しかしながら、上記特許文献1に記載された先行技術による場合、エアバッグモジュールのエアバッグケースは、フードの骨格部に対して前側部分のみで片持ち支持されているため、車体振動等によりエアバッグケースの垂れ下がりが発生する可能性がある。このため、エアバッグケースの前側部分の締結部を補強する必要がある。
その場合、エアバッグケースを前側部分だけでなく後側部分も締結固定することが考えられる。しかし、エアバッグケースの後側部分をフードインナパネルに締結固定すると、歩行者保護エアバッグの膨張展開時に歩行者保護エアバッグが締結部に引っ掛かる可能性がある。仮に歩行者保護エアバッグが締結部に引っ掛かると、歩行者保護エアバッグが狙った方向に膨張展開し難くなると共に歩行者保護エアバッグに傷がつく懸念がある。
本発明は上記事実を考慮し、フードへの取付状態を安定させることができ、しかも歩行者保護エアバッグの展開性能を良好に維持することができる歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造を得ることが目的である。
請求項1記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、後端部が車両上方側へ上昇可能とされたフードの後部の下側に形成されると共に車両幅方向に沿って延在する閉断面部と、前記フードの後端部の車両幅方向両側に設けられ、フードヒンジが取り付けられるヒンジ取付部と、作動することによりガスを噴出するインフレータと、前記ガスが供給されることによって前記フードの後端部とウインドシールドガラスとの間から車両後方上面側へ膨張展開される歩行者保護エアバッグと、前記フードの後端部の下側でかつ前記閉断面部の車両後方側に配置されると共に車両幅方向に沿って延在し、前記インフレータ及び前記歩行者保護エアバッグを収容するエアバッグケースと、前記エアバッグケースの車両前後方向前側に設けられ、前記エアバッグケースを前記閉断面部に固定する第1固定部と、前記エアバッグケースの車両幅方向両側に設けられ、前記エアバッグケースを前記ヒンジ取付部に部材を介して又は直接固定する第2固定部と、を有している。
請求項2記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、請求項1記載の発明において、前記第2固定部は、前記ヒンジ取付部を挟んで前記フードヒンジと反対側に配置されたヒンジリテーナ又は前記フードヒンジの上部を構成するフードヒンジアッパに固定されている。
請求項3記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、請求項1又は請求項2記載の発明において、前記インフレータは車両幅方向を長手方向として配置されており、前記第2固定部は、当該インフレータの長手方向に沿った中心線よりも車両後方側で少なくとも一箇所前記ヒンジ取付部に連結されている。
請求項4記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、請求項3記載の発明において、前記第2固定部は、前記エアバッグケースの車両幅方向に沿った中心線よりも車両後方側で少なくとも一箇所前記ヒンジ取付部に連結されている。
請求項5記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、請求項1記載の発明において、前記第2固定部は、前記前記フードヒンジとは別部品として構成された専用のブラケットを介して前記ヒンジ取付部に連結されている。
請求項6記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記第2固定部は前記エアバッグケースの車両幅方向両側に一体に形成されると共に車両前後方向の複数箇所に第1取付点を有しており、前記ヒンジ取付部は車両前後方向の複数箇所に第2取付点を有しており、さらに、複数箇所に設定された前記第1取付点と前記第2取付点とが車両幅方向に並んで配置されている。
請求項7記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の発明において、前記閉断面部は車両幅方向に沿って延在する第1閉断面部とされ、当該第1閉断面部の車両幅方向両端部には、当該車両幅方向端部から車両前方及び車両後方の両方向へ延びる第2閉断面部が一体に形成されている。
