JP6108005B2 - 液体噴射ヘッド、液体噴射装置、圧電素子、および液体噴射ヘッドの製造方法 - Google Patents

液体噴射ヘッド、液体噴射装置、圧電素子、および液体噴射ヘッドの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、液体噴射ヘッド、液体噴射装置、圧電素子に関する。
結晶を歪ませると帯電し、また電界中に置くと歪む特徴を持つ圧電素子は、インクジェットプリンターといった液体噴射装置、アクチュエーター、センサー、等に広く使用されている。
また、圧電素子の構成としては、下電極を圧電体層毎の個別電極とし、上電極を複数の個別電極に対して共通の共通電極とするものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
特開2010−42683号公報
上電極を共通電極とする圧電素子において、上電極で覆われない圧電体層の領域においてクラックや焼損が生じることがあった。その原因としては、上電極又は配線をパターニングする際に、用いられる薬品等により圧電体層の組成を不安定にしていると考えられる。
以上を鑑み、本発明の目的の一つは、少なくとも圧電素子、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置の安定性を向上させることにある。
上記目的の少なくとも1つを達成するために、本発明では、複数の個別電極と、前記個別電極上に形成された圧電体層と、前記圧電体層上に形成され、前記個別電極に対して共通の電極となる共通電極と、前記個別電極上において前記共通電極に覆われていない前記圧電体層の領域を覆う保護膜と、を有する。
上記のように構成された発明では、圧電素子は、上電極を共通電極とする構成である。そして、個別電極の上で、且つ、共通電極に覆われていない圧電体層の領域を保護膜が覆っている。そのため、個別電極の上であって、且つ、共通電極に覆われていない領域におけるクラックや焼損を低減することが可能となる。
(a)(b)は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドに含まれる圧電素子3の要部を示す一部上面図、及び垂直断面図である。 液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド1を分解して示す分解斜視図である。 (a)〜(c)は記録ヘッド1の製造工程を説明するための断面図である。 (a)〜(c)は記録ヘッド1の製造工程を説明するための断面図である。 上述した記録ヘッド1を有する記録装置(液体噴射装置)200の外観を示している。 (a)〜(c)は記録ヘッド1の製造工程を説明するための断面図である。 (a)〜(c)は記録ヘッド1の製造工程を説明するための断面図である。
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態に記載する構成は一例にすぎずこれに限定されない。
(1)液体吐出ヘッド、及び圧電素子の構成:
図1(a)(b)は、本発明の実施形態に係る液体噴射ヘッドに含まれる圧電素子3の要部を示す一部上面図、及び垂直断面図である。また、図2は、液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッド1を分解して示す分解斜視図である。そして、図3(a)〜(c)は記録ヘッド1の製造工程を説明するための断面図である。さらに、図4(a)〜(c)は記録ヘッド1の製造工程を説明するための断面図である。
図2に例示する記録ヘッド(液体噴射ヘッド)1は、圧電体層30、及び電極(20、40)を有する圧電素子3と、ノズル開口71に連通し圧電素子3により圧力変化が生じる圧力発生室12とを備えている。より具体的には、圧電素子3は、弾性膜を備える振動板16上に下電極20、圧電体層30及び上電極40の順に積層して構成されている。
そして、振動板16の圧電素子3が積層されない側には、流路形成基板10が固着されている。この流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室の長手方向外側の領域には連通路13が形成され、連通路13と圧力発生室12とが、圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。
そして、流路形成基板10の振動板16と固着されない側には、ノズルプレート70が固着されている。このノズルプレート70にはインクが吐出する流路の一部と成るノズル開口71が複数穿設されている。さらに、振動板16の圧電素子3が固着される側には、コンプライアンス基板60が固着された保護基板50が固着されている。
