM)、成人発症型糖尿病)は、主にインスリン抵抗性(インスリンの存在時に細胞が適切に反応しない)、相対的なインスリン欠乏、および高血糖を特徴とする代謝障害である。IL−6はインスリン感受性を障害するだけでなく、肝臓におけるC反応性タンパク質(この炎症マーカーの最も重要な供給源)産生の主要な決定因子でもある。2型糖尿病患者のある研究によれば、循環血中のIL−6のレベルが内臓脂肪面積(visceral fat area)(VFA)と強く相関すること、および頸動脈のこわばり(アテローム性動脈硬化症の指標)がVFAと、IL−6レベルおよびC反応性タンパク質レベルの両方とに相関することが示されており、腹腔内の脂肪細胞由来のIL−6が2型糖尿病患者のアテローム性動脈硬化症の進行に関与していることが示唆される(デスプレス(Despres),J.著、ヨーロピアン・ハート・ジャーナル・サプリメンツ(European Heart Journal Supplements)8(B):B4−B12、2006年)。2型糖尿病の症状として、多尿および多飲があるが、これに限定されるものではない。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害はI型糖尿病である。
いくつかのそうした実施形態によれば、炎症性障害は非アルコール性脂肪性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis)(NASH)である。NASHは、アルコールの過剰摂取によらない場合の肝臓の脂肪性の炎症である。NASHでは、脂肪が肝臓に蓄積され、最終的に瘢痕組織となる。NASHは硬変に至ることもある。研究から、NASH患者ではTNF−αレベルが高いことが報告されている(バフセイコグル(Bahceicoglu),H.ら著、ヘパトエンテロロジー(Hepatoenterology)52(65):p.1549〜53、2005年)。別の研究からは、NASH患者でIL−6レベルが高いこと(クーゲルマス(Kugelmas),M.ら著、ヘパトロジー(Hepatology)、38(2):p.413〜9、2003年)、およびIL−1βレベルが高いこと(ブラン(Brun),P.ら著、アメリカン・ジャーナル・オブ・フィジィオロジー−ガストロインテスティナル・アンド・リバー・フィジィオロジー(American Journal of Physiology−Gastrointestinal and Liver Physiology)292:p.G518〜G525、2007年)が報告されている。NASHの症状として、疲労、倦怠感および右上腹部の重苦しい不快感があるが、これに限定されるものではない。
別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRQLGVAA[配列番号13]と実質的に同一であるドメインである。
別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインは、アミノ酸配列KALARQLGVAA[配列番号23]と実質的に同一であるドメインである。
別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドのタンパク質形質導入ドメインは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKA[配列番号31]と実質的に同一であるドメインである。
別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドのタンパク質形質導入ドメインは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRI[配列番号34]と実質的に同一であるドメインである。
別の態様によれば、本発明は、治療用阻害ペプチドと少なくとも85%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードする単離された核酸であって、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する、核酸を提供する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも86%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも87%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも88%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも89%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも90%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも91%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも92%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも93%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも94%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも96%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも97%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも98%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、単離された核酸は、治療用阻害ペプチドと少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を有するポリペプチドをコードし、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドであり、ポリペプチドはキナーゼ酵素のキナーゼ活性を阻害する。そうしたいくつかの実施形態では、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]配列を持つ治療用阻害ペプチドは、制御可能な調節エレメントに作動可能に連結されている。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列FAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号12]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列KAFAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号15]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARQARAKALNRQLGVAA[配列番号16]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALARQLAVA[配列番号17]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALARQLGVA[配列番号18]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALNRQLAVA[配列番号19]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALNRQLGVA[配列番号20]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALNRQLGVAA[配列番号21]を持つペプチドである。
別の実施形態によれば、局所送達すると望ましいキナーゼ阻害組成物は、たとえばボーラス注射または持続注入など注射による非経口投与用に製剤化してもよい。注射用製剤は、防腐剤を加えて単位剤形、たとえばアンプルまたは複数用量容器で提供してもよい。組成物は、油性または水性ビヒクルに溶かした懸濁液、溶液またはエマルジョンのような形態をとってもよく、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤など製剤化剤を含んでも構わない。非経口投与用の医薬製剤は、水溶性形態として活性化合物の水溶液を含む。加えて、適切な油性注射懸濁液として活性化合物の懸濁液を調製してもよい。好適な親油性溶媒またはビヒクルとして、ゴマ油などの脂肪油、またはオレイン酸エチルもしくはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームが挙げられる。水性注射懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランなど懸濁液の粘度を高める物質を含んでもよい。任意に、懸濁液は、好適な安定剤、または化合物の溶解性を高め高濃縮溶液の調製を可能にする薬をさらに含んでもよい。あるいは、活性化合物は、使用前に好適なビヒクル、たとえば無菌・パイロジェンフリー水で構成する粉末形状としてもよい。
また、医薬組成物(すなわちキナーゼ阻害組成物)は、好適な固体またはゲル相のキャリアまたは賦形剤を含んでもよい。こうしたキャリアまたは賦形剤の例として、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖類、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリエチレングリコールなどのポリマーがあるが、これに限定されるものではない。
好適な液体または固体医薬品の形態は、たとえば、適切な場合には1種または複数種の賦形剤とマイクロカプセル化するか、コクリエートを用いて製剤化するか、微細金粒子にコーティングするか、リポソームに組み込むか、組織に埋め込むためペレット状にするか、または組織に擦り込むものに乾燥させる。こうした医薬組成物はまた、顆粒、ビーズ、粉末、錠剤、コーティング錠剤、(マイクロ)カプセル、坐剤、シロップ、エマルジョン、懸濁剤、クリーム、滴剤、または活性化合物の放出を遅延させる調製物の形態であってもよく、これらの調製には、賦形剤、および錠剤分解物質、バインダー、コーティング剤、膨張剤、滑沢剤または可溶化剤などの添加剤および/または助剤が上記のように慣用される。医薬組成物は、様々な薬物送達システムに使用するのに好適である。薬物送達方法の要約には、参照によって本明細書に援用するランガー(Langer)著、1990年、サイエンス(Science)249、p.1527〜1533を参照されたい。
キナーゼ阻害組成物および任意に他の治療剤は、それ自体(未希釈)で投与しても、あるいは、薬学的に許容される塩の形態で投与してもよい。塩は医療に使用する場合、薬学的に許容されるものであるべきだが、薬学的に許容されない塩は、その薬学的に許容される塩の調製に使用すると都合がよい場合がある。そうした塩として、以下の酸:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、p−トルエンスルホン酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸、ナフタレン−2−スルホン酸およびベンゼンスルホン酸から調製されるものがあるが、これに限定されるものではない。また、こうした塩は、カルボン酸基のナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩として調製してもよい。「薬学的に許容される塩」は、適切な医学的判断に従って過度の毒性、刺激、アレルギー反応および同種のものを回避しつつ、ヒトおよび下等動物の組織と接触して使用するのに好適であり、かつ適切なベネフィット/リスク比に相当する塩を意味する。薬学的に許容される塩は、当該技術分野において公知である。たとえばP.H.シュタール(Stahl)らは、薬学的に許容される塩について 「医薬用塩のハンドブック:特性、選択および使用(Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use)」(ワイリー(Wiley)VCH、チューリッヒ、スイス:2002年)で詳細に記載している。塩は、本発明に記載する化合物の最終的な単離または精製の際にin situ調製してもよいし、あるいは、遊離塩基官能基を好適な有機酸と別途反応させて調製してもよい。代表的な付加塩として、アセタート、アジパート、アルギナート、シトラート、アスパルタート、ベンゾアート、ベンゼンスルホナート、ビスルファート、ブチラート、カンホラート、カンホルスホナート、ジグルコナート、グリセロホスファート、ヘミスルファート、ヘプタノアート、ヘキサノアート、フマラート、ヒドロクロリド、ヒドロブロミド、ヒドロヨージド、2−ヒドロキシエタンスルホナート(イセチオナート)、ラクタート、マレアート、メタンスルホナート、ニコチナート、2−ナフタレンスルホナート、オキサラート、パモアート、ペクチナート、ペルスルファート、3−フェニルプロピオナート、ピクラート、ピバラート、プロピオナート、スクシナート、タルトラート、チオシアナート、ホスファート、グルタマート、炭酸水素塩、p−トルエンスルホナートおよびウンデカノアートがあるが、これに限定されるものではない。さらに、塩基性窒素を含む基は、メチルクロリド、エチルクロリド、プロピルクロリドおよびブチルクロリド、メチルブロミド、エチルブロミド、プロピルブロミドおよびブチルブロミド、ならびにメチルヨージド、エチルヨージド、プロピルヨージドおよびブチルヨージドなどの低級アルキルハロゲン化物;ジメチルスルファート、ジエチルスルファート、ジブチルスルファートおよびジアミルスルファートのようなジアルキルスルファート;デシルクロリド、ラウリルクロリド、ミリスチルクロリドおよびステアリルクロリド、デシルブロミド、ラウリルブロミド、ミリスチルブロミドおよびステアリルブロミド、ならびにデシルヨージド、ラウリルヨージド、ミリスチルヨージドおよびステアリルヨージドなどの長鎖ハロゲン化物;ベンジルブロミドおよびフェネチルブロミドのようなアリールアルキルハロゲン化物および他のものなどの薬と四級化してもよい。水溶性もしくは油溶性または分散性の生成物については、このようにして得られる。薬学的に許容される酸付加塩の形成に使用できる酸の例として、塩酸、臭化水素酸、硫酸およびリン酸などの無機酸、およびシュウ酸、マレイン酸、コハク酸およびクエン酸などの有機酸が挙げられる。塩基性付加塩は、カルボン酸を含む部分を好適な塩基、たとえば薬学的に許容される金属カチオンの水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩と、またはアンモニアもしくは有機第一級、第二級または第三級アミンと反応させて本発明に記載する化合物の最終的な単離および精製の際にin situ調製してもよい。薬学的に許容される塩として、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩およびアルミニウム塩および同種のものなどのアルカリ金属またはアルカリ土類金属のカチオン、ならびにアンモニウム、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジエチルアミン、エチルアミンおよび同種のものなどの第四級アンモニアおよびアミンのカチオンがあるが、これに限定されるものではない。塩基付加塩の形成に有用な他の代表的な有機アミンとして、エチレンジアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン、ピペラジンおよび同種のものが挙げられる。さらに薬学的に許容される塩は、当該技術分野において周知の標準的な手順により、たとえばアミンなどの強塩基性化合物を好適な酸と反応させて生理学的に許容されるアニオンを得ることにより、得ることもできる。また、カルボン酸のアルカリ金属(たとえば、ナトリウム、カリウムまたはリチウム)塩またはアルカリ土類金属(たとえばカルシウムまたはマグネシウム)塩を製造してもよい。