請求項1記載の本発明によれば、フードの後部の下側には車両幅方向に沿って閉断面部が延在されており、この閉断面部の車両後方側にエアバッグケースが配置されている。エアバッグケース内に収容されたインフレータが作動するとガスが噴出し、このガスはエアバッグケース内へ供給される。これにより、歩行者保護エアバッグがフードの後端部とウインドシールドガラスとの間から車両後方上面側へ膨張展開される。
ここで、本発明では、エアバッグケースの車両前後方向前側に設けられた第1固定部がフードの閉断面部に固定され、更にエアバッグケースの車両幅方向両側に設けられた第2固定部がヒンジ取付部に連結されている。このため、エアバッグケースは片持ち支持構造ではなくなる。従って、エアバッグケースを車両前後方向前側のみで閉断面部に固定した片持ち支持構造に比し、歩行者保護エアバッグ装置のフードへの取付状態が安定する。なお、歩行者保護エアバッグが膨張展開する際に生じる展開反力は、第1固定部から閉断面部へ伝達されると同時に、第2固定部からヒンジ取付部、フードヒンジ、車体へと伝達されていく。
さらに、エアバッグケースの車両幅方向両側に第2固定部を設定することにより、歩行者保護エアバッグの車両後方側にフードへの固定部を設ける必要がなくなる。従って、歩行者保護エアバッグが膨張展開する際に、歩行者保護エアバッグが固定部に引っ掛かることはない。その結果、歩行者保護エアバッグは狙った方向に容易に膨張展開されると共に歩行者保護エアバッグに傷がつく懸念もない。
請求項2記載の本発明によれば、歩行者保護エアバッグが膨張展開したときの展開反力の一部は、第2固定部からヒンジリテーナ又はフードヒンジアッパに伝達された後、車体側へ伝達される。これにより、フードに入力される荷重が低減される。
請求項3記載の本発明によれば、第2固定部はインフレータの長手方向に沿った中心線よりも車両後方側で少なくとも一箇所ヒンジ取付部に連結されているため、重量物であるインフレータを含むエアバッグケースの支持強度及び剛性が向上する。
請求項4記載の本発明によれば、第2固定部はエアバッグケースの車両幅方向に沿った中心線よりも車両後方側で少なくとも一箇所ヒンジ取付部に連結されているため、重量物であるインフレータを含むエアバッグケースの支持強度及び剛性が更に向上する。
請求項5記載の本発明によれば、歩行者保護エアバッグが膨張展開したときの展開反力の一部は、第2固定部から前記前記フードヒンジとは別部品として構成された専用のブラケットを介してヒンジ取付部に伝達される。さらに、ヒンジ取付部に伝達された荷重は、フードヒンジ、車体へと伝達されていく。このため、ブラケットの形状を例えば車両幅方向に延在する形状として第2固定部とヒンジ取付部とをブラケットを介して連結すれば、フードヒンジの形状を変更する必要がなく、又エアバッグケースも車両幅方向に短くすることが可能になる。
請求項6記載の本発明によれば、第2固定部には車両前後方向の複数箇所に第1取付点が設定され、又ヒンジ取付部には車両前後方向の複数箇所に第2取付点が設定されており、これらの第1取付点と第2取付点とが車両幅方向に並んで配置されているため、第1取付点と第2取付点との距離が短くなる。このため、第1取付点から入力された荷重を第2取付点へ迅速に伝達することができる。
請求項7記載の本発明によれば、フードは車両幅方向に沿って延在する第1閉断面部によって車両幅方向に補強されるだけでなく、フードは車両前後方向に延びる第2閉断面部によって車両前後方向にも補強される。このため、フードにおける歩行者保護エアバッグ装置の周囲の剛性が高くなり、歩行者保護エアバッグの展開反力を受けてもフードが変形し難くなる。
請求項1記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、フードへの取付状態を安定させることができ、しかも歩行者保護エアバッグの展開性能を良好に維持することができるという優れた効果を有する。
請求項2記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、歩行者保護エアバッグが展開した際にフードの変形を抑制することができるという優れた効果を有する。