次に、図1を参照して、圧電素子3の構成を説明する。
図1(a)に示すように、圧電素子3は、上電極40を共通電極とする構成であり、振動板16上に積層されて形成されている。
即ち、図1(b)に示すように、振動板16の直上には、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とチタン(Ti)の少なくとも一つを含有する層を有する下電極20が積層されている。下電極20は、個別電極であり、本実施形態では4つの圧電素子毎に形成されている。無論、圧電素子を4つとすることは一例であり、これに限定されない。
そして、下電極20の直上には、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)を少なくとも含む圧電体層30が積層されている。この圧電体層30は、ペロブスカイト型酸化物により構成され、Aサイト元素にPbを含み、Bサイト元素にZr及びTiをそれぞれ含むチタン酸ジルコン酸鉛により構成されている。このようなペロブスカイト型酸化物には、下記一般式で表される組成のペロブスカイト型酸化物が含まれる。
Pb(Zr、Ti)Ox … (1)
(Pb、MA)(Zr、Ti)Ox … (2)
Pb(Zr、Ti、MB)Ox …(3)
(Pb、MA)(Zr、Ti、MB)Ox … (4)
ここで、MAはPbを除く1種類以上の金属元素であり、MBはZr、Ti及びPbを除く1種類以上の金属元素である。xは3が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲で3からずれてもよい。Aサイト元素とBサイト元素との比は1:1が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲で1:1からずれてもよい。
MB元素には、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、等が含まれる。
なお、圧電体層30をチタン酸ジルコン酸鉛により形成することは一例にすぎず、これ以外の鉛系圧電材料や、非鉛系の圧電材料である組成が(Bi、Ba)(Zr、Ti)Oxで示される圧電材料により形成するものであってもよい。
そして、圧電体層30の直上には、上電極40が積層されている。上電極40は、全ての圧電素子3に共通となる共通電極であり、各圧電体層30に連続して形成されている。上電極40を構成する金属は、イリジウム(Ir)、金(Au)、白金(Pt)等を用いることができる。無論これ以外にも、上記した金属に異なる金属を含有するものであってもよい。
図1(b)に示すように、下電極20の長手方向端部は、圧力発生室12の長手方向端部より外側まで延設している。また、各圧力発生室12に対応するパターニングされた上電極40の長手方向端部は、下電極20が形成される領域の長手方向端部より手前に位置する。また、上電極40の長手方向端部は、圧力発生室12の長手方向端部より外側まで延設している。即ち、圧電体層30においては、下電極20上に位置するが上電極40に覆われない領域と、下電極20上に位置し、且つ上電極40に覆われる領域とが存在することとなる。無論、下電極20と上電極40との長手方向端部の位置関係は一例にすぎず、例えば、上電極40の長手方向端部が、圧力発生室12の長手方向端部より手前に形成されていてもよい。
また、圧電素子3の内、電界の作用により変形する領域を能動部3a、電界の作用によっては変形しない領域を非能動部3bと規定する。図1(b)に示す圧電素子3では、能動部3aは、圧電体層30が配置される領域の内、下電極20が配置される領域であって、且つ上電極40が配置される領域を能動部3aとしている。また、非能動部3bは、圧電体層30が配置される領域の内、下電極20が配置される領域であるが、上電極40に覆われない領域を非能動部3bとしている。なお、能動部3aと非能動部3bとの境界は、発生する電界の位置によっても影響を受けるため、必ずしも、上記した下電極20及び上電極40の位置によって規定されるものではない。
そして、圧電体層30の内、上電極40が形成される側の能動部3aと非能動部3bとの境を含む領域には、この領域を覆うように保護膜80が形成されている。図1(b)では、圧電体層30における、下電極20上であって、上電極40で覆われない領域を覆うように保護膜80が形成されている。
