イグニッションスイッチをオフにした後、エンジンの運転を継続している最中に車両が発進してしまう事態を避ける上では、前記特許文献1にも記載されているように、エンジン停止時の遅延制御を禁止することが望ましい。しかしながら、遅延制御を禁止してしまうと、位相可変機構を、始動に適したバルブタイミングになるまで駆動させることができなくなる虞がある。この場合、次回のエンジンの始動性が低下してしまう。そこで、遅延制御中の車両の発進を確実に防止する一方で、始動に適したバルブタイミングになるまで、位相可変機構を駆動することが可能な方策が求められる。
また、いわゆるMT車においては、イグニッションスイッチをオフにした後、エンジンの運転を継続している最中に、運転者がクラッチを締結してしまうと、いわゆる飛び出し及び/又はエンストを招くことになる。エンスト時にはメーターパネル内の警告灯等が全て点灯してしまうことから、遅延制御中にエンストしてしまうことは、イグニッションスイッチをオフにしたにも拘わらず警告灯等が全て点灯することになるため、運転者に違和感を与える。そこで、運転者の違和感を防止しつつ、始動に適したバルブタイミングになるまで、位相可変機構を駆動することが可能な方策が求められる。
さらに、遅延制御を行う場合は、遅延時間はできるだけ短く、しかも、常に同じ遅延時間であることが望ましい。しかしながら、位相可変機構を、確実に、始動に適したバルブタイミングになるように遅延時間を長く設定してしまうと、イグニッションスイッチをオフにしてからエンジンが実際に停止するまでの時間が長くなってしまうため、運転者に違和感を与える虞がある。一方で、イグニッションスイッチをオフにするときのエンジン回転数が低いときには、エンジンが惰性で回転をして停止するまでの時間が相対的に短くなるため、遅延時間を短く設定してしまうと、位相可変機構を、始動に適したバルブタイミングになるまで駆動させることができなくなる虞がある。この場合も、始動に適したバルブタイミングになるまで、位相可変機構を駆動することが可能な方策が求められる。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内燃機関の停止時に、バルブ位相可変機構を駆動して始動用のバルブタイミングにする構成において、始動用のバルブタイミングへの変更を確実に行うことにある。
ここに開示する技術は、内燃機関の制御装置に係り、この制御装置は、内燃機関と、前記内燃機関の動力により供給される油圧によって駆動され、該内燃機関のバルブタイミングを、予め設定された所定可変範囲内で変更可能なバルブ位相可変機構と、アイドル状態にある前記内燃機関が、イグニッションスイッチ操作による停止命令を受けた後、前記内燃機関が停止するまでの間で前記バルブ位相可変機構を駆動することにより前記バルブタイミングを始動用のタイミングにする停止制御手段と、を備える。
そして、前記内燃機関は、自動変速機を介して駆動輪に連結されると共に、当該自動変速機には、前記内燃機関の出力を前記駆動輪に伝達可能な走行レンジと、伝達不可能な非走行レンジとが設定され、前記停止制御手段は、前記停止命令を受ける前のアイドル時に、前記自動変速機が前記非走行レンジにあるときには、前記バルブ位相可変機構の可変範囲を前記所定可変範囲にすると共に、前記停止命令を受けた後、前記内燃機関の作動を所定の遅延時間にわたって継続させた後に停止させる遅延制御を実行し、前記停止制御手段はまた、前記停止命令を受ける前のアイドル時に、前記自動変速機が前記走行レンジにあるときには、前記バルブ位相可変機構の、前記始動用のバルブタイミングを基準とする可変範囲が、前記所定可変範囲よりも狭くなるよう制限すると共に、前記停止命令を受けた後、前記遅延制御を行わずに前記内燃機関を停止する。
この構成によると、アイドル状態にある内燃機関の停止命令を受けたときには、次回のエンジンの始動のために、停止命令を受けた後、エンジンが停止するまでの間に供給される油圧を利用してバルブ位相可変機構を駆動し、内燃機関のバルブタイミングを、始動用のバルブタイミングにする。
停止命令を受ける前のアイドル時に、自動変速機が非走行レンジにあるときには、内燃機関と駆動輪との間の動力伝達が遮断されていることから、車両の発進は起きない。この場合、停止制御手段は、バルブ位相可変機構の可変範囲を所定可変範囲にすると共に、停止命令を受けた後、内燃機関の作動を所定の遅延時間にわたって継続した後に停止する遅延制御を実行する。これにより、停止命令を受けた後から、内燃機関が停止するまでの時間が長くなるから、始動用のバルブタイミングに到達するまで、バルブ位相可変機構を駆動することが可能になる。つまり、車両の発進を防止しつつ、始動用のバルブタイミングにすることが可能になる。
これに対し、停止命令を受ける前のアイドル時に、自動変速機が走行レンジにあるときには、内燃機関と駆動輪との間の動力伝達が遮断されていない。このため、停止命令を受けた後、内燃機関を直ちに停止するのではなく、前述した遅延制御を行うようにすると、その遅延制御の最中に運転者がブレーキペダルの踏み込みを解除したときに車両が発進してしまう虞がある。そこで、停止制御手段は、アイドル時に自動変速機が走行レンジにあるときには、前述した遅延制御を行わない。これにより、車両の発進を確実に防止する。
その一方で、遅延制御を行わないことにより、停止命令を受けてから内燃機関が停止するまでの時間が短くなるから、その間、位相可変機構を駆動したとしても、始動用のバルブタイミングに到達しない虞がある。そこで、停止制御手段は、停止命令を受ける前のアイドル時において、バルブ位相可変機構の可変範囲を、所定可変範囲、つまり、バルブ位相可変機構において設定されている最大の可変範囲よりも狭くなるように制限をする。この可変範囲の制限は、始動用のバルブタイミングを基準として制限する。始動用のバルブタイミングが、所定可変範囲における最進角位置にあるときには、可変範囲における遅角側限界が進角するように制限をすることが望ましく、逆に、始動用のバルブタイミングが、所定可変範囲における最遅角位置にあるときには、可変範囲における進角側限界が遅角するように制限をすることが望ましい。また、始動用のバルブタイミングが所定可変範囲における最進角位置と最遅角位置との間の中間位置にあるときには、当該中間位置を挟んだ進角側及び遅角側の双方で、進角側限界が遅角しかつ、遅角側限界が進角するように制限することが好ましい。尚、始動用のバルブタイミングが中間位置にあるときに、制限後の可変範囲は、その中間位置を中心とした進角側及び遅角側に均等な範囲としてもよいが、必ずしも均等な範囲とする必要はなく、進角側の範囲が相対的に広い、又は、遅角側の範囲が相対的に広いような、不均等な範囲にすることも可能である。さらに、始動用のバルブタイミングが中間位置にあるときに、その中間位置が、制限後の可変範囲における最遅角位置、又は、最進角位置となるように、可変範囲を設定することも可能である。