請求項3及び請求項4記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、歩行者保護エアバッグ装置のフードへの取付状態を更に安定させることができるという優れた効果を有する。
請求項5記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、フード側の設計変更を最小限に抑えることができると共にエアバッグケースの小型化を図ることができるという優れた効果を有する。
請求項6記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、歩行者保護エアバッグの展開反力を迅速に車体に伝達し、歩行者保護エアバッグの展開反力によるフードの変形を抑制することができるという優れた効果を有する。
請求項7記載の本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造は、歩行者保護エアバッグ装置の保持剛性を向上させることができると共に、展開反力によるフードの変形を抑制することができるという優れた効果を有する。
〔第1実施形態〕
以下、図1〜図6を用いて、本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造の第1実施形態について説明する。なお、各図に適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、又矢印UPは車両上方側を示している。さらに、矢印INは車両幅方向内側を示している。
図5に示されるように、自動車(車両)10のエンジンルーム(パワーユニット室)12の上面側には、フード14が設けられている。フード14の前端部は、図示しないフードロックによって通常はロック状態とされている。また、フード14の後端部16の車両幅方向両側には、後述するフードヒンジ102が配設されている。さらに、フード14の後端部16の車両幅方向両側には、歩行者との衝突時にフード14の後端部16を上昇させるポップアップ装置18が配設されている。なお、図5では、ポップアップ装置18をガス発生手段が作動することにより上昇するロッド状の部材によって模式的に図示しているが、リンク機構によってフード14の後端部16をポップアップさせてもよいし、種々の構成を採ることができる。
また、図5(A)に示されるように、フード14は、車両外側に配置されてフード14の意匠面を形成するフードアウタパネル20と、エンジンルーム12側に配置されてフードアウタパネル20を補強するフードインナパネル22と、を含んで構成されている。さらに、フードインナパネル22の車両後方側には、車両下方側へ膨らみかつ車両幅方向に沿って延在する第1膨出部24が形成されている。第1膨出部24は、フード14の後端部16の直下に形成されているのではなく、フード14の後端部16よりも車両前方側へオフセットした位置(即ち、フード14の後部25の下側)に形成されている。これにより、フードインナパネル22における第1膨出部24の車両後方側に収納スペース26が形成され、この収納スペース26に歩行者保護エアバッグ装置としての自動車用歩行者保護エアバッグ装置28(以下、単に「エアバッグ装置28」と略す。)が配設されている。以下、エアバッグ装置28の構成について詳細に説明する。
図1及び図2に示されるように、エアバッグ装置28は、車両幅方向を長手方向とする長尺の略箱状に形成されたエアバッグケース30と、このエアバッグケース30内に折り畳まれた状態で格納された歩行者保護エアバッグ(フードエアバッグ)32と、歩行者との衝突時にガスを噴出して歩行者保護エアバッグ32に供給するインフレータ34と、このインフレータ34をフード14に固定するためのインフレータ取付ブラケット36と、を含んで構成されている。