本製剤は単位剤形で提供すると都合がよい場合があり、薬学の技術分野において周知のどのような方法で調製してもよい。どの方法も、キナーゼ阻害ペプチドまたはその薬学的に許容されるエステル、塩、水和物、溶媒和物またはプロドラッグ(「活性化合物」)を、1種または複数種の補助剤を構成するキャリアと混合するステップを含む。一般に、本製剤は、活性薬を液体キャリアもしくは微粉化した固体キャリアまたはその両方と均一かつ均質に混合し、その後必要に応じて生成物を所望の製剤に成形することにより調製される。
本医薬剤またはその薬学的に許容されるエステル、塩、水和物、溶媒和物またはプロドラッグは、所望の作用を弱めない他の活性材料または所望の作用を補完する材料と混合してもよい。非経口適用、皮内適用、皮下適用、髄膜内適用または局部適用に使用する溶液または懸濁液として、たとえば、以下の成分;注射用蒸留水、食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒などの無菌希釈液;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌薬;アスコルビン酸または重亜硫酸ナトリウムなどの酸化防止剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート化剤;アセタート、シトラートまたはホスファートなどの緩衝液、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度調整剤を挙げることができるが、これに限定されるものではない。非経口調製物は、アンプル、ディスポーザブル注射筒、またはガラス製またはプラスチック製の複数用量バイアルに封入してもよい。静脈内投与の場合の具体的なキャリアとして生理食塩水またはリン酸塩緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline)(PBS)がある。
非経口注射用の医薬組成物は、薬学的に許容される無菌水性または非水性溶液、分散液、懸濁液またはエマルジョン、および無菌注射溶液または分散液に再構成する無菌粉末を含む。「溶液」は一般に、2種以上の物質の均一な混合物と考えられる。溶液は、必ずではないが、多くの場合、液体である。溶液の場合、溶質の分子(すなわち溶解物質)は、溶媒の分子の間に均一に分散している。本明細書で使用する場合、「分散系」または「分散液」とは、一方の相が粒子または液滴として他方の相または連続相に分散している二相系をいう。「懸濁液」という用語は、本明細書で使用する場合、微粉化された不溶解性物質が液体ビヒクルに分散している調製物をいう。懸濁液の微細粒子物質は、分散している液体ビヒクルからゆっくりと沈降するため、懸濁液は、ビヒクル中の固体が均一に分散し、それにより一定かつ適切な投与量が得られるように使用前によく振盪する必要がある。本明細書で使用する場合、「エマルジョン」とは、分散相および分散媒が共に不混和液で、分散液体が小滴として分散媒液体の全体に分散しているコロイド系をいう。安定な塩基性エマルジョンは、少なくとも2種の液体および乳化剤を含む。エマルジョンの一般的なタイプには、油が分散液体で水などの水溶液が分散媒である水中油型と、逆に水溶液が分散相である油中水型とがある。また、非水性のエマルジョンを調製することもできる。
好適な水性および非水性キャリア、希釈液、溶媒またはビヒクルの例として、水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロールおよび同種のもの)、これらの好適な混合物、植物油(オリーブ油など)、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、たとえば分散液の場合、レシチンなどのコーティングの使用、必要な粒度の維持、および界面活性剤の使用により維持することができる。
こうした組成物は、防腐薬、湿潤剤、乳化剤および分散剤などのアジュバントをさらに含んでもよい。微生物の作用の予防は、様々な抗菌薬および抗真菌薬、たとえばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸および同種のものにより確保してもよい。また、たとえば糖、塩化ナトリウムおよび同種のものなどの等張剤を含めることも望ましい。注射用医薬品形態は、たとえば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン吸収遅延薬を使用することで吸収を長時間持続させてもよい。
懸濁液は、活性化合物以外に、たとえばエトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトールおよびソルビタンエステル、微結晶性セルロース、メタ水酸化アルミニウム、ベントナイト、寒天、トラガントおよびこれらの混合物などの懸濁化剤を含んでもよい。
注射用デポ形態は、ポリラクチド−ポリグリコリドなどの生分解性ポリマーを用いて薬剤のマイクロカプセルマトリックスを形成することにより製造される。薬剤放出速度は、薬剤とポリマーとの比率、および使用する個々のポリマーの性質に応じて制御することができる。こうした長時間作用製剤は、好適なポリマーまたは疎水性材料(たとえば許容可能な油中のエマルジョンとして)またはイオン交換樹脂を用いて製剤化しても、あるいは、やや溶けにくい誘導体、たとえば、やや溶けにくい塩として製剤化してもよい。他の生分解性ポリマーの例として、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。さらに、注射用デポ製剤は、体組織との適合性があるリポソームまたはマイクロエマルジョンに薬剤を封入することにより調製される。
局所注射用製剤は、たとえば細菌捕集フィルターによる濾過により、あるいは、滅菌水または他の無菌注射用媒体に溶解または分散し得る無菌固体組成物形態の滅菌剤を使用直前に含ませることにより滅菌することができる。たとえば注射用の無菌水性または油性懸濁液などの注射用調製物は、好適な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用いて従来技術に従い製剤化することができる。また、無菌注射用調製物は、1,3−ブタンジオール溶液など、非経口投与に許容可能な無毒の希釈液または溶媒に溶かした無菌注射用溶液、懸濁液またはエマルジョンとしてもよい。使用してもよい許容可能なビヒクルおよび溶媒には、水、リンゲル液、U.S.P.および等張塩化ナトリウム溶液がある。さらに、従来の無菌の不揮発性油も溶媒または懸濁媒体として従来から使用されている。このような場合、注射剤の調製には合成モノまたはジグリセリドなど任意の無菌不揮発性油を使用してもよく、さらに、オレイン酸などの脂肪酸も使用される。
非経口(以下に限定されるものではないが、皮下、皮内、筋肉内、静脈内、髄膜内および関節内)投与用製剤は、酸化防止剤と、緩衝液と、静菌薬と、製剤を予定の被投与者の血液と等張にする溶質とを含み得る水性および非水性無菌注射溶液;および懸濁化剤および粘度付与剤を含み得る水性および非水性無菌懸濁液を含む。製剤は、単一用量容器または複数用量容器、たとえば封入されたアンプルおよびバイアルで提供してもよく、使用の直前に無菌液体キャリア、たとえば食塩水、注射用水を加えるだけでよい凍結乾燥された(凍結乾燥)状態で保存してもよい。必要に応じて調合される注射溶液および懸濁液は、前述したような無菌粉末、顆粒および錠剤から調製すればよい。
本明細書に記載の組成物の別の製剤方法では、本明細書に記載の化合物を、水溶解度を高めるポリマーにコンジュゲートする。好適なポリマーの例として、ポリエチレングリコール、ポリ−(d−グルタミン酸)、ポリ−(l−グルタミン酸)、ポリ−(l−グルタミン酸)、ポリ−(d−アスパラギン酸)、ポリ−(l−アスパラギン酸)、ポリ−(l−アスパラギン酸)およびこれらのコポリマーが挙げられるが、これに限定されるものではない。ポリグルタミン酸は分子量が約5,000〜約100,000、分子量が約20,000〜約80,000のものを使用してもよく、分子量が約30,000〜60,000のものを使用してもよい。ポリマーは、参照によって本明細書に援用する米国特許第5,977,163号本質的に記載されているようなプロトコルを用いて、エステル結合を介して本発明の治療用阻害ペプチドの1つまたは複数のヒドロキシルにコンジュゲートする。
好適な緩衝剤として:酢酸および塩(1〜2%w/v);クエン酸および塩(1〜3%w/v);ホウ酸および塩(0.5〜2.5%w/v);ならびにリン酸および塩(0.8〜2%w/v)が挙げられる。好適な防腐剤としては、ベンザルコニウムクロリド(0.003〜0.03%w/v);クロロブタノール(0.3〜0.9%w/v);パラベン(0.01〜0.25%w/v)およびチメロサール(0.004〜0.02%w/v)が挙げられる。
いくつかの実施形態では、キナーゼ阻害組成物は医薬組成物である。本発明に記載する医薬組成物は、治療有効量のキナーゼ阻害組成物、および任意に薬学的に許容されるキャリアに含まれる他の治療薬を含む。活性成分は、キナーゼ阻害組成物でも、治療用阻害ペプチドでも、PTDもしくは治療ドメインでも、またはこれらの組み合わせでもよい。さらに、医薬組成物の成分は、医薬としての所望の有効性を実質的に低下させると考えられる相互作用が起きないように混合することもできる。
キナーゼ阻害組成物などの治療薬(1つまたは複数の治療薬)は、粒子として提供してもよい。粒子は、コーティングに囲まれたコア内の治療薬(1つまたは複数の治療薬)を含み得る。治療薬(1つまたは複数の治療薬)はまた、粒子全体に分散させてもよい。さらに治療薬(1つまたは複数の治療薬)は、粒子の少なくとも1つの表面に吸着させてもよい。粒子は、0次放出、1次放出、2次放出、遅延放出、徐放放出、即時放出等、およびこれらの任意の組み合わせなど、どのような放出速度でもよい。粒子は、治療薬(1つまたは複数の治療薬)以外に、以下に限定されるものではないが、侵食性材料、非侵食性材料、生分解性材料もしくは非生分解性材料、またはこれらの組み合わせなど、薬学および医療の技術分野において通常使用されるどのような材料を含んでもよい。粒子は、溶液または半固体状態のキナーゼ阻害組成物を含むマイクロカプセルであってもよい。粒子は、実質的にどのような形状でもよい。
治療薬(1つまたは複数の治療薬)を送達する粒子の製造の際には、非生分解性高分子材料および生分解性高分子材料の両方を使用してもよい。こうしたポリマーは天然ポリマーでも、または合成ポリマーでもよい。ポリマーは、放出期間の望ましさに応じて選択される。特に注目される生体接着ポリマーとして、その教示内容を本明細書に援用するマクロモレキュールズ(Macromolecules)(1993年)26、p.581〜587にソーニー(Sawhney)らが記載したような生体内分解性ヒドロゲルがある。例として、ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリ酸無水物、ポリアクリル酸、アルギナート、キトサン、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(メタクリル酸エチル)、ポリ(メタクリル酸ブチル)、ポリ(メタクリル酸イソブチル)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)、ポリ(メタクリル酸イソデシル)、ポリ(メタクリル酸ラウリル)、ポリ(メタクリル酸フェニル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸イソプロピル)、ポリ(アクリル酸イソブチル)およびポリ(アクリル酸オクタデシル)がある。
治療薬(1つまたは複数の治療薬)は、放出制御系に含ませてもよい。薬剤の効果を延長するには、多くの場合、皮下注射、髄膜内注射または筋肉内注射による薬剤の吸収を遅延すると望ましい。これは、水溶性に乏しい結晶材料またはアモルファス材料の液体懸濁液を使用することにより達成することができる。その際の薬剤の吸収速度はその溶解速度によって決まり、一方溶解速度は、結晶の大きさおよび結晶形によって決定され得る。あるいは、非経口投与された薬剤形態の吸収の遅延は、薬剤を油性ビヒクルに溶解または懸濁することにより達成される。
長時間徐放性インプラントの使用は、慢性状態の治療に特に好適な場合がある。長時間徐放性インプラントは当業者によく知られており、本明細書に記載の放出系のいくつかが挙げられる。