可変範囲を制限しておくことにより、始動用のバルブタイミングに至るまでの最大移動量が小さくなるから、バルブ位相可変機構は、短時間で、始動用のバルブタイミングにまで移動をすることが可能になる。その結果、内燃機関の停止命令を受けて、遅延制御を行わずに内燃機関を停止するときに、内燃機関が停止するまでの短時間の間に、バルブ位相可変機構を始動用のバルブタイミングにまで移動させることが可能になる。従って、この場合も、車両の発進を防止しつつ、始動用のバルブタイミングにすることが可能になる。
前記停止制御手段は、前記アイドル時に、前記自動変速機のレンジが走行レンジにあるときでも、前記自動変速機における出力の伝達を遮断するニュートラルアイドル制御の実行中、ブレーキペダル操作に独立してブレーキ圧を保持するブレーキ保持制御の実行中、又は、パーキングブレーキの作動中であるときには、前記バルブ位相可変機構の可変範囲の制限を行わないと共に、前記停止命令を受けた後、前記遅延制御を実行する、としてもよい。
ニュートラルアイドル制御は、自動変速機が走行レンジにあるときに出力の伝達を遮断することで、燃費の向上を図る制御であるが、自動変速機の状態は、非走行レンジと実質的に同じであり、車両の発進は起きない。そのため、停止命令を受ける前のアイドル時に、自動変速機のレンジが走行レンジにあるときでも、ニュートラルアイドル制御の実行中は、バルブ位相可変機構の可変範囲の制限を行わず、停止命令を受けたときには、遅延制御を行って内燃機関を停止する。これにより、車両の発進を防止しつつ、内燃機関の停止までに、始動用のバルブタイミングにすることが可能になる。
また、ブレーキペダル操作に独立してブレーキ圧を保持するブレーキ保持制御は、例えばヒルホルダ制御として行われ、運転者がブレーキペダルの踏み込みを解除しても、ブレーキ圧が保持される結果、車両の発進は起きない。そのため、停止命令を受ける前のアイドル時に、自動変速機のレンジが走行レンジにあるときでも、ブレーキ保持制御の実行中は、バルブ位相可変機構の可変範囲の制限を行わず、停止命令を受けたときには、遅延制御を行って内燃機関を停止することで、車両の発進を防止しつつ、内燃機関の停止までに、始動用のバルブタイミングにすることが可能になる。
さらに、パーキングブレーキの作動中も、車両の発進を防止することが可能である。そのため、停止命令を受ける前のアイドル時に、自動変速機のレンジが走行レンジにあるときでも、パーキングブレーキの作動中は、バルブ位相可変機構の可変範囲の制限を行わず、停止命令を受けたときには、遅延制御を行って内燃機関を停止することで、車両の発進を防止しつつ、内燃機関の停止までに、始動用のバルブタイミングにすることが可能になる。
ここに開示する内燃機関の制御装置はまた、内燃機関と、前記内燃機関の動力により供給される油圧によって駆動され、該内燃機関のバルブタイミングを、予め設定された所定可変範囲内で変更可能なバルブ位相可変機構と、アイドル状態にある前記内燃機関が、イグニッションスイッチ操作による停止命令を受けた後、前記内燃機関が停止するまでの間で前記バルブ位相可変機構を駆動することにより前記バルブタイミングを始動用のタイミングにする停止制御手段と、を備える。
そして、前記内燃機関は、手動変速機を介して駆動輪に連結され、前記停止制御手段は、前記停止命令を受ける前のアイドル時に、前記手動変速機が、いずれの変速段も選択していないニュートラル状態にあるときには、前記バルブ位相可変機構の可変範囲を前記所定可変範囲にすると共に、前記停止命令を受けた後、前記内燃機関の作動を所定の遅延時間にわたって継続させた後に停止させる遅延制御を実行し、前記停止制御手段はまた、前記停止命令を受ける前のアイドル時に、前記手動変速機が、いずれかの変速段を選択している非ニュートラル状態にあるときには、前記バルブ位相可変機構の、前記始動用のバルブタイミングを基準とする可変範囲が、前記所定可変範囲よりも狭くなるよう制限すると共に、前記停止命令を受けた後、前記遅延制御を行わずに前記内燃機関を停止する。
この構成によると、停止命令を受けるアイドル時に、手動変速機がニュートラル状態にあるときには、内燃機関と駆動輪との間の動力伝達が遮断されているため、車両の発進は勿論のこと、エンストも起きない。そこで、停止制御手段は、バルブ位相可変機構の可変範囲を所定可変範囲にすると共に、停止命令を受けた後、遅延制御を実行して、内燃機関を停止する。これにより、停止命令を受けた後から、内燃機関が停止するまでの、比較的長い時間、バルブ位相可変機構を駆動することが可能になり、エンスト、飛び出し、及び車両の発進を防止しつつ、始動用のバルブタイミングにすることが可能になる。
これに対し、停止命令を受ける前のアイドル時に、手動変速機が非ニュートラル状態にあるときには、内燃機関と駆動輪との間の動力伝達が遮断されていないため、停止命令を受けた後、遅延制御を行うようにすると、その遅延制御の最中に運転者がクラッチの締結操作を行ったときにエンストや飛び出し、また、車両が発進してしまう虞がある。そこで、停止制御手段は、アイドル時に手動変速機が非ニュートラル状態にあるときには、前述した遅延制御を行わない。これにより、エンスト、飛び出し及び車両の発進を防止する。
その一方で、停止制御手段は、停止命令を受ける前の内燃機関のアイドル時において、バルブ位相可変機構の可変範囲を、所定可変範囲よりも狭くなるように制限をすることで、内燃機関の停止命令を受けて、遅延制御を行わずに内燃機関を停止するときには、内燃機関が停止するまでの短時間の間に、バルブ位相可変機構を始動用のバルブタイミングにまで移動させることが可能になる。従って、この場合も、エンスト、飛び出し及び車両の発進を防止しつつ、始動用のバルブタイミングにすることが可能になる。
尚、可変範囲の制限は、前述したように、始動用のバルブタイミングを基準として制限する。そうすることで、停止命令を受けてから、内燃機関が停止するまでの短時間に、バルブ位相可変機構を始動用のバルブタイミングにすることが、確実に行い得る。
ここに開示する内燃機関の制御装置はまた、内燃機関と、前記内燃機関の動力により供給される油圧によって駆動され、該内燃機関のバルブタイミングを、予め設定された所定可変範囲内で変更可能なバルブ位相可変機構と、アイドル状態にある前記内燃機関が、イグニッションスイッチ操作による停止命令を受けた後、前記内燃機関が停止するまでの間で前記バルブ位相可変機構を駆動することにより前記バルブタイミングを始動用のタイミングにする停止制御手段と、を備える。
そして、前記内燃機関は、自動変速機を介して駆動輪に連結されると共に、当該自動変速機には、前記内燃機関の出力を前記駆動輪に伝達可能な走行レンジと、伝達不可能な非走行レンジとが設定され、前記停止制御手段は、前記停止命令を受けた後、前記内燃機関の作動を所定の遅延時間にわたって継続させた後に停止させる遅延制御を実行すると共に、前記停止命令を受けてから、前記遅延制御後に前記内燃機関が停止するまでの間、前記バルブ位相可変機構を駆動する。
前記停止制御手段はまた、前記内燃機関が停止する時までに前記始動用のバルブタイミングになるように、前記停止命令を受ける前のアイドル時の状態に応じて、前記バルブ位相可変機構の可変範囲を変更すると共に、前記停止命令を受ける前のアイドル時に、前記自動変速機が前記走行レンジにあるときには、前記非走行レンジにあるときよりも、前記始動用のバルブタイミングを基準とする前記可変範囲を狭くする。