エアバッグケース30は、フードインナパネル22の第1膨出部24の底壁24Aに当接状態で配置された上側取付壁30Aと、上側取付壁30Aの後端部から車両上方側へ屈曲されて第1膨出部24の後端壁24Bに沿って立設された前壁部30Bと、前壁部30Bの上端部から車両後方側へ延出された上壁部30Cと、上壁部30Cの後端部から車両下方側へ屈曲された後壁部30Dと、後壁部30Dの下端部から車両前方側へ延出された下壁部30Eと、下壁部30Eからそのまま車両前方側へ延出されて上側取付壁30Aの下側に配置された下側取付壁30Fと、図示しない左右の側壁部と、を含んで構成されている。上壁部30Cは、フードインナパネル22の一般壁22Aに沿って配置されている。後壁部30Dは略車両上下方向に沿って配置されており、又下壁部30Eは上壁部30Cに対して略平行に配置されている。
また、エアバッグケース30の車両後方上側の角部(上壁部30Cと後壁部30Dとが接続されるコーナー部)におけるケース内方側には、V字状の溝が形成されることにより薄肉化されたティア部38が形成されている。ティア部38は、各壁の一般部よりも強度及び剛性が低くなっている。
図2、図5及び図6(B)に示されるように、歩行者保護エアバッグ32は、一例として二枚の基布の外周部を縫製することにより袋状に構成されている。歩行者保護エアバッグ32が膨張展開した状態では、フード14の後端部16に沿って車両幅方向に延在するバッグ本体部40と、このバッグ本体部40と連通されると共に左右一対のフロントピラー42の前面を覆う一対のバッグ側部44と、を備えている。さらに、バッグ本体部40は、フード14の後端部16の下面に沿って車両幅方向に膨張するバッグ基部40Aと、フード14の後端部16とウインドシールドガラス46との間から円筒状に膨張展開されてウインドシールドガラス46の下端部46Aの前面を覆うバッグ円筒部40Bと、によって構成されている。上記構成の歩行者保護エアバッグ32は、蛇腹折り、ロール折りによって折り畳まれた状態でエアバッグケース30内に格納されている。
図1及び図2に示されるように、上述した歩行者保護エアバッグ32の内部には、左右一対のインフレータ34が配設されている。インフレータ34は、金属製とされかつ軸方向の両端部が閉止された円筒状に形成されている。インフレータ34の軸方向の一端部の軸芯部には、図示しないスクイブ(点火装置)が配設されている。また、インフレータ34の内部には、燃焼することにより大量のガスを発生するガス発生剤が充填されていると共に、発生した高温のガスを冷却するためのクーラント及びガス発生剤が燃焼した際に生じる砕片を除去するためのフィルタ等が収容されている。なお、上記インフレータ34はガス発生剤を用いるタイプのインフレータであるが、高圧ガスが封入されたタイプのインフレータを用いてもよい。また、インフレータ34の周壁部には、複数のガス噴出孔が形成されている。
上記インフレータ34は、車体フロアの中央部に配設された図示しないコントローラ(エアバッグECU)と接続されている。コントローラは、自動車10の前端部に車両幅方向を長手方向として配置された図示しないフロントバンパに配設された衝突検知センサ(図示省略)或いは衝突予知センサ(図示省略)と接続されている。衝突検知センサとしては、例えば、フロントバンパリインフォースメントの前面側にフロントバンパに沿って長尺状の圧力チューブ又は圧力チャンバ及び圧力センサを配置するチューブ/チャンバー方式や光ファイバ方式等が適用可能である。また、衝突予知センサとしては、例えば、歩行者等の衝突体との衝突をミリ波レーダやステレオカメラを使って予知するプリクラッシュセンサ等が適用可能である。
上記構成のインフレータ34は、インフレータ取付ブラケット36を用いて、フードインナパネル22の第1膨出部24の底壁24Aに取り付けられている。インフレータ取付ブラケット36は、車両前後方向に細長い帯状の金属製の板材をプレス成形することにより製作されている。構造的には、インフレータ取付ブラケット36は、フード14の後端部16の下面側(即ち、第1膨出部24の底壁24A)に固定されるボデー側固定部48と、インフレータ34が固定されるインフレータ側固定部50と、を備えている。
ボデー側固定部48は、矩形平板状に形成されており、歩行者保護エアバッグ32の上側取付壁30Aと下側取付壁30Fとの間に挟持されている。さらに、ボデー側固定部48には、ボルト挿通孔54が形成されている。これに対応して、上側取付壁30A及び下側取付壁30Fにもボデー側固定部48のボルト挿通孔54と同軸上にボルト挿通孔56、58が形成されている。これらのボルト挿通孔56、54、58に取付ボルト60が車両下方側からこの順に挿入されて第1膨出部24の底壁24Aの上面に設けられたウエルドナット62に螺合されることにより、インフレータ取付ブラケット36がエアバッグケース30と一緒に第1膨出部24の底壁24Aに共締めされている。