別の実施形態では、キナーゼ阻害組成物は、ゲル、遅効性固体または半固体の化合物をさらに含み、ゲル、遅効性固体または半固体の化合物は、治療有効量の治療用阻害ペプチドおよびコーティング物を含む。コーティング物は、任意の所望の材料、好ましくはポリマーまたは様々なポリマーの混合物としてもよい。任意に、ポリマーは、造粒段階で使用し、活性成分の所望の放出パターンを得られるように活性成分を含むマトリックスを形成する。ゲル、遅効性固体または半固体の化合物は、所望の期間にわたり活性薬を放出することができる。ゲル、遅効性固体または半固体の化合物は所望の位置に近接して埋め込んでもよく、その結果、活性薬の放出により薬理効果が局所に発揮される。
別の実施形態では、キナーゼ阻害組成物は、局所的な治療効果を促進するために体内または体表に注射、付着または埋め込みを行うのを目的として、半固体の生分解性、生体適合性送達系を使用した半固体送達系、または半固体の生分解性、生体適合性生分解性送達系に分散および懸濁した生分解性、生体適合性多粒子をさらに含む。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬はキナーゼ阻害組成物、治療用阻害ペプチド、PTD、治療ドメインまたはこれらの薬学的に許容される塩である。
別の実施形態では、半固体送達系は一部または全部に、ヒドロゲルを含む生体適合性、生分解性、粘性半固体を含む。一実施形態では、グリセリルモノオレアート(glyceryl monooleate)(以下、GMOという)が、意図する半固体送達系またはヒドロゲルである。ただし、粘度/剛性に関する物理/化学的性質が類似するヒドロゲル、ポリマー、炭化水素組成物および脂肪酸誘導体の多くは、半固体送達系としての役割を果たし得る。たとえば、以下に限定されるものではないが、ヘパリンなどの硫酸化多糖を使用してもよい。
一実施形態では、ゲル系は、GMOをその融点(40〜50℃)超に加熱し、たとえばリン酸塩緩衝液または生理食塩水など温い水性ベースの緩衝液または電解質溶液を加えて三次元構造を構築することにより生成される。水性ベースの緩衝液は他の水溶液からなっていても、または半極性溶媒を含む組み合わせからなっていてもよい。
GMOは主に、親油性材料を導入できる脂質型ヒドロゲルを与える。GMOはさらに内部に、親水性化合物を含み、送達する水性チャネルも与える。このゲル系は室温(約25℃)で広範な粘度測定値を含む様々な相を呈し得ることが分かっている。
一実施形態では、室温および生理的温度(約37℃)ならびにpH(約7.4)における特性を勘案して2つのゲル系相を使用する。2つのゲル系相では、第1の相がH2O含有量約5%〜約15%およびGMO含有量約95%〜約85%のラメラ相である。ラメラ相は適度の粘性液体であり、容易に操作し、流し、注入することができる。第2の相は、H2O含有量約15%〜約40%およびGMO含有量約85%〜60%からなる立方相である。その平衡含水率は約35重量%〜約40重量%である。「平衡含水率」という用語は、本明細書で使用する場合、過剰な水の存在下での最大含水率をいう。このため立方相には約35重量%〜約40重量%の水が取り込まれる。立方相は高粘性である。粘度は、ブルックフィールド粘度計により測定することができる。粘度は、1.2百万センチポアズ(centipoise)(cp)を超える。1.2百万cpは、カップとボブを備えたブルックフィールド粘度計で得られる粘度の最大測定値である。そうしたいくつかの実施形態では、系が持続的連続的に送達するように、この半固体に治療薬を含ませてもよい。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬は治療用阻害ペプチドである。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬はPTDである。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬は治療ドメインである。そうしたいくつかの実施形態では、この半固体に他の治療薬、生物活性薬、薬剤、薬物および不活性物を含ませ、様々な放出速度により体内の局所で生物学的、生理的または治療効果を発揮するようにする。
いくつかの実施形態では、別の半固体、改変製剤および生成方法を使用して、半固体の親油性を改変するか、またはその代わりに、半固体内に含まれる水性チャネルを変化させる。このため、様々な濃度の様々な治療薬を、様々な速度で半固体から拡散させることもできるし、または半固体の水性チャネルを介して経時的に半固体から放出させることもできる。親水性物質を用いて水性成分の粘度、流動性、表面張力または極性を変化させることにより、半固体の稠度または治療薬の放出を変化させてもよい。たとえば、モノステアリン酸グリセリル(glyceryl monostearate)(GMS)は、脂肪酸部分の炭素9および炭素10が単結合でなく二重結合であるのを除き構造的にGMOと同一であるが、加熱および水性成分を添加してもGMOのようにゲル化しない。一方GMSは界面活性剤であるため、H2Oに混合できるのは最大約20重量%である。「界面活性剤」という用語は、本明細書で使用する場合、表面活性剤をいい、このため限られた濃度のH2Oだけでなく極性物質とも混和する。80%H2O/20%GMSの組み合わせを加熱および撹拌すると、ハンドローションに似た稠度を持つ展延性のペーストが得られる。次いでペーストを溶融したGMOと組み合わせて、前述のような高粘度を有する立方相ゲルを形成する。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬は治療用阻害ペプチドである。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬はPTDである。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬は治療ドメインである。
別の実施形態では、市販されているGelfoam(商標)などの加水分解ゼラチンを使用して水性成分を変化させる。約6.25重量%〜12.50重量%濃度のGelfoam(商標)をそれぞれ、約93.75重量%〜87.50%重量濃度のH2O、または他の水性ベースの緩衝液に加えてもよい。H2O(または他の水性緩衝液)/Gelfoam(商標)の組み合わせを加熱および撹拌すると、濃厚なゼラチン質物質が得られる。得られた物質をGMOと組み合わせると、このように形成された生成物が膨潤し、単独の未希釈GMOゲルと比較して混和性が低下した高粘性半透明ゲルを形成する。
別の実施形態では、ポリエチレングリコール(polyethylene glycol)(PEG)を用いて薬剤の可溶化に資するように水性成分を変化させる。約0.5重量%〜40重量%濃度のPEG(PEGの分子量によって異なる)をそれぞれ約99.5重量%〜60重量%濃度のH2O、または他の水性ベースの緩衝液に入れる。H2O(または他の水性緩衝液)/PEGの組み合わせを加熱および撹拌すると、液体から半固体の粘性物質が得られる。得られた物質をGMOと組み合わせると、このように形成された生成物が膨潤し、高粘性ゲルを形成する。
理論に拘泥するわけではないが、治療薬はおそらく二相性において拡散により半固体から放出されると推察される。第1の相は、たとえばこの親油性膜内に含まれる親油性薬剤がそこから水性チャネルに拡散するのに関与する。第2の相は、薬剤の水性チャネルから外部環境への拡散に関与する。薬剤が親油性であれば、脂質二重層と想定される構造内のGMOゲルの内側に順応し得る。このため、たとえばキナーゼ阻害組成物など約7.5重量%を超える薬剤をGMOに含ませると、三次元構造の完全性が失われ、ゲル系はもはや半固体立方相を維持できなくなり、粘性ラメラ相液体に戻る。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬は治療用阻害ペプチドである。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬はPTDである。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬は治療ドメインである。別の実施形態では、通常の三次元構造を破壊せずに生理的温度で約1〜約45重量%の治療薬をGMOゲルに含ませる。その結果、この系は、薬剤投与量の選択幅を著しく広げることができる。この送達系は順応性があるため、体内の壁、空間または他の空隙の輪郭に接着し適合するだけでなく、存在する空隙をすべて完全に満たすように、インプラント部位に送達させ操作することができる。この送達系を用いれば、インプラント部位全体における薬剤分布および均一な薬物送達が確保される。空間内の送達系の送達および操作は、半固体送達器具により行いやすくなる。半固体送達器具は、送達系の標的送達および制御送達を容易にする。
一実施形態では、多粒子成分は、以下に限定されるものではないが、ノンパレイユ、ペレット、結晶、凝集体、ミクロスフェアまたはナノ粒子などの固体構造の製造に使用される生体適合性、生分解性、高分子または非高分子系からなる。
別の実施形態では、多粒子成分は、ポリ(乳酸−コ−グリコリド)(poly(lactic−co−glycolide))(PLGA)である。PLGAは、治療薬の体内の制御および持続送達に使用される生分解性ポリマー材料である。こうした送達系は、定期的な頻回の全身性投与と比較して薬効を高め、全般的な毒性を低下させる。理論に拘泥するわけではないが、様々なモル比の単量体のサブユニットからなるPLGA系は、ポリマーの分解速度を変化させて、治療薬の標的送達に対応する詳細な放出プロファイルを設計する際の柔軟性を高めると推察される。一実施形態では、PLGA組成物は十分に純度が高く生体適合性であり、生分解時も生体適合性を維持する。一実施形態では、PLGAポリマーは、治療薬または薬剤を封入するミクロスフェアとして設計および形成し、その後そこから治療薬が放出される。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬はキナーゼ阻害剤である。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬は治療用阻害ペプチドである。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬はPTDである。そうしたいくつかの実施形態では、治療薬は治療ドメインである。
別の実施形態では、多粒子成分は、ポリd,l(乳酸−コ−カプロラクトン)からなる。これは、PLGAポリマーと類似した薬剤放出機構を持ち、治療薬の体内の制御および持続送達に使用される生分解性ポリマー材料である。一実施形態では、GMSなどの生分解性および/または生体適合性非高分子材料を用いて多粒子ミクロスフェアも製造する。
別の実施形態では、同一または異なる薬剤物質を含む同じ組成のポリマー、同一または異なる薬剤物質を含む異なるポリマーを用いて多粒子成分をカプセル化またはコーティングする方法により多粒子成分をさらに変化させても、あるいは、薬剤を含まないかまたは同じ薬剤、異なる薬剤もしくは複数の薬剤物質を含む積層化プロセスを用いて多粒子成分をさらに変化させてもよい。これにより、同時に単一または複数の薬剤作用物質の多様な薬剤放出プロファイルを持つ多層状(カプセル化)多粒子系が生成される。別の実施形態では、体内における多粒子からの薬剤の拡散速度を制御するコーティング材料は、単独で使用しても、または前述の実施形態および想定される実施形態と一緒に使用してもよい。
別の実施形態では、キナーゼ阻害組成物は、PLGAを使用する送達系をさらに含む。PLGAポリマーは、加水分解に不安定なエステル結合を含む。H2OがPLGAポリマーを透過すると、そのエステル結合は加水分解され、水溶性のモノマーがPLGAポリマーから除かれるため、封入された薬剤、たとえば、以下に限定されるものではないが、キナーゼ阻害組成物の体内における経時的な放出を促進する。そうしたいくつかの実施形態では、非限定的な例として以下に限定されるものではないが、ポリ酸無水物、ポリ(リン酸)、ポリジオキサノン、セルロース誘導体およびアクリル酸系誘導体など他のクラスの合成生分解性、生体適合性ポリマーを使用して、治療薬の体内の制御および持続送達を行ってもよい。そうしたいくつかの実施形態では、以下に限定されるものではないが、ステロール、スクロース脂肪酸エステル、脂肪酸およびコレステリルエステルなど非高分子材料を使用して、治療薬の体内の制御および持続送達を行ってもよい。上記の例は、非限定的な例として限定されるものではない。
別の態様では、キナーゼ阻害組成物は、親油性、親水性または両親媒性(amphophilic)の固体または半固体物質をその融点超に加熱し、その後温かい水性成分を加え、含水量によって粘度にばらつきがあるゼラチン質組成物を製造することを含む、治療薬の局所送達のビヒクルとして働く半固体送達系をさらに含む。治療薬(1つまたは複数の治療薬)は、混合して半固体系を形成する前に、溶融した親油性成分または水性緩衝液成分に加えて分散させる。ゼラチン質組成物は半固体送達器具に加え、その後留置または付着する。このゲル系は順応性があるため、半固体送達器具を介してインプラント部位への送達および操作が行いやすく、体内の埋め込み部位、空間または他の空隙の輪郭に接着し適合するだけでなく、存在する空隙をすべて完全に満たす。あるいは、生体適合性高分子または非高分子系からなる多粒子成分は、治療薬を封入するミクロスフェアの製造に使用する。最終的な処理方法の後、ミクロスフェアを半固体系に組む込み、続いてそこからインプラント部位または類似の空間に送達しやすいように半固体送達器具に加え、続いてそこから薬剤放出機構(1つまたは複数の薬剤放出機構)により治療薬が放出される。
別の態様では、本発明はさらに、少なくとも1つの単離された治療用阻害ペプチドを含む生物医学装置であって、1つまたは複数の単離された治療用阻害ペプチドを装置上または装置内に配置する生物医学装置も提供する。そうしたいくつかの実施形態では、少なくとも1種の治療用阻害ペプチドは、WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]、
FAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号12]、
KAFAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号15]、
YARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]、