この構成は、前述した構成とは異なり、停止命令を受けた後、停止制御手段は、内燃機関の作動を所定の遅延時間にわたって継続した後に停止する遅延制御を必ず行う。この「所定の遅延時間」は、常時一定の遅延時間の意味である。従って、停止命令を受けた後、内燃機関の作動が停止するまでの時間は、ほぼ一定になる。これは、運転者に違和感を与えてしまうことを回避する。
その一方で、内燃機関が停止するまでに、バルブ位相可変機構を始動用のバルブタイミングにまで確実に移動させる必要があるが、内燃機関の停止命令を受けたときの、内燃機関又は変速機の状態に応じて、遅延時間の経過後、内燃機関が惰性で回転をして停止するまでの時間は変化し得るから、始動用のバルブタイミングに到達する前に内燃機関が停止してしまうことも起こり得る。また、油圧によって駆動するバルブ位相可変機構は、作動油の粘度及び圧力状態によって動きが変化し得るから、作動油の状態によって動きにくいときにも、始動用のバルブタイミングに到達する前に内燃機関が停止してしまうことが起こり得る。
前記の構成では、停止命令を受ける前のアイドル時の状態に応じて、バルブ位相可変機構の可変範囲を変更する。つまり、内燃機関が停止する時までに始動用のバルブタイミングになるように、可変範囲を、必要に応じて、予め設定された所定可変範囲よりも狭くなるように制限する。尚、内燃機関が停止する時点で、始動用のバルブタイミングになるようにしてもよいし、内燃機関が停止する前に、始動用のバルブタイミングになってもよい。
こうすることで、イグニッションスイッチをオフにして内燃機関を停止する時には、遅延時間を一定にしつつも、バルブ位相可変機構を、確実に、始動用のバルブタイミングにすることが可能になる。
また、自動変速機が非走行レンジにある状態で、内燃機関を停止するときには、遅延期間の経過後、内燃機関が惰性で回転をして停止するまでの時間は、自動変速機が走行レンジにあるときよりも長くなる。つまり、自動変速機が非走行レンジにあるときは、内燃機関の回転に対する抵抗が小さく、内燃機関が惰性で回転するときの回転低下が緩やかになって停止するまでの時間が、相対的に長くなる。逆に、自動変速機が走行レンジにあるときには、内燃機関の回転に対する抵抗が大きく、内燃機関が惰性で回転するときの回転低下が急になって停止するまでの時間が、相対的に短くなる。従って、前記の構成では、自動変速機が走行レンジにあるときには、非走行レンジにあるときよりも、バルブ位相可変機構の、始動用のバルブタイミングを基準とする可変範囲が狭くなるように制限する。こうすることで、自動変速機が走行レンジにあるときには、内燃機関が停止するまでの時間が相対的に短くなるものの、その短い時間で、バルブ位相可変機構を、始動用のバルブタイミングにまで、確実に、移動させることが可能になる。
前記停止制御手段は、前記内燃機関の回転数が低いときには、高いときよりも前記可変範囲を狭くする、としてもよい。
内燃機関の回転数が低いときには、所定の遅延時間が経過して内燃機関が惰性で回転した後に停止するまでの時間が、相対的に短くなる。従って、バルブ位相可変機構が駆動をしてバルブタイミングを変更可能な時間が短くなるから、その分、アイドル状態において、バルブ位相可変機構の可変範囲が狭くなるように制限しておく。こうすることで、始動用のバルブタイミングに至るまでの最大移動量が少なくなるから、停止命令を受けた後、内燃機関が停止するまでの時間で、バルブ位相可変機構を始動用のバルブタイミングに、確実に、移動させることが可能になる。
前記停止制御手段は、前記内燃機関の油温が、所定の高温以下のときには油温が低くなるほど、前記可変範囲を狭くすると共に、前記油温が、前記所定の高温よりも高いときには油温が高くなるほど前記可変範囲を狭くする、としてもよい。
内燃機関の油温が低いときには、作動油の(動)粘度が上がる。これは、バルブ位相可変機構の応答速度を低下し得る。一方で、油温の低下によって油圧が上がる。これは、バルブ位相可変機構の応答速度を高め得る。一般的に、バルブ位相可変機構においては、油温が比較的高温(例えば90〜100度)以下のときは、油温が低くなるほど、動粘度が高くなることによる応答速度の低下が、油圧が上がることにより応答速度の向上よりも支配的になり、油温が比較的高いときには、油温が高くなるほど、油圧が下がることによる応答速度の低下が、動粘度が低くなることによる応答速度の向上よりも支配的になる。
従って、油温の高低に応じ、作動油の動粘度及び油圧に起因するバルブ位相可変機構の動きやすさを考慮して、所定の高温以下のときには油温が低くなるほど、前記可変範囲を狭くすると共に、前記油温が、前記所定の高温よりも高いときには油温が高くなるほど前記可変範囲を狭くする。こうすることで、バルブ位相可変機構が動きにくいときには、可変範囲が相対的に狭くなり、始動用のバルブタイミングに至るまでの最大移動量は少なくなるから、内燃機関が停止するまでに、バルブ位相可変機構を、始動用のバルブタイミングに、確実に移動させることが可能になる。
前記停止制御手段は、前記自動変速機が前記走行レンジにあるときであっても、当該自動変速機が出力の伝達を遮断するニュートラルアイドル制御を実行しているときには、前記可変範囲を前記非走行レンジにあるときと同じにする、としてもよい。
前述したように、ニュートラルアイドル制御の実行中は、走行レンジにあるときでも、自動変速機は実質的には非走行レンジと同じである。つまり、停止命令を受けた後、内燃機関が停止するまでの時間は相対的に長くなる。そのため、バルブ位相可変機構の可変範囲を狭くなるように制限しなくても、始動用のバルブタイミングにまで移動させることが可能になる。そこで、ニュートラルアイドル制御の実行中は、自動変速機が走行レンジにあるときでも、可変範囲を非走行レンジにあるときと同じにする(つまり、制限しない)。こうすることで、内燃機関が停止するまでに、バルブ位相可変機構を始動用のバルブタイミングにすることが、確実に可能になる。
以上説明したように、前記の内燃機関の制御装置によると、内燃機関の停止命令後、運転者の操作によって車両が発進する可能性やエンストする可能性がないときには、遅延制御を行って、確実に、バルブ位相可変機構を始動用のバルブタイミングにする一方、運転者の操作によって車両が発進する可能性やエンストする可能性があるときには、遅延制御を行わずに内燃機関を停止する一方で、バルブ位相可変機構の可変範囲を予め制限しておくことで、内燃機関の停止までに、確実に、バルブ位相可変機構を始動用のバルブタイミングにすることが可能になる。
また、前記の内燃機関の制御装置によると、内燃機関の停止命令を受けた後、一定の遅延時間を経て内燃機関を停止することで、運転者の違和感を防止する一方、内燃機関の状態や変速機の状態等に応じて、バルブ位相可変機構の可変範囲を変更することによって、内燃機関の停止までに、確実に、バルブ位相可変機構を始動用のバルブタイミングにすることが可能になる。