ここで、圧電体層30における能動部3aと非能動部3bとの境界付近においてクラックやこのクラックに起因する焼損の発生が顕著となることが分かっている。この原因の1つとして、上電極40を共通電極とする圧電素子3では、上電極膜を圧電体層30の上に製膜した後、パターニングして上電極40を形成したり、配線をパターニングして形成するが、このパターニングの際に圧電体層30に薬品等が付着し、圧電体層30の組成を不安定化させているということが分かっている。また、別の原因の1つとして、圧電体層30における能動部3aと非能動部3bの境界付近において、圧電体層30内のひずみの発生状態が不均一となることに起因する応力集中がある。そのため、能動部3aと非能動部3bとの境界を覆うよう保護膜80を形成することで、この領域におけるクラック及び焼損の発生を低減する構成としてある。
また、保護膜80の長手方向における上電極40側の端部は、圧力発生室12上より手前に形成されることが好ましい。即ち、圧力発生室12が形成される領域の上方には、保護膜80が形成されないことが好ましい。保護膜80を圧力発生室12が形成される領域にかからないようにすることで、圧電素子3の駆動を阻害することを防止するためである。
保護膜80の材質としては、ポリイミド(芳香族ポリイミド)等の有機材料を用いることができる。保護膜80をポリイミドで形成する場合は、膜厚を1.7μm以上とすることが好ましい。また、これ以外にも、保護膜80を、エポキシ系の接着剤やシリコン系の接着剤により形成するものであってもよい。また、保護膜80を接着剤で形成する場合は、膜厚を1.6μm以上とすることが好ましい。
保護膜80を有機保護膜とすれば、保護膜80を形成し易くすることができる。
(2)圧電素子及び液体噴射ヘッドの製造方法
図2〜図4を参照して、上述した圧電素子3及びこの圧電素子3を備える記録ヘッド(液体噴射ヘッド)1の製造方法を説明する。なお、ここでは、保護膜80としてポリイミド(有機保護膜)を使用した場合を例に説明を行う。
記録ヘッド1の製造方法として、まずは、シリコン単結晶基板等から流路形成基板10を形成する。そして、例えば、膜厚が約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコン基板15を約1100℃の拡散路で熱酸化等することによって二酸化シリコン(SiO)から成る弾性膜(振動板16)を一体的に形成する。弾性膜の厚みは、弾性を有する限り限定されないが、例えば0.5〜2μm程度とすることができる。
次いで、図3(a)に示すように、スパッタ法等により振動板16上に下電極20を構成するための下電極膜を形成する。下電極20の構成金属は、Pt、Au、Ir、Ti、等の1種類以上の金属を用いることができる。下電極の厚みは特に限定されないが、例えば50〜500nm程度とすることができる。なお、密着層又は拡散防止層として、TiAlN(窒化チタンアルミ)膜、Ir膜、IrO(酸化イリジュウム)膜、ZrO(酸化ジルコニウム)膜等の層を振動板16上に形成したうえで、下電極20を形成してもよい。
次いで、少なくとも、鉛塩、ジルコニウム塩、及びチタン塩、を含む前駆体溶液を下電極20の表面に塗布する。前駆体溶液中の金属モル濃度比は、形成されるペロブスカイト型酸化物の組成に応じて決めることができる。上述した式(1)〜(4)におけるAサイト元素及びBサイト元素のモル比は1:1が標準であるが、ペロブスカイト酸化物が形成される範囲内で1:1からずれてもよい。
そして、図3(a)に示すように塗布した前駆体溶液を結晶化させて圧電体層30を形成する。一例として、好ましくは、前駆体溶液を、140〜190℃程度で加熱して乾燥させ、その後、例えば、300℃〜400℃程度で加熱して脱脂し、例えば、550℃〜850℃程度で加熱して結晶化させる。
なお、圧電体層30を厚くするため、塗布工程と乾燥工程と脱脂工程と焼成工程の組合せを複数回行ってもよい。焼成工程を減らすために、塗布工程と乾燥工程と脱脂工程の組合せを複数回行った後に焼成工程を行ってもよい。さらに、これらの工程の組合せを複数回行ってもよい。図3(b)に示す例では、下電極膜20上に圧電体層30を形成した後に下電極20及び圧電体層30を各圧力発生室12に対向する領域にパターニングしている。
なお、上記した乾燥及び脱脂を行うための加熱装置には、ホットプレート、赤外線ランプの照射により加熱する赤外線ランプアニール装置等を用いることができる。また、上記焼成を行うための加熱装置には、赤外線ランプアニール装置等を用いることができる。好ましくは、RTA(Rapid Thermal Annealing)法等を用いて昇温レートを比較的早くするとよい。