YARAAARQARAKALNRQLGVAA[配列番号16]、
YARAAARGQRAKALARQLAVA[配列番号17]、
YARAAARGQRAKALARQLGVA[配列番号18]、
YARAAARGQRAKALNRQLAVA[配列番号19]、
YARAAARGQRAKALNRQLGVA[配列番号20]および
YARAAARGQRAKALNRQLGVAA[配列番号21]
のアミノ酸配列を持つペプチドからなる群から選択される、アミノ酸配列を持つ少なくとも1つのペプチドである。
別の態様によれば、本発明は、PTDアミノ酸配列を含むペプチドをコードするmRNAと特異的にハイブリダイズする単離された核酸を提供する。「特異的にハイブリダイズする」という用語は、本明細書で使用する場合、核酸が、元は核酸と対を形成していなかった少なくとも1本のDNAストランドの相補領域と、他と区別してまたは限定的に塩基対を形成するプロセスをいう。たとえば、CPP配列を含むペプチドをコードする細胞の少なくとも一部のmRNAと結合またはハイブリダイズし得る核酸は、特異的にハイブリダイズする核酸と見なすことができる。選択的にハイブリダイズする核酸は、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、その核酸配列と所定の核酸の標的配列とのハイブリダイゼーションが、非標的核酸配列とのハイブリダイゼーションと比較してかなり検出しやすく(たとえば、バックグラウンドの少なくとも2倍)、非標的核酸は実質的に除外される。選択的にハイブリダイズする配列は典型的には、相互に少なくとも約80%配列同一性、少なくとも90%配列同一性または少なくとも100%配列同一性(すなわち相補的)を有する。別の実施形態によれば、本発明は、治療用阻害ペプチドのアミノ酸配列を含むペプチドをコードするmRNAと特異的にハイブリダイズする単離された核酸を提供する。
RNAの抽出方法は当該技術分野において公知であり、たとえば、この参照によって援用するJ.サムブルック(Sambrook)ら著、「分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」(コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press)、コールド・スプリング・ハーバー(Cold Spring Harbor)、ニューヨーク、1989年)、第1巻、第7章、「真核細胞由来のメッセンジャーRNAの抽出、精製および解析(Extraction, Purification, and Analysis of Messenger RNA from Eukaryotic Cells)」に記載されている。また、他の単離および抽出方法も、たとえばF.アウスベル(Ausubel)ら著、「分子生物学の最新のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、ジョン・ワイリー & サンズ(John Wiley & Sons)、2007年)に記載されている。典型的には、単離は塩化グアニジニウムまたはチオシアン酸グアニジニウムなどのカオトロピック剤の存在下で行うが、他の界面活性剤および抽出剤を代わりに使用してもよい。典型的には、mRNAは、オリゴ(dT)−セルロースまたはmRNA分子のポリアデニル化3’部分に結合能を有する他のクロマトグラフィー媒体を用いたクロマトグラフィーにより抽出された全RNAから単離する。あるいは、さほど好ましいものではないが、全RNAを使用してもよい。しかしながら、一般に哺乳動物の供給源からポリ(A)+RNAを単離するのが好ましい。
方法:サイトカインを活性化するキナーゼを阻害する方法
別の態様によれば、本発明は、病態生理として炎症性サイトカインの発現を含む炎症性障害を治療する方法であって:(a)キナーゼ阻害組成物であって、治療有効量の治療用阻害ペプチドが少なくとも1種のキナーゼ酵素を阻害し、キナーゼ阻害組成物は、治療有効量の治療用阻害ペプチドを含み、治療用阻害ペプチドは第1のドメインおよび第2のドメインを含み、第1のドメインは第2のドメインに対して近位に位置するタンパク質形質導入ドメイン(PTD)を含み、第2のドメインは第1のドメインに対して近位に位置する治療ドメインを含む、キナーゼ阻害組成物を得るステップ;(b)キナーゼ阻害組成物を必要としている被検体に投与し、それにより少なくとも1種のキナーゼ酵素を阻害するステップ;および(c)少なくとも1種の炎症性サイトカインの発現を低下させ、それにより炎症性障害を治療するステップを含む、方法を提供する。
一実施形態によれば、病態生理として炎症性サイトカインの発現を含む炎症性障害は、喘息、強直性脊椎炎、I型糖尿病、Guilliame−Barre症候群、ループス、乾癬、強皮症、シェーグレン病、慢性前立腺炎、糸球体腎炎、炎症性腸疾患、骨盤内炎症性疾患、再灌流傷害、関節リウマチ、血管炎、過敏性血管炎、内毒素性ショック、膵炎、局所性炎症性疾患、アテローム性動脈硬化症、アルツハイマー病、虚血、内膜過形成、狭窄症、再狭窄、平滑筋腫、平滑筋の痙攣、アンギナ、プリンツメタル狭心症、徐脈、高血圧、心肥大、腎不全、脳卒中、肺高血圧症、妊娠中毒症、レイノー病、溶血性尿毒症、裂肛、アカラシア、インポテンツ、片頭痛、血管障害、鬱血性心不全、気絶心筋、拡張機能障害、グリオーシス、慢性閉塞性肺疾患、骨減少症、変形性関節症、敗血症、硬変、間質性線維症、大腸炎、虫垂炎、胃炎、喉頭炎、髄膜炎、耳炎、外傷性脳障害、脊髄損傷、末梢神経障害、多発性硬化症、心血管代謝症候群、非アルコール性脂肪性肝炎、膵臓および肺の嚢胞性線維症、注射部位線維症(injection fibrosis)、心内膜心筋線維症、肺の特発性肺線維症、縦隔線維症、骨髄線維症、後腹膜線維症、腎性全身性線維症、乳癌、前立腺癌および内皮細胞機能障害からなる群から選択される少なくとも1つの障害である。
別の実施形態によれば、第1のドメインは第2のドメインの5’側に位置する。別の実施形態によれば、第2のドメインは第1のドメインの3’側に位置する。別の実施形態によれば、第1のドメインは第2のドメインに作動可能に連結されている。別の実施形態によれば、第2のドメインは第1のドメインに作動可能に連結されている。
別の実施形態によれば、キナーゼ酵素はマイトジェン活性化プロテインキナーゼ活性化プロテインキナーゼである。いくつかのそうした実施形態によれば、キナーゼ酵素はMK2である。いくつかのそうした実施形態によれば、キナーゼ酵素はMK3である。別の実施形態によれば、キナーゼ酵素はCaMKである。
別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインは、アミノ酸配列KALNRQLGVAA[配列番号13]と実質的に同一であるドメインである。
別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインは、アミノ酸配列KALARQLGVAA[配列番号23]と実質的に同一であるドメインである。
別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインのアミノ酸配列はKAANRQLGVAA[配列番号22]である。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALARQLGVAA[配列番号23]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNAQLGVAA[配列番号24]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNRALGVAA[配列番号25]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNRQAGVAA[配列番号26]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNRQLAVAA[配列番号27]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNRQLGAAA[配列番号28]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNRQLGVA[配列番号29]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KKKALNRQLGVAA[配列番号30]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KAANRQLGVAA[配列番号22]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNAQLGVAA[配列番号24]を持つドメインである、別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNRQAGVAA[配列番号26]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNRQLGAAA[配列番号28]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNRQLGVAA[配列番号13]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALARQLGVAA[配列番号23]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNRALGVAA[配列番号25]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドの治療ドメインはアミノ酸配列KALNRQLAVAA[配列番号27]を持つドメインである。
別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのタンパク質形質導入ドメインはアミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKA[配列番号31]と実質的に同一であるドメインである。
別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのタンパク質形質導入ドメインはアミノ酸配列WLRRIKAWLRRI[配列番号34]と実質的に同一であるドメインである。
別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKA[配列番号31]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列WLRRIKA[配列番号32]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列YARAAARQARA[配列番号5]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列YGRKKRRQRRR[配列番号33]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRI[配列番号34]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列FAKLAARLYR[配列番号35]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列KAFAKLAARLYR[配列番号36]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列YARAAARQARA[配列番号5]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列FAKLAARLYRKA[配列番号43]を持つドメインである。別の実施形態によれば、治療用キナーゼ阻害ペプチドのPTDは、アミノ酸配列KAFAKLAARLYRKA[配列番号44]を持つドメインである。
別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列FAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号12]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列KAFAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号15]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARQARAKALNRQLGVAA[配列番号16]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALARQLAVA[配列番号17]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALARQLGVA[配列番号18]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALNRQLAVA[配列番号19]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、アミノ酸配列YARAAARGQRAKALNRQLGVA[配列番号20]を持つペプチドである。別の実施形態によれば、治療用阻害ペプチドは、YARAAARGQRAKALNRQLGVAA[配列番号21]のアミノ酸配列を持つペプチドである。
別の実施形態によれば、キナーゼ阻害組成物は薬学的に許容されるキャリアをさらに含む。
別の実施形態によれば、キナーゼ阻害組成物は非経口投与する。別の実施形態によれば、キナーゼ阻害組成物は、少なくとも1つの単離された治療用阻害ペプチドを含む生物医学装置を介して投与し、1つまたは複数の単離された治療用阻害ペプチドはその装置上または装置内に配置されている。そうしたいくつかの実施形態では、少なくとも1種の治療用阻害ペプチドは、WLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]、FAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号12]、
KAFAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号15]、
YARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]、
YARAAARQARAKALNRQLGVAA[配列番号16]、
YARAAARGQRAKALARQLAVA[配列番号17]、
YARAAARGQRAKALARQLGVA[配列番号18]、
YARAAARGQRAKALNRQLAVA[配列番号19]、
YARAAARGQRAKALNRQLGVA[配列番号20]および
YARAAARGQRAKALNRQLGVAA[配列番号21]からなる群から選択されるアミノ酸配列を持つ少なくとも1つのペプチドである。
本発明に有用な分子遺伝学および遺伝子工学の一般的な方法について、分子クローニングについては:「実験マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)」(サムブルック(Sambrook)ら著、1989年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス(Cold Spring Harbor Laboratory Press))、「遺伝子発現の技術(Gene Expression Technology)」(メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第185巻、D.ゲデル(Goeddel)編、1991年、アカデミックプレス(Academic Press)、サンディエゴ、カリフォルニア州)、「タンパク質精製のガイド(Guide to Protein Purification)」(メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)(M.P.ドイッチャー(Deutshcer)編、1990年)アカデミックプレス・インク(Academic Press, Inc));PCRプロトコルについては:「方法および応用のガイド(A Guide to Methods and Applications)(イニス(Innis)ら著、1990年、アカデミックプレス(Academic Press)、サンディエゴ、カリフォルニア州)、動物細胞の培養については:「基本的な手法のマニュアル(A Manual of Basic Technique)第2版」(R.I.フレッシュニー(Freshney)著、1987年、リス・インク(Liss, Inc)、ニューヨーク、ニューヨーク州)、および「遺伝子導入および発現のプロトコル(Gene Transfer and Expression Protocols)」(p.109〜128、E.J.マリー(Murray)編、ザ・ヒューマナ・プレス・インク(The Humana Press, Inc)、クリフトン、ニュージャージー州)の最新版に記載されている。遺伝子操作用の試薬、クローニングベクターおよびキットは、バイオラッド(BioRad)、ストラタジーン(Stratagene)、インビトロジェン(Invitrogen)、クロンテック(ClonTech)およびシグマアルドリッチ(Sigma−Aldrich)社などの商業ベンダーから入手することができる。
範囲中の値を記載する場合、その範囲の上限と下限の間にある各値およびその記載範囲の他の任意の記載値または間にある値は、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、下限の単位の10分の1まで本発明の範囲内にあるものと理解される。そうしたより小さい範囲の上限および下限については独立に、そのより小さな範囲に含めてもよく、やはり本発明の範囲内に包含される。ただし、記載範囲において明確に除外される上下限がある場合、それに従う。上下限の一方または両方を記載の範囲に含める場合、それら上下限の一方または両方を除外する範囲もやはり本発明に含まれる。
他に記載がない限り、本明細書に使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解しているのと同じ意味を持つ。本明細書に記載するものと類似または同等の任意の方法および材料も本発明の実施または試験に使用することができるが、ここには好ましい方法および材料を記載する。本明細書に記載する刊行物は、引用した刊行物に関連する方法および/または材料を開示し記載するために参照によって本明細書に援用する。
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用する場合、単数形「a」、「and」および「the」は、文脈上明らかに他の意味に解すべき場合を除き、複数のものを含むことに留意されたい。本明細書に使用する技術用語および科学用語はすべて同じ意味を持つ。
本明細書に開示された刊行物は、本発明の出願日以前に開示されたことのみを理由に掲載する。本明細書のいかなる内容も、本発明が、先行発明によるかかる刊行物に先行する権利を有していないことを承認するものと解釈してはならない。また、掲載した刊行日は実際の刊行日と異なることがあり、別に確認する必要があるかもしれない。
以下の実施例は、本発明の製造および使用方法について当業者に完全な開示および説明を提示するものであり、本発明者らがその発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではなく、あるいは、以下の実験が実施された実験のすべてまたは唯一であることを示すことを意図するものでもない。使用した数字(たとえば量、温度など)については正確性を確保するように努力したが、ある程度の実験誤差および偏差を考慮すべきである。他に記載がない限り、部は重量部、分子量は重量平均分子量、温度は摂氏温度、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
方法
ペプチド合成および精製
Symphony(登録商標)ペプチド合成機(プロテイン・テクノロジーズ・インク(Protein Technologies, Inc))でRinkアミドまたはKnorrアミド樹脂(シンバイオサイ(Synbiosci)コーポレーション)を用いて標準的なFMOC化学反応によりペプチドを合成した。アミノ酸のカップリング試薬(シンバイオサイ・コーポレーション)は2−1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオルホスファート(hexafluorphosphate)/N−メチルマレイミド(HBTU/NMM)であった。合成後、トリフルオロ酢酸ベースのカクテルで樹脂からペプチドを切断し、エーテルで沈殿させ、遠心分離により回収した。回収したペプチドを減圧乾燥させ、ミリQ精製水で再懸濁し、22/250 C18プレップ−スケールカラム(グレース・デービッドソン(Grace Davidson))を備えた高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC:fast protein liquid chromatography)(AKTA Explorer、GEヘルスケア(Healthcare))を用いて精製した。精製には、定濃度の0.1%トリフルオロ酢酸あるいは0.1%酢酸とアセトニトリルのグラジエントを使用した。所望の分子量は、4800 Plus MALDI TOF/TOFTMアナライザー(アプライドバイオシステムズ(Applied Biosystems))を用いて飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化(matrix−assisted laser desorption ionization)(MALDI)質量分析法で確認した。
[実施例1]
MK2の治療用阻害ペプチドの必須アミノ酸の決定
MK2の治療用阻害ペプチドの必須アミノ酸を、AlaおよびD−アミノ酸の置換を利用して同定した。100μMのKALNRQLGVAA[配列番号13]はMK2活性を73%阻害した。最初に、治療ドメイン(KALNRQLGVAA)[配列番号13]の各アミノ酸を独立にAlaで置換した。次いで、ペプチドの治療ドメインの各アミノ酸を独立にそのD−アミノ酸で置換した。
蛍光ベースのキナーゼ活性アッセイ
MAPKAP−K2キット(インビトロジェン、カールズバッド、カリフォルニア州)のOmnia(登録商標)キナーゼアッセイを使用して、表1に示す各ペプチドの存在下および非存在下でMK2の反応速度を判定した。キットには、独自開発された反応緩衝液が含まれており、これに下記(最終濃度を示す)を加えた:1mMのATP、0.2mMのDTT、10μMのMAPKAP−K2 Sox修飾ペプチド基質、5ngのMK2および目的の阻害ペプチド(最終容量50μL)。ヒトMK2はインビトロジェンから購入した。反応は、キットに付属の、タンパク結合率が低い96ウェルプレートのウェル30℃で行い、蛍光測定値(励起=360nm、発光=485nm)は、SpectraMax M5分光光度計(モレキュラーデバイス(Molecular Devices))を用いて30秒ごとに20分間取得した。各反応ウェルの反応速度は、相対蛍光単位と時間との関係を示す図の傾きから判定した。各阻害ペプチドは、少なくとも4つの濃度12.5、25、50および100μmolで3回ずつ試験した。
表1の「a」は、示した結果が全ペプチドについて100μMの結果であることを示し;「b」は濃度100μMにおける未置換ペプチド(KALNRQLGVAA)[配列番号13]に対するMK2反応速度の変化率を示し;「c」は3つのサンプル間の標準偏差で表した誤差を示す。
表1.蛍光ベースのキナーゼ活性アッセイで試験したペプチド
D−アミノ酸およびAlaスキャンから、AsnはMK2阻害に重要でないことが示された(表1、図3および図4を参照)。
図3は、反応速度((蛍光単位/秒)(RFU/s))と、阻害ペプチドにアラニン置換を導入したMK2阻害ペプチドの濃度(μM)との関係を示す図を示す。AspとAlaとの置換はMK2阻害を増強した。GlyのAlaによる置換は阻害を若干増強した。Alaスキャンからはさらに、Arg、GlyおよびValがMK2阻害に重要であることが示された。2つのLeuはさほど重要でないアミノ酸であるが、これを除くと治療用阻害ペプチドの有効性が低下した。
図4は、反応速度(RFU/s)と、阻害ペプチドにDアミノ酸置換を導入したMK2阻害ペプチドの濃度(μM)との関係を示す図を示す。D−アミノ酸置換は実質的にMK2阻害を増強しなかった。大部分のD−アミノ酸置換は実質的にMK2阻害ペプチドの有効性を低下させた。
図5は、反応速度(RFU/s)と、阻害ペプチドを修飾してあるMK2阻害ペプチドの濃度(μM)との関係を示す図を示す。表1および図5から、MK2阻害は、C末端Ala(100μM)により増強されず、阻害ペプチドへの2つのLysの付加により若干増強したことが示される。しかしながら、C末端のAlaを除去するか、またはN末端に2つのLysを付加すると、より低濃度の阻害ペプチドではMK2阻害が低下する。
[実施例2]
PTDによるMK2の阻害
3つのPTD:1)WLRRIKAWLRRIKA[配列番号31];2)YGRKKRRQRRR[配列番号33];および3)YARAAARQARA[配列番号5]を使用して、PTDによるMK2の阻害が明らかになった。
図6は、反応速度(RFU/s)と、阻害ペプチドがタンパク質形質導入ドメインであるMK2阻害の濃度(μM)との関係を示す図を示す。表1および図4から、MK2阻害が最も影響を受けないのは、PTDペプチド濃度に関係になくPTDペプチドYARAAARQARA[配列番号5]であったことが示される。MK2活性は、PTDペプチドの広範な濃度にわたりPTDペプチドYGRKKRRQRRR[配列番号33]により阻害された(100μMのPTDで阻害率61%から25μMのPTDで阻害率48%)。MK2は、PTDペプチドWLRRIKAWLRRIKA[配列番号31]により強力に阻害された。このPTDペプチドは治療ドメインペプチドよりMK2の阻害率が高かった。表1はさらに、PTDペプチドWLRRIKAWLRRIKA[配列番号31]と治療ドメインKALNRQLGVAA[配列番号13]との組み合わせが相乗的阻害作用を発揮することも示す。
[実施例3]
治療ドメインの改変体はIC50に影響を与える
IC50値に影響を与えるように治療用阻害ペプチドの治療ドメインを改変した。その後改変された治療用阻害ペプチドをラジオメトリックアッセイで解析した。
IC50およびキナーゼ活性の放射分析測定
市販のラジオメトリックアッセイサービス(ミリポア(Millipore)、ビルリカ、マサチューセッツ州)を使用して、形質導入ドメインと治療ドメインとを連結したもの、以下「完全なペプチド」)を含むペプチドの特異性および力価を試験した。このアッセイでは、キナーゼが阻害ペプチドにより阻害されない場合、正電荷を持つ基質がATPの放射能標識リン酸基でリン酸化される。正電荷を持つ基質は負電荷を持つフィルター膜に引き付けられ、シンチレーションカウンターで定量され、100%活性対照と比較される。ATP濃度がKmに近いとキナーゼが同じ相対量のリン酸化活性を持ち得るため、ATPに対する見かけのKmが15μM以内のATP濃度を選択した。
表2は、スクリーンに含まれたキナーゼの緩衝液組成物を示す;(h)=ヒト、(m)=マウス、(r)=ラットおよび(y)=酵母。
各キナーゼアッセイのプロトコルは以下のとおりである:
(1)Abl(h)
最終反応容量を25μLとし、Abl(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、50μMのEAIYAAPFAKKK[配列番号48]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマット(filtermat)にスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(2)AMPK(r)
最終反応容量を25μLとし、AMPK(r)(5〜10mU)を32mMのHEPES pH7.4、0.65mMのDTT、0.012%Brij−35、200μMのAMP、200μMのAMARAASAAALARRR[配列番号49]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(3)Aurora−A(h)