また、インフレータ側固定部50は、インフレータ34の外周面の形状に合致する円弧面状に形成されている。このインフレータ側固定部50の上面にインフレータ34が溶接等によって固定されている。
なお、インフレータ34のガス噴出孔から噴出されたガスを整流するためのディフューザをインフレータ34の周囲に設けてもよい。一例として、ディフューザは円筒状に形成されており、軸方向の中間部を軸線側へ加締めることにより、インフレータ34に一体化されている。この場合、インフレータ取付ブラケット36は、ディフューザの外周部に固定すればよい。また、インフレータ34の外周部にディフューザが設定される場合は、インフレータ34及びディフューザが本発明における「インフレータ」に相当する。
次に、本実施形態の要部について説明する。
図1に示されるように、フード14の車両前後方向の後部の下側には、平面視で略H字形に形成された閉断面部70が形成されている。この閉断面部70は、車両幅方向に沿って延在された第1閉断面部72と、この第1閉断面部72の車両幅方向両端部に一体に形成されてフード14の両側縁に沿って車両前後方向に延在された左右一対の第2閉断面部74と、によって構成されている。第1閉断面部72と第2閉断面部74とは相互に連通されている。
図2及び図4に示されるように、上記第1閉断面部72は、フードインナパネル22の後部の下側に一体に形成された前述した第1膨出部24とフードアウタパネル20とによって構成されている。また、図3に示されるように、第2閉断面部74は、フードインナパネル22の後部の両側縁に沿って形成された第2膨出部76とフードアウタパネル20とによって構成されている。図4に示されるように、第1膨出部24の底壁24Aはその長手方向に沿って略同一幅に設定されているが、第2膨出部76の底壁76Aは車両前後方向の後部76A1が前部76A2よりも幅広に設定されている。後部76A1の車両幅方向の内側半分がエアバッグケース30との取付けを担う「ケース取付部78」とされ、後部76A1の車両幅方向の外側半分が後述するフードヒンジアッパ104との取付けを担う「ヒンジ取付部80」とされている。
上記第1膨出部24の底壁24Aの後端側には、車両幅方向に沿って所定の間隔で第1取付孔82が形成されている。さらに、第2膨出部76の底壁76Aの後部76A1には、車両前後方向に沿って所定の間隔で複数の第2取付孔84が形成されている。具体的には、ケース取付部78に前後一対の第2内側取付孔84Aが形成されており、又ヒンジ取付部80に前後一対の第2外側取付孔84Bが形成されている。
上述したフードインナパネル22の左右一対の第2膨出部76の底壁76Aの上面には、平面視で略Y字形に形成されたヒンジリテーナ86がそれぞれ載置されている。ヒンジリテーナ86は全体として皿状に形成されており、第2膨出部76の全体を覆うように形成された本体部86Aと、この本体部86Aの前後方向中間部から車両幅方向内側へ分岐して第1膨出部24の底壁24Aの上面に載置される分岐部86Bと、によって構成されている。なお、ヒンジリテーナ86の外周部は車両上方側へ折り曲げられてフランジ86Cとされており、高剛性化が図られている。
このヒンジリテーナ86の分岐部86Bの後端縁には、第1取付孔82と同軸上に複数の第3取付孔88が形成されている。さらに、ヒンジリテーナ86の本体部86Aの後部には、車両前後方向及び車両幅方向に沿って所定の間隔で複数の第4取付孔90が形成されている。具体的には、ケース取付部78側には第2内側取付孔84Aと同軸上に配置された第4内側取付孔90Aが形成されており、又ヒンジ取付部80側には第2外側取付孔84Bと同軸上に配置された第4外側取付孔90Bが形成されている。なお、ヒンジリテーナ86には、第3取付孔88及び第4取付孔90と同軸上にウエルドナット62、92、94(図2及び図3参照)が固着されている。