こうして形成された圧電体層30の上に、図3(b)に示すように、スパッタ法等によって上電極40を形成する。上電極を構成する金属には、Ir、Au、Pt等の1種類以上の金属を用いることができる。また、上電極の厚みは、特に限定されないが、例えば、10〜200nm程度とすることができる。なお、図3(c)に示す例では、上電極膜を形成した後に、上電極膜を各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子3を形成している。
続いて、リード電極45を形成する。例えば、図3(c)に示すように、流路形成基板10の前面に亘って金層を形成した後、レジスト等からなるマスクパターンを介して圧電素子3毎にパターニングすることにより、リード電極45が設けられる(図4(a))。図2に示す各下電極20には、インク供給路14側の端部付近から振動板16に延びたリード電極45が接続されている。
なお、下電極20や上電極40やリード電極45は、DC(直流)マグネトロンスパッタリング法といったスパッタ法等によって形成することができる。各層の厚みは、スパッタ装置の印加電圧やスパッタ処理時間を変えることにより調整することができる。
そして、図4(a)に示すように、圧電体層30の能動部と非能動部との境を覆うように保護膜80を形成する。保護膜80の形成方法としては、例えば、まず、上電極40を含む圧電体層30上にポリイミドの膜を製膜する。次に、例えば、レジスト等からなるマスクパターンを介してポリイミドの層をパターニングし、ドライエッチングして保護膜80を形成する。また、保護膜80として、感光性ポリイミドを用いれば、成膜後、マスクパターンを用いて、露光、現像してパターニングすればよい。
以上により、圧電体層30及び電極(20、40)を有する圧電素子3が形成され、この圧電素子3及び振動板16を備えた圧電アクチュエーターが形成される。
次に、図4(b)に示すように、圧電素子保持部52等を予め形成した保護基板50を流路形成基板10上に例えば接着剤によって接合する。保護基板50には、例えば、シリコン単結晶基板、ガラス、セラミックス材料等を用いることができる。保護基板50の厚みは、特に限定されないが、例えば400μm程度とすることができる。保護基板50の厚み方向に貫通したリザーバ部51は、連通路13とともに、共通のインク室となるリザーバ9を構成する。圧電素子3に対向する領域に設けられた圧電素子保持部52は、圧電素子3の運動を阻害しない程度の空間を有する。保護基板50の貫通孔53内には、各圧電素子3から引き出されたリード電極45の端部付近が露出する。
次いで、シリコン基板15をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることによりシリコン基板15を所定の厚み(例えば70μm程度)にする。次いで、図4(b)に示すように、シリコン基板15上にマスク膜17を新たに形成し、所定形状にパターニングする。マスク膜17には、窒化シリコン(SiN)等を用いることができる。次いで、KOH等のアルカリ溶液を用いてシリコン基板15を異方性エッチング(ウェットエッチング)する。これにより、複数の隔壁11(図2参照)によって区画された圧力発生室12と細幅のインク供給路14を備えた複数の液体流路と、各インク供給路14に繋がる共通の液体流路である連通路13とが形成される。液体流路(12,14)は、圧力発生室12の短手方向である幅方向D1へ並べられている。
なお、圧力発生室12は、圧電素子3の形成前に形成されてもよい。
次いで、図4(c)に示すように、シリコン基板15の保護基板50とは反対側の面にノズルプレート70を接合する。ノズルプレート70は、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼、等を用いることができ、流路形成基板10の開口面側に固着される。この固着には、接着剤、熱溶着フィルム、等を用いることができる。ノズルプレート70には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口71が穿設されている。従って、圧力発生室12は、液体を吐出するノズル開口71に連通している。
次いで、封止膜61及び固定板62を有するコンプライアンス基板60を保護基板50上に接合する。封止膜61は、例えば厚み6μm程度のポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルムといった剛性が低く可撓性を有する材料等が用いられ、リザーバ部51の一方の面を封止する。固定板62は、例えば厚み30μm程度のステンレス鋼(SUS)といった金属等の硬質の材料が用いられ、リザーバ9に対向する領域が開口部63とされている。