以下、内燃機関の制御装置の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明は例示である。
(AT車搭載の内燃機関の制御装置)
図1は、いわゆるAT車に搭載された内燃機関の制御装置の全体構成を示している。制御装置Aは、内燃機関としてのエンジン1と、エンジン1に付随する複数のアクチュエータ31〜33と、各アクチュエータ31〜33を作動させるエンジン作動部4と、エンジン1、及びエンジン1が搭載される車両の動作状況等を検知して出力する種々のセンサ等70〜77、710と、センサ等70、72〜75、710からの信号に基づくアクチュエータ31〜33の制御を介してエンジン1を運転する、エンジン制御器100(Engine Control Unit:ECU)とを備えている。
制御装置Aはまた、エンジン1に連結される自動変速機2と、それを駆動させる自動変速機駆動部6と、センサ76〜77からの信号に基づく自動変速機駆動部6の制御を介して自動変速機2を作動させる自動変速機制御器200(Automatic Transmission Control Unit:ATCU)とを備えている。
制御装置Aはさらに、エンジン制御器100及び自動変速機制御器200に対し、例えば車載ネットワークを介して接続される車両制御ユニット300を備えている。
以下では、エンジン1、エンジン1に付随する各種アクチュエータ31〜33、エンジン作動部4の構成要素41〜43、自動変速機2、及び自動変速機駆動部6について、それぞれの構成の主要部について説明するが、いずれも周知のものを採用しているため、一部を除き図示しないことにする。
このエンジン1は、例えば火花点火式内燃機関として構成されていて、その内部には、複数の気筒が配設されている。エンジン1は、自動車等の車両に搭載されていて、その出力軸は、自動変速機2を介して駆動輪5に連結されている。エンジン1の出力を駆動輪5に伝達することによって、車両が推進する。
エンジン1は、シリンダブロックと、その上に載置されるシリンダヘッドとを備えており、シリンダブロックの内部には前記気筒が形成されている。シリンダブロックには、クランクシャフトが回転自在に支持されていると共に、このクランクシャフトは、コネクティングロッドを介してピストンに連結されている。このピストンは、各気筒内に往復動可能に嵌挿されていて、シリンダヘッド及び気筒と協働することにより燃焼室を区画形成している。
シリンダヘッドには、気筒毎に吸気ポート及び排気ポートが形成されており、それぞれが燃焼室に連通している。これら吸気ポート及び排気ポートには、燃焼室側から該ポートを遮断することができるように、吸気弁及び排気弁がそれぞれ配設されている。吸気弁は吸気弁駆動機構により、排気弁は排気弁駆動機構により、それぞれ駆動され、それによって所定のタイミングで往復動して、吸気ポート及び排気ポートを開閉する。
吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、それぞれ吸気カムシャフト及び排気カムシャフトを有する。これらのカムシャフトは、周知の動力伝達機構を介して前記クランクシャフトに駆動連結されていて、クランクシャフトの回転に連動して回転する。吸気弁駆動機構及び排気弁駆動機構は、例えばスイングアームを備えたロッカーアーム式に構成されている。
この実施形態では、少なくとも吸気弁駆動機構は、バルブタイミングとしての吸気弁の閉弁時期を変更可能なバルブ位相可変機構31(以下では、単にVVT31と記載)を含んで構成されている。このVVT31は、吸気カムシャフトの位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。
具体的に、VVT31としては、詳細な図示は省略するが、油圧式に構成されており、エンジン駆動のオイルポンプからの油圧の供給を受けて動作する。このVVT31が作動することによって、クランクシャフトに対して吸気カムシャフトが進角又は遅角し、吸気弁の閉弁時期を、吸気下死点以降における所定の最進角時期と最遅角時期との間で連続的に変更する。このVVT31を駆動するためのVVT駆動部41は、例えば電気回路を備えており、エンジン制御器100から入力されるバルブ位相角信号に従ってVVT31に油圧を供給することによって、吸気弁の閉弁時期の変更動作を制御する。
VVT31はまた、エンジン1が停止しているときには、例えば係合ピン等の係止手段を用いることによって、吸気弁の閉弁時期を、エンジン1の始動位置としての所定の時期、例えば最遅角時期に変更した状態にロックする。
シリンダヘッドには、気筒毎に燃料噴射弁32が取り付けられている。この燃料噴射弁32は、例えば、多噴口型の燃料噴射弁である。この燃料噴射弁を作動させる燃料供給システム42は、例えば、燃料噴射弁32を駆動する電気回路と、燃料噴射弁32に燃料を供給する燃料供給系とを備えており、エンジン制御器100からの燃料噴射バルスに従って、ガソリン等の燃料を、所定の量だけ、且つ所定のタイミングで気筒内に噴射するよう、燃料噴射弁32の作動を制御する。
さらに、シリンダヘッドには、点火プラグ33が取り付けられている。この点火プラグ33は、先端部が燃焼室に臨むように取り付けられており、燃焼室内に火花を発生させることによって、その燃焼室内の混合気に点火する。そして、この点火プラグ33を作動させる点火システム43は、電気回路を備えており、エンジン制御器100からの点火信号を受けて、点火プラグ33が所望の点火タイミングで火花を発生するよう、それに通電する。
自動変速機2は、エンジン1の出力軸に連結されるトルクコンバータと、このトルクコンバータを介してエンジン1からの出力が入力される変速機構とを備えており、エンジン1の出力軸を通じて伝達される回転動力を、変速した上で駆動輪に伝達する。トルクコンバータ及び変速機構としては、それぞれ公知のものが使用されており、この実施形態では、トルクコンバータは流体式の伝動装置として構成され、変速機構は遊星歯車と、クラッチ機構及びブレーキ機構を含む複数の摩擦締結機構とを備えて構成されている。この変速機構は、所定の摩擦締結機構を互いに締結及び解放することによって、例えば前進6速及び後退速を実現する。自動変速機制御器200は、基本的にはアクセル開度と車速とに基づいて変速段を設定し、自動変速機駆動部6は、自動変速機制御器200からの変速段指定信号にしたがって、変速機構の摩擦締結要素を締結及び開放して、指定された変速段を実現する。
自動変速機2は、ドライバーが選択可能なレンジとして、少なくともパーキングレンジ、ニュートラルレンジ、ドライブレンジ、及び、リバースレンジが設定されている。このうち、ドライブレンジ及びリバースレンジを選択したときには、変速機構は、エンジン1から駆動輪の間で動力を伝達可能な状態となり、パーキングレンジ及びニュートラルレンジを選択したときには、変速機構は、エンジン1から駆動輪の間で動力を伝達不可能な状態となる。ドライブレンジ及びリバースレンジは走行レンジに対応し、パーキングレンジ及びニュートラルレンジは非走行レンジに対応する。ドライバーが選択したレンジは、シフトポジションセンサ76によって検出され、シフトポジションセンサ76は、選択したレンジに係る信号を自動変速機制御器200に出力する。