最終反応容量を25μLとし、Aurora−A(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、200μMのLRRASLG[配列番号50](ケンプチド)、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P〜ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、50mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(4)BTK(h)
最終反応容量を25μLとし、BTK(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、250μMのKVEKIGEGTYGVVYK[配列番号51](Cdc2ペプチド)、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(5)CaMKI(h)
最終反応容量を25μLとし、CaMKI(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、0.5mMのCaCl2、16μg/mLのカルモジュリン、250μMのKKLNRTLSFAEPG[配列番号52]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(6)CDK1/cyclinB(h)
最終反応容量を25μLとし、CDK1/cyclinB(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、0.1mg/mLのヒストンH1、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(7)CHK1(h)
最終反応容量を25μLとし、CHK1(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、200μMのKKKVSRSGLYRSPSMPENLNRPR[配列番号53]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(8)CK1δ(h)
最終反応容量を25μLとし、CK1δ(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、200μMのKRRRALS(p)VASLPGL[配列番号54]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(9)CK2(h)
最終反応容量を25μLとし、CK2(h)(5〜10mU)を20mMのHEPES pH7.6、0.15MのNaCl、0.1mMのEDTA、5mMのDTT、0.1%トリトンX−100、165μMのRRRDDDSDDD[配列番号55]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(10)c−Kit(h)
最終反応容量を25μLとし、c−Kit(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、10mMのMnCl2、0.1mg/mLのポリ(Glu,Tyr)4:1、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をフィルターマットA(Filtermat A)にスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(11)DYRK2(h)
最終反応容量を25μLとし、DYRK2(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、2mg/mLのカゼイン、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(12)EGFR(h)
最終反応容量を25μLとし、EGFR(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、10mMのMnCl2、0.1mg/mLのポリ(Glu,Tyr)4:1、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をフィルターマットA(Filtermat A)にスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(13)EphA2(h)
最終反応容量を25μLとし、EphA2(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、0.1mg/mLのポリ(Glu、Tyr)4:1、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をフィルターマットA(Filtermat A)にスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(14)FGFR1(h)
最終反応容量を25μLとし、FGFR1(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、250μMのKKKSPGEYVNIEFG[配列番号56]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(15)Flt3(h)
最終反応容量を25μLとし、Flt3(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、50μMのEAIYAAPFAKKK[配列番号48]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(16)GSK3β(h)
最終反応容量を25μLとし、GSK3β(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、20μMのYRRAAVPPSPSLSRHSSPHQS(p)EDEEE[配列番号57](ホスホGS2ペプチド)、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、50mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(17)IGF−1R(h)
最終反応容量を25μLとし、IGF−1R(h)(5〜10mU)を50mMのトリス pH7.5、0.1mMのEGTA、0.1mMのNa3VO4、0.1%β−メルカプトエタノール、250μMのKKKSPGEYVNIEFG[配列番号56]、10mMのMnCl2、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(18)IRAK4(h)
最終反応容量を25μLとし、IRAK4(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、0.33mg/mLのミエリン塩基性タンパク質、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(19)JAK3(h)
最終反応容量を25μLとし、JAK3(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、500μMのGGEEEEYFELVKKKK[配列番号58]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(20)KDR(h)
最終反応容量を25μLとし、KDR(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、0.33mg/mLのミエリン塩基性タンパク質、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(21)Lck(h)
最終反応容量を25μLとし、Lck(h)(5〜10mU)を50mMのトリス pH7.5、0.1mMのEGTA、0.1mMのNa3VO4、250μMのKVEKIGEGTYGVVYK[配列番号51](Cdc2ペプチド)、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(22)LIMK1(h)
最終反応容量を25μLとし、LIMK1(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、0.6mg/mLのコフィリン、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(23)MAPK1(h)
最終反応容量を25μLとし、MAPK1(h)(5〜10mU)を25mMのトリス pH7.5、0.02mMのEGTA、250μMのペプチド、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(24)MEK1(h)
最終反応容量を25μLとし、MEK1(h)(1〜5mU)を50mMのトリス pH7.5、0.2mMのEGTA、0.1%β−メルカプトエタノール、0.01%Brij−35、1μMの不活性MAPK2(m)、10mMの酢酸Mgおよび非放射性ATP(必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLのこのインキュベーションミックスを使用してMAPK2(m)アッセイを開始する。
(25)Met(h)
最終反応容量を25μLとし、Met(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、250μMのKKKSPGEYVNIEFG[配列番号56]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(26)MLCK(h)
最終反応容量を25μLとし、MLCK(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、0.5mMのCaCl2、16μg/mLのカルモジュリン、250μMのKKLNRTLSFAEPG[配列番号52]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(27)PDGFRβ(h)
最終反応容量を25μLとし、PDGFRβ(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、0.1mg/mLのポリ(Glu,Tyr)4:1、10mMのMnCl2、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める、次いで10μLの反応物をフィルターマットA(Filtermat A)にスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(28)PhKγ2(h)
最終反応容量を25μLとし、PhKγ2(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、250μMのKKLNRTLSFAEPG[配列番号52]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(29)Pim−1(h)
最終反応容量を25μLとし、Pim−1(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、100μMのKKRNRTLTV[配列番号59]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(30)PKA(h)
最終反応容量を25μLとし、PKA(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、30μMのLRRASLG[配列番号50](ケンプチド)、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、50mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(31)PKBβ(h)
最終反応容量を25μLとし、PKBβ(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、30μMのGRPRTSSFAEGKK[配列番号60]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める、10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(32)PKCβI(h)
最終反応容量を25μLとし、PKCβI(h)(5〜10mU)を20mMのHEPES pH7.4、0.03%トリトンX−100、0.1mMのCaCl2、0.1mg/mLのホスファチジルセリン、10μg/mLのジアシルグリセロール、0.1mg/mLのヒストンH1、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(33)PKCδ(h)
最終反応容量を25μLとし、PKCδ(h)(5〜10mU)を20mMのHEPES pH7.4、0.03%トリトンX−100、0.1mg/mLのホスファチジルセリン、10μg/mLのジアシルグリセロール、50μMのERMRPRKRQGSVRRRV[配列番号61]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(34)PKG1α(h)
最終反応容量を25μLとし、PKG1α(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、10μMのcGMP、200μMのRRRLSFAEPG[配列番号62]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(35)PKG1β(h)
最終反応容量を25μLとし、PKG1β(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、10μMのcGMP、200μMのRRRLSFAEPG[配列番号62]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(36)Ret(h)
最終反応容量を25μLとし、Ret(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、250μMのKKKSPGEYVNIEFG[配列番号56]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(37)ROCK−I(h)