また、図1に示されるように、上述したエアバッグケース30の上側取付壁30A及び下側取付壁30Fは、平面視でエアバッグケース30の車両幅方向両側まで回り込むように連続して形成されている。これにより、エアバッグケース30の車両前後方向前側には、第1膨出部24の後縁に沿って鍔状の第1固定部96が形成されており、更にエアバッグケース30の車両幅方向両側には、第2膨出部76の内縁に沿って鍔状の第2固定部98が形成されている。
図3及び図4に示されるように、第1固定部96は、第1取付孔82に挿通された前述した取付ボルト60及びウエルドナット62によって、第1膨出部24の底壁24Aの後端部に複数個所にて締結固定されている。なお、ヒンジリテーナ86の分岐部86Bと重なる範囲では、分岐部86Bも共締めされている。また、第2固定部98は、第2内側取付孔84A及び第4内側取付孔90Aに挿通された取付ボルト99及びウエルドナット92によって、第2膨出部76のケース取付部78にヒンジリテーナ86の本体部86Aと一緒に共締めされている。以下、この締結部位を「第1取付点100」と称す。これにより、第2固定部98は、インフレータ34の長手方向に沿った中心線CL1、更にはエアバッグケース30の車両幅方向に沿った中心線CL2よりも車両後方側で(ケース取付部78を介して)ヒンジ取付部80に連結されている。
また、上述した第2膨出部76の底壁76Aの後部76A1におけるヒンジ取付部80の下面には、フードヒンジ102の上部を構成するフードヒンジアッパ104が配設されている。なお、フードヒンジアッパ104は図示しないヒンジベースに揺動可能に支持された図示しないヒンジロアに相対回転可能に連結されている。上記フードヒンジアッパ104は横断面形状がL字形とされており、底壁部104Aと側壁部104Bとを備えている。このうち底壁部104Aが第2膨出部76のヒンジ取付部80に、第2外側取付孔84B及び第4外側取付孔90Bに挿通された取付ボルト106及びウエルドナット94によって、ヒンジリテーナ86の本体部86Aと一緒に共締めされている。以下、この締結部位を「第2取付点110」と称す。上述した第1取付点100と第2取付点110は、車両幅方向に所定の間隔をあけて並んで配置されている。
(本実施形態の作用・効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果を説明する。
歩行者と衝突する前の状態では、図2及び図6(A)に示されるように、ポップアップ装置18及びエアバッグ装置28は非作動状態を維持している。つまり、フード14の後端部16はポップアップされず、歩行者保護エアバッグ32もエアバッグケース30内に折り畳まれた状態で格納されている。
この状態から、歩行者と衝突すると、フロントバンパに設けられた図示しない衝突検知センサによって歩行者と衝突したことが検知される。なお、プリクラッシュセンサやステレオカメラを用いて歩行者との衝突が予知された場合も同様である。これにより、図6(B)に示されるように、まず図示しないコントローラによってポップアップ装置18が作動され、フード14の後端部16が車両上方側へ所定の高さまで上昇される(ポップアップされる)。
また、フード14の後端部16の上昇量が所定量に達すると、図示しないコントローラによってエアバッグ装置28のインフレータ34が作動される。このため、インフレータ34のガス噴出孔からガスが噴出され、ガスは折り畳まれた状態の歩行者保護エアバッグ32内へ供給される。これにより、歩行者保護エアバッグ32がエアバッグケース30内で膨張し始め、エアバッグケース30のティア部38に加わる引張荷重が増加していく。そして、ティア部38に加わる引張荷重が所定値に達すると、図6(B)に示されるように、ティア部38が破断し、エアバッグケース30の後壁部30D及び下壁部30Eが車両下方側へ展開される。これにより、歩行者保護エアバッグ32はフード14の後端部16とウインドシールドガラス46との間から車両後方上面側へ膨張展開される。歩行者保護エアバッグ32が膨張展開した状態では、図5及び図6(B)に示されるように、バッグ本体部40のバッグ円筒部40Bがフード14の後端部16に沿って車両幅方向に円筒状に膨張展開し、左右一対のバッグ側部44がフロントピラー42の前面を覆うように膨張展開される。