なお、エンジン1の機関停止時には、変速レンジが非走行レンジにあるときよりも走行レンジにあるときの方が、エンジン1の回転に対する抵抗が高いため、エンジン1の機関回転数は速やかに低下する。
駆動輪5を含む各車輪には、図示は省略するがブレーキ装置が設けられており、ブレーキペダルの踏み込み量に応じたブレーキ圧が各ブレーキ装置に供給されることで生じるブレーキ力によって車両を減速させる。ブレーキ圧制御機構81は、ブレーキペダルの踏み込み操作とは独立して、各ブレーキ装置にブレーキ圧を供給可能な液圧ユニットを備えており、ブレーキ制御器800(Brake Control Unit:BCU)からの制御信号に従ってブレーキ圧の供給量を制御することによって、各ブレーキ装置のブレーキ力を調整する。
以下では、このようにして構成されたエンジン1及び自動変速機2の作動をそれぞれ制御する、エンジン制御器100及び自動変速機制御器200の主要部について説明するが、周知のものを採用している部分については、一部を除き図示しないことにする。
エンジン制御器100及び自動変速機制御器200は、両者とも基本となるハードウェアの構成は共通している。具体的には、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラであって、プログラムを実行する中央演算処理装置(CPU)と、例えばRAMやROMにより構成されてプログラム及びデータを格納するメモリと、電気信号の入出力をする入出力(I/O)バスとをそれぞれ備えている。
エンジン制御器100には、図1に示すように、少なくとも、エンジン1の出力回転(機関回転数)を検出する回転センサ72からの回転数信号、アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ73からのアクセル開度信号、自動変速機2の出力軸の回転速度を検出する車速センサ74からの車速信号、エンジン1のスロットル開度を検出するスロットル開度センサ75からのスロットル開度信号、及び油温センサ710からの油温信号が、それぞれ入力される。また、エンジン制御器100には、パーキングブレーキが作動していることを検出するパーキングブレーキセンサ70からのパーキングブレーキ信号も入力される。
エンジン制御器100は、前記のような入力に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定する制御パラメータを算出し、その制御パラメータに基づいて、例えば、所望の燃料噴射パルス、点火信号及びバルブ位相角信号等の制御信号を出力する。エンジン制御器100は、そうした制御信号を、燃料供給システム42、点火システム43及びVVT駆動部41等に出力する。
イグニッションスイッチの操作によりなされる機関始動命令及び機関停止命令を、電気信号に変換して出力するイグニッションスイッチ71(以下、IG−SWと記載)からの機関始動信号及び機関停止信号は、車両制御ユニット300に入力される。
詳しくは後述するが、IG−SW71からの機関停止信号を検出したときには、エンジン1の作動を所定の時間にわたって継続させた後に停止させる遅延制御を実行する場合がある。そのために、車両制御ユニット300は、IG−SW71からの機関停止信号を検出しかつ、エンジン1の作動を継続させる所定の時間が経過した後に、エンジン制御器100に機関停止信号を出力する。
エンジン制御器100は、IG−SW71により機関停止信号が出力された後、エンジン1の回転駆動が完全に停止するまでの期間、すなわち機関回転数がゼロになるまでの期間にわたって供給される油圧を利用してVVT31を駆動させて、吸気弁の開閉弁時期を始動用の時期にしてロックする始動位置設定制御を実行する。ここで、始動用の開閉弁時期とは、VVT31において設定されている可変範囲の最遅角時期である。
なお、ここでいう「エンジン1の作動」とは、例えば、点火プラグ33による点火動作、及び燃料噴射弁32による燃料噴射動作のうちの少なくとも一方を意味する。この実施形態では、点火動作及び燃料噴射動作の両方を継続させる。
一方で、自動変速機制御器200には、同じく図1に示すように、例えば、セレクトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ76からの操作位置信号、ブレーキペダルが踏み込まれたことを検出するフットブレーキセンサ77からのブレーキペダル踏込信号等が入力される。
自動変速機制御器200は、例えば、操作位置信号に基づく制御信号を変速機構22に出力して、自動変速機2の変速レンジを変更させる。
自動変速機制御器200は、変速レンジとして走行レンジが選択されていて、その上、車両が停止(停車)していると判定したとき、通常の走行レンジ時に締結されるクラッチプレートを締結状態に保ちつつも、その締結力を低下させることによって相隣接するクラッチプレート同士を所定のスリップ率で相互に滑らせる制御、いわゆるニュートラルアイドル制御を実行する。ニュートラルアイドル制御を実行している状態では、クラッチプレート同士が相互に滑るためエンジン1の回転に対する抵抗が相対的に低くなり、その状態のままエンジン1の回転駆動を停止したときには、変速レンジが走行レンジにあるにもかかわらず、エンジン1の機関回転数は、変速レンジが非走行レンジにあるときと同様に、比較的緩やかに低下する。
さらに、ブレーキ制御器800は、エンジン制御器100と同様のハードウェアを備えており、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラとして構成されている。
ブレーキ制御器800は、レンジとして走行レンジが選択されていて、その上、車両が停止(停車)していると判定したとき、ブレーキ装置のブレーキ圧を保持するブレーキ保持制御を実行する。ブレーキ保持制御は、例えば坂道停車中に車両のずり下がりを防止する、いわゆるヒルホルダ機構を構成する。ブレーキ保持制御を実行している状態では、所定のブレーキ圧が保持され、車両の発進が防止される。
エンジン制御器100、自動変速機制御器200、ブレーキ制御器800及び車両制御ユニット300は、互いに制御信号がやりとりできるように接続されている。
(AT車におけるエンジンの遅延制御)
次に、図2のフローチャートを参照しながら、AT車に搭載された内燃機関の制御装置Aにおける、エンジンの遅延制御について説明する。このフローは、内燃機関の制御装置Aに含まれるエンジン制御器100、自動変速機制御器200、ブレーキ制御器800及び車両制御ユニット300が協働して行う制御を示している。
当該フローにおいてスタート後のステップS21では、各種信号を読み込み、続くステップS22では、エンジン1がアイドル状態であるか否かを判定する。アイドル状態でないとき(NOのとき)には、ステップS21に戻る一方、アイドル状態であるとき(YESのとき)には、フローはステップS23に移行する。