最終反応容量を25μLとし、ROCK−I(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、30μMのKEAKEKRQEQIAKRRRLSSLRASTSKSGGSQK[配列番号63]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(38)Rsk2(h)
最終反応容量を25μLとし、Rsk2(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、30μMのKKKNRTLSVA[配列番号64]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(39)SAPK2a(h)
最終反応容量を25μLとし、SAPK2a(h)(5〜10mU)を25mMのトリス pH7.5、0.02mMのEGTA、0.33mg/mLのミエリン塩基性タンパク質、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(40)SRC(1−530)(h)
最終反応容量を25μLとし、SRC(1−530)(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、500mMのGGEEEEYFELVKKKK[配列番号58]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(41)Syk(h)
最終反応容量を25μLとし、Syk(h)(5〜10mU)を50mMのトリス pH7.5、0.1mMのEGTA、0.1mMのNa3VO4、0.1%β−メルカプトエタノール、0.1mg/mLのポリ(Glu,Tyr)4:1、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33PATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をフィルターマットA(Filtermat A)にスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(42)Tie2(h)
最終反応容量を25μLとし、Tie2(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、0.5mMのMnCl2、0.1mg/mLのポリ(Glu,Tyr)4:1、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をフィルターマットA(Filtermat A)にスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(43)TrkA(h)
最終反応容量を25μLとし、TrkA(h)(5〜10mU)を8mMのMOPS pH7.0、0.2mMのEDTA、250μMのKKKSPGEYVNIEFG[配列番号56]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。次いで10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、75mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
(44)PRAK(h)
最終反応容量を25μLとし、PRAK(h)(5〜10mU)を50mMのNa β−グリセロホスファート pH7.5、0.1mMのEGTA、30μMのKKLRRTLSVA[配列番号65]、10mMの酢酸Mgおよび[γ−33P−ATP](比活性約500cpm/pmol、必要に応じた濃度)とインキュベートする。MgATPミックスを添加して反応を開始する。室温で40分間インキュベートした後、5μLの3%リン酸溶液を添加して反応を止める。10μLの反応物をP30フィルターマットにスポットし、50mMのリン酸で5分間3回洗浄し、乾燥させる前にメタノールで1回洗浄し、シンチレーションを測定する。
阻害ペプチドのIC50値は、ミリポアのIC50プロファイラーエクスプレス(Profiler Express)サービスを使用して決定した。IC50値は、10段階の半対数希釈曲線から推定した。特異性を試験したペプチドでは、約95%のMK2活性を阻害するペプチドの濃度を選択し、ミリポアキナーゼプロファイラー(MilliporeKinaseProfiler)サービスからMK2、細胞生存率またはヒト疾患に関連する一連のキナーゼに対するプロファイルを得た。どちらのアッセイでも、化合物はジメチルスルホキシド(DMSO:dimethyl sulfoxide)に加えた。キナーゼ活性の測定はすべて2回ずつ行った。
図1は、独立のPTDペプチドYARAAARGQARA[配列番号37]および独立の治療ドメインペプチドKKKALNRQLGVAA[配列番号30]と、同じPTD(YARAAARGQARA)[配列番号37]を含む治療用阻害ペプチド変異体を比較したIC50曲線およびその値を示す。治療用阻害ペプチド変異体はすべて、IC50値が治療ドメインペプチドKKKALNRQLGVAA[配列番号30]よりも低いことが明らかになった。AsnのAlaへの置換および/またはGlyのAlaへの置換を行っても治療用阻害ペプチドのIC50値の変化はわずかであった。末端Alaを除くとIC50値はわずかに上昇した。
[実施例4]
PTDは治療用阻害ペプチドの力価に影響を与える
PTDは、治療用阻害ペプチドの力価に対して様々な影響を与えることが明らかになった。各PTDをそのそれぞれの治療ドメインと組み合わせると、治療用阻害ペプチドの阻害作用との様々なレベルの相乗作用が得られた。図2は、治療ドメイン(KALNRQLGVAA)[配列番号13]は同じだが、PTDが異なる治療用阻害ペプチド変異体のIC50曲線およびその値を示す。PTDペプチドWLRRRIKAWLRRI[配列番号38]を含む治療用阻害ペプチドのIC50値は、PTDペプチドYARAAARQARA[配列番号5]を含む治療用阻害ペプチドより低かった(30倍超低い)。
[実施例5]
PTDおよびアミノ酸置換は治療用阻害ペプチドの特異性に影響を与える
治療用阻害ペプチドについて、MK2に関連するヒトキナーゼ、細胞生存率またはヒト疾患に対する作用をアッセイした。アッセイは、通常のMK2活性の2%〜8%が得られる濃度の治療用阻害ペプチドを用いて行った。誤差については2つサンプル間の標準偏差として報告し、「c」はラットAMPKであり、使用した他のすべてのキナーゼはヒトキナーゼである。
表3および表4は、PTDペプチドFAKLAARLYR[配列番号35]およびKAFAKLAARLYR[配列番号36]を含む治療用阻害ペプチドが、PTDペプチドWLRRIKAWLRRI[配列番号34]を含む治療用阻害ペプチドよりいくつかのキナーゼに対して高い特異性を持つことを示す。
表3.阻害ペプチドのMK2特異性に対するCPPの作用
表4.43種類のキナーゼに対する細胞透過性ペプチドの作用
別の治療用阻害ペプチド変異体について、いくつかのキナーゼファミリーを代表する複数のヒトキナーゼに対する活性をアッセイした。そうしたキナーゼとして:MK2;MK3;CaMKI(カルシウム/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼ);PRAK(p38調節/活性化プロテインキナーゼ、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ活性化プロテインキナーゼ5(MAPKAPK5)とも呼ばれる);SAPK2a(p38α);IRAK4(IL−1受容体(IL−1R)関連キナーゼ);MLCK(ミオシン軽鎖キナーゼ);PKBβ(プロテインキナーゼB);PCKδ(プロテインキナーゼC);およびROCK−I(Rho関連セリン/トレオニンキナーゼ)があった。IC50データに基づき0〜10%MK2活性が得られる濃度を選択した。YARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]は濃度を若干上げてもよく、キナーゼ阻害はすべて、記載した濃度で予想されるものより上回るかもしれない;誤差については2つのサンプル間の標準偏差として報告する。
表5は、治療用阻害ペプチドにおける特異性の相違を示す。すべての治療用阻害ペプチドがMK2、MK3およびCaMKIをどれも阻害した。Asnから置換されたAlaを含む治療用阻害ペプチド変異体は、MK2よりCaMKIを大きく阻害することが明らかになった。治療用阻害ペプチドは、PRAK活性に対する作用がわずかであることが明らかになった。ペプチドFAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号12]は、SAPK2aの活性を阻害した。治療用阻害ペプチドWLRRIKAWLRRIKALNRQLGVAA[配列番号14]は、特異性が最も低いことが明らかになった。
表5.10種のヒトキナーゼに対する完全な阻害ペプチド変異体5種の作用
PTDペプチドYARAAARQARA[配列番号5]を含むが、治療ドメインのAsnがAlaに置換された治療用阻害ペプチド変異体は、Asn置換を含む変異体よりキナーゼIRAK4、PKBβ、MLCK、ROCK−Iおよびp38αを大きく阻害した。
[実施例6]
インターロイキン−6および腫瘍壊死因子−αに対する治療用阻害ペプチドの活性
サイトカイン、インターロイキン−6(IL−6)および腫瘍壊死因子−α(TNF−α)に対する治療用阻害ペプチドの阻害活性を判定した。
6.1.ペプチド合成
Symphony(登録商標)ペプチド合成機(プロテイン・テクノロジーズ・インク、ツーソン、アリゾナ州)でRinkアミドまたはKnorrアミド樹脂(シンバイオサイ・コーポレーション、リバーモア、カリフォルニア州)を用いて標準的なFMOC化学反応によりペプチドを合成した。アミノ酸のカップリング試薬(シンバイオサイ・コーポレーション)はHBTU/NMM(アナスペック(Anaspec)、フリーモント、カリフォルニア州/シグマ、セントルイス、ミズーリ州)であった。合成後、トリフルオロ酢酸ベースのカクテル(95%トリフルオロ酢酸、2.5%水、1.25%トリイソプロピルシランおよび1.25%エタンジオール)で樹脂からペプチドを切断し、エーテルで沈殿させ、遠心分離により回収した。回収したペプチドを減圧乾燥させ、ミリQ精製水で再懸濁し、22/250 C18プレップ−スケールカラム(グレース・デービッドソン、コロンビア、メリーランド州)を備えたFPLC(AKTA Explorer、GEヘルスケア、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を用いて精製した。精製には酢酸を使用した。所望の分子量は、4800 Plus MALDI TOF/TOF(商標)Analyzer(アプライドバイオシステムズ、フォスターシティー、カリフォルニア州)を用いて飛行時間型MALDI質量分析法で確認した。
6.2.中皮細胞の培養および処理
胸膜中皮細胞の細胞株(CRL−9444)をアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)から購入した。細胞は、Earle’s BSSおよび0.75mMのL−グルタミン(メディアテック・インク(Mediatech, Inc)、マナッサ、ヴァージニア州)、1.25g/Lの重炭酸ナトリウム(シグマ、セントルイス、ミズーリ州)、3.3nMの上皮増殖因子(MBLインターナショナル(International)、ウォバーン、マサチューセッツ州)、40nMのヒドロコルチゾン(シグマ)、870nMのインスリン(MBLインターナショナル)、20mMのHEPES(シグマ)、微量元素混合物B(メディアテック・インク)、10%ウシ胎仔血清(FBS)(ハイクローン(Hyclone)、ウォルサム、マサチューセッツ州)および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(メディアテック・インク)を含むMedium199に播種して維持した。細胞を治療用阻害ペプチドで処理する前に、細胞を、Earle’s BSS、L−グルタミン、重炭酸ナトリウム、HEPES、微量元素混合物Bおよびペニシリン/ストレプトマイシン(濃度および供給業者は上記のとおり)を含むMedium 199のみからなる無血清培地で24時間馴化させ、その後サイトカインおよび/または阻害ペプチドで処理した。さらにこの培地組成には、阻害ペプチドもしくは市販されているプロテインキナーゼ阻害Rotterlin(IC50=5μM)(トクリス・バイオサイエンス(Tocris Bioscience)、エリスビル、ミズーリ州))と共に、あるいは、それなしでサイトカインを常に同時に加えた。すべての細胞培養実験では、細胞透過性MK2阻害ペプチド配列YARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]を使用した。
6.3.インターロイキン−6の解析
一般にインターロイキン(IL)−1、IL−6および腫瘍壊死因子−α(TNF−α)などのプロ炎症性サイトカインは腹部手術後に腹腔に放出されると考えられる。これらのサイトカインは癒着形成/再形成に関与し得る。研究から、IL−1およびTNF−αはどちらも創傷治癒の初期相において重要なプロ炎症性サイトカインであり、腹膜水の活性化マクロファージにより産生されるのに対し、IL−6は炎症プロセスにおいて活性化マクロファージにより産生され、その産生はIL−1により増加されることが報告されている。さらに、研究からは、IL−1およびTNF−αがどちらもIL−6の強力な誘導因子であることも報告されている。これらのサイトカインは、線維素溶解経路と高度に相互作用し、細胞外マトリックスのリモデリングに直接的または間接的に関与し得るため重要であると考えられる。研究によれば、IL−1βおよびTNF−αがどちらも中皮細胞内のIL−6およびIL−8の発現レベルを増加させることが報告されている。加えて、IL−1βは、マクロファージにおけるTNF−α、IL−6およびIL−8の発現レベルを増強させることも明らかになっている。このため、中皮細胞またはマクロファージにおけるIL−1βまたはTNF−αにより誘導されるIL−6の発現レベルの定量は、治療用阻害ペプチドの活性を判定するモデルアッセイ系として使用される。