ここで、本実施形態では、エアバッグケース30の車両前後方向前側に設けられた第1固定部96がフード14の第1閉断面部72の第1膨出部24に固定され、更にエアバッグケース30の車両幅方向両側に設けられた第2固定部98が第2閉断面部74の第2膨出部76に固定されている。このため、エアバッグケース30は片持ち支持構造ではなくなる。従って、エアバッグケース30を車両前後方向前側のみで第1閉断面部72に固定した片持ち支持構造に比し、エアバッグ装置28のフード14への取付状態が安定する。
さらに、エアバッグケース30の車両幅方向両側に第2固定部98を設定することにより、歩行者保護エアバッグ32の車両後方側にフード14への固定部を設ける必要がなくなる。従って、歩行者保護エアバッグ32の展開スペースを確保することができると共に省スペース化を図ることができ、歩行者保護エアバッグ32が膨張展開する際に、歩行者保護エアバッグ32が固定部に引っ掛かることはない。その結果、歩行者保護エアバッグ32は狙った方向に容易に膨張展開されると共に歩行者保護エアバッグ32に傷がつく懸念もなくなる。
上記より、本実施形態によれば、エアバッグ装置28のフード14への取付状態を安定させることができ、しかも歩行者保護エアバッグ32の展開性能を良好に維持することができる。
また、本実施形態では、上記のエアバッグ装置28のフード搭載構造を採ったので、フード14に入力される荷重を低減することができる。つまり、歩行者保護エアバッグ32が膨張展開すると、その際の展開反力が歩行者保護エアバッグ32の展開方向(図6(B)の矢印A方向)と反対方向(図6(B)の矢印B方向)に作用する。ここで、本実施形態では、エアバッグケース30の車両前後方向前側に第1固定部96を設けてフードインナパネル22の第1膨出部24の底壁24Aに固定すると共に、エアバッグケース30の車両幅方向両側に第2固定部98を設けてフードインナパネル22の第2膨出部76のケース取付部78に固定(ヒンジ取付部80に連結)している。このため、歩行者保護エアバッグ32の展開反力は、第1固定部96から第1膨出部24(第1閉断面部72)に伝達されると共に、第2固定部98から第2膨出部76(第2閉断面部74)のケース取付部78に伝達される。そして、ケース取付部78に伝達された展開反力は、ヒンジリテーナ86及びヒンジ取付部80を介してフードヒンジアッパ104に伝達され、最終的には車体に伝達される。その結果、フード14に入力される荷重を低減することができ、ひいてはフード14の変形を抑制することができる。
さらに、本実施形態では、第2固定部98はインフレータ34の長手方向に沿った中心線CL1よりも車両後方側で少なくとも一箇所ヒンジ取付部80に連結されているため、重量物であるインフレータ34を含むエアバッグケース30の支持強度及び剛性が向上する。その結果、本実施形態によれば、エアバッグ装置28のフード14への取付状態を更に安定させることができる。
また、本実施形態では、第2固定部98はエアバッグケース30の車両幅方向に沿った中心線CL2よりも車両後方側で少なくとも一箇所ヒンジ取付部80に連結されているため、重量物であるインフレータ34を含むエアバッグケース30の支持強度及び剛性が更に向上する。その結果、本実施形態によれば、エアバッグ装置28のフード14への取付状態を更に安定させることができる。
さらに、本実施形態では、第2固定部98には車両前後方向の複数箇所に第1取付点100が設定され、ヒンジ取付部80には車両前後方向の複数箇所に第2取付点110が設定されており、これらの第1取付点100と第2取付点110とが車両幅方向に並んで配置されているため、第1取付点100と第2取付点110との距離が短くなる。このため、第1取付点100から入力された荷重を第2取付点110へ迅速に伝達することができる。その結果、本実施形態によれば、歩行者保護エアバッグ32の展開反力を迅速に車体に伝達し、歩行者保護エアバッグ32の展開反力によるフード14の変形を抑制することができる。
また、本実施形態では、フード14は車両幅方向に沿って延在する第1閉断面部72によって車両幅方向に補強されるだけでなく、フード14は車両前後方向に延びる第2閉断面部74によって車両前後方向にも補強される。このため、フード14におけるエアバッグ装置28の周囲の剛性が高くなり、歩行者保護エアバッグ32の展開反力を受けてもフード14が変形し難くなる。よって、本実施形態によれば、エアバッグ装置28の保持剛性を向上させることができると共に、展開反力によるフード14の変形を抑制することができる。