また、保護基板50上には、並設された圧電素子3を駆動するための駆動回路65が固定される。駆動回路65には、回路基板、半導体集積回路(IC)、等を用いることができる。駆動回路65とリード電極45とは、接続配線66を介して電気的に接続される。接続配線66には、ボンディングワイヤといった導電性ワイヤ等を用いることができる。
以上により、記録ヘッド1が製造される。
本記録ヘッド1は、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバ9からノズル開口71に至るまで内部をインクで満たす。駆動回路65からの記録信号に従い、圧力発生室12毎に下電極20と上電極40との間に電圧を印加すると、圧電体層30、下電極20及び振動板16の変形によりノズル開口71からインク滴が吐出する。
(3)液体噴射装置:
図5は、上述した記録ヘッド1を有する記録装置(液体噴射装置)200の外観を示している。記録ヘッド1を記録ヘッドユニット211,212に組み込むと、記録装置200を製造することができる。図5に示す記録装置200は、記録ヘッドユニット211,212のそれぞれに、記録ヘッド1が設けられ、外部インク供給手段であるインクカートリッジ221,222が着脱可能に設けられている。記録ヘッドユニット211,212を搭載したキャリッジ203は、装置本体204に取り付けられたキャリッジ軸205に沿って往復移動可能に設けられている。駆動モーター206の駆動力が図示しない複数の歯車及びタイミングベルト207を介してキャリッジ203に伝達されると、キャリッジ203がキャリッジ軸205に沿って移動する。図示しない給紙ローラー等により給紙される記録シート290は、プラテン208上に搬送され、インクカートリッジ221,222から供給され記録ヘッド1から吐出するインクにより印刷がなされる。
(4)実施例:
以下、実施例を示すが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
ここで、下記実施例1−3のインクジェット式記録ヘッドを作製し、圧電素子へDC通電試験を行った。
[実施例1]
圧電素子における能動部端部(能動部と非能動部の境界付近)を覆うように、膜厚0.7μmのポリイミドから成る保護膜を有するインクジェット式記録ヘッドを実施例1とした。この、ポリイミドのヤング率Eは3.0GPaである。
[実施例2]
膜厚2.6μmのポリイミドから成る保護膜以外は、実施例1と同様のインクジェット式記録ヘッドを実施例2とした。
[実施例3]
膜厚3.0μmの接着剤から成る保護膜以外は、実施例1と同様のインクジェット式記録ヘッドを実施例3とした。また、接着剤のヤング率Eは3.0Gpaである。
表1は、この耐電圧評価を行った場合の実施例1〜4の各条件(膜厚t、ヤング率E、ヤング率と膜厚との積:E×t)と、能動部の端部における焼損の状態を示している。即ち、「○」の場合は、焼損が発生しなかったことを示し、「△」の場合は保護膜を形成しない場合に比べて、焼損が低減していることを示す。
Figure 0006108005
表1に示すように、ヤング率Eと膜厚tの積が7800(Pa・m)以上となる実施例2、3において、能動部3aの端部での焼損が観察されなかった。また、ヤング率Eと膜厚tの積が2100(Pa・m)となる実施例1において、能動部3aの端部での焼損が低減されていることが観察された。
以上により、能動部3aと非能動部3bとの境界を覆うよう保護膜80を形成することで、焼損が抑制されることが分かった。また、ヤング率Eと膜厚tとの積が2000(Pa・m)以上であれば焼損を低減でき、より好ましくは、ヤング率Eと膜厚tの積が7800(Pa・m)以上であれば焼損を発生させないことが分かった。
(5)第2の実施形態:
以下、第2の実施形態として、保護膜80を無機保護膜とする場合を説明する。図6(a)〜(c)は記録ヘッド1の製造工程を説明するための断面図である。そして、図7(a)〜(c)は記録ヘッド1の製造工程を説明するための断面図である。
第2の実施形態に係る保護膜80は、圧電体層30における能動部3aと非能動部3bとの境を覆うよう形成される構成において第1の実施形態と同一である。一方、保護膜80が形成される工程の順序が、上電極40が形成された工程の直後である点において、第1の実施形態と異なる。これは、第1の実施形態が有機材料により保護膜80を形成したのに対して、第2の実施形態が無機材料により保護膜80を形成することに起因する。
一例として、第2の実施形態に係る保護膜80は、無機保護膜として例えば、酸化アルミニウム(Al)により形成される。そして、保護膜80をAlで形成する場合は、好ましくは、膜厚を25nm以上とすることができる。