IL−6ELISAキット(ペプロテック・インク(PeproTech, Inc)、ロッキーヒル、ニュージャージー州)を用いてIL−6の解析を行った。簡単に説明すると、プレートを下記のとおり作製した。捕捉抗体(抗原親和性精製を行ったヤギ抗hIL−6+2.5mgのD−マンニトール)をリン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)で1μg/mlの濃度になるように希釈し、プレートの各ウェルに加えた。プレートを密閉し、室温で一晩インキュベートした。次いでウェルを吸引して液体を除去し、洗浄用緩衝液(1ウェル当たり300μlの0.05%Tween−20含有PBS)で4回洗浄した。最後の洗浄後、プレートを反転させて残留緩衝液を除去し、ペーパータオルに吸い込ませた。ブロック緩衝液(1ウェル当たり300μlの1%BSA含有PBS)を加え、プレートを少なくとも1時間室温でインキュベートし、吸引し、4回洗浄した。
希釈液で標準物質(2ng/ml〜0)およびサンプルを調製し、直ちに各ウェルに3回ずつ加え、300rpmに調整したプレートシェーカーにて室温で少なくとも2時間インキュベートした。次いでウェルを吸引し、4回洗浄し、検出抗体(抗原親和性精製を行ったビオチン化ヤギ抗hIL−6+2.5mgのD−マンニトール;0.25μg/ml)(100μl)を各ウェルに加え、プレートを、300rpmに調整したプレートシェーカーにて室温で2時間インキュベートした。インキュベーション後、プレートを吸引し、4回洗浄し、アビジン西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP:horse radish peroxidase)コンジュゲート((5.5μl:10994.5μl希釈)(100μl)を各ウェルに加え、300rpmに調整したプレートシェーカーにて30分間室温でインキュベートし、吸引し、4回洗浄した。次いで各ウェルにABTS Liquid Substrate Solution(シグマ)(100μl)を加えた。300rpmに調整したプレートシェーカーにてプレートを室温でインキュベートし発色させた。吸光度は、Spectramax M5マイクロプレートリーダー(モレキュラーデバイス)を用いて405nmおよび650nm(650nmは405nmの各測定値から差し引いて波長を補正した)で5分ごとに50分間測定した。Hoeschst 33342核染色剤(インビトロジェン)を使用してDNA量に基づき細胞数を定量した。すべての結果は3回ずつ行い、細胞数に対して正規化した。
結果は、平均値±標準偏差で示す。目的のパラメーターの統計学的に有意な増加または減少の判定には、1元配置ANOVA法を使用した。有意差は、Tukey HSDのポストホック比較を用いて解析した。サイトカイン解析ではα=0.05の有意水準を使用した。
6.4.IL−1βに誘導されるIL−6発現の調節
中皮細胞を、(IL−6の発現を誘導するため)IL−1β(1ng/ml)および/または様々な濃度の治療用阻害ペプチドとインキュベートした。市販されているプロテインキナーゼ阻害RottlerinをMK2およびPRAKの両方の阻害として導入した。
図7は、IL−6の平均濃度(pg/ml/105細胞)と時間との関係を示す図を示す。これらの結果から、治療用阻害ペプチドYARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]が中皮細胞のIL−1β誘導性のIL−6発現を阻害したことが示される。これらの結果からはさらに、最も高濃度の治療用阻害ペプチドYARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11](3mM)およびRottlerin(1μM)がIL−1β誘導性のIL−6発現を著しく低下させたがことが示される。この結果からはさらに、治療用阻害ペプチドYARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11](3mM)によるIL−1β誘導性のIL−6発現の著しい抑制はRottlerinにより誘発されるもの(12時間)より早く起こる(6時間)ことも示される。
6.5.TNF−αに誘導されるIL−6発現の調節
中皮細胞を、(IL−6の発現を誘導するため)TNF−αおよび/または様々な濃度の治療用阻害ペプチド(YARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]またはFAKLAARLYRKALARQLGVAA[配列番号12])とインキュベートした。市販されているプロテインキナーゼ阻害RottlerinをMK2の阻害剤として使用した。
図8は、IL−6の平均濃度(pg/ml/105細胞)と時間との関係を示す図を示す。これらの結果から、どちらの治療用阻害ペプチドも、TNF−α(1ng/ml)により誘導されるIL−6の発現レベルを低下させることが示され、さらに治療用阻害ペプチドの作用が用量依存性であり得ることが示唆される。この結果からはさらに、プロテインキナーゼ阻害RottlerinがTNF−α(1ng/ml)により誘導されるIL−6の発現レベルの抑制に無効であったことが示される。
図9は、IL−6の平均濃度(pg/ml/105細胞)と時間との関係を示す図を示す。これらの結果から、どちらの治療用阻害ペプチドも、TNF−α(10ng/ml)により誘導されるIL−6の発現レベルを低下させることが示され、さらに治療用阻害ペプチドの作用が用量依存性であり得ることが示唆される。この結果からはさらに、プロテインキナーゼ阻害剤Rottlerinが、TNF−α(10ng/ml)により誘導されるIL−6の発現レベルのわずかな低下に初期(6〜12時間)に作用したことも示される。
[実施例7]
IL−1β産生に対するMK2iの作用
神経細胞を用いて、アミノ酸配列YARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]を持つ治療用阻害タンパク質のIL−1β産生に対する阻害作用を試験した。
皮質アストロサイトの初代培養を樹立した。ラット初代アストロサイトを胎生18日齢のSprague Dawleyラット皮質から単離した。細胞は、ブレインビッツ(Brain Bits)の推奨プロトコルに従って単離し、100mmのポリ−リジン(PDL)のペトリ皿でコンフルエントになるまで増殖させた。簡単に説明すると、大きな皮質片の大部分が分散するまでラット皮質を1mlのピペットエイドで破砕した。比較的大きな組織フラグメントを沈降させてから、上清を15mlのコニカルチューブで集めて、1100rpmで1分間の遠心分離によりペレット状にした。得られた上清を捨て、ペレットを神経細胞用基礎培地(10%ウマ血清、3mMのグルタミン)に再懸濁した。次いでアストロサイトをペトリ皿に播種し、コンフルエント(80〜95%)になるまで増殖させ、その後継代した。アストロサイトは1:4の割合で継代し、80〜95%コンフルエントになるまで増殖させ、次いでPBSで2回リンスした。様々な処理の種類を、対応する各ペトリ皿対して18〜22時間行った。各ペトリ皿に、合計1mlの培地(10%ウマ血清、3mMのグルタミンを含む神経細胞用基礎培地)を入れ、処理を行った。陽性対照は細胞をTNF−α(5ng/mlあるいは10ng/ml)で処理したもので構成され;陰性対照として、未処理の細胞を細胞培地に曝露した。処理群の構成は、(i)1mMのMK2i(治療用阻害ペプチドYARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11])とTNF−α(5ng/ml);(ii)3mMのMK2iとTNF−α(5ng/ml);(iii)1mMのMK2iとTNF−α(10ng/mlのTNF−α);および(iv)3mMのMK2iとTNF−α(10ng/ml)であった。この培地組成には、治療用阻害ペプチドと共に、あるいは、治療用阻害ペプチドなしでサイトカインを常に同時に加えた。
18〜22時間後、細胞をPBSでリンスし、溶解緩衝液(8Mの尿素、4%CHAPS、10mMのDTT)を用いて小型の遠心管に削り取り、Disruptor Genie(商標)(サイエンティフィック・インダストリーズ(Scientific Industries)、ボヘミア、ニューヨーク州)で2時間破壊した。細胞を17krpmで15分間の遠心分離によりペレット状にし、上清(細胞ライセート)を集めて、総タンパク質濃度を定量した(Pierce BCA Protein Assayキット、サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)、ロックフォード、イリノイ州)。
図10は、各処置群(i)1mMのMK2i(治療用阻害ペプチドYARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11])とTNF−α(5ng/ml);(ii)3mMのMK2iとTNF−α(5ng/ml);(iii)1mMのMK2iとTNF−α(10ng/ml);および(iv)3mMのMK2iとTNF−α(10ng/ml)におけるIL−1βの平均濃度(pg/ml)のグラフを示す。これらの結果から、TNF−αが予想どおりIL−1β濃度を上昇させ、治療用阻害ペプチドがラット皮質アストロサイトの初代培養におけるIL−1βの発現レベルを用量依存性に阻害できたことが示される。この結果から、治療用阻害ペプチドが誘導性炎症性サイトカインの発現によるグリア性瘢痕化を活発に抑制することが示唆される。
[実施例8]
MAPKAPKキナーゼ2阻害(MK2i)のIL−6産生に対する作用
ニューロン、アストロサイトおよびミクログリアからなる三重培養を用いて、アミノ酸配列YARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]を持つ治療用阻害タンパク質のIL−6産生に対する阻害作用を試験した。細胞培地は下記のとおり調製した。簡単に説明すると、ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’ Modified Eagle Medium)(DMEM)(6.68g)および重炭酸ナトリウム(1.85g)を蒸留脱イオン(distilled de−ionized)(DDi)水(500ml)に加え;この懸濁液を濾過滅菌し、次いでペニシリン/ストレプトマイシン(500μl)、ウシ胎仔血清(fetal bovine serum)(FBS)(50ml)およびヒト血清(human serum)(HS)(50ml)を補充した。調製培地(1ml)を組織に加え、組織を無菌ピペットチップにより30秒にわたり10回ピペッティングし、破砕した。この細胞懸濁液をナイロンフィルターで濾過し、集めて、濾過した懸濁液を1100rpmで1分間遠心し、ペレットを再懸濁した。ニューロン、アストロサイトおよびミクログリアへの分化を支持するようにE18細胞を蒔いた(1×106細胞/ml)。培養から1週間後、3つの細胞型をすべて確認するために、一部の細胞を固定し、β−3チューブリン(ニューロンのバイオマーカー)、グリア線維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein)(GFAP、アストロサイトのバイオマーカー)およびイオン化カルシウム結合アダプター分子1(ionized calcium binding adaptor molecule 1)(Iba1、ミクログリアのバイオマーカー)で標識した。使用した一次抗体は、ウサギ抗Iba1(1:200;和光純薬(Wako Chemicals)米国インク、リッチモンド、ヴァージニア州)、ニワトリ抗GFAP(1:200;ミリポア・コーポレーション、ビルリカ、マサチューセッツ州)およびAlexa Fluor 488にコンジュゲートしたマウス抗β−3−チューブリン(1:200;ミリポア・コーポレーション、ビルリカ、マサチューセッツ州)であった。二次抗体は、Alexa Fluor 633ヤギ抗ウサギ(1:200;インビトロジェン、カールズバッド、カリフォルニア州)およびAlexa Fluor 555ヤギ抗ニワトリ(1:200;インビトロジェン、カールズバッド、カリフォルニア州)であった。核はHoescht33342(インビトロジェン、カールズバッド、カリフォルニア州)で標識した。陽性対照は細胞をTNF−α(5ng/mlまたは10ng/ml)で処理したもので構成され;陰性対照として、未処理の細胞を細胞培地に曝露した。処理群の構成は、(i)1mMのMK2i(治療用阻害ペプチドYARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11])とTNF−α(5ng/ml);(ii)3mMのMK2iとTNF−α(5ng/ml);(iii)1mMのMK2iとTNF−α(10ng/ml TNF−α);および(iv)3mMのMK2iとTNF−α(10ng/ml)であった。この培地組成には、治療用阻害ペプチドと共に、あるいは、治療用阻害ペプチドなしでサイトカインを常に同時に加えた。
図11は、各処理群(i)陰性対照(培地のみ);(ii)TNF−α(5ng/ml);(iii)TNF−α(10ng/ml);(iv)TNF−α(5ng/l)およびMK2i(1mMの治療用阻害ペプチドYARAAARQARAKALARQLGVAA[配列番号11]);(v)TNF−α(10ng/ml)およびMK2i(1mM);(vi)TNF−α(5ng/ml)およびMK2i(3mM);ならびに(vii)TNF−α(10ng/ml)およびMK2i(3mM)におけるIL−6の平均濃度(pg/ml)のグラフを示す。これらの結果から、TNF−α(5ng/ml)が細胞培養におけるIL−6の発現レベルを上昇させ、治療用阻害ペプチドで処理した細胞培養のすべてでIL−6の発現レベルが低下したことが示される。
本発明についてその具体的な実施形態を参照しながら記載してきたが、当業者であれば、本発明の真の精神および範囲を逸脱することなく様々な変更が可能であり、それを等価物に置き換えてもよいことを理解すべきである。さらに、個々の状況、材料、組成物、プロセス、1つまたは複数のプロセスステップを本発明の目的の精神および範囲に適合させるため、多くの修正を行ってもよい。そうした修正はすべて本明細書に添付の特許請求の範囲の範囲内であることを意図している。