ステップS23では、自動変速機2のレンジが走行レンジ(つまり、Dレンジ又はRレンジ)であるか否かを判定する。走行レンジでないとき(NOのとき、つまり、Pレンジ又はNレンジの非走行レンジであるとき)には、ステップS24に移行する。一方、走行レンジであるとき(YESのとき)には、ステップS29に移行する。
ステップS24では、IG−SW71からの機関停止信号を、車両制御ユニット300が受けたか否かを判定し、機関停止信号を受けていないときには、このステップS24を繰り返す。エンジン1はアイドル運転することになる。これに対し、機関停止信号を受けたとき(YESのとき)には、ステップS25に移行する。ステップS25では、所定の遅延時間だけエンジン1の作動を継続した後にエンジン1を停止する遅延制御を実行すべく、遅延タイマTを、予め設定された所定時間に設定する。この所定の遅延時間は、例えば1秒程度である。
続くステップS26では、燃料噴射及び点火を継続すべく、イグニッションのオンを継続し、それによって、機関停止信号を受けた後も、エンジン1の作動を継続する。ステップS27では、遅延タイマTに基づいて、遅延時間が経過したか否かを判定し、遅延時間が経過していないとき(NOのとき)には、ステップS26に戻り、イグニッションのオンを継続する。一方、遅延時間が経過したとき(YESのとき)には、ステップS28に進み、車両制御ユニット300は、エンジン制御器100に対して機関停止信号を出力する。エンジン制御器100は、燃料噴射及び点火を停止し、イグニッションをオフにする。エンジン1は惰性で回転をした後、停止に至る。図2に示すフローには示していないが、このステップS25〜ステップS28までの間、つまり、IG−SW71がオフになった後、エンジン1が回転している間、始動位置設定制御が行われ、VVT31は、始動位置(つまり、最遅角位置)となるように移動をしかつ、その始動位置でロックされる。
一方、自動変速機2のレンジが走行レンジであるとして移行したステップS29では、ニュートラルアイドル制御を実行している、ブレーキ保持制御を実行している、又は、パーキングブレーキが作動している、ことを判定する。
ここで、図3は、ニュートラルアイドル制御の手順を示すフローチャートであり、スタート後のステップS41では、アクセル開度センサ73、車速センサ74、シフトポジションセンサ76、及び、フットブレーキセンサ77の各信号を読み込み、続くステップS42では、車速がゼロでかつ、アクセル開度がゼロでかつ、ブレーキがオンでかつ、ドライブレンジであるか否かが判定される。この判定がYESのときにはステップS43に移行をして、自動変速機2についてニュートラルアイドル制御を実行する。
図2のフローに戻し、ブレーキ保持制御は、前述したように、自動変速機2のレンジとして走行レンジが選択されていて、その上、車両が停止(停車)していると判定したときに、ブレーキペダルの踏み込みによってブレーキ装置に供給されたブレーキ圧を、ブレーキペダルの踏み込みを解除した後も、保持する。ブレーキ保持制御は、NI制御の実行中に、そのNI制御と共に実行される場合、NI制御の実行中であっても、ブレーキ保持制御は実行されない場合、及び、NI制御は実行されていない一方で、ブレーキ保持制御は実行される場合がある。
ステップS29の判定は、自動変速機2が走行レンジにあったとしても、車両の発進が行い得ない状態であるか否かを判定している。つまり、自動変速機2が走行レンジにあったとしても、自動変速機2がニュートラルアイドル制御の実行中であるときには、その自動変速機2における動力伝達が遮断されているため、エンジン1の出力は駆動輪5に伝達せず、車両は発進しない。また、自動変速機2が走行レンジにあるときに、ブレーキ保持制御が実行中のときには、仮に運転者がブレーキペダルの踏み込みを解除したとしても、ブレーキ保持制御によってブレーキ圧が保持されるため、車両の発進が防止される。さらに、パーキングブレーキが作動しているときも、運転者がブレーキペダルの踏み込みを解除したときに、車両が発進してしまうことが防止される。
ステップS29の判定がYESのときには、ステップS24に移行する。この場合、自動変速機2が走行レンジであっても、車両は発進しないため、非走行レンジであるときと同様に、機関停止信号を受けたときには、遅延制御を実行する。これに対し、ステップS29の判定がNOのときには、ステップS30に移行する。この場合は、後述の通り、機関停止信号を受けたときに遅延制御を実行しない。
ステップS30では、遅延制御を実行しないことに対応して、エンジン1が停止するまでの間に、VVT31が始動位置にまで到達するよう、エンジン1のアイドル時において、VVT31の可変範囲を制限する。VVT31の始動位置は、可変範囲における最遅角位置であるため、ここでは可変範囲における最進角位置が、遅角するように制限をする。こうすることで、VVT31の可変範囲が相対的に狭くなるため、VVT31を始動位置まで移動させるときの最大量が小さくなる。その結果、機関停止信号を受けたときには、遅延制御を行わずにエンジン1が停止するまでの短い時間内においても、VVT31を始動位置まで移動させることが可能になる。
ステップS30では、具体的には、図4(a)に示すように、アイドル時におけるエンジン1の回転数に応じて、また、エンジン1の油温に応じて、進角制限値(つまり、可変範囲における最進角位置に相当する)を設定する。図4(a)に示すように、エンジン1の回転数が低いときには、高いときよりも進角制限値を遅角側にする。エンジン回転数が低いときには、機関停止信号を受けた後、エンジン1が停止するまでの時間が相対的に短くなるものの、進角制限値を遅角側にして、始動位置までの最大移動量を予め少なくしておくことにより、エンジン1が停止するまでの短時間の間に、VVT31を始動位置にまで移動させることが可能になる。逆に、エンジン回転数が高いときには、機関停止信号を受けた後、エンジン1が停止するまでの時間が相対的に長くなるため、進角制限値を進角側にして、始動位置までの最大移動量が比較的多くても、エンジン1が停止するまでの間に、VVT31を始動位置にまで移動させることが可能になる。
進角制限値はまた、図4(b)に示すように、エンジン1の油温が所定の高温Th以下のときには、エンジン1の油温が低いほど遅角側となる。一方、エンジンの油温が所定の高温Thよりも高いときには、エンジン1の油温が高いほど遅角側となる。
油温が低いときには、作動油の(動)粘度が上がる。これは、VVT31の応答速度を低下し得る。一方で、油温の低下によって油圧が上がる。これは、VVT31の応答速度を高め得る。一般的に、VVT31においては、油温が比較的高温(例えば90〜100度)以下のときは、油温が低くなるほど、動粘度が高くなることによる応答速度の低下が、油圧が上がることにより応答速度の向上よりも支配的になり、油温が比較的高いときには、油温が高くなるほど、油圧が下がることによる応答速度の低下が、動粘度が低くなることによる応答速度の向上よりも支配的になる。