〔第2実施形態〕
以下、図7を用いて、本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造の第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については同一番号を付してその説明を省略する。
図7に示されるように、この第2実施形態に係るエアバッグ装置28では、フードヒンジアッパ120の形状及び構造に特徴がある。具体的には、このフードヒンジアッパ120では、底壁部120Aが車両幅方向内側へ延設されて延設部120Bが一体に形成されている。そして、この延設部120Bにエアバッグケース30の第2固定部98が締結固定されている。また、これに伴って、第2膨出部122は、前述したヒンジ取付部80を備えているものの、ケース取付部78が廃止された嵩だかな形状に変更されている。
(作用・効果)
上記構成のエアバッグ装置28では、歩行者保護エアバッグ32が膨張展開したときの展開反力の一部は、エアバッグケース30の第2固定部98からフードヒンジアッパ120の延設部120Bに入力される。そして、フードヒンジアッパ120の底壁部120Aに伝達され、車体側へ伝達されていく。従って、前述した第1実施形態と同様の作用並びに効果が得られる。
〔第3実施形態〕
以下、図8を用いて、本発明に係る歩行者保護エアバッグ装置のフード搭載構造の第3実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態等と同一構成部分については同一番号を付してその説明を省略する。
図8(A)、(B)に示されるように、この第3実施形態では、エアバッグケース30の第2固定部98が、フードヒンジ102とは別部品として構成された専用のブラケット130によって、フードインナパネル22のヒンジ取付部80に連結されている点に特徴がある。具体的には、ブラケット130は平板状に形成されており、車両幅方向の内側部分にエアバッグケース30の第2固定部98が取付ボルト99及びウエルドナット92によって固定されている。また、ブラケット130の車両幅方向の外側部分は第2膨出部76のケース取付部78の下面に当接されて、ヒンジリテーナ86と共に取付ボルト99及びウエルドナット92によって締結固定されている。これにより、第2固定部98は、ブラケット130及びヒンジリテーナ86を介してヒンジ取付部80に連結されている。なお、ヒンジ取付部80は、ヒンジリテーナ86とフードヒンジアッパ104の底壁部104Aとの間に挟持された状態で、取付ボルト106及びウエルドナット94とによって共締めされている。
(作用・効果)
上記構成によっても、歩行者保護エアバッグ32が膨張展開したときの展開反力の一部は、第2固定部98からフードヒンジ102とは別部品として構成された専用のブラケット130を介してヒンジ取付部80に伝達される。さらに、ヒンジ取付部80に伝達された荷重は、フードヒンジ102から車体へと伝達されていく。従って、前述した第1実施形態と同様の作用並びに効果が得られる。
さらに、本実施形態によれば、フードヒンジ102の形状を変更する必要がなく、又エアバッグケース30も車両幅方向に短くすることが可能になる。よって、本実施形態によれば、フード14側の設計変更を最小限に抑えることができると共にエアバッグケース30の小型化を図ることができる。
なお、上述した実施形態では、第2固定部98の後端部のみが、インフレータ34の長手方向に沿った中心線CL1、エアバッグケース30の車両幅方向に沿った中心線CL2よりも車両後方側でヒンジリテーナ86を介してヒンジ取付部80に連結されているが、複数個所でヒンジ取付部80に連結されていてもよい。
また、上述した実施形態では、エアバッグケース30の第2固定部98を部材を介してヒンジ取付部80に固定しているが、これに限らず、エアバッグケースの第2固定部を車両幅方向外側へ延長させて、フードヒンジアッパと一緒にヒンジ取付部に直接共締めしてもよい。