図6、及び図7を参照して、上述した圧電素子3及びこの圧電素子3を備える記録ヘッド(液体噴射ヘッド)1の製造方法を説明する。なお、ここでは、保護膜80としてAl(無機保護膜)を使用した場合を例に説明を行う。なお、記録ヘッド1を構成する際の各条件は第1の実施形態と同じである。
まず、第1の実施形態同様、シリコン単結晶基板等から流路形成基板10を形成する。そして、シリコン基板15を約1100℃の拡散路で熱酸化等することによって二酸化シリコン(SiO)から成る弾性膜(振動板16)を一体的に形成する。
次いで、図6(a)に示すように、スパッタ法等により弾性膜16上に下電極20を形成する。そして、図6(b)に示すように塗布した前駆体溶液を結晶化させて圧電体層30を形成する。こうして形成された圧電体層30の上に、図6(b)に示すように、スパッタ法等によって上電極40を形成する。
そして、圧電体層30の能動部3aと非能動部3bとの境界を覆うよう保護膜80を形成する。保護膜80の形成方法としては、図6(c)に示すように、まず、上電極40を含む圧電体層30上にAlの膜を製膜する。次に、例えば、レジスト等からなるマスクパターンを介して酸化アルミニウムの層をパターニングし、更に、ドライエッチングして保護膜80を形成する。
続いて、図7(a)に示すように、保護膜80上にリード電極45を形成する。例えば、流路形成基板10の前面に亘って金層を形成した後にレジスト等からなるマスクパターンを介して圧電素子3毎にパターニングすることにより、リード電極45が設けられる。即ち、第2の実施形態では、保護膜80の形成の後、リード電極45を形成するためのパターニングが行われる。そのため、保護膜80によりリード電極45をパターニングする際に使用される薬剤から圧電体層30を保護することもできる。
そして、図7(b)に示すように、圧電素子保持部52等を予め形成した保護基板50を流路形成基板10上に例えば接着剤によって接合する。次いで、シリコン基板15上にマスク膜17を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、図7(c)に示すように、シリコン基板15の保護基板50とは反対側の面にノズルプレート70を接合する。次いで、封止膜61及び固定板62を有するコンプライアンス基板60を保護基板50上に接合し、所定のチップサイズに分割する。以上により、記録ヘッド1が形成される。
(6)実施例
以下、第2の実施形態に係る実施例を示すが、本発明は以下の例により限定されるものではない。
ここで、下記の実施例4におけるインクジェット式記録ヘッドを作製し、圧電素子へDC通電試験を行った。
[実施例4]
圧電素子を構成する圧電体層の能動部端部(能動部と非能動部の境界付近)を覆うように、膜厚90nmのAlから成る保護膜を有するインクジェット式記録ヘッドを実施例4とした。この、Alのヤング率Eは200GPaである。
[実施例5]
膜厚45nmのAlから成る保護膜以外は、実施例4と同様のインクジェット式記録ヘッドを実施例5とした。
表2は、この耐電圧評価を行った場合の実施例4〜5の各条件(膜厚t、ヤング率E、ヤング率と膜厚の積:E×t)と、能動部の端部における焼損の有無を示している。
Figure 0006108005
表2に示すように、第2の実施形態においても、圧電体層の焼損が低減されているのが分かる。即ち、ヤング率Eと膜厚tの積が4500(Pa・m)以上となる保護膜において、能動部の端部での焼損が観察されなかった。
第1の実施形態と第2の実施形態より、ヤング率Eと膜厚tの積が5000(Pa・m)以上とすれば、能動部の端部での焼損が抑制できる。
そのため、能動部と非能動部との境界に無機材料で形成された保護膜を形成することで、焼損が抑制されることが分かった。
(7)応用、その他:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
上述した実施形態では圧力発生室毎に個別の圧電体を設けているが、複数の圧力発生室に共通の圧電体を設け圧力発生室毎に個別電極を設けることも可能である。
上述した実施形態では流路形成基板にリザーバの一部を形成しているが、流路形成基板とは別の部材にリザーバを形成することも可能である。
上述した実施形態では圧電素子の上側を圧電素子保持部で覆っているが、圧電素子の上側を大気に開放することも可能である。
上述した実施形態では振動板を隔てて圧電素子の反対側に圧力発生室を設けたが、圧電素子側に圧力発生室を設けることも可能である。例えば、固定した板間及び圧電素子間で囲まれた空間を形成すれば、この空間を圧力発生室とすることができる。