そこで、油温が、所定の高温Th以下のときには油温が低くなるほど、VVT31の可変範囲を狭くすると共に、油温が、所定の高温Thよりも高いときには油温が高くなるほどVVT31の可変範囲を狭くする。こうすることで、VVT31が動きにくいときでも、エンジン1が停止するまでの間に、VVT31を始動位置にまで移動可能にする。
こうして、エンジン回転数及び油温の双方に基づいて、進角制限値が設定される。
図2のフローに戻り、ステップS30でVVT31の可変範囲を設定した後は、ステップS31に移行をして、IG−SW71からの機関停止信号を受けたか否かを判定する。機関停止信号を受けていないときには、このステップS31を繰り返す。エンジンは、VVT31の可変範囲が制限された状態で、アイドル運転する。これに対し、車両制御ユニット300が機関停止信号を受けたとき(YESのとき)には、ステップS28に進み、エンジン制御器100に機関停止を出力する。これにより、前述の通り、遅延制御を行うことなく、燃料噴射及び点火が停止されて、エンジン1が停止する。このとき、遅延制御を行わない分、始動位置設定制御の実行時間は短くなるものの、前述したように、VVT31の可変範囲を狭くしていることで、VVT31を始動位置に、確実に移動をさせてロックすることが可能になる。
このように、自動変速機2が非走行レンジにあるときには、車両が発進する可能性がないことから、IG−SW71の操作による機関停止信号を受けた後、所定の遅延時間だけエンジン1の停止を遅らせ、その間に供給される油圧により、VVT31を駆動することで、VVT31を、確実に、始動位置まで移動させることが可能になる。
一方で、自動変速機2が走行レンジにあるときには、ブレーキペダルの踏み込みを解除したときに車両が発進する可能性があることから、遅延制御を禁止して車両の発進を防止する一方で、機関停止信号を受ける前のアイドル運転時に、VVT31の可変範囲を狭くしておくことで、遅延制御を行わずにエンジン1を停止させても、VVT31を、確実に、始動位置まで移動させることが可能になる。その可変範囲の制限量を、エンジン1の回転数や油温に応じて変更することによって、エンジン1の運転状態や、VVT31の動きやすさに応じて、VVT31を、確実に、始動位置まで移動させることが可能になる。
また、自動変速機2が走行レンジにあるときであっても、NI制御の実行、ブレーキ保持制御の実行、又は、パーキングブレーキの作動によって車両の発進を防止することが可能なときには、VVT31の可変範囲の制限を行わずに、機関停止信号を受けたときに遅延制御を行うことで、車両の発進を防止しながら、エンジン1が停止するまでに、VVT31を、確実に、始動位置まで移動させることが可能になる。
図5は、図2とは異なる遅延制御のフローを示している。図2のフローは、前述したように、自動変速機2のレンジに応じて遅延制御の実行と非実行とを切り換えているが、図5に示すフローは、自動変速機2のレンジ如何に関わらず、機関停止信号を受けたときには遅延制御を行うと共に、その遅延制御に並行して、VVT31について始動位置設定制御を行う。この制御フローでは、遅延制御の遅延時間を所定の遅延時間で一定にする一方で、エンジン1の状態や、自動変速機2のレンジ等に応じて、機関停止信号を受ける前のアイドル運転時におけるVVT31の可変範囲を変更する。このフローも、内燃機関の制御装置Aに含まれるエンジン制御器100、自動変速機制御器200、ブレーキ制御器800及び車両制御ユニット300が協働して行う制御を示している。
具体的に図5のフローでは、スタート後のステップS51では、各種信号を読み込み、続くステップS52でエンジン1がアイドル状態であるか否かを判定する。アイドル状態でないとき(NOのとき)には、ステップS51に戻り、アイドル状態であるとき(YESのとき)には、ステップS53に移行する。
ステップS53では、自動変速機2のレンジ、エンジン回転数、油温に応じてVVT進角制限値を設定する。これは、図6及び図4(b)に示すマップに従って設定される。図6に示すマップは、図4(a)に示すマップと基本的に同じ特性を有している。つまり、アイドル状態において、エンジン回転数が低いときには、高いときよりも、VVT進角制限値が遅角側になるように設定される。これにより、エンジン回転数が低いときには、エンジン1が停止するまでの時間が短くなることに対応して、始動位置に対する最大移動量は相対的に小さくなる。
そうして、図6に示すマップにおいては、自動変速機2が走行レンジにあるときには(同図の破線参照)、非走行レンジにあるときよりも(同図の実線参照)、進角制限値が遅角側に設定される。これは、自動変速機2が走行レンジにあるときには、自動変速機2が動力伝達可能な状態にあるため、エンジン1の回転に対する抵抗が相対的に高く、エンジン1が惰性で回転して停止するまでの時間が相対的に短くなるのに対し、自動変速機2が非走行レンジにあるときには、自動変速機2が動力伝達不可能な状態にあるため、エンジン1の回転に対する抵抗が相対的に低く、エンジン1が惰性で回転して停止するまでの時間が相対的に長くなるためである。つまり、自動変速機2が走行レンジにあるときには、始動位置設定制御の実行時間が相対的に短くなることから、進角制限値を遅角側に設定し、始動位置までの最大移動量を小さくするのに対し、自動変速機2が非走行レンジにあるときには、始動位置設定制御の実行時間が相対的に長くなることから、進角制限値を進角側に設定し、始動位置までの最大移動量を大きくする。
進角制限値はまた、油温に応じて設定されるが、これは、前述した図4(b)のマップに従う。つまり、エンジン1の油温が所定の高温Th以下のときには、エンジン1の油温が低いほど遅角側となる。一方、エンジンの油温が所定の高温Thよりも高いときには、エンジン1の油温が高いほど遅角側となる。
こうしてステップS53でVVT進角制限値を設定すれば、続くステップS54で、車両制御ユニット300が、IG−SW71からの機関停止信号を受けたか否かを判定する。機関停止信号を受けていないときには、ステップS51に戻り、VVT31の可変範囲が制限された状態で、アイドル運転を継続する。これに対し、機関停止信号を受けたとき(YESのとき)には、遅延制御を開始する。つまり、ステップS55において、遅延タイマTを所定の遅延時間に設定する。この遅延時間はエンジン1の運転状態や、自動変速機2のレンジ等に拘わらず、一定である。遅延時間は、例えば1秒程度としてもよい。そして、車両制御ユニット300からエンジン制御器100への機関停止信号の出力が遅延されることで、ステップS56では燃料噴射及び点火を継続すべく、イグニッションのオンが継続し、ステップS57で、遅延時間が経過したか否かを判定する。遅延時間が経過してないとき(NOのとき)には、ステップS56に戻って遅延制御を継続する。一方、遅延時間が経過したとき(YESのとき)には、ステップS58に移行して、車両制御ユニット300からエンジン制御器100への機関停止信号が出力され、エンジン制御器100は、燃料噴射及び点火を停止し、イグニッションをオフにする。このステップS55〜S58の間に始動位置設定制御が行われ、エンジン1が停止をするまでに、VVT31は始動位置に移動する。前述したように、ステップS53において、各種の状態に対応して、VVT31の可変範囲を変更していることで、遅延時間を一定にして、機関停止信号を受けてからエンジン1が停止するまでの時間は、エンジン1の状態や自動変速機の状態に拘わらず、ほぼ一定であるものの、VVT31を始動位置に、確実に移動をしてロックすることが可能になる。
こうして、図5に示す制御フローでは、機関停止信号を受けてからエンジン1が停止するまでの時間を、常に、ほぼ一定にすることで、運転者の違和感を防止しながら、エンジン1が停止するまでに、確実に、VVT31を始動位置まで移動させることが可能になる。
(MT車搭載の内燃機関の制御装置)
図7は、いわゆるMT車に搭載された内燃機関の制御装置Bの全体構成を示している。制御装置Bは、図1に示す制御装置Aとは異なり、エンジン1に連結される手動変速機9を備えている。図7に示す制御装置Bにおいて、図1に示す制御装置Aと同じ構成については同じ符号を付し、基本的には、その説明は繰り返さない。
手動変速機9は、エンジン1の出力軸に連結されるクラッチ機構91と、このクラッチ機構91を介してエンジン1からの出力が入力されるギア機構92とを備えており、エンジン1の出力軸を通じて伝達される回転動力を、変速した上で駆動輪5に伝達する。クラッチ機構91及びギア機構92としては、それぞれ周知のものが使用されている。例えば、この実施形態では、クラッチ機構91は、エンジン1の出力軸に一体的に連結されるフライホイールと、ギア機構92の入力軸に連結されるクラッチプレートとを備えた機構として構成されている。このクラッチプレートを駆動させてフライホイールに連結又は開放することにより、エンジン1からの回転動力がギア機構92に伝達可能な状態と、伝達不可能な状態との間で切り替える。クラッチ機構91は、クラッチペダルを踏み込んだときに開放し、クラッチペダルの踏み込みを解除したときに(つまり、クラッチペダルの開放)、締結する。また、ギア機構92は、変速比が異なる複数のギアを備えた機構として構成されている。このギア機構92は、シフトレバーの操作位置に従って例えば前進6速及び後退速を切り換える。手動変速機9は、ドライバーにより前進6速のうちのいずれか1つが選択されたときには、エンジン1から駆動輪5の間で車両を前進させるように動力を伝達可能な状態となり、後退速を選択したときには、エンジン1から駆動輪5の間で車両を後退させるように動力を伝達可能な状態(いわゆるギアイン状態)となる。そして、前進6速及び後退速のうちのいずれにも対応しない、いわゆるニュートラルを選択したときには、エンジン1から駆動輪5の間で動力を伝達不可能な状態となる。ギアがニュートラル状態にあるか否かは、ニュートラルセンサ78によって検出され、検出結果に係る情報をエンジン制御器100に入力する。
制御装置Bにおいて、エンジン制御器100には、図7に示すように、少なくとも、回転センサ72、アクセル開度センサ73、車速センサ74、スロットル開度センサ75、及び油温センサ710からの信号が、それぞれ入力される。また、エンジン制御器100には、前記ニュートラルセンサ78からのニュートラル検出信号も入力される。また、IG−SW71からの信号は、車両制御ユニット300に入力される。エンジン制御器100と車両制御ユニット300とは、例えば車載ネットワークを介して互いに接続される。
(MT車におけるエンジンの遅延制御)
次に、MT車に搭載された内燃機関の制御装置Bにおける、エンジンの遅延制御について説明する。MT車における遅延制御は、基本的には図2又は図5に示す制御フローと同じであるが、MT車においては特に、遅延制御中にエンストや、飛び出しになることを回避する。この場合フローは、内燃機関の制御装置Bに含まれるエンジン制御器100、及び車両制御ユニット300が協働して行う制御となる。
図2に示す制御フローにおいて、ステップS23は、図8に示すステップS231に置き換えられる。つまり、ステップS22においてエンジン1がアイドル状態であるとして移行したステップS231では、ニュートラルセンサ78の信号に基づいて、手動変速機9がニュートラルであるか否かを判定する。ニュートラルであるときには、ステップS24に移行する。手動変速機9がニュートラルであるときには、遅延制御の最中に、運転者がクラッチペダルの踏み込みを解除したとしても、エンストや飛び出しにはならない。そのため、ステップS24〜S28に移行して、機関停止信号を受けた後、所定の遅延時間だけエンジン1の作動を継続した後、エンジン1を停止させる。これにより、VVT31を、確実に始動位置にまで移動させる。
これに対し、ステップS231において、手動変速機9がニュートラルでないと判定したときには、ステップS30に移行して、VVT31の可変範囲を制限する。尚、MT車においては、図2のステップS29に対応するステップはない。手動変速機9がニュートラルでないときには、機関停止信号を受けたときには遅延制御を行わずに、エンジン1を停止する。これは、前述の通り、遅延制御を行っている最中に、運転者がクラッチペダルを開放すれば、エンストや飛び出しになる虞があるためである。エンストになった場合、メーターパネルの、各種警告灯等が全て点灯をしてしまうことから、運転者に違和感を与える。そこで、手動変速機9がニュートラルでないときには、エンジン1を直ちに停止させる(つまり、図2のフローのS31からS28に移行する)。
その一方で、エンジン1が停止するまでに、VVT31が、確実に、始動位置まで移動するように、ステップS30で、アイドル運転におけるVVT31の可変範囲を制限する。こうして、MT車においては、エンストや飛び出しの発生を回避しつつも、VVT31を、遅延制御によって、確実に始動位置に移動させることが可能になる。また、車両の発進も防止される。
MT車ではまた、図5に示す制御フローにおけるステップS53が、図9に示すステップS531に置き換わる。つまり、ステップS52においてエンジン1がアイドル状態であるとして移行したステップS531では、エンジン回転数、油温に応じてVVT進角制限値を設定する。これは、例えば図4(a)(b)に示すようなマップに基づいて設定すればよい。そうして、VVT進角制限値を設定すれば、ステップS54に移行し、機関停止信号を受けることを待つ。こうしてMT車においても、前述したAT車と同様に、遅延時間を常に一定に維持して、イグニッションのオフ操作を行った運転者の違和感を回避しつつ、VVT31を始動位置に確実に移動させることが可能になる。
尚、図2に示す制御フローでは、ステップS29において、NI制御が実行中、ブレーキ保持制御、又は、パーキングブレーキが作動中であるか否かを判定しているが、このステップS29では、NI制御、ブレーキ保持制御、及びパーキングブレーキのうちの1つ又は2つを、判定対象としてもよい。
また、図2、3、5に示す各制御フローは例示であり、各ステップの順番は、可能な範囲で、その順番を入れ替えることが可能である。つまり、これらの制御フローの各ステップは、処理の順序を限定するものではなく、この制御フローに含まれる処理は、任意の順序で、また可能であれば並行して行われる場合がある。