流体噴射ヘッドから吐出される液体は、液体噴射ヘッドから吐出可能な材料であればよく、染料等が溶媒に溶解した溶液、顔料や金属粒子といった固形粒子が分散媒に分散したゾル、等の流体が含まれる。このような流体には、インク、液晶、等が含まれる。液体噴射ヘッドは、プリンターといった画像記録装置の他、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造装置、有機ELディスプレー等の電極の製造装置、バイオチップ製造装置、等に搭載可能である。
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、少なくとも圧電体層を有する圧電素子、液体噴射ヘッド及び液体噴射装置の性能を向上させる技術等を提供することができる。
また、上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態及び変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
1…記録ヘッド、3…圧電素子、9…リザーバ、10…流路形成基板、11…隔壁、12…圧力発生室、15…シリコン基板、16…振動板、20…下電極、30…圧電体層、40…上電極、45…リード電極、50…保護基板、60…コンプライアンス基板、70…ノズルプレート

Claims (11)

  1. 圧力発生室が形成された流路形成基板と、
    前記圧力発生室の少なくとも一部を封止する弾性膜と、
    前記弾性膜の前記圧力発生室とは反対側に形成された第1電極と、
    前記第1電極の前記圧力発生室とは反対側に形成された圧電体層と、
    前記圧電体層の前記圧力発生室とは反対側に形成された第2電極と、
    前記第2電極と前記圧電体層との境界を覆う保護膜と、を有し、
    前記弾性膜の厚さ方向に直交し前記圧力発生室から外側に向かう第1方向において、前記第2電極の端部は、前記圧力発生室の端部と前記圧電体層の端部との間に位置し、
    前記第1方向において、前記保護膜における前記圧力発生室側の端部は、前記第2電極の端部と前記圧力発生室の端部との間に位置する
    液体噴射ヘッド。
  2. 前記保護膜の膜厚は、1.6μm以上である
    請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
  3. 前記保護膜の膜厚は、1.7μm以上である
    請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
  4. 前記保護膜は、有機保護膜である、請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
  5. 前記保護膜のヤング率と膜厚との積は、2000Pa・m以上である
    請求項4の液体噴射ヘッド。
  6. 前記保護膜は、無機保護膜である、請求項1に記載の液体噴射ヘッド。
  7. 前記保護膜のヤング率と膜厚との積は、4500Pa・m以上である
    請求項6の液体噴射ヘッド。
  8. 前記保護膜のヤング率と膜厚との積は、5000Pa・m以上である
    請求項1の液体噴射ヘッド。
  9. 請求項1に記載の前記液体噴射ヘッドを備える、液体噴射装置。
  10. 空間に重なる第1電極と、
    前記第1電極の前記空間とは反対側に形成された圧電体層と、
    前記圧電体層の前記第1電極とは反対側に形成された第2電極と、
    前記第2電極と前記圧電体層との境界を覆う保護膜と、を有し、
    前記空間から外側に向かう第1方向において、前記第2電極の端部は、前記空間の端部と前記圧電体層の端部との間に位置し、
    前記第1方向において、前記保護膜における前記空間側の端部は、前記第2電極の端部と前記空間の端部との間に位置する
    圧電素子。
  11. 圧力発生室の少なくとも一部を封止する弾性膜を形成し、
    前記弾性膜の前記圧力発生室とは反対側に第1電極を形成し、
    前記第1電極の前記圧力発生室とは反対側に圧電体層を形成し、
    前記弾性膜の厚さ方向に直交し前記圧力発生室から外側に向かう第1方向において、前記圧力発生室の端部と前記圧電体層の端部との間に端部が位置する第2電極を、前記圧電体層の前記圧力発生室とは反対側に形成し、
    前記第2電極と前記圧電体層との境界を覆う保護膜を、前記第2電極の端部と前記圧力発生室の端部との間に前記圧力発生室側の端部が位置するように形成する
    液体噴射ヘッドの製造方法